IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スカイワークス ソリューションズ,インコーポレイテッドの特許一覧

特許7458431弾性波フィルタ改善のための置換窒化アルミニウム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】弾性波フィルタ改善のための置換窒化アルミニウム
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/582 20060101AFI20240322BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20240322BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20240322BHJP
   H03H 9/54 20060101ALI20240322BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20240322BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20240322BHJP
【FI】
C04B35/582
H03H3/02 B
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
H03H9/25 Z
H10N30/853
【請求項の数】 24
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022035135
(22)【出願日】2022-03-08
(62)【分割の表示】P 2020500628の分割
【原出願日】2018-07-03
(65)【公開番号】P2022091780
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2022-04-06
(31)【優先権主張番号】62/529,742
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503031330
【氏名又は名称】スカイワークス ソリューションズ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SKYWORKS SOLUTIONS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ヒル、 マイケル デビッド
(72)【発明者】
【氏名】ガンメル、 ピーター レーデル
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/111280(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/005216(WO,A1)
【文献】特表平07-508966(JP,A)
【文献】米国特許第04952535(US,A)
【文献】特開2017-095797(JP,A)
【文献】特開2013-219743(JP,A)
【文献】特表2016-504870(JP,A)
【文献】特開2014-121025(JP,A)
【文献】国際公開第2015/025716(WO,A1)
【文献】特開2012-100029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/581-35/582
H03H 9/17
H10N 30/00-30/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性波共振器であって、
a)Sb又はNbの一方、
b)B、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm若しくはYbのうちの一つ以上と組み合わせられたCr、又は
c)Liと組み合わせられたNb及びTaの一
らなる群から選択される一以上の元素の陽イオンがドープされたAlNによって形成される圧電材料を含む、弾性波共振器。
【請求項2】
前記陽イオンは、前記圧電材料の結晶構造において少なくとも部分的にAlを置換する、請求項1の弾性波共振器。
【請求項3】
請求項1の弾性波共振器を含む弾性波フィルタ。
【請求項4】
前記弾性波共振器はバルク弾性波共振器である、請求項3の弾性波フィルタ。
【請求項5】
前記バルク弾性波共振器は、薄膜バルク弾性波共振器又はソリッドマウント共振器である、請求項4の弾性波フィルタ。
【請求項6】
前記弾性波フィルタは無線周波数フィルタである、請求項4の弾性波フィルタ。
【請求項7】
請求項6の弾性波フィルタを含む電子機器モジュール。
【請求項8】
請求項7の電子機器モジュールを含む電子デバイス。
【請求項9】
前記圧電材料はウルツ鉱結晶構造を有する、請求項1の弾性波共振器。
【請求項10】
弾性波共振器を形成する方法であって、
圧電膜を形成することと、
前記圧電膜に電極を堆積して前記弾性波共振器を形成することと
を含み、
前記圧電膜は、
a)Sb又はNbの一方、
b)B、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm若しくはYbのうちの一つ以上と組み合わせられたCr、又は
c)Liと組み合わせられたNb及びTaの一方
らなる群から選択される一以上の元素の陽イオンがドープされたAlNによって形成される圧電材料を含む、方法。
【請求項11】
前記陽イオンは、前記圧電材料の結晶構造において少なくとも部分的にAlを置換する、請求項10の方法。
【請求項12】
前記圧電膜に電極を堆積することは、前記圧電膜の頂面に第1電極を堆積することと、前記圧電膜の底面に第2電極を堆積することとを含む、請求項10の方法。
【請求項13】
前記弾性波共振器は薄膜バルク弾性波共振器であり、
前記方法はさらに、前記圧電膜の下側面の下方にキャビティを画定することを含む、請求項12の方法。
【請求項14】
前記弾性波共振器はソリッドマウント共振器であり、
前記方法はさらに、前記圧電膜をブラッグ反射器の頂面に形成することを含む、請求項12の方法。
【請求項15】
圧電材料の膜と、前記圧電材料の膜に堆積された電極とを含む弾性波共振器であって、
前記圧電材料の膜は、
a)Sb又はNbの一方、
b)B、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm若しくはYbのうちの一つ以上と組み合わせられたCr、
c)Liと組み合わせられたNb及びTaの一方
らなる群から選択される一以上の元素の陽イオンがドープされたAlNを含む、
弾性波共振器。
【請求項16】
前記陽イオンは、前記圧電材料の結晶構造において少なくとも部分的にAlを置換する、請求項15の弾性波共振器。
【請求項17】
前記圧電材料はウルツ鉱結晶構造を有する、請求項15の弾性波共振器。
【請求項18】
ソリッドマウント共振器として構成される請求項15の弾性波共振器。
【請求項19】
薄膜バルク弾性波共振器として構成される請求項15の弾性波共振器。
【請求項20】
請求項15の弾性波共振器を含むフィルタ。
【請求項21】
無線周波数の通過帯域を有する請求項20のフィルタ。
【請求項22】
請求項20のフィルタを含む電子デバイスモジュール。
【請求項23】
請求項22の電子デバイスモジュールを含む電子デバイス。
【請求項24】
前記電子デバイスモジュールは無線周波数電子デバイスモジュールである、請求項23の電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その全体があらゆる目的のためにここに参照により組み入れられる2017年
7月7日に出願された「弾性波フィルタ改善のための置換窒化アルミニウム」との名称の
米国仮特許出願第62/529,742号に係る米国特許法第119条(e)の優先権の
利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム(AlN)は、1~5GHzの範囲で動作するバルク弾性波(BAW
)及び薄膜バルク弾性共振器(FBAR)フィルタにおいて使用されている圧電材料であ
る。IIIA族窒化物(例えばGaN及びInN)の多数は、系列を下りるにつれて圧電
係数の劇的な減少を示す。AlNの特性は、スカンジウムのようなアルミニウムに対する
置換元素によって修正することができる。しかしながら、これらの物質に対し、BAWフ
ィルタの特性改善をもたらし得る電気機械結合の改善、誘電率の向上、音速の増大、及び
温度安定性の良化の必要性が依然として存在する。ここで使用されるように、用語「BA
Wフィルタ」はFBARフィルタを含む。
【0003】
弾性波フィルタに使用され得る圧電材料の所望の特性は以下を含む。
・例えば12,000m/秒を超えるような高い音速。
・例えば5%を超えるような良好な結合係数。
・デバイスのサイズを減少させる高い誘電率。
・堆積及び統合のための安定した材料システム及び結晶構造。
・材料が低漏洩の良好な絶縁体となるための広いバンドギャップ。
【0004】
BAWフィルタの様々なパラメータとかかるフィルタで利用される圧電材料の材料特性
との関係は以下を含む。
・増加した帯域幅=増加した結合係数k
・フィルタのための急峻なエッジ=増加した品質係数Q。
・フィルタ厚さ縮小化=増加した音速v=(c33/ρ)1/2、c33=弾性率、ρ
=材料密度。
・xy平面でのフィルタ縮小化=増加した誘電率。
・低い漏洩電流、良好な絶縁体=広いバンドギャップ。
・フィルタ温度安定性=圧電応答の温度安定性。
【0005】
弾性波フィルタで使用されるときの性能に関連する圧電材料の材料特性は以下を含む。
・k =e33 /(c 33ε33 )=d33 /(c 33ε33 )=
π/4(1-(f/f))=K/(1+K):K=e33 εε 33
(k は結合係数、e33及びd33は圧電係数、c 33及びc 33は弾性率、ε
33は誘電率、εは相対誘電率、f及びfはそれぞれ直列共振周波数及び並列共振
周波数である。)
・信号対雑音比(SNR)=e31 /(εε33tanδ)1/2
・fs,m(GHz)=最小インピーダンスのポイントの周波数。これは、直列共振周
波数に近くかつ理論的に等価である。
・f(GHz)=並列共振周波数
・縦音速v=(c33/ρ)1/2
・FOM(性能指数)=k eff,m×Q
【0006】
直列共振周波数及び並列共振周波数の箇所を示す弾性波フィルタの一例のインピーダン
ス対周波数のチャートが図1に示される。
【0007】
マイクロ波周波数において、材料の誘電率は、イオン分極率により支配される。様々な
三価陽イオンの誘電分極率対結晶半径を示すチャートを、図2に示す。誘電率のクラウジ
ウス・モソッティの関係は以下のとおりである。
-α=3/4π[(V)(ε’-1)/(ε’+2)]
・α=合計イオン分極率
・V=モル体積
・ε’=材料の誘電率
-α=Σα
・αは、個別のイオン分極率を示す。
-ε’=(3V+8πα)/(3V-4πα
【0008】
共有結合効果が、イオンモデルを「ぼかす」。ドープされたAlNは、使用されるドー
パントに応じてイオン結合及び共有結合双方の特性を示し得る。
【0009】
AlN系共振器は、25~30ppm/℃の範囲の周波数温度係数(TCF)のドリフ
トを示す。ちなみに、GaNのTCFは、約-18ppm/℃である。共振周波数のTC
Fドリフトは、弾性率の熱ドリフトにより支配される。共振周波数の過剰な熱ドリフトが
問題となるのは、共振周波数のTCFドリフトを補償するべく二酸化ケイ素(SiO
の層を共振器上に堆積させる必要があり、これが、結合係数(k)及びスプリアス応答
をもたらすからである。AlNにスカンジウム(Sc)のような材料をドープしても、T
CFはほとんど調整されない。
【0010】
材料の音速は、当該材料の体積弾性率及び密度に関係し、以下の式に従う。
v=(K/ρ)1/2
・K=材料の体積弾性率
・ρ=密度
【0011】
材料の縦音速は、以下の式によって計算することができる。
=(c33/ρ)1/2
【0012】
様々な電気機械材料の音速及び他の選択された材料パラメータが、図3の表に示される
。4H型六方晶積層炭化ケイ素(SiC)(ウルツ鉱)の音速は非常に高い(13,10
0m/s)。しかしながら、AlNとSiCとの固溶体は実現可能ではない。
【0013】
AlN、窒化ガリウム(GaN)及び窒化インジウム(InN)を含む様々な窒化物は
すべて、空間群c 6vを有するウルツ鉱結晶構造をとる。空間群とは、周期格子に示さ
れる3次元対称性の特徴のことである。この構造の例示が、図4に示される。ウルツ鉱構
造は、AB型六方晶構造にある四面体配位の陽イオン及び陰イオンを含む。ウルツ鉱構造
は、自発分極と互換性のある最高の可能対称性を示す。ウルツ鉱結晶構造の重要な結晶学
的パラメータは、六方晶c、六方晶a及び結合長uを含む。これらのパラメータを図4
示す。AlNにおいて、c軸結合は、他の結合よりも長い。AlN、GaN及びInNに
対するこれらの結晶学的パラメータを、以下の表1に示す。
【表1】
上記表において、uは結合長である。これは典型的に無次元であり、次元cパラメータの
分数として表される。Å単位の結合長は、uを乗じた(c/a)によって決定され得る。
【0014】
ウルツ鉱構造窒化物は、他のIII-V材料よりもむしろII-VI材料(ZnO)に
類似する。ウルツ鉱構造窒化物は、同じ圧電係数符号、及び高いボルン有効電荷を有する
(図像性(iconicity))。GaN→InN→AlNの順に、結合長(u)が長
くなり、c/aは小さくなる。様々なIII-Vウルツ鉱窒化物AlN、GaN及びIn
N、並びにII-VIウルツ鉱酸化物に対する、自発分極、ボルン有効電荷、及び圧電定
数を含む様々な材料パラメータを、図5Aに示す。AlN、GaN及びInNの付加的な
特性を、図5Bの表に示す。
【0015】
ZnOは、AlN又はGaNのようなウルツ鉱構造III-V窒化物のためのモデルと
見なすことができる。ZnOは、圧電係数がAlN又はGaNよりも大きく、有効電荷が
GaNよりも高く、歪みに対する圧電応答がGaNよりも大きい。ZnOにおいてZn
を置換する陽イオンが小さいほど、向上した圧電応答が観測されている。特定の理論に
拘束されるわけではないが、ZnOにおける圧電応答は、c軸まわりの非共線結合の回転
に起因して生じると考えられる。ZnOにおいてZnを小さな高電荷イオンで置換するこ
とにより、この回転が向上する(例えばZn2+をV5+により置換)。このメカニズム
はGaNにおいて圧電性を向上させ得るが、多くのイオンがAlNにおけるAlよりも小
さいわけではない(例えばSi4+)。V5+又はTa5+の高電荷は、おそらくアルミ
ニウム空孔により補償された電荷であり、この回転効果をAlNにおいて向上させ得る。
特定の理論に拘束されるわけではないが、電荷のバランスとグリム・サマーフェルドの概
念とは欠陥の存在によって乱されるので、欠陥は、ドープされたZnO及びAlNの圧電
性向上の一役を担うとも考えられる。電荷補償は、ドープされたAlNにおけるアンチサ
イト欠陥(NAl)、格子間窒素(N)又はAl空孔によって達成され得る。
【0016】
AlNは、弾性波共振器及びフィルタにおける圧電材料としてAlNを使用するのに魅
力的としてきた様々な特性を示す。これらの特性は以下を含む。
・広いバンドギャップ(6.2eV)
・高い熱伝導度(2W/cm・K)
・高い電気抵抗率(1×1016Ω・cm)
・高い絶縁破壊電圧(5×10V/cm)
・高い品質係数(BAWに対し2GHzにおいて3,000)
・中程度の結合係数(BAWに対し6.5%)
・中程度の圧電係数(e33=1.55C/m
・高い縦音速(BAWに対し11,300m/s)
・低い伝播損失
・c軸配向膜の調製容易
・化学的に安定
・IC技術プロセスと互換可能
【0017】
BN以外に、IIIA窒化物-AlN固溶体の圧電特性を特徴付ける研究はほとんど行
われていない。AlGa1-xN固溶体の格子定数及びエネルギーギャップの試験結果
図6A及び6Bに示す。AlGa1-xNは連続固溶体を示す。
【0018】
SiC、GaN、InN、ZnO及びCdSeの特性を比較する付加的な研究により、
フィリップスイオン性が下がるほど、大きな弾性定数及び大きな音速がもたらされること
が示された。これは、図7A及び7Bに示される。
【0019】
ScがドープされたAlNが調査されている。ScNは岩塩構造を有する。AlNのウ
ルツ鉱構造におけるc/a比は、Scが加わるにつれて低下する(AlNに対するc/a
は1.601であり、Al.88Sc.12Nに対するc/aは1.575である)。モ
デル化により、ScドープAlNに中間の六方晶構造が存在し得ることが予測される。S
0.5l0.5Nに対する結晶構造対c/a比の変化が図8A及び8Bに示される。
図8A及び8Bは究極的に同じc/a比を示し、最適なc/a比から逸脱することにエネ
ルギーの代償が払われることがわかる。uパラメータは、Scサイトまわりで大きくなる
。c方向には浅いエネルギー井戸が存在する。Scにより、共有原子価が下がり、ドープ
AlNの圧電性が増加する。密度汎関数理論が、AlをScにより置換することがウルツ
鉱相の軟化をもたらすことを明らかにする。これは、窒素の配位に関するAl3+とSc
3+との競合に起因する。Al3+が四面体配位を優先する一方、Sc3+は5配位又は
6配位を優先する。これが、思うようにいかないシステムをもたらす。AlNにおいてS
cがAlを置換するとイオンのポテンシャル井戸の深さが浅くなり、イオン変位が大きく
なる。Scの濃度が増加するにつれて、e33圧電係数が増加する一方、c33弾性定数
が減少する。Y3+、Yb3+等のようなさらに大きく、電気陽性のイオンもまた、この
効果を示し得る。AlNとAl.88Sc.12Nとの様々な特性の比較が図8Cに示さ
れ、AlNと他の濃度のScによりドープされたAlNとの特性の比較が図8D~8Hに
示される。
【0020】
一定程度研究されている他のドープAlN材料がYAl1-xNである。イットリウ
ムは、大きなイオン半径を有し、電気陽性であり、スカンジウムより低コストである。密
度汎関数理論に基づく非経験的計算は、YAl1-xN(x=0.75)のウルツ鉱構
造に対し高い相安定性を示す。それにもかかわらず、YAl1-xN膜においては低い
結晶性が観測されている。YAl1-xNは、酸素及び水(YOOH基)に対して大き
な親和性を示す。YAl1-xNのバンドギャップは、x=0.22において6.2e
V(AlN)から4.5eVまで低下する。弾性係数の大きな減少とd33及びe33
大きな増加とが、ScドープAlNよりもYAl1-xNにおいて観測される。Y
1-xNに対して観測される誘電率増加は、Scドープ材料と同様である。YAl
-xNにおいてYドーパントの量が異なるときのε、e33、e31、d33及びd
の変化を示すチャートを図9A~9Cに示す。
【0021】
AlをMg及びZr、Mg及びTi、又はMg及びHfにより組み合わせ置換したAl
Nの特性を調査する研究が行われている。これらの材料は、AlNと比べて改善された圧
電係数を示すが、低い弾性係数(そして同様の音速及びQ)を示す。Alを異なるドーパ
ント濃度のMg及びZr、Mg及びTi、並びにMg及びHfにより組み合わせ置換した
AlNの圧電係数及び弾性係数を示すチャートを、ScAl1-xNの圧電係数及び弾
性係数と比べて図10A及び10Bに示す。(Mg.5Zr.50.13Al0.87
N及び(Mg.5Hf.50.13Al0.87Nの様々な特性とAlNのそれとを図
10Cに表としてまとめる。
【0022】
ウルツ鉱BAl1-x(0.001<x<0.70、0.85<y<1.05)
について多くの研究が行われている。8%までのBを有する膜が成功裏に合成されている
。非経験的結果は、共有結合性の増加が、Bが増加するにつれて弾性定数c33及び音速
が増加することを示す。イオン性の低下が、ホウ素濃度が増加するにつれてe33及びk
が低下することにつながる。ホウ素濃度が増加するにつれての誘電率の増加が予測され
る。AlNにホウ素を添加することにより、未ドープAlN膜よりも大きな硬度、高い音
速、及び広いバンドギャップがもたらされる。構造の無秩序性及びc/a比の増加に起因
してピークの広がりが観測される。合成された膜の格子定数は、ベガード則による予測よ
りも増加する。Bの量を異ならせて計算及び観測されたBAl1-xの材料特性を
図11A~11Fにグラフで示す。
【0023】
AlNにおけるAlがCr又はMnにより置換されたAlNが、希薄磁性半導体として
の使用を目的として調査されている。スパッタリングされた膜が、良好なc軸配向を示し
た。Al.93Cr.07N及びAl.91Mn.09Nの抵抗率対温度を、図12A
示す。CrドープAlNの付加的な材料特性を図12B及び12Cに示す。Mnドープ材
料は、Crドープ材料よりも高い抵抗率を示す。Crドープ材料に関して特に、Cr3+
のように8面体配位の優先性を示す3d遷移金属が存在しない。したがって、強制的にC
rをAlNの中に入れることは、潜在的にkを向上させる歪みを引き起こす可能性が高
い。CrNはScNと同構造(ハライト構造)である。XPS結合エネルギーは、Crが
CrドープAlNの中にCr3+として存在することを示す。許容されない1s-3d遷
移に対するXANESピークは、低い対称性の(四面体)サイトにCrが存在することを
示す。Crは、格子歪みを誘発してAlNウルツ鉱構造を変形させる。Al.937Cr
.063Nの音速(11,490m/s)は、未ドープAlNの音速よりも大きい。Al
.937Cr.063Nは、AlN(7.9%)よりも低いk(5.6%)、高いTC
F値(-39ppm/℃)、及び高いε’(容量)91pF/m対置換AlNの82pF
/mを示すことが観測されている。これは、結合係数を低下させる大抵の他の置換がまた
、誘電率(ひいては容量)も低下させる点で予想外である。反転分域(逆極性の領域)も
観測されている。強磁性が、Cr3+ドープAlNにおいて観測されている。
【0024】
Tiもまた、AlNにおいてAlを置換し得る。かかる材料において、Tiの酸化状態
は未知である。ただし、Ti3+と推定される。Al-Ti-N膜が、Ti含有量が16
%未満のときに単相ウルツ鉱構造を形成する。大きなTi原子は、x線回折ピークに対す
る2θ値のシフトを引き起こす。結晶格子パラメータは、Tiの濃度が増加するにつれて
増加する。付加的なTiが加えられると、圧縮歪みによって結晶性が低下する。4%Ti
を超えるとTi-Al偏析が観測されている。音速及びkは、Ti含有量が増加するに
つれて低下する。誘電率は、Ti含有量とともに増加する。TiドープAlNのTCFは
、AlNのTCFよりもわずかに低い。図13は、Al(0.5-x)Ti0.5
電気機械結合係数、縦速度及び誘電率を、xの関数として示す。
【0025】
AlNにおいてAlを置換し得る付加的な元素は、タンタル(Ta)及びバナジウム(
V)を含む。AlNにおいてAlを置換するときのこれらの元素の酸化状態は、Ta3+
及びV3+と想定される。結晶学的cパラメータは、AlNにVがドープされると減少す
るが、AlNにTaがドープされると増加する。AlNに約7%以上のVがドープされる
と、材料の結晶性が破壊される。6.4%のVにおいてVN相が現れ始める。Taに対し
、Taが3.2%以上AlNにドープされると偏析が観測される。音速及びkは、V含
有量が増加すると下降するが、ε’は増加する。様々な量のV及びTaがドープされたA
lNの音速及び誘電率の変化を示すチャートを、図14A及び14Bそれぞれに示す。
【0026】
AlNにおけるTaによるAl置換の限界は、5.1原子パーセントのようである。T
aは、優れたc軸配向でAlNにおけるAlを置換し得る。Sc3+のように、Ta5+
もAl3+よりも大きい。しかしながら、Sc3+の置換とは異なり、c/a比は、Al
NにおけるAl3+をTa5+により置換しても減少しない。その代わり、c及びa格子
定数が双方とも増加する。図14Cは、AlNにおけるc及びa格子定数が、異なる量の
Taドープによってどのように変化するのかを示す。ラマン、TEM及びXPSは、Al
NにおけるAlをTaにより置換しても、第2相又は組成的に不均一な領域が現れないこ
とを示唆する。Ta-Al-N結晶格子内の弾性損失は、欠陥ゆえの無秩序に起因し得る
。Ta5+は、Sc3+よりも電気陽性とはいえないが、TaドープAlNにおいてd
の大きな増加が観測された。(図14Dを参照。)TaドープAlNにおいて観測され
たd33の増加は、結合の曲がり易さに起因し得ると仮定される。小さなイオンは、結合
回転を促進する。小さなイオンは、電界が印加されると容易に移動し得る(例えばZnO
におけるV5+)。同様の効果が、大きな格子膨張ゆえに、AlNにおけるTa5+にも
適用され得る。Ta5+は、Al3+よりもそれほど小さくなるとは予測されないので、
なぜd33圧電係数が増加するのかは不確定である。これは、おそらく、欠陥を補償する
電荷に関連付けられる。
【0027】
いくつかの例において、AlNに酸素をドープすることができる。例えば、AlN系の
膜の堆積中に使用されるスパッタリングガス中に酸素が存在し得る。酸素のイオン性が増
加するにもかかわらず、酸素ドープAlNの圧電係数の大きさは増加しない。特定の理論
に拘束されるわけではないが、AlNにおける酸素欠陥が、補償byアルミニウム空孔(
□Al)によって補償される可能性がある。さらに、AlNにおける酸素の存在により、
第2相Alの形成が引き起こされ得る。すなわち、陰イオンの化学量論を制御する
ことが難しくなり得る。したがって、ドープAlNにおいて、陰イオンの混在を避け、む
しろ陽イオンに基づいてあらゆる調整を行うことが好ましい。
【0028】
AlNの中にドーパントを加えることにより、一定数のタイプの結晶学的欠陥の一つ以
上をもたらすことができる。一つのタイプの欠陥は、電子置換に関与する。例えば、Al
NにおけるAlを置換するSiが、材料の導電度を低減させ得る深いレベルのドナー(3
20meV)として作用し得る一方、AlNにおけるAlを置換するCは、深いレベルの
アクセプター(500meV)として作用し得る。点欠陥は、空孔、格子間原子及びアン
チサイト欠陥を含む。AlNにおいて、空孔は、格子間原子及びアンチサイト欠陥よりも
エネルギー的に有利である。Al空孔に対し、当該空孔から離れる原子変位が観測される
。N空孔に対し、当該空孔に向かう原子変位が観測される。AlNにおける積層欠陥が、
{1120}積層欠陥構成を含む。積層欠陥は、置換イオン又はAl空孔のための好まし
い領域となり得る。体系的な空孔が、AlNにおけるAlがいくつかの元素により置換さ
れることによってもたらされ得る。例えば、Ta5+及びZr4+ドープのAlNは、A
l空孔(VAl又は□Al)のような生来の欠陥によって補償される。Al3+又はTa
5+よりも小さなイオンが、2□Al-3TaAlとともに弾性的に駆動される欠陥対を
形成し得る。□Al及びTaAlの空孔又は置換が、最近傍のN四面体を拡張させ得る。
Si4+は、VAlと欠陥対を形成する最近傍のN四面体を収縮させ得る。
【発明の概要】
【0029】
第1側面によれば、圧電材料が与えられる。圧電材料は、Sb、Ta、Nb又はGeの
一つと、B、Sc、Y、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm又はYbの一
つ以上と組み合わせられたCrと、Li、Mg、Ca、Ni、Co及びZnの一つと組み
合わせされたNb及びTaの一方と、Si、Ge、Ti、Zr及びHfの一つと組み合わ
せられたCaと、Si、Ge及びTiと組み合わせられたMgと、Sm、Eu、Gd、T
b、Dy、Ho、Er、Tm又はYbの一つ以上と組み合わせられたCo、Sb、Ta、
Nb、Si又はGeの一つ以上とから構成される群から選択された一つ以上の元素の陽イ
オンがドープされたAlNを含む。圧電材料の結晶構造において、陽イオンは、少なくと
も部分的にAlを置換する。
【0030】
いくつかの実施形態において、圧電材料は、式Al1-xGe3/4x□1/4xN又
はAl1-5/3xTa5+x□2/3xNの一方を有し、は、圧電材料の結晶構造に
おけるAサイトの空孔を表し、0<x<0.25である。
【0031】
いくつかの実施形態において、圧電材料は、式Al1-2xCrNを有し、0<
x<0.15である。
【0032】
いくつかの実施形態において、圧電材料は、式Al1-5/3x-3yMg2yTa
+y□2/3xNを有し、は圧電材料の結晶構造におけるAlサイトの空孔を表し、1
>5/3x+3y、0<x<0.3、0<y<0.25である。
【0033】
いくつかの実施形態において、圧電材料は、式Al1-2xMgSiNを有し、0
<x<0.15である。
【0034】
いくつかの実施形態において、圧電材料は、式Al1-x-yCr3+xIII
、MIII=Sc3+,Y3+,Sm3+...Yb3+,Sm3+...Yb3+=原
子番号62~70のランタノイドのいずれか一つ以上、を有する。
【0035】
圧電材料は、ウルツ鉱結晶構造を有し得る。
【0036】
いくつかの実施形態において、弾性波共振器が圧電材料を含む。弾性波共振器は、ソリ
ッドマウント共振器として構成されてよい。弾性波共振器は、薄膜バルク弾性共振器とし
て構成されてよい。
【0037】
いくつかの実施形態において、フィルタが弾性波共振器を含む。フィルタは、無線周波
数帯域において通過帯域を有し得る。
【0038】
いくつかの実施形態において、電子デバイスモジュールがフィルタと含む。
【0039】
いくつかの実施形態において、電子デバイスが電子デバイスモジュールを含む。電子デ
バイスモジュールは、無線周波数電子デバイスモジュールとしてよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】弾性波フィルタの一例についてのインピーダンス対周波数のチャートである。
図2】様々な三価カチオンの誘電分極率対結晶半径を示すチャートである。
図3】様々な電気機械材料の選択された材料パラメータの表である。
図4】ウルツ鉱結晶構造を示す。
図5A】様々なIII-Vウルツ鉱窒化物及びII-VIウルツ鉱酸化物についての選択された材料パラメータの表である。
図5B】AlN、GaN及びInNの選択された材料パラメータの表である。
図6A】格子定数対AlGa1-xNのxのチャートである。
図6B】エネルギーギャップ対AlGa1-xNのxのチャートである。
図7A】選択された化合物に対する弾性定数対フィリップスイオン性のチャートである。
図7B】は、選択された化合物に対する音速対フィリップスイオン性のチャートである。
図8A】Sc0.5Al0.5Nにおける結晶構造変化対c/a比を示すチャートである。
図8B】Sc0.5Al0.5Nにおける結晶構造変化対c/a比を示す他のチャートである。
図8C】AlN及びAl.88Sc.12Nの選択された材料特性の表である。
図8D】AlNと、様々な濃度のScがドープされたAlNとの選択された材料特性の表である。
図8E】様々な濃度のScがドープされたAlNのk及びQ値のチャートである。
図8F】様々な濃度のScがドープされたAlNのε及びtanδのチャートである。
図8G】様々な濃度のScがドープされたAlNのFOMのチャートである。
図8H】様々な濃度のScがドープされたAlNのTCFのチャートである。
図9A】様々な濃度のYがドープされたAlNのεのチャートである。
図9B】様々な濃度のYがドープされたAlNのe33及びe31のチャートである。
図9C】様々な濃度のYがドープされたAlNのd33及びd31のチャートである。
図10A】ScがドープされたAlNと、Mg及びZr、Mg及びTi、並びにMg及びHfによりAlを組み合わせ置換したAlNとの、e33対ドーパント濃度のチャートである。
図10B】ScがドープされたAlNと、Mg及びZr、Mg及びTi、並びにMg及びHfによりAlを組み合わせ置換したAlNとの、c33対ドーパント濃度のチャートである。
図10C】AlN、(Mg.5Zr.50.13Al0.87N及び(Mg.5Hf.50.13Al0.87Nの選択された材料特性の表である。
図11A】ホウ素ドープAlNにおけるc33対ホウ素濃度のチャートである。
図11B】ホウ素ドープAlNにおけるe33対ホウ素濃度のチャートである。
図11C】ホウ素ドープAlNにおける結晶格子パラメータc対ホウ素濃度のチャートである。
図11D】ホウ素ドープAlNにおけるk対ホウ素濃度のチャートである。
図11E】ホウ素ドープAlNにおける結晶単位セル体積対ホウ素濃度のチャートである。
図11F】ホウ素ドープAlNにおける結晶格子パラメータc及びa対ホウ素濃度のチャートである。
図12A】Al.93Cr.07N及びAl0.91Mn0.09Nの材料抵抗率対温度のチャートである。
図12B】CrドープAlNにおける格子定数対Cr濃度のチャートである。
図12C】CrドープAlNにおける有効d33対Cr濃度のチャートである。
図13】TiドープAlNにおけるk、v及び誘電率対Ti濃度のチャートである。
図14A】VドープAlNにおける音速及び誘電率対V含有量のチャートである。
図14B】TaドープAlNにおける音速及び誘電率対Ta含有量のチャートである。
図14C】TaドープAlNにおける格子定数対Ta含有量のチャートである。
図14D】TaドープAlNにおける圧電係数d33対Ta含有量のチャートである。
図15】AlNにおける異なるドーパントに対する材料特性の相反するトレードオフを示す。
図16】ドープAlNの選択された材料特性への様々なドーパントの予測される効果を示す表である。
図17】ソリッドマウント共振器(SMR)BAWの一例の断面図である。
図18】FBAR BAWの一例の断面図である。
図19】SMR BAW及び/又はFBAR BAWデバイスを含み得るフィルタの模式的な図である。
図20図19のフィルタが実装され得るフロントエンドモジュールのブロック図である。
図21図19のフィルタが実装され得る無線デバイスのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
従前の研究の結晶化学体系学の分析が、窒化アルミニウム(AlN)におけるアルミニ
ウム(Al)の特定の化学置換成分がどのようにして、材料の様々な関心特性に影響する
かについての洞察を与えている。ここに開示されるのは、バルク弾性波(BAW)フィル
タ及び薄膜バルク弾性共振器(FBAR)フィルタのような弾性波フィルタにおける使用
のために圧電材料を形成するべく使用され得るAlNのための新たな置換成分の組み合わ
せである。ここに開示される解決策の、従前の解決策に対する利点は、多数の材料特性を
同時に最適化できることである(例えば電気機械結合及び音速)。結晶化学の知識と従前
の研究とに基づいて、AlN系圧電材料におけるAlのドープから得られる一連の相互排
他的な特性の組み合わせが存在するようである。例えば、アルミニウムよりも窒素と多く
のイオン結合を形成する(スカンジウムのような)置換成分が結合及び誘電率を改善する
一方、アルミニウムよりも窒素と多くの共有結合を形成する(ホウ素のような)置換成分
は音速を改善して粘弾性の喪失を低下させる。ここに開示されるのは、多数の特性に改善
を示し又は特定の個別の特性(例えば誘電率)の極端な向上を示し得るAlN系圧電材料
である。
【0042】
最も頻繁に引用されるAlNへの添加物は、スカンジウム(Sc)である。スカンジウ
ムは、Alよりも電気陽性である。Al3+と比べて増加したSc3+のイオン性により
、未ドープAlNよりもScドープAlNの圧電結合が増加する。Sc3+はまた、Al
3+よりも大きい。Al3+を置換するSc3+の存在に起因するAlNの結晶格子の歪
みが、未ドープAlNと比べてScドープAlNの圧電係数を増加させる。しかしながら
、Al3+を置換するSc3+の存在に起因する共有結合性の喪失により、粘弾性の喪失
が増加する。
【0043】
Y、Yb、及び他の小さなランタノイドは、Sc3+よりも大きなイオンとなり、Sc
よりも電気陽性となる。AlNにおけるAl3+をこれらの元素のイオンにより置換する
ことで、圧電効果及び粘弾性喪失の双方が高められる。Yb3+のような重い分極性原子
は、Sc3+及びY3+のような軽い原子よりも、ドープAlNの誘電率を改善するはず
である。多数の等原子価置換成分(AlN:B,Sc、又はAlN:B,Yb)もまた使
用され得る。
【0044】
Sc、Y及びYbとは対照的に、ホウ素(B)は、Alよりもかなり小さなイオンを形
成するのでAlよりも電気陽性とはならない。ホウ素は、AlよりもNと多くの共有結合
を形成する。AlNにおけるAlをBにより置換すると、圧電結合がわずかに減少すると
予測され得るが、粘弾性喪失も同様に減少するはずである。Al-N結合と比べてのB-
N結合の共有結合性の増加により、未ドープAlNと比べてBドープAlNの体積弾性率
が増加するはずである。Alを置換する軽いB原子はまた、未ドープAlNと比べてBド
ープAlNの密度も低下させる。双方の効果が組み合わされて大きな音速(v=(K/ρ
1/2、K=材料の体積弾性率、ρ=密度)を与えるはずである。
【0045】
材料のQ、弾性率及び音速を向上させるAlNにおけるAlのドーパントは、改善され
た結合係数及び高い誘電率に抵抗するように作用するようである。これは、模式的に図1
5に示される。異なるドーパントを同時に追加及び/又はAlNをドープして3d電子相
互作用を促進又は秩序ある空格子サイトを形成することにより、高い電気陽性のドーパン
ト及び弱い電気陽性のドーパントの双方に関連付けられる利点が得られる。
【0046】
遷移金属において、d電子マニホールドが結合を非常に複雑にする。イオンは、d電子
数に応じて、八面体又は四面体の配位を優先し得る。例えば、Cr3+は、八面体配置へ
の極めて強い優先性を有する。これは、四面体サイトに強制的に入れられると、圧電性を
高める強い格子歪みが生じ得る(Cr3+イオンがScほど電気陽性でないとしても)。
B及びCrの組み合わせ置換は、粘弾性喪失を伴わずに圧電性を高める格子歪みをもたら
し得る。V3+、Mn3+及びCo3+のような他のイオンは、AlNの特性を改善する
ドーパントとして有用となり得る。これらのイオンは、Co3+が酸化状態ごとにいくつ
かのスピン状態を有するように、異なる酸化状態に順応することができるので、多数のイ
オン半径を示し得る。
【0047】
いくつかの実施形態において、空格子サイト(0電子)もまた、グリム・サマーフェル
ド則の四面体フレームワークに組み入れることができる。一例はγ-Gaである。
これは306型である。AlNにおけるアルミニウム空孔は、四面体構造において四
つ組の非結合軌道(非共有電子対)と見なすことができる。AlNにおけるアルミニウム
空孔は、粘弾性喪失を増加させることができ(特に易動性の場合)、又はイオン性を増加
させずに圧電歪みを高めることができる。
【0048】
AlNと混在してドープAlN材料を形成するのに有用となり得る他の化合物は、Si
及びGeのような405化合物を含む。Geは、陽イオン空孔が
秩序化された欠陥含有ウルツ鉱構造に結晶化する。非結合軌道におけるp軌道特性を増加
させることにより、結晶格子を歪ませ得るsp(平面)混成結合軌道の傾向がもたらさ
れる。Al1-xGe3/4x□1/4xN及びAl1-xSi3/4x□1/4xNの
ような固溶体もまた関心とされる。ここで、は圧電材料の結晶構造のAlサイトにおけ
る空孔を表す。
【0049】
AlNとGaN及びInNとの固溶体において、k及び音速は下降すると予測される
。したがって、材料の誘電率は、想定される特性の線形関係に起因してc/a比とともに
、未ドープAlNと比べてわずかに増加し得る。
【0050】
様々なドーパントの、AlNの様々な材料特定に対して予測される効果を図16に表と
してまとめる。
【0051】
弾性波共振器又はフィルタにおける使用に対して所望の特性を示し得る異なるAlN系
圧電材料のリストと、ベースAlN材料へのドーパントの予測される効果とを、以下の表
2に表す。
【表2】
【0052】
上述したように、ここに開示される様々な材料は、BAW共振器における圧電材料とし
て有用となり得る。いくつかの実装において、ここに開示される様々な材料はまた、弾性
表面波(SAW)共振器又はフィルタにおける圧電材料として有用となり得る。一つのタ
イプのBAW共振器は、ソリッドマウント共振器(SMR)である。SMR BAWの一
例を、一般に100で図17に示す。SMR BAWは、例えばシリコン基板のような基
板105上に形成される。圧電材料110の層が、上側電極115と下側電極120との
間の基板105上に配置される。圧電材料110の層は、ここに開示される材料のいずれ
かを含み又はから構成される。圧電材料110の層は、厚さλ/2を有する。ここで、λ
は、SMR BAW100の共振周波数である。例えばSiOのような高インピーダン
ス材料130と、例えばMo又はWのような低インピーダンス材料135とが交互にされ
た層を含むブラッグ反射器又は音響ミラー125が、下側電極120の下に配置され、基
板105を通って漏れ出ないように弾性エネルギーを圧電材料110に閉じ込めるのを補
助する。材料120、135の各層は、厚さλ/4を有し得る。
【0053】
FBAR BAWの一例を、一般に200で図18に示す。FBAR BAW200は
、上側電極215と下側電極220との間で、例えばシリコン基板のような基板205上
に配置された圧電材料膜210を含む。キャビティ225が、圧電材料膜210が振動す
るのを許容するべく、圧電材料膜210の下に(及びオプションとして下側電極220の
下に)かつ基板205の上面に形成される。圧電材料膜210は、ここに開示される材料
のいずれかを含み又はから構成されてよい。
【0054】
ここに開示される材料のいずれかを圧電素子として含むSMR BAW共振器及び/又
はFBAR BAW共振器の例は、フィルタを形成するべく一緒に組み合わせることがで
きる。無線周波数(RF)範囲にある信号をフィルタリングするのに有用となり得るフィ
ルタ配列の一例が、図19に模式的に示されるラダーフィルタ300となり得る。ラダー
フィルタ300は、入力ポート305と出力ポート310との間に直列に接続された複数
の直列共振器R1、R2、R3、R4、R5、R6と、第1側が一対の直列共振器間に電
気的に接続され、第2側が、例えばグランドのような基準電位に電気的に接続された複数
の並列共振器R7、R8及びR9とを含む。共振器R1~R9の共振周波数及び反共振周
波数は、ラダーフィルタ300が、所望の通過帯域内のRFエネルギーを入力ポート30
5から出力ポート310へと通過させる一方で通過帯域外の周波数のRFエネルギーを減
衰させるように選択することができる。なお、ラダーフィルタに含まれる直列共振器及び
/又は並列共振器の数及び配列は、当該フィルタの所望の周波数応答に基づいて変わり得
る。
【0055】
図20を参照すると、例えば無線通信デバイス(例えば携帯電話機)のような電子デバ
イスにおいて使用できるフロントエンドモジュール400の一例のブロック図が例示され
る。フロントエンドモジュール400は、共通ノード412、入力ノード414及び出力
ノード416を有するアンテナデュプレクサ410を含む。アンテナ510は共通ノード
412に接続される。フロントエンドモジュール400はさらに、デュプレクサ410の
入力ノード414に接続された送信器回路432と、デュプレクサ410の出力ノード4
16に接続された受信器回路434とを含む。送信器回路432は、アンテナ510を介
した送信のための信号を生成することができ、受信器回路434は、アンテナ510を介
して信号を受信し、受信した信号を処理することができる。いくつかの実施形態において
、受信器回路及び送信器回路は、図20に示されるように別個のコンポーネントとして実
装されるが、他実施形態においてはこれらのコンポーネントは、共通送受信器回路又はモ
ジュールに一体化され得る。当業者にわかることだが、フロントエンドモジュール400
は、図20に例示されない他のコンポーネント(スイッチ、電磁結合器、増幅器、プロセ
ッサ等を含むがこれらに限られない)を含んでよい。
【0056】
アンテナデュプレクサ410は、入力ノード414と共通ノード412との間に接続さ
れた一つ以上の送信フィルタ422と、共通ノード412と出力ノード416との間に接
続された一つ以上の受信フィルタ424とを含み得る。送信フィルタの通過帯域は、受信
フィルタの通過帯域と異なる。送信フィルタ422及び受信フィルタ424はそれぞれが
、ここに開示される圧電材料の一つ以上の実施形態を含む一つ以上の共振器を含み得る。
インダクタ又は他の整合コンポーネント440を、共通ノード412に接続してよい。
【0057】
所定例において、送信フィルタ422又は受信フィルタ424において使用される各弾
性波素子は、同じ圧電材料を含む。この構造により、各フィルタの周波数応答時の温度変
化の効果が低減され、特に、温度変化に起因する通過特性又は減衰特性の劣化が低減され
る。これは、各弾性波素子が、環境温度の変化に応答して同様に変化するからである。
【0058】
図21は、図20に示されるアンテナデュプレクサ410を含む無線デバイス500の
一例のブロック図である。無線デバイス500は、セルラー電話機、スマートフォン、タ
ブレット、モデム、通信ネットワーク、又は音声若しくはデータ通信用に構成された任意
の他の携帯若しくは非携帯デバイスとしてよい。無線デバイス500は、アンテナ510
から信号を受信及び送信することができる。無線デバイスは、図20を参照して上述され
たものと同様のフロントエンドモジュール400’の一実施形態を含む。フロントエンド
モジュール400’は、上述されたデュプレクサ410を含む。図21に示される例にお
いて、フロントエンドモジュール400’はさらに、アンテナスイッチ450を含む。こ
れは、例えば送信モード及び受信モードのような、異なる周波数帯域又はモード間の切り
替えをするべく構成することができる。図21に示される例において、アンテナスイッチ
450は、デュプレクサ410とアンテナ510との間に位置決めされるが、他例におい
てデュプレクサ410は、アンテナスイッチ450とアンテナ510との間に位置決めし
てもよい。他例において、アンテナスイッチ450とデュプレクサ410とは一体化して
一つのコンポーネントにすることができる。
【0059】
フロントエンドモジュール400’は、送信のために信号を生成して受信した信号を処
理するべく構成された送受信器430を含む。送受信器430は、図20の例に示される
ように、デュプレクサ410の入力ノード414に接続され得る送信器回路432と、デ
ュプレクサ410の出力ノード416に接続され得る受信器回路434とを含み得る。
【0060】
送信器回路432による送信のために生成された信号は、送受信器430からの生成信
号を増幅する電力増幅器(PA)モジュール460によって受信される。電力増幅器モジ
ュール460は、一つ以上の電力増幅器を含み得る。電力増幅器モジュール460は、多
様なRF又は他の周波数帯域の送信信号を増幅するべく使用することができる。例えば、
電力増幅器モジュール460は、無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)信号又は
任意の他の適切なパルス信号の送信に役立つように電力増幅器の出力をパルスにするべく
使用されるイネーブル信号を受信することができる。電力増幅器モジュール460は、例
えばGSM(Global System for Mobile)(登録商標)信号、
CDMA(code division multiple access)信号、W-
CDMA信号、ロングタームエボリューション(LTE)信号、又はEDGE信号を含む
様々なタイプの信号のいずれかを増幅するべく構成することができる。所定の実施形態に
おいて、電力増幅器モジュール460及びスイッチ等を含む関連コンポーネントは、例え
ば高電子移動度トランジスタ(pHEMT)又は絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(B
iFET)を使用するヒ化ガリウム(GaAs)基板上に作製し、又は相補型金属酸化物
半導体(CMOS)電界効果トランジスタを使用するシリコン基板上に作製することがで
きる。
【0061】
依然として図21を参照すると、フロントエンドモジュール400’はさらに、低雑音
増幅器モジュール470を含み得る。これは、アンテナ510からの受信信号を増幅して
その増幅信号を、送受信器430の受信器回路434に与える。
【0062】
図21の無線デバイス500はさらに、送受信器430に接続されて無線デバイス50
0の動作のために電力を管理する電力管理サブシステム520を含む。電力管理システム
520はまた、無線デバイス500のベース帯域サブシステム530及び様々な他のコン
ポーネントの動作を制御することもできる。電力管理システム520は、無線デバイス5
00の様々なコンポーネントのために電力を供給する電池(図示せず)を含み、又はこれ
に接続され得る。電力管理システム520はさらに、例えば信号の送信を制御することが
できる一つ以上のプロセッサ又は制御器を含み得る。一実施形態において、ベース帯域サ
ブシステム530は、ユーザに与えられ又はユーザから受け取る音声及び/又はデータの
様々な入力及び出力を容易にするユーザインタフェイス540に接続される。ベース帯域
サブシステム530はまた、無線デバイスの動作を容易にし及び/又はユーザのための情
報記憶を与えるデータ及び/又は命令を記憶するように構成されたメモリ550に接続す
ることもできる。
【0063】
少なくとも一つの実施形態のいくつかの側面が上述されたが、当業者には様々な変形例
、修正例及び改善例が容易に想到されることがわかる。そのような変形例、修正例及び改
善例は、本開示の一部であることが意図され、さらに本発明の範囲内に存在することが意
図される。なお、ここに開示の方法及び装置は、アプリケーションにおいて、上記説明に
記載され又は添付図面に例示された構造の詳細及びコンポーネントの配列に限られない。
方法及び装置は、他の実施形態に実装すること、及び様々な態様で実施又は実装すること
ができる。特定の実施形態の例が、例示目的のみでここに与えられ、限定となることは意
図されない。ここに開示のされるずれかの実施形態の一つ以上の特徴を、任意の他の実施
形態のいずれか一つ以上の特徴に対して付加又は置換することができる。また、ここで使
用される表現及び用語は、説明を目的とし、限定としてみなすべきではない。ここでの「
含む」、「備える」、「有する」、「包含する」及びこれらのバリエーションの使用は、
その後に列挙される項目及びその均等物並びに追加の項目を包囲することを意味する。「
又は」及び「若しくは」への言及は、「又は」及び「若しくは」を使用して記載されるい
ずれの用語も、記載される項目の単数、一つを超えるもの、及びすべてのいずれも示し得
るように、包括的に解釈され得る。前後、左右、頂底、上下、及び垂直水平への言及はい
ずれも、記載の便宜を意図しており、本システム及び方法又はこれらのコンポーネントを
いずれか一つの位置的又は空間的配向に限定することを意図しない。したがって、上記の
説明及び図面は単なる例示にすぎない。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21