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特許7458393ミクロフィブリル化セルロースを含むウェブを脱水するための方法、および脱水ウェブから製造されたフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】ミクロフィブリル化セルロースを含むウェブを脱水するための方法、および脱水ウェブから製造されたフィルム
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20240322BHJP
   D21F 3/00 20060101ALI20240322BHJP
   D21F 7/08 20060101ALI20240322BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
D21H11/18
D21F3/00
D21F7/08 Z
C08J5/18 CEP
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021524358
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 IB2019059598
(87)【国際公開番号】W WO2020095254
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】1851394-5
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘイスカネン、イスト
(72)【発明者】
【氏名】カンクッネン、ユッカ
(72)【発明者】
【氏名】ピーコ、リク
(72)【発明者】
【氏名】クンナリ、ヴェサ
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/221137(WO,A1)
【文献】特表2015-519488(JP,A)
【文献】特表2019-529733(JP,A)
【文献】特表2016-511772(JP,A)
【文献】国際公開第2013/073652(WO,A1)
【文献】特開2018-059236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロフィブリル化セルロースを含むウェブを脱水するための方法であって、
この方法は、以下のステップ:
- 総乾燥重量に基づいて50重量%~100重量%のミクロフィブリル化セルロースを含む懸濁液を提供するステップ、
- 支持体上に前記懸濁液の繊維状ウェブを形成するステップであって、この繊維状ウェブが1~25重量%の乾燥含量を有するステップ、
脱水フェルトが前記繊維状ウェブに直接接触し、前記繊維状ウェブが前記脱水フェルトと前記支持体との間に配置されるように、前記繊維状ウェブに前記脱水フェルトを適用するステップ、
- プレス装置を通して、前記脱水フェルトが適用された前記繊維状ウェブを誘導するステップ、および
- 脱水ウェブを乾燥させて、良好なバリア特性を有するフィルムを形成するステップ
を含む方法。
【請求項2】
プレス装置が延長ニップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プレス装置がベルトプレスである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
繊維状ウェブが、ベルトプレスにおいて、ベルトプレスのロールの直径の少なくとも20%の距離にわたって処理される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
脱水フェルトが、プレス装置を通して誘導される前の少なくとも20cmにて繊維状ウェブに適用される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
プレス装置で使用される圧力が1~100バールの間である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
プレス装置で使用される圧力が徐々に増大される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
支持体が金属支持体である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ウェブが金属支持体に適用される前に、金属支持体が30~150℃の温度に加熱される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
繊維状ウェブがキャストコーティングによって形成される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
支持体が多孔質ワイヤーである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
プレス装置にて脱水した後に、繊維状ウェブが15~50重量%の乾燥含量を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
懸濁液のミクロフィブリル化セルロースが90を超えるショッパー・リーグラー(SR)値を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ウェブが少なくとも50m/分の速度でプレス装置を通して誘導される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
脱水フェルトが接触するように適用される前に繊維状ウェブが加熱される、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロフィブリル化セルロースを含む繊維状ウェブを脱水するための方法、および脱水されたウェブから製造されたミクロフィブリル化セルロースを含むフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含むフィルムは、良好な強度および酸素バリア特性を備えていることが知られている。これは、例えば、Syverudの“Strength and barrier properties of MFC films”「MFCフィルムの強度およびバリア特性」(Cellulose 2009 16:75-85)で説明されており、ここでは、15~30gsmの坪量のMFCフィルムが製造され、強度およびバリア特性が調査された。
【0003】
MFCフィルムの製造中、ミクロフィブリル化セルロースの特徴的な特性により、高速でフィルムを脱水して製造することは容易ではない。MFCフィルムを例えばバリアとして使用する場合、バリア特性に悪影響を与えるであろうピンホールやその他の欠陥がフィルムに全くないことが非常に重要である。したがって、MFCフィルムの表面が平滑であることが重要である。
【0004】
湿式(ウェットレイド)技法は、MFCフィルムの製造のために、すなわち、ワイヤー上にて前記MFCを含む完成紙料(furnish:ファーニッシュ)を脱水するために使用することができる。しかし、湿式技法によって良好なバリア特性を備えたMFCフィルムを高速で製造することは困難である。フィルムのバリア特性および光学特性に悪影響を与えるワイヤーの傷痕を生じやすい。さらに、ワイヤーを使用する場合、完成紙料に存在する小さいフィブリルを良好に保持することは困難である。
【0005】
フィルムキャスティング法、すなわちプラスチックまたは金属表面にフィルムをキャスティングし、次にフィルムをゆっくりと乾燥させることによって、平滑なMFCフィルムを作成することも可能である。キャスティング法は、良好なバリア特性を備え、非常に平滑な表面を有するMFCフィルムを製造することを示している。しかし、この方法は遅すぎて、商業規模での生産には非効率的である。
【0006】
したがって、ミクロフィブリル化セルロースを含む懸濁液を脱水し、高い製造速度で良好なバリア特性を有するMFCフィルムを製造するための新しい方法が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ミクロフィブリル化セルロースを含むフィルムを、フィルムのバリア特性に悪影響を与えることなく効率的に脱水および製造する方法であって、さらに従来技術の方法の不都合の少なくとも一部を取り除きまたは軽減する方法を提供することが、本発明の一つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、添付の独立請求項によって定義される。実施形態は、添付の従属請求項および以下の発明の詳細な説明に記載されている。
【0009】
本発明は、ミクロフィブリル化セルロースを含むウェブを脱水するための方法であって、総乾燥重量に基づいて50重量%から100重量%のミクロフィブリル化セルロースを含む懸濁液を提供するステップ、支持体上に前記懸濁液の繊維状ウェブを形成するステップであって、この繊維状ウェブが1~25重量%の乾燥含量を有するステップ、前記繊維状ウェブに直接接触するように脱水フェルトを適用するステップ、プレス装置を通して、前記脱水フェルトと前記支持体との間に配置されるように前記繊維状ウェブを誘導するステップ、および脱水ウェブを乾燥させて、良好なバリア特性を有するフィルムを形成するステップを含む方法に関する。プレス装置を通して繊維状ウェブを誘導する前に、ウェブと接触するように脱水フェルトを適用することによって、大量のミクロフィブリル化セルロースを含むウェブを脱水することが可能であることが見出された。このようにして、効率的な方法でウェブを脱水することが可能であり、その結果、製造されたフィルムが良好なバリア特性を有すると同時に、脱水速度を上げることができる。
【0010】
プレス装置は、好ましくは延長ニップを含む。プレス装置は、好ましくはベルトプレスである。繊維状ウェブは、好ましくは、ベルトプレスにおいて、ベルトプレスのロールの直径の少なくとも20%の距離にわたって処理される。延長ニップ、好ましくはベルトプレスを使用することにより、改善された方法でウェブを脱水することが可能であり、したがって脱水プロセスの生産速度を上げることができることが見出された。
【0011】
脱水フェルトは、好ましくは、プレス装置を通して誘導される前の少なくとも20cmにて繊維状ウェブに適用される。プレス装置を通して誘導される前に少なくとも20cmの距離を開けて、繊維状ウェブと直接接するように脱水フェルトを適用することによって、ウェブの脱水が改善することが示された。プレス装置で使用される圧力を増大させ、脱水プロセスの速度を上げることが可能になった。
【0012】
プレス装置で使用される圧力は、好ましくは1~100バールの間、好ましくは2~70バールの間、またはさらにより好ましくは5~50バールの間である。プレス装置で使用される圧力は、プレス装置での処理中に徐々に増加させることが好ましい。プレス装置内の圧力を徐々にまたは段階的に増加させることにより、ウェブの脱水が改善される、すなわち、バリア特性を損なうことなく、より高い乾燥含量のウェブを製造することができる。
【0013】
支持体は、好ましくは金属支持体である。金属支持体は、ウェブが支持体に適用される前に、好ましくは30~150℃の間の温度に加熱される。繊維状ウェブは、好ましくはキャストコーティングによって形成される。
【0014】
支持体はまた、多孔質ワイヤーであり得る。したがって、紙または板紙の製造機械(抄紙機)にてワイヤーを使用することが可能である。
【0015】
繊維状ウェブは、好ましくは、プレス装置で脱水した後、15~50重量%の乾燥含量を有する。
【0016】
懸濁液のミクロフィブリル化セルロースは、好ましくは、90を超えるショッパー・リーグラー(SR)値を有する。
【0017】
ウェブは、好ましくは少なくとも50m/分の速度でプレス装置を通して誘導される。したがって、ウェブを非常に高速で脱水し、それでも高い乾燥含量のウェブを製造することが可能であり、それをさらに乾燥させて、非常に良好なバリア特性を有するフィルムを製造することができる。
【0018】
この方法は、好ましくは、脱水されたウェブを乾燥させてフィルムを形成するステップをさらに含む。脱水されたウェブは、好ましくは、任意の既知の方法によってさらに乾燥されて、良好なバリア特性を有するフィルムが生成される。
【0019】
繊維状ウェブは、好ましくは、脱水フェルトが接触するように適用される前に加熱される。このようにして、繊維状ウェブの温度および固形分が増大し、それによって繊維状ウェブのその後の脱水がさらに改善される。
【0020】
上記の方法に従って製造されたフィルムは、好ましくは、40gsm未満、好ましくは30gsm未満の坪量、および700kg/cmを超える密度を有する。フィルムは、400cc/m/24時間未満のASTM D-3985に従って測定された酸素透過率(OTR)値(23℃、50%RH(相対湿度))を有することが好ましい。その結果、本発明により、良好な酸素バリア特性を有する大量のMFCを含む薄い高密度フィルムを製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
驚くべきことに、ウェブに直接接触するように脱水フェルトを適用し、続いてウェブをプレス装置に導くことにより、改善された方法でMFCを含むウェブを脱水することが可能であることが見出された。脱水フェルトは、繊維状ウェブと直接接触するように適用され、そして、この繊維状ウェブは、前記脱水フェルトと前記支持体との間に配置されるようにプレス装置を通して誘導される。本発明による方法によって、良好かつ非常に効率的な方法でウェブを脱水することが可能であり、それでも、良好なバリア特性を有する脱水された繊維状ウェブからフィルムを製造することができる。驚くべきことに、脱水フェルトを使用した後、プレス装置で処理することにより、ウェブまたは製造されたフィルムのバリア特性を低下させることなく、大量のMFCを含む繊維状ウェブを高い製造速度で脱水することが可能であることが見出された。大量のMFCを含むウェブの脱水は、良好なバリア特性を備えたフィルムを製造するため、つまり、製品のバリア特性に影響を与えるピンホールまたはその他の不規則性の量が抑制された製品を製造するための最も困難なプロセスステップの1つである。その結果、劣ったバリア特性を回避するための良好な方法で脱水を行うことが重要である。したがって、バリア特性を低下させることなく、大量のミクロフィブリル化セルロースを含むウェブを脱水するステップの製造速度を増大させ得ることは、非常に困難であった。
【0022】
懸濁液は、総乾燥重量に基づいて50重量%~100重量%の間、好ましくは70重量%~100重量%の間のミクロフィブリル化セルロースを含む。したがって、脱水された繊維状ウェブから製造されたフィルムは、大量のMFC、好ましくは70~100重量%のMFCを含むが、これは、最終的なコーティング層が付加される前のフィルム自体の中のMFCの量に関する。
【0023】
脱水フェルトとは、水を吸収することによって、またはフェルトを通して水を除去することによって、ウェブから水を除去することを可能にする浸透性のフェルトを意味する。脱水フェルトは、今日、紙や板紙のウェブの脱水によく使用されている。既知の脱水フェルトのいずれも使用され得る。
【0024】
複数の脱水フェルト、好ましくは2つの脱水フェルトを使用することが好ましい場合がある。微粉がフェルトを透過するのを防ぐ、低坪量および低透水性の第1の脱水フェルトと、高い吸水特性を有する第2の脱水フェルトとを使用することが好ましい。
【0025】
脱水フェルトは、プレス装置を通して誘導される前の少なくとも20cmにて、繊維状ウェブに、すなわち繊維状ウェブに直接接触するように適用されることが好ましい。繊維状ウェブがプレス装置を通して誘導される前の20cm~5メートルの間の距離にて、さらにより好ましくは繊維状ウェブがプレス装置を通して誘導される前の50cm~3メートルの間の距離にて、脱水フェルトを繊維状ウェブに適用することが好ましい。プレス装置を通して誘導される前に繊維状ウェブに適用されるとき、フェルト上に外圧が使用されないことが好ましい。支持体、繊維状ウェブ、および脱水フェルトをロールに巻き付けて、このようにして小さい脱水圧力を作り出すことが可能かもしれないが、ニップロール(単数または複数)を使用して過度に高い圧力を用いない、または全く圧力を用いないことが重要である。驚くべきことに、プレス装置における脱水負荷を増大させる前のある距離にて脱水フェルトの使用を組み合わせることによって、ミクロフィブリル化セルロースのフィブリルが脱水フェルト内に移動してフェルトの目詰まりを引き起こすことなく、ウェブを脱水することが可能であることが見出された。
【0026】
1つまたは複数のフェルトは、好ましくは、プレス装置を通して誘導された後、洗浄および脱水され、そして脱水されたウェブから分離される。
【0027】
プレス装置とはニップを形成する装置を意味し、ニップを通して繊維状ウェブが誘導され、次いでプレスおよび脱水される。プレス装置は、好ましくは延長ニップを含み、プレス装置はベルトプレスであることが好ましい。ベルトプレスは金属ベルトおよびロールを含み、ウェブの脱水は金属ベルトとロールとの間にウェブを適用することによって行われる。ベルトプレスのロール直径の少なくとも20%の距離の間、ベルトプレス内で繊維状ウェブを処理することによって、ニップの長さを増大させることが好ましい場合がある。繊維状ウェブの脱水のニップ長さを増大させ、それでもウェブから製造されたフィルムのバリア特性を低下させることなく脱水速度を増加させることが可能であることが見出された。プレス装置は、複数のニップを含み得る。
【0028】
プレス装置で使用される圧力は、好ましくは1~100バール、好ましくは2~70バール、好ましくは5~50バール、好ましくは5~30バール、さらにより好ましくは5~20バール、さらにより好ましくは10~20バールである。プレス装置内の圧力を徐々に上げることが好ましい場合がある。プレス装置の最初に5~10バールの圧力を使用し、徐々に圧力を10~15バールに上げ、その後、任意選択でさらに圧力を20~25バールに上げ、任意選択で圧力を30~40バールに上げ、続いて任意選択で圧力を50~70バールに上げることが好ましい。圧力の増大は、同じ圧力ニップで、例えば拡張ニップで行うことができ、またはプレス装置は複数のニップを含む場合がある。
【0029】
形成された繊維状ウェブは、繊維状ウェブがプレス装置を通して誘導される支持体に適用される。均質な繊維状ウェブが形成されるように懸濁液を支持体に適用することが重要であり、これは、繊維状ウェブが可能な限り均一であり、可能な限り均一な厚みであるべきであることなどを意味する。
【0030】
繊維状ウェブは、好ましくは、懸濁液をポリマーまたは金属支持体にキャストコーティングすることによって形成される。驚くべきことに、本発明による脱水方法によって、支持体上のキャストコーティングされた懸濁液の脱水を増加させることが可能であることが見出された。その結果、本発明は、キャストコーティングを使用することにより、平滑で良好なバリア特性のフィルムを高速で製造することを可能にする。支持体は、好ましくは金属支持体であり、すなわち、支持体は金属から形成されている。金属支持体は、ウェブが支持体に適用される前に、好ましくは、30℃を超える温度、好ましくは30~150℃、好ましくは45~150℃、さらにより好ましくは60~100℃の温度に加熱される。ベルトの温度を上げることにより、したがって適用されたウェブ上で温度を上げることにより、プレス装置におけるウェブの脱水の効率をさらに高めることが可能であることが見出された。
【0031】
支持体は、多孔質ワイヤー、好ましくは、紙または板紙の製造機械のワイヤーであり得る。したがって、この方法を紙または板紙の製造機械のウェットエンドにて適用することが可能である。紙または板紙の製造機械とは、紙、板紙、ティッシュまたはいずれかの同様の製品を製造するために使用される当業者に知られているあらゆる種類の製紙機(抄紙機)を意味する。
【0032】
支持体は、紙または板紙製品であってもよい。本発明によって、本発明に従うミクロフィブリル化セルロースを含む層を適用することにより、多層の紙または板紙製品を製造することが可能である。
【0033】
プレス装置で脱水した後の繊維状ウェブの乾燥含量は、好ましくは15~50重量%の間である。
【0034】
懸濁液のミクロフィブリル化セルロースは、好ましくは、90を超える、好ましくは95を超えるショッパー・リーグラー(SR)値を有する。その結果、懸濁液は、通常脱水が非常に難しい微細なグレードのMFC品質を含む。
【0035】
ウェブは、好ましくは、少なくとも50m/分、好ましくは100m/分を超え、さらにより好ましくは200m/分を超える速度でプレス装置を通して誘導される。本発明により、大量のMFCを含む繊維状ウェブを脱水するための生産速度を上げることが可能であることが見出された。その結果、脱水はしばしば良好なバリア特性を有するMFCフィルムの製造にとって最も困難なプロセスステップであるため、フィルム全体の製造速度も改善することができ、コスト効率がはるかに高い方法でMFCフィルムを製造することが可能になる。
【0036】
繊維状ウェブは、好ましくは、脱水フェルトが接触して適用される前に加熱される。このようにして、繊維状ウェブの温度および固形分が増加し、繊維状ウェブのその後の脱水がさらに改善される。任意の既知の方法を使用して、増大した熱を与えることができる。繊維状ウェブは、好ましくは40℃超、好ましくは50~95℃の温度に加熱される。
【0037】
本発明はさらにフィルムを製造する方法に関し、この方法は、総乾燥重量に基づいて50重量%~100重量%のミクロフィブリル化セルロース、好ましくは70重量%~100重量%のMFCを含む懸濁液を提供するステップ、前記懸濁液の繊維状ウェブを形成するステップであって、この繊維状ウェブは1~25重量%の乾燥含量を有するステップ、脱水フェルトを繊維状ウェブと直接接触させるように適用するステップ、プレス装置を通して、前記脱水フェルトと前記支持体との間に配置されるように前記繊維状ウェブを誘導し、脱水ウェブを形成するステップ、および、前記ウェブを乾燥させてフィルムを形成するステップを含む。
【0038】
脱水された繊維状ウェブは、好ましくは、プレス装置で脱水された後、15~50重量%の乾燥含量を有する。形成された脱水されたウェブは、その後、フィルムを形成するためにさらに処理され得る。脱水されたウェブは、任意の従来の方法で、例えば、適切な乾燥含量を得るために、追加のプレスまたは従来のシリンダー乾燥によって、真空の使用によって、および/または熱風の使用によって、乾燥またはさらに脱水することができる。フィルムは、好ましくは、95重量%を超える乾燥含量を有する。フィルムを製造するために、当業者に知られている任意の方法で、例えばカレンダー処理によって、脱水ウェブを処理することも可能である場合がある。
【0039】
フィルムとは、ガス、アロマ、または、グリースもしくはオイルに対する良好なバリア特性、好ましくは酸素バリア特性を備えた薄い基材を意味する。フィルムは、好ましくは、40g/m未満の坪量、および700~1400kg/mの範囲の密度を有する。ASTM D-3985に従って測定するとき、30g/mの坪量を有するフィルムの23℃で相対湿度50%での酸素透過率(OTR)値は、好ましくは30cc/m/24時間未満である。
【0040】
MFCに加えて、フィルムはまた、硬材(広葉樹)繊維または軟材(針葉樹)繊維、好ましくはクラフトパルプ軟材繊維のいずれかであるより長いセルロース繊維を含み得る。フィルムは、SR値が90を超えるMFCとSR値が60~90の間のより粗いMFCグレードとの混合物を含むことが好ましい場合がある。フィルムはまた、顔料、カルボキシメチルセルロース(CMC)、保持化学物質、デンプンなどの他の添加剤を含み得る。フィルムは、粘土(クレー)、好ましくはベントナイトなどの鉱物を含み得る。フィルムは10~50重量%のベントナイトを含むことが好ましい場合がある。フィルムのベントナイト含有量を増加させることによって、ウェブの乾燥含量を増大させることが可能であることが見出された。
【0041】
本発明によって、好ましくは、40gsm未満、好ましくは30gsm未満の坪量、および700kg/cmを超える密度を有するミクロフィブリル化セルロースを含むフィルムを製造することが可能である。フィルムは、好ましくは、400cc/m/24時間未満、より好ましくは100cc/m/24時間未満のASTM D-3985に従って測定された酸素透過率(OTR)値(23℃、50%RH(相対湿度))を有する。本発明によるフィルムは、好ましくは、高密度、高平滑性、および良好なバリア特性を備えた薄い半透明または透明のフィルムである。
【0042】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)は、本願の文脈において、少なくとも1つの寸法が100nm未満のナノスケールのセルロース粒子繊維またはフィブリルを意味するものとする。MFCは、部分的または全体的にフィブリル化されたセルロース繊維またはリグノセルロース繊維を含む。遊離したフィブリルの直径は100nm未満であるが、実際のフィブリルの直径または粒子サイズの分布および/またはアスペクト比(長さ/幅)は、その供給源および製造方法に依存する。最小のフィブリルは基本フィブリルと呼ばれ、約2~4nmの直径を有する(例えば、以下を参照のこと:Chinga-Carrasco, G.,Cellulose fibres, nanofibrils and microfibrils,: The morphological sequence of MFC components from a plant physiology and fibre technology point of view, Nanoscale research letters 2011, 6:417)一方、ミクロフィブリルとしても定義される基本フィブリルの凝集形態(Fengel,D., Ultrastructural behavior of cell wall polysaccharides, Tappi J., March 1970,Vol 53,No.3.参照)は、例えば拡張精製プロセスまたは圧力降下崩壊プロセスを使用することによりMFCを製造するときに得られる主生成物であることが一般的である。供給源と製造プロセスに依存して、フィブリルの長さは約1マイクロメートルから10マイクロメートル超まで変化し得る。粗いMFCグレードには、大部分のフィブリル化繊維、つまり仮道管(tracheid)から突出したフィブリル(セルロース繊維)、および仮道管から遊離した一定量のフィブリル(セルロース繊維)が含まれる可能性がある。
【0043】
MFCには、セルロースミクロフィブリル、フィブリル化セルロース、ナノセルロース、ナノフィブリル化セルロース、フィブリル凝集体、ナノスケールセルロースフィブリル、セルロースナノファイバー、セルロースナノフィブリル、セルロースマイクロファイバー、セルロースフィブリル、ミクロフィブリルセルロース、ミクロフィブリル凝集体、セルロースミクロフィブリル凝集体など、さまざまな頭字語がある。MFCは、大きな表面積や、水に分散したときに低固形分(1~5重量%)でゲル状物質を形成する能力など、さまざまな物理的または物理化学的特性によっても特徴付けられうる。セルロース繊維は、好ましくは、BET法で凍結乾燥した材料を測定した場合、形成されたMFCの最終比表面積が約1~約200m/g、またはより好ましくは50~200m/gである程度にフィブリル化される。
【0044】
MFCを作成するためのさまざまな方法が存在する。例えば、1回もしくは複数回の精製、予備加水分解に続く精製または高せん断崩壊またはフィブリルの遊離などである。MFC製造をエネルギー効率的かつ持続可能なものとするために、通常1つまたは複数の前処理ステップが必要である。したがって、供給されるパルプのセルロース繊維は、例えば繊維を加水分解もしくは膨潤させるために、またはヘミセルロースもしくはリグニンの量を減少させるために、酵素的または化学的に前処理されてよい。セルロース繊維は、フィブリル化の前に化学的に変性されていてよく、ここでセルロース分子は、元のセルロースに見られる以外の(またはそれより多くの)官能基を含む。そのような基には、とりわけ、カルボキシメチル(CMC)、アルデヒドおよび/もしくはカルボキシル基(N-オキシル媒介酸化により得られるセルロース、例えば「TEMPO」)、または四級アンモニウム(カチオン性セルロース)が含まれる。上記の方法の1つで変性または酸化された後、繊維をMFCまたはナノフィブリルサイズもしくはNFCに分解するのがより容易である。
【0045】
ナノフィブリルセルロースには、幾分かのヘミセルロースが含まれている場合があり、その量は植物源に依存している。前処理された繊維、例えば加水分解された、予備膨潤された、または酸化されたセルロース原料の機械的分解は、精製機、グラインダー、ホモジナイザー、コロイド化機、摩擦グラインダー、超音波ソニケーター、または、ミクロ流動化機、マクロ流動化機もしくは流動化機型ホモジナイザー等の流動化装置などの適切な装置で実行される。MFCの製造方法に応じて、製品には、微粉、もしくはナノ結晶セルロース、または、木質繊維もしくは製紙(抄紙)プロセスに存在するその他の化学物質が含まれる可能性もある。製品には、効率的にフィブリル化されなかったさまざまな量のミクロンサイズの繊維粒子が含まれている場合もある。
【0046】
MFCは、硬材繊維(広葉樹繊維)または軟材繊維(針葉樹繊維)の両方に由来する木材セルロース繊維から製造される。また、MFCは、微生物源、麦わらパルプなどの農業用繊維、竹、バガス、または他の非木材繊維源から作ることもできる。好ましくは、MFCは、バージン繊維からのパルプを含むパルプ、例えば、機械パルプ、化学パルプ、および/または熱機械パルプから作られる。MFCはまた、拒絶品(broke:ブローク、廃棄品)や再生紙から作ることもできる。
【0047】
本発明によるMFCフィルムは、シリアルなどの乾燥食品を包装する際のバッグインボックスとして、包装基材として、紙、板紙もしくはプラスチックの積層材料として、および/または使い捨て電子機器の基材として使用することができる。
【実施例
【0048】
実施例
87%のMFCおよび13%のソルビトールを含む懸濁液を金属支持体上にキャストコーティングしてウェブを形成した。キャスト(流延)の間の懸濁液の固形分は3%であった。
【0049】
ウェブと接触するように脱水フェルトを適用することにより、支持体上のウェブを乾燥させることによって本発明に従うサンプル(サンプル1)を製造した。フェルトを適用したときのウェブの固形分は5.5%であった。次に、62バールの圧力が加えられたプレス装置を通してウェブおよび脱水フェルトを誘導し、脱水後のウェブの固形分は44%であった。形成されたフィルムを乾燥させるために、インピンジメント乾燥による追加の乾燥を行った。
【0050】
加熱した金属ブロック上に支持体を置くことにより熱を適用することで、金属支持体上に形成されたウェブを乾燥させることによって、比較例としてのサンプル(サンプル2)を製造した。
【0051】
サンプル1およびサンプル2のフィルムのOTR値を、ASTM D-3985に従って測定し、その結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1の結果から把握され得るように、脱水フェルトを使用して圧力を適用することで大量の水分を減少させて、それでもなお良好なバリア性を備えたフィルムを製造することが可能であった。
【0054】
上述の本発明の詳細な説明を考慮して、他の修正および変形が当業者に明らかになるであろう。しかしながら、そのような他の修正および変形が、本発明の本質および範囲から逸脱することなく実施され得ることは明らかなはずである。
なお、本発明に包含され得る諸態様または諸実施形態は、以下のとおり要約される。
[1].
ミクロフィブリル化セルロースを含むウェブを脱水するための方法であって、
この方法は、以下のステップ:
- 総乾燥重量に基づいて50重量%~100重量%のミクロフィブリル化セルロースを含む懸濁液を提供するステップ、
- 支持体上に前記懸濁液の繊維状ウェブを形成するステップであって、この繊維状ウェブが1~25重量%の乾燥含量を有するステップ、
- 前記繊維状ウェブに直接接触するように脱水フェルトを適用するステップ、
- プレス装置を通して、前記脱水フェルトと前記基材との間に配置されるように前記繊維状ウェブを誘導するステップ、および
- 脱水ウェブを乾燥させて、良好なバリア特性を有するフィルムを形成するステップ
を含む方法。
[2].
プレス装置が延長ニップを含む、上記項目1に記載の方法。
[3].
前記プレス装置がベルトプレスである、上記項目1または2に記載の方法。
[4].
繊維状ウェブが、ベルトプレスにおいて、ベルトプレスのロールの直径の少なくとも20%の距離にわたって処理される、上記項目3に記載の方法。
[5].
脱水フェルトが、プレス装置を通して誘導される前の少なくとも20cmにて繊維状ウェブに適用される、上記項目1~4のいずれか1項に記載の方法。
[6].
プレス装置で使用される圧力が1~100バールの間である、上記項目1~5のいずれか1項に記載の方法。
[7].
プレス装置で使用される圧力が徐々に増大される、上記項目1~6のいずれか1項に記載の方法。
[8].
支持体が金属支持体である、上記項目1~7のいずれか1項に記載の方法。
[9].
ウェブが金属支持体に適用される前に、金属支持体が30~150℃の温度に加熱される、上記項目8に記載の方法。
[10].
繊維状ウェブがキャストコーティングによって形成される、上記項目1~9のいずれか1項に記載の方法。
[11].
支持体が多孔質ワイヤーである、上記項目1~7のいずれか1項に記載の方法。
[12].
プレス装置にて脱水した後に、繊維状ウェブが15~50重量%の乾燥含量を有する、上記項目1~11のいずれか1項に記載の方法。
[13].
懸濁液のミクロフィブリル化セルロースが90を超えるショッパー・リーグラー(SR)値を有する、上記項目1~12のいずれか1項に記載の方法。
[14].
ウェブが少なくとも50m/分の速度でプレス装置を通して誘導される、上記項目1~13のいずれか1項に記載の方法。
[15].
脱水フェルトが接触するように適用される前に繊維状ウェブが加熱される、上記項目1~14のいずれか1項に記載の方法。
[16].
上記項目1~15のいずれか1項に記載の方法によって得られたミクロフィブリル化セルロースを含むフィルムであって、前記フィルムが、700kg/cm を超える密度および400cc/m /24時間未満のASTM D-3985に従って測定された酸素透過率(OTR)値(23℃、50%RH)を有するフィルム。