(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】順送プレス用搬送装置及び順送プレス装置並びに金属製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 43/10 20060101AFI20240325BHJP
【FI】
B21D43/10 B
(21)【出願番号】P 2020091418
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2019107041
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504303506
【氏名又は名称】株式会社フロンティア
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】今井 恒夫
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0058708(KR,A)
【文献】特開平10-263940(JP,A)
【文献】特開2004-230424(JP,A)
【文献】特開2002-301528(JP,A)
【文献】実開平04-070238(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 43/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工金属板における製品となる部分(以下、「製品部分」という。)が被加工金属板における他の部分(以下、「スクラップ部分」という。)につながったままの状態で、被加工金属板全体を順送することによって、一つの金型に設けられた複数のプレス加工部で製品部分を順にプレス加工する順送プレス装置に組み込んで使用する順送プレス用搬送装置であって、
基台と、
基台に対して昇降する昇降台と、
昇降台に取り付けられたグリッパと、
被加工金属板の順送方向に略平行なx軸方向にグリッパを移動させるx軸方向移動手段と、
x軸方向に略垂直なy軸方向にグリッパを移動させるy軸方向移動手段と、
昇降台を昇降させることにより、x軸方向及びy軸方向に略垂直なz軸方向にグリッパを移動させるz軸方向移動手段と
を備え、
グリッパは、x軸方向に並んで配された一対のフィンガーを有し、順送プレス装置の順送ラインに対して片側からのみ近付くようにされ、
それぞれのフィンガーの先端部分は、製品部分を把持するための製品部分把持部となっており、
フィンガーは、揺動可能な状態で昇降台に取り付けられるとともに、フィンガー付勢手段によって一対のフィンガーの製品部分把持部が互いに近づく方向に付勢されており、
基台には、突起状のグリッパ開閉用カムが設けられて、
z軸方向移動手段が昇降台を下降させると、グリッパ開閉用カムがフィンガーに当接してフィンガーを揺動させることにより、グリッパが、一対のフィンガーの製品部分把持部が互いに離れた開状態となり、
z軸方向移動手段が昇降台を上昇させると、グリッパ開閉用カムがフィンガーから外れることにより、グリッパが、一対のフィンガーの製品部分把持部が互いに近付いた閉状態となることにより、
製品部分がスクラップ部分から切り離された後に、当該製品部分をグリッパで把持し
ながら持ち上げて、後の工程へ搬送することができるようにした
順送プレス用搬送装置。
【請求項2】
グリッパにおける、製品部分を把持する部分である製品部分把持部に、把持用凹部が設けられた請求項
1記載の順送プレス用搬送装置。
【請求項3】
一つの金型内に複数のプレス加工部が設けられた順送金型と、
被加工金属板を一定ピッチで順送する送り装置と、
を備え、
被加工金属板における製品部分がスクラップ部分につながったままの状態で、被加工金属板全体を送り装置で順送することによって、順送金型に設けられた複数のプレス加工部で製品部分を順にプレス加工する
順送プレス装置であって、
請求項1
又は2記載の順送プレス用搬送装置をさらに備えるとともに、
順送金型に設けられた複数のプレス加工部が、
スクラップ部分につながったままの状態の製品部分をプレス加工する少なくとも2箇所の順送工程用プレス加工部と、
順送工程用プレス加工部よりも下流側に配され、スクラップ部分から切り離された後の製品部分をプレス加工する少なくとも1箇所の後工程用プレス加工部と
で構成され、
順送工程用プレス加工部によってスクラップ部分から切り離された製品部分を、順送プレス用搬送装置のグリッパで把持して、後工程用プレス加工部まで搬送することができるようにした
順送プレス装置。
【請求項4】
請求項
3記載の順送プレス装置を用いた金属製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、順送プレス装置に組み込むことによって、順送プレス装置に搬送機能を付加することができる順送プレス用搬送装置と、この順送プレス用搬送装置を備えた順送プレス装置とに関する。本発明はまた、この順送プレス装置を用いた金属製品の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
金属のプレス加工の分野においては、平板状の金属材料(以下、「被加工金属板」と表現することがある。)から目的の製品を製造する過程で、複数のプレス加工工程を経る必要がある場合も多い。このような複数のプレス加工工程を連続して自動で行うことができる装置としては、順送プレス装置やトランスファープレス装置が知られている。このうち順送プレス装置は、異なるプレス加工を行う複数のプレス加工部を一つの金型内に配した順送金型と、被加工金属板を送るための送り装置とを備え、送り装置で被加工金属板を一定ピッチで送ることによって、その被加工金属板が複数のプレス加工部を順に経るようにしたものである。被加工金属板における最終的に製品となる部分(以下、「製品部分」と表現することがある。)は、被加工金属板における他の部分(以下、「スクラップ部分」と表現することがある。例えば、縁桟や送り桟等がこのスクラップ部分に該当する。)につながったままの状態で、被加工金属板とともに送られるようになっている。
【0003】
特許文献1には、このような順送プレス装置の一例が記載されている。同文献に記載のプレス成型装置30(順送プレス装置)は、同文献の
図1(a)及び
図2(a)に示されるように、1つの金型内に第1加工位置P1から第8加工位置P8までの8箇所の加工位置(プレス加工部)を有している。被加工金属板である長尺の金属板材10は、図示されていない送り装置によって、同図における右方向に一定ピッチで送られる。すると、この被加工金属板に対して、8箇所の加工位置において順にプレス加工が施されて、プレス成型品1(同文献の
図2(b)を参照。)が製造される。この過程において、最終的にプレス成型品1となる部分である成形部分2(製品部分)は、第7加工位置P7までは金属板材10の端部である桟部分5(スクラップ部分)に連結部分4を介してつながったままの状態とされ、最終工程である第8加工位置P8において初めて、桟部分5から切り離される。
【0004】
このように、順送プレス装置においては、スクラップ部分に製品部分をつなげたままの状態とすることによって、製品部分を自動で送りながら複数のプレス加工工程を行うことができるようになっている。このため、各工程間に搬送装置等を設けなくとも、各工程で共通の一台の送り装置を設ければ被加工金属板を送ることができるため、装置をコンパクトにすることができるとともに、速い回転速度で連続プレスを行って製品の製造効率を高めることもできる。また、金型を取り換えるだけで異なる種類の製品を製造することができるため、少ロット製品の製造にも適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したような一般的な順送プレス装置においては、製品部分を一旦スクラップ部分から切り離してしまうと、その製品部分を自動で送る手段がなくなってしまう。このため、製品部分をスクラップ部分から切り離した後にさらに加工を施したい場合等には、切り離された製品部分を、人の手や専用の装置等を用いて別の装置にセットしなおす必要があり、製造効率が低下するという問題があった。
【0007】
例えば、
図1に示す製品10を製造する場合を例に挙げて説明する。この製品10は、略円形状の底部11と、底部11から略垂直に立ち上がる円筒状の側壁部12とを有しており、側壁部12の端部がテーパー状に加工されたテーパー面12aとなっている。この製品10を順送プレス装置で製造する場合、側壁部12の端部(すなわち、最終的にテーパー面12aが設けられる箇所)は、抜き落とし用のパンチ及びダイ等を用いて、製品10となる部分(製品部分)をスクラップ部分から抜き落とすことによって形成される。したがって、側壁部12にテーパー面12aを形成するための加工は、製品部分をスクラップ部分から切り離した後にしか行うことができない。このため、従来の順送プレス装置を用いてこの製品10を製造する場合には、抜き落とした製品部分を人の手等で別の金型にセットして再度プレス加工を行ったり、旋盤を用いて切削加工を行ったりすることで、テーパー面12aの加工を行っていた。
【0008】
この点、順送プレス装置ではなく、トランスファープレス装置と呼ばれるプレス加工装置を用いれば、
図1に示すような製品を製造する場合でも、被加工金属板から最終製品までの加工を一貫して自動で行うことができる。というのも、トランスファープレス装置は、順送プレス装置とは異なり、製品部分を工程の初期段階においてスクラップ部分から切り離してしまい、切り離された製品部分を、各プレス工程間に備えられた搬送装置によって次の工程に搬送することによって連続プレス加工を行うものだからである。このため、製品部分をスクラップ部分から切り離した後にさらに加工を施す場合であっても、人の手等を介する必要がなく、全て自動で行うことができる。
【0009】
しかし、トランスファープレス装置は、ロット数が多く比較的高価な製品の製造には向いているが、少ロット製品や、単価の安い製品の製造に用いることは現実的でないという問題を有していた。というのも、トランスファープレス装置では、各プレス加工工程において逐一変化する製品部分の形状に合わせて搬送装置を設計する必要があるため、金型を交換するだけでは異なる種類の製品を製造することはできず、製造しようとする製品ごとに装置自体を設計しなおす必要があるからである。加えて、各工程間に搬送装置を設ける必要から、装置が大型で高価になりがちであるという問題も有していた。このため、製造しようとする製品によっては、トランスファープレス装置を用いることは難しく、やはり順送プレス装置を用いる必要があった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、順送プレス装置に組み込むことによって、スクラップ部分から切り離された後の製品部分をその後の工程に自動で搬送することができるようにする順送プレス用搬送装置を提供するものである。また、この順送プレス用搬送装置を備えた順送プレス装置と、これを用いた金属製品の製造方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、
被加工金属板における製品となる部分(製品部分)が被加工金属板における他の部分(スクラップ部分)につながったままの状態で、被加工金属板全体を順送することによって、一つの金型に設けられた複数のプレス加工部で製品部分を順にプレス加工する順送プレス装置に組み込んで使用する順送プレス用搬送装置であって、
グリッパと、
被加工金属板の順送方向に略平行なx軸方向にグリッパを移動させるx軸方向移動手段と、
x軸方向に略垂直なy軸方向にグリッパを移動させるy軸方向移動手段と、
x軸方向及びy軸方向に略垂直なz軸方向にグリッパを移動させるz軸方向移動手段と
を備え、
製品部分がスクラップ部分から切り離された後に、当該製品部分をグリッパで把持して後の工程へ搬送することができるようにした
ことを特徴とする順送プレス用搬送装置
を提供することによって解決される。
【0012】
本発明の順送プレス用搬送装置は、これを順送プレス装置に組み込むことによって、スクラップ部分から切り離された後の製品部分をその後の工程に自動で搬送することができるようにするものとなっている。
【0013】
すなわち、本発明によって、
一つの金型内に複数のプレス加工部が設けられた順送金型と、
被加工金属板を一定ピッチで順送する送り装置と、
を備え、
被加工金属板における製品部分がスクラップ部分につながったままの状態で、被加工金属板全体を送り装置で順送することによって、順送金型に設けられた複数のプレス加工部で製品部分を順にプレス加工する
順送プレス装置であって、
上述した本発明の順送プレス用搬送装置をさらに備えるとともに、
順送金型に設けられた複数のプレス加工部が、
スクラップ部分につながったままの状態の製品部分をプレス加工する少なくとも1箇所の順送工程用プレス加工部と、
順送工程用プレス加工部よりも下流側に配され、スクラップ部分から切り離された後の製品部分をプレス加工する少なくとも1箇所の後工程用プレス加工部と
で構成され、
順送工程用プレス加工部によってスクラップ部分から切り離された製品部分を、順送プレス用搬送装置のグリッパで把持して、後工程用プレス加工部まで搬送することができるようにした
順送プレス装置
を得ることが可能になる。これにより、スクラップ部分から切り離した後の製品部分にさらに加工を施す場合にも、人の手や他の装置等を介することなく、自動で加工を行うことができる。
【0014】
本発明の順送プレス用搬送装置においては、グリッパがz軸方向正側へ移動する動き又はy軸方向正側へ移動する動きに伴って、グリッパを、製品部分を把持する閉状態とし、グリッパがz軸方向負側へ移動する動きに伴って、グリッパを、製品部分の把持を解除する開状態とするグリッパ開閉用カム機構をさらに備えるようにすると好ましい。これにより、z軸方向移動手段によるグリッパのz軸方向の動き又はy軸方向移動手段によるグリッパのy軸方向の動きを、グリッパの開閉動作に変換(利用)することができるため、グリッパの開閉のために別途駆動機構等を設ける必要がない。したがって、装置をシンプルで省スペースなものとすることができるとともに、故障が起こりにくいものとすることができる。
【0015】
本発明の順送プレス用搬送装置においては、グリッパにおける、製品部分を把持する部分である製品部分把持部に、把持用凹部を設けることが好ましい。というのも、プレス加工においては、製品部分を金型に対して精度よく位置決めすることが求められるところ、このように把持用凹部を設けることにより、グリッパで製品部分を把持した際に、製品部分がグリッパの特定の位置に毎回精度よく収まるようにすることができ、その結果、グリッパが製品部分の把持を解除して製品部分を金型に置く際にも、製品部分を金型における特定の位置に毎回精度よく置くことができるからである。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によって、順送プレス装置に組み込むことによって、スクラップ部分から切り離された後の製品部分をその後の工程に自動で搬送することができるようにする順送プレス用搬送装置を提供することが可能になる。また、この順送プレス用搬送装置を備えた順送プレス装置と、これを用いた金属製品の製造方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】
図1に示す製品を、当該製品の中心軸を含む面で切断した断面図である。
【
図3】本実施態様の順送プレス用搬送装置を組み込んだ順送プレス装置の一部を順送方向に平行な鉛直面で切断した断面図であって、上型が上死点まで上昇し、被加工金属板の送りが完了した状態を示す図である。
【
図4】本実施態様の順送プレス用搬送装置を組み込んだ順送プレス装置の一部を順送方向に平行な鉛直面で切断した断面図であって、
図3に示す状態から上型が下死点まで下降し、被加工金属板がプレスされた状態を示す図である。
【
図5】本実施態様の順送プレス用搬送装置を組み込んだ順送プレス装置の一部を順送方向に平行な鉛直面で切断した断面図であって、
図4に示す状態から上型が再び上昇し、上型が被加工金属板から離れた状態を示す図である。
【
図6】本実施態様の順送プレス用搬送装置の斜視図であって、グリッパが閉状態にあるときを示した図である。
【
図7】
図6に示す状態のグリッパとその周辺部を、
図6におけるA-A面で切断した断面図である。
【
図8】本実施態様の順送プレス用搬送装置の斜視図であって、グリッパが開状態にあるときを示した図である。
【
図9】
図8に示す状態のグリッパとその周辺部を、
図8におけるB-B面で切断した断面図である。
【
図10】順送プレス装置に組み込んだ順送プレス用搬送装置が製品部分を搬送する動作の手順を示した斜視図である。
【
図11】順送プレス装置のプレスサイクルと、本実施態様の順送プレス用搬送装置の動作タイミングとの関係を示したサイクル図である。
【
図12】他の実施態様の順送プレス用搬送装置の斜視図であって、グリッパが閉状態にあるときを示した図である。
【
図13】他の実施形態の順送プレス用搬送装置が製品部分を搬送する動作の手順を示した斜視図である。
【
図14】他の実施形態におけるグリッパの上側フィンガーと下側フィンガーとを分解した状態を示す斜視図である。
【
図15】他の実施形態におけるグリッパが製品部分を把持する様子を、
図12におけるC-C断面で切断して示した断面図である。
【
図16】他の実施形態におけるグリッパが製品部分の把持を解除し、その後y軸方向負側へ移動する様子を、
図12におけるC-C断面で切断して示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.概要
本発明の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。以下において、x軸方向とは、順送プレス装置200の順送方向に略平行な方向のことをいう。また、y軸方向とは、x軸方向に略垂直な方向であって、水平方向に略平行な方向のことをいう。さらに、z軸方向とは、x軸方向及びy軸方向に略垂直な方向であって、鉛直方向に略平行な方向のことをいう。x軸、y軸及びz軸の向きは、異なる図においても互いに一致させている。以下においては、説明の便宜上、z軸正側を「上」、z軸負側を「下」と表現することがある。
【0019】
図1は、製品10の一例を示した斜視図である。
図2は、
図1に示す製品10を、当該製品10の中心軸を含む面で切断した断面図である。
図1に示す製品10は、同図に示すように、略円形状の底部11と、底部11から略垂直に立ち上がる円筒状の側壁部12とを備えたものとなっている。側壁部12の端部は、テーパー状に加工されたテーパー面12aとなっている。また、底部11には、
図2に示すように、突出部11aが設けられている。
【0020】
プレス加工によって原料である被加工金属板から製品10を製造する場合、底部11や、突出部11aや、側壁部12を形成するための加工は、従来の順送プレス装置を用いたとしても全て自動で行うことができる。というのも、これらの加工は、被加工金属板における製品10となる部分(製品部分)が被加工金属板における他の部分(スクラップ部分)につながったままの状態でも行うことができるからである。しかし、既に述べたように、テーパー面12aの加工は、スクラップ部分から製品部分を抜き落とした後にしか行うことができないため、従来の順送プレス装置では自動で行うことができなかった。この点、本実施態様の順送プレス用搬送装置を順送プレス装置に組み込むと、抜き落とされた製品部分を把持して後の工程に搬送する搬送機能を付加することができるため、テーパー面12aの加工も含めた製品10の製造工程全てを自動で行うことができる。
【0021】
以下、
図1及び
図2に示す製品10を製造する場合を例に挙げて、本実施態様の順送プレス用搬送装置及びこれを組み込んだ順送プレス装置について詳しく説明する。しかし、本発明の順送プレス用搬送装置及びこれを組み込んだ順送プレス装置は、これを用いて製造する製品の具体的な形状を限定されず、各種の製品の製造に用いることができる。
【0022】
2.順送プレス装置
図3~5は、本実施態様の順送プレス用搬送装置100を組み込んだ順送プレス装置200の一部を順送方向に平行な鉛直面で切断した断面図である。
図3は、上型211が上死点まで上昇し、被加工金属板20の送りが完了した状態を示している。
図4は、
図3に示す状態から上型211が下死点まで下降し、被加工金属板20がプレスされた状態を示している。
図5は、
図4に示す状態から上型211が再び上昇し、上型211が被加工金属板20から離れた状態を示している。
【0023】
順送プレス装置200は、
図3に示すように、上型211及び下型212で構成される順送金型210と、被加工金属板20を一定ピッチで順送する送り装置(図示省略)とを備えたものとなっている。
図3~5においては、被加工金属板20は、図に向かって左から右へ(x軸負側から正側へ)順送される。順送金型210には、被加工金属板20の順送方向に並んで複数のプレス加工部300が設けられており、これら複数のプレス加工部300によって被加工金属板20を順次加工することによって、最終的に
図1に示す製品10が得られるようになっている。
図3~5においては、これら複数のプレス加工部300のうち、抜き落とし部310と、スクラップ落とし部320と、テーパー加工部330とが表示されている。
【0024】
抜き落とし部310は、製品部分21をスクラップ部分22から抜き落とす工程である。抜き落とし部310には、抜き落とし用パンチ311と、抜き落とし用ダイ312と、抜き落とし用ノックアウト313とが設けられている。スクラップ落とし部320は、製品部分21を抜き落とされた後のスクラップ部分22を切り落とす工程である。スクラップ落とし部320には、スクラップ落とし用パンチ321と、スクラップ落とし用ダイ322とが設けられている。スクラップ落とし用ダイ322の下方は、下型212を貫通するスクラップ排出孔322aとなっており、切り落とされたスクラップ部分22が下型212の下に落下するようになっている。テーパー加工部330は、抜き落とし部310で抜き落とされた製品部分21にさらにプレス加工を施して、テーパー面12a(
図1を参照)を形成する工程である。テーパー加工部330には、テーパー加工用パンチ331と、テーパー加工用ダイ332と、テーパー加工用ノックアウト333とが設けられている。
【0025】
以下、製品10の加工工程のうち、抜き落とし部310、スクラップ落とし部320及びテーパー加工部330で行われる各工程について、
図3~5を参照しながら詳しく説明する。
【0026】
抜き落とし部310よりも上流の各プレス加工部300において順次加工された製品部分21は、
図3に示すように、スクラップ部分22につながったままの状態で抜き落とし部310に順送されてくる。順送が完了すると、
図4に示すように、上型211が下型212に向かって下降し、抜き落とし用パンチ311と抜き落とし用ダイ312とによって製品部分21がスクラップ部分22から抜き落とされる。このとき、製品部分21は、抜き落とし用ダイ312の内側に設けられた抜き落とし用ノックアウト313によって下支えされる。抜き落とし用ノックアウト313は、バネ等の付勢手段によって上向きに付勢されている。このため、
図5に示すように、上型211が再度上昇すると、抜き落とし用ノックアウト313も上昇し、抜き落とし用ダイ312から製品部分21が取り出されるようになっている。
【0027】
抜き落とし部310で抜き落とされた製品部分21は、
図5の破線矢印で示すように、本実施態様の順送プレス用搬送装置100によってテーパー加工部330へと搬送され、さらに加工を施される。順送プレス用搬送装置100の具体的な構造については、後で詳しく説明する。
図3に示すようにテーパー加工部330へ搬送された製品部分21は、次のプレスサイクルにおいて、
図4に示すように、テーパー加工用パンチ331とテーパー加工用ダイ332とによってプレスされる。これにより、
図5に示すように、製品部分21にテーパー面12aが形成され、製品10が完成する。テーパー加工部330にも、抜き落とし部310と同様に、上向きに付勢されたテーパー加工用ノックアウト333が設けられており、テーパー加工用ダイ332から完成した製品10が取り出されるようになっている。
【0028】
このように、本実施態様の順送プレス用搬送装置100を組みこんだ順送プレス装置200においては、抜き落とし部310で抜き落とされた製品部分21を、順送プレス用搬送装置100によって後のテーパー加工部330へ搬送することができるため、抜き落とし後の製品部分21にさらに加工を施すことができる。本実施態様においては、スクラップ部分22から切り離された後の製品部分21をプレス加工する工程(以下、「後工程用プレス加工部」と表現することがある。)として、テーパー加工部330の1箇所のみを設けているが、後工程用プレス加工部は2箇所以上設けてもよい。
【0029】
ところで、本実施態様の順送プレス用搬送装置100は、
図5の破線矢印で示すように、抜き落とし部310で抜き落とされた製品部分21を一旦上方に(z軸正側に)持ち上げてからテーパー加工部330へと搬送する。というのも、製品部分21を単にスライド移動させる(x軸正側のみに移動させる)ことによってテーパー加工部330へ搬送しようとすると、製品部分21がスクラップ排出孔322aに落下してしまうからである。加えて、本実施態様の場合には、製品10がその底部11に突出部11aを有するものとなっており、抜き落とし後には、
図5に示すように、突出部11aが抜き落とし用ノックアウト313の凹部313aにはまり込んだ状態となるため、やはり製品部分21を一旦上方に持ち上げてから搬送する必要がある。
【0030】
以下、このz軸方向の動きも含めて、本実施態様の順送プレス用搬送装置100の動作と形状について、詳しく説明する。
【0031】
3.順送プレス用搬送装置
図6は、本実施態様の順送プレス用搬送装置100の斜視図であって、グリッパ130が閉状態にあるときを示した図である。
図7は、
図6に示す状態のグリッパ130とその周辺部を、
図6におけるA-A面で切断した断面図である。
図8は、本実施態様の順送プレス用搬送装置100の斜視図であって、グリッパ130が開状態にあるときを示した図である。
図9は、
図8に示す状態のグリッパ130とその周辺部を、
図8におけるB-B面で切断した断面図である。
【0032】
本実施態様の順送プレス用搬送装置100は、
図6に示すように、基台110と、基台110に対して昇降する昇降台120と、昇降台120に取り付けられたグリッパ130と、基台110をx軸方向に進退移動させることができるx軸方向移動手段140と、基台110をy軸方向に進退移動させることができるy軸方向移動手段150と、昇降台120を基台110に対して昇降させる(z軸方向に進退移動させる)ことができるz軸方向移動手段160(
図7を参照。)とを備えたものとなっている。
【0033】
グリッパ130は、製品部分21を把持するための部分である。グリッパ130は、棒状に形成された一対のフィンガー131を備えたものとなっており、それぞれのフィンガー131の先端部分は、製品部分を把持する製品部分把持部131aとなっている。製品部分把持部131aには、把持用凹部131bが設けられており、一対のフィンガー131の把持用凹部131bが互いに対向するようになっている。フィンガー131は、それぞれ、フィンガー固定軸132によって揺動可能な状態で昇降台120に取り付けられている。フィンガー131の後端側には、一対のフィンガー131の後端側同士が離れる方向に付勢するフィンガー付勢手段133が設けられている。これにより、
図6に示すグリッパ130は、閉状態(一対のフィンガー131の製品部分把持部131aが互いに近付いた状態のこと。以下同じ。)となっている。
【0034】
本実施態様においては、
図6に示す状態から昇降台120を下降させることによって、
図8に示すように、グリッパ130を開状態(一対のフィンガー131の製品部分把持部131aが互いに離れた状態のこと。以下同じ。)とすることができる。以下、その機構について詳しく説明する。
【0035】
基台110には、
図7に示すように、テーパー状のカム面111aを有する突起状のグリッパ開閉用カム111が一対設けられている。また、昇降台120におけるグリッパ開閉用カム111と重なる位置には、グリッパ開閉用カム111を挿通させる一対のカム用孔121が設けられている。この一対のカム用孔121は、一対のフィンガー131の後端側を両側から挟む位置に配されている。
【0036】
図7に示す状態(
閉状態)から、z軸方向移動手段160によって昇降台120を下降させると、
図9に示すように、グリッパ開閉用カム111がカム用孔121を通過して昇降台120の上面側に突出する。すると、グリッパ開閉用カム111のカム面111aが一対のフィンガー131に外側から当接して、フィンガー131の後端側を内側に向かって押圧する。これにより、
図8に示すように、一対のフィンガー131の後端側同士が互いに近付けられて(すなわち、製品部分把持部131a同士が互いに離れて)、グリッパ130が開状態となる。
【0037】
一方、
図9に示す開状態からz軸方向移動手段160によって昇降台120を上昇させると、フィンガー131の後端側を押圧していたグリッパ開閉用カム111がカム用孔121に引き込まれ、フィンガー131の後端側から外れる。すると、
図6に示すように、フィンガー付勢手段133によって一対のフィンガー131の後端側同士が再び離れされて(すなわち、製品部分把持部131a同士が互いに近付いて)、グリッパ130が閉状態となる。
【0038】
このように、本実施態様においては、z軸方向移動手段160で昇降台120を昇降させることでグリッパ130をz軸方向に移動させることができるとともに、その移動動作に伴ってグリッパ130を開閉させることができるようになっている。加えて、x軸方向移動手段140及びy軸方向移動手段150で基台110を移動させることによって、グリッパ130をx軸方向及びy軸方向にも移動させることができるようになっている。このグリッパ130のx軸方向、y軸方向、z軸方向の移動動作と、開閉動作との組み合わせによって、本実施態様の順送プレス用搬送装置100は、製品部分21をスムーズに搬送することができるようになっている。
【0039】
図10は、順送プレス装置200に組み込んだ順送プレス用搬送装置100が製品部分21を搬送する動作の手順を示した斜視図である。
図10においては、図示の都合上、製品部分21とグリッパ130のみを表示している。破線矢印Lは、順送プレス装置200において製品部分21が順送される順送ラインの位置を表している。
【0040】
本実施態様の順送プレス用搬送装置100は、
図10に示すように、グリッパ130が、第一位置S1と、第二位置S2と、第三位置S3と、第四位置S4と、第五位置S5と、第六位置S6との間を、この順に移動することによって、製品部分21を順送プレス装置200における抜き落とし部310(
図5を参照。)からテーパー加工部330に搬送するものとなっている。なお、
図10においては、図示の都合上、各位置のグリッパ130同士が重ならないように離して表示しているが、第一位置S1~第六位置S6の各位置間でグリッパ130をどの程度移動させるかについては、順送プレス用搬送装置100を組みこむ順送プレス装置200に合わせて、適宜調整することができる。
【0041】
以下、
図10を参照しながら、グリッパ130が第一位置S1から第六位置S6に至るまでの動作を順に説明する。第一位置S1においては、グリッパ130が順送プレス装置200の順送金型210(
図5を参照。)の外側に位置している。すなわち、順送プレス装置200がプレス動作を行ったとしても、順送金型210に干渉しない位置にグリッパ130を配している。第一位置S1においては、グリッパ130が固定されている昇降台120(
図8を参照。)は下降した状態となっており、グリッパは開状態となっている。
【0042】
この第一位置S1から、y軸方向移動手段150によってグリッパ130をy軸方向正側へ移動させると、グリッパ130が第二位置S2に配される。第二位置S2においては、グリッパ130が順送プレス装置200の上型211と下型212(
図5を参照。)との間に入り、抜き落とし部310で抜き落とされた後の製品部分21の両側に、グリッパ130の製品部分把持部131aが配された状態となる。この時点では、グリッパ130はまだ開状態のままとなっている。
【0043】
次に、z軸方向移動手段160によって、グリッパ130が固定されている昇降台120(
図8を参照。)を上昇させて、グリッパ130をz軸方向正側に移動させると、グリッパ130が第三位置S3に配される。この動きに伴い、既に説明したように、グリッパ130が開状態から閉状態へと移行する。これにより、製品部分21がグリッパ130の製品部分把持部131aに把持されて、z軸方向正側に持ち上げられる。
【0044】
続いて、x軸方向移動手段140によって、製品部分21を把持したグリッパ130をx軸方向正側に移動させると、グリッパ130が第四位置S4に配される。この第四位置S4は、順送プレス装置200におけるテーパー加工部330(
図3を参照。)に重なる位置となっている。この時点では、グリッパ130はまだ閉状態のままであり、製品部分21はグリッパ130によって持ち上げられた状態となっている。
【0045】
第四位置S4から、z軸方向移動手段160によって昇降台120(
図6を参照。)を下降させて、グリッパ130をz軸方向負側に移動させると、グリッパ130が第五位置S5に配される。この動きに伴い、既に説明したように、グリッパ130が閉状態から開状態へと移行する。これにより、グリッパ130に把持されていた製品部分21は、
図3に示すように、テーパー加工部330のテーパー加工用ノックアウト333の上に置かれる。この時点で、製品部分21の搬送が完了する。
【0046】
製品部分21の搬送が完了した後には、
図4に示すように、順送プレス装置200によってプレス操作が行われる。しかし、その際にグリッパ130が第五位置S5に残ったままとなっていると、グリッパ130が順送金型210に挟まれてしまう。このため、
図10に示すように、第五位置S5にあるグリッパ130を、y軸方向移動手段150によってy軸方向負側へ移動させて、第六位置S6に配する。第六位置S6においては、第一位置S1と同様、グリッパ130が順送金型210(
図3を参照。)の外側に配されるため、順送金型210に挟まれないようになっている。
【0047】
最後に、x軸方向移動手段140によってグリッパ130をx軸方向負側に移動させると、グリッパ130が第一位置S1に戻る。このサイクルを、順送プレス装置200のプレスサイクルと同じ周期で繰り返すことにより、抜き落とし部310(
図5を参照。)で抜き落とされる製品部分21を次々とテーパー加工部330に搬送することができるようになっている。
【0048】
図11は、順送プレス装置200のプレスサイクルと、本実施態様の順送プレス用搬送装置100の動作タイミングとの関係を示したサイクル図である。内側の円は順送プレス装置200の上型211(
図4を参照。)の動きを示しており、外側の円は順送プレス用搬送装置100のグリッパ130の動きを示している。以下、順送プレス装置200のプレスサイクルと、本実施態様における順送プレス用搬送装置100のグリッパ130を第一位置S1から第六位置S6まで移動させるタイミングとの関係について、
図11を参照しながら説明する。しかし、グリッパ130を移動させるタイミングは、順送プレス装置200の設計等によっても異なり、これに限定されない。
【0049】
上型211が下死点PLにある状態から説明を始める。上型211が下死点PLにあるときには、順送プレス用搬送装置100のグリッパ130は第一位置S1に配されている。上型211が下死点PLから上昇し、上型211と下型212との間にある程度の空間ができた段階で、グリッパ130を第一位置S1から第二位置S2に移動させて、上型211と下型212との間に挿入する。続いて、上型211が下死点PLと上死点PUとの中間点あたりに来る頃には、グリッパ130を第3位置S3に移動させて、製品部分21を持ち上げる。さらに、上型211が上死点PUに達する前までには、グリッパ130を第四位置S4に移動させて、持ち上げた製品部分21をテーパー加工部330の上方に搬送する。上型211が上死点PUを越えて下降し始めた後は、できるだけ早い段階でグリッパ130を第五位置S5に移動させて製品部分21をテーパー加工部330に置き、グリッパ130を第六位置S6に移動させて順送金型210の外側に退避させる。その後は、上型211が下死点PLに達する頃までに、グリッパ130を第一位置S1に戻せばよい。
【0050】
ところで、
図6及び
図8には、図示の都合上、グリッパ130を1つだけ表示しているが、本実施態様の順送プレス用搬送装置100は、x軸方向に並べて設置された2個のグリッパ130を備えたものとなっている。というのも、
図5に示すように、抜き落とし部310で抜き落とされた製品部分21をテーパー加工部330に搬送するためには、先行してテーパー加工部330での加工を終えた製品10をテーパー加工部330から取り除く必要があるため、そのためのグリッパ130も設ける必要があるからである。順送プレス用搬送装置100に設けられるグリッパ130の個数は、順送プレス用搬送装置100を組みこむ順送プレス装置200の設計や、製造しようとする製品によっても異なり、特に限定されず、1個としても、3個以上としてもよい。グリッパ130を複数個設ける場合には、それぞれのグリッパ130を別の昇降台120に取り付けるようにしてもよいが、本実施態様においては2個のグリッパ130を同じ昇降台120に取り付けて、2個のグリッパが同期して動くようにしている。
【0051】
グリッパ130を移動させるためのx軸方向移動手段140、y軸方向移動手段150及びz軸方向移動手段160は、それぞれ、グリッパ130をx軸方向、y軸方向、z軸方向に進退移動させることができるものであれば、その具体的な構成を特に限定されない。
図6~9においては、x軸方向移動手段140、y軸方向移動手段150及びz軸方向移動手段160を、駆動力を有する流体圧シリンダとして表示しているが、これらの移動手段としては、ラックアンドピニオンにモーターを組み合わせたものや、ボールねじ装置等を用いてもよい。また、x軸方向移動手段140、y軸方向移動手段150又はz軸方向移動手段160のうち1つ又は2つ以上を、上型211(
図3を参照。)の上下運動を利用してグリッパ130を移動させるものとすることもできる。このような動作は、カム機構やリンク機構等で実現することができる。この場合には、3つの移動手段全てを流体圧シリンダ等とした場合に比べて、装置の設計がやや複雑になる反面、グリッパ130の移動精度を高めることができる。
【0052】
本実施態様におけるグリッパ130は、
図10に示すように、順送プレス装置200の順送ラインLに対して片側から近付いて、製品部分21を把持するものとなっている。しかし、グリッパ130は、製品部分21を把持して持ち上げることができることができるようになっていれば、その具体的な形状や動作機構を特に限定されない。グリッパ130は、例えば、順送プレス装置200の順送ラインLに対してy軸方向正側から近付く第一フィンガーと、順送ラインLに対してy軸方向負側から近付く第二フィンガーとによって、製品部分21を順送ラインLの両側から把持するものとしてもよい。しかし、本実施態様のように、グリッパ130をクリップ状に形成して、順送ラインLに対して片側からのみ近付くようにすると、順送プレス用搬送装置100の構成をシンプルにすることができる。また、順送プレス装置200への組み込みもしやすくなる。
【0053】
グリッパ130を開閉するための開閉機構は、特に限定されず、シリンダ等の駆動手段としてもよい。しかし、本実施態様においては、既に述べたように、z軸移動手段の駆動力を利用してグリッパ130を開閉するグリッパ開閉用カム111を採用している。本実施態様におけるグリッパ開閉用カム111は、
図8に示すように、略円錐状に形成しているが、グリッパ開閉用カム111の形状は特に限定されず、上端部に傾斜面を有する角柱状等であってもよい。
【0054】
本実施態様において、グリッパ130の製品部分把持部131aに設けられた把持用凹部131bは、略円弧状となっている。しかし、把持用凹部131bの形状は、把持しようとする製品部分の形状によっても異なり、特に限定されない。把持用凹部131bは、V字状や、多角状とすることもできる。また、把持用凹部131bにおける製品部分に接触する箇所に、滑り止め材を設けることも好ましい。このような滑り止め材としては、ゴム製のものや樹脂製のもの等が例示される。
【0055】
4.他の実施形態
以上で説明したグリッパ130は、
図6に示すように、x軸方向に並んで配された一対のフィンガー131を有し、x軸方向に開閉するものであった。以下、このようにx軸方向に開閉するグリッパを、「x軸方向開閉型グリッパ」と呼ぶことがある。ここで、「x軸方向に開閉する」とは、一のフィンガーに対して他のフィンガーを、x軸方向に平行な成分を有する方向に相対的に移動させることによってグリッパに開閉動作を行わせることをいい、一のフィンガーに対して他のフィンガーを、x軸方向にのみ移動させる態様に限定されない。
【0056】
x軸方向開閉型グリッパは、例えば、搬送しようとする製品部分がz軸方向に突出する部分(例えば、
図1に示す側壁部12等)を有する場合等に採用すると、その部分を両側から把持して、安定して搬送を行うことができるため好ましい。しかし、搬送しようとする製品部分の形状や前後のプレス加工部との兼ね合い等によっては、x軸方向開閉型グリッパ以外のグリッパを採用することが好ましい場合もある。以下においては、他の実施形態として、z軸方向に開閉するグリッパ190を採用する場合について説明する。なお、以下で説明する他の実施態様においては、グリッパ190以外の部分について、ここまでに説明したものと同様の構成を採用することができる。
【0057】
図12は、他の実施態様の順送プレス用搬送装置100の斜視図であって、グリッパ190が閉状態にあるときを示した図である。他の実施態様におけるグリッパ190は、
図12に示すように、先に説明したグリッパ130(
図6を参照。)が取り付けられていたものと同様の昇降台120に取り付けられており、x軸方向移動手段140、y軸方向移動手段150及びz軸方向移動手段160(
図7を参照。)によって、それぞれ、x軸方向、y軸方向及びz軸方向に進退移動するようになっている。
【0058】
他の実施形態におけるグリッパ190は、
図12に示すように、z軸方向に並んで配された上側フィンガー191と下側フィンガー192とを備えている。グリッパ190は、上側フィンガー191と下側フィンガー192の先端部分同士を近付けて、上側フィンガー191と下側フィンガー192との間に製品部分を把持可能な閉状態と、上側フィンガー191と下側フィンガー192の先端部分同士を遠ざけて、製品部分の把持を解除する開状態とを切り替えることができるものとなっている。以下、このようにz軸方向に開閉するグリッパを、「z軸方向開閉型グリッパ」と呼ぶことがある。
【0059】
ここで、「z軸方向に開閉する」とは、一のフィンガーに対して他のフィンガーを、z軸方向に平行な成分を有する方向に相対的に移動させることによってグリッパに開閉動作を行わせることをいい、一のフィンガーに対して他のフィンガーを、z軸方向にのみ移動させる態様に限定されない。
【0060】
このグリッパ190(z軸方向開閉型グリッパ)は、例えば、搬送しようとする製品部分がx-y平面に略平行に置かれた平板状のものである場合等に、製品部分を厚み方向両側から把持して、安定して搬送を行うことができるものとなっている。以下においては、円盤状の製品部分29(後掲の
図13を参照。)を搬送する場合を例に挙げて、グリッパ190を備えた他の実施形態の順送プレス用搬送装置100の動作を説明する。
【0061】
図13は、他の実施形態の順送プレス用搬送装置100が製品部分29を搬送する動作の手順を示した斜視図である。
図13においては、図示の都合上、製品部分29とグリッパ190のみを表示している。図中のS1~S6は、それぞれ、第一位置から第六位置にあるときのグリッパ190を示している。破線矢印Lは、順送プレス装置200において製品部分29が順送される順送ラインの位置を表している。
図13においては、図示の都合上、各位置のグリッパ190同士が重ならないように離して表示しているが、第一位置S1~第六位置S6の各位置間でグリッパ190をどの程度移動させるかについては、順送プレス用搬送装置100を組みこむ順送プレス装置200に合わせて、適宜調整することができる。
【0062】
他の実施形態におけるグリッパ190は、
図13に示すように、第一位置S1と、第二位置S2と、第三位置S3と、第四位置S4と、第五位置S5と、第六位置S6との間を、この順に移動することによって、抜き落とし部310(
図5を参照。)からテーパー加工部330(後工程用プレス加工部)へと製品部分29を搬送するものとなっており、この点においては、先に説明したグリッパ130(
図10を参照。)と同様のものとなっている。しかし、他の実施形態におけるグリッパ190は、開閉を切り替えるタイミング及び製品部分29を把持するタイミングにおいて、先に説明したグリッパ130とは異なっている。
【0063】
すなわち、先に説明したグリッパ130は、
図10に示すように、第一位置S1において開状態となっており、第二位置S2から第三位置S3に至る過程(z軸方向正側に移動する過程)で開状態から閉状態に切り替わるようになっていた。このため、グリッパ130は、第二位置S2から第三位置S3に至る過程で製品部分21を把持するようになっていた。これに対し、他の実施形態におけるグリッパ190は、
図13に示すように、第一位置S1において閉状態となっており、第一位置S1から第二位置S2に至る過程(y軸方向正側に移動する過程)で、一旦開状態となった後、再び閉状態に切り替わるようになっている。このため、グリッパ190は、第二位置S2に達した際に製品部分29を把持するようになっている。その後の工程では、先に説明したグリッパ130と同様の動作を行う。すなわち、第三位置S3及び第四位置S4を経て、第四位置S4から第五位置S5に至る過程(z軸方向負側に移動する過程)で製品部分29の把持を解除する。さらにその後、第六位置S6を経て第一位置S1に復帰する。
【0064】
以下、他の実施形態におけるグリッパ190の詳しい構造と、開閉機構について説明する。他の実施形態におけるグリッパ190は、
図12に示すように、共に棒状に形成された上側フィンガー191と下側フィンガー192とを備えている。上側フィンガー191は、その基端部を、一対の上側フィンガー支持具193によって挟まれた状態で軸支されており、下側フィンガー192に対して揺動可能な状態となっている。上側フィンガー191における、上側フィンガー支持具193に支持された箇所よりも先端側には、上側フィンガー191を下側フィンガー192側に付勢する付勢手段194が設けられている。これにより、
図12に示すグリッパ190は、上側フィンガー191と下側フィンガー192の先端部分同士が互いに近付いた閉状態となっている。
【0065】
図14は、他の実施形態におけるグリッパ190の上側フィンガー191と下側フィンガー192とを分解した状態を示す斜視図である。上側フィンガー191は、
図14に示すように、その下面側(下側フィンガー192と対向する箇所)に凹部191aを有している。また、下側フィンガー192は、下側フィンガー192の先端を始点とし、基端側に向かって延びるスリット溝192aを有している。この凹部191aとスリット溝192aが設けられている理由については、この後説明する。
【0066】
まず、他の実施形態のグリッパ190が、抜き落とし部310(
図5を参照。)において製品部分29を把持する際の動作を説明する。
図15は、他の実施形態におけるグリッパ190が製品部分29を把持する様子を、
図12におけるC-C断面で切断して示した断面図である。
図15の上段はグリッパ190が第一位置にあるときを、下段はグリッパ190が第二位置にあるときを、中段はその中間の状態を示している。
【0067】
他の実施形態における順送プレス装置200の下型212には、
図15に示すように、抜き落とし部310(
図5を参照。)に対応する位置に、z軸方向開閉型グリッパ開閉用第一カム212aが設けられている。このz軸方向開閉型グリッパ開閉用第一カム212aは、
図15に示すように、傾斜したカム面212bを有している。
【0068】
第一位置から第二位置に至る過程においては、
図15上段に示すように、閉状態のグリッパ190がz軸方向開閉型グリッパ開閉用第一カム212aに向かってy軸方向負側から進出する。このとき、z軸方向開閉型グリッパ開閉用第一カム212aは、グリッパ190の下側フィンガー192に設けられたスリット溝192a内を通るようになっているため、z軸方向開閉型グリッパ開閉用第一カム212aと下側フィンガー192とは干渉しない。グリッパ190がある程度まで進出すると、
図15中段に示すように、上側フィンガー191がz軸方向開閉型グリッパ開閉用第一カム212aのカム面212bに当接して乗り上げることにより、上側フィンガー191が押し上げられて、グリッパ190が開状態となる。グリッパ190がさらに進出し、y軸方向正側死点に達すると、
図15下段に示すように、z軸方向開閉型グリッパ開閉用第一カム212aがグリッパ190の上側フィンガー191に設けられた凹部191aに入り込むことにより、グリッパ190が再度閉状態となる。
【0069】
このように、グリッパ190は、y軸方向負側から正側への移動に伴って、閉状態から開状態となり、上側フィンガー191を製品部分29の上方に、下側フィンガー192を製品部分29の下方に、それぞれ配した後、再び閉状態となり、z軸方向正側への移動が開始されるよりも前に製品部分29を把持する。これにより、製品部分29が傾いたりガタついたりすることを抑えて、安定して製品部分29を把持することができる。
【0070】
ところで、上記の凹部191aを設けていなくとも、グリッパ190は、製品部分29を把持することができる。というのも、凹部191aを設けなかったとしても、第二位置から第三位置に至る過程で、グリッパ190がz軸方向正側に移動する際に、上側フィンガー191からz軸方向開閉型グリッパ開閉用第一カム212aが外れ、グリッパ190が閉状態となるからである。しかし、この場合には、製品部分29が傾いたりガタついたりするおそれがある。このため、他の実施形態のように、上側フィンガー191に凹部191aを設けることが好ましい。
【0071】
続いて、他の実施形態のグリッパ190が、テーパー加工部330(後工程用プレス加工部。
図5を参照。)において製品部分29の把持を解除する際の動作を説明する。
図16は、他の実施形態におけるグリッパが製品部分の把持を解除し、その後y軸方向負側へ移動する様子を、
図12におけるC-C断面で切断して示した断面図である。
図16の上段はグリッパ190が第四位置にあるときを、中段はグリッパ190が第五位置にあるときを、下段はグリッパ190が第五位置から第六位置に移動する途中の状態を示している。
【0072】
他の実施形態における順送プレス装置200の下型212には、
図16に示すように、テーパー加工部330(後工程用プレス加工部。
図5を参照。)に対応する位置に、z軸方向開閉型グリッパ開閉用第二カム212cが設けられている。
【0073】
第四位置から第五位置に至る過程においては、
図16上段に示すように、製品部分29を把持した閉状態のグリッパ190がz軸方向開閉型グリッパ開閉用第二カム212cに向かってz軸方向正側から負側に向かって下降する。このとき、z軸方向開閉型グリッパ開閉用第二カム212cは、グリッパ190の下側フィンガー192に設けられたスリット溝192a内を通るようになっているため、z軸方向開閉型グリッパ開閉用第二カム212cと下側フィンガー192とは干渉しない。グリッパ190がz軸方向負側死点付近まで下降すると、
図16中段に示すように、上側フィンガー191の下面側における、凹部191aが設けられた箇所よりも先端側にz軸方向開閉型グリッパ開閉用第二カム212cが当接することにより、上側フィンガー191が押し上げられて、グリッパ190が開状態となる。このように、グリッパ190は、z軸方向正側から負側への移動に伴って閉状態から開状態となり、製品部分29の把持を解除するようになっている。
【0074】
その後、グリッパ190は、
図16下段に示すように、y軸方向正側へ移動することで上型211と下型212との間隙から退出する。このとき、上側フィンガー191は、しばらくの間、z軸方向開閉型グリッパ開閉用第二カム212cによって押し上げられたままの状態を維持する。このため、上側フィンガー191が製品部分29の上方から抜けるまでの間、グリッパ190を開状態に維持して、グリッパ190を製品部分29に触れずに退出させることができる。
【0075】
以上で説明した他の実施形態において、z軸方向開閉型グリッパであるグリッパ190は、上側フィンガー191を揺動させることにより開閉動作を行うものとしたが、上側フィンガー191と下側フィンガー192は、どちらを動かすようにしてもよい。下側フィンガー192を動かすようにした場合には、グリッパ190を開閉するためのz軸方向開閉型グリッパ開閉用第一カム212aは、下側フィンガー192に当接するようにする。
【0076】
他の実施形態において、z軸方向開閉型グリッパ開閉用第一カム212aやz軸方向開閉型グリッパ開閉用第二カム212cは、上側フィンガー191の下面側における、幅方向略中央付近に当接するようにしている。しかし、例えば、上側フィンガー191を下側フィンガー192よりも幅の広いものとするか、上側フィンガー191の側方にカムを当接させるための凸部を設ける等して、z軸方向開閉型グリッパ開閉用第一カム212aやz軸方向開閉型グリッパ開閉用第二カム212cが、上側フィンガー191の下面側における下側フィンガー192よりも側方に突出した部分に当接するようにしてもよい。この場合には、下側フィンガー192にスリット溝192aを設けなくともよい。他の実施形態におけるz軸方向開閉型グリッパ開閉用第一カム212aは、
図10に示すように、傾斜した平面状のカム面212bを有しているが、カム面212bは曲面状のものとすることもできる。
【0077】
上側フィンガー191や下側フィンガー192における、製品部分29を把持した際に製品部分29に当接する箇所(製品部分把持部)には、滑り止め材を設けてもよい。このような滑り止め材としては、ゴム製のものや樹脂製のもの等が例示される。上側フィンガー191や下側フィンガー192には、把持しようとする製品部分の形状に合わせて、把持用の凹部や凸部を設けてもよい。
【0078】
z軸方向開閉型グリッパを採用する場合には、抜き落とし部310(
図5を参照。)において製品部分29を把持する際に、製品部分29の下方にグリッパ190の下側フィンガー192を挿し込む必要がある。したがって、この場合には、抜き落とし用ノックアウト313の形状を、製品部分29の下方に空間を確保できる形状とすることが好ましい。以上で、他の実施形態の説明を終了する。
【0079】
5.その他
ところで、製造しようとする製品の形状等によっては、プレス加工部間で製品部分の向きを変えることが好ましい場合がある。この場合には、本発明の順送プレス用搬送装置100に、グリッパ(x軸方向開閉型グリッパやz軸方向開閉型グリッパ)を回転させる機構を備えることができる。より具体的には、本発明の順送プレス用搬送装置100を、グリッパにおける製品部分を把持する部分よりも基端側に設けられたグリッパ支持軸と、グリッパ支持軸をy軸方向に略平行な回転軸の周りで回転させるグリッパ回転機構とを備えたものとすることができる。これにより、あるプレス加工部から次のプレス加工部に移動する間に(グリッパが製品部分を把持してから把持を解除するまでのいずれかのタイミングで)、グリッパを回転させて、製品部分の向きを変えることができる。グリッパ回転機構は、モーターや流体圧シリンダを用いて、グリッパの移動とは独立してグリッパを回転させるものとしてもよい。あるいは、ラック・ピニオン機構やカム機構やリンク機構等を用いて、x軸方向移動手段103やz軸方向移動手段105によるグリッパの移動を利用してグリッパを回転させるものとしてもよい。グリッパ回転機構は、特に、モーターを用いたものとすると、グリッパを一方向にのみ回転させ続けることができ、一度回転させたグリッパを元に戻す必要がないため好ましい。
【符号の説明】
【0080】
10 製品
11 底部
11a 突出部
12 側壁部
12a テーパー面
20 被加工金属板
21 製品部分
22 スクラップ部分
29 製品部分
100 順送プレス用搬送装置
110 基台
111 グリッパ開閉用カム
111a カム面
120 昇降台
130 グリッパ
131 フィンガー
131a 製品部分把持部
131b 把持用凹部
132 フィンガー固定軸
133 フィンガー付勢手段
140 x軸方向移動手段
150 y軸方向移動手段
160 z軸方向移動手段
190 グリッパ
191 上側フィンガー
191a 凹部
192 下側フィンガー
192a スリット溝
193 上側フィンガー支持具
194 付勢手段
200 順送プレス装置
210 順送金型
211 上型
212 下型
212a z軸方向開閉型グリッパ開閉用第一カム
212b カム面
212c z軸方向開閉型グリッパ開閉用第二カム
300 プレス加工部
310 抜き落とし部
311 抜き落とし用パンチ
312 抜き落とし用ダイ
313 抜き落とし用ノックアウト
313a 凹部
320 スクラップ落とし部
321 スクラップ落とし用パンチ
322 スクラップ落とし用ダイ
322a スクラップ排出孔
330 テーパー加工部
331 テーパー加工用パンチ
332 テーパー加工用ダイ
333 テーパー加工用ノックアウト
S1 第一位置
S2 第二位置
S3 第三位置
S4 第四位置
S5 第五位置
S6 第六位置
PL 下死点
PU 上死点