(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】車両の制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20240325BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20240325BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20240325BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240325BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240325BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20240325BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20240325BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20240325BHJP
B60L 50/15 20190101ALN20240325BHJP
【FI】
F02D29/02 301Z
B60K6/46
B60L7/14
B60L15/20 J ZHV
B60W10/08 900
B60W10/18 900
B60W20/00
F02D29/06 D
B60L50/15
(21)【出願番号】P 2018158539
(22)【出願日】2018-08-27
【審査請求日】2021-03-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中根 裕介
(72)【発明者】
【氏名】宮入 武
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕
(72)【発明者】
【氏名】塘 健志
(72)【発明者】
【氏名】小林 史明
(72)【発明者】
【氏名】山内 康弘
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】倉橋 紀夫
【審判官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-229405(JP,A)
【文献】特開2001-233085(JP,A)
【文献】特開2006-177442(JP,A)
【文献】特開2006-285731(JP,A)
【文献】特開2016-34818(JP,A)
【文献】特開2017-165172(JP,A)
【文献】特開2011-189814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
F02D 29/06
B60L 15/20
B60L 7/14
B60K 6/46
B60W 10/08
B60W 10/18
B60W 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル操作子の操作範囲に減速領域と加速領域とを設けて、前記アクセル操作子の操作量に応じて加減速制御を実行する車両の制御方法において、
減速要素に対応して前記操作量が減少することにより、前記操作量が前記減速領域に入った場合に、
予め求めておいた運転者を含む乗員が許容し得る減速度の上限よりも低い目標減速度と、前記減速要素に到達した時点での車速である目標車速と、前記目標減速度で減速すれば前記減速要素において前記目標車速となる減速開始位置と、を目標減速プロフィールとして設定し、
自車が前記減速開始位置に到達したら前記目標減速度で減速を開始し、
前記減速開始位置を設定した時点における自車の位置が前記減速開始位置よりも前記減速要素に近い場合には、新たに、前記減速開始位置を設定した時点における自車の位置を前記減速開始位置とし、前記減速要素において前記目標車速となる減速度を前記目標減速度とする前記目標減速プロフィールを設定し、前記目標減速度で減速を開始する、
車両の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御方法において、
車両の減速度を調整するために操作後のアクセル操作量がゼロより大かつ減速領域内となるように行なうペダル操作である足戻し操作がなされた場合は、
操作終了後の前記操作量に応じて定まる制動力を、前記目標減速プロフィールの前記目標減速度に一致させる補正を行う、車両の制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両の制御方法において、
前記車両が回生用モータを備える場合に、減速中に回生効率と減速度のいずれを優先するのかを判定し、
減速度を優先すると判定したときは、前記減速開始位置を設定した時点における自車の位置が前記減速開始位置と同じ又は前記減速開始位置よりも前記減速要素から遠い場合には、予め求めておいた運転者を含む乗員が許容し得る減速度の上限よりも低
い前記目標減速度を設定し、前記減速開始位置を設定した時点における自車の位置が前記減速開始位置よりも前記減速要素に近い場合には、新たに、前記現在位置を前記減速開始位置とし、前記減速要素において前記目標車速となる減速度を前記目標減速度とする前記目標減速プロフィールを設定し、
回生効率を優先すると判定したときは、予め求めておいた運転者を含む乗員が許容し得る減速度の上限よりも低く、かつ減速度を優先すると判定したときより大きい前記目標減速度を設定する、
車両の制御方法。
【請求項4】
操作範囲に減速領域と加速領域とが設定されたアクセル操作子と、
前記アクセル操作子の操作量に応じて加減速制御を実行する制御部と、
を備える車両の制御装置において、
前記制御部は、
減速要素に対応して前記操作量が減少することにより、前記操作量が前記減速領域に入った場合に、
予め求めておいた運転者を含む乗員が許容し得る減速度の上限よりも低い目標減速度と、
前記減速要素に到達した時点での車速である目標車速と、前記目標減速度で減速すれば前記減速要素において前記目標車速となる減速開始位置と、を目標減速プロフィールとして設定し、
自車が前記減速開始位置に到達したら前記目標減速度で減速を開始し、
前記減速開始位置を設定した時点における自車の位置が前記減速開始位置よりも前記減速要素に近い場合には、新たに、前記減速開始位置を設定した時点における自車の位置を前記減速開始位置とし、前記減速要素において前記目標車速となる減速度を前記目標減速度とする前記目標減速プロフィールを設定し、前記目標減速度で減速を開始する、
車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作範囲に減速領域と加速領域とが設定されたアクセル操作子を備える車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、1つのペダルの操作範囲に加速領域と減速領域とを設け、当該ペダルの操作量に応じて車両の加減速を制御するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献に記載のシステムでは、減速シーンにおいて運転者によるアクセル操作量に応じて制動力が定まる。このため、ペダルを操作するタイミングとアクセル操作量とが適切でない場合には、運転者の意図通りの減速ができないおそれがある。例えば、アクセル操作量が適切であっても、操作するタイミングが早過ぎれば、車両は所望の位置に到達する前に車速が低下し過ぎてしまうし、操作するタイミングが遅過ぎれば、車両は所望の位置に到達するまでに所望の速度まで減速できない。車速が低下し過ぎる場合には、運転者が再びペダルを操作して加速することで車速を調整できる。また、減速が間に合わない場合には、運転者が再びアクセルを操作して制動力を増大させることで、車速を低下させることができる。
【0005】
しかし、上述したペダルの再操作は、適切な操作タイミング及び操作量であれば不要な操作である。さらに、再操作による加速は燃費性能の低下を招き、再操作による制動力の増大は乗員に急減速感を与えるため乗り心地の低下を招くこととなる。
【0006】
そこで本願発明では、燃費性能の低下及び乗り心地の低下を抑制し得る減速制御を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様による車両の制御方法では、アクセル操作子の操作範囲に減速領域と加速領域とを設けて、アクセル操作子の操作量に応じて加減速制御を実行する。そして、減速要素に対応して操作量が減少することにより、操作量が減速領域に入った場合に、予め求めておいた運転者を含む乗員が許容し得る減速度の上限よりも低い目標減速度と、目標車速と、目標減速度で減速すれば減速要素において目標車速となる減速開始位置と、を目標減速プロフィールとして設定し、自車が減速開始位置に到達したら目標減速度で減速を開始し、減速開始位置を設定した時点における自車の位置が減速開始位置よりも減速要素に近い場合には、新たに、減速開始位置を設定した時点における自車の位置を減速開始位置とし、減速要素において目標車速となる減速度を目標減速度とする目標減速プロフィールを設定し、目標減速度で減速を開始する。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、燃費性能の低下及び乗り心地の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る減速制御を実行する場合の、車速及びアクセル操作量のタイミングチャートである。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る減速制御の制御ルーチンを示すフローチャートの一部である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る減速制御の制御ルーチンを示すフローチャートの他の一部である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る減速制御の制御ルーチンを示すフローチャートのさらに他の一部である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る制御が実行される車両100の概略構成図である。
【0012】
図1に示すように、車両100はエンジン1と、発電機2と、発電機インバータ3と、バッテリ4と、モータインバータ5と、電動モータ6と、駆動輪7と、コントローラ10と、を備える。車両100は、エンジン1の動力を用いて発電機2で発電した電力をバッテリ4に供給し、バッテリ4の電力により電動モータ6を回転させることにより駆動輪7を駆動する、いわゆるシリーズ型ハイブリッド車両として構成される。したがって、車両100では、エンジン1は車両100を走行させるための動力源としてではなく、発電機2を発電させる動力源として使用される。
【0013】
また、車両100は、操作範囲に減速領域と加速領域とが設定されたアクセル操作子としてのアクセルペダル11を備え、後述するコントローラ10によってアクセルペダル11の操作量に基づいて加減速制御がなされる。
【0014】
エンジン1は、ガソリン等を燃料とするいわゆる内燃機関であって、図示しないギヤ等を介して発電機2と機械的に接続されている。エンジン1は、バッテリ4の充電時等に発電機2を回転駆動させるための駆動源として用いられる。
【0015】
発電機2は、エンジン1からの動力に基づいて回転することで発電し、バッテリ4を充電可能に構成されている。また、発電機2は、バッテリ4の電力により回転駆動することで、エンジン1を力行運転(モータリング)させるようにも構成されている。発電機2の動力を用いてエンジン1を回転させるモータリング制御は、エンジン始動時にエンジン1をクランキングさせるとき、バッテリの過充電を防止するために電力消費をしたいとき等に実施する。上述の通り、発電機2はいわゆるモータジェネレータとして機能する。
【0016】
発電機インバータ3は、発電機2及びバッテリ4に電気的に接続されている。発電機インバータ3は、発電機2が発電する交流電力を直流電力に変換してバッテリ4に供給し、バッテリ4から出力される直流電力を交流電力に変換して発電機2に供給するよう構成されている。
【0017】
モータインバータ5は、バッテリ4及び電動モータ6に電気的に接続されている。モータインバータ5は、バッテリ4から出力された直流電力を交流電力に変換して電動モータ6に供給し、電動モータ6で回生発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ4に供給するよう構成されている。
【0018】
電動モータ6は、モータインバータ5から供給される交流電力により回転駆動し、駆動輪7に駆動力を伝達する。また、電動モータ6は、車両減速時やコースト走行時等に駆動輪7に連れ回されて回転する場合に発電し、車両の運動エネルギを電気エネルギとしてバッテリ4に回収するよう構成されている。このように、電動モータ6は、駆動用モータとしてだけでなく、回生用モータとしても機能する。
【0019】
コントローラ10は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ10は、特定のプログラムを実行することにより、エンジン1、発電機2、発電機インバータ3、及びモータインバータ5等の各種機器の動作を制御する制御部として機能する。コントローラ10は、一つのマイクロコンピュータで構成されるのではなく、複数のマイクロコンピュータにより構成されてもよい。
【0020】
コントローラ10は、エンジン1の回転速度及び負荷(トルク)の状態信号に応じてエンジン1のスロットルバルブ、インジェクタ、及び点火プラグ等を制御し、吸入空気量、燃料噴射量、及び点火時期等を調整する。
【0021】
コントローラ10は、バッテリ4の充放電時の電流や電圧に基づいてバッテリ4の充電状態(SOC:State Of Charge)を算出したり、算出したSOC情報等を用いてバッテリ4の入力可能電力及び出力可能電力を算出したりする。
【0022】
コントローラ10は、アクセルペダル11の操作量(以下、「アクセル操作量」ともいう)、車速、路面勾配等の車両状態情報、SOC情報、バッテリ4の入力可能電力、及びバッテリ4の出力可能電力等の情報を取得する。そして、コントローラ10は、取得した情報に基づいて、電動モータ6へのモータトルク指令値の演算、及び発電機2からバッテリ4又は電動モータ6へ供給するための目標発電電力の演算を行なう。また、コントローラ10は、電動モータ6のトルクがモータトルク指令値となるよう、モータインバータ5をスイッチング制御する。
【0023】
コントローラ10は、目標発電電力を実現するために、エンジン1に対するエンジントルク指令値及び発電機2に対する回転速度指令値を演算する。コントローラ10は、発電機回転速度が回転速度指令値と一致するように、発電機2の回転速度検出値等の状態に応じて、発電機インバータ3をスイッチング制御する。
【0024】
また、コントローラ10には、アクセル操作量センサ11A、車速センサ12、前方カメラ13、ナビゲーションシステム14、通信装置15が電気的に接続されている。
【0025】
アクセル操作量センサ11Aは、アクセルペダル11の操作量、換言するとアクセル開度を検出し、検出値をコントローラ10へ送信するよう構成されている。コントローラ10は、受信した操作量に基づいて駆動力または制動力を制御する。制動力は、電動モータ6による発電を利用した制動力である回生制動力を主に用いる。なお、本実施形態では足踏み式のアクセルペダル11を用いる場合について説明するが、これに限られるわけではない。例えば、手により操作するアクセル操作子であってもよい。
【0026】
また、車両100は、油圧ポンプで発生させた油圧により作動する摩擦ブレーキシステムと、摩擦ブレーキシステムを操作するためのブレーキペダルと、をさらに備えてもよい。
【0027】
車速センサ12は、車輪または動力伝達系のシャフトの回転数を検出し、検出値をコントローラ10へ送信するよう構成されている。コントローラ10は、車速センサ12の検出値に基づいて車速を演算する。
【0028】
前方カメラ13は、車両前方の所定領域を撮像し、撮像した画像データをコントローラ10に送信するよう構成されている。
【0029】
ナビゲーションシステム14は、地図データ及び走行履歴等を記憶する記憶装置14Aと、入力された目的地までの走行ルートや目的地までの所要時間等を演算する演算装置14Bと、地図や走行ルートを表示する表示装置14Cと、を備える。
【0030】
通信装置15は、車両外部のデータセンタ16と通信可能に構成されている。通信装置15がデータセンタ16と通信する情報は、例えば、渋滞情報等である。
【0031】
上述した通り、車両100はアクセル操作量に応じて加減速制御される。つまり、アクセル操作量が減速領域にある場合は電動モータ6で回生制動力を発生させ、アクセル操作量が加速領域にある場合は電動モータ6で駆動力を発生させる。回生制動力の大きさは、アクセル操作量に応じて予め設定されており、アクセル操作量がゼロの場合に最大となる。
【0032】
ところで、運転者が減速要素を認知した後の、アクセルペダル11を操作するタイミング及びアクセル操作量は、運転者によってバラツキがある。
【0033】
ここでいう減速要素とは、減速または停車を要する地点または物体である。例えば、停止信号、一時停止線、踏切、料金所、カーブ、制限車速の変更等である。また、自車より低い車速で自車の前方を走行している車両も減速要素に含まれる。これらの減速要素がある場合には、車両は減速要素に応じた所定位置で停車し、または所定位置までに減速を終了する必要がある。
【0034】
上述した運転者によるアクセルペダル操作のバラツキについて、
図2を参照して説明する。以下の説明において、「減速プロフィール」とは、減速開始タイミングと減速度(制動力)の少なくとも一方を意味するものとする。
【0035】
図2は、車速V1か
つアクセル操作量APO1で走行している状態から、停車位置L4で停車するための減速制御を実行する場合の、車速及びアクセル操作量のタイミングチャートである。ここでは、減速
要素を認知した運転者がアクセル操作量をAPO1からゼロにするものとする。
【0036】
なお、アクセルペダル11から足を離してアクセル操作量をゼロにするペダル操作のことを、足離し操作と称する。また、車両100の減速度を調整するために操作後のアクセル操作量がゼロより大かつ減速領域内となるように行なうペダル操作を足離し操作と区別するために、足戻し操作と称する。
【0037】
図2において、運転者は位置L0で減速
要素を認知したものとする。ここでの減速
要素は、位置L4にある信号機とする。
【0038】
この場合、実線Dで示したように位置L2で足離し操作を行なうと、実線Aで示すようにアクセル操作量がゼロの場合の制動力に応じた減速度で減速し、位置L4で停車することができる。なお、実線Aで示す減速プロフィールでは、車速がゼロに近づいたら減速度が増しているが、これは一般的な運転者が従来のブレーキペダル操作により減速する場合に、停車直前にブレーキペダルをさらに踏み込むという特性を模したものである。
【0039】
しかし、破線Eで示したように足離し操作を行なう位置が位置L2よりも手前の位置L1の場合には、破線Bで示したように位置L4に到達する前に車速がゼロになってしまう。この場合、運転者がアクセルペダル11を再び踏み込むことによって車両を加速させれば、位置L4まで走行することができる。しかし、減速開始タイミングが適切ならば不要であった加速をすることで、無駄に燃料を消費することになるので、燃費性能が低下してしまう。つまり、足離し操作を行なうタイミングが適切なタイミングより早いと、再加速が必要となり、燃費性能の低下を招くこととなる。
【0040】
また、一点鎖線Fで示したように足離し操作を行なう位置が位置L2よりも位置L4に近い位置L3の場合には、一点鎖線Cで示したように、位置L4までに車速がゼロにならない。この場合、運転者が摩擦ブレーキシステムを作動させて制動力を高めれば、位置L4で停車させることができる。しかし、制動力を高めることで、車両の姿勢変化(ピッチング)が大きくなり、運転者を含めた乗員に対して乗り心地が悪いという印象を与えるおそれがある。つまり、足離し操作を行なうタイミングが適切なタイミングより遅いと、追加の減速操作が必要となり乗り心地が悪くなる。
【0041】
また、減速制御の度に、上述した再加速または摩擦ブレーキシステムの利用といった操作が必要になると、アクセルペダルのみで加減速制御を行なうシステムの操作性に対する運転者の印象が悪くなるおそれがある。そして、仮にアクセルペダルのみで加減速制御を行なうモードと、アクセルペダルで加速制御を行ないブレーキペダルで減速制御を行なうモードと、を運転者が切り替え可能な場合には、上述した印象の悪化により、アクセルペダルのみで加減速制御を行なうモードが選択されなくなるおそれがある。その結果、減速時の回生電力量が減少して、燃費性能が低下するおそれがある。
【0042】
そこで、本実施形態のコントローラ10は、運転者によるペダル操作のタイミング及びアクセル操作量にバラツキがある場合でも、運転者が上述した追加操作を行なうことなく目標位置で停車、または目標位置を目標速度で通過できるように車両の減速度を制御する。具体的には、減速要素に応じた目標減速プロフィールを設定し、アクセル操作量に応じた制動力を目標減速プロフィールに基づいて補正する。以下に、この減速制御について説明する。
【0043】
なお、
図2では足離し操作により停車する場合について示したが、足戻し操作により減速する場合についても同様である。足戻し操作の場合には、位置L4における車速がゼロより大きく、かつ、減速度が足戻し操作後のアクセル操作量に応じて定まる制動力に応じた大きさになる。
【0044】
図3から
図5は、コントローラ10が実行する、減速制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。これらの制御ルーチンはコントローラ10に予めプログラムされている。
【0045】
ステップS100で、コントローラ10は周囲状況情報を取得する。周囲状況情報とは、自車の周囲の状況に関する情報であり、例えば、前方カメラ13が撮像した画像データに基づく、前方車両の有無及び車間距離、障害物の有無、及び前方にある信号機の点灯状態等の情報が含まれる。また、周囲状況情報には、ナビゲーションシステム14から取得可能な、一時停止線、踏切、料金所、及びカーブ等の位置情報及び自車の現在位置も含まれる。なお、いわゆる路車間通信が可能な場合には、通信装置15を介して取得可能な、信号機の点灯状態に関する情報も周囲状況情報に含まれる。
【0046】
ステップS110で、コントローラ10は、この先に減速要素があるか否かを周囲状況情報に基づいて判定する。コントローラ10は、減速要素があると判定した場合にはステップS120の処理を実行し、減速要素がないと判定した場合はステップS100の処理に戻る。
【0047】
ステップS120で、コントローラ10は、運転者が足離し操作または足戻し操作を行なったか否か、つまり制動操作を行なったか否かを判定する。コントローラ10は、制動操作が行われたらステップS130の処理を実行し、制動操作が行なわれなければ、行なわれるまでステップS120の処理を繰り返す。
【0048】
ステップS130で、コントローラ10は運転者の制動操作の種類を判定する。つまり、コントローラ10は制動操作が足離し操作なのか足戻し操作なのかを判定する。コントローラ10は、足離し操作の場合にはステップS140の処理を実行し、足戻し操作の場合にはステップS210の処理を実行する。
【0049】
まず、足離し操作の場合について
図4を参照して説明する。
【0050】
ステップS140で、コントローラ10は優先する性能を判定する。具体的には、今回の減速時に、回生効率と運転性のいずれを優先するのかを判定する。なお、ここでいう運転性とは、減速度のことをいう。そして、運転性を優先するとは、減速度が小さくなるような減速プロフィールにすることをいう。減速度が小さいということは、車両100の姿勢変化が小さいということである。姿勢変化が小さければ、運転者を含めた乗員は乗り心地がよいと感じる。すなわち、運転性を優先するということは、乗り心地を優先することと言い換えることができる。
【0051】
本ステップでは、運転モードが燃費性能を最優先するエコモードが運転者により選択されている場合には回生効率が優先事項であると判定し、それ以外の場合には運転性が優先事項であると判定する。そして、コントローラ10は、優先事項が運転性の場合にはステップS150の処理を実行し、優先事項が回生効率の場合にはステップS180の処理を実行する。
【0052】
まず、運転性を優先する場合のステップS150~S170の処理について説明する。
【0053】
ステップS150で、コントローラ10は、運転性を優先する場合の減速度を演算する。具体的には、運転者を含む乗員が許容し得る減速度の上限を実験等により予め求め、それよりも小さい減速度を設定する。なお、ここで設定する減速度は、減速を開始してから、
図2で説明したように停車直前に減速度を増大させるまでの減速度である。
【0054】
ステップS160で、コントローラ10は運転性を優先する場合の目標減速プロフィールを設定する。
【0055】
ここで、目標減速プロフィールの設定方法について説明する。
【0056】
まず、コントローラ10は、ステップS100で取得した周囲状況情報から減速
要素の位置を算出する。そして、コントローラ10はステップS150で算出した減速度で減速すれば減速
要素で目標車速になる減速開始位置を算出する。このようにして算出される減速開始位置及び減速度が目標減速プロフィールである。なお、本ステップで設定する目標減速プロフィールでも、停車する場合には
図2で説明したように停車直前に減速度を大きくする。
【0057】
また、自車の現在位置が上記のように算出された減速開始位置よりも減速要素に近い場合は、現在位置を減速開始位置とし、減速要素で目標車速になるように減速度を増大させた目標減速プロフィールを設定する。減速度を増大させることで、乗員に急減速感を与えるおそれがあるが、ここでは減速要素で目標速度になることを優先する。
【0058】
上記のように目標減速プロフィールを設定したら、コントローラ10はステップS170において、目標減速プロフィールに基づいて電動モータ6に回生制動力を発生させる。例えば、
図2において、減速
要素が位置L4にある赤点灯状態の信号機であり、位置L1で足離し操作が行われた場合には、コントローラ10は実線Aで示した目標減速プロフィールを設定する。そして、コントローラ10は目標減速プロフィールで設定された減速開始位置である位置L2まで定速走行し、位置L2で減速を開始する。また、位置L3で足離し操作が行われた場合は、コントローラ10は実線C´で示す目標減速プロフィールを設定し、位置L3で減速を開始する。
【0059】
なお、足離し操作が行われた位置が位置L1の場合には、減速度をステップS150出設定した減速度より小さくし、減速開始位置を位置L1とする目標減速プロフィールを設定してもよい。減速度を小さくすれば、運転性(乗り心地)はより向上するからである。
【0060】
次に、回生効率を優先する場合のステップS180~S200の処理について説明する。
【0061】
ステップS180で、コントローラ10は、回生効率を優先する場合の減速度を電動モータ6の回生効率マップに基づいて演算する。回生効率は、回生制動力が大きい運転領域で高くなる傾向があるので、ステップS180で設定される減速度は、ステップS150で設定される減速度より大きくなる。
【0062】
ステップS190で、コントローラ10は、ステップS180で設定した減速度に基づいて目標減速プロフィールを設定する。本ステップの処理は、減速度の大きさ以外はステップS160の処理を同様なので説明を省略する。
【0063】
ステップS200で、コントローラ10は、ステップS190で設定した目標減速プロフィールに基づいて、電動モータ6に回生制動力を発生させる。本ステップはステップS170の処理と同様なので説明を省略する。
【0064】
次に、足戻し操作の場合について
図5を参照して説明する。
【0065】
足戻し操作の場合も、優先性能を判定し、優先性能に応じた減速度を算出し、減速
要素に基づいて目標減速プロフィールを設定し、目標減速プロフィールに基づいて制動力を発生させる点においては足離し操作の場合と同様である。つまり、
図5のステップS210~S230、S250、S260~S270、及びS290は、それぞれ
図4のステップS140、S150~S160、S170、S180~S190、S200と同様である。ただし、足戻し操作の場合には、コントローラ10は目標減速プロフィールを設定したら(ステップS230、S270)、次に、以下に説明する減速度の補正演算(ステップS240、S280)を行なう。
【0066】
ここで、ステップS240、S280においてコントローラ10が実行する減速度の補正演算について説明する。
【0067】
足戻し操作の場合には、操作後のアクセル操作量の大きさに応じた減速度が発生するが、この減速度がステップS220またはS260で算出した減速度と一致するとは限らない。そして、一致しない場合には、ステップS230またはS270で設定した目標減速プロフィール通りに減速することができない。そこで、コントローラ10は、アクセル操作量から定まる減速度と、ステップS220またはS260で算出した減速度との乖離を解消するための補正を行なう。例えば、アクセル操作量から定まる減速度と、ステップS220またはS260で算出した減速度との差を補正量として、アクセル操作量から定まる減速度にこの補正量を加算する。
【0068】
上記の通り減速度の補正演算を行なうことで、目標減速プロフィールにしたがった減速を行なうことができる。
【0069】
なお、本ステップの補正を行なうと、同じアクセル操作量であっても減速要素毎に減速度が異なることとなる。したがって、補正量が大きくなるほど、運転者に違和感を与えるおそれが高まる。そこで、違和感を抑制するために、補正量の上限を制限するようにしてもよい。
【0070】
以上のように本実施形態では、アクセルペダル11の操作範囲に減速領域と加速領域とを設けて、アクセルペダル11の操作量に応じて加減速制御を実行する。そして、減速要素に対応してアクセルペダル11の操作量が減少することにより、アクセルペダル11の操作量が減速領域に入った場合に、減速要素に基づいて目標減速プロフィールを設定し、目標減速プロフィールに基づいて車両を減速させる。これにより、減速中における運転者によるアクセルペダル11の再操作が不要となり、燃費性能の低下や乗り心地の低下を抑制することができる。また、運転者に違和感を与えることなく、所望の位置に正確に停車すること、及び所望の位置までに減速を終わらせること、が可能になる。その結果、仮に本実施形態に係る減速制御の実行の可否を運転者が選択し得る構成であっても、運転者が本実施形態に係る減速制御の実行を選択する確率の向上が望める。すなわち、上記効果が得られる確率が向上する。
【0071】
本実施形態では、目標減速プロフィールとして、減速開始タイミングと目標減速度と目標車速とを設定する。これにより、減速要素に応じて適切な目標減速プロフィールを設定することができる。
【0072】
本実施形態では、減少後のアクセルペダル11の操作量がゼロより大きい足戻し操作がなされた場合は、操作後のアクセルペダル11の操作量に応じて定まる制動力を、目標減速プロフィールに基づいて補正する。これにより、より適切な減速度で減速することとなり、電動モータ6による回生量を確保することができる。
【0073】
本実施形態では、減少後のアクセルペダル11の操作量がゼロになる足離し操作がなされた場合は、アクセルペダル11の操作後に、減速開始タイミングまたは減速度の少なくとも一方を制御する。これにより、車両はより適切な減速度で減速することとなり、電動モータ6による回生量を確保することができる。
【0074】
本実施形態では、減速要素に、停車を要する地点または物体と、所定車速までの減速を要する地点または物体と、が含まれる。これにより、車両走行中に発生する減速要素に対応することができる。
【0075】
本実施形態では、目標減速プロフィールの目標減速度を、減速中に優先する性能に基づいて設定する。運転性を優先する場合には、目標減速度を、減速度が予め設定した閾値以下になるよう設定する。また、エネルギ回生を優先する場合には、目標減速度を、回生用モータの回生効率に基づいて設定する。これにより、優先する性能に応じた適切な減速度が設定されるので、燃費性能の低下または乗り心地の低下をより適切に抑制することができる。
【0076】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0077】
1 エンジン
2 発電機
3 発電機インバータ
4 バッテリ
5 モータインバータ
6 電動モータ
7 駆動輪
10 コントローラ
11 アクセルペダル