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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】複合体及び複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/83 20060101AFI20240322BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20240322BHJP
   H01L 23/14 20060101ALI20240322BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
C04B41/83 G
B29C43/34
H01L23/14 R
H01L23/12 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022522200
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2021018244
(87)【国際公開番号】W WO2021230323
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2020085841
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦也
(72)【発明者】
【氏名】井之上 紗緒梨
(72)【発明者】
【氏名】上島 賢久
(72)【発明者】
【氏名】吉松 亮
(72)【発明者】
【氏名】古賀 竜士
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/155110(WO,A1)
【文献】特開2002-170731(JP,A)
【文献】特開平04-111956(JP,A)
【文献】特開2015-063110(JP,A)
【文献】特開2004-025457(JP,A)
【文献】実開昭62-123924(JP,U)
【文献】特開昭61-275182(JP,A)
【文献】エポキシ樹脂ハンドブック ,日刊工業新聞社,1987年12月25日,p.444
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84,41/80-41/91
B29C 43/34、39/10
B32B 18/00
H01L 23/12-23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂含浸体を熱硬化性組成物の加熱溶融物中に浸漬させた状態で、加圧条件下で25℃まで冷却する冷却工程を備え、
前記冷却工程における圧力が2.0MPa以上であり、
前記冷却工程における降温速度が15℃/分以下であり、
前記樹脂含浸体は、多孔質構造を有する窒化ホウ素焼結体と、前記窒化ホウ素焼結体に含浸された熱硬化性組成物の半硬化物と、を有し、
前記熱硬化性組成物は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物と、ホスフィン系硬化剤及びイミダゾール系硬化剤と、を含有し、
回転式粘度計を用いて、せん断速度が10(1/秒)の条件下で測定される前記熱硬化性組成物の100℃における粘度が、3~50mPa・秒である、
複合体の製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程における圧力が3.0MPa以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記冷却工程における圧力が4.0MPa以上であり、前記冷却工程における高温速度が0.83℃/分以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
多孔質構造を有する窒化ホウ素焼結体を熱硬化性組成物の加熱溶融物中に浸漬させた状態で、前記熱硬化性組成物を半硬化させて前記樹脂含浸体を得る樹脂含浸体の調製工程を更に備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記調製工程が、前記窒化ホウ素焼結体を前記熱硬化性組成物の加熱溶融物中に浸漬させた状態で、加圧条件下に置くことを含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記冷却工程における圧力が前記調製工程における圧力よりも大きい、請求項4又は5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合体及び複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LED照明装置、車載用パワーモジュール等の電子部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱することが課題となっている。この課題に対して、電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層を高熱伝導化する方法、電子部品又はプリント配線板を電気絶縁性の熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付ける方法等の対策が取られている。このような絶縁層及び熱インターフェース材には、樹脂と窒化ホウ素等のセラミックスとで構成される複合体(放熱部材)が用いられる。
【0003】
このような複合体として、従来、樹脂中にセラミックスの粉末を分散させたものが用いられている。近年では、多孔性のセラミックス焼結体(例えば、窒化ホウ素焼結体)に樹脂を含浸させた複合体も検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/196496号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複合体において、セラミックスの有する細孔中に樹脂を十分に含浸させることが複合体の特性を向上させるために有益である。このため、セラミックスに、樹脂又は樹脂を与えるモノマーを含む組成物を含浸させる工程を加圧条件下とし、その圧力を制御することで細孔中への樹脂含浸率を向上させることが行われる。しかし、本発明者らの検討によれば、上述のような圧力調整を行った場合であっても、製造される複合体が所望の樹脂含浸率に到達しない場合があり、細孔体積に対して高い割合で半硬化物を含有する複合体を得ることが困難となり得る。
【0006】
本開示は、窒化物焼結体の細孔中における半硬化物の含有割合を高めることが可能な複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、樹脂含浸体に熱硬化性組成物の加熱溶融物を接触させた状態で、加圧条件下で冷却する冷却工程を備え、上記樹脂含浸体は、多孔質構造を有する窒化物焼結体と、上記窒化物焼結体に含浸された熱硬化性組成物の半硬化物と、を有する、複合体の製造方法を提供する。
【0008】
上記複合体の製造方法では、冷却工程を加圧条件下で行うことによって、得られる複合体における半硬化物の含有割合を高めることができる。
【0009】
従来の複合体の製造方法における窒化物焼結体に熱硬化性組成物を含浸させる際の圧力調整は、樹脂含浸率を向上させるために有効である。一方、本発明者らの検討によれば、熱硬化性組成物を加熱によって半硬化させ、その後の冷却過程において継続して進行する、熱硬化性組成物の硬化に伴う収縮(硬化収縮)及び半硬化物の冷却に伴う収縮(固化収縮)によって、窒化物焼結体の全細孔体積に占める半硬化物の割合の低下が発生し得る。そして、熱硬化性組成物を半硬化させ、その後の冷却過程における圧力を加圧条件とすることによって、上述の収縮に応じて外部からさらに熱硬化性組成物又は熱硬化性組成物の半硬化物を供給して、硬化収縮及び固化収縮に伴って発生する、窒化物焼結体の全細孔体積に占める半硬化物の割合の低下を低減できることを見出した。本発明者らは当該知見に基づいて、本開示の複合体の製造方法に至った。なお、本開示の複合体の製造方法は上記知見を用いるものであるから、従来の方法で製造された、半硬化物の含有割合が低い複合体に対して更に熱硬化性組成物の半硬化物を導入することによって、半硬化物の含有割合の高い複合体を調製することもできる。
【0010】
上記複合体の製造方法では、上記冷却工程における圧力が2.0MPa以上であってよい。
【0011】
上記複合体の製造方法は、多孔質構造を有する窒化物焼結体を熱硬化性組成物の加熱溶融物に接触させた状態で、上記熱硬化性組成物を加熱し半硬化させて上記樹脂含浸体を得る樹脂含浸体の調製工程を更に備えてもよい。
【0012】
上記調製工程が、上記窒化物焼結体を上記熱硬化性組成物の加熱溶融物に接触させた状態で、加圧条件下に置くことを含んでもよい。窒化物焼結体を熱硬化性組成物の加熱溶融物に接触した状態で加圧することによって、窒化物焼結体の有する細孔中に熱硬化性組成物をより十分に含浸させることができる。また、得られる複合体の特性(例えば、絶縁性等)をより向上させることができる。
【0013】
上記複合体の製造方法において、上記冷却工程における圧力が上記調製工程における圧力よりも大きくてもよい。調製工程における圧力よりも冷却工程における圧力が大きいことによって、窒化物焼結体の有する気孔中に熱硬化性組成物をより十分に含浸させることができ、また熱硬化性組成物の硬化が進行し、粘度が上昇する場合であっても含浸率の低下をより十分に抑制することができる。
【0014】
本開示の一側面は、多孔質構造を有する窒化物焼結体と、上記窒化物焼結体に含浸された熱硬化性組成物の半硬化物とを備え、上記窒化物焼結体の全細孔体積に占める上記半硬化物の割合が99.0体積%以上である、複合体を提供する。
【0015】
上記複合体は、上記窒化物焼結体の全細孔体積に占める上記半硬化物の割合が99体積%以上であり、半硬化物を十分に含有する。
【発明の効果】
【0016】
本開示に係る複合体の製造方法によれば、窒化物焼結体の細孔中における半硬化物の含有割合を高めた複合体を製造できる。本開示によればまた、極めて高い割合で半硬化物を有する複合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0018】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書における「工程」とは、互いに独立した工程であってもよく、同時に行われる工程であってもよい。
【0019】
本開示は、多孔質構造を有する窒化物焼結体と、上記窒化物焼結体に含浸された熱硬化性組成物の半硬化物とを有する複合体の製造方法に関する。複合体の製造方法の一実施形態は、樹脂含浸体に熱硬化性組成物の加熱溶融物を接触させた状態で、加圧条件下で冷却する冷却工程を備える。上記樹脂含浸体は、多孔質構造を有する窒化物焼結体と、上記窒化物焼結体に含浸された熱硬化性組成物の半硬化物と、を有する。樹脂含浸体は、従来の製造方法によって得られる複合体であってよく、半硬化物の含有割合は、例えば、98体積%以下、又は80体積%以下であってよい。上記半硬化物の含有割合は、窒化物焼結体の全細孔体積に占める半硬化物の割合を意味する。
【0020】
上記複合体の製造方法は、多孔質構造を有する窒化物焼結体を熱硬化性組成物の加熱溶融物に接触(例えば、浸漬)させた状態で、上記熱硬化性組成物を加熱し半硬化させて上記樹脂含浸体を得る樹脂含浸体の調製工程を更に備えてもよい。以下、上記調製工程を第一工程ともいい、加圧条件下で上記樹脂含浸体を冷却して複合体を得る、上記冷却工程を第二工程ともいう。
【0021】
多孔質構造を有する窒化物焼結体は、窒化物の一次粒子同士が焼結されてなるものであってよい。多孔質構造を有する窒化物焼結体は、例えば、窒化ホウ素の一次粒子同士が焼結されてなるもの(窒化ホウ素の焼結体)であってよい。本明細書において「多孔質構造」とは、複数の微細な孔(以下、細孔ともいう)を有する構造を意味し、上記細孔の少なくとも一部が連結して連続孔を形成しているものを含む。
【0022】
上記細孔の平均細孔径の上限値は、例えば、7μm以下、6μm以下、又は5μm以下であってよい。平均細孔径の上限値が上記範囲内であると、複合体の熱伝導性を向上させることができる。上記細孔の平均細孔径の下限値は、例えば、0.3μm以上、0.5μm以上、又は0.7μm以上であってよい。平均細孔径の下限値が上記範囲内であると、細孔内に熱硬化性組成物を含浸させやすく、また複合体の被着体への接着性をより向上させることができる。上記細孔の平均細孔径は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.3~7μm、0.5~6μm、又は0.7~5μmであってよい。
【0023】
本明細書において「平均細孔径」は、水銀ポロシメーターを用いて測定される細孔径分布(横軸:細孔径、縦軸:累積細孔体積)において、累積細孔体積が全細孔体積の50%に達する細孔径を意味する。水銀ポロシメーターとしては、例えば、株式会社島津製作所製の水銀ポロシメーターを用いることができる。測定範囲は、0.03~4000気圧までとし、圧力を増やしながら徐々に加圧しながら測定を行う。
【0024】
窒化物焼結体の全細孔体積は、複合体の用途等に応じて調整してよい。窒化物焼結体の全細孔体積は、窒化物焼結体の体積に、後述する窒化物焼結体の気孔率を乗じた値として算出することができる。
【0025】
窒化物焼結体に占める細孔の割合(気孔率)の下限値は、窒化物焼結体の全体積を基準として、例えば、10体積%以上、30体積%以上、又は50体積%以上であってよい。窒化物焼結体に占める細孔の割合の下限値が上記範囲内であることで、半硬化物の含有量を向上することができ、且つ機械的強度を十分に確保することができる。窒化物焼結体に占める細孔の割合の上限値は、窒化物焼結体の全体積を基準として、例えば、70体積%以下、60体積%以下、又は55体積%以下であってよい。窒化物焼結体に占める細孔の割合の上限値が上記範囲内であることで、複合体の絶縁性及び熱伝導率をより高水準で両立することができる。窒化物焼結体に占める細孔の割合(気孔率)は上述の範囲内で調整してよく、例えば、10~70体積%、30~60体積%、又は50~55体積%であってよい。
【0026】
本明細書における窒化物焼結体に占める細孔の割合(気孔率)は、窒化物焼結体の体積及び質量から求められるかさ密度D(単位:g/cm)と、窒化物の理論密度D(窒化物が窒化ホウ素である場合、Dは2.28g/cmである)と、を利用し、下記式(I)に基づいて算出される値を意味する。なお、複合体を測定対象とする場合には、半硬化物を燃焼させて除去することで測定することができる。
【0027】
気孔率=[1-(D/D)]×100・・・(I)
【0028】
窒化物焼結体は、窒化物粉末を成形した後、焼結させることによって得られるものであってよく、自ら調製したものであってもよい。すなわち、上述の複合体の製造方法は、窒化物を含む粉末を成形して窒化物の成形体を得る成形工程と、窒化物の成形体を焼結させて窒化物焼結体を得る焼結工程と、を更に備えてもよい。成形工程は、例えば、窒化物粉末を含むスラリーを噴霧乾燥機等で球状化処理し、得られた球状の窒化物顆粒を、プレス成型法及び冷間等方加圧法(CIP)によって成形して成形体を得る工程であってよい。成形工程における成形時の圧力は、特に制限されないが、圧力が高いほど得られる窒化物焼結体の平均細孔径が小さくなり、圧力が低いほど得られる窒化物焼結体の平均細孔径は大きくなる傾向にある。
【0029】
窒化物は、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を含有してよく、好ましくは窒化ホウ素を含有する。窒化ホウ素は、アモルファス状の窒化ホウ素及び六方晶状の窒化ホウ素のいずれも用いることができる。窒化物の熱伝導性は、例えば、20W/(m・K)以上、50W/(m・K)以上、又は60W/(m・K)以上であってよい。窒化物として、上述のような熱伝導性に優れる窒化物を用いると得られる複合体の熱抵抗をより低下させることができる。
【0030】
窒化物を含む粉末は、窒化物の他に、焼結助剤等を更に含んでもよい。焼結助剤は、例えば、酸化イットリア、酸化アルミナ及び酸化マグネシウム等の希土類元素の酸化物、炭酸リチウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、並びにホウ酸等であってよい。焼結助剤の含有量は、窒化物粉末100質量部に対して、例えば、0.5~25質量部、0.5~20質量部、0.5~15質量部、0.5~10質量部、又は0.5~5質量部であってよい。焼結助剤の含有量を上記範囲内とすることで、窒化物焼結体の平均細孔径の調整が容易となる。
【0031】
焼結工程における焼結温度の下限値は、例えば、1600℃以上、又は1700℃以上であってよい。焼結工程における焼結温度の上限値は、例えば、2200℃以下、又は2000℃以下であってよい。焼結工程における焼結温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1600~2200℃、又は1700~2000℃であってよい。焼結時間は、例えば、1~30時間であってよい。焼結時の雰囲気は、例えば、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気であってよい。
【0032】
焼結には、例えば、バッチ式炉及び連続式炉等を用いることができる。バッチ式炉としては、例えば、マッフル炉、管状炉、及び雰囲気炉等を挙げることができる。連続式炉としては、例えば、ロータリーキルン、スクリューコンベア炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、及び琴形連続炉等を挙げることができる。
【0033】
上記複合体の製造方法に用いる熱硬化性組成物は、例えば、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、ホスフィン系硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤と、を含有してもよい。熱硬化性組成物が上述の組成を有することによって、熱硬化性組成物の含浸時の粘度を低下させることができ、また複合体を被着体に接着させる際の硬化時間を短くすることができる。
【0034】
シアネート基を有する化合物としては、例えば、ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナート、及びビス(4-シアネートフェニル)メタン等が挙げられる。ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナートは、例えば、TACN(三菱ガス化学株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0035】
ビスマレイミド基を有する化合物としては、例えば、N,N’-[(1-メチルエチリデン)ビス[(p-フェニレン)オキシ(p-フェニレン)]]ビスマレイミド、及び4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド等が挙げられる。N,N’-[(1-メチルエチリデン)ビス[(p-フェニレン)オキシ(p-フェニレン)]]ビスマレイミドは、例えば、BMI-80(ケイ・アイ化成株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0036】
エポキシ基を有する化合物としては、例えば、1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレン、及び下記一般式(1)で示される化合物等が挙げられる。一般式(1)において、nの値は特に制限されないが、0又は1以上の整数とすることができ、通常1~10であり、好ましくは2~5である。1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレンは、例えば、HP-4032D(DIC株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0037】
【化1】
【0038】
熱硬化性組成物において、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量が、熱硬化性組成物の全量を基準として、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、また90質量%以上であってよい。
【0039】
熱硬化性組成物におけるシアネート基を有する化合物の含有量は、シアネート基を有する化合物及びビスマレイミド基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、50質量部以上、60質量部以上、又は70質量部以上であってよい。熱硬化性組成物におけるシアネート基を有する化合物の含有量が上記範囲内であると、得られる複合体を被着体と接着させる際の硬化反応が速やかに進み、被着体への接着後の絶縁破壊電圧を向上させることができる。被着体への接着条件を実施例での接着条件とした場合に、絶縁破壊電圧の向上の効果をより顕著なものにできる。
【0040】
熱硬化性組成物におけるビスマレイミド基を有する化合物の含有量は、シアネート基を有する化合物及びビスマレイミド基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、15質量部以上、20質量部以上、又は25質量部以上であってよい。熱硬化性組成物におけるビスマレイミド基を有する化合物の含有量が上記範囲内であると、半硬化物の吸水率が低下し、製品の信頼性を向上させることができる。
【0041】
熱硬化性組成物におけるエポキシ基を有する化合物の含有量は、シアネート基を有する化合物及びビスマレイミド基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、10質量部以上、20質量部以上、又は30質量部以上であってよい。熱硬化性組成物におけるエポキシ基を有する化合物の含有量は、シアネート基を有する化合物及びビスマレイミド基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、70質量部以下、又は60質量部以下であってよい。熱硬化性組成物におけるエポキシ基を有する化合物の含有量が上記範囲内であると、熱硬化性組成物の熱硬化開始温度の低下を抑制することができ、窒化物焼結体に熱硬化性組成物を含浸させることがより容易なものとなる。熱硬化性組成物におけるエポキシ基を有する化合物の含有量は上述の範囲内で調整してよく、シアネート基を有する化合物及びビスマレイミド基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、10~70質量部、又は30~60質量部であってよい。
【0042】
上記硬化剤は、ホスフィン系硬化剤及びイミダゾール系硬化剤を含有してもよい。
【0043】
ホスフィン系硬化剤はシアネート基を有する化合物又はシアネート樹脂の三量化によるトリアジン生成反応を促進し得る。ホスフィン系硬化剤としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、及びテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレートは、例えば、TPP-MK(北興化学工業株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0044】
イミダゾール系硬化剤はオキサゾリンを生成し、エポキシ基を有する化合物又はエポキシ樹脂の硬化反応を促進する。イミダゾール系硬化剤としては、例えば、1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾール、及び2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾールは、例えば、2E4MZ-CN(四国化成工業株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0045】
ホスフィン系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、5質量部以下、4質量部以下又は3質量部以下であってよい。ホスフィン系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上又は0.5質量部以上であってよい。ホスフィン系硬化剤の含有量が上記範囲内であると、複合体の製造が容易であり、かつ、複合体を用いた被着体の接着に要する時間をより短縮することができる。ホスフィン系硬化剤の含有量は上述の範囲内で調整してよく、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.1~5質量部、又は0.5~3質量部であってよい。
【0046】
イミダゾール系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以下、0.05質量部以下、又は0.03質量部以下であってよい。イミダゾール系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.001質量部以上、又は0.005質量部以上であってよい。イミダゾール系硬化剤の含有量が上記範囲内であると、複合体の製造が容易であり、かつ、複合体を用いた被着体の接着に要する時間をより短縮することができる。イミダゾール系硬化剤の含有量は上述の範囲内で調整してよく、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.001~0.1質量部、又は0.005~0.03質量部であってよい。
【0047】
熱硬化性組成物は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物、並びに硬化剤の他の、その他の成分を含んでよい。その他の成分としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びアルキド樹脂等のその他の樹脂、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、表面調整剤、並びに湿潤分散剤等を更に含んでもよい。これらのその他の成分の含有量は、熱硬化性組成物全量を基準として、例えば、20質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってよい。
【0048】
上述の熱硬化性組成物の粘度は適宜調整することができる。熱硬化性組成物の100℃における粘度の上限値は、例えば、50mPa・秒以下、30mPa・秒以下、20mPa・秒以下、10mPa・秒以下、又は5mPa・秒以下であってよい。上記熱硬化性組成物の150℃における粘度が上記範囲内であると、複合体の調製がより容易なものとなる。上記熱硬化性組成物の100℃における粘度の下限値は、例えば、3mPa・秒以上であってよい。上記熱硬化性組成物の100℃における粘度は、熱硬化性組成物の温度を100℃の維持した状態で、例えば、5時間以上に亘って50mPa・秒以下に保たれることが好ましい。熱硬化性組成物の100℃における粘度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、3~50mPa・秒、又は3~5mPa・秒であってよい。
【0049】
上記熱硬化性組成物の100℃における粘度は、回転式粘度計を用いて、せん断速度が10(1/秒)の条件下で測定される値を意味する。なお、熱硬化性組成物の粘度は、例えば、溶媒を加えて調整してもよい。すなわち、窒化物焼結体を浸漬させる対象を熱硬化性組成物の加熱溶融物から、熱硬化性組成物及び溶媒を含む混合物の加熱溶融物としてもよく、この場合、上記混合物の粘度を、上記熱硬化性組成物についての上記粘度となるように調整してもよい。上記溶媒としては、例えば、トルエン、エチレングリコール、及びジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。
【0050】
第一工程(樹脂含浸体の調製工程)では、例えば、含浸装置などを用いて、上述の熱硬化性組成物の加熱溶融物に上記窒化物焼結体を接触(例えば、浸漬)させ、上記窒化物焼結体の有する細孔に熱硬化性組成物を含浸させる。
【0051】
第一工程において熱硬化性組成物又は熱硬化性組成物を含む混合物を加熱してもよい。この際の加熱温度は、例えば、熱硬化性組成物を半硬化させるための加熱温度超であってよい。上記加熱温度の上限は、例えば、熱硬化性組成物を半硬化させるための加熱温度+20℃の温度以下であってよい。上記加熱温度を上記範囲内とすることで、加熱溶融物の粘度が調整され、熱硬化性組成物の含浸がより容易なものとなり、半硬化物の含有量がより大きな複合体が得られる。熱硬化性組成物を半硬化させるための加熱温度とは、熱硬化性組成物の反応開始温度を意味し、具体的には、各硬化剤に対応する硬化温度(複数の硬化剤を含む場合には、それらの硬化温度のうち最も低い硬化温度をいう)である。
【0052】
第一工程では、熱硬化性組成物又は熱硬化性組成物を含む混合物の加熱溶融物に窒化物焼結体を接触した状態で、加熱を開始する前に所定の時間だけ保持してもよい。接触状態(例えば、浸漬状態)での保持時間は、例えば、5時間以上、10時間以上、100時間以上、又は150時間以上であってよい。接触状態で保持することによって、熱硬化性組成物を窒化物焼結体の細孔中により十分に含浸させることができる。
【0053】
上記の含浸は、大気圧下で行ってもよく、減圧条件下及び加圧条件下のいずれで行ってもよく、減圧条件下での含浸と、加圧条件下での含浸とを組み合わせて行ってもよい。すなわち、上記第一工程は、上記窒化物焼結体を上記熱硬化性組成物の加熱溶融物に接触させた状態で、減圧条件下及び/又は加圧条件下に置くことを含んでもよい。ここで、減圧条件を含む場合、窒化物焼結体及び熱硬化性組成物中に溶解するガス成分を脱気することができ、複合体における熱硬化性組成物の半硬化物の含有量をより向上させることができる。
【0054】
減圧条件下で熱硬化性組成物を含浸させる場合、含浸装置内の圧力は、例えば、1000MPa以下、500MPa以下、100MPa以下、50MPa以下、又は20MPa以下であってよい。加圧条件下で熱硬化性組成物を含浸させる場合、含浸装置内の圧力は、例えば、0.5MPa以上、3MPa以上、10MPa以上、又は30MPa以上であってよい。減圧条件下で熱硬化性組成物を含浸させる場合の含浸装置内の圧力は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.5~1000MPa、3~500MPa、10~100MPa、又は30~50MPaであってよい。
【0055】
第一工程では、熱硬化性組成物を窒化物焼結体の細孔中に含浸させた状態で、加熱処理し熱硬化性組成物を半硬化させ樹脂含浸体を調製する。上記加熱処理の条件によって、複合体における熱硬化性組成物の半硬化の状態を調整することができる。第一工程における加熱温度は、熱硬化性組成物の成分及び組成等に応じて調整可能であり、例えば、80~130℃であってよい。
【0056】
第一工程における上記加熱処理は、大気圧下、又は加圧条件下で行ってよい。
【0057】
本明細書において「半硬化」(Bステージともいう)の状態とは、その後の硬化処理によって、更に硬化させることができる状態にあることを意味する。半硬化の状態であることを利用し金属基板等の被着体へ仮圧着して、その後加熱することによって被着体と接着することもできる。上記半硬化物は、半硬化の状態にあり、更に硬化処理をすることで「完全硬化」(Cステージともいう)の状態となり得る。複合体中の半硬化物が更に硬化可能な半硬化の状態にあるか否かは、例えば、示差走査熱量計によって確認することができる。
【0058】
熱硬化性組成物の半硬化物(以下、単に「半硬化物」という場合がある。)は、熱硬化性組成物の硬化反応が一定以上進んだものを意味する。したがって、熱硬化性組成物の半硬化物は、熱硬化性組成物中の原料成分(熱硬化性組成物が含有する化合物等)が反応して得られる熱硬化性樹脂等を含んでもよい。上記半硬化物は、上記熱硬化性樹脂に加えて、上記原料成分のうち未反応分の化合物等を含んでもよい。
【0059】
半硬化物の硬化の程度は、例えば、完全硬化の状態となったときの硬化率を100%とする熱硬化性組成物の硬化率を指標としてもよい。半硬化物の硬化率は、例えば、70%以下、65%以下、又は60%以下であってよい。半硬化物の硬化率が上記範囲内であると、複合体の被着体に対する接着性を向上させることができる。また半硬化物が樹脂複合体内で動くことで、樹脂複合体内のボイドを埋め絶縁破壊電圧を向上させることができる。また樹脂が半硬化物の硬化率は、例えば、5%以上、15%以上、30%以上、又は40%以上であってよい。半硬化物の硬化率が上記範囲内であると、半硬化物が樹脂複合体外に流れ出すことを抑制し、半硬化物を窒化物焼結体の細孔内に十分に保持することができる。半硬化物の硬化率は上述の範囲内で調整してよく、例えば、5~70%、30~65%、又は40~60%であってよい。
【0060】
上記硬化率は、示差走査熱量計を用いた測定によって決定することができる。まず、未硬化の状態の熱硬化性組成物1gを完全に硬化させた際に生じる熱量Qを測定する。次に、測定対象となる複合体から半硬化物を1g採取し、採取した半硬化物を完全に硬化させた際に生じる熱量Rを測定する。測定には、示差走査熱量計を用いる。その後、下記式(A)にしたがって、半硬化物の硬化率を算出することができる。なお、半硬化物が完全に硬化したか否かは、示差走査熱量測定によって得られる発熱曲線において、発熱が終了することで確認することができる。
【0061】
半硬化物の硬化率[%]=〔(Q-R)/R〕×100・・・(A)
【0062】
上記硬化率は、以下のように算出してもよい。すなわち、窒化物焼結体に含浸されている半硬化物の硬化率を次の方法で求めることができる。まず未硬化の熱硬化性組成物を昇温させて完全に硬化させた際に生じる発熱量Q2を求める。そして、複合体が備える半硬化物から採取したサンプルを同様に昇温させて、完全に硬化させた際に生じる発熱量R2を求める。このとき、示差走査熱量計による測定に使用するサンプルの質量は、発熱量Q2の測定に用いた熱硬化性組成物と同一とする。なお、測定に使用するサンプルの質量が不足するなどの事情がある場合には、上記発熱量Q2及び上記発熱量R2を単位質量あたりの発熱量に換算した値を使用してもよい。半硬化物中に熱硬化性を有する成分がc(質量%)含有されているとすると、下記式(B)によって複合体に含浸している熱硬化性組成物の硬化率が求められる。
【0063】
含浸されている半硬化物の硬化率[%]={1-[(R2/c)×100]/Q2}×100・・・(B)
【0064】
加熱処理によって得られる樹脂含浸体は熱硬化性組成物の半硬化物を有する。当該半硬化物は、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂、並びに硬化剤を含有してよい。半硬化物は、上述の熱硬化性樹脂及び硬化剤の他に、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びアルキド樹脂等のその他の樹脂、並びに、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、表面調整剤、及び湿潤分散剤等に由来する成分を含有してもよい。当該その他の樹脂及び当該成分の合計の含有量は、半硬化物全量を基準として、例えば、20質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってよい。
【0065】
第二工程(冷却工程)は、熱硬化性組成物を半硬化させるため加熱状態にある上記樹脂含浸体を加圧条件下で冷却し、複合体を得る工程である。すなわち、第二工程は、樹脂含浸体に熱硬化性組成物の加熱溶融物を接触させた状態で、上記熱硬化性組成物を半硬化させた後、加圧条件下で冷却する工程であってよい。
【0066】
第二工程では、加圧条件下で冷却することによって熱硬化性組成物の硬化収縮及び半硬化物の固化収縮が発生した場合であっても、熱硬化性組成物又は熱硬化性組成物の半硬化物が周囲から供給され、得られる複合体における半硬化物の細孔に対する含有量を極めて高い状態にできる。例えば、あらかじめ調製された樹脂含浸体を対象とする場合には、上記樹脂含浸体を、熱硬化性組成物の加熱溶融物に接触させながら冷却工程(第二工程)を行うことによって、樹脂含浸体の周囲から溶融した熱硬化性組成物が樹脂含浸体の未含浸部分に供給される。さらには、あらかじめ調製された樹脂含浸体中の半硬化物も周囲からの熱供給を受け溶融し得るため、当初形成されていたボイド等の低減が可能であり、更に含浸率を向上させることもできる。この際、樹脂含浸体中に含まれていた半硬化物を構成する熱硬化性組成物と、上記樹脂含浸体に接触させる加熱溶融物を構成する熱硬化性組成物とは、同一であっても異なってもよい。上述のような作用によって、半硬化物の含有割合を向上させた複合体を製造することができる。冷却工程は、具体的には例えば、容器に収容した熱硬化性組成物中に、樹脂含浸体を浸漬させ、加圧下で冷却すればよい。この熱硬化性組成物の120℃における粘度は、例えば、1000~3000000mPa・秒、又は1000~300000mPa・秒であってよい。上記熱硬化性組成物の120℃における粘度は、回転式粘度計を用いて、せん断速度が10(1/秒)の条件下で測定される値を意味する。
【0067】
第二工程(冷却工程)における圧力が上記第一工程(調製工程)における圧力よりも大きくてもよい。第一工程における圧力よりも第二工程における圧力が大きいことによって、冷却過程においても、窒化物焼結体の有する細孔中に熱硬化性組成物をより十分に含浸させることができ、また熱硬化性組成物の硬化が進行し、粘度が上昇する場合であっても含浸率の低下をより十分に抑制することができる。
【0068】
第二工程の圧力は、半硬化物の組成、粘度等に応じて調整することができる。上記第二工程の圧力の下限値は、例えば、2.0MPa以上、3.0MPa以上、4.0MPa以上、10MPa以上、15MPa以上、又は30MPa以上であってよい。上記圧力の下限値を上記範囲内とすることによって、半硬化物の収縮にともなう含有量の低下を補うように熱硬化性組成物をより十分に含浸させることができる。第二工程の圧力の上限値は、特に制限されるものではないが、例えば、1000MPa以下、500MPa以下、100MPa以下、50MPa以下、又は20MPa以下であってよい。第二工程の圧力は上述の範囲内で調整してよく、例えば、2.0~1000MPa、2.0~100MPa、2.0~20MPa、又は3.0~20MPaであってよい。
【0069】
第二工程における上記樹脂含浸体の冷却は、例えば、室温まで冷却するものであってよい。第二工程における降温速度の上限値は、例えば、15℃/分以下、5℃/分以下、3℃/分以下、又は2℃/分以下であってよい。第二工程における降温速度を上記範囲内とすることで、熱硬化性樹脂の冷却に伴う熱履歴を低減することができ、複合体を被着体に接続した後も十分に樹脂部分を維持することができることから、接続体の絶縁性能をより向上させることができる。第二工程における降温速度の下限値は、特に制限されるものではなく、例えば、0.2℃/分以上、又は0.5℃/分以上であってよい。第二工程における降温速度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.2~15℃/分、又は0.5~10℃/分であってよい。
【0070】
上述の複合体の製造方法は、第一工程及び第二工程に加えて、その他の工程を備えていてもよい。その他の工程としては、例えば、得られた複合体を所望のサイズに切断する工程等が挙げられる。上述の複合体の製造方法においては、熱硬化性組成物を充填した容器に窒化物焼結体を浸漬させた状態で熱硬化性組成物の硬化させていることから、得られる複合体は、窒化物焼結体の周囲に熱硬化性組成物の半硬化物を含む層が形成され得る。そこで、周囲の半硬化物を含む層を切断し除去してもよく、また、複合体を所定の厚さに裁断して、複合体シートを調製してもよい。なお、複合体を製造後に切断してシート状に成形するのではなく、予め所望の厚みに調整された窒化物焼結体を用いてもよい。すなわち、上述の製造方法においては、シート状の窒化物焼結体に熱硬化性組成物を含浸させることによって複合体シートを製造してもよい。
【0071】
複合体シートを製造する場合、複合体シートの厚さの上限値は、例えば、1.00mm以下、0.90mm以下、0.80mm以下、0.70mm以下、0.50mm以下、又は0.40mm以下であってよい。複合体シートの厚さの上限値が上記範囲内であると、複合体シート自体の熱抵抗をより低減することができる。上記複合体シートの厚さの下限値は、例えば、0.15mm以上、又は0.20mm以上であってよい。複合体シートの厚さの下限値が上記範囲内であると、上記複合体シートを用いて得られる積層体が高電圧で使用される場合であってもより十分な絶縁性を発揮することができる。複合体シートの厚さは上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.15~1.0mm、又は0.20~0.50mmであってよい。
【0072】
上述の複合体の製造方法によれば、半硬化物の割合が高い複合体を製造することができる。複合体として、例えば、多孔質構造を有する窒化物焼結体と、上記窒化物焼結体に含浸された熱硬化性組成物の半硬化物とを備え、上記窒化物焼結体の全細孔体積に占める上記半硬化物の割合が80体積%以上である複合体を提供できる。
【0073】
上記窒化物焼結体の全細孔体積に占める上記半硬化物の割合は、例えば、99.0体積%以上、又は99.5体積%以上とすることができる。特に、第二工程の圧力を十分に高めること、及び冷却の際の降温速度を十分に小さくすることの少なくとも一方の調整を行うことによって、半硬化物の含有割合が極めて高い複合体を製造できる。具体的には、複合体における半硬化物の含有割合は、例えば、99.0体積%以上、又は99.5体積%以上とすることができる。十分に高い圧力とは、用いる熱硬化性組成物の粘度等によって異なるが、2.0MPa以上、又は3.0MPa以上であってよい。十分に小さい降温速度とは、15℃/分以下、10℃/分以下、8℃/分以下、5℃/分以下、又は2℃/分以下であってよい。
【0074】
上記窒化物焼結体の全細孔体積に占める上記半硬化物の割合は、窒化物焼結体の全細孔に上記半硬化物が含浸された時の理論密度D(単位:g/cm)とし、窒化物焼結体の体積及び質量から求められるかさ密度D(単位:g/cm)とし、上記複合体の体積及び質量から求められるかさ密度D(単位:g/cm)とし、これらを利用して、下記式(II)に基づいて算出される値を意味する。
【0075】
窒化物焼結体の全細孔体積に占める上記半硬化物の割合[体積%]=[(D-D)/(D-D)]×100・・・(II)
【0076】
なお、上記式(II)における、理論密度Dは、下記式によって求められる値を意味する。
複合体の理論密度=窒化ホウ素の真密度+樹脂の真密度×(1-窒化ホウ素のかさ密度/窒化ホウ素の真密度)
【0077】
上記複合体は優れた絶縁破壊電圧を有する。複合体の絶縁破壊電圧の下限値は、例えば、4.5kV以上、5.0kV以上、6.0kV以上、7.0kV以上、8.0kV以上、9.0kV以上、又は10.0kV以上とすることができる。上記複合体の絶縁破壊電圧の上限値は、例えば、15kV以下、又は13kV以下であってよい。上記複合体の絶縁破壊電圧は、例えば、熱硬化性組成物の組成、及び半硬化物の含有量等によって調整することができる。
【0078】
本明細書における「絶縁破壊電圧」は、上記複合体シートの沿面から2mm離した位置の両面に同一サイズの導電性テープを張り付け、測定サンプルを調製し、当該サンプルを対象として、JIS C2110-1:2016にしたがって、耐圧試験器によって測定される値を意味する。耐圧試験器としては、例えば、菊水電子工業株式会社製の「TOS-8700」(装置名)等を使用できる。
【0079】
上述の複合体は、熱伝導性及び絶縁性が求められる接着部材(例えば、接着シート等)として有用である。上述の複合体は、具体的には、パワーモジュール構造体及びLED発光装置等における金属回路基板とその他の層とを接着する接着部材として用いることができる。すなわち、上述の複合体は積層体の製造に適する。
【0080】
積層体の一実施形態は、第一の金属基板と、上記第一の金属基板上に設けられた中間層と、上記中間層の上記第一の金属基板側とは反対側に設けられた第二の金属基板とを備え、上記第一の金属基板と上記第二の金属基板とが、上記中間層によって接続されている。上記中間層が上述の複合体の硬化物である。
【0081】
第一の金属基板及び第二の金属基板の厚みは、互いに独立に、例えば、0.035mm以上であってよく、また10mm以下であってよい。第一の金属基板及び第二の金属基板は、例えば、回路を形成していてもよい。
【0082】
第一の金属基板及び第二の金属基板は、互いに同じ金属基板であってよく、また別々の金属基板であってもよい。第一の金属基板及び第二の金属基板は、例えば、銅及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよく、銅又はアルミニウムであってよい。第一の金属基板及び第二の金属基板は、銅及びアルミニウム以外の金属を含んでもよい。
【0083】
上述の積層体は、例えば、以下のような方法によって製造することができる。積層体の製造方法の一実施形態は、上述の複合体シートの一対の主面に対向するように、第一の金属基板及び第二の金属基板をそれぞれ配置し積層して、上記第一の金属基板及び上記第二の金属基板を積層方向に加圧した状態で、加熱し、上記熱硬化性組成物を硬化させることによって上記複合体シートと、上記第一の金属基板及び上記第二の金属基板とを接続させる工程を有する。
【0084】
上記積層体の製造方法では、上述の複合体を用いていることから、第一の金属基板と、第二の金属基板とを短時間で接着させることができる。接着時間は、2時間以下、1時間以下、又は0.5時間以下とすることができる。
【0085】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例
【0086】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0087】
(実施例1)
[多孔質構造を有する窒化物焼結体の調製]
容器に、アモルファス窒化ホウ素粉末(デンカ株式会社製、酸素含有量:1.5%、窒化ホウ素純度:97.6%、平均粒径:6.0μm)が40.0質量%、六方晶窒化ホウ素粉末(デンカ株式会社製、酸素含有量:0.3%、窒化ホウ素純度:99.0%、平均粒径:30.0μm)が60.0質量%となるようにそれぞれ測り取り、焼結助剤(ホウ酸、炭酸カルシウム)を加えた後に有機バインダー、及び水を加え混合後、乾燥造粒し、窒化物の混合粉末を調製した。
【0088】
上記混合粉末を金型に充填し、5MPaの圧力でプレス成形し、成形体を得た。次に、冷間等方加圧(CIP)装置(株式会社神戸製鋼所製、商品名:ADW800)を用いて、上記成形体を20~100MPaの圧力をかけて圧縮した。圧縮された成形体を、バッチ式高周波炉(富士電波工業株式会社製、商品名:FTH-300-1H)を用いて2000℃で10時間保持して焼結させることによって、窒化物焼結体を調製した。得られた窒化物焼結体の気孔率は、45体積%であった。なお、焼成は、炉内に窒素を標準状態で流量を10L/分となるように流しながら、炉内を窒素雰囲気下に調整して行った。
【0089】
[熱硬化性組成物の調製]
容器に、シアネート基を有する化合物が80質量部、ビスマレイミド基を有する化合物が20質量部、エポキシ基を有する化合物が50質量部となるように測り取り、上記3種の化合物合計量100質量部に対して、ホスフィン系硬化剤を1質量部及びイミダゾール系硬化剤を0.01質量部加えて混合した。なお、エポキシ樹脂が室温で固体状態であったため、80℃程度に加熱した状態で混合した。得られた熱硬化性組成物の100℃における粘度は、10mPa・秒であった。
【0090】
熱硬化性組成物の調製には、以下の化合物を用いた。
【0091】
<特定官能基を有する化合物>
シアネート基を有する化合物:ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナート(三菱ガス化学株式会社製、商品名:TA-CN)
ビスマレイミド基を有する化合物:N,N’-[(1-メチルエチリデン)ビス[(p-フェニレン)オキシ(p-フェニレン)]]ビスマレイミド(ケイ・アイ化成株式会社製、商品名:BMI-80)
エポキシ基を有する化合物:1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレン(DIC株式会社製、商品名:HP-4032D)
ベンゾオキサジン基を有する化合物:ビスフェノールF型ベンゾオキサジン(四国化成工業株式会社製、商品名:F-a型ベンゾオキサジン)
【0092】
<硬化剤>
ホスフィン系硬化剤:テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート(化学株式会社製、商品名:TPP-MK)
イミダゾール系硬化剤:1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名:2E4MZ-CN)
金属触媒:ビス(2,4-ペンタンジオナト)亜鉛(II)(東京化成株式会社)
【0093】
[複合体の調製]
上述のとおり調製した窒化物焼結体に、上述のとおり調製した熱硬化性組成物を以下の方法で含浸させた。まず、真空加温含浸装置(株式会社協真エンジニアリング製、商品名:G-555AT-R)に、上記窒化物焼結体と、容器に入れた上記熱硬化性組成物とを収容した。次に、温度:100℃、及び圧力:15Paの条件下で、装置内を10分間脱気した。脱気後、同条件に維持したまま、上記窒化物焼結体を上記熱硬化性組成物の加熱溶融物に40分間浸漬し、熱硬化性組成物を上記窒化物焼結体に含浸(真空含浸)させた。
【0094】
次に、上記窒化物焼結体及び熱硬化性組成物を入れた容器を取出し、当該容器ごと、加圧加温含浸装置(株式会社協真エンジニアリング製、商品名:HP-4030AA-H45)に入れ、温度:100℃、及び圧力:3.5MPaの条件下で、120分間保持することで、熱硬化性組成物を窒化物焼結体にされに含浸(加圧含浸)させた。
【0095】
その後、窒化物焼結体及び熱硬化性組成物を入れた容器を装置から取出し、当該容器ごと、温度:100℃、及び大気圧(0.10MPa)の条件下で、20時間、加熱処理し、熱硬化性組成物を半硬化させ樹脂含浸体を得た。
【0096】
20時間の加熱処理の後、樹脂含浸体及び周囲の熱硬化性組成物の半硬化物が加熱された状態のまま(系が冷却される前に)、加圧加温含浸装置(株式会社協真エンジニアリング製、商品名:HP-4030AA-H45)に入れ、圧力:4.0MPaの条件下で、90分間かけて室温(25℃)になるまで冷却し複合体を調製した。複合体の周囲に設けられた半硬化物からなる層を切断し除去して、その後、厚さ0.4mmの複合体シートを切り出した。
【0097】
(実施例2)
真空含浸の後、加圧含浸をさせずに、半硬化のための加熱処理を行ったこと、及び冷却工程における圧力条件及び降温速度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、複合体を調製した。
【0098】
(実施例3)
冷却工程における圧力条件及び降温速度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、複合体を調製した。
【0099】
(比較例1)
8時間の加熱処理の後の冷却を加圧条件下ではなく、大気圧下で行ったこと以外は、実施例1と同様にして、複合体を調製した。
【0100】
(比較例2)
8時間の加熱処理の後の冷却を加圧条件下ではなく、大気圧下で行い、かつ、降温速度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、複合体を調製した。
【0101】
[半硬化物の割合の測定]
上述のようにして得られた各複合体について、窒化ホウ素焼結体の全細孔体積に占める半硬化物の割合を決定した。具体的には、窒化物焼結体の全細孔に上記半硬化物が含浸された時の理論密度D(単位:g/cm)と、窒化物焼結体の体積及び質量から求められるかさ密度D(単位:g/cm)と、上記複合体の体積及び質量から求められるかさ密度D(単位:g/cm)と、を利用し、上記式(II)に基づいて算出した。
【0102】
[絶縁破壊電圧の測定]
上述のようにして得られた各複合体シートについて絶縁破壊電圧の評価を行った。具体的には、上記複合体シートの両面に2枚の導電性テープを張り付け、測定サンプルを調製した。得られた測定サンプルを対象として、JIS C2110-1:2016にしたがって、耐圧試験器(菊水電子工業株式会社製、装置名:TOS-8700)を用い、絶縁破壊電圧を測定した。測定結果から、以下の基準で絶縁性を評価した。結果を表1に示す。
A:絶縁破壊電圧が11kV以上である。
B:絶縁破壊電圧が8.0kV以上11kV未満である。
C:絶縁破壊電圧が4.5kV以上8.0kV未満である。
D:絶縁破壊電圧が4.5kV未満である。
【0103】
[接着強度の評価:90°はく離性及び接着性の評価]
上述のようにして得られた複合体シートを、2枚の銅板間に上記複合体を配置し、200℃及び5MPaの条件下で5分間加熱及び加圧して、更に200℃及び大気圧の条件下で2時間加熱して得られる積層体を調製し、これを測定対象とした。JIS K 6854-1:1999「接着剤-はく離接着強さ試験方法」にしたがって、90°はく離試験を行い、20℃における複合体のピール強度を、万能試験機(株式会社エーアンドディ製、商品名:RTG-1310)を用いて求めた。試験速度:50mm/分、ロードセル:5kN、測定温度:室温(20℃)の条件で測定を行って、凝集破壊部分の面積を測定した。測定結果から、以下の基準で接着性を評価した。結果を表1に示す。なお、凝集破壊部分とは、複合体が破壊した部分の面積である。
A:凝集破壊部分の面積比率が96面積%以上である。
B:凝集破壊部分の面積比率が95面積%以上96面積%未満である。
C:凝集破壊部分の面積比率が70面積%以上95面積%未満である。
D:凝集破壊部分の面積比率が70面積%未満である。
【0104】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0105】
本開示に係る複合体の製造方法によれば、窒化物焼結体の細孔中における半硬化物の含有割合を高めた複合体を製造できる。本開示によればまた、極めて高い割合で半硬化物を有する複合体を提供することができる。