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  • 特許-模擬血管の製造法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】模擬血管の製造法
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/30 20060101AFI20240325BHJP
【FI】
G09B23/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020082904
(22)【出願日】2020-05-09
(65)【公開番号】P2021177227
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】512031183
【氏名又は名称】有限会社スワニー
(74)【代理人】
【識別番号】100169188
【弁理士】
【氏名又は名称】寺岡 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 良博
【審査官】宇佐田 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-035271(JP,A)
【文献】特開2009-273508(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021292(WO,A1)
【文献】特許第6172370(JP,B1)
【文献】特開2013-250453(JP,A)
【文献】国際公開第2018/203561(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00,19/00,19/24
G09B 23/28-23/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンタで造形した、血管を模した模擬血管の製造法であって、
チューブ状の血管壁を前記3Dプリンタで造形する際に、血管壁を支えるための血管内部の部分にサポート材を入れて、前記サポート材を血管内部に残し、模擬血液として活用する、模擬血管の製造法。
【請求項2】
請求項1に記載の模擬血管の製造法において、
前記3Dプリンタでの前記造形は、材料物性を変えての前記造形である、模擬血管の製造法。
【請求項3】
請求項に記載の模擬血管の製造法において、
複数の材料を用いて前記材料物性を変えて前記造形した、血管を模した模擬血管の製造法。
【請求項4】
請求項またはに記載の模擬血管の製造法において、
前記材料物性が、血管壁と血管内部の硬さ、靭性または密度を含む、模擬血管の製造法。
【請求項5】
請求項に記載の模擬血管の製造法において、
前記血管壁の外側から前記血管内部へ注射針を貫通させ、前記血管内部に液体を注入することができる、模擬血管の製造法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の模擬血管の製造法において、
前記模擬血管の外周をゲル膜で覆った、模擬血管の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬血管の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外科手術において、血管の切開、切開部の吻合、及び血管同士の吻合等の手技が行われている。このような手術には、熟練した技術が求められる。そこで、医者は動物の臓器にある血管、または模擬血管を用いて、血管の切開、切開部の吻合、及び血管同士の吻合等の練習を繰り返し行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-053897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、動物の臓器にある血管を用いると、動物愛護の問題または感染症の問題、さらには廃棄問題等がある、また、模擬血管の材質が、たとえばゴム等であると(特許文献1)、実際の血管と同様の質感を維持できるものではなくなり、医者が行う練習が無駄になることもあった。
【0005】
そこで本発明の目的は、実際の血管と同様の質感の模擬血管製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の模擬血管の製造法は、3Dプリンタで造するものであって チューブ状の血管壁を3Dプリンタで造形する際に、血管壁を支えるための血管内部の部分にサポート材を入れて、サポート材を血管内部に残し、模擬血液として活用するものである
ここで、3Dプリンタでの造形は、材料物性を変えての造形であることとしても良い
【0007】
ここで、複数の材料を用いて材料物性を変えて造形することとしても良い。
【0008】
また、材料物性が、血管壁と血管内部の硬さ、靭性または密度を含むこととしても良い。
【0009】
また、血管内部をサポート材としても良い。
【0010】
また、血管壁の外側から血管内部へ注射針を貫通させ、血管内部に液体を注入することができることとしても良い。
【0011】
また、模擬血管の外周をゲル膜で覆うこととしても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、実際の血管と同様の質感の模擬血管製造法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る模擬血管の断面斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係る模擬血管を切断した後、ピンセットおよび鋏を使って、縫い針を用い、縫合糸で2つの模擬血管の切断面を縫い合わせる様子を示す図である。
図3】血管壁を損傷させずに、縫合に成功した模擬血管を示す図である。
図4】本発明の実施の形態に係る模擬血管に、血管壁の外側から血管内部へ注射器の注射針を貫通させ、血管内部に液体を注入した状態を示す図である。
図5】本発明の実施の形態に係る模擬血管の外周をゲル膜で覆った状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(模擬血管の製造法)
以下、本実施の形態について、図面に基づいて説明する。本実施の形態に係る模擬血管1の製造法は、3Dプリンタで材料物性を変えて造形して製造する。ここで、材料物性とは、機械的性質、熱的性質、電気的性質、磁気的性質または光学的性質から選ばれる1以上である。なお、三次元プリンタ(3Dプリンタ)等で形のあるものをつくることを「造形」(shaping)という。3Dプリンタは、三次元印刷機器、三次元プリンタ、または三次元造形機等と言われるものである。また、3Dプリンタは、三次元CAD(computer-aided design)データに基づき、三次元の造形物を印刷し製造するものである。
【0015】
3Dプリンタには、物性と色の違う複数の樹脂を、所定の位置に配置させることのできる機能を有するものを用いる。すなわち、3Dプリンタは、複数の材料を用いて材料物性を変えて造形する。3Dプリンタの印刷は、印刷する際に紫外線硬化樹脂等の光硬化性樹脂を一層ずつ形成し、その都度紫外線を照射して樹脂を硬化させる操作を繰り返すことで樹脂層を形成し、徐々に3次元形状を印刷、つまり造形していく。この光硬化性樹脂は、紫外線で硬化する樹脂以外に、ブラックライト、レーザー等の光で硬化する樹脂を含む。
【0016】
三次元CADデータは、例えば三次元スキャナで対象物をスキャニングすることで、対象物の三次元CADデータの一部または全部が得られる。三次元スキャナとは、非接触式のものは、主に光つまり電磁波を使うもので、レーザーなどを対象物に照射してその反射光を解析し、三次元CADデータを得るものである。また、血管の三次元CADデータを得る場合には、MRI(Magnetic Resonance Imaging)または、CT(Computed Tomography)スキャナ等を用いることができる。また、三次元CADデータは、三次元スキャナまたはMRIまたは、CTスキャナ等を用いなくとも、コンピュータで三次元CADのソフトウェアを操作して、モデリングにより、その一部または全部を得ることもできる。
【0017】
そして、血管の形状を転写した三次元CADデータを作成する。この三次元CADデータは、血管の各部位が立体的形状で仕切られた複数の区画で設定される。そのため、模擬血管1は、各区画毎に樹脂が配置されるものである。模擬血管1の各区画の輪郭は、目視が困難である。各区画は、様々な形状に形成されている。その区画には、樹脂の物性、たとえば、硬さ、靭性または密度、表面の粗さ、含水量、耐熱性、熱伝導率等が特定のものとなるように、3Dプリンタの印刷状態を調節して、模擬血管1を造形する。このとき、三次元CADデータには、区画の形成データおよび、各区画の樹脂の物性と色等を配置するデータ等が追加される。
【0018】
ここで、造形された模擬血管1は、血管壁2と血管内部3に大別される。血管壁2の色はたとえば白色とし、血管内部3の色はたとえば血液の色に合わせて赤色にする。血管壁2と血管内部3の硬さ、靭性または密度は異なる。血管壁2はチューブ状の形状をしており、人間の血管とそっくりの硬さ、靭性または密度となるように、三次元CADデータの、区画の形成データおよび、各区画の樹脂の物性を調整する。他方で、血管内部3はチューブ状の血管壁2を3Dプリンタで造形する際に、そのチューブ状の形状を維持するためのサポート材とする。
【0019】
サポート材とは、造形中に、造形しようとする造形物の形状を支えるための材料であり、通常は造形が終了すれば除去するものである。本実施の形態では、チューブ状の血管壁2を造形する際に血管内部3の部分にサポート材を入れて血管壁2を支える。本実施の形態では、敢えてそのサポート材を血管内部3の模擬血液として活用しようとするものである。血管内部3の模擬血液をサポート材で代替できると考えた理由は、サポート材の樹脂密度は、通常低いため、充分血液の代替物(模擬血液)として活用できると考えたためである。
【0020】
(模擬血管の主な使用法)
図2に示すように、医師が模擬血管1を切断した後、ピンセット4および鋏5を使って、縫い針6を用い、縫合糸7で2つの模擬血管1の切断面8を縫い合わせる練習をする。鋏5は、縫い針6および縫合糸7を掴んで動かすためのものである。ピンセット4は、模擬血管1を保持するものである。鋏5はたとえば医師の右手9で操作し、ピンセット4は、医師の左手9で操作する。血管内部3の模擬血液は、このとき除去している。
【0021】
模擬血管1は、人間の血管とそっくりの硬さ、靭性または密度となるようにしているため、縫合糸7が血管壁2を強く引っ張ることにより、血管壁2を破損したりすると、縫合に失敗したことに気付くことができる。そのような縫合の練習を繰り返すことができる。たとえば図3に、血管壁2を損傷させずに、縫合に成功した模擬血管1を示す。
【0022】
(本実施の形態によって得られる主な効果)
本実施の形態では、実際の血管と同様の質感の模擬血管製造法を提供することができた。これによって、医師は、手術の際の血管の取り扱いの技術を磨く練習をすることができる。
【0023】
本実施の形態では、3Dプリンタを用いて模擬血管1を製造している。3Dプリンタは、三次元CADデータを驚くほど忠実に印刷物、つまり造形物の形状に反映できる特徴を有する。3Dプリンタは、14μmの細かい凹凸も表現できると言われている。そのため、人間の血管の細かい凹凸を実現する模擬血管1を製造可能である。この細かい凹凸を忠実に転写する効果は、従来の金型等で成形した場合には、到底得られず、3Dプリンタを用いて製造した場合に初めて得られる効果である。しかも、3Dプリンタを用いた模擬血管1の製造に要するコストおよび時間は、従来の金型の約1/6とすることができる。
【0024】
本実施の形態によって、物性の違う複数の樹脂を組み合わせることで、模擬血管1の各区画の硬さ、表面の粗さ、耐熱性、弾力性および熱伝導率等を変えることができる。人間の血管には、静脈または動脈、毛細血管等の種々の血管があり、それらの物性は異なるところ、その異なる物性を実現できる。
【0025】
3Dプリンタ(物性と色の違う複数の樹脂を、所定の位置に配置させることのできる機能を有するもの)は、樹脂を蓄積および供給するインクカートリッジを6本まで搭載でき、各々のカートリッジから樹脂を同時に噴射可能である。そのため、模擬血管1の製造に必要な樹脂を、一度の印刷作業で、繋ぎ部材を必要としない一体造形物(一つのかたまり)として配置し、模擬血管1を製造できる。
【0026】
また、本実施の形態では、血管内部3をサポート材としている。そのことにより、製造が容易になる。
【0027】
(他の形態)
上述した本実施の形態に係る模擬血管1の製造法は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変形実施が可能である。
【0028】
本実施の形態では、複数の材料を用いて模擬血管1を製造している。しかし、一つの材料で模擬血管1を製造しても良い。
【0029】
また、模擬血管1は、人間の血管にそっくりにする材料物性を、血管壁と血管内部の硬さ、靭性または密度としている。しかし、たとえば模擬血管1の、人間の血管にそっくりにする材料物性を、血管壁と血管内部の硬さだけ、あるいは靭性だけとしてもよい。
【0030】
また、模擬血管1は、血管内部3をサポート材としている。しかし、血管内部3のサポート材を除去しても良く、その除去したサポート材の代わりに血液を模した赤い液体等を血管内部3に入れても良い。
【0031】
本実施の形態では、模擬血管1は、血管壁2の外側から血管内部3へ注射針を貫通させ、血管内部3に液体を注入することができるようにしても良い。このとき、またはこのときに限らず、模擬血管1の片端または両端を塞ぐようにしても良い。これは、たとえば高血圧の血管を模した模擬血管1が欲しいときに、それを実現できる。図4に模擬血管1に、血管壁2の外側から血管内部3へ注射器11の注射針12を貫通させ、血管内部3に液体を注入した状態を示す。
【0032】
本実施の形態では、模擬血管1の外周をゲル膜で覆っても良い。人間の臓器等の周囲の血管は、血管鞘で覆われていることが多い。その状態を再現し、より本物の人間の血管に近い模擬血管1で手術の練習ができる。図5には、模擬血管1の外周をゲル膜13で覆った状態を示している。ゲル膜13を模擬血管1で覆う際には、水等の液体をゲル膜13に含ませると、より本物の人間の血管に近くなる。
【符号の説明】
【0033】
1 模擬血管
2 血管壁
3 血管内部
12 注射針
13 ゲル膜
図1
図2
図3
図4
図5