(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】可変磁束型回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20240325BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2018163747
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-03-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】山本 明満
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】長馬 望
【審判官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-225277(JP,A)
【文献】国際公開第2012/098737(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転磁界を生成する固定子と、当該固定子と所定幅のエアギャップを介して配置される回転子とを有する可変磁束型回転電機であって、
前記回転子は、
回転子コアと、
前記回転子コアにおいて周方向に複数設けられたフラックスバリアと、
複数の前記フラックスバリアの間に配置され、永久磁石が嵌装される磁石嵌装孔と、
前記永久磁石の周方向端部と、前記永久磁石に隣接する他の永久磁石の周方向端部と、を繋ぎ、前記永久磁石の磁束を前記他の永久磁石が構成する磁極側に漏洩させる漏れ磁束路と、
を有し、
前記磁石嵌装孔は、外周側の周方向中心における前記回転子コアの外周面からの深さが、外周側の周方向端部における前記回転子コアの外周面からの深さよりも浅く設定されており、磁気特性の異なる複数の永久磁石片が周方向に並んで嵌装して前記永久磁石を構成し、
前記永久磁石を構成する複数の前記永久磁石片のうち、前記磁石嵌装孔の周方向端部に配置される少なくとも一つの前記永久磁石片の磁場配向方向が、当該永久磁石片の磁石中心におけるラジアル方向に対して前記他の永久磁石の周方向端部側に所定の角度α傾けた方向に設定されていることにより、当該永久磁石片の磁場配向方向を前記所定の角度α傾けない場合と比較して、固定子巻線に通電する電流制御によって前記漏れ磁束路を通る漏れ磁束量の可変幅が大きい、
ことを特徴とする可変磁束型回転電機。
【請求項2】
前記少なくとも一つの前記永久磁石片の残留磁束密度は、他の前記永久磁石片の残留磁束密度より大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載の可変磁束型回転電機。
【請求項3】
前記永久磁石を構成する複数の前記永久磁石片のうち、前記磁石嵌装孔において前記回転子の回転方向における最後方に位置する前記永久磁石片の保磁力は、他の前記永久磁石片の保磁力よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の可変磁束型回転電機。
【請求項4】
前記永久磁石を構成する複数の前記永久磁石片の残留磁束密度は、前記磁石嵌装孔の周方向中央に配置される前記永久磁石片が最も高く、より周方向端部側に配置される前記永久磁石片ほど低い、
ことを特徴とする請求項1に記載の可変磁束型回転電機。
【請求項5】
前記永久磁石片は、前記回転子の軸方向に垂直な面の形状が矩形形状となるように構成される、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の可変磁束型回転電機。
【請求項6】
前記永久磁石片は、前記回転子の軸方向に垂直な面の形状が前記回転子の外周側の辺を長辺とする台形形状となるように構成される、
ことを特徴とする請求項1から
4のいずれか一項に記載の可変磁束型回転電機。
【請求項7】
前記磁石嵌装孔に嵌装される複数の前記永久磁石片の個数をnとし、当該永久磁石片の台形形状の長辺の長さをXとし、当該長辺と脚との内角をθとし、前記磁石嵌装孔の外径側の周方向両端部を結ぶ円弧状曲線と、周方向端部の二つの前記脚を内径側まで伸ばした際に交わる交点とで形成される扇型の中心角をφとし、当該扇型の半径をrとした場合に、
前記Xと前記θは、以下(1)式を満たすように設定される、
【数1】
ことを特徴とする請求項6に記載の可変磁束型回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変磁束型回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、埋込磁石型同期電動機の回転子において、一磁極を構成する永久磁石の形状を外周側に凸な円弧形状にすることにより磁束特性を向上させる技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献では、一磁極を原則一つ(一体型)の永久磁石で構成しているため、円弧形状の磁石の製造可能サイズの制約により、出力やトルクの向上に寄与する磁束特性をさらに向上させることが難しいという課題がある。また、一体に形成された円弧形状の磁石は、例えば平板上の永久磁石に比べて製造コストが増加するという課題もある。
【0005】
本発明は、製造コストを増加させずに、一磁極を構成する永久磁石の磁束特性を向上させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による可変磁束型回転電機は、回転磁界を生成する固定子と、当該固定子と所定幅のエアギャップを介して配置される回転子とを有する可変磁束型回転電機である。当該可変磁束型回転電機が備える回転子は、回転子コアと、回転子コアにおいて周方向に複数設けられたフラックスバリアと、複数のフラックスバリアの間に配置され、永久磁石が嵌装される磁石嵌装孔と、永久磁石の周方向端部と、永久磁石に隣接する他の永久磁石の周方向端部と、を繋ぎ、永久磁石の磁束を他の永久磁石が構成する磁極側に漏洩させる漏れ磁束路と、を有する。磁石嵌装孔は、外周側の周方向中心における回転子コアの外周面からの深さが、外周側の周方向端部における回転子コアの外周面からの深さよりも浅く設定されており、磁気特性の異なる複数の永久磁石片が周方向に並んで嵌装して永久磁石を構成する。そして、永久磁石を構成する複数の永久磁石片のうち、磁石嵌装孔の周方向端部に配置される少なくとも一つの永久磁石片の磁場配向方向が、当該永久磁石片の磁石中心におけるラジアル方向に対して他の永久磁石の周方向端部側に所定の角度α傾けた方向に設定されていることにより、当該永久磁石片の磁場配向方向を所定の角度α傾けない場合と比較して、固定子巻線に通電する電流制御によって漏れ磁束路を通る漏れ磁束量の可変幅が大きくなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、磁気特性の異なる複数の永久磁石により一磁極を構成するので、製造可能サイズの制約を受けずに一磁極を構成する永久磁石の磁束特性をさらに向上させることができる。また、複数の永久磁石により一磁極を構成することにより、磁石嵌装孔の形状に適合するような一体型の永久磁石を製造する必要がなくなるので、製造コストの増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態の可変磁束型回転電機の軸方向に垂直な断面図である。
【
図2】
図2は、可変磁束漏れモータの特性を説明するための図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の可変磁束型回転電機の固定子巻線に流れる電流とトルクとの関係を示す特性図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の可変磁束型回転電機の固定子巻線に流れる電流とトルク定数との関係を示す特性図である。
【
図6】
図6は、回転電機の回転速度とトルクとの関係を示す図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の永久磁石の構成を説明する図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態の永久磁石の構成による漏れ磁束可変幅を示す図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態の永久磁石の構成の他の例を説明する図である。
【
図10】
図10は、第1実施形態の永久磁石の構成の他の例による漏れ磁束可変幅を示す図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態の永久磁石の構成を説明する図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態の永久磁石の構成の他の例を説明する図である。
【
図13】
図13は、第2実施形態の永久磁石の構成の残留磁束密度を考慮した他の例を説明する図である。
【
図14】
図14は、第3実施形態の偶数個の永久磁石片から構成される永久磁石を説明する図である。
【
図15】
図15は、第3実施形態の回転子の回転に伴う空間起磁力波形を説明する図である。
【
図16】
図16は、第3実施形態の空間起磁力波形のFFT結果を示す図である。
【
図17】
図17は、第3実施形態の奇数個の永久磁石片から構成される永久磁石を説明する図である。
【
図18】
図18は、第3実施形態の回転子の回転に伴う空間起磁力波形の他の例を説明する図である。
【
図19】
図19は、第3実施形態の空間起磁力波形の他の例のFFT結果を示す図である。
【
図20】
図20は、第3実施形態の偶数個の永久磁石片から構成される永久磁石の他の例を説明する図である。
【
図21】
図21は、第3実施形態の奇数個の永久磁石片から構成される永久磁石の他の例を説明する図である。
【
図22】
図22は、第4実施形態の奇数個の永久磁石片から構成される永久磁石を説明する図である。
【
図23】
図23は、第4実施形態の偶数個の永久磁石片から構成される永久磁石を説明する図である。
【
図24】
図24は、第5実施形態の奇数個の永久磁石片から構成される永久磁石を説明する図である。
【
図25】
図25は、第5実施形態の偶数個の永久磁石片から構成される永久磁石を説明する図である。
【
図26】
図26は、台形形状の永久磁石片を形成する方法を説明する図である。
【
図27】
図27は、従来の永久磁石の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の可変磁束型回転電機100の軸方向に垂直な断面図であって、構成全体の4分の1を示す図である。全体構成の残りの4分の3の部分は、
図1で示す部分構成が連続的に繰り返される。本実施形態の可変磁束型回転電機100は、円環形状をなす固定子1と、固定子1と同心円状をなし、かつ、固定子1との間にエアギャップ9を有するように配置された回転子2と、回転子2に嵌装された複数の永久磁石3とを備え、電動機或いは発電機を構成する。
【0010】
固定子1は、リング状の固定子コア11と、固定子コア11から内周側に向けて突起する複数のティース8と、隣接するティース8間の空間であるスロットとからなる。ティース8には、固定子巻線10が巻き回される。固定子コア11は、例えば軟磁性材料である電磁鋼板により形成される。
【0011】
回転子2は、回転子コア12を有している。回転子コア12は、透磁率の高い金属製の鋼板を円環状に打ち抜き加工して形成された多数の電磁鋼板を軸方向に積層して構成された、いわゆる積層鋼板構造により円筒形に形成されている。また、回転子コア12の、固定子1と対向する周辺部の近傍には、周方向に沿って、複数の永久磁石3が互いに等間隔で、且つ、互いに隣接する永久磁石の極性が異極性となるように設けられている。本実施形態の可変磁束型回転電機100に係る回転子コア12は、
図1で示す部分構成から推察されるとおり、周方向に沿って一磁極を構成する永久磁石3が周方向に沿って8つ設けられた8極構造を有する。
【0012】
なお、詳細は後述するが、本発明が適用される可変磁束型回転電機100において一磁極を構成する永久磁石3は複数個の永久磁石(例えば永久磁石3a、3b)の組み合わせにより構成される。
【0013】
また、回転子2は、隣接する永久磁石3が構成する各磁極間に、回転子コア12を形成する電磁鋼板を打ち抜き加工することで形成される空間部分であるフラックスバリア(磁気的障壁)4、5を有する。磁気的障壁4、5は、電磁鋼板よりも磁気抵抗が大きい。したがって、磁気的障壁4、5は、永久磁石3が回転子2上に構成する磁気回路において、磁石磁束に対する磁束障壁として作用する。図で示す通り、磁気的障壁4(第1の磁気的障壁)は、回転子コア12の外周寄りの位置に、回転子2の外周側よりも回転中心側の方が幅の狭い略三角形状に形成される。磁気的障壁5(第2の磁気的障壁)は、隣接する磁極間の中央と、永久磁石3の周方向端部との間で、かつ、磁気的障壁4よりも回転中心側の領域に、永久磁石3の周方向端部から、隣接する磁極間の中央側に向かって、永久磁石3が嵌装された空隙(磁石嵌装孔30)が延設して形成される。
【0014】
ただし、磁気的障壁4、5の形状は、後述する技術的効果を奏する限り、図で示す形状に限定されるものではない。また、回転子2には、磁気的障壁4、5が図示のように形成されていることにより、ある一磁極を構成する永久磁石3から出た磁束が、隣接する他の永久磁石3が構成する磁極側へ漏洩する際の経路となる漏れ磁束路6が形成される。換言すると、漏れ磁束路6は、磁気的障壁4と磁気的障壁5との間に設けられ、ある永久磁石3の回転子周方向端部と、隣接する他の永久磁石3の周方向端部とを繋ぐV形状の経路である。さらに、回転子2には、隣接する磁極間の中央部分に形成され、漏れ磁束路6と、磁気的障壁5の回転子内周側の領域とを連結するブリッジ部7が設けられている。
【0015】
永久磁石3は、回転子コア12の対応部分に形成された空隙(磁石嵌装孔30)に嵌め込まれることにより回転子コア12に固定されている。ここで、本実施形態では、永久磁石3の幾何学的な中心をd軸とし、d軸と電気的に直交する位置をq軸と定義する。なお、本実施形態の可変磁束型回転電機100は8極構造なので、d軸から機械角で22.5度の位置がq軸と定義される。なお、q軸と隣接する磁極間の中央とは一致するので、上述の磁気的障壁4、およびブリッジ部7は、q軸上に形成されているとも言える。
【0016】
なお、磁石嵌装孔30は、回転子コア12を形成する電磁鋼板を打ち抜き加工することで形成される空間部分であって、上記の通り永久磁石3が嵌装されることにより回転子コア12が積層されてなる回転子2に永久磁石3を固定するための孔部である。本実施形態の磁石嵌装孔30は、回転子コア12におけるd軸上において、当該d軸に対して対称に設けられた磁気的障壁5の間に配置される。
【0017】
以上が、第1実施形態の可変磁束型回転電機100の基本となる構成である。ここで、本実施形態の詳細な説明の前に、本発明の対象である可変磁束型回転電機の基本原理について説明する。
【0018】
本発明が対象とする可変磁束型回転電機は、固定子巻線に負荷電流(ステータ電流)が印加されることで生成される回転磁界の作用によって、回転子が備える永久磁石から出る磁束の一部(漏れ磁束)の磁路を変化させることができることを特徴とする。この特徴により、当該回転電機は、ステータ電流を制御することでステータ鎖交磁束を受動的に変化させることができるので、回転子が備える永久磁石の磁力を電流制御によって見かけ上可変にすることができる。このような特性から、本発明の対象である可変磁束型回転電機は、可変漏れ磁束モータとも呼ばれる。
【0019】
図2は、可変磁束漏れモータの一部分を示した構成図であって、可変磁束漏れモータの作動の概要を説明するための図である。ただし、
図2で示す可変磁束漏れモータが有する各構成の形状および配置は、作動の概要を説明するために示した一般的なものであるので、基本的な構成を除く詳細部分は本願発明と異なる。
【0020】
図2で示す可変磁束漏れモータは、固定子101と、固定子101との間にエアギャップを形成して配置される回転子102とを備える。そして、回転子102は、永久磁石103と、磁気的障壁104、105と、ある永久磁石103が構成する磁極側から隣接する他の永久磁石103が構成する磁極側へ磁気的障壁104、105間を経由して連結された漏れ磁束路106とを有する。なお、図の左側に示す矢印の指す方向は、回転子102の回転方向を示している。
【0021】
図2で示す磁路方向15は、固定子101が備える固定子巻線に電流を通電しないときの漏れ磁束の流れる方向を示している。
図2で示すように、回転子内において、永久磁石103から出た磁束の一部は、漏れ磁束路106を通って、隣接する異極側へ漏洩する。
【0022】
このため、永久磁石103から出る固定子101側への主磁束成分の磁束量、すなわちステータ鎖交磁束が相対的に低減されるので、永久磁石103の磁力が見かけ上弱くなる。これにより、ステータ鎖交磁束によって発生する鉄損を低減することができる。この効果は、特に、低負荷、高速領域における回転電機の効率を改善する上で有効となる。
【0023】
他方、磁路方向20は、固定子巻線に電流を通電しているときの磁束の流れる方向を示している。ステータ電流が流れることで、永久磁石103から出た磁束は、磁路方向20が指し示すとおり、回転子102の回転方向の固定子側へ引き寄せられる。このため、固定子巻線に電流を通電しないときには回転子102内で漏れ磁束として漏洩していた磁束をステータ鎖交磁束へと効率よく変換することができる。これにより、回転電機は、永久磁石103から出る磁束が漏洩していない状態と同等の高トルクを出力することができる。
【0024】
このように、回転子に構成される磁極間に漏れ磁束路を設け、ステータ電流を制御することで回転子内漏れ磁束を変化させることで、ステータ鎖交磁束が受動的に変化する特性(漏れ磁束特性)を有する回転電機を可変磁束型回転電機(可変漏れ磁束モータ)という。
【0025】
以上が本発明の対象となる可変磁束型回転電機の基本原理である。以下、本発明に係る第1実施形態の可変磁束型回転電機100が有する各構成の形状および配置の詳細について図面等を参照して説明する。
【0026】
図3は、第1実施形態の可変磁束型回転電機100の軸方向に垂直な断面から見た構成図であって、
図1中で示すq軸を中心に拡大した図である。
図3を参照して、本実施形態の可変磁束型回転電機の構成と、その構成から得られる特性について説明する。
【0027】
磁気的障壁5は、上述の通り、磁気的障壁4よりも回転中心側の領域に、永久磁石3の周方向端部からq軸側に向かって、永久磁石3が埋設された空隙が延設するように構成されている。回転子コア12上に形成された漏れ磁束路6の磁気抵抗は、回転子コア12の空間部分である磁気的障壁5の磁気抵抗よりも小さいため、永久磁石3から出た磁束は当該永久磁石3の異極側へ漏洩されず、漏れ磁束路6を経由して隣接する他の永久磁石3の異極側へ漏洩する。
【0028】
また、上述の通り、漏れ磁束路6の磁束流入出部14は、エアギャップ9の近傍に配置されている。これにより、固定子巻線に通電する電流制御により、漏れ磁束路6を流れる磁束を制御しやすい。
【0029】
また、本実施形態に係る可変磁束型回転電機100は、無負荷時或いは低負荷時のように固定子巻線10に通電する電流Iが小さい場合には漏れ磁束路6を経由して流れる漏れ磁束が発生するので、永久磁石3からの磁石磁束により生じる逆起電力を減少させ、回転子2に生じるトルクTrを低減させる。他方、回転電機を高速回転させるために固定子巻線に通電する電流Iを増大させると、漏れ磁束が低減され、固定子側に鎖交する主磁束成分が相対的に増加するので、トルクTrを高くすることができる。すなわち、本実施形態に係る可変磁束型回転電機の電流IとトルクTrは、
図4の点線で示すように、電流Iの増加と共にトルクTrの変化率が増加する。
【0030】
換言すれば、本実施形態に係る可変磁束型回転電機100は、トルクTrが、トルク定数KTと電流Iにより、Tr=KT×Iで表されるときに、トルク定数KTが電流Iの関数KT=Kt(I)であって、固定子コア11のコア材料の磁気飽和点以下の領域にて、「d(Kt(I))/dI≧0」なる関係を備えている。
【0031】
従って、固定子1に電流を印加すると、磁石磁束と固定子巻線との鎖交量(ステータ鎖交磁束)が増加して、トルク定数が大きくなる。このため、低トルク域ではステータ鎖交磁束が減少するので鉄損が低減され、誘起電圧も低下するので可変速範囲が拡大される。なお、回転子2における磁気回路は永久磁石3の磁極中心に対して略対称に形成されているので、回転子2の回転方向によらずほぼ同等の特性が得られる。
【0032】
さらに、上記した「d(Kt(I))/dI≧0」なる関係は、回転子2内での磁石磁束分布において無負荷状態における磁石磁束の異極への漏洩量が、固定子1が備える固定子巻線10への電流印加により減少し、かつ、最小のトルク定数KT_minに対して最大のトルク定数KT_maxが10%以上大きく設定されることを示す。すなわち、
図5の点線で示す曲線のように、固定子巻線10に電流Iが通電されない無負荷時には、トルク定数KTは最小値KT_minに設定され、電流Iが大きくなるとトルク定数KTは最大値KT_maxに設定される。そして、最小のトルク定数KT_minに対して最大のトルク定数KT_maxが10%以上大きく設定される。このように設定することにより、追加の構造物や特別な制御方法を用いることなく、固定子1に対する通常の電流制御により磁石磁束を制御することができる。
【0033】
またさらに、回転子コア12上における磁気的障壁4、5と、永久磁石3の配置により、q軸の磁気抵抗の方がd軸の磁気抵抗よりも小さく設定されている。より具体的には、一磁極を構成する永久磁石3が形成する磁極の周方向幅と、磁気的障壁4、5の回転子周方向幅および径方向幅との相対量を調整することにより、q軸の磁気抵抗の方がd軸の磁気抵抗よりも小さく設定されている。このため、本実施形態の回転子2は、d軸方向のインダクタンスLdとq軸方向のインダクタンスLqとが、Ld<Lqなる関係を有する逆突極性を有している。なお、回転子周方向において、隣接するq軸間における永久磁石3の幅が占める割合をより大きくする、あるいは、磁気的障壁4、5の回転子周方向幅あるいは径方向幅をより小さくすることで、逆突極性に係る突極比は大きくなる。
【0034】
本実施形態における回転子2が備える永久磁石3の固定子1側(回転子2外周側)の側面、換言すると、本実施形態の磁石嵌装孔30の固定子1側の側面は、回転子外周側に向けて凸な円弧形状を有する。そして、永久磁石3の磁極中心部分、換言すると磁石嵌装孔30の周方向中心部分(d軸上の部分)における回転子2の外周面からの埋込深さHdは、磁石嵌装孔30の周方向端部における回転子2の外周面からの埋め込み深さHeよりも浅い。すなわち、本実施形態における回転子2に形成される磁石嵌装孔30は、帯状で且つ円弧形状を有し、Hd<Heなる関係が成立するように配置される。磁石嵌装孔30がこのように構成されることにより、回転子コア12上に形成されるq軸磁束の磁路が狭まる。
【0035】
そうすると、永久磁石3は、回転子コア12よりも磁気抵抗が高いので、q軸磁束に対する磁気抵抗が高まり、q軸インダクタンスLqが低下する。これにより、誘起電圧(逆起電力)が小さくなるので、力率(皮相電力に対する有効電力の割合)を向上させることができる。その結果、特に最高出力領域(
図6のb参照)において入力電力に対する出力(回転速度とトルクとの積)を従来の平板形状の永久磁石に比べてより向上させることができる。なお、本実施形態の磁石嵌装孔30の内周側の形状は、内周側における周方向端部(点A)と回転子コア12の回転中心とを結ぶ距離が、内周側における周方向中心(点B)と回転子コア12の回転中心とを結ぶ距離よりも短くなるように設定される。
【0036】
また、磁極中心付近における永久磁石3の位置が固定子1側に近づくので、最大トルク領域(
図6のa参照)では従来の平板形状の永久磁石よりもマグネットトルクを大きくすることができる。
【0037】
また、更なる効果として、永久磁石3の回転子外周側の側面が円弧形状を有することにより、従来の平板形状に比べ、回転子2の回転に伴う起磁力空間分布が正弦波状(sin波)に近づくので、固定子1における磁束密度の高調波成分が抑制され、鉄損を低減させることができる。
【0038】
しかしながら、上述したような磁石嵌装孔30に嵌装される従来の永久磁石は、以下のように製造される。すなわち、磁石嵌装孔30に嵌装する従来の永久磁石は、
図27で示すような円筒形状の永久磁石330から切り出されて形成される。より具体的には、従来の永久磁石は、例えば熱間圧延加工によって製造された円筒状の永久磁石330を磁石嵌装孔30の大きさに合うように長手方向に分割して形成される(例えば図示する点線に沿って分割される)。このように製造される従来の永久磁石は、円弧状(円筒状)の永久磁石を製造する上での製造可能なサイズ或いは形状の制約を受けてしまうため、例えば厚みを変える等して出力やトルクをさらに向上させることが難しいという課題がある。また、従来の永久磁石は、磁石嵌装孔30の形状に合わせる必要があり、回転子コア12の形状毎に製造する必要があるため、製造コストが増加するという課題もある。
【0039】
そこで、本発明が適用される可変磁束型回転電機100において一磁極を構成する永久磁石3は、上述のような従来の課題を解決するために、磁気特性の異なる複数個の永久磁石(例えば永久磁石3a、3b)を組み合わせて構成される。以下、本実施形態の永久磁石3の詳細について、
図7~10を参照して説明する。
【0040】
図7は、本実施形態の永久磁石3を説明する図である。
図7で表されるのは、本実施形態の可変磁束型回転電機100を軸方向に垂直な平面から見た構成図であって、
図1で示すd軸に相当する部分を中心に拡大した図である。
【0041】
図示するように、本実施形態の永久磁石3は、一つの永久磁石3aと、三つの永久磁石3bとの組み合わせにより構成される(以下、永久磁石3a、3bをまとめて「永久磁石片」とも称する)。また、図中の永久磁石3a、3bに描かれた三角形の頂角は永久磁石の着磁方向(磁場配向方向)を示しているが、図示するように、本実施形態の永久磁石3aは、その他の永久磁石3bと磁場配向方向(以下、単に「配向方向」と称する)が異なっている。
【0042】
より詳細には、本実施形態の永久磁石3を構成する永久磁石片のうち、周方向端部に位置する永久磁石片、換言すると、漏れ磁束路6に隣接する永久磁石片の少なくとも一つである永久磁石3aの配向方向は、その他の永久磁石片である永久磁石3bの配向方向と異なっている。具体的には、永久磁石3bの配向方向が、回転子コア12の半径方向と略一致する方向(ラジアル方向)であるのに対して、永久磁石3aの配向方向は、当該ラジアル方向に対して、磁石嵌装孔30の隣接する周方向端部側(q軸側、あるいは漏れ磁束路6側)に所定の角度傾いている。
【0043】
図7を用いて具体的に説明すると、永久磁石3aは、永久磁石3aの周方向中心(磁石中心)を回転子2の回転中心からラジアル方向に引いた線Cに対して、隣接する漏れ磁束路6側に所定の角度α傾いた向きに配向される(線D参照)。さらに、本実施形態の永久磁石3aの残留磁束密度B'rは、永久磁石3bの残留磁束密度Br以上の大きさに設定される(B'r≧Br)。本実施形態の永久磁石3がこのように構成されることにより得られる効果について
図8を参照して説明する。
【0044】
図8は、本実施形態の可変磁束型回転電機100の漏れ磁束可変幅を示す図である。横軸は固定子1に供給される電流[A]を示し、縦軸は無負荷時の鎖交磁束[%]を示している。図中の実線は、一体型であって、配向方向および残留磁束密度が同様の従来の永久磁石の鎖交磁束を示している。図中の点線は、本実施形態の永久磁石3の鎖交磁束を示している。また、図中の両矢印は、従来および本実施形態それぞれの漏れ磁束可変幅[%]を示している。漏れ磁束可変幅[%]は、1から無負荷時の鎖交磁束の最小値(実線参照)を無負荷時の鎖交磁束の最大値(点線参照)で割った値を減算することにより算出される(漏れ磁束可変幅[%]=1-無負荷時の鎖交磁束の最小値/無負荷時の鎖交磁束の最大値)。
【0045】
図示するように、本実施形態の永久磁石3の構成によれば、低負荷時において漏れ磁束路6を通る漏れ磁束量を増加させることができるとともに、高負荷時にステータに鎖交する鎖交磁束量を変化させることができるので、漏れ磁束可変幅の最大値を従来の21.7[%]から24.8[%]に向上させることができる。すなわち、本実施形態の永久磁石3は、漏れ磁束路6に近接する永久磁石3aの配向方向を変化させ、且つ、残留磁束密度Brを他の永久磁石片の残留磁束密度B'r以上の大きさに設定することで、漏れ磁束特性を向上させることができる。結果として、特に、低負荷、高速領域における回転電機の効率(力率)をより改善することができるので、特に最高出力領域(高回転領域(
図6のb))において入力電力に対するトルクをより向上させることができる。なお、上述した所定の角度αは、漏れ磁束可変幅を大きくし上記の漏れ磁束特性を向上させる観点から、適宜設定される。
【0046】
なお、本実施形態の永久磁石3は、
図9で示すように構成されてもよい。
【0047】
図9は、本実施形態の永久磁石3の他の例を説明する図である。図示するように、本実施形態の永久磁石3は、二つの永久磁石3aと、二つの永久磁石3bとの組み合わせにより構成されてもよい。すなわち、永久磁石3を構成する永久磁石片のうち、周方向端部に位置する永久磁石片、換言すると、漏れ磁束路6に隣接する永久磁石片である二つの永久磁石片を双方とも永久磁石3aとして構成してもよい。これら永久磁石3aは、永久磁石3aの周方向中心を回転子2の回転中心からラジアル方向に引いた線Cに対して、隣接する漏れ磁束路6側に所定の角度α傾いた向きに配向される(線D参照)。さらに、二つの永久磁石3aの残留磁束密度B'rは、永久磁石3bの残留磁束密度Br以上の大きさに設定される(B'r≧Br)。本実施形態の永久磁石3がこのように構成されることにより得られる効果について
図10を参照して説明する。
【0048】
図10は、
図8と同様に、本実施形態の可変磁束型回転電機100の漏れ磁束可変幅を示す図である。
図10では、二つの永久磁石3aと、二つの永久磁石3bとを含む永久磁石3による漏れ磁束可変幅が示されている。図示するように、本例にかかる永久磁石3の構成によれば、低負荷時において、隣接する二つの漏れ磁束路6を通る漏れ磁束量を増加させることができるとともに、高負荷時にステータに鎖交する鎖交磁束量を変化させることができるので、漏れ磁束可変幅の最大値を従来の21.7[%]から31.9[%]に向上させることができる。すなわち、本例にかかる永久磁石3は、漏れ磁束路6に近接する二つの永久磁石3aの配向方向を変化させ、且つ、残留磁束密度Brを他の永久磁石片の残留磁束密度B'r以上の大きさに設定することにより、漏れ磁束特性をより向上させることができる。
【0049】
以上、第1実施形態の可変磁束型回転電機100は、回転磁界を生成する固定子1と、当該固定子1と所定幅のエアギャップ9を介して配置される回転子2とを有する可変磁束型回転電機である。可変磁束型回転電機100が備える回転子2は、回転子コア12と、回転子コア12において周方向に複数設けられたフラックスバリア5と、複数のフラックスバリア5の間に配置され、永久磁石3が嵌装される磁石嵌装孔30と、を有する。磁石嵌装孔30は、外周側の周方向中心における回転子コア12の外周面からの深さ(Hd)が、外周側の周方向端部における回転子コア12の外周面からの深さ(He)よりも浅く設定されており、磁気特性の異なる複数の永久磁石3a、3bが周方向に並んで嵌装されて一磁極を構成する。磁気特性の異なる複数の永久磁石により一磁極を構成するので、製造可能サイズの制約を受けずに一磁極を構成する永久磁石の磁束特性(漏れ磁束特性)をさらに向上させることができる。また、複数の永久磁石により一磁極を構成することにより、製造コストの増加を抑制することができる。
【0050】
また、第1実施形態の可変磁束型回転電機100によれば、磁気特性は、磁場配向方向、残留磁束密度、保磁力の少なくとも一つ(磁場配向方向および残留磁束密度)である。
【0051】
すなわち、第1実施形態の可変磁束型回転電機100によれば、一磁極を構成する複数の永久磁石(永久磁石片)のうち、磁石嵌装孔30の周方向端部に配置される少なくとも一つの永久磁石(永久磁石3a)の磁場配向方向は、当該永久磁石3aの磁石中心におけるラジアル方向に対して磁石嵌装孔30の隣接する周方向端部側に所定の角度α傾けた方向に設定される。また、少なくとも一つの永久磁石(永久磁石3a)の残留磁束密度B'rは、他の永久磁石(永久磁石3b)の残留磁束密度Brより大きい。これにより、漏れ磁束路6に近接する永久磁石3aの配向方向を変化させ、且つ、残留磁束密度B'rを他の永久磁石片の残留磁束密度Br以上の大きさに設定することで、漏れ磁束特性を向上させることができる。結果として、特に、低負荷、高速領域における回転電機の効率(力率)をより改善することができるので、特に最高出力領域(高回転領域(
図6のb))において入力電力に対するトルクをより向上させることができる。
【0052】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態の可変磁束型回転電機200について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には、同じ指示番号を付して説明を省略する。
【0053】
本実施形態の可変磁束型回転電機200において一磁極を構成する永久磁石3は、磁気特性の異なる複数個の永久磁石(例えば永久磁石3c、3d)の組み合わせにより構成される。
【0054】
図11は、本実施形態の永久磁石3を説明する図である。
図11で表されるのは、本実施形態の可変磁束型回転電機200を軸方向に垂直な平面から見た構成図であって、
図1で示すd軸に相当する箇所を中心に拡大した図である。
【0055】
図示するように、本実施形態の永久磁石3は、三つの永久磁石3cと、一つの永久磁石3dとの組み合わせにより構成される(以下、永久磁石3c、3dをまとめて「永久磁石片」とも称する)。永久磁石3cと永久磁石3dとは、保磁力の大きさが異なっている。なお、保磁力とは、磁場変動に対する磁化の安定度を示す指標であって、値が小さいほど、固定子巻線10に流れる電流により生じる起磁力によって残留磁束密度が変化し易くなる。
【0056】
ここで、本発明が適用される可変磁束型回転電機(可変漏れ磁束モータ)では、回転子2の回転方向(図中の矢印方向)に対して最後方に位置する永久磁石3dに最も大きな反磁界が作用するように設計される。従って、本実施形態では、永久磁石3dの保持力H'cを永久磁石3cの保磁力Hc以上の大きさに設定する(H'c≧Hc)。これにより、回転子2の回転方向に対して最後方に位置する永久磁石3dの保磁力が他の永久磁石片に対して大きくなるので、固定子巻線10を流れる電流による磁場変動に対する熱減磁耐性を向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態の永久磁石3は、
図12のように構成されてもよい。
【0058】
図12は、本実施形態の永久磁石3の他の例を説明する図である。図示するように、本実施形態の永久磁石3は、二つの永久磁石3cと、一つの永久磁石3dと、一つの永久磁石3eとの組み合わせにより構成されてもよい。この場合は、回転子2の回転方向に対して最後方に位置する永久磁石3eの保磁力H''cが永久磁石3dの保磁力H'cと永久磁石3cの保持力Hcよりも更に大きく設定される。すなわち、本例における永久磁石片は、回転子2の回転方向に対して、後方部ほど保磁力が大きく、前方部ほど保磁力が小さくなるように構成される(H''c≧H'c≧Hc)。これにより、回転子2の回転方向に対して最後方に位置する永久磁石3dの保磁力がより大きく設定されるとともに、結果として永久磁石3全体の保磁力が大きく設定されるので、永久磁石3の熱減磁耐性を向上させることができる。
【0059】
また、本実施形態の永久磁石3は、残留磁束密度を考慮して、
図13のように構成されてもよい。
【0060】
図13は、本実施形態の永久磁石3の他の例を説明する図である。図示するように、本実施形態の永久磁石3は、第1実施形態において説明したように、少なくとも2種類の配向方向を含む永久磁石片を組み合わせて構成されてもよい。本例における永久磁石3は、一つの永久磁石3fと、二つの永久磁石3gと、一つの永久磁石3hとの組み合わせにより構成される。
【0061】
まず、漏れ磁束路6に隣接する永久磁石片の少なくとも一つである永久磁石3fの配向方向は、その他の永久磁石片の配向方向と異なる。具体的には、永久磁石3g、3eの配向方向が、回転子コア12の半径方向と略一致する方向(ラジアル方向)であるのに対して、永久磁石3fの配向方向は、当該ラジアル方向(線C参照)に対して隣接する漏れ磁束路6側に所定の角度α傾いた向きに配向される(線D参照)。
【0062】
また、永久磁石3fの残留磁束密度B'rおよび保磁力Hcと、永久磁石3gの残留磁束密度Brおよび保磁力Hcと、永久磁石3hの残留磁束密度Brおよび保磁力H'cとの関係は、B'r≧Br、及び、H'c≧Hcが成立するように構成される。すなわち、本例における永久磁石3は、漏れ磁束路6に隣接する永久磁石片であって、他の永久磁石片と配向方向の異なる永久磁石3fの残留磁束密度B'rが最も大きくなるように構成される。さらに、本例における永久磁石3は、回転子2の回転方向に対して最後方部に位置する永久磁石3hの保磁力が最も大きくなるように構成される。
【0063】
これにより、第1実施形態において
図8を用いて説明したように漏れ磁束可変幅を従来よりも向上させて損失を減少することができるとともに、永久磁石3を構成する永久磁石3hの熱減磁耐性を向上させることができる。
【0064】
以上、第2実施形態の可変磁束型回転電機200によれば、一磁極を構成する複数の永久磁石(永久磁石片)のうち、磁石嵌装孔30において回転子2の回転方向における最後方に位置する永久磁石(3d、3e、3h)の保磁力は、他の永久磁石の保磁力よりも大きい。これにより、回転子2の回転方向に対して最後方に位置する永久磁石3dの保磁力が他の永久磁石片に対して大きくなるので、固定子巻線10を流れる電流による磁場変動に対する熱減磁耐性を向上させることができる。
【0065】
[第3実施形態]
以下、第3実施形態の可変磁束型回転電機300について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には、同じ指示番号を付して説明を省略する。
【0066】
本実施形態の可変磁束型回転電機300において一磁極を構成する永久磁石3は、特性の異なる偶数個の永久磁石(例えば永久磁石3i、3j)の組み合わせにより構成される。
【0067】
図14は、本実施形態の永久磁石3を説明する図である。
図14で表されるのは、本実施形態の可変磁束型回転電機300を軸方向に垂直な平面から見た構成図であって、
図1で示すd軸に相当する箇所を中心に拡大した図である。
【0068】
図示するように、本実施形態の永久磁石3は、二つの永久磁石3iと、二つの永久磁石3jとの偶数個の永久磁石片の組み合わせにより構成される。永久磁石3iと永久磁石3jは残留磁束密度の大きさが異なっており、永久磁石3iの残留磁束密度Brが永久磁石3jの残留磁束密度B'r以下の大きさに設定される。そして、残留磁束密度がより大きい永久磁石3jが周方向中心、すなわちd軸に近い位置に配置され、残留磁束密度がより小さい永久磁石3iが周方向端部、すなわちq軸に近い位置に配置される。本実施形態の永久磁石3がこのように構成されることにより得られる効果について
図15、16を参照して説明する。
【0069】
図15は、本実施形態の回転子2の回転に伴う空間起磁力波形を説明する図である。横軸は時間を表し、縦軸はステータ鎖交磁束を表している。そして、点線は永久磁石3の残留磁束密度を一定に設定した場合(従来)の一磁極における空間起磁力波形を示し、実線は本実施形態の永久磁石3であって中央に配置した永久磁石3jの残留磁束密度を他の永久磁石片よりも大きく設定した場合の一磁極における空間起磁力波形を示している。
【0070】
図示するように、本実施形態の空間起磁力波形におけるステータ鎖交磁束は、正方向、負方向共に従来よりも大きくなっていることが分かる。また、これらの空間起磁力波形をフーリエ変換(FFT)した結果を
図16に示す。
【0071】
図16は、空間起磁力波形のFFT結果を示す図である。横軸は空間起磁力波形の次数を示し、縦軸はステータ鎖交磁束密度を示している。そして、白抜きのバーは従来のFFT結果を示し、色つきのバーは本実施形態のFFT結果を示している。図示するように、本実施形態の永久磁石3の構成による空間起磁力の高調波成分は従来に比べてほとんど増加していない。すなわち、本実施形態の永久磁石3の構成によれば、空間起磁力の高調波成分をほとんど増加させることなく基本波成分を大きくすることができる。その結果、高調波成分による損失(鉄損)を増加させることなくトルクを向上させることができる。
【0072】
なお、本実施形態の永久磁石3は、
図17で示すように構成されてもよい。
【0073】
図17は、本実施形態の永久磁石3の他の例を説明する図である。図示するように、本実施形態の永久磁石3は、二つの永久磁石3iと、二つの永久磁石3jと、一つの永久磁石3kとの奇数個の永久磁石片の組み合わせにより構成されてもよい。本例においても、永久磁石3iと永久磁石3jと永久磁石3kとは残留磁束密度の大きさが異なっている。具体的には、周方向中央、すなわちd軸上に位置する永久磁石3kの残留磁束密度B''rが最も高くなるように設定され、周方向端部、すなわちq軸側に位置するほど残留磁束密度が小さくなるように設定される。つまり、永久磁石3kの残留磁束密度B''rと永久磁石3jの残留磁束密度B'rと永久磁石3iの残留磁束密度Brは、B''r≧B'r≧Brが成立するように設定される。本例の永久磁石3がこのように構成されることにより得られる効果について
図18、19を参照して説明する。
【0074】
図18は、
図15と同様に本例の回転子2の回転に伴う空間起磁力波形を説明する図である。
図19は、
図16と同様に本例の空間起磁力波形のFFT結果を示す図である。
図18から、本例の空間起磁力波形におけるステータ鎖交磁束も、正負において従来よりも大きくなっていることが分かる。また、
図19から、本例の永久磁石3の構成による空間起磁力の高調波成分も従来に比べてほとんど増加していないことが分かる。すなわち、奇数個の永久磁石片を組み合わせて構成される本例の永久磁石3の構成によっても、空間起磁力の高調波成分を増加させることなく基本波成分を大きくすることができる。
【0075】
また、本実施形態の永久磁石3は、
図20で示すように構成されてもよい。
【0076】
図20は、本実施形態の永久磁石3を説明する図である。本例において一磁極を構成する永久磁石3は、特性の異なる偶数個の永久磁石(例えば永久磁石3l、3m、3n)の組み合わせにより構成される。
【0077】
図示するように、本例にかかる永久磁石3は、一つの永久磁石3lと、二つの永久磁石3mと、一つの永久磁石3nとの組み合わせにより構成される。
【0078】
永久磁石3lの残留磁束密度Brおよび保磁力Hcと、永久磁石3mの残留磁束密度B'rおよび保磁力Hcと、永久磁石3nの残留磁束密度Brおよび保磁力H'cとの関係は、B'r≧Br、及び、H'c≧Hcが成立するように構成される。
【0079】
すなわち、本例においても、残留磁束密度がより大きい永久磁石3mが周方向中央、すなわちd軸に近い位置に配置され、残留磁束密度がより小さい永久磁石3lおよび3nが周方向端部、すなわちq軸に近い位置に配置される。本例の永久磁石3がこのように構成されることによっても、
図15で示した空間起磁力波形、及び、
図16で示したFFT結果を用いて上述したのと同様に、空間起磁力の高調波成分を増加させることなく基本波成分を大きくすることができるので、高調波成分による損失(鉄損)を増加させることなくトルクを向上させることができる。
【0080】
さらに、回転子2の回転方向に対して最後方部に位置する永久磁石3nの保持力H'cが最も大きく設定されることにより、永久磁石3を構成する永久磁石片のうち最も大きな反磁界が作用する永久磁石3nの熱減磁耐性を向上させることができる。
【0081】
またさらに、本実施形態の永久磁石3は、
図21で示すように構成されてもよい。
【0082】
図21は、本実施形態の永久磁石3を説明する図である。本例において一磁極を構成する永久磁石3は、特性の異なる奇数個の永久磁石(例えば永久磁石3l、3m、3n、3o)の組み合わせにより構成される。
【0083】
図示するように、本例にかかる永久磁石3は、一つの永久磁石3lと、二つの永久磁石3mと、一つの永久磁石3nと、一つの永久磁石3oの組み合わせにより構成される。
【0084】
永久磁石3lの残留磁束密度Brおよび保磁力Hcと、永久磁石3mの残留磁束密度B'rおよび保磁力Hcと、永久磁石3nの残留磁束密度Brおよび保磁力H'cと、永久磁石3oの残留磁束密度B''rおよび保磁力Hcの関係は、B''r≧B'r≧Br、及び、H'c≧Hcが成立するように構成される。
【0085】
すなわち、本例においても、残留磁束密度がより大きい永久磁石3oが周方向中央、すなわちd軸上に配置され、残留磁束密度が最も小さい永久磁石3lおよび3nが周方向端部、すなわちq軸に最も近い位置に配置される。つまり、本例の永久磁石3を構成する永久磁石片においても、d軸上に位置する永久磁石3oの残留磁束密度B''rが最も高くなるように設定され、周方向端部、すなわちq軸側に位置するほど残留磁束密度がより小さい永久磁石片が配置されるように構成される。本例の永久磁石3がこのように構成されることによっても、
図18で示した空間起磁力波形、及び、
図19で示したFFT結果を用いて上述したのと同様に、空間起磁力の高調波成分を増加させることなく基本波成分を大きくすることができるので、高調波成分による損失(鉄損)を増加させることなくトルクを向上させることができる。
【0086】
さらに、回転子2の回転方向に対して最後方部に位置する永久磁石3nの保持力H'cが最も大きく設定されることにより、永久磁石3を構成する永久磁石片のうち最も大きな反磁界が作用する永久磁石3nの熱減磁耐性を向上させることができる。
【0087】
以上、第3実施形態の可変磁束型回転電機300によれば、一磁極を構成する複数の永久磁石(永久磁石片)の残留磁束密度は、磁石嵌装孔30の周方向中央に配置される永久磁石(3j、3k、3m、3o)が最も高く、より周方向端部側に配置される永久磁石ほど低い。これにより、空間起磁力の高調波成分をほとんど増加させることなく基本波成分を大きくすることができるので、高調波成分による損失(鉄損)を増加させることなくトルクを向上させることができる。
【0088】
[第4実施形態]
以下、第4実施形態の可変磁束型回転電機400について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には、同じ指示番号を付して説明を省略する。
【0089】
本実施形態の可変磁束型回転電機400において一磁極を構成する永久磁石3は、上記実施形態で説明したような特性の違いを有しながら、回転子2の軸方向に垂直な平面から見た形状が矩形形状の永久磁石3pが複数個組み合わされて構成される。なお、本実施形態にかかる永久磁石3を構成する永久磁石片はその形状に特徴を有するため、上記実施形態で述べた特性(配向方向、残留磁束密度、および保磁力の少なくとも一つ)の違いによらず、一律に永久磁石3pと称する。
【0090】
図22は、五つ(奇数個)の永久磁石3pから構成される永久磁石3を示す図である。
図23は、四つ(偶数個)の永久磁石3pから構成される永久磁石3を示す図である。これらの図が示すとおり、本実施形態の永久磁石3は、矩形形状の永久磁石3pを組み合わせて構成されており、永久磁石3pの回転子径方向外側(外周側)の辺(線)の包絡線が外周側に凸な略円弧形状を示すように配置される。
【0091】
このように、略円弧形状の永久磁石3を矩形形状の永久磁石片を組み合わせて構成することにより、円弧形状あるいは円筒形状の永久磁石を製造する必要がなくなるので、永久磁石の製造コストを低減することができる。なお、両図中の磁石嵌装孔30において、永久磁石3p間に形成される楔型部分は回転子コア12上に形成される空間部分である。当該空間部分はフラックスバリアとして機能してもよいし、所望の透磁率の弾性材料等で埋めてもよい。
【0092】
以上、第4実施形態の可変磁束型回転電機400によれば、永久磁石3pは、回転子2の軸方向に垂直な面の形状が矩形形状となるように構成される。これにより、略円弧形状の永久磁石3を矩形形状の永久磁石3pを組み合わせて構成することができるので、円弧形状あるいは円筒形状の永久磁石を製造する必要がなくなり、永久磁石の製造コストを低減することができる。
【0093】
[第5実施形態]
以下、第5実施形態の可変磁束型回転電機500について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には、同じ指示番号を付して説明を省略する。
【0094】
本実施形態の可変磁束型回転電機500において一磁極を構成する永久磁石3は、上記実施形態で説明したような特性の違いを有しながら、回転子2の軸方向に垂直な平面から見た形状が台形形状の永久磁石3qが複数個組み合わせて構成される。なお、本実施形態にかかる永久磁石3を構成する永久磁石片はその形状に特徴を有するため、上記実施形態で述べた特性(配向方向、残留磁束密度、および保磁力の少なくとも一つ)の違いによらず、一律に永久磁石3qと称する。
【0095】
図24は、五つ(奇数個)の永久磁石3qから構成される永久磁石3を示す図である。
図25は、四つ(偶数個)の永久磁石3qから構成される永久磁石3を示す図である。これらの図が示すとおり、本実施形態の永久磁石3は、回転子径方向外側(外周側)の辺が内周側の辺よりも長い台形形状の永久磁石3qを組み合わせることにより疑似的な円弧形状を形成するように構成される。
【0096】
このように、永久磁石3を台形形状の永久磁石片を組み合わせて構成することにより、円弧形状あるいは円筒形状の永久磁石を製造する際に強いられたサイズや形状に係る制限がなくなるので、例えば永久磁石3の回転子径方向厚みを厚くする等して可変磁束型回転電機500の出力およびトルクを向上させることができる。
【0097】
また、台形形状の永久磁石3qであれば、隣接する永久磁石3q間に空間を生じさせることなく一磁極を形成することができるので、空間起磁力波形を正弦波形状により近づけて、損失を低減させることができる。このような台形形状の永久磁石3qを形成する方法について、
図26を参照して説明する。
【0098】
図26は、台形形状の永久磁石3qを形成する方法を説明する図である。
図26(a)は、磁石嵌装孔30に対して奇数個の永久磁石3qを形成する方法を示す図であり、
図26(b)は、磁石嵌装孔30に対して偶数個の永久磁石3qを形成する方法を示す図である。
【0099】
図26(a)の左側には、理想的な円弧上曲線を有する磁石嵌装孔30を示し、右側には、奇数個の永久磁石3qが適用される場合の本実施形態の磁石嵌装孔30が示されている。
図26(b)も同様に、左側には、理想的な円弧上曲線を有する磁石嵌装孔30を示し、右側には、偶数個の永久磁石3qが適用される場合の本実施形態の磁石嵌装孔30が示されている。本実施形態の磁石嵌装孔30に複数個嵌装されて永久磁石3を構成する永久磁石3qは、等脚台形を示し、その外周側(より長い方)の辺(長辺)の長さをX、長辺と脚とで作る内角をθとすると、Xおよびθは、次式(1)により算出される。
【0100】
【0101】
ただし、上記式(1)の変数は、
図26を参照して以下のように設定される。すなわち、nは、一磁極に対応する磁石嵌装孔30に嵌装される永久磁石3qの個数を示す。φは、周方向両端部に位置する二つの永久磁石3qのそれぞれの外形側の脚を内径側(図の下側)に伸ばした線が交わってできる点pと、図の左側に示す磁石嵌装孔30の外周側の辺(円弧状曲線)とで形成される扇型の中心角の角度を示す。rは、当該扇型の半径の長さを示す。
【0102】
このように、永久磁石3qの形状を定式化することにより、同様の台形形状を有する永久磁石3qを複数個用いて形成される疑似的な円弧形状磁石を容易に製造することができる。これにより、円弧形状あるいは円筒形状の永久磁石を製造する必要がなく、台形形状の永久磁石片を用いて略円弧形状の永久磁石3を構成することができるので、永久磁石3の製造コストを低減することができる。
【0103】
以上、第5実施形態の可変磁束型回転電機500によれば、永久磁石3qは、回転子2の軸方向に垂直な面の形状が回転子2の外周側の辺を長辺とする台形形状となるように構成される。これにより、台形形状の永久磁石片を用いて略円弧形状の永久磁石3を構成することができるので、永久磁石3の製造コストを低減することができる。
【0104】
また、第5実施形態の可変磁束型回転電機500によれば、永久磁石3qの形状を上記(1)式を用いて設定することができる。これにより、永久磁石3qの形状を定式化することができるので、同様の台形形状を有する永久磁石3qを複数個用いて形成される疑似的な円弧形状磁石を容易に製造することができる。
【0105】
以上、本発明の実施形態、及びその変形例について説明したが、上記実施形態及び変形例は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態、及びその変形例は、適宜組み合わせ可能である。
【0106】
また、上述の説明において、永久磁石片の保磁力および残留磁束密度の大小を規定するために等号付き不等号「≧」を用いているが、当該等号付き不等号「≧」において等号が成立するのは、永久磁石3を構成する永久磁石片が少なくとも2種類の異なる磁気特性を含んでいることを前提とする。
【符号の説明】
【0107】
1…固定子
2…回転子
3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3j、3k、3l、3m、3n、3o、3p、3q…永久磁石
5…フラックスバリア
12…回転子コア
30…磁石嵌装孔