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特許7458588パウチ型スーパーキャパシタ、正極材料及び負極材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】パウチ型スーパーキャパシタ、正極材料及び負極材料
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/42 20130101AFI20240325BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20240325BHJP
【FI】
H01G11/42
H01G11/46
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019215852
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2021086962
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アマル・マルチ・パチル
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】吉田 曉弘
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-192470(JP,A)
【文献】特開2016-006767(JP,A)
【文献】特開平11-354389(JP,A)
【文献】特開2004-235511(JP,A)
【文献】特開2003-282371(JP,A)
【文献】特開2003-234248(JP,A)
【文献】Yoshio Takasu, Takashi Nakamura, Hiroyuki Ohkawauchi, and Yasushi Murakami,Dip-Coated Ru-V Oxide Electrodes for Electrochemical Capacitors,Journal of Electrochemical Society,1997年08月,Vol.144, No.8,第2601-2606頁
【文献】Vardhaman V. Khedekar, Shaikh Mohammed Zaeem and Santanu Das,Graphene-metal oxide nanocomposites for supercapacitors: A perspective review,Advanced Materials Letters,2018年01月,Volume 9, Issue 1,第2-19頁
【文献】Muniyandi Rajkumar, Chun-Tsung Hsu, Tzu-Ho Wu, Ming-Guan Chen, Chi-Chang Hu ,Advanced materials for aqueous supercapacitors in the asymmetric design,Progress in Natural Science: Materials International,2015年12月,Volume 25, Issue 6,第527-544頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/32-11/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パウチ型スーパーキャパシタであって、
第1の導電性基材上に正極材料が被覆されてなる正極と、第2の導電性基材上に負極材料が被覆されてなる負極と、固体状又はゲル状の電解質を含む電解質層とを備え、
前記正極材料は、還元型酸化グラフェンとV との混合物が、RuO で被覆されてなる複合材料であり、
前記負極材料は、第2の炭素材料と、タングステンの酸化物とを含む、パウチ型スーパーキャパシタ。
【請求項2】
前記第2の炭素材料は酸化グラフェンである、請求項1に記載のパウチ型スーパーキャパシタ。
【請求項3】
前記負極材料は、さらに金属M2の硫化物を含有し、前記金属M2は、Cu,Mo,Mn,Sn及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のパウチ型スーパーキャパシタ。
【請求項4】
前記電解質層は、水溶性高分子化合物を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のパウチ型スーパーキャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パウチ型スーパーキャパシタ、正極材料及び負極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタ(EDLC)は、その驚異的な電力密度(PD)及び優れたサイクリング性能により、最も重要なストレージスーパーキャパシタ(SC)であり、現有バッテリーの補完的なデバイスとしてより高い電力密度を提供できることが知られている。
【0003】
EDLCタイプのスーパーキャパシタでは、電荷移動が無くとも電荷が蓄積され、活性部位での電解質イオンの吸着のみが起こるため、そのエネルギー密度(ED)は炭素材料などのアクセス可能な表面積に依存することが知られている。さらに、スーパーキャパシタの一つのサブタイプである疑似キャパシタ(遷移金属酸化物(TMO)、遷移金属硫化物(TMS)、導電性ポリマーを電極として使用)は、可逆的な酸化還元反応により電荷を蓄積し、電荷移動速度が速く、バッテリーに類似した高いエネルギー密度を生成でき、電気二重層キャパシタ(EDLC)のような電力密度(PD)を有する。このため、疑似キャパシタは、バッテリーとスーパーキャパシタ(SC)のギャップを埋めることができる蓄電装置とも言える。特に、擬似容量性電気活性材料として、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ビスマス(Bi)ベースの酸化物または硫化物は最も有望な電極材料として注目されている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、NiCo/MnOと活性炭(AC)をそれぞれ正極および負極材料として使用し、水溶液電解質を用いた非対称スーパーキャパシタを試作したことが報告されている。斯かるスーパーキャパシタにより、Ni2+/3+、Co2+/3+、Mn3+/4+(その他、Bi3+/4+、Cu1+/2+)の酸化還元状態を提供できることから、急速充電の観点から有益であるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nano energy、DOI:10.1016/j.nanoen.2016.08.013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のスーパーキャパシタは液漏れの問題があった上に、かさばる設計のためにエネルギー密度が低く(例えば、37.5Wh kg-1)、出力密度も低く(例えば、187.5W kg-1)、加えて低容量維持率が十分ではなかった。近年の電池に対する要求は高く、さらなる性能向上のための技術開発が強く望まれている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、エネルギー密度、出力密度及び容量維持率に優れるパウチ型スーパーキャパシタ、並びに、パウチ型スーパーキャパシタ用の正極材料及び負極材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定のハイブリッド材料を電極材料として使用すると共に電解質として固体又はゲル状電解質を使用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
パウチ型スーパーキャパシタであって、
第1の導電性基材上に正極材料が被覆されてなる正極と、第2の導電性基材上に負極材料が被覆されてなる負極と、固体状又はゲル状の電解質を含む電解質層とを備え、
前記正極材料は、第1の炭素材料と、金属M1の酸化物及び/又は硫化物とを含有し、前記金属M1は、V,Ru,Cu,Ni,Ce及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記負極材料は、第2の炭素材料と、タングステンの酸化物とを含む、パウチ型スーパーキャパシタ。
項2
第1の炭素材料及び前記第2の炭素材料の少なくとも一方は酸化グラフェンである、請求項1に記載のパウチ型スーパーキャパシタ。
項3
前記負極材料は、さらに金属M2の硫化物を含有し、前記金属M2は、Cu,Mo,Mn,Sn及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1又は2に記載のパウチ型スーパーキャパシタ。
項4
前記電解質層は、水溶性高分子化合物を含む、項1~3のいずれか1項に記載のパウチ型スーパーキャパシタ。
項5
パウチ型スーパーキャパシタ用の正極材料であって、
第1の炭素材料と、金属M1の酸化物及び/又は硫化物とを含有し、
前記金属M1は、V,Ru,Cu,Ni,Ce及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種である、正極材料。
項6
パウチ型スーパーキャパシタ用の負極材料であって、
第2の炭素材料と、タングステンの酸化物とを含む、負極材料。
項7
金属M2の硫化物をさらに含有し、前記金属M2は、Cu,Mo,Mn,Sn及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項6に記載の負極材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明のパウチ型スーパーキャパシタは、エネルギー密度、出力密度及び容量維持率に優れる。
【0011】
本発明のパウチ型スーパーキャパシタ用の正極材料及び負極材料はそれぞれパウチ型スーパーキャパシタ用の電極を形成するための材料として適している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得られた正極及び実施例2で得られた負極の走査型電子顕微鏡画像(SEM)を示す。
図2】(A)は、実施例1-1及び1-2で得られた正極における正極材料のラマン分光分析結果、(B)は、実施例2-1及び2-2で得られた正極における正極材料のラマン分光分析結果である。
図3】実施例1で得られた正極及び実施例2で得られた負極の電気化学特性の評価結果を示す。
図4】実施例3で得たAPSCSデバイスのサイクリックボルタンメトリー測定(A)と、エネルギー密度と出力密度の関係(B)とを示す。
図5】実施例3で得たAPSCSデバイスのデモンストレーションの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0014】
本発明のパウチ型スーパーキャパシタは、第1の導電性基材上に正極材料が被覆されてなる正極と、第2の導電性基材上に負極材料が被覆されてなる負極と、固体状又はゲル状の電解質を含む電解質層とを備える。前記正極材料は、第1の炭素材料と、金属M1の酸化物及び/又は硫化物とを含有し、前記金属M1は、V,Ru,Cu,Ni,Ce及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種である。前記負極材料は、第2の炭素材料と、タングステンの酸化物とを含む。
【0015】
斯かるパウチ型スーパーキャパシタは、エネルギー密度、出力密度及び容量維持率に優れる。
【0016】
なお、本発明のパウチ型スーパーキャパシタを以下では「APSCS」と略記する。本発明のAPSCSは、負極層、正極層及びこれらの層に挟まれた電解質層を含む。負極層は前記負極で形成され、正極層は前記正極で形成され、電解質層は前記電解質を含む層で形成される。本発明のAPSCSは、例えば、パウチ型固体非対称スーパーキャパシタである。
【0017】
<正極材料>
本発明のAPSCSにおいて、正極材料は、第1の炭素材料と、金属M1の酸化物及び/又は硫化物とを含有する。つまり、正極材料は、第1の炭素材料と、金属M1の酸化物及び/又は硫化物との複合材料である。
【0018】
第1の炭素材料の種類は特に限定されず、例えば、酸化グラフェン(以下、「GO」と表記する)、カーボンナノチューブ等の各種炭素材料を挙げることができる。
【0019】
酸化グラフェンは、例えば、公知の酸化グラフェンを種々使用することができ、中でも、「rGO」と称される還元型酸化グラフェンであることが好ましい。
【0020】
カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれであってもよく、特に、多層カーボンナノチューブ(Multi-walled carbon nanotubes;MwCNTs)であることが好ましい。
【0021】
APSCSのエネルギー密度、出力密度及び容量維持率が向上しやすいという点で、正極材料における第1の炭素材料は、還元型酸化グラフェン(以下、rGO)を含む複合材料であることが特に好ましい。
【0022】
正極材料は、第1の炭素材料に加えてさらに、金属M1の酸化物及び/又は硫化物を含有する。金属M1はV,Ru,Cu,Ni,Ce及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、APSCSのエネルギー密度、出力密度及び容量維持率が向上しやすいという点で、金属M1はV,Ru,Cu,Ni,Ce及びMnからなる群より選ばれる少なくとも2種以上であることが好ましい。APSCSのエネルギー密度、出力密度及び容量維持率が特に向上しやすいという点で、金属M1はV及びRuを含むことが好ましく、両方を含むことが特に好ましい。
【0023】
正極材料は、金属M1の酸化物及び硫化物の一方又は両方を含むが、中でも金属M1の酸化物を含むことが好ましい。この場合、APSCSのエネルギー密度、出力密度及び容量維持率が向上しやすい。特に、正極材料は、V及びRuの酸化物を含むことが好ましく、この場合、APSCSのエネルギー密度、出力密度及び容量維持率が特に向上する。V及びRuの酸化物は、これらの金属の複合酸化物であってもよいし、もしくは、Vの酸化物及びRuの酸化物の両方でもよい。Vの酸化物は、例えば、Vであり、Ruの酸化物は、例えば、RuOである。
【0024】
正極材料は、例えば、第1の炭素材料と、金属M1の酸化物及び/又は硫化物とがそれぞれ層状に形成されていてもよいし、あるいは、両者が均一に混ざり合って形成されていてもよい。
【0025】
正極材料の一態様として、第1の炭素材料と金属M1の酸化物の混合物で形成される複合材料が挙げられる。正極材料の他の一態様として、第1の炭素材料と金属M1の酸化物との混合物を、さらに、金属M1の酸化物が被覆した構造を有する複合材料が挙げられる。この場合、混合物中の金属M1と被覆層に含まれる金属M1が同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0026】
正極材料の具体例として、rGOとVとの混合物からなる複合材料、rGOとVとの混合物がさらにRuOで被覆されてなる複合材料、rGOとCuOとの混合物からなる複合材料、rGOとNiOとの混合物からなる複合材料、rGOとCeOとの混合物からなる複合材料、rGOとMnとの混合物からなる複合材料、rGOとNiSとの混合物からなる複合材料、rGOとRuOとの混合物がさらにMnOで被覆されてなる複合材料等が挙げられる。APSCSのエネルギー密度、出力密度及び容量維持率が向上しやすい。正極材料は、rGOとVとの混合物からなる複合材料、rGOとVとの混合物がさらにRuOで被覆されてなる複合材料であることが好ましく、rGOとVとの混合物がさらにRuOで被覆されてなる複合材料であることがさらに好ましい。
【0027】
正極材料に含まれる金属M1が異なる2種である場合、両者の比は任意の範囲に調整することができ、例えば、モル比で1:10~1:0.1の範囲とすることができる。
【0028】
正極材料は、第1の導電性基材上に被覆される。第1の導電性基材は特に限定されず、例えば、公知の導電性の基材を広く採用することができる。第1の導電性基材としては、例えば、ニッケル、炭素、ニッケル-リン合金、ニッケル-タングステン合金、ステンレス、チタン、鉄、銅、導電ガラスなどが挙げられる。第1の導電性基材はニッケル基材又は銅基材等の各種金属基材であることが好ましく、特にニッケル基材であることが好ましい。より具体的な第1の導電性基材として、ニッケルフォームが例示される。
【0029】
第1の導電性基材は、公知の方法で得ることができ、あるいは、市販の電極基材を採用することができる。第1の導電性基材の形状は特に制限されず、使用目的や要求される性能により適宜選択することができる。例えば、シート状、板状、棒状、メッシュ状等の電極基材が挙げられる。
【0030】
正極材料の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。
【0031】
例えば、酸化グラフェン等の第1の炭素材料と、金属M1源と、水とを含む混合液Aに第1の導電性基材を浸漬し、この状態で前記混合液Aを加熱して水熱合成する。これにより、第1の導電性基材上に、第1の炭素材料(例えばrGO)と金属M1の酸化物との混合物が形成される。この混合物を正極材料として用いることができる。あるいは、水熱合成により処理された第1の導電性基材を、さらに金属M1源を含む溶液A中で処理することができ、この場合、前記混合物がさらに金属M1の酸化物によって被覆された正極材料が第1の導電性基材上に形成される。なお、混合液Aにおける金属M1源と、溶液Aにおける金属M1源は、同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0032】
金属M1源としては、金属M1を含む化合物を挙げることができる。金属M1を含む化合物としては、金属M1を含む無機化合物及び金属M1を含む有機化合物を挙げることができる。金属M1を含む無機化合物としては、例えば、金属M1の酸化物塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、塩酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができる。また、金属M1を含む有機化合物としては、例えば、金属M1の酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩等を挙げることができる。金属M1源は、金属M1を含む無機化合物であることが好ましく、反応性が優れる点で、金属M1の酸化物塩、塩化物、硝酸塩を使用することが特に好ましい。例えば、金属M1源として、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)、塩化ルテニウム(RuCl)が挙げられる。
【0033】
前記混合液Aを加熱して水熱合成するにあたり、水熱合成の条件は特に限定されず、公知の水熱合成の条件を広く採用することができる。例えば、水熱合成時の温度は110~180℃とすることができる。この温度にて容器を保持する時間も特に限定されず、例えば、3~15時間とすることができる。水熱合成における容器内の圧力も適宜設定することができる。
【0034】
前記混合液Aを加熱して水熱合成するにあたり、混合液Aには必要に応じて、pH調整剤を添加してpHを調製することができる。混合液AのpHは、例えば、1~10、好ましくは1.5~5とすることができる。pH調整剤の種類も特に限定されず、例えば、各種の酸及びアルカリを使用でき、具体的には硫酸、塩酸等の酸を使用することができる。
【0035】
水熱合成により処理された第1の導電性基材を、さらに金属M1源を含む溶液A中で処理する方法も特に限定されない。例えば、金属M1源を含む水溶液に水熱合成により処理された第1の導電性基材を浸漬し、20~120℃、好ましくは30~80℃で処理することができる。この処理時間も特に限定されず、例えば、3~15時間とすることができる。
【0036】
溶液Aには、必要に応じて酸化剤等を添加することもできる。酸化剤としては公知の酸化剤を広く適用することができ、例えば、過硫酸アンモニウム((NH)、過酸化水素等を挙げることができる。
【0037】
前記混合液A及び溶液Aにおいて、金属M1源の濃度は特に限定されず、例えば、いずれも0.05~1M程度とすることができる。
【0038】
第1の導電性基材上に正極材料を形成した後は、必要に応じて適宜の条件で乾燥処理をすることができる。
【0039】
<負極材料>
本発明のAPSCSにおいて、負極材料は、第2の炭素材料と、タングステンの酸化物とを含有する。つまり、負極材料は、第2の炭素材料と、タングステンの酸化物との複合材料である。負極材料を構成する複合材料は、必要に応じて後記する金属M2の硫化物を含む。
【0040】
第2の炭素材料の種類は特に限定されず、例えば、酸化グラフェン(以下、「GO」と表記する)、カーボンナノチューブ等の各種炭素材料を挙げることができる。
【0041】
酸化グラフェンは、例えば、公知の酸化グラフェンを種々使用することができ、中でも、「rGO」と称される還元型酸化グラフェンであることが好ましい。
【0042】
カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれであってもよく、特に、多層カーボンナノチューブ(Multi-walled carbon nanotubes;MwCNTs)であることが好ましい。
【0043】
APSCSのエネルギー密度、出力密度及び容量維持率が向上しやすいという点で、正極材料における第1の炭素材料は、還元型酸化グラフェン(以下、rGO)を含む複合材料であることが特に好ましい。
【0044】
負極材料は、第2の炭素材料に加え、タングステンの酸化物を含有する。タングステンの酸化物は、例えば、WOである。タングステンの酸化物は、例えば、WO・0.5HOのような水和物の状態であってもよい。
【0045】
負極材料は、第2の炭素材料及びタングステンの酸化物に加えてさらに、金属M2の硫化物を含有する。前記金属M2は、Cu,Mo,Mn,Sn及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0046】
金属M2は、Cu,Mo,Mn,Sn及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種である。APSCSのエネルギー密度、出力密度及び容量維持率が向上しやすいという点で、金属M2はCuであることが好ましい。この場合、金属M2の硫化物は、CuS又はCuSである。
【0047】
負極材料は、例えば、第2の炭素材料と、タングステンの酸化物と、金属M2の硫化物とがそれぞれ層状に形成されていてもよいし、あるいは、均一に混ざり合って形成されていてもよい。
【0048】
負極材料の一態様として、第2の炭素材料とタングステンの酸化物の混合物で形成される複合材料が挙げられる。負極材料の他の一態様として、第2の炭素材料とタングステンの酸化物との混合物を、さらに、金属M2の硫化物が被覆した構造を有する複合材料が挙げられる。
【0049】
負極材料の具体例として、rGOとWO・0.5HOとの混合物からなる複合材料、rGOとWO・0.5HOとの混合物がさらにCuSで被覆されてなる複合材料等が挙げられる。APSCSのエネルギー密度、出力密度及び容量維持率が向上しやすい。負極材料は、rGOとWO・0.5HOとの混合物がさらにCuSで被覆されてなる複合材料であることが好ましい。
【0050】
負極材料に含まれるタングステン(W)と金属M2との比は任意の範囲に調整することができ、例えば、モル比でW:金属M2を1:10~1:0.1の範囲とすることができる。
【0051】
負極材料は、第2の導電性基材上に被覆される。第2の導電性基材は特に限定されず、例えば、公知の導電性の基材を広く採用することができる。第2の導電性基材としては、例えば、ニッケル、炭素、ニッケル-リン合金、ニッケル-タングステン合金、ステンレス、チタン、鉄、銅、導電ガラスなどが挙げられる。第2の導電性基材はニッケル基材又は銅基材等の各種金属基材であることが好ましく、特にニッケル基材であることが好ましい。より具体的な第2の導電性基材として、ニッケルフォームが例示される。
【0052】
第2の導電性基材は、公知の方法で得ることができ、あるいは、市販の電極基材を採用することができる。第2の導電性基材の形状は特に制限されず、使用目的や要求される性能により適宜選択することができる。例えば、シート状、板状、棒状、メッシュ状等の電極基材が挙げられる。
【0053】
本発明のAPSCSにおいて、負極材料が形成される第2の導電性基材と、正極材料が形成される第1の導電性基材とは同一種とすることができる。
【0054】
負極材料の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。
【0055】
例えば、酸化グラフェン等の第2の炭素材料と、W源と、水とを含む混合液Bに第2の導電性基材を浸漬し、この状態で前記混合液Bを加熱して水熱合成する。これにより、第2の導電性基材上に、第2の炭素材料(例えばrGO)とタングステンの酸化物との混合物が形成される。この混合物を負極材料として用いることができるし、あるいは、水熱合成により処理された第2の導電性基材を、さらに金属M2源を含む溶液B中で処理することができ、この場合、前記混合物がさらに金属M2の硫化物によって被覆された負極材料が第2の導電性基材上に形成される。
【0056】
W源としては、Wを含む化合物を挙げることができる。Wを含む化合物としては、Wを含む無機化合物及びWを含む有機化合物を挙げることができる。Wを含む無機化合物としては、例えば、Wの酸化物塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、塩酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができる。また、Wを含む有機化合物としては、例えば、Wの酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩等を挙げることができる。W源は、Wを含む無機化合物であることが好ましく、反応性が優れる点で、Wの酸化物塩、塩化物、硝酸塩を使用することが特に好ましい。例えば、W源として、NaWOが挙げられる。
【0057】
前記混合液Bを加熱して水熱合成するにあたり、水熱合成の条件は特に限定されず、公知の水熱合成の条件を広く採用することができる。例えば、水熱合成時の温度は110~180℃とすることができる。この温度にて容器を保持する時間も特に限定されず、例えば、3~15時間とすることができる。水熱合成における容器内の圧力も適宜設定することができる。
【0058】
前記混合液Bを加熱して水熱合成するにあたり、混合液Aには必要に応じて、pH調整剤を添加してpHを調製することができる。混合液AのpHは、例えば、1~10、好ましくは1.5~5とすることができる。pH調整剤の種類も特に限定されず、例えば、各種の酸及びアルカリを使用でき、具体的には硫酸、塩酸等の酸を使用することができる。
【0059】
前記混合液Bにおいて、W源の濃度は特に限定されず、例えば、0.05~1M程度とすることができる。
【0060】
水熱合成処理された第2の導電性基材は、必要に応じて、乾燥し、アニール処理を行うことができる。乾燥条件及びアニール処理条件も特に限定されない。例えば、アニール処理は、200~400℃で1~5時間の加熱処理により行うことができる。
【0061】
金属M2源としては、金属M2を含む化合物を挙げることができる。金属M2を含む化合物としては、金属M2を含む無機化合物及び金属M2を含む有機化合物を挙げることができる。金属M2を含む無機化合物としては、例えば、金属M2の酸化物塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、塩酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができる。また、金属M2を含む有機化合物としては、例えば、金属M1の酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩等を挙げることができる。金属M2源は、金属M2を含む無機化合物であることが好ましく、反応性が優れる点で、金属M2の硫酸塩、酸化物塩、塩化物、硝酸塩を使用することが特に好ましい。例えば、金属M2源として、硫酸銅が挙げられる。
【0062】
水熱合成により処理された第2の導電性基材を、さらに金属M2源を含む溶液B中で処理する方法も特に限定されない。例えば、金属M2源を含む水溶液に水熱合成により処理された第2の導電性基材を浸漬した状態で40~150℃に保持することができる。この温度にて容器を保持する時間も特に限定されず、例えば、2~10時間とすることができる。水熱合成における容器内の圧力も適宜設定することができる。
【0063】
溶液Bは、必要に応じて、各種添加剤を含むことができる。この添加剤としては、例えば、トリエチルアミン、Na等を挙げることができ、これらを併用することもできる。
【0064】
溶液Bにおいて、金属M2源の濃度は特に限定されず、例えば、0.05~1M程度とすることができる。
【0065】
第2の導電性基材上に負極材料を形成した後は、必要に応じて適宜の条件で乾燥処理をすることができる。
【0066】
(正極及び負極)
上述した正極材料及び負極材料を用いて、それぞれ本発明のAPSCSの正極及び負極を形成することができる。例えば、第1の導電性基材に形成された正極材料をそのまま本発明のAPSCSの正極として使用することができ、あるいは、第1の導電性基材に形成された正極材料と他の材料(例えば、公知の正極材料)とを組み合わせて本発明のAPSCSの正極として使用することもできる。同様に、第2の導電性基材に形成された負極材料をそのまま本発明のAPSCSの負極として使用することができ、あるいは、第2の導電性基材に形成された負極材料と他の材料(例えば、公知の負極材料)とを組み合わせて本発明のAPSCSの負極として使用することもできる。
【0067】
本発明のAPSCSの正極及び負極においては、正極材料及び負極材料に含まれる炭素材料は共に酸化グラフェンであることが好ましく、シート状の還元型酸化グラフェン(rGO)であることが特に好ましい。
【0068】
正極及び負極の厚さはいずれも特に限定されず、例えば、公知のパウチ型スーパーキャパシタの電極と同様の厚みとすることができる。例えば、正極及び負極の厚さはいずれも、50~500μmとすることができる。
【0069】
(電解質層及び電解質)
本発明のAPSCSにおいて、電解質の種類は特に限定されず、例えば、パウチ型スーパーキャパシタにおいて適用され得る電解質を広く採用することができる。特に、本発明のAPSCSにおいて、固体又はゲル状態の電解質層を形成できる限りは特に制限されない。中でも前記電解質は、水溶性高分子化合物を含むことが好ましい。
【0070】
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。中でも高分子固体電解質は、ポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選ばれる1種以上であることが特に好ましい。
【0071】
高分子固体電解質は、水溶性高分子の他、各種電解質材料を含むことができる。電解質材料としては、例えば、KOH、K[Fe(CN)]、K[Fe(CN)]、NaSO、HSO、NaOH、LiClO等を挙げることができる。電解質層に含まれる電解質は、1種又は2種以上とすることができる。中でも、電解質層は電解質材料としてNaSO、K[Fe(CN)]を含むことが好ましく、これらの両方を含むことが特に好ましい。
【0072】
電解質層は、さらに他の添加剤を含むこともできる。電解質層がその他に添加剤を含む場合、その含有量は、例えば、電解質層の全質量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下とすることができる。
【0073】
電解質層としては、水溶性高分子がポリビニルアルコールを含み、電解質がNaSO及びK[Fe(CN)]のいずれか一方又は両方である組み合わせを含む構成が例示される。
【0074】
電解質層は、APSCSのエネルギー密度、出力密度及び容量維持率が向上しやすいという点で、ゲル状であることが好ましい。この場合、電解質層は、溶媒を含む。溶媒は、電解質層を形成するために使用される各種溶媒を使用することができ、例えば、水である。
【0075】
電解質層がゲル状である場合、電解質層は、水溶性高分子と、電解質とを含む場合、水溶性高分子の含有割合は、水溶性高分子、電解質及び水の全質量に対して、0.1~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、3~10質量%であることが特に好ましく、電解質の含有割合は、1~20重量%であることが好ましく、2~18質量%であることがさらに好ましい。例えば、水溶性高分子がポリビニルアルコール、電解質がNaSO及びK[Fe(CN)]の両方である組み合わせの場合、電解質層中、ポリビニルアルコールが3~10重量%、NaSOが0.5~5重量%、K[Fe(CN)]が0.1~1重量%である組み合わせが例示される。残部は水である。電解質層が固体状である場合、電解質層において、水溶性高分子と、電解質との比率は、任意とすることができ、例えば、水溶性高分子:電解質(質量比)で1:50~1:0.5とすることができる。
【0076】
電解質層の厚さは特に限定されず、例えば、公知のパウチ型スーパーキャパシタの固体電解質と同様の厚みとすることができる。例えば、固体電解質の厚みは、30~150μmとすることができる。
【0077】
電解質層を形成する方法は特に限定されず、例えば、公知の固体電解質の製造方法と同様の方法で製造することができる。例えば、水溶性高分子、電解質、及び、必要に応じて添加される添加等、並びに溶媒を所定の配合量で混合することで、電解質原料を調製し、この電解質原料を製膜することで、電解質層を製造することができる。電解質原料の調製は、乾式及び湿式のいずれの方式で行ってもよい。乾式である場合は、電解質原料は、例えば、粉末状で得られ、湿式である場合は、電解質原料は、例えば、ペースト状で得られる。ペースト状で得られた場合は、適宜、乾燥処理を行うことができる。電解質原料を製膜する方法も特に限定されず、プレス法等の公知の方法で製膜することが可能である。電解質層がゲル状である場合は、電解質原料の乾燥処理は省略することができる。
【0078】
(その他の構成)
本発明のAPSCSにおいて、正極、負極及び固体電解質以外の構成は特に限定されず、例えば、公知のパウチ型スーパーキャパシタで備えられる部材を、本発明の本発明のAPSCSに適用することができる。
【0079】
本発明のAPSCSを組み立てる方法も特に制限はなく、公知のパウチ型スーパーキャパシタの組み立て方法と同様の方法を採用することができる。
【0080】
本発明のAPSCSをラミネートする方法も特に限定されず、公知のパウチ型スーパーキャパシタのラミネート方法と同様とすることができる。ラミネート材料も特に限定されず、例えば、金属箔の片面又は両面に樹脂フィルムを有する樹脂ラミネート金属箔等が挙げられる。樹脂ラミネート金属箔における金属箔は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等からなる箔が挙げられる。樹脂フィルムは、例えば、ポリエステル、ナイロン等が挙げられ、ヒートシール性を有する樹脂フィルムとしては、例えば、ポリオレフィン、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。ラミネート材料は、片面又は両面がエンボス加工を施されたものであってもよい。
【実施例
【0081】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に
限定されるものではない。
【0082】
(実施例1-1)
50mLの脱イオン水に0.02gの酸化グラフェンと、0.01MのNHVOとを分散した混合液Aを調製し、さらに希硫酸を加えて混合液A全体のpHを2に調整し、この混合液Aにニッケルフォーム(2.5×5cm角)を浸漬した。なお、酸化グラフェンは公知のHummer法によって予め合成した。次いで、ニッケルフォームを浸漬した混合液Aを150℃で6時間加熱することで水熱合成し、これにより、ニッケルフォーム上にrGO/Vを形成した。このように水熱合成で処理されたニッケルフォームを、0.01MのRuCl(水和物)と、0.1Mの(NHと、脱イオン水とを含む溶液A中に浸漬した状態で、60℃のオーブン内で2時間保持した。その後、ニッケルフォームを取り出して、50℃で12時間乾燥することにより、ニッケルフォーム上にRuOで被覆されたrGO/Vを正極材料として形成した。このように正極材料が形成されたニッケルフォームを「R-VO150@RO」と表記して、正極として用いた。
【0083】
(実施例1-2)
50mLの脱イオン水に0.02gの酸化グラフェンと、0.01MのNHVOとを分散した混合液Aを調製し、さらに希硫酸を加えて混合液A全体のpHを2に調整し、この混合液Aにニッケルフォーム(2.5×5cm角)を浸漬した。なお、酸化グラフェンは公知のHummer法によって予め合成した。次いで、ニッケルフォームを浸漬した混合液Aを150℃で6時間加熱することで水熱合成し、これにより、ニッケルフォーム上にrGO/Vを形成した。このrGO/Vが形成されたニッケルフォームを「R-VO150@RO」と表記して、正極として用いた。
【0084】
(実施例2-1)
50mLの脱イオン水に0.05gの酸化グラフェンと、0.01MのNaWO・2HOとを分散させ混合液Bを調製し、さらに希塩酸を加えて混合液B全体のpHを3に調整し、この混合液Aにニッケルフォーム(2.5×5cm角)を浸漬した。なお、酸化グラフェンは公知のHummer法によって予め合成した。次いで、ニッケルフォームを浸漬した混合液Aを180℃で12時間加熱することで水熱合成し、これにより、ニッケルフォーム上にrGO/WOを形成した。なお、水熱合成処理されたニッケルフォームは、50℃で5時間乾燥させた後、300℃で3時間アニール処理した。一方、0.1MのCuSO・6HOと、0.5mLのトリエチルアミン(TEA)と、0.05MのNaと、脱イオン水とを含む溶液Bに希塩酸を加え、溶液BのpHを2.5に調整した。この溶液Bを100mLのテフロン(登録商標)で裏打ちされたステンレスオートクレーブに移し、次いで、このステンレスオートクレーブに、先の水熱合成処理されたニッケルフォームを浸漬した。この状態でオートクレーブを80℃のオーブン内で5時間保持した。その後、ニッケルフォームを取り出して、50℃で5時間乾燥することにより、ニッケルフォーム上にCuSで被覆されたrGO/WO・0.5HOを負極材料として形成した。このように負極材料が形成されたニッケルフォームを「R-WO180@CS」と表記して、負極として用いた。
【0085】
(実施例2-2)
50mLの脱イオン水に0.05gの酸化グラフェンと、0.01MのNaWO・2HOとを分散させ混合液Bを調製し、さらに希塩酸を加えて混合液B全体のpHを3に調整し、この混合液Aにニッケルフォーム(2.5×5cm角)を浸漬した。なお、酸化グラフェンは公知のHummer法によって予め合成した。次いで、ニッケルフォームを浸漬した混合液Aを180℃で12時間加熱することで水熱合成し、これにより、ニッケルフォーム上にrGO/WO・0.5HOを形成した。このrGO/WO・0.5HOが形成されたニッケルフォームを「R-WO180」と表記して、負極として用いた。
【0086】
(実施例3)
実施例1-1で得たR-VO150@ROを正極に、実施例2-1で得られたR-WO180@CSを負極に用い、電解質層として、PVA-NSO:K4FCNを用いてAPSCSデバイスを組み立てた。電解質層は、脱イオン水にポリビニルアルコールを溶解し、そこで、NaSO水溶液及びK[Fe(CN)]水溶液を用いて製作した。具体的に、PVA-NSO:K4FCNは、ポリビニルアルコール含有量が5.21質量%、NaSO含有量が0.74質量%、K[Fe(CN)]含有量が0.22質量%であるゲル(残部は水)で構成した。正極と負極はいずれも2.5×2.5cmとした。APSCSデバイスは、固体電解質を正極と負極とで挟んで素子を形成し、この素子をプラスチックパウチに詰めることで、パウチ型スーパーキャパシタを構築した。得られたAPSCSデバイスを「R-VO150@RO//R-WO180@CS」と表記した。
【0087】
(比較例1)
実施例1-1で得たR-VO150@ROを正極に、実施例2-1で得られたR-WO180@CSを負極に用い、電解質として6MのKOH水溶液を用いて素子を形成した。
【0088】
(比較例2)
実施例1-1で得たR-VO150@ROを正極に、実施例2-1で得られたR-WO180@CSを負極に用い、電解質として6MのKOHと0.3MのKFe(CN)との混合溶液を用いて素子を形成した。
【0089】
(評価結果)
図1(A)及び(B)は、実施例1-1及び1-2で得られた正極における正極材料、図1(C)及び(D)は、実施例2-1および2-2で得られた負極における負極材料の走査型電子顕微鏡画像(SEM)を示している。
【0090】
図1から、実施例1-1及び1-2で得られた正極材料及び実施例2-1及び2-2で得られた負極材料は、いわゆるハイブリッドナノ構造を有しており、電気化学反応に有利な多くの電気活性部位を有していることがわかった。特に、実施例1-1では酸化バナジウムの表面が擬似容量性材料である酸化ルテニウムで覆われていることが看取され、実施例2-1では酸化タングステンの表面が、擬似容量性材料であるCuSで覆われていることが看取された。このような構造を有することで、これらの電極を備えるAPSCSは、エネルギー密度、出力密度及び容量維持率に優れることが期待される。
【0091】
図2(A)は、実施例1-1及び1-2で得られた正極における正極材料のラマン分光分析結果、図2(B)は、実施例2-1及び2-2で得られた正極における正極材料のラマン分光分析結果を示している。なお、図2(A)には、実施例1-2において、水熱合成温度を120あるいは180℃に変更して得た正極材料(それぞれR-VO120,R-VO150と表記)のラマン分光分析結果を、図2(A)には、実施例1-2において、水熱合成温度を150あるいは200℃に変更して得た負極材料(それぞれR-WO150,R-WO200と表記)のラマン分光分析結果を示している。
【0092】
図2に示すラマン分析結果において、いずれの正極材料及びいずれの負極材料においてもrGOシートに対応する1350及び1600cm-1付近のピーク(図中、D、Gと表示)が確認された。また、実施例1-1の正極材料においてはV及びRuOが、負極材料においてはWO・0.5HOとCuSが生成していることもわかった。
【0093】
図3は、実施例1-1で得られた正極及び実施例2-1で得られた負極の電気化学特性の評価結果を示す。具体的に、図3(A)は実施例1-1で得られた正極のCV測定の結果、(B)は実施例1-1で得られた負極のPotential(V)-時間プロット(GCD分析結果)を示す。図3(C)は実施例2-1で得られた負極のCV測定の結果、(D)は実施例2-1で得られた負極のPotential(V)-時間プロット(GCD分析結果)を示す。
【0094】
この電気化学特性の評価は、白金電極、Ag/AgCl参照電極及び実施例1-1又は2-1の電極をそれぞれ対電極、参照電極および作用電極として用いた3電極システムで行った。測定走査速度範囲は5~100mVs-1、測定電流密度範囲は0.8~4mAcm-2、電位窓は-0.8~0V(vs Ag/AgCl(電極1cmあたり))とした。1M NaSO水溶液、及び、1M NaSO水溶液と0.1MのK[Fe(CN)]との混合水溶液からそれぞれ得られた固体電解質を電解質とした素子の電気化学特性は、プリンストン電気化学ステーションVersa STAT 4を用いて評価した。電極は1cmサイズとした。
【0095】
図3示す電気化学特性の評価結果から、実施例1-1正極及び実施例2-1の負極共に5-100mVs-1の異なるスキャンレートでのCV曲線下に最大面積があり、最高荷蓄積能力を示した。このことから、R-VO150@RO及びR-WO180@CS電極はそれぞれ1mAcm-2の電流密度で910および930Fg-1の固有容量を示すことがわかった。
【0096】
実施例1-1の正極では、エネルギー密度は126.39Whkg-1、出力密度は0.356kWkg-1、動作電位は、Ag/AgClに対して最大1Vまで拡大し、5000充電放電サイクルで90.34%の容量を維持した。また、1mHzから1MHzの周波数範囲内でナイキストプロット(Nyquistplot)を測定した結果、より低い等価直列抵抗((Rs)(5.1Ωcm-2)及び電荷移動抵抗(Rct)(0.3Ωcm-2)を達成したことが分かった。更に、ボードの位相角対logFプロットから、rGO/VO150@RO電極の位相角は-90°に近く、理想的な容量特性を示した。
【0097】
実施例2-1の負極では、エネルギー密度は116.29Whkg-1、出力密度は0.396kWkg-1、動作電位は、Ag/AgClに対して最大1Vまで拡大し、5000充電放電サイクルで90.34%の容量を維持した。なお、ナイキストおよびボード線図分析は、1mHzから1MHzの周波数範囲で実行された。R-WO180@CS電極を使う場合、ESR、Rp、Rct値はそれぞれ4.13、4.23、および0.1Ωcm-2であった。また、R-WO180@CS電極の中間周波数範囲では約45°付近の傾きを持つ直線を示したことから、電極材料の活性部位への電解質イオンの容易な浸透を示していることも分かった。また、R-WO180@CS負極は、5000GCDサイクルにわたって86.7%の容量維持率を示した。
【0098】
図4は、実施例3で得たAPSCSデバイスのサイクリックボルタンメトリー測定(図4(A))と、エネルギー密度と出力密度の関係(図4(B))とを示している。この測定は、Princeton電気化学ステーションVersaSTAT 4を用い、18~23℃の温度範囲で行った。動作電位ウィンドウ(OPW)は、0.6~2.2Vの範囲内でのCVおよびGCD分析結果から選択した。さらに、CVおよびGCD測定は、5~100mVs-1の走査速度、4~15mAcm-2の電流密度範囲で行った。また、各走査速度および電流密度におけるAPSCSデバイスのCs、EDおよびPDを計算した。なお、実容量と虚容量は、1mHz~1MHzの周波数範囲で測定した。容量保持率は、0~2.1Vの電位内で70mA、10000GCDサイクルにおいて計測した。
【0099】
図4の結果から、実施例3で得たAPSCSデバイスは95Fg-1のCs、38.86Whkg-1のエネルギー密度、0.516kWkg-1の出力密度を達成した。ナイキストプロット解析と周波数プロットから得られたボード位相角から、Rsは7.72Ωcm-2)、Rctは1.51Ωcm-2、ボード位相角は-75°であった。また、実施例3で得たAPSCSデバイスは、0~2.0V範囲の電位内で10000GCDサイクル(30mA)でも87%の容量維持率、4mAの電流密度でも97%のエネルギー効率と、急速充電放電10000サイクルでも98%のクーロン効率を示した(比較例1、2では、液体電解質であることから、当然、液漏れの問題が懸念されるし、また、非特許文献1に示されるように、液体電解質を使用した場合は、エネルギー密度が37.5Wh kg-1、出力密度が187.5W kg-1であることに鑑みても、実施例3で得たAPSCSデバイスは、優れた性能を有していることがわかる)。なお、実施例1-2及び2-2のように、水熱合成温度を変更して得られた正極、負極であっても、実施例3と同様、優れた性能を有するAPSCSデバイスであることを確認した。
【0100】
図5に示すように、発光ダイオード(LED)パネルと、定電圧源(KIKUSUI PMC 18-2A)とを使用して、実施例3で得たAPSCSデバイスのデモンストレーションを行った。このデモは、赤(1.8~~2.5V)(図5C)、黄(2~3V)、緑(2.5~3.5V)(図5D)、青(3~4V)(図5E)及び白(3~4V)(図5F)のいずれかのLEDを2台のAPSCSデバイスに接続して行った。3.5Vの電位で30秒間充電したところ、放電中、高輝度の輝きの赤、黄、緑、青、および白色のLEDが数分間点灯できたことを確認した。
【0101】
次に、図5Gに示すように、133個の赤色LEDで「ECEL IRI」なるシンボルをボード上に作製し、そのシンボルをAPSCSデバイスにより点灯させた(特に図4(F)を参照)。3.5Vの電位で30秒間充電された2つAPSCSデバイスを直列接続し、LEDパネルを介して放電したところ、最大2分間点灯できたことを確認した。なお、図示はしないが、緑色(138個)、黄色(55個)のLEDの組み合わせ(計193LEDランプ)を「G&Y GROUP」なるシンボルにおいても同条件でデモしたところ、2分30秒まで点灯することを確認した。最後に、デジタルストップウォッチ(1.5~3V)を使用して、APSCSデバイスの商業的使用可能性を検討したところ、直列接続された2つのAPSCSデバイス装置を2Vの電位で10秒間充電することで、放電中はストップウォッチを10分間連続運転できることも確認した。
【0102】
以上より、実施例3で得たAPSCSデバイスは、エネルギー密度、出力密度及び容量維持率に優れることが示された。
【0103】
<参考>
NiCo材料はAg/AgClに対して0~0.6Vの電位を達成するのに対し、Vの電位ウィンドウはAg/AgClに対して約0~1Vである。特に、RuOおよびVは、それぞれ複数の酸化状態(Ru3+/Ru4+及びV4+/V5+)を有し、これにより、高い理論容量(それぞれ1.23Vで2200Fg-1と2120Fg-1))を有する。また、適度な許容電気伝導率(多結晶RuO:10Scm-1、アモルファスRuO:約1Scm-1、V:10-4~10-2Scm-1)を有する。さらに、RuOは、MnOと比較して、酸性電解質中の酸素発生に対して大きな静電容量と大きな過電圧を有する。従って、実施例1-1の正極R-VO150@ROは、rGO/NiCo@MnOに比べ、予想以上に格段に優れた電極性能を有していることがわかった。
【0104】
また、WO・0.5HOは、Biと比較して電気化学的性能が高く、安定性が良好である。WO・0.5HOとの電荷蓄積の寄与は、Biと比較すると表面容量の寄与によるものが大きい。したがって、WO・0.5HOと材料を有する負極材料により、電気化学容量の保持が改善される。加えて、酸化タングステンベースの負極材料は、正電極の動作電位ウィンドウ(-0.8V以上)も改善される。従って、実施例2-1の負極R-WO180@CSは、rGO/Biに比べ、予想以上に格段に優れた電極性能を有していることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5