(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】エルゴチオネイン又はその塩を含有する睡眠改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4164 20060101AFI20240322BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240322BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20240322BHJP
【FI】
A61K31/4164
A61P25/20
A23L33/175
(21)【出願番号】P 2021554250
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2020037973
(87)【国際公開番号】W WO2021085062
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019195440
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】勝部 諒
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 斉志
(72)【発明者】
【氏名】若林 賢一
(72)【発明者】
【氏名】村山 宣人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康介
(72)【発明者】
【氏名】楯林 義孝
(72)【発明者】
【氏名】松田 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】小澤 信幸
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 たき子
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-036695(JP,A)
【文献】特開2006-151816(JP,A)
【文献】特開2009-126863(JP,A)
【文献】特開2014-193844(JP,A)
【文献】Neuroscience,2005年,Vol.130, Issue 4,p.1029-1040
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4164
A61P 25/20
A23L 33/175
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-エルゴチオネイン又はその塩を有効成分として含有
し、入眠潜時の短縮、中途覚醒の時間及び回数の減少、並びに、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合の増加からなる群より選択される1以上の睡眠改善のために使用される、睡眠改善用組成物。
【請求項2】
経口用組成物である請求項
1に記載の睡眠改善用組成物。
【請求項3】
飲食品である請求項1
又は2に記載の睡眠改善用組成物。
【請求項4】
L-エルゴチオネイン又はその塩を投与する睡眠改善方法
であって、睡眠改善が、入眠潜時の短縮、中途覚醒の時間及び回数の減少、並びに、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合の増加からなる群より選択される1以上である、睡眠改善方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項5】
睡眠を改善するための、L-エルゴチオネイン又はその塩の使用
であって、睡眠改善が、入眠潜時の短縮、中途覚醒の時間及び回数の減少、並びに、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合の増加からなる群より選択される1以上である、使用(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠改善用組成物に関する。本発明はまた、睡眠改善方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠は、人生の約3分の1を占める重要な生理的活動である。近年では、生活リズムの乱れ、ストレス、高齢者の増加等により、睡眠の質に不満を感じる人が増加している。睡眠の質の低下には、入眠潜時の延長(寝つきが悪くなる)、早朝覚醒(朝早くに目が覚めてしまう)、中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)、熟眠不全(よく眠った感じがしない、眠りが浅かったような感じがする)といった症状がある。
【0003】
睡眠の質を改善するために、睡眠薬による治療も行われている。しかしながら睡眠薬には副作用、服用に対する不安等の課題があることから、睡眠の質を改善することができる食品由来の物質の開発が行われている。例えば特許文献1にはメントール及びその配糖体からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、経口睡眠改善剤が記載されている。
【0004】
エルゴチオネインは、キノコ等に含まれるアミノ酸であり、天然にはL体が存在する。特許文献2には、茸から抽出されるエルゴチオネインを有効成分とするパネト細胞において抗微生物物質の産生および/または分泌を促進する剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-6717号公報
【文献】特開2012-180329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2には、L-エルゴチオネイン又はその塩が睡眠改善に有効であることは記載されていない。
【0007】
本発明は、安全性が高い物質を有効成分として含有する睡眠改善用組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、睡眠改善方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、L-エルゴチオネインが睡眠改善作用を有することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の睡眠改善用組成物などに関する。
〔1〕L-エルゴチオネイン又はその塩を有効成分として含有する睡眠改善用組成物。
〔2〕睡眠改善が、入眠潜時の短縮、中途覚醒の時間及び回数の減少、並びに、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合の増加からなる群より選択される1以上である上記〔1〕に記載の睡眠改善用組成物。
〔3〕経口用組成物である上記〔1〕又は〔2〕に記載の睡眠改善用組成物。
〔4〕飲食品である上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の睡眠改善用組成物。
〔5〕L-エルゴチオネイン又はその塩を投与する睡眠改善方法。
〔6〕睡眠を改善するための、L-エルゴチオネイン又はその塩の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安全性が高い物質を有効成分として含有する睡眠改善用組成物が提供される。また、本発明によれば、睡眠改善方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、コントロール群(ストレス(-))、非投与群(ストレス(+)、エルゴチオネイン投与(-))及びエルゴチオネイン投与群(ストレス(+)、エルゴチオネイン投与(+))における、明期における各睡眠段階(ノンレム睡眠又はレム睡眠)の出現時間、及び、総睡眠時間を示すグラフである。
【
図2】
図2は、明期における各睡眠段階の断片化回数及び睡眠中の断片化回数の合計にL-エルゴチオネインが与える効果を評価した結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、コントロール群(ストレス(-))、非投与群(ストレス(+)、エルゴチオネイン投与(-))及びエルゴチオネイン投与群(ストレス(+)、エルゴチオネイン投与(+))の明期開始後に初めてノンレム睡眠が出現するまでの潜時を評価した結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、対照食品群及び被験食品群における、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠ステージ1(N1)の割合を示すグラフである。
【
図5】
図5は、対照食品群及び被験食品群における、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠ステージ2(N2)の割合を示すグラフである。
【
図6】
図6は、対照食品群及び被験食品群における、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠ステージ3(N3)の割合を示すグラフである。
【
図7】
図7は、対照食品群及び被験食品群における、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠ステージ割合の変化量を示すグラフである。
【
図8】
図8は、対照食品群及び被験食品群における、中途覚醒回数を示すグラフである。
【
図9】
図9は、対照食品群及び被験食品群における、中途覚醒回数の変化量を示すグラフである。
【
図10】
図10は、対照食品群及び被験食品群における、起床前2時間の中途覚醒回数を示すグラフである。
【
図11】
図11は、対照食品群及び被験食品群における、起床前2時間の中途覚醒回数の変化量を示すグラフである。
【
図12】
図12は、対照食品群及び被験食品群における、ノンレム睡眠潜時を示すグラフである。
【
図13】
図13は、対照食品群及び被験食品群における、ノンレム睡眠潜時の変化量を示すグラフである。
【
図14】
図14は、対照食品群及び被験食品群における、第1睡眠周期のδパワーを示すグラフである。
【
図15】
図15は、対照食品群及び被験食品群における、第1睡眠周期のδパワーの変化量を示すグラフである。
【
図16】
図16は、対照食品群及び被験食品群における、睡眠効率を示すグラフである。
【
図17】
図17は、対照食品群及び被験食品群における、睡眠効率の変化量を示すグラフである。
【
図18】
図18は、対照食品群及び被験食品群における、睡眠時間を示すグラフである。
【
図19】
図19は、対照食品群及び被験食品群における、睡眠時間の変化量を示すグラフである。
【
図20】
図20は、対照食品群及び被験食品群における、血漿中L-エルゴチオネイン濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の睡眠改善用組成物は、L-エルゴチオネイン又はその塩を有効成分として含有する。
本発明において睡眠改善とは、睡眠の質を改善すること、及び/又は、睡眠時間を増加させることを指す。本発明の睡眠改善用組成物は、L-エルゴチオネイン又はその塩を有効成分として含有することにより、睡眠の質を改善することができる。また、一態様において、L-エルゴチオネイン又はその塩は、睡眠時間を増加させるために有効である。本発明の睡眠改善用組成物は、睡眠の質を改善するため及び/又は睡眠時間を増加させるために使用することができる。一態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、睡眠の質を改善するために好ましく使用される。L-エルゴチオネイン又はその塩は、天然物や飲食品に含まれ、食経験がある化合物である。このため安全性の観点から、L-エルゴチオネイン又はその塩は、例えば長期摂取することにも問題が少ないと考えられる。
【0013】
L-エルゴチオネインの塩としては、薬理学的に許容される塩又は飲食品に許容される塩であれば特に限定されず、酸性塩及び塩基性塩のいずれであってもよい。酸性塩として、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、プロピオン酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。塩基性塩として、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0014】
L-エルゴチオネイン又はその塩は、化学合成品を使用してもよく、天然物から抽出及び精製したものを使用してもよい。L-エルゴチオネインは、ヒラタケ科ヒラタケ属のキノコであるタモギタケ(Golden/Yellow Oyster mushroom)(学名:Pleurotus cornucopiae var. citrinopileatus)に多く含有される。L-エルゴチオネインは、ホワイトボタンマッシュルーム、クリミニマッシュルーム、ポータベラ(Portabella)マッシュルーム等のツクリタケ(学名:Agaricus bisporus)、ヒラタケ(Grey Oyster Mushroom)(学名:Pleurotus ostreatus)、シイタケ(学名:Lentinula edodes)、マイタケ(学名:Grifola Frondosa)、レイシ(学名:Ganoderma lucidum)、ヤマブシタケ(学名:Hericium erinaceus)、ヤナギマツタケ(学名:Agrocybe aegerita)、アンズタケ(学名:Cantharellus cibarius)、ポルチーニ(学名:Boletus edulis)、アミガサダケ(学名:Morchella esculenta)等のキノコにも含まれる。天然物からL-エルゴチオネインを得る場合は、タモギタケから抽出等することが好ましい。L-エルゴチオネイン又はその塩は、微生物発酵で製造することもできる。微生物発酵で作られるL-エルゴチオネイン又はその塩を含むエキス又はこれから精製したものを使用してもよい。天然物などからの抽出及び精製は、公知の方法によって実施することができる。L-エルゴチオネイン又はその塩は、単離されたものであってもよい。本発明においては、本発明の効果を奏することになる限り、L-エルゴチオネイン又はその塩を含むキノコの抽出物等を本発明の組成物に含有させてもよい。
【0015】
本発明における睡眠の質の改善として、入眠潜時(覚醒状態から眠りに入るまでの時間)を短縮すること、中途覚醒の回数及び時間を減少させること、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠(非急速眼球運動睡眠)時間の割合を増加させること等が挙げられる。本発明における睡眠の質は、例えば、入眠潜時、中途覚醒の回数及び時間又は睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合を指標として評価することができる。睡眠の質は、ノンレム睡眠潜時(初めてノンレム睡眠が出現するまでの潜時)を指標として評価することもできる。ノンレム睡眠時間や入眠潜時を評価する手法としては、ヒトの場合、例えば、脳波計等による非侵襲的な測定方法が挙げられる。本発明による睡眠改善効果は、例えば、被験者又は被験動物(マウス、ラット等)に本発明の睡眠改善用組成物を経口摂取させ又は経口投与し、該経口摂取又は経口投与後の睡眠の質又は睡眠時間を上述の手法などで調べることによって、評価することができる。
【0016】
後記の実施例に示すように、ストレスを負荷したラットでは睡眠の質が低下し、入眠潜時の延長、中途覚醒の回数及び時間の増加、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の減少(レム睡眠(急速眼球運動睡眠)時間の増加)が観察された。L-エルゴチオネインを経口摂取させたラットでは、ストレス負荷により延長された入眠潜時が短縮された。またL-エルゴチオネインの摂取により、中途覚醒の回数及び時間が減少した。L-エルゴチオネインは、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合を増加させた。
また、後記の実施例では、被験者にL-エルゴチオネインを含有する食品を摂取させて、睡眠中の脳波を測定して睡眠の質及び睡眠時間の評価を行った。その結果、L-エルゴチオネインを摂取すると、摂取しない場合と比較して睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合が増加した。また、L-エルゴチオネインの摂取により、中途覚醒の回数及び時間が減少した。L-エルゴチオネインは、ノンレム睡眠潜時を短縮して入眠潜時を短縮する作用を有した。さらに、L-エルゴチオネインの摂取により、ノンレム睡眠ステージ3の割合が増加する傾向、第1睡眠周期のδパワー値が増加する傾向が観察され、深い睡眠の割合が増加した。L-エルゴチオネインの摂取によって、睡眠効率等も改善された。また、L-エルゴチオネインを摂取すると睡眠時間が増加した。
従ってL-エルゴチオネイン又はその塩は、睡眠を改善する作用を有し、睡眠改善用組成物の有効成分として使用され得る。
【0017】
一態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、入眠潜時の短縮、中途覚醒の時間及び回数の減少、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合の増加、並びに、睡眠時間の増加からなる群より選択される1以上の睡眠改善のために使用することができる。一態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、入眠潜時の短縮、中途覚醒の時間及び回数の減少、並びに、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合の増加からなる群より選択される1以上の睡眠改善のために好ましく使用することができる。また、L-エルゴチオネイン又はその塩は、ストレスにより低下した睡眠の質の改善、例えば、ストレスにより増加した入眠潜時の短縮、ストレスにより増加した中途覚醒の回数及び時間の減少、並びに、ストレスにより減少した、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の増加からなる群より選択される1以上の睡眠改善のために使用することができる。ノンレム睡眠は、睡眠の深さによって、例えば、ステージ1~3の3段階に分けることができる。ステージ3が深い睡眠である。本発明において、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合の増加は、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間全体の割合の増加、及び/又は、ノンレム睡眠ステージ3の割合の増加であってよい。一態様において、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合の増加は、好ましくは、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠ステージ3の割合の増加である。ノンレム睡眠のステージ1~3は、睡眠脳波から判別することができる。本発明において、ノンレム睡眠ステージ1、2及び3は、スリープウェル株式会社の脳波計「スリープスコープ」(製品名)を用いた脳波測定又は当該脳波計を用いる方法と同等の脳波測定方法において、睡眠の深さによって分けられる、ノンレム睡眠ステージ1、2及び3を指す。本発明の睡眠改善用組成物は、例えば、寝つきがよくない、眠りが浅いといった睡眠に関する不満を解消すること(寝つき改善、熟眠不全(熟眠障害)の改善等)に優れた効果を示す。
本発明の睡眠改善用組成物は、例えば、睡眠障害等の状態又は疾患の予防又は改善のために使用することができる。睡眠障害は、ストレスによる睡眠障害であってよい。睡眠障害には、不眠症等の睡眠異常が含まれる。不眠症とは、入眠障害(入眠困難)、中途覚醒、早朝覚醒及び熟眠不全のいずれかの症状があることをいう。不眠症は、ストレスによる不眠症であってよい。一態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒及び熟眠不全からなる群より選択される1以上の不眠の状態を改善するために使用することができる。一態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、中途覚醒を改善するため、特に、中途覚醒の時間及び回数を減少させるために好ましく使用することができる。
状態又は疾患の予防は、発症を防止すること、発症を遅延させること、発症率を低下させること、発症のリスクを軽減すること等を包含する。状態又は疾患の改善は、対象を状態又は疾患から回復させること、状態又は疾患の症状を軽減すること、状態又は疾患の症状を好転させること、状態又は疾患の進行を遅延させること、防止すること等を包含する。
【0018】
本発明の睡眠改善用組成物は、治療的用途(医療用途)又は非治療的用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。非治療的とは、医療行為、すなわち人間の手術、治療又は診断を含まない概念である。
本発明の睡眠改善用組成物は、例えば、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等の形態とすることができる。本発明の睡眠改善用組成物は、それ自体が睡眠改善のための飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等であってもよく、これらに配合して使用される素材又は製剤等であってもよい。
本発明の睡眠改善用組成物は、一例として、剤の形態で提供することができるが、本形態に限定されるものではない。当該剤をそのまま組成物として、又は、当該剤を含む組成物として提供することもできる。一態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、睡眠改善剤ということもできる。
本発明の効果を充分に得る観点から、本発明の睡眠改善用組成物は、好ましくは経口用組成物である。経口用組成物としては、飲食品、経口用の医薬品、医薬部外品、飼料が挙げられ、好ましくは飲食品又は経口用医薬品であり、より好ましくは飲食品である。
【0019】
本発明の睡眠改善用組成物は、本発明の効果を損なわない限り、L-エルゴチオネイン又はその塩に加えて、任意の添加剤、任意の成分を含有することができる。これらの添加剤及び成分は、組成物の形態等に応じて選択することができ、一般的に飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等に使用可能なものが使用できる。睡眠改善用組成物を飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等とする場合、その製造方法は特に限定されず、一般的な方法により製造することができる。
【0020】
例えば本発明の睡眠改善用組成物を飲食品とする場合、L-エルゴチオネイン又はその塩に、飲食品に使用可能な成分(例えば、食品素材、必要に応じて使用される食品添加物等)を配合して、種々の飲食品とすることができる。飲食品は特に限定されず、例えば、一般的な飲食品、健康食品、健康飲料、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品、病者用飲食品等が挙げられる。上記健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品等は、例えば、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、シロップ剤、液剤、流動食等の各種製剤形態とすることができる。
【0021】
本発明の睡眠改善用組成物を医薬品又は医薬部外品とする場合、例えば、L-エルゴチオネイン又はその塩に、薬理学的に許容される担体、必要に応じて添加される添加剤等を配合して、各種剤形の医薬品又は医薬部外品とすることができる。そのような担体、添加剤等は、医薬品又は医薬部外品に使用可能な、薬理学的に許容されるものであればよく、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤等の1又は2以上が挙げられる。医薬品又は医薬部外品の投与形態としては、経口又は非経口投与の形態が挙げられるが、本発明の効果をより充分に得る観点から、経口投与の形態が好ましい。本発明の睡眠改善用組成物を医薬品又は医薬部外品とする場合、経口用医薬品又は医薬部外品とすることが好ましい。経口投与のための剤形としては、液剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁液、乳剤、チュアブル剤等が挙げられる。非経口投与のための剤形としては、注射剤、点滴剤等が挙げられる。医薬品及び医薬部外品は、非ヒト動物用であってもよい。
【0022】
本発明の睡眠改善用組成物を飼料とする場合には、L-エルゴチオネイン又はその塩を飼料に配合すればよい。飼料には飼料添加剤も含まれる。飼料としては、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料;ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料;犬、猫、小鳥等に用いるペットフードなどが挙げられる。
【0023】
本発明の睡眠改善用組成物に含まれるL-エルゴチオネイン又はその塩の含有量は特に限定されず、その形態等に応じて設定することができる。
本発明の睡眠改善用組成物中のL-エルゴチオネイン又はその塩の含有量は、例えば、組成物中にL-エルゴチオネイン換算で0.0001重量%以上が好ましく、0.001重量%以上がより好ましく、また、90重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。一態様において、L-エルゴチオネイン又はその塩の含有量は、睡眠改善用組成物中にL-エルゴチオネイン換算で0.0001~90重量%が好ましく、0.001~50重量%がより好ましい。一態様において、本発明の睡眠改善用組成物を飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等とする場合、L-エルゴチオネイン又はその塩の含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0024】
本発明の睡眠改善用組成物は、その形態に応じた適当な方法で摂取又は投与することができる。本発明の効果を充分に得る観点から、本発明の睡眠改善用組成物は、好ましくは、経口で摂取(経口投与)されることが好ましい。本発明の睡眠改善用組成物の摂取量(投与量ということもできる)は特に限定されず、睡眠改善効果(一態様において、好ましくは睡眠の質の改善効果)が得られるような量であればよく、投与形態、投与方法、対象の体重などに応じて適宜設定すればよい。
【0025】
一態様において、本発明の睡眠改善用組成物を、ヒト(成人)を対象に経口で摂取させる又は投与する場合、L-エルゴチオネイン又はその塩の摂取量は、1日当たり体重60kgで、L-エルゴチオネイン換算で好ましくは1mg以上、より好ましくは5mg以上、さらに好ましくは10mg以上、また、好ましくは500mg以下、より好ましくは200mg以下、さらに好ましくは100mg以下、特に好ましくは50mg以下である。一態様において、ヒト(成人)を対象に経口で摂取させる又は投与する場合、L-エルゴチオネイン又はその塩の摂取量は、1日当たり体重60kgで、L-エルゴチオネイン換算で50mg未満又は45mg以下とすることもできる。一態様において、ヒト(成人)を対象に経口で摂取させる又は投与する場合、L-エルゴチオネイン又はその塩の摂取量は、L-エルゴチオネイン換算で、1日当たり体重60kgで、好ましくは1~500mg、より好ましくは5~200mg、さらに好ましくは10~100mg、特に好ましくは10~50mgである。L-エルゴチオネイン又はその塩の摂取量は、1日当たり体重60kgで、L-エルゴチオネイン換算で10mg以上、50mg未満であってもよく、10~45mgであってもよい。上記量を、1日1回以上、例えば、1日1回で又は数回(例えば2~3回)に分けて、摂取させる又は投与することが好ましい。本発明の一態様において、睡眠改善用組成物は、ヒトに、体重60kgあたり、1日あたり上記量のL-エルゴチオネイン又はその塩を摂取させる又は投与するための経口用組成物であってよい。
一態様において、本発明の睡眠改善用組成物を、ヒト(成人)に非経口投与する場合、L-エルゴチオネイン又はその塩の投与量は、1日当たり体重60kgで、L-エルゴチオネイン換算で、例えば1~500mgが好ましく、5~200mgがより好ましく、10~100mgがさらに好ましく、10~50mgが特に好ましい。ヒト(成人)に非経口投与する場合、L-エルゴチオネイン又はその塩の投与量は、1日当たり体重60kgで、L-エルゴチオネイン換算で、10mg以上、50mg未満であってもよく、10~45mgであってもよい。
【0026】
L-エルゴチオネイン又はその塩は、継続的に摂取又は投与されることによって、より優れた睡眠改善効果が発揮されることが期待される。従って好ましい態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、継続して摂取又は投与されるものである。本発明の一実施態様において、睡眠改善用組成物は、好ましくは1週間以上、より好ましくは2週間以上継続して摂取又は投与されることがより好ましい。
【0027】
本発明の睡眠改善用組成物を摂取させる又は投与する対象(投与対象ということもできる)は、特に限定されない。対象は、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
本発明の睡眠改善用組成物を摂取させる又は投与する対象として、睡眠改善を必要とする又は希望する対象、例えば、睡眠の質の改善を必要とする又は希望する対象、睡眠時間の増加を必要とする又は希望する対象等が挙げられる。投与対象として、例えば、睡眠の質が低下しているヒト(好ましくは、ストレスにより睡眠の質が低下しているヒト)、より質のよい睡眠を必要とする又は希望する健常者などが挙げられる。一態様において、投与対象として、睡眠障害を有する対象(好ましくは睡眠障害を有するヒト)、不眠症の対象(好ましくは、不眠症のヒト)が挙げられる。投与対象として、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒及び熟眠不全からなる群より選択される1以上の不眠の状態を有するヒト、当該状態の改善を必要とする又は希望するヒト等も挙げられる。
【0028】
本発明の睡眠改善用組成物には、睡眠改善により発揮される機能の表示が付されていてもよい。本発明の睡眠改善用組成物には、例えば、「目覚めたときの眠気を軽減」、「睡眠の質向上」、「寝つきの改善」、「熟眠感の改善」、「起床時の満足感」及び「疲労感の回復」等の1又は2以上の機能の表示が付されていてもよい。
本発明の一態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、上記の表示が付された飲食品であることが好ましい。また上記の表示は、上記の機能を得るために用いる旨の表示であってもよい。
【0029】
本発明は、以下の方法及び使用も包含する。
L-エルゴチオネイン又はその塩を摂取させる又は投与する、睡眠改善方法。
睡眠を改善するための、L-エルゴチオネイン又はその塩の使用。
上記方法及び使用は、治療的な方法又は使用であってもよく、非治療的な方法又は使用であってもよい。L-エルゴチオネイン又はその塩を対象に摂取させる又は投与すると、睡眠の質を改善することができる。また、一態様においては、L-エルゴチオネイン又はその塩を摂取させる又は投与すると、睡眠時間を増加させることができる。好ましくは、L-エルゴチオネイン又はその塩を経口で摂取させる又は投与する。上記方法は、入眠潜時の短縮、中途覚醒の時間及び回数の減少、並びに、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合の増加からなる群より選択される1以上のための方法であってよい。上記使用は、入眠潜時の短縮、中途覚醒の時間及び回数の減少、並びに、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合の増加からなる群より選択される1以上のための使用であってよい。
【0030】
上記の方法及び使用において、L-エルゴチオネイン又はその塩、その好ましい態様等は、上述した本発明の睡眠改善用組成物と同じである。上記方法及び使用においては、1日に1回以上、例えば、1日1回~数回(例えば2~3回)、L-エルゴチオネイン又はその塩を対象に摂取させる又は投与することが好ましい。上記の使用は、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物、より好ましくはヒトにおける使用である。一態様において、L-エルゴチオネイン又はその塩は、例えば、睡眠障害の予防又は改善のために使用することができる。L-エルゴチオネイン又はその塩は、不眠症の予防又は改善のために使用することができる。L-エルゴチオネイン又はその塩は、例えば、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒及び熟眠不全からなる群より選択される1以上の不眠の状態を改善するために使用することができる。本発明は、L-エルゴチオネイン又はその塩を摂取させる又は投与する、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒及び熟眠不全からなる群より選択される1以上の不眠の状態を改善する方法も包含する。
【0031】
上記方法及び使用においては、睡眠改善効果が得られる量(有効量ということもできる)のL-エルゴチオネイン又はその塩を使用すればよい。L-エルゴチオネイン又はその塩の好ましい投与量や投与対象等は上述した本発明の睡眠改善用組成物と同じである。L-エルゴチオネイン又はその塩は、そのまま摂取又は投与してもよく、これを含む組成物として摂取又は投与してもよい。例えば、本発明の睡眠改善用組成物を摂取又は投与してもよい。
また、L-エルゴチオネイン又はその塩は、睡眠改善のために使用される飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等の製造のために使用することができる。一態様において、本発明は、睡眠改善用組成物を製造するための、L-エルゴチオネイン又はその塩の使用も包含する。
本発明は、睡眠改善のために使用される、L-エルゴチオネイン又はその塩;睡眠障害の予防又は改善のために使用される、L-エルゴチオネイン又はその塩;不眠症の予防又は改善のために使用される、L-エルゴチオネイン又はその塩;入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒及び熟眠不全からなる群より選択される1以上の不眠の状態を改善するために使用されるL-エルゴチオネイン又はその塩;睡眠改善のために使用される、L-エルゴチオネイン又はその塩を含む組成物;睡眠障害の予防又は改善のために使用される、L-エルゴチオネイン又はその塩を含む組成物;不眠症の予防又は改善のために使用される、L-エルゴチオネイン又はその塩を含む組成物;入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒及び熟眠不全からなる群より選択される1以上の不眠の状態を改善するために使用されるL-エルゴチオネイン又はその塩を含む組成物も包含する。上記組成物は、上記の睡眠改善用組成物であってよく、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等であってよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、これにより本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
一連の動物実験は、動物愛護管理法他関連法令を遵守し、所属機関に設置された動物実験委員会の審査を経て機関の長が承認した計画に基づき実施した。
【0034】
<実施例1>
(ストレス性睡眠障害モデル)
下記の方法で、エルゴチオネイン投与群(N=5)及び非投与群(N=7)のラットにストレス負荷を行った。試験期間中は、12時間明暗周期で飼育した。
Sprague Dawley(SD)ラット(8週齢)を、より身体が大きく攻撃性の高い大型のBrown Norway(BN)ラットが飼育されているケージの中に侵入させた。10分間にわたって、2匹のラットをケージで同居させて、BNラットがSDラットを追跡したり、覆い被さったりするなどの接触をしたこと(直接的接触)を確認し、その後、SDラットとBNラットを透明の小穴の開いたしきり板で隔てた飼育ケージの中で24時間一緒に滞在させた(間接的接触)。翌日も同様の方法でストレス負荷を行い、ストレッサーであるBNラットは前日とは別の個体を使用した。この条件にて、1日1回5日間(月~金曜日)連続でストレス負荷を行った後、週末の2日間は間接的接触のみ行う方法を用い、これを2クール行った。
したがって、直接的接触と間接的接触を組み合わせた条件によるストレス負荷は合計10回実施し、ストレスは計12日間与えた。
【0035】
(L-エルゴチオネインの投与)
エルゴチオネイン投与群には、ストレス負荷の7日前からストレス負荷終了時まで、L-エルゴチオネインを経口投与した。L-エルゴチオネインは、水に溶解させた水溶液(L-エルゴチオネイン濃度0.25mg/mL)を使用して投与した。L-エルゴチオネインの投与量は、1日あたり、体重1kgあたり約20mgとした。非投与群には、L-エルゴチオネイン水溶液の代わりに水を経口投与した。
コントロール(ストレス(-))群(N=4)には、上記のストレス負荷を行わず、水を経口投与した。
【0036】
(睡眠脳波測定)
ラットに脳波を記録するための電極埋込手術を実施し、ストレス負荷終了後に24時間の睡眠覚醒脳波を記録した。得られた脳波から、生体信号解析ソフトウェアSpike2(CED社製)によりノンレム睡眠(NREM)、レム睡眠(REM)、覚醒の状態を判別し、これらの出現時間を算出した。有意差検定は、Tukey’s multiple comparisons testにより行った(*:P<0.05、**:P<0.005、****:P<0.0001)。
【0037】
(結果)
図1、
図2及び
図3に結果を示す。
図1~
図3中、「ストレス(-)」は、コントロール群(ストレスを負荷しなかった群)、「ストレス(+)、エルゴチオネイン投与(-)」は、非投与群(ストレスを負荷し、L-エルゴチオネインを投与しなかった群)、「ストレス(+)、エルゴチオネイン投与(+)」は、エルゴチオネイン投与群(ストレスを負荷し、L-エルゴチオネインを投与した群)を指す。
図1~
図3に示す結果は、各群の平均値±標準誤差である。白がコントロール群、黒が非投与群、網掛けがエルゴチオネイン投与群である。
図1に各群の明期における各睡眠段階(ノンレム睡眠又はレム睡眠)の出現時間、及び、総睡眠時間を示す。明期において、ストレス負荷によりノンレム睡眠(NREM)の出現時間は減少しており、逆に、レム睡眠(REM)はコントロール群に比べて出現時間が増加した。L-エルゴチオネインの投与により、これらの現象は、ストレスを負荷していないコントロール群レベルに改善した(
図1)。L-エルゴチオネインの投与により、ストレスにより減少した睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合が増加した。「総睡眠時間(sleep duration)」は、睡眠中の覚醒時間を除いて、純粋に眠った時間のみを指す。「睡眠時間全体(total sleep time)」は、総睡眠時間に睡眠中の覚醒時間を含めた時間である。ラットにおける総睡眠時間は、ヒトにおいては、睡眠時間全体とみなすことができる。
図2に、明期における各睡眠段階の断片化回数(ノンレム睡眠又はレム睡眠における断片化回数)及び睡眠中の断片化回数の合計の数値を示す。
図2の「総睡眠」は、睡眠中の断片化回数の合計を示す。レム睡眠においてはコントロール群に比べてストレスを負荷した非投与群で断片化が促進しており、エルゴチオネイン投与群はコントロール群と同程度まで断片化が改善した(
図2)。
図3に、明期開始後に初めてノンレム睡眠が出現するまでの群別潜時(秒)を示す。ラットにおけるノンレム睡眠潜時は、入眠潜時とみなすことができる。コントロール群に比べて、非投与群では入眠潜時が延長したが、L-エルゴチオネインの投与は入眠潜時の延長を短縮する作用を示した(
図3)。
L-エルゴチオネインの投与により、ストレス負荷により延長された入眠潜時が、ストレスを負荷していないコントロール群と同程度のレベルに改善された。
【0038】
<実施例2>
(ヒトを対象にした睡眠の質評価試験)
エルゴチオネイン配合サプリメントの睡眠の質の改善効果等の睡眠改善効果を検討することを目的として、日常的にストレスを感じていて眠りに不満を抱えている成人男女(被験食品群46名、対照食品群46名、合計92名)を対象に、L-エルゴチオネイン20mg配合カプセル(被験食品)又はL-エルゴチオネインを配合しないカプセル(対照食品)を1日1カプセル、4週間摂取させるプラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施した。睡眠の質及び睡眠時間は、スリープウェル株式会社の脳波計「スリープスコープ」(製品名)を用いて睡眠時の脳波を測定することにより評価した。群間の有意差検定は、2標本t検定(**:p<0.01、*:p<0.05、†:p<0.1、対 対照食品群)により行った。
【0039】
(評価用食品の種類)
評価用食品は2種類とし、外観、風味等からは区別ができないようにしたものを用いた。
・被験食品:被験物質(L-エルゴチオネイン20mg)を配合したカプセル
・対照食品:被験物質を含まないカプセル
各評価用食品の原材料には、被験物質の他にデキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、カラギーナン、塩化カリウム、酸化チタンが使用されている。対照食品は、被験物質(L-エルゴチオネイン)を配合しない以外は、被験食品と同じ原材料を使用して製造した。
【0040】
睡眠時の脳波の測定は、評価用食品の摂取を開始する前(試験開始前)と、当該食品を4週間摂取後に行った。試験開始前の脳波測定を事前検査、評価用食品を4週間摂取後の脳波測定を4週目検査とした。事前検査時と4週目検査時に被験者の血中のL-エルゴチオネイン濃度(μM)も測定した。
【0041】
スリープウェル株式会社の脳波計「スリープスコープ」を用いた脳波測定において、ノンレム睡眠は、睡眠の深さによって、ステージ1~3の3段階に分けられる。
睡眠の質の指標として、下記を測定して評価した。
睡眠時間全体に対する各睡眠ステージ(ノンレム睡眠ステージ1、2又は3)の割合(%)、中途覚醒の回数(回)、起床前2時間の中途覚醒の回数(回)、ノンレム睡眠潜時(分)、第1睡眠周期のδパワー(第1周期におけるノンレム睡眠時のデルタパワー)(μV2)、睡眠効率(%)
【0042】
(試験結果)
図4~19に、主要評価項目である脳波測定による睡眠の質(睡眠時間全体に対する各睡眠ステージの合計時間の割合、中途覚醒の回数、起床前2時間の中途覚醒の回数、ノンレム睡眠潜時、第1睡眠周期のδ(デルタ)パワー、睡眠効率)及び睡眠時間の事前検査時及び4週目検査時の実測値と変化量を示した(**:p<0.01、*:p<0.05、†:p<0.1、対 対照食品群)。変化量は、4週目検査時の実測値から、事前検査時の実測値を引いた値(「4週目検査時の実測値」-「事前検査時の実測値」)である。
図4~20に示す結果は、各群の平均値±標準誤差である。群間の有意差検定は、2標本t検定(**:p<0.01、*:p<0.05、†:p<0.1、対 対照食品群)により行った。
図4、
図5、
図6、
図8、
図10、
図12、
図14、
図16、
図18及び
図20において、Pre.は事前検査、Post.は4週目検査である。実線は被験食品群、破線は対照食品群を示す。
図7、
図9、
図11、
図13、
図15、
図17及び
図19において、黒が被験食品群、白が対照食品群である。
【0043】
図4、
図5、
図6及び
図7に各群の睡眠時間全体に対するノンレム睡眠ステージの割合の実測値及び変化量を示す(
図4、
図5及び
図6:実測値、
図7:変化量)。
図4は、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠ステージ1(N1)の割合を示すグラフである。
図5は、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠ステージ2(N2)の割合を示すグラフである。
図6は、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠ステージ3(N3)の割合を示すグラフである。
図7は、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠ステージ1、2又は3の割合の変化量を示す。
対照食品群で、浅い睡眠の指標であるノンレム睡眠ステージ1の割合が増加し、深い睡眠の指標であるノンレム睡眠ステージ2及び3が減少した。一方、対照食品群で増加するノンレム睡眠ステージ1の割合が、L-エルゴチオネインの介入で有意に抑制された。また、対照食品群で減少するノンレム睡眠ステージ2及び3の割合が、L-エルゴチオネインの介入で改善された。総じて、L-エルゴチオネインの介入により、深い睡眠の割合が増加した。また、被験食品群の方が、対照食品群よりも睡眠時間全体に対するノンレム睡眠ステージ1~3の合計時間が増加した。L-エルゴチオネインによって、睡眠時間全体に対するノンレム睡眠時間の割合が増加した。
【0044】
図8及び
図9に各群の中途覚醒回数の実測値及び変化量を示す(
図8:実測値、
図9:変化量)。
図10及び
図11は各群の起床前2時間の中途覚醒回数の実測値及び変化量(
図10:実測値、
図11:変化量)を示す。起床前2時間の中途覚醒回数は、早朝覚醒の指標とされており、目覚めの良さに繋がることが知られている。対照食品群で、中途覚醒回数及び起床前2時間の中途覚醒回数が増加し、睡眠の断片化が進行している一方、L-エルゴチオネインの介入で睡眠の断片化が有意に抑制された。L-エルゴチオネインにより、中途覚醒の時間及び回数が減少した。
【0045】
図12及び
図13に各群のノンレム(NREM)睡眠潜時の実測値及び変化量を示す(
図12:実測値、
図13:変化量)。対照食品群で深睡眠への到達時間が延長したが、L-エルゴチオネインの介入により、深睡眠への到達時間の延長が短縮された。L-エルゴチオネインを摂取した被験食品群では、対照食品群と比較して入眠潜時が短縮された。L-エルゴチオネインによりノンレム(NREM)睡眠潜時が短縮されて入眠潜時が短縮された。
【0046】
図14及び
図15に各群の第1睡眠周期のδパワーの実測値及び変化量を示す(
図14:実測値、
図15:変化量)。第1睡眠周期のδパワーは、睡眠の深さを示す指標として知られている。対照食品群では第1睡眠周期のδパワー値は殆ど変化を示さなかったが、L-エルゴチオネインの介入で第1睡眠周期のδパワー値が増加した。
図4、
図5、
図6及び
図7の結果も踏まえて、L-エルゴチオネインには深い睡眠を誘導する効果があると期待される。
【0047】
図16及び
図17に各群の睡眠効率の実測値及び変化量を示す(
図16:実測値、
図17:変化量)。睡眠効率は、就床中に眠っていた時間の割合を表しており、睡眠全体の質を示す指標として知られている。対照食品群では睡眠効率が悪化したが、L-エルゴチオネインの介入により、睡眠効率が向上した。
【0048】
図18及び
図19に各群の睡眠時間の実測値及び変化量を示す(
図18:実測値、
図19:変化量)。対照食品群では睡眠時間が短縮したが、L-エルゴチオネインの介入により、睡眠時間が増加した。
図20に対照食品群及び被験食品群における、血漿中L-エルゴチオネイン濃度を示す。L-エルゴチオネインの介入で血漿中のL-エルゴチオネイン濃度が増加していることを確認した。L-エルゴチオネインの血中濃度が増加したことで、睡眠の質が改善し、睡眠時間が増加したことが分かる。