(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】包埋材での生体試料の包埋を補助するための空間を備える医療用デバイス
(51)【国際特許分類】
A61F 2/14 20060101AFI20240325BHJP
【FI】
A61F2/14
(21)【出願番号】P 2021507292
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2020010942
(87)【国際公開番号】W WO2020189528
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019048434
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑治
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-266744(JP,A)
【文献】特表2015-535607(JP,A)
【文献】特開2019-000045(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0212454(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
包埋材での生体試料の包埋を補助するための空間を備える医療用デバイスであって、
前記医療用デバイスは、
蓋部と、
前記蓋部で覆うことで前記空間が生じる凹部を備える基礎部と、を備え、
前記基礎部は、前記空間と流体連通した入口部を備える流路と、を備え、
前記流路は、前記空間の容積が減少するように前記医療用デバイスに力を加えた際に、前記包埋材内での前記生体試料の位置ズレを防止しつつ、前記包埋材が流出するよう構成されている、
医療用デバイス。
【請求項2】
前記流路は、少なくも4つの主流路を含み、
前記少なくも4つの主流路の各入口部は、前記凹部の底面中心に対して等角度で離間配置されている、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項3】
前記流路は、隣接した2つ前記主流路の間に形成される領域に1又は複数の副流路を含み、
各領域は、それぞれ、同じ数の前記副流路を含む、請求項2に記載の医療用デバイス。
【請求項4】
前記基礎部は、
前記蓋部と当接するスペーサーと、
前記スペーサーと当接するスペーサー支持部とを備え、
前記スペーサーは、貫通孔を備える、請求項1から3のいずれかに記載の医療用デバイス。
【請求項5】
前記スペーサー支持部の、前記スペーサーと当接する面の少なくとも一部には、溝を有し、
前記流路は、前記スペーサーによって前記溝が覆われることによって形成される、請求項4に記載の医療用デバイス。
【請求項6】
前記スペーサーの、前記スペーサー支持部と当節する面の少なくとも一部には、溝を有し、
前記流路は、前記スペーサー支持部によって前記溝が覆われることによって形成される、請求項4に記載の医療用デバイス。
【請求項7】
前記スペーサーは、弾性素材でできている、請求項4から6のいずれかに記載の医療用デバイス。
【請求項8】
前記スペーサー支持部は、熱伝導率が高い素材でできている、請求項4から7のいずれかに記載の医療用デバイス。
【請求項9】
ホルダーを更に備え、
前記ホルダーは、直胴部と直胴部の末端において前記ホルダーの中心部方向に延在したオーバーハング部から構成されている中空体であり、
前記直胴部の内径は、基礎部及び蓋部の外径より大きく、
前記オーバーハング部の内径は、蓋部の外径より小さい、請求項1から8のいずれかに記載の医療用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包埋材での生体試料の包埋を補助するための空間を備える医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
加齢黄斑変性は、加齢とともに蓄積したダメージにより変化した黄斑を原因とする、視力低下を引き起こす病気である。加齢黄斑変性は、一般的に、黄斑組織の萎縮を原因とする萎縮型加齢黄斑変性と、網膜直下の新生血管による黄斑のダメージを原因とする滲出型加齢黄斑変性の2種類に分類される。
【0003】
滲出型加齢黄斑変性の治療として、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)を用いる抗VEGF療法が知られている。抗VEGF療法は、新生血管をVEGFを硝子体内に注射する方法であり、一般的に普及している治療法である。
【0004】
近年、滲出型加齢黄斑変性を患っている患者にヒト胚性幹(ES)細胞又はヒト人工多能性幹(iPS)細胞由来の網膜色素上皮(RPE)細胞シートを移植する治療方法が研究されている(非特許文献1)。非特許文献1が開示する治療方法では、新生血管により損傷したRPE細胞を新生血管ごと除去し、培養したRPE細胞シートを移植する。RPE細胞シートは、折り畳まれた状態で網膜下に移植される。従って、RPE細胞シートは、自発的に展開するようにゼラチンなどのハイドロゲルに包埋されている。ハイドロゲルに包埋されたRPE細胞シートは、網膜下への注入を容易にするために、薄くする必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ben M’Barek et al., Sci. Transl. Med. 9, eaai7471 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1は、振動刃を備えるミクロトームを用いて、RPE細胞シートが包埋されたゼラチンブロックを薄くスライスしている。ミクロトームを用いてハイドロゲルに包埋されたRPE細胞シートを作成する場合は、高価なミクロトームと、それを扱うことができる熟練の専門家が必要になるという問題が存在した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、高価なミクロトームを用いることなく、薄いハイドロゲル包埋RPE細胞シートを容易に作成することができるデバイスを開発した。
本発明は、
包埋材での生体試料の包埋を補助するための空間を備える医療用デバイスであって、
上記医療用デバイスは、
蓋部と、
上記蓋部で覆うことで上記空間が生じる凹部を備える基礎部と、を備え、
上記基礎部は、上記空間と流体連通した入口部を備える流路と、を備え、
上記流路は、上記空間の容積が減少するように上記医療用デバイスに力を加えた際に、上記包埋材内での上記生体試料の位置ズレを防止しつつ、上記包埋材が流出するよう構成されている。
【0008】
かかる医療用デバイスによって、包埋材内での生体試料の位置ズレを防止することが可能になり、高価なミクロトームを用いることなく、包埋RPE細胞シートを容易に作成することができ、且つRPE細胞シートを包埋材の中央に容易に留めることができる。
【0009】
また、上記医療用デバイスにおいて、上記流路は、少なくも4つの主流路を含み、上記少なくも4つの主流路の各入口部は、上記凹部の底面中心に対して等角度で離間配置されている。
【0010】
かかる医療用デバイスは、流路が上下左右に存在するため、包埋材内での生体試料の位置ズレをより安定的に防止することが可能になる。
【0011】
また、上記医療用デバイスにおいて、上記流路は、隣接した2つ上記主流路の間に形成される領域に1又は複数の副流路を含み、各領域は、それぞれ、同じ数の上記副流路を含む。
【0012】
かかる医療用デバイスは、流路レイアウトの自由度が向上しているため、多様な生体試料に適用が可能になる。
【0013】
また、上記医療用デバイスにおいて、上記基礎部は、上記蓋部と当接するスペーサーと、上記スペーサーと当接するスペーサー支持部とを備え、上記スペーサーは、貫通孔を備える。
【0014】
かかる医療用デバイスであれば、基礎部の製造がより容易になる。
【0015】
また、上記医療用デバイスにおいて、上記スペーサー支持部の、上記スペーサーと当接する面の少なくとも一部には、溝を有し、上記流路は、上記スペーサーによって上記溝が覆われることによって形成され、又は、上記スペーサーの、上記スペーサー支持部と当節する面の少なくとも一部には、溝を有し、上記流路は、上記スペーサー支持部によって上記溝が覆われることによって形成される。
【0016】
かかる医療用デバイスであれば、流路の形成がより容易になる。
【0017】
また、上記医療用デバイスにおいて、上記スペーサーは、弾性素材でできている。
【0018】
かかる医療用デバイスであれば、空間の容積が減少するように上記医療用デバイスに力を加えることがより容易になる。
【0019】
また、上記医療用デバイスにおいて、上記スペーサー支持部は、熱伝導率が高い素材でできている。
【0020】
かかる医療用デバイスであれば、医療用デバイス中の生体試料をより早く冷却することが可能になる。
【0021】
また、上記医療用デバイスは、ホルダーを更に備え、上記ホルダーは、直胴部と直胴部の末端において上記ホルダーの中心部方向に延在したオーバーハング部から構成されている中空体であり、上記直胴部の内径は、基礎部及び蓋部の外径より大きく、上記オーバーハング部の内径は、蓋部の外径より小さい。
【0022】
かかるホルダーを備えた医療用デバイスであれば、均一な力を医療用デバイスに加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明による、包埋材での生体試料の包埋を補助するための空間を備える医療用デバイスの展開図を示している。
【
図2】
図2は、本発明による、スペーサー支持部の表面にスペーサーが当接した状態にある基礎部の斜視断面図を示している。
【
図3】
図3は、本発明による、凹部が形成された基礎部のスペーサーと蓋部が当接した状態にある医療用デバイスの断面図を示している。
【
図4】
図4は、包埋材で包埋された生体試料を空間に含む医療用デバイスの断面図を示している。
【
図5】
図5は、スペーサー支持部の表面を示している。
【
図6】
図6Aは、本実施形態にかかる流路の寸法と流路間間隔を示している流路の概略図である。
図6Bは、
図6Aに示す寸法と流路間間隔を各流路に表示した
図5の流路の概要図を示している。
【
図7】
図7は、流路のフロー方向から見た流路の断面図である。
【
図8】
図8は、ホルダーを備える医療用デバイスの展開図を示している。
【
図9】
図9は、ホルダーが装着された医療用デバイスの斜視断面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
便宜上、本願で使用される特定の用語は、ここに集めている。別途規定されない限り、本願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。文脈で別途明記されない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の言及を含む。
【0025】
本発明で示す数値範囲及びパラメーターは、近似値であるが、特定の実施例に示されている数値は可能な限り正確に記載している。しかしながら、いずれの数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含んでいる。また、本明細書で使用する「約」という用語は、一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当業者が考慮する場合、許容可能な標準誤差内にあることを意味する。
【0026】
第一実施形態
本実施形態にかかる医療用デバイスは、包埋材での生体試料の包埋を補助するための空間を備えている。本医療用デバイスは、蓋部と、蓋部で覆うことで空間が生じる凹部を備える基礎部と、を備えている。基礎部は、空間と流体連通した入口部を備える流路とを備える。流路は、空間の容積が減少するように医療用デバイスに力を加えた際に、包埋材内での生体試料の位置ズレを防止しつつ、包埋材が流出するよう構成されている。
【0027】
図1は、本実施形態にかかる、包埋材での生体試料の包埋を補助するための空間を備える医療用デバイス1の展開図を示している。一実施形態において、医療用デバイス1は、基礎部2と蓋部30を備えている。基礎部2は、スペーサー支持部10とスペーサー20から構成されている。本実施形態において、スペーサー20と接する、スペーサー支持部10の表面10aには、溝が形成されており、スペーサー20によって溝が覆われることによって流路100が形成される。別の実施形態において、スペーサー支持部10と接する、スペーサー20の表面には、溝が形成されており、スペーサー支持部10によって溝が覆われることによって流路100が形成される。スペーサー20の中心部には、貫通孔20aが形成されている。
【0028】
スペーサー支持部10及びスペーサー20は、ガラス、金属、プラスチック又はこれらの組み合わせでできていてもよいが、医療用デバイス1(特に、医療用デバイス1中の生体試料)の冷却効率を高めるために熱伝導率が高い素材(例えば、金属(例:シリコン、アルミニウム又はステンレス))であることが好ましい。蓋部30は、ガラス、金属、プラスチック又はこれらの組み合わせでできていてもよく、好ましくは透明なガラス又は透明なプラスチックでできている。なお、スペーサー20は、限定するものではないが、弾性素材(例えば、シリコンゴム、プラスチック及びこれらの組み合わせ)でできていてもよい。弾性素材から製造されたスペーサー20に上記溝が備わっている場合、空間4の容積が減少するように医療用デバイス1に力を加えた際における上記溝の変形を防止するために、上記溝には、補強部材が備わっていることが好ましい。上記補強部材は、例えば、金属又はプラスチック製のアーチやチューブを挙げることができる。医療用デバイス1は、使い捨てであってもよい。
【0029】
本実施形態において、スペーサー20の貫通孔20aの開口部形状は、円形であるが、楕円形であっても四角形を含む多角形であってもよい。
【0030】
図2は、本実施形態にかかる、スペーサー支持部10の表面10aにスペーサー20が当接した状態にある基礎部2の斜視断面図を示している。
図2に示す基礎部2は、スペーサー20の内壁20bと表面10aによって規定される凹部3が形成されている。凹部3の底面には、各流路100の入口部によって区画される平坦部10bが形成されている。
【0031】
図3は、本実施形態にかかる、凹部3が形成された基礎部2のスペーサー20と蓋部30が当接した状態にある医療用デバイス1の断面図を示している。
図3の断面は、
図2の断面に対応する。蓋部30で基礎部2の凹部3を覆うことで、空間4が生じる。空間4は、流路100の入口部100aにおいて流路100と流体連通している。本実施形態において、空間4は、流路100を通じて外気と流体連通した開放系であるが、空間4は、流路100が外気と流体連通していない閉鎖系であってもよい。開放系の空間4は、包埋材をより多く排出することができる。閉鎖系の空間4は、病原菌の汚染を防止することができる。閉鎖系の空間4は、例えば、スペーサー支持部10の表面10aのうち、スペーサー20と当接する面の少なくとも一部に溝を有することで形成することができる。
【0032】
スペーサー支持部10は、その内部に1又は複数の包埋材貯留槽を備え、流路100は、包埋材貯留槽と接続していてもよい。スペーサー支持部10がその内部に包埋材貯留槽を備えることによって、より多くの包埋材を排出することが可能になり、医療用デバイス1のサイズを小型化することが可能になる。
【0033】
図4は、包埋材5で包埋された生体試料6を空間4に含む医療用デバイス1の断面図を示している。本実施形態において、流路100は、空間4の容積が減少するように医療用デバイス1に力を加えた際に、包埋材5内での生体試料8の位置ズレを防止しつつ、包埋材が流出するよう構成されている。このように流路を構成することによって、包埋材5内での生体試料8の位置ズレを防止することができるが、移植医療的に許容可能な範囲内であれば、包埋材5内の生体試料8の位置がズレてもよい。移植医療的に許容可能な範囲は、生体試料を移植する部位によって変更してもよく、生体試料の種類によって変更しもよい。
【0034】
空間4の容積が減少するように力Fを医療用デバイス1に加えると、余分な包埋材が流路100から流出し、包埋材5で包埋された生体試料6を薄くすることができる。生体試料は、特に限定するものではないが、培養により作成された細胞シートや、生体試料片であってもよい。生体試料は、コラーゲンなどのスキャフォールド(足場材)が含まれていてもよい。包埋材は、生体適合性を有することが好ましく、ゲル(例えば、ゼラチン、ヒアルロン酸、コラーゲン、ポリアクリルアミドゲル、コラーゲンゲル、ヒアルロン酸架橋ゲル、アルギン酸ゲル、熱可逆性ハイドロゲル(PNIPAMポリマーなど)、及びPVAゲル)を挙げることができる。包埋材は、生体試料全体を覆うように使用してもよく、生体試料の一部(例えば、生体試料の平面又は底面)を覆うように使用してもよい。包埋材は、生体試料(例えば、スキャフォールドを含む生体試料)に応じて、粘性の低いゾルや液体であってもよい。冷却すると硬化し室温又は体温で軟化する包埋材を用いる場合は、力Fを加えたまま医療用デバイス1を冷却することで、包埋された生体試料6を固めることができ、余分な包埋材のトリミングも容易になる。このような包埋材で冷却硬化された生体試料6を、例えば、筒状にすることによって注射器で生体部位に移植すると、体温により包埋材が軟化して生体試料6の形状が生体部位において元に戻る。力Fは、好ましくは、蓋部30から生体試料6に向かう方向である。力Fは、例えば、クリップを用いて医療用デバイス1を挟むことや、蓋部30に重量物を載せることで発生させることができる。
【0035】
図5は、スペーサー支持部10の表面10aを示している。本実施形態において、流路100は、4本の主流路(110、120、130、140)と、16本の副流路(111から114、121から124、131から134、141から144)を備えている。説明の便宜のために、各流路の入口部によって区画される平坦部10bの中心に中心点C(凹部3の底面の中心点に対応)を明示し、中心点Cを通る補助線Xと補助線Xに対して直交し且つ中心点Cを通る補助線Yを明示している。
【0036】
本実施形態において、主流路110、120、130、140の入口部110a、120a、130a、140aは、中心点Cに対して等角度で離間配置されている。主流路は、少なくとも4つあればよく、好ましくは、主流路の数は、少なくとも4つであり且つ偶数である。
【0037】
本実施形態において、隣接した2つ主流路の間に形成される領域には、4つの副流路が含まれている。本実施形態においては、4つの領域が存在し、各領域は、それぞれ、同じ数(即ち4つ)の副流路を含んでいる。
【0038】
主流路110と主流路120の間に形成される領域には、副流路111、113、122、124が含まれている。主流路120と主流路130の間に形成される領域には、副流路121、123、131、133が含まれている。主流路130と主流路140の間に形成される領域には、副流路132、134、141、143が含まれている。主流路140と主流路110の間に形成される領域には、副流路142、144、112、114が含まれている。
【0039】
主流路110及び副流路111から114は、それぞれ、主流路130及び副流路131から134と同軸上に存在し、主流路120及び副流路121から124は、それぞれ、主流路140及び副流路141から144と同軸上に存在している。このような流路100を構成することによって、空間4の容積が減少するように力Fを医療用デバイス1に加えると、余分な包埋材が上下左右の流路から流出され、その結果、包埋材5内での生体試料6の位置ズレを防止することができる。
【0040】
本実施形態において、流路100は、副流路を備えているが、副流路を備えていなくてもよい。副流路の配置は、包埋材5内での生体試料6の位置ズレを防止することができる配置であれば、特に限定するものではないが、例えば、隣り合う副流路(場合によっては、主流路と副流路)の入口部が等間隔で離間している配置であってもよい。包埋材5内での生体試料6の位置ズレを防止することが可能であれば、主流路及び副流路は、直線形状に限定されるものではない。主流路と副流路及び/又は副流路と副流路は、分岐路によって流体連通していてもよい。なお、流路100の幅は生体試料6が流出することがない幅であればよい。
【0041】
本実施形態において、各流路の入口部によって区画される平坦部10bの形状は、正方形であるが、他の形状(例えば、長方形、円形又は楕円形)であってもよい。スペーサー20の貫通孔20aの開口部形状は、平坦部10bの形状と同一であることが好ましく、スペーサー20の貫通孔20aの開口部のサイズは、空間4が流路100の入口部100aにおいて流路100と流体連通できる程度に平坦部10bのサイズよりも大きいことが好ましい。
【0042】
図6A及びBは、本実施形態にかかる流路100の寸法(L、W)と流路間間隔Iを示している流路の概略図である。
図6A及びBの視点は、
図5の視点と同じである。
図6A及びBにおいて、各流路上の2本の波線は、中間省略を示し、スペーサー支持部10は、省略している。
【0043】
図6Aにおいて、流路100の長辺の長さLは、80mmであり、流路100の短辺の長さWは、2mmであり、流路間間隔Iは、5mmである。
図6Bは、
図6Aに示す寸法と流路間間隔を各流路(110から114、120から124、130から134、及び140から144)に表示した
図5の流路100の概要図を示している。
【0044】
図7は、流路100のフロー方向から見た流路100の断面図である。スペーサー支持部10上の2本の波線は、中間省略を示す。
図7において、流路100の深さDは、1mmである。
【0045】
上述した各流路の寸法、深さ、流路間間隔は、例示であり、生体試料6及び/又は流路の数に応じて変更が可能である。一実施形態において、長辺の長さLは、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140及び150mmからなる群より選択される2つ数値間の範囲であってもよく、別の実施形態において、長辺の長さLは、150mm超えであってもよい。短辺の長さWは、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5及び5.0mmからなる群より選択される2つ数値間の範囲であってもよい。流路間間隔Iは、1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10mmからなる群より選択される2つ数値間の範囲であってもよい。流路の入口部が他の流路の入口部と重なる場合は、両入口部は、共通の入口部を備えていてもよい。
【0046】
第二実施形態
図8は、ホルダー40を備える医療用デバイス1の展開図を示している。ホルダー40は、蓋部30にかぶせることで、均一な力Fを医療用デバイス1に加えることができる。
図9は、ホルダー40が装着された医療用デバイス1の斜視断面図を示している。本実施形態において、ホルダー40は、中空体であり、直胴部40aと直胴部40の末端においてホルダー40の中心部方向に延在したオーバーハング部40bから構成されている。直胴部40の内径は、スペーサー支持部10及び蓋部30の外径より大きい。オーバーハング部40bの内径は、蓋部30の外径より小さい。
【0047】
第三実施形態
包埋材での生体試料の包埋を補助する方法は、上記医療用デバイス1の空間4に包埋材で包埋された生体試料を入れる工程と、空間4の容積が減少するように医療用デバイス1に力Fを加えて、余分な包埋材を除く工程と、を有する。必要において、本方法は、医療用デバイス1に力Fを加えたまま、医療用デバイス1を冷却する工程を更に有する。
【符号の説明】
【0048】
1 医療用デバイス
2 基礎部
3 凹部
4 空間
5 包埋材
6 生体試料
F 力
C 中心点
X 補助線
Y 補助線Xに対して垂直の補助線
L 流路の長辺の長さ
W 流路の短辺の長さ
I 流路間間隔
D 流路の深さ
10 スペーサー支持部
10a スペーサー支持部の表面
10b 平坦部
20 スペーサー
20a スペーサーの貫通孔
20b スペーサーの内壁
30 蓋部
40 ホルダー
40a ホルダーの直胴部
40b ホルダーのオーバーハング部
100 流路
110、120、130、140 主流路
110a、120a、130a、140a 主流路の入口部
111から114、121から124、131から134、141から144 副流路