(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】窒化チタンベースの2層を含む太陽光制御グレージング
(51)【国際特許分類】
C03C 17/34 20060101AFI20240322BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20240322BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20240322BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20240322BHJP
E06B 9/24 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
B32B17/10
B60J1/00 J
C03C27/12 D
C03C27/12 L
C03C27/12 R
E06B9/24 A
(21)【出願番号】P 2021533348
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 FR2019053151
(87)【国際公開番号】W WO2020128327
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-21
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン-ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】レモン,ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】モンメラン,コランタン
(72)【発明者】
【氏名】シング,ローラ ジェーン
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特表平06-510382(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0186691(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/00-17/44,27/12,
B32B 17/06-17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層の積層体を備えた少なくとも1つのガラス基板を含む太陽光制御特性を有する車両または建物用グレージングにおいて、積層体が、前記基板の表面から連続的に、
- 厚みe
1の
窒化ケイ素をベースとする層かまたは累積厚みe
1の
窒化ケイ素をベースとする層のセットで構成された第1のモジュールM
1と、
- 5ナノメートルと35ナノメートルの間に含まれる厚みの窒化チタンを含む第1の層TN
1と、
- 厚みe
2の
窒化ケイ素をベースとする層かまたは累積厚みe
2の
窒化ケイ素をベースとする層のセットで構成された第2のモジュールM
2と、
- 5ナノメートルと35ナノメートルの間に含まれる厚みの窒化チタンを含む第2の層TN
2と、
- 厚みe
3の
窒化ケイ素をベースとする層かまたは累積厚みe
3の
窒化ケイ素をベースとする層のセットで構成された第3のモジュールM
3と、
を含み、
窒化チタンを含む層TN
1およびTN
2の厚みの累積和が30nm超であり、
e
1が30ナノメートル未満であり、e
2が10nmと100nmの間に含まれ、e
3が10ナノメートル超
かつ65nm以下であり、
厚みe
1/e
3の比が0.6未満である、
車両または建物用グレージング。
【請求項2】
第2のモジュールM
2の厚みe
2が、20nm以上65nm以下である、請求項1に記載の車両または建物用グレージング。
【請求項3】
第1のモジュールM
1の厚みe
1が、1nm以上25ナノメートル以下である、請求項1または2に記載の車両または建物用グレージング。
【請求項4】
第3のモジュールM
3の厚みe
3が、20nm以上65ナノメートル以下である、請求項1から3のいずれか一つに記載の車両または建物用グレージング。
【請求項5】
窒化チタンベースの第1の層の厚みTN
1が、10nm以上30ナノメートル以下である、請求項1から4のいずれか一つに記載の車両または建物用グレージング。
【請求項6】
窒化チタンベースの第2の層の厚みTN
2が、10nm以上30ナノメートル以下である、請求項1から5のいずれか一つに記載の車両または建物用グレージング。
【請求項7】
厚み比e
1/e
3が0.55未満である、請求項1から6のいずれか一つに記載の車両または建物用グレージング。
【請求項8】
積層体が、銀または金ベースの層を含んでいない、請求項1から7のいずれか一つに記載の車両または建物用グレージング。
【請求項9】
M
1およびM
2が単一の層である、請求項1から
8のいずれか一つに記載の車両または建物用グレージング。
【請求項10】
ガラス基板が透明ガラス製である、請求項1から
9のいずれか一つに記載の車両または建物用グレージング。
【請求項11】
前記
積層体が、基板の表面から、
-
1nmと25nmの間に含まれる厚みe
1の窒化ケイ素ベースの第1の層M
1、
- 10nmと30ナノメートルの間に含まれる厚みの窒化チタンを含む第1の層、
- 20nmと65nmの間に含まれる厚みe
2の窒化ケイ素ベースの第2の層M
2、
- 10ナノメートルと30ナノメートルの間に含まれる厚みの窒化チタンを含む第2の層、
- 10nm超、特に20nmと65ナノメートルの間の厚みe
3の窒化ケイ素ベースの第3の単一の層M
3
、
という一連の層を含
む、請求項1から
10のいずれか一つに記載の車両または建物用グレージング。
【請求項12】
前記グレージングが熱可塑性シートにより組立てられた2枚のガラス基板を含み、前記グレージングが前記層の積層体を備え、前記積層体
が前記グレージングの外部表面の方を向いた基板の面上に配置されている、請求項1から
11のいずれか一つに記載の車両または建物用グレージング。
【請求項13】
前記グレージングが原液着色され、特にPVB製の中間熱可塑性シートによって第2の基板に結合された第1のガラス基板を含み、前記第2の基板が透明ガラス製でか
つ前記グレージングの外部に向かって露出された面上に配置された前記層の積層体が備わっている、請求項
12に記載の車両または建物用グレージング。
【請求項14】
前記
少なくとも1つのガラス基板が焼き戻しまたは曲げ加工される、請求項1から
13のいずれか一つに記載の車両または建物用グレージング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる機能的な、すなわち本質的に近赤外(太陽光)放射線または遠赤外(熱)放射線の反射および/または吸収により太陽光放射線および/または熱放射線に作用する薄層の積層体が備わった、いわゆる太陽光制御の断熱グレージングに関する。本発明が特に目的としている利用分野は、まずサイドガラス、サンルーフ、リヤウインドウなどの車両のグレージングである。本発明の枠から逸脱することなく、当該グレージングは同様に太陽光制御グレージングとして、建築の分野においても利用可能である。
【背景技術】
【0002】
「機能」層さらには「能動」層とは、本出願の意味合いでは、積層体に対してその断熱特性の主要部分を付与する該積層体の層を意味する。多くの場合、グレージングを装備する薄層積層体は、グレージングに対して、極めて本質的に前記能動層の固有の特性によって著しく改善された断熱特性を付与する。前記層は、概して誘電材料製で多くの場合前記機能層の化学的または機械的保護を主たる役目とする他の層とは異なり、前記グレージングを通過する赤外熱放射線束に対して作用する。誘電材料とは、その不純物の無い塊状の形態により高い抵抗率、特に当初1010オーム・メートル(Ω・m)超の抵抗率を呈する材料を意味している。
【0003】
薄層の積層体を備えたこのようなグレージングは、本質的に単数または複数の機能層による入射放射線の吸収によってか、または本質的にこれらの同じ層による反射によって、入射太陽光放射線に対して作用する。
【0004】
これらのグレージングは、太陽光制御グレージングという呼称の下にまとめられる。これらのグレージングは、本質的に:
- 本質的に車室(自動車)または住宅を太陽光放射線から保護しその過熱を回避するため(このようなグレージングは業界ではソーラープロテクショングレージングと呼ばれている)、
- または、本質的に、住宅を断熱し熱損失を回避するため(このようなグレージングは、断熱グレージングと呼ばれている)
に市販され利用されている。
【0005】
したがって、本発明の意味合いにおいて、ソーラープロテクションとは、エネルギー束、特に住宅または車室の外部から内部へとグレージングを通過する太陽光赤外放射線(IRS)を制限するグレージングの能力を意味する。
【0006】
断熱とは、減少したエネルギー損失をグレージングに付与する少なくとも1つの機能層が備わったグレージングを意味し、前記層は、5マイクロメートルと50マイクロメートルの間に含まれるIR放射線の反射特性を有する。この機能において使用される機能層は、高いIR放射線反射係数を有し、低放射(英語ではlow-e)層と呼ばれる。
【0007】
一部の国においては、規格は、グレージングが建物用グレージングについてはソーラープロテクション特性および断熱特性を同時に有することを前提としている。
【0008】
自動車などの別の利用分野では、時として、車両の車室内または建物内に入る熱の量を制限すること、すなわちグレージングを通過する太陽光放射線のエネルギー透過を制限することが追求される。
【0009】
概して、本明細書中で提示される全ての光特性および熱特性は、それぞれ、建設用ガラスにおいて使用されるグレージングの光特性およびエネルギー特性の決定に関する国際規格ISO9050(2003)およびISO10292(1994)中に記載の原理および方法にしたがって得られる。
【0010】
一部の利用分野で同様に考慮に入れることのできる別の態様によると、コーティングは、それがガラス基板と結び付けられている場合、さらに美観的にも魅力的なものでなければならない。すなわち積層体の備わったグレージングは、色度測定システムCIE LAB(L*、a*、b*)において車両の乗員または建物の居住者に不快感を与えないように十分ニュートラルな、特に内部反射における色度測定を有していなければならない。特に、係数a*の値は、色が十分にニュートラルであるとみなされるためには0に近くなくてはならない。特に、内部反射での、すなわち積層体の側の係数a*(以下の説明においてはa*
cと記す)の過度に大きい値は、グレージングの強い着色を表わし、特に自動車の分野においては排除すべきである。このような目的で、パラメータa*
cが、-10と10の間に含まれ、さらには-5と5の間に含まれるガラス製品を得ることが優先的に探求される。
【0011】
コーティングは典型的には、多くの場合当該分野でマグネトロンスパッタリング技術と呼ばれる、材料陰極または被着すべき材料の前駆体の磁場により補助される真空下のスパッタリングタイプの被着技術によって被着される。このような技術は今日、特に、被着すべきコーティングが、数ナノメートルまたは数十ナノメートルの厚みの連続的層のより複雑な積層体で構成されている場合に、典型的に使用される。
【0012】
先の問題を解決するために現在市販されておりマグネトロンスパッタリング技術によって被着される最も高性能の積層体は、本質的に、入射するIR(赤外)放射線の大部分の反射様式に基づいて機能する銀タイプの金属層を包含する。こうして、これらの積層体は主として、建物の断熱用の低放射(または英語でlow-e)タイプのグレージングとして使用される。しかしながら、これらの層は湿気に極めて敏感であり、したがって、湿気から保護されるように専らダブルグレージング内でその面2または3で使用される。本発明に係る積層体は、銀タイプ、さらには金または白金タイプ、さらには銅タイプのこのような層を含まない。より一般的に、本発明に係る積層体は、このような貴金属を含有しないか、または極めて無視できるほどの量で、特に不可避的な不純物の形で含まれる。
【0013】
新規の積層体の開発は、いくつかの特定の利用分野または配置から必要となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
現在、特に自動車の分野において、改良された視覚的快適性をさらに提供するグレージング(例えばサイドグレージング、リヤウインドグレージングさらには例えばガラスルーフなど)が特に追求されている。このような要望に応えるための本発明の目的の1つは、前記グレージングを備えた車両の乗員または建物の居住者が昼間光で外部から見えないかまたはほとんど見えないものの自らの側からは遠慮なく外部環境を見ることができるように適応された断熱グレージングを提供することにある。
【0015】
さらに、自動車などの一部の特殊な利用分野については、本発明の補足的目的は、先の基準を満たし内部反射で比較的ニュートラルな色を有し、特に内部反射での係数a*(a*
c)が、-10と10の間に含まれ、さらには-5と5の間に含まれるグレージングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
出願人である会社が得た結果によると、先の課題は、以下で説明するようなガラス製品によって解決される。
【0017】
第1の態様によると、本発明は、層の積層体を支持する少なくとも1つのガラス基板を含む太陽光制御特性を有する車両または建物用グレージングにおいて、積層体が、前記基板の表面から連続的に:合計厚みe1の誘電材料をベースとする単数または複数の層で構成された第1のモジュールM1と、5ナノメートル(nm)と35ナノメートルの間に含まれる厚みの窒化チタンを含む第1の層TN1と、合計厚みe2の誘電材料をベースとする単数または複数の層で構成された第2のモジュールM2と、5nmと35nmの間に含まれる厚みの窒化チタンを含む第2の層TN2と、合計厚みe3の誘電材料をベースとする単数または複数の層で構成された第3のモジュールM3とを含み(またはこれらにより構成され)、窒化チタンを含む層TN1およびTN2の厚みの累積和が30nm超であり、e1が30ナノメートル未満であり、e2が10nmと100nmの間に含まれ、e3が10nm超であり、厚み比e1/e3が0.6未満である、車両または建物用グレージングに関する。
【0018】
特に層の積層体側の光反射(RLc)が5%未満で、光透過率とRLc間の差異が30%未満(測定は、前述の積層体が上に配置されている透明な1枚ガラスに対して行われている)であるこのような物品が、前述の技術的問題を効果的に解決できるということが発見された。
【0019】
当然のことながら場合によって互いに組合せることのできる本発明の好ましい実施形態によると:
- 第2のモジュールM2の厚みe2は、20nm以上65nm以下、好ましくは25nm以上60nm以下である。
- 第1のモジュールM1の厚みe1は、25nm未満、詳細には1nm以上25ナノメートル以下、好ましくは4nm以上20ナノメートル以下である。
- 第3のモジュールM3の厚みe3は、20nm以上65ナノメートル以下、好ましくは25nm以上60ナノメートル以下、そして極めて好ましくは30nm以上50ナノメートル以下である。
- 窒化チタンベースの第1の層の厚みTN1は、10nm以上30ナノメートル以下、好ましくは15nm以上25ナノメートル以下である。
- 窒化チタンベースの第2の層の厚みTN2は、10nm以上30ナノメートル以下である。
- 窒化チタンベースの第1の層および窒化チタンベースの第2の層の累積厚みTN1+TN2は60nm未満、好ましくは55nm未満である。
- 厚み比e1/e3は0.55未満である。
- コーティングは、銀または金ベースの層を含んでいない。
- モジュールM1、M2および好ましくはM3は、単一の層または窒化ケイ素を含む層を少なくとも1層有する層のセットの形で、窒化ケイ素を含む。
- M1は、窒化ケイ素を含む層を含む。
- M2は、窒化ケイ素を含む層を含む。
- M3は、窒化ケイ素を含む層を含む。
- 単数または複数のモジュールM1、M2またはM3は、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化錫、亜鉛と錫の混合酸化物、酸化ケイ素、酸化チタン、酸窒化ケイ素の中から選択された材料を含む。
- M1およびM2は単一の層である。
- M1およびM2およびM3は単一の層である。
- M1およびM2は窒化ケイ素ベースである。
- M1、M2およびM3は窒化ケイ素ベースである。
- M2は、窒化ケイ素ベースの単一の層であるかまたは本質的に窒化ケイ素で構成され、窒化チタンベースの層TN1およびTN2と直接接触している。
- 積層体が上に被着されているガラス基板は、透明ガラス製である。
- 前記コーティングは、基板の表面から:
- 好ましくは1nmと25nmの間に含まれる、好ましくは4nmと20nmの間に含まれる厚みe1の窒化ケイ素ベースの第1の層M1、
- 10nmと30ナノメートルの間に含まれる厚みの窒化チタンを含む第1の層、
- 20nmと65nmの間に含まれる、好ましくは25nmと60nmの間に含まれる厚みe2の窒化ケイ素ベースの第2の層M2、
- 10ナノメートルと30ナノメートルの間に含まれる厚みの窒化チタンを含む第2の層、
- 10nm超、特に20nmと65ナノメートルの間に含まれる、好ましくは25nmと60nmの間に含まれる厚みe3の窒化ケイ素ベースの第3の単一の層M3または、10nm超、特に25nmと60ナノメートルの間に含まれる厚みの窒化ケイ素ベースの層を少なくとも一層有する誘電層のセットM3、
という一連の層を含み、好ましくはこの一連の層で構成されている。
- グレージングは、熱可塑性シートにより組立てられた2つのガラス基板を含み、前記層の積層体を備え、前記積層体は好ましくは前記グレージングの外部表面の方を向いた基板の面上に配置されている。
- 先のグレージングは、好ましくは原液着色され、特にPVB製の中間熱可塑性シートによって第2の基板に結合された第1のガラス基板を含み、前記第2の基板は透明ガラス製でかつ好ましくは前記グレージングの外部に向かって露出された面上に配置された前記層の積層体が備わっている。原液着色とは、基板がそのガラス組成中に、着色(すなわち、いわゆる「透明」ガラスの着色とは異なる)を付与することを目的とした元素、特にその光透過率を減少させることをも目的とし得るコバルト、鉄、セレン、さらにはクロムなどの元素を含むことを意味する。
- 前記単数または複数のガラス基板は、焼き戻しまたは曲げ加工される。
【0020】
好ましくは、窒化チタン層は、窒化チタンをベースとしているか、またはさらに好ましくは本質的に窒化チタンで構成されている。
【0021】
本発明に係るチタンベースの層は、例えば50重量%超の窒化チタン、好ましくは80重量%超、さらには90重量%超の窒化チタンを含む。
【0022】
本発明に係る窒化チタンは、必ずしも化学量論的(Ti/N原子比1)ではなく、超化学量論的または準化学量論的であり得る。有利な一態様によると、N/Ti比は、1と1.2の間に含まれる。同様に本発明に係る窒化チタンは、少量の酸素、例えば1モル%と10モル%の間に含まれる酸素、特に1モル%と5モル%の間に含まれる酸素を含み得る。
【0023】
特に好ましい態様によると、本発明に係る窒化チタン製層は、一般式TiNxOyを満たし、式中1.00<x<1.20であり、0.01<y<0.10である。
【0024】
しかしながら、ひとたび薄層状に被着された誘電材料は、例えばマグネトロン標的を構成する前駆体材料の陰極スパッタリングの効率を改善するのに有利である、電気伝導率を著しく増大させる補足的元素を含むことができる。本発明に係るモジュールM1、M2およびM3の誘電層は、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化錫、亜鉛と錫の混合酸化物、酸化ケイ素、酸化チタン、酸窒化ケイ素の中から選択された材料をベースとする層であってよい。好ましくは、モジュールM1、M2およびM3は、単一の層で構成され、この層は窒化ケイ素ベースであるか、または本質的に窒化ケイ素で構成されている。窒化ケイ素、酸化錫、亜鉛と錫の混合酸化物、酸化ケイ素、酸化チタン、酸窒化ケイ素ベースの材料は、例えば大部分、例えば50重量%超、好ましくは80重量%超、さらには90重量%超がこのような化合物で構成されているものの、詳細にはカチオンの代用として、詳細には前述のようなマグネトロンスパッタリングの通常の技術による薄層の形でのその被着に有利に作用するための少量の他の元素も同様に含有し得る材料である。一例を挙げると、窒化ケイ素または酸窒化ケイ素さらには酸化ケイ素製の本発明に係る層、特にマグネトロンにより被着される層は、多くの場合、層のケイ素含有量に基づいて、例えば10原子%さらには時として20原子%にまで至る可能性のある割合で、Al、Zr、Bなどのタイプの元素を含む。同様にして、酸化チタン製層は、本発明の枠から逸脱することなく、ジルコニウムなどの他の金属カチオンをチタンの代用として含むことができる。
【0025】
本発明に係るグレージングは、シングルグレージングであり得、ここで、基板の面は装備される建物または車室の外部から内部に向かって付番され、薄層の積層体はシングルグレージングの面2に配置されている。
【0026】
特に自動車の分野での利用を目的とする別の実施形態によると、本発明に係るグレージングは、熱可塑性シートにより組立てられた2つのガラス基板を含む積層グレージングであり得、前記グレージングには前述の通りの層の積層体が備わっている。好ましくは、積層体は、装備される建物または車室の内部に向いた基板の面の上に被着される。
【0027】
前述の基板およびグレージングは、当然のことながら、場合によっては熱により焼き戻しされかつ/または曲げ加工され得る。
【0028】
本発明に係るグレージングの製造方法は、例えば、少なくとも以下のステップを含む:
- 陰極スパッタリング装置内にガラス基板を導入する、
- 第1の区画内で、少なくとも1つの誘電材料の下位層を被着させる、
- 後の区画内で、窒素を含む気体から生成されたプラズマを用いて、チタン製標的にスパッタリングを行う、
- 後の区画内で、少なくとも1つの誘電材料の中間層を被着させる、
- 後の区画内で、窒素を含む気体から生成されたプラズマを用いて、チタン製標的にスパッタリングを行う、
- 後の区画内で、少なくとも1つの誘電材料の上位層を被着させる。
【0029】
「下位層」および「上位層」なる用語により、本明細書中では、積層体内の単数または複数の機能層との関係における前記層のそれぞれの位置が言及されており、ここで前記積層体はガラス基板によって支持されている。詳細には、積層体が単一の下位層と単一の上位層を含む場合、下位層はガラス基板と接触している層であり、上位層は、基板の反対側に向けられた、積層体の最も外側の層である。
【0030】
「中間層」なる用語は、2つの機能層の間に配置された単数または複数の層を意味する。
【0031】
層の厚みとは、本発明の意味合いにおいて、特に電子顕微鏡等という従来の技術によって測定され得るような層の実際の幾何学的厚みを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明およびその利点は、本発明に係るおよび比較に関する以下の非限定的な実施例を用いて、以下でさらに詳細に説明される。全ての実施例および説明において、別段の規定の無いかぎり、提供されている厚みは、幾何学的厚みである。
【0033】
全ての基板は、Saint-Gobain Glass France社から市販されているPlaniclearタイプの厚み2mmの透明ガラス製である。全ての層は、公知の方法で、磁場により補助された(多くの場合マグネトロンと呼ばれる)陰極スパッタリングによって被着される。
【0034】
周知のように、異なる連続層は、陰極スパッタリング装置の連続的区画内で被着され、各区画には、積層体の特定の層の被着のために選択されたSi、Ti製の特定的金属標的が備わっている。
【0035】
より厳密には、窒化ケイ素製の層は、窒素を含有する反応性雰囲気中で、(8質量%のアルミニウムでドープされた)金属ケイ素標的から装置の区画内で被着される。したがって、窒化ケイ素製の層は同様に、アルミニウムも含有する。
【0036】
窒化チタン製の層は、窒素とアルゴンを含有する反応性雰囲気中で、金属純チタン標的から装置の他の区画内で被着される。
【0037】
このような層のマグネトロンによる被着の条件は、当該分野においては技術的に周知である。
【0038】
したがって、以下の実施例において、ガラス基板は、2つの窒化チタン製の機能層(以下では、たとえ層の実際の化学量論が必然的にTiNでなくても便宜上TiNと記される)および下位層(第1の層M1)、上位層(第3の層M3)および窒化ケイ素製の中間層(第2の層M2)(以下では、たとえ層の実際の化学量論が必然的にSi3N4でなくても便宜上Si3N4と記される)で連続的に被覆されている。
【0039】
被着条件は、一連の層およびそれらの厚み(ナノメートルnm単位)が以下の表1に示されている異なる積層体を得るように、マグネトロン被着のための従来の技術にしたがって調整された。
【0040】
【0041】
A- グレージングの特性の測定
グレージングの熱的および光学的特性は、以下の原理および規格にしたがって測定された。
【0042】
1)光学的特性:
測定は、欧州規格ISO9050(2003)にしたがって実施される。より厳密には、光透過率TLおよび積層体の側の光反射率RLcは、光源D65にしたがって380nmと780nmの間で測定される。
【0043】
パラメータa*
c(内部反射で積層体側)は、色度測定モデル(L、a*、b*)にしたがって測定される。
【0044】
2)熱的特性:
グレージングの断熱特性は、規格ISO10292(1994)、付属書Aに記載の条件にしたがって、層の積層体が被覆された基板の内部面上で測定された垂直入射放射率εnを決定することによって評価される。
【0045】
光透過率TL、a*
c、反射率RLcおよび垂直放射率εn(百分率単位)の値は、積層体を備えたグレージングについて測定される。
【0046】
B- 結果
前述の実施例に係るモノリシックグレージングについて得た結果は、下表2にまとめられている。
【0047】
【0048】
本発明によって得られるシングルグレージング(実施例1~3)は、非常に低い光反射率(5%未満)を有し、それでいて光透過率は、TLとRLcの間の比較的小さい差が示すように過度に高くない、ということが分かる。このような特性により、このようなグレージングは、このようなグレージングが装備された車両または建物の占有者が車両の外部から邪魔されずに見ることができるようにする用途に適したものとなっている。
【0049】
実施例4~6は、探求されている利用分野においては望ましくないミラー効果をグレージングに付与する過度に大きな反射を提示している。
【0050】
実施例7は、特に以下で説明するような自動車の用途における前述の意味合いでの最適な視覚的快適性を保証しない過度に大きなTLとRLcの間の差を提示している。その上、この強いTLには必然的にエネルギー透過率TEの著しい増加が随伴し、これは強い日照の条件下で車室の非常に急速な過熱をひき起こし得る。
【0051】
実施例7はさらに、過度に大きいそのパラメータa*
cの値を提示しており、これは、一部の利用分野、特に自動車の分野において望ましくない、占有者の目に見えるグレージングの強烈な着色を表わすものである。
【0052】
自動車用のサンルーフを得ようとする以下の補足的実施例によると、実施例1~7のシングルグレージングは、原液着色され出願人である会社によってVenus VG10(登録商標)(約10%のTL)で市販されている厚み2mmのグレージングで組立てられている。組立ては、層の積層体がこのようにして得られる積層グレージングの外部側にあるような形で、厚み0.38mmの無着色のポリビニルブチラール(PVB)シートを用いて得られる。
【0053】
最終的積層グレージング上で、前述のようにパラメータRLcおよびTLが測定される。結果は、下表3に示されている。
【0054】
【0055】
表3中で示されている本発明に係るグレージングの光学特性およびエネルギー特性は、自動車用のガラスルーフのようなその用途にとって理想的であり、非常に低いTLおよびRLcを組合わせるものである。実施例4~6に係るグレージングの使用は、過度に強い光反射の形で現われる。このような利用分野にとって、実施例7のグレージングのTLは、やや過度に高いと思われる。
【0056】
モノリシックグレージングの場合と同様に、実施例7に係る積層グレージングはさらに、自動車の分野のような一部の利用分野においては望ましくない、強い着色を表わす過度に大きなそのパラメータa*
cの値を有する。