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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】回転シール
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/10 20060101AFI20240325BHJP
   B23B 25/00 20060101ALI20240325BHJP
   F16J 15/34 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
B23Q11/10 E
B23B25/00 Z
F16J15/34 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021510640
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 US2019049051
(87)【国際公開番号】W WO2020047400
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】62/725,766
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596016627
【氏名又は名称】デューブリン カンパニー、エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】フリード、リサ
(72)【発明者】
【氏名】ダールケ、ローレン
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-100976(JP,A)
【文献】特開2014-040915(JP,A)
【文献】特開2011-127757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q11/00-13/00
F16L27/00-27/12
F16J15/34-15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する機械部品と回転しない機械部品の間の非圧縮性流体の流路に沿って配置される回転ユニオンであって、前記回転ユニオンは、
前記回転しない機械部品に形成された内腔に配置された取付用スリーブであって、スライド用内腔を形成する前記取付用スリーブと、
前記スライド用内腔にスライド可能かつシール可能に配置される回転しないシール担持体であって、前記回転しないシール担持体は回転しないシール要素を含み、前記回転しないシール要素と前記回転しないシール担持体が内側に正味液圧表面を規定し外側に正味空気圧表面を規定する、前記回転しないシール担持体と、
前記回転する機械部品上に配置される回転するシール要素を含んでおり、
前記回転しないシール担持体は軸方向に、前記回転するシール要素と前記回転しないシール要素が接触してメカニカル面シールを形成する延長位置と、前記回転するシール要素と前記回転しないシール要素が離れることで前記軸方向に間隙が形成される後退位置との間で、可動であり、
作動中は、加圧下の非圧縮性流体が前記正味液圧表面に接触して、前記回転しないシール担持体を前記後退位置から前記延長位置に向けて押す性質の閉じる方向の閉じる力を作り、
作動中は、圧縮性流体が提供され、かつ、前記回転しないシール担持体に対して外側に、前記メカニカル面シールを包囲して存在するように適合し、加圧下の前記圧縮性流体が前記正味空気圧表面に接触して、前記回転しないシール担持体を前記延長位置から前記後退位置に向けて押す性質の開く方向の開く力を作るようになっている
回転ユニオン。
【請求項2】
前記取付用スリーブと前記回転しないシール担持体の間に配置されるスプリングであって、前記閉じる方向にスプリング力を提供するように配置される前記スプリングをさらに含む、請求項1に記載の回転ユニオン。
【請求項3】
前記メカニカル面シールは、前記閉じる方向に存在する合計の閉じる力が、前記開く方向に存在する合計の開く力よりも大きい場合に形成される、請求項2に記載の回転ユニオン。
【請求項4】
前記合計の閉じる力は、前記スプリング力と前記正味液圧表面に作用する前記非圧縮性流体に起因する前記閉じる力を含む、請求項3に記載の回転ユニオン。
【請求項5】
前記合計の閉じる力は、前記スプリングの閉じる力によって提供され、前記正味空気圧表面に作用する前記圧縮性流体に起因する前記開く力よりも大きい、請求項3に記載の回転ユニオン。
【請求項6】
前記メカニカル面シールは、前記閉じる方向に存在する合計の閉じる力が、前記開く方向に存在する合計の開く力よりも大きい場合に形成される、請求項1に記載の回転ユニオン。
【請求項7】
前記合計の閉じる力は、前記正味液圧表面に作用する前記非圧縮性流体によって提供される、請求項6に記載の回転ユニオン。
【請求項8】
前記合計の開く力は、前記正味空気圧表面に作用する前記圧縮性流体によって提供される、請求項6に記載の回転ユニオン。
【請求項9】
前記圧縮性流体は空気であり、前記非圧縮性流体は冷却剤である、請求項1に記載の回転ユニオン。
【請求項10】
回転ユニオンを作動させる方法であって、前記方法は、
スライド用内腔内にスライド可能かつシール可能に配置される回転しないシール担持体
であって、回転しないシール要素を含む前記回転しないシール担持体を提供することと、
前記回転しないシール要素と前記回転しないシール担持体の内側に正味液圧表面を規定することと、
前記回転しないシール要素と前記回転しないシール担持体の外側に正味空気圧表面を規定することと、
前記回転する機械部品上に配置される回転するシール要素を提供することと、
前記回転しないシール担持体を軸方向に、前記回転するシール要素と前記回転しないシール要素が接触してメカニカル面シールを形成する延長位置と、前記回転するシール要素と前記回転しないシール要素が離れることで前記軸方向に間隙が形成される後退位置との間で、移動させることを含んでおり、
前記後退位置から前記延長位置に移動させることは、非圧縮性流体を前記正味液圧表面に接触して提供することにより閉じる方向の閉じる力を作ることで達成され、
前記延長位置から前記後退位置に移動させることは、圧縮性流体であって、前記メカニカル面シールに対して外側にあり、かつ、前記メカニカル面シールを包囲する前記圧縮性流体を前記正味空気圧表面に接触して提供することにより開く方向の開く力を作ることで達成される
方法。
【請求項11】
前記閉じる方向にスプリング力を提供するように配置されるスプリングを提供することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記メカニカル面シールは、前記閉じる方向に存在する合計の閉じる力が、前記開く方向に存在する合計の開く力よりも大きい場合に形成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記合計の閉じる力は、前記正味液圧表面に作用する前記非圧縮性流体に起因する、前記閉じる力に加えて前記スプリング力を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記合計の閉じる力は、前記正味空気圧表面に作用する前記圧縮性流体に起因する前記開く力よりも大きい、前記スプリングの閉じる力によって提供される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記メカニカル面シールは、前記閉じる方向に存在する合計の閉じる力が、前記開く方向に存在する合計の開く力よりも大きい場合に形成される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記合計の閉じる力が、前記正味液圧表面に作用する前記非圧縮性流体によって提供される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記合計の開く力が、前記正味空気圧表面に作用する前記圧縮性流体によって提供される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記圧縮性流体は空気であり、前記非圧縮性流体は冷却剤である、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
回転する機械部品と回転しない機械部品の間の非圧縮性流体の流路に沿って配置される回転ユニオンであって、前記回転ユニオンは、
前記回転しない機械部品に形成された内腔に配置された取付用スリーブであって、スライド用内腔を形成する前記取付用スリーブと、
前記スライド用内腔にスライド可能かつシール可能に配置される回転しないシール担持体であって、前記回転しないシール担持体は回転しないシール要素を含み、前記回転しないシール要素と前記回転しないシール担持体が内側に正味液圧表面を規定し外側に正味空気圧表面を規定する、前記回転しないシール担持体と、
前記回転する機械部品上に配置される回転するシール要素と、
前記取付用スリーブと前記回転しないシール担持体の間に配置されるスプリングであって、前記回転しないシール担持体上にスプリング力を提供する前記スプリングを含んでおり、
前記回転しないシール担持体は軸方向に、前記回転するシール要素と前記回転しないシール要素が接触してメカニカル面シールを形成する延長位置と、前記回転するシール要素と前記回転しないシール要素が離れることで前記軸方向に間隙が形成される後退位置との間で、可動であり、
作動中は、加圧下の非圧縮性流体が前記正味液圧表面と前記スプリングに接触して、前記回転しないシール担持体を前記後退位置から前記延長位置に向けて押す性質の閉じる方向の閉じる液圧の力とスプリング力を作り、
作動中は、圧縮性流体が提供され、かつ、前記回転しないシール担持体に対して外側に、前記メカニカル面シールを包囲して存在するように適合し、加圧下の前記圧縮性流体が前記正味空気圧表面に接触して、前記回転しないシール担持体を前記延長位置から前記後退位置に向けて促す性質の開く方向の開く力を作るようになっている
回転ユニオン。
【請求項20】
前記メカニカル面シールは、前記閉じる方向に存在する合計の閉じる力が、前記開く方向に存在する合計の開く力よりも大きい場合に形成される、請求項19に記載の回転ユニオン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、「Rotary Union」と題する2018年8月31日付出願の米国仮特許出願第62/725,766号に基づく優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
本開示の背景
工作機械において、スピンドルは、典型的には切削工具またはその他の工具を担持する、回転する軸ないしシャフトを含む装置として説明され得る。機械の種類に応じて、軸ないしシャフトを回転させるスピンドルの動力には、電気モーター、液圧モーターまたは空気圧モーター等の様々な種類の動力が用いられ得る。シャフトの駆動に空気動力を使用する応用において、シャフトには、シャフトに接続され、かつ、高圧で供給される空気を強制的に翼に伝えてシャフトを回転させられる、渦巻き状その他の形状のスピンドルのハウジング内に封入されたタービン翼が含まれていてもよい。典型的な作業条件下では、加圧された空気が例えば90ポンド毎平方インチ(psi)で供給されて、例えば毎分65,000回転の高速でシャフトを回転させる。CNC機械等の部品形成用の機械においては、いわゆるエアタービンシャフトが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
エアタービンシャフトは、マシニング作業ができる高速シャフトを提供するには有用であるが、作業の高速性によりシャフトのツールと加工対象物(ワーク)との間に熱を発生し得るので、その典型的な対処法として外部に冷却剤の流れを提供して、この冷却剤がワークの冷却と削りくずの除去の両方を行う。ただし、冷却剤の流れをワークの領域上に置くことが必ずしも最適とは限らず、また、特に、ワークの小さな穴の中の領域をマシニングする場合には、可能ですらない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の概要
一側面において、本開示は、回転する機械部品と回転しない機械部品の間の非圧縮性流体の流路に沿って配置される回転ユニオンを記載する。回転ユニオンは、回転しない機械部品に形成された内腔に配置された取付用スリーブを含む。取付用スリーブは、スライド用内腔を形成し、その中に、回転しないシール担持体がスライド可能かつシール可能に配置される。回転しないシール担持体は、回転しないシール要素を含み、これが回転しないシール担持体と共に、内側に正味液圧表面(net hydraulic surface)を規定し、外側に正味空気圧表面(net pneumatic surface)を規定する。回転するシール要素は、回転する機械部品上に配置される。回転しないシール担持体は軸方向に、回転するシール要素と回転しないシール要素が接触してメカニカル面シールを形成する延長位置(extended position)と、回転するシール要素と回転しないシール要素が離れることで軸方向に間隙が形成される後退位置(retracted position)との間で可動である。作動中は、加圧下の非圧縮性流体が正味液圧表面に接触して、回転しないシール担持体を後退位置から延長位置に向けて押す性質の閉じる方向の閉じる力を作る。さらに、作動中は、加圧下の圧縮性流体が正味空気圧表面に接触して、回転しないシール担持体を延長位置から後退位置に向けて押す性質の開く方向の開く力を作る。
【0005】
他の側面において、本願の開示は、回転ユニオンを作動させる方法を記載する。本方法は、スライド用内腔内にスライド可能かつシール可能に配置される回転しないシール担持体であって、回転しないシール要素を含む回転しないシール担持体を提供することと、回転しないシール要素と回転しないシール担持体の内側に正味液圧表面を規定することと、回転しないシール要素と回転しないシール担持体の外側に正味空気圧表面を規定することと、回転する機械部品上に配置される回転するシール要素を提供することと、回転しないシール担持体を軸方向に、回転するシール要素と回転しないシール要素が接触してメカニカル面シールを形成する延長位置と、回転するシール要素と回転しないシール要素が離れることで軸方向に間隙が形成される後退位置との間で移動させることを含む。一実施態様において、後退位置から延長位置に移動させることは、正味液圧表面に接触する非圧縮性流体を提供することにより閉じる方向の閉じる力を作ることで達成され、延長位置から後退位置に移動させることは、正味空気圧表面に接触する圧縮性流体を提供することにより開く方向の開く力を作ることで達成される。
【0006】
さらに他の側面において、本開示は、回転する機械部品と回転しない機械部品の間の非圧縮性流体の流路に沿って配置される回転ユニオンを記載する。回転ユニオンは、回転しない機械部品に形成された内腔に配置された取付用スリーブであって、スライド用内腔を形成する取付用スリーブと、スライド用内腔にスライド可能かつシール可能に配置される回転しないシール担持体であって、回転しないシール要素を含み、回転しないシール要素と回転しないシール担持体が内側に正味液圧表面を規定し外側に正味空気圧表面を規定する回転しないシール担持体と、回転する機械部品上に配置される回転するシール要素と、取付用スリーブと回転しないシール担持体の間に配置されるスプリングであって、回転しないシール担持体上にスプリング力を提供するスプリングを含む。回転しないシール担持体は、作動中は、回転するシール要素と回転しないシール要素が接触してメカニカル面シールを形成する延長位置と、回転するシール要素と回転しないシール要素が離れることで軸方向に間隙が形成される後退位置との間で、軸方向に可動である。加圧下の非圧縮性流体が正味液圧表面とスプリングに接触して、回転しないシール担持体を後退位置から延長位置に向けて押す性質の閉じる方向の液圧の力とスプリング力を作り、また、加圧下の圧縮性流体が正味空気圧表面に接触して、回転しないシール担持体を延長位置から後退位置に促す性質の開く方向の開く力を作る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図面のいくつかの図の簡単な説明
図1図1は、本開示に従う、閉じた位置の回転シールを示すエアスピンドルの断面図である。
図2図2は、開いた位置の回転シールを示す、図1のエアスピンドルの断面図である。
図3図3及び図4は、本開示に従う回転スピンドルの異なる作動条件において、シールリングに作用する力の模式図である。
図4図3及び図4は、本開示に従う回転スピンドルの異なる作動条件において、シールリングに作用する力の模式図である。
図5図5は、本開示の代替的な実施態様に従う、締付けスプリングを有するエアスピンドルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の詳細な説明
本願の開示は、エアスピンドルを貫通して延びる冷却剤の流路のための回転シールに向けられている。本開示に従うエアスピンドルは、有利には、マシニング工程中にスピンドルを貫通する流体冷却剤の流路について、より信頼性高くかつ正確に配置された冷却剤の流れが実現できるように構成される。スピンドルのシャフトが比較的高速で回転することを前提に、回転シールは、液体冷却剤がシャフトを通って提供されるとシールを形成し、冷却剤の流れが中断すると消滅し、あるいは回転シールのシールリング間に間隙を作るように構成されるので、冷却剤のない作動条件による及び/またはシールリングの加熱によるシールの損傷を防ぐことができる。既に知られている通り、メカニカル面シールを作る回転シール(しばしば「回転ユニオン」と呼ばれる)は、冷却する及び/または潤滑する媒体の不存在下で高速で作動すると加熱し易く、また恐らくは損傷もし易い。本明細書中に記載する構造において、回転ユニオンの空気圧表面と液圧表面は、ユニオンを通る冷却剤の流れ、またはより一般的に、非圧縮性流体の流れによる液圧がユニオン内に存在するときは、複数のシールリングが互いに接触するように促すように作動する。接触する複数のシールは、回転しない機械の部分からスピンドルの回転するシャフトに冷却剤のシールされた流れを許容する、メカニカル面シールを作る。シャフトがまだ回転している間(例えば、作業と作業の間及び/またはシャフトの回転の減速中)に冷却剤の流れが中断すると、スピンドル内で回転ユニオンに外部からかかる空気圧が、複数のシールリングを互いから離れるように押す性質の力を作り、これが冷却剤のない条件でシールリングが作動するのを効果的に回避する、リング間の空気の間隙(エアギャップ)を作る。
【0009】
一実施態様において、本開示に従うシールの配置は、冷却剤通路内に加圧された冷却剤が存在するときに、2つのシールリングが互いとの接触を維持するように構成されている。冷却剤通路内に存在する加圧された冷却剤は、スライド可能な回転しないシール担持体とシール要素またはリングに正味の液圧の力(net hydraulic force)を伝えて、回転しないシール担持体を閉じる方向(即ち、回転するシールリングに向かう方向)に強制する。この正味の液圧の力は、反対方向(開く方向)にシール担持体上に外部から作用する加圧された空気によって伝えられる正味の空気圧の力(net pneumatic force)よりも大きい。
【0010】
冷却剤の流れが中断すると、液圧の力は消滅し、かつ、シールリングは、互いから離れて2つのシールリング間に、冷却剤のない条件で作動してシールリング間の摩擦により過熱するのを避けるように、エアギャップを形成する。シール担持体は、空気圧の力によって移動を促され、これはもはや液圧の力では克服しえない。シールリングが離れると、空気が冷却剤通路に入り、そこに残留し得る冷却剤を取り除く。
【0011】
本開示に従うエアスピンドル100の一部を通る、2つの作動位置における断面を図1及び図2に示す。図1においては、回転ユニオン102は、閉じたないしシールされた位置にあり、図2においては、回転ユニオン102は、シール無しないし開いた位置にある。エアスピンドル100は、シャフトに接続された工具(図示せず)が材料を切削して作動中にワーク(図示せず)を切り離す領域の冷却と清掃に使用される、シャフトに動力を供給する加圧された空気の供給源と液体冷却剤の供給源を提供するコンピューター数値制御(CNC)機械において作動するエアスピンドルであってもよい。
【0012】
エアスピンドル100は、機械の、回転する部分ないし部品と回転しない部分ないし部品を含む。具体的には、回転しない機械部品104は回転しないシール担持体106をスライド可能かつシール可能に収納する。回転しないシール担持体106は、その上に取り付けられるか、さもなくばその上に形成される回転しないシールリング108を含み、これが回転しないシール担持体106と共に、回転しない機械部品104の内腔110内にスライド可能に配置される。図に示す実施態様において、スライド用内腔114を形成する取付用スリーブ112は、内腔110内に直接取り付けられてスライド用内腔114を形成し、その中に回転しないシール担持体106がスライド可能かつシール可能に配置される。
【0013】
取付用スリーブ112と内腔110の間のシール、及びスライド用内腔114と回転しないシール担持体106のシールは、それぞれ、半径方向のシール116及び118によって達成される。図に示す通り、シール116は、互いに対して固定された部品の間に配置される一方、シール118は、回転しないシール担持体106とスライド用内腔114の間のスライド動作に便宜を提供する。シール118及び116は、Oリングとして具体化されているが、他の型のシールが使用されてもよい。他の型のシールの例としては、リップパッキン、Uパッキン等がある。
【0014】
回転しない機械部品104に対する回転しないシール担持体106の回転を防止するため、回転しないシール担持体106は、スピンドル100の長手軸「L」に対して少なくとも部分的に平行に延びるスロット120を形成する。ピン122はスライド用内腔114の壁に接続されて、半径方向に中心に向かって延びる。ピン122は、スロット120内に装着され、その大きさは、スロット120がピン122に沿って軸方向にスライドし得るが外周方向にはスライドし得ない大きさであり、これにより、回転しないシール担持体106について、長手軸Lに沿う軸方向の動きを妨げることなく、作動中に長手軸Lの周りに回転するのを防止する。
【0015】
エアスピンドル100は、回転する部品をさらに含む。図に示す部分断面において、エアタービンシャフトの一部が示されている。具体的には、シャフト124は、ベアリング(図示せず)によって回転可能に支持され、圧縮された空気が回転しない機械部品104に形成される空気注入口126と空気通路128を通って提供されると回転するように配置される。空気注入口126に提供される空気は、空気通路128を通って移動し、シャフト124に接続された軸上のタービン翼128に伝えられて、翼とシャフトを回転させる。
【0016】
シャフト124は、細長い本体130と、回転するシールリング134が同時回転可能に取り付けられる、直径を大きくした容器部132を含む。区分けされた冷却剤通路136が、機械の様々な部品に形成される複数の整列された内腔と開口によって形成される。冷却剤通路136は、内腔110の開口でもある、回転しない機械部品104内に形成された冷却剤用開口138から延びて、スライド用内腔114の解放端140を通り、概して管状の構造の、回転しないシール担持体106の内部の内腔142を通り、回転するシールリング及び回転しないシールリング134及び108の中央の開口を通り、そしてシャフト124の細長い本体130を通って延びる内腔ないし円筒144を通る。
【0017】
エアスピンドルの作動時は、空気注入口126を通って提供される加圧下の空気が、回転しないシール担持体に対して外側に存在する。加圧下の空気に曝される、回転しないシール担持体106の様々な外側表面が、集合的に正味空気圧表面を提供し、この上に空気圧の力(P-F)が作用し、これがある特定の構造については、注入口126において提供される空気の圧力に比例する。環状のシールリングの界面(I)を横断する空気圧の力P-Fの形状ないし分布を近似して概略的に示す図を図4に示す。図4に示す通り、ユニオンに外部から加えられる空気圧P1と内圧P0について、空気圧の力P-Fは放物線状の分布をしており、これは図の曲線の下の濃色の領域で示される。回転しないシール担持体に作用する他の動的な力(即ち、摩擦力を除く)の不存在下において、外部からかかる合計の空気圧の力(total pneumatic force)P-F(これは曲線の下部で界面Iに加えられるように示されている)は、図2において矢印で示すとおり、回転しないシール担持体106を回転しない機械部品104に向かう方向に(即ち、図1及び図2において左側方向に)押す性質がある。その結果、回転しないシール担持体106は、回転しないシールリング108と共に、スライド用内腔114により深く移動ないし後退して、図2に示す通り、シールリング108及び134の間を離すないしその間に間隙146を形成する。回転しないシール担持体106の後退は、ピン122がスロット120の端に接触すると、あるいは、より典型的には、空気圧が回転しないシール担持体106と回転しないシールリング108を押して回転するシールリング134から離すと、停止するようにしてもよい。
【0018】
冷却剤用開口138に加圧下の冷却剤が提供されている時は、加圧下の冷却剤に曝される、回転しないシール担持体106の様々な内側表面が、集合的に正味液圧表面を提供し、この上に液圧の力(H-F)が作用し、これがある特定の構造については、注入口138において提供される冷却剤の圧力に比例する。環状のシールリングの界面(I)を横断する液圧の力P-Hの形状ないし分布を近似して概略的に示す図を図3に示す。図3に示す通り、ユニオンに内側からかかる流体圧力P1と外圧P0(この場合は、空気圧)について、液圧の力P-Hは概して直線状の分布をしており、これは図の直線の下の濃色の領域で示される。なお、図では直線状の分布を示すが、合計の力(aggregate force)は、空気圧と液圧の分布の規模が互いにより近い場合は、曲線で示すのが最良となり得ることに留意を要する。図に示す実施態様において、例えば、ユニオンに対して内側の流体の圧力は、ユニオンに外側からかかる空気圧よりも数オーダーの規模で大きくてもよく、これが図3の図における界面Iを横切るほぼ直線の力の分布になる。ただし、外部からユニオンにより高い空気圧がかかると、合計の曲線(aggregate curve)の形状は、放物線状により近くなる傾向がある。
【0019】
回転しないシール担持体106は、回転しないシールリング108と回転するシールリング134と共に、その機械に選択される作動時の空気と冷却剤の圧力について、液圧の力H-Fが空気圧の力P-Hよりも大きくなるように構成される。このようにして、液圧の力と空気圧の力の差(H-F - P-F)に等しく、一切の静的力(例えば、摩擦)を除く正味の力は、図2において矢印で示すとおり、回転しないシール担持体106をシャフト124に向かう方向に(即ち、図1及び図2において右側方向に)押す性質がある。その結果、回転しないシール担持体106は、回転しないシールリング108と共に、スライド用内腔114から外側に移動してあるいは延びて、図1に示す通り、間隙146を閉じてシールリング108及び134を互いにシール可能に係合させる。
【0020】
回転しないシール担持体106の延長は、回転しないシールリング108が回転するシールリング134にぶつかるないし付勢する方法でシールリング108及び134が接触すると停止し得る。そのような付勢は、リング108及び134の間の界面にメカニカル面シールを作り、これが、作動中に、加圧下の冷却剤の回転しない機械部品104からシャフト124の内腔144への伝播と通過を許容する冷却剤の導管136の周りのシールを維持する。冷却剤の供給が停止すると、液圧とこれに対応する力H-Fも停止する。
【0021】
空気圧の継続的存在下において、液圧の力H-Fがほぼゼロに減少すると、空気圧の力P-Fは、回転しないシール担持体106上に作用している正味の力の方向を変更して、上述の通りシールリングが離れるように促す。この条件での冷却剤通路136への空気の侵入もまた、残留する冷却剤を通路136から取り除くのに役立つ。間隙146から漏れた冷却剤は、集められて取付用スリーブ112に形成された排出用開口148を通るようにしてもよく、また、回転しない機械部品104に形成された、対応する排出用開口150を通るようにしてもよい。間隙146の開閉は、したがって、回転ユニオン102に対して外側の空気圧が存在してシャフト124を回転させつつ、ユニオン102に対して内側に加圧下の冷却剤を提供することにより、選択的に制御され得る。このようにして、シールリング間の接続中にはシールリングが作るシール界面の冷却剤による潤滑と冷却が得られるとともに、シール間が離れることで冷却剤のない条件下の作動においてシールリングを保護することができる。
【0022】
本明細書中に記載する構造は、例示的な実施態様として説明したエアタービンスピンドル以外の応用においても有用であることが理解されるべきである。一般に、本開示に従う回転ユニオンは、非圧縮性流体による回転ユニオンの内側の加圧が、圧縮性流体による回転ユニオンの外側の加圧の存在下において加えられ得る、任意の応用において作動し得る。そのような条件下においては、非圧縮性流体による内側の加圧が、シールリング間を押して離す性質の空気圧の力に対する、ユニオンのシールリング間のシールを閉じる性質の正味の液圧の力を提供する。非圧縮性流体の提供を中断すると、液圧の力が減少し、ユニオンに外側から圧縮性流体によってかけられる空気圧の力がシールリング間を押し離すことが可能になる。したがって、ユニオンのシールリングが作動する位置は、非圧縮性流体の圧力によって提供される内側の力と圧縮性流体の圧力によって提供される外側の力の間の圧力差に依存する。この圧力差が、ユニオンのシールリング間に、時には、正味の開く効果になったり、正味の閉じる効果になったりする。本開示に従う回転ユニオンのバランス比は、ユニオンの正味の開く液圧または空気圧の領域に対する正味の閉じる液圧または空気圧の領域の比として規定され得るが、50%より大きく(100%超を含む)なり得ることが企図される。
【0023】
エアスピンドル200のための代替的な実施態様を断面で図5に示す。この実施態様において、図1及び図2に示すエアスピンドル100の対応する構造と特徴と同一または類似の構造と特徴は、説明の簡素化のため、既に使用したものと同一の参照番号によって示す。したがって、エアスピンドル200は、機械の、回転する部分ないし部品と回転しない部分ないし部品を含む。より具体的には、回転しない機械部品104は、回転しないシール担持体106をスライド可能かつシール可能に収納する。回転しないシール担持体106は、その上に取り付けられるか、さもなくばその上に形成される回転しないシールリング108を含み、これが回転しないシール担持体106と共に、回転しない機械部品104の内腔110内にスライド可能に配置される。取付用スリーブ212は、スライド用内腔214を形成し、内腔110内に直接取り付けられる。スライド用内腔214とスライド用内腔114(図1)との違いは、スライド用内腔214に対して半径方向に少なくとも部分的に中心に向かって延びて、内腔を第1の円筒状の空洞202と第2の円筒状の空洞204に分離する担持体のフランジ211である。回転しないシール担持体106が、スライド用内腔214内にスライド可能かつシール可能に配置される。
【0024】
回転しない機械部品104に対する回転しないシール担持体106の回転を防止するため、回転しないシール担持体106は、スピンドル200の長手軸「L」に対して少なくとも部分的に平行に延びるスロット120を形成する。この実施態様において、半径方向の出っ張り222は、ロックナット223に形成されてスロット120内に延びてスロット120内に収まっている。出っ張り(protraction)222の大きさは、スロット120がそれに沿ってスライド可能であるが、外周方向にはスライドし得ない大きさであり、したがって、作動中に、回転しないシール担持体106の、長手軸Lに沿う方向の軸の周りの回転を妨げることなく、長手軸Lに対する相対的回転を防止する。
【0025】
エアスピンドル200は、締付けスプリング206をさらに含む。図に示す通り、スプリング206は軸方向の圧縮ばねであるが、ゴム等の弾力のある材料から作られる本体等の複数の要素から作られる圧縮として他の装置が使用されてもよい。スプリング206は、回転しないシール108を閉じる方向に、即ち、回転するシール134に向けて押す性質の、回転しないシール担持体106に付勢する力を伝達するように作用する。締付けスプリング力の大きさは一定であってもよく、またはスライド用内腔214内の回転しないシール担持体106の軸上の位置に比例していてもよく、さもなくばその他の関係であってもよい。締付けスプリング206は、軸方向に拘束されるか、または回転しないシールリング108に面する、フランジ211の環状面213と、回転しないシール担持体106の(例えば、回転しないシール108の外周に隣接する)半径方向に外向きに延びる面との間に配置される。
【0026】
エアスピンドルの作動時は、上述の通り、提供される加圧下の空気が、正味空気圧表面に空気圧の力(P-F)の作用を提供し、これが特定の構造では提供される空気の圧力に比例する。スプリング力は、内圧によって提供される液圧の力と共に、空気圧の力を打ち消して、回転しないシール担持体106を回転しない機械部品104に向かう方向に押す性質の合計の力(total force)を増大させる。これにより、ユニオン200内に存在する液圧がエアスピンドルまたはユニオン100と比べてより低いときでも、シールリング108及び134間のシールの維持を可能にし、また、液圧が全く存在しない条件下であっても(もちろん、スプリング206に選択される定数とかけられる空気圧の数値次第ではあるが)可能になる。したがって、回転ユニオン200のバランス比は、50%未満となるように選択され得ることが企図される。
【0027】
本明細書において引用する、公報、特許出願及び特許を含む全ての文献は、参照することにより、各文献が個別にかつ具体的に示され、その全体が本明細書中に規定されているかのようにそれぞれの記載と同程度に、本明細書に組み込まれる。
【0028】
本発明を説明する文脈における(特に下記の特許請求の範囲の文脈における)1つに言及する用語(冠詞「a」、「an」及び「the」)及び「少なくとも1つの」、並びにこれらと同様の文言の使用は、本明細書中に別段の明示があるか文脈に明らかに反しない限り、単数と複数の両方を包含すると解釈されるべきものである。用語「少なくとも1つの」の使用が1以上の項目の列挙を伴う場合(例えば、「A及びBの少なくとも1つ」)は、本明細書中に別段の明示があるか文脈に明らかに反しない限り、列挙される項目から1つ(AまたはB)を選択すること、または列挙される項目のうちの2以上の任意の組合せ(A及びB)を意味すると解釈されるべきものである。用語「含む/有する(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含む(containing)」は、本明細書中に別段の記述がない限り、例示列挙を意味する(即ち、「~を含むがこれに限定されない」を意味する)用語として解釈されるべきものである。本明細書における数値範囲の言及は、本明細書中に別段の明示がない限り、その範囲に含まれる各個別の数値にそれぞれ言及する簡便な方法として機能することを意図するにすぎず、各個別の数値は、あたかも本明細書中にそれぞれ個別に言及されているかのように、本明細書中に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書中に別段の明示があるか文脈に明らかに反しない限り、任意の適切な順序で行われ得る。本明細書中におけるいかなる例または例示を示す文言(例、「等」)の使用も、本発明をよりよく説明することを意図するにすぎず、請求項に別段の記載がない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書におけるいかなる文言も、請求項に記載されない要素を本発明の実施に必須のものとして示していると解釈されるべきではない。
【0029】
本発明を実施するための本発明者らに知られている最良の形態を含む、この発明の好ましい実施態様は本明細書に記載されている。好ましい実施態様の変化形は、上述の説明を読んだ当業者に明らかとなるであろう。本発明者らは当業者がそれらの変化形を適切に採用することを期待しており、また、本発明者らは本発明が、本明細書中に具体的に記載した通りのもの以外にも実施されるべきことを意図している。したがって、この発明は、適用される法が許容する限りにおいて、本明細書に添付する特許請求の範囲に記載される主題のあらゆる改変物及び均等物を含む。さらに、あり得る変化形における上述の要素の任意の組合せも、本明細書中に別段の明示があるか文脈に明らかに反しない限り、本発明に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5