(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】トータルステーションの固定治具及びトータルステーションによる測量方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20240325BHJP
【FI】
G01C15/00 105R
G01C15/00 103A
(21)【出願番号】P 2021015916
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2023-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591284601
【氏名又は名称】株式会社演算工房
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正嘉
(72)【発明者】
【氏名】西田 与志雄
(72)【発明者】
【氏名】近藤 高弘
(72)【発明者】
【氏名】田村 道生
(72)【発明者】
【氏名】川北 潤
(72)【発明者】
【氏名】林 稔
(72)【発明者】
【氏名】森口 晃行
(72)【発明者】
【氏名】松村 匡樹
(72)【発明者】
【氏名】土本 真史
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-131056(JP,A)
【文献】特開2002-206926(JP,A)
【文献】特開2006-133213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測量基準地点と測量対象地点との間の測距と測角とを行うトータルステーションの固定治具であって、
前記トータルステーションは、基台部と、前記基台部から延伸される第1軸を中心に回転可能に取り付けられる架台と、前記架台に前記第1軸に直交するように設けられた第2軸を中心に回転可能に取り付けられた望遠鏡部とを有しており、
前記基台部を設置面に対して固定させるための台座部と、
前記設置面に対して直接又は間接的に端部が固定されるとともに前記架台及び前記望遠鏡部の可動を阻害しないように延伸されて前記架台の頂部を覆う位置まで形成される枠部と、
前記第1軸と対向する位置の前記枠部に軸心が同じになるように取り付けられて前記頂部を回転可能に支持させる支持軸部とを備えたことを特徴とするトータルステーションの固定治具。
【請求項2】
前記枠部の端部は、前記台座部に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のトータルステーションの固定治具。
【請求項3】
前記基台部は、整準を行うための整準部を介して前記台座部に取り付けられることを特徴とする請求項1又は2に記載のトータルステーションの固定治具。
【請求項4】
前記枠部は、略門形又は略L字形に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のトータルステーションの固定治具。
【請求項5】
前記支持軸部は、前記枠部に設けられるベアリング部と、前記ベアリング部に軸支される軸部と、前記軸部の端部を前記頂部に取り付けるための連結部とを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のトータルステーションの固定治具。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のトータルステーションの固定治具を使用したトータルステーションによる測量方法であって、
水平に対して傾いた又は直交する前記設置面に前記固定治具を固定するステップと、
前記固定治具に取り付けられた前記トータルステーションによって4点以上の前記測量基準地点を測定するステップと、
前記トータルステーションによって前記測量対象地点を測定するステップとを備えたことを特徴とするトータルステーションによる測量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測量基準地点と測量対象地点との間の測距と測角とを行うトータルステーションの固定治具、及びそれを使用したトータルステーションによる測量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、トンネルの構築や山留めの施工などの様々な建設現場において、自動追尾式トータルステーションが使用されている。自動追尾式トータルステーションは、測距と測角を単一器械で行うことができ、例えば推進工法であれば、推進管内に所定間隔おきに設置して、トータルステーションについて順次開トラバース測量を展開することで、掘進機の位置や推進管の埋設状況を管理することができる。
【0003】
一方において、特許文献1に記載されているように、急曲線の推進トンネルでは、推進管内の見通し可能な距離が短く、立坑内のトータルステーションから掘進機や推進管内のターゲットが視準しにくくなってしまう現場がある。
【0004】
トータルステーションには、自動的に水平を保持するための自動整準装置が組み込まれているものもあるが、水平を自動的に保持できる範囲にはおのずと限界がある。そこで、推進につれて変化する推進管列の傾斜角に対応して常時水平に保持できるように、トータルステーションを推進管内にフリーな状態で垂設された吊り下げ型(振り子型)の設置台に搭載することが記載されている。
【0005】
この吊り下げ型の設置台は、吊り回転軸が単に回転自在に軸支されているだけなので、測量器械の鉛直度を確保して、揺動状態から静止状態に至るまでに相当な時間がかかり、迅速な計測作業ができないという課題がある。そのために特許文献1では、測量器械設置用台の回転軸にブレーキとダンパーを設け、これらの働きによって掘進に伴う測量器械の揺動を速やかに収束させることができるようにした。
【0006】
また、特許文献2,3には、トータルステーションを設置した後に傾きや平行移動などの変移が生じても、正確な測定が可能となるように、同一平面上にない既知の4点をトータルステーションから測定して、位置ずれを修正することができる測量方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006‐133213号公報
【文献】特開平11‐223527号公報
【文献】特開2002‐22442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された測量器械設置用台は、振り子の原理を利用しているので、壁面や柱面などの鉛直面やそれに近いような面には取り付けることができない。このため鉛直方向の視準も行えない。また、特許文献2,3に開示された既知の4点をトータルステーションから測定して位置ずれを修正する測量方法も、トータルステーションを水平に近い状態で設置して使用することを想定している。
【0009】
そこで、本発明は、トータルステーションを、鉛直に近いような面に設置しても正常に使用することを可能にするトータルステーションの固定治具、及びそれを使用したトータルステーションによる測量方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明のトータルステーションの固定治具は、測量基準地点と測量対象地点との間の測距と測角とを行うトータルステーションの固定治具であって、前記トータルステーションは、基台部と、前記基台部から延伸される第1軸を中心に回転可能に取り付けられる架台と、前記架台に前記第1軸に直交するように設けられた第2軸を中心に回転可能に取り付けられた望遠鏡部とを有しており、前記基台部を設置面に対して固定させるための台座部と、前記設置面に対して直接又は間接的に端部が固定されるとともに前記架台及び前記望遠鏡部の可動を阻害しないように延伸されて前記架台の頂部を覆う位置まで形成される枠部と、前記第1軸と対向する位置の前記枠部に軸心が同じになるように取り付けられて前記頂部を回転可能に支持させる支持軸部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
ここで、前記枠部の端部は、前記台座部に接続されている構成とすることができる。また、前記基台部は、整準を行うための整準部を介して前記台座部に取り付けられる構成であってもよい。さらに、前記枠部は、略門形又は略L字形に形成されている構成とすることができる。また、前記支持軸部は、前記枠部に設けられるベアリング部と、前記ベアリング部に軸支される軸部と、前記軸部の端部を前記頂部に取り付けるための連結部とを有する構成とすることができる。
【0012】
また、トータルステーションによる測量方法の発明は、上記いずれかに記載のトータルステーションの固定治具を使用したトータルステーションによる測量方法であって、水平に対して傾いた又は直交する前記設置面に前記固定治具を固定するステップと、前記固定治具に取り付けられた前記トータルステーションによって4点以上の前記測量基準地点を測定するステップと、前記トータルステーションによって前記測量対象地点を測定するステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このように構成された本発明のトータルステーションの固定治具は、測量基準地点と測量対象地点との間の測距と測角とを行うトータルステーションを取り付けるために用いられる。要するに、トータルステーションの基台部を設置面に対して固定させるための台座部と、トータルステーションの架台や望遠鏡部の可動を阻害しないように設けられる枠部と、トータルステーションの回転軸と軸心が同じになるように取り付けられて架台の頂部を回転可能に支持させる支持軸部とを備えている。
【0014】
このため、トータルステーションを横に傾けても、枠部に取り付けられた支持軸部によって架台の頂部が回転可能に支持されるので、トータルステーションにもともと設けられている機構部への負担の増加を極力抑えることができ、トータルステーションを鉛直設置の場合と同様に正常に使用し続けることができる。
【0015】
また、トータルステーションによる測量方法の発明であれば、水平に対して傾いた設置面や直交する設置面に対して固定治具を介してトータルステーションを設置することで、様々な状況下において、測量対象地点の測定を正常に続けていくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施の形態のトータルステーションの固定治具の取り付け状態の一例を示した説明図である。
【
図2】本実施の形態のトータルステーションの固定治具の構成を説明する正面図である。
【
図6】固定治具に取り付けられたトータルステーションの可動範囲を例示した説明図である。
【
図7】本実施の形態のトータルステーションによる測量方法の各ステップを説明するフローチャートである。
【
図8】4点の測量基準地点を利用した測量対象地点の測量方法を説明するための図である。
【
図9】実施例1のトータルステーションの固定治具の取り付け状態の一例を示した説明図である。
【
図10】実施例1のトータルステーションによる測量方法を模式的に示した説明図である。
【
図11】実施例2のトータルステーションの固定治具の取り付け状態の一例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態のトータルステーション1の固定治具2の取り付け状態の一例を示した説明図である。また、
図2-
図5は、トータルステーション1の固定治具2の構成を説明するための正面図、側面図及び底面図である。
【0018】
本実施の形態の固定治具2に取り付けられるトータルステーション1は、測量基準地点と測量対象地点との間の測距と測角とを行うために用いられる測量器械である。トータルステーション1は、可視光半導体レーザ光源から出射される射出光を目標反射物に照射することにより、目標反射物までの距離計測、水平角測定及び高度角測定を行うことができる。
【0019】
トータルステーション1は、基台部111(
図11参照)と、基台部111に取り付けられる整準を行うための整準部11と、基台部111に対して回転可能に設けられる架台12と、架台12に回転可能に取り付けられる望遠鏡部13とを備えている。
【0020】
整準部11は、測量器械の鉛直軸を鉛直方向に合わせて器械の中心を測標に一致させる整準作業を行うための整準ねじを備えている。なお、基台部111と整準部11とは、自在に切り離せる構成であっても、一体の構成であってもよい。
【0021】
整準部11によって水平となるように調整される架台12は、基台部111から延伸される第1軸となる鉛直軸を中心に水平方向の回転が可能となるように基台部111に軸支される。
【0022】
架台12には、表示部を有する操作入力部が取り付けられ、表示部には測定対象物までの距離や角度の測定値などが表示される。そして、
図1及び
図2に示すように、門形に形成される架台12の一対の柱間には、第1軸(鉛直軸)に直交するように設けられた第2軸(水平軸)を中心に回転可能に望遠鏡部13が取り付けられる。この望遠鏡部13の上方には、吊り手などとして利用される架台12の頂部121が設けられている。
【0023】
架台12の一対の柱と頂部121とに囲まれた空間内で鉛直方向の回転が可能となる望遠鏡部13では、可視光半導体レーザ光源の射出光を合焦レンズにより集光調整して射出させ、目標反射物で反射された反射光を対物レンズに入射させる。対物レンズにより集光される反射光は、受光素子に導かれて光電変換され電気信号となる。そして、この電気信号が、電気回路とマイクロコンピュータにより、増幅及び波形変換並びに処理されて距離計測値として出力される。
【0024】
要するに、本実施の形態の固定治具2に取り付けられるトータルステーション1は、公知の鉛直に設置されて使用される測量器械である。このトータルステーション1の構成については、いずれの汎用の測量器械であっても使用することができる。
【0025】
本実施の形態のトータルステーション1の固定治具2は、鉛直に設置されて使用されることを前提にした汎用の測量器械を、鉛直に近いような設置面に対して設置しても、正常に使用することができるようにするための治具である。
【0026】
図1は、鉛直な設置面となる柱面や山留壁などの壁面Mに固定治具2を介してトータルステーション1を設置した状態を示している。このような横使いにされた場合のトータルステーション1の上述した水平方向の回転は第1回転方向R1となり、鉛直方向の回転は第2回転方向R2となる。
【0027】
本実施の形態のトータルステーション1の固定治具2は、
図2に示すように、トータルステーション1の整準部11の下面に固定される台座部21と、架台12及び望遠鏡部13の可動を阻害しないように延伸されて架台12の頂部121を覆う位置まで形成される枠部3と、頂部121を回転可能に支持させる支持軸部4とによって主に構成される。
【0028】
台座部21には、
図3及び
図4に示すように、壁面Mにアンカーボルト23などで固定させるための底面部211が張り出されている。すなわち
図4に示すように、鍔状に張り出された底面部211を壁面Mに押し当てた状態で、アンカーボルト23を打ち込むことで、台座部21を壁面Mに固定することができる。
【0029】
この台座部21には、
図2及び
図3に示すように、トータルステーション1の整準部11のねじ孔にねじ込むことができる固定ボルト22が取り付けられている。すなわち、三脚の頭部に取り付けるために元々、整準部11に設けられているねじ孔を利用して、台座部21にトータルステーション1を取り付ける。要するにトータルステーション1の基台部111は、整準部11を介して台座部21に取り付けられる。
【0030】
この台座部21に対して、本実施の形態の固定治具2では、側面視略門形の枠部3を取り付ける。要するに枠部3は、設置面となる壁面Mに対して台座部21を介して間接的に固定される。詳細には、枠部3は、
図2に示すように、台座部21に一方の端部が接続される下枠部31及び上枠部33と、下枠部31及び上枠部33の他方の端部間を繋ぐ横枠部32とを備えている。
【0031】
上下に平行に配置される下枠部31と上枠部33は、例えば
図3に示すような断面視コ字形の部材によって形成される。また、下枠部31及び上枠部33と台座部21との接合は、接合ネジ34などによって行われる。
【0032】
一方、横枠部32は、
図4及び
図5に示すように、長方形の板状に形成され、下枠部31及び上枠部33の端部に接合ネジ34などによって接合される。そして、この横枠部32の中央には、支持軸部4が設けられる。
【0033】
支持軸部4は、
図2に示すように、枠部3の横枠部32に設けられるベアリング部42と、ベアリング部42に軸支される軸部41と、軸部41の端部を頂部121に取り付けるための連結部43とを備えている。
【0034】
ベアリング部42は、これに対して垂直に挿し込まれる軸部41の軸心回りの回転を、正確かつ滑らかに行わせるための軸受である。ベアリング部42によって軸受されない側の軸部41の端部は、トータルステーション1の架台12の頂部121の孔に挿し込まれて、ナットなどで頂部121に固定される。この頂部121に固定するための構成が連結部43となる。
【0035】
このようにして固定治具2に取り付けられたトータルステーション1は、
図6に示すように、台座部21上で第1回転方向R1に360度、いずれの方向にも回転させることができる。すなわち、トータルステーション1の本来の水平方向の回転(可動)は、固定治具2によって阻害されることはない。また、トータルステーション1の架台12の内側で行われる本来の鉛直方向の回転(可動)も、固定治具2によって阻害されることはない。
【0036】
次に、本実施の形態のトータルステーション1の固定治具2を使用したトータルステーション1による測量方法について、
図7に示したフローチャートを参照しながら説明する。
まずステップS1では、山留壁などの水平に対して傾いた面又は鉛直面となる壁面Mに固定治具2の台座部21をアンカーボルトなどで固定する。
【0037】
続いてステップS2では、台座部21の固定ボルト22によって、固定治具2にトータルステーション1を取り付ける。この固定治具2へのトータルステーション1の取り付けは、壁面Mへの固定前に行ってもよい。
【0038】
そして、壁面Mに設置されたトータルステーション1による測量を行う。ここでは、4点以上の測量基準地点を利用した測量を行う場合について説明する。
図8は、4点の測量基準地点を利用して2点の測量対象地点の測量方法の説明図である。
【0039】
この測量方法は、既知座標値を有する空間上の4点以上の基準点(測量基準地点)をトータルステーション1でそれぞれ測定し、トータルステーション1自身の姿勢を特殊アルゴリズムで補正して、測点座標(測量対象地点の座標)を基準点座標系(絶対座標系)で求める手法である。要するに、トータルステーション1を従来の測量方法の様に鉛直に設置する必要がない測定手法である。
【0040】
基準点は、
図8に示すように、予め現地絶対座標値(x、y、z)を持っており、トータルステーション1では、水平角H、鉛直角V及び斜距離Lを、基準点(測量基準地点)と測点(測量対象地点)の測量値として計測する。
【0041】
そして、4点の基準点の三次元の既知の座標行列を、トータルステーション1で測量した測量値から単純直交座標に変換して、基準点の測定座標値を求める。続いて、測点についても、単純に三次元座標値を変換して測点座標値行列を求め、各測点の絶対座標値を算出する。こうした演算の結果、トータルステーション1の設置座標値を求めることができる。
【0042】
要するに、固定治具2に取り付けられたトータルステーション1によって、ステップS3では、4点以上の測量基準地点の測定を行う。続いてステップS4では、例えば2点の測量対象地点の測定を行う。そして、これらの測量値を、上述した計算方法により演算させることで、トータルステーション1の設置座標値の算定と測量対象地点の座標値の算定とを行う(ステップS5)。
【0043】
次に、本実施の形態のトータルステーション1の固定治具2、及びそれを使用したトータルステーション1による測量方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態のトータルステーション1の固定治具2は、測量基準地点と測量対象地点との間の測距と測角とを行うトータルステーション1を取り付けるために用いられる。
【0044】
この固定治具2は、トータルステーション1の整準部11の下面に固定される台座部21と、トータルステーション1の架台12や望遠鏡部13の可動を阻害しないように設けられる枠部3と、トータルステーション1の回転軸(第1回転方向R1の回転軸)と軸心が同じになるように取り付けられて架台12の頂部121を回転可能に支持させる支持軸部4とを備えている。
【0045】
このため、トータルステーション1を水平に近い状態に傾けても、枠部3に取り付けられた支持軸部4によって架台12の頂部121が回転可能に支持されているので、トータルステーション1にもともと設けられている回転機構への負担の増加を極力抑えることができ、トータルステーション1を鉛直設置の場合と同様に正常に使用し続けることができる。
【0046】
すなわち汎用のトータルステーション1は、もともと鉛直に設置して使用することを想定しており、自身の重心が整準部11の端部を超えるほど傾けて使用すると、架台12や望遠鏡部13の重量によって回転機構などの機構部に想定以上の負荷が作用することになる。このような想定外の荷重が作用した状態で使用が続けられると、機構部が損傷したり、正常な測量を行うことができなくなったりするおそれがある。
【0047】
これに対して、固定治具2の支持軸部4によって、第1回転方向R1の回転が自在になるようにトータルステーション1の架台12の頂部121が支持されていれば、追加された負荷が支持軸部4を介して固定治具2によって負担されることになり、トータルステーション1がもともと備えている機構部の摩耗などの損傷を防ぐことができる。
【0048】
支持軸部4を設ける固定治具2の枠部3を側面視略門形として端部を台座部21に接続させることで、台座部21と併せて剛性の高い形状になるので、壁面Mや柱面から張り出されたトータルステーション1の整準部11の反対側を、確実に支持させることができる。また、支持軸部4を、ベアリング構造の軸受にすることで、トータルステーション1の第1回転方向R1の回転を、円滑かつ正確に行わせることが簡単にできるようになる。
【0049】
また、本実施の形態のトータルステーション1による測量方法であれば、水平に対して傾いた設置面や直交する設置面に対して固定治具2を介してトータルステーション1を設置することで、様々な状況下において、測量対象地点の測定を正常に続けていくことができる。
【実施例1】
【0050】
以下、前記実施の形態で説明したトータルステーション1の固定治具2とは別の形態の実施例1の固定治具2Aについて、
図9及び
図10を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を用いて説明する。
【0051】
本実施例1で説明するトータルステーション1の固定治具2Aは、
図9に示すように、前記実施の形態で説明した固定治具2の上枠部33に相当する部材が設けられていない。すなわち、トータルステーション1の下半側にのみ枠部3Aが設けられている。
【0052】
実施例1の固定治具2Aは、下半側にのみ枠部3Aを設ける構成となっているので、台座部21Aも、トータルステーション1の整準部11を取り付ける固定ボルト22の高さまで設けられていればよい。
【0053】
そして、枠部3Aは、台座部21Aに一方の端部が接続される下枠部31と、下枠部31の他方の端部に接続される横枠部32Aとを備えている。この横枠部32Aも、トータルステーション1の架台12の頂部121に固定される支持軸部4の高さまで設けられていればよい。要するに、片持ち梁状に張り出された下枠部31によって、架台12の頂部121が支持されることになる。
【0054】
図10は、実施例1の固定治具2Aを使用した測量方法を模式的に示した説明図である。実施例1の固定治具2Aの枠部3Aは、望遠鏡部13による視準の障害になる部分が上半側にないため、上方のすべての位置を視準することができる。なお、前記実施の形態で説明した固定治具2であっても、90°回転させて平面視で枠部3が門形に見えるように設置することで、上方や下方のすべての位置を視準することができるようになる。
【0055】
そこで、立坑Tの坑口付近の4点の引照点1-4を3次元座標が既知の測量基準地点として、上述した計算方法による測量を行うことができるようになる。そして、測量対象地点として、下枠部31があっても視準できる立坑Tの底面の2点を引照点5,6とすればよい。こうした測量によって新たに絶対座標値が判明した2点の引照点5,6から、立坑Tの底面にポイントPを設置することができる。
【0056】
このように構成された実施例1のトータルステーション1の固定治具2Aは、上半側が開放された側面視略L字形の枠部3Aに形成されている。このため、トータルステーション1の上半側は、制限を受けることなくすべての角度で測量を行うことができる。また、側面視略L字形とすることで、構成部材の少ない枠部3Aとすることができる。
【0057】
こうした測量方法は、従来、立坑Tで行われていた複数の作業員によって行われる下げ振りを使用した測量方法と比べて、極めて短い時間に精度の高い測量を、1人の作業員によって実施することができる。
なお、実施例1のこの他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるため説明を省略する。
【実施例2】
【0058】
以下、前記実施の形態及び実施例1で説明したトータルステーション1の固定治具2,2Aとは別の形態の実施例2の固定治具2Bについて、
図11を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を用いて説明する。
【0059】
本実施例2で説明するトータルステーション1の固定治具2Bには、整準部11を切り離して基台部111を露出させた状態のトータルステーション1を取り付ける。すなわち、基台部111に台座部21Bを直接、装着して、台座部21Bを、設置面となる壁面Mに溶接やアンカーボルトなどで固定する。
【0060】
一方、枠部3Bは、下枠部31Bの端部と、上枠部33Bの端部とが、直接、設置面となる壁面Mに固定される。例えば、下枠部31Bの端部をアンカーボルト23で壁面Mに固定するとともに、上枠部33Bの端部もアンカーボルト23で壁面Mに固定する。要するに、台座部21Bと枠部3Bとが別体として設けられる。
【0061】
このように整準部11を外したトータルステーション1であっても、実施例2の固定治具2Bを使用して、柱面や壁面Mなどに簡単に取り付けることができる。
なお、実施例2のこの他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例1と略同様であるため説明を省略する。
【0062】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0063】
例えば、前記実施の形態及び実施例では特に説明しなかったが、トータルステーション1が自動追尾式のトータルステーションで、固定治具2,2A,2Bに取り付けられた状態で自動追尾の測量が繰り返し行われる構成であってもよい。
【0064】
また、前記実施の形態及び実施例では、直線状の下枠部31,31Bや上枠部33,33Bを例示して説明したが、これに限定されるものではなく、下枠部や上枠部を円弧形状やアーチ形状にするなど、必要とされる剛性が確保できる形状であれば、様々な形状の枠部とすることができる。
【0065】
さらに、前記実施例1では、上半側が開放された側面視略L字形の枠部3Aを備えた固定治具2Aについて説明したが、これに限定されるものではなく、下半側が開放された側面視略L字形の枠部を備えた固定治具にすることもできる。
【0066】
また、前記実施の形態及び実施例では、山留工事や立坑Tにおける測量においてトータルステーション1を横使いにする場合について説明したが、これに限定されるものではなく、高低差の大きい傾斜した構造物の測量や、鉛直面に対して円周軌道を描くような構造物の測量などにおいても、あらゆる方向に傾斜させることが可能となる本発明の固定治具を使用することによって、高精度で効率的な測量が行えるようになる。
【符号の説明】
【0067】
1 :トータルステーション
11 :整準部
111 :基台部
12 :架台
121 :頂部
13 :望遠鏡部
2,2A,2B:固定治具
21,21A,21B:台座部
3,3A,3B:枠部
4 :支持軸部
41 :軸部
42 :ベアリング部
43 :連結部
M :壁面(設置面)
R1 :第1回転方向(第1軸を中心に回転する方向)
R2 :第2回転方向(第2軸を中心に回転する方向)