(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】少なくとも1つのTHzデバイスを備える装置とその装置の操作方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3581 20140101AFI20240322BHJP
G01B 15/02 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
G01N21/3581
G01B15/02 C
(21)【出願番号】P 2021559318
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(86)【国際出願番号】 EP2020070382
(87)【国際公開番号】W WO2021013766
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-06-22
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007036
【氏名又は名称】ヘルムート・フィッシャー・ゲーエムベーハー・インスティテュート・フューア・エレクトロニク・ウント・メステクニク
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マストル、リュディガー
(72)【発明者】
【氏名】ティーレ、ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】ゴドーア、アンドレアス
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/058212(WO,A1)
【文献】中国実用新案第207096101(CN,U)
【文献】中国実用新案第201862351(CN,U)
【文献】米国特許第07420681(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0257976(US,A1)
【文献】特開2016-057138(JP,A)
【文献】特開2011-002303(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0101823(US,A1)
【文献】特開平06-003271(JP,A)
【文献】特表2015-536451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - G01N 37/00
G01B 15/00 - G01B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ(THz)放射(TR;TR1,TR2)を送信及び/又は受信するように構成された少なくとも1つのTHzデバイス(110;110a)と、
前記THz放射(TR)のビーム経路(BP)の少なくとも一部(P’)に対して、前記THz放射の伝播を周囲の環境の影響を受けないように保護するための保護ガス(PG)の流れ(F;F41,F42)を提供するように構成された少なくとも1つの保護ガス供給装置(120;120a)と、
前記保護ガス(PG)の前記流れ(F)の少なくとも一部を自由噴流として前記THz放射の前記ビーム経路に向けるように構成された少なくとも1つのノズル(122;1221、1222)と、を備え、
前記少なくとも1つのノズル(122)は、a)前記THz放射(TR)の前記ビーム経路(BP)又は前記少なくとも1つのTHzデバイス(110;110a)の光学軸(RA)に対して平行、及び/又は、b)前記THz放射(TR)の前記ビーム経路(BP)又は前記少なくとも1つのTHzデバイス(110;110a)の光学軸(RA)に対して同軸、又は、c)前記THz放射(TR)の前記ビーム経路(BP)又は前記少なくとも1つのTHzデバイス(110;110a)の光学軸(RA)に対して鋭角、に配置される、
装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項2】
前記保護ガス(PG)は、a)乾燥空気、b)乾燥ガス、c)乾燥ガス混合物、d)前記THz放射(TR)の周波数範囲内に吸収ラインを含まない少なくとも1つのガス、のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項3】
前記保護ガス(PG)は、-20℃以下の露点温度を備え、及び/又は、前記保護ガス(PG)は、前記THz放射(TR)の任意の周波数に対して、0.1dB以下の前記ビーム経路(BP)に沿う前記THz放射(TR)の減衰をもたらす、請求項2に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項4】
前記保護ガス(PG)の前記流れ(F)の圧力に影響する、具体的には制御するための、少なくとも1つの圧力コントローラ(128)を更に備える、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項5】
外部供給源(200)からの保護ガス(PG1)を受けるための入り口ポート(124)を更に備える、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項6】
前記外部供給源(200
)は、a)前記保護ガス(PG)を少なくとも一時的に貯蔵するための保護ガスタンク(T1;T2)、b)前記保護ガス(PG)を生成するように構成された保護ガス生成器(G1;G2)、のうちの少なくとも1つを備える、請求項5に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項7】
前記装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)は、前記保護ガス(PG)の1以上のガス噴流(F1,F2,F3)を提供するように構成され、前記1以上のガス噴流(F1,F2,F3)が前記流れに寄与するか又は前記流れ(F;F41,F42)を構成する、請求項1~請求項
6のいずれか一項に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項8】
前記流れ(F)及び/又は前記少なくとも1つのガス噴流(F1,F2,F3)は、自由噴流を含むか、及び/又は自由噴流である、請求項
7に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項9】
前記流れ(F)及び/又は前記少なくとも1つのガス噴流(F1,F2,F3)は、a)前記THz放射(TR)の前記ビーム経路(BP)に平行、又はb)前記THz放射(TR)の前記ビーム経路(BP)に少なくとも実質的に平行、である、請求項
7又は請求項
8に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項10】
前記少なくとも1つのTHzデバイス(110;110a)と、前記少なくとも1つのTHzデバイス(110;110a)により送信及び/又は受信される前記THz放射(TR)と相互作用する測定対象物(10)との間の公称作動距離(dw)は、4センチメートル(cm)以上である、請求項1~請求項
9のいずれか一項に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項11】
前記装置(100i)は、前記保護ガス(PG)の第1自由噴流(F41)を、前記THz放射(TR)の前記ビーム経路(BP)の前記少なくとも一部(P’)に対して提供するように構成された第1ノズル(1221)を備え、前記装置(100i)は、前記第1ノズル(1221)の周りに同軸に配置されたリングノズル(1222)である、第2ノズル(1222)を備え、前記第2ノズル(1222)は、前記第1自由噴流(F41)を少なくとも部分的に同軸に取り囲む、第2噴流(F42)を提供するように構成される、請求項1~請求項1
0のいずれか一項に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項12】
前記装置(100f;100g;100h;100j;100k;100l;100m)はハウジング(130)を備え、前記少なくとも1つのTHzデバイス(110;110a)は前記ハウジング(130)の内部(I)に配置され、前記保護ガス供給装置(120)の少なくとも1つの構成要素は、前記ハウジング(130)の前記内部(I)に配置されるか、又は前記ハウジング(130)の前記内部(I)で構成される、請求項1~請求項1
1のいずれか一項に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項13】
前記入り口ポート(124)は前記ハウジング(130)に配置及び/又は一体化され、前記少なくとも1つのノズル(122)は前記ハウジング(130)に配置及び/又は一体化され、また、前記入り口ポート(124)と前記少なくとも1つのノズル(122)の間の流体連通(FC)は、前記ハウジング(130)の内部(I)を介して可能となる、請求項5を引用する請求項1
2に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項14】
前記ハウジング(130)は、前記THz放射(TR)を貫通させるための開口(132)を備え、a)前記少なくとも1つのノズル(122)が、前記開口(132)に、及び/又は前記開口の周りに配置されるか、及び/又はb)前記少なくとも1つのノズルが前記開口(132)を形成する、請求項1
2又は請求項1
3に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項15】
前記装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)は、前記開口(132)を開閉するための、少なくとも1つの蓋(134)を備える、請求項1
4に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項16】
前記開口(132)には窓(136)が設けられ、前記窓(136)は、前記開口(132)を覆うか又は密閉して閉じ、前記窓(136)は、前記THz放射(TR)に対して透明である、請求項1
4又は請求項1
5に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項17】
前記少なくとも1つのTHzデバイスを位置決めするための位置決めシステム(140)を更に備える、請求項1~請求項1
6のいずれか一項に記載の装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)。
【請求項18】
請求項1~請求項1
7のいずれか一項に記載の少なくとも1つの装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)と、少なくとも1つの測定対象物(10)とを備える測定システム(1000)であって、
前記装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)と前記少なくとも1つの測定対象物(10)は、少なくとも2センチメートルの測定距離(md)だけ互いに離隔し、
前記装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)と前記測定対象物(10)との間の空間領域は周囲に対して露出されており、
前記装置(100c;100d;100e;100f;100g;100h;100i;100j;100k;100l;100m)と前記測定対象物(10)との間には、物体が何も配置されない、測定システム。
【請求項19】
請求項1~請求項1
7のいずれか一項に記載の装置、又は請求項1
8に記載の測定システム(1000)の操作方法であって、
前記少なくとも1つのTHzデバイス(110;110a)が、THz放射(TR;TR1,TR2)を送信(410)及び/又は受信(410)し、
前記THz放射に基づく測定(410)を実行する際に、前記少なくとも1つの保護ガス供給装置(120;120a)が、前記THz放射(TR)のビーム経路(BP)の少なくとも一部(P’)に自由噴流としての保護ガス(PG)の流れ(F)を提供(400)する、
方法。
【請求項20】
前記測定(410)を実行する際に、
前記測定(410)は、前記THz放射(TR)の、少なくとも1つの測定対象における反射、及び/又は透過に基づき、
前記測定(410)は、物体表面上に配置された複数の層の層厚さを決定することを含み、
前記測定(410)は、少なくとも1つの塗料層及び/又は被覆層の層厚さを決定することを含む、
請求項
19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、テラヘルツ(THz)放射を送受信するように構成された、少なくとも1つのTHzデバイスを備える装置に関する。
【0002】
本開示はさらに、テラヘルツ(THz)放射を送受信するように構成された、少なくとも1つのTHzデバイスを備える装置の操作方法に関する。
【発明の概要】
【0003】
好ましい実施形態は、THz放射を送信及び/又は受信するように構成された少なくとも1つのTHzデバイスを備える装置に関する。この装置は、THz放射のビーム経路の少なくとも一部に保護ガス流を提供するように構成される。これは、そのTHz放射の伝播に影響し得る局所的な環境条件の制御を可能とし、したがってそのTHz放射を用いた測定の精度向上を可能とする。
【0004】
更に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つのTHzデバイスは、a)THz放射を送信するように構成されたTHz送信器、b)THz放射を受信するように構成されたTHz受信器、c)THz放射を送受信するように構成されたTHzトランシーバ、の少なくとも1つを備える。更に好ましい実施形態によれば、1つ以上のTHz送信器、及び/又は1つ以上のTHz受信器、及び/又は2つ以上のTHzトランシーバもまた提供される。
【0005】
更に好ましい実施形態によれば、このTHz放射は、0.3THz~100THzの範囲、好ましくは0.5THz~10THzの範囲、より好ましくは3.0THz~10THzの範囲に少なくとも1つの周波数成分を含む。
【0006】
更に好ましい実施形態によれば、この保護ガスは、a)乾燥空気、b)乾燥ガス、c)乾燥ガス混合物のうちの少なくとも1つを含むか、好ましくは少なくともそのうちの1つである。
【0007】
更に好ましい実施形態によれば、この保護ガスは、このTHz放射の周波数範囲に吸収ラインを含まない少なくとも1つのガスを備える。
【0008】
更に好ましい実施形態によれば、この保護ガスは、好ましくはTHz放射の任意の周波数に対して、ビーム経路に沿う0.1dB以下のTHz放射減衰の効果を有する。
【0009】
更に好ましい実施形態によれば、この保護ガスは、摂氏-20度(℃)以下、好ましくは、-30℃以下、さらに好ましくは-40℃以下の露点温度を有する。
【0010】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は、この保護ガスの流れを提供するように構成された、少なくとも1つの保護ガス供給装置を更に含む。
【0011】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は、この保護ガスの流れの圧力に影響を与える、特には制御するための少なくとも1つの圧力コントローラを更に含む。更に好ましい実施形態によれば、この保護ガスの流れの圧力に影響を与えること、特には制御することが、開ループ又は閉ループ制御を含み得る。更に好ましい実施形態によれば、THz放射を用いる参照測定が行われ、このTHz放射のビーム経路の領域の流体流特性を特徴づける少なくとも1つのパラメータを決定可能である。この少なくとも1つのパラメータ、例えば保護ガスの流れの圧力が、閉ループ制御で制御可能である。こうして、保護ガスの流れの圧力をTHz測定の精度に関して最適化して、例えば、そのTHz放射のビーム経路の少なくとも一部における保護ガスの層流又は均一な流れを達成することが可能である。
【0012】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は、保護ガス(の流れ)の体積流量に影響を与える、具体的には制御する、少なくとも1つの流量調整器を備える。更に好ましい実施形態によれば、この保護ガスの流れの体積流量に影響を与えること、特には制御することは、開ループ又は閉ループ制御を含み得る。更に好ましい実施形態によれば、THz放射を用いる参照測定が行われ、このTHz放射のビーム経路の領域の流体流特性を特徴づける少なくとも1つのパラメータを決定可能である。この少なくとも1つのパラメータ、例えば保護ガスの体積流量を、閉ループ制御で制御可能である。こうして、保護ガスの流れの体積流量をTHz測定の精度に関して最適化して、例えば、そのTHz放射のビーム経路の少なくとも一部における保護ガスの層流又は均一な流れを達成することが可能である。
【0013】
更に好ましい実施形態によれば、この(任意選択の)圧力コントローラは保護ガス供給装置の一部をなし、及び/又はそれに対して直列に、例えば、保護ガス供給装置の出力部に(あるいは更なる実施形態では入力部に)接続可能である。
【0014】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は少なくとも1つのノズルを更に含み、その少なくとも1つのノズルは、保護ガスの流れ、又はその流れの少なくとも一部を、THz放射のビーム経路の少なくとも一部に向けるように構成及び/又は配置される。ここで、少なくとも1つのノズルは自由噴流ノズルであることが望ましい。これにより、THz放射のビーム経路を含む領域に、正確に制御可能な保護ガスの流れを提供可能とする。更に好ましい実施形態によれば、この流れは、層流、好ましくは均一流を含み得る。更に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つのノズルは、少なくとも1つの保護ガス供給装置の部品を構成し得る。
【0015】
更に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つのノズルがTHz放射のビーム経路、あるいは少なくとも1つのTHzデバイスの基準軸に関して平行に配置される。言い換えれば、更に好ましい実施形態によれば、それに沿って保護ガスがこのノズルにより出力されるノズルの基準軸は、そのTHz放射のビーム経路、又はその少なくとも1つのTHzデバイスの基準軸に関して平行であり得る。
【0016】
更に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つのノズルがTHz放射のビーム経路、あるいは少なくとも1つのTHzデバイスの基準軸に関して同軸に、好ましくはこのノズルがTHz放射のビーム経路を同軸に取り囲むように、配置される。これにより、このTHz放射がこの少なくとも1つのノズルによって提供される保護ガスの流れの中に正確に「埋め込まれ」ることを可能とし、周囲の流体(例えば大気)による望ましくない吸収及び/又は流速の不均一性及び/又は保護ガスの流れの例えば径方向外側領域における乱流による、THz放射への悪影響を更に低減し、その結果精度をさらに向上させる。
【0017】
更に好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのノズル(例えばその少なくとも1つのノズルの基準軸)は、このTHz放射のビーム経路又はこの少なくとも1つのTHzデバイスの基準軸に関して鋭角に配置され、ここで好ましくはこの鋭角は0度~30度の間、好ましくは0度~20度の間の範囲である。
【0018】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は、外部供給源からの保護ガスを受けるための入り口ポートを更に備える。更に好ましい実施形態によれば、この入り口ポートは例えば、少なくとも1つの保護ガス供給装置の一部を構成し得る。
【0019】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は保護ガスのための、好ましくは局所的な供給源を更に備え、この好ましくは局所的な供給源は、好ましくはこの装置の少なくとも1つの他の構成要素に取り付けられるか、一体化されている。更に好ましい実施形態によれば、この好ましくは局所的な供給源は例えば、この少なくとも1つの保護ガス供給装置の一部を構成し得る。
【0020】
更に好ましい実施形態によれば、この外部供給源及び/又はこの好ましくは局所的な供給源は、a)保護ガスを少なくとも一時的に貯蔵するための保護ガスタンク、b)この保護ガスを生成するための保護ガス生成器、の少なくとも1つを備え、好ましくはこの保護ガス生成器は、大気を受けてその大気を保護ガス、好ましくは乾燥空気、に変換するように構成される。
【0021】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は、保護ガスの1以上のガス噴流を提供するように構成され、好ましくはこの1以上のガス噴流は流れに寄与するか流れを構成する。更に好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのノズルが提供され、この少なくとも1つのノズルが保護ガスの1以上のガス噴流を提供するように構成され得る。
【0022】
更に好ましい実施形態によれば、流れ及び/又は少なくとも1つのガス噴流は自由噴流を含むか、及び/又は自由噴流である。これにより、本装置の特に大きい公称作動距離が可能となる。それは、THz放射は、保護ガスの自由噴流によって、大気(及び/又はTHz放射の伝播に影響を与え得る他の周囲流体)から効果的に「遮蔽」され得るからである。特に、このように、流れ及び/又はガス噴流を(例えばノズルから離れて)案内するためのハウジングや他のいかなる固体物も、装置と、THz放射と相互作用する測定対象物との間に配置する必要がない。更に好ましい実施形態によれば、この自由噴流の潜在的なコア長さは、約2cm、好ましくは4cm以上である。
【0023】
更に好ましい実施形態によれば、この流れ及び/又は少なくとも1つのガス噴流は、a)THz放射のビーム経路に平行な(例えばTHz放射のビーム経路の傍の、又はこのTHz放射のビーム経路を軸方向に囲む)方向、又はb)例えばこのTHz放射のビーム経路に対してゼロではない鋭角を含む、THz放射のビーム経路に少なくとも実質的に平行な方向、を含む。ここで、このゼロではない鋭角は好ましくは20度未満、より好ましくは10度未満である。
【0024】
更に好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのTHzデバイスと、少なくとも1つのTHzデバイスから送信され、それによって受信されるTHz放射と相互作用する測定対象物との間の公称作動距離は、4センチメートル(cm)、以上であり、好ましくは10cm以上である。有利なことに、この保護ガスの流れを案内する装置又は他のいかなる装置も、この装置と測定対象物との間に配置する必要はない。それは好ましくは1以上の自由噴流から成る保護ガスの流れが、THz放射のビーム経路の領域に保護ガスの制御された局所雰囲気を確立するのに十分であるからである。これにより、装置と測定対象物との間にハウジング等が必要ないので、ハンドリングが容易となる。具体的には、好ましい実施形態による原理を使用するとき、また従来の方法に対比して、測定対象物をTHz測定のためのそれ自体のハウジング内に配置する必要はない。むしろ、好ましい実施形態による保護ガス流、好ましくは自由噴流が、このTHzの望ましくない吸収を生じて測定精度を低減させる可能性のある湿度などの環境的な悪影響からTHzビーム経路を遮蔽すると考えられる。
【0025】
更に好ましい実施形態によれば、装置は第1ノズル(例えば自由噴流ノズル)を備え、これが好ましくはTHz放射のビーム経路の少なくとも一部に対して、好ましくは保護ガスの自由噴流である第1噴流を提供するように構成される。この装置はさらに第2ノズルを備え、これは第1ノズルの周りに同軸に配置されたリングノズルである。ここでこの第2ノズルは第2噴流を提供するように構成され、この第2噴流が好ましくは第1噴流を、特に少なくとも部分的に同軸に取り囲む。ここで好ましくはこの第2噴流はさや状の流れである。有利には、このさや状流れは、例えば自由噴流である第1ノズルによる第1噴流の半径方向外側に延在し、したがって、例えば自由噴流である第1ノズルによる第1噴流が周囲の媒体、例えば大気などの流体と相互作用しないように保護する。さらに、さや状流れは、第1ノズルで提供される例えば自由噴流である第1噴流が半径方向外側部分で乱流となることを防止する。むしろ、第1に乱流はこのさや状流れの半径方向外側と周囲の媒体との間の界面で発生し得るもので、それは第1噴流の内部にあるTHzビーム経路には影響しない。例えばさや状流れの半径方向外側と周囲の媒体との間の界面での乱流の発生によりさや状流れが消失した後になって初めて、内側の第1噴流の半径方向外側において乱流が発生し得る。この構成は、半径方向外側のさや状流れが半径方向内側の第1噴流、例えば自由噴流を効果的に保護するので、この少なくとも1つのTHzデバイスと測定対象物との間の公称作動距離を更に増加可能とする。
【0026】
更に好ましい実施形態によれば、第2噴流(すなわち、さや状流れ)は、大気AA及び/又は保護ガスを含み得る。(半径方向外側の)第2噴流の流体は、通常、好ましくは半径方向内側のTHzビーム経路とは全く(又は少なくとも実質的には)相互作用しないので、第2噴流は大気を含んでもよい。ただし、更なる実施形態により、精度及び公称作動距離を更に増加させるために、この保護ガスをこの第2噴流、すなわちさや状流れに使用することも可能である。
【0027】
更に好ましい実施形態によれば、装置はハウジングを備え、少なくとも1つのTHzデバイスがこのハウジングの内部に配置される。ここで好ましくは、保護ガス供給装置の少なくとも1つの構成要素が、このハウジングの内部内に配置されるか、及び/又はその内部で構成される。
【0028】
更に好ましい実施形態によれば、この入り口ポートはハウジングに配置されるか一体化されて、少なくとも1つのノズルがハウジングに配置されるか一体化される。そしてこの入り口ポートと少なくとも1つのノズルの間の流体連通がハウジング内部で可能となる。言い換えると、装置のハウジングの少なくとも一部は、この保護ガスを入り口ポートから、少なくとも1つのノズルへ案内する導管として作用する。このことは、ハウジング内に配置される1以上のTHzデバイスもまた、この保護ガスで少なくとも部分的に取り囲まれるという更なる利点を有する。
【0029】
更に好ましい実施形態によれば、入り口ポートもまたノズルの近くに配置又はノズルに直接配置可能であり、ノズルにその保護ガスを直接供給することが可能である。
【0030】
更に好ましい実施形態によれば、ハウジングはTHz放射を通過させる開口を備え、少なくとも1つのノズルがその開口内に、及び/又はその開口に、及び/又はその開口の周りに配置される。
【0031】
さらに好ましい実施形態によると、このハウジングはTHz放射を通過させる開口を備える。少なくとも1つのノズルがこの開口を形成する。言い換えれば、いくつかの実施形態によれば、この少なくとも1つのノズルが、保護ガスの流れを例えばハウジングの外部、特にTHz放射のビーム経路領域へ提供するための開口を備え得る。ここで、このノズルの開口は同時に窓として作用して、THz放射がハウジングの内部からハウジングの外部へ例えば測定対象物に向かって送信されることを可能とし、及び/又はその逆に、ハウジング内に配置されたTHz受信器又はトランシーバがハウジングの外部からのTHz放射を受信することを可能とする。言い換えると、いくつかの実施形態によれば、この少なくとも1つのノズルは、保護ガスの流れを提供する第1の流体的な機能と、さらにはTHz放射の送信及び/又は受信を可能とする窓として作用する第2の機能とを備え得る。
【0032】
更に好ましい実施形態によれば、この装置には少なくとも1つの蓋が備えられ、これがその開口を特に選択的に開閉し、好ましくは密閉して、特には(気密に)封止して閉じる。ここでこの蓋は好ましくは、ハウジングとノズルの少なくとも1つに、特に回転可能に取り付けられる。更に好ましい実施形態によれば、開閉は例えば、装置の動作状態に応じて実行され得る。例えば、THz放射を用いて測定の実行に使用可能なアクティブ化された状態に対して、蓋が-少なくとも一時的に-開放され得る。そして非アクティブ化状態に対しては蓋が閉鎖され得る。
【0033】
更に好ましい実施形態によれば、アクチュエータが設けられて蓋の移動、すなわち蓋の開放及び/又は蓋の閉鎖を駆動可能であってよい。閉鎖状態では、蓋は、例えば粒子がハウジングの内部に侵入することを防止し、開放状態では、蓋がTHz放射の送信及び/又は受信を可能とし、また例えば(任意選択により)開口を通した保護ガスの流れも可能とする。更に好ましい実施形態によれば、保護ガスの流れが蓋の開放状態で開口を通って提供されている場合には、その保護ガス流によって粒子がハウジングの内部に入ることが防止される。
【0034】
更に好ましい実施形態によれば、開口に窓が設けられ、この窓は好ましくはその開口を密閉して、特に(気密に)封止してこの開口を覆うか閉じる。ここでこの窓はTHz測定を妨げないためにTHz放射に対して透明である(すなわち所定の最大の減衰からなる)。更なる実施形態によれば、少なくとも1つのノズルが、この窓を有する開口の周りに提供されて、例えばハウジングの外表面に取り付けられ得る。この少なくとも1つのノズルは、保護ガスを受け取るための入り口ポートを備えることができる。具体的にはこれらの実施形態においては、入り口ポートは装置のハウジング(この中に例えば少なくとも1つのTHzデバイスが配置され得る)の外側にあり、したがって、この少なくとも1つのノズルに保護ガスが供給されて保護ガスの流れがTHz放射のビーム経路に提供されるとき、ハウジングの内部には「新鮮な」保護ガスは供給されない。更なる実施形態によれば、ハウジングは気密封止され、内部は密封前に、例えばハウジングの製造中に保護ガスが充填され得る。
【0035】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は、位置決めシステム、具体的にはロボットを更に備える。一例として、更に好ましい実施形態によれば、ハウジングが、前に説明した1以上のTHzデバイスを備えて、THz測定ヘッドを形成し得る。このTHz測定ヘッドはこのロボットに取り付けることができ、多岐にわたる測定対象物に対してTHz測定を効率的に実行可能である。一例として、装置及び/又はTHz測定ヘッドを使用して、製造プラントのインライン構成でTHz測定をすることが可能である。
【0036】
更なる好ましい実施形態は、実施形態による少なくとも1つの装置と、少なくとも1つの測定対象物とを備える測定システムに関する。ここで、この装置とこの少なくとも1つの測定対象物は、少なくとも2センチメートル、好ましくは少なくとも5センチメートルの測定距離だけ互いに離隔し、この装置とこの測定対象物との間の空間領域は好ましくは大気に晒され(すなわちハウジングなどによって覆われてなく)、この装置とこの測定対象物の間には、いかなる物体、好ましくはいかなる固体物体も(あるいはこの保護ガスの流れ(及び/又は任意選択のさや状流れ)とは別のいかなる他の材料も))配置されない。
【0037】
さらに好ましい実施形態は、少なくとも1つのTHzデバイスを備える装置の操作方法に関係する。この少なくとも1つのTHzデバイスはTHz放射を送信及び/又は受信するように構成され、この装置はこのTHz放射のビーム経路の少なくとも一部に保護ガス流を提供する。
【0038】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は少なくとも1つのノズルを更に含み、その少なくとも1つのノズルは保護ガスの流れ又はその流れの少なくとも一部をTHz放射のビーム経路の少なくとも一部に向ける。ここで少なくとも1つのノズルは好ましくは自由噴流ノズルである。
【0039】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は保護ガスの入り口ポートを更に備え、この装置は外部供給源からのこの入り口ポートを介して保護ガスを受け取る。
【0040】
更に好ましい実施形態によれば、この装置100はその保護ガスの、好ましくは局所的な供給源を備え、この供給源は好ましくはこの装置の少なくとも1つの他の構成要素に取り付けられるかそこに一体化されて、その少なくとも1つのノズルにその好ましくは局所的な供給源からの保護ガスを供給する。
【0041】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は保護ガスの1以上のガス噴流を提供し、好ましくはこの1以上のガス噴流がその流れに寄与するか又は流れを構成し、好ましくはその流れ及び/又は少なくとも1つのガス噴流が自由噴流を構成するか及び/又は自由噴流となる。
【0042】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は、その流れを提供し、及び/又はそのガス噴流の少なくとも1つが、a)THz放射のビーム経路に平行、又はb)THz放射のビーム経路に少なくとも実質的に平行、な方向を備える。
【0043】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は、少なくとも1つのTHzデバイスと、少なくとも1つのTHzデバイスから送受信されるTHz放射と相互作用する測定対象物との間が、4センチメートル(cm)以上、好ましくは10cm以上である公称作動距離を用いて、このTHz放射による測定を実行する。
【0044】
更に好ましい実施形態によれば、この装置は第1ノズルを備え、この第1ノズルによって、保護ガスの第1噴流、好ましくは自由噴流を、好ましくはTHz放射のビーム経路の少なくとも一部に提供する。ここで、この装置はさらに第2ノズルを備え、これは第1ノズルの周りに同軸に配置されたリングノズルである。好ましくはこの装置は第2ノズルによって第2噴流を提供し、これが好ましくは第1噴流を、特に少なくとも部分的に同軸的に取り囲む。好ましくはこの第2噴流はさや状流れである。
【0045】
更に好ましい実施形態によれば、装置はハウジングを備え、少なくとも1つのTHzデバイスがこのハウジングの内部に配置される。ここで好ましくは、保護ガス供給装置の少なくとも1つの構成要素がこのハウジングの内部に配置されるか、及び/又はその内部で構成される。更に好ましい実施形態によれば、この入り口ポートはハウジングに配置されるか一体化されて、少なくとも1つのノズルがハウジングに配置されるか一体化される。そしてハウジングの内部がこの入り口ポートと少なくとも1つのノズルの間の流体連通を可能とする。更に好ましい実施形態によれば、2つ以上のノズルが提供可能であって(例えば、半径方向内側の自由噴流を提供する第1ノズルと、この半径方向内側の自由噴流を同軸的に取り囲む半径方向外側のさや状流れを提供する第2ノズル)、ハウジングの内部がこの入り口ポート、並びに第1ノズル及び第2ノズルの間の流体連通を可能とする。
【0046】
更に好ましい実施形態によれば、ハウジングはTHz放射を通過させる開口を備え、a)少なくとも1つのノズルがその開口内に、及び/又はその開口に、及び/又はその開口の周りに配置され、及び/又はb)その開口を形成する。更に好ましい実施形態によれば、この装置は少なくとも1つの蓋を備え、これがその開口を、特に選択的に開閉し、好ましくは密閉して、特には気密封止して閉じる。ここでこの蓋は好ましくは、ハウジングとノズルの少なくとも1つに特に回転可能に取り付けられる。
【0047】
これまでに述べた請求項の少なくとも1つに記載の装置であって、位置決めシステム、具体的にはロボットを更に備え、この位置決めシステムは、少なくとも1つのTHzデバイス及び/又はハウジングを、具体的には測定対象物に対して位置決めする。
【0048】
更なる好ましい実施形態は、これまで述べた請求項の少なくとも1つによる少なくとも1つの装置と、少なくとも1つの測定対象物とを備える測定システムの操作方法に関する。好ましくはこの装置及び少なくとも1つの測定対象物は、少なくとも2センチメートル、好ましくは少なくとも5センチメートルの測定距離によって相互に離隔し、好ましくは、装置と測定対象物の間には物体、好ましくは固体物体が何も配置されない。
【0049】
更に好ましい実施形態は、コンピュータプログラムに関し、このプログラムは、コンピュータが実行するとき、コンピュータに本実施形態による方法を実行させる命令を含む。
【0050】
更に好ましい実施形態は、コンピュータ可読記憶媒体に関し、このコンピュータ可読記憶媒体は、コンピュータが実行するとき、コンピュータに本実施形態による方法を実行させる命令を含む。
【0051】
更に好ましい実施形態は、本実施形態によるコンピュータプログラムを担持する、データキャリア信号に関する。
【0052】
更に好ましい実施形態は、実施形態による装置及び/又はTHz放射に基づく測定を実行するための実施形態による方法の使用方法に関する。好ましくは、装置及び/又は装置の少なくとも1つの構成要素の間の公称作動距離は、4cm(センチメートル)より大きく、好ましくは10cm以上であり、測定は、好ましくはTHz放射の、少なくとも1つの測定対象における反射及び/又は透過に基づき、測定は、好ましくは、物体表面上に配置された複数の層の層厚さを決定することを含み、好ましくは測定は、塗ったばかりでまだ完全に乾燥していない塗料層などの少なくとも1つの層、好ましくは乾燥していない被覆層の層厚さを決定することを含む。
【0053】
実施形態の更なる特徴、態様及び利点は、図面を参照した以下の詳細な説明で与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】好ましい実施形態による装置の簡略ブロック図の概略である。
【
図2】更なる好ましい実施形態による装置の部分断面における簡略ブロック図の概略である。
【
図3】更なる好ましい実施形態による装置の部分断面における簡略ブロック図の概略である。
【
図4】更なる好ましい実施形態による装置の部分断面における簡略ブロック図の概略である。
【
図5】更なる好ましい実施形態による装置の部分断面における簡略ブロック図の概略である。
【
図6】更なる好ましい実施形態による装置の部分断面における簡略ブロック図の概略である。
【
図7】更なる好ましい実施形態による装置の部分断面における簡略ブロック図の概略である。
【
図8】更なる好ましい実施形態による装置の部分断面における簡略ブロック図の概略である。
【
図9】更なる好ましい実施形態による装置の部分断面における簡略ブロック図の概略である。
【
図10】更なる好ましい実施形態による流速の概略図である。
【
図11A】更なる好ましい実施形態によるノズル装置の底面図の概略である。
【
図11B】更なる好ましい実施形態によるノズル装置の底面図の概略である。
【
図12】更なる好ましい実施形態による装置の部分断面における簡略ブロック図の概略である。
【
図13】更なる好ましい実施形態による装置の部分断面における簡略ブロック図の概略である。
【
図14】更なる好ましい実施形態による装置の部分断面における簡略ブロック図の概略である。
【
図15】更なる好ましい実施形態による装置の側面図の概略である。
【
図16A】一実施例による周波数に対する受信したTHz放射強度の概略図である。
【
図16B】更なる好ましい実施形態による周波数に対する受信したTHz放射強度の概略図である。
【
図17】更なる好ましい実施形態による方法の簡略フローチャートの概略である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1は好ましい実施形態による装置100の簡略ブロック図を概略的に示す。装置100は、例えば測定対象物10に対してTHz放射TRを送信及び/又は受信するように構成された、少なくとも1つ(ここでは例示として2つ)のTHzデバイス110、110aを備える。装置100は、このTHz放射TRのビーム経路BPの少なくとも一部P’に保護ガスPGの流れFを提供するように構成される。このことは、そのTHz放射TRの伝播に影響し得る局所的な環境条件を制御可能とし、THz放射を用いる測定の精度向上を可能とするので有利である。具体的には、保護ガスPGの流れFにより、例えば通常のシステムで発生するような水分子によるTHz放射の望ましくない吸収が回避される、などの局所的保護環境の提供を可能とする。
【0056】
更に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つのTHzデバイスは、a)THz放射TR1を送信するように構成されたTHz送信器110、b)THz放射TR2を受信するように構成されたTHz受信器110a、c)THz放射TRを送受信するように構成されたTHzトランシーバ(図示せず)、を含む。更に好ましい実施形態によれば、1つ以上のTHz送信器110、及び/又は1つ以上のTHz受信器110a、及び/又は2つ以上のTHzトランシーバ(図示せず)もまた提供される。ここでは、
図1の例示的構成には、この測定対象物10に対する第1THz放射TR1を送信するTHz送信器110と、例えばその測定対象物10(の表面)で反射された第1THz放射TR1の一部に対応する第2THz放射TR2を受信するTHz受信器110aが含まれる。
【0057】
更に好ましい実施形態によれば、このTHz放射TRは、0.3THz~100THzの範囲、好ましくは0.5THz~10THzの範囲、より好ましくは3.0THz~10THzの範囲の少なくとも1つの周波数成分を含む。更に好ましい実施形態によれば、このTHz放射TRは1以上のTHzパルスを含み得る。
【0058】
更に好ましい実施形態によれば、この保護ガスPGは、a)乾燥空気、b)乾燥ガス、c)乾燥ガス混合物のうちの少なくとも1つを含むか、好ましくはそのうちの1つである。
【0059】
更に好ましい実施形態によれば、この保護ガスPGには、このTHz放射TRの周波数範囲に吸収ラインを含まない少なくとも1つのガスが含まれる。
【0060】
更に好ましい実施形態によれば、この保護ガスPGは、好ましくはTHz放射TRの任意の周波数に対して、ビーム経路BPに沿う0.1dB以下のTHz放射TR減衰の効果を有する。
【0061】
更に好ましい実施形態によれば、この保護ガスPG、例えば乾燥空気は、摂氏-20度(℃)以下、好ましくは-30℃以下、さらに好ましくは-40℃以下の露点温度を有する。
【0062】
更に好ましい実施形態によれば、この装置100は、この保護ガスPGの流れFを提供するように構成された、少なくとも1つの保護ガス供給装置120を更に含む。
【0063】
更に好ましい実施形態によれば、この装置100は、この保護ガスPGの流れFの圧力に影響を与える、具体的には制御するための、少なくとも1つの圧力コントローラ128を更に含む。更に好ましい実施形態によれば、この保護ガスPGの流れFの圧力に影響を与えること、具体的には制御することは、開ループ又は閉ループ制御を含み得る。更に好ましい実施形態によれば、THz放射TR、TR2を用いる参照測定が行われ、このTHz放射TRのビーム経路BPの領域の流体流特性を特徴づける少なくとも1つのパラメータP1が、例えば、後で詳細を説明する制御装置300によって決定可能である。一例として、制御装置300の制御c1の下で、THz送信器110が第1THz放射TR1を測定対象物10に送信し、THz受信器110aは反射部分TR2を受信可能である。それに基づいて、制御装置300は、少なくとも1つのパラメータP1(データリンクc2参照)を決定することができる。その少なくとも1つのパラメータP1に基づいて、その制御装置300は、保護ガス供給装置120(データリンクc3参照)の動作を制御する、例えば保護ガスPGのその流れFの圧力に影響を与える(増加、減少、又は維持する)ことが可能であり、それによって前に述べた閉ループ制御を可能とする。こうして、保護ガスPGの流れFの圧力を、THz測定の精度に関して、例えば、そのTHz放射TRのビーム経路BPの少なくとも一部における保護ガスの層流又は均一な流れFを達成するために最適化可能である。好ましくは、その保護ガスの流れの圧力を制御して、ビーム経路BPの領域における保護ガス流の流速を空間的及び時間的に一定であるように確保可能である。更に好ましい実施形態によれば、その保護ガスPGの流れFの圧力の開ループ制御もまた可能である。
【0064】
更に好ましい実施形態によれば、この(任意選択の)圧力コントローラ128は保護ガス供給装置120の一部をなし、及び/又はそれに対して直列に、例えば保護ガス供給装置120の出力部に(
図1に例示するように、あるいは更なる実施形態では入力部に)接続可能である。
【0065】
更に好ましい実施形態によれば、この装置100は、保護ガスPG(の流れF)の体積流量に影響を与え、具体的には制御する、少なくとも1つの流量調整器を備えてもよい。これに関して、更に好ましい実施形態によれば、圧力コントローラ128に関して上で説明した詳細は、流量調整器にも対応して適用可能である。
【0066】
更に好ましい実施形態によれば、この装置100は、少なくとも1つのノズル122を更に含み、その少なくとも1つのノズル122は、保護ガスPGの流れF又はその流れFの少なくとも一部を、THz放射TRのビーム経路BPの少なくとも一部P’に向けるように構成及び/又は配置される。ここで、少なくとも1つのノズル122は自由噴流ノズル122であることが望ましい。これにより、THz放射TRのビーム経路BPを含む領域に、正確に制御可能な保護ガスPGの流れFを提供することが可能となる。更に好ましい実施形態によれば、この流れFは、層流、好ましくは均一流を含むか、層流又は均一流であってよい。更に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つのノズル122は、少なくとも1つの保護ガス供給装置120の一部を構成し、好ましくは一体部品であってよい。
【0067】
更に好ましい実施形態によれば、この装置100は、外部供給源200からの保護ガスPG1を受けるための入り口ポート124を更に備える。更に好ましい実施形態によれば、この入り口ポート124は例えば少なくとも1つの保護ガス供給装置120の一部を構成し得る。
【0068】
更に好ましい実施形態によれば、この装置100は保護ガスPGのための、好ましくは局所的な供給源126を更に備え、この好ましくは局所的な供給源126は、好ましくは本装置100の少なくとも1つの他の構成要素に取り付けられるか、一体化されている。更に好ましい実施形態によれば、この好ましくは局所的な供給源126は例えばこの少なくとも1つの保護ガス供給装置120の一部を構成し得る。
【0069】
更に好ましい実施形態によれば、この外部供給源200及び/又はこの好ましくは局所的な供給源126は、a)保護ガスを少なくとも一時的に貯蔵するための保護ガスタンクT1、T2、b)この保護ガスを生成するための保護ガス生成器G1、G2、の少なくとも1つを備え、好ましくはこの保護ガス生成器G1、G2は、大気AAを受けてその大気AAを保護ガスPG1、好ましくは乾燥空気に変換するように構成される。
【0070】
更に好ましい実施形態によれば、本装置100は保護ガスPGの1以上のガス噴流F1、F2、F3を提供するように構成され、好ましくはこの1以上のガス噴流は流れFに寄与するか流れFを構成する。更に好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのノズル122が提供され、この少なくとも1つのノズル122が保護ガスPGの1以上のガス噴流を提供するように構成され得る。
【0071】
更に好ましい実施形態によれば、流れF及び/又は少なくとも1つのガス噴流は自由噴流を含むか、及び/又は自由噴流である。これにより、本装置の特に大きい公称作動距離(例えば本装置及び/又はそのTHzデバイス110、110aと測定対象物10との間の)が可能となる。それは、THz放射TRは、保護ガスPGの自由噴流によって、大気AA(及び/又は、THz放射の伝播に影響を与え得る他の周囲流体)から効果的に「遮蔽」され得るからである。特に、このように流れF及び/又はガス噴流を(例えば任意選択のノズル122から離れて)案内するためのハウジングや他のいかなる(固体)物体も、装置100とTHz放射TRと相互作用する測定対象物10との間に配置する必要がない。更に好ましい実施形態によれば、この自由噴流の潜在的なコア長さは、約2cm、好ましくは4cm以上である。
【0072】
更に好ましい実施形態によれば、装置100は前述したように制御装置300を備え得る。この制御装置300は、この装置100及び/又はこの装置100の少なくとも1つの構成要素の動作を例えば少なくとも一時的に制御し得る。
【0073】
更に好ましい実施形態によれば、この制御装置300は、少なくとも1つの計算ユニット302と、この少なくとも1つの計算ユニット302に関連する(すなわちそれによって使用可能な)、少なくとも一時的にコンピュータプログラムPRG及び/又はデータ(図示せず)を格納可能な、少なくとも1つのメモリユニット304とを備える。このコンピュータプログラムPRGは、例えばこのTHzデバイス110、110a及び/又は保護ガス供給装置120及び/又はその構成要素の1つの動作を制御するために、例えばこの装置100の動作、例えば実施形態による方法の実行、を少なくとも一時的に制御するように構成される。
【0074】
更に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つの計算ユニット302は、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、プログラマブルロジックエレメント(例えばFPGA,フィールドプログラマブルゲートアレイ)、ASIC(特定用途向け集積回路)、ハードウェア回路、の内の少なくとも1つを含み得る。更に好ましい実施形態によれば、これらの要素の2以上の任意の組合せもまた可能である。
【0075】
更に好ましい実施形態によれば、メモリユニット304は、揮発性メモリ特にランダムアクセスメモリ(RAM)、不揮発性メモリ特にフラッシュEEPROM、の少なくとも1つを含む。好ましくはこのコンピュータプログラムPRGは、不揮発性メモリ内に少なくとも一時的に格納される。
【0076】
更に好ましい実施形態によれば、例えば更なるコンピュータプログラムPRG’の形の命令を含む、任意選択のコンピュータ可読記憶媒体が提供され得る。この更なるコンピュータプログラムPRG’は、コンピュータすなわち計算ユニット302によって実行されると、コンピュータ302に実施形態による方法あるいはその少なくとも1ステップを実行させることが可能である。一例として、この記憶媒体SMは、半導体メモリデバイス(例えばソリッドステートドライブ、SSD)、及び/又はディスク又はハードディスクドライブ(HDD)などの磁気記憶媒体、及び/又はコンパクトディスク(CD)又はDVD(デジタル多用途ディスク)などの光記憶媒体、などのデジタル記憶媒体を含むか、それを表し得る。
【0077】
更に好ましい実施形態によれば、例えばTHzデバイス110、110a及び/又は保護ガス供給装置120の、例えば保護ガス供給装置120に関連及び/又はそれに一体化された圧力コントローラ128動作を制御するために、制御装置300は、他の構成要素110、110a、120と、好ましくは双方向にデータ交換するための1以上のインタフェース(図示せず)を含み得る。
【0078】
図2は更に好ましい実施形態による装置100aの簡略ブロック図を概略的に示す。測定対象物10におけるTHz放射TRの反射に基づいてTHz測定を可能とする
図1の構成100に対比して、
図2の装置100aは、測定対象物10aを貫通するTHz放射TRの透過に基づいてTHz測定を可能とする。THz送信器110bがTHz放射TR3を測定対象物10aに向けて発信し、その測定対象物10aを透過したそのTHz放射TR3の一部がTHz受信器110cで受信される。
図1と同様に、例えば乾燥空気などの保護ガスPGの流れFがこのTHz放射TR3のビーム経路BPの少なくとも一部P’に提供される。ここで
図2の保護ガス供給装置120は、
図1の保護ガス供給装置120と同一又は類似の構成を有し得る。
【0079】
更に好ましい実施形態によれば(
図3の装置100cを参照)、少なくとも1つのノズル122がTHz放射TRのビーム経路BP、あるいは少なくとも1つのTHzデバイス110、110aの基準軸に関して平行に配置される。すなわち、更に好ましい実施形態によれば、ノズル122によりそれに沿って保護ガスPGが出力されるノズル122の基準軸は、そのTHz放射TRのビーム経路BP、又はその少なくとも1つのTHzデバイス110、110aの基準軸(例えば「光学」軸)に関して平行であってよい。
【0080】
更に好ましい実施形態によれば(これも
図3を参照)、少なくとも1つのノズル122が、THz放射TRのビーム経路BP、あるいは少なくとも1つのTHzデバイスの基準軸に対して同軸に配置され、好ましくは、このノズル122がTHz放射のビーム経路BP(あるいはそのビーム経路BPから延在する仮想ライン)を同軸に取り囲むように、及び/又は少なくとも1つのTHzデバイス110、110aを(実質的に)同軸に取り囲むようにする。これにより、このTHz放射TRがこの少なくとも1つのノズル122によって提供される保護ガスPGの流れFの中に正確に「埋め込まれ」ることを可能とし、したがって周囲の流体(例えば大気)による望ましくない吸収及び/又は流速の不均一性及び/又は保護ガスPGの流れFの例えば径方向外側領域における乱流による、THz放射TRへの悪影響を更に低減し、精度をさらに向上させる。
【0081】
更に好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのノズル122(例えばその少なくとも1つのノズルの基準軸)は、このTHz放射TRのビーム経路BP又はこの少なくとも1つのTHzデバイスの基準軸に関して鋭角に配置され、ここで好ましくはこの鋭角は0度~30度の間、好ましくは0度~20度の間の範囲である。更なる実施形態によれば、ノズル122及び/又はそれにより提供される流れFもまたこのTHzビーム経路BPと別の角度をなし、例えば、
図1に例示的に示すように、このビーム経路と実質的に直交し得る。
【0082】
更に好ましい実施形態によれば、この流れF(
図3)及び/又は少なくとも1つのガス噴流は、a)THz放射TRのビーム経路BPに平行な(例えばTHz放射TRのビーム経路の傍の、又はこのTHz放射のビーム経路を軸方向に囲む)方向、又はb)例えばこのTHz放射のビーム経路に対してゼロではない鋭角を含む、THz放射のビーム経路に少なくとも実質的に平行な方向、を含む。ここで、このゼロではない鋭角は好ましくは20度未満、より好ましくは10度未満である(
図3参照)。
図3の例示的構成では、個別のTHzデバイス110、110aが、
図3のノズル122の基準軸に対応する
図3の垂線に平行に整列していないために、ノズル122、したがってそれにより与えられる流れFも、ビーム経路BPに対して理想的に平行又は同軸ではないことに留意されたい。この意味で理想的な同軸の整列は、後で説明する
図5に例示的に示す。
【0083】
更に好ましい実施形態によれば(
図3を参照)、少なくとも1つのTHzデバイス110、110aと、少なくとも1つのTHzデバイス110、110aから送信され、及び/又はそれによって受信されるTHz放射TRと相互作用する測定対象物10との間の公称作動距離dwは、4センチメートル(cm)、以上であり、好ましくは10cm以上である。有利なことに、この保護ガスPGの流れを案内する装置又は他のいかなる装置も、この装置100cと測定対象物10aとの間に配置する必要はない。それは保護ガスPGの流れFが好ましくは1以上の自由噴流から成り、THz放射TRのビーム経路BPの領域に保護ガスPGの制御された局所雰囲気を確立するのに十分であるからである。これにより、装置100cと測定対象物の間に例えばハウジングなどを必要としないので、ハンドリングが容易となり、その結果、特に塗料層などの濡れた又は乾燥した被覆を含む測定対象物もまた、特に装置100cと測定対象物10との間の流れFのためのハウジングを使用する場合などに起き得る、大きな衝撃圧力をそのような測定対象物に加えることなしに、柔軟にハンドリング可能となる。したがって、好ましい実施形態は、例えば塗布及び/又は被覆され、好ましくはその塗料及び/又は被膜が濡れているかあるいは少なくともまだ完全に乾燥していないような、敏感な表面を有する測定対象物の測定に基づくTHz放射の実行にも特に好適である。
【0084】
さらに好ましい実施形態による原理を使用するとき、また従来の方法に対比して、測定対象物10(
図3)はTHz測定用の自身のハウジング内に配置される必要はない。むしろ、好ましい実施形態による保護ガス流F、好ましくは、自由噴流は、このTHzの望ましくない吸収を生じさせ、測定精度を低減させ得る湿度などの環境的な悪影響からTHzビーム経路BPを遮蔽するものと考えられる。したがって、例えば水蒸気により生じる望ましくない吸収干渉を特に回避可能である。
【0085】
図4は更に好ましい実施形態による装置100dの簡略ブロック図を概略的に示す。ノズル122はここでもその基準軸が基本的にTHzデバイス110、110aのビーム経路に一致しているが、流れFは
図4では測定対象物10からTHzデバイス110、110aに向かって垂直上方に向いている。この構成においても、水蒸気などの環境的影響からのTHzビーム経路BPの優れた「遮蔽」が、保護ガスの流れFによって達成可能である。
【0086】
図5は更に好ましい実施形態による装置100eの簡略ブロック図を概略的に示す。2つのノズル122_1、122_2、及びそれぞれに関連する保護ガス供給装置120_1、120_2が提供され、これらのノズル122_1、122_2(及びその基準軸122_1’)はビーム経路BPの周りに同軸に配置される。これは
図5ではTHzデバイス110、110aの基準軸RAに一致する。THzデバイスは、測定対象物10に関して透過測定方式で配置され、THz送信器110がTHz放射TR1を送信し、これが少なくとも部分的に測定対象物10を透過し、少なくとも部分的に透過した放射TR1の一部(符号TR1’を参照)が、THz受信器110aによって受信される。第1ノズル122_1は保護ガスの第1流れF_1を測定対象物10の(
図5の)上面に向かって提供する。そして第2ノズル122_2は反平行の保護ガスの第2の流れF_2を測定対象物10の(
図5の)下面に向かって提供する。この流れF_1、F_2はそれぞれの上面及び下面の近くの領域で偏向される。ただし、ビーム経路BPはこの流れF_1、F_2によって効果的に保護される。
【0087】
更に好ましい実施形態によれば、装置100f(
図6参照)はハウジング130を備え、少なくとも1つのTHzデバイス110がこのハウジング130の内部Iに配置される。ここで好ましくは、保護ガス供給装置120の少なくとも1つの構成要素(又はその全体)が、このハウジング130の内部I内に配置されるか、及び/又はその内部Iで構成される。
図6の例示的構成では、ノズル122がハウジング130に取り付けられ、流れFをTHz送信器110から放射されるTHz放射TR3のビーム経路に平行及び/又はその周りに同軸に向ける。任意選択により、測定対象物10を透過するこのTHz放射TR3の一部TR3’が、
図6には示されていない少なくとも1つの任意選択のTHz受信器により検出又は受信可能である。
【0088】
図6と同様に、
図7は、装置100gのハウジング130の内部Iに配置されたTHz受信器110aと、保護ガス供給装置120の少なくとも1つの構成要素とを有するTHz放射受信構成を例示的に示す。
図7の測定対象物10へ送信されるTHz放射は、
図7に示されてない少なくとも1つのTHz送信器によって提供することも可能であり、それを符号TR4で参照する。ここで、この測定対象物10を透過して送信されるTHz放射は、THz受信器110aにより受信可能であり、これを符号TR4’で参照する。
【0089】
図は更に好ましい実施形態による装置100hを概略的に示す。これは、共通のハウジング130内に配置されたTHz送信器110とTHz受信器110aを備え、保護ガス供給装置120の少なくとも1つの構成要素もまたこの共通ハウジング130内に配置され得る。
図6、7と同様に、
図8のノズル122はハウジング130に取り付けられ、保護ガスPGは装置120によって、例えばハウジング130の内部からノズル122の入力端へ提供され、ノズルの出力端を介して出て行くことができる。装置120へは、例えば、この保護ガスを入り口ポート124(
図1)を経由して外部装置200(
図1)から供給することも可能である。入り口ポートは
図8のハウジング130に配置可能であるが、分かり易くするために
図8には示されていない。
【0090】
更に好ましい実施形態によれば(
図9参照)、装置100iは第1ノズル1221(例えば自由噴流ノズル)を備え、これが好ましくはTHz放射TRのビーム経路BPの少なくとも一部に対して、好ましくは保護ガスPGの自由噴流F41である第1噴流F41を提供するように構成される。この装置100iはさらに第2ノズル1222を備え、これは例えば第1ノズル1221の周りに同軸に配置されたリングノズルである。ここでこの第2ノズル1222は第2噴流F42を提供するように構成され、この第2噴流が好ましくは第1噴流F41を、特に少なくとも部分的に同軸状に取り囲む。ここで好ましくはこの第2噴流F42はさや状の流れである。有利には、このさや状流れF42は、例えば自由噴流である第1ノズル1221による第1噴流F41の半径方向外側に延在し、したがって、自由噴流である第1ノズル1221による第1噴流F41が周囲の媒体、例えば大気などの流体と相互作用しないように保護する。さらに、さや状流れF42は、第1ノズルで提供される例えば自由噴流である第1噴流F41が半径方向外側部分で乱流となることを防止する。まず、乱流はこのさや状流れF42の半径方向外側と周囲の媒体M、例えば大気AA、との間の界面で発生し得るもので、それは第1噴流F41の内部にあるTHzビーム経路には影響しない。さや状流れF42が消失した後になって初めて、例えばさや状流れF42の半径方向外側と周囲の媒体Mとの間の界面での乱流の発生により、内側の第1噴流F41の半径方向外側において乱流が発生し得る。この構成は、半径方向外側のさや状流れF42が半径方向内側の第1噴流、例えば自由噴流を効果的に保護するので、この少なくとも1つのTHzデバイス110、110aと測定対象物10との間の公称作動距離の更なる増加を可能とする。
【0091】
更に好ましい実施形態によれば、第2噴流F42(すなわち、さや状流れ)は、大気AA及び/又は保護ガスPGを含み得る。(半径方向外側の)第2噴流F42の流体は、通常、好ましくは半径方向内側のTHzビーム経路とは全く(又は少なくとも実質的には)相互作用しないので、第2噴流F42は大気AAを含んでもよい。ただし、更なる実施形態により、精度及び公称作動距離dw(
図3)を更に増加させるために、この保護ガスPGをこの第2噴流、すなわちさや状流れF42に使用することも可能である。
【0092】
更に好ましい実施形態によれば、両方のノズル1221、1222は一体型ノズル装置1220の形態で提供することも可能である。これは対応する共通の保護ガス供給装置120aによって保護ガスPGが供給されてもよい。更に好ましい実施形態によれば、構成要素1221、1222、120aのうちの少なくとも1つは、
図9には示されていないが装置100iのハウジング130(
図8)の内部又はハウジングに配置することも可能である。
【0093】
図9では、例示的に2つのTHzデバイス110、110aと共に示されているが、この2つの、好ましくは同軸に整列されたノズル1221、1222は、さらに好ましい実施形態によれば、1つのTHzデバイス又は3つ以上のTHzデバイスを有する他の装置に適用することも可能である。さらには、
図8の装置100hと同様に、
図9の2つのノズル1221、1222は、さらに好ましい実施形態によれば、ハウジング130(
図8)に配置することが可能である。
【0094】
図10は、
図9による装置100iの流れF41、F42に対する流速vを模式的に示す。半径方向内側領域R1では、この保護ガスPGの一定の流速が提供されることがわかる。これは、このTHzビーム経路BP内での僅かな空間的及び/又は時間的な圧力差も、THz放射TRの伝播に影響を与え得るので、正確なTHz測定のためには特に有益である。
図10によれば、図の半径方向外側領域R2においては、流速の増加がみられる。これは基本的にはさや状流れF42によって生じる。
【0095】
図11Aは、さらに好ましい実施形態による、自由噴流ノズルとして構成された第1ノズル1221と、その第1ノズル1221を半径方向に取り囲む第2ノズル1222とを含む、ノズル装置1220aの底面図を模式的に示す。
図11Aの実施形態1220aにおいて、第2ノズル1222は、複数の、好ましくは規則的に離隔した、円周上に配置されたノズル開口を備え、そのうちの2つのみを
図11Aに共通の参照記号1222_aで示す。このように、流れの方向を
図11Aの紙面に垂直にして保護ガスPGの自由噴流が提供され、第1ノズル1221の内部I1に配置されるTHz放射TR(
図9)のビーム経路BPを構成するか、又はそれを取り囲む。
【0096】
更に好ましい実施形態によれば、第1(内側)ノズル1221を、単一の好ましくは円形の開口の代わりに、ノズル開口1222_aと同じ様に、等間隔及び/又は規則配置及び/又は確率分散のいずれかによる複数の個別のノズル開口として、流れFを提供することもまた可能である。
【0097】
図11Bは、更に好ましい実施形態による、ノズル装置1220bの底面図を模式的に示す。これは
図11Aのノズル装置1220aと同様であるが、ただし第2ノズル1222は、さや状流れF42(
図9)を提供するための単一の環状流路1222_bを有するリングノズルとして設計されている。
【0098】
更に好ましい実施形態によれば、各ノズル1221、1222は、保護ガスPG及び/又は大気などを受けるための個別の入り口ポート(図示せず)を備えてもよい。ここで、そのノズル1221、1222で生成される流れの、特に半径方向の速度分布は、柔軟に制御され得る。
【0099】
更に好ましい実施形態によれば、
図12の装置100jを参照すると、外部供給源200からの保護ガスPG1の入り口ポート124がハウジング130に配置されるか、及び/又は組み込まれている。この少なくとも1つのノズル122はこのハウジング130に配置されるか及び/又は組み込まれ、この入り口ポート124と少なくとも1つのノズル122との間の流体連通FVは、ハウジング130の内部Iを介して可能となる(この流体連通を記号で表すブロック矢印FCを参照)。言い換えると、装置100iのハウジング130の少なくとも一部は、この保護ガスPG1を入り口ポート124から、任意選択で、オプションの圧力コントローラ128を介して、少なくとも1つのノズル122へ案内する導管として作用する。このことは更なる利点を有し、それはこのハウジング130内に配置される1以上のTHzデバイス110、110aもまた、この保護ガスPG1で少なくとも部分的に取り囲まれることである。オプションの圧力コントローラ128は、例えば受信したTHz信号c4に応じて制御され得る(制御装置300aからのデータ接続c5参照)。
【0100】
さらに好ましい実施形態(
図12)によると、このハウジング130はTHz放射TRを通過させる開口132を備える。少なくとも1つのノズル122がこの開口132を形成する。言い換えれば、いくつかの実施形態によれば、この少なくとも1つのノズル122が、保護ガスPG1’の流れFを例えばハウジング130の外部、特にTHz放射TRのビーム経路領域へ提供するための開口132を備え得る。ここで、このノズル122のこの開口132は、THz放射TRが、ハウジング130の内部Iからハウジング130の外部へ、例えば測定対象物10(
図12には示さず)に向かって送信されることを可能とし、及び/又はその逆に、ハウジング130内に配置されたTHz受信器又はトランシーバがハウジングの外部からのTHz放射を受信することを可能とする、窓として同時に作用する。言い換えると、いくつかの実施形態によれば、この少なくとも1つのノズル122は、保護ガスPG、PG’の流れFを提供する流体のための第1の機能と、さらにはTHz放射TRの送信及び/又は受信を可能とする窓として作用する第2の機能とを備え得る。
【0101】
更に好ましい実施形態(
図13の装置100k参照)によれば、開口132に窓136が設けられ、この窓136は好ましくはその開口132を密閉して、特に気密封止してこの開口を覆うか閉じる。ここでこの窓136はTHz測定を妨げないためにTHz放射TRに対して透明である(すなわち所定の最大の減衰からなる)。
【0102】
更なる実施形態によれば、少なくとも1つのノズル122が、この窓136を有する開口132の周りに提供されて、例えばハウジング130の外表面130aに取り付けられ得る。この少なくとも1つのノズル122は、例えば外部供給源200から保護ガスPGを受け取るための入り口ポート124’を備えることができる。具体的にはこれらの実施形態においては、入り口ポート124’は装置100kのハウジング130(この中に例えば少なくとも1つのTHzデバイス110、110aが配置され得る)の外側にあり、したがってこの少なくとも1つのノズル122に保護ガスPGが供給されて保護ガスPGの流れFがTHz放射TRのビーム経路に提供されるとき、ハウジング130の内部Iには「新鮮な」保護ガスは供給されない。更なる実施形態によれば、ハウジング130は気密封止され、内部Iは密封前に、例えばハウジング130の製造中に、保護ガスが充填され得る。
【0103】
更に好ましい実施形態(
図14の装置100l参照)によれば、ハウジング130はTHz放射TRを通過させる開口132を備え、少なくとも1つのノズル122がその開口132内に、及び/又はその開口に、及び/又はその開口の周りに配置される。
【0104】
更に好ましい実施形態によれば、この装置100lには少なくとも1つの蓋134が備えられ、これがその開口132を、特に選択的に開閉し、好ましくは密閉して、特には(気密に)封止して閉じる。ここでこの蓋134は好ましくは、ハウジング130とノズル122の少なくとも1つに、特に回転可能に取り付けられる。ここでは
図14において、蓋134はノズル122へ回転可能に取り付けられ、例示的に開放状態で示されている。点線の四角形134’が、閉鎖状態の蓋134の位置を示す。
【0105】
更に好ましい実施形態によれば、蓋134又は開口132の開閉は、それぞれ、例えば装置100lの動作状態に応じて実行され得る。例として、例えばTHz放射TRを用いて測定の実行に使用可能なアクティブ化された状態に対して、蓋134が、少なくとも一時的に、開放され得る。そして非アクティブ化状態に対しては蓋134が閉鎖され得る。
【0106】
更に好ましい実施形態によれば、アクチュエータ135(例えば電磁アクチュエータ)が設けられて蓋134の移動、すなわち蓋134の開放及び/又は蓋134の閉鎖、を駆動可能であってよい。閉鎖状態では、蓋134は、例えば粒子がハウジング130の内部Iに侵入することを防止し、開放状態では、蓋134がTHz放射TRの送信及び/又は受信を可能とし、また、(任意選択により)開口132を通した保護ガスの流れFも可能とする。更に好ましい実施形態によれば、保護ガスPGの流れFが、蓋134の開放状態で開口132を通って提供される場合には、その保護ガス流Fによって粒子がハウジング130の内部Iに入ることが防止される。
【0107】
更に好ましい実施形態によれば、そのようなアクチュエータ135は、ばね又はばね機構(図示せず)を備えることが可能であり、好ましくはその蓋134にばね力(「閉鎖力」)をかけて、その閉鎖力で蓋を閉鎖状態、すなわち開口132を密閉した状態に保持するように配置及び/又は構成される。好ましくは、ばね又はばね機構は、保護ガスの流れFがないときは、その閉鎖力によって蓋134が閉鎖状態、すなわち開口132を閉じたままであるように構成可能であって、保護ガスの流れFが存在する場合は、流れFによって、閉鎖力よりも大きい「開放」力OFを与えることが可能であって、流れFが存在すると、蓋134を「自動的」(すなわち人の関与なしに)開く結果をもたらす。この開状態においてはTHz測定が可能であり、流れFが非アクティブ化されると、ばね又はばね機構135の閉鎖力によって蓋が再び閉じられる。
【0108】
更に好ましい実施形態によれば、装置100m(
図15参照)は、位置決めシステム140、具体的にはロボット140を更に備える。一例として、更に好ましい実施形態によれば、ハウジング130が、前に説明した1以上のTHzデバイス(
図15には表示せず)を備えて、THz測定ヘッド130を形成し得る。このTHz測定ヘッド130はこのロボット140に取り付けることができ、例えば透過THz放射TR1及びその測定対象物10で反射された、反射THz放射TR2に基づいて、種々の測定対象物10に対してTHz測定を効率的に実行可能である。一例として、装置100m及び/又はTHz測定ヘッド130を使用して、製造プラントのインライン構成でTHz測定をすることが可能である。例えば自動車ボディパーツなどの物体上の塗料層などの、好ましくは複数の被覆層の測定に使用可能である。
【0109】
更に好ましい実施形態によれば、保護ガスの外部供給源200をロボット140、又はその近くに配置可能であり、流体又はガスの配管202によりその保護ガスを、測定ヘッド130(すなわちハウジング)に設けられた入り口ポート124へ提供可能である。上で説明した少なくとも1つの装置100~100lと同様に、
図15の装置100mは、好ましくは少なくとも1つの自由噴流の形態をした保護ガスの流れFを、このTHz放射TR1、TR2のビーム経路へ差し向ける少なくとも1つのノズル122(
図1)(あるいはノズル装置1220、
図9参照)を含み得る。
【0110】
更なる好ましい実施形態は、実施形態による少なくとも1つの装置100mと、少なくとも1つの測定対象物10とを備える測定システム1000に関する。ここで、この装置100mとこの少なくとも1つの測定対象物10は、少なくとも2センチメートル、好ましくは少なくとも5センチメートルの測定距離mdだけ互いに離隔し、この装置100mとこの測定対象物10の間には、いかなる物体、好ましくはいかなる固体物体も(あるいはこの保護ガスの流れF(及び/又は任意選択のさや状流れ)とは別のいかなる他の材料も))配置されない。
【0111】
さらに好ましい実施形態は、少なくとも1つのTHzデバイスを備える装置の操作方法に関係する。この少なくとも1つのTHzデバイスはTHz放射を送信及び/又は受信するように構成され、この装置はこのTHz放射のビーム経路の少なくとも一部に保護ガス流を提供する。これは
図17の簡略化したフロー図に例示的に示される。ステップ400において、この装置100(
図1)がTHz放射TRのビーム経路BPの少なくとも一部P’に保護ガスPGの流れFを提供する。ステップ410(
図17)において、装置100がそのTHz放射TRを使用して、測定対象物10に関する測定を実行する。有利には、ステップ400、410は、時間的に少なくとも部分的に重複する形で、すなわち同時に実行される。こうして、測定に使用されるTHz放射TRは、この保護ガスPGの流れFによって、望ましくない水(蒸気)吸収効果から「保護」される。
【0112】
これに関して、
図16Aは一例による、周波数に対する受信したTHz放射TR2(
図1)の強度I1を概略的に示す。ここで特にTHz測定の間は保護ガスPGの流れは提供されなかった。THz測定値は、
図16Aの特に領域Bにおいて水吸収による干渉の影響を大きく受けることがわかる。
【0113】
逆に、実施形態による原理を用いて、すなわち特にTHz測定410中に保護ガスPGの流れF(
図1)を提供して、THz測定410(
図17)を行う場合、望ましくないノイズ及び/又は水吸収干渉は顕著に低減可能である(
図16Bの領域B参照)。
図16Bの縦の強度軸I2は、
図16Aの縦の強度軸I1と同じ倍率及び範囲であることに留意されたい。このことは2つの図の周波数軸に関しても当てはまる。
【0114】
更なる実施形態によれば、少なくとも1つのノズル122は、ラバールノズルとして設計されてもよい。出願人の解析によれば、これらの実施形態は、さらに大きな作動距離に対しても特に好適である。
【0115】
更なる実施形態によれば、このビーム経路の少なくとも一部に対してこの保護ガスの完全な乱流を提供することも可能であり、THz放射への乱流の悪影響を統計的に相互に打ち消しあうことも可能である。
【0116】
更なる実施形態によれば、実施形態による原理を使用して、例えば反射ベース及び/又は透過ベースの測定などのTHz放射に基づく種々の測定に使用することが可能である。例えば(時間領域の)リフレクトメトリベースの層厚さ測定など、分光測定、THz放射ベースの画像化方法、などである。望ましくない水(蒸気)吸収効果を低減することとは別に、少なくともいくつかの実施形態は、大気などの周辺媒体の変動により生じ得るTHz測定のノイズのさらなる低減を可能とする。更なる好ましい実施形態は、THzビーム経路BPの領域において、経時的かつ空間的に制御可能で、好ましくは均一な(ガス)圧力の分布の提供を可能とし、それによりTHz放射ベースの測定の精度と信頼性をさらに向上させる。