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特許7458618被験者に関する状態の変化の影響を定量化するためのシステム、方法、およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】被験者に関する状態の変化の影響を定量化するためのシステム、方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20240325BHJP
【FI】
G16H50/30
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2023537409
(86)(22)【出願日】2023-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2023002729
(87)【国際公開番号】W WO2023145904
(87)【国際公開日】2023-08-03
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2022011083
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】堀内 (岩▲崎▼) 美帆
(72)【発明者】
【氏名】森戸 勇介
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭介
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭良
(72)【発明者】
【氏名】水野 敬
(72)【発明者】
【氏名】堀 翔太
(72)【発明者】
【氏名】矢野 (坂田) 洋子
【審査官】玉木 宏治
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-030038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 50/22
G16H 10/00-80/00
G06F 16/00-16/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステムであって、前記所定の期間中に生じる前記変化は、少なくとも、第1の状態から第2の状態への変化を含み、前記システムは、
前記被験者から測定されたデータを受信する受信手段であって、前記データは、心拍数もしくは心拍変動に基づく自律神経指標、体温関連指標、血圧・血流関連指標、発汗関連指標、精神関連指標のうちの少なくとも1つを含み、前記データは、前記第1の状態における前記被験者から測定された第1のデータと、前記第2の状態における前記被験者から測定された第2のデータとを少なくとも含む、受信手段と、
前記受信されたデータから、少なくとも、前記所定の期間中の前記被験者への負荷の蓄積を表す第1の成分および前記変化に追随して変動する第2の成分を導出する導出手段であって、前記導出手段は、前記受信されたデータが前記第1の成分および前記第2の成分を有するものと仮定して、前記第1の成分および前記第2の成分を成分として有する数理モデルを前記受信されたデータに対して適用することによって、前記受信されたデータから前記第1の成分および前記第2の成分を導出する、導出手段と、
前記導出された第1の成分および第2の成分のうちの少なくとも1つを出力する出力手段と
を備えるシステム。
【請求項2】
前記変化は、温度変化を含み、前記データは、心拍数もしくは心拍変動に基づく自律神経指標および膚温度のうちの少なくとも1つと、肉体疲労指標とを含み、
前記導出手段が前記自律神経指標および膚温度のうちの前記少なくとも1つから導出する第1の成分は、実際の身体への負荷の蓄積を表し、
前記導出手段が前記肉体疲労指標から導出する第1の成分は、主観的な疲労の蓄積を表す、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記数理モデルは、前記変化に依存しない第3の成分を成分としてさらに有し、
前記導出手段は、前記数理モデルを前記受信されたデータに対して適用することによって、前記受信されたデータから前記第1の成分、前記第2の成分、および前記第3の成分を導出する、請求項に記載のシステム。
【請求項4】
前記第3の成分は、前記変化が存在しない場合における前記所定の期間の前記被験者または他の被験者から測定されたデータに基づいている、請求項に記載のシステム。
【請求項5】
前記数理モデルの各成分は、それぞれの成分の時系列変動を、所定の分布に従う局所的な変動を用いて表される、請求項に記載のシステム。
【請求項6】
前記所定の分布は、正規分布、Cauchy分布、2項分布、ポアソン分布、多項分布、ベルヌーイ分布のうち少なくとも1つを含む、請求項に記載のシステム。
【請求項7】
前記受信手段は、前記第1の状態から前記第2の状態への変化を規定する変化情報をさらに受信し、
前記数理モデルの前記第2の成分は、前記変化情報に基づいてモデル化されている、請求項に記載のシステム。
【請求項8】
前記被験者に関する状態は、前記被験者の環境の状態を含み、
前記被験者の環境の状態の変化は、周期的な変化または事象に関連した変化であり、
前記変化情報は、前記変化の周期または前記変化のタイミングを含む、請求項に記載のシステム。
【請求項9】
前記被験者に関する状態は、前記被験者の環境の状態を含み、
前記被験者の環境の状態の変化は、温度の変化、湿度の変化、輻射の変化、空気の質の変化、気流の変化のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記被験者に関する状態は、前記被験者の活動の状態を含み、
前記被験者の活動の状態の変化は、周期的な変化または事象に関連した変化であり、
前記変化情報は、前記変化の周期または前記変化のタイミングを含む、請求項に記載のシステム。
【請求項11】
前記被験者に関する状態は、前記被験者の活動の状態を含み、
前記被験者の活動の状態の変化は、着衣に関する状態の変化、就業に関する状態の変化、運動に関する状態の変化、睡眠に関する状態の変化、食事に関する状態の変化、排泄に関する状態の変化のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記所定の期間中に生じる前記変化は、前記第2の状態から第3の状態への変化をさらに含み、
前記データは、前記第3の状態における前記被験者から測定された第3のデータをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記出力された第1の成分および2の成分のうちの少なくとも1つが所定の閾値を超えたときに発報する発報手段をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
少なくとも前記出力された第1の成分および2の成分のうちの少なくとも1つに基づいて、前記変化による前記被験者に対する負荷の指標を推定または予測する推定または予測手段をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記推定または予測手段は、前記第1の成分および記第2の成分のうちの少なくとも1つの将来の変動を予測する、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
少なくとも前記出力された第1の成分および2の成分のうちの少なくとも1つに基づいて、環境調節機器を制御する制御手段をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記制御手段は、前記出力された第1の成分および2の成分のうちの少なくとも1つが所定の閾値を超えたときに、
前記第1の成分および2の成分のうちの前記少なくとも1つを増加または減少させる環境を決定することと、
前記環境を達成するように前記環境調節機器を制御することと
を行うように構成されている、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記第1の成分は、各状態において単調増加または単調減少する成分であり、
前記第2の成分は、各状態において所定の値に近づくように変化する成分である、請求項1~17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
所定の期間中の被験者に関する状態の変化の影響を定量化するためのシステムであって、前記変化は、少なくとも、第1の状態から第2の状態への変化を含み、前記システムは、
前記被験者から測定されたデータを受信する受信手段であって、前記データは、心拍数もしくは心拍変動に基づく自律神経指標、体温関連指標、血圧・血流関連指標、発汗関連指標、精神関連指標のうちの少なくとも1つを含み、前記データは、前記第1の状態における前記被験者から測定された第1のデータと、前記第2の状態における前記被験者から測定された第2のデータとを少なくとも含む、受信手段と、
前記受信されたデータから、第1の成分、第2の成分、および第3の成分を導出する導出手段であって、前記導出手段は、前記受信されたデータが前記第1の成分と前記第2の成分と前記第3の成分を有するものと仮定して、前記第1の成分と前記第2の成分と前記第3の成分とを成分として有する数理モデルを前記受信されたデータに対して適用することによって、前記受信されたデータから前記第1の成分、前記第2の成分、および前記第3の成分を導出する導出手段と、
前記導出された第1の成分および2の成分のうちの少なくとも1つを出力する出力手段と
を備えるシステム。
【請求項20】
所定の期間中の被験者に関する状態の変化の影響を定量化するためのシステムであって、前記変化は、少なくとも、第1の状態から第2の状態への変化を含み、前記システムは、
前記被験者から測定されたデータを受信する受信手段であって、前記データは、前記第1の状態における前記被験者から測定された第1のデータと、前記第2の状態における前記被験者から測定された第2のデータと、前記第1の状態から前記第2の状態への変化を規定する変化情報とを少なくとも含む、受信手段と、
前記受信されたデータから、第1の成分、第2の成分、および第3の成分を導出する導出手段であって、前記導出手段は、前記受信されたデータが前記第1の成分と前記第2の成分と前記第3の成分を有するものと仮定して、前記第1の成分と前記第2の成分と前記第3の成分とを成分として有する数理モデルを前記受信されたデータに対して適用することによって、前記受信されたデータから前記第1の成分、前記第2の成分、および前記第3の成分を導出、前記数理モデルにおける前記第2の成分は、前記変化情報に基づいてモデル化されている、導出手段と、
前記導出された第1の成分および2の成分のうちの少なくとも1つを出力する出力手段と
を備え、前記データは、心拍数もしくは心拍変動に基づく自律神経指標、体温関連指標、血圧・血流関連指標、発汗関連指標、精神関連指標のうちの少なくとも1つを含む、システム。
【請求項21】
被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するための方法であって、前記所定の期間中に生じる前記変化は、少なくとも、第1の状態から第2の状態への変化を含み、前記方法は、プロセッサ部を備えるコンピュータにおいて実行され、前記方法は、
前記プロセッサ部が、前記被験者から測定されたデータを受信することであって、前記データは、心拍数もしくは心拍変動に基づく自律神経指標、体温関連指標、血圧・血流関連指標、発汗関連指標、精神関連指標のうちの少なくとも1つを含み、前記データは、前記第1の状態における前記被験者から測定された第1のデータと、前記第2の状態における前記被験者から測定された第2のデータとを少なくとも含む、ことと、
前記プロセッサ部が、前記受信されたデータから、少なくとも、前記所定の期間中の前記被験者への負荷の蓄積を表す第1の成分および前記変化に追随して変動する第2の成分を導出することであって、前記導出することは、前記受信されたデータが前記第1の成分および前記第2の成分を有するものと仮定して、前記第1の成分および前記第2の成分を成分として有する数理モデルを前記受信されたデータに対して適用することによって、前記受信されたデータから前記第1の成分および前記第2の成分を導出することを含む、ことと、
前記プロセッサ部が、前記導出された第1の成分および第2の成分のうちの少なくとも1つを出力することと
を含む方法。
【請求項22】
被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのプログラムであって、前記所定の期間中に生じる前記変化は、少なくとも、第1の状態から第2の状態への変化を含み、前記プログラムは、プロセッサ部を備えるコンピュータにおいて実行され、前記プログラムは、
前記被験者から測定されたデータを受信することであって、前記データは、心拍数もしくは心拍変動に基づく自律神経指標、体温関連指標、血圧・血流関連指標、発汗関連指標、精神関連指標のうちの少なくとも1つを含み、前記データは、前記第1の状態における前記被験者から測定された第1のデータと、前記第2の状態における前記被験者から測定された第2のデータとを少なくとも含む、ことと、
前記受信されたデータから、少なくとも、前記所定の期間中の前記被験者への負荷の蓄積を表す第1の成分および前記変化に追随して変動する第2の成分を導出することであって、前記導出することは、前記受信されたデータが前記第1の成分および前記第2の成分を有するものと仮定して、前記第1の成分および前記第2の成分を成分として有する数理モデルを前記受信されたデータに対して適用することによって、前記受信されたデータから前記第1の成分および前記第2の成分を導出することを含む、ことと、
前記導出された第1の成分および第2の成分のうちの少なくとも1つを出力することと
を含む処理を前記プロセッサ部に行わせる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者に関する状態の変化の影響を定量化するためのシステム、方法、およびプログラムに関する。特に、本発明は、第1の状態から第2の状態への変化を含む、所定の期間中に生じる変化の影響を定量化するためのシステム等に関する。
【背景技術】
【0002】
生体から得られる情報から、生体の熱障害に対する状態を判定する技術がある(例えば、特許文献1)。しかしながら、変化が生体に与える影響を定量的に評価する手法は十分には確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-38839号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の発明者らは、変化(例えば、被験者の環境の状態の変化、被験者の活動の状態の変化)が生体に与える影響を定量的に評価することで、変化に対処するためのソリューションを提供することができると考え、鋭意研究の結果、被験者に関する状態の変化の影響を定量化するための新規システム等を開発した。
【0005】
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステムであって、前記所定の期間中に生じる前記変化は、少なくとも、第1の状態から第2の状態への変化を含み、前記システムは、
前記被験者から測定されたデータを受信する受信手段であって、前記データは、前記第1の状態における前記被験者から測定された第1のデータと、前記第2の状態における前記被験者から測定された第2のデータとを少なくとも含む、受信手段と、
前記受信されたデータから、少なくとも、前記所定の期間中の前記被験者への負荷の蓄積を表す第1の成分および前記変化に追随して変動する第2の成分を導出する導出手段と、
前記導出された第1の成分および第2の成分のうちの少なくとも1つを出力する出力手段と
を備えるシステム。
(項目2)
前記導出手段は、前記第1の成分および第2の成分を成分として有する数理モデルを前記受信されたデータに対して適用することによって、前記受信されたデータから前記第1の成分および第2の成分を導出する、項目1に記載のシステム。
(項目3)
前記数理モデルは、前記変化に依存しない第3の成分を成分としてさらに有し、
前記導出手段は。前記数理モデルを前記受信されたデータに対して適用することによって、前記受信されたデータから前記第1の成分、前記第2の成分、および前記第3の成分を導出する、項目2に記載のシステム。
(項目4)
前記第3の成分は、前記変化が存在しない場合における前記所定の期間の前記被験者または他の被験者から測定されたデータに基づいている、項目3に記載のシステム。
(項目5)
前記数理モデルの各成分は、それぞれの成分の時系列変動を、所定の分布に従う局所的な変動を用いて表される、項目2~4のいずれか一項に記載のシステム。
(項目6)
前記所定の分布は、正規分布、Cauchy分布、2項分布、ポアソン分布、多項分布、ベルヌーイ分布のうち少なくとも1つを含む、項目5に記載のシステム。
(項目7)
前記受信手段は、前記第1の状態から前記第2の状態への変化を規定する変化情報をさらに受信し、
前記数理モデルの前記第2の成分は、前記変化情報に基づいてモデル化されている、項目2~6のいずれか一項に記載のシステム。
(項目8)
前記被験者に関する状態は、前記被験者の環境の状態を含み、
前記被験者の環境の状態の変化は、周期的な変化または事象に関連した変化であり、
前記変化情報は、前記変化の周期または前記変化のタイミングを含む、項目7に記載のシステム。
(項目9)
前記被験者に関する状態は、前記被験者の環境の状態を含み、
前記被験者の環境の状態の変化は、温度の変化、湿度の変化、輻射の変化、空気の質の変化、気流の変化のうちの少なくとも1つである、項目1~8のいずれか一項に記載のシステム。
(項目10)
前記被験者に関する状態は、前記被験者の活動の状態を含み、
前記被験者の活動の状態の変化は、周期的な変化または事象に関連した変化であり、
前記変化情報は、前記変化の周期または前記変化のタイミングを含む、項目7または8に記載のシステム。
(項目11)
前記被験者に関する状態は、前記被験者の活動の状態を含み、
前記被験者の活動の状態の変化は、着衣に関する状態の変化、就業に関する状態の変化、運動に関する状態の変化、睡眠に関する状態の変化、食事に関する状態の変化、排泄に関する状態の変化のうちの少なくとも1つである、項目1~10のいずれか一項に記載のシステム。
(項目12)
前記所定の期間中に生じる前記変化は、前記第2の状態から第3の状態への変化をさらに含み、
前記データは、前記第3の状態における前記被験者から測定された第3のデータをさらに含む、項目1~11のいずれか一項に記載のシステム。
(項目13)
前記データは、心拍数もしくは心拍変動に基づく自律神経指標、皮膚温度、発汗指標、血圧、心理評価値のうちの少なくとも1つを含む、項目1~12に記載のシステム。
(項目14)
前記出力された第1の成分および/または第2の成分が所定の閾値を超えたときに発報する発報手段をさらに備える、項目1~13のいずれか一項に記載のシステム。
(項目15)
少なくとも前記出力された第1の成分および/または第2の成分に基づいて、前記変化による前記被験者に対する負荷の指標を推定または予測する推定/予測手段をさらに備える、項目1~14のいずれか一項に記載のシステム。
(項目16)
前記推定/予測手段は、前記第1の成分および/または前記第2の成分の将来の変動を予測する、項目15に記載のシステム。
(項目17)
少なくとも前記出力された第1の成分および/または第2の成分に基づいて、環境調節機器を制御する制御手段をさらに備える、項目1~16のいずれか一項に記載のシステム。
(項目18)
前記制御手段は、前記出力された第1の成分および/または第2の成分が所定の閾値を超えたときに、
前記第1の成分および/または第2の成分を増加または減少させる環境を決定することと、
前記環境を達成するように前記環境調節機器を制御することと
を行うように構成されている、項目17に記載のシステム。
(項目18A)
前記第1の成分は、各状態において単調増加または単調減少する成分であり、
前記第2の成分は、各状態において所定の値に近づくように変化する成分である、請求項1~18のいずれか一項に記載のシステム。
(項目19)
所定の期間中の被験者に関する状態の変化の影響を定量化するためのシステムであって、前記変化は、少なくとも、第1の状態から第2の状態への変化を含み、前記システムは、
前記被験者から測定されたデータを受信する受信手段であって、前記データは、前記第1の状態における前記被験者から測定された第1のデータと、前記第2の状態における前記被験者から測定された第2のデータとを少なくとも含む、受信手段と、
前記受信されたデータに対して、第1の成分と第2の成分と第3の成分とを成分として有する数理モデルを前記受信されたデータに対して適用することによって、前記受信されたデータから前記第1の成分、前記第2の成分、および前記第3の成分を導出する導出手段と、
前記導出された第1の成分および/または第2の成分を出力する出力手段と
を備えるシステム。
(項目19A)
上記項目のうちの1つまたは複数に記載の特徴を備える、項目19に記載のシステム。(項目20)
所定の期間中の被験者に関する状態の変化の影響を定量化するためのシステムであって、前記変化は、少なくとも、第1の状態から第2の状態への変化を含み、前記システムは、
前記被験者から測定されたデータを受信する受信手段であって、前記データは、前記第1の状態における前記被験者から測定された第1のデータと、前記第2の状態における前記被験者から測定された第2のデータと、前記第1の状態から前記第2の状態への変化を規定する変化情報とを少なくとも含む、受信手段と、
第1の成分と第2の成分と第3の成分とを成分として有する数理モデルを前記受信されたデータに対して適用することによって、前記受信されたデータから前記第1の成分、前記第2の成分、および前記第3の成分を導出することであって、前記数理モデルにおける前記第2の成分は、前記変化情報に基づいてモデル化されている。導出手段と、
前記導出された第1の成分および/または第2の成分を出力する出力手段と
を備え、前記データは、心拍数もしくは心拍変動に基づく自律神経指標、皮膚温度、発汗指標、血圧、心理評価値のうちの少なくとも1つを含む、システム。
(項目20A)
上記項目のうちの1つまたは複数に記載の特徴を備える、項目20に記載のシステム。(項目21)
被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するための方法であって、前記所定の期間中に生じる前記変化は、少なくとも、第1の状態から第2の状態への変化を含み、前記方法は、
前記被験者から測定されたデータを受信することであって、前記データは、前記第1の状態における前記被験者から測定された第1のデータと、前記第2の状態における前記被験者から測定された第2のデータとを少なくとも含む、ことと、
前記受信されたデータから、少なくとも、前記所定の期間中の前記被験者への負荷の蓄積を表す第1の成分および前記変化に追随して変動する第2の成分を導出することと、
前記導出された第1の成分および第2の成分のうちの少なくとも1つを出力することと
を含む方法。
(項目21A)
上記項目のうちの1つまたは複数に記載の特徴を備える、項目21に記載の方法。
(項目22)
被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのプログラムであって、前記所定の期間中に生じる前記変化は、少なくとも、第1の状態から第2の状態への変化を含み、前記プログラムは、プロセッサ部を備えるコンピュータにおいて実行され、前記プログラムは、
前記被験者から測定されたデータを受信することであって、前記データは、前記第1の状態における前記被験者から測定された第1のデータと、前記第2の状態における前記被験者から測定された第2のデータとを少なくとも含む、ことと、
前記受信されたデータから、少なくとも、前記所定の期間中の前記被験者への負荷の蓄積を表す第1の成分および前記変化に追随して変動する第2の成分を導出することと、
前記導出された第1の成分および第2の成分のうちの少なくとも1つを出力することと
を含む処理を前記プロセッサ部に行わせる、プログラム。
(項目22A)
上記項目のうちの1つまたは複数に記載の特徴を備える、項目22に記載のプログラム。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、被験者に関する状態の変化の影響を定量化するためのシステム等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の手法によって導出された成分を使用して、変化による被験者への影響を被験者に知らせる例を概略的に示す図
図2】本発明の手法によって導出された成分を使用して、被験者の周囲環境を制御する例を概略的に示す図
図3】本発明の手法によって導出された成分を使用して、被験者への現在の負荷量を推定し、または、将来の負荷量を予測する例を概略的に示す図
図4A】被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステム100の構成の一例を示す図
図4B】被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステム100の別の実施形態である、システム100’の構成の一例を示す図
図4C図4Cは、被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステム100の別の実施形態である、システム100’’の構成の一例を示す図
図5】被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステム100における処理500の一例を示すフローチャート
図6A】実施例1の結果を示す図
図6B】実施例1の結果を示す図
図6C】実施例1の結果を示す図
図6D】実施例1の結果を示す図
図6E】実施例1の結果を示す図
図7A】実施例2の結果を示す図
図7B】実施例2の結果を示す図
図7C】実施例2の結果を示す図
図7D】実施例2の結果を示す図
図7E】実施例2の結果を示す図
図8】実施例3の結果を示す図
図9】実施例4の結果を示す図
図10A】実施例5Aの結果を示す図
図10B】実施例5Aの結果を示す図
図11A】実施例5Bの結果を示す図
図11B】実施例5Bの結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(1.被験者に関する状態の変化の影響の新たな解析手法)
本発明の発明者らは、変化(例えば、被験者の環境の状態の変化、被験者の活動の状態の変化)にさらされた被験者から測定されたデータに対して数理モデルを適用することにより、変化の影響を定量化する新たな解析手法を見出した。典型的には、この数理モデルは、少なくとも3つの成分を有しており、本発明の発明者らは、少なくとも3つの成分のうち第1の成分が、「被験者への負荷の蓄積を表す成分」であり、少なくとも3つの成分のうちの第2の成分が、「変化に追随して変動する成分」であり、少なくとも3つの成分のうち第3の成分が、「変化に依存しない成分」であるとみなすことができると考えた。本発明においては、被験者から測定されたデータに対してこの数理モデルを適用することで、少なくとも、変化に依存する成分である「被験者への負荷の蓄積を表す成分」および/または「変化に追随して変動する成分」を導出することができ、これらの成分により、変化の影響を定量化することができるのである。
【0009】
本明細書において、「被験者への負荷の蓄積を表す成分」は、変化の影響による被験者への負荷の蓄積を表す成分を導出することが意図される所定の期間において、被験者に関する状態の変化に直接的に追随して変動せずに、当該所定の期間中に経時的に被験者に蓄積および/または減退してゆくと考えられる成分であり得る。本明細書および特許請求の範囲では、「被験者への負荷の蓄積を表す成分」は、「第1の成分」ともいう。変化が存在しない場合には、「第1の成分」は存在しない。従って、上記の数理モデルでは、第1の成分は定式化されない。変化により、第1の成分が被験者に蓄積することと減退することとの両方が生じる場合、蓄積する成分と減退する成分とが互いに相殺することになり、蓄積する成分と減退する成分とが同じ場合、第1の成分の変動がみられないことがある。蓄積する成分と減退する成分とが互いに相殺する場合でも、上記の数理モデルでは、第1の成分が定式化される。
【0010】
本明細書において「変化に追随して変動する成分」は、数理モデルにおいて、変化の影響による被験者への負荷の蓄積を表す成分を導出することが意図される所定の期間において、被験者に関する状態の変化に基づいて定義された成分を指し得る。本明細書および特許請求の範囲では、「変化に追随して変動する成分」は、「第2の成分」ともいう。変化が存在しない場合には、「第2の成分」は存在しない。
【0011】
ある場合において、第1の成分は、典型的には、各状態において単調増加または単調減少する成分であり、第2の成分は、典型的には、各状態において所定の値に近づくように変化する成分である。この場合、第1の成分は、取り得る値の最大値または最小値に到達するまで収束しない一方で、第2の成分は所定の値に収束する。これは、変化により負荷が蓄積する方向の影響をプラス方向の影響、変化により負荷が減退する方向の影響をマイナス方向の影響とみなしたときに、変化により一定方向(プラス方向またはマイナス方向のいずれか一方)の影響が被験者に及ぼされる場合である。これは、例えば、被験者が周期的な熱ストレス(すなわち、高温負荷と高温負荷の除去との繰り返し、または、低温負荷と低温負荷の除去との繰り返し)を受ける場合、被験者が一定時間の疲労負荷を受ける場合、被験者が休憩して回復する場合等であり得る。例えば、被験者が周期的な熱ストレスを受ける場合、被験者から測定された心拍変動を表すデータの第1の成分は、周期的な熱ストレス中に単調増加する一方で、第2の成分は、熱ストレスを受けている間は所定の極大値に漸近し、熱ストレスから解放されると所定の極小値に漸近する。例えば、被験者が一定時間の疲労負荷を受ける場合、被験者から測定された或る課題の正答率を表すデータの第1の成分は、一定時間の疲労負荷中に単調減少する一方で、第2の成分は、一定時間の疲労負荷中に所定の極小値に漸近する。例えば、被験者が休憩して回復する場合、被験者から測定された主観的な意欲を表すデータの第1の成分は、休憩して回復している間に単調増加する一方で、第2の成分は、休憩して回復している間に所定の極大値に漸近する。しかし、変化が第1の成分および/または第2の成分に反映されるまでに時間的な遅れがある場合、あるいは、ノイズまたは計測誤差が大きい場合等には、この定義は必ずしも当てはまらず、第1の成分が、1つの状態の間に増加および減少することがあり、第2の成分が、所定の値に近づかないことがある。
【0012】
ここで、単調増加とは、第1の成分のある時点での値Vが、任意の時点の値Vn+aに対して、Vn+a≧Vという関係になること意味しており、狭義には、Vn+a>Vという関係になること意味し得る(a>0)。単調減少とは、第1の成分のある時点での値Vが、任意の時点の値Vn+aに対して、Vn+a≦Vという関係になること意味しており、狭義には、Vn+a<Vという関係になること意味し得る(a>0)。単調増加および単調減少では、VからまでVn+aで、一定の傾きで変化してもよいし、指数的、対数的、または段階的に変化してもよいし、別様に変化してもよい。
【0013】
ここで、所定の値は、既知の値であってもよいし、未知の値であってもよい。また、所定の値は、各状態で固有の値であってもよいし、そうでなくてもよい。所定の値に近づくことは、単調増加または単調減少して所定の値に近づくことであってもよいし、ハンチングしながら所定の値に近づくことであってもよい。所定の値は、取り得る値の最大値または最小値とは異なる値であり得る。
【0014】
ある場合において、第1の成分は、数理モデルを適用して分離された少なくとも2つの成分のうち、第2の成分に比べて、変化に追随して変動しない成分であり得、第2の成分は、数理モデルを適用して分離された少なくとも2つの成分のうち、第1の成分に比べて、変化に追随して変動する成分であり得る。このために、数理モデルでは、第1の成分および第2の成分は両方とも変化に関連する成分ではあるが、第2の成分は、変化に基づいて定義される成分として、第1の成分は、そうではない成分として定式化され得る。「変化に追随して変動する」とは、概して、変化との相関が大きいことをいう。
【0015】
本明細書において「変化に依存しない成分」は、数理モデルにおいて、変化の影響による被験者への負荷の蓄積を表す成分を導出することが意図される所定の期間と同等の環境において、当該所定の期間に変化が生じなかった場合の、当該被験者の当該所定の期間の時系列変化に基づいて定義された成分を指し得る。「同等の環境」とは、季節や昼夜等の時間的な環境、屋内外や緯度経度といった空間的な環境のいずれか1つ以上の項目が、当該所定の期間において環境の変化がない場合の定常的な状況と同等である環境を指す。また本成分は、事前に計測された、当該被験者が属する集団の変化が生じなかった期間における時系列変化に基づいたモデルから導出してもよい。当該被験者が属する集団とは、性別や年齢、作業負荷や作業内容、生活環境等のいずれか1つ以上の属性が当該被験者と同等の集団を指す。本明細書および特許請求の範囲では、「変化に依存しない成分」は、「第3の成分」ともいう。
【0016】
具体的な数理モデルは、第1の成分、第2の成分、第3の成分の線形和として定式化された観測方程式と、各成分の時系列変動を定式化した状態方程式とによって構築された状態空間モデルであり得る。
【0017】
本手法では、被験者から測定されたデータ(例えば、被験者の身体の状態に関連するデータおよび/または被験者の精神の状態に関連するデータ)から、被験者への負荷の蓄積を表す成分および/または変化に追随して変動する成分および/または変化に依存しない成分を導出する。好ましくは、本手法では、被験者から測定されたデータから、少なくとも、被験者への負荷の蓄積を表す成分が導出され得る。より好ましくは、本手法では、被験者から測定されたデータから、少なくとも、被験者への負荷の蓄積を表す成分および変化に追随して変動する成分が導出され得る。さらに好ましくは、本手法では、被験者から測定されたデータから、少なくとも、被験者への負荷の蓄積を表す成分、変化に追随して変動する成分、および変化に依存しない成分が導出され得る。
【0018】
本手法によって導出された各成分は、種々の用途に使用されることができる。
【0019】
一例において、本手法によって導出された各成分のうちの少なくとも1つは、変化による被験者への影響を被験者に知らせるために使用されることができる。例えば、被験者への負荷の蓄積を表す成分は、被験者への負荷の蓄積が所定の閾値を超えたことを被験者に知らせるために使用されることができる。例えば、変化に追随して変動する成分は、被験者の身体状態または精神状態に急激な変化が生じたことを被験者に知らせるために使用されることができる。なお、本明細書において、「所定の閾値を超える」とは、所定の閾値を通過することを意味し、(1)所定の閾値よりも小さな値から所定の閾値よりも大きくなる場合、および(2)所定の閾値よりも大きな値から所定の閾値よりも小さくなる場合の両方を含む。
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
図1は、本手法によって導出された成分を使用して、変化による被験者への影響を被験者に知らせる例を概略的に示す。図1に示される例では、部屋10にいる被験者Sが屋外20に出ることを例に説明する。部屋10には空調装置11が設置されており、部屋10は、空調装置11によって屋外20よりも低い温度に設定されている。
【0022】
被験者Sは、図1(a)に示されるように、部屋10内にいる状態から、図1(b)に示されるように、屋外20にいる状態に変化する。このとき、被験者Sは、部屋10の室温から屋外20の気温への温度変化を経験することになる。
【0023】
本手法では、部屋10内にいる被験者Sから測定されるデータ(例えば、心拍数)と、屋外にいる被験者Sから測定されるデータ(例えば、心拍数)とを利用して、この温度変化による影響を解析する。すなわち、本手法により、この温度変化に起因する、被験者への負荷の蓄積を表す成分、変化に追随して変動する成分、および/または、変化に依存しない成分が導出される。
【0024】
例えば、この温度変化によって、被験者への負荷の蓄積を表す成分が所定の閾値を超えると、被験者Sの端末装置(例えば、スマートフォン)あるいは被験者Sが装着しているウェアラブルデバイス(例えば、スマートウォッチ)が警報を鳴らす。これにより、被験者Sは、温度変化により、自身に負荷が蓄積していることを知ることができ、対策を講じることができる。
【0025】
例えば、この温度変化によって、変化に付随して変動する成分の変化量が所定の閾値を超えると、被験者Sの端末装置(例えば、スマートフォン)あるいは被験者Sが装着しているウェアラブルデバイス(例えば、スマートウォッチ)が警報を鳴らす。これにより、被験者Sは、温度変化により、自身から測定されるデータ(例えば、心拍数)が急変していることを知ることができ、対策を講じることができる。
【0026】
別の例において、本手法によって導出された各成分のうちの少なくとも1つは、変化による被験者への影響を考慮して、被験者の周囲環境を制御するために使用されることができる。例えば、被験者への負荷の蓄積を表す成分は、被験者への負荷の蓄積が所定の閾値を超えたときに、被験者の負荷を軽減するように、被験者の周囲環境を制御する(例えば、空調装置を制御する等)ために使用されることができる。例えば、変化に追随して変動する成分は、被験者の身体状態または精神状態に急激な変化が生じたときに、被験者の身体状態または精神状態の安定させるように、被験者の周囲環境を制御する(例えば、空調装置を制御する、芳香器を制御する、酸素濃縮器を制御する等)ために使用されることができる。
【0027】
図2は、本手法によって導出された成分を使用して、被験者の周囲環境を制御する例を概略的に示す。図2に示される例では、屋外30で運動している被験者Sが部屋40に入ってくつろぐことを例に説明する。部屋40には空調装置41が設置されており、部屋40は、空調装置41によって屋外30よりもわずかに低い温度に設定されている。
【0028】
被験者Sは、図2(a)に示されるように、屋外30内にいる状態から、図2(b)に示されるように、部屋40にいる状態に変化する。このとき、被験者Sは、屋外30の気温から部屋40の室温への温度変化を経験することになる。
【0029】
さらに、被験者Sは、図2(a)に示されるように、運動している状態から、図2(b)に示されるように、くつろいでいる状態に変化する。このとき、被験者Sは、運動の有無という運動に関する状態の変化を経験することになる。
【0030】
本手法では、屋外30で運動している被験者Sから測定されるデータ(例えば、心拍数)と、部屋40でくつろいでいる被験者Sから測定されるデータ(例えば、心拍数)とを利用して、この温度変化による影響および運動に関する状態の変化による影響を解析する。すなわち、本手法により、この温度変化および運動に関する状態の変化に起因する、被験者への負荷の蓄積を表す成分、変化に追随して変動する成分、および/または、変化に依存しない成分が導出される。
【0031】
例えば、この温度変化および運動に関する状態の変化によって、被験者への負荷の蓄積を表す成分が所定の閾値を超えると、被験者の負荷を軽減する温度になるように、図2(b)に示される空調装置41が駆動される。これにより、被験者Sの負荷が軽減され得る。
【0032】
別の例において、本手法によって導出された各成分のうちの少なくとも1つは、変化による被験者への影響により、被験者への負荷の指標(例えば、負荷量または負荷レベル)が現在どの程度であるかを推定するために、かつ/または、変化による被験者への負荷の指標が将来どの程度になるかを予測するために使用されることができる。例えば、推定された現在の負荷の指標および/または予測された将来の負荷の指標は、被験者の行動変容を促すためのリコメンドを被験者に提供するために利用され得る。
【0033】
図3は、本手法によって導出された成分を使用して、被験者への現在の負荷の指標を推定し、または、将来の負荷の指標を予測する例を概略的に示す。図3に示される例では、被験者Sが部屋50と部屋60とを行ったり来たりすることを例に説明する。部屋50には空調装置51が設置されており、部屋50は、空調装置51によって部屋60よりも高い温度に設定されている。部屋60には空調装置は設置されておらず、冬の屋外に近い温度となっている。例えば、部屋50がリビングであり、部屋60が廊下であり得る。
【0034】
被験者Sは、図3(a)に示されるように、部屋50にいる状態から、図3(b)に示されるように、部屋60にいる状態に変化する。そして、図3(b)に示されるように、部屋60にいる状態から、図3(a)に示されるように、部屋50にいる状態に変化する。そして、これを繰り返す。このとき、被験者Sは、部屋50の室温から部屋60の室温へ、および、部屋60の室温から部屋50の室温への反復する温度変化を経験することになる。
【0035】
本手法では、部屋50にいる被験者Sから測定されるデータ(例えば、心拍数)と、部屋60にいる被験者Sから測定されるデータ(例えば、心拍数)とを利用して、この反復する温度変化による影響を解析する。すなわち、本手法により、この反復する温度変化に起因する、被験者への負荷の蓄積を表す成分、変化に追随して変動する成分、および/または、変化に依存しない成分が導出される。
【0036】
例えば、この反復する温度変化および運動に関する状態の変化によって、被験者の現在の負荷量が推定され、現在の負荷量を軽減するためのソリューションが被験者Sに提供され得る。例えば、部屋50の好適な室温、部屋50内での好適な滞在時間、温かい飲み物を飲む等の好適な行動が被験者Sにリコメンドされ得る。リコメンドは、例えば、被験者Sが使用する端末装置(例えば、スマートフォン)に提示され得る。
【0037】
例えば、この反復する温度変化および運動に関する状態の変化によって、被験者の将来の負荷量が予測され、将来の負荷量を軽減するためのソリューションが被験者Sに提供され得る。例えば、部屋50の好適な室温、部屋50内での好適な滞在時間、温かい飲み物を飲む等の好適な行動が被験者Sにリコメンドされ得る。リコメンドは、例えば、被験者Sが使用する端末装置(例えば、スマートフォン)に提示され得る。
【0038】
上述した例は、本手法を用いた例にすぎず、本手法は、他の任意の例に適用することができる。例えば、社員が社内の業務で色々な場所を移動する際に社員から測定されたデータに適用し、社員にかかる負荷の推定をすることができる。
【0039】
例えば、温度、湿度、気流、輻射等の温熱に関する変化に加えて、または、これに代えて、ハウスダスト、花粉、CO、揮発性物質(例えば、ホルムアルデヒド、トルエン等の揮発性有機化合物(VOC))等の空気質の変化を評価することに適用され得る。例えば、気密性が高い部屋では、人がいる場合にはCO濃度が上昇し、その部屋から人が出入りすることで換気されCO濃度が下降し、人の出入りがなければ再度CO濃度が上昇する、というCO濃度の繰り返しの変化が生じる。このような変化は、直ちには影響がないとしても、繰り返されて徐々に負荷が溜まることで、疲労や生産性の低下につながり得る。本手法を空気質の評価に適用することにより、このような疲労や生産性の低下を事前に捕捉することにつながり得る。
【0040】
本手法は、例えば、後述する、被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステムによって実装されることができる。
【0041】
(2.被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステムの構成)
図4Aは、被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステム100の構成の一例を示す。
【0042】
システム100は、受信手段110と、導出手段120と、出力手段130とを備える。
【0043】
システム100は、被験者に関する状態の変化を対象とする。被験者に関する状態は、被験者に関する任意の状態であり得、被験者に関する状態は、例えば、被験者の環境の状態であってもよいし、被験者の活動の状態であってもよいし、それらの両方であってもよい。被験者に関する状態の変化は、気温等の連続的な変動、睡眠や着衣の脱着などの2値的な変動、順序尺度に基づく離散的な変動を含む。
【0044】
より具体的には、被験者の環境の状態の変化は、例えば、温湿環境の変化、空気成分または空気の質の変化、光環境の変化、音響環境の変化を含むが、これらに限定されない。
【0045】
温湿環境の変化は、例えば、温度の変化、湿度の変化、輻射の変化、気流の変化を含む。好ましくは、温湿環境の変化は、温度の変化を含む。
【0046】
空気成分の変化は、例えば、CO濃度の変化、酸素濃度の変化、水素濃度の変化、香りの変化を含む。
【0047】
光環境の変化は、例えば、照明の変化を含む。
【0048】
音響環境の変化は、例えば、音楽の変化、騒音の変化を含む。
【0049】
被験者の活動の状態の変化は、例えば、着衣に関する状態の変化、行動に関する状態の変化、睡眠に関する状態の変化を含むが、これらに限定されない。
【0050】
行動に関する状態の変化は、就業に関する状態の変化、運動に関する状態の変化、食事に関する状態の変化、排泄に関する状態の変化を含む。
【0051】
システム100は、所定の期間中に生じる変化を対象とする。ここで、所定の期間は、任意の期間であり得る。所定の期間は、例えば、1分間、5分間、10分間、30分間、1時間、2時間、3時間、6時間、12時間、1日、3日、1週間、2週間、1月、2月、3月、6月、1年、2年、5年、10年等であり得る。
【0052】
所定の期間中に生じる変化は、1回の変化(すなわち、第1の状態から第2の状態への変化)であってもよいし、複数回の変化(すなわち、第1の状態から第2の状態へ、第2の状態から第3の状態へ、・・・の変化)であってもよい。複数回の変化の場合、2つの状態を往復する変化であってもよいし、3つ以上の状態間の変化であってもよい。
【0053】
所定の期間中に生じる変化は、例えば、周期的な変化であってもよいし、事象に関連した変化であってもよい。周期的な変化は、例えば、被験者による定期的な活動(例えば、屋内と屋外とを定期的に移動すること、睡眠および覚醒、食事、屋内または屋外において活動内容に応じて作業環境等が大きく変わる活動(例えば、鉄鋼・製造業における定期的な高熱環境での作業、食品製造業における定期的な寒冷環境(冷凍庫など)での作業))等を含むが、これらに限定されない。周期的な変化の周期は、任意の期間であり得る。事象に関連した変化は、例えば、任意のタイミングでの屋内外の移動、屋内外での、任意のタイミングで発生する単発的な活動内容の変化(例えば、営業先への訪問、屋外移動中のコーヒー休憩、運動活動中の休憩(水分補給)、運送業等における重い荷物を運搬する重労働)、排泄、運動等を含むが、これらに限定されない。事象に関連した変化のタイミングは、任意のタイミングであり得る。
【0054】
一例において、変化は、定常もしくは安静状態から非定常もしくは非安静状態(例えば、負荷または刺激が与えられた状態)への変化、または、非定常もしくは非安静状態から定常もしくは安静状態への変化であり得る。この場合、第1の状態が、定常もしくは安静状態または非定常または非安静状態のうちの一方であり、第2の状態が、定常もしくは安静状態または非定常または非安静状態のうちの他方である。
【0055】
別の例において、変化は、第1の非定常もしくは非安静状態(例えば、第1の負荷または刺激が与えられた状態)から第2の非定常もしくは非安静状態(例えば、第2の負荷または刺激が与えられた状態)への変化であり得る。この場合、第1の状態が、第1の非定常もしくは非安静状態であり、第2の状態が、第2の非定常もしくは非安静状態である。第1の非定常もしくは非安静状態から第2の非定常もしくは非安静状態への変化は、第1の非定常もしくは非安静状態から定常もしくは安静状態への変化と、定常もしくは安静状態から第2の非定常もしくは非安静状態への変化との組み合わせであると考えることもできる。
【0056】
受信手段110は、被験者から測定されたデータを受信するように構成されている。受信手段110は、被験者から測定されたデータを任意の態様で受信することができる。例えば、受信手段110は、被験者からデータを測定する測定装置から、直接的にデータを受信してもよいし、間接的にデータを受信してもよい。間接的にデータを受信する場合、例えば、受信手段110は、測定手段からデータを受信した端末装置(例えば、スマートフォン、タブレット、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ等)からデータを受信することができる。受信手段110は、例えば、無線でデータを受信するようにしてもよいし、有線でデータを受信するようにしてもよい。受信手段110は。例えば、データを格納する記憶媒体から読み込まれたデータを受信するようにしてもよい。
【0057】
被験者から測定されたデータは、被験者から測定され得る任意のデータであり得る。被験者から測定されたデータは、被験者から直接測定されたデータのみならず、被験者から直接測定されたデータを処理することによって得られたデータをも含むことを意図する。
【0058】
被験者から測定されたデータは、例えば、被験者の身体の状態に関連する身体関連指標であってもよいし、被験者の精神の状態に関連する精神関連指標であってもよいし、これらの両方を含んでもよい。被験者から測定されたデータは、例えば、被験者のパフォーマンスを表す指標であってもよい。パフィーマンスは、身体的なパフォーマンスおよび精神的なパフォーマンスを含む。身体的なパフォーマンスを表す指標は、例えば、瞬発力、持久力、跳躍力、投擲力等を表す指標であり得る。精神的なパフォーマンスを表す指標は、例えば、或る課題に対する成績を表す指標であり得る。
【0059】
身体関連指標は、例えば、心拍に関連する心拍関連指標、血圧・血流関連指標、体温に関連する体温関連指標、発汗に関連する発汗関連指標、脳波に関連する脳波関連指標、呼吸に関連する呼吸関連指標を含むが、これらに限定されない。
【0060】
心拍関連指標は、例えば、HR(Heart Rate;心拍数)、HF(High Frequency)、LF(Low Frequency)、LF/HF、TP(TotalPower)、脈波を含む。好ましい実施形態では、心拍関連指標は、HR、HF、LF/HFのうちの少なくとも1つであり得る。HR、HF、LF、LF/HFは、例えば、心電計によって測定され得る。
【0061】
HFは、約0.15~0.4Hzの周波帯のパワースペクトルであり、この値は副交感神経(迷走神経)の活動を表している。LFは、約0.04~0.15Hzの周波数帯のパワースペクトルであり、この値は主に(血管運動性)交感神経の活動を表している。LF/HFは、交感神経の活動と副交感神経の活動とのバランスを表している。LF/HFは、一般的に、数値が高いと交感神経の活動が優位であることを表し、数値が低いと副交感神経の活動が優位であることを表す。HF、LF、LF/HFは、例えば、心電計によって測定された心拍間隔から周波数解析による算出され得る。すなわち、心拍変動(R-R間隔の変動)をフーリエ変換、ウェーブレット変換、MEM法(MaximumEntropy Method)等の手法を用いて周波数解析(スペクトル解析)することにより、約0.04~0.15Hzの周波数帯の低周波成分(LF)、約0.15~0.4Hzの周波帯の高周波成分(HF)、低周波成分/高周波成分の比(LF/HF)を算出することができる。HF、LF、LF/HFは、例えば、その他の当該技術分野で公知の技術を用いて算出されることができる。
【0062】
血圧・血流関連指標は、例えば、収縮期血圧、拡張期血圧、末梢血流、大血管流、脈圧、平均血圧を含む。好ましい実施形態では、血圧・血流関連指標は、収縮期血圧、拡張期血圧のうちの少なくとも1つであり得る。血圧・血流関連指標は、血圧計によって測定され得る。
【0063】
体温関連指標は、例えば、体表面温度、深部体温を含む。
【0064】
体表面温度は、例えば、体表面上の複数の点における皮膚温度の重みづけ平均値であり得る。体表面温度は、例えば、皮膚温計によって測定され得る。深部体温は、身体の内部の温度である。深部体温は、例えば、腋窩体温計、耳内体温計、口内体温計等によって測定され得る。
【0065】
発汗関連指標は、例えば、発汗指標を含む。
【0066】
発汗指標は、皮膚表面において発汗によって変化する物理量である。発汗指標には、皮膚電位(Skin Potential Activity:SPA)、皮膚コンダクタンス(Skin Condactance Change:SC)等の皮膚電気活動(Electro Dermal Activity:EDA)、皮膚水分蒸散量、発汗量等が挙げられるが、これらに限定されない。発汗指標は、例えば、皮膚電位計、発汗量計等によって測定され得る。
【0067】
脳波関連指標は、例えば、脳波波形を含む。脳波波形は、例えば、脳波計によって測定され得る。
【0068】
呼吸関連指標は、例えば、呼吸数、呼吸の深さ、呼吸量、呼気中の酸素濃度、呼気中の二酸化炭素濃度を含む。呼吸数は、例えば、被験者を撮影した動画に基づいて測定され得る。呼気中の酸素濃度、呼気中の二酸化炭素濃度は、例えば、呼気分析装置によって測定され得る。
【0069】
精神関連指標は、例えば、主観的な評価に基づく指標である。主観的な評価は、例えば、疲労感に関する評価、温感に関する評価、快適性に関する評価、眠気に関する評価、自律神経失調症状に関する評価を含むが、これらに限定されない。自律神経失調症状に関する評価は、例えば、めまい、頭痛、ほてり等の自律神経失調症状の自覚症状の有無の評価である。好ましい実施形態では、精神関連指標は、疲労感に関する評価に基づく指標を含む。
【0070】
主観的な評価に基づく指標は、質問票またはSD法(Semantic Differential Method)、VAS法(Visual Analogue Scale)、によって測定され得る。
【0071】
受信手段110が受信するデータは、所定の期間中に被験者から測定されたデータであり、少なくとも、第1の状態における被験者から測定された第1のデータと、第2の状態における被験者から測定された第2のデータとを含む。所定の期間中に複数回の変化が生じる場合には、受信手段110が受信するデータは、それぞれの変化の前後において被験者から測定されたデータを含み得る。例えば、第1の状態から第2の状態へ、第2の状態から第3の状態へ、第3の状態から第4の状態へ・・・という複数回の変化が生じる場合には、受信手段110は、第1の状態における被験者から測定された第1のデータ、第2の状態における被験者から測定された第2のデータ、第3の状態における被験者から測定された第3のデータ、第4の状態における被験者から測定された第4のデータ、・・・を受信することになる。
【0072】
受信手段110によって受信されたデータは、導出手段120に渡される。
【0073】
受信手段110は、被験者から測定されたデータに加えて、変化情報をさらに受信することができる。変化情報は、変化を規定する情報であり、所定の期間中に生じる変化を規定することができる。変化情報は、変化の周期または変化のタイミング、変化前の状態値または状態量、変化後の状態値または状態量のうちの少なくとも1つを規定し得る。例えば、所定の期間中に生じる変化が第1の状態(高温状態)から第2の状態(低温状態)への温度変化である場合、変化情報は、第1の状態から第2の状態への変化のタイミング、第1の状態での気温、第2の状態での気温を含む。
【0074】
受信手段110によって受信された変化情報も、導出手段120に渡される。
【0075】
導出手段120は、受信手段110によって受信されたデータから、少なくとも、第1の成分および第2の成分を導出するように構成されている。
【0076】
一実施形態において、導出手段120は、受信手段110によって受信されたデータに対して数理モデルを適用することによって、少なくとも、第1の成分および第2の成分を導出することができる。ここで、数理モデルは、少なくとも、第1の成分および第2の成分を成分として有する。好ましくは、数理モデルは、第1の成分と、第2の成分と、第3の成分とを成分として有し得る。数理モデルは、上述した成分に加えて、他の成分を有してもよい。好ましい実施形態では、数理モデルは、ベイズ統計モデリングで用いられる状態空間モデルであり得る。
【0077】
導出手段120は、受信手段110によって受信されたデータが、数理モデルが有する第1の成分および第2の成分を有するものと仮定して、受信されたデータから少なくとも第1の成分および第2の成分を導出することができる。好ましい実施形態では、導出手段120は、受信手段110によって受信されたデータが、数理モデルが有する第1の成分、第2の成分および第3の成分を有するものと仮定して、受信されたデータから第1の成分、第2の成分および第2の成分を導出することができる。
【0078】
数理モデルが有する各成分は、それぞれの成分の時系列変動を、所定の分布に従う局所的な変動を用いて表されることができる。一例において、或る時間tにおける第1の成分Loadについて、誤差項をεLoad、tとすると、
Load-Loadt-1=Loadt-1-Loadt-2+εLoad、t-2
と二階差分の式で表され得、これを変形すると、
Load=2Loadt-1-Loadt-2+εLoad、t-2
と表される。
【0079】
同様に、第2の成分Environment(以下、「Env」と略す)について、誤差項をεEnv、tとすると、
Env-Envt-1=Envt-1-Envt-2+εEnv、t-2
と二階差分の式で表され得、これを変形すると、
Env=2Envt-1-Envt-2+εEnv、t-2
と表される。例えば、第2の成分Envが周期Nで周期的に変動する場合、
【数1】
と表され得る。
【0080】
同様に、第3の成分Baseについて、誤差項をεBase、tとすると、
Base-Baset-1=Baset-1-Baset-2+εBase、t-2
と二階差分の式で表され、これを変形すると、
Base=2Baset-1-Baset-2+εBase、t-2
と表される。
【0081】
局所的な変動は、所定の分布に従い得る。所定の分布は、例えば、正規分布、Cauchy分布、2項分布、ポアソン分布、多項分布、ベルヌーイ分布のうち少なくとも1つを含む。局所的な変動の分布は、変動の性質に応じて決定され得る。例えば、変動が連続的な変動である場合には、局所的な変動は、正規分布に従い得、平均値μ、標準偏差σとして、normal(μ,σ)と表され得る。例えば、連続的な変動の中に急峻な変動が含まれる場合には、局所的な変動は、Cauchy分布に従い得、平均値μ、標準偏差σとして、cauchy(μ,σ)と表され得る。
【0082】
例えば、第1の成分の局所的変動がCauchy分布に従うとすると、
或る時間tにおける第1の成分Loadは、
Load=2Loadt-1-Loadt-2+εLoad
εLoad ~cauchy(0,σLoad
と表され得る。
【0083】
例えば、第2の成分の局所的変動が正規分布に従うとすると、
或る時間tにおける周期的な第2の成分Envは、
【数2】
と表され得る。
【0084】
例えば、第3の成分の局所変動が正規分布に従うとすると、
或る時間tにおける第1の成分Baseは、
Base=2Baset-1-Baset-2+εBase、t-2
εBase~normal(0,σBase
と表され得る。
【0085】
数理モデルの第2の成分は、受信手段110によって受信された変化情報に基づいてモデル化されることができる。例えば、変化情報が、変化が周期的な変化であることを示す場合、第2の成分は、その周期的な変化を表すようにモデル化され得る。具体的には、変化が周期Nで周期的に変動する変化であることを示す場合、第2の成分は、[数1]として上述したようにモデル化され得る。例えば、変化情報が、変化が事象に関連した変化であることを示す場合、第2の成分は、その事象に関連した変化を表すようにモデル化され得る。
【0086】
数理モデルの第3の成分は、変化が存在しない場合における所定の期間の被験者から予め測定されたデータに基づいてモデル化されることができる。あるいは、これに加えて、または、これに代えて、数理モデルの第3の成分は、変化が存在しない場合における所定の期間の他の被験者から予め測定されたデータに基づいてモデル化されることができる。他の被験者は、対象の被験者と同様の特性を有することが好ましい。例えば、他の被験者は、対象の被験者と同性であり得、または同年代であり得る。
【0087】
上述した例では、数理モデルとしてベイズ統計モデリングで用いられる状態空間モデルを利用することを説明したが、数理モデルは、状態空間モデルに限定されない。受信されたデータから少なくとも第1の成分および第2の成分を導出することができる限り、任意の数理モデルを利用することができる。
【0088】
出力手段130は、導出手段120によって導出された成分を出力するように構成されている。出力手段130は、例えば、導出手段120によって導出された第1の成分、第2の成分、第3の成分のうちの少なくとも1つを出力することができる。好ましくは、出力手段130は、導出手段120によって導出された第1の成分および第2の成分のうちの少なくとも1つを出力する。出力手段130が導出された成分を出力する態様は問わない。出力手段130は、任意の態様で、導出された成分を出力することができる。
【0089】
出力手段130は、例えば、導出された成分を、ネットワークを介して送信することによりシステム100の外部に出力することができる。このとき、ネットワークの種類は問わない。ネットワークは、例えば、インターネットであってもよいし、LANであってもよい。
【0090】
出力手段130は、例えば、導出された成分を、記憶媒体に記憶することによりシステム100の外部に出力することができる。このとき、記憶媒体の種類は問わない。
【0091】
出力手段130は、例えば、導出された成分を、表示画面に出力するようにしてもよいし、音声で出力してもよいし、紙に印字することによって出力するようにしてもよい。
【0092】
出力手段130による出力は、任意の用途に使用されることができる。例えば、出力された成分が閾値を超えているか否かを判定し、超えていると判定された場合に、所定のアクションを行うようにすることができる。所定のアクションは、例えば、発報すること(例えば、被験者自身への発報、被験者以外の人(例えば、家族、医師、看護師、介護士等)への発報)、環境調節機器を制御すること、記憶手段(例えば、ネットワークを介して接続されるクラウドサーバ)への情報の蓄積を行うこと、端末装置の表示部に表示すること等を含むが、これらに限定されない。例えば、出力された成分に基づいて、他の情報を推定または予測することができる。他の情報は、例えば、被験者の現在の負荷の指標(例えば、負荷量または負荷レベル)を表す情報、被験者の将来の負荷の指標(例えば、負荷量または負荷レベル)を表す情報、被験者の負荷を軽減し得る環境(例えば、温湿環境、空気成分、光環境、音響環境)を示す情報、被験者の負荷を軽減し得るアクション(例えば、衣服の着脱、運動、睡眠)を示す情報、被験者の負荷を軽減し得るアイテム(例えば、懐炉、冷感シート、氷枕、湯たんぽ等)を示す情報等を含むが、これらに限定されない。例えば、出力手段130による出力は、具体的には、図4Bに示されるように、被験者に発報すること、および/もしくは、被験者の環境を制御すること、ならびに/または、図4Cに示されるように、被験者の負荷の指標を推定/予測することのために利用されることができる。
【0093】
図4Bは、被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステム100の別の実施形態である、システム100’の構成の一例を示す。システム100’は、システム100と同様の構成(受信手段110、導出手段120、出力手段130)を有しているが、システム100’は、発報手段140、制御手段150のうちの少なくとも1つをさらに備える点で、システム100とは異なっている。図4Bでは、図4Aを参照して上述した構成要素と同様の構成要素に同一の参照番号を付し、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0094】
システム100’は、受信手段110と、導出手段120と、出力手段130と、発報手段140、制御手段150のうちの少なくとも1つとを備える。
【0095】
受信手段110は、被験者から測定されたデータを受信するように構成されている。受信されたデータは、導出手段120に渡される。
【0096】
導出手段120は、受信手段110によって受信されたデータから、少なくとも、変化に依存する成分を導出するように構成されている。導出された成分は、出力手段130に渡される。
【0097】
出力手段130は、導出手段120によって導出された成分を出力するように構成されている。出力手段130からの出力は、発報手段140、制御手段150のうちの少なくとも1つに提供され得る。
【0098】
発報手段140は、出力手段130によって出力された成分が所定の閾値を超えたときに発報するように構成されている。発報手段140は、例えば、出力された第1の成分が所定の閾値を超えたときに、または、出力された第2の成分が所定の閾値を超えたときに、または、出力された第1の成分および第2の成分の両方がそれぞれの所定の閾値を超えたときに、発報することができる。
【0099】
所定の閾値は、任意の値であり得るが、好ましくは、被験者に関する状態に基づいて決定される値であり得る。例えば、負荷が蓄積しやすい状態(例えば、暑熱環境、激しい運動状態等)が関与する場合は、そうではない場合に比べて、所定の閾値が低くあり得る。これにより、被験者に関する状態に応じた発報を達成することができる。
【0100】
発報手段140は、任意の態様で発報することができる。例えば、発報手段140は、音で発報するようにしてもよいし、光で発報するようにしてもよいし、振動で発報するようにしてもよい。発報手段140は、例えば、データが測定された被験者自身に宛てて発報するようにしてもよいし、被験者の周囲の人物(例えば、被験者の家族等)に宛てて発報するようにしてもよい。
【0101】
制御手段150は、少なくとも、出力手段130によって出力された成分に基づいて、環境調節機器を制御するように構成されている。環境調節機器は、被験者の周囲の環境を調節可能な任意の機器であり得る。一例において、環境調節機器は、例えば、温湿環境(例えば、温度、湿度、輻射、気流等)、空気成分(例えば、CO濃度、酸素濃度、水素濃度、香り等)、光環境(例えば、照明)、および/または音響環境(例えば、音楽、騒音等)を調節可能な機器である。典型的には、環境調節機器は、温湿環境を調節可能なエアーコンディショナー等の空調装置であり得る。
【0102】
好ましい実施形態において、制御手段150は、出力手段130によって出力された成分が所定の閾値を超えたときに、その成分を増加または減少させる環境を決定することと(すなわち、成分が所定の閾値よりも大きくなる場合にその成分を減少させる環境を決定する、または、成分が所定の閾値よりも小さくなる場合にその成分を増加させる環境を決定する)、決定された環境を達成するように環境調節機器を制御することとを行うことができる。成分を増加または減少させる環境は、例えば、特定の温湿環境、特定の空気成分、特定の光環境、特定の音響環境のうちの少なくとも1つであり得る。
一例において、環境調節機器が空調装置である場合、制御手段150は、出力手段130によって出力された第1の成分が所定の閾値を超えたとき(すなわち、被験者への負荷の蓄積が所定量を超えたとき)、第1の成分を増加または減少させる温湿環境(例えば、温度、湿度)を決定することと、その温湿環境を達成するように空調装置を制御することとを行うことができる。
別の例において、環境調節機器が音響環境を調節可能な音響機器および空気成分を調節可能な芳香器である場合、制御手段150は、出力手段130によって出力された第1の成分が所定の閾値を超えたとき(すなわち、被験者への負荷の蓄積が所定量を超えたとき)、第1の成分を増加または減少させる音響環境(例えば、音楽)および空気成分(例えば、香り)を決定することと、その音響環境および空気成分を達成するように音響機器および芳香器を制御することとを行うことができる。
【0103】
さらに別の例において、環境調節機器が酸素濃度を調節可能な酸素濃縮器である場合、制御手段150は、出力手段130によって出力された第2の成分の変化量が所定の閾値を超えたとき(すなわち、変化に追随して変動する成分が急変したとき)、第2の成分の変化を安定させる酸素濃度を決定することと、その酸素濃度を達成するように酸素濃縮器を制御することとを行うことができる。
【0104】
所定の閾値は、任意の値であり得るが、好ましくは、被験者に関する状態に基づいて決定される値であり得る。例えば、負荷が蓄積しやすい状態(例えば、暑熱環境、激しい運動状態等)が関与する場合は、そうではない場合に比べて、所定の閾値が低くあり得る。これにより、被験者に関する状態に応じた環境調節を達成することができる。
【0105】
図4Cは、被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステム100の別の実施形態である、システム100’’の構成の一例を示す。システム100’’は、システム100と同様の構成(受信手段110、導出手段120、出力手段130)を有しているが、システム100’’は、導出手段120が推定/予測手段160を備える点で、システム100とは異なっている。図4Cでは、図4Aを参照して上述した構成要素と同様の構成要素に同一の参照番号を付し、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0106】
システム100’’は、受信手段110と、導出手段120と、出力手段130とを備える。
【0107】
受信手段110は、被験者から測定されたデータを受信するように構成されている。受信されたデータは、導出手段120に渡される。
【0108】
導出手段120は、受信手段110によって受信されたデータから、少なくとも、第1の成分および第2の成分を導出するように構成されている。導出手段120は、推定/予測手段160を備えている。
【0109】
推定/予測手段160は、少なくとも第1の成分および/または第2の成分に基づいて、変化による被験者に対する負荷の指標を推定または予測するように構成されている。負荷の指標は、定量的または定性的に負荷の程度を表すことができる指標である。負荷の指標は、例えば、特定の期間の負荷の程度を定量的に表す負荷量、単位時間あたりの負荷の変化の程度を定量的に表す負荷変化量、特定の期間の負荷の程度を定性的に表す負荷レベル、負荷の変動の幅を示す振幅等を含む。負荷の指標は、絶対的なものであってもよいし、相対的なものであってもよい。
【0110】
一実施形態において、推定/予測手段160は、被験者に対する現時点の負荷の指標を推定することができる。
【0111】
現在の負荷の指標は、例えば、変化に依存する成分(例えば、第1の成分および/または第2の成分)の時系列変動の近似式に基づく値として定義されることができる。
例えば、第1の成分(Load)の時系列変動が、
【数3】
と近似された場合、傾きに相当するαを、現在の負荷の指標とみなすことができる。ここでは、αは、負荷の増加の程度を定量的に表す負荷増加量であり得る。所定期間Δtの負荷量は、負荷増加量×Δtとして推定され得る。
【0112】
例えば、第2の成分(Env)の時系列変動が、
【数4】
と近似された場合、振幅に相当するβを、現在の負荷の指標とみなすことができる。ここでは、βは、負荷の変動の大きさを定性的に表す負荷レベルであり得る。所定期間Δtの負荷量は、ΔtでのEnv(t)の積分値として推定され得る。
【0113】
負荷の指標のうち、現在(時刻t)の負荷量は、例えば、変化に依存する成分(例えば、第1の成分および/または第2の成分)の時刻tにおける値もしくはその近傍の値またはそれらの演算値に、時間変化量Δtを乗算した値として推定されることができる。演算値は、例えば、近傍の値または所与の期間内の変化量(例えば、増分または減分)、近傍の値または所与の期間内の極値の差分、近傍の値または所与の期間内の平均値等であり得る。
【0114】
別の実施形態において、推定/予測手段160は、現在の負荷の指標を推定することに加えて、または、現在の負荷の指標を推定することに代えて、将来の負荷の指標を予測することができる。例えば、推定/予測手段160は、将来の負荷の指標として、変化に依存する成分(例えば、第1の成分および/または第2の成分)の将来の変動を予測するようにしてもよい。
【0115】
推定/予測手段160は、例えば、第1の成分および/または第2の成分の時系列変動をモデル式でモデル化し、そのモデル式に基づいて、将来の変動を予測することができる。このとき、モデル式は、所定の分布に従う局所的な変動を用いて表され得る。
【0116】
例えば、推定/予測手段160は、第1の成分の将来の変動を
Load=2Loadt-1-Loadt-2+εLoad
εLoad ~normal(0,σLoad
とモデル化し、第2の成分の将来の変動を
【数5】
とモデル化し、これらのモデルに基づいて、将来の負荷の指標を予測することができる。
【0117】
将来の負荷の指標は、例えば、変化に依存する成分(例えば、第1の成分および/または第2の成分)の将来の時系列変動の近似式に基づく値として定義されることができる。
例えば、上述したモデルに基づいて、第1の成分(Load)の将来の時系列変動が、
【数6】
と近似された場合、傾きに相当するαを、将来の負荷の指標とみなすことができる。ここでは、αは、将来の負荷の増加の程度を定量的に表す負荷増加量であり得る。所定期間Δt後の負荷量は、負荷増加量×Δtとして推定され得る。
【0118】
例えば、上述したモデルに基づいて、第2の成分(Env)の将来の時系列変動が、
【数7】
と近似された場合、振幅に相当するβを、将来の負荷の指標とみなすことができる。ここでは、βは、将来の負荷の変動の大きさを定性的に表す負荷レベルであり得る。所定期間Δtの負荷量は、Env(t)のΔtの積分値として推定され得る。
【0119】
負荷の指標のうち、将来(時刻t)の負荷量は、例えば、上述したモデルから算出される時刻tにおける値もしくはその近傍の値またはそれらの演算値に、時間変化量Δtを乗算した値として推定されることができる。演算値は、例えば、近傍の値または所与の期間内の変化量(例えば、増分または減分)、近傍の値または所与の期間内の極値の差分、近傍の値または所与の期間内の平均値等であり得る。
【0120】
出力手段130は、導出手段120によって導出された成分および/または現在もしくは将来の負荷の指標を出力するように構成されている。
【0121】
システム100’’は、システム100’と同様に、発報手段140、制御手段150のうちの少なくとも1つとを備えることができる。このとき、発報手段140は、現在の負荷の指標および/または将来の負荷の指標に基づいて、発報することができ、制御手段150は、現在の負荷の指標および/または将来の負荷の指標に基づいて、環境調節機器を制御することができる。
【0122】
一実施形態において、上述したシステム100は、例えば、サーバ装置として実装されることができる。サーバ装置は、被験者からデータを測定する測定装置、被験者のローカル装置(例えば、端末装置、発報装置、環境調節機器等)と通信することができる。サーバ装置は、通信インターフェース部と、記憶部と、プロセッサ部とを備え得る。
【0123】
通信インターフェース部は、サーバ装置とサーバ装置の外部とのやり取りを制御する。サーバ装置は、通信インターフェース部を介して、測定装置、ローカル装置と通信することができる。
【0124】
サーバ装置は、例えば、通信インターフェース部を介して、被験者から測定されたデータを受信することができる。この点で、通信インターフェース部は、システム100の受信手段110を構成し得る。
【0125】
サーバ装置は、例えば、通信インターフェース部を介して、サーバ装置からの出力をサーバ装置の外部に出力することができる。この点で、通信インターフェース部は、システム100の出力手段130を構成し得る。
【0126】
記憶部には、サーバ装置の処理の実行に必要とされるプログラムやそのプログラムの実行に必要とされるデータ等が記憶されている。例えば、記憶部には、被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するための処理をサーバ装置に行わせるためのプログラム(例えば、後述する図5に示される処理を実現するプログラム)の一部または全部が記憶されている。ここで、プログラムをどのようにして記憶部に記憶するかは問わない。例えば、プログラムは、記憶部にプリインストールされていてもよい。あるいは、プログラムは、ネットワークを経由してダウンロードされることによって記憶部にインストールされるようにしてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な有形記憶媒体上に記憶されてもよい。記憶部は、メモリまたはデータベース等の任意の記憶手段によって実装され得る。
【0127】
記憶部には、第1の成分、第2の成分、第3の成分のそれぞれのモデル式が記憶されていてもよい。記憶部には、第1の成分、第2の成分、第3の成分のそれぞれについて、被験者に関する状態の変化に特有のモデル式が複数個記憶され得る。例えば、被験者に関する状態の変化が周期的な変化である場合に特有のモデル式、被験者に関する状態の変化が事象に関連した変化である場合に特有のモデル式等であり得る。これにより、記憶された複数のモデル式のうち、被験者に関する状態の変化に応じたモデル式を用いて第1の成分、第2の成分、第3の成分を導出することができるようになる。
【0128】
プロセッサ部は、サーバ装置全体の動作を制御する。プロセッサ部は、記憶部に記憶されているプログラムを読み出し、そのプログラムを実行する。これにより、サーバ装置を所望のステップを実行する装置として機能させることが可能である。プロセッサ部は、単一のプロセッサによって実装されてもよいし、複数のプロセッサによって実装されてもよい。システム100の導出手段120は、プロセッサ部よって実装され得る。さらに、プロセッサ部が、プロセッサ部の外部から被験者から測定されたデータを受信し、プロセッサ部が、導出された成分をプロセッサ部の外部に出力するという点で、プロセッサ部は、受信手段110および出力手段130を構成し得る。
【0129】
別の実施形態において、上述したシステム100またはシステム100’または100’’は、例えば、被験者のローカル装置として実装されることができる。ローカル装置は、被験者からデータを測定する測定装置と通信することができるか、被験者からデータを測定する測定装置と一体として構成され得る。ローカル装置は、少なくとも、通信インターフェース部と、記憶部と、プロセッサ部とを備え得る。
【0130】
通信インターフェース部は、ローカル装置とローカル装置の外部とのやり取りを制御する。ローカル装置は、通信インターフェース部を介して、測定装置と通信することができる。
【0131】
被験者のローカル装置は、例えば、通信インターフェース部を介して、被験者から測定されたデータを受信することができる。この点で、通信インターフェース部は、システム100またはシステム100’または100’’の受信手段110を構成し得る。
【0132】
被験者のローカル装置は、例えば、通信インターフェース部を介して、ローカル装置からの出力をローカル装置の外部に出力することができる。この点で、通信インターフェース部は、システム100またはシステム100’または100’’の出力手段130を構成し得る。
【0133】
記憶部には、被験者のローカル装置の処理の実行に必要とされるプログラムやそのプログラムの実行に必要とされるデータ等が記憶されている。例えば、記憶部には、被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するための処理を被験者のローカル装置に行わせるためのプログラム(例えば、後述する図5に示される処理を実現するプログラム)の一部または全部が記憶されている。ここで、プログラムをどのようにして記憶部に記憶するかは問わない。例えば、プログラムは、記憶部にプリインストールされていてもよい。あるいは、プログラムは、ネットワークを経由してダウンロードされることによって記憶部にインストールされるようにしてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な有形記憶媒体上に記憶されてもよい。記憶部は、メモリまたはデータベース等の任意の記憶手段によって実装され得る。
【0134】
記憶部には、第1の成分、第2の成分、第3の成分のそれぞれのモデル式が記憶されていてもよい。記憶部には、第1の成分、第2の成分、第3の成分のそれぞれについて、被験者に関する状態の変化に特有のモデル式が複数個記憶され得る。例えば、被験者に関する状態の変化が周期的な変化である場合に特有のモデル式、被験者に関する状態の変化が事象に関連した変化である場合に特有のモデル式等であり得る。これにより、記憶された複数のモデル式のうち、被験者に関する状態の変化に応じたモデル式を用いて第1の成分、第2の成分、第3の成分を導出することができるようになる。
【0135】
プロセッサ部は、被験者のローカル装置全体の動作を制御する。プロセッサ部は、記憶部に記憶されているプログラムを読み出し、そのプログラムを実行する。これにより、被験者のローカル装置を所望のステップを実行する装置として機能させることが可能である。プロセッサ部は、単一のプロセッサによって実装されてもよいし、複数のプロセッサによって実装されてもよい。システム100の導出手段120は、プロセッサ部よって実装され得る。さらに、プロセッサ部が、プロセッサ部の外部から被験者から測定されたデータを受信し、プロセッサ部が、導出された成分をプロセッサ部の外部に出力するという点で、プロセッサ部は、受信手段110および出力手段130を構成し得る。
【0136】
被験者のローカル装置は、例えば、発報装置としての機能を有する発報手段を備えるか、あるいは、発報装置と通信し得る。ローカル装置が発報手段を備える場合、プロセッサ部が、出力が所定の閾値を超えているか否かを判定し、超えていると判定された場合に、発報手段が発報することができる。発報手段は、システム100’の発報手段140を構成し得る。あるいは、ローカル装置が発報装置と通信する場合、発報装置は、例えば、通信インターフェース部と、プロセッサ部と、発報手段とを備え得る。発報装置は、通信インターフェース部が、ローカル装置からの出力を受信し、プロセッサ部が、出力が所定の閾値を超えているか否かを判定し、超えていると判定された場合に、発報手段が発報することができる。発報装置は、システム100’の発報手段140を構成し得る。あるいは、ローカル装置のプロセッサ部が、出力が所定の閾値を超えているか否かを判定し、超えていると判定された場合に、発報装置がローカル装置から制御信号を受信し、これに応じて、発報手段が発報することができる。ローカル装置のプロセッサ部および発報装置は、システム100’の発報手段140を構成し得る。
【0137】
被験者のローカル装置は、例えば、端末装置であり得る。端末装置は、典型的には、スマートフォン、タブレット、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、スマートウォッチ、スマートグラス等であり得る。ローカル装置のプロセッサ部は、導出された成分に基づいて、被験者の負荷の指標を推定/予測することができる。推定/予測された負荷の指標は、例えば、端末装置の表示部に表示され得るか、あるいは、他のローカル装置に送信されてそのローカル装置を制御するために使用され得る。端末装置のプロセッサ部は、システム100’’の推定/予測手段160を構成し得る。
【0138】
被験者のローカル装置は、例えば、環境調節機器としての機能を有する環境調節手段を備えるか、あるいは、環境調節機器と通信し得る。ローカル装置が環境調節手段を備える場合、プロセッサ部が、出力が所定の閾値を超えているか否かを判定し、超えていると判定された場合に、環境調節手段が、被験者の周囲の環境を調節することができる。環境調節手段は、システム100’の制御手段150を構成し得る。あるいは、ローカル装置が環境調節機器と通信する場合、環境調節機器は、例えば、通信インターフェース部と、プロセッサ部と、環境調節手段とを備え得る。環境調節機器は、通信インターフェース部が、ローカル装置からの出力を受信し、プロセッサ部が、出力に基づいて、環境調節手段を制御することができる。環境調節機器は、システム100’の制御手段150を構成し得る。あるいは、ローカル装置のプロセッサ部が、出力に基づいて制御信号を生成し、環境調節機器がローカル装置から制御信号を受信し、これに応じて、環境調節手段を制御することができる。ローカル装置のプロセッサ部および環境調節機器は、システム100’の制御手段150を構成し得る。環境調節機器は、典型的には、温湿環境を調節可能なエアーコンディショナー等の空調装置であり得る。
【0139】
さらに別の実施形態において、上述したシステム100’または100’’は、例えば、サーバ装置と被験者のローカル装置との組み合わせとして実装されることができる。サーバ装置は、上述したとおり、通信インターフェース部と、記憶部と、プロセッサ部とを備え得、システム100’または100’’の受信手段110、導出手段120、出力手段130は、サーバ装置の通信インターフェースおよび/またはプロセッサ部によって構成され得る。
【0140】
サーバ装置は、被験者のローカル装置と通信することができる。サーバ装置からの出力は、通信インターフェース部を介して、被験者のローカル装置に送信され得る。ここで、サーバ装置からの出力は、任意の態様で被験者のローカル装置に送信されることができる。
【0141】
被験者のローカル装置は、例えば、発報装置であり得る。発報装置は、例えば、通信インターフェース部と、プロセッサ部と、発報手段とを備え得る。発報装置は、通信インターフェース部が、サーバ装置からの出力を受信し、プロセッサ部が、出力が所定の閾値を超えているか否かを判定し、超えていると判定された場合に、発報することができる。発報装置は、システム100’の発報手段140を構成し得る。あるいは、サーバ装置のプロセッサ部が、出力が所定の閾値を超えているか否かを判定し、超えていると判定された場合に、発報装置がサーバ装置から制御信号を受信し、これに応じて、発報手段が発報することができる。サーバ装置のプロセッサ部および発報装置は、システム100’の発報手段140を構成し得る。
【0142】
被験者のローカル装置は、例えば、端末装置であり得る。端末装置は、例えば、通信インターフェース部と、プロセッサ部とを備え得る。端末装置は、通信インターフェース部が、サーバ装置からの出力を受信し、プロセッサ部が、出力に基づいて、被験者の負荷の指標を推定/予測することができる。推定/予測された負荷の指標は、例えば、端末装置の表示部に表示され得るか、あるいは、他のローカル機器に送信されてそのローカル機器を制御するために使用され得る。端末装置は、システム100’’の推定/予測手段160を構成し得る。
【0143】
被験者のローカル装置は、例えば、環境調節機器であり得る。環境調節機器は、例えば、通信インターフェース部と、プロセッサ部と、環境調節手段とを備え得る。環境調節機器は、通信インターフェース部が、サーバ装置からの出力を受信し、プロセッサ部が、出力に基づいて、環境調節手段を制御することができる。環境調節機器は、システム100’の制御手段150を構成し得る。あるいは、サーバ装置のプロセッサ部が、出力に基づいて制御信号を生成し、環境調節機器がサーバ装置から制御信号を受信し、これに応じて、環境調節手段を制御することができる。サーバ装置のプロセッサ部および環境調節機器は、システム100’の制御手段150を構成し得る。環境調節機器は、典型的には、温湿環境を調節可能なエアーコンディショナー等の空調装置であり得る。
【0144】
上述した例では、サーバ装置の各構成要素がそれぞれサーバ装置、ローカル装置内に設けられ得るが、本発明はこれに限定されない。サーバ装置の各構成要素のいずれかがサーバ装置の外部に設けられることも可能である。例えば、記憶部、プロセッサ部のそれぞれが別々のハードウェア部品で構成されている場合には、各ハードウェア部品が任意のネットワークを介して接続されてもよい。このとき、ネットワークの種類は問わない。各ハードウェア部品は、例えば、LANを介して接続されてもよいし、無線接続されてもよいし、有線接続されてもよい。サーバ装置は、特定のハードウェア構成には限定されない。例えば、プロセッサ部をデジタル回路ではなくアナログ回路によって構成することも本発明の範囲内である。例えば、記憶部としてのデータベース部は、サーバ装置の外部に設けられてもよいしサーバ装置内に設けられてもよい。データベース部の構成は、特定のハードウェア構成に限定されない。例えば、データベース部は、単一のハードウェア部品で構成されてもよいし、複数のハードウェア部品で構成されてもよい。例えば、データベース部は、サーバ装置200の外付けハードディスク装置として構成されてもよいし、ネットワークを介して接続されるクラウド上のストレージとして構成されてもよい。サーバ装置の構成は、その機能を実現できる限りにおいて上述したものに限定されない。
【0145】
上述した例では、ローカル装置の各構成要素がそれぞれローカル装置、ローカル装置内に設けられ得るが、本発明はこれに限定されない。ローカル装置の各構成要素のいずれかがローカル装置の外部に設けられることも可能である。例えば、記憶部、プロセッサ部のそれぞれが別々のハードウェア部品で構成されている場合には、各ハードウェア部品が任意のネットワークを介して接続されてもよい。このとき、ネットワークの種類は問わない。各ハードウェア部品は、例えば、LANを介して接続されてもよいし、無線接続されてもよいし、有線接続されてもよい。ローカル装置は、特定のハードウェア構成には限定されない。例えば、プロセッサ部をデジタル回路ではなくアナログ回路によって構成することも本発明の範囲内である。ローカル装置の構成は、その機能を実現できる限りにおいて上述したものに限定されない。
【0146】
(4.被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステムによる処理)
図5は、被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステム100における処理500の一例を示す。システム100’も同様の処理を行うことができる。
【0147】
ステップS501では、受信手段110が、被験者から測定されたデータを受信する。被験者から測定されたデータは、所定の期間中に被験者から測定され、少なくとも、第1の状態における被験者から測定された第1のデータと、第2の状態における被験者から測定された第2のデータとを含む。所定の期間中に複数回の変化が生じる場合には、ステップS501では、受信手段110は、それぞれの変化の前後において被験者から測定されたデータを受信する。例えば、第1の状態から第2の状態へ、第2の状態から第3の状態へ、第3の状態から第4の状態へ・・・という複数回の変化が生じる場合には、受信手段110は、第1の状態における被験者から測定された第1のデータ、第2の状態における被験者から測定された第2のデータ、第3の状態における被験者から測定された第3のデータ、第4の状態における被験者から測定された第4のデータ、・・・を受信することになる。受信手段110は、被験者からデータが測定されるたびに、測定されたデータを受信するようにしてもよいし、いくつかまたはすべてのデータが測定された後にそれらのデータをまとめて受信するようにしてもよい。
【0148】
ステップS501では、受信手段110は、被験者から測定されたデータに加えて、変化情報もさらに受信するようにしてもよい。変化情報は、例えば、被験者によって入力される情報であってもよいし、被験者の環境から検出される情報であってもよい。
【0149】
ステップS502では、導出手段120が、ステップS501で受信されたデータから、少なくとも、第1の成分および第2の成分を導出する。
【0150】
一実施形態において、ステップS502では、導出手段120は、ステップS501で受信されたデータに対して数理モデルを適用することによって、少なくとも、第1の成分および第2の成分を導出することができる。ここで、数理モデルは、少なくとも、第1の成分および第2の成分を成分として有する。好ましくは、数理モデルは、第1の成分と、第2の成分と、第3の成分とを成分として有し得る。数理モデルは、上述した成分に加えて、他の成分を有してもよい。好ましい実施形態では、数理モデルは、ベイズ統計モデリングで用いられる状態空間モデルであり得る。
【0151】
導出手段120は、ステップS501で受信されたデータが、数理モデルが有する第1の成分および第2の成分を有するものと仮定して、受信されたデータから少なくとも第1の成分および第2の成分を導出することができる。好ましい実施形態では、導出手段120は、ステップS501で受信されたデータが、数理モデルが有する第1の成分、第2の成分および第3の成分を有するものと仮定して、受信されたデータから第1の成分、第2の成分および第2の成分を導出することができる。
【0152】
ステップS503では、出力手段130が、ステップS502で導出された成分を出力する。出力手段130は、任意の態様で、導出された成分を出力することができる。出力手段130は、例えば、導出された成分を、ネットワークを介して送信することによりシステム100の外部に出力することができる。出力手段130は、例えば、導出された成分を、記憶媒体に記憶することによりシステム100の外部に出力することができる。出力手段130は、例えば、導出された成分を、表示画面に出力するようにしてもよいし、音声で出力してもよいし、紙に印字することによって出力するようにしてもよい。
【0153】
このようにして出力された成分は、任意の用途に使用されることができる。例えば、出力された成分が閾値を超えているか否かを判定し、超えていると判定された場合に、所定のアクションを行うようにすることができる。所定のアクションは、例えば、発報すること(例えば、被験者自身への発報、被験者以外の人(例えば、家族、医師、看護師、介護士等)への発報)、環境調節機器を制御すること、記憶手段(例えば、ネットワークを介して接続されるクラウドサーバ)への情報の蓄積を行うこと、端末装置の表示部に表示すること等を含むが、これらに限定されない。例えば、出力された成分に基づいて、他の情報を推定または予測することができる。他の情報は、例えば、被験者の現在の負荷の指標(例えば、負荷量または負荷レベル)を表す情報、被験者の将来の負荷の指標(例えば、負荷量または負荷レベル)を表す情報、被験者の負荷を軽減し得る環境(例えば、温湿環境、空気成分、光環境、音響環境)を示す情報、被験者の負荷を軽減し得るアクション(例えば、衣服の着脱、運動、睡眠)を示す情報、被験者の負荷を軽減し得るアイテム(例えば、懐炉、冷感シート、氷枕、湯たんぽ等)を示す情報等を含むが、これらに限定されない。
【0154】
処理500がシステム100’によって行われる場合、ステップS503の後、発報手段140が、ステップS503で出力された成分が所定の閾値を超えたときに発報する。発報手段140は、例えば、出力された第1の成分が所定の閾値を超えたときに、または、出力された第2の成分が所定の閾値を超えたときに、または、出力された第1の成分および第2の成分の両方がそれぞれの所定の閾値を超えたときに、発報することができる。
【0155】
あるいは、これらに加えて、または、これらに代えて、ステップS503の後、制御手段150が、ステップS503で出力された成分に基づいて、環境調節機器を制御する。環境調節機器は、被験者の周囲の環境を調節可能な任意の機器であり得る。一例において、環境調節機器は、例えば、温湿環境(例えば、温度、湿度、輻射、気流等)、空気成分(例えば、CO濃度、酸素濃度、水素濃度、香り等)、光環境(例えば、照明)、および/または音響環境(例えば、音楽、騒音等)を調節可能な機器である。典型的には、環境調節機器は、温湿環境を調節可能なエアーコンディショナー等の空調装置であり得る。
【0156】
好ましい実施形態において、制御手段150は、ステップS503で出力された成分が所定の閾値を超えたときに、その成分を増加または減少させる環境を決定することと、決定された環境を達成するように環境調節機器を制御することとを行うことができる。成分を増加または減少させる環境は、例えば、特定の温湿環境、特定の空気成分、特定の光環境、特定の音響環境のうちの少なくとも1つであり得る。
【0157】
処理500がシステム100’’によって行われる場合、推定/予測手段160が、ステップS502の代わりのステップS502’において、変化による被験者に対する負荷の指標を推定または予測することができる。
【0158】
一実施形態において、推定/予測手段160は、被験者に対する現時点の負荷の指標を推定することができる。推定/予測手段160は、例えば、モデル化された第1の成分および/または第2の成分の時系列変動に基づいて、被験者に対する現時点の負荷の指標を推定することができる。
【0159】
別の実施形態において、推定/予測手段160は、現在の負荷の指標を推定することに加えて、または、現在の負荷の指標を推定することに代えて、将来の負荷の指標を予測することができる。例えば、推定/予測手段160は、将来の負荷の指標として、モデル化された第1の成分および/または第2の成分の時系列変動に基づいて、将来の変動を予測するようにしてもよい。
【0160】
処理500は、例えば、被験者に関する状態の変化が生じたことをトリガとして行われることができる。例えば、被験者からデータを周期的に測定しておき、変化が生じたときに、変化の前後に測定されたデータを用いて処理500が行われ得る。あるいは、処理500は、例えば、所定期間中にリアルタイムで行われることができる。
【0161】
システム100またはシステム100’またはシステム100’’がサーバ装置によって実装される場合、処理500は、サーバ装置のプロセッサ部によって行われ得る。システム100またはシステム100’またはシステム100’’がローカル装置によって実装される場合、処理500は、ローカル装置のプロセッサ部によって行われ得る。
【0162】
上述した例では、特定の順序で各ステップの処理が行われることを説明したが、各ステップの処理の順序は説明されるものに限定されない。論理的に可能な任意の順序で、各ステップの処理を行うことができる。
【0163】
上述した例では、図5に示される各ステップの処理は、プロセッサ部とメモリ部に格納されたプログラムとによって実現することが説明されたが、本発明はこれに限定されない。図5に示される各ステップの処理のうちの少なくとも1つは、制御回路などのハードウェア構成によって実現されてもよい。
【0164】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【実施例
【0165】
(実施例1)
(実験条件)
22~58歳(平均44.0±9.4歳)の被験者27名(男性13名、女性14名)に対して温度差試験を行った。下記条件の試験室Aと試験室Bとの間を被験者が往復移動した。被験者は、各試験室に約20分間滞在し、試験室Aと試験室Bとの間を4往復した。計約180分の試験時間であった。歩行による生理的な影響を除外するために、移動中を含め実験中は、被験者は椅子に座った状態で、眼を開けて安静状態にあった。部屋間の移動は、被験者が椅子に座った状態で、補助者が椅子押すことによって行われた。被験者に対して特定の課題を行うことはなかった。湿度は、すべての部屋で50%であった。
【表1】
【0166】
実験中、下記の計測項目の測定を行った。
主観評価:温感、疲労感、自律神経失調症状
心拍変動:心拍数、交感神経の活動、副交感神経の活動等
皮膚温 :体表面の体温(4点法)
【0167】
(解析)
測定されたデータに対して、本発明の手法に従って解析を行った。具体的には、ベイズ統計モデリングを利用して解析を行った。
【0168】
測定されたデータが、第1の成分(Load)、第2の成分(Environment)、第3の成分(Base)からなると仮定する。各条件での測定されたデータを、誤差項ε~normal(0,σ)を用いて、下記のとおり定義した。
T26-26条件(すなわち、統制条件):Base+ε1
T26-31条件、T26-36条件、T21-36条件のそれぞれ:Base+Loadn+Envn+εn
各成分を下記のとおりモデル化した。
【数8】
ここで、X~normal(μ,σ)は、Xが、平均μ、標準偏差σの正規分布に従うことを意味し、X~cauchy(μ,σ)は、Xが、平均μ、標準偏差σのcauchy分布に従うことを意味している。tは、タイムポイントを表しており、Nは、温度変化の一周期分のタイムポイント数(例えば6タイムポイント)を表している。
【0169】
上記モデル式は、二階差分の式(x-xt-1=xt-1-xt-2)を仮定してモデル化されている。
【0170】
(結果)
(1.LF/HF)
図6Aは、心拍変動から得られたLF/HF指標についての結果を示す。図6A(a)が、解析前のデータを示すグラフであり、図6A(b)~(d)が、導出された各成分を示すグラフである。図6A(b)が、変化に依存しない第3の成分(Base)を示すグラフであり、図6A(c)が、負荷の蓄積を表す第1の成分(Loading)を示すグラフであり、図6A(d)が、変化に追随して変動する第2の成分(Environment)を示すグラフである。黒丸(●)がT26-26条件の結果を示し、黒四角(■)がT26-31条件の結果を示し、白菱形(◇)がT26-36条件の結果を示し、黒三角(▲)がT21-36条件の結果を示す。薄い灰色が95%ベイズ信用区間を表し、濃い灰色が50%ベイズ信用区間を表す。
【0171】
図6A(c)から分かるように、第1の成分において、自律神経への負荷・疲労の蓄積が表現できている。負荷の蓄積の程度は、
T26-36≦T26-31<T26-36
となっている。温度差が最も大きいT21-36条件よりも、T26-36条件の方が、負荷がより蓄積している傾向にあることが分かる。むしろ、温度差が最も大きいT21-36条件の負荷が、温度差が小さいT26-31条件程に収まっていることが分かる。これは、36℃という高温条件の後に21℃という低温条件に入ることにより、負荷の蓄積がリセットされるためであると推測される。このような負荷の蓄積の程度は、図6A(a)に示される解析前のデータからは見出すことはできなかった。本発明の手法により、第1の成分を第2の成分や第3の成分と区別して導出することができたからこそ、負荷の蓄積の程度を可視化できるようになった。
【0172】
図6A(d)から分かるように、第2の成分において、周期ごとの環境の影響が表現されている。このような周期ごとの環境の影響も、図6A(a)に示される解析前のデータからは明確に見出すことはできなかった。本発明の手法により、第2の成分を第1の成分や第3の成分と区別して導出することができたからこそ、周期ごとの環境の影響を可視化できるようになった。
【0173】
(2.HR)
図6Bは、心拍変動から得られたHR(心拍数)指標についての結果を示す。図6Bは、導出された各成分を示すグラフである。図6B(a)が、第3の成分(Base)を示すグラフであり、図6B(b)が、第1の成分(Loading)を示すグラフであり、図6B(c)が、第2の成分(Environment)を示すグラフである。黒丸(●)がT26-26条件の結果を示し、黒四角(■)がT26-31条件の結果を示し、白菱形(◇)がT26-36条件の結果を示し、黒三角(▲)がT21-36条件の結果を示す。薄い灰色が95%ベイズ信用区間を表し、濃い灰色が50%ベイズ信用区間を表す。
【0174】
図6B(b)から分かるように、第1の成分において、心拍数の上昇(身体への負荷の蓄積)が表現できている。負荷の蓄積の程度は、
T26-31<T21-36<T26-36
となっている。温度差が最も大きいT21-36条件よりも、T26-36条件の方が、負荷がより蓄積している傾向にあることが分かる。これは、図6Aに示される結果とも整合している。このような負荷の蓄積の程度は、解析前のデータ(図示せず)からは見出すことはできなかった。本発明の手法により、第1の成分を第2の成分や第3の成分と区別して導出することができたからこそ、負荷の蓄積の程度を可視化できるようになった。
【0175】
図6B(c)から分かるように、第2の成分において、周期ごとの環境の影響が表現されている。このような周期ごとの環境の影響も、解析前のデータからは明確に見出すことはできなかった。本発明の手法により、第2の成分を第1の成分や第3の成分と区別して導出することができたからこそ、周期ごとの環境の影響を可視化できるようになった。
【0176】
(3.HF)
図6Cは、心拍変動から得られたHF(高周波)指標についての結果を示す。図6Cは、導出された各成分を示すグラフである。図6C(a)が、第3の成分(Base)を示すグラフであり、図6C(b)が、第1の成分(Loading)を示すグラフであり、図6C(c)が、第2の成分(Environment)を示すグラフである。黒丸(●)がT26-26条件の結果を示し、黒四角(■)がT26-31条件の結果を示し、白菱形(◇)がT26-36条件の結果を示し、黒三角(▲)がT21-36条件の結果を示す。薄い灰色が95%ベイズ信用区間を表し、濃い灰色が50%ベイズ信用区間を表す。
【0177】
図6C(b)から分かるように、第1の成分において、副交感神経の活動の低下(身体への負荷の蓄積)が表現できている。負荷の蓄積の程度(低下している方が負荷の蓄積の程度が高い)は、
T21-36≦T26-31<T26-36
となっている。温度差が最も大きいT21-36条件よりも、T26-36条件の方が、負荷がより蓄積している傾向にあることが分かる。むしろ、温度差が最も大きいT21-36条件の負荷が、温度差が小さいT26-31条件程に収まっていることが分かる。これは、図6Aに示される結果とも整合している。このような負荷の蓄積の程度は、解析前のデータ(図示せず)からは見出すことはできなかった。本発明の手法により、第1の成分を第2の成分や第3の成分と区別して導出することができたからこそ、負荷の蓄積の程度を可視化できるようになった。
【0178】
図6C(c)から分かるように、第2の成分において、周期ごとの環境の影響が表現されている。このような周期ごとの環境の影響も、解析前のデータからは明確に見出すことはできなかった。本発明の手法により、第2の成分を第1の成分や第3の成分と区別して導出することができたからこそ、周期ごとの環境の影響を可視化できるようになった。
【0179】
(4.皮膚温)
図6Dは、皮膚温指標についての結果を示す。図6Dは、導出された各成分を示すグラフである。図6D(a)が、第3の成分(Base)を示すグラフであり、図6D(b)が、第1の成分(Loading)を示すグラフであり、図6D(c)が、第2の成分(Environment)を示すグラフである。黒丸(●)がT26-26条件の結果を示し、黒四角(■)がT26-31条件の結果を示し、白菱形(◇)がT26-36条件の結果を示し、黒三角(▲)がT21-36条件の結果を示す。薄い灰色が95%ベイズ信用区間を表し、濃い灰色が50%ベイズ信用区間を表す。
【0180】
図6D(b)から分かるように、第1の成分において、皮膚温の上昇(身体への負荷の蓄積)が表現できている。負荷の蓄積の程度は、
T21-36≦T26-31<T26-36
となっている。温度差が最も大きいT21-36条件よりも、T26-36条件の方が、負荷がより蓄積している傾向にあることが分かる。むしろ、温度差が最も大きいT21-36条件の負荷が、温度差が小さいT26-31条件程に収まっていることが分かる。これは、図6Aに示される結果とも整合している。このような負荷の蓄積の程度は、解析前のデータ(図示せず)からは見出すことはできなかった。本発明の手法により、第1の成分を第2の成分や第3の成分と区別して導出することができたからこそ、負荷の蓄積の程度を可視化できるようになった。
【0181】
図6D(c)から分かるように、第2の成分において、周期ごとの環境の影響が表現されている。温度差が最も大きいT21-36条件が、最も変動が大きくなっている。このような周期ごとの環境の影響も、解析前のデータからは明確に見出すことはできなかった。本発明の手法により、第2の成分を第1の成分や第3の成分と区別して導出することができたからこそ、周期ごとの環境の影響を可視化できるようになった。
【0182】
(5.肉体的な疲労感)
図6Eは、心理的指標である肉体疲労指標についての結果を示す。図6Eは、導出された各成分を示すグラフである。図6E(a)が、第3の成分(Base)を示すグラフであり、図6E(b)が、第1の成分(Loading)を示すグラフであり、図6E(c)が、第2の成分(Environment)を示すグラフである。黒丸(●)がT26-26条件の結果を示し、黒四角(■)がT26-31条件の結果を示し、白菱形(◇)がT26-36条件の結果を示し、黒三角(▲)がT21-36条件の結果を示す。薄い灰色が95%ベイズ信用区間を表し、濃い灰色が50%ベイズ信用区間を表す。
【0183】
図6E(b)から分かるように、第1の成分において、身体への負荷の蓄積が表現できている。負荷の蓄積の程度は、
T26-31<T26-36<T21-36
となっている。温度差が最も大きいT21-36条件が、主観的な疲労の蓄積が大きくなっている。
【0184】
図6A図6Dと、図6Eとを比較すると、主観的な疲労の蓄積が大きいのは、温度差が最も大きいT21-36条件であるが、実際の身体への負荷の蓄積が大きいのは、T26-36条件となっていることが分かる。すなわち、主観的な疲労の蓄積は必ずしも正しいわけではなく、主観的には疲労していない条件の方が実は身体に負荷が蓄積していることが示されている。このように、本発明の手法によれば、主観的な疲労の蓄積と実際の身体への負荷の蓄積との乖離を明らかにすることができる点で特に有利である。
【0185】
(実施例2)
実施例1の温度差試験で測定されたデータを用いて、ベイズ統計モデリングを利用した予測を行った。本実施例では、試験室Aと試験室Bとの間を4往復したときに測定されたデータのうち3往復目までのデータを用いて、第1の成分(Load)、第2の成分(Environment)、第3の成分(Base)をモデリングした。得られたモデルを利用して、4往復目のデータを予測した。
【0186】
誤差項ε~normal(0,σ)を用いて、T26-26条件(すなわち、統制条件)のデータをBase+ε1と定義し、T26-31条件、T26-36条件、T21-36条件のそれぞれのデータをBase+Loadn+Envn+εnと定義したとき、3往復目までのデータによるモデル式は、下記のとおりであった。
【数9】
ここで、X~normal(μ,σ)は、Xが、平均μ、標準偏差σの正規分布に従うことを意味し、X~cauchy(μ,σ)は、Xが、平均μ、標準偏差σのcauchy分布に従うことを意味している。tは、タイムポイントを表しており、Nは、温度変化の周期(ここでは、一周期分のタイムポイント数。例えば6タイムポイント)を表している。
【0187】
誤差項ε~normal(0,σ)を用いて、T26-26条件(すなわち、統制条件)のデータをBase+ε1と定義し、T26-31条件、T26-36条件、T21-36条件のそれぞれのデータをBase+Loadn+Envn+εnと定義したとき、4往復目の予測モデル式は、以下のとおりとなった。
【数10】
【0188】
このモデル式に3往復目までのモデル式で得られた推定値を入力し、4往復目の変化を予測した。LF/HF、HR、HF、皮膚温、VASについて、4往復目の変化を予測した。
【0189】
(結果)
(1.LF/HF)
図7Aは、心拍変動から得られたLF/HF指標についての結果を示す。図7Aは、導出された各成分を示すグラフである。図7A(a)が、第3の成分(Base)を示すグラフであり、図7A(b)が、第1の成分(Loading)を示すグラフであり、図7A(c)が、第2の成分(Envirionment)を示すグラフである。黒丸(●)がT26-26条件の結果を示し、黒四角(■)がT26-31条件の結果を示し、白菱形(◇)がT26-36条件の結果を示し、黒三角(▲)がT21-36条件の結果を示す。薄い灰色が95%ベイズ信用区間を表し、濃い灰色が50%ベイズ信用区間を表す。線Lより左が、実際に得られたデータからの推定値であり、線Lより右が、予測値である。
【0190】
予測値は、図6Aに示される、実際に得られたデータからの推定値と概ね整合していた。従って、十分な精度で予測することができていると考えられる。
【0191】
このように交感神経の過活動に関する指標となるLF/HFが特定の環境で、将来的にどの時点で閾値を超えるかを予測することができるため、それに先立って予防的に負荷の蓄積を抑えるように環境の制御を行うことができるという点で有利である。
【0192】
(2.HR)
図7Bは、心拍変動から得られたHR指標についての結果を示す。図7Bは、導出された各成分を示すグラフである。図7B(a)が、第3の成分(Base)を示すグラフであり、図7B(b)が、第1の成分(Loading)を示すグラフであり、図7B(c)が、第2の成分(Envirionment)を示すグラフである。黒丸(●)がT26-26条件の結果を示し、黒四角(■)がT26-31条件の結果を示し、白菱形(◇)がT26-36条件の結果を示し、黒三角(▲)がT21-36条件の結果を示す。薄い灰色が95%ベイズ信用区間を表し、濃い灰色が50%ベイズ信用区間を表す。線Lより左が、実際に得られたデータからの推定値であり、線Lより右が、予測値である。
【0193】
予測値は、図6Bに示される、実際に得られたデータからの推定値と概ね整合していた。従って、十分な精度で予測することができていると考えられる。
【0194】
このように身体への負担の指標となる心拍数が特定の環境で、将来的にどの時点で閾値を超えるかを予測することができるため、それに先立って予防的に心拍数の過剰な増大や減少を抑えるように環境の制御を行うことができるという点で有利である。
【0195】
(3.HF)
図7Cは、心拍変動から得られたHF指標についての結果を示す。図7Cは、導出された各成分を示すグラフである。図7C(a)が、第3の成分を示すグラCであり、図7C(b)が、第1の成分を示すグラフであり、図7c(c)が、第2の成分を示すグラフである。線Lより左が、実際に得られたデータからの推定値であり、線Lより右が、予測値である。
【0196】
予測値は、図6Cに示される、実際に得られたデータからの推定値と概ね整合していた。従って、十分な精度で予測することができていると考えられる。
【0197】
このように副交感神経活動の指標となるHFが特定の環境で、将来的にどの時点で閾値を超えるかを予測することができるため、それに先立って予防的にHFの低下を抑えるように環境の制御を行うことができるという点で有利である。
【0198】
(4.皮膚温)
図7Dは、皮膚温指標についての結果を示す。図7Dは、導出された各成分を示すグラフである。図7D(a)が、第3の成分を示すグラフであり、図7D(b)が、第1の成分を示すグラフであり、図7D(c)が、第2の成分を示すグラフである。線Lより左が、実際に得られたデータからの推定値であり、線Lより右が、予測値である。
【0199】
予測値は、図6Dに示される、実際に得られたデータからの推定値と概ね整合していた。従って、十分な精度で予測することができていると考えられる。
【0200】
このように身体へ蓄積された熱ストレスの指標となる皮膚温が特定の環境で、将来的にどの時点で閾値を超えるかを予測することができるため、それに先立って予防的に体温の過剰な変動を抑えるように環境の制御を行うことができるという点で有利である。
【0201】
(5.肉体的な疲労感)
図7Eは、心理的指標である肉体疲労指標についての結果を示す。図7Eは、導出された各成分を示すグラフである。図7E(a)が、第3の成分を示すグラフであり、図7E(b)が、第1の成分を示すグラフであり、図7E(c)が、第2の成分を示すグラフである。線Lより左が、実際に得られたデータからの推定値であり、線Lより右が、予測値である。
【0202】
予測値は、図6Eに示される、実際に得られたデータからの推定値と概ね整合していた。従って、十分な精度で予測することができていると考えられる。
【0203】
このような主観的な疲労の指標が将来的にどの時点で閾値を超えるかを予測することができるため、主観的な疲労の増大を抑えるように環境の制御を行うことができる。
【0204】
図6A図6Eで見出された主観的な疲労の蓄積と実際の身体への負荷の蓄積との乖離は、図7A図7Eにおいても見られた。
【0205】
(実施例3)
実施例1の温度差試験で測定されたデータのうち、1人の被験者から測定されたデータに対して、実施例1と同様の解析を行った。HRについて解析を行った。
【0206】
(結果)
図8は、導出された各成分を示すグラフである。図8(a)が、第3の成分を示すグラフであり、図8(b)が、第1の成分を示すグラフであり、図8(c)が、第2の成分を示すグラフである。
【0207】
1人の被験者から測定されたデータであっても、実施例1の被験者27名から測定されたデータと同様に、3つの成分を導出することができ、それらの成分の傾向は、実施例1の結果とも整合していた。本手法は、少なくとも1人の被験者に対して適用されることができることが分かる。
【0208】
(実施例4)
実施例1の温度差試験で測定されたデータのうち、1人の被験者から測定されたデータに対して、実施例2と同様の予測を行った。HRについて予測を行った。
【0209】
(結果)
図9は、導出された各成分を示すグラフである。図9(a)が、第3の成分を示すグラフであり、図9(b)が、第1の成分を示すグラフであり、図9(c)が、第2の成分を示すグラフである。線Lより左が、実際に得られたデータからの推定値であり、線Lより右が、予測値である。
【0210】
予測値は、図8に示される、実際に得られたデータからの推定値と概ね整合していた。従って、十分な精度で予測することができていると考えられる。
【0211】
1人の被験者から測定されたデータであっても、実施例2の被験者27名から測定されたデータと同様に、3つの成分の将来の変動を予測することができた。本手法は、少なくとも1人の被験者に対して適用されることができることが分かる。
【0212】
(実施例5)
より柔軟な環境変化に対する本発明手法の妥当性を示すために、実環境を想定した仮想データを用いて、正しく推定/予測できるかについて検証を行った。
【0213】
(実施例5A)
本例では、夏季の屋外に滞在しているときに「水をかぶる」という単発的なイベントが発生するという条件を想定し、その場合の心拍数の変動に関する仮想データを作成し、その仮想データに対して本発明の手法を適用した。
【0214】
図10Aは、作成された仮想データのグラフ表現を示す。aのグラフは、室温環境(26℃)に滞在しているときの心拍数の変動に関するデータを示す。bのグラフは、夏季の屋外の暑熱環境(36℃)に滞在しているときの心拍数の変動に関するデータを示す。cのグラフは、夏季の屋外の暑熱環境(36℃)に滞在しているときに単発イベント(例えば、「水をかぶる」)が発生したときの心拍数の変動に関するデータである。
【0215】
各データa、b、cの観測方程式Y、Y、Yはそれぞれ、
=Base+ε
=Base+Load+ε
=Base+Load+Env+ε
と表され得る。ここで、ε~normal(0,σ )、Env=Eventとする。
【0216】
状態方程式はそれぞれ、
Base=2Baset-1-Baset-2+εBase,t-2
εBase,t~normal(0,σBase
Load=2Loadt-1-Loadt-2+εLoad,t-2
εLoad,t~normal(0,σLoad
Env=Envt-1+εnv,t
εEnv,t~cauchy(0,σEnv
と表され得る。
【0217】
仮想データに対して、これらの状態方程式で表された第1の成分、第2の成分、第3の成分を有する数理モデルを適用すると、図10Bに示されるように、各成分が導出された。
【0218】
図10B(a)は、仮想データから導出された第1の成分(Loading)を示し、図10B(b)は、仮想データから導出された第2の成分(Event)を示す。
【0219】
図10B(a)から、暑熱環境による負荷の蓄積を導出することができていることがわかる。また、図10B(b)から、単発イベントによる変化をとらえることができていることが分かる。
【0220】
このように、本発明の手法により、単発的なイベントが発生した場合にも、第1の成分および第2の成分を導出することができた。
【0221】
(実施例5B)
本例では、暑い屋外と涼しい屋内とをランダムな時間にランダムな期間で行き来するという条件を想定し、その場合の心拍数の変動に関する仮想データを作成し、その仮想データに対して本発明の手法を適用した。
【0222】
図11Aは、作成された仮想データのグラフ表現を示す。aのグラフは、室温環境(26℃)に滞在し続けているときの心拍数の変動に関する仮想データを示す。bのグラフは、涼しい屋内の室温環境(26℃)と暑い屋外の暑熱環境(36℃)とを行き来しているときの心拍数の変動に関する仮想データを示す。
【0223】
各データa、bの観測方程式Y、Yはそれぞれ、
=Base+ε
=Base+Load+Env+ε
と表され得る。ここで、εn~normal(0,σ )とする。
Env=Event*Onset
とし、Onsetは、イベントの有無を解析対象のタイムポイントに合わせて2値表現したものである。例えば、Onset=[0,0,0,1,1,1,0,0,0,……]と表される。
【0224】
状態方程式はそれぞれ、
Base=2Baset-1-Baset-2+εBase,t-2
εBase,t~normal(0,σBase
Load=2Loadt-1-Loadt-2+εLoad,t-2
εLoad,t~cauchy(0,σLoad
Event=Eventt-1+εEvent,t
εEvent,t~normal(0,σEvent
と表され得る。
【0225】
仮想データに対して、これらの状態方程式で表された第1の成分、第2の成分、第3の成分を有する数理モデルを適用すると、図11Bに示されるように、各成分が導出された。
【0226】
図11B(a)は、仮想データから導出された第3の成分(Base)を示し、図11B(b)は、仮想データから導出された第1の成分(Loading)を示し、図11B(c)は、仮想データから導出された第2の成分(Environment)を示す。
【0227】
図11B(b)から、室温環境と暑熱環境との往来による負荷の蓄積を導出することができていることがわかる。また、図11B(c)から、ランダムな期間でランダムなタイミングに発生するイベントによる変化をとらえることができていることが分かる。
【0228】
このように、本発明の手法により、規則性のない任意のイベントが発生した場合にも、第1の成分および第2の成分を導出することができた。
【産業上の利用可能性】
【0229】
本発明は、被験者に関する所定の期間中の状態の変化の影響を定量化するためのシステム等を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0230】
100、100’ システム
110 受信手段
120 導出手段
130 出力手段
140 発報手段
150 制御手段
160 推定/予測手段
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B