(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】低圧鋳造用溶湯保持炉
(51)【国際特許分類】
B22D 18/04 20060101AFI20240325BHJP
B22D 18/06 20060101ALI20240325BHJP
B22D 45/00 20060101ALI20240325BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
B22D18/04 U
B22D18/06 509W
B22D45/00 B
F27D1/00 D
(21)【出願番号】P 2022028473
(22)【出願日】2022-02-25
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】516016632
【氏名又は名称】株式会社アクセル技研
(74)【代理人】
【識別番号】100100170
【氏名又は名称】前田 厚司
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩一
(72)【発明者】
【氏名】外園 義晃
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-171560(JP,A)
【文献】特開2020-066037(JP,A)
【文献】特開2018-012131(JP,A)
【文献】特開2018-094622(JP,A)
【文献】特開平05-309470(JP,A)
【文献】特開昭57-070072(JP,A)
【文献】特開2007-313547(JP,A)
【文献】特開2021-146381(JP,A)
【文献】特開平02-247492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 18/00-18/08
F27D 1/00- 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉自在な溶湯供給口を備えた溶湯保持室とストークを備えた溶湯加圧室とが当該溶湯保持室の炉床に設けた開閉自在な溶湯流路開口を介して連通接続され、
前記溶湯加圧室が、不定形耐火材からなる溶湯貯留容器と当該溶湯貯留容器の裏面側に位置する断熱層とからなる炉内壁構造を備え、
前記溶湯加圧室内の空間に加圧気体を導入して、前記ストークを介して所定温度に維持された溶湯を金型のキャビティに供給する低圧鋳造用溶湯保持炉であって、
前記溶湯加圧室の前記溶湯貯留容器が、上部溶湯貯留容器と下部溶湯貯留容器とに接合部を介して区画され、
前記接合部の炉内側接合端が、溶湯の下限溶湯面より下方で、かつ、ストークの下端面より上方に位置し、
前記断熱層が、当該断熱層内に配置され
た圧力隔壁部材を介して、加圧領域の第1断熱層と非加圧領域の第2断熱層に区画され
、
前記圧力隔壁部材は、一方端部が前記接合部内に位置し、他方端が炉殻に接続固定され
ていることを特徴とする低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項2】
ストークと開閉自在な溶湯供給口とを備え、
炉内壁が、不定形耐火材からなる溶湯貯留容器と当該溶湯貯留容器の裏面側に位置する断熱層とから構成され、
炉内空間に加圧気体を導入して、前記ストークを介して所定温度に維持された溶湯を金型のキャビティに供給する低圧鋳造用溶湯保持炉であって、
前記溶湯貯留容器が、上部溶湯貯留容器と下部溶湯貯留容器とに接合部を介して区画され、
前記接合部の炉内側接合端が、溶湯の下限溶湯面より下方で、かつ、ストークの下端面より上方に位置し、
前記断熱層が、当該断熱層内に配置され
た圧力隔壁部材を介して、加圧領域の第1断熱層と非加圧領域の第2断熱層に区画され
、
前記圧力隔壁部材は、一方端部が前記接合部内に位置し、他方端が炉殻に接続固定されていることを特徴とする低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項3】
前記圧力隔壁部材が鋼板であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項4】
前記接合部の炉内側接合端が溶湯の下限溶湯面の下方近傍に位置することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧鋳造法によりアルミニウム合金等の鋳造品を製造するのに好適な低圧鋳造用溶湯保持炉に関する。
【背景技術】
【0002】
低圧鋳造用溶湯保持炉として、2室型の低圧鋳造用溶湯保持炉と、単室型の低圧鋳造用溶湯保持炉とがある。
【0003】
2室型の低圧鋳造用溶湯保持炉は、開閉自在な溶湯供給口を備えた溶湯保持室とストークを備えた溶湯加圧室とが開閉自在の溶湯流路を介して連通接続された構造である。鋳造操作では、溶湯流路を開いて溶湯保持室内の溶湯を加圧室内に導入し、溶湯加圧室内の溶湯面が所定高さに達したことを湯面センサが検知した時点で、溶湯流路を閉じた後、溶湯加圧室内に乾燥空気等の加圧気体を導入して、ストークを介して所定温度に維持された溶湯を金型のキャビティに供給することを繰り返し、溶湯保持室内の溶湯が所定量まで減少した時点で、溶湯供給口を開いて、新たな溶湯を溶湯保持室に供給する。
【0004】
単室型の低圧鋳造用溶湯保持炉は、溶湯保持室と溶湯加圧室を兼用する構造である。鋳造操作では、1回の鋳造が完了する毎に、溶湯供給口を開いて、新たな所定量の溶湯を供給することを繰り返す。
【0005】
これらの低圧鋳造用溶湯保持炉の炉内壁は、不定形耐火材からなる溶湯貯留容器と、当該溶湯貯留容器の裏面側、即ち、炉殻(鉄皮)と溶湯貯留容器との間に位置する断熱ボード等の断熱層とで構成されている。例えば、特許文献1には、炭化珪素系不定形耐火材からなる溶湯貯留容器と、当該溶湯貯留容器の外面にセラミックファイバー層、耐アルミナ耐火板(セラミックファイバーブランケット)、高温用耐熱板(珪酸カルシウム保温板)、充填剤(多孔性粒状耐火材)、及び低温用断熱板(パーライトボード)を順次積層した断熱層とからなる溶湯貯留槽が開示されている。なお、溶湯貯留容器の不定形耐火材として、アルミナ系不定形耐火材も使用される。
【0006】
低圧鋳造用溶湯保持炉の炉内壁は、まず断熱層を施工した後、当該断熱層に対向するように型枠を設置し、型枠と断熱層とで形成される空間に水等で混錬した不定形耐火材を流し込み、所定時間放置して脱枠し、所定の昇温曲線で乾燥焚きすることで、溶湯貯留容器を成形する。なお、溶湯貯留容器は、予め別工程で成形し、乾燥・焼成したものを組み込む方式もある。
【0007】
このため、溶湯貯留容器と断熱層から構成される炉内壁は、通気性を有する。この結果、加圧室内を大気開放して減圧したときには、炉内壁中の気体圧力が溶湯圧力より高圧となり、炉内壁中に存在する加圧気体が炉内壁の表面から溶湯中に放出して発泡現象を生じる。
【0008】
この発泡現象は、溶湯中に酸化物等の異物を生成する結果、溶湯への長期清浄が確保できず、鋳造作業の長期安定化が困難になるばかりか、ストーク内への異物の持ち込み、或いはストーク内における微細気泡の残留が生じて製品不良を招来するという問題があった。
【0009】
そこで、本願出願人は、特許文献2において、加圧室の炉内壁の表面からの加圧気体の放出に起因する発泡現象を回避することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特公平5-83835号公報
【文献】特開2021-146381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2の炉内壁構造は、溶湯加圧室内に導入された加圧気体が炉内壁中に流入しないことから、炉内壁の表面からの加圧気体の放出に起因する発泡現象は完全に防止できる。しかしながら、ファインセラミックの製造には、化学組成、微細組織、形状および製造工程を精密に制御することが必須であり、さらにファインセラミックからなる円筒体を製造するには、特殊な型枠を作成して成形しなければならず、ファインセラミック製円筒体の製造費用の増大に伴って、低圧鋳造用溶湯保持炉が高価にならざるを得ないという問題があった。また、ファインセラミックからなる中空体は円筒形状に特定されるという問題があった。
【0012】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、実操業においては、発泡現象を完全に防止する必要はなく、少なくとも炉床及びストークの下端より下方の炉内壁の表面からの加圧気体の放出を防止すれば、操業上で何ら支障がないとの知見に基づき、設備費の軽減及び加圧気体の消費量の低減を図り、しかも加圧気体として乾燥空気を使用するに際しては、酸化物等の異物の生成を抑止して、溶湯の清浄度を長期に維持できるとともに、発泡現象に起因する鋳造不良等を防止できる低圧鋳造用溶湯保持炉を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するための第1の手段として、本発明は、
開閉自在な溶湯供給口を備えた溶湯保持室とストークを備えた溶湯加圧室とが当該溶湯保持室の炉床に設けた開閉自在な溶湯流路開口を介して連通接続され、
前記溶湯加圧室が、不定形耐火材からなる溶湯貯留容器と当該溶湯貯留容器の裏面側に位置する断熱層とからなる炉内壁構造を備え、
前記溶湯加圧室内の空間に加圧気体を導入して、前記ストークを介して所定温度に維持された溶湯を金型のキャビティに供給する低圧鋳造用溶湯保持炉であって、
前記溶湯加圧室の前記溶湯貯留容器が、上部溶湯貯留容器と下部溶湯貯留容器とに接合部を介して区画され、
前記接合部の炉内側接合端が、溶湯の下限溶湯面より下方で、かつ、ストークの下端面より上方に位置し、
前記断熱層が、当該断熱層内に配置された圧力隔壁部材を介して、加圧領域の第1断熱層と非加圧領域の第2断熱層に区画され、
前記圧力隔壁部材は、一方端部が前記接合部内に位置し、他方端が炉殻に接続固定され
ていることを特徴とする。
【0014】
前記課題を解決するための第2の手段として、本発明は、
ストークと開閉自在な溶湯供給口とを備え、
炉内壁が、不定形耐火材からなる溶湯貯留容器と当該溶湯貯留容器の裏面側に位置する断熱層とから構成され、
炉内空間に加圧気体を導入して、前記ストークを介して所定温度に維持された溶湯を金型のキャビティに供給する低圧鋳造用溶湯保持炉であって、
前記溶湯貯留容器が、上部溶湯貯留容器と下部溶湯貯留容器とに接合部を介して区画され、
前記接合部の炉内側接合端が、溶湯の下限溶湯面より下方で、かつ、ストークの下端面より上方に位置し、
前記断熱層が、当該断熱層内に配置された圧力隔壁部材を介して、加圧領域の第1断熱層と非加圧領域の第2断熱層に区画され、
前記圧力隔壁部材は、一方端部が前記接合部内に位置し、他方端が炉殻に接続固定されていることを特徴とする。
【0015】
前記圧力隔壁部材が鋼板であることが好ましい。
【0016】
前記接合部の炉内側接合端が溶湯の下限溶湯面の下方近傍に位置することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
請求項1及び請求項2の発明によれば、加圧室内(溶湯貯留容器内)に加圧気体を導入する際には、加圧気体が上部溶湯貯留容器中及び第1断熱層中にのみ流入し、下部溶湯貯留容器中及び第2断熱層中に流入しないので、加圧気体の消費量が大幅に低減できる一方、加圧室内(溶湯貯留容器内)を大気開放する際には、加圧気体が炉内壁の表面から溶湯中に放出する部位はストークの下端より上方となり、気泡がストークに流入することを防止でき、また加圧気体の放出量が低減するに伴い、酸化物等の異物の生成を抑止して、溶湯の清浄度を長期に維持できるとともに、発泡現象に起因する鋳造品への異物の混入及び鋳物巣の発生等の鋳造不良等を防止できるという効果を有している。
【0018】
請求項3の発明によれば、圧力隔壁部材が鋼板であるため、圧力隔壁部材の耐久性及び製作性が向上し、加圧気体が下部溶湯貯留容器中及び第2断熱層中に流入するのを確実に防止できるという効果を有している。
【0019】
請求項4の発明によれば、発泡現象が発生する領域が下限溶湯面の下方近傍のみとなり、酸化物等の異物及び気泡がストーク内に流入することを確実に防止できる。また、接合部の炉内側接合端が溶湯の下限溶湯面の下方近傍に位置するため、接合部より上方の上部溶湯貯留容器中及び第1断熱層中への加圧気体の流入量が最小限になり、加圧気体の消費量をより大幅に低減できるという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る2室型の低圧鋳造用溶湯保持炉の断面図。
【
図3】上部溶湯貯留容器と下部溶湯貯留容器の接合部の拡大断面図。
【
図5】圧力隔壁部材と炉殻との接合部の拡大断面図。
【
図6】圧力隔壁部材と炉殻との接合部の変形例を示す拡大断面図。
【
図7】上部溶湯貯留容器と下部溶湯貯留容器の接合部の変形例の拡大断面図。
【
図9】
図8に続く低圧鋳造用溶湯保持炉の製造工程を示す図。
【
図10】低圧鋳造用溶湯保持炉の操業における加圧時(a)及び大気開放時(b)の動作を示す拡大断面図。
【
図11】本発明の第2実施形態に係る単室型の低圧鋳造用溶湯保持炉の断面図。
【
図12】圧力隔壁部材と炉殻との接合部の拡大断面図。
【
図13】圧力隔壁部材と炉殻との接合部の変形例を示す拡大断面図。
【
図14】低圧鋳造用溶湯保持炉の製造工程を示す図。
【
図15】
図14に続く低圧鋳造用溶湯保持炉の製造工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
【0022】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る2室型の低圧鋳造用溶湯保持炉(以下、単に「溶湯保持炉」という。)1を示す。溶湯保持炉1は、溶湯保持室10と溶湯加圧室20とを備え、両室は溶湯流路30を介して連通接続されている。
【0023】
溶湯保持炉1の炉内壁2は、炉殻3の内側に、溶湯を貯留する溶湯貯留容器4と、当該溶湯貯留容器4の裏面側、即ち炉殻3と溶湯貯留容器4の間に位置する断熱層5とからなっている。
【0024】
溶湯貯留容器4は、不定形耐火材から構成されている。不定形耐火材としては、例えばカルデリス株式会社製の商品名:ALKON CAST(アルコン キャスト)等のアルミナ質が好適である。
【0025】
断熱層5は、多層断熱構成で、シリカ質、ケイ酸カルシウム質等の断熱ボードが好適である。
【0026】
図2に示すように、溶湯加圧室20の溶湯貯留容器4は、上部溶湯貯留容器4aと下部溶湯貯留容器4bとに上下に区画されている。上部溶湯貯貯留容器4aの下端面と下部溶湯貯留容器4bの上端面は、接合部6を形成している。上部溶湯貯留容器4aは、上端と下端が開口した円筒形であり、
図3に示すように、下端面には環状凹部6aが形成されている。上部溶湯貯留容器4aの上端面は、溶湯の定溶湯面(NL)より上方に位置している。下部溶湯貯留容器4bは、上端が開口し、
図3に示すように、上端面には上部溶湯貯留容器4aの環状凹部6aに係合する環状凸部6bが形成されている。接合部6の炉内側接合端は、溶湯の下限溶湯面(LL)より下方で、かつ、ストーク28の下端面より上方に位置している。接合部6の炉内側接合端は、加圧気体の低減化及びこの低減に伴う酸化物等の抑止の観点から、可能な限り下限溶湯面(LL)の下方近傍とすることが好ましい。
【0027】
溶湯加圧室20の断熱層5は、上部溶湯貯留容器4a側に位置する加圧領域である第1断熱層5aと、上部溶湯貯留容器4a側の一部及び下部溶湯貯留容器4b側に位置する非加圧領域である第2断熱層5bとに圧力隔壁部材7を介して上下に区画されている。圧力隔壁部材7は、鋼板、例えばステンレス鋼板(厚さ:2~4mm)で形成され、
図4に示すように、4つの側面からなる側面部7aと、当該側面部7aの下端に接合された底面部7bとからなる矩形箱形で、L字形の縦断面形状を有し、側面部7aの上端には、矩形枠状の保持部7dが溶接連結され、底面部7bには開口部7cが形成されている。圧力隔壁部材7の側面部7aは、円形箱形状であってもよい。保持部7dは、
図5に示すように、炉殻3の天板3a及び天蓋21に溶接により接続固定されている。底面部7bの内周縁は、
図3に示すように、上部溶湯貯留容器4aの下端と下部溶湯貯留容器4bの上端との間の接合部6に挟持されている。
【0028】
図1に示すように、溶湯保持室10は、上部に天井断熱蓋11と、該天井断熱蓋11に形成された溶湯供給口11aを開閉可能にする断熱蓋12とを備えるとともに、内部に浸漬チューブヒータ13が配置され、内部に貯えた溶湯を所定温度範囲に保持する。また、溶湯保持室10の内部に貯えた溶湯は、上限溶湯面(UL)と下限溶湯面(LL)の間に保持されている。
【0029】
溶湯加圧室20は、上部に開口部21aを有する天蓋21を備えている。溶湯加圧室20は、貯留部22と、該貯留部22の上方の出湯部23とからなり、出湯部23の横断面積が貯留部22の横断面積より小になるように形成されている。貯留部22は、内部に浸漬チューブヒータ24が配置され、内部に貯えた溶湯を所定温度範囲に保持する。溶湯加圧室20には、天蓋21の上に、ダイベース25が固定され、該ダイベース25の上に金型26が固定されている。天蓋21には、出湯部23に加圧気体を導入する加圧ポート21bが設けられている。
【0030】
図2に示すように、ダイベース25には出湯部23を覆う断熱蓋27が設けられ、該断熱蓋27を貫いて筒状のストーク28と、定溶湯面レベルセンサ29とが設けられている。ストーク28は、下端が出湯部23の溶湯に浸漬され、上端が金型26のキャビティ26aの湯口26bと連通している。これにより、金型26のキャビティ26aの湯口26bと出湯部23とはストーク28を介して連通している。定溶湯面レベルセンサ29は、下端が出湯部23の溶湯の定溶湯面(NL)に位置し、出湯部23の溶湯の定溶湯面レベルNLを検出するようになっている。
【0031】
図1に戻ると、溶湯流路30は、溶湯保持室10の底と、溶湯加圧室20の貯留部22の側面とを連通するように形成されている。溶湯流路30の溶湯保持室10側の開口31に弁座32が形成され、該弁座32の上方には、溶湯保持室10の天井断熱蓋11を昇降可能に貫いて、溶湯流路30を開閉する遮断弁33が設けられている。すなわち、遮断弁33は、下降時に弁座32を押圧して溶湯流路30を閉じ、上昇時に弁座32から離れて溶湯流路30を開く。
【0032】
図6は、炉殻3と圧力隔壁部材7との接続構造の変形例を示す。
図6中、圧力隔壁部材7以外は、簡略のためハッチングは省略されている。
図6(a)では、圧力隔壁部材7の側面部7aの上端は炉殻3の天板3aの内側面に溶接により接続固定されている。また、
図6(b)では、天蓋21はボルト9の貫通口を有し、圧力隔壁部材7の保持部7dは雌ネジが形成されている。保持部7dと天板3aとが溶接により接続固定され、保持部7dと天蓋21がパッキン8を介してボルト9で固定されている。
図6(c)では、天板3aは雌ネジが形成され、天蓋21と圧力隔壁部材7の保持部7dはボルト9の貫通口を有している。保持部7はパッキン8bを介して炉殻3の天板3aに載置され、保持部7dの上にパッキン8aを介して天蓋21が載置され、天蓋21と保持部7dとが炉殻3の天板3aにボルト9で固定されている。
【0033】
図7は、圧力隔壁部材7と溶湯貯留容器4の接合部6との接続構造の変形例を示す。
図7中、圧力隔壁部材7以外は、簡略のためハッチングは省略されている。
図7(a)では、上部溶湯貯留容器4aの下端面の外周側に環状凹部6aが形成される一方、下部溶湯貯留容器4bの上端面が平坦に形成されて、上部溶湯貯留容器4aの環状凹部6aと下部溶湯貯留容器4bの上端面の間に圧力隔壁部材7の底面部7bの内周縁がモルタルSを介して挟持されている。
図7(b)では、下部溶湯貯留容器4bの上端面の内周側に環状凹部6bが形成され、この環状凹部6bに、上部溶湯貯留容器4aの下端面と、圧力隔壁部材7の底面部7bの内周縁から下方に延びる円筒部7eがモルタルSを介して係合されている。
図7(c)では、上部溶湯貯留容器4aの下端面に環状溝6cが形成される一方、下部溶湯貯留容器4bの上端面に環状溝6cに係合する環状突起6dが形成されて、上部溶湯貯留容器4aの環状溝6cと下部溶湯貯留容器4bの環状突起6dが係合されて、上部溶湯貯留容器4aの炉殻3側に位置する下端面と下部溶湯貯留容器4bの炉殻3側に位置する上端面との間に圧力隔壁部材7の底面部7bの内周縁がモルタルSを介して挟持されている。
【0034】
第1実施形態の溶湯保持炉1の炉内壁6は、以下の手順で施工する。
【0035】
まず、
図8(a)に示すように、炉殻3の内側に、断熱ボード等で第2断熱層5bを形成する。
【0036】
続いて、第2断熱層5bの内側に下部溶湯貯留容器4b用の型枠を配置し、第2断熱層5bと型枠とで形成される空間内に混錬した不定形耐火材を流し込み、養生後に型枠を取り外して、
図8(b)に示すように下部溶湯容器4bを形成する。
【0037】
下部溶湯貯留容器4bの上端面にモルタルSを塗布した後、予め製造しておいた圧力隔壁部材7を載置する一方、保持部7dを炉殻3の天板3aの表面に溶接固定する。
【0038】
次に、下部溶湯貯留容器4bと圧力隔壁部材7の上に、上部溶湯貯留容器4a用の型枠を配置し、この型枠内に混錬した不定形耐火材を流し込み、養生後に型枠を取り外して、
図9(a)に示すように上部溶湯貯留容器4aを成形する。上部溶湯貯留容器4aは、予め型枠を用いて成形した上部溶湯貯留容器4aを載置してもよい。
【0039】
圧力隔壁部材7と上部溶湯貯留容器4aの間に、
図9(b)に示すように、断熱ボード等で第1断熱層5aを形成した後、圧力隔壁部材7の保持部7dの上に天蓋21を載置し、保持部7dと天蓋21とを溶接固定する。この状態で、溶湯貯留容器4(上部溶湯貯留容器4aと下部溶湯貯留容器4b)を所定の昇温曲線で乾燥焚きする。
【0040】
なお、上部溶湯貯留容器4aは、予め別工程で成形し、乾燥・焼成したものを組み込んでもよい。この場合、下部溶湯容器4bは、型枠の取外した後所定の昇温曲線で乾燥焚きしておき、上部溶湯貯留容器4aの環状凹部6aを下部溶湯貯留容器4bの環状凸部6bに係合するとともに、上部溶湯貯留容器4aの下端面を圧力隔壁部材7の底面部7bの上面にモルタルSを介して載置するとともに、上部溶湯貯留容器4aの嵌合凹部6aを下部溶湯貯留容器4bの嵌合凸部6bの上にモルタルSを介して載置する。
【0041】
次に、第1実施形態の溶湯保持炉1の作用を説明する。
【0042】
溶湯加圧室20内(溶湯貯留容器4内)の溶湯を金型26に供給するために、加圧ポート21b(
図1参照)から溶湯加圧室20内(溶湯貯留容器4内)に加圧気体を導入すると、
図10(a)に示すように、加圧気体の一部は、炉内壁2中に流入する。すなわち、天蓋21の隙間、第1断熱部5aの内表面及び湯面より上方の第1溶湯貯留容器4aの内表面から、加圧気体が上部溶湯貯留容器4a中及び第1断熱層5a中に流入する。一方、下部溶湯貯留容器4bの内表面は、溶湯に浸漬しているので、下部溶湯貯留容器4b中には、加圧気体は流入しない。また、上部溶湯貯留容器4aの下端面は、環状凹部6aと環状凸部6bを介して下部溶湯貯留容器4bと係合しているうえ、環状凹部6aと環状凸部6bの間の隙間に流入する溶湯が加圧気体に対するシール効果を有するので、上部溶湯貯留容器4aから下部溶湯貯留容器4bへの加圧気体の流入は抑制される。さらに、第2断熱層5bは、圧力隔壁部材7により第1断熱層5aと隔絶されているので、加圧気体は流入しない。
【0043】
炉内壁2中に含まれる気体の圧力変化は、溶湯圧力変化に比べて、炉内壁2の通気抵抗による遅れを生じ、応答圧力と炉内壁2中の気体圧力との間に圧力差が生じる。この結果、炉内を大気開放して減圧したとき、炉内壁2中の気体圧力が溶湯圧力より高圧となり、
図10(b)に示すように、第1断熱層5a及び上部溶湯貯留容器4a中に存在する加圧気体が上部溶湯貯留容器4aの表面から放出されて気泡が発生する。
【0044】
上部溶湯貯留容器4aと下部溶湯貯留容器4bとの接合部6は、溶湯浸漬部位にあって、ストーク28の下端より上方にあるので、上部溶湯貯留容器4aの内表面から溶湯中に流入した気泡は、ストーク28内に流入しない。一方、前述したように下部溶湯貯留容器4b中には加圧気体が存在しないので、下部溶湯貯留容器4bの内表面からの発泡現象は防止される。
【0045】
このように、溶湯加圧室20内(溶湯貯留容器4内)に加圧気体を導入する際には、加圧気体が上部溶湯貯留容器4a中及び第1断熱層中5aにのみ流入し、下部溶湯貯留容器4b中及び第2断熱層5b中に流入しないので、加圧気体の消費量が大幅に低減できる一方、溶湯加圧室20内(溶湯貯留容器4内)を大気開放する際には、加圧気体が炉内壁の内表面から溶湯中に放出する部位はストーク28の下端より上方となり、気泡がストーク28に流入することを防止でき、また加圧気体の放出量が低減するに伴い、酸化物等の異物の生成を抑止して、溶湯の清浄度を長期に維持できるとともに、発泡現象に起因する鋳造品への異物の混入及び鋳物巣の発生等の鋳造不良等を防止できる。
【0046】
<第2実施形態>
図11は、本発明の第2実施形態に係る単室型の低圧鋳造用溶湯保持炉(以下、単に「溶湯保持炉」という。)1Aを示す。溶湯保持炉1Aは、第1実施形態のような溶湯保持室10が並設されておらず、溶湯加圧室20のみを有する。
【0047】
溶湯加圧室20の炉内壁2は、溶湯貯留容器4と断熱層5とから構成されている。溶湯貯留容器4は、上部溶湯貯留容器4aと、下部溶湯貯留容器4bとからなり、
図12に示すように、上部溶湯貯留容器4aの下端面と、下部溶湯貯留容器4bの上端面は、環状凹部6aと環状凸部6bの係合により接合されている。上部溶湯貯留容器4aの側面には、溶湯供給口34が設けられ、この溶湯供給口34はカバー35により開閉可能になっている。断熱層5は、加圧領域となる第1断熱層5aと、非加圧領域となる第2断熱層5bとに、圧力隔壁部材7を介して上下に区画されている。
【0048】
溶湯保持炉1Aの炉殻3は、上部炉殻3bと下部炉殻3cとから2分割で構成されている。上部炉殻3bの下端と下部炉殻3cの上端は、矩形枠状の接合部材(フランジ)3d、3eが設けられ、上部炉殻3bと下部炉殻3cの接合部材(フランジ)3d、3eに貫通口を有し、下部炉殻3cの接合部材(フランジ)3eの貫通口には雌ネジが形成され、上部炉殻3bと下部炉殻3cとは互いにボルト36で固定されている。
【0049】
圧力隔壁部材7は、中央が開口した板状で、内周縁は、上部溶湯貯留容器4aと下部溶湯貯留容器4bの接合部6に挟持され、外周縁は、上部炉殻3bの接合部材3dと下部炉殻3cの接合部材3eの間にパッキン37a、37bを介して挟持されている。
【0050】
炉内壁2の各部材の詳細な構成は、第1実施形態の溶湯保持炉1のものと実質的に同一であるので、省略する。
【0051】
図13は、圧力隔壁部材7と炉殻3との接続構造の変形例を示す。
図13中、圧力隔壁部材7以外は、簡略のためハッチングは省略されている。
図13(a)では、圧力隔壁部材7の外周縁部は下部炉殻3cの接合部材3eにパッキンを介さずに直接載置され、圧力隔壁部材7の外周縁部の上に上部炉殻3bの接合部材3dがパッキン37を介して載置されている。
図13(b)では、炉殻3は上下に分割せずに一体とし、炉殻3の内面にボルト36用の貫通口を有する支持部材38が溶接固定され、この支持部材38に圧力隔壁部材7の外周縁がパッキン37を介して支持され、さらに圧力隔壁部材7の上にボルト36用の貫通口を有するバックアッププレート39が設置されて、支持部材38とバクアッププレート39の間に圧力隔壁部材7がボルト36及びナット36aで固定されている。
図13(c)では、
図13(b)と同様に、炉殻3は上下に分割せずに一体とし、炉殻3の内面に支持部材38が溶接固定され、この支持部材38の上に圧力隔壁部材7の外周縁が溶接して固定されている。
【0052】
第2実施形態の溶湯保持炉1Aの炉内壁2は、以下の手順で施工する。
【0053】
まず、
図14(a)に示すように、下部炉殻3cの内側に、断熱ボード等で第2断熱層5bを形成する。
【0054】
続いて、第2断熱層5bの内側に、下部溶湯貯留容器4b用の型枠を配置し、第2断熱層5bと型枠とで形成される空間内に混錬した不定形耐火材を流し込み、養生後に型枠を取り外して、
図14(b)に示すように下部溶湯容器4bを形成する。
【0055】
圧力隔壁部材7の外周縁を下部炉殻3cの接合部材3e上にパッキン37bを介して載置する一方、内周縁部を下部溶湯貯留容器4bの上端面にモルタルSを介して載置する。
【0056】
図14(c)に示すように、上部炉殻3bを圧力隔壁部材7の上にパッキン37aを介して載置し、上部炉殻3bの接合部材3dと、圧力隔壁部材7と、下部炉殻3cの接合部材3eとをパッキン37a、37bを介してボルト36で一体に固定する。続いて、
図15(a)に示すように、上部炉殻3bの内側に断熱ボード等で第1断熱層5aを形成する。なお、第1断熱層5aは、予め上部炉殻3bに取り付けておいてもよい。
【0057】
次に、予め上部溶湯貯留容器4a用の型枠内に混錬した不定形耐火材を流し込み、養生後に型枠を取り外した上部溶湯貯留容器4aを、
図15(b)に示すように、下部溶湯貯留容器4bの上に載置する。
【0058】
この状態で、溶湯貯留容器4(上部溶湯貯留容器4aと下部溶湯貯留容器4b)を所定の昇温曲線で乾燥焚きする。
【0059】
なお、上部溶湯貯留容器4aと下部溶湯貯留容器4bは、予め別工程で成形し、乾燥・焼成したものを組み込んでもよい。この場合、上部溶湯貯留容器4の環状凹部6aを下部溶湯貯留容器4bの環状凸部6bに係合するとともに、上部溶湯貯留容器4aの下端面を圧力隔壁部材7の底面部7bの上面にモルタルSを介して載置するとともに、上部溶湯貯留容器4aの嵌合凹部7aを下部溶湯貯留容器4bの嵌合凸部7bの上にモルタルSを介して載置する。
【0060】
第2実施形態の溶湯保持炉1Aの作用、特に気泡発生の抑制作用については、第1実施形態の溶湯保持炉1と同様であるので、説明を省略する。
【符号の説明】
【0061】
1,1A…溶湯保持炉
2…炉内壁
3…炉殻
3a…天板
3b…上部炉殻
3c…下部炉殻
3d…接続部材
3e…接続部材
4…溶湯貯留容器
4a…上部溶湯貯留容器
4b…下部溶湯貯留容器
5…断熱層
5a…第1断熱層
5b…第2断熱層
6…接合部
6a…環状凹部
6b…環状凸部
7…圧力隔壁部材
7a…側面部
7b…底面部
7c…開口部
7d…保持部
10…溶湯保持室
11a…溶湯供給口
20…溶湯加圧室
26…金型
26a…キャビティ
28…ストーク
30…溶湯流路
34…溶湯供給口