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特許7458388リチウム含有量の少ない透明β石英ガラスセラミック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】リチウム含有量の少ない透明β石英ガラスセラミック
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/12 20060101AFI20240322BHJP
   C03B 32/02 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
C03C10/12
C03B32/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021521528
(86)(22)【出願日】2019-11-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 EP2019080433
(87)【国際公開番号】W WO2020094734
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】1860378
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】501059442
【氏名又は名称】ユーロケラ
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】フェーヴル,ティフェンヌ
(72)【発明者】
【氏名】コント,マリー
(72)【発明者】
【氏名】レウエデ,フィリップ
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-308845(JP,A)
【文献】特表2013-532622(JP,A)
【文献】特開平04-214046(JP,A)
【文献】特開平08-165143(JP,A)
【文献】特開2009-018986(JP,A)
【文献】特開2002-173338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
C03B 32/02
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主結晶相としてβ石英の固溶体を含有する、リチウムアルミノケイ酸塩タイプの透明ガラスセラミックであって、その組成が、酸化物の質量パーセントで表して:
・63%から67.5%のSiO
・18%から21%のAl
・2%から2.9%のLiO、
・0から1.37%のMgO、
・1%から3.2%のZnO、
・0から4%のBaO、
・0から4%のSrO、
・0から2%のCaO、
・2%から5%のTiO
・0から3%のZrO
・0から1%のNaO、
・0から1%のKO、
・0から5%のP、および
(0.74MgO+0.19BaO+0.29SrO+0.53CaO+0.48NaO+0.32KO)/LiO<0.9、
を含む、ガラスセラミック。
【請求項2】
前記組成が、2.85%以下の含有量でLiOを含み、1%から3%のZnOを含む、請求項1記載のガラスセラミック。
【請求項3】
前記組成が、少なくとも0.5%のPを含む、請求項1または2記載のガラスセラミック。
【請求項4】
避けられない微量を除いて、前記組成が、少しもPを含有せず、1%から2.5%のZnOを含む、請求項1または2記載のガラスセラミック。
【請求項5】
避けられない微量を除いて、前記組成が、少しもBを含まず、
前記組成が、避けられない微量を除いて、AsおよびSbを含まず、前記少なくとも1種類の清澄剤として、SnOを含み、
前記組成が、着色剤として、単独で、またはCoO、Cr、およびFeから選択される少なくとも1種類の他の着色剤と混合されて、Vを含有する、請求項1から4いずれか1項記載のガラスセラミック。
【請求項6】
±14×10-7/Kの範囲にある熱膨張係数:CTE(25~450℃)を有する、請求項1から5いずれか1項記載のガラスセラミック。
【請求項7】
請求項1から6いずれか1項記載のガラスセラミックから作られたレンジの上面。
【請求項8】
請求項1から6いずれか1項記載のガラスセラミックを得ることを可能にする組成を有する、請求項1から6いずれか1項記載のガラスセラミックの前駆体である、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスであって、1400℃未満の液相温度および400Pa・s超の液相温度での粘度を有するリチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【請求項9】
請求項7記載のレンジの上面を調製する方法であって、
- 原材料のガラス化可能な装填物を溶融し、その後、得られた溶融ガラスを清澄する工程、
- 得られた清澄された溶融ガラスを冷却すると同時に、該ガラスをレンジの上面に所望の形状に成形する工程、および
- その成形されたガラスにセラミック化熱処理を施す工程、
を連続して有してなり、
前記原材料のガラス化可能な装填物が、請求項1から6いずれか1項記載のガラスセラミックを得ることを可能にする組成を有する、方法。
【請求項10】
避けられない微量を除いて、AsおよびSbを含まない、前記原材料のガラス化可能な装填物が、清澄剤として、SnOを含有する、請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願の文脈は、主結晶相としてβ石英の固溶体を含有するリチウムアルミノケイ酸塩(LAS)タイプの透明低膨張ガラスセラミックのものである。本出願は、より詳しくは、
・主結晶相としてβ石英の固溶体を含有し、リチウム含有量の低いリチウムアルミノケイ酸塩(LAS)タイプの透明ガラスセラミックであって、誘導加熱に関連するレンジの上面(cooktop)を製造するのに完全に適した材料であるガラスセラミック、
・これらのガラスセラミックから少なくとも一部が構成された物品、
・これらのガラスセラミックの前駆体である、リチウムアルミノケイ酸塩ガラス、および
・これらの物品を調製する方法、
に関する。
【背景技術】
【0002】
20年余り-主結晶相としてβ石英の固溶体を含有する、リチウムアルミノケイ酸塩(LAS)タイプの-透明ガラスセラミックが存在してきた。それらは、多くの特許文献、特に、特許文献1および特許文献2に記載されている。それらは、より詳しくは、レンジの上面、調理器具、電子レンジの底面、暖炉の窓、挿入式暖炉、ストーブの窓、オーブンの扉(特に、熱分解炉および触媒炉)、および耐火窓を構成するための材料として使用される。
【0003】
そのようなガラスセラミックを得るために(より詳しくは、前駆体ガラスの溶融塊中の気体の含有物をなくすために)、従来の清澄剤であるAsおよび/またはSbが、長い間、使用されてきた。それら2つの化合物の毒性および施行されているこれまで以上に厳しい規則を考慮して、前駆体ガラスの製造に、これらの(毒性)清澄剤を使用することは、もはや望ましくない。環境への配慮のために、少なくとも一部は、その従来の清澄剤であるAsおよびSbの代わりに使用できる、FおよびBrなどのハロゲンを使用することも、もはや望ましくない。代替の清澄剤として、SnOが提案されてきた(特に、特許文献3、特許文献4、特許文献2、特許文献5、および特許文献6の教示を参照のこと)。これは、ますます使用されている。それにもかかわらず、同程度の清澄温度で、Asほど効果的ではないことが判明した。一般的な方法で、それゆえ最も具体的に、清澄剤としてSnOを使用する文脈において、清澄を促進するために、高温で低い粘度を有する(前駆体)ガラスを有することが都合よい。
【0004】
そのようなレンジの上面に関連する加熱素子(放射加熱素子または誘導加熱素子)に応じて、そのレンジの上面を構成する材料の(線)熱膨張係数(CTE)の値に関する要件は、多かれ少なかれ、制約的である:
・放射加熱に使用されるプレートは、725℃ほど高い温度まで昇温させることができ、それらの中で起こる熱衝撃および温度勾配に耐えることができるように、そのCTEは、低く、一般に、25℃から700℃で、±10×10-7毎ケルビン(/K)の範囲、好ましくは、±3×10-7/Kの範囲にある;
・(従来の)誘導加熱に使用されるプレートは、より低い温度(例外的にだけ、450℃に、一般に、400℃以下に達する温度)に曝される。それゆえ、それらが曝される熱衝撃は、それほど強烈ではない;そのようなレンジの上面のCTEは、高くあり得る。
【0005】
調理器具の温度を制御することを目的とした赤外線温度センサ(高温計または熱電対列など)を備えた、新世代の誘導加熱器を使用する誘導加熱に関連するプレートも存在する。そのようなセンサにより、プレートの温度は、よりよく制御され、300℃を超えない。そのような条件下で、さらに大きいCTE値が、完全に適し得る。それにもかかわらず、そのようなレンジの上面は、(狭い)最上位の市場区分を占めることも観察すべきである。
【0006】
本出願で提案されるプレートは、従来の誘導加熱に使用するのに適している;それらは、400℃の温度、および450℃での例外的な熱衝撃に耐える。
【0007】
外観の理由のために、プレートは、透明である場合でさえ、誘導コイル、電気配線、および調理機器を制御し、モニタするための回路など、その下に配置された要素を隠すことも望ましい。そのようなプレートの底面に乳白剤が堆積されることがある、またはそれを構成する材料が、濃く着色されることがある。その場合には、それにもかかわらず、プレートの下に配置された発光ダイオード(LED)により発せられる光の結果として、ディスプレイが見えるように、ある程度の最小レベルの透過を保たなければならない。
【0008】
リチウムは、これらのガラスセラミック(透明であり、主結晶相としてβ石英の固溶体を含有する、リチウムアルミノケイ酸塩(LAS)タイプの)の主成分の内の1つである。現在、リチウムは、一般に、2.5%から4.5%の範囲に入る含有量で(例えば、特許文献5および6の教示を参照のこと)、より一般には、3.6質量%から4.0質量%の含有量で(LiOで表して)、そのガラスセラミックの組成中に存在する。リチウムは、β石英の固溶体の一成分として基本的に使用される。リチウムは、低いまたさらにはゼロであるCTE値をガラスセラミック内で得ることを可能にする。リチウムは、前駆体ガラスの特に高性能の溶融剤を構成する(その影響は、最も詳しくは、高温粘度に観察される)。現在、リチウムの供給は、以前ほどは当てにできない。いずれにしても、この元素は、より高価になっている。リチウムの入手可能性および価格に対するこの最近の圧力の理由は、リチウム電池を製造するためのリチウムの増大する需要にある。
【0009】
従来技術は、リチウム含有量がより多いかより少ない組成を示す、ガラスセラミック(透明であり、主結晶相としてβ石英の固溶体を含有する、リチウムアルミノケイ酸塩(LAS)タイプの)の前駆体ガラスを、関連するガラスセラミックと共に、既に記載している。それゆえ:
・特許文献7には、主結晶相としてβ石英の固溶体を含有し、探し求められているCTE値に関して、2質量%から3質量%未満の範囲にあるリチウム含有量(LiOで表して)、および1.56質量%から3質量%の範囲にあるマグネシウム含有量(MgOで表して)を含有する、リチウムアルミノケイ酸塩(LAS)タイプの着色透明ガラスセラミックが記載されている。記載されているガラスセラミックにとって、そのガラスセラミックのそれらの装飾との適合性の技術的問題に関して、周囲温度と700℃の間で、10×10-7/Kから25×10-7/Kの範囲のCTE値が目的とされている;
・特許文献8には、主結晶相としてβ石英の固溶体を含有し、制御された透過曲線を示す、リチウムアルミノケイ酸塩(LAS)タイプの透明ガラスセラミックが記載されている。記載された組成物は、AsおよびSbを含まず、その組成物は、清澄剤として酸化スズ(SnO)を含有する。その組成物は、一般に、2.5質量%から4.5質量%のLiOを含有する。例示の組成物は、3.55質量%から3.80質量%の範囲にある、高含有量のLiOを含有する;
・特許文献9には、可視および可視範囲において最適化されており、誘導加熱に関連するレンジの上面として使用するのに適した透過曲線を示す着色透明ガラスセラミックが記載されている。それらの組成物は、1.5質量%から4.2質量%のLiOを含有する;詳しくは、例示の組成物は全て、2.9質量%より多い含有量のLiOを含有する;および
・ 特許文献10には、3.0質量%から3.6質量%のLiO(好ましくは、3.2質量%から3.6質量%のLiO)、および着色剤としてのVまたはMoOを含有する組成の、±10×10-7/K(20℃から700℃)のCTEを有する透明ガラスセラミックが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第5070045号明細書
【文献】国際公開第2012/156444号
【文献】米国特許第6846760号明細書
【文献】米国特許第8053381号明細書
【文献】米国特許第9051209号明細書
【文献】米国特許第9051210号明細書
【文献】米国特許第9446982号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0197444号明細書
【文献】米国特許第9018113号明細書
【文献】独国特許出願公開第102018110855号明細書
【発明の概要】
【0011】
そのような文脈において、発明者等は、低リチウム含有量(最大2.9質量%の含有量のLiO)のガラスセラミック組成物を探し求めることが適しているのを見出した;問題のガラスセラミックは、透明であり、リチウムアルミノケイ酸塩(LAS)タイプのものであり、主結晶相としてβ石英の固溶体を含有し、レンジの上面を誘導加熱(従来の誘導加熱;そのレンジの上面は、例外的にのみ、450℃に、一般には、400℃以下に達する温度に曝される)に使用できるようにするための材料として完全に適している。また:
・そのガラスセラミックの前駆体ガラスが、工業的過程を容易に置き換えられるように、現在製造されているガラスセラミックのための前駆体ガラスの性質と似た性質を示す;および
・その前駆体ガラスが、レンジの上面の下に配列された発光ダイオード(LED)により発せられる赤色光の良好な視認性を妨げるレベルのヘイズを見せずに、セラミック化されている間に、着色できる、最も詳しくは、黒色を発生できる;
ことも最も望ましい。
【0012】
問題のガラスセラミックの仕様が、下記に述べられている:
・25℃と450℃の間で±14×10-7/Kの範囲にある(-14×10-7/K≦CTE(25~450℃)≦+14×10-7/K)、有利には、±10×10-7/Kの範囲にある(-10×10-7/K≦CTE(25~450℃)≦+10×10-7/K)CTEを示す、それゆえ、従来の誘導加熱に使用するのに許容できるCTE(25~450℃)(そのCTE(25~450℃)は、14×10-7/K以下、有利には、10×10-7/K以下であると理解できる)、また、適切には、25℃と700℃の間で±14×10-7/Kの範囲にある(-14×10-7/K≦CTE(25~700℃)≦+14×10-7/K)CTEを示す、
・それゆえ、目的とする利用厚さ(レンジの上面は、典型的に、1ミリメートル(mm)から8mm、より一般には、2mmから5mmの範囲にある厚さ、多くの場合、4mmの厚さを有する)で、透明(通常、濃く着色されている場合でさえも)である、そのガラスセラミックは、1%以上の積分透過TLまたはY(%)、および2%未満の拡散パーセント(拡散またはヘイズ(%))を示す必要がある。一例として、これらの測定は、積分球を有する分光計を使用して行われることがある。これらの測定に基づいて、可視範囲(380ナノメートル(nm)から780nm)内の積分透過(TLまたはY(%))および拡散パーセント(拡散またはヘイズ(%))は、基準ASTM D 1003-13(2°の観察者によりD65光源下で)を使用して計算される;および
・有利な性質、実際に、より高いLiO含有量を有するガラス(従来技術のガラスセラミック前駆体)のものと同じ有利な性質を有する前駆体ガラスを有する;すなわち:
+その前駆体ガラスは、低い液相温度(<1400℃)および液相温度での高粘度(>400パスカル秒(Pa・s)、好ましくは>700Pa・s)を示し、それによって、成形を促進しなければならない;および/または有利には、
+その前駆体ガラスは、高温で、低い粘度(T30Pa・s≦1640℃、有利には、≦1630℃)を持ち、それによって、清澄を促進しなければならない。
その前駆体ガラスが、短期間(<3時間)、好ましくは非常に短期間(<1時間)でガラスセラミックに転換され得る、および/または有利には、その前駆体ガラスが、50Ω・センチメートル(Ω・cm)未満(好ましくは20Ω・cm未満)の、30Pa・sの粘度での電気抵抗率を示すことも、極めて適切である。当業者は、これら最後の2つの性質(前駆体ガラスに有利に必要とされる)を得ることは、どのような特定の難点も示さないことを理解するであろう(本出願のガラスセラミックについて下記に述べられた組成物を踏まえると)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明者等は、低リチウム含有量(多くとも2.9質量%のLiO)を有し、先の仕様を満たす組成を持つガラスセラミック(主結晶相としてβ石英の固溶体を含有する、リチウムアルミノケイ酸塩(LAS)タイプの)が存在することを立証した。そのようなガラスセラミックは、本出願の第1の態様を構成する。特徴的な様式で、これらのガラスセラミックは、酸化物の質量パーセントで表して、以下の組成:
・63%から67.5%のSiO
・18%から21%のAl
・2%から2.9%のLiO、
・0から1.5%のMgO、
・1%から3.2%のZnO、
・0から4%のBaO、
・0から4%のSrO、
・0から2%のCaO、
・2%から5%のTiO
・0から3%のZrO
・0から1%のNaO、
・0から1%のKO、
・0から5%のP
(0.74MgO+0.19BaO+0.29SrO+0.53CaO+0.48NaO+0.32KO)/LiO<0.9、
・必要に応じて、2%までの少なくとも1種類の清澄剤、および
・必要に応じて、2%までの少なくとも1種類の着色剤
を示す。
【0014】
以下は、先に規定された組成における規定含有量(各指示範囲(主要範囲および好ましくは有利な「部分的範囲」の両方:上記と下記参照)の極値は、その範囲に含まれている)で含まれる(または潜在的に含まれる)成分の各々に関して規定されることがある。与えられたパーセントは、質量パーセントであることを思い出されたい。
【0015】
・SiO(63%~67.5%):SiOの含有量(≧63%)は、液相粘度の最小値を保証するために十分に粘性である前駆体ガラス(ガラスセラミックの)を得るのに適していなければならない。SiOの含有量が多いほど、ガラスの高温粘度が大きくなり、それゆえ、ガラスはより溶融しにくくなるので、SiOの含有量は67.5%に制限される。比較例Aは、この制限を示す。好ましい様式において、SiOの含有量は、65%から67%の範囲にある(境界は含まれる)。
【0016】
・P(0~5%):この化合物は、必要に応じて、存在する。Pは、存在する場合、効果的であるためには、一般に、少なくとも0.5%で存在する。Pは、SiOの代替物として、特にZnO含有量が多い(すなわち、>2.5%)場合、液相温度を低下させる働きをする。この点は、実施例4(2.11%のP)および実施例11(Pはない(0.05%))を比較することによって、示される。有利な様式において、液相温度に対して著しい効果を得るために、Pは、存在する場合、1%から5%の範囲(境界は含まれる)に入る含有量で存在する。非常に有利な様式において、Pは、存在する場合、1%から3%の範囲(境界は含まれる)に入る含有量で存在する。なお、Pが添加されていない場合、ガラスの組成物中にいくらかが(使用される原材料の少なくとも1つの中の、または使用されるガラスおよび/またはガラスセラミックのカレット中の不純物として)、微量形態で、一般に、1000百万分率(ppm)(0.1%)の最大含有量で、見られるかもしれないと観察されるであろう。
【0017】
・Al(18%~21%):規定の量(極めて多い)でZnOが存在すると、失透現象を制限するために、Alの含有量の制御が重要になる。過剰な量のAl(>21%)は、組成物をより失透しやすくし(ムライト結晶または他の結晶に)、このことは、望ましくない。逆に、少なすぎる(<18%)Alの量は、核形成および小さいβ石英結晶の形成にとって好ましくない。18%から20%の範囲(境界は含まれる)のAl含有量が有利である。
【0018】
・LiO(2%~2.9%):発明者等は、LiOの含有量を2.9%に制限しつつ(それゆえ、その含有量を実質的に制限しつつ)、上記仕様の要件を満たすガラスセラミックを得ることが可能であることを示した。その含有量は、有利には2.85%以下であり、その含有量は、非常に有利には2.80%以下である。それにもかかわらず、満足な失透およびCTEの特徴を維持するために、2%の最小含有量が必要である。それは、条件:(0.74MgO+0.19BaO+0.29SrO+0.53CaO+0.48NaO+0.32KO)/LiO<0.9を満たすために必要だからである。この条件は、比較例Eに示されている。最小含有量は、有利には2.2%である。それゆえ、2.2%から2.85%の範囲(境界は含まれる)のLiO含有量が好ましい;2.2%から2.80%の範囲(境界は含まれる)のLiO含有量が最も具体的に好ましい。
【0019】
・MgO(0~1.5%)およびZnO(1%~3.2%):発明者等は、LiO(2%から2.9%の範囲で存在する)の部分的代替物として、規定量でZnOおよび必要に応じて、MgOを使用することによって、探し求めてきた結果を得た。
【0020】
・MgO(0~1.5%):この化合物は、必要に応じて、存在する。MgOは、存在する場合、効果的であるためには、一般に、少なくとも0.1%で存在する。この化合物は、前駆体ガラスの高温粘度を減少させる。MgOは、β石英の固溶体の一部を形成する。MgOは、ZnOほど失透に影響を与えない(下記参照)が、ガラスセラミックのCTEを大幅に増加させる(比較例Cに示されるように)。これは、存在する場合、その含有量が1.5%に限定されているからである。MgOは、存在する場合、有利には、0.1%から1.4%の範囲、特に0.1%から1.37%の範囲、より詳しくは0.1%から1.35%の範囲、さらにより詳しくは0.1%から1.3%の範囲で存在する。いずれにせよ、以下の条件を満たす必要がある:(0.74MgO+0.19BaO+0.29SrO+0.53CaO+0.48NaO+0.32KO)/LiO<0.9。
【0021】
・ZnO(1%~3.2%):この化合物も、前駆体ガラスの高温粘度を減少させる働きをし、これも、β石英の固溶体の一部を形成する。LiOと比べて、ZnOは、ガラスセラミックのCTEを増加させるが、中位の程度であり、これにより、25℃と450℃の間で14×10-7/K未満のCTEを有するガラスセラミックを得ることが可能になる。ZnOは、多すぎる量で存在する場合、許容できない失透をもたらす(比較例Dに示されるように)。有利には、ZnOは、1%から3%の範囲で存在する。Pが含まれない場合、ZnOの含有量は、1%から2.5%の範囲にあることが好ましい(上記参照)。
【0022】
・TiO(2%~5%)およびZrO(0~3%):ZrOは、有利には、存在する(しかし、必ずではない)。有効性に関しては、ZrOは、一般に、少なくとも0.1%で存在すべきである。これらの化合物TiOおよびZrOは、前駆体ガラスを核形成させ、透明ガラスセラミックを形成することを可能にする。これら2つの化合物が組み合わされて存在することにより、核形成を最適化することができる。TiOの含有量が多すぎると、透明なガラスセラミックを得ることが難しくなる。TiOは、有利には、2%から4%の範囲(境界は含まれる)に入る含有量で存在し、非常に有利には、2%から3%の範囲(境界は含まれる)に入る含有量で存在する。ZrOの含有量が多すぎると、許容できない失透がもたらされる。ZrOは、有利には、0から1.5%の範囲(境界は含まれる)に入る含有量で存在し、非常に有利には、1%から1.5%の範囲(境界は含まれる)に入る含有量で存在する。
【0023】
・BaO(0~4%)、SrO(0~4%)、CaO(0~2%)、NaO(0~1%)、およびKO(0~1%):これらの化合物は、必要に応じて存在する。それらの各々は、存在する場合、効果的であるためには、一般に、少なくとも1000ppm(0.1%)で存在する。これらの化合物は、ガラスセラミックのガラス相中に留まる。それらの化合物は、前駆体ガラスの高温粘度を低下させ、ZrO(存在する場合)の溶解を促進し、ムライトへの失透を制限するが、ガラスセラミックのCTEを上昇させる。それは、以下の条件を満たす必要があるからである:
(0.74MgO+0.19BaO+0.29SrO+0.53CaO+0.48NaO+0.32KO)/LiO<0.9。
SrOは、一般に、添加される原材料の形態で存在しないことが観察されるであろう。そのような文脈(添加される原材料としてSrOは存在しない)において、SrOが存在する場合、使用される原材料の内の少なくとも1つに関する不純物、または使用されるガラスおよび/またはガラスセラミックのカレット内の不純物として取り込まれた、避けられない微量(<100ppm)としてしか存在しない。
【0024】
・清澄剤:本出願のガラスセラミックの組成物は、有利には、As、Sb、SnO、CeO、塩化物、フッ化物、またはその混合物など、少なくとも1種類の清澄剤を含む。その少なくとも1種類の清澄剤は、有効量(化学的清澄を行うための)で存在し、これは、従来、2質量%を超えない。それゆえ、清澄剤は、一般に、0.05質量%から2質量%の範囲で存在する。好ましい様式において、環境上の理由のために、清澄は、SnO、一般に、0.05質量%から0.6質量%のSnO、より詳しくは、0.15質量%から0.4質量%のSnOを使用することによって、行われる。そのような状況下で、本出願のガラスセラミックの組成物は、AsまたはSbのいずれも含有しない、もしくはそれらの組成物は、これらの毒性化合物の少なくとも一方を避けられない微量(As+Sb<1000ppm)でしか含有しない。これらの化合物の少なくとも一方が微量で存在する場合、それらは汚染物質として存在する;一例として、これは、ガラス化可能な原材料の装填においてカレットタイプ(これらの化合物で精製された古いガラスまたはガラスセラミックに由来する)の再利用材料の存在のためであろう。そのような状況下で、CeO、塩化物、および/またはフッ化物などの少なくとも1種類の他の清澄剤の存在は排除されないが、唯一の清澄剤としてSnOが使用されることが好ましい。有効量の化学的清澄剤がないこと、または実際にどのような化学的清澄剤もないことは、完全には排除されない;ひいては、清澄は、熱的に行うことができることが観察されるはずである。それにもかかわらず、この排除されない変種は、決して好ましくない。
【0025】
・着色剤:このガラスセラミックの組成物は、有利には、少なくとも1種類の着色剤を含む。レンジの上面の文脈において、そのレンジの上面の下に配列された要素を隠すことが適している。その少なくとも1種類の着色剤は、有効量(一般に、少なくとも0.01質量%)で存在する;着色剤は、従来、多くとも2質量%で、または実際に多くとも1質量%で存在する。その少なくとも1種類の着色剤は、従来、遷移元素の酸化物(V、CoO、Cr、Fe(下記参照)、NiO、・・・)および希土類の酸化物(Nd、Er、・・・)から選択される。好ましい様式で、酸化バナジウムVは前駆体ガラスの低吸収(特に、赤外範囲)(溶融にとって有利である)をもたらすので、酸化バナジウムが使用される。それが可能にする吸収は、セラミック処理(その最中に部分的に還元される)中に生じる。Vを、Cr、CoO、またはFe(下記参照)などの他の着色剤と組み合わせることが特に有利である。何故ならば、それにより、透過を調節することが可能になるからである。下記に述べられた要件(典型的に、1mmから8mmの範囲、より一般には2mmから5mmの範囲、および多くの場合4mmの利用厚さのために策定された)に関して:
・10%未満、有利には4%未満、非常に有利には2.1%未満の積分透過率(TL)を有する;
・一方で、透過率を維持する:
+625nm(T625nm)で1%超、それゆえ、LEDが発した赤色光からの光を透過させ、表示目的のためにレンジの上面の下に配置することが可能になる;
+950nm(T950nm)で50%から75%の範囲にある、それゆえ、赤外線電子制御ボタンを使用することができ、これは、この波長で放射および受信を行う;
着色剤の以下の組合せが、有利であることが分かった(全組成物の質量%):
0.025%~0.200%
Fe 0.0095%~0.3200%
Cr 0.01%~0.04%
着色剤の中でも、Feは特別な位置を占める。Feは、色に効果があり、実際に、多くの場合、不純物(例えば、原材料に由来する)として多くか少ない量で存在する。それにもかかわらず、Feは、色を調節するために、添加されることもある。本出願のガラスセラミックの組成物中に「多量の」承認された存在のために、それほど純粋ではなく、それゆえ、多くの場合、高価ではない原材料を使用することが可能になる。
【0026】
ガラスセラミックのCTEに本質的に関連する、満たす必要のある条件:比(0.74MgO+0.19BaO+0.29SrO+0.53CaO+0.48NaO+0.32KO)/LiO<0.9に関して、分子の合計における化合物は、1モルのLiOに減じられた分母に対するモル質量の関数として重み付けられていることが理解されよう。その比(0.74MgO+0.19BaO+0.29SrO+0.53CaO+0.48NaO+0.32KO)/LiOが0.7未満であることが実際に有利である((0.74MgO+0.19BaO+0.29SrO+0.53CaO+0.48NaO+0.32KO)/LiO<0.7)。適うであろう目的のために、ここで、酸化物の含有量は、質量パーセントで与えられていることを思い起こされたい。
【0027】
本出願のガラスセラミックの組成物中に含まれる、または潜在的に含まれる先に特定された成分(SiO、P、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrO、BaO、SrO、CaO、NaO、KO、清澄剤、および着色剤)は、実際に、本出願のガラスセラミックの組成物の100質量%を表し得るが、演繹的に、少なくとも1種類の他の化合物の存在が、完全に排除されるべきではない、但し、それは、少量(一般に、3質量%以下)であり、このガラスセラミックの性質に実質的に影響しない。詳しくは、以下の化合物が、3質量%以下の全含有量で、存在することがあり、それらの各々は、2質量%以下の含有量で存在する:B、Nb、Ta、WO、およびMoO。Bに関して、それゆえ、これは、潜在的に存在する(0~2%)。Bは、存在する場合、効果的であるためには、より詳しくは、前駆体ガラスの溶融性を改善するためには、一般に、少なくとも0.5%で存在する。Bは、より一般に、0.5%から1.5%で存在する。それにもかかわらず、Bは、実際には、添加される原材料としてめったに存在せず、これは、微量(0.1%未満の含有量で)の状態でしか存在しない。詳しくは、Bは、β-スポジュメンへのセラミック化および拡散(またはヘイズ)の出現を支持する。それゆえ、本出願のガラスセラミックの組成物は、避けられない微量を除いて、Bが含まれないことが有利である。
【0028】
それゆえ、本出願のガラスセラミックの組成物中に含まれる、または潜在的に含まれる先に特定された成分(SiO、P、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrO、BaO、SrO、CaO、NaO、KO、清澄剤、および着色剤)は、本出願のガラスセラミックの組成物の少なくとも97質量%、または実際に98質量%、または少なくとも99質量%、またさらには100質量%(上記参照)を占める。
【0029】
それゆえ、本出願のガラスセラミックは、β石英の固溶体のための必須成分として、SiO、Al、LiO、ZnO、およびMgOを含有する(下記参照)。このβ石英の固溶体は、主結晶相を表す。このβ石英の固溶体は、一般に、全結晶化分の80質量%超を表す。この固溶体は、全結晶化分の90質量%超を表す。結晶のサイズは小さく(典型的に、70nm未満)、これにより、ガラスセラミックが透明であることができる(積分透過率≧1%および拡散<2%)。
【0030】
本出願のガラスセラミックは、約10質量%から約40質量%の残留ガラスを含有する。
【0031】
それゆえ、本出願のガラスセラミックは、25℃と450℃の間で、±14×10-7/Kの範囲、有利には、±10×10-7/Kの範囲にある熱膨張係数、および有利には、25℃と700℃の間で、±14×10-7/Kの範囲にある熱膨張係数を有する(上記参照)。
【0032】
第2の態様において、本出願は、先に記載されたような本出願のガラスセラミックから少なくとも一部が構成された物品を提供する。その物品は、必要に応じて、本出願のガラスセラミックから完全に構成されている。その物品は、有利には、レンジの上面にあり、これは、先験的にバルク着色されている(上記参照)。それにもかかわらず、それは、その物品を使用できる唯一の用途ではない。具体的に、それらは、着色されているか否かにかかわらず、調理器具、電子レンズの底部、オーブンの扉を構成する材料を構成することがある。本出願のガラスセラミックは、そのCTEに適合する文脈において、局所的に使用されることが当然、理解されよう。それゆえ、本発明によるレンジの上面は、従来の誘電加熱素子に使用するのに強く(適合され)推奨される。
【0033】
第3の態様において、本出願は、先に記載されたような、本出願のガラスセラミックの前駆体であるアルミノケイ酸塩ガラスを提供する。特徴的な様式で、そのガラスは、前記ガラスセラミックを得ることを可能にする組成物を表す。そのガラスは、一般に、そのガラスセラミックの組成物に対応する組成物を表すが、ガラスセラミックを得るためのそのようなガラスに適用される熱処理は、その材料の組成物にある程度の影響がありそうであることが当業者に容易に理解されるであろうから、その対応は、必ずしも、完全ではない。本出願のガラスは、原材料(それらを構成する原材料は、適切な比率で存在している)のガラス化可能な装填物を溶融することによって、従来の様式で得られる。それにもかかわらず、問題の争点物は、ガラスおよび/またはガラスセラミックのカレットを含有してもよいことが理解できる(当業者を驚かすことではない)。そのガラスは:
・それらは、特に、圧延法、フロート法、および加圧成形を含む成形方法の使用に適合する、有利な失透特性を示す。そのガラスは、低い液相温度(<1400℃)および液相温度での高い粘度(>400Pa・s、好ましくは、>700Pa・s)を示す;および/または、有利には、
・それらは、低い高温粘度(T30Pa・s≦1640℃、有利には、≦1630℃)を示す;
という点で特に有利である。
【0034】
短期間(<3時間)、好ましくは非常に短期間(<1時間)のセラミック化(結晶化)熱サイクルを使用することによって、本出願のガラスセラミックを得る(前駆体ガラスから)ことができること、およびその前駆体ガラスの抵抗率は低い(30Pa・sの粘度での、50Ω・cm未満、好ましくは20Ω・cm未満の抵抗率)ことも観察されるはずである。
【0035】
液相温度が低いこと、その液相温度での粘度が高いこと、および高温での粘度が低いこと(下記参照)が特に強調される。
【0036】
最後の態様において、本出願は、先に記載されたような、本出願のガラスセラミックにより少なくとも一部が構成された物品を調製する方法を提供する。
【0037】
その方法は、類推による方法である。
【0038】
従来の様式において、その方法は、連続した溶融および清澄を確実にする条件下でガラス化可能な原材料の装填物(そのようなガラス化可能な装填物は、ガラスおよび/またはガラスセラミックのカレットを含有してもよいと理解される(上記参照))の熱処理、その後の、清澄され溶融された前駆体ガラスの成形(その成形は、ことによると、圧延法、加圧成形、またはフロート法により行われる)、その後の成形された清澄され溶融された前駆体ガラスのセラミック化(または結晶化)熱処理を含む。
【0039】
下記の表Iは、前駆体ガラスおよび対応するガラスセラミックの組成物中に存在する所望の酸化物の各々を有するようにガラス化可能な原材料の装填物中に通常使用される原材料を規定している。このリストは、決して包括的ではない。
【0040】
【表1】
【0041】
使用される原材料の各々は、ガラス化可能な混合物(装填物)を構成する異なる原材料の量の計算において考慮される不純物をもたらす可能性がある。例えば、スポジュメンは、その供給源に応じて、可変の含有量のLiO、SiOおよびAl、並びにNaO、KO、FeおよびPなどの不純物を含有する。LiOは、通常、以下の原材料:スポジュメン、葉長石、炭酸リチウム、リチウム長石、またはその混合物の内の少なくとも1つによりもたらされる。好ましい様式において、LiOは、スポジュメンのみによってもたらされる(これは、以下の実施例および比較例(表IIIおよびIVを参照のこと)の場合である)。
【0042】
清澄は、通常、1600℃より高い温度で行われる。
【0043】
セラミック化熱処理は、一般に、二工程を含む:核形成工程およびβ石英固溶体の結晶を成長させる別の工程。核形成は、一般に、650℃から830℃の温度範囲で行われ、結晶成長は、850℃から950℃の温度範囲で行われる。これらの工程の各々の期間に関して、完全に非限定様式で、核形成には約5分から60分、結晶成長には約5分から30分と言及されることがある。当業者には、より具体的に、前駆体ガラスの組成の関数として、所望の透明性、これらの二工程の温度と期間に関して、どのように最適化するかが公知である。
【0044】
それゆえ、本出願のガラスセラミックから少なくとも一部が構成された物品を調製する方法は、連続して:
・ガラス化可能な原材料の装填物を溶融し、その後、得られた溶融ガラスを清澄する工程;
・得られた清澄された溶融ガラスを冷却すると同時に、それを、目的の物品に所望の形状に成形する工程;および
・その成形されたガラスにセラミック化熱処理を施す工程;
を有してなる。
【0045】
成形された清澄ガラス(ガラスセラミックの前駆体)を得て、その成形された清澄ガラスをセラミック化する2つの連続工程は、直ちに次々と行われても、またはそれらは、時間が空けられていてもよい(1つの場所で、または異なる場所で)。
【0046】
特徴的な様式で、ガラス化可能な原材料の装填物は、本出願のガラスセラミックを得ることを可能にする組成物を有し、それゆえ、先に規定されたような、質量の組成物を表す(有利には、清澄剤としてSnOを含み(AsおよびSbの不在下で(上記参照))、非常に有利には、単一の清澄剤としてSnOを含む(一般に、0.05質量%から0.6質量%のSnO、より詳しくは、0.15質量%から0.4質量%のSnO))。そのような装填物から得られたガラスに行われるセラミック化は、完全に従来のものである。そのセラミック化は、短期間(<3時間)、または実際に非常に短期間(<1時間)で得られるであろうことが先に述べられている。
【0047】
レンジの上面などの物品を調製する文脈において、前駆体ガラスが圧延法またはフロート法により得られた場合、その物品は、セラミック化処理(セラミック化サイクル)の前に切断されている。その物品は、一般に、成形され、装飾もされている。そのような成形および装飾工程は、セラミック化処理の前または後に行われてもよい。一例として、装飾は、スクリーン印刷によって行われることがある。
【0048】
本出願は、以下の実施例および比較例によって下記に説明されている。下記の実施例は、研究所の実験のみを記載しているが、与えられたガラスおよびガラスセラミックの特徴は、これらの材料が工業規模で製造できることを示している。
【実施例
【0049】
・1キログラム(kg)の前駆体ガラスのバッチを製造するために、下記の表(表IIIおよび表IV、その表IIIおよびIVは数頁に亘る)の第1の部分に規定された比率(酸化物の質量パーセントで表された比率)の原材料を注意深く一緒に混合した。
【0050】
以下の表III(説明のために用いられる)の実施例2、13および23の前駆体ガラスの各々の1kgを得るために使用された原材料混合物が、以下に、表IIに規定されており、そのガラスは、表IIIに示された組成(質量パーセントで表されている)を有する。各材料の質量は、グラム(g)で表されている。
【0051】
【表2】
【0052】
混合物を、白金から製造された坩堝内に溶融のために入れた。次いで、その混合物を収容する坩堝を、1550℃に予熱された炉に入れた。その炉をMoSi電極で加熱した。その坩堝は、その中で、以下のタイプの溶融サイクルに施された:
- 30分に亘り1550℃で保持;
- 1時間で1550℃から1650℃に昇温;および
- 5時間30分に亘り1650℃に保持。
【0053】
次いで、坩堝を炉から取り出し、溶融ガラスを、予熱した鋼板上に注いだ。それを、6mmの厚さを有するように圧延した。このようにして、ガラスプレートを得た。それらを1時間に亘り650℃で徐冷し、その後、ゆっくりと冷却した。
【0054】
・得られたガラスの性質が、下記の表の第2の部分に与えられている。
【0055】
粘度は、回転式粘度計(Gero)を使用して測定した。
【0056】
30Pa・s(℃)は、ガラスの粘度が30Pa・sである温度に相当する。
【0057】
liq(℃)は液相温度である。液相温度は、ある範囲の温度および関連する粘度により与えられる:最高温度は、結晶が観察されない最低温度に相当し、最低温度は、結晶が観察された最高温度に相当する。実験は、約0.5立方センチメートル(cm)の前駆体ガラス体積について行われ、これを、試験の温度で17時間に亘り保持し、光学顕微鏡により観察した。観察された結晶の相が、下記の表に与えられている。
【0058】
ガラスの抵抗率は、粘度を測定しながら測定した。その表は、粘度が30Pa・sである温度で測定された抵抗率を与えている。
【0059】
・静止炉(周囲空気の雰囲気中の)内で行ったセラミック化サイクルが、下記に述べられている:
- 500℃まで急激に昇温;
- 23℃/分の速度で500℃から650℃に昇温;
- 6.7℃/分の速度で650℃から820℃に昇温;
- 15℃/分の速度で820℃から920℃に昇温;
- 7分間に亘りこの温度Tmax(=920℃)で保持;
- 35℃/分で850℃まで冷却;
- 炉の慣性の関数として周囲温度まで冷却。
【0060】
・得られたガラスセラミックの性質が、下記の表の最後の部分に与えられている。
【0061】
これらのガラスセラミックは、主結晶相としてβ石英の固溶体を含有する(X線回折により確認されている)。
【0062】
熱膨張係数(CTE)(25℃から450℃=CTE(25~450℃)および25℃から700℃=CTE(25~700℃))は、棒形状のガラスセラミック試料について、3℃/分の速度で加熱する、高温膨張計(DIL 420C、Netzsch)を使用して測定した。
【0063】
厚さ4mmの研磨試料について、積分球を備えたVarian分光光度計(モデルCary 500 Scan)を使用して、全および拡散透過率測定を行った。これらの測定に基づいて、基準ASTM D 1003-13(D65光源および2°の観察者)を使用して、可視範囲(380nmから780nm)における積分透過率(Y(%))およびヘイズのレベル(拡散(%))を計算した。レンジの上面の下に配列された誘導加熱素子および他の技術的構成要素を隠すために、10%未満のY値が推奨される。レンジの上面の下に一般に配列されるLEDが発する赤色光の良好な視認性を確実にするために、2%未満のヘイズレベルが推奨される。透過率値(625nm(T625nm)および950nm(T950nm))も、表に規定されている。
【0064】
・実施例1から26(表IIIにおいて:IIIAからIIIG)は、本出願を例証している。
【0065】
実施例1から4は、前駆体ガラスの特に有利な性質のために、好ましい:高温粘度(T30Pa・s<1630℃)および液相粘度(>700Pa・s)に与えられた値を参照のこと。
【0066】
実施例4および11は、前駆体ガラスの組成中に存在するPを有する利点を示す。この存在は、液相温度の低下(約-15℃)をもたらし、結果として、液相温度での粘度の増加(+200Pa・s)をもたらす。
【0067】
実施例5から15の前駆体ガラスは、高温(<1630℃)での粘度の好ましい値を表す。
【0068】
実施例16から20の前駆体ガラスは、液相温度での粘度の好ましい値(>700Pa・s)を表す。
【0069】
実施例24から26は、BaOを補うSrOの使用を示す。
【0070】
実施例AからE(表IVAおよびIVB)は、比較例である。
【0071】
比較例Aにおいて、SiOの含有量は多い(67.88%)。その高温粘度は高すぎる。その前駆体ガラスの溶融および清澄を管理することは、特に難しいであろう。
【0072】
比較例Bにおいて、SiOおよびBaOの含有量は多い(それぞれ、67.74%および4.25%)。その高温粘度は高すぎる。その前駆体ガラスの溶融および清澄を管理することは、難しいであろう。
【0073】
比較例Cにおいて、MgOの含有量は多すぎ(1.74%)、比(0.74MgO+0.19BaO+0.29SrO+0.53CaO+0.48NaO+0.32KO)/LiOは、0.90より大きい。その結果、そのガラスセラミックのCTEは高すぎる。したがって、そのガラスセラミックは、(従来の)誘導加熱素子に使用すべきレンジの上面を製造するための材料に適していない。
【0074】
比較例Dにおいて、ZnOの含有量は多すぎる。その結果、前駆体ガラスの液相温度での粘度は低すぎる。
【0075】
比較例Eにおいて、比(0.74MgO+0.19BaO+0.29SrO+0.53CaO+0.48NaO+0.32KO)/LiOは、0.90より大きい。結果として、そのガラスセラミックのCTEは高すぎる。
【0076】
【表3A】
【0077】
【表3B】
【0078】
【表3C】
【0079】
【表3D】
【0080】
【表3E】
【0081】
【表3F】
【0082】
【表3G】
【0083】
【表4A】
【0084】
【表4B】
【0085】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0086】
実施形態1
主結晶相としてβ石英の固溶体を含有する、リチウムアルミノケイ酸塩タイプの透明ガラスセラミックであって、その組成が、酸化物の質量パーセントで表して:
・63%から67.5%のSiO
・18%から21%のAl
・2%から2.9%のLiO、
・0から1.5%のMgO、
・1%から3.2%のZnO、
・0から4%のBaO、
・0から4%のSrO、
・0から2%のCaO、
・2%から5%のTiO
・0から3%のZrO
・0から1%のNaO、
・0から1%のKO、
・0から5%のP
(0.74MgO+0.19BaO+0.29SrO+0.53CaO+0.48NaO+0.32KO)/LiO<0.9、
・必要に応じて、2%までの少なくとも1種類の清澄剤、および
・必要に応じて、2%までの少なくとも1種類の着色剤
を含む、ガラスセラミック。
【0087】
実施形態2
前記組成が、2.85%以下、または2.20%以上、最も有利には2.20%から2.85%の含有量でLiOを含む、実施形態1に記載のガラスセラミック。
【0088】
実施形態3
前記組成が、1%から3%のZnOを含む、実施形態1または2に記載のガラスセラミック。
【0089】
実施形態4
前記組成が、少なくとも0.5%のPを、有利には1%から3%のPを含む、実施形態1から3のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0090】
実施形態5
避けられない微量を除いて、前記組成が、少しもPを含有せず、1%から2.5%のZnOを含む、実施形態1から3のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0091】
実施形態6
避けられない微量を除いて、前記組成が、少しもBを含まない、実施形態1から5のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0092】
実施形態7
前記組成が、避けられない微量を除いて、Asおよび/またはSbを含まず、清澄剤として、SnOを、有利には、0.05%から0.6%のSnOを、最も有利には0.15%から0.4%のSnOを含む、実施形態1から6のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0093】
実施形態8
前記組成が、着色剤として、単独で、またはCoO、Cr、およびFeから選択される少なくとも1種類の他の着色剤と混合されて、Vを含有する、実施形態1から7のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0094】
実施形態9
25℃と450℃の間で±14×10-7/Kの範囲にある熱膨張係数、および有利には、25℃と700℃の間で±14×10-7/Kの範囲にある熱膨張係数を有する、実施形態1から8のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0095】
実施形態10
特にレンジの上面からなる、実施形態1から9のいずれか1つに記載のガラスセラミックから、少なくとも部分的に、構成された物品。
【0096】
実施形態11
実施形態1から9のいずれか1つに記載のガラスセラミックを得ることを可能にする組成の、実施形態1から9のいずれか1つに記載のガラスセラミックの前駆体である、リチウムアルミノケイ酸塩ガラス。
【0097】
実施形態12
1400℃未満の液相温度および400Pa・s超の液相温度での粘度、および/または有利には、高くとも1640℃の温度での30Pa・sの粘度(T30Pa・s≦1640℃)を有する、実施形態11に記載のガラス。
【0098】
実施形態13
実施形態10に記載の物品を調製する方法であって、
- 原材料のガラス化可能な装填物を溶融し、その後、得られた溶融ガラスを清澄する工程、
- 得られた清澄された溶融ガラスを冷却すると同時に、該ガラスを目的の物品に所望の形状に成形する工程、および
- その成形されたガラスにセラミック化熱処理を施す工程、
を連続して有してなり、
前記装填物が、実施形態1から8のいずれか1つに記載された、質量による組成を有するガラスセラミックを得ることを可能にする組成を有する、方法。
【0099】
実施形態14
避けられない微量を除いて、Asおよび/またはSbを含まない、前記原材料のガラス化可能な装填物が、清澄剤として、SnOを、有利には、0.05%から0.6%のSnOを含有する、実施形態13に記載の方法。