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7458659熱可塑性樹脂組成物ならびにそれを用いた軟体動物忌避材および軟体動物を忌避するための樹脂成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物ならびにそれを用いた軟体動物忌避材および軟体動物を忌避するための樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20240325BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240325BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240325BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240325BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240325BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20240325BHJP
   A01N 25/18 20060101ALI20240325BHJP
   A01N 37/40 20060101ALI20240325BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20240325BHJP
   A01M 29/12 20110101ALI20240325BHJP
【FI】
C08L23/08
C08K5/13
B32B27/00 M
B32B27/18 F
B32B27/28 101
A01N25/10
A01N25/18 102B
A01N37/40
A01P17/00
A01M29/12
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022104694
(22)【出願日】2022-06-29
(62)【分割の表示】P 2018187544の分割
【原出願日】2018-10-02
(65)【公開番号】P2022153380
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2022-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000166649
【氏名又は名称】五洋紙工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100076820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 健次
(72)【発明者】
【氏名】小西 優也
(72)【発明者】
【氏名】上田 修平
(72)【発明者】
【氏名】川原 央
(72)【発明者】
【氏名】白川 千尋
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-085801(JP,U)
【文献】特公昭42-021518(JP,B1)
【文献】特開平10-265677(JP,A)
【文献】韓国登録特許第0821879(KR,B1)
【文献】中国特許出願公開第107593211(CN,A)
【文献】カラダ研究所,化粧品添加物「防腐剤」の危険性・安全性とは? ,COLOR+DA,2017年03月27日,p.1-3,[online],2017.03.27,[検索日 2023.04.19], インターネット<URL:https://www.mrso.jp/colorda/lab/3691/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、A01N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂およびパラオキシ安息香酸アルキルを含有し、該パラオキシ安息香酸アルキルの含有量が、該エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂の含有量100重量部に対して、11.1重量部から60重量部である、熱可塑性樹脂組成物(磁性粉を含む場合を除く)。
【請求項2】
軟体動物忌避用の熱可塑性樹脂組成物である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物
【請求項3】
前記パラオキシ安息香酸アルキルが、炭素数1から8の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を含む、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記パラオキシ安息香酸アルキルが、パラオキシ安息香酸ブチルおよびパラオキシ安息香酸ヘキシルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂が、該エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂の重量を基準として15重量%から35重量%のエチルアクリレート単量体成分を含む、請求項1から4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂が、該エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂の重量を基準として15重量%から20重量%のエチルアクリレート単量体成分を含む、請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記パラオキシ安息香酸アルキルがパラオキシ安息香酸n-ヘキシルである、請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記パラオキシ安息香酸n-ヘキシルの含有量が、前記エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂の含有量100重量部に対して15重量部から42.9重量部である、請求項7に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1からのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を有効成分として含有する、軟体動物忌避材。
【請求項10】
請求項1からのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を含む、軟体動物を忌避するための樹脂成形体。
【請求項11】
フィルムまたはシートの形態を有する、請求項10に記載の軟体動物を忌避するための樹脂成形体。
【請求項12】
前記樹脂組成物から構成される忌避層と粘着層とを含む積層体の形態を有する、請求項10に記載の軟体動物を忌避するための樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物ならびにそれを用いた軟体動物忌避材および軟体動物を忌避するための樹脂成形体に関し、より詳細には、成形性を保持したまま軟体動物に対して優れた忌避効果を発揮することのできる熱可塑性樹脂組成物ならびにそれを用いた軟体動物忌避材および軟体動物を忌避するための樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜、食用キノコ、果樹、花木など多くの食用または観賞用植物が路地栽培やハウス栽培などで栽培されている。これらの栽培において、新芽、果実、蕾、花などの部位にカタツムリ、ナメクジなどの軟体動物が大量に付着する場合がある。こうした軟体動物の大量発生は、栽培する植物の食害や寄生虫による感染症の問題を引き起こすことが懸念されており、軟体動物による被害は深刻である。特に、温暖かつ湿潤な環境下での栽培では、このような被害は甚大になることがある。
【0003】
栽培植物の軟体動物による被害を防ぐために、従来よりパラホルムアルデヒドやメタアルデヒドを有効成分とする合成薬剤が知られている。しかし、当該薬剤は害虫の駆除および殺虫を目的とするもので、効果が強い反面、栽培植物に付着した場合に植物自体を痛める可能性がある。特に、栽培植物が食用である場合、植物表面に付着した薬剤が人体に及ぼす影響を考慮する必要がある。また、散布に際しては、人、家畜、ペットに対する配慮も必要とされる。
【0004】
このような合成薬剤の欠点を改良するものとして、ツバキ科植物の種子からの搾油かすを造粒してなる軟体動物忌避剤が提案されている(特許文献1)。しかし、このような搾油かすは、風による飛散や土中への沈下または埋没によって薬効が低下することが想定され、施薬の偏りが起こり易い。また、施薬後も、経時的にあるいは降雨や散水によって薬効が著しく低下することが指摘されている。
【0005】
粘着剤を表面に塗布した合成樹脂のテープやシートにサポニンを付着させやナメクジ忌避用テープが提案されている(特許文献2)。サポニンは、ツバキ科植物から抽出可能な物質であり、起泡性で溶血作用を有しかつ緩慢な界面活性剤としての性質を有する点で、ナメクジなどの軟体動物に対する忌避剤として機能し得る。しかし、この忌避用テープについても、経時的にあるいは降雨や散水によって薬効が著しく低下することが指摘されている。
【0006】
さらに、ツバキ科植物の種子の搾油粕から得られた抽出物を、水溶性アクリル樹脂のような水性樹脂に含有させたコ-ティング液をシート地用部材に塗布し、乾燥および/または熱処理をしたり、水性樹脂を架橋を通じて硬化させることにより強度や耐水性を改善した軟体動物用忌避シートが開示されている(特許文献3)。しかし、特許文献3の忌避シートは製造工程が煩雑であり、また硬化した樹脂は剛性が高く取り扱い性が悪いだけでなく、凹凸のある地面への馴染みが悪く、薬効が必ずしも充分に発揮され得るものではない。また水系樹脂は硬化の過程で加熱による水分の蒸発が起こるため、樹脂シート表面に微細な小孔が発生する。このため、初期の薬効は発揮されるが、降雨や散水後の効果の低下が大きい点が指摘されている。
【0007】
また、サポニンをポリブチレンサクシネ-ト系やポリ乳酸系の生分解性プラスチックに配合し溶融混練して成形したシートが開示されている(特許文献4)。しかし、当該シートにおける生分解性ブラスチックは、シートやフィルムの形態に成形して栽培現場で使用するには未だ高剛性であるのに対し、サポニンの耐水性が不充分であるという点で、上記の課題は充分に解決されるには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-175925号公報
【文献】特開2002-171892号公報
【文献】特開2013-155116号公報
【文献】特開2017-137261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、軟体動物に対して、耐水性に優れかつ土壌表面等に馴染みの良い忌避成分を含有し、かつ良好な成形加工性を有する、熱可塑性樹脂組成物ならびにそれを用いた軟体動物忌避材および軟体動物を忌避するための樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂およびパラオキシ安息香酸アルキルを含有し、該パラオキシ安息香酸アルキルの含有量が、該エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂の含有量100重量部に対して、11.1重量部から60重量部である、熱可塑性樹脂組成物(磁性粉を含む場合を除く)である。
【0011】
1つの実施形態では、上記熱可塑性樹脂組成物は軟体動物忌避用である。
【0012】
1つの実施形態では、上記パラオキシ安息香酸アルキルは、炭素数1から8の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を含む。
【0013】
1つの実施形態では、上記パラオキシ安息香酸アルキルは、パラオキシ安息香酸ブチルおよびパラオキシ安息香酸ヘキシルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0014】
1つの実施形態では、上記エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂は、該エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂の重量を基準として10重量%から45重量%のエチルアクリレート単量体成分を含む。
【0015】
本発明はまた、上記熱可塑性樹脂組成物を有効成分として含有する、軟体動物忌避材である。
【0016】
本発明はまた、上記熱可塑性樹脂組成物を含む、軟体動物を忌避するための樹脂成形体である。
【0017】
1つの実施形態では、上記樹脂成形体はフィルムまたはシートの形態を有する。
【0018】
1つの実施形態では、上記樹脂組成物から構成される忌避層と粘着層とを含む積層体の形態を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、降雨や散水によって忌避成分の薬効が著しく低下すること防止または低減され、栽培植物に対して軟体動物を経時的に安定して忌避することができる。さらに本発明の熱可塑性樹脂組成物は、このような忌避効果を適切に持続しつつ、所望の形態に成形することができるため、栽培する植物の種類や栽培方法に応じて任意の形態を有する軟体動物忌避材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳述する。
【0021】
(熱可塑性樹脂組成物)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂およびパラオキシ安息香酸アルキルを含有する。
【0022】
エチレン-エチルアクリレート(EEA)共重合体樹脂は、主成分としてエチレン成分とエチルアクリレート単量体成分との共重合体を含有する。エチレン-エチルアクリレート(EEA)共重合体樹脂は、一般に低密度ポリエチレン(LDPE)よりも柔軟性に富み、エチルアクリレート単量体成分の含有量が高いほど、融点が低下することが知られている。本発明の熱可塑性樹脂を構成するエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂は、例えば、65℃~110℃の融点を有する。
【0023】
エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂に含まれるエチレン-エチルアクリレート共重合体のエチルアクリレート単量体成分の含有量は特にこだわらないが、共重合体樹脂の重量を基準にして、好ましくは10重量%~45重量%、より好ましくは15重量%~40重量%、さらにより好ましくは15重量%~35重量%のエチルアクリレート単量体成分を含有する。エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂のエチルアクリレート単量体成分の含有量が10重量%を下回ると、得られる樹脂化合物の成形加工性が低下し、ペレット化した状態でペレット表面にパラオキシ安息香酸アルキルの粉吹きが起こる場合がある。
【0024】
このようなエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂としては、例えば、株式会社NUC製押出コーティング用EEA(NUC-6220、NUC-6170、EERN-023、DPDJ-9165、NUC-6510、NUC-6520、NUC-6570、NUC-6070、NUC-6940等)、日本ポリエチレン株式会社製レクスパールA1100、A3100、A1150、A4200、A6200、A4250等が市販されている。
【0025】
パラオキシ安息香酸アルキルは、パラオキシ安息香酸とアルキルアルコールとのエステル化反応生成物である。
【0026】
パラオキシ安息香酸アルキルは、その分子構造中、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数4~7のアルキル基を含む。当該アルキル基は、直鎖状または分岐鎖状のいずれであってもよい。パラオキシ安息香酸アルキルを構成するアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ペプチル基、n-オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、3-ペンチル基、t-ペンチル基などが挙げられる。
【0027】
本発明におけるパラオキシ安息香酸アルキルの具体的な例としては、パラオキシ安息香酸ブチル(例えば、パラオキシ安息香酸n-ブチル)およびパラオキシ安息香酸ヘキシル(例えば、パラオキシ安息香酸n-ヘキシル)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。パラオキシ安息香酸ブチルは抗菌性に優れ、酒や醤油の製造における防腐剤としても使用されている。パラオキシ安息香酸ヘキシルは、それ自体がナメクジやカタツムリなどの軟体動物に対する忌避効果に優れることが知られている。このようなパラオキシ安息香酸ブチルおよびパラオキシ安息香酸ヘキシルはいずれも市販されている。
【0028】
なお、本発明においては、エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂とパラオキシ安息香酸アルキルとの間の親和性の有無が留意されるかもしれない。例えば、成形用樹脂に他の成分を配合物として添加する場合、成形用樹脂に対して親和性が良好であるものを選択して使用することが所望される。例えば、樹脂用の可塑剤は親和性が良くないと成形体表面に可塑剤が滲みだしてきて表面をべとつかせてしまうことがあるからである。一方、薬剤成分と樹脂成分との関係ではこれらの親和性が良すぎると薬剤成分が樹脂成形体の内部に閉じ込められて薬効を充分に発揮することができず、薬剤成分の大部分を浪費することがあるからである。
【0029】
しかし、本発明の熱可塑性樹脂組成物において、このような懸念は特に必要とされない。
【0030】
本発明において、構成成分であるエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂とパラオキシ安息香酸アルキルとは互いに適切な親和性を有する。その結果、パラオキシ安息香酸アルキルは、エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂と混練されても、その薬効が阻害されることなく、効率よく発揮することができる。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂およびパラオキシ安息香酸アルキルの含有量は必ずしも限定されないが、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂100重量部に対してパラオキシ安息香酸アルキルが5重量部~60重量部であることが好ましく、15重量部~35重量部であることがより好ましい。エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂100重量部に対してパラオキシ安息香酸アルキルの含有量が5重量部未満であれば、軟体動物に対する忌避効果が不充分となる場合がある。エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂100重量部に対してパラオキシ安息香酸アルキルの含有量が60重量部を超えると、相対的にエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂の含有量が低下することにより、得られた樹脂組成物を所望の成形体に成形した際に、成形体表面のべとつきが大きくなる場合がある。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂およびパラオキシ安息香酸アルキルに基づく両者の親和性や、薬効、成形加工性を阻害しない範囲において他の樹脂および他の添加剤を含有していてもよい。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成し得る他の樹脂の例としては、必ずしも限定されないが、ポリオレフィン系樹脂およびその変性物、エチレン系アイオノマーが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂の例としては、エチレンの単独重合体、エチレン成分を50重量%を超えて含有するエチレンとエチレン以外のα-オレフィンとの共重合体、プロピレンの単独重合体、プロピレン成分を50重量%を超えて含有するプロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体、ブテンの単独重合体、ブタジエンやイソプレンなどの共役ジエンの単独重合体または共重合体などが挙げられる。本発明の熱可塑性樹脂組成物において、当該他の樹脂は、熱可塑性樹脂組成物の重量を基準として、例えば30重量%まで含有していてもよい。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成し得る他の添加剤の例としては、必ずしも限定されないが、他の薬効を有する薬剤(例えば、防ダニ剤、防虫剤);酸化防止剤(例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、および/またはリン系酸化防止剤);紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤および/またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤);帯電防止剤(例えば、アニオン系活性剤、カチオン系活性剤、非イオン系活性剤、および/または両性活性剤);透明化剤(例えば、カルボン酸金属塩、ソルビトール類、および/またはリン酸エステル金属塩類);滑剤(例えば、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、高級アルコール系滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、金属石ケン系滑剤、および/またはエステル系滑剤);難燃剤(例えば、有機系難燃剤および/または無機系難燃剤);および可塑剤(例えば、エポキシ化植物油、フタル酸エステル類、および/またはポリエステル系可塑剤);ならびにそれらの組み合わせ;が挙げられる。本発明において含有され得る上記他の添加剤の含有量は、特に限定されず、当業者によって任意の量が選択され得る。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、構成成分であるエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂により、柔軟性に優れた軟体動物忌避材として種々の形態に成形され、使用することができる。
【0036】
(軟体動物を忌避するための樹脂成形体)
本発明の樹脂成形体は、上記熱可塑性樹脂組成物を有効成分として含有し、軟体動物(例えば、ナメクジ、カタツムリ)を忌避するために使用することができる。すなわち、本発明の樹脂成形体は、上記熱可塑性樹脂組成物を、例えば当業者に周知の手段を用いて所定の膜厚になるように、シートまたはフィルムの形態に成形してなる。シートまたはフィルムの厚みは特に限定されず、当業者によって適切に選択され得る。
【0037】
シートまたはフィルムの形態を有する本発明の樹脂成形体は、農業または園芸分野における食用植物または観賞用植物のための路地栽培やハウス栽培などの栽培現場において、農業用または園芸用シートまたはフィルムとして使用され、上記熱可塑性樹脂組成物に含まれるパラオキシ安息香酸アルキルによって、当該食用植物および観賞用植物において軟体動物が大量に発生することを予防または低減することができる。
【0038】
本発明の樹脂成形体はまた、上記熱可塑性樹脂組成物を薄く延展して忌避層を形成し、その一方の面に周知の粘着剤(例えば接着剤)を用いて粘着層を積層した積層体の形態を有していてもよい。当該積層体における忌避層および粘着層の各厚みは特に限定されず、当業者によって適切な厚みが選択され得る。
【0039】
本発明の樹脂成形体が、このような忌避層と粘着層との組み合わせによる積層体の形態を有している場合、当該樹脂成形体は、軟体動物の忌避のために、当該分野において公知の農業用または園芸用シートに貼着して使用することができる。
【0040】
なお、上記では、本発明の樹脂成形体の1つの実施形態である積層体について、忌避層と粘着層との2層で構成される場合について説明したが、本発明における積層体は、このような構成にのみ限定されるものではない。例えば、粘着層の忌避層と対向する面と反対側に離型紙などの剥離層が設けられていてもよい。
【0041】
本発明の樹脂成形体は、路地栽培やハウス栽培などを通じて栽培される食用植物および/または観賞用植物への軟体動物の忌避に有用である。このような食用植物としては、必ずしも限定されないが、例えば、白菜、キャベツ、レタス、カブ、ダイコン、タアサイ、小松菜、ミズナ、ラディッシュ、クレソン、ルッコラ、チンゲン菜、ブロッコリー、イチゴ、キュウリ、ナスなどが挙げられる。観賞用植物としては、必ずしも限定されないが、例えば、バラ、アジサイ、アサガオ、コケ類、多肉植物、サボテンなどが挙げられる。
【実施例
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
溶融押出機(浅田鉄工株式会社製ミラクルKCK)に、エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂(株式会社NUC製EEA樹脂DPDJ-9169;エチルアクリレート単量体成分含有量35重量%)100重量部およびパラオキシ安息香酸n-ヘキシル(上野製薬株式会社製)25重量部を仕込み、溶融混練してペレット化した。次いで、得られたペレットから、T-ダイ押し出し機によって厚さ25μmのフィルム(1-A)を作製した。
【0044】
(実施例2)
パラオキシ安息香酸n-ヘキシルの仕込み量を17.6重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてペレットを作製し、かつ得られたペレットから厚さ25μmのフィルム(1-B)を作製した。
【0045】
(実施例3)
パラオキシ安息香酸n-ヘキシルの仕込み量を11.1重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてペレットを作製し、かつ得られたペレットから厚さ25μmのフィルム(1-C)を作製した。
【0046】
(実施例4)
溶融押出機(浅田鉄工株式会社製ミラクルKCK)に、エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂(株式会社NUC製EEA樹脂NUC-6940;エチルアクリレート単量体成分含有量20重量%)100重量部およびパラオキシ安息香酸n-ヘキシル(上野製薬株式会社製)42.9重量部を仕込み、溶融混練してペレット化した。次いで、得られたペレットから、T-ダイ押し出し機によって厚さ25μmのフィルム(2-A)を作製した。
【0047】
(実施例5)
パラオキシ安息香酸n-ヘキシルの仕込み量を33.3重量部に変更したこと以外は、実施例4と同様にしてペレットを作製し、かつ得られたペレットから厚さ25μmのフィルム(2-B)を作製した。
【0048】
(実施例6)
パラオキシ安息香酸n-ヘキシルの仕込み量を25重量部に変更したこと以外は、実施例4と同様にしてペレットを作製し、かつ得られたペレットから厚さ25μmのフィルム(2-C)を作製した。
【0049】
(実施例7)
パラオキシ安息香酸n-ヘキシルの仕込み量を17.6重量部に変更したこと以外は、実施例4と同様にしてペレットを作製し、かつ得られたペレットから厚さ25μmのフィルム(2-D)を作製した。
【0050】
(実施例8)
パラオキシ安息香酸n-ヘキシルの仕込み量を11.1重量部に変更したこと以外は、実施例4と同様にしてペレットを作製し、かつ得られたペレットから厚さ25μmのフィルム(2-E)を作製した。
【0051】
(実施例9)
溶融押出機(浅田鉄工株式会社製ミラクルKCK)に、エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂(株式会社NUC製EEA樹脂NUC-6940;エチルアクリレート単量体成分含有量35重量%)100重量部およびパラオキシ安息香酸n-ブチル(上野製薬株式会社製)17.6重量部を仕込み、溶融混練してペレット化した。次いで、得られたペレットから、T-ダイ押し出し機によって厚さ25μmのフィルム(3-A)を作製した。
【0052】
(比較例1)
パラオキシ安息香酸n-ヘキシルの仕込み量を0重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてペレットを作製し、かつ得られたペレットからコントロールとして厚さ25μmのフィルム(CTL)を作製した。
【0053】
(軟体動物忌避効果の評価試験方法)
実施例1~8で作製したフィルムのそれぞれを用いて、軟体動物に対する忌避効果の評価試験を以下のように行った。
【0054】
まず、実施例1~9および比較例1で作製したフィルム(1-A)~(1-C)、(2-A)~(2-E)および(3-A)、ならびにフィルム(CTL)を、それぞれ30cm×30cmに切断してサンプルを得た。
【0055】
次いで、40cm×40cm×(高さ)30cmの木製の箱の底に排水溝を設け、その中央部に30cm×30cmのサンプルのフィルム(上記で作製したうちの1枚)を置いた。箱の中央部には軟体動物の誘引剤として約10gの菜種油の搾油滓を置いた。
【0056】
その後、箱の中のサンプルの周りに10匹のナメクジ(ハウス畑で採取したもの)を置き、温度25℃かつ相対湿度65%で6時間そのまま放置した。試験開始後3時間の時点で園芸用のジョウロでサンプルの上に散水した。そして、試験開始から12時間経過後に誘引剤上にまで移動したナメクジの数を数え、忌避率(%)を以下の計算式にしたがって、算出した。
【0057】
【数1】
【0058】
上記操作および忌避率の算出を、実施例1~9および比較例1で作製したフィルム(1-A)~(1-C)、(2-A)~(2-E)および(3-A)、ならびにフィルム(CTL)から得られたサンプルについてフィルム(CTL)を除き、それぞれ2回行い、それらの平均値を、本評価における忌避率とした。得られた結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、実施例1~9で得られたフィルム(1-A)~(1-C)、(2-A)~(2-E)および(3-A)はいずれも、コントロールである比較例1のフィルム(CTL)と比較して、誘引剤に対してナメクジを効果的に忌避することができていたことがわかる。例えば、実施例4~8の結果から明らかなように、パラオキシ安息香酸n-ヘキシルの仕込み量を高めるほど、忌避効果は高められていた。しかし、例えば、実施例1および6の対比から明らかなように、パラオキシ安息香酸n-ヘキシルの仕込み量が同量であったとしても、エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂に含まれるエチレンアクリレート成分の含有量によって忌避率にも相違が生じていたことがわかる。
【0061】
(比較例2)
溶融押出機(浅田鉄工株式会社製ミラクルKCK)に、低密度ポリエチレン樹脂(株式会社NUC製NUC-8009)100重量部およびパラオキシ安息香酸n-ヘキシル(上野製薬株式会社製)5重量部を仕込み、溶融混練してペレット化を試みた。しかし、ペレット化に至る前に、パラオキシ安息香酸n-ヘキシルが熱分解して発煙し、発泡してペレット自体を得ることができなかった。
【0062】
(比較例3)
パラオキシ安息香酸n-ヘキシルの仕込み量を25重量部に変更したこと以外は、比較例2と同様にしてペレット化を試みた。しかし、ペレット化に至る前に、パラオキシ安息香酸n-ヘキシルが熱分解して発煙し、発泡してペレット自体を得ることができなかった。
【0063】
(比較例4)
低密度ポリエチレン樹脂の代わりにポリプロピレン樹脂(株式会社プライムポリマー製F109V)100重量部を用いたこと以外は、比較例2と同様にしてペレット化を試みた。しかし、ペレット化に至る前に、パラオキシ安息香酸n-ヘキシルが熱分解して発煙し、発泡してペレット自体を得ることができなかった。
【0064】
(比較例5)
低密度ポリエチレン樹脂の代わりにエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(三井デュポンポリケミカル株式会社製エバフレックスP1207)100重量部を用いたこと以外は、比較例2と同様にしてペレット化を試みた。しかし、ペレット化に至る前に、パラオキシ安息香酸n-ヘキシルが熱分解して発煙し、発泡してペレット自体を得ることができなかった。
【0065】
(比較例6)
低密度ポリエチレン樹脂の代わりにエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(三井デュポンポリケミカル株式会社製エバフレックスP1207)100重量部を用い、かつパラオキシ安息香酸n-ヘキシルの仕込み量を25重量部に変更したこと以外は、比較例2と同様にしてペレット化を試みた。しかし、ペレット化に至る前に、パラオキシ安息香酸n-ヘキシルが熱分解して発煙し、発泡してペレット自体を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、食用植物や観賞用植物の栽培効率を向上させることができる点で、例えば、農業分野、園芸分野などの技術分野において有用である。