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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】消音器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 1/24 20060101AFI20240322BHJP
   F01N 13/18 20100101ALI20240322BHJP
【FI】
F01N1/24 F
F01N13/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023543349
(86)(22)【出願日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2023011958
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2023002832
(32)【優先日】2023-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 徹
(72)【発明者】
【氏名】堀 慎治
(72)【発明者】
【氏名】立木 道雄
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-233862(JP,A)
【文献】国際公開第2009/058981(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 1/24
F01N 13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のシェルの内部において吸音材が充填された少なくとも1つの区画を備える消音器の製造方法であって、
前記シェルとは異なる筒状のダミーシェルを用意し、前記消音器の内装部材を前記ダミーシェルの内部に保持する工程である保持工程と、
前記ダミーシェルの端部及び/又は側面にある開口である充填口から前記区画の内部にノズルを挿入し、前記ダミーシェルの前記充填口とは反対側の端部及び/又は前記側面にある前記充填口とは異なる開口である排気口を介して前記区画の内部の空気を排出しつつ、前記吸音材を構成する連続長繊維を前記ノズルから前記区画の内部に充填して、前記吸音材の塊を形成する工程である充填工程と、
前記ダミーシェルの内周面と前記シェルの内周面とを連続的に接続する内周面を有する筒状の治具である挿入治具の一方の端部を前記吸音材の充填後の前記ダミーシェルの端部に接続し、前記挿入治具の他方の端部を前記シェルの端部に接続して、前記挿入治具の内部空間を介して前記ダミーシェルの内部空間と前記シェルの内部空間とを連通させる工程である連通工程と、
前記ダミーシェルの内部にある前記内装部材及び前記吸音材の塊を前記挿入治具の内部空間を通して前記シェルの内部へと移設する工程である移設工程と、
前記内装部材が移設された前記シェルから前記ダミーシェル及び前記挿入治具を取り外し、前記シェルの端部を閉塞する工程である閉塞工程と、
を含む、消音器の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された消音器の製造方法であって、
前記ダミーシェルの前記内周面の断面が前記シェルの前記内周面の断面よりも大きく、
前記挿入治具が前記ダミーシェルの前記内周面の前記断面から前記シェルの前記内周面の前記断面へと連続的に小さくなるテーパ状の内周面を有しており、
前記連通工程において、前記挿入治具の内周面の断面が大きい側の端部を前記ダミーシェルの端部に接続し、前記挿入治具の内周面の断面が小さい側の端部を前記シェルの端部に接続する、
消音器の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された消音器の製造方法であって、
前記内装部材が、相互に固定された複数本のパイプ及び複数枚の隔壁によって構成されており、
前記シェルの内部空間が、前記内装部材によって複数の区画に仕切られている、
消音器の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項2に記載された消音器の製造方法であって、
前記内装部材が、複数の貫通孔が側面に穿設されたパンチングパイプ及び前記パンチングパイプの外周面の少なくとも前記貫通孔が穿設された領域に巻回された金属繊維によって構成されており、
前記充填工程よりも前に、滑らかな外周面を有する筒状の部材であるカバーパイプを前記内装部材に外装する工程であるカバー装着工程と、
前記充填工程よりも後であり且つ前記閉塞工程以前に、前記カバーパイプを取り外す工程であるカバー除去工程と、
を更に含み、
前記充填工程において、前記ダミーシェルと前記カバーパイプとの間の空間である充填区画の軸方向における一方の端部から前記充填区画の内部に前記ノズルを挿入し、前記充填区画の他方の端部から前記充填区画の内部の空気を排出しつつ、前記吸音材を構成する連続長繊維を前記ノズルから前記充填区画の内部に充填する、
消音器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消音器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関等の原動機において使用される消音器(マフラ)の内部には例えばグラスウール等の耐熱性繊維の積層体である吸音材が充填されることが多い。昨今では充填作業の短時間化及び容易化を目的として、連続長繊維が束ねられてテープ状となった吸音材をノズルにおいて解繊しつつ高圧空気によって消音器の外筒(シェル)の内部へと吹き込んでシェルの内部空間の全体又はシェルの内部に設けられた所定の区画に充填する、所謂「ロービング工法」が多用されている。
【0003】
上記吹き込みにおいては、吸音材を確実に充填するためにシェル内部の空気を強制的に排出(吸引)しつつ吸音材を吹き込む方法(直接充填法)が採用されることが一般的である。消音性能の確保及び維持の観点からは、シェル内部における所定の領域に所定の密度にて吸音材が均一に充填されることが望ましい。しかしながら、消音器の内部構造(例えば、区画のレイアウト及び/又は複数の貫通孔が側面に穿設されたパイプ(パンチングパイプ)における孔の配置等)によっては、充填時における吸引空気の流れに偏りが生じて吸音材の充填密度を均一にすることが困難となる場合がある。
【0004】
また、例えばサブマフラ等、パンチングパイプがシェルの内部に挿入された構造を有する消音器に吸音材を充填する際には、例えばステンレスウール等の金属繊維をパンチングパイプに巻き付けて固定した状態において充填を開始する。この場合、パンチングパイプとシェルとの間の空間に流入してきた吸音材が金属繊維に引っ掛かり、吸音材の均一な充填が阻害される場合がある。
【0005】
そこで、特許文献1(特開2007-16764)には、金属繊維錯綜体の外側にカバーパイプを配してパンチングパイプの孔を介する吸引ルートを閉塞し且つシェルの底部から吸引する、消音器への吸音材の充填方法が開示されている。当該方法によれば、パンチングパイプとシェルとの間の空間における吸引空気の流れが均一となり、吸音材を均一に堆積・充填させることができる(特に、特許文献1の図6及び図7に示されている第2の実施例を参照)。
【0006】
しかしながら、昨今ではマフラの断面が扁平化及び/又は狭小化される傾向が強まっており、パンチングパイプとシェルとの間の空間に吸音材を吹き込むためのノズルを挿入することが困難になってきている。このような断面を有するマフラには上記充填方法を適用することができない。
【0007】
一方、吸音材を構成する繊維の塊であるプリフォームを吸音材が充填されるべき区画(以降、「吸音室」と称呼される場合がある。)の形状に合わせて予め形成しておき当該プリフォームを吸音室に挿入する、所謂「プリフォーム方式」による吸音材の充填方法が特許文献2(実開平2-50008号公報)及び特許文献3(特開2010-513774号公報}に開示されている。
【0008】
しかしながら、上記方法においては、例えば樹脂又は水等のバインダを硬化させることによって吸音材を構成する繊維を結合させてプリフォームを予め形成しておく必要があるので、このための特別な工程(作業)及び/又は装置が必要である。また、吸音室となる所定の位置にプリフォームを収めて半割シェルを閉じて固定する際に半割シェル同士の接合面の間に吸音材の繊維が噛み込まれる問題が発生し易い。更に、プリフォームからバインダを排除しない限り吸音材としての本来の機能を発揮することができず、プリフォームからバインダが排除されても吸音材を構成する繊維の積層体として望ましい密度まで復元する可能性が低いため、所期の消音性能の達成及び/又は維持が困難である。
【0009】
上記に加えて、サブマフラのように区画を1つだけ備える構造(1室構造)ではなくメインマフラのように複数の区画を備える構造(多室構造)を有する消音器においては、複数の区画のうちの吸音室にのみ吸音材を充填したいというニーズがある。しかしながら、昨今では吸音室の複数化及びシェルの断面の異形化(特に扁平楕円化)が求められており、ロービング工法の適用が一層困難となってきている。
【0010】
かといって、ロービング工法を用いない場合は、吸音材を構成する繊維を吸音室に手で詰め込んだり吸音材を構成する繊維が詰め込まれた布パックを吸音室に手で挿入したりという非常に手間がかかる困難な手作業が必要となるので、なるべくロービング工法を使用したいというニーズがある。即ち、当該技術分野においては、異形断面を有するシェル及び/又は複数の吸音室を備える消音器にも適用することができるロービング工法が待たれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2007-16764号公報
【文献】実開平2-50008号公報
【文献】特表2010-513774号公報
【文献】特開2022-30975号公報
【文献】特許第7001893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述したように、当該技術分野においては、異形断面を有するシェル及び/又は複数の吸音室を備える消音器にも適用することができるロービング工法が待たれていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、消音器のシェルとは別個のダミーシェルの内部に消音器の内装部材を保持しダミーシェルの端部及び/又は側面に設けられた充填口から吸音室となる区画に吸音材を充填した後に内装部材及び吸音材をダミーシェルからシェルに移設することにより上記課題を解決することができることを見出した。
【0014】
具体的には、本発明に係る消音器の製造方法(以降、「本発明方法」と称呼される場合がある。)は、筒状のシェルの内部において吸音材が充填された少なくとも1つの区画を備える消音器の製造方法である。本発明方法は、以下に列挙する保持工程、充填工程、連通工程、移設工程及び閉塞工程を含む。
【0015】
保持工程は、シェルとは異なる筒状のダミーシェルを用意し、消音器の内装部材をダミーシェルの内部に保持する工程である。
【0016】
充填工程は、ダミーシェルの端部及び/又は側面にある開口である充填口から吸音材を充填すべき区画の内部にノズルを挿入し、ダミーシェルの充填口とは反対側の端部及び/又は側面にある充填口とは異なる開口である排気口を介して当該区画の内部の空気を排出しつつ、吸音材を構成する連続長繊維をノズルから当該区画の内部に充填して、吸音材の塊を形成する工程である。
【0017】
連通工程は、ダミーシェルの内周面とシェルの内周面とを連続的に接続する内周面を有する筒状の治具である挿入治具の一方の端部を吸音材の充填後のダミーシェルの端部に接続し、挿入治具の他方の端部をシェルの端部に接続して、挿入治具の内部空間を介してダミーシェルの内部空間とシェルの内部空間とを連通させる工程である。
【0018】
移設工程は、ダミーシェルの内部にある内装部材及び吸音材の塊を挿入治具の内部空間を通してシェルの内部へと移設する工程である。
【0019】
閉塞工程は、内装部材が移設されたシェルからダミーシェル及び挿入治具を取り外し、シェルの端部を閉塞する工程である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、異形断面を有するシェル及び/又は複数の吸音室を備える消音器についてもロービング工法を適用して吸音材を吸音室に効率的に充填することができる。
【0021】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態に係る消音器の製造方法(第1方法)に含まれる各工程の流れの一例を示すフローチャートである。
図2】第1方法が適用される消音器の構成部材並びに第1方法を実行するための機材及び治具の一例を示す模式図である。
図3図4と共に相互に固定された複数本のパイプ及び複数枚の隔壁によって構成された内装部材によってシェルの内部空間が複数の区画に仕切られた構造を有する消音器を第1方法によって製造する過程の1つの例を示す模式的な斜視図である。
図4図3と共に相互に固定された複数本のパイプ及び複数枚の隔壁によって構成された内装部材によってシェルの内部空間が複数の区画に仕切られた構造を有する消音器を第1方法によって製造する過程の1つの例を示す模式的な斜視図である。
図5】具体例1に係る第1方法に含まれる充填工程の実行時における消音器の構成部材並びに具体例1に係る第1方法を実行するための機材及び治具の配置の一例を示す模式図である。
図6】相互に固定された複数本のパイプ及び複数枚の隔壁によって構成された内装部材によってシェルの内部空間が複数の区画に仕切られた構造及び扁平な楕円形の断面を有する消音器を第1方法によって製造する過程のもう1つの例を示す模式的な斜視図である。
図7】具体例2に係る第1方法に含まれる充填工程の実行時における消音器の構成部材並びに具体例2に係る第1方法を実行するための機材及び治具の配置の一例を示す模式図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る消音器の製造方法(第2方法)に含まれる連通工程において挿入治具を間に挟んでダミーシェルとシェルとが接続された状態の一例を示す模式的な断面図である。
図9図10と共に複数の貫通孔が側面に穿設されたパンチングパイプ及び当該パンチングパイプの外周面の少なくとも貫通孔が穿設された領域に巻回された金属繊維によって内装部材が構成された消音器を本発明の第4実施形態に係る消音器の製造方法(第4方法)によって製造する過程の1つの例を示す模式的な断面図である。
図10図9と共に複数の貫通孔が側面に穿設されたパンチングパイプ及び当該パンチングパイプの外周面の少なくとも貫通孔が穿設された領域に巻回された金属繊維によって内装部材が構成された消音器を第4方法によって製造する過程の1つの例を示す模式的な断面図である。
図11】排気の流入口及び流出口が消音器の軸方向における両端に設けられている標準的な構成を有する実施例1に係る消音器の構成の一例を示す模式図である。
図12】インレットパイプがシェルの外側面に接続され排気の流出口は消音器の軸方向における一端に設けられる構成を有する実施例2に係る消音器の構成の一例を示す模式図である。
図13】ステーを備えるインレットパイプがシェルの外側面に接続され排気の流出口は消音器の軸方向における一端に設けられる構成を有する実施例3に係る消音器の構成の一例を示す模式図である。
図14】インレットパイプがシェルの外側面及びシェルの内部に設けられたステーに接続され排気の流出口は消音器の軸方向における一端に設けられる構成を有する実施例4に係る消音器の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
《第1実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第1実施形態に係る消音器の製造方法(以降、「第1方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0024】
〈構成〉
第1方法は、筒状のシェルの内部において吸音材が充填された少なくとも1つの区画を備える消音器の製造方法である。第1方法が適用される消音器の構成は、吸音材が充填された区画を少なくとも1つ備える限り、特に限定されない。吸音材が充填された区画である吸音室は、基本的に排気が流通しない共鳴室に吸音材が充填された区画であってもよく、排気が流通し拡張機能も更に備える共鳴室に吸音材が充填された区画であってもよい。第1方法が適用される消音器の具体例としては、例えば、相互に固定された複数本のパイプ及び複数枚の隔壁によって構成された内装部材によってシェルの内部空間が複数の区画に仕切られた構造を有する消音器(例えば、四輪車用メインマフラ等)及びパンチングパイプがシェルの内部に挿入された構造を有する消音器(例えば、四輪車用サブマフラ及び二輪車用サイレンサ等)等を挙げることができる。
【0025】
図1は、第1方法に含まれる各工程の流れの一例を示すフローチャートである。図2は、第1方法が適用される消音器の構成部材並びに第1方法を実行するための機材及び治具の一例を示す模式図である。図2の(a)は消音器の軸方向から消音器を観察した状態を、図2の(b)は消音器の軸方向に垂直な方向から消音器を観察した状態を、それぞれ示している。尚、図2においてはシェル、挿入治具及びダミーシェルが接続された状態が描かれているが、各工程における各々の部材、機材及び治具の配置については以下の説明を参照されたい。
【0026】
図1に例示するように、第1方法は、以下に列挙する保持工程、充填工程、連通工程、移設工程及び閉塞工程を含む。
【0027】
図1に例示するフローチャートのステップS10において実行される保持工程は、消音器を構成するシェル110とは異なる筒状のダミーシェル210を用意し、消音器の内装部材120をダミーシェル210の内部に保持する工程である。
【0028】
消音器の内装部材120の具体例としては、内装部材によってシェルの内部空間が複数の区画に仕切られた構造を有する消音器の場合は、相互に固定された複数本のパイプ(例えば、インレットパイプ、アウトレットパイプ及び/又はインナパイプ等)及び複数枚の隔壁(例えば、セパレータ等)によって構成された内装部材を挙げることができる。一方、パンチングパイプがシェルの内部に挿入された構造を有する消音器の場合は、複数の貫通孔が側面に穿設されたパンチングパイプ及び当該パンチングパイプの外周面の少なくとも貫通孔が穿設された領域に巻回された金属繊維によって構成された内装部材を挙げることができる。
【0029】
ステップS20において実行される充填工程は、ダミーシェル210の端部及び/又は側面にある開口である充填口211から吸音材を充填すべき区画の内部にノズル220を挿入し、ダミーシェル210の充填口211とは反対側の端部及び/又は側面にある充填口211とは異なる開口である排気口(図示せず)を介して当該区画の内部の空気を排出しつつ、吸音材を構成する連続長繊維をノズル220から当該区画の内部に充填して、吸音材の塊を形成する工程である。
【0030】
吸音材を構成する連続長繊維としては、消音器としての使用環境に耐え得る高い耐熱性と高い吸音性能とを兼ね備えた材料からなる繊維が採用される。このような繊維の具体例としては、例えばグラスウールロービング等を挙げることができる。
【0031】
図2に示す例においては、相互に固定された3本のパイプ及び4枚の隔壁によって内装部材120が構成されており、これら4枚の隔壁により消音器の内部空間が5つの区画に分けられ、そのうちの2つの区画に吸音材が充填されて吸音室となる。従って、ダミーシェル210の側面のこれら2つの吸音室に対応する位置に充填口211がそれぞれ設けられ、2つの充填口211から吸音材を充填すべき2つの区画の内部に2つのノズル220をそれぞれ挿入して、吸音材を構成する連続長繊維をノズル220から当該区画の内部に充填することができる。また、2つの充填口211とは反対側の側面には排気口(図示せず)がそれぞれ設けられている。また、排気口には吸引装置230がそれぞれ接続されており、吸引装置230により対応する区画の内部の空気を排出する(白抜きの矢印を参照)ことにより、当該区画に吸音材を均等に充填することができる。
【0032】
上記のように、ダミーシェル210の側面に充填口211が設けられているので、内装部材120がシェル110の内部に保持されている状態では吸音材を充填することが不可能な区画にも、充填口211にノズル220を挿入して吸音材を構成する連続長繊維を容易に充填することができる。
【0033】
尚、充填工程における吸音材の充填状況を視覚的に確認することを目的として、例えば、ダミーシェル210の一部に透明な部分を設けてもよい。或いは、ダミーシェル210の全体を透明な材料によって構成してもよい。このような透明な部分又は透明なダミーシェル210を構成する材料の具体例としては、例えばポリカーボネート等の樹脂材料等を挙げることができる。
【0034】
ステップS30において実行される連通工程は、ダミーシェル210の内周面とシェル110の内周面とを連続的に接続する内周面を有する筒状の治具である挿入治具240の一方の端部を吸音材の充填後のダミーシェル210の端部に接続し、挿入治具240の他方の端部をシェル110の端部に接続して、挿入治具240の内部空間を介してダミーシェル210の内部空間とシェル110の内部空間とを連通させる工程である。
【0035】
上述したように、図2においては、シェル110、挿入治具240及びダミーシェル210が接続された状態が描かれている。図示しないが、挿入治具240の内周面はダミーシェル210の内周面とシェル110の内周面とを連続的に接続する形状を有しており、このようにシェル110、挿入治具240及びダミーシェル210が接続された状態において、挿入治具240の内部空間を介してダミーシェル210の内部空間とシェル110の内部空間とが連通している。
【0036】
ステップS40において実行される移設工程は、ダミーシェル210の内部にある内装部材120及び吸音材の塊を挿入治具240の内部空間を通してシェル110の内部へと移設する工程である。図2の(b)においては、図面に向かって左側にあるダミーシェル210の内部に内装部材120が保持されている。この内装部材120が、上述したステップS20において実行される充填工程により充填された吸音材と共に、図面に向かって右側にあるシェル110の内部へと移設される。
【0037】
ステップS50において実行される閉塞工程は、内装部材120が移設されたシェル110からダミーシェル210及び挿入治具240を取り外し、シェル110の端部を閉塞する工程である。シェル110の端部を閉塞するための手法の具体例としては、例えば、シェル110の端部への閉塞端板(エンドプレート)の取り付け及びシェル110の端部のスピニング加工によるテーパ部の形成等を挙げることができる。
【0038】
尚、第1方法に含まれる各工程の順序は、本発明の実施において支障が無く且つ本発明によって達成される効果が損なわれない限り、上記に限定されない。例えば、挿入治具の内部空間を介してダミーシェルの内部空間とシェルの内部空間とを連通させる連通工程を、充填工程の前又は保持工程の前に実行してもよい。
【0039】
〈具体例1〉
ここで、第1方法の詳細につき、1つの具体例を挙げて説明する。図3の(a)及び(b)並びに図4の(c)、(d)及び(e)は、相互に固定された複数本のパイプ及び複数枚の隔壁によって構成された内装部材によってシェルの内部空間が複数の区画に仕切られた構造及び扁平な楕円形の断面を有する消音器を第1方法によって製造する過程の1つの例を示す模式的な斜視図である。
【0040】
尚、図3の(a)及び(b)並びに図4の(c)においては、本発明の理解を容易にすることを目的として、ダミーシェル210又はシェル110の内部に保持されて外部からは見えない筈の内装部材120が実線によって描かれている。一方、図4の(d)及び(e)においては、シェル110の内部に保持されて外部からは見えない内装部材120が破線によって描かれている。
【0041】
また、図3の(a)及び(b)並びに図4の(c)においては、上述した連通工程において接続される挿入治具240も実線によって描かれている。更に、図3の(a)及び(b)においてはシェル110が破線によって描かれており、図4においてはシェル110が実線によって描かれている。但し、前述したように、図3の(a)に描かれている状態において必ずしも挿入治具240及びシェル110がダミーシェル210に接続されている必要は無く、各工程における各々の部材、機材及び治具の配置は上述した説明の通りである。
【0042】
図3の(a)においては、相互に固定された3本のパイプ及び4枚の隔壁によって構成された内装部材120がダミーシェル210の内部に保持されている。ダミーシェル210の側面には、4枚の隔壁によって仕切られる5つの区画のうちの吸音室となるべき2つの区画の各々に連通するように2つの充填口211がそれぞれ設けられている。即ち、図3の(a)に例示する状態は、上述した保持工程が既に完了しており、各々の充填口211にノズル220を挿入して吸音材を構成する連続長繊維を各々の区画の内部に充填する充填工程を開始しようとしている状態である。
【0043】
次に、図3の(a)に例示した状態において吸音室となるべき区画への吸音材の充填工程を実行する。具体的には、ダミーシェル210の側面に設けられた充填口211とは反対側の側面にある排気口212(図3の(b)に示す)を介して吸引装置230によって当該区画の内部の空気を排出しつつ、吸音材を構成する連続長繊維をノズル220から当該区画の内部に充填する。
【0044】
図5は、具体例1に係る第1方法に含まれる充填工程の実行時における消音器の構成部材並びに具体例1に係る第1方法を実行するための機材及び治具の配置の一例を示す模式図である。図5の(a)は消音器を構成するシェル110の楕円形の断面の短軸方向から観察した状態を、図5の(b)は図5の(a)に示す直線A-Aを含みシェル110の楕円形の断面の短軸に平行な平面による断面をシェル110の楕円形の断面の長軸方向から観察した状態を、それぞれ示している。尚、図5においてもシェル110、挿入治具240及びダミーシェル210が接続された状態が描かれているが、各工程における各々の部材、機材及び治具の配置については上述した通りである。
【0045】
図5から明らかであるように、ダミーシェル210の側面に充填口211が設けられているので、内装部材120がシェル110の内部に保持されている状態では吸音材を充填することが不可能な区画にも、充填口211にノズル220を挿入して吸音材を構成する連続長繊維を容易に充填することができる。
【0046】
上記のようにして所定の区画の内部に吸音材が充填されると、挿入治具240の内部空間を介してダミーシェル210の内部空間とシェル110の内部空間とを連通させる連通工程が実行される。そして、図3の(b)に例示するように、ダミーシェル210の内部にある内装部材120及び吸音材140の塊を挿入治具240の内部空間を通してシェル110の内部へと移設する移設工程が実行され、図4の(c)に例示される状態となる。図4においては、図3において破線によって描かれていたシェル110が実線によって描かれている。
【0047】
次に、図4の(d)に例示するように、内装部材120が移設されたシェル110からダミーシェル210及び挿入治具240が取り外され、図4の(e)に例示するように、シェル110の挿入治具240と接続されていた側の開口している端部が閉塞される。具体的には、シェル110の当該端部にエンドプレート130が、例えば溶接等の手法によって取り付けられる。即ち、上述した閉塞工程が実行される。その結果、具体例1に係る第1方法によって、消音器100が製造される。
【0048】
〈具体例2〉
上述した具体例1に係る第1方法においては、内装部材120を構成する4枚の隔壁によって仕切られる5つの区画のうちの吸音室となるべき2つの区画の両方に同時に吸音材を充填した。しかしながら、吸音室となるべき複数の区画に吸音材を逐次的に充填してもよい。
【0049】
図6は、相互に固定された複数本のパイプ及び複数枚の隔壁によって構成された内装部材によってシェルの内部空間が複数の区画に仕切られた構造及び扁平な楕円形の断面を有する消音器を第1方法によって製造する過程のもう1つの例を示す模式的な斜視図である。図6においても、本発明の理解を容易にすることを目的として、ダミーシェル210又はシェル110の内部に保持されて外部からは見えない筈の内装部材120が実線によって描かれている。
【0050】
具体例2に係る第1方法によって製造される消音器は、上述した具体例1と同様に、相互に固定された複数本のパイプ及び複数枚の隔壁によって構成された内装部材によってシェルの内部空間が複数の区画に仕切られた構造及び扁平な楕円形の断面を有する消音器であり、吸音室となるべき2つの区画を備える。
【0051】
但し、具体例2に係る第1方法において使用されるダミーシェル210は、図6に例示するように、充填口211と排気口212との組を1つしか備えていない。従って、具体例2に係る第1方法においては、一度に1つの区画にしか吸音材を充填することができないので、吸音室となるべき2つの区画に吸音材を逐次的に充填する。具体的には、図6の(a)に例示するように、吸音室となるべき2つの区画の一方の内部空間がダミーシェル210に設けられた充填口211及び排気口212と連通する位置に、消音器の内装部材120をダミーシェル210の内部に保持する。そして、この状態において、ダミーシェル210の側面に設けられた充填口211とは反対側の側面にある排気口212を介して吸引装置230によって当該区画の内部の空気を排出しつつ、充填口211に挿入されたノズル220から吸音材140を構成する連続長繊維を当該区画の内部に充填する。
【0052】
上記のようにして一方の区画の内部に吸音材140が充填されると、図6の(b)に例示するように、吸音室となるべき2つの区画の他方の内部空間がダミーシェル210に設けられた充填口211及び排気口212と連通する位置まで、ダミーシェル210の内部において消音器の内装部材120を移動させる。そして、図示しないが、この状態において、上記と同様にして、吸音材を構成する連続長繊維を当該区画の内部に充填する。
【0053】
図7は、具体例2に係る第1方法に含まれる充填工程の実行時における消音器の構成部材並びに具体例2に係る第1方法を実行するための機材及び治具の配置の一例を示す模式図である。図7の(a)は消音器を構成するシェル110の楕円形の断面の短軸方向から観察した状態を、図7の(b)は図7の(a)に示す直線A-Aを含みシェル110の楕円形の断面の短軸に平行な平面による断面をシェル110の楕円形の断面の長軸方向から観察した状態を、それぞれ示している。尚、図7においてもシェル110、挿入治具240及びダミーシェル210が接続された状態が描かれているが、各工程における各々の部材、機材及び治具の配置については上述した通りである。
【0054】
図7からも明らかであるように、ダミーシェル210の側面に充填口211が設けられているので、内装部材120がシェル110の内部に保持されている状態では吸音材を充填することが不可能な区画にも、充填口211にノズル220を挿入して吸音材を構成する連続長繊維を容易に充填することができる。また、ダミーシェル210が充填口211と排気口212との組を1つしか備えていない場合においても、図6の(b)に例示したように、ダミーシェル210の内部において消音器の内装部材120を移動させることにより、吸音室となるべき複数の区画に吸音材を逐次的に充填することができる。このように、吸音室となるべき複数の区画に吸音材を逐次的に充填する場合は、充填工程と部分的な移設工程とが交互に実行される。
【0055】
上記のようにして2つの区画の内部に吸音材が充填されると、挿入治具240の内部空間を介してダミーシェル210の内部空間とシェル110の内部空間とを連通させる連通工程が実行される。そして、内装部材120及び吸音材の塊を挿入治具240の内部空間を通してシェル110の内部へと移設する移設工程が実行され、図6の(c)に例示される状態となる。この後は、上述した具体例1と同様に、閉塞工程が実行され、消音器100の製造が完了する。
【0056】
第1方法に関する上記説明においては、相互に固定された複数本のパイプ及び複数枚の隔壁によって構成された内装部材によってシェルの内部空間が複数の区画に仕切られた構造及び扁平な楕円形の断面を有する消音器を製造する場合について詳しく述べた。しかしながら、前述したように、また、他の実施形態に関する説明において後述するように、複数の貫通孔が側面に穿設されたパンチングパイプ及び当該パンチングパイプの外周面の少なくとも貫通孔が穿設された領域に巻回された金属繊維によって構成された内装部材がシェルの内部に挿入された構造を有する消音器にも第1方法を始めとする本発明に係る消音器の製造方法(本発明方法)を適用することができる。
【0057】
〈効果〉
以上のように、第1方法においては、ダミーシェルの端部及び/又は側面にある充填口から吸音室となる区画の内部にノズルを挿入し、ダミーシェルの充填口とは反対側の端部及び/又は側面にある排気口を介して当該区画の内部の空気を排出しつつ、吸音材を構成する連続長繊維をノズルから当該区画の内部に充填することができる。従って、内装部材がシェルの内部に保持されている状態では吸音材を充填することが不可能な区画にも、吸音材を構成する連続長繊維を容易に充填することができる。即ち、第1方法によれば、異形断面を有するシェル及び/又は複数の吸音室を備える消音器についてもロービング工法を適用して吸音材を吸音室に効率的に充填することができる。
【0058】
《第2実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第2実施形態に係る消音器の製造方法(以降、「第2方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0059】
前述したように、第1方法においては、充填工程において、吸音室となる区画への吸音材の充填がダミーシェルの充填口を介して行われる。従って、第1方法によれば、異形断面を有するシェル及び/又は複数の吸音室を備える消音器についてもロービング工法を適用して吸音材を吸音室に効率的に充填することができる。
【0060】
充填工程における吸音材の充填をより容易且つ確実なものとする観点からは、ダミーシェルの内周面の断面がシェルの内周面の断面よりも大きく、ダミーシェルの内部における吸音材の充填経路に吸音材を構成する連続長繊維の流れを妨げるような狭い箇所が少ないことが望ましい。
【0061】
また、前述したように、充填工程を経た内装部材及び吸音材の塊は、移設工程において、ダミーシェルの内周面とシェルの内周面とを連続的に接続する内周面を有する筒状の治具である挿入治具の内部空間を通して、ダミーシェルの内部からシェルの内部へと内装部材及び吸音材の塊が移設される。従って、上記のようにダミーシェルの内周面の断面がシェルの内周面の断面よりも大きい場合、ダミーシェルの内周面の断面からシェルの内周面の断面へと連続的に小さくなるテーパ状の内周面を有するように挿入治具を構成することが望ましい。
【0062】
〈構成〉
そこで、第2方法は、前述した第1方法であって、ダミーシェルの内周面の断面がシェルの内周面の断面よりも大きく、ダミーシェルの内周面の断面からシェルの内周面の断面へと連続的に小さくなるテーパ状の内周面を挿入治具が有する、消音器の製造方法である。更に、第2方法においては、連通工程において、挿入治具の内周面の断面が大きい側の端部をダミーシェルの端部に接続し、挿入治具の内周面の断面が小さい側の端部をシェルの端部に接続する。
【0063】
図8は、第2方法に含まれる連通工程において挿入治具240を間に挟んでダミーシェル210とシェル110とが接続された状態の一例を示す模式的な断面図である。図8に例示するように、ダミーシェル210の内周面の断面はシェル110の内周面の断面よりも大きい。好ましくは、シェル110の軸方向に垂直な平面への垂直投影図においてシェル110の内周面の断面がダミーシェル210の内周面の断面に含まれている。
【0064】
また、ダミーシェル210の内周面の断面からシェル110の内周面の断面へと連続的に小さくなるテーパ状の内周面を挿入治具240が有している。尚、図8に示した例においては挿入治具240のテーパ状の内周面がダミーシェル210の内周面の断面からシェル110の内周面の断面へと直線的に小さくなっている。しかしながら、挿入治具240の内周面はダミーシェル210の内周面の断面からシェル110の内周面の断面へと連続的に小さくなっていればよい。即ち、挿入治具240のテーパ状の内周面は、滑らかに連続する面であればよく、直線的に(一定の変化率にて)小さくなっている形状に限定されるものではない。例えば、挿入治具240のテーパ状の内周面は、挿入治具240の中心軸に向かって凸状であっても凹状であってもよい。
【0065】
更に、挿入治具240の内周面の断面が大きい側の端部がダミーシェル210の端部に接続され、挿入治具240の内周面の断面が小さい側の端部がシェル110の端部に接続されている。
【0066】
〈効果〉
以上のように、第2方法においては、ダミーシェルの内周面の断面がシェルの内周面の断面よりも大きい。従って、ダミーシェルの内部における吸音材の充填経路に吸音材を構成する連続長繊維の流れを妨げるような狭い箇所を低減することができ、充填工程における吸音材の充填をより容易且つ確実なものとすることができる。また、ダミーシェルの内周面の断面からシェルの内周面の断面へと連続的に小さくなるテーパ状の内周面を挿入治具が有するので、移設工程において挿入治具の内部空間を通してダミーシェルの内部からシェルの内部へと内装部材及び吸音材の塊を容易に移設することができる。更に、ダミーシェルからシェルへの移設に伴い吸音材の塊が径方向における内側に向かって圧縮されるので、吸音室となる区画における吸音材の嵩密度を高めることができるので、圧縮率を適宜調整して吸音性能を調整することもできる。
【0067】
《第3実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第3実施形態に係る消音器の製造方法(以降、「第3方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0068】
前述したように、第1方法を始めとする本発明に係る消音器の製造方法(本発明方法)が適用される消音器の構成は、吸音材が充填された区画を少なくとも1つ備える限り、特に限定されない。本発明方法が適用される消音器の具体例としては、例えば、相互に固定された複数本のパイプ及び複数枚の隔壁によって構成された内装部材によってシェルの内部空間が複数の区画に仕切られた構造を有する消音器及びパンチングパイプがシェルの内部に挿入された構造を有する消音器等を挙げることができる。
【0069】
〈構成〉
そこで、第3方法は、前述した第1方法または第2方法であって、相互に固定された複数本のパイプ及び複数枚の隔壁によって内装部材が構成されており、当該内装部材によってシェルの内部空間が複数の区画に仕切られている、
消音器の製造方法である。
【0070】
第3方法が適用される上記のような消音器の構造については第1方法及び第2方法に関する説明において図2乃至図7を参照しながら既に説明したので、ここでは説明を省略する。
【0071】
〈効果〉
上記のように、第3方法が適用される消音器においては、相互に固定された複数本のパイプ及び複数枚の隔壁によって構成された内装部材によってシェルの内部空間が複数の区画に仕切られている。このように複数の区画を有する消音器においては、吸音室のみならず、例えば共鳴室及び拡張室等の様々な機能を有する区画を設けることができる。その結果、より多くの周波数帯において消音性能を発揮したり、より高い消音性能を発揮したりすることができる。
【0072】
《第4実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第4実施形態に係る消音器の製造方法(以降、「第4方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0073】
上述したように、本発明方法が適用される消音器の構成は、吸音材が充填された区画を少なくとも1つ備える限り、特に限定されない。本発明方法が適用される消音器の具体例としては、例えば、相互に固定された複数本のパイプ及び複数枚の隔壁によって構成された内装部材によってシェルの内部空間が複数の区画に仕切られた構造を有する消音器及びパンチングパイプがシェルの内部に挿入された構造を有する消音器等を挙げることができる。
【0074】
〈構成〉
そこで、第4方法は、前述した第1方法または第2方法であって、複数の貫通孔が側面に穿設されたパンチングパイプ及び当該パンチングパイプの外周面の少なくとも貫通孔が穿設された領域に巻回された金属繊維によって内装部材が構成されている、消音器の製造方法である。
【0075】
パンチングパイプの外周面に巻回される金属繊維には、消音器の稼働時にパンチングパイプに穿設された貫通孔を通って吸音材が消音器の外部に漏れ出ることを長期間に亘って防ぐ機能が求められる。従って、パンチングパイプの外周面に巻回される金属繊維としては、消音器としての使用環境に耐え得る高い耐熱性と十分な機械的強度及び耐久性とを兼ね備えた金属からなる繊維が採用される。このような金属繊維の具体例としては、例えばステンレスウール等を挙げることができる。
【0076】
更に、第3方法は、以下に列挙するカバー装着工程及びカバー除去工程を更に含む。
カバー装着工程は、充填工程よりも前に、滑らかな外周面を有する筒状の部材であるカバーパイプを内装部材に外装する工程である。
カバー除去工程は、充填工程よりも後であり且つ閉塞工程以前に、カバーパイプを取り外す工程である。
【0077】
加えて、第3方法においては、充填工程において、ダミーシェルとカバーパイプとの間の空間である充填区画の軸方向における一方の端部から充填区画の内部にノズルを挿入し、充填区画の他方の端部から充填区画の内部の空気を排出しつつ、吸音材を構成する連続長繊維をノズルから充填区画の内部に充填する。
【0078】
図9の(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)並びに図10の(f)及び(g)は、複数の貫通孔が側面に穿設されたパンチングパイプ及び当該パンチングパイプの外周面の少なくとも貫通孔が穿設された領域に巻回された金属繊維によって内装部材が構成された消音器を第4方法によって製造する過程の1つの例を示す模式的な断面図である。
【0079】
図9の(a)は、複数の貫通孔(図示せず)が側面に穿設されたパンチングパイプ121及びパンチングパイプ121の外周面の少なくとも貫通孔が穿設された領域に巻回された金属繊維122によって構成された内装部材120が受け治具250に保持されている状態を例示する。受け治具250の内装部材120よりも径方向において外側の領域には図示しない排気口が設けられており、充填工程において吸音材が充填される区画から当該排気口を通して空気が排出される。尚、受け治具250の内装部材120に対向する領域には排気口は設けられておらず、パンチングパイプ121の内部の空気が排出されないように構成されている。
【0080】
前述したように、複数の貫通孔が側面に穿設されたパンチングパイプ及び当該パンチングパイプの外周面の少なくとも貫通孔が穿設された領域に巻回された金属繊維によって内装部材が構成されている場合、充填工程においてダミーシェルと内装部材との間の空間に流入してきた吸音材が金属繊維に引っ掛かり、吸音材の均一な充填が阻害される場合がある。そこで、第4方法においては、図9の(b)に例示するように、滑らかな外周面を有する筒状の部材であるカバーパイプ260を内装部材120に外装するカバー装着工程が充填工程よりも前に実行される。
【0081】
次に、図9の(c)に例示するように、ダミーシェル210が内装部材120の外側面を取り囲むように受け治具250に固定される。即ち、図9の(c)は、保持工程が完了した状態を例示している。次に、図9の(d)に例示するように、ダミーシェル210とカバーパイプ260との間の空間である充填区画の軸方向における受け治具250とは反対側の端部から充填区画の内部に図示しないノズルを挿入する。そして、充填区画の受け治具250の側の端部から受け治具250に設けられた排気口を通して充填区画の内部の空気を排出しつつ(白抜きの矢印を参照)、吸音材140を構成する連続長繊維をノズルから充填区画の内部に充填する(黒塗りの矢印を参照)。即ち、図9の(d)は、充填工程を実行している状態を例示している。
【0082】
次に、図9の(e)に例示するように、カバーパイプ260を取り外す工程であるカバー除去工程が実行される。尚、図9の(e)に示す例においては、受け治具250もまた取り外されている。次に、図10の(f)は、連通工程において挿入治具240を間に挟んでダミーシェル210とシェル110とが接続された状態を例示する。次に、図10の(g)に例示するように、ダミーシェル210の内部にある内装部材120及び吸音材140を挿入治具240の内部空間を通してシェル110の内部へと移設する移設工程が実行される(黒塗りの矢印を参照)。
【0083】
移設工程が実行された後は、図示しないが、内装部材120及び吸音材140が移設されたシェル110からダミーシェル210及び挿入治具240を取り外し、シェル110の端部を閉塞する閉塞工程が実行される。図9及び図10に示した例においては、シェル110の下端には当初からテーパ部が形成されており、吸音材の充填口となった上端のみが開口している。従って、閉塞工程においては、シェル110の上端側の端部のスピニング加工によりテーパ部が形成される。
【0084】
〈効果〉
以上のように、第4方法が適用される消音器においては、複数の貫通孔が側面に穿設されたパンチングパイプ及び当該パンチングパイプの外周面の少なくとも貫通孔が穿設された領域に巻回された金属繊維によって内装部材が構成されている。第4方法においては充填工程よりも前にカバーパイプを内装部材に外装するカバー装着工程が実行されるので、充填工程においてダミーシェルと内装部材との間の空間に流入してきた吸音材が金属繊維に引っ掛かり、吸音材の均一な充填が阻害される虞を低減することができる。即ち、第4方法によれば、複数の貫通孔が側面に穿設されたパンチングパイプ及び当該パンチングパイプの外周面の少なくとも貫通孔が穿設された領域に巻回された金属繊維によって内装部材が構成されている消音器についても、ロービング工法を適用して吸音材を吸音室に効率的に充填することができる。
【実施例1】
【0085】
ここで、本発明に係る消音器の製造方法(本発明方法)を適用することができる消音器の構成の幾つかのバリエーションにつき、図面を参照しながら以下に例示する。
【0086】
図11は、排気の流入口及び流出口が消音器の軸方向における両端に設けられている標準的な(所謂「縦型」の)構成を有する実施例1に係る消音器の構成の一例を示す模式図である。図11においては、本発明の理解を容易にすることを目的として、シェル110の内部に保持されて外部からは見えない筈の内装部材120が実線または破線によって描かれている。
【0087】
図11の(a)は、エンドプレート130によって端部が未だ閉塞されていない消音器101をシェル110の軸方向から観察した状態を示している。(b)は、エンドプレート130によって端部が閉塞されて完成した消音器101をシェル110の楕円形の断面の短軸方向から観察した状態を示している。(c)は、エンドプレート130によって端部が未だ閉塞されていない消音器101の斜視図を示している。(d)は、エンドプレート130によって端部が閉塞されて完成した消音器101の斜視図を示している。
【0088】
図11に例示する消音器101においても、相互に固定された3本のパイプ及び4枚の隔壁によって内装部材120が構成されており、これら4枚の隔壁によりシェル110の内部空間が5つの区画に分けられている。これら5つの区画のうち、パイプに網掛けが施されている2つの区画には、吸音材140が充填されて吸音室となっている。
【0089】
上記のような複雑な構造を有する実施例1に係る消音器101についても、本発明方法によれば、ロービング工法を適用して吸音材を吸音室に効率的に充填することができる。
【実施例2】
【0090】
図11を参照しながら説明した実施例1に係る消音器101は、排気の流入口及び流出口が消音器の軸方向における両端に設けられている標準的な縦型の構成を有するが、昨今では、インレットパイプがシェルの外側面に接続され排気の流出口は消音器の軸方向における一端に設けられる(所謂「横入れ型」の)構成を有する消音器が多用されるようになってきている。
【0091】
図12は、上記のような横入れ型の構成を有する実施例2に係る消音器の構成の一例を示す模式図である。図12においても、本発明の理解を容易にすることを目的として、シェル110の内部に保持されて外部からは見えない筈の内装部材120が実線または破線によって描かれている。
【0092】
図12の(a)は、エンドプレート130によって端部が未だ閉塞されていないシェル110の外側面にインレットパイプ150が圧入された消音器102をシェル110の軸方向から観察した状態を示している。但し、インレットパイプ150の配置を判り易く示すことを目的として、外部からは見えない筈の部分を含むインレットパイプ150の全体が実線によって描かれている。(b)は、エンドプレート130によって端部が閉塞されたシェル110の外側面にインレットパイプ150が圧入された消音器102をシェル110の楕円形の断面の短軸方向から観察した状態を示している。(c)は、エンドプレート130によって端部が閉塞されたシェル110の外側面にインレットパイプ150が圧入される前の消音器102の斜視図を示している。(d)はエンドプレート130によって端部が閉塞されたシェル110の外側面にインレットパイプ150が圧入され嵌合部が全周に亘って溶接された消音器102の斜視図を示している。
【0093】
図12に例示する消音器102においても、相互に固定された3本のパイプ及び4枚の隔壁によって内装部材120が構成されており、これら4枚の隔壁によりシェル110の内部空間が5つの区画に分けられている。これら5つの区画のうち、パイプに網掛けが施されている2つの区画には吸音材140が充填されて吸音室となっている。
【0094】
上記のような複雑な構造を有する実施例2に係る消音器102についても、本発明方法によれば、ロービング工法を適用して吸音材を吸音室に効率的に充填することができる。
【実施例3】
【0095】
図13は、上述した実施例2に係る消音器と同様に横入れ型の構成を有する実施例3に係る消音器の構成の一例を示す模式図である。図13においても、本発明の理解を容易にすることを目的として、シェル110の内部に保持されて外部からは見えない筈の内装部材120が実線または破線によって描かれている。
【0096】
図13の(a)は、エンドプレート130によって端部が未だ閉塞されていないシェル110の外側面に形成された切り欠き部分111に、ステー151を備えるインレットパイプ150が嵌合された消音器103をシェル110の軸方向から観察した状態を示している。但し、インレットパイプ150及びステー151の配置を判り易く示すことを目的として、外部からは見えない筈の部分を含むインレットパイプ150及びステー151の全体が実線によって描かれている。(b)は、エンドプレート130によって端部が閉塞されたシェル110の外側面に形成された切り欠き部分111に、ステー151を備えるインレットパイプ150が嵌合された消音器103をシェル110の楕円形の断面の短軸方向から観察した状態を示している。(c)は、エンドプレート130によって端部が閉塞されたシェル110の外側面に形成された切り欠き部分111に、ステー151を備えるインレットパイプ150が嵌合される前の消音器103の斜視図を示している。(d)はエンドプレート130によって端部が閉塞されたシェル110の外側面に形成された切り欠き部分111に、ステー151を備えるインレットパイプ150が嵌合され嵌合部が全周に亘って溶接された消音器103の斜視図を示している。
【0097】
実施例3に係る消音器103においては、上記のようにインレットパイプ150がステー151を備えるので、インレットパイプ150とシェル110との接続部分の固定強度が高い。従って、消音器103は、例えば消音器103が装着される内燃機関の稼働に伴う振動等に起因してインレットパイプ150と消音器103との接続部分に応力が作用する場合等においても、ステーを備えないインレットパイプを備える消音器に比べて、より高い耐久性を達成することができる。
【0098】
尚、図13に例示する消音器103においても、相互に固定された3本のパイプ及び4枚の隔壁によって内装部材120が構成されており、これら4枚の隔壁によりシェル110の内部空間が5つの区画に分けられている。これら5つの区画のうち、パイプに網掛けが施されている2つの区画には、吸音材140が充填されて吸音室となっている。
【0099】
上記のような複雑な構造を有する実施例3に係る消音器103についても、本発明方法によれば、ロービング工法を適用して吸音材を吸音室に効率的に充填することができる。
【実施例4】
【0100】
図14は、上述した実施例2及び実施例3に係る消音器と同様に横入れ型の構成を有する実施例4に係る消音器の構成の一例を示す模式図である。図14においても、本発明の理解を容易にすることを目的として、シェル110の内部に保持されて外部からは見えない筈の内装部材120が実線または破線によって描かれている。
【0101】
図14の(a)は、エンドプレート130によって端部が未だ閉塞されていないシェル110の外側面及びシェル110の内部に設けられたステー152にインレットパイプ150が圧入された消音器104をシェル110の軸方向から観察した状態を示している。但し、インレットパイプ150及びステー152の配置を判り易く示すことを目的として、外部からは見えない筈の部分を含むインレットパイプ150及びステー152の全体が実線によって描かれている。(b)は、エンドプレート130によって端部が閉塞されたシェル110の外側面及びシェル110の内部に設けられたステー152にインレットパイプ150が圧入された消音器104をシェル110の楕円形の断面の短軸方向から観察した状態を示している。(c)は、エンドプレート130によって端部が閉塞されたシェル110の外側面及びシェル110の内部に設けられたステー152にインレットパイプ150が圧入される前の消音器104の斜視図を示している。(d)はエンドプレート130によって端部が閉塞されたシェル110の外側面及びシェル110の内部に設けられたステー152にインレットパイプ150が圧入されシェル110の外側面とインレットパイプ150との嵌合部が全周に亘って溶接された消音器104の斜視図を示している。
【0102】
実施例4に係る消音器104においては、上記のようにインレットパイプ150がシェル110の外側面のみならずシェル110の内部に設けられたステー152にも圧入され、シェル110の外側面とインレットパイプ150との嵌合部が全周に亘って溶接されるので、インレットパイプ150とシェル110との接続部分の固定強度が高い。従って、消音器104は、例えば消音器104が装着される内燃機関の稼働に伴う振動等に起因してインレットパイプ150と消音器104との接続部分に応力が作用する場合等においても、シェルの内部にステーが設けられていない消音器に比べて、より高い耐久性を達成することができる。
【0103】
尚、図14に例示する消音器104においても、相互に固定された3本のパイプ及び4枚の隔壁によって内装部材120が構成されており、これら4枚の隔壁によりシェル110の内部空間が5つの区画に分けられている。これら5つの区画のうち、パイプに網掛けが施されている2つの区画には、吸音材140が充填されて吸音室となっている。
【0104】
上記のような複雑な構造を有する実施例4に係る消音器104についても、本発明方法によれば、ロービング工法を適用して吸音材を吸音室に効率的に充填することができる。
【0105】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態及び実施例につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態及び実施例に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。また、本発明に係る消音器の製造方法が適用される消音器には、従来のガソリンやディーゼルを燃料とする内燃機関に装着される消音器のみならず、水素又は代替燃料を使用する内燃機関を含むあらゆる内燃機関に装着される消音器が含まれる。更に、例えば建築配管に設置する消音器等、内燃機関以外の装置及び/又は設備に装着される消音器についても、本発明に係る消音器の製造方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0106】
100,101,102,103,104…消音器
110…シェル
111…切り欠き部分
120…内装部材
121…パンチングパイプ
122…金属繊維
130…エンドプレート
140…吸音材
150…インレットパイプ
151,152…ステー
210…ダミーシェル
211…充填口
212…排気口
220…ノズル
230…吸引装置
240…挿入治具
250…受け治具
260…カバーパイプ
【要約】
消音器のシェルとは別個のダミーシェルの内部に消音器の内装部材を保持しダミーシェルの端部及び/又は側面に設けられた充填口から吸音室となる区画に吸音材を充填した後に内装部材及び吸音材をダミーシェルからシェルに移設する。これにより、異形断面を有するシェル及び/又は複数の吸音室を備える消音器にも適用することができるロービング工法を提供する。
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図14