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特許7458685高強度の抗崩壊オイルケーシングおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】高強度の抗崩壊オイルケーシングおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240325BHJP
   C22C 38/32 20060101ALI20240325BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20240325BHJP
   C21D 9/08 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/32
C21D8/10 B
C21D9/08 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022565740
(86)(22)【出願日】2021-05-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-06
(86)【国際出願番号】 CN2021091903
(87)【国際公開番号】W WO2021227921
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】202010392682.0
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】ドン、シャオミン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チョンファ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ウェイグオ
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ジアミン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-271772(JP,A)
【文献】特開平06-322478(JP,A)
【文献】特開2006-037147(JP,A)
【文献】特許第6677310(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2019/0226063(US,A1)
【文献】特許第4453843(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第109161788(CN,A)
【文献】特表2018-523012(JP,A)
【文献】特表2017-525844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/32
C21D 8/10
C21D 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率の各化学元素の含有量が以下:
C: 0.08-0.18%;
Si: 0.1-0.4%;
Mn: 0.1-0.28%;
Cr: 0.2-0.8%;
Mo: 0.2-0.6%;
Nb: 0.02-0.08%;
V: 0.01-0.15%;
Ti: 0.02-0.05%;
B: 0.0015-0.005%;
Al: 0.01-0.05%; および
鉄および他の不可避的不純物の残部
を満たすことを特徴とする、高強度の抗崩壊オイルケーシング。
【請求項2】
不可避的不純物がS、PおよびNを含み、S、PおよびNの含有量が: P≦0.015%、0<N≦0.008%、およびS≦0.003%の少なくとも一つを満たすことを特徴とする請求項に記載の高強度の抗崩壊オイルケーシング。
【請求項3】
質量百分率の各化学元素の含有量が以下:
C: 0.1-0.16%;
Si: 0.15-0.35%;
Mn: 0.15-0.25%;
Cr: 0.4-0.7%;
Mo: 0.25-0.5%;
Nb: 0.02-0.06%;
V: 0.05-0.12%;
Ti: 0.02-0.04%;
B: 0.0015-0.003%; および
Al: 0.015-0.035%
の少なくとも一つを満たすことを特徴とする、請求項1に記載の高強度の抗崩壊オイルケーシング。
【請求項4】
抗崩壊オイルケーシングの微細構造が焼戻しソルバイトであることを特徴とする、請求項1に記載の高強度の抗崩壊オイルケーシング。
【請求項5】
抗崩壊オイルケーシングが: 降伏強度758~965 MPa、引張強度≧862 MPa、伸び率≧18%、残留応力≦120 MPa、0℃シャルピー曲げ衝撃エネルギー≧80 J、およびAPI規格の要求値を50%以上超えるΦ244.48*11.99 mmの仕様での抗崩壊強度55 MPa以上、の少なくとも一つを満たす特性を有することを特徴とする請求項1に記載の高強度の抗崩壊オイルケーシング。
【請求項6】
以下の工程:
(1)製錬および連続鋳造;
(2)穿孔、圧延およびサイジング;
(3)制御冷却: 初期冷却温度はAr3+30℃からAr3+70℃であり、および最終冷却温度は≦80℃であり; 冷却工程はケーシングの内壁へ行わず、ケーシングの外面へのみ行い; および冷却速度を30~70℃/sに制御する;
(4)焼戻し; ならびに
(5)熱矯正
を含む、請求項1に記載の高強度の抗崩壊オイルケーシングの製造方法。
【請求項7】
工程(1)の連続鋳造において、溶鋼の過熱度を30℃未満に制御し、および連続鋳造の引張速度を1.6~2.0 m/minに制御することを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(2)において、丸ビレットを1260~1290℃で加熱炉内の均熱に供し; 穿孔温度を1180~1260℃に制御し; 最終圧延温度を900~980℃に制御し; および最終圧延後のサイジング温度が850~920℃であることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(4)において、焼戻し温度が500~600℃であり、および保持時間が50~80minであることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
工程(5)において、熱矯正温度が400~500℃であることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、金属材料およびその製造方法、特にオイルケーシングおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
現在、国内外における石油・ガス資源開発の深度化・困難化に伴い、地層の流体場や圧力場などが大きく変化し、油井や水井用ケーシングの使用条件・応力条件もより複雑化している。中国国内の油井や水井の約20%、特定の地域では50%以上のケーシング崩壊が発生している。ケーシングの崩壊は、軽度の場合は通常の原油生産に影響を与え、重度の場合は油井全体を廃棄することになり、莫大な経済的損失が発生する。したがって、既存の資源を十分に活用し、回収効率を高め、不必要な損失を減らすためには、ケーシング崩壊の問題を効果的に解決することが不可欠である。
【0003】
現在、ケーシング崩壊のメカニズム、影響因子、検出方法、ならびに高い抗崩壊性能を持つケーシングの研究開発に関する国内外の多くの研究作業が完了し、異なる鋼種と異なる仕様の一連のケーシング製品を提供し、現在、油田開発および生産に適用されているが、使用中の油田の産業および採掘条件は極めて複雑であるだけでなく、各油田間で大きく異なっている。そのため、抗崩壊ケーシングに対して、より差別化された要求が提唱される。
【0004】
1999年5月18日に公開された日本特許(公開番号: JPH11-131189A)(名称「鋼管の製造方法」)は、鋼管の製造方法を開示する。この製造方法では、750~400℃の温度範囲で加熱し、20%または60%の変形範囲で圧延することにより、950MPa以上の降伏強度と良好な靱性を有する鋼管製品を製造することができる。しかし、この技術では加熱温度が低いため、圧延の難易度が高い。また、圧延温度が低いとマルテンサイト構造が形成されるため、オイルケーシング製品では望ましくない。
【0005】
1992年2月26日に公開された日本特許(公開番号: JP04059941A)には、「強靭な高強度TRIP鋼」と題し、熱処理プロセスで鋼基材中の残留オーステナイト(20~45%)と上部ベイナイトの割合を制御することにより引張強度を120~160ksiにすることができると記載されている。この特許に記載された組成設計は、高炭素含有量と高ケイ素含有量を特徴としている。この2つの成分は強度を大幅に向上させるが、靭性も低下させる。同時に、残留オーステナイトは、オイルパイプの使用中(深井戸用オイルパイプの使用温度は120℃以上)に構造変化を起こし、強度を向上させるが、靭性を低下させるであろう。
【発明の概要】
【0006】
発明の要約
本発明の一つの目的は、高強度の抗崩壊オイルケーシングを提供することである。高強度の抗崩壊オイルケーシングの化学成分の設計においては、鋼の焼入れ性を高めるため、CrおよびBを添加して、Mnを置き換え、Tiを結晶粒界でのNの脆化作用を抑制するために使用することにより、オイルケーシング中に添加する合金元素のコストを低減し、および焼割れを防止する。抗崩壊オイルケーシングは、高強度、高靱性および高い抗崩壊性能を有し、また具体的には、降伏強度758~965 MPa、引張強度≧862 MPa、伸び率≧18% および残留応力≦120 MPaを有し、ならびに0℃シャルピー曲げ衝撃エネルギー≧80 Jを有する。さらに抗崩壊強度は、典型的な仕様Φ244.48*11.99 mmで55 MPa以上であり、これはAPI規格の要求値を40%以上超えるため、高強度の抗崩壊オイルケーシングは、油井ケーシングの強度および抗崩壊性能に関して、深井戸および油田やガス田で求められる要求に合わせることができる。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の質量百分率の化学元素:
C: 0.08~0.18%;
Si: 0.1~0.4%;
Mn: 0.1~0.28%;
Cr: 0.2~0.8%;
Mo: 0.2~0.6%;
Nb: 0.02~0.08%;
V: 0.01~0.15%;
Ti: 0.02~0.05%;
B: 0.0015~0.005%; および
Al: 0.01~0.05%
を含む高強度の抗崩壊オイルケーシングを提供する。
【0008】
好ましくは、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、質量百分率の各化学元素の含有量は、以下:
C: 0.08~0.18%;
Si: 0.1~0.4%;
Mn: 0.1~0.28%;
Cr: 0.2~0.8%;
Mo: 0.2~0.6%;
Nb: 0.02~0.08%;
V: 0.01~0.15%;
Ti: 0.02~0.05%;
B: 0.0015~0.005%;
Al: 0.01~0.05%; および
鉄および他の不可避的不純物の残部
を満たす。
【0009】
本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、各化学元素の設計原理は以下の通りである。
【0010】
C: 本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Cは炭化物形成元素であり、鋼の強度を効果的に向上させ得る。Cの質量百分率が0.08%未満の場合には、鋼の焼入れ性は低下し、それにより鋼の靱性が低下するかもしれない。しかし、Cの質量百分率が0.18%を超える場合には、鋼の偏析は著しく悪化し、焼割れを容易に生じる可能性がある。したがって、オイルケーシングの高強度に対する要求に合わせるために、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Cの質量百分率は0.08~0.18%に制御される。
【0011】
いくつかの好ましい態様では、Cの質量百分率を0.1~0.16%に制御して、焼入れ性を改善、焼割れを抑制させることができる。
【0012】
Si: 本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Siをフェライト中に固溶させ、鋼の降伏強度を向上させることができる。しかしSiを多量に添加すると、鋼の加工性や靭性を悪化させる可能性があるため、勧められない。しかし、鋼中のSiの質量百分率が0.1%未満の場合、オイルケーシングが容易に酸化してしまうので留意すべきである。したがって、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Siの質量百分率は、0.1~0.4%に制御される。
【0013】
いくつかの好ましい実施形態では、Siの質量百分率を0.15~0.35%に制御して、鋼の加工性と靭性を向上させることができる。
【0014】
Mn: 本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Mnはオーステナイト形成元素であり、鋼の焼入れ性を向上させることができる。本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングの鋼系において、Mnの質量百分率が0.1%未満の場合、鋼の焼入れ性は著しく低下し、その後鋼中のマルテンサイトの割合も減少し、鋼の靭性が低下する場合がある。しかし鋼中のMn量が多いことも勧められないことに留意すべきである。Mnの質量百分率が0.28%を超えると、成分偏析が容易に発生し、焼割れの原因となる。したがって、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Mnの質量百分率は0.1~0.28%に制御される。
【0015】
いくつかの好ましい実施形態では、Mnの質量百分率を0.15~0.25%に制御して、焼入れ性を向上させ、偏析を改善させることができる。
【0016】
Cr: 本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、焼入れ性を大きく向上させる元素および強炭化物形成元素として、Crは、焼戻し中に炭化物を析出させ、それによって鋼の強度を向上させることができる。しかし、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングの鋼系において、Crの質量百分率が0.8%を超える場合は、粗大なM23C6炭化物が結晶粒界に容易に析出し、鋼の靭性が低下して、焼割れを容易に生じ; また、Crの質量百分率が0.2%未満の場合は、焼入れ性が不足することに留意すべきである。したがって、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Crの質量百分率は0.2~0.8%に制御される。
【0017】
いくつかの好ましい態様では、Crの質量百分率を0.4~0.7%に制御して、靱性および焼入れ性を向上させることができる。
【0018】
Mo: 本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Moは、主に炭化物および固溶体強化によって鋼の強度および焼戻し安定性を高める。本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングの鋼系において、Moの質量百分率が0.6%以上を超える場合は、焼割れが容易に生じるかもしれない。しかし、Moの質量百分率がいったん0.2%未満になると、オイルケーシングの強度は、高強度に対する要求に合わせることはできないかもしれないことに留意すべきである。したがって、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおけるMoの質量百分率は、0.2~0.6%に制御される。
【0019】
いくつかの好ましい態様では、Moの質量百分率を0.25~0.5%に制御して、強度をさらに向上させ、焼割れを抑制させることができる。
【0020】
Nb: 本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Nbは鋼中の細粒形成および析出強化元素であり、低い炭素含有量により生じる強度低下を補うことができる。また、NbはNbC析出物を形成することができ、オーステナイト粒を効果的に微細化することができる。しかし、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングの鋼系において、鋼中のNbの含有量が0.02%未満の場合は、Nbの添加によって達成される効果は明らかでない; またNbの含有量が0.08%を超える場合は、粗大なNb(CN)が容易に生成され、これにより鋼の靱性が低下することに留意すべきである。したがって、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおけるNbの質量百分率は、0.02~0.08%に制御される。
【0021】
いくつかの好ましい実施形態では、Nbの質量百分率を0.02~0.06%に制御して、靭性および強度をさらに向上させることができる。
【0022】
V: 本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Vは典型的な析出強化元素であり、炭素の減少により生じる強度低下を補うことができる。鋼中のVの含有量が0.01%未満の場合、Vの強化効果は明らかではないことに留意すべきである。鋼中のVの含有量が0.15%を超える場合は、粗大なV(CN)は容易に生成されるので、鋼の靱性を低下させるだろう。したがって、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Vの質量百分率は0.01~0.15%に制御される。
【0023】
いくつかの好ましい態様では、Vの質量百分率を0.05~0.12%に制御して、靭性および強度をさらに向上させることができる。
【0024】
Ti: 本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Tiは強炭窒化物形成元素であり、鋼中のオーステナイト粒を著しく微細化し、炭素含有量の減少により生じる強度低下を補うことができる。本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングの鋼系において、鋼中のTiの含有量が0.05%を超える場合、粗大なTiNが容易に形成され、それにより鋼の靱性が低下する。鋼中のTiの含有量が0.02%未満の場合、TiがNと十分に反応してTiNを形成することができず、その後鋼中のBがNと反応して脆性相BNを形成して、その結果鋼の靭性が低下する。したがって、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Tiの質量百分率は、0.02~0.05%になるように制御される。
【0025】
いくつかの好ましい態様では、Tiの質量百分率を0.02~0.04%に制御して、靱性をさらに向上させることができる。
【0026】
B: 本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Bも鋼の焼入れ性を著しく向上させることができる元素である。Bは、Cの含有量の減少によって生じる焼入れ性の低下の問題を解決することができる。しかし、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングの鋼系において、鋼中のBの含有量が0.0015%未満の場合、Bがもたらす鋼の焼入れ性の向上効果は大きくない。さらに、鋼中のBの含有量が高すぎる場合、例えば0.005%を超える場合、脆性相BNが容易に生成され、それにより鋼の靱性が低下する。したがって、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Bの質量百分率は、0.0015~0.005%に制御される。
【0027】
いくつかの好ましい態様では、Bの質量百分率を0.0015~0.003%に制御して、さらに靱性および焼入れ性を向上させることができる。
【0028】
Al: 本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Alは良好な脱酸素および窒素固定元素であり、結晶粒を効果的に微細化することができる。本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、Alの質量百分率は、0.01~0.05%に制御される。
【0029】
いくつかの好ましい実施形態では、Alのの質量百分率を0.015~0.035%に制御して、さらに脱酸素効果を向上させ、介在物を抑制することができる。
【0030】
本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、不可避的不純物としては、S、PおよびNが挙げられ、それらの含有量は: P≦0.015%、N≦0.008%およびS≦0.003%の少なくとも一つを満たすことが好ましい。
【0031】
上記技術的解決手段において、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングでは、P、NおよびSはいずれも鋼中の不可避的不純物元素であり、その鋼中の含有量は低いほどよい。
【0032】
好ましくは、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、質量百分率の各化学元素の含有量は、以下:
C: 0.1~0.16%;
Si: 0.15~0.35%;
Mn: 0.15~0.25%;
Cr: 0.4~0.7%;
Mo: 0.25~0.5%;
Nb: 0.02~0.06%;
V: 0.05~0.12%;
Ti: 0.02~0.04%;
B: 0.0015~0.003%; および
Al: 0.015~0.035%
の少なくとも一つを満たす。
【0033】
好ましくは、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、オイルケーシングの微細構造は、焼戻しソルバイトである。
【0034】
好ましくは、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングにおいて、その特性は、以下: 降伏強度758~965 MPa、引張強度≧862 MPa、伸び率≧18%、残留応力≦120 MPa、0℃シャルピー曲げ衝撃エネルギー≧80 J、およびAPI規格の要求値を40%以上超える、Φ244.48*11.99 mmの仕様での抗崩壊強度55 MPa以上、の少なくとも一つを満たす。
【0035】
これに対応して、本発明の他の目的は、上記高強度の抗崩壊オイルケーシングの製造方法を提供することである。製造方法は、具体的には、上記化学元素を特定量有するオイルケーシングを対象とする。製造方法の製造コストは、比較的低く、また、本発明に係る特定量の化学元素を採用し、本製造方法と組み合わせて得られる高強度の抗崩壊オイルケーシングは、同時に以下の特性: 降伏強度 758~965 MPa、引張強度≧862 MPa、伸び率≧18%、残留応力≦120 MPa、0℃シャルピー曲げ衝撃エネルギー≧80 J、およびAPI規格の要求値を40%以上超える、Φ244.48*11.99 mmの仕様に対する抗崩壊強度55MPa以上、を満たすことができ、そうして、高強度の抗崩壊オイルケーシングは、油井ケーシングの強度および抗崩壊性能に関して、深井戸および油田やガス田で必要とされる要求に十分に合わせることができる。すなわち、本発明の特定の化学成分比と本発明のオイルケーシングの製造方法との組み合わせにより得られる高強度の抗崩壊オイルケーシングは、最高の性能を達成することができる。
【0036】
上記目的を達成するために、本発明は、上記化学元素比を有する高強度の抗崩壊オイルケーシングに適する、以下の工程:
(1)製錬および連続鋳造;
(2)穿孔、圧延およびサイジング;
(3)制御冷却: 初期冷却温度は Ar3+30℃からAr3+70℃(Ar3+30℃およびAr3+70℃を含む)であり、Ar3は冷却中のフェライト変態の初期温度を意味し、さらに初期冷却温度をAr3+50℃に制御し; 最終冷却温度は≦80℃であり; 冷却工程はケーシングの内壁へは行わず、ケーシングの外面へのみ行われ、例えば、水を噴霧してケーシングの外面を冷却し; および冷却速度を30~70℃/sに制御する;
(4)焼戻し; ならびに
(5)熱矯正
を含む製造方法を提供する。
【0037】
従来技術における製造方法は、通常オフライン焼入れ+焼戻しプロセスを採用している。具体的には、該プロセスは、熱間圧延ケーシングを室温まで冷却し、加熱炉でオーステナイト化温度まで再加熱し、水冷により室温までケーシングを冷却し、最後に焼戻しを行うことを含む。本発明の製造方法において、従来の抗崩壊ケーシングに使用されているオフライン焼入れ+焼戻し熱処理プロセスとは異なり、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングの製造方法は、焼入れのため熱間圧延鋼ケーシングの余熱を利用する、すなわち、熱間圧延鋼ケーシングは、余熱により室温まで焼入れされ、その後焼戻しを行う、このことが再加熱工程を省く。本発明の製造方法は、オフライン焼入れ手順を省き、オンライン焼入れと同等の効果を達成し、製造に焼戻し熱処理を組み込むことにより、製造コストを削減しつつ、製造効率を大きく向上させることができ、エネルギー消費やグリーンな製造を達成することができる。
【0038】
制御冷却プロセスおよび従来のオフライン焼入れとの違いは、本発明の制御冷却プロセスが、冷却工程中にケーシングの外面のみ冷却し、一方で、ケーシングの内壁への冷却は行わないことであることに留意すべきである。かかる冷却方法は、ケーシング本体に対する残留応力を大きく削減し、抗崩壊性能を向上するのに有益である。しかし、得られた高強度の抗崩壊ケーシングの高強度を確保するためには、通常、より多くの合金元素が強化効果を向上させるために必要であることに留意すべきである。また、ケーシングは熱間圧延後に直接制御冷却されるため、ケーシングは結晶粒の歪みによって高いエネルギーを蓄積し、制御冷却プロセス中に割れを容易に導くかもしれない。したがって、本発明の製造方法では、製造の安全性と安定した品質を確保するために、高強度の抗崩壊ケーシング中の割れの発生や応力集中を防ぐために、合金元素の種類と含有量を最適に設計する必要がある。高強度の抗崩壊ケーシング中のMnは、樹枝状偏析を容易に起こし、その結果、局部的な合金濃縮や高硬度化を招き、焼割れの発生につながりやすくなる。したがって、低炭素鋼の焼入れ性不足の問題を解決するために、Bを添加して、焼入れ性および焼入れ後のマルテンサイト量を高め; 焼戻し熱処理後に、より均一な焼戻しソルバイト構造を形成して、高強度の抗崩壊オイルケーシングの強度と靱性を確保することができる。本発明の目的は、焼戻し後に焼戻しソルバイトの微細構造を形成することであり、もちろん、いくつか他の望ましくない微細構造も必然的に含まれることがある。本発明の目的は、体積分率が100%に近い焼戻しソルバイトの微細構造を形成することであり、さらに、該体積分率は、95%以上に到達することができ、さらに98%以上に制御することもできる。他の不可避的微細構造としては、例えば、残留オーステナイトもしくはフェライト、またはその組み合わせが挙げられる。これらの不可避的微細構造成分の体積分率は、5%以内(5%を含む)に制御され、さらに2%以内(2%を含む)に制御される。これに対応して、焼入れ後の微細構造は、主にマルテンサイトと少量の残留オーステナイトおよび/またはフェライトを含み、マルテンサイトの体積分率は95%以上であり、残留オーステナイトおよび/またはフェライトの残存体積分率は5%以下である。焼戻しソルバイトの微細構造は、高強度と良好な靭性を併せ持つために、オイルケーシングにとってより好ましいものである。
【0039】
好ましくは、本発明の製造方法において、工程(1)の連続鋳造では、溶鋼の過熱度を30℃未満に、連続鋳造の引張速度を1.6~2.0m/minになるように制御することにより、偏析をさらに改善する。
【0040】
好ましくは、本発明の製造方法において、工程(2)では、丸ビレットを1260~1290℃での加熱炉内で均熱に供し; 穿孔温度を1180~1260℃に制御し; 最終圧延温度を900~980℃に制御し; 最終圧延後のサイジング温度を850~920℃とすることにより、圧延後の微細構造の安定性をさらに向上させる。
【0041】
好ましくは、本発明の製造方法において、工程(4)では、焼戻し温度が500~600℃であり; および保持時間が50~80minであることにより、さらに性能安定性が向上する。
【0042】
好ましくは、本発明の製造方法において、工程(4)では、熱矯正温度が400~500℃であることにより、鋼ケーシングの真直度が向上する。
【0043】
従来技術と比較すると、高強度の抗崩壊オイルケーシングおよびその製造方法は、下記利点と有益な効果を有する。
【0044】
本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングの化学成分の設計において、鋼の焼入れ性を高めるためにCrおよびBを添加してMnを置き換え、Tiを結晶粒界でのNの脆化作用を抑制するために使用することにより、オイルケーシング中に添加する合金元素のコストを低減および焼割れを効果的に防止する。高強度の抗崩壊オイルケーシングは、降伏強度 758~965 MPa、引張強度≧862 MPa、伸び率≧18% および残留応力≦120 MPaを有し、さらに0℃シャルピー曲げ衝撃エネルギー≧80 Jを有する。抗崩壊強度は、Φ244.48*11.99 mmの仕様に対して55MPa以上であり、これは、API規格の要求値を40%以上超えるので、油田ケーシングの強度および抗崩壊性能に関する深井戸および油田やガス田で必要とされる要求を満たすことができる。
【0045】
また、本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングの製造方法によれば、熱加工制御プロセス(TMCP)の技術を採用することにより、鋼では高強度と良好な靭性が得られる; 製造方法の操作プロセスが簡単で、製造コストが低く、大規模生産および製造が容易に実現でき、良好な経済的利益が達成される。
【0046】
詳細な説明
本発明の高強度の抗崩壊オイルケーシングおよびその製造方法を具体的な実施例と合わせてさらに下記に説明および解説する。しかし、該説明および解説は、本発明の技術的解決手段を不当に限定するものではない。
【0047】
実施例1~6および比較例1~4
表1は、実施例1~6および比較例1~4の各高強度の抗崩壊オイルケーシングの化学元素を質量百分率で列挙する。
【0048】
【表1】
【0049】
本発明の実施例1~6および比較例1~4の高強度の抗崩壊オイルケーシングは、すべて下記工程により調製した。
【0050】
(1)製錬および連続鋳造: 連続鋳造工程中、溶鋼の過熱度を30℃未満に制御し、連続鋳造の引張速度を1.6~2.0 m/minに制御した。
【0051】
(2)穿孔、圧延およびサイジング: 丸ビレットを1260~1290℃で加熱炉の均熱に供した; 穿孔温度を1180~1260℃に制御した; 最終圧延温度を900~980℃に制御した; および最終圧延後のサイジング温度は850~920℃であった。
【0052】
(3)制御冷却: 初期冷却温度はAr3+30℃からAr3+70℃であり、および最終冷却温度は≦80℃であった; 冷却工程は、ケーシングへの内壁には行わず、ケーシングの外面へのみ行った; 冷却速度は30~70℃/sに制御した; 具体的には、熱間圧延ケーシングはサイジング後の高温状態を維持したまま制御冷却工程を経る; 冷却装置は、水量と圧力を制御できる冷却水リングであり、該冷却装置は、水を噴射してケーシング本体の外面を冷却する; 初期冷却温度はAr3+50℃であり、ケーシングは≦80℃での水冷に供した。かかるプロセスがオンライン焼入れである。
【0053】
(4)焼戻し: 焼戻し温度は500~600℃であり、および保持時間は50~80minであった。
【0054】
(5)熱矯正: 熱矯正温度は400~500℃であった。
【0055】
表2-1および表2-2は、実施例1~6および比較例1~4の高強度の抗崩壊オイルケーシングの製造方法の具体的なプロセスパラメータを列挙する。
【0056】
【表2-1】
【0057】
【表2-2】
【0058】
上記実施例1~6および比較例1~4の高強度の抗崩壊オイルケーシングは、Φ244.48*11.99mmの仕様を有するケーシングを形成するように作られ、各種特性を試験した。得られた結果を表3に示す。
【0059】
表3は、実施例1~6および比較例1~4の高強度の抗崩壊オイルケーシングの機械的特性の試験結果を列挙する。降伏強度、引張強度、伸び率および曲げ衝撃エネルギーをAPI SPEC 5CTに従い測定し、抗崩壊強度および残留応力をISO/TR10400にしたがって測定する。
【0060】
【表3】
【0061】
表1および表3の組合せにおいて、実施例1~6の高強度の抗崩壊オイルケーシングの化学成分および関連プロセスパラメーターは、すべて本発明が必要とする設計仕様を満たしている。実施例6の成分は、好ましい成分範囲内であり、より良好な性能指標を導いている。比較例1では、化学成分設計におけるCの含有量は、本発明の技術的解決手段で定義する範囲を超え、初期冷却温度も本発明の技術的解決手段で定義する範囲を超える。比較例2では、BおよびTiが、化学成分設計に添加されていない。比較例3では、VおよびNbが添加されず、制御冷却プロセスの代わりにオフライン焼入れ+焼戻しプロセスが採用され、焼入れ温度は900℃であり、40min保持され、焼戻しプロセスのパラメータは表2-2に示すとおりであり、その結果、得られたケーシング本体は高い残留応力を有した。比較例4では、化学成分設計中のMnおよびCrの含有量は、本発明の技術的解決手段で定義する範囲を超え、最終冷却温度は本発明の技術的解決手段で定義する範囲を超える。比較例1~4のケーシングの少なくとも一つの機械的特性は、高強度、高靱性および高い抗崩壊性能を伴うオイルケーシングの規格に合致しなかった。
【0062】
表3から分かるように、本発明の各実施例は、降伏強度≧758 MPa、引張強度≧862 MPa、0℃曲げ衝撃エネルギー≧80 J、伸び率≧18%、残留応力≦120MPa、および抗崩壊強度≧55 MPa(API規格(API規格値は36.5 MPa)を50%以上超える)を有する。すなわち、実施例1~6の高強度の抗崩壊オイルケーシングは、高強度、高靱性および高い抗崩壊性能を有し、深井戸開発用オイルケーシングの製造に適している。
【0063】
上記列挙の実施例は、本発明の具体的な実施例に過ぎないことに留意すべきである。当然ながら、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その後に行われる同様の変更または修正は、本発明の開示に基づいて当業者が直接導き出すことができ、または容易に想到することができ、全て本発明の保護範囲に含まれるべきである。