IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジーの特許一覧

特許7458516自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法
<>
  • 特許-自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法 図1
  • 特許-自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法 図2
  • 特許-自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法 図3
  • 特許-自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法 図4
  • 特許-自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法 図5
  • 特許-自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法 図6
  • 特許-自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法 図7
  • 特許-自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法 図8
  • 特許-自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法 図9
  • 特許-自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法 図10
  • 特許-自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法 図11a
  • 特許-自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法 図11b
  • 特許-自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20240322BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240322BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20240322BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240322BHJP
   D06M 13/325 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
B01J20/26 E
B01J20/30
B01J20/34 E
C02F1/28 B
D06M13/325
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023000965
(22)【出願日】2023-01-06
(65)【公開番号】P2023159855
(43)【公開日】2023-11-01
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】10-2022-0048686
(32)【優先日】2022-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】304039548
【氏名又は名称】コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジェウ
(72)【発明者】
【氏名】チョン,キョン-ウォン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ヨンギュン
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-107069(JP,A)
【文献】国際公開第2020/230616(WO,A1)
【文献】特開昭49-186(JP,A)
【文献】特表2019-526440(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/284063(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/26
B01J 20/30
B01J 20/34
C02F 1/28
D06M 13/325
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1高分子物質と第2高分子物質とからなる繊維状高分子であり、
第1高分子物質の表面に重金属吸着官能基が固定化するとともに、第2高分子物質の表面に重金属結晶脱着官能基が固定化し、
水中の重金属イオンは第1高分子物質の重金属吸着官能基に吸着して結晶に成長し、重金属結晶が一定の大きさ以上に成長すると、第2高分子物質の重金属結晶脱着官能基によって脱着することを特徴とする自己再生可能な重金属吸着繊維。
【請求項2】
前記重金属吸着官能基はアミン官能基であり、
前記重金属結晶脱着官能基は、ヒドロキシル基、メチル基、カルボニル基、カルボキシル基、ホスフェート基のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の自己再生可能な重金属吸着繊維。
【請求項3】
第1高分子物質はアミン官能基を固定化することができる物質であり、第2高分子物質は水中の重金属イオンに対する吸着能のない物質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の自己再生可能な重金属吸着繊維。
【請求項4】
第1高分子物質は、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリアリーレンアミン、ポリグリシジルメタクリレート、ポリアクリロニトリルのいずれかであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の自己再生可能な重金属吸着繊維。
【請求項5】
第2高分子物質は、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、SBSゴム、ポリアミド、天然高分子、初期合成高分子、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリエステル、フェノール樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の自己再生可能な重金属吸着繊維。
【請求項6】
PANとPMMAとからなる繊維状高分子であり、
PAN表面にアミン官能基が固定化するとともに、PMMA表面にヒドロキシル基(-OH)が固定化したことを特徴とする自己再生可能な重金属吸着繊維。
【請求項7】
水中の重金属イオンはPANのアミン官能基に吸着して結晶に成長し、重金属結晶が一定の大きさ以上に成長すると、PMMAのヒドロキシル基(-OH)によって脱着することを特徴とする請求項6に記載の自己再生可能な重金属吸着繊維。
【請求項8】
前記アミン官能基はPANのニトリル基(-C≡N)を置換した形で備えられ、前記ヒドロキシル基(-OH)はPMMAのカルボニル基(-C=O)が加水分解して生成された形で備えられることを特徴とする請求項6又は7に記載の自己再生可能な重金属吸着繊維。
【請求項9】
前記繊維状高分子は、繊維状高分子の総重量に対して7wt%以下のPMMAが含まれたことを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の自己再生可能な重金属吸着繊維。
【請求項10】
前記繊維状高分子の直径は1.5mmより小さいことを特徴とする請求項6~9のいずれかに記載の自己再生可能な重金属吸着繊維。
【請求項11】
前記アミン官能基は、重金属イオンに対する吸着能のあるアミン基(-NH)を含む官能基であることを特徴とする請求項6~10のいずれかに記載の自己再生可能な重金属吸着繊維。
【請求項12】
PANとPMMAとが混合し溶解されたPAN-PMMA混合溶液を準備するステップ;
PAN-PMMA混合溶液を紡糸して繊維状高分子を製造するステップ;及び
繊維状高分子とアミン化合物とを反応させて繊維状高分子のPAN表面にアミン官能基を固定化するとともに、繊維状高分子のPMMA表面にヒドロキシル基(-OH)を固定化するステップ;を含んでなることを特徴とする自己再生可能な重金属吸着繊維の製造方法。
【請求項13】
繊維状高分子とアミン化合物との反応によってPAN表面のニトリル基(-C≡N)はアミン官能基に置換され、PMMA表面のカルボニル基(-C=O)は加水分解してヒドロキシル基(-OH)に変換されることを特徴とする請求項12に記載の自己再生可能な重金属吸着繊維の製造方法。
【請求項14】
PAN-PMMA混合溶液において、PMMAは、PANとPMMAとの合計重量に対して7wt%以下で混合されることを特徴とする請求項12又は13に記載の自己再生可能な重金属吸着繊維の製造方法。
【請求項15】
前記繊維状高分子の直径は1.5mmより小さいことを特徴とする請求項12~14のいずれかに記載の自己再生可能な重金属吸着繊維の製造方法。
【請求項16】
前記アミン化合物は、ポダンド(podand)構造を有するアミン化合物であることを特徴とする請求項12~15のいずれかに記載の自己再生可能な重金属吸着繊維の製造方法。
【請求項17】
前記アミン化合物は、ジエチレントリアミン(DETA)であることを特徴とする請求項16に記載の自己再生可能な重金属吸着繊維の製造方法。
【請求項18】
前記アミン化合物は、エチレンジアミン(ethylenediamine)、トリス(2-アミノエチルアミン(tris(2-aminoethyl)amine)、プロパン-1,3-ジアミン(propane-1,3-diamine)、メタントリアミン(methane triamine)、3-(2-アミノエチル)プロパン-1,5-ジアミン(3-(2-aminoethyl)pentane-1,5-diamine)、メラミン(melamine)、ジアミノフラザン(diaminofurazan)、ジアミノピリジン(diaminopyridine)及びジアミノピリミジン(diaminopyrimidine)のいずれか又はこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項12~17のいずれかに記載の自己再生可能な重金属吸着繊維の製造方法。
【請求項19】
繊維状高分子とアミン化合物との反応の際、非金属系ルイス酸触媒又は金属系ルイス酸触媒が添加されることを特徴とする請求項12~18のいずれかに記載の自己再生可能な重金属吸着繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、韓民国科科学技術情報通信部の支援下で課題番号1711154044によってなされたものであり、この課題の課題管理(専門)機関は韓国研究財団、研究事業名は“ナノ・素材技術開発 (R&D)”、研究課題名は“極限環境応答型フィルタの効率的な現場適用性確保するためのカスタムモジュール技術開発”、研究期間は2022. 01. 01.~2022. 12. 31.である。
本発明は、自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法に係り、より詳しくは、水中の重金属イオンを吸着して結晶に成長させるとともに、成長した重金属結晶を自ら脱着させることができる自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄、メッキ、半導体及び電子産業などで発生する産業廃水に対する環境にやさしい浄化方法の重要性が高まっており、産業廃水に含まれている最大数万ppmの重金属イオンを処理するために様々な方法が開発されてきている。
中でも、廃水のpHを調節して重金属イオンを酸化物の形態で析出させて回収する方法は99%以上の重金属を除去することができるという長所があるが、多量の化学添加物が使用されるため、環境規制によって産業界での使用が制限される。
【0003】
このような理由から繰り返しの再生が可能であり且つ単位重量当たりの重金属吸着性能に優れる素材についての研究が続けられている。通常の水処理用の高機能性吸着剤は、比表面積を広げるために数nmから数十μmの大きさの直径を有するが、かかる粉末状の吸着剤は重金属の回収工程には不向きである。小径の粉末状の吸着剤はコラムなどに充填して適用する場合、処理対象水の圧力降下現象が発生し且つ吸着剤の取り替え周期が短いという短所があり、コラム方式ではない場合、小さいサイズのため吸着剤の回収が容易でないからである。このような不具合のため、様々な化学的官能基を備えた樹脂(米国登録特許第5378802号及び韓国登録特許第1816008号参照)が重金属の吸着に用いられているが、吸着効率に劣るという問題がある。
【0004】
近年、繊維状吸着剤を用いて水中の重金属イオンを除去する技術が導入されている。韓国登録特許第1831699号は、PANナノ繊維を酸化させたOxy-PANナノ繊維を用いて重金属を吸着させることができる技術を開示しており、日本登録特許第5929290号は、PANとPMMAのいずれかの親水性ポリマーが含まれた金属錯体を用いて水中の希土類金属を回収する技術を開示しており、韓国公開特許第2008-0093771号は、ポリアクリロニトリル(PAN)/ヒドロキシアパタイト(HAp)複合吸着材を用いて重金属を吸着する技術を開示している。
【0005】
本出願人も韓国登録特許第1801294号を通じて多数のアミン基が固定化したアクリル系繊維吸着剤によって水中のカチオン重金属及びアニオン重金属を吸着することができる技術を提示したことがある。
しかし、本出願人の韓国登録特許第1801294号をはじめとした上述の従来技術の繊維状吸着剤は、いずれも別途の吸着剤再生工程を経なければ再使用が不可能である。すなわち、重金属吸着工程に用いられた繊維状吸着剤は、回収して別途の吸着剤再生工程を経てから重金属吸着工程に再度投入することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国登録特許第5378802号(1995. 1. 3. 登録)
【文献】韓国登録特許第1816008号(2018. 1. 9. 公告)
【文献】韓国登録特許第1831699号(2018. 2. 23. 公告)
【文献】日本登録特許第5929290号(2016. 6. 1. 発行)
【文献】韓国公開特許第2008-0093771号(2008. 10. 22. 公開)
【文献】韓国登録特許第1801294号(2017. 11 .27. 公告)
【非特許文献】
【0007】
【文献】Preparation and characterization of high efficiency ion exchange crosslinked acrylic fibers、Journal of Applied Polymer Science、Vol.101、2202-2209(2006)
【文献】Recyclable composite nanofiber adsorbent for Li+ recovery from seawater desalination retentate、Chemical Engineering Journal、Vol.254、73-81(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記のような問題点を解決するためになされたものであって、水中の重金属イオンを吸着して結晶に成長させるとともに、成長した重金属結晶を自ら脱着させることができる自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明に係る自己再生可能な重金属吸着繊維は、第1高分子物質と第2高分子物質とからなる繊維状高分子であり、第1高分子物質の表面に重金属吸着官能基が固定化するとともに、第2高分子物質の表面に重金属結晶脱着官能基が固定化し、水中の重金属イオンは第1高分子物質の重金属吸着官能基に吸着して結晶に成長し、重金属結晶が一定の大きさ以上に成長すると、第2高分子物質の重金属結晶脱着官能基によって脱着することを特徴とする。
【0010】
前記重金属吸着官能基はアミン官能基であり、前記重金属結晶脱着官能基は、ヒドロキシル基、メチル基、カルボニル基、カルボキシル基、ホスフェート基のいずれかである。
【0011】
第1高分子物質はアミン官能基を固定化することができる物質であり、第2高分子物質は水中の重金属イオンに対する吸着能のない物質である。
【0012】
第1高分子物質は、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリアリーレンアミン、ポリグリシジルメタクリレート、ポリアクリロニトリルのいずれかである。
【0013】
第2高分子物質は、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、SBSゴム、ポリアミド、天然高分子、初期合成高分子、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリエステル、フェノール樹脂のいずれかである。
【0014】
また、本発明に係る自己再生可能な重金属吸着繊維は、PANとPMMAとからなる繊維状高分子であり、PAN表面にアミン官能基が固定化するとともに、PMMA表面にヒドロキシル基(-OH)が固定化したことを特徴とする。
【0015】
水中の重金属イオンはPANのアミン官能基に吸着して結晶に成長し、重金属結晶が一定の大きさ以上に成長すると、PMMAのヒドロキシル基(-OH)によって脱着する。
【0016】
前記アミン官能基はPANのニトリル基(-C≡N)を置換した形で備えられ、前記ヒドロキシル基(-OH)はPMMAのカルボニル基(-C=O)が加水分解して生成された形で備えられる。
【0017】
前記繊維状高分子は、繊維状高分子の総重量に対して7wt%以下のPMMAが含まれることが好ましい。また、前記繊維状高分子の直径は1.5mmより小さいことが好ましい。
【0018】
前記アミン官能基は、重金属イオンに対する吸着能のあるアミン基(-NH)を含む官能基である。
【0019】
本発明に係る自己再生可能な重金属吸着繊維の製造方法は、PANとPMMAとが混合し溶解されたPAN-PMMA混合溶液を準備するステップ;PAN-PMMA混合溶液を紡糸して繊維状高分子を製造するステップ;及び繊維状高分子とアミン化合物とを反応させて繊維状高分子のPAN表面にアミン官能基を固定化するとともに、繊維状高分子のPMMA表面にヒドロキシル基(-OH)を固定化するステップ;を含んでなることを特徴とする。
【0020】
繊維状高分子とアミン化合物との反応によってPAN表面のニトリル基(-C≡N)はアミン官能基に置換され、PMMA表面のカルボニル基(-C=O)は加水分解してヒドロキシル基(-OH)に変換される。
【0021】
PAN-PMMA混合溶液において、PMMAは、PANとPMMAとの合計重量に対して7wt%以下で混合されることが好ましい。また、前記繊維状高分子の直径は1.5mmより小さいことが好ましい。
【0022】
前記アミン化合物は、ポダンド(podand)構造を有するアミン化合物であり、ジエチレントリアミン(DETA)を用いてよい。
【0023】
前記アミン化合物は、エチレンジアミン(ethylenediamine)、トリス(2-アミノエチルアミン(tris(2-aminoethyl)amine)、プロパン-1,3-ジアミン(propane-1,3-diamine)、メタントリアミン(methane triamine)、3-(2-アミノエチル)プロパン-1,5-ジアミン(3-(2-aminoethyl)pentane-1,5-diamine)、メラミン(melamine)、ジアミノフラザン(diaminofurazan)、ジアミノピリジン(diaminopyridine)及びジアミノピリミジン(diaminopyrimidine)のいずれか又はこれらの組み合わせを用いてよい。
【0024】
繊維状高分子とアミン化合物との反応の際、非金属系ルイス酸触媒又は金属系ルイス酸触媒が添加されてよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法は、次のような効果を奏する。
PANとPMMAとからなる繊維状高分子を用いて水中の重金属を除去するにあたり、PAN表面に固定化しているアミン官能基を介して水中の重金属イオンを吸着することができるのはもちろん、アミン官能基に吸着して成長した重金属結晶がPMMA表面のヒドロキシル基(-OH)によって自ら脱着することを誘導する方式であるため、吸着繊維に対する別途の再生工程が要求されない。したがって、吸着繊維の再生のために反応槽から吸着繊維を回収する過程が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】PAN-PMMA繊維状高分子とアミン化合物との反応によって自己再生可能な重金属吸着繊維が製造される過程を示す参考図。
図2】本発明に係る自己再生可能な重金属吸着繊維による重金属吸着及び重金属結晶の脱着過程を示す模式図。
図3】実験例1によって製造された自己再生可能な重金属吸着繊維のFT-IR分析結果を示す図。
図4】実験例1によって製造されたSRF0、SRF1、SRF3、SRF5、SRF7、SRF10のそれぞれの経時的な銅吸着特性を示す実験結果。
図5図4の実験が完了した後のSRF0に対するSEM写真。
図6】互いに異なる直径を有する自己再生可能な吸着繊維のそれぞれの経時的な銅吸着特性を示す実験結果。
図7図6の実験が完了した後のそれぞれの自己再生可能な吸着繊維に対するSEM写真。
図8】自己再生可能な吸着繊維の銅結晶が脱着した位置に対するSEM及びEDS分析結果。
図9】自己再生可能な吸着繊維の表面に成長した結晶に対するXRD分析結果。
図10】銅イオン銅結晶に成長して脱着する過程における特定時点に対するSEM分析及び撮像写真。
図11a】実験例1によって製造された自己再生吸着繊維のニッケルイオンに対する経時的な吸着特性を示す実験結果。
図11b】実験例1によって製造された自己再生吸着繊維のニッケルイオンに対する経時的な吸着特性を示す実験結果。
図12】実験例1によって製造された自己再生吸着繊維の圧力降下特性を示す実験結果。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、自己再生可能な重金属吸着繊維に関する技術を提示する。
先の「背景技術」で言及したように、通常の吸着剤は再使用のためには吸着した重金属を除去する別途の再生工程が必須となる。その理由は当然ながら通常の吸着剤には吸着性能のみが付与されているからである。
【0028】
本発明は、重金属を吸着することができるだけでなく、吸着した重金属を自ら脱着することができる、いわゆる自己再生可能な重金属吸着繊維を提示する。
【0029】
本発明に係る自己再生可能な重金属吸着繊維は、繊維状高分子からなり、繊維状高分子の表面に重金属の吸着が可能なアミン官能基及びアミン官能基に吸着して成長した重金属結晶を脱着させるヒドロキシル基(-OH)が備えられる。
【0030】
本発明の自己再生可能な重金属吸着繊維を構成する繊維状高分子は、PAN(Polyacrylonitrile)とPMMA(Poly(methyl methacrylate))とが一定の割合で混合された複合高分子であり、PANにアミン官能基が固定化しており、PMMAにヒドロキシル基(-OH)が固定化した形を有する。
【0031】
繊維状高分子がPANとPMMAとが一定の割合で混合された複合高分子であることによって、アミン官能基とヒドロキシル基(-OH)は、繊維状高分子の表面に一定の割合をなして固定化した形をなす。
【0032】
本発明においては、繊維状高分子上にアミン官能基の他にヒドロキシル基(-OH)が備えられたこと、且つヒドロキシル基(-OH)の存在を最適の範囲で調節することが非常に重要な特徴であるといえる。
【0033】
繊維状高分子の表面上に重金属吸着能を有するアミン官能基さえ存在すれば、重金属吸着のみが可能な通常の吸着剤と特に異なるものではないが、アミン官能基の他にヒドロキシル基(-OH)が一定の割合で繊維状高分子に固定化した形をなすことにより、重金属の吸着だけでなく、吸着した重金属結晶の脱着が可能になる。
【0034】
繊維状高分子の表面の全体にわたってアミン官能基のみが存在する場合、吸着した重金属イオンのアミン官能基との結合力は安定した状態をなすようになる。一方、繊維状高分子の表面に一定の密度でアミン官能基が備えられ、アミン官能基間にヒドロキシル基(-OH)が備えられると、ヒドロキシル基(-OH)が重金属イオンに対する吸着能を有さないため、アミン官能基に吸着した重金属イオンが酸化して一定の大きさ以上の重金属結晶に成長すると、アミン官能基との結合力が弱まって、重金属結晶は繊維状高分子の表面から自然に脱着する。
【0035】
例えると、繊維状高分子表面の一部領域のみに接着剤(アミン官能基)が塗られており、それ以外の領域には接着剤の塗られていない(ヒドロキシル基が備えられる)状態で接着剤上の接着対象物(重金属結晶)の大きさが一定の大きさ以上に大きくなると、接着力が維持できず、繊維状高分子から接着対象物(重金属結晶)が脱落する原理と同様であるといえる。一方、繊維状高分子の表面の全体にわたって接着剤(アミン官能基)が均一に塗られた場合には、接着対象物(重金属結晶)と接着剤(アミン官能基)との間の接着力が安定して維持され、接着対象物(重金属結晶)が接着剤(アミン官能基)から脱着する可能性が低くなる。
【0036】
本発明は、このような原理を利用して重金属の吸着だけでなく重金属の自己脱着が可能な吸着繊維を具現したものである。
【0037】
アミン官能基の存在割合、そしてヒドロキシル基(-OH)の存在割合に応じて重金属吸着性能、そして吸着された重金属の脱着性能が決まるところ、PANとPMMAとの混合割合を最適割合に調節することが重要であり、これは後述する実験結果によって裏付けられ、これについては後で詳述することにする。参考までに、PMMAにヒドロキシル基(-OH)が固定化するところ、PMMAの混合割合によってヒドロキシル基(-OH)の存在割合を制御することができる。
【0038】
繊維状高分子を構成するPANとPMMAのそれぞれにアミン官能基、ヒドロキシル基(-OH)を固定化することは、PANとPMMAとからなる繊維状高分子とアミン化合物との反応によって具現される。
【0039】
PANとPMMAとからなる繊維状高分子をアミン化合物と反応させると、PAN表面のニトリル基(-C≡N)はアミン官能基に置換され、PMMA表面のカルボニル基(-C=O)は加水分解してヒドロキシル基(-OH)に変換される。
【0040】
繊維状高分子と反応するアミン化合物としては、PANのニトリル基と結合して配位子の役割を果たすことができる物質のうち、アルキル基を有する1級又はそれ以上のアミン化合物を用いてよく、一実施例として、エチレンジアミン(ethylenediamine、EDA)、ジエチレントリアミン(diethylenetriamine、DETA)、トリス(2-アミノエチルアミン(tris(2-aminoethyl)amine)、プロパン-1,3-ジアミン(propane-1,3-diamine)、メタントリアミン(methane triamine)、3-(2-アミノエチル)プロパン-1,5-ジアミン(3-(2-aminoethyl)pentane-1,5-diamine)、メラミン(melamine)、ジアミノフラザン(diaminofurazan)、ジアミノピリジン(diaminopyridine)及びジアミノピリミジン(diaminopyrimidine)のいずれか又はこれらの組み合わせを用いてよい。
【0041】
より好ましくは、ポダンド(podand)構造を有するアミン化合物を用いてよい。ポダンド構造のアミン化合物は線形構造をなすことによって、単位官能基の個数が少なくて効率的であり且つPAN表面に高密度での導入が容易である。このため、ポダンド構造のアミン化合物を用いる場合、繊維状高分子の単位面積当たりの重金属吸着能を向上させることができる。ポダンド構造を有するアミン化合物の一例として、本明細書ではジエチレントリアミン(diethylenetriamine、DETA)を例示したが、これに限定されるものではない。
【0042】
ポダンド構造を有するアミン化合物であるジエチレントリアミン(DETA)をPANとPMMAとからなる繊維状高分子と反応させる場合、図1に示すように、PAN表面のニトリル基(-C≡N)はアミン官能基のポリアミドジエチレンジアミン(poly(amido diethylene diamene)、-NH-NH-NH)に置換され、PMMA表面のカルボニル基(-C=O)はヒドロキシル基(-OH)に変換される。
【0043】
本発明の一実施例に係る自己再生可能な重金属吸着繊維の製造方法を説明すれば、次のとおりである。
【0044】
先ず、PAN高分子とPMMA高分子とが混合し、溶解されたPAN-PMMA混合溶液を準備する。PAN-PMMA混合溶液は、PAN高分子とPMMA高分子とを一定の割合で混合して溶媒に溶解させて製造することができる。
【0045】
PMMA表面のカルボニル基(-C=O)は後述するアミン化合物との反応によってヒドロキシル基(-OH)に変換され、変換されたPMMA表面のヒドロキシル基(-OH)は周囲のPAN表面のアミン官能基に吸着して成長した重金属結晶を脱着させる役割をするところ、PMMAは必須的に混合される必要がある、PMMAの混合割合が一定水準以上になると、アミン官能基の重金属吸着性能を低下させる要因として作用する。後述する実験結果を参照すると、PMMAは、PANとPMMAとが混合された重量に対して7wt%以下で混合されることが好ましい。PMMAの混合割合が7wt%に達するまでは重金属吸着率が増加する傾向を示すのに対し、PMMAの混合割合が10wt%の場合には、重金属の吸着率が急減する結果を示した。
【0046】
PAN-PMMA混合溶液の溶媒としては、ジエチルエーテル(diethyl ether)、ジイソプロピルエーテル(diisopropyl ether)、ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide)、アセトニトリル(acetonitrile)のいずれかを用いてよい。
【0047】
PAN-PMMA混合溶液を製造するにあたって、PANとPMMAの全重量は溶媒に対して5~15重量部の範囲で投入してよいが、これに限定されるものではない。
【0048】
PAN-PMMA混合溶液が準備された状態で、PAN-PMMA混合溶液を湿式紡糸又は乾式紡糸してPANとPMMAとからなる繊維状高分子を製造する。湿式紡糸を用いる場合、固形化溶液、例えば、エタノール水溶液にPAN-PMMA混合溶液を紡糸して繊維状高分子を製造することができる。また、湿式紡糸又は乾式紡糸を行うにあたって、PAN-PMMA混合溶液の紡糸速度を調節することで繊維状高分子の直径を制御することができ、繊維状高分子の直径も重金属吸着性能及び脱着性能に影響を及ぼすところ、最適範囲に調節される必要がある。後述する実験結果を参照すると、繊維状高分子の直径が小さいほど重金属吸着性能に優れ、反面、繊維状高分子の直径が1.5mm超になると、重金属吸着性能が低下する特性を示した。
【0049】
PANとPMMAとが一定割合で混合されて繊維状高分子をなすことによって、繊維状高分子の表面について定義すれば、PANマトリックス(matrix)にPMMAが一定割合で混在された形をなすといえる。
【0050】
PAN-PMMA混合溶液の紡糸によってPANとPMMAとからなる繊維状高分子が製造された状態で、繊維状高分子とアミン化合物とを反応させて、本発明に係る自己再生可能な重金属吸着繊維を製造する。
【0051】
繊維状高分子とアミン化合物との反応によって繊維状高分子のPAN表面にはアミン官能基が固定化し、繊維状高分子のPMMA表面にはヒドロキシル基(-OH)が固定化する。具体的に、繊維状高分子とアミン化合物との反応によって、PAN表面のニトリル基(-C≡N)はアミン官能基に置換され、PMMA表面のカルボニル基(-C=O)は加水分解によってヒドロキシル基(-OH)に変換される。前記アミン官能基は重金属に対する吸着能のある官能基であって、アミン基(-NH)を含む多様な官能基を包括する意味である。一例において、アミン化合物としてジエチレントリアミン(DETA)を用いる場合には、PAN表面のニトリル基(-C≡N)はポリアミドジエチレンジアミン(-NH-NH-NH)に置換される。
【0052】
前記アミン化合物としては、1級又はそれ以上のアミン化合物を用いてよく、一実施例として、エチレンジアミン(ethylenediamine、EDA)、ジエチレントリアミン(diethylenetriamine、DETA)、トリス(2-アミノエチルアミン(tris(2-aminoethyl)amine)、プロパン-1,3-ジアミン(propane-1,3-diamine)、メタントリアミン(methane triamine)、3-(2-アミノエチル)プロパン-1,5-ジアミン(3-(2-aminoethyl)pentane-1,5-diamine)、メラミン(melamine)、ジアミノフラザン(diaminofurazan)、ジアミノピリジン(diaminopyridine)及びジアミノピリミジン(diaminopyrimidine)のいずれか又はこれらの組み合わせを用いてよい。
【0053】
また、線形構造をなすポダンド(podand)構造のアミン化合物を用いることが最も好ましく、その理由は、ポダンド構造のアミン化合物は単位官能基の個数が少なくて効率的であり且つPAN表面に高密度での導入が容易であるため、繊維状高分子の単位面積当たりの重金属吸着能を向上させることができるからである。ポダンド構造を有するアミン化合物の一例として、ジエチレントリアミン(diethylenetriamine、DETA)を用いてよいが、これに限定されるものではない。
【0054】
繊維状高分子とアミン化合物との反応の際、アミン官能基の置換効率及びヒドロキシル基(-OH)の生成効率を向上させるために、非金属系ルイス酸触媒又は金属系ルイス酸触媒を添加してよい。非金属系ルイス酸触媒としては、BF・2HOを用いてよく、金属系ルイス酸触媒としては、AlCl・6HOを用いてよい。
【0055】
このように、繊維状高分子とアミン化合物との反応によってPANにアミン官能基が固定化し、PMMA表面にヒドロキシル基(-OH)が固定化した、いわゆる、自己再生可能な重金属吸着繊維が製造され、先述したように繊維状高分子の表面がPANマトリックスにPMMAが一定割合で混合された形をなすことによって、PANのアミン官能基に吸着した重金属結晶のアミン官能基との結合力はPMMAのヒドロキシル基(-OH)の影響を受けざるを得ない。周知のように、ヒドロキシル基(-OH)は重金属吸着能がほとんどないことから、PANのアミン官能基に吸着して成長した重金属結晶が一定の大きさ以上に大きくなると、ヒドロキシル基(-OH)によってPANマトリックスとの結合力が弱まって繊維状高分子の表面から自然に脱着するしかない。このような原理によって、アミン官能基による重金属の吸着だけでなく、ヒドロキシル基(-OH)による重金属の脱着が可能になる。
【0056】
アミン官能基が固定化したPANとヒドロキシル基(-OH)が固定化したPMMAとからなる本発明に係る自己再生可能な重金属吸着繊維は、PANに備えられたアミン官能基によって重金属を吸着し、PMMAに備えられたヒドロキシル基(-OH)によって吸着し成長した重金属結晶を脱着させる原理を満たすという前提下、次のように物質構成が拡張され得る。
【0057】
すなわち、自己再生可能な重金属吸着繊維を、重金属吸着官能基を備えた第1高分子物質と重金属結晶脱着官能基を備えた第2高分子物質とから構成してよい。このとき、第1高分子物質に備えられた重金属吸着官能基は、上述した実施例と同様にアミン官能基であり、第2高分子物質に備えられた重金属結晶脱着官能基は、ヒドロキシル基(-OH)の他にメチル基、カルボニル基、カルボキシル基、ホスフェート基のいずれかである。前記例示された重金属吸着官能基の他、水中の重金属イオンに対する吸着能のない官能基も重金属吸着官能基として適用可能である。
【0058】
さらに、アミン官能基を備えた第1高分子物質は、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリアリーレンアミン、ポリグリシジルメタクリレート、ポリアクリロニトリルのいずれかを用いてよく、重金属結晶脱着官能基を備えた第2高分子物質は、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、SBSゴム、ポリアミド、天然高分子、初期合成高分子、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリエステル、フェノール樹脂のいずれかを用いてよい。ここで、第1高分子物質としては、前記例示された物質の他、アミン官能基を化学的に固定化することができる物質を適用してよく、第2高分子物質としては、ヒドロキシル基(-OH)、メチル基、カルボニル基、カルボキシル基、ホスフェート基のいずれかを固定化することができる物質又は水中の重金属イオンに対する吸着能のない官能基を固定化することができる物質を適用してよい。
【0059】
このように物質構成を拡張するにあたって、上述したPANとPMMA基盤の実施例と同様に、前記第1高分子物質と第2高分子物質との混合溶液を紡糸して第1高分子物質と第2高分子物質とからなる繊維状高分子を製造し、当該繊維状高分子とアミン化合物とを反応させると、第1高分子物質にアミン官能基を固定化するとともに、第2高分子物質に重金属結晶脱着官能基を固定化することができるようになる。このとき、加水分解によって生成されるヒドロキシル基(-OH)とは異なり、メチル基、カルボニル基、カルボキシル基、ホスフェート基などは第2高分子物質自体に存在する官能基として繊維状高分子とアミン化合物との反応の際に別途の加水分解過程なしに第2高分子物質の表面に固定化した形で存在する。
【0060】
このような構成の下、第1高分子物質と第2高分子物質とからなる自己再生可能な重金属吸着繊維において、第1高分子物質は、表面に備えられたアミン官能基によって水中の重金属イオンを吸着して結晶形態で成長させ、第2高分子物質に備えられた重金属結晶脱着官能基のメチル基、カルボニル基、カルボキシル基、ホスフェート基のいずれかは、アミン官能基に吸着し成長した重金属結晶を脱着させる役割をする。アミン官能基が備えられた第1高分子物質と重金属結晶脱着官能基が備えられた第2高分子物質は、それぞれ上述した実施例のアミン官能基が備えられたPAN、ヒドロキシル基(-OH)が備えられたPMMAとその機能が同一である。
【実施例
【0061】
以上、本発明の一実施例に係る自己再生可能な重金属吸着繊維及びその製造方法について説明した。以下では、実験例を通じて本発明をより具体的に説明することにする。
【0062】
<実験例1:自己再生可能な重金属吸着繊維の製造>
総重量10gを満たす条件の下、PMMAの重量を0g(SRF0)、1g(SRF1)、3g(SRF3)、5g(SRF5)、7g(SRF7)、10g(SRF10)と異にしてPANと混合し、これらのそれぞれをDMF溶液90gに溶解させた。次いで、PANとPMMAとが溶解されたDMF溶液をエタノール水溶液に紡糸した後、常温で1時間放置してから水洗して繊維状高分子を得た。
製造されたそれぞれの繊維状高分子15gを100gのジエチレントリアミン(DETA)に注入した状態で加熱して120℃の温度で、1.5gのAlCl・6HOを添加した。その後1時間放置してから水洗して自己再生可能な重金属吸着繊維のそれぞれ(SRF0、SRF1、SRF3、SRF5、SRF7、SRF10)を製造した。参考までに、「SRF」は、自己再生繊維(self-regenerable fiber)の意味で命名したものである。
【0063】
<実験例2:自己再生可能な重金属吸着繊維の特性>
実験例1によって製造された、PMMAが7wt%混合された自己再生可能な重金属吸着繊維(SRF7)に対してFT-IR分析を実施した結果(図3参照)、PANの主官能基であるニトリル基(-C≡N)(2240cm-1)がアミン改質によって無くなり、導入されたジエチレントリアミン官能基に該当するピーク(3346、1590、1573、1485cm-1)が示されることによって、表面改質が成功的に進行したことを確認することができる。また、約1750cm-1でのPMMAのC=Oグループに係るピークは、反応後は3300cm-1でピークが示されることから-OH官能基に置換されたことが分かる。
実験例1によって製造されたSRF0、SRF1、SRF3、SRF5、SRF7、SRF10のそれぞれを銅(Cu)が溶解された水溶液に投入して10日間観察した結果(図4参照)、SRF0を除く全ての吸着繊維が経時的に銅吸着量(qt)が増加する傾向を示し、中でもSRF7(PMMA 7wt%)が最も優れた吸着能を示した。一方、PMMAが混合されていないSRF0の場合、時間が経過しても銅吸着量の増加が僅かであり、このような図5のSEM写真からも確認できる。
【0064】
実験例1を通じて、SRF7を製造するにあたって繊維状高分子の直径を0.045(SRF7/45)、0.240(SRF7/240)、0.40(SRF7/450)、0.870(SRF7/870)、1.310(SRF7/1310)、1.500(SRF7/1500)mmと異にして製造し、これらのそれぞれの経時的な銅イオン除去特性を調べた。図6に示すように、繊維状高分子の直径が小さいほど経時的な銅吸着量が増加する傾向を示し、直径が最も大きい1.5mmであるSRF7/1500の場合、時間が経過しても銅吸着量の変化がほとんどなかった。このような結果は、相対的に直径が小さい繊維状高分子は、吸着された銅結晶の脱着が持続的に進行して一定水準以上の銅吸着性能を発現するのに対し、直径が大きい繊維状高分子は、銅結晶の脱着が進行されず、一定量の銅イオン吸着されると、それ以上銅イオンに対する吸着能を持っていないことを意味する。これは図7の結果から確認できる。図7は、図6の実験で10日が経過したそれぞれの吸着繊維に対する写真であって、直径が最も大きいSRF7/1500(図5(f))の場合、銅結晶が吸着繊維の表面にほとんどそのまま存在するのに対し、繊維状高分子の直径が小さくなるほど銅結晶が繊維状高分子の表面から剥離された形態を確認することができる。図7中の(a)はSRF7/45、(b)はSRF7/240、(c)はSRF7/450、(d)はSRF7/870、(e)はSRF7/1310、(f)はSRF7/1500に対するSEM写真である。
【0065】
吸着された銅結晶が脱着し、脱着した位置で新しい銅結晶が成長することは、SRF7/45に対するSEM及びEDS分析結果から確認できる(図8)。SRF7/45の銅結晶が脱着した位置に対するEDS分析の結果、銅結晶が存在することを確認することができる。
【0066】
一方、SRF7/45の表面に成長した結晶に対するXRD分析を実施した結果、銅イオンが水中のアニオンと結合して成長した結晶であることを確認し(図9参照)、銅イオンが銅結晶に成長し脱着する過程において特定時点毎にSEM分析及び目視分析を実施した結果、銅結晶が吸着繊維表面から脱着して反応槽の底に沈澱されることを確認することができた(図10参照)。
【0067】
実験例1によって製造された吸着繊維(SRF0、SRF1、SRF3、SRF5、SRF7、SRF10)を用いた経時的なニッケルイオン除去特性を調べた。その結果、図11aに示すようにニッケルイオンに対してもSRF7が最も優れた吸着性能を示した。また、直径が異なる他のSRF7/45、SRF7/240、SRF7/450、SRF7/870、SRF7/1310、SRF7/1500を用いたニッケルイオン除去実験(図11b参照)でも銅イオン除去実験と類似した傾向を示すことを確認した。
【0068】
実験例1によって製造された繊維状SRF7とマイクロメーターサイズの粒子状SRF7とを別々のコラムに同じ重量で充填した状態で流速別の圧力降下特性を調べた。図12に示すように粒子状SRF7で充填されたコラムに比べて、繊維状SRF7で充填されたコラムの圧力降下が顕著に小さいことを確認することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11a
図11b
図12