(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】医療処置具用のストレートワイヤ
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20240322BHJP
B21C 1/00 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
A61M25/09
A61M25/09 500
A61M25/09 550
B21C1/00 L
(21)【出願番号】P 2022205072
(22)【出願日】2022-12-22
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000110147
【氏名又は名称】トクセン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 隆
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-195372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/09
B21C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3.0μm以上の高さHと
28.5mm以上88.0mm以下のピッチPとを有するうねりを備えた、医療処置具用のストレートワイヤ。
【請求項2】
上記ピッチPと上記高さHとの比(P/H)が、1500以上である、請求項1に記載のストレートワイヤ。
【請求項3】
上記ピッチPと上記ワイヤの外径Dとの比(P/D)が、70.0以上である、請求項1又は2に記載のストレートワイヤ。
【請求項4】
その引張強さが、2000MPa以上である、請求項1又は2に記載のストレートワイヤ。
【請求項5】
ストレートワイヤを備えた医療処置具であって、
上記ストレートワイヤが、3.0μm以上の高さHと
28.5mm以上88.0mm以下のピッチPとを有するうねりを有する、医療処置具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、生体に対する処置に適したストレートワイヤを開示する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルによる検査及び治療では、血管にガイドワイヤが挿入される。このガイドワイヤに沿ってカテーテルが血管に挿入される。カテーテルはガイドワイヤに案内されつつ、血管内を進む。ガイドワイヤの芯に適したストレートワイヤが、特開2008-113744公報に開示されている。
【0003】
内視鏡検査では、クリップ装置が用いられる。このクリップ装置は、クリップとワイヤとを有している。クリップ装置に適したストレートワイヤが、特開2020-168143公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-113744公報
【文献】特開2020-168143公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医療処置具の操作では、医療従事者は、ワイヤの基端の近傍を回転させる。この回転のトルクは、ワイヤの先端に伝達されなければならない。ワイヤにはトルク伝達性が要求される。従来のストレートワイヤのトルク伝達性は、必ずしも十分ではない。
【0006】
本出願人の意図するところは、トルク伝達性に優れた医療処置具用のストレートワイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する医療処置具用のストレートワイヤは、3.0μm以上の高さHと10.0mm以上100.0mm以下のピッチPとを有するうねりを有する。
【発明の効果】
【0008】
このストレートワイヤは、トルク伝達性に優れる。このワイヤでは、医療処置具において、先端が基端の回転に追従しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る医療処置具のストレートワイヤの一部が示された模式的拡大図である。
【
図3】
図3は、
図1のIII-III線に沿った断面図である。
【
図6】
図6は、
図1のストレートワイヤの製造装置が示された正面図である。
【
図8】
図8は、
図1のストレートワイヤがトルク伝達性試験器と共に示された斜視図である。
【
図9】
図9は、
図1のストレートワイヤのトルク伝達性試験の結果が示されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が詳細に説明される。
【0011】
図1に、医療処置具用のストレートワイヤ2が、拡大されて示されている。
図1において、矢印Xはワイヤ2の長さ方向を表す。
図1では、Y方向の拡大倍率は、X方向の拡大倍率よりも大きい。換言すれば、
図1では、ストレートワイヤ2が模式的に示されている。このワイヤ2は、撚り線タイプではなく、単線タイプである。
【0012】
図2に、ストレートワイヤ2の断面4aが示されている。この断面4aは、
図1のII-II線に沿っている。この断面4aは、円形である。
図2において符号6は、ワイヤ2の全体の輪郭を表す。この輪郭6は、概して円形である。
図2では、断面4aは、輪郭6の内の下側に位置している。断面4aは、輪郭6に接している。
【0013】
図3に、ストレートワイヤ2の他の断面4bが示されている。この断面4bは、
図1のIII-III線に沿っている。
図3では、断面4bは、輪郭6の内の左側に位置している。断面4bは、輪郭6に接している。
図1においてII-II線で示された位置からIII-III線に示された位置までの、長さ方向(X方向)に沿っての移動に伴い、断面4は、
図2に示された位置から
図3に示された位置へと移動する。断面4は、輪郭6の中心を軸として、時計回りに移動する。断面4は、輪郭6に接した状態を維持して、移動する。
【0014】
図4に、ストレートワイヤ2のさらに他の断面4cが示されている。この断面4cは、
図1のIV-IV線に沿っている。
図4では、断面4cは、輪郭6の内の上側に位置している。断面4cは、輪郭6に接している。
図1においてIII-III線で示された位置からIV-IV線に示された位置までの、長さ方向(X方向)に沿っての移動に伴い、断面4は、
図3に示された位置から
図4に示された位置へと移動する。断面4は、輪郭6の中心を軸として、時計回りに移動する。断面4は、輪郭6に接した状態を維持して、移動する。
【0015】
図5に、ストレートワイヤ2のさらに他の断面4dが示されている。この断面4dは、
図1のV-V線に沿っている。
図5では、断面4dは、輪郭6の内の右側に位置している。断面4dは、輪郭6に接している。
図1においてIV-IV線で示された位置からV-V線に示された位置までの、長さ方向(X方向)に沿っての移動に伴い、断面4は、
図4に示された位置から
図5に示された位置へと移動する。断面4は、輪郭6の中心を軸として、時計回りに移動する。断面4は、輪郭6に接した状態を維持して、移動する。
【0016】
図1においてV-V線で示された位置からの、長さ方向(X方向)に沿ってのさらなる移動に伴い、断面4は、
図5に示された位置から
図2に示された位置へと移動する。断面4は、輪郭6の中心を軸として、時計回りに移動する。断面4は、輪郭6に接した状態を維持して、移動する。以降同様に、ストレートワイヤ2の長手方向への移動に伴い、断面4が時計回りに移動する。
【0017】
以上の説明から明らかなように、ストレートワイヤ2は、全体として螺旋状である。換言すれば、このストレートワイヤ2は、うねりを有する。断面4が反時計回りに移動するうねりを、ストレートワイヤ2が有してもよい。
【0018】
図1及び2において矢印Hは、ワイヤ2のうねりの高さを表す。高さHは、3.0μm以上である。この高さHは、ストレートワイヤ2としては、大きい。高さHが大きいワイヤ2が体腔内において曲げられたとき、このワイヤ2は体腔の内壁に、局所的に強く当接する。ワイヤ2が回転すると、強い当接の箇所は、ワイヤ2の長さ方向に沿って移動する。従って、このワイヤ2の回転は、妨げられにくい。このワイヤ2は、トルク伝達性に優れる。
【0019】
従来、トルク伝達性の観点から、うねりの高さHが小さいワイヤが好ましいと考えられていた。本発明者は、意外にも、高さHが大きいうねりが、局所的な当接を促してトルク伝達性に寄与しうることを見出した。
【0020】
トルク伝達性の観点から、高さHは5.0μm以上がより好ましく、7.0μm以上が特に好ましい。高さHは、50μm以下が好ましく、45μm以下がより好ましく、40μm以下が特に好ましい。
【0021】
図1において矢印Pは、うねりのピッチを表す。このピッチPは、正面視におけるうねりの波長である。ピッチPは、10.0mm以上100.0mm以下が好ましい。ピッチPがこの範囲内であるストレートワイヤ2は、適度な頻度で体腔の内壁と局所的に当接する。ピッチPがこの範囲内であるワイヤ2は、トルク伝達性に優れる。トルク伝達性の観点から、ピッチPは15.0mm以上がより好ましく、20.0mm以上が特に好ましい。トルク伝達性の観点から、ピッチPは95.0mm以下がより好ましく、90.0mm以下が特に好ましい。
【0022】
ピッチPと高さHとの比(P/H)は、1500以上が好ましい。比(P/H)がこの範囲内であるストレートワイヤ2は、トルク伝達性に優れる。トルク伝達性の観点から、比(P/H)は1520以上がより好ましく、1540以上が特に好ましい。比(P/H)は、20000以下が好ましい。
【0023】
図1及び2において矢印Dは、ストレートワイヤ2の外径を表す。ピッチPと外径Dとの比(P/D)は、70.0以上が好ましい。比(P/D)がこの範囲内であるワイヤ2は、トルク伝達性に優れる。トルク伝達性の観点から、比(P/D)は100.0以上がより好ましく、150.0以上が特に好ましい。比(P/D)は、300以下が好ましい。外径Dは、0.1mm以上2.0mm以下が好ましい。
【0024】
このワイヤ2では、うねりの高さHは、外径Dに対して極めて小さい。このワイヤ2は、うねりを有するものの、概してストレート形状を呈する。このストレートワイヤ2における真直度は、5mm/2000mm以下が好ましい。曲がりは、ワイヤ2の上端近傍がチャックされて、測定される。ワイヤ2のうち、チャックされていない部分は、フリー部である。フリー部は、概して鉛直方向に延在する。フリー部の長さは、2000mmである。フリー部には、重力以外の力はかからない。上端の鉛直線に対する、フリー部の下端の距離が、測定される。この距離にてフリー部の長さ(2000mm)が除された値が、真直度である。真直度は3mm/2000mm以下がより好ましく、1mm/2000mm以下が特に好ましい。
【0025】
ストレートワイヤ2の引張強さは、2000MPa以上が好ましい。引張強さがこの範囲内であるワイヤ2は、トルク伝達性に優れる。トルク伝達性の観点から、引張強さは2100MPa以上がより好ましく、2200MPa以上が特に好ましい。引張強さは、「JIS Z 2241」の規定に準拠して測定される。測定条件は、以下の通りである。
温度:23℃
引張速度:5mm/min
評点距離:100mm
【0026】
このストレートワイヤ2の材質は、金属である。好ましい金属として、ステンレス鋼、ニッケル-チタン合金及びコバルト-クロム合金が挙げられる。特に、オーステナイト系ステンレス鋼が好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼は、16質量%以上のクロムと、6質量%以上のニッケルとを含む。オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性に優れ、かつ常磁性を示す。従ってオーステナイト系ステンレス鋼は、医療処置具に適している。オーステナイト系のステンレス鋼の具体例として、SUS304が挙げられる。
【0027】
図6及び7に、ストレートワイヤ2の製造装置8が示されている。この製造装置8は、ベース10、第一ピン12a、第二ピン12b及び第三ピン12cを有している。それぞれのピン12は、ベース10に固定されている。第二ピン12bは、第一ピン12aと第三ピン12cとを結ぶ直線からずれて、配置されている。
【0028】
図6及び7には、中間ワイヤ14も示されている。この中間ワイヤ14は、原料ワイヤに、熱処理及び伸線加工が繰り返し施されて得られる。
図6に示されるように、中間ワイヤ14は、それぞれのピン12に接触している。中間ワイヤ14は、矢印A1で示される方向に、進行する。中間ワイヤ14は第一ピン12aの下側を通過し、第二ピン12bの上側を通過し、さらに第三ピン12cの下側を通過している。換言すれば、中間ワイヤ14は、この装置8をジグザグに通過する。
【0029】
この装置8は、
図7において矢印A2で示される方向に、回転する。この回転の軸が、
図6において矢印AXで示されている。この軸AXは、装置8に向かう中間ワイヤ14の位置と、概ね一致している。この軸AXは、装置8から出た中間ワイヤ14の位置とも、概ね一致している。
【0030】
ピン12の通過と、装置8の回転とにより、中間ワイヤ14にうねりが付与され、ストレートワイヤ2が完成する。中間ワイヤ14の速度及び張力、それぞれのピン12の位置、装置8の回転速度等の調整により、うねりの高さH及びピッチPが調整されうる。
【0031】
装置8から出た中間ワイヤ14に、熱処理が施されてもよい。好ましくは、中間ワイヤ14に張力が付与された状態で、連続的に、この中間ワイヤ14に熱処理が施される。この熱処理の条件(温度、時間、張力等)の調整により、ストレートワイヤ2のうねりの高さH及びピッチPが調整されうる。この熱処理の条件の調整により、ストレートワイヤ2の真直性も調整されうる。このストレートワイヤ2は、長尺である。このストレートワイヤ2は、リールに巻き取られうる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に係るストレートワイヤの効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本明細書で開示された範囲が限定的に解釈されるべきではない。
【0033】
[実施例1]
図6及び7に示された装置を用い、
図1-5に示されたストレートワイヤを製作した。このワイヤは、0.335mmの外径Dを有していた。このワイヤは、うねりを有していた。このうねりは、38.9μmの高さHと、88.0mmのピッチPとを、有していた。このワイヤの材質は、SUS304であった、このワイヤの引張強さは、2569MPaであった。
【0034】
[実施例2-8及び比較例2-4]
図6及び7に示された装置での条件及び熱処理条件を変更した他は実施例1と同様にして、実施例2-8及び比較例2-4のストレートワイヤを得た。
【0035】
[比較例1]
中間ワイヤに、
図6及び7に示された装置での処理を行わず、矯正器による真直加工を施した他は実施例1と同様にして、比較例1のストレートワイヤを得た。この矯正器は、ジグザグに配置された複数のローラを有している。これらの矯正ローラに沿って、中間ワイヤがジグザグに進行する。このような矯正器の一例が、特開2019-17856公報に開示されている。この矯正器で得られたストレートワイヤは、うねりを実質的に有していない。
【0036】
[トルク伝達性の評価]
図8に示されるトルク伝達性試験器16を準備した。この試験器は、硬質パイプ18を有していた。この硬質パイプ18は、二重スパイラル部20、第一ストレート部22及び第二ストレート部24を有していた。二重スパイラル部20の直径は、200mmであった。この硬質パイプ18に、ストレートワイヤ2が通された。このワイヤ2の基端側26に、
図8において矢印A3で示される方向に、回転力が負荷された。これにより、ワイヤの先端側28は、矢印A4で示されるように回転した。基端側26の回転角と先端側28の回転角とが、同時に測定された。基端側26の回転角度が0°から720°の範囲(つまり4回転)において、測定がなされた。
【0037】
図9は、
図8の方法で測定されたトルク伝達性の結果が示されたグラフである。このグラフにおいて、横軸は基端側26の回転角度であり、縦軸は先端側28の回転角度である。このグラフにおける二点鎖線は、全ての範囲において、基端側26の回転角と先端側28の回転角との差がゼロであることを示す直線である。ワイヤの基端側26の回転角と先端側28の回転角との差は、図中の二点鎖線と測定値曲線との縦軸方向の距離として表される。入力回転角が0°以上720°以下である範囲において測定された回転角度差のうちの、最大角度差が、
図9において矢印A5で示されている。各ワイヤの最大角度差が、比較例1の最大角度差が100とされたときの指数として、下記の表1に示されている。この指数が小さいワイヤは、トルク伝達性に優れる。
【0038】
【0039】
【0040】
表1及び2から明らかな通り、各実施例のストレートワイヤは、トルク伝達性に優れる。この評価結果から、これらのワイヤの優位性は明らかである。
【0041】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0042】
[項目1]
3.0μm以上の高さHと10.0mm以上100.0mm以下のピッチPとを有するうねりを備えた、医療処置具用のストレートワイヤ。
【0043】
[項目2]
上記ピッチPと上記高さHとの比(P/H)が、1500以上である、項目1に記載のストレートワイヤ。
【0044】
[項目3]
上記ピッチPと上記ワイヤの外径Dとの比(P/D)が、70.0以上である、項目1又は2に記載のストレートワイヤ。
【0045】
[項目4]
その引張強さが、2000MPa以上である、項目1から3のいずれかに記載のストレートワイヤ。
【0046】
[項目5]
ストレートワイヤを備えた医療処置具であって、
上記ストレートワイヤが、3.0μm以上の高さHと10.0mm以上100.0mm以下のピッチPとを有するうねりを有する、医療処置具。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明された医療処置具用ワイヤは、カテーテル用ガイドワイヤ、クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ等の医療処置具に適している。
【符号の説明】
【0048】
2・・・ストレートワイヤ
4・・・断面
6・・・輪郭
8・・・製造装置
10・・・ベース
12・・・ピン
14・・・中間ワイヤ
16・・・トルク伝達性試験器
18・・・硬質パイプ
20・・・二重スパイラル部
22・・・第一ストレート部
24・・・第二ストレート部
26・・・基端側
28・・・先端側
【要約】
【課題】トルク伝達性に優れた、医療処置具用のストレートワイヤ2の提供。
【解決手段】医療処置具用のストレートワイヤ2は、単線タイプである。このワイヤ2は、うねりを有している。このうねりは、3.0μm以上の高さHと、10.0mm以上100.0mm以下のピッチPとを有している。ピッチPと高さHとの比(P/H)は、1500以上である。ピッチPとワイヤ2の外径Dとの比(P/D)は、70.0以上である。このワイヤ2の引張強さは、2000MPa以上である。
【選択図】
図1