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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】熱電変換材料のチップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/01 20230101AFI20240322BHJP
   H10N 10/852 20230101ALI20240322BHJP
【FI】
H10N10/01
H10N10/852
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021509566
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013547
(87)【国際公開番号】W WO2020196709
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2019064635
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦久
(72)【発明者】
【氏名】森田 亘
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/069347(WO,A1)
【文献】特開2000-183412(JP,A)
【文献】米国特許第7531739(US,B1)
【文献】特開2017-98283(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0041892(US,A1)
【文献】特開2013-251333(JP,A)
【文献】特開2017-41540(JP,A)
【文献】国際公開第2020/045379(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/01
H10N 10/852
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電半導体組成物からなる熱電変換材料のチップを製造する方法であって、
(A)基板上に前記熱電変換材料のチップを形成する工程、
(B)前記(A)の工程で得られた前記熱電変換材料のチップをアニール処理する工程、及び
(C)前記(B)の工程で得られたアニール処理後の前記熱電変換材料のチップを剥離する工程、を含み、
前記熱電半導体組成物が、熱電半導体材料及び樹脂を含み、前記アニール処理の温度が、該樹脂の分解温度以上である、熱電変換材料のチップの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂の分解温度が、280~420℃である、請求項1に記載の熱電変換材料のチップの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂が、ポリビニル重合体である、請求項1又は2に記載の熱電変換材料のチップの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、又はポリスチレンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱電変換材料のチップの製造方法。
【請求項5】
前記熱電半導体材料が、ビスマス-テルル系熱電半導体材料、テルライド系熱電半導体材料、アンチモン-テルル系熱電半導体材料、又はビスマスセレナイド系熱電半導体材料である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱電変換材料のチップの製造方法。
【請求項6】
前記熱電半導体組成物が、さらに、イオン液体及び/又は無機イオン性化合物を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱電変換材料のチップの製造方法。
【請求項7】
前記アニール処理の温度が、280~550℃で行われる、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱電変換材料のチップの製造方法。
【請求項8】
前記基板が、ガラス基板である、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱電変換材料のチップの製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱と電気との相互エネルギー変換を行う熱電変換材料のチップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エネルギーの有効利用手段の一つとして、ゼーベック効果やペルチェ効果などの熱電効果を有する熱電変換モジュールにより、熱エネルギーと電気エネルギーとを直接相互変換するようにした装置がある。
前記熱電変換モジュールとして、いわゆるπ型の熱電変換素子の使用が知られている。π型は、互いに離間するー対の電極を基板上に設け、例えば、―方の電極の上にP型熱電素子を、他方の電極の上にN型熱電素子を、同じく互いに離間して設け、両方の熱電材料の上面を対向する基板の電極に接続することで構成されている。また、いわゆるインプレーン型の熱電変換素子の使用が知られている。インプレーン型は、P型熱電素子とN型熱電素子とが基板の面内方向に交互に設けられ、例えば、両熱電素子間の接合部の下部を電極を介在し直列に接続することで構成されている。
このような中、熱電変換モジュールの屈曲性向上、薄型化及び熱電性能の向上等の要求がある。これらの要求を満足するために、例えば、熱電変換モジュールに用いる基板として、ポリイミドフィルム等の樹脂基板が耐熱性及び屈曲性の観点から使用されている。また、N型の熱電半導体材料、P型の熱電半導体材料としては、熱電性能の観点から、ビスマステルライド系材料の薄膜が用いられ、前記電極としては、熱伝導率が高く、低抵抗のCu電極が用いられている。(特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-192764公報
【文献】特開2012-204452公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述したように、熱電変換モジュールの屈曲性向上、薄型化及び熱電性能の向上等の要求の中で、熱電半導体組成物から形成される熱電変換材料に含まれる熱電半導体材料として、ビスマステルライド系の材料を用い、電極としてCu電極、基板としてポリイミド等の樹脂を用いた場合、例えば、300℃等の高温度下で熱電変換モジュールをアニール処理する工程で、熱電変換材料に含まれる熱電半導体材料とCu電極との接合部において、拡散により合金層が形成され、結果的に電極に割れや剥がれが生じ、熱電変換材料とCu電極間の電気抵抗値が増大してしまい、熱電性能が低下する等の新たな問題が発生する懸念があることが、本発明者らの検討により見出された。また、ポリイミド等の樹脂を用いた基板を使用する場合、基板の耐熱温度が熱電半導体材料の最適なアニール温度よりも低い場合があり、最適なアニールができないことがあった。
【0005】
本発明は、上記を鑑み、簡易な工程で電極との接合部を有さない形態で熱電変換材料のアニール処理を可能にし、最適なアニール温度で熱電半導体材料のアニールが可能となる熱電変換材料のチップの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、基板上に熱電半導体材料及び樹脂を含む熱電半導体組成物からなる熱電変換材料の所定のパターン層を形成した後、それらを前記樹脂の分解温度以上の温度下でアニール処理を行い、その後、基板から剥離するという簡易な工程で、電極との接合部を有さない形態でアニール処理された複数の熱電変換材料のチップ(以下、「熱電変換材料」、「熱電変換材料の自立膜」又は単に「自立膜」ということがある。)を製造する方法を見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の(1)~(8)を提供するものである。
(1)熱電半導体組成物からなる熱電変換材料のチップを製造する方法であって、(A)基板上に前記熱電変換材料のチップを形成する工程、(B)前記(A)の工程で得られた前記熱電変換材料のチップをアニール処理する工程、及び(C)前記(B)の工程で得られたアニール処理後の前記熱電変換材料のチップを剥離する工程、を含み、前記熱電半導体組成物が、熱電半導体材料及び樹脂を含み、前記アニール処理の温度が、該樹脂の分解温度以上である、熱電変換材料のチップの製造方法。
(2)前記樹脂の分解温度が、280~420℃である、上記(1)に記載の熱電変換材料のチップの製造方法。
(3)前記樹脂が、ポリビニル重合体である、上記(1)又は(2)に記載の熱電変換材料のチップの製造方法。
(4)前記樹脂が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、又はポリスチレンである、上記(1)~(3)のいずれかに記載の熱電変換材料のチップの製造方法。
(5)前記熱電半導体材料が、ビスマス-テルル系熱電半導体材料、テルライド系熱電半導体材料、アンチモン-テルル系熱電半導体材料、又はビスマスセレナイド系熱電半導体材料である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の熱電変換材料のチップの製造方法。
(6)前記熱電半導体組成物が、さらに、イオン液体及び/又は無機イオン性化合物を含む、上記(1)~(5)のいずれかに記載の熱電変換材料のチップの製造方法。
(7)前記アニール処理の温度が、280~550℃で行われる、上記(1)~(6)のいずれかに記載の熱電変換材料のチップの製造方法。
(8)前記基板が、ガラス基板である、上記(1)~(7)のいずれかに記載の熱電変換材料のチップの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡易な工程で電極との接合部を有さない形態で熱電変換材料のアニール処理を可能にし、最適なアニール温度で熱電半導体材料のアニールが可能となる熱電変換材料のチップの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の熱電変換材料のチップの製造方法の実施態様の一例を説明するための断面構成図である。
図2】本発明の熱電変換材料のチップの製造方法から得られた熱電変換材料のチップを複数組み合わせた熱電変換モジュールの製造方法に従った工程の実施態様の一例を工程順に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[熱電変換材料のチップの製造方法]
本発明の熱電変換材料のチップの製造方法は、熱電半導体組成物からなる熱電変換材料のチップを製造する方法であって、(A)基板上に前記熱電変換材料のチップを形成する工程、(B)前記(A)の工程で得られた前記熱電変換材料のチップをアニール処理する工程、及び(C)前記(B)の工程で得られたアニール処理後の前記熱電変換材料のチップを剥離する工程、を含み、前記熱電半導体組成物が、熱電半導体材料及び樹脂を含み、前記アニール処理の温度が、該樹脂の分解温度以上であることを特徴とする。
本発明の熱電変換材料のチップの製造方法において、熱電半導体組成物を構成する熱電半導体材料を樹脂の分解温度以上の高温度下でアニール処理することにより、熱電変換材料のチップ、すなわち、熱電変換材料の自立膜を容易に得ることができる。
【0010】
図1は、本発明の熱電変換材料のチップの製造方法の実施態様の一例を説明するための断面構成図である。基板1上に熱電半導体材料及び樹脂を含む熱電半導体組成物からなる熱電変換材料2であるP型熱電変換材料のチップ2a及びN型熱電変換材料のチップ2bを形成し、その後、それらを樹脂の分解温度以上の高温度下でアニール処理し、基板1から剥離することにより、熱電変換材料のチップを熱電変換材料の自立膜として得ることができる。
【0011】
(A)熱電変換材料のチップ形成工程
熱電変換材料のチップ形成工程は、基板上に熱電変換材料のチップを形成する工程であり、例えば、図1においては、基板1上に熱電半導体組成物からなる熱電変換材料のチップ2、すなわち、P型熱電変換材料のチップ2a、N型熱電変換材料のチップ2bを薄膜として塗布する工程である。P型熱電変換材料のチップ、N型熱電変換材料のチップの配置については、特に制限されないが、熱電性能の観点から、π型、又はインプレーン型の熱電変換モジュールに用いられる構成となるようにし、電極にて接続されるように形成されることが好ましい。
ここで、π型の熱電変換モジュールを構成する場合、例えば、互いに離間するー対の電極を基板上に設け、―方の電極の上にP型熱電変換材料のチップを、他方の電極の上にN型熱電変換材料のチップを、同じく互いに離間して設け、両方の熱電変換材料のチップの上面を対向する基板上の電極に電気的に直列接続することで構成される。高い熱電性能を効率良く得る観点から、対向する基板の電極を介在したP型熱電変換材料のチップ及びN型熱電変換材料のチップの対を複数組、電気的に直列接続して用いる(後述する図2の(f)参照)ことが好ましい。
同様に、インプレーン型の熱電変換モジュールを構成する場合、例えば、一の電極を基板上に設け、該電極の面上にP型熱電変換材料のチップと、同じく該電極の面上にN型熱電変換材料のチップとを、両チップの側面同士(例えば、基板に対し垂直方向の面同士)が互いに接触又は離間するように設け、基板の面内方向に前記電極を介在して電気的に直列接続(例えば、発電の構成の場合、1対の起電力取り出し用電極を併用)することで構成される。高い熱電性能を効率良く得る観点から、該構成において、同数の複数のP型熱電変換材料のチップとN型熱電変換材料のチップとが交互に電極を介在し基板の面内方向に電気的に直列接続して用いることが好ましい。
【0012】
(基板)
基板としては、ガラス、シリコン、セラミック、金属、又はプラスチック等が挙げられる。アニール処理を高温度下で行う観点から、ガラス、シリコン、セラミック、金属が好ましく、熱電変換材料との密着性、材料コスト、熱処理後の寸法安定性の観点から、ガラス、シリコン、セラミックを用いることがより好ましい。
前記基板の厚さは、プロセス及び寸法安定性の観点から、100~10000μmのものが使用できる。
【0013】
(熱電変換材料)
本発明に用いる熱電変換材料は、熱電半導体材料及び樹脂を含む熱電半導体組成物からなる。好ましくは、熱電性能の観点から、さらにイオン液体及び/又は無機イオン性化合物を含む熱電半導体組成物からなる薄膜からなる。
前記熱電半導体材料は、熱電性能の観点から、熱電半導体粒子として用いることが好ましい(以下、熱電半導体材料を「熱電半導体粒子」ということがある。)。
【0014】
(熱電半導体材料)
本発明に用いる熱電半導体材料、すなわち、P型熱電変換材料のチップ、N型熱電変換材料のチップに含まれる熱電半導体材料としては、温度差を付与することにより、熱起電力を発生させることができる材料であれば特に制限されず、例えば、P型ビスマステルライド、N型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン-テルル系熱電半導体材料;ZnSb、ZnSb2、ZnSb等の亜鉛-アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン-ゲルマニウム系熱電半導体材料;BiSe等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi、CrSi、MnSi1.73、MgSi等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料、TiS等の硫化物系熱電半導体材料等が用いられる。
これらの中で、ビスマス-テルル系熱電半導体材料、テルライド系熱電半導体材料、アンチモン-テルル系熱電半導体材料、又はビスマスセレナイド系熱電半導体材料が好ましい。
【0015】
さらに、高い熱電性能を得る観点から、P型ビスマステルライド又はN型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料であることがより好ましい。
前記P型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、BiTeSb2-Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、P型熱電素子としての特性が維持されるので好ましい。
また、前記N型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、BiTe3-YSeで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3(Y=0の時:BiTe)であり、より好ましくは0<Y≦2.7である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、N型熱電素子としての特性が維持されるので好ましい。
【0016】
熱電半導体組成物に用いる熱電半導体粒子は、前述した熱電半導体材料を、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕したものである。
【0017】
熱電半導体粒子の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは、30~99質量%である。より好ましくは、50~96質量%であり、さらに好ましくは、70~95質量%である。熱電半導体粒子の配合量が、上記範囲内であれば、ゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が大きく、また電気伝導率の低下が抑制され、熱伝導率のみが低下するため高い熱電性能を示すとともに、十分な皮膜強度、屈曲性を有する膜が得られ好ましい。
【0018】
熱電半導体粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm~200μm、より好ましくは、10nm~30μm、さらに好ましくは、50nm~10μm、特に好ましくは、1~6μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
前記熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
なお、熱電半導体粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0019】
また、熱電半導体粒子は、事前に熱処理されたものであることが好ましい(ここでいう「熱処理」とは本発明でいうアニール処理工程で行う「アニール処理」とは異なる)。熱処理を行うことにより、熱電半導体粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換材料のゼーベック係数又はペルチェ係数が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。熱処理は、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体粒子に依存するが、通常、粒子の融点以下の温度で、かつ100~1500℃で、数分~数十時間行うことが好ましい。
【0020】
(樹脂)
本発明において、熱電半導体組成物には樹脂が含まれる。該樹脂は、アニール処理後の熱電変換材料の基板からの剥離を容易にし、且つ熱電半導体材料(熱電半導体粒子)間のバインダーとして働き、熱電変換モジュールの屈曲性を高めることができるとともに、塗布等による薄膜の形成を容易にする。
前記樹脂は、後述する(B)アニール処理工程における熱電半導体材料に対するアニール処理の温度に応じて適宜選択される。これは、樹脂が有する分解温度以上でアニール処理することが、熱電変換材料のチップの基板からの剥離を容易にする観点から必須となるからである。なお、樹脂の分解温度未満でアニール処理をすると、アニール処理後の熱電変換材料の基板からの剥離がし難くなる。
【0021】
前記樹脂としては、用いる熱電半導体材料に対するアニール処理の温度範囲が、樹脂が有する分解温度以上の範囲内にあれば、特に制限されるものではなく、熱可塑性樹脂や硬化性樹脂を用いることができる。但し、熱電半導体組成物からなる薄膜を前記アニール処理等により熱電半導体粒子を結晶成長させる際に、樹脂としての機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される樹脂が好ましい。
【0022】
このような樹脂として、熱可塑性樹脂や硬化性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体等のアクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ポリビニルピリジン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のポリビニル重合体、ポリウレタン、エチルセルロース等を挙げることができる。なお、ポリ(メタ)アクリル酸メチルとはポリアクリル酸メチル又はポリメタクリル酸メチルを意味するものとし、その他、(メタ)は同じ意味である。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。光硬化性樹脂としては、光硬化性アクリル樹脂、光硬化性ウレタン樹脂、光硬化性エポキシ樹脂等が挙げられる。
この中で、基板上に熱電変換材料のチップが形成でき、後述する分解温度以上の高温度下でのアニール処理後においても、熱電変換材料のチップを自立膜として容易に剥離可能とする観点から、熱可塑性樹脂が好ましく、ポリビニル重合体、ポリイソブチレン、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。なお、ポリビニル重合体としては、水溶性のポリビニル重合体が好ましく、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールが挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、より好ましくは、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、又はポリスチレンである。
なお、前記樹脂は、1種のみ用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよく、さらに、アニール処理後の熱電変換材料のチップの基板からの剥離が容易であり、かつ熱電性能が損なわれない範囲で、分解温度がアニール処理温度を超える樹脂とを組み合わせてもよい。
当該樹脂としては、特に制限されず、アニール処理温度によって選択されるが、自立膜の機械的強度の観点から、例えば、後述する、通常、高い分解温度を有する耐熱性樹脂等が挙げられる。
本明細書においては、分解温度がアニール処理温度以下のものを樹脂といい、分解温度がアニール処理温度を超えるものを耐熱性樹脂という。
本明細書における分解温度とは、熱重量測定(TG)によるアニール温度における質量減少率が10%となる温度をいう。
【0023】
(耐熱性樹脂)
本発明に用いる熱電半導体組成物には、さらに、耐熱性樹脂を含んでいてもよい。耐熱性樹脂は、熱電半導体材料(熱電半導体粒子)間のバインダーとして働き、熱電変換モジュールの機械的強度を高めることができるとともに、塗布等による薄膜の形成が容易になる。該耐熱性樹脂は、分解温度がアニール処理温度を超えるものであれば、特に制限されるものではないが、耐熱性がより高く、且つ薄膜中の熱電半導体粒子の結晶成長に悪影響を及ぼさないという点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、屈曲性に優れるという点からポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。後述する基板として、ポリイミドフィルムを用いた場合、該ポリイミドフィルムとの密着性などの点から、耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂がより好ましい。なお、本発明においてポリイミド樹脂とは、ポリイミド及びその前駆体を総称する。
【0024】
熱電半導体組成物に含まれる、前記樹脂と、前記耐熱性樹脂の配合比〔耐熱性樹脂/樹脂〕は、基板からの良好な剥離性の観点から、0.01以上0.5以下が好ましく、0.1以上0.4以下がより好ましく、0.15以上0.3以下が最も好ましい。
【0025】
前記樹脂の分解温度は、熱電半導体材料のアニール処理の温度に依存し選択されるが、通常260~450℃、好ましくは280~420℃、より好ましくは300~400℃、さらに好ましくは320~380℃である。分解温度がこの範囲にある前記樹脂を用いれば、アニール処理後の熱電変換材料のチップの基板からの剥離が容易となり、バインダーとして機能が失われることなく、熱電性能が向上し、屈曲性を維持することができる。
また、前記樹脂は、熱重量測定(TG)による150℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、バインダーとして機能が失われることなく、屈曲性を維持することができる。
【0026】
前記樹脂の前記熱電半導体組成物中の配合量は、0.1~40質量%、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは1~20質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。前記樹脂の配合量が、上記範囲内であると、アニール処理後の熱電変換材料のチップの基板からの剥離が容易となり、熱電半導体材料のバインダーとし機能し、薄膜の形成がしやすくなり、しかも高い熱電性能と皮膜強度が両立した膜が得られる。
【0027】
(イオン液体)
本発明で用いるイオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、-50~400℃の温度領域のいずれかの温度領域において、液体で存在し得る塩をいう。換言すれば、イオン液体は、融点が-50℃以上400℃未満の範囲にあるイオン性化合物である。イオン液体の融点は、好ましくは-25℃以上200℃以下、より好ましくは0℃以上150℃以下である。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、前記樹脂との相溶性に優れるため、熱電変換材料のチップの電気伝導率を均一にすることができる。
【0028】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウムのアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl、AlCl 、AlCl 、ClO 等の塩化物イオン、Br等の臭化物イオン、I等のヨウ化物イオン、BF 、PF 等のフッ化物イオン、F(HF) 等のハロゲン化物アニオン、NO 、CHCOO、CFCOO、CHSO 、CFSO 、(FSO、(CFSO、(CFSO、AsF 、SbF 、NbF 、TaF 、F(HF)n、(CN)、CSO 、(CSO、CCOO、(CFSO)(CFCO)N等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0029】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。イオン液体のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0030】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、4-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、3-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、3-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、4-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3、4-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、3、5-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4-メチル-ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージド等が挙げられる。この中で、1-ブチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージドが好ましい。
【0031】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1、3-ジブチルイミダゾリウムメチルスルフェート等が挙げられる。この中で、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0032】
上記のイオン液体は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記の範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0033】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0034】
また、上記のイオン液体は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0035】
前記イオン液体の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~20質量%である。前記イオン液体の配合量が、上記の範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0036】
(無機イオン性化合物)
本発明で用いる無機イオン性化合物は、少なくともカチオンとアニオンから構成される化合物である。無機イオン性化合物は室温において固体であり、400~900℃の温度領域のいずれかの温度に融点を有し、イオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を抑制することができる。
【0037】
カチオンとしては、金属カチオンを用いる。
金属カチオンとしては、例えば、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、典型金属カチオン及び遷移金属カチオンが挙げられ、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンがより好ましい。
アルカリ金属カチオンとしては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs及びFr等が挙げられる。
アルカリ土類金属カチオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+等が挙げられる。
【0038】
アニオンとしては、例えば、F、Cl、Br、I、OH、CN、NO 、NO 、ClO、ClO 、ClO 、ClO 、CrO 2-、HSO 、SCN、BF 、PF 等が挙げられる。
【0039】
無機イオン性化合物は、公知または市販のものが使用できる。例えば、カリウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はリチウムカチオン等のカチオン成分と、Cl、AlCl 、AlCl 、ClO 等の塩化物イオン、Br等の臭化物イオン、I等のヨウ化物イオン、BF 、PF 等のフッ化物イオン、F(HF) 等のハロゲン化物アニオン、NO 、OH、CN等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0040】
上記の無機イオン性化合物の中で、高温安定性、熱電半導体粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、無機イオン性化合物のカチオン成分が、カリウム、ナトリウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、無機イオン性化合物のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl、Br、及びIから選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0041】
カチオン成分が、カリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、KBr、KI、KCl、KF、KOH、KCO等が挙げられる。この中で、KBr、KIが好ましい。
カチオン成分が、ナトリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、NaBr、NaI、NaOH、NaF、NaCO等が挙げられる。この中で、NaBr、NaIが好ましい。
カチオン成分が、リチウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、LiF、LiOH、LiNO等が挙げられる。この中で、LiF、LiOHが好ましい。
【0042】
上記の無機イオン性化合物は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0043】
また、上記の無機イオン性化合物は、分解温度が400℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0044】
また、上記の無機イオン性化合物は、熱重量測定(TG)による400℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0045】
前記無機イオン性化合物の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。前記無機イオン性化合物の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下を効果的に抑制でき、結果として熱電性能が向上した膜が得られる。
なお、無機イオン性化合物とイオン液体とを併用する場合においては、前記熱電半導体組成物中における、無機イオン性化合物及びイオン液体の含有量の総量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。
【0046】
(その他の添加剤)
本発明で用いる熱電半導体組成物には、上記以外の成分以外に、必要に応じて、さらに分散剤、造膜助剤、光安定剤、酸化防止剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤、樹脂安定剤、充てん剤、顔料、導電性フィラー、導電性高分子、硬化剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
(熱電半導体組成物の調製方法)
本発明で用いる熱電半導体組成物の調製方法は、特に制限はなく、超音波ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリッドミキサー等の公知の方法により、前記熱電半導体粒子、前記樹脂、前記イオン液体及び無機イオン性化合物の一方又は双方、必要に応じて前記その他の添加剤、さらに溶媒を加えて、混合分散させ、当該熱電半導体組成物を調製すればよい。
前記溶媒としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アルコール、テトラヒドロフラン、メチルピロリドン、エチルセロソルブ等の溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。熱電半導体組成物の固形分濃度としては、該組成物が塗工に適した粘度であればよく、特に制限はない。
【0048】
前記熱電半導体組成物からなる薄膜は、本発明に用いた基板上に、前記熱電半導体組成物を塗布し、乾燥することで形成することができる。
【0049】
熱電半導体組成物を、基板上に塗布する方法としては、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、スプレーコート法、バーコート法、ドクターブレード法等の公知の方法が挙げられ、特に制限されない。塗膜をパターン状に形成する場合は、所望のパターンを有するスクリーン版を用いて簡便にパターン形成が可能なスクリーン印刷、ステンシル印刷、スロットダイコート等が好ましく用いられる。
次いで、得られた塗膜を乾燥することにより、薄膜が形成されるが、乾燥方法としては、熱風乾燥法、熱ロール乾燥法、赤外線照射法等、従来公知の乾燥方法が採用できる。加熱温度は、通常、80~150℃であり、加熱時間は、加熱方法により異なるが、通常、数秒~数十分である。
また、熱電半導体組成物の調製において溶媒を使用した場合、加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば、特に制限はない。
【0050】
前記熱電半導体組成物からなる薄膜の厚さは、特に制限はないが、熱電性能と皮膜強度の点から、好ましくは100nm~1000μm、より好ましくは300nm~600μm、さらに好ましくは5~400μmである。
【0051】
(B)アニール処理工程
アニール処理工程は、基板上に熱電変換材料のチップを形成後、該熱電変換材料のチップを、所定の温度で基板を有した状態で熱処理する工程である。
熱電変換材料のチップは、薄膜として形成後、アニール処理を行う。アニール処理を行うことで、熱電性能を安定化させるとともに、薄膜中の熱電半導体粒子を結晶成長させることができ、熱電性能をさらに向上させることができる。
【0052】
アニール処理は、特に限定されないが、通常、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行われる。
アニール処理の温度は、熱電半導体組成物に用いる熱電半導体材料、樹脂、イオン液体、無機イオン性化合物等に依存し、適宜調整するが、本発明では、前述したとおり、少なくとも樹脂の分解温度以上で行うことが必須であり、通常260~600℃、好ましくは280~550℃で行う。
前述した樹脂の分解温度とアニール処理の温度の差は、通常0~200℃、好ましくは0~170℃、より好ましく5~150℃、さらに好ましくは10~80℃である。
アニール処理の時間は、熱電半導体材料のバインダーとし機能し、屈曲性が維持されれば特に制限はないが、通常、数分~数十時間、好ましくは、数分~数時間行う。
【0053】
(C)チップ剥離工程
熱電変換材料のチップ剥離工程は、熱電変換材料のチップをアニール処理した後、基板から熱電変換材料のチップを剥離する工程である。
チップの剥離方法としては、熱電変換材料のチップをアニール処理した後、基板から熱電変換材料のチップを剥離可能な方法であれば特に制限はなく、基板から熱電変換材料の複数のチップを1枚1枚の個片の形態で剥離してもよいし、後述するように複数のチップの形態で一括して剥離してもよい。
【0054】
本発明の熱電変換材料のチップの製造方法によれば、簡便な方法で熱電変換材料のチップを製造することができる。また、熱電変換材料と電極とが接合した形態で、アニール処理されることがないため、前述したように、熱電変換材料と電極間の電気抵抗値が増大してしまい、熱電性能が低下する等の問題が発生することがない。
【0055】
[熱電変換モジュールの製造方法]
本発明の熱電変換材料のチップの製造方法により得られた熱電変換材料のチップを複数組み合わせた熱電変換モジュールを製造する方法であって、以下(i)~(vii)の工程を含む。
(i)基板上に前記熱電変換材料のチップを形成する工程、(ii)前記(i)の工程で得られた前記熱電変換材料のチップをアニール処理する工程、(iii)第1の樹脂フィルムと第1の電極とをこの順に有する第1の層を準備する工程、(iv)第2の樹脂フィルムと第2の電極とをこの順に有する第2Aの層、又は第2の樹脂フィルムを有しかつ電極を有しない第2Bの層を準備する工程、(v)前記(ii)の工程で得られたアニール処理後の前記熱電変換材料のチップの一方の面と、前記(iii)の工程で準備した前記第1の層の電極とを接合材料層1を介在して接合する工程、(vi)前記(v)の工程後の前記熱電変換材料のチップの他方の面を前記基板から剥離する工程、及び(vii)前記(vi)の工程で剥離し得られた前記熱電変換材料のチップの他方の面と、前記(iv)の工程で準備した前記第2Aの層の電極とを接合材料層2を介在して接合する工程、又は前記(iv)の工程で準備した前記第2Bの層とを接合材料層3を介在して接合する工程。
前記熱電変換モジュールの製造方法では、前記(i)及び(ii)の各工程を経ることにより得られた熱電変換材料のチップの形態で、熱電変換モジュールを製造することを特徴としている。ここで、前記(i)及び(ii)の各工程は、前述した本発明の熱電変換材料のチップの製造方法において、前記(A)熱電変換材料のチップ形成工程及び(B)アニール処理工程の各工程にこの順に対応し、全く同一の工程であり、例えば、図1で説明したとおりの実施態様が挙げられる。また、用いる基板、熱電半導体組成物の薄膜、さらにそれらを構成する好ましい材料、厚さ、そして形成方法等含め、すべて前述した熱電変換材料のチップの製造方法における記載内容と同じである。
【0056】
前記熱電変換モジュールの製造方法では、熱電性能の観点から、前記(iv)の工程が、第2の樹脂フィルムと第2の電極とをこの順に有する第2Aの層を準備する工程であり、前記(vii)の工程が、前記(vi)の工程で剥離し得られた前記熱電変換材料のチップの他方の面と、前記(iv)の工程で準備した前記第2Aの層の第2の電極とを接合材料層2を介在して接合する工程であることが好ましい。
上記工程で得られる熱電変換モジュールは、前述したπ型の熱電変換モジュールに相当する。
【0057】
また、前記熱電変換モジュールの製造方法の他の例としては、熱電性能の観点から、前記(iv)の工程が、第2の樹脂フィルムを有しかつ電極を有しない第2Bの層を準備する工程であり、前記(vii)の工程が、前記(vi)の工程で剥離し得られた前記熱電変換材料のチップの他方の面と、前記(iv)の工程で準備した前記第2Bの層とを接合材料層3を介在して接合する工程であることが好ましい。
上記工程で得られる熱電変換モジュールは、前述したインプレーン型の熱電変換モジュールに相当する。
【0058】
以下、本発明の熱電変換材料のチップの製造方法から得られた熱電変換材料のチップを複数組み合わせた熱電変換モジュールの製造方法について、図を用いて説明する。
【0059】
図2は、本発明の熱電変換材料のチップの製造方法から得られた熱電変換材料のチップを複数組み合わせた熱電変換モジュールの製造方法に従った工程の実施態様の一例(π型熱電変換モジュール)を工程順に示す説明図であり、(a)は熱電変換材料のチップの一方の面(上面)に後述するハンダ受理層を形成した後の断面図であり、(b)は樹脂フィルム上に電極及びハンダ層を形成した後の断面図であり、(c)は(b)で得られた樹脂フィルム上の電極をハンダ層及び(a)のハンダ受理層を介在し熱電変換材料のチップの一方の面(上面)と貼り合わせした後の断面図であり、(c’)はハンダ層を加熱冷却により接合した後の断面図であり、(d)は基板から熱電変換材料のチップの他方の面(下面)を剥離した後の断面図であり、(e)は(d)で得られた、樹脂フィルム上の熱電変換材料のチップの他方の面(下面)にハンダ受理層を形成した後の断面図であり、(f)は(b)で得られた樹脂フィルム上の電極をハンダ層及び(e)のハンダ受理層を介在し熱電変換材料のチップの他方の面(下面)と貼り合せ、接合した後の断面図である。
【0060】
<電極形成工程>
電極形成工程は、熱電変換モジュールの製造方法の前記(iii)の第1の樹脂フィルムと第1の電極とをこの順に有する第1の層を準備する工程において、第1の樹脂フィルム上に第1の電極を形成する工程である。又は、前記(iv)の第2の樹脂フィルムと第2の電極とをこの順に有する第2Aの層を準備する工程において、第2の樹脂フィルム上に第2の電極を形成する工程である。図2(b)においては、例えば、樹脂フィルム4上に金属層を成膜して、それらを所定のパターンに加工し、電極5を形成する工程である。
【0061】
(樹脂フィルム)
熱電変換モジュールの製造方法における熱電変換モジュールにおいて、熱電変換材料の電気伝導率の低下、熱伝導率の増加に影響を及ぼさない第1の樹脂フィルム及び第2の樹脂フィルムを用いる。第1の樹脂フィルム及び第2の樹脂フィルムは、同じであっても異なっていてもよい。屈曲性に優れ、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、基板が熱変形することなく、熱電素子の性能を維持することができ、耐熱性及び寸法安定性が高いという点から、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムが好ましく、さらに、汎用性が高いという点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0062】
前記第1の樹脂フィルム及び第2の樹脂フィルムの厚さは、屈曲性、耐熱性及び寸法安定性の観点から、それぞれ独立に、1~1000μmが好ましく、5~500μmがより好ましく、10~100μmがさらに好ましい。
また、上記第1の樹脂フィルム及び第2の樹脂フィルムは、熱重量分析で測定される5%重量減少温度が300℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。JIS K7133(1999)に準拠して200℃で測定した加熱寸法変化率が0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。JIS K7197(2012)に準拠して測定した平面方向の線膨脹係数が0.1ppm・℃-1~50ppm・℃-1であり、0.1ppm・℃-1~30ppm・℃-1であることがより好ましい。
【0063】
(電極)
熱電変換モジュールの第1の電極及び第2の電極の金属材料としては、それぞれ独立に、銅、金、ニッケル、アルミニウム、ロジウム、白金、クロム、パラジウム、ステンレス鋼、モリブデン又はこれらのいずれかの金属を含む合金等が挙げられる。
前記電極の層の厚さは、好ましくは10nm~200μm、より好ましくは30nm~150μm、さらに好ましくは50nm~120μmである。電極の層の厚さが、上記範囲内であれば、電気伝導率が高く低抵抗となり、電極として十分な強度が得られる。
【0064】
電極の形成は、前述した金属材料を用いて行う。
電極を形成する方法としては、樹脂フィルム上にパターンが形成されていない電極を設けた後、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法、または、スクリーン印刷法、インクジェット法等により直接電極のパターンを形成する方法等が挙げられる。
パターンが形成されていない電極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)等のドライプロセス、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、電極の材料に応じて適宜選択される。
電極には、熱電性能を維持する観点から、高い導電性、高い熱伝導性が求められるため、めっき法や真空成膜法で成膜した電極を用いることが好ましい。高い導電性、高い熱伝導性を容易に実現できることから、真空蒸着法、スパッタリング法等の真空成膜法、および電解めっき法、無電解めっき法が好ましい。形成パターンの寸法、寸法精度の要求にもよるが、メタルマスク等のハードマスクを介在し、容易にパターンを形成することもできる。
【0065】
前記金属材料の層の厚さは、好ましくは10nm~200μm、より好ましくは30nm~150μm、さらに好ましくは50nm~120μmである。金属材料の層の厚さが、上記範囲内であれば、電気伝導率が高く低抵抗となり、電極として十分な強度が得られる。
【0066】
<電極接合工程1>
電極接合工程1は、本発明の熱電変換モジュールの製造方法の前記(v)の工程であり、前記(ii)の工程で得られたアニール処理後の前記熱電変換材料のチップの一方の面と、前記(iii)の工程で準備した前記第1の層の第1の電極とを接合材料層1を介在して接合する工程である。
電極接合工程1は、例えば、図2の(c)においては、樹脂フィルム4の電極5上のハンダ層6と、P型熱電変換材料のチップ2a、N型熱電変換材料のチップ2bのそれぞれの一方の面に形成したハンダ受理層3とを介在し、P型熱電変換材料のチップ2a及びN型熱電変換材料のチップ2bを電極5と貼り合わせ、ハンダ層6を所定の温度に加熱し所定の時間保持後、室温に戻すことにより、P型熱電変換材料のチップ2a及びN型熱電変換材料のチップ2bを、電極5と接合する工程である。加熱温度、保持時間等については、後述するとおりである。なお、図2の(c’)は、ハンダ層6を室温に戻した後の態様である(ハンダ層6’は加熱冷却により固化し厚さが減少)。
【0067】
(接合材料層1形成工程)
電極接合工程1には、接合材料層1形成工程が含まれる。
接合材料層1形成工程は、熱電変換モジュールの製造方法の(v)の工程において、(iii)の工程で得られた第1の電極上に接合材料層1を形成する工程である。
接合材料層1形成工程は、例えば、図2(b)においては、電極5上にハンダ層6を形成する工程である。
接合材料層1を構成する接合材料としては、ハンダ材料、導電性接着剤、焼結接合剤等が挙げられ、それぞれ、ハンダ層、導電性接着剤層、焼結接合層として、電極上に形成されることが好ましい。
【0068】
ハンダ層を構成するハンダ材料としては、樹脂フィルム、熱電変換材料のチップに含まれる耐熱性樹脂の耐熱温度等、また、導電性、熱伝導性とを考慮し、適宜選択すればよく、Sn、Sn/Pb合金、Sn/Ag合金、Sn/Cu合金、Sn/Sb合金、Sn/In合金、Sn/Zn合金、Sn/In/Bi合金、Sn/In/Bi/Zn合金、Sn/Bi/Pb/Cd合金、Sn/Bi/Pb合金、Sn/Bi/Cd合金、Bi/Pb合金、Sn/Bi/Zn合金、Sn/Bi合金、Sn/Bi/Pb合金、Sn/Pb/Cd合金、Sn/Cd合金等の既知の材料が挙げられる。鉛フリー及び/またはカドミウムフリー、融点、導電性、熱伝導性の観点から、43Sn/57Bi合金、42Sn/58Bi合金、40Sn/56Bi/4Zn合金、48Sn/52In合金、39.8Sn/52In/7Bi/1.2Zn合金のような合金が好ましい。
ハンダ材料の市販品としては、以下のものが挙げられる。例えば、42Sn/58Bi合金(タムラ製作所社製、製品名:SAM10-401-27)、41Sn/58Bi/Ag合金(ニホンハンダ社製、製品名:PF141-LT7HO)、96.5Sn3Ag0.5Cu合金(ニホンハンダ社製、製品名:PF305-207BTO)等が使用できる。
【0069】
ハンダ層の厚さ(加熱冷却後)は、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは20~150μm、さらに好ましくは30~130μm、特に好ましくは40~120μmである。ハンダ層の厚さがこの範囲にあると、熱電変換材料のチップ及び電極との密着性が得やすくなる。
【0070】
ハンダ材料を基板上に塗布する方法としては、ステンシル印刷、スクリーン印刷、ディスペンシング法等の公知の方法が挙げられる。加熱温度は用いるハンダ材料、樹脂フィルム等により異なるが、通常、150~280℃で3~20分間行う。
【0071】
導電性接着剤層を構成する導電性接着剤としては、特に制限されないが、導電ペースト等が挙げられる。導電ペーストとしては、銅ペースト、銀ペースト、ニッケルペースト等が挙げられ、バインダーを使用する場合は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
導電性接着剤を樹脂フィルム上に塗布する方法としては、スクリーン印刷、ディスペンシング法等の公知の方法が挙げられる。
【0072】
導電性接着剤層の厚さは、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは20~150μm、さらに好ましくは30~130μm、特に好ましくは40~120μmである。
【0073】
焼結接合剤層を構成する焼結接合剤としては、特に制限されないが、シンタリングペースト等が挙げられる。前記シンタリングペーストは、例えば、ミクロンサイズの金属粉とナノサイズの金属粒子等からなり、前記導電性接着剤と異なり、直接金属をシンタリングで接合するものであり、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等のバインダーを含んでいてもよい。
シンタリングペーストとしては、銀シンタリングペースト、銅シンタリングペースト等が挙げられる。
焼結接合剤層を樹脂フィルム上に塗布する方法としては、スクリーン印刷、ステンシル印刷、ディスペンシング法等の公知の方法が挙げられる。焼結条件は、用いる金属材料等に異なるが、通常、100~300℃で、30~120分間である。
焼結接合剤の市販品としては、例えば、銀シンタリングペーストとして、シンタリングペースト(京セラ社製、製品名:CT2700R7S)、焼結型金属接合材(ニホンハンダ社製、製品名:MAX102)等が使用できる。
【0074】
焼結接合剤層の厚さは、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは20~150μm、さらに好ましくは30~130μm、特に好ましくは40~120μmである。
【0075】
また、ハンダ層を用いる場合は、熱電変換材料のチップとの密着性向上の観点から後述するハンダ受理層を介在して接合することが好ましい。
【0076】
(ハンダ受理層形成工程)
熱電変換モジュールの製造方法において、例えば、前記π型の熱電変換モジュール、及び前記インプレーン型の熱電変換モジュールを製造する場合、さらに、前記(ii)の工程で得られたアニール処理後の前記熱電変換材料のチップの一方の面にハンダ受理層を形成する工程を含むことが好ましい。
【0077】
ハンダ受理層形成工程は、熱電変換材料のチップ上に、ハンダ受理層を形成する工程であり、例えば、図2の(a)においては、P型熱電変換材料のチップ2a及びN型熱電変換材料のチップ2bの一方の面にハンダ受理層3を形成する工程である。
【0078】
ハンダ受理層は、金属材料を含むことが好ましい。金属材料は、金、銀、アルミニウム、ロジウム、白金、クロム、パラジウム、錫、及びこれらのいずれかの金属材料を含む合金から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。この中で、より好ましくは、金、銀、アルミニウム、又は、錫及び金の2層構成であり、材料コスト、高熱伝導性、接合安定性の観点から、銀、アルミニウムがさらに好ましい。
さらにハンダ受理層には、金属材料に加えて、溶媒や樹脂成分を含むペースト材を用いて形成してもよい。ペースト材を用いる場合は、後述するように焼成等により溶媒や樹脂成分を除去することが好ましい。ペースト材としては、銀ペースト、アルミペーストが好ましい。
【0079】
ハンダ受理層の厚さは、好ましくは10nm~50μmであり、より好ましくは50nm~16μm、さらに好ましくは200nm~4μm、特に好ましくは500nm~3μmである。ハンダ受理層の厚さがこの範囲にあると、樹脂を含む熱電変換材料のチップの面との密着性、及び電極側のハンダ層の面との密着性が優れ、信頼性の高い接合が得られる。また、導電性はもとより、熱伝導性が高く維持できるため、結果的に熱電変換モジュールとしての熱電性能が低下することはなく、維持される。
ハンダ受理層は、前記金属材料をそのまま成膜し単層で用いてもよいし、2以上の金属材料を積層し多層で用いてもよい。また、金属材料を溶媒、樹脂等に含有させた組成物として成膜してもよい。但し、この場合、高い導電性、高い熱伝導性を維持する(熱電性能を維持する)観点から、ハンダ受理層の最終形態として、溶媒等を含め樹脂成分は焼成等により除去しておくことが好ましい。
【0080】
ハンダ受理層の形成は、前述した金属材料を用いて行うことが好ましい。
ハンダ受理層を形成する方法としては、熱電素子層上にパターンが形成されていないハンダ受理層を設けた後、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法、または、スクリーン印刷法、ステンシル印刷法、インクジェット法等により直接ハンダ受理層のパターンを形成する方法等が挙げられる。
パターンが形成されていないハンダ受理層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)等の真空成膜法、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、ハンダ受理層の材料に応じて適宜選択される。
ハンダ受理層には、熱電性能を維持する観点から、高い導電性、高い熱伝導性が求められるため、スクリーン印刷法、ステンシル印刷法、電解めっき法、無電解めっき法や真空成膜法で成膜したハンダ受理層を用いることが好ましい。
【0081】
<チップ一括剥離工程>
チップ一括剥離工程は、熱電変換モジュールの製造方法の(vi)の工程であり、前記(v)の工程後の熱電変換材料のチップの他方の面を基板から剥離する工程である。
チップ一括剥離工程は、例えば、図2の(d)においては、基板1からP型熱電変換材料のチップ2a及びN型熱電変換材料のチップ2bの他方の面を一括して剥離する工程である。
熱電変換材料の剥離方法としては、基板から熱電変換材料のチップをすべて一括して剥離可能な方法であれば、特に制限はない。
【0082】
<電極接合工程2>
電極接合工程2は、熱電変換モジュールの製造方法の(vii)の工程に含まれるものであり、(vi)の工程で剥離し得られた前記熱電変換材料のチップの他方の面と、前記(iv)の工程で準備した前記第2Aの層の第2の電極とを接合材料層2を介在して接合する工程である。
電極接合工程2は、例えば、図2の(f)において、P型熱電変換材料のチップ2a及びN型熱電変換材料のチップ2bの他方の面と、ハンダ受理層3及びハンダ層6を介在し、樹脂フィルム4上の電極5とを接合する工程である。
第2Aの層の、第2の電極及び第2の樹脂フィルムのいずれの材料も、電極接合工程1に記載したものと同一のものが使用でき、接合方法も同一である。
電極との接合は、前述したハンダ層、導電性接着剤層、又は焼結接合剤層を介在して接合することが好ましい。
【0083】
(接合材料層2形成工程)
電極接合工程2には、接合材料層2形成工程が含まれる。
接合材料層2形成工程は、本発明の熱電変換モジュールの製造方法の(vii)の工程において、前記(iv)の工程で準備した前記第2Aの層の第2の電極上に接合材料層2を形成する工程である。
接合材料層2は、前述した接合材料層1と同様の材料を用いることができ、形成方法、厚さ等すべて同様である。
【0084】
また、例えば、前記π型の熱電変換モジュールを製造する際に、ハンダ層を用いる場合は、さらに、前記(vi)の工程で剥離し得られた前記熱電変換材料のチップの他方の面にハンダ受理層を形成する工程を含むことが好ましい。
例えば、図2の(e)においては、P型熱電変換材料のチップ2a及びN型熱電変換材料のチップ2bの他方の面にハンダ受理層3を形成する工程である。
【0085】
(樹脂フィルム接合工程)
樹脂フィルム接合工程は、本発明の熱電変換モジュールの製造方法の(vii)の工程に含まれるものであり、(vi)の工程で剥離し得られた前記熱電変換材料のチップの他方の面と、前記(iv)の工程で準備した第2の樹脂フィルムを有しかつ電極を有しない第2Bの層とを接合材料層3を介在して接合する工程である。前記第2の樹脂フィルムは、前述したとおりである。第2の樹脂フィルムを有しかつ電極を有しない第2Bの層との接合は、接合材料層3を用いる。
【0086】
接合材料層3を構成する接合材料としては、好ましくは樹脂材料であり、樹脂材料層として、樹脂フィルム上に形成される。
【0087】
前記樹脂材料としては、ポリオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、又はアクリル系樹脂を含むものであることが好ましい。さらに、前記樹脂材料は粘接着性や低水蒸気透過率性を有していることが好ましい。本明細書において、粘接着性を有するとは、樹脂材料が、粘着性、接着性、貼り付ける初期において感圧により接着可能な感圧性の粘着性を有することを意味する。
樹脂材料層の形成は、公知の方法で行うことができる。
【0088】
樹脂材料層の厚さは、好ましくは1~100μm、より好ましくは3~50μm、さらに好ましくは5~30μmである。
【0089】
なお、熱電変換モジュールにおける一対の樹脂フィルム上の電極に用いるそれぞれの接合材料層の組み合わせ(一対のいずれかの樹脂フィルム上に電極を有さない場合を除く)は、特に制限されないが、熱電変換モジュールの機械的な変形を防止し熱電性能の低下を抑制する観点から、ハンダ層同士、導電性接着剤層同士、又は焼結接合剤層同士の組み合わせとすることが好ましい。
【0090】
(熱電変換モジュールの他の製造方法)
本発明の熱電変換材料のチップの製造方法により得られたチップを用いた熱電変換モジュールの製造方法の他の例として以下の方法が挙げられる。
具体的には、前述した基板から、熱電変換材料の複数のチップを、1チップごとに剥離することにより、複数のチップを得、該複数のチップを前記樹脂フィルム上の所定の電極上に1つ1つ配置する工程を経ることにより、熱電変換モジュールを形成する方法である。
熱電変換材料の複数のチップを電極上に配置する方法は、チップ1つ1つを、ロボット等でハンドリングし、顕微鏡等で位置合わせを行い、配置する等、公知の方法を用いることができる。
【0091】
本発明の熱電変換材料のチップの製造方法によれば、簡便な方法で熱電変換材料のチップを形成することができ、熱電変換材料のチップを複数組み合わせた熱電変換モジュールにあっては、従来のアニール処理工程での熱電変換材料と電極間での拡散による合金層の形成由来の熱電性能の低下を防止できる。
【実施例
【0092】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0093】
実施例及び比較例で作製した熱電変換材料のチップを有する試験片における、ガラス基板からの熱電変換材料のチップの剥離性評価は、以下の方法で行った。
【0094】
<剥離性評価>
(剥離性評価1)
実施例及び比較例で作製した試験片における熱電変換材料の薄膜をJIS K5600-5-6:1999記載のクロスカット試験に準拠して、以下に示すJIS K5600-5-6の表1(試験結果の分類)の判定を基準として付着性を評価することにより、試験片における基板からの熱電変換材料の剥離性を評価した。
(「表1 試験結果の分類」から抜粋)
分類0:カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれがない。
分類1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に5%を上回ることはない。
分類2:塗膜がカットの縁に沿って,及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
分類3:塗膜がカットの縁に沿って,部分的又は全面的に大はがれを生じており,及び/又は目のいろいろな部分が,部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
分類4:塗膜がカットの縁に沿って,部分的又は全面的に大はがれを生じており,及び/又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に65%を上回ることはない。
分類5:分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
【0095】
(剥離性評価2)
試験片から剥離した熱電変換材料の裏面、すなわち、ガラス基板に接していた側の面の電気抵抗値を低抵抗測定装置(日置社製、型名:RM3545)を用いて、25℃60%RHの環境下で測定した。
【0096】
剥離性評価1及び剥離性評価2の結果に基づき、以下の基準により、トータルの剥離性を評価(総合評価)した。
A:分類5かつ電気抵抗値が1(Ω)以下(熱電変換材料の裏面がガラス基板表面から良好に剥離したことを意味する)。
B:分類5以外(熱電変換材料の裏面がガラス基板表面から良好に剥離していないことを意味する)。
【0097】
(実施例1)
<熱電変換材料の試験片の作製>
(1)熱電半導体組成物の作製
(熱電半導体粒子の作製)
ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるP型ビスマステルライドBi0.4Te3.0Sb1.6(高純度化学研究所製、粒径:180μm)を、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン社製、Premium line P-7)を使用し、窒素ガス雰囲気下で粉砕することで、平均粒径2.0μmの熱電半導体粒子を作製した。粉砕して得られた熱電半導体粒子に関して、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)により粒度分布測定を行った。
(熱電半導体組成物の塗工液の調製)
上記で得られたP型ビスマステルライドBi0.4TeSb1.6粒子82.5質量%、樹脂としてポリビニルピロリドン水溶液(シグマアルドリッチ社製、溶媒:水、固形分濃度:18質量%、分解温度300℃)3.2質量%(固形分)、及びイオン液体として1-ブチルピリジニウムブロミド14.3質量%を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液を調製した。
(2)熱電変換材料の薄膜の形成
ガラス基板(ソーダライムガラス、100mm×100mm×厚さ0.7mm)上に、メタルマスク(材質:磁性SUS、パターン領域:70mm×70mm、パターンの仕様;幅:1.5mm、長さ:1.5mm、間隔:0.2mm)を介在して、上記(1)で調製した塗工液を、スクリーン印刷法により塗布し、温度150℃で、10分間アルゴン雰囲気下で乾燥し、厚さが200μmの薄膜(アニール処理前の熱電変換材料)を形成した。次いで、得られた薄膜に対し、水素とアルゴンの混合ガス(水素:アルゴン=3体積%:97体積%)雰囲気下で、加温速度5K/minで昇温し、450℃で1時間保持し、前記薄膜をアニール処理し、熱電半導体材料の粒子を結晶成長させ、熱電変換材料(アニール処理後の熱電変換材料)を作製することにより、熱電変換材料のチップを有する試験片を作製した。得られた試験片における熱電変換材料とガラス基板との剥離性にかかる付着性の評価(剥離性評価1)及び熱電変換材料の裏面の電気抵抗値の測定(剥離性評価2)を行うことで、前述した基準で剥離性評価(総合評価)を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例2)
実施例1において、熱電半導体材料としてN型ビスマステルライドBiTe粒子91.6質量%、樹脂としてポリビニルピロリドン水溶液(シグマアルドリッチ社製、溶媒:水、固形分濃度:18質量%、分解温度300℃)3.6質量%(固形分)、イオン液体として1-ブチルピリジニウムブロミド4.8質量%を用い、アニール処理温度を400℃とした以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。得られた試験片に対し、実施例1と同様に剥離性評価(総合評価)を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例3)
実施例1において、樹脂としてポリビニルアルコール(シグマアルドリッチ社製、溶媒:水、固形分濃度:18質量%、分解温度300℃)3.2質量%(固形分)を用いた以外は、実施例1と同様に試験片を作製した。得られた試験片に対し、実施例1と同様に剥離性評価(総合評価)を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(実施例4)
実施例1において、樹脂としてポリスチレン(シグマアルドリッチ社製、溶媒:メチルエチルケトン、固形分濃度:15質量%、分解温度364℃)3.2質量%(固形分)を用いた以外は、実施例1と同様に試験片を作製した。得られた試験片に対し、実施例1と同様に剥離性評価(総合評価)を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(実施例5)
実施例1において、樹脂としてポリスチレン(シグマアルドリッチ社製、溶媒:メチルエチルケトン、固形分濃度:18質量%、分解温度364℃)2.88質量%(固形分)、耐熱性樹脂として、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸(河村産業株式会社製、KPI-MX300F、溶媒:メチルエチルケトン、固形分濃度:18質量%、分解温度530℃)0.32質量%(固形分)を用いた以外は、実施例1と同様に試験片を作製した。得られた試験片に対し、実施例1と同様に剥離性評価(総合評価)を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(比較例1)
実施例1において、樹脂としてポリイミド前駆体であるポリアミック酸(宇部興産株式会社製、U-ワニスA、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:18質量%、分解温度500℃)3.2質量%(固形分)を用いた以外は、実施例1と同様に試験片を作製した。得られた試験片に対し、実施例1と同様に剥離性評価(総合評価)を行った。結果を表1に示す。
【0103】
(比較例2)
実施例1において、焼成温度を250℃とした以外は、実施例1と同様に試験片を作製した。得られた試験片に対し、実施例1と同様に剥離性評価(総合評価)を行った。結果を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
ガラス基板上に形成され、樹脂が有する分解温度以上のアニール温度でアニール処理された、樹脂を含む熱電半導体組成物からなる実施例1~4の熱電変換材料のチップは、ガラス基板からの剥離性が良好であることがわかる。また、耐熱性樹脂をさらに含む実施例5の熱電変換材料のチップについても同様であることがわかる。
これに対し、ガラス基板上に形成され、樹脂が有する分解温度未満のアニール温度で処理された、樹脂を含む熱電半導体組成物からなる比較例1~2の熱電変換材料のチップは、ガラス基板からの剥離性が悪いことがわかる。
上記より、本発明の製造方法では、樹脂が有する分解温度以上のアニール温度で処理された、樹脂を含む熱電半導体組成物からなる熱電変換材料のチップが、自立膜として形成可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の熱電変換材料のチップの製造方法、その製造方法により得られたチップを用いた熱電変換モジュールの製造方法によれば、電極と熱電変換材料との拡散による合金相の形成が防止でき、結果として熱電性能が低下する等の問題を解消することができる。同時に、製造工程内での歩留まりの向上が期待できる。また、前記熱電変換モジュールは、屈曲性を有するとともに、薄型化(小型、軽量)が実現できる可能性を有する。
上記の熱電変換材料のチップの製造方法により得られたチップを用いた熱電変換モジュールは、工場や廃棄物燃焼炉、セメント燃焼炉等の各種燃焼炉からの排熱、自動車の燃焼ガス排熱及び電子機器の排熱を電気に変換する発電用途に適用することが考えられる。冷却用途としては、エレクトロニクス機器の分野において、例えば、半導体素子である、CCD(Charge Coupled Device)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、受光素子等の各種センサーの温度制御等に適用することが考えられる。
【符号の説明】
【0107】
1:基板
2:熱電変換材料のチップ
2a:P型熱電変換材料のチップ
2b:N型熱電変換材料のチップ
3:ハンダ受理層
4:樹脂フィルム
5:電極
6:ハンダ層(形成時)
6’:ハンダ層(接合後)

図1
図2