IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三洋電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-漏電検出装置、車両用電源システム 図1
  • 特許-漏電検出装置、車両用電源システム 図2
  • 特許-漏電検出装置、車両用電源システム 図3
  • 特許-漏電検出装置、車両用電源システム 図4
  • 特許-漏電検出装置、車両用電源システム 図5
  • 特許-漏電検出装置、車両用電源システム 図6
  • 特許-漏電検出装置、車両用電源システム 図7
  • 特許-漏電検出装置、車両用電源システム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】漏電検出装置、車両用電源システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/52 20200101AFI20240322BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20240322BHJP
【FI】
G01R31/52
B60L3/00 S
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021528227
(86)(22)【出願日】2020-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2020023446
(87)【国際公開番号】W WO2020262082
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019121503
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【弁理士】
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】中山 正人
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-192674(JP,A)
【文献】特開2010-151595(JP,A)
【文献】特開2007-163291(JP,A)
【文献】特開2016-166770(JP,A)
【文献】特開2005-233822(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074394(WO,A1)
【文献】特開2009-287983(JP,A)
【文献】特開2010-249766(JP,A)
【文献】特開2013-140074(JP,A)
【文献】特開2002-209331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/50
G01R 27/02
G01R 31/36
G01R 31/00
H01M 10/42
H02H 3/16
B60L 3/00
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アースと絶縁された状態で、負荷に接続されている蓄電部の電流経路に一端が接続されるカップリングコンデンサと、
周期的に変化する周期電圧を生成して、前記カップリングコンデンサの他端に第1抵抗を介して印加する電圧出力部と、
前記カップリングコンデンサと前記第1抵抗との間の接続点と、所定の固定電位との間に直列に接続された第2抵抗および第3抵抗と、
前記第2抵抗と前記第3抵抗との間の分圧点の電圧を測定する電圧測定部と、
前記電圧測定部により測定された電圧をもとに、前記蓄電部の電流経路と前記アース間の漏電の有無を判定する漏電判定部と、
を備え
前記固定電位は、前記電圧測定部の測定レンジの中間電位に設定され、
前記第2抵抗と前記第3抵抗との分圧比は、前記電圧測定部の測定レンジと、検出したい電圧範囲の比に応じて設定されることを特徴とする漏電検出装置。
【請求項2】
アースと絶縁された状態で、負荷に接続されている蓄電部の電流経路に一端が接続されるカップリングコンデンサと、
周期的に変化する周期電圧を生成して、前記カップリングコンデンサの他端に第1抵抗を介して印加する電圧出力部と、
前記カップリングコンデンサと前記第1抵抗との間の接続点と、所定の固定電位との間に直列に接続された第2抵抗および第3抵抗と、
前記第2抵抗と前記第3抵抗との間の分圧点の電圧を測定する電圧測定部と、
前記電圧測定部により測定された電圧をもとに、前記蓄電部の電流経路と前記アース間の漏電の有無を判定する漏電判定部と、
前記第3抵抗と前記固定電位との間に接続されるスイッチと、を備え、
前記漏電判定部は、前記スイッチのオン状態において、前記第2抵抗と前記第3抵抗との分圧比に応じて復元した電圧の振幅全体が前記電圧測定部の測定レンジに収まる場合、前記スイッチをオフさせることを特徴とする漏電検出装置。
【請求項3】
車両のシャーシアースと絶縁された状態で搭載され、前記車両内の負荷に電力を供給する蓄電部と、
請求項1または2に記載の漏電検出装置と、
を備えることを特徴とする車両用電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アースから絶縁された負荷の漏電を検出する漏電検出装置、車両用電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)が普及してきている。これらの電動車両には、補機電池(一般的に12V出力の鉛電池)と別に高電圧の駆動用電池(トラクションバッテリ)が搭載される。感電を防止するために、高電圧の駆動用電池、インバータ、走行用モータを含む強電回路と、車両のボディ(シャーシアース)間は絶縁される。
【0003】
強電回路の車両側のプラス配線とシャーシアース間、及び強電回路の車両側のマイナス配線とシャーシアース間には、それぞれYコンデンサが挿入され、高電圧の駆動用電池から車両側の負荷に供給される電源が安定化されている。強電回路とシャーシアース間の絶縁抵抗を監視して漏電を検出する漏電検出装置が搭載される。
【0004】
AC方式の漏電検出装置では、駆動用電池の正極端子または負極端子に、抵抗とカップリングコンデンサを介してパルス電圧を印加し、当該抵抗と当該カップリングコンデンサとの接続点の電圧を測定し、漏電の有無を検出する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-250201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
AC方式における上記構成では、電池側と車両側の間に接続されるメインリレー(コンタクタ)の開閉時などの漏電状態の急変時に、上記測定点の電圧が測定レンジから外れることがある。
【0007】
本開示はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、漏電検出装置において、測定点の電圧が測定レンジから外れる期間を短縮させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の漏電検出装置は、アースと絶縁された状態で、負荷に接続されている蓄電部の電流経路に一端が接続されるカップリングコンデンサと、周期的に変化する周期電圧を生成して、前記カップリングコンデンサの他端に第1抵抗を介して印加する電圧出力部と、前記カップリングコンデンサと前記第1抵抗との間の接続点と、所定の固定電位との間に直列に接続された第2抵抗および第3抵抗と、前記第2抵抗と前記第3抵抗との間の分圧点の電圧を測定する電圧測定部と、前記電圧測定部により測定された電圧をもとに、前記蓄電部の電流経路と前記アース間の漏電の有無を判定する漏電判定部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、漏電検出装置において、測定点の電圧が測定レンジから外れる期間を短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】比較例に係る漏電検出装置を備える電源システムの構成を説明するための図である。
図2】比較例における、印加パルス波形と測定電圧波形の一例を示す図である。
図3】実施の形態1に係る漏電検出装置を備える電源システムの構成を説明するための図である。
図4】メインリレーがオンしたときの測定電圧波形の一例を示す図である。
図5】実施の形態2に係る漏電検出装置を備える電源システムの構成を説明するための図である。
図6】実施の形態3に係る漏電検出装置を備える電源システムの構成を説明するための図である。
図7】実施の形態4に係る漏電検出装置を備える電源システムの構成を説明するための図である。
図8図8(a)-(b)は、実施の形態1~3と、実施の形態4の測定電圧の圧縮方式の違いを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(比較例)
図1は、比較例に係る漏電検出装置10を備える電源システム5の構成を説明するための図である。電源システム5は電動車両に搭載される。電源システム5は電動車両内において、補機電池(通常、12V出力の鉛電池が使用される)と別に設けられる。電源システム5は、高電圧の蓄電部20、及び漏電検出装置10を含む。蓄電部20は、直列接続された複数のセルE1-Enを含む。セルには、リチウムイオン電池セル、ニッケル水素電池セル、鉛電池セル、電気二重層キャパシタセル、リチウムイオンキャパシタセル等を用いることができる。以下、本明細書ではリチウムイオン電池セル(公称電圧:3.6-3.7V)を使用する例を想定する。
【0012】
電動車両は高電圧の負荷として、インバータ2及びモータ3を備える。蓄電部20の正極とインバータ2の一端がプラス配線Lpで接続され、蓄電部20の負極とインバータ2の他端がマイナス配線Lmで接続される。プラス配線Lpに正側メインリレーMRpが挿入され、マイナス配線Lmに負側メインリレーMRmが挿入される。正側メインリレーMRpと負側メインリレーMRmは、蓄電部20と電動車両内の高電圧の負荷との間の導通/遮断を制御するコンタクタとして機能する。なおリレーの代わりに、高耐圧・高絶縁の半導体スイッチを使用することも可能である。
【0013】
インバータ2は、蓄電部20とモータ3の間に接続される双方向インバータである。インバータ2は力行時、蓄電部20から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ3に供給する。回生時、モータ3から供給される交流電力を直流電力に変換して蓄電部20に供給する。モータ3には例えば、三相交流モータが使用される。モータ3は力行時、インバータ2から供給される交流電力に応じて回転する。回生時、減速による回転エネルギーを交流電力に変換してインバータ2に供給する。
【0014】
蓄電部20は、電動車両のシャーシアースと絶縁された状態で電動車両に搭載される。補機電池は、負極がシャーシアースと導通した状態で電動車両に搭載される。なお、正側メインリレーMRpよりインバータ2側のプラス配線Lpとシャーシアース間が正側YコンデンサCpを介して接続される。また、負側メインリレーMRmよりインバータ2側のマイナス配線Lmとシャーシアース間が負側YコンデンサCmを介して接続される。正側YコンデンサCp及び負側YコンデンサCmは、プラス配線Lpとシャーシアース間、及びマイナス配線Lmとシャーシアース間をそれぞれ直流的に絶縁するとともに、プラス配線Lp及びマイナス配線Lmの電圧を安定化させる作用を有する。
【0015】
蓄電部20がシャーシアースから理想的に絶縁されている場合、蓄電部20の中間電位がシャーシアースの電位近辺に維持される。例えば、蓄電部20の両端電圧が250Vの場合、蓄電部20の正極電位が+125V近辺、負極電位が-125V近辺に維持される。高電圧の蓄電部20とシャーシアース間が導通した状態で、人間が電動車両の露出した導電部に触れると感電する危険がある。そこで高電圧の蓄電部20を搭載した電動車両では、漏電検出装置10を搭載して、高電圧の車両負荷に接続されている蓄電部20の電流経路とシャーシアース間の絶縁状態を監視する必要がある。図1では、プラス配線Lpとシャーシアース間の絶縁状態を正側漏電抵抗Rlp、マイナス配線Lmとシャーシアース間の絶縁状態を負側漏電抵抗Rlmと表している。
【0016】
比較例では漏電検出装置10は、カップリングコンデンサCc、第1抵抗R1、ANDゲートG1、第2抵抗R2、第1オペアンプOP1及び制御部11を含む。制御部11は、発振部11a、電圧測定部11b及び漏電判定部11cを含む。制御部11は例えば、マイクロコンピュータ及び不揮発メモリ(例えば、EEPROM、フラッシュメモリ)により構成することができる。
【0017】
カップリングコンデンサCcは、蓄電部20の電流経路に一端が接続される。図1に示す例では蓄電部20の負極にカップリングコンデンサCcの一端が接続されている。なお、カップリングコンデンサCcの一端は、蓄電部20の正極に接続されてもよいし、蓄電部20内の複数のセルE1-Enのいずれかのノードに接続されてもよい。カップリングコンデンサCcの他端は、第1抵抗R1を介して電圧出力部の出力端に接続される。カップリングコンデンサCcの他端と第1抵抗R1との間の接続点が測定点Aとなる。なお、第1抵抗R1の代わりに他のインピーダンス素子を使用してもよい。
【0018】
図1ではカップリングコンデンサCcに、比較的安価に大容量化することができるアルミ電解コンデンサが使用されている。アルミ電解コンデンサは極性を有しており、図1ではアルミ電解コンデンサの正極が測定点Aに接続され、アルミ電解コンデンサの負極が蓄電部20の負極に接続されている。カップリングコンデンサCcは、複数のアルミ電解コンデンサが直列に接続されて構成されていてもよい。この場合、1つのコンデンサがショート故障しても、残りのコンデンサにより直流的な絶縁を維持することができる。
【0019】
上記の電圧出力部は、周期的に変化する周期電圧を生成して、生成した周期電圧をカップリングコンデンサCcの他端に第1抵抗R1を介して印加する。以下、本明細書では周期電圧として矩形波電圧を使用する例を想定する。
【0020】
電圧出力部は、発振部11a及びANDゲートG1を含む。発振部11aは、マルチバイブレータや局部発振器を含み、予め設定された周波数の矩形波を発生させる。発振部11aにより生成された矩形波電圧は、ANDゲートG1の第1入力端子に入力される。ANDゲートG1の第2入力端子は、電源電位Vccに接続される。ANDゲートG1は、第1入力端子に入力される矩形波電圧がハイレベルのとき、ハイレベル(電源電位Vcc)を出力し、第1入力端子に入力される矩形波電圧がローレベルのとき、ローレベル(グラウンド電位)を出力する。グラウンド電位は、シャーシアースに接続されている。以下、電源電位Vccが5V、グラウンド電位が0Vの例を想定する。
【0021】
ANDゲートG1は、制御部11と測定点Aを分離するバッファとして機能する。ANDゲートG1はバッファの一例である。例えば、ANDゲートの代わりに、ORゲートやボルテージフォロワを使用してもよい。ORゲートを使用する場合、ORゲートの第2入力端子にはグラウンド電位が接続される。
【0022】
測定点Aは、第2抵抗R2を介して第1オペアンプOP1の非反転入力端子に接続される。第1オペアンプOP1の反転入力端子と出力端子が接続される。第1オペアンプOP1は、増幅率が1倍でインピーダンス変換だけを行うボルテージフォロアとして機能する。第1オペアンプOP1は、測定点Aの電圧を電圧測定部11bに出力する。
【0023】
電圧測定部11bは測定点Aの電圧を測定する。電圧測定部11bはA/Dコンバータを含み、当該A/Dコンバータは、発振部11aにより生成される矩形波電圧の立ち上がりエッジと立ち下がりエッジのタイミングに同期したタイミングで、測定点Aのアナログ電圧をサンプリングし、サンプリングしたアナログ電圧をデジタル値に変換する。矩形波電圧の立ち上がりエッジのタイミングでサンプリングされた電圧は、測定された電圧波形の下側ピーク値に相当し、矩形波電圧の立ち下がりエッジのタイミングでサンプリングされた電圧は、測定された電圧波形の上側ピーク値に相当する。なお、矩形波電圧の鈍りを考慮して、下側ピーク値をサンプリングすべきタイミングと、上側ピーク値をサンプリングすべきタイミングが調整されていてもよい。当該A/Dコンバータは、測定点Aのアナログ電圧を変換したデジタル値を漏電判定部11cに出力する。
【0024】
漏電判定部11cは、電圧測定部11bにより測定された測定点Aの電圧をもとに、蓄電部20の電流経路とシャーシアース間の漏電の有無を判定する。漏電判定部11cは、上側ピーク値と下側ピーク値との差分で示されるピークピーク値が、設定値より小さい場合、蓄電部20の電流経路とシャーシアース間に漏電が発生していると判定する。当該設定値は、設計者による実験やシミュレーションにより予め導出された漏電発生時の測定電圧波形のピークピーク値をもとに決定される。蓄電部20の電流経路とシャーシアース間に漏電が発生している場合、ANDゲートG1から、検出抵抗として作用している第1抵抗R1を介してカップリングコンデンサCcに交流電流が流れる。第1抵抗R1に電流が流れると、電圧降下により測定点Aの電圧振幅が縮小する。
【0025】
図2は、比較例における、印加パルス波形と測定電圧波形の一例を示す図である。電圧出力部から測定点Aに印加されるパルス波形は、ハイサイド電位が5Vでローサイド電位が0Vに設定されている。漏電判定部11cは、測定点Aにパルス電圧が印加されている期間に測定された電圧波形の上側ピーク値Vp1と下側ピーク値Vp2を特定し、上側ピーク値Vp1と下側ピーク値Vp2との差分で規定されるピークピーク値をもとに漏電の有無を判定する。
【0026】
(実施の形態1)
図3は、実施の形態1に係る漏電検出装置10を備える電源システム5の構成を説明するための図である。以下、図1に示した比較例に係る電源システム5の構成との相違点を説明する。実施の形態1では、第2抵抗R2と第1オペアンプOP1の非反転入力端子との間の接続点と、所定の固定電位との間に第3抵抗R3が接続される。即ち、測定点Aと当該固定電位との間に、第2抵抗R2と第3抵抗R3が直列に接続される。第2抵抗R2と第3抵抗R3の分圧点電圧が第1オペアンプOP1の非反転入力端子に入力される。即ち、電圧測定部11bは、第2抵抗R2と第3抵抗R3の分圧点電圧を測定することになる。
【0027】
当該固定電位は、電圧測定部11bの測定レンジを規定する、第1オペアンプOP1の入力電圧範囲の中間電位に設定される。実施の形態1では、第1オペアンプOP1の入力電圧範囲は0~5Vの範囲であるため、当該固定電位は2.5Vに設定される。
【0028】
実施の形態1では、第3抵抗R3の抵抗値と第2抵抗R2の抵抗値の関係を、1:2に設定しているため、第2抵抗R2と第3抵抗R3の分圧点電圧は、測定点Aの電圧の1/3に圧縮された電圧となる。
【0029】
漏電判定部11cは、電圧測定部11bにより測定された電圧の振幅値をもとに、漏電抵抗変換テーブルを参照して漏電抵抗値を算出し、蓄電部20の電流経路とシャーシアース間の漏電の有無を判定する。
【0030】
メインリレーMRp、MRmがオンすると蓄電部20の電圧が大きく変動し、それに伴い、電圧出力部から第1抵抗R1を介してカップリングコンデンサCcに充電電流が流れる。この場合、測定点Aの電圧が大きく低下し、電圧測定部11bの測定レンジ(0~5V)の下に大きく外れる。測定点Aの電圧は、カップリングコンデンサCcの充電電流の減少に伴い、中間電位(2.5V)に戻っていき、カップリングコンデンサCcの充電が完了した時点で中間電位(2.5V)に復帰する。漏電抵抗Rlpが大きい場合、測定点Aの電圧波形の全体が測定レンジ(0~5V)に入るまでに30秒以上を要する場合もある。
【0031】
図4は、メインリレーMRp、MRmがオンしたときの測定電圧波形の一例を示す図である。比較例では、測定点Aの電圧をそのまま測定している。図4に示す例では、メインリレーMRp、MRmのオンに伴い、測定電圧が-250V近辺まで低下している。これに対して実施の形態1では、測定点Aの電圧を1/3倍に圧縮して測定している。図4に示す例では、メインリレーMRp、MRmのオンに伴い、測定電圧が-83V近辺まで低下している。なおいずれの場合も、電圧測定部11bには測定電圧が下限(0V)に張り付いて見える。
【0032】
漏電を判定するには、ピークピーク値を算出する必要があるため、電圧測定部11bに入力される電圧の振幅全体が測定レンジ(0~5V)内に収まる必要がある。比較例に係る測定電圧波形と実施の形態1に係る測定電圧波形を比較すると、後者の方が測定レンジ(0~5V)内に収まるまでの時間が大幅に短縮されることが分かる。
【0033】
なお、測定点Aの電圧が測定レンジの上に外れる場合もある。何らかの要因でカップリングコンデンサCcが充電された状態において、メインリレーMRp、MRmがオン又はオフすると、カップリングコンデンサCcから第1抵抗R1を介して電圧出力部の方向へ放電電流が流れる。この場合、測定点Aの電圧が大きく上昇し、測定レンジの上に大きく外れる。この場合も同様に実施の形態1では、測定レンジ内に収まるまでの時間を大幅に短縮することができる。
【0034】
以上説明したように実施の形態1によれば、測定点Aの電圧を分圧して測定することにより、測定点Aの電圧が測定レンジから外れる期間を短縮させることができる。これにより、漏電判定ができない期間を減らすことができ、安全性を向上させることができる。また、電圧測定部11bの前段にバンドパスフィルタやハイパスフィルタを設ける必要もないため、回路規模の増大やコストの上昇を抑えることができる。
【0035】
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2に係る漏電検出装置10を備える電源システム5の構成を説明するための図である。以下、図3に示した実施の形態1に係る電源システム5の構成との相違点を説明する。実施の形態1では、測定点Aの電圧を1/3に分圧する例を説明した。この場合、電圧測定部11bに入力される電圧の振幅が1/3になる。振幅が1/3になると、電圧測定部11b内のA/Dコンバータの測定誤差の影響が3倍になる。このように測定電圧の圧縮による測定可能時間の確保と、検出精度はトレードオフの関係にある。即ち、圧縮率を大きくして測定可能時間を長く確保するほど検出精度が低下し、圧縮率を低くするほど検出精度の低下を抑えることができる。
【0036】
実施の形態2では、測定電圧を圧縮する電圧取得部と、測定電圧を圧縮しない電圧取得部を併設する。具体的には、図3に示した実施の形態1に係る電源システム5の構成に、第4抵抗R4と第2オペアンプOP2が追加される。図5に示す第4抵抗R4と第2オペアンプOP2は、図1に示した第2抵抗R2と第1オペアンプOP1に対応する。
【0037】
漏電判定部11cは、測定電圧を圧縮する電圧取得部から入力された電圧をもとに、第2抵抗R2と第3抵抗R3との分圧比に応じて復元した電圧の振幅全体が測定レンジに収まっている場合、測定電圧を圧縮しない電圧取得部から入力された電圧の測定電圧の振幅値をもとに漏電の有無を判定する。漏電判定部11cは、復元した電圧の振幅全体が測定レンジに収まっていない場合、測定電圧を圧縮する電圧取得部から入力された電圧の振幅値をもとに、漏電抵抗変換テーブルを参照して漏電抵抗値を算出し、漏電の有無を判定する。
【0038】
以上説明したように実施の形態2によれば、検出精度が低下する期間を減らしつつ、測定点Aの電圧が測定レンジから外れる期間を短縮させることができる。
【0039】
(実施の形態3)
図6は、実施の形態3に係る漏電検出装置10を備える電源システム5の構成を説明するための図である。以下、図3に示した実施の形態1に係る電源システム5の構成との相違点を説明する。実施の形態3では、固定電位Vcc/2と第3抵抗R3との間に第1スイッチS1が接続される。第1スイッチS1には半導体スイッチを用いることができる。
【0040】
漏電判定部11cは、第1スイッチS1のオン状態において、電圧測定部11bにより測定された電圧に抵抗分圧比に応じた倍率を掛けて、圧縮前の電圧を復元する。漏電判定部11cは、復元した電圧の振幅全体が電圧測定部11bの測定レンジに収まる場合、第1スイッチをターンオフする。漏電判定部11cは、第1スイッチS1のオフ状態において、電圧測定部11bにより測定された電圧をそのまま測定電圧として使用する。漏電判定部11cは、第1スイッチS1のオフ状態において、測定された電圧の振幅全体が電圧測定部11bの測定レンジに収まらない場合、第1スイッチをターンオンする。
【0041】
以上説明したように実施の形態3によれば、実施の形態2と同様の効果を奏する。なお図6には、第1ツェナーダイオードZD1及び第2ツェナーダイオードZD2が描かれている。第1ツェナーダイオードZD1は、ANDゲートG1の出力端子と第1抵抗R1との間の接続点と、シャーシアース間に接続される。第2ツェナーダイオードZD2は、第1オペアンプOP1の非反転入力端子と第2抵抗R2との間の接続点と、シャーシアース間に接続される。第1ツェナーダイオードZD1又は第2ツェナーダイオードZD2は、メインリレーMRp、MRmの開閉や電源システム5の負荷変動に起因して、ANDゲートG1又は第1オペアンプOP1に過電圧が印加されることを防止する。
【0042】
図1図3図5には描かれていないが、実際には第1ツェナーダイオードZD1及び第2ツェナーダイオードZD2が設置されることが一般的である。図5に示した構成に第2ツェナーダイオードZD2が設置される場合、測定点Aの電位がシャーシアースの電位より低くなると、第2ツェナーダイオードZD2が導通し、シャーシアースから第2ツェナーダイオードZD2を介して測定点Aに電流に流れる。この場合、測定点Aの電位が不安定になり、測定電圧の検出精度が低下する。実施の形態3では、第2ツェナーダイオードZD2の導通時の影響を緩和することができる。
【0043】
(実施の形態4)
図7は、実施の形態4に係る漏電検出装置10を備える電源システム5の構成を説明するための図である。以下、図6に示した実施の形態3に係る電源システム5の構成との相違点を説明する。実施の形態4では、第3抵抗R3の一端に接続される固定電位の電位を切り替えることができる。
【0044】
電圧測定部11bの測定レンジ(0~5V)の上限電位(5V)に設定された第1固定電位と、下限電位(0V)に設定された第2固定電位との間に、第1スイッチS1と第2スイッチS2が直列に接続される。第1スイッチS1と第2スイッチS2には半導体スイッチを用いることができる。例えば、第1スイッチS1にPチャンネル型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、第2スイッチS2にNチャンネル型MOSFETを用いてもよい。
【0045】
第1スイッチS1と第2スイッチS2との間の接続点と、第3抵抗R3の第2抵抗R2と接続されていない側の端子が接続される。実施の形態4では、第3抵抗R3の抵抗値と第2抵抗R2の抵抗値を同じに設定しているため、第2抵抗R2と第3抵抗R3の分圧比は1:1になる。即ち、第2抵抗R2と第3抵抗R3の分圧点電圧は、測定点Aの電圧の1/2に圧縮された電圧となる。
【0046】
漏電判定部11cは、測定された電圧が電圧測定部11bの測定レンジの上限に張り付いている場合、第1スイッチS1をオフ状態、第2スイッチS2をオン状態に制御する。漏電判定部11cは、測定された電圧が電圧測定部11bの測定レンジの下限に張り付いている場合、第1スイッチS1をオン状態、第2スイッチS2をオフ状態に制御する。
【0047】
漏電判定部11cは、第1スイッチS1及び第2スイッチS2の一方がオン状態で他方がオフ状態のときにおいて、測定された電圧の振幅全体が電圧測定部11bの測定レンジに収まっている場合、第1スイッチS1及び第2スイッチS2の両方をオフ状態に制御してもよい。その状態においても、測定された電圧の振幅全体が電圧測定部11bの測定レンジに収まっている場合、漏電判定部11cはその状態を維持する。第1スイッチS1及び第2スイッチS2の両方がオフの状態において、測定された電圧の振幅全体が電圧測定部11bの測定レンジに収まらない場合、漏電判定部11cは元の状態に戻す。なお、第1スイッチS1と第2スイッチS2を設けずに、第3抵抗R3の他端に、制御部11の出力ポートから上限電位(5V)または下限電位(0V)を印加する構成でもよい。
【0048】
図8(a)-(b)は、実施の形態1~3と、実施の形態4の測定電圧の圧縮方式の違いを説明するための図である。図8(a)-(b)に示す例は、-5~+10Vの範囲にある測定点Aの電圧を検出可能とするための圧縮方式を示している。電圧測定部11bによる実測範囲はいずれも0~+5Vの範囲である。図8(a)は、実施の形態1~3の圧縮方式を示している。実施の形態1~3では、第3抵抗R3がVcc/2(2.5V)に接続される。第2抵抗R2と第3抵抗R3の分圧比が2:1であるため、0~+5Vの範囲の電圧から、-5~+10Vの範囲の電圧が検出可能である。
【0049】
図8(b)は、実施の形態4の圧縮方式を示している。実施の形態4では、測定電圧波形が上側にあるとき第3抵抗R3がGND(0V)に接続される。第2抵抗R2と第3抵抗R3の分圧比が1:1であるため、0~+5Vの範囲の電圧から、0~+10Vの範囲の電圧が検出可能である。測定電圧波形が下側にあるとき第3抵抗R3がVcc(5V)に接続される。第2抵抗R2と第3抵抗R3の分圧比が1:1であるため、0~+5Vの範囲の電圧から、-5~+5Vの範囲の電圧が検出可能である。両者を合わせると、0~+5Vの範囲の電圧から、-5~+10Vの範囲の電圧が検出可能である。
【0050】
以上説明したように実施の形態4によれば、実施の形態1~3と同様の効果を奏する。さらに実施の形態4では、測定電圧の圧縮率を1/2に抑えていることから、検出精度の低下を実施の形態1~3より抑えることができる。
【0051】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0052】
上述の実施の形態1~3では第2抵抗R2と第3抵抗R3の分圧比が2:1、実施の形態4では第2抵抗R2と第3抵抗R3の分圧比が1:1の例を説明した。この点、第2抵抗R2と第3抵抗R3の分圧比はこれらの値に限るものではなく、上記トレードオフの関係を考慮しつつ、設計者が任意に設定することができる。
【0053】
上述の実施の形態1~4では、電圧出力部から第1抵抗R1を介してカップリングコンデンサCcに矩形波電圧を印加する例を説明した。この点、正弦波電圧をカップリングコンデンサCcに印加してもよい。この場合も漏電判定部11cは、測定点Aの電圧波形からピークピーク値を特定し、実施の形態1~4と同様に漏電の有無を判定することができる。
【0054】
上述の実施の形態1~4では、漏電検出装置10を電動車両に搭載して使用する例を説明した。この点、実施の形態1~4に係る漏電検出装置10は車載用途以外の用途にも適用できる。蓄電部20、及び蓄電部20から電力供給を受ける負荷がアースから絶縁されている構成であれば、負荷はどのような負荷であってもよい。例えば、鉄道車両内で使用される負荷であってもよい。
【0055】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0056】
[項目1]
アースと絶縁された状態で、負荷(2)に接続されている蓄電部(20)の電流経路に一端が接続されるカップリングコンデンサ(Cc)と、
周期的に変化する周期電圧を生成して、前記カップリングコンデンサ(Cc)の他端に第1抵抗(R1)を介して印加する電圧出力部(11a、G1)と、
前記カップリングコンデンサ(Cc)と前記第1抵抗(R1)との間の接続点と、所定の固定電位との間に直列に接続された第2抵抗(R2)および第3抵抗(R3)と、
前記第2抵抗(R2)と前記第3抵抗(R3)との間の分圧点の電圧を測定する電圧測定部(11b)と、
前記電圧測定部(11b)により測定された電圧をもとに、前記蓄電部(20)の電流経路と前記アース間の漏電の有無を判定する漏電判定部(11c)と、
を備えることを特徴とする漏電検出装置(10)。
これによれば、測定点の電圧が測定レンジから外れる期間を短縮させることができる。
[項目2]
前記固定電位は、前記電圧測定部(11b)の測定レンジの中間電位に設定され、
前記第2抵抗(R2)と前記第3抵抗(R3)との分圧比は、前記電圧測定部(11b)の測定レンジと、検出したい電圧範囲の比に応じて設定されることを特徴とする項目1に記載の漏電検出装置(10)。
これによれば、測定点の電圧を任意の圧縮率で圧縮することができる。
[項目3]
前記第3抵抗(R3)と前記固定電位との間に接続されるスイッチ(S1)をさらに備え、
前記漏電判定部(11c)は、前記スイッチ(S1)のオン状態において、前記第2抵抗(R2)と前記第3抵抗(R3)との分圧比に応じて復元した電圧の振幅全体が前記電圧測定部(11b)の測定レンジに収まる場合、前記スイッチ(S1)をオフさせることを特徴とする項目1または2に記載の漏電検出装置(10)。
これによれば、圧縮による検出精度が低下する期間を短くすることができる。
[項目4]
前記第3抵抗(R3)の前記第2抵抗(R2)と接続されていない側の端子に、前記電圧測定部(11b)の測定レンジの上限電位に設定された第1固定電位と、下限電位に設定された第2固定電位を印加可能な構成であり、
前記漏電判定部(11c)は、測定された電圧が前記測定レンジの上限に張り付いている場合、前記第2固定電位を前記端子に印加し、測定された電圧が前記測定レンジの下限に張り付いている場合、前記第1固定電位を前記端子に印加することを特徴とする項目1に記載の漏電検出装置(10)。
これによれば、圧縮率を抑えて検出精度の低下を抑えることができる。
[項目5]
車両のシャーシアースと絶縁された状態で搭載され、前記車両内の負荷(2)に電力を供給する蓄電部(20)と、
項目1から4のいずれか1項に記載の漏電検出装置(10)と、
を備えることを特徴とする車両用電源システム(5)。
これによれば、測定点の電圧が測定レンジから外れる期間が短縮された漏電検出装置(10)を備える車両用電源システム(5)を実現することができる。
【符号の説明】
【0057】
2 インバータ、 3 モータ、 Lp プラス配線、 Lm マイナス配線、 Cp 正側Yコンデンサ、 Cm 負側Yコンデンサ、 C1 平滑用コンデンサ、 Rlp 正側漏電抵抗、 Rlm 負側漏電抵抗、 5 電源システム、 20 蓄電部、 E1~En セル、 10 漏電検出装置、 11 制御部、 11a 発振部、 11b 電圧測定部、 11c 漏電判定部、 Cc カップリングコンデンサ、 R1 第1抵抗、 R2 第2抵抗、 R3 第3抵抗、 R4 第4抵抗、 OP1 第1オペアンプ、 OP2 第2オペアンプ、 G1 ANDゲート、 ZD1 第1ツェナーダイオード、 ZD2 第2ツェナーダイオード、 S1 第1スイッチ、 S2 第2スイッチ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8