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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】栄養組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4188 20060101AFI20240325BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 31/70 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 33/04 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 31/205 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240325BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20240325BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240325BHJP
   A23L 33/00 20160101ALI20240325BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20240325BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20240325BHJP
   A23L 33/29 20160101ALI20240325BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20240325BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20240325BHJP
【FI】
A61K31/4188
A61K38/02
A61K31/70
A61K33/30
A61K33/06
A61K33/04
A61K31/205
A61K47/36
A61P3/02
A61P3/10
A23L33/00
A23L33/17
A23L33/15
A23L33/29
A23L33/16
A23L33/21
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019115861
(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公開番号】P2021001144
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 直之
(72)【発明者】
【氏名】日野 和夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 歩規代
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-094655(JP,A)
【文献】特開2018-080175(JP,A)
【文献】特表2002-510317(JP,A)
【文献】特開2015-100344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、A23L
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
たんぱく質、脂質、及び糖質を、たんぱく質:脂質:糖質の重量比100:67~122:231~356で含み、
カルニチン、その塩、及びそれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種を10~30mg/100ml、
ビオチンを2~5μg/100ml、
セレンを1~3.5μg/100ml、
亜鉛を0.5~1.2mg/100ml、
マグネシウムを10~25mg/100ml、及び
酸性の領域でゲル化する食物繊維を含む、栄養組成物。
【請求項2】
前記ゲル化特性を有する食物繊維が、ペクチンである、請求項に記載の栄養組成物。
【請求項3】
pHが5.8以上である、請求項又はに記載の栄養組成物。
【請求項4】
25℃の粘度が2~100mPa・sであり、且つ、
栄養組成物50mlと人工胃液(pH1.2、塩化ナトリウム2.0g/L、塩酸7.0ml/L)50mlとを混合した場合に、得られる混合液の25℃での粘度が500~10000mPa・sになる、請求項のいずれかに記載の栄養組成物。
【請求項5】
更にガティガムを含む、請求項のいずれかに記載の栄養組成物。
【請求項6】
2型糖尿病患者の食事療法に使用される、請求項1~のいずれかに記載の栄養組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性を改善できる成分を含み、食後の急激な血糖値の上昇を抑制できる栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化や高カロリー化、車社会の発達等に起因する運動不足、高齢化等に伴って、我が国の糖尿病患者は増加の一途にある。糖尿病は、血糖値の調節能力(耐糖能)が低下して血糖値が上昇することにより引き起こされる全身性代謝障害であり、脳卒中、虚血性心疾患等の心血管疾患の発症・進展を促進することも知られている。糖尿病は、QOLの低下を伴うだけでなく、医療経済的にも大きな負担を社会に強いている。
【0003】
また、糖尿病には、膵β細胞の破壊によって生じる1型糖尿病と、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性によって生じる2型糖尿病に大別される。いずれの糖尿病患者でも、食事療法が不可欠であり、適正なエネルギー量の栄養をとると共に、食後に血糖値が急激に上昇しないようにコントロールすることが必要になる。また、2型糖尿病患者の食事療法では、インスリン感受性を高めたり、インスリン抵抗性を改善したりする成分を摂取させることが有効になる。
【0004】
従来、カルニチンには、脂肪負荷による耐糖能障害を改善する作用があることが報告されている(非特許文献1等)。ビオチンには、グルコース応答性の一過的なインスリン分泌を促進する作用があることが報告されている(非特許文献2及び3等)。また、セレン、亜鉛、及びマグネシウム等の微量元素には、インスリン分泌の調節やインスリン抵抗性の改善等の作用があることが報告されており、これらの微量元素の適正な量の補充が糖尿病の予防又は治療に有効であることが知られている(非特許文献4及び5等)。
【0005】
このように、カルニチン、ビオチン、及び特定の微量元素には、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性を改善できることが知られているが、これらの成分を含みながら、血糖値の上昇を抑制でき、糖尿病(特に2型糖尿病)の食事療法に有効になる栄養組成物については、開発されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Power R et al., Diabetologia, Vol.50、p.824-832, 2007
【文献】Lazo dela Vega-Monroy,J Nutr Biochem, 24:169-177, 2013
【文献】Sone H et al., J Nutr Biochem, Vol.10, p.237-243, 1999
【文献】藤谷与士夫、亜鉛栄養治療、第5巻、第2号、45~56頁、2015年2月7日
【文献】保坂利男、月刊糖尿病、Vol.4、No.10、136~137頁、2012年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性を改善できる成分を含み、食後の急激な血糖値の上昇を抑制できる栄養組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、たんぱく質、脂質、及び糖質をたんぱく質:脂質:糖質の重量比100:67~122:231~356含み、カルニチンを10~30mg/100ml、ビオチンを2~5μg/100ml、セレンを1~3.5μg/100ml、亜鉛を0.5~1.2mg/100ml、及びマグネシウムを10~25mg/100ml含む栄養組成物は、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性を改善できる成分を適正な量で含みつつ、食後の急激な血糖値の上昇を抑制できることを見出した。
【0009】
また、栄養補給のために、糖質の量を控えて脂質を増加させて必要となるエネルギー量を補充した液状(流動食状)の栄養組成物は、脂質量の増量に伴って、胃内の流動食が食道に向かって逆流する胃食道逆流が生じ易くなるという問題点があるが、前記栄養組成物に酸性領域でゲル化するゲル化剤を配合することによって、摂取前は液状でありながら胃内に入るとゲル化することにより胃食道逆流を抑制できることを見出した。
【0010】
本発明は、これらの知見に基づいて更なる検討を重ねることにより完成したものである。即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. たんぱく質、脂質、及び糖質を、たんぱく質:脂質:糖質の重量比100:67~122:231~356で含み、
カルニチン、その塩、及びそれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種を10~30mg/100ml、
ビオチンを2~5μg/100ml、
セレンを1~3.5μg/100ml、
亜鉛を0.5~1.2mg/100ml、及び
マグネシウムを10~25mg/100ml含む、栄養組成物。
項2. 更に食物繊維を含む、項1に記載の栄養組成物。
項3. 酸性の領域でゲル化する食物繊維を含む、項1又は2に記載の栄養組成物。
項4. 前記ゲル化特性を有する食物繊維が、ペクチンである、項3に記載の栄養組成物。
項5. pHが5.8以上である、項3又は4に記載の栄養組成物。
項6. 25℃の粘度が2~100mPa・sであり、且つ、
栄養組成物50mlと人工胃液(pH1.2、塩化ナトリウム2.0g/L、塩酸7.0ml/L)50mlとを混合した場合に、得られる混合液の25℃での粘度が500~10000mPa・sになる、項3~5のいずれかに記載の栄養組成物。
項7. 食物繊維として、ガティガムを含む、項2~6のいずれかに記載の栄養組成物。
項8. 2型糖尿病患者の食事療法に使用される、項1~7のいずれかに記載の栄養組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の栄養組成物は、たんぱく質、脂質、及び糖質の比率を所定範囲に調整されていると共に、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性を改善できる成分(カルニチン、ビオチン、セレン、亜鉛、マグネシウム等)を適正な含有量で含んでいるので、食後の血糖値の急激な上昇を効果的に抑制することができ、糖尿病(特に2型糖尿病)の食事療法における栄養補給食として好適である。
【0012】
また、本発明の栄養組成物の一態様では、摂取前は液状(流動食)でありながら、摂取後に胃内に入ると胃内のpHによってゲル化する特性を備えることができるので、胃食道逆流を抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1及び比較例1の栄養組成物をラットに経口投与し、血糖値の経時変化を測定した結果を示す図である。
図2】実施例1及び比較例1の栄養組成物をラットに経口投与し、血糖値曲線下面積(AUC)、及び血糖の最大濃度(Cmax)を求めた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の栄養組成物は、たんぱく質、脂質、及び糖質を、たんぱく質:脂質:糖質の重量比100:67~122:231~356で含み;カルニチン、その塩、及びそれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種を10~30mg/100ml;ビオチンを2~5μg/100ml;セレンを1~3.5μg/100ml;亜鉛を0.5~1.2mg/100ml;及びマグネシウムを10~25mg/100ml含むことを特徴とする。以下、本発明の栄養組成物について詳述する。
【0015】
[たんぱく質、脂質、及び糖質]
本発明の栄養組成物は、エネルギー源として、たんぱく質、脂質、及び糖質を含有する。
【0016】
本発明において、「たんぱく質」とは、食品表示基準における分析方法(即ち、窒素定量換算法)で特定されるたんぱく質、ポリペプチドやその加水分解物だけでなく、アミノ酸も含まれる。
【0017】
本発明で使用されるたんぱく質の種類については特に制限されないが、例えば、大豆、小麦、エンドウマメ、米等の植物由来のタンパク質;卵、魚介類、肉類、牛乳等の動物由来のタンパク質;これらのタンパク質の酵素分解物;イソロイシン、ロイシン、メチオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、リジン、トレオニン、フェニルアラニン等のアミノ酸等が挙げられる。これらのたんぱく質は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0018】
本発明で使用される脂質は、その種類については特に制限されないが、例えば、米油、ヤシ油、大豆油、えごま油、ごま油、コーン油、菜種油、パーム油、サフラワー油、ヒマワリ油、オリーブ油、綿実油、落花生油、カカオ脂等の植物油;魚油、牛脂、豚脂等の動物油;脂肪酸、中鎖脂肪酸(炭素数6~12程度)トリグリセリド、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸等が挙げられる。これらの油脂は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0019】
本発明において、糖質とは、消化酵素で分解されてエネルギー源として使用される炭水化物である。本発明で使用される糖質は、その種類については特に制限されないが、例えば、グルコース、ガラクトース、果糖、キシロース等の単糖類;ショ糖、乳糖、麦芽糖等の二糖類;ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖等のオリゴ糖;デキストリン、澱粉等の多糖類等が挙げられる。これらの糖質は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0020】
本発明の栄養組成物では、たんぱく質、脂質、及び糖質は、たんぱく質:脂質:糖質の重量比で100:67~122:231~356に設定されており、一般的な従来の栄養組成物に比べて、脂質の比率を高めて糖質の比率が低減されている。本発明の栄養組成物では、このような比率でたんぱく質、脂質、及び糖質を含むことにより、糖質の摂取量を低減させつつ適正なエネルギー量を摂取でき、食後の血糖値の急激な上昇を抑制することが可能になっている。食後の血糖値の急激な上昇をより一層効果的に抑制するという観点から、たんぱく質、脂質、及び糖質の重量比として、好ましくは100:81~108:263~325、更に好ましくは100:89~100:281~306が挙げられる。
【0021】
本発明の栄養組成物において、たんぱく質、脂質、及び糖質の含有量については、前述する比率を満たす範囲で、当該栄養組成物の1回当たりの摂取量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、以下の範囲が例示される。
たんぱく質:1.6~4.8g/100ml、好ましくは2.4~4.4g/100ml、更に好ましくは2.8~4g/100ml。
脂質:1.07~5.87g/100ml、好ましくは1.93~4.77g/100ml、更に好ましくは2.49~4.0g/100ml。
糖質:3.7~17.1g/100ml、好ましくは6.3~14.3g/100ml、更に好ましくは7.9~12.3g/100ml。
【0022】
[カルニチン、その塩、及び/又はそれらの誘導体]
本発明の栄養組成物は、カルニチン、その塩、及びそれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種(以下、カルニチン類と表記することもある)を含む。カルニチン類は、耐糖能を改善する作用が知られている成分である。
【0023】
本発明で使用されるカルニチンとしては、L-カルニチン、D-カルニチン、レボカルニチン、及びDL-カルニチンのいずれを使用してもよいが、好ましくはL-カルニチン、DL-カルニチン、更に好ましくはL-カルニチンが挙げられる。
【0024】
カルニチンの塩としては、可食性であることを限度として特に制限されないが、例えば、ハロゲン化物塩、金属塩、アンモニウム塩、有機酸塩、無機酸塩等が挙げられる。より具体的には、カルニチンの塩として、塩化物塩;ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩等の金属塩;アンモニウム塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩等の有機酸塩;塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩等が挙げられる。
【0025】
カルニチンの誘導体としては、可食性であることを限度として特に制限されないが、例えば、アセチルカルニチン、ブチリルカルニチン、バレリルカルニチン、イソバレリルカルニチン、プロピルカルニチン、プロプリオニルカルニチン等のカルニチンのエステル体等が挙げられる。
【0026】
本発明の栄養組成物は、これらのカルニチン類の中から1種を単独で使用してもよく、これらのカルニチン類の中の2種以上を組み合わせて使用してもよい。カルニチン類の中でも、好ましくはカルニチン、更に好ましくはL-カルニチンが挙げられる。
【0027】
本発明の栄養組成物におけるカルニチン類の含有量は、10~30mg/100mlである。食後の血糖値の急激な上昇をより一層効果的に抑制するという観点から、カルニチン類の含有量として、好ましくは12~28mg/100ml、更に好ましくは15~25mg/100mlが挙げられる。
【0028】
[ビオチン]
本発明の栄養組成物は、ビオチンを含む。ビオチンは、グルコース応答性の一過的なインスリン分泌を促進する作用が知られている成分である。
【0029】
本発明の栄養組成物にビオチンを含有させるには、ビオチン、ビオチンを含む酵母又はそのエキス等を配合すればよい。
【0030】
本発明の栄養組成物におけるビオチンの含有量は、2~5μg/100mlである。食後の血糖値の急激な上昇をより一層効果的に抑制するという観点から、ビオチンの含有量として、好ましくは2.5~4.8μg/100ml、更に好ましくは2.8~4.5μg/100mlが挙げられる。
【0031】
また、本発明の栄養組成物において、カルニチンとビオチンの比率については、両成分が前述する含有量を満たす範囲内であればよいが、例えば、カルニチン100mg当たり、ビオチンが6.7~50μg、好ましくは8.9~40μg、更に好ましくは11~30μgとなる範囲に設定すればよい。
【0032】
[セレン]
本発明の栄養組成物は、セレンを含む。セレンは、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性を改善できることが知られている微量元素である。
【0033】
本発明の栄養組成物にセレンを含有させるには、セレンの有機酸塩、無機塩、セレンを含む酵母又はそのエキス等を配合すればよい。
【0034】
本発明の栄養組成物におけるセレンの含有量は、1~3.5μg/100mlである。セレンの過剰摂取は、毒性が生じ、更に糖尿病を誘発又は悪化させ得ることが懸念されているが、本発明の栄養組成物では、セレンの含有量を前記範囲に設定することにより、一日に必要なカロリーを本発明の栄養組成物のみで摂取しても、セレンの過剰摂取にはならず、安全に使用できるように設定されている。セレンの過剰摂取を抑制しつつ、食後の血糖値の急激な上昇をより一層効果的に抑制するという観点から、セレンの含有量として、好ましくは1.5~3.2μg/100ml、更に好ましくは2.0~3.0μg/100mlが挙げられる。
【0035】
また、本発明の栄養組成物において、カルニチンとセレンの比率については、両成分が前述する含有量を満たす範囲内であればよいが、例えば、カルニチン100mg当たり、セレンが3.3~35μg、好ましくは5.4~27μg、更に好ましくは8~20μgとなる範囲に設定すればよい。
【0036】
[亜鉛]
本発明の栄養組成物は、亜鉛を含む。亜鉛は、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性を改善できることが知られている微量元素である。
【0037】
本発明の栄養組成物に亜鉛を含有させるには、亜鉛の有機酸塩、無機塩、亜鉛を含む酵母又はそのエキス等を配合すればよい。
【0038】
本発明の栄養組成物における亜鉛の含有量は、0.5~1.2mg/100mlである。食後の血糖値の急激な上昇をより一層効果的に抑制するという観点から、亜鉛の含有量として、好ましくは0.7~1.2mg/100ml、更に好ましくは0.8~1.1mg/100mlが挙げられる。
【0039】
また、本発明の栄養組成物において、カルニチンと亜鉛の比率については、両成分が前述する含有量を満たす範囲内であればよいが、例えば、カルニチン100mg当たり、亜鉛が1.7~12mg、好ましくは2.5~10mg、更に好ましくは3.2~7.3mgとなる範囲に設定すればよい。
【0040】
[マグネシウム]
本発明の栄養組成物は、マグネシウムを含む。マグネシウムは、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性を改善できることが知られている微量元素である。
【0041】
本発明の栄養組成物にマグネシウムを含有させるには、マグネシウムの有機酸塩、無機塩、マグネシウムを含む酵母又はそのエキス等を配合すればよい。
【0042】
本発明の栄養組成物におけるマグネシウムの含有量は、10~25mg/100mlである。食後の血糖値の急激な上昇をより一層効果的に抑制するという観点から、マグネシウムの含有量として、好ましくは14~22mg/100ml、更に好ましくは16~20mg/100mlが挙げられる。
【0043】
また、本発明の栄養組成物において、カルニチンとマグネシウムの比率については、両成分が前述する含有量を満たす範囲内であればよいが、例えば、カルニチン100mg当たり、マグネシウムが33~250mg、好ましくは50~183mg、更に好ましくは64~133mgとなる範囲に設定すればよい。
【0044】
[食物繊維]
本発明の栄養組成物は、前述する成分の他に、食物繊維を含むことが好ましい。本発明において、食物繊維とは、消化酵素で消化されない炭水化物である。
【0045】
本発明で使用される食物繊維は、その種類については特に制限されないが、例えば、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸の塩(ナトリウム塩等)、ジェランガム、カラギーナン、ガティガム、アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、レジスタントスターチ、コンニャクマンナン、グルコマンナン、βグルカン、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、イヌリン、難消化性オリゴ糖、アガロース、フコイダン、ポルフィラン、ラミナラン、グアガム等が挙げられる。
【0046】
これらの食物繊維は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
前記食物繊維の中で好適な例として、酸性(pH5.3以下)の領域でゲル化する食物繊維(特に、中性以上(pH5.3超)の領域ではゲル化せず、酸性(pH5.3以下)の領域でゲル化するゲル化特性を有する食物繊維)が挙げられる。このようなゲル化特性を有する食物繊維を本発明の栄養組成物に含有させると、摂取前は液状でありながら、摂取後に胃内に入ると胃内のpHによってゲル化する特性を備えさせることが可能になる。従来技術では、糖質の量を控えて脂質を増加させた液状の栄養組成物は、胃内の流動食が食道に向かって逆流する胃食道逆流が生じ易くなるという欠点があったが、本発明の栄養組成物では、前記ゲル化特性を有する食物繊維を配合することによって、当該欠点を克服し、液状の流動食でありながら胃食道逆流を抑制することができる。前記ゲル化特性を有する食物繊維としては、具体的には、ペクチン(特にローメトキシルペクチン)、アルギン酸、アルギン酸の塩(ナトリウム塩等)、ジェランガム、カラギーナン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはペクチン、更に好ましくはローメトキシルペクチンが挙げられる。
【0048】
また、前記食物繊維の中で他の好適な例として、乳化作用があり、乳化安定性を付与できる食物繊維が挙げられる。本発明の栄養組成物では、水溶性成分(たんぱく質、糖質等)と脂溶性成分(脂質等)が含まれているが、前記乳化特性を有する食物繊維を含有させることにより、乳化剤(界面活性剤)を別途配合せずとも、乳化状態を安定に形成させることが可能になる。このような乳化特性を有する食物繊維としては、具体的には、ガティガム、アラビアガムが挙げられる。これらの中でも、好ましくはガティガムが挙げられる。
【0049】
本発明の栄養組成物において、食物繊維として、前記ゲル化特性を有する食物繊維、及び前記乳化特性を有する食物繊維のいずれか一方を含むことが好ましく、これらの双方を含むことが更に好ましい。
【0050】
本発明の栄養組成物において、食物繊維を含有させる場合、その含有量については、使用する食物繊維の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、食物繊維の総量で0.05~7g/100ml、好ましくは0.05~5g/100ml、更に好ましくは0.1~3g/100mlが挙げられる。
【0051】
より具体的には、前記ゲル化特性を有する食物繊維を含有させる場合であれば、当該食物繊維の含有量として、例えば、0.1~7g/100ml、好ましくは0.3~5g/100ml、更に好ましくは0.5~3g/100mlが挙げられる。また、ガティガムを含有させる場合であれば、ガティガムの含有量として、例えば、0.05~2g/100ml、好ましくは0.05~1.5g/100ml、更に好ましくは0.3~1g/100ml、特に好ましくは0.3~0.75g/100mlが挙げられる。また、アラビアガムを含有させる場合であれば、アラビアガムの含有量として、例えば、2~7g/100ml、好ましくは3~6g/100ml、更に好ましくは4~5g/100mlが挙げられる。
【0052】
[その他の成分]
本発明の栄養組成物は、更に、必要に応じて、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、pH調整剤、ビオチン以外のビタミン類(ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンD、ビタミンK等)、前記以外の微量元素(ナトリウム、塩素、カリウム、カルシウム、リン、クロム、モリブデン、マンガン、鉄、銅、ヨウ素等)、甘味料、酸化防止剤、防腐剤、調味料、着色料、香料等の添加剤が含まれていてもよい。
【0053】
また、本発明の栄養組成物は基剤として水を含む。本発明の栄養組成物における水の含有量については、配合する成分を除いた残部であればよく、例えば、500~990g/L、好ましくは600~950g/Lが挙げられる。
【0054】
[栄養組成物の形態・特性]
本発明の栄養組成物は、水溶性成分(たんぱく質、糖質等)と脂溶性成分(脂質等)が含まれているので、乳化状態であることが好ましい。本発明の栄養組成物の乳化形態については、特に制限されず、水中油型又は油中水型のいずれであってもよいが、好ましくは水中油型が挙げられる。
【0055】
また、本発明の栄養組成物のpHについては、特に制限されないが、例えば、酸性の領域でゲル化する食物繊維を含む場合には、pHが5.8以上9未満、好ましくは6.0~8.0が挙げられる。このようなゲル化特性を有する食物繊維を含み、且つ前記pH範囲を充足することにより、喫食時には液状の流動食でありながら、胃内に入るとゲル化して胃食道逆流を抑制することができる。
【0056】
本発明の栄養組成物の形状は、液状、ゲル状等のいずれであってもよいが、摂取容易性の観点から、液状(即ち、流動食)であることが好ましい。
【0057】
本発明の栄養組成物が液状である場合、その粘度としては、例えば、2~100mPa・s、好ましくは3~70mPa・s、更に好ましくは5~50mPa・sが挙げられる。
【0058】
また、本発明の栄養組成物は、液状であり、且つ酸性の領域でゲル化する食物繊維を含む場合には、前述するように胃内に入るとゲル化する特性を有する。本発明の栄養組成物が、このように胃内でゲル化特性を有する場合の一態様として、本発明の栄養組成物50mlと人工胃液(pH1.2、塩化ナトリウム2.0g/L、塩酸7.0ml/L)50mlとを混合した場合に、得られる混合液の25℃での粘度が、例えば、500~10000mPa・s、好ましくは700~9000mPa・s、更に好ましくは1000~8000mPa・sになるものが挙げられる。
【0059】
なお、本明細書において、粘度は、25℃にて、B型粘度計を用いて、Lアダプターを使用し、回転数を12rpmに設定して測定される値である。
【0060】
本発明の栄養組成物のエネルギー密度については、1回当たりの摂取量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、10~700kcal/100ml、好ましくは30~500kcal/100ml、更に好ましくは50~300kcal/100mlが挙げられる。
【0061】
また、本発明の栄養組成物を充填する容器については、特に制限されないが、例えば、アルミパウチやソフトバッグ等が挙げられる。
【0062】
[用途・摂取量]
本発明の栄養組成物は、健常人の栄養補給食として使用することもできるが、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性を改善できる成分を含み、食後の急激な血糖値の上昇を抑制できるので、糖尿病の予防又は治療用の栄養補給食、特に2型糖尿病の食事療法に使用される栄養補給食として好適である。
【0063】
本発明の栄養組成物の摂取方法については特に制限されず、通常は経口摂取であればよいが、嚥下障害者に使用される場合であれば、胃瘻チューブ(カテーテル)や経鼻チューブ(カテーテル)等を介した経管投与を行えばよい。
【0064】
本発明の栄養組成物の摂取量については、そのエネルギー密度、摂取する者の症状、性別、年齢等に応じて適宜設定すればよく、例えば、1回当たりの摂取量として、摂取される総エネルギー量が200~600kcal、好ましくは200~400kcalとなるように設定すればよい。より具体的には、1回当たりの本発明の栄養組成物の摂取量が250~750g程度、好ましくは375~500g程度で、1日1~5回程度、好ましくは1日1~3回程度が挙げられる。
【0065】
[製造方法]
本発明の栄養組成物の製法については、特に制限されないが、例えば、乳化形態にする場合であれば、水に、配合する各成分を所定量添加、混合した後に、ホモジナイザーで乳化し、必要に応じて加熱殺菌することによって製造することができる。
【実施例
【0066】
以下に実施例等を示して本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0067】
試験例1:食後血糖値の測定
1.栄養組成物の調製
表1に示す成分を配合した水中油型乳化形態の液状栄養組成物を調製した。具体的には、ローメトキシルペクチンを除く各成分を水に加えてミキサーで混合した後、pH調整剤及びローメトキシルペクチンを加え、高圧ホモジナイザー(「LAB-1000、APV社製)にて均質化(50MPa、2パス)を行った。均質化して水中油型乳化形態にした栄養組成物はパウチに100ml充填した後に、加熱殺菌処理(121℃、10分)に供した。
【0068】
【表1】
【0069】
得られた栄養組成物に含まれる栄養成分の含有量、並びに栄養組成物のエネルギー密度及びpHは、表2に示す通りである。後述する血糖値の測定試験では、経口投与の直前にパウチから各栄養組成物を取り出して使用した。
【0070】
【表2】
【0071】
2.食後血糖値の測定
8週齢の雄ラット(Crl:CD(SD))を、ガンマ線照射固形飼料(「CRF-1」、オリエンタル酵母工業株式会社)による6日間の給餌期間、その後1日間の絶食期間を経て、馴化させた。次いで、ラットを、各群の体重が均等になるように第1群(13匹)及び第2群(12匹)に分けた。
【0072】
第1群には、実施例1の栄養組成物を10mL/kgで経口投与(1回目投与)し、15、30、60、90及び120分後に血糖値を測定した。血糖値の測定には自己血糖測定装置(「グルテストミント」、株式会社三和化学研究所)を使用し、尾部先端をメスで小さく傷つけて漏出した血液を測定チップに反応させることによって行った。血糖値の測定は午前中に実施した。次いで、飼料自由摂取下に約1週間飼育した後、ラットを一夜絶食させて、その翌日に、比較例1の栄養組成物を前記と同条件で経口投与(2回目投与)して、前記と同様に血糖値の測定を行った。
【0073】
また、第2群では、1回目投与で比較例1の栄養組成物を経口投与し、2回目投与で実施例1の栄養組成物を経口投与したこと以外は、第1群と同条件で血糖値の測定を行った。
【0074】
血糖値の経時変化を求めた結果を図1、並びに血糖値曲線下面積(area under curve,AUC)及び血糖の最大濃度(Cmax)を求めた結果を図2に示す。図1及び2から分かるように、実施例1の栄養組成物を投与することにより、血糖値の上昇を有意に低減できていた。
【0075】
試験例2:人工胃液との混合によるゲル化特性の評価
1.栄養組成物の調製
表3に示す成分を配合した水中油型乳化形態の液状栄養組成物を調製した。具体的には、ローメトキシルペクチンを除く各成分を水に加えてミキサーで混合した後、pH調整剤及びローメトキシルペクチンを加え、高圧ホモジナイザー(「LAB-1000、APV社製)にて均質化(50MPa、2パス)を行った。均質化して水中油型乳化形態にした栄養組成物はパウチに100ml充填した後に、加熱殺菌処理(121℃、10分)に供した。
【0076】
【表3】
【0077】
得られた栄養組成物に含まれるたんぱく質、脂質、糖質、カルニチン、ビオチン、セレン、亜鉛、及びマグネシウムの各含有量、並びに栄養組成物のエネルギー密度及びpHは、表4に示す通りである。
【0078】
【表4】
【0079】
2.ゲル化特性の測定
栄養組成物をパウチから取り出して25℃での粘度を、B型粘度計(「RB80L型」、東機産業株式会社)にて、Lアダプターを使用し回転数12rpmにて測定した。
【0080】
また、パウチから取り出した栄養組成物50mlをトールビーカー(100ml容量)に入れ、更に第十六改正日本薬局方の「6.09崩壊試験法」に基づいて作製された人工胃液(pH1.2、塩化ナトリウム2.0g/L、塩酸7.0ml/L)50mlを加え、2液を混合し、得られた混合液の25℃での粘度を前記の機器にてM3アダプターを使用し回転数12rpmにて測定した。
【0081】
得られた結果を表5に示す。この結果、実施例2の栄養組成物は、胃液と接触するまでは良好な流動性を有しているが、胃液と接触すると増粘してゲル化することが確認できた。
【0082】
【表5】
図1
図2