(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】アミノ酸含有海塩におけるアミノ酸の減少を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/40 20160101AFI20240325BHJP
【FI】
A23L27/40
(21)【出願番号】P 2019130757
(22)【出願日】2019-07-14
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 章吾
(72)【発明者】
【氏名】重岡 敬之
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼村 博
(72)【発明者】
【氏名】中尾 洋一
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104041791(CN,A)
【文献】特開2004-359523(JP,A)
【文献】「和白干潟の海底湧水で塩作り」報告/「和白の塩」ができあがりました。-和白干潟をラムサールへ,FC2ブログ [online],2014年02月15日,http://wajiroblog.blog.fc2.com/blog-entry-120.html,[検索日2023年3月13日]
【文献】海底湧水採取!,グリーンシティ福岡 活動日誌 [online],2014年06月16日,http://www.greencity-f.org/article/15090443.html,[検索日2023年3月13日]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/40
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度が0.1pmol/μL以上のアミノ酸が含まれ、かつアミノ酸としてアラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、チロシン及びバリンを含む海底湧海水を取水し、平釜に海底湧海水を流し込み、海底湧海水の水分を加熱により蒸発させることにより海水中のアミノ酸が含まれる海塩を析出させて、析出した海塩に含まれるアミノ酸の成分が海塩100gに対して20μg以上であるアミノ酸含有海塩を得る際に、
海塩を析出するために海底湧海水を加熱する温度を150℃以上250℃以下とし、
アミノ酸が含まれる海底湧海水を取水してから15時間以内にアミノ酸が含まれる海塩を析出させることを特徴とする、アミノ酸含有海塩におけるアミノ酸の減少を抑制する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の
アミノ酸含有海塩におけるアミノ酸の減少を抑制する方法において、取水した海底湧海水に由来しないものをアミノ酸の原料となるように添加しないことを特徴する、
アミノ酸含有海塩におけるアミノ酸の減少を抑制する方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の
アミノ酸含有海塩におけるアミノ酸の減少を抑制する方法において、海塩を析出させる工程でにがりを一切除去しないことを特徴とする、
アミノ酸含有海塩におけるアミノ酸の減少を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸含有海塩及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食用塩は採取場所に応じて主に海塩、岩塩、湖塩に分類される。海塩は海水から採取する塩である。岩塩は岩塩層から採取される塩である。湖塩は塩分濃度が高い塩水湖から採取される塩である。日本には岩塩層や塩水湖がないため、日本で製造される塩は主に海塩である。
【0003】
海塩はさらに製法やミネラルの添加により精製塩、自然海塩、再生加工塩、などに分類される。精製塩は一般的に販売されている塩であり、イオン交換膜透析法により、ナトリウムイオンとカリウムイオンを抽出、濃縮し、真空蒸発缶により煮詰めて作られる。塩化ナトリウムを99%以上含み、ミネラル等の添加はない。自然海塩は、昔ながらの自然の力により製造される塩であり、風と太陽の力を利用して海水を濃縮させ釜で煮詰めて製造する平釜塩と塩田などで濃縮させた海水を天日で結晶させる完全天日塩に分類される。再生加工塩は、輸入した原塩ににがり等のミネラルを添加して成分調整を行ったもの(自然海塩加工)やイオン交換塩ににがり等のミネラルを添加して成分調整を行ったもの(イオン交換塩加工)などがある(非特許文献1)。
【0004】
イオン交換膜透析法は、室内で電気の力で製造するため天候に左右されず効率良く塩を大量に製造することができるが、海水中に含まれる各種ミネラルが除去されているため、ミネラルのバランスが悪く、塩カドのあるしょっぱいだけのまずい塩になっている。そのため、平成9年4月の塩専売制度廃止以降、塩化ナトリウム以外にカルシウム,マグネシウム,鉄,カリウム等(ミネラル分)をイオン交換膜法で製造した塩よりも多く含む自然海塩の人気が高まっている(非特許文献2)。
【0005】
さらには、上記の塩にさまざまな成分を添加した添加塩がある(非特許文献2)。特許文献1ではだし汁や調味材料などの旨味材料成分が添加されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】”塩の基礎知識”、[online]、[令和元年7月1日検索]、インターネット<URL:http://altertrade.jp/guerande/basics>
【文献】公益財団法人塩事業センター、”市販食用塩データブック2019年版”、2019年4月
【文献】” 食塩と海塩の違い”、 [令和元年7月1日検索]、インターネット<URL:http://www.hamamori-shop.com/hpgen/HPB/categories/14548.html>
【文献】Bill Burnett、”Offshore Springs and Seeps Are Focus of Working Group”、Eos、Vol.80、No.2、p.13-15、1999
【文献】新井章吾、”海底湧水が育む浅海域生態系の仕組み”、Ebucheb、Vol.48、p.2-5、2013
【文献】” 砂を吹き上げる海水の「海底湧水」”、[online]、[令和元年7月9日検索]、インターネット<URL:https://www.youtube.com/watch?v=BAGtoIUxyNI>
【特許文献】
【0007】
【0008】
先行技術文献は上記のとおりであるが非特許文献4~6については実施例の説明の箇所で改めて説明を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年の消費者のナチュラル志向によりより一層自然の形に近い食用塩が求められている(非特許文献2、非特許文献3)。添加塩はその添加物により各種の風味が向上するなどユーザーの味へのこだわりに対応したものであるが、取水した海水以外の成分を添加しているため、いかにも人工的な味わいであり海塩というよりも塩味調味料に分類される。そのため、添加塩は自然塩・天然塩とは言いがたいという問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであって、アミノ酸が含まれる海水からアミノ酸含有海塩の製造方法及びそれにより得られるアミノ酸含有海塩を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のアミノ酸含有海塩の製造方法は、アミノ酸が含まれる海水を取水し、海水の水分を蒸発させることにより海水中のアミノ酸が含まれる海塩を析出させる。
【0012】
例えば、前記アミノ酸含有海塩の製造方法において、前記取水した海水から微生物を除去する工程を有する。
【0013】
例えば、前記アミノ酸含有海塩の製造方法において、前記微生物を除去する工程は、アミノ酸が含まれる海水を取水してから15時間以内に行われる。
【0014】
例えば、前記アミノ酸含有海塩の製造方法において、アミノ酸が含まれる海水を取水してから15時間以内にアミノ酸が含まれる海塩を析出させる。
【0015】
例えば、前記アミノ酸含有海塩の製造方法において、取水した海水に由来しないものをアミノ酸の原料となるように添加しない。
【0016】
例えば、前記アミノ酸含有海塩の製造方法において、前記アミノ酸が含まれる海水は海底湧海水である。
【0017】
また、本発明のアミノ酸含有海塩は、取水した海水のみを原料として精製されたアミノ酸含有海塩であって、海塩に含まれるアミノ酸の成分が海塩100gに対して20μg以上である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、取水した海水以外から他の成分を加えることなく、うま味やまろやかさを有するアミノ酸含有海塩を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】平釜で海水中の水分を蒸発させていることを示す写真である。
【
図2】水面に部分的に海塩が析出していることを示す写真である。
【
図3】海水中の水分の蒸発が進み粘性を帯びていることを示す写真である。
【
図4】わずかに水分が残っている海塩を示す写真である。
【
図5】水分がほぼ完全に蒸発した海塩を示す写真である。
【
図6】塩小屋での実際の作業風景を示す写真である。
【
図7A】取水時からの経過時間に対するアミノ酸(Ala)強度を示すグラフである。
【
図7B】取水時からの経過時間に対するアミノ酸(Arg)強度を示すグラフである。
【
図7C】取水時からの経過時間に対するアミノ酸(Asp)強度を示すグラフである。
【
図7D】取水時からの経過時間に対するアミノ酸(Glu)強度を示すグラフである。
【
図7E】取水時からの経過時間に対するアミノ酸(Gly)強度を示すグラフである。
【
図7F】取水時からの経過時間に対するアミノ酸(His)強度を示すグラフである。
【
図7G】取水時からの経過時間に対するアミノ酸(Phe)強度を示すグラフである。
【
図7H】取水時からの経過時間に対するアミノ酸(Pro)強度を示すグラフである。
【
図7I】取水時からの経過時間に対するアミノ酸(Ser)強度を示すグラフである。
【
図7J】取水時からの経過時間に対するアミノ酸(Thr)強度を示すグラフである。
【
図7K】取水時からの経過時間に対するアミノ酸(Tyr)強度を示すグラフである。
【
図7L】取水時からの経過時間に対するアミノ酸(Val)強度を示すグラフである。
【
図8A】アミノ酸を加熱した際のArgの温度依存性を示すグラフである。
【
図8B】アミノ酸を加熱した際のAspの温度依存性を示すグラフである。
【
図8C】アミノ酸を加熱した際のLysの温度依存性を示すグラフである。
【
図8D】アミノ酸を加熱した際のThrの温度依存性を示すグラフである。
【
図9】海底湧海水、海底湧淡水、潮汐によって地下淡水と地下海水が混合した海底湧汽水、不透水層の断裂箇所から押し出された地下淡水が地下海水と混合した海底湧汽水の模式図である。
【
図10A】海底湧海水の海の下層への滞留(金沢八景)の様子を示す写真である。
【
図10B】海底湧海水の海の下層への滞留(中海)の様子を示す写真である。
【
図11A】大分県杵築湾におけるアマモ帯状分布帯の内側の海水の透視度を示す写真である。
【
図11B】大分県杵築湾におけるアマモ帯状分布帯の外側の海水の透視度を示す写真である。
【
図12A】海底湧海水の採水状況を示す写真である。
【
図12B】海底から湧出する海水を取水する採水器を示す写真である。
【
図13】海底湧海水が湧き出ている浜(山口県光市牛島)を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明の実施形態にかかるアミノ酸含有海塩の製造方法について説明する。本発明の実施形態における海塩の製造は、海洋から取水した海水の水分を蒸発させることにより海塩を析出させることを基本する。
【0021】
本願発明者らの調査研究により、海水中に海塩を製造するのに十分なアミノ酸が含まれている場合があることを特定し、海塩の製造工程において海水中のアミノ酸をできるだけ消失することなく海塩に含ませることに成功したものである。
【0022】
(海塩)
海塩とは一般に、塩化ナトリウムの純度が約80%で、残りはマグネシウムやカリウム、カルシウムなどのミネラル成分で構成されていることを意味することがあるが、本願発明は「海塩」という言葉をこの意味に限らず海洋から取水した海水から水分を蒸発させて析出させた食用塩という意味で用いる。なお本願発明においても海塩中の塩化ナトリウムの濃度は、一般のイオン交換塩の塩化ナトリウム純度(約99%)よりも低い方が望ましく、約70~90%が望ましいが、より好ましくは約70~80%である。
【0023】
(海塩の析出方法)
本発明の実施形態では、アミノ酸が含まれる海水を取水し、海水の水分を蒸発させることにより海水中のアミノ酸が含まれる海塩を析出させる。海水の水分の蒸発方法は公知の方法を採用することができる。特に、火、ガス、電気、地熱など加熱により蒸発させる方法が望ましい。下記に詳述するが海水中に含まれるアミノ酸を分解してしまう微量の微生物等を海水を蒸発させながら直ちに除去することが可能だからである。なお、海水の水分を蒸発させるに際し、海水中の水分を逆浸透膜などにより除去するなど公知の海水濃縮工程を設けることも可能である。
【0024】
海水の水分を加熱して蒸発させる方法は、塩作り一般で知られている公知の加熱方法を用いることができる。ここでは平釜により加熱方法を説明する。
図1のように平釜にアミノ酸が含まれる海水を流し込む。取水した海水を直接流し込んでもよいし、微粒子などを除去するフィルターを介してもよい。平釜の下には薪が敷き詰められており、薪の燃焼に伴う熱により平釜内の海水を沸騰させ水分を蒸発させる。海水の水分が蒸発すると
図2のように水面に部分的に海塩が析出する。これは一般に一番塩、花塩などと呼ぶことがある。さらに海水を加熱し水分が蒸発すると、
図3のように海塩の析出が進み粘性が高くなる。平釜中の気泡が塩ともに跳ね上がることもある。
【0025】
一般の海塩製造工程では、この段階で帆布の袋などに入れ、遠心分離器などで液状のにがり(マグネシウム)を取り除く。にがりはその名のとおり苦味を呈するのでミネラル成分を豊富に含むことを特徴とする海塩においても、にがりを一定量を削除し成分の調整が行われる。しかし、本発明の実施形態では後で詳述するようにこのようなにがりを取り除く工程を一切設けずに海塩析出工程を進めることができる。
【0026】
図4に示すように平釜全体に海塩が析出しているがまだわずかに水分が残っている。水分がなくなるまで加熱を進める。なお、加熱を進める際は後で詳述するように加熱温度や取水した時刻からの経過時間に十分留意する必要がある。
図5ではほぼ完全に水分が蒸発し海塩の析出が完了している。
【0027】
本願実施例ではアミノ酸が含まれる約260リットルの海水を平釜で約8時間加熱することにより海水の水分がほぼ完全に蒸発し、アミノ酸含有塩を析出させることができた。この場合、海水に加える熱量は概ね660kcal/Lである。熱量はこれに限らず海水を所定時間内に効率よく蒸発させれればよく、概ね400kcal/L以上であることが望ましい。上記の説明では薪による加熱を説明したがガス、電気又は地熱を使用した加熱も適用できる。また、平釜に限らず、土鍋やフライパンなど海水の水を蒸発させるために必要な公知の器具を使用することができる。
図6は実際の海塩製造の様子を示すものである。
【0028】
(海水中の微生物の影響)
アミノ酸が含まれる海水からアミノ酸含有海塩を製造する上で留意すべきことは、取水した海水中に含まれるアミノ酸を分解してしまうバクテリア(例:シアノバクテリア他)などの微量の微生物の存在である。取水した海水をそのまま放置しておくと、海水中の微生物がアミノ酸を分解してしまいアミノ酸含有海塩を得づらくなってしまう。そのため、取水した海水から微生物を除去する工程を設けることが望ましい。他にもアミノ酸を分解する存在として、渦鞭毛藻などのプランクトン、雑菌などの細菌類も想定される。これらも必要に応じて除去することが望ましい。
【0029】
微生物を除去する方法は公知のものを採用することができる。例えば、取水した海水を一定以上の温度で加熱することで、微生物を除去することができる。例えば海水中に含まれる微生物であれば60℃以上の加熱で、より好ましくは80℃以上の加熱で、より好ましくは100℃以上の加熱で、概ね死滅(除去)させることができる。特に加熱により微生物を除去する方法は、海水中の水分を蒸発させる工程の一環として実行できるので余計な手間がかからず好適である。また例えば、紫外線などにより海水中の微生物を殺菌(滅菌、除菌)することで除去することが可能である。また、取水した海水をフィルターで濾過することにより、海水中の微生物を除去してもよい。フィルターのポアサイズは除去したい微生物のサイズや作業効率に応じて適宜決定することができる。例えば、フィルターのポアサイズは0.1μm~0.4μm程度である。
【0030】
微生物を除去する工程は、アミノ酸が含まれる海水を取水してから15時間以内に行われることが望ましい。一般に海水中にはアミノ酸はほとんど存在しない。仮に存在したとしても海水中の微生物に取り込まれすぐに分解されてしまうからである。しかし、下記で詳述するように海底湧海水などアミノ酸を豊富に含む水脈に接している海域では、海水中にアミノ酸が豊富に含まれている場合がある。海域中の海水に含まれるアミノ酸の含有量は、その生態系により概ね一定に保たれている(取水場所や季節による変動はある)。しかし、ひとたび海域から取水され海域の生態系から分離されると、海水中のアミノ酸の含有量が時間とともに減少することが本件発明者らによって新たに見いだされた。
【0031】
【0032】
表1は、アミノ酸が含まれる海水を海洋から取水後、当該海水中のアミノ酸の含有量を取水時からの経過時間毎に分析した結果である。
図7A~
図7Lは表1を各アミノ酸成分毎にグラフに表したものである。取水した海水はそのまま室温(概ね30℃)で保持し、経過時間毎にその一部の海水のアミノ酸含有量を分析した。縦軸は各アミノ酸の強度であり相対値である。今回の分析では20種類のアミノ酸のうち、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、チロシン及びバリンについてはいずれも海洋から海水を取水後徐々に含有量が減少していくことが確かめられた。いずれのアミノ酸も取水後15時間も経過すると当初の含有量の約1割まで減少している。これは概ね海水中に含まれるアミノ酸を分解してしまう微生物の影響である。そうすると、海水中に含まれていたアミノ酸をそのまま海塩に含ませるためには、海水中のアミノ酸が減少する前にアミノ酸を分解してしまう微生物を除去する必要がある。
【0033】
表1及び
図7A~
図7Lの分析結果によると、取水した海水を取水してから15時間以内に微生物を除去する必要がある。気温が高い場合は微生物の活動がより活発になるので、より早く微生物を除去する必要がある。より好ましくは12時間以内であり、より好ましくは9時間以内である。さらに好ましく7時間、5時間、3時間又は2時間以内ある。すなわち取水後できるだけ早い方が望ましい。特に、チロシン(Tyr)は、取水後4.5時間で消失してしまうので、取水後さらにできるだけ早く微生物を除去する必要がある。取水後3.5時間が望ましく2時間以内であればさらに望ましい。海水中の微生物は完全に除去できなくても一定量除去することで微生物によりアミノ酸が分解される量を抑制することができる。取水した海水中の微生物の約40%程度でも除去できればより多くのアミノ酸含有海塩を得ることができる。
【0034】
(アミノ酸が含まれる海水)
一般に海水中にはアミノ酸はほとんど存在しないため、本願発明の「アミノ酸が含まれる海水」とは通常の海水と比べてアミノ酸が多く含まれる海水を意味する。味覚に影響を与える程度にアミノ酸が含まれている海水を意味する。具体的には、海水1μL当たり、0.1pmol以上であることが好ましい。より好ましくは0.4pmol以上であり、より好ましくは0.8pmol以上である。
【0035】
【0036】
表2は実施例で取水された海水中のアミノ酸濃度の実測値を示す。Asp、His、Ser、Thr、Tyrについては、検量線の精度が低かったため総アミノ酸値から除いた。合計アミノ酸は0.799pmol/μLであった。
【0037】
(アミノ酸強度の測定方法)
アミノ酸強度の測定方法を説明する。ESI-QTOFシステムを用いたアミノ酸誘導体分析法、FDLA誘導体化反応を駆使してアミノ酸の強度を特定している。具体的には下記の手順に従って分析を行っている。
〈ステップ1〉
取水した海水を温度30℃下にて放置する。取水後、2時間、3.5時間、4.5時間、5.5時間、6.5時間、7.5時間、8.5時間、11.5時間、14.5時間経過後に、ポアサイズ0.22μmのフィルターでろ過したものをサンプルとし、-30℃で冷凍保存した。
〈ステップ2〉
解凍後、各海水サンプル200μLに対して20μLのトリエチルアミン(TEA)及び200μLの0.5%Nα-(5-Fluoro-2,4-dinitrophenyl)-L-leucinamide (L-FDLA)アセトン溶液を加え、撹拌した。37℃条件下で1時間反応後、20μLのギ酸を加え反応を終了させた。
〈ステップ3〉
内部標準物質として10μLの25μg/mLロテノンを添加後、ODSカラムによって前処理したサンプルを、100μLの90%アセトニトリル溶液で溶解したものをLC/MS測定サンプルとした。
〈ステップ4〉
移動相に水/アセトニトリル系を、分離カラムにCOSMOSIL MSII2.5C18カラムを用いたESI-QTOF-LC/MSシステムにて、調製したLC/MS測定サンプルをポジティブモードで測定した。得られたデータをMS解析ソフトpeakviewを用いて解析し、各アミノ酸のシグナルのピーク面積値を各アミノ酸の強度とした。LC/MSによる分析を行うためには海水サンプル中に含まれる多量の無機塩を除去する必要がある。そのために海水サンプル中に含まれるアミノ酸に対してFDLAを付加させ、ODSカラムによる精製を行った。その後ESI-QTOFシステムを用いた。
【0038】
なお、アミノ酸強度の測定方法は上記方法に限らない。他にも公知な方法を採用することができる。今回の測定方法では、アスパラギン、グルタミン、トリプトファン、システインは標準アミノ酸カクテルに含まれていなかったため測定することができなかった。これらのアミノ酸に関しては、不足している各アミノ酸を別途用意しアミノ酸カクテルへ添加する、測定モードをネガティブイオンモードに切り替えるなどの方法により測定が可能である。その場合、これらのアミノ酸が含まれる海水についても今回の測定と同様に海水取水後、アミノ酸強度が徐々に減少することが予想される。
【0039】
また、海水中の微生物を除去する工程を有さない場合は、海水中のアミノ酸が消失する前に、アミノ酸が含有する海塩を析出させる必要がある。アミノ酸を含有する海水を取水してから概ね15時間以内に、海水中のアミノ酸が含まれる海塩を析出させる必要がある。この場合も、気温が高い場合は微生物の活動がより活発になるので、より早く海塩を析出させる必要がある。好ましくは12時間以内である。さらに好ましく9時間、7時間、5時間、3時間又は2時間以内ある。すなわち取水後できるだけ早い方が望ましい。なお、海水中の水分を加熱により蒸発させて海塩を析出させる場合、海塩は海水の一部分から徐々に析出する。その為、本願発明の「海塩の析出」とは部分的に海塩が析出していれば足り、海水の水分が必ずしもすべて蒸発していなくてもよい。好ましくは、海水取水後15時間以内に海水中の水分の70%以上が蒸発していることが望ましいがアミノ酸含有海塩が析出していれば海水中の水分の蒸発は50%程度でも構わない。
【0040】
(アミノ酸分解温度に留意した加熱)
アミノ酸が含まれる海水の水分を加熱により蒸発させてアミノ酸含有海塩を製造する上でさらに留意すべきことは加熱温度である。
【0041】
【表3】
(出典:化学便覧基礎編改定5版(丸善出版))
【0042】
表3にアミノ酸20種類(アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン)の分解温度を示す。
【0043】
海水をアミノ酸の分解温度より高い温度で加熱するとアミノ酸が分解されて消失してしまう。そのため、海水中のアミノ酸が含まれる海塩を析出させる場合、海水の水分を加熱で蒸発させるためには、アミノ酸の分解温度以下で加熱する必要がある。例えば、アラニンが含まれる海塩を析出させる場合は、アラニンの分解温度が297℃であるので、296℃以下で海水を加熱する必要がある。より安全をみるならさらに10℃低い温度である286℃以下で加熱するのが望ましい。同様に、アルギニンが含まれる海塩を析出させる場合は、237℃以下好ましくは227℃以下が望ましい。海水中のアスパラギンが含まれる海塩を析出させる場合は、235℃以下好ましくは225℃以下が望ましい。
【0044】
他のアミノ酸についても同様に、海水中のアスパラギン酸が含まれる海塩を析出させる場合は、268℃以下好ましくは258℃以下が望ましい。
海水中のシステインが含まれる海塩を析出させる場合は、239℃以下好ましくは229℃以下が望ましい。
海水中のグルタミンが含まれる海塩を析出させる場合は、183℃以下好ましくは173℃以下が望ましい。
海水中のグルタミン酸が含まれる海塩を析出させる場合は、246℃以下好ましくは236℃以下が望ましい。
海水中のグリシンが含まれる海塩を析出させる場合は、289℃以下好ましくは279℃以下が望ましい。
海水中のヒスチジンが含まれる海塩を析出させる場合は、276℃以下好ましくは266℃以下が望ましい。
海水中のイソロイシンが含まれる海塩を析出させる場合は、283℃以下好ましくは273℃以下が望ましい。
海水中のロイシンが含まれる海塩を析出させる場合は、292℃以下好ましくは282℃以下が望ましい。
海水中のリシンが含まれる海塩を析出させる場合は、223℃以下好ましくは213℃以下が望ましい。
海水中のメチオニンが含まれる海塩を析出させる場合は、280℃以下好ましくは270℃以下が望ましい。
海水中のフェニルアラニンが含まれる海塩を析出させる場合は、282℃以下好ましくは272℃以下が望ましい。
海水中のプロリンが含まれる海塩を析出させる場合は、219℃以下好ましくは209℃以下が望ましい。
海水中のセリンが含まれる海塩を析出させる場合は、222℃以下好ましくは212℃以下が望ましい。
海水中のトレオニンが含まれる海塩を析出させる場合は、252℃以下好ましくは242℃以下が望ましい。
海水中のトリプトファンが含まれる海塩を析出させる場合は、280℃以下好ましくは270℃以下が望ましい。
海水中のチロシンが含まれる海塩を析出させる場合は、341℃以下好ましくは331℃以下が望ましい。
海水中のバリンが含まれる海塩を析出させる場合は、314℃以下好ましくは304℃以下が望ましい。
【0045】
実際に加熱する温度は海水中に含まれるアミノ酸の種類と量に応じて決定することができる。例えば、主にアラニンとプロリンの両方が含まれる海水を使用する場合、アラニンの分解温度が297℃でプロリンの分解温度が220~222℃であるので、プロリンの分解温度に合わせて219℃以下で加熱することができる。もっとも、特にアラニンが含有されている海塩を得られれば十分な場合は、296℃以下で加熱することにより、より迅速に海水中の水分を蒸発させることができる。海水中のアミノ酸をできるだけ残しつつ、迅速に海水中の水分を蒸発させるためには、100℃~250℃で加熱することが望ましい。より望ましくは100℃から225℃であり、より望ましくは100℃から200℃であり、より望ましくは150℃から200℃である。
例えば平釜で海水を加熱する場合、平釜内の海水の温度は必ずしも全体が一定の温度にならない。その場合、部分的に平釜内の海水の温度がアミノ酸の分解温度より高くなるのは構わない。部分的にでも加熱プロセスを通じてアミノ酸分解温度を超えない領域があればアミノ酸含有海塩を得られる。
【0046】
図8A~
図8Dは、アミノ酸の強度が加熱温度に応じてどのように変化するかを測定した結果である。水1mLに対して各アミノ酸の濃度が1000nM(1pmol/μL)になるように標準アミノ酸を添加し、加熱後のアミノ酸の濃度を測定した。縦軸は相対強度である。
図8A~
図8Dに示すいずれのアミノ酸も200℃、250℃において強度が減衰し、アミノ酸分解温度を超える300℃以上の加熱ではアミノ酸がほとんど測定されなかった。また他のアミノ酸もほぼ同様の測定結果が得られた。したがって、アミノ酸含有海塩を製造するためにはできるだけアミノ酸分解温度以下で取水した海水を加熱する必要がある。析出した海塩中の水分を蒸発させる際もできるだけアミノ酸分解温度以下で加熱する必要がある。
【0047】
(アミノ酸が含まれる海水)
アミノ酸が含まれる海水は、例えば、海洋湧海水を利用することができる。他には淡水の川と海とが混じり合った汽水領域における海水を利用することができる。
【0048】
(海底湧海水)
アミノ酸が含まれる海水として、例えば、海底湧海水を利用することができる。海底湧海水とは、水深の浅い海底から湧き出す塩分を含んだ水を意味する。海底湧海水は主に海岸の波打ち際から水深10mぐらいまでの範囲の海底から湧き出ている。海底湧海水と海底湧水との違いを説明する。
【0049】
海底湧水といえば、雨水が山地や扇状地に染み込み、富山湾などの海底から湧き出す淡水の湧水が有名である。また、干潟と砂浜では満潮時に陸域へ海水が浸透し、干潮時に伏流した海水が浸出する湧水が知られている。
【0050】
海底湧水は、Burnettによって、(a)陸上の地下水系と連動する淡水性湧水系、(b)淡水と海水の混合性海底湧水、(c)潮汐に応答する海水―堆積物間の再循環水に分類されている。このように通常は、(a)の淡水性湧水、(b)底質中の地下海水中が(a)の淡水が通過するときに混ざる混合性海底湧水(汽水性湧水)、(c)満潮時に海水が地下に染み込み干潮時に地下淡水と混ざり浸出する混合性海底湧水(汽水性湧水)に区分されている(非特許文献4)。
【0051】
しかし、海底からは、(a)淡水性湧水と(b)と(c)の混合性海底湧水(汽水性湧水)以外に、最近、地下海水が沿岸の海底から湧き出す海水性湧水の存在が本願発明者らによって明らかにされた(非特許文献5)。そうすると、海底湧水は、主に淡水性湧水、汽水性湧水、海水性湧水の3つに分けられる(
図9参照)。一般に知られている海底湧水は、主に淡水性湧水のことを意味することが多いが、混同を避けるために、淡水性湧水を「海底湧淡水」、汽水性湧水を「海底湧汽水」、海水性湧水を「海底湧海水」と呼ぶことにする。また、上記(c)の混合性海底湧水は塩分の高い場合があり、これが海水の湧水とされる場合がある。
【0052】
「海底湧海水」は、波打ち際から最深でおよそ水深10m(下限水深は底質の状況で異なる)の範囲から、面状に広く湧き出している。沿岸域浅所の地下海水を湧き出させる外力として、陸域の地下淡水の圧力が想定されているが、未解明である。この海底湧海水にはアミノ酸と酸素が含まれ、それらの物質は沿岸地下の地下淡水と地下海水の境界面で、地下淡水から地下海水に受け渡しされていると考えている(非特許文献5)。
【0053】
図9に海底湧海水、海底湧淡水、潮汐によって地下淡水と地下海水が混合した海底湧汽水、不透水層の断裂箇所押し出された地下淡水が地下海水と混合した海底湧汽水の模式図を示す。山からの地下淡水は地下に形成される塩分躍層、その境界面である淡水レンズによって、地下淡水はそれより海側に移動することがない。しかし、海水に圧力をかけ続けることで、地下海水を湧出させると考えられる。これが海底湧海水であり、沖合いほど泥と細砂が海底に堆積しているために地下海水の湧出を妨げるので沿岸の浅い海底(水深10mくらいまで)に広く面状に湧出する。
一方、淡水レンズ上の地下淡水は、不透水層の間の透水層を通過して、不透水層の断裂箇所から地下海水で満たされた透水層から流出する。この時、地下淡水と地下海水が混合し、海底から面状に海底湧汽水が湧き出す。
断裂が大きく地下淡水の流出量が多い場所では、湧水孔が形成され、地下海水とほとんど混合せずに、地下淡水が湧き出す場合もある。これが一般的な海底湧水である。
また、満潮線と干潮線の間の潮間帯においては潮汐によって1日2回の満ち引きがあり、満ちる時に海水が地下に浸透し、引き時にこの地下海水と地下淡水が混合し、海底湧汽水が湧出する。
内湾と汽水湖においては明瞭な塩分プラス水温の躍層が形成され、下層は海底湧海水の滞留によって清澄だが、上層は巨視的有機浮遊物やプランクトンの密度が高く濁っていることが目視で確認できる。中海などの水質を調査した論文では、清澄な海水は外洋から流入したとされているが、外洋の海水より清澄であり、海底湧海水であることは明らかである。実際に、金沢八景において65.7~306.2リットル/m
2/h、中海北岸において99.9~218.7リットル/m
2/h(湧水孔を除く)と大量の海水が湧き出して海底に滞留している(
図10A、
図10B参照)。
海底湧海水がアミノ酸を含むのは海水と淡水の境界で有機物が溶出しているためと考えられている。
【0054】
沖合に海岸と平行にアマモが帯状に分布していると、海底湧海水が堰き止められて滞留層が厚くなり、アマモ帯状分布帯の沖側に海底湧海水が十分到達せず、内湾の濁った海水が分布している。アマモ帯状分帯の岸側では海底湧海水が湧出している。アマモの帯状分布の幅は10~20mであるが、海底湧海水が滞留している場所とそれ以外の場所では透視度が著しく異なる。
図11A及び
図11Bは 大分県杵築湾におけるアマモ帯状分帯の内側(
図11A)と外側 (
図11B)の海水の透視度(海中から水平に見る透明度)の違いを示す写真である。海底湧海水の湧出量に応じて、この海水が滞留する層の厚さが変化する。
【0055】
例えば、中海の海底湧海水は湧水量が多く、特に多い場所では湧水孔から砂が吹き上げられている。その様子を示した動画を非特許文献6で示す。
【0056】
なお、これまでの海底湧海水の説明(特に、湧き出る仕組み)は、これまでの本件発明者らによる調査研究と海底湧海水にアミノ酸が含まれるという事実に基づく解釈である。本件発明(主に出願時請求項13)はアミノ酸が含まれる海水が海底から湧き出ているという事実に基づいて成り立つ発明でありその事実が発生する原因の検証は今後の研究に委ねられる。
【0057】
本発明における「海底湧海水」とは、以下の条件(1)~(3)をすべて満たすものと定義する。
(1)海底から湧き出る海水性の湧水である(※海水性とは塩化ナトリウムを含む海水という意味)
(2)湧水が湧き出る箇所が満潮時の波打ち際から最深で水深10mの範囲である
(3)アミノ酸の濃度が海水1μL当たり0.1pmol以上である。
【0058】
図13は本願実施例のアミノ酸含有海水を取水した浜(山口県光市牛島)の写真であり、写真中の砂利浜の下から各種のアミノ酸を豊富に含有する海底湧海水が湧き出ている。海底湧海水は波打ち際からおよそ水深10m以内の砂利状の海底から湧出している。
【0059】
(海底湧海水の取水方法)
海底湧海水の取水方法は公知の方法を利用できる。例えば、本願発明者らによって開発された特開2019-044339号公報「海底湧水の取水方法とそれに用いられる取水装置」に記載された手法を採用することができる。また、この方法に限らず他の方法も利用できる。例えば、海底湧海水の滞留層から水中ポンプで直接採水、バット上の採水器に水中ポンプを取り付けて湧出する海水を採水、海岸部に井戸を掘り湧出前の地下海水を取水する方法がある。海底湧海水は、海底に滞留するので潜水しての目視や水中ビデオカメラで層の厚さを確認し、塩分躍層を壊さないように海底湧海水滞留層に水中ポンプの取水口を陸上あるいは船上から固定することで採水することができる。
図12Aでは 陸上からの水中ポンプによって海底湧海水滞留層から海底湧海水を採水している。
図12Bに海底に設置して湧出する海水を取水する採水器を示す。
【0060】
海底湧海水ではアミノ酸を分解する微生物の量が海洋中よりも少ないのでできるだけ海底湧海水が多く含まれるように取水することが望ましい。そのため、海底湧海水が海底から湧き出るところで取水するのが望ましい。さらに望ましくは、海底湧海水が海底から湧きでる直前に、例えば海底から50cm~1m程度のところにパイプを設置して海底湧海水を直接取水することが望ましい。
【0061】
なお本件発明において、取水した海水のすべてが海底湧海水である必要はない。本件発明は海水にアミノ酸が含まれていれば足りるのでアミノ酸の由来となる海底湧海水が一定量含まれていればよい。できるだけ多くのアミノ酸を含むために取水した海水の90%以上が海底湧海水であることがのぞましいが、80%以上、60%以上又は50%以上でも構わない。
【0062】
(汽水領域の海水)
アミノ酸が含まれる海水として、他には例えば、汽水領域の海水を利用することができる。昔から川からの淡水と海水が混じり合った汽水領域の海水は、品質のよい塩が得られると信じられており、汽水領域の海水を塩田に引き天日で乾かし、1週間ほどかけてかん水(濃い塩水)を作成する方法が知られている。汽水領域の河床と湖底からも、海洋湧海水が湧き出し、汽水と混合している。汽水領域においても、海洋湧海水そのものを意図的に取水した方が、アミノ酸濃度が高くなる。海洋湧海水そのものを取水できない場合であっても、本願発明の製造方法を注意深く適用することでアミノ酸含有海塩を製造することができる。
【0063】
【0064】
(海塩中のアミノ酸含有量)
表4は本願発明の実施例において製造されたアミノ酸含有海塩に含まれる各種アミノ酸の強度である。
海塩中のアミノ酸の強度の測定はQTRAPシステムを用いて次のように分析を行った。
<ステップ1>
海塩78mgに3mLの超純水と150μLの1M塩酸を加え溶解後、150μLの1M水酸化ナトリウムを加え中和した。
<ステップ2>
海塩水溶液220μLに対して0μM、0.53μM、0.8μM、1.2μM、1.8μM、2.7μMの6段階の濃度の標準アミノ酸を10μL加え、乾固した。その後40μLの超純水で溶解し、5μLのTEA及び40μLの0.5%L-FDLA アセトン溶液を加え、撹拌した。37℃条件下で1時間反応後、5μLのギ酸を加え反応を終了させた。
<ステップ3>
内部標準物質として10μLの500μg/mLロテノンを加え、900μLの超純水で10倍希釈した。希釈後の海塩サンプル200μLに対して600μLの超純水を加え4倍希釈したものをLC/MS測定サンプルとした。
<ステップ4>
移動相に水/アセトニトリル系を、分離カラムにCOSMOSIL MSII2.5C18カラムを用いたESI-QTRAP-LC/MSシステムにて、調製したLC/MS測定サンプルをポジティブモードでMRM測定した。得られたデータをMS解析ソフトpeakviewを用いて解析し、各アミノ酸のシグナルのピーク面積値を各アミノ酸の強度とした。得られた6点のデータを用いて各アミノ酸の検量線を作成し、各アミノ酸濃度を求めた。
【0065】
各アミノ酸の濃度をそれぞれの分子量を用いて重量に変換し、すべて合計して海塩中の質量に換算すると、海塩100gに対してアミノ酸の総量は約122μg程度であった。海水の取水場所や取水条件によってアミノ酸総量はある程度変動する。
【0066】
(アミノ酸含有海塩)
本願発明で製造されるアミノ酸含有海塩は、何ら添加物を用いず天然の海水からふくよかでナチュラルな味わいを呈する食用塩を提供することを目的としているので、海塩に含まれるアミノ酸は味覚に影響を与える程度に一定量の含まれることが望ましい。そのため、海塩100gに対してアミノ酸の総量が20μg以上であることが望ましい。より好ましくは50μg以上であり、より好ましくは80μg以上である。アミノ酸は全20種類あり、海水に全てのアミノ酸が含まれているとは限らないが、各種のアミノ酸で言えば、海塩100gに対して各種アミノ酸はそれぞれ10μg以上であれば味覚に影響を与えるに十分な量と言える。
【0067】
【0068】
表5では本願実施例の海塩に含まれる代表的な成分を示す。アミノ酸が一定割合含むことで海塩のまろやかな味わいが向上する。
【0069】
【0070】
参考までに本願実施例の製造プロセスの一例を示す。アミノ酸を含む海水からかん水作りを行わず、ニガリを除去する工程も設けずにまろやかな味わいを呈するアミノ酸含有海塩を製造することができる。なお、表6の製造プロセスは本件発明の実施例の1つにすぎず、本件発明はこれに限られるものではない。
【0071】
(自然塩天然塩)
本願発明は、上記のとおり海水中に含まれるアミノ酸を海塩製造途中でできるだけ消失しないように工夫し海塩として析出させている。すなわち、取水した海水に由来しないものをアミノ酸の原料となるように添加していない。取水した海水以外のものをアミノ酸の材料となるように添加しない。したがって、従来技術に相当する製造過程で何らかの添加物を添加する添加塩とは異なる。
また、本願発明で製造されるアミノ酸含有海塩はそのアミノ酸が有する豊かな味わいのため、通常の海塩製造方法において有するにがりの除去工程をあえて設ける必要がない。すなわちアミノ酸の豊かな味わいがにがりの苦味を掻き消しているのである。したがって、本願発明では取水した海水に一切何も加えず、海水中の水以外の成分を一切何も除去せずに、海水中に含まれている自然の成分をそのまま海塩として閉じ込めたまさに自然塩・天然塩と呼ぶに相応しい画期的な海塩を製造することができる。