(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】固定式等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/224 20110101AFI20240325BHJP
【FI】
F16D3/224
(21)【出願番号】P 2019072801
(22)【出願日】2019-04-05
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】船橋 雅司
(72)【発明者】
【氏名】藤尾 輝明
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-104432(JP,A)
【文献】特開2010-019399(JP,A)
【文献】特開2006-336773(JP,A)
【文献】特開2008-75820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/20
F16D 3/22-3/229
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状内周面に概ね軸方向に延びる複数のトラック溝が形成され、軸方向に離間する開口側と奥側を有する外側継手部材と、球状外周面に概ね軸方向に延びる複数のトラック溝が前記外側継手部材のトラック溝に対向して形成された内側継手部材と、対向する各トラック溝間に組込まれたトルク伝達ボールと、このトルク伝達ボールをポケットに保持し、前記外側継手部材の球状内周面に案内される球状外周面と前記内側継手部材の球状外周面に案内される球状内周面が形成された保持器とからなる固定式等速自在継手であって、前記外側継手部材のトラック溝の軌道中心線(X)は、継手中心(O)に対して軸方向にオフセットのない曲率中心をもつ円弧状部分と、この円弧状部分とは異なる形状の部分とからなり、前記異なる形状の部分が直線状であり、前記円弧状部分と前記異なる形状の部分とが接続点(J)において
接線として接続し、前記接続点(J)が、前記継手中心(O)より前記外側継手部材の開口側に位置し、前記軌道中心線(X)と継手中心(O)を含む平面(M)が継手の軸線(N-N)に対して傾斜すると共に、その傾斜方向が周方向に隣り合う前記トラック溝で互いに反対方向に形成されており、前記内側継手部材のトラック溝の軌道中心線(Y)は、作動角0°の状態で継手中心(O)を含み継手の軸線(N-N)に直交する平面(P)を基準として、前記外側継手部材の対となるトラック溝の軌道中心線(X)と鏡像対称に形成された固定式等速自在継手において、
大きな作動角を取ったときに、前記内側継手部材のトラック溝と前記トルク伝達ボールとが接触点を失う作動角(θ2)が、前記外側継手部材のトラック溝と前記トルク伝達ボールとが接触点を失う作動角(θ1)より大きいことを特徴とする固定式等速自在継手。
【請求項2】
前記内側継手部材のトラック溝と前記トルク伝達ボールとが接触点を失う作動角(θ2)が、前記外側継手部材のトラック溝と前記トルク伝達ボールとが接触点を失う作動角(θ1)より3°以上大きいことを特徴とする請求項1に記載の固定式等速自在継手。
【請求項3】
前記内側継手部材のトラック溝と前記トルク伝達ボールとが接触点を失う作動角(θ2)の上限を、前記トルク伝達ボールが前記保持器のポケットと接触点が確保できる値としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固定式等速自在継手。
【請求項4】
前記トルク伝達ボールの個数を8個以上としたことを特徴とする請求項1~3のいずれ
か一項に記載の固定式等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固定式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械の動力伝達系を構成する等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸をトルク伝達可能に連結すると共に、前記二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達することができる。等速自在継手は、角度変位のみを許容する固定式等速自在継手と、角度変位および軸方向変位の両方を許容する摺動式等速自在継手とに大別され、例えば、自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトにおいては、デフ側(インボード側)に摺動式等速自在継手が使用され、駆動車輪側(アウトボード側)には固定式等速自在継手が使用される。
【0003】
自動車のドライブシャフト用の固定式等速自在継手に求められる機能として、車輪の転舵に合わせた高い作動角と、それに伴う、高作動角時の強度が重要である。従来、最大作動角は、ツェッパ型等速自在継手(BJタイプ)で47°、アンダーカットフリー型等速自在継手(UJタイプ)で50°が一般的であるが、自動車の旋回性の向上や小回り性の向上の観点から、50°を超える要求が増えつつある。それらの要求に応えるために、種々の構造の固定式等速自在継手が提案されている。
【0004】
特許文献1では、従来型の固定式等速自在継手において、最大作動角の際、トルク伝達ボール(以下、単にボールともいう)が外側継手部材の開口側に最も移動する位相角(位相角0°)のボールの中心と継手中心との軸平行距離と、ボールの中心と外側継手部材の開口円錐面との軸平行距離の比を2.9未満とすることで、最大作動角時においても機能を維持することができるとしている。さらに作動角を取ってボールが外側継手部材のトラック溝から接触点を失うまで突出した場合において、前記比を2.2未満とすることで機能性を維持できるとしている。
【0005】
特許文献2では、トラック溝との接触点から外れたボールが外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝のどちらかに戻る際の対策として、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝のどちらかのトラック溝の軸方向端部をボールがトルク伝達しないような形状とすることを提案している。これにより、外側継手部材の端部の損傷を抑制することができるとしている。
【0006】
特許文献3には、最大作動角が従来の作動角(50°)を超える角度に設定された固定式等速自在継手ではないが、外側継手部材と内側継手部材のトラック溝の軌道中心線が継手中心Oに対して軸方向にオフセットのない曲率中心をもつ円弧状部分を備え、この円弧状の軌道中心線が周方向の反対方向に傾斜した構造を備えた高効率な固定式等速自在継手が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4885236号公報
【文献】米国特許出願公開第2009/0269129
【文献】特開2013-104432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
固定式等速自在継手において最大作動角が従来の作動角(50°)を超える角度で使用される場合、中間シャフトが外側継手部材と干渉しないように、外側継手部材の長さを短くする必要があるが、その結果、外側継手部材のトラック溝が短くなり、位相角0°付近のボールはトラック溝から外れて接触点を失うことになる。
【0009】
特許文献1では、最大作動角の際のボールが最も外側継手部材の開口側端部から出てくる位相(位相角0°)のボール中心と継手中心との軸方向距離と、ボール中心と外側継手部材の開口円錐面との軸方向距離との比率を設定することで、保持器および外側継手部材からボールの脱落を防止できるとしているが、内側継手部材のトラック溝が奥側に残存するので、ボールが内側継手部材のトラック溝に沿って保持器の外径方向に移動するため、例えば、S字状あるいは直線状等のトラック溝形状によっては、ボールと保持器の接触点を失う可能性がある。そのため、ボールの拘束がなくなり異音が発生することが判明した。
【0010】
特許文献2では、外側継手部材のトラック溝との接触点を失ったボールが、再び外側継手部材のトラック溝に戻る際にボールにトルク伝達しない(荷重を受けない)ようなトラック溝形状とすることで、外側継手部材の開口側端部の損傷を抑制することができるとしている。しかし、ボールが再び外側継手部材のトラック溝に戻る際にボールに荷重を受けないようなトラック溝形状とすることで、他の位相のボールが荷重を負担することになるが、特に外側継手部材の最も奥側に移動したボール、すなわち、位相角180°のボールが、この分の荷重の大半を負担することになるため、ボールに負荷される荷重が増大し、外側継手部材および内側継手部材に早期に損傷を与える恐れがあることが判明した。
【0011】
特許文献3の固定式等速自在継手は、トルク損失および発熱が少なく高効率ではあるが、従来の作動角(50°)を超える高作動角で使用される場合には未知の問題が残っている。この問題について、後述するように検討および検証を行った。
【0012】
上記のような問題に鑑み、本発明は、最大作動角が従来の作動角(50°)を超える角度に設定され、高作動角を取った際に、ボールが外側継手部材から出てくる位相(位相角0°)領域で接触点を失う作動形態の固定式等速自在継手において、等速性、伝達効率、耐久性を確保できる固定式等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前述した問題について種々の検討と検証を行い、以下の知見と着想を得たことにより、本発明に至った。
(1)ボールが接触点を失った場合の継手内の力のバランスの崩れ
固定式等速自在継手において従来の作動角(50°)を超える高作動角で使用される場合、前述したように、外側継手部材のトラック溝が短くなり、位相角0°付近のボールはトラック溝から外れて接触点を失うことになる。そして、ボールがトラック溝との接触点を失う位相範囲では、ボールと外側継手部材のトラック溝および内側継手部材のトラック溝との接触力や、ボールから保持器に作用する力が失われることになり、他のボールでその荷重を受け持つことになり、内部の力のバランスが崩れる。特に、トラック溝の曲率中心が軸方向にオフセットした(以下、軸方向トラックオフセットタイプともいう)ツェッパ型等速自在継手(BJタイプ)やアンダーカットフリー型等速自在継手(UJタイプ)では、等速自在継手内の力のバランスが大きく崩れてしまうことが判明した。
【0014】
(2)継手内の力のバランス崩れついての考察
軸方向トラックオフセットタイプの固定式等速自在継手は、外側継手部材のトラック溝の曲率中心が継手中心Oに対して外側継手部材の開口側にオフセットし、一方、内側継手部材のトラック溝の曲率中心は、外側継手部材のトラック溝の曲率中心とは逆方向にオフセットしており、ボールは、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に形成される開口側に開く楔状空間に配置され、保持器によって位置決めされる。
【0015】
常用角程度の小さな角度でトルクが負荷されると、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との接触力の分力により、各ボールは、同じ方向に保持器を押すので、保持器の球状外周面、球状内周面は、それぞれ、外側継手部材の球状内周面、内側継手部材の球状外周面と強く接触することになる。中角度から高角度でトルクが負荷されると、各ボールと外側継手部材のトラック溝および内側継手部材のトラック溝との接触力に強弱が発生し、各ボールが保持器を押す力にも強弱が発生するため、保持器に作用するモーメントの釣り合いも二等分平面から若干ずれることになる。さらに、ボールが外側継手部材のトラック溝との接触点を失う高作動角では、荷重を分担するボールの数が減少するため、保持器に掛かるモーメントのバランスが大きく変化し、保持器が二等分平面から大きくずれる。それに伴い、等速性および伝達効率が低下することに加えて、保持器の強度が大幅に低下する恐れがあるということが考察された。
【0016】
(3)着目点と検証
上記の考察結果より、ボールから保持器に作用する力のバランスに優れた交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手に着目した。交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手は、外側継手部材のトラック溝が軸方向にオフセットがない曲率中心をもつ円弧状で形成され、かつ継手の軸線に対して周方向に傾斜すると共に、隣り合うトラック溝間で互いに傾斜方向が逆方向に形成されており、内側継手部材のトラック溝の軌道中心線が、外側継手部材のトラック溝の軌道中心線に対して鏡像対称であり、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝の間の交差部にボールが配置される。
【0017】
交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手では、ボールがトラック溝と接触状態となる小さな角度の常用角や中角度から高角度の領域まで、トルクが負荷されると、基本的に隣り合うトラック溝で互いに逆方向にボールが保持器を押す力が発生する構造のため、ボールの作用による保持器のモーメントと力が釣り合う。中角度から高角度の領域では、各ボールと外側継手部材のトラック溝および内側継手部材のトラック溝との接触力に強弱が発生するが、従来の軸方向トラックオフセット式に比べ、ボールの作用による保持器のモーメントと力が釣り合うため、保持器は二等分平面の近傍に安定する。さらに、ボールが外側継手部材のトラック溝との接触点を失う高作動角でも、従来の軸方向トラックオフセット式に比べ、依然としてボールの作用による保持器のモーメントと力が釣り合う方向に働くため、保持器は二等分平面から大きくずれないことが判明した。
【0018】
以上の検証結果より、交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手は、ボールが外側継手部材のトラック溝との接触点を失った状態下でも、保持器が二等分平面から大きくずれることなく、等速性および伝達効率の低下や内部力の変化は最小限に止まるという結論に至った。
【0019】
(4)新たな着想
最大作動角が従来の作動角(50°)を超える角度に設定され、高作動角を取った際に、ボールが外側継手部材から出てくる位相角(位相角0°付近)で接触点を失う作動形態の固定式等速自在継手として、交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手をベースとすることに到達した後、種々検討した結果、交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手においてボールが接触点を失う状態下で、保持器に対してボールが外径方向に押し出される移動量を抑制することにより、保持器からのボールの脱落を防止するという着想と共に、ボールが外側継手部材のトラック溝に戻る際の内部力の増大を抑え外側継手部材の開口側端部の損傷を抑制するという着想により、本発明に至った。
【0020】
球状内周面に概ね軸方向に延びる複数のトラック溝が形成され、軸方向に離間する開口側と奥側を有する外側継手部材と、球状外周面に概ね軸方向に延びる複数のトラック溝が前記外側継手部材のトラック溝に対向して形成された内側継手部材と、対向する各トラック溝間に組込まれたトルク伝達ボールと、このトルク伝達ボールをポケットに保持し、前記外側継手部材の球状内周面に案内される球状外周面と前記内側継手部材の球状外周面に案内される球状内周面が形成された保持器とからなる固定式等速自在継手であって、前記外側継手部材のトラック溝の軌道中心線(X)は、継手中心(O)に対して軸方向にオフセットのない曲率中心をもつ円弧状部分と、この円弧状部分とは異なる形状の部分とからなり、前記異なる形状の部分が直線状であり、前記円弧状部分と前記異なる形状の部分とが接続点(J)において接線として接続し、前記接続点(J)が、前記継手中心(O)より前記外側継手部材の開口側に位置し、前記軌道中心線(X)と継手中心(O)を含む平面(M)が継手の軸線(N-N)に対して傾斜すると共に、その傾斜方向が周方向に隣り合う前記トラック溝で互いに反対方向に形成されており、前記内側継手部材のトラック溝の軌道中心線(Y)は、作動角0°の状態で継手中心(O)を含み継手の軸線(N-N)に直交する平面(P)を基準として、前記外側継手部材の対となるトラック溝の軌道中心線(X)と鏡像対称に形成された固定式等速自在継手において、大きな作動角を取ったときに、前記内側継手部材のトラック溝と前記トルク伝達ボールとが接触点を失う作動角(θ2)が、前記外側継手部材のトラック溝と前記トルク伝達ボールとが接触点を失う作動角(θ1)より大きいことを特徴とする。
【0021】
上記の構成により、最大作動角が従来の作動角(50°)を超える角度に設定され、高作動角を取った際に、ボールが外側継手部材から出てくる位相角(0°位相角付近)で接触点を失う作動形態の固定式等速自在継手において、等速性、伝達効率、耐久性を確保できる固定式等速自在継手を実現することができる。
【0022】
上記の外側継手部材のトラック溝の軌道中心線Xが、継手中心Oに対して軸方向にオフセットのない曲率中心をもつ円弧状部分と、この円弧状部分とは異なる形状の部分とからなり、円弧状部分と異なる形状の部分とが接続点Jにおいて接線として接続し、接続点Jが、前記継手中心Oより前記外側継手部材の開口側に位置する。これにより、等速性、伝達効率、耐久性を確保すると共に、接触点を確保するのに有効なトラック溝の長さや高作動角時のくさび角の大きさを調整することができる。
【0023】
上記の異なる形状の部分が直線状であることをことにより、有効なトラック長さを増加させることができる。
【0024】
上記の内側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う作動角θ2が、外側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う作動角θ1より3°以上大きいことが好ましい。これにより、内側継手部材の軽量コンパクトとしつつ、ボールが外側継手部材のトラック溝に戻る際にボールを内側継手部材のトラック溝で荷重を受けることができ、内部力を増大させることがなく、外側継手部材の開口側の端部の損傷を抑制でき、強度、耐久性を向上させることができる。
【0025】
上記の内側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う作動角θ2の上限を、トルク伝達ボールが保持器のポケットと接触点が確保できる値とすることが好ましい。これにより、ボールが保持器のポケットに確実に保持され、異音の発生を抑制することができる。
【0026】
上記のトルク伝達ボールの個数を8個以上としたことにより、高効率で軽量コンパクト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、最大作動角が従来の作動角(50°)を超える角度に設定され、高作動角を取った際に、ボールが外側継手部材から出てくる位相角(位相角0°付近)で接触点を失う作動形態の固定式等速自在継手において、等速性、伝達効率、耐久性を確保できる固定式等速自在継手を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(a)図は、本発明の一実施形態に係る固定式等速自在継手の縦断面図で、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【
図2】(a)図は、
図1(a)の外側継手部材の縦断面図で、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【
図3】(a)図は、
図1(a)の内側継手部材の正面図で、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【
図4】
図1(a)のP-P線上の1個のトルク伝達ボールとトラック溝を拡大した横断面図である。
【
図5】
図1(a)の固定式等速自在継手と従来の最大作動角を有する交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手のそれぞれの縦断面を対比した図である。
【
図6】(a)図は、
図1(a)、
図1(b)の固定式等速自在継手が最大作動角を取ったときの縦断面図で、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【
図7】
図6(a)のE部を拡大した縦断面図である。
【
図8】最大作動角において、トルク伝達ボールが外側継手部材のトラック溝との接触点を失う範囲を
図1(b)に表示した図である。
【
図9】
図8の外側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う範囲がトラック溝の傾斜方向により異なる状態を示す外側継手部材の内周面の展開図である。
【
図10】(a)図は、
図1(a)、
図1(b)の固定式等速自在継手が大きな作動角を取ったときに、外側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う状態を示す縦断面図で、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【
図11】
図10の外側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う状態を示す外側継手部材の内周面の展開図である。
【
図13】(a)図は、
図1(a)、
図1(b)の固定式等速自在継手が大きな作動角を取ったときに、内側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う状態を示す縦断面図で、(b)図は、(a)図の右側面図である。
【
図14】
図13(a)、
図13(b)の作動角を取ったときの外側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとの位置関係を示す外側継手部材の内周面の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態に係る固定式等速自在継手を
図1~
図15に基づいて説明する。
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る固定式等速自在継手の縦断面図で、
図1(b)は、
図1(a)の右側面図である。
図2(a)は、
図1(a)の外側継手部材の縦断面図で、
図2(b)は、
図2(a)の右側面図である。
図3(a)は、
図1(a)の内側継手部材の
正面図で、
図3(b)は、
図3(a)の右側面図である。
図1(a)、
図1(b)に示すように、本実施形態の固定式等速自在継手1は、交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手であり、外側継手部材2、内側継手部材3、トルク伝達ボール(以下、単にボールともいう)4および保持器5を主な構成とする。外側継手部材2の球状内周面6には8本のトラック溝7が形成され、内側継手部材3の球状外周面8には、外側継手部材2のトラック溝7と対向する8本のトラック溝9が形成されている。外側継手部材2の球状内周面6と内側継手部材3の球状外周面8との間に、ボール4を保持する保持器5が配置されている。保持器5の球状外周面12は外側継手部材2の球状内周面6に摺動自在に嵌合し、保持器5の球状内周面13は内側継手部材3の球状外周面8に摺動自在に嵌合している。
【0030】
外側継手部材2の球状内周面6と内側継手部材3の球状外周面8の曲率中心は、それぞれ継手中心Oに形成され、外側継手部材2の球状内周面6と内側継手部材3の球状外周面8にそれぞれ嵌合する保持器5の球状外周面12と球状内周面13の曲率中心も、それぞれ継手中心Oに位置する。
【0031】
内側継手部材3の内径孔10には、雌スプライン(スプラインはセレーションを含む。以下同じ。)11が形成され、中間シャフト14〔
図6(a)参照〕の端部に形成された雄スプライン15を雌スプライン11に嵌合し、トルク伝達可能に連結される。内側継手部材3と中間シャフト14は、止め輪16により軸方向に位置決めされている。
【0032】
図1(a)、
図1(b)、
図2(a)、
図2(b)、
図3(a)および
図3(b)に示すように、外側継手部材2および内側継手部材3のそれぞれ8本のトラック溝7、9は概ね軸方向に延びる。トラック溝7、9は、継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝7A、7Bおよび9A、9Bで互いに反対方向に形成されている。そして、外側継手部材2および内側継手部材3の対となるトラック溝7A、9Aおよび7B、9Bの各交差部に8個のボール4が配置されている。
図1(a)では、トラック溝7、9については、それぞれ、
図2(a)に示す平面Mおよび
図3(a)に示す平面Qにおける断面を傾斜角γ=0°まで回転させた状態で示している。作動角0°の状態では、継手の軸線N-Nは、外側継手部材の軸線No-Noおよび内側継手部材の軸線Ni-Niでもある。
【0033】
特許請求の範囲における「外側継手部材のトラック溝の軌道中心線(X)が、継手中心(O)に対して軸方向にオフセットのない曲率中心をもつ円弧状部分と、この円弧状部分とは異なる形状の部分とからなり、円弧状部分と異なる形状の部分とが接続点(J)において滑らかに接続し、接続点(J)が、前記継手中心(O)より前記外側継手部材の開口側に位置する」構成の一例として、本実施形態の固定式等速自在継手を
図1(a)に基づいて説明する。上述した外側継手部材のトラック溝の軌道中心線Xが、継手中心Oに対して軸方向にオフセットのない曲率中心をもつ円弧状部分と、この円弧状部分とは異なる形状の部分とからなるので、等速性、伝達効率、耐久性を確保すると共に、接触点を確保するに有効なトラック溝の長さ、高作動角時のくさび角の大きさを調整することができる。
【0034】
図1(a)に示すように、外側継手部材2のトラック溝7は軌道中心線Xを有し、トラック溝7は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状の軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部7aと、直線状の軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7bとからなり、第1のトラック溝部7aの軌道中心線Xaに第2のトラック溝部7bの軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。上記直線状の部分は、前述した円弧状部分と異なる形状の部分となる。第1のトラック溝部7aの軌道中心線Xaが、本明細書および特許請求の範囲における外側継手部材のトラック溝の軌道中心線Xが少なくとも備えている「継手中心(O)に対して軸方向にオフセットのない曲率中心をもつ円弧状部分」を意味する。
【0035】
概ね軸方向に延びるトラック溝の形態、形状を的確に示すために、本明細書では、軌道中心線という用語を用いて説明する。ここで、軌道中心線とは、トラック溝に配置されたボールがトラック溝に沿って移動するときのボールの中心が描く軌跡を意味する。
【0036】
図1(a)に示すように、内側継手部材3のトラック溝9は軌道中心線Yを有し、トラック溝9は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状の軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9aと、直線状の軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9bとからなり、第1のトラック溝部9aの軌道中心線Yaに第2のトラック溝部9bの軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。外側継手部材2と内側継手部材3の第1のトラック溝部7a、9aの軌道中心線Xa、Yaの各曲率中心を、継手中心O、すなわち継手の軸線N-N上に配置したことにより、トラック溝深さを均一にすることができ、かつ加工を容易にすることができる。
【0037】
図2(a)、
図2(b)に基づき、外側継手部材2のトラック溝7が継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜している状態を詳細に説明する。外側継手部材2のトラック溝7は、その傾斜方向の違いから、トラック溝7A、7Bの符号を付す。
図2(a)に示すように、トラック溝7Aの軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mは、継手の軸線N-Nに対して角度γだけ傾斜している。そして、トラック溝7Aに周方向に隣り合うトラック溝7Bは、図示は省略するが、トラック溝7Bの軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mが、継手の軸線N-Nに対して、トラック溝7Aの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。
【0038】
本実施形態では、トラック溝7Aの軌道中心線Xの全域、すなわち、第1のトラック溝部7aの軌道中心線Xaおよび第2のトラック溝部7bの軌道中心線Xbの両方が平面M上に形成されている。
【0039】
ここで、トラック溝の符号について補足する。外側継手部材2のトラック溝全体を指す場合は符号7を付し、その第1のトラック溝部に符号7a、第2のトラック溝部に符号7bを付す。さらに、傾斜方向の違うトラック溝を区別する場合には符号7A、7Bを付し、それぞれの第1のトラック溝部に符号7Aa、7Ba、第2のトラック溝部に符号7Ab、7Bbを付す。後述する内側継手部材3のトラック溝についても、同様の要領で符号を付している。
【0040】
次に、
図3(a)、
図3(b)に基づき、内側継手部材3のトラック溝9が継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜している状態を詳細に説明する。内側継手部材3のトラック溝9は、その傾斜方向の違いから、トラック溝9A、9Bの符号を付す。
図3(a)に示すように、トラック溝9Aの軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qは、継手の軸線N-Nに対して角度γだけ傾斜している。そして、トラック溝9Aに周方向に隣り合うトラック溝9Bは、図示は省略するが、トラック溝9Bの軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qが、継手の軸線N-Nに対して、トラック溝9Aの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。傾斜角γは、固定式等速自在継手1の作動性および内側継手部材3のトラック溝の最も接近した側の球面幅Iを考慮し、4°~12°にすることが好ましい。
【0041】
また、前述した外側継手部材2と同様、本実施形態では、トラック溝9Aの軌道中心線Yの全域、すなわち、第1のトラック溝部9aの軌道中心線Yaおよび第2のトラック溝部9bの軌道中心線Ybの両方が平面Q上に形成されている。内側継手部材3のトラック溝9の軌道中心線Yは、作動角0°の状態で継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pを基準として、外側継手部材2の対となるトラック溝7の軌道中心線Xと鏡像対称に形成されている。
【0042】
図1(a)に基づいて、外側継手部材2および内側継手部材3の縦断面より見たトラック溝の詳細を説明する。
図1(a)では、前述したように、トラック溝7、9については、それぞれ、
図2(a)に示す平面Mおよび
図3(a)に示す平面Qにおける断面を傾斜角γ=0°まで回転させた状態で示している。すなわち、外側継手部材2については、
図2(a)の外側継手部材2のトラック溝7Aの軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mで見た断面図である。したがって、厳密には、継手の軸線N-Nを含む平面における縦断面図ではなく、角度γだけ傾斜した断面を示している。
図1(a)には、外側継手部材2のトラック溝7Aが示されているが、トラック溝7Bは、傾斜方向がトラック溝7Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝7Aと同じであるので、説明は省略する。外側継手部材2の球状内周面6にはトラック溝7Aが概ね軸方向に沿って形成されている。
【0043】
トラック溝7Aは軌道中心線Xを有し、トラック溝7Aは、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状の軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部7Aaと、直線状の軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7Abとからなる。そして、第1のトラック溝部7Aaの軌道中心線Xaの開口側の端部Jにおいて、第2のトラック溝部7Abの直線状の軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。すなわち、端部Jが第1のトラック溝部7Aaと第2のトラック溝7Abとの接続点である。端部Jは継手中心Oよりも開口側に位置するので、第1のトラック溝部7Aaの軌道中心線Xaの開口側の端部Jにおいて接線として接続される第2のトラック溝部7Abの直線状の軌道中心線Xbは、開口側に行くにつれて継手の軸線N-Nに接近するように形成されている。これにより、有効なトラック長さを増加させると共に、くさび角が過大になるのを抑制することができる。
【0044】
図1(a)に示すように、端部Jと継手中心Oとを結ぶ直線をSとする。トラック溝7Aの軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面M上に投影された継手の軸線N’-N’は継手の軸線N-Nに対しγだけ傾斜し、軸線N’-N’の継手中心Oにおける垂線Kと直線Sとがなす角度をβ’とする。上記の垂線Kは作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面P上にある。したがって、本発明でいう直線Sが平面Pに対してなす角度βは、sinβ=sinβ’×cosγの関係になる。
【0045】
同様に、
図1(a)に基づいて、内側継手部材3の縦断面よりトラック溝の詳細を説明する。図示は、
図3(a)の内側継手部材3のトラック溝9Aの軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qで見た断面図である。したがって、厳密には、継手の軸線N-Nを含む平面における縦断面図ではなく、角度γだけ傾斜した断面を示している。
図1(a)には、内側継手部材3のトラック溝9Aが示されているが、トラック溝9Bは、傾斜方向がトラック溝9Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝9Aと同じであるので、説明は省略する。内側継手部材3の球状外周面8にはトラック溝9Aが概ね軸方向に沿って形成されている。
【0046】
トラック溝9Aは軌道中心線Yを有し、トラック溝9Aは、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状の軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9Aaと、直線状の軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9Abとからなる。そして、第1のトラック溝部9Aaの軌道中心線Yaの奥側の端部J’において、第2のトラック溝部9Abの軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。すなわち、端部J’が第1のトラック溝部9Aaと第2のトラック溝9Abとの接続点である。端部J’は継手中心Oよりも奥側に位置するので、第1のトラック溝部9Aaの軌道中心線Yaの奥側の端部J’において接線として接続される第2のトラック溝部9Abの直線状の軌道中心線Ybは、奥側に行くにつれて継手の軸線N-Nに接近するように形成されている。これにより、有効なトラック長さを増加させると共に、くさび角が過大になるのを抑制することができる。
【0047】
図1(a)に示すように、端部J’と継手中心Oとを結ぶ直線をS’とする。トラック溝9Aの軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Q上に投影された継手の軸線N’-N’は継手の軸線N-Nに対しγだけ傾斜し、軸線N’-N’の継手中心Oにおける垂線Kと直線S’とがなす角度をβ’とする。上記の垂線Kは作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面P上にある。したがって、直線S’が作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度βは、sinβ=sinβ’×cosγの関係になる。
【0048】
次に、直線S、S’が作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pに対してなす角度βについて説明する。作動角θを取ったとき、外側継手部材2および内側継手部材3の継手中心Oを含む平面Pに対して、ボール4がθ/2だけ移動する。使用頻度が多い作動角の1/2より角度βを決め、使用頻度が多い作動角の範囲においてボール4が接触するトラック溝の範囲を決める。ここで、使用頻度が多い常用角について定義する。継手の常用角とは、水平で平坦な路面上で1名乗車時の自動車において、ステアリングを直進状態にした時にフロント用ドライブシャフトの固定式等速自在継手に生じる作動角をいう。常用角は、通常、2°~15°の間で車種ごとの設計条件に応じて選択・決定される。
【0049】
上記の角度βにより、
図1(a)において、第1のトラック溝部7Aaの軌道中心線Xaの端部Jは、常用角時に軸方向に沿って開口側に最も移動したときのボールの中心位置となる。同様に、内側継手部材3では、第1のトラック溝部9Aaの軌道中心線Yaの端部J’は、常用角時に軸方向に沿って奥側に最も移動したときのボールの中心位置となる。このように設定されているので、常用角の範囲では、ボール4は、外側継手部材2および内側継手部材3の第1のトラック溝部7Aa、9Aaと、傾斜方向が反対の7Ba、9Baに位置するので、保持器5の周方向に隣り合うポケット部5aにボール4から相反する方向の力が作用し、保持器5は継手中心Oの位置で安定する〔
図1(a)参照〕。このため、保持器5の球状外周面12と外側継手部材2の球状内周面6との接触力、および保持器5の球状内周面13と内側継手部材3の球状外周面8との接触力が抑制され、トルク損失や発熱が抑えられ、耐久性が向上する。
【0050】
高作動角の範囲では、周方向に配置されたボール4が第1のトラック溝部7Aa、9Aaと第2のトラック溝部7Ab、9Abに一時的に分かれて位置する。これに伴い、保持器5と外側継手部材2との球面接触部12、6および保持器5と内側継手部材3との球面接触部13、8の接触力が発生するが、従来の軸方向トラックオフセット式に比べ、ボール4の作用による保持器5のモーメントと力が釣り合うため、保持器5は二等分平面の近傍に安定する。また、高作動角の範囲は使用頻度が少ないため、本実施形態の固定式等速自在継手1は、総合的にみるとトルク損失や発熱を抑制できる。したがって、トルク損失および発熱が少なく高効率な固定式等速自在継手を実現することができる。
【0051】
図4は、
図1(a)のP-P線上の1個のボールとトラック溝を拡大した横断面図である。ただし、トラック溝7、9については、それぞれ、
図2(a)に示す平面Mおよび
図3(a)に示す平面Qにおける断面を傾斜角γ=0°まで回転させた状態で示している。外側継手部材2のトラック溝7および内側継手部材3のトラック溝9の横断面形状は楕円形状やゴシックアーチ形状とされており、
図4に示すように、ボール4は、外側継手部材2のトラック溝7と2点C1、C2でアンギュラコンタクトし、内側継手部材3のトラック溝9と2点C3、C4でアンギュラコンタクトしている。ボール4の中心Obと各接触点C1、C2、C3、C4を通る直線と、ボール4の中心Obと継手中心O〔
図1(a)参照〕を通る直線がなす角度(接触角α)は30°以上に設定することが好ましい。尚、トラック溝7、9の横断面形状を円弧形状とし、トラック溝7、9とボール4との接触をサーキュラコンタクトとしてもよい。
【0052】
本実施形態の固定式等速自在継手1の全体的な構成は以上のとおりである。本実施形態の固定式等速自在継手1は、50°を大幅に超える最大作動角に設定されているが、その特徴的な構成は次のとおりである。
(1)交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手において、最大作動角を取ったときにボールが接触点を失う作動形態を実現したことである。
(2)加えて、大きな作動角を取ったときに、内側継手部材3のトラック溝9とボール4とが接触点を失う作動角θ2を、外側継手部材2のトラック溝7とボール4とが接触点を失う作動角θ1より大きく設定したことである。
【0053】
上記の構成により、交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手において、最大作動角を取ったときにボールが接触点を失う作動形態としたので、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7との接触点を失う高作動角でも、ボール4の作用による保持器5のモーメントと力が釣り合う方向に働くため、保持器5は二等分平面から大きくずれることがなく、等速性および伝達効率の低下や内部力の変化を最小限にとどめることができるという交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手がベースに有する有利な特徴的構成(1)に加えて、上記の特徴的な構成(2)が相俟って、最大作動角が従来の作動角(50°)を超える角度に設定され、ボールが接触点を失う作動形態を有する固定式等速自在継手の等速性および伝達効率や内部力の変化、強度、耐久性を飛躍的に向上させることができる。
【0054】
まず、本実施形態の固定式等速自在継手1の特徴的な構成(1)について、
図5に基づいて説明する。
図5の中心線(継手の軸線)に対して、上側半分が本実施形態の固定式等速自在継手1の縦断面図で、下側半分が従来の最大作動角を有する8個ボールを使用した交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手の縦断面図である。下側半分に示す従来の最大作動角を有する交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手101は、最大作動角が47°のものである。固定式等速自在継手101は、外側継手部材102、内側継手部材103、ボール104および保持器105を主な構成とする。固定式等速自在継手101の外側継手部材102、内側継手部材103のトラック溝107、109は、本実施形態のトラック溝7、9と同様であるので、概要のみ説明する。
【0055】
固定式等速自在継手101の外側継手部材102および内側継手部材103のトラック溝107、109は、それぞれ、第1のトラック溝部107a、109aと第2のトラック溝部107b、109bとから形成されている。第1のトラック溝部107a、109aは、それぞれ、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状の軌道中心線xa、yaを有し、第2のトラック溝部107b、109bは、それぞれ、直線状の軌道中心線xb、ybを有する。外側継手部材102の第1のトラック溝部107aの軌道中心線xaと第2のトラック溝部107bの軌道中心線xbは、継手中心Oより開口側の接続点Aにおいて接線で滑らかに接続されている。内側継手部材103の第1のトラック溝部109aの軌道中心線yaと第2のトラック溝部109bの軌道中心線ybは奥側の接続点A’において接線で滑らかに接続されている。
【0056】
本実施形態の固定式等速自在継手1と同様に、外側継手部材102および内側継手部材103のトラック溝107、109は、それぞれ継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜すると共に、周方向に隣り合うトラック溝107、109は、それぞれ、傾斜方向が逆方向に形成されている。接続点A、A’と継手中心Oとを結ぶ直線L、L’は、継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pに対する角度β1は、本実施形態の固定式等速自在継手1の角度βより大きく設定されている。
【0057】
固定式等速自在継手101は、最大作動角(47°)まで常に、ボール104が外側継手部材102のトラック溝107と接触状態が確保された作動形態を有する。外側継手部材102の開口側端部に設けられた入口チャンファ120は、最大作動角において、中間シャフトが干渉することなく、かつ、ボール104と外側継手部材102のトラック溝107との接触状態が確保されるように設定されている。このため、外側継手部材102の継手中心Oから開口側の端面までの軸方向寸法L2は比較的に長く設定されている。
【0058】
最大作動角が47°を超える高作動角が必要な場合、中間シャフトが入口チャンファ120に干渉するので、これを回避するためには、入口チャンファ120を継手中心O側に軸方向へ移動させると共に傾斜角度を適宜増加させることになるが、これに伴い、外側継手部材102の継手中心Oから開口側の端面までの軸方向寸法を短くする必要がある。これに対応したのが本実施形態の固定式等速自在継手1であり、従来の最大作動角を大幅に超える設定となっている。
図5の上側半分に示す本実施形態の固定式等速自在継手1では外側継手部材2の継手中心Oから開口側の端面までの軸方向寸法L1は、下側半分に示す従来の最大作動角を有する固定式等速自在継手101の外側継手部材102の継手中心Oから開口側の端面までの軸方向寸法L2より短縮されている。
【0059】
本実施形態の固定式等速自在継手1が最大作動角を取ったときの状態を
図6(a)、
図6(b)を参照して説明する。
図6(a)は固定式等速自在継手1が最大作動角を取ったときの縦断面図で、
図6(b)は、
図6(a)の右側面図である。上述したように、外側継手部材2の開口側のトラック溝7の長さが減少するので、本実施形態の固定式等速自在継手1の作動形態は、
図6(a)に示すように、従来より大幅に大きな最大作動角θmaxを取ったときに、外側継手部材2のトラック溝7の開口側の端部からボール4が外れてトラック溝7との接触点を失う状態となる。また、内側継手部材3のトラック溝9の奥側の端部からボール4が外れてトラック溝9との接触点を失う状態となる。
図6(b)に示すように、最大作動角θmaxを取った時、ボール4の中心Obが位相角φ0の位置で外側継手部材2のトラック溝7の開口側端部から最も外れる。
【0060】
図6(a)は、外側継手部材2の軸線No-Noに対して内側継手部材3(中間シャフト14)の軸線Ni-Niを同図の紙面上で最大作動角θmax(例えば、55°)まで屈曲させた状態を示す。保持器5の軸線Nc-Ncは二等分角度θmax/2で傾斜する。
図6(b)に示すように、一番上側のボール4の中心Obは、外側継手部材2のトラック溝7の傾斜角γの関係から位相角0°から若干周方向にずれて図示されている。ここで、位相角0°とは、
図1(b)示す作動角が0°の状態で一番上側(頂点)のボール4の中心Obの周方向の角度位置と定義する。本明細書および特許請求の範囲において、位相角は、位相角0°〔
図6(b)ではφ0と表記、以下、φ0ともいう〕から反時計方向に進む要領で示す。また、本明細書および特許請求の範囲において、最大作動角θmaxとは、固定式等速自在継手1が使用時に許容できる最大の作動角という意味で用いる。
【0061】
図6(a)では、最大作動角時に中間シャフト14が入口チャンファ20に当接した状態で図示しているが、実際には、入口チャンファ20は、最大作動角を取ったときに中間シャフト14の外径面との間に僅かに余裕のある形状、寸法に設定され、入口チャンファ20は、中間シャフト14が最大作動角を超えたときのストッパ面として機能する。
【0062】
図6(a)に示すように、本実施形態の固定式等速自在継手1では、最大作動角を取った時、外側継手部材2のトラック溝7の開口側に向かって移動する位相角φ0付近のボール4が、外側継手部材2のトラック溝7の開口側の端部(入口チャンファ20)から外れてトラック溝7と接触点を失い、内側継手部材3のトラック溝9の奥側の端部からボール4が外れてトラック溝9との接触点を失う状態となる。この状態の詳細を
図6(a)のE部を拡大した
図7を参照して説明する。
【0063】
外側継手部材2の開口側の端部に形成された入口チャンファ20、トラック溝7、9と接触する場合のボール4の表面位置4ao、4aiおよび保持器5のポケット5aと接触するボール4の表面位置4bを破線で示す。また、外側継手部材2のトラック溝7とボール4との接触点C2(又はC1、
図4参照)を軸方向につないだ接触点軌跡をCLoとし、内側継手部材3のトラック溝9とボール4との接触点C3(又はC4、
図4参照)を軸方向につないだ接触点軌跡をCLiとし、それぞれを破線で示す。接触点軌跡CLo、CLiは、トラック溝7、9の溝底から離れた位置に形成される。
【0064】
接触点軌跡CLoは外側継手部材2の開口側では入口チャンファ20の縁部で終わっている。この入口チャンファ20の縁部が外側継手部材2のトラック溝7の開口側の端部である。接触点軌跡CLoの終端に対してボール4の表面位置4aoは、
図7の右方向に外れており、ボール4とトラック溝7とは非接触状態となっている。トラック溝7と接触点を失うボール4は8個のうちの1~2個程度であり、このボール4はトルク伝達には関与しない。内側継手部材3のトラック溝9の接触点軌跡CLiは、奥側の端部3aで終わっている。接触点軌跡CLiの終端に対してボール4の表面位置4aiは、
図7の左方向に外れており、ボール4とトラック溝9とは非接触状態となっている。ボール4の表面位置4aoと外側継手部材2のトラック溝7の接触点軌跡CLoの終端との外れ量は、ボール4の表面位置4aiと内側継手部材3のトラック溝9の接触点軌跡CLiの終端との外れ量よりも大きく設定されている。
【0065】
ボール4の表面位置4bは、保持器5に対して、保持器5の球状外周面12手前の半径方向位置でポケット5aと接触状態が確保されている。そして、ポケット5aとボール4とは、極わずかな締め代の嵌め合いに設定されており、かつ、内側継手部材3のトラック溝9とは非接触状態のためトラック溝9とボール4との間の不可避的な干渉もないので、ボール4は、ポケット5a内で確実に保持され、異音の発生などが防止される。万一、ボール4がポケット5aから外れても、トラック溝7の入口チャンファ20の縁部と保持器5のポケット5aの縁部との間隔Wが、ボール4の直径Dbに対して、Db>Wの関係に設定されているので、ボール4の脱落は防止される。
【0066】
次に、ボール4がトラック溝7から外れる範囲、すなわち、ボール4とトラック溝7とが非接触状態になる位相角の範囲(以下、単に範囲ともいう)について
図8を参照して説明する。
図8は、最大作動角において、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7から外れる範囲を
図1(b)に表示した図である。
図8に矢印でボール4が外側継手部材2のトラック溝7から外れる範囲を示す。各矢印の引き出し線はボール4の中心Obを表示している。本実施形態の固定式等速自在継手1では、外側継手部材2のトラック溝7A、7Bは、継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜角γを有し、かつ周方向に隣り合うトラック溝7A、7Bが、互いに傾斜方向が逆方向に形成されているので、ボール4が、トラック溝7Aから外れる位相角範囲M
Aとトラック溝7Bから外れる位相角範囲がM
Bとが
図8に示すように若干異なる。
【0067】
ボール4がトラック溝7から外れる範囲について、
図6(a)、
図6(b)および
図8におけるトラック溝7Aに位置する1個のボール4を例として具体的に説明する。
図6(a)に示す外側継手部材2の軸線No-Noと内側継手部材3(中間シャフト14)の軸線Ni-Niを一定状態とし、固定式等速自在継手1を位相角φ0から反時計方向に回転させたとき、
図8の位相角φ0の手前の位相角φ2
A(例えば、φ2
A=336°)の位置において、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7Aの開口側の端部から外れてトラック溝7Aとの接触点を失い非接触状態を開始する。そして、位相角φ0を過ぎて、位相角φ1
A(例えば、φ1
A=24°)の位置において、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7Aの開口側の端部に戻りトラック溝7Aとの接触状態を開始する。
【0068】
上記では、1個のボール4を例として説明したが、固定式等速自在継手1を回転させると実際には、8個のボール4が、順次、非接触状態になる位相角の範囲を通過することになる。トラック溝7Bに位置するボール4も同様であるが、トラック溝7Bはトラック溝7Aとは傾斜方向が逆方向に形成されているので、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7Bの開口側の端部から外れてトラック溝7Bとの接触点を失い非接触状態を開始する位相角φ2
B(例えば、φ2
B=333°)であり、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7Bの開口側の端部に戻りトラック溝7Bとの接触状態を開始するφ1
B(例えば、φ1
B=27°)となる。したがって、
図8に示すように、ボール4が、トラック溝7Aから外れる範囲M
Aとトラック溝7Bから外れる範囲がM
Bとが若干異なることになる。
【0069】
さらに、上記の理由について
図9を参照して説明する。
図9は、
図8の外側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う範囲がトラック溝の傾斜方向により異なる状態を示す外側継手部材の内周面の展開図である。
図9は、図の上下方向の中心線の右側がトラック溝7Aからボール4が外れる状態を示し、左側がトラック溝7Bからボール4が外れる状態を示している。
図9の白抜き矢印は、内側継手部材3から外側継手部材2へのトルク負荷方向を示す。後述する
図11、
図14の白抜き矢印も同様とする。
【0070】
トラック溝7は軸線に対して傾斜しているため、
図9のトルク負荷方向に合わせて、トラック溝7Aはボール4の中心Obより奥側方向にずれた位置で接触し、トラック溝7Bはボール4の中心Obより開口側方向にずれた位置で接触することになる。このため、ボール4の表面位置4aoが、トラック溝7Aの接触点軌跡CLoの終端(入口チャンファ20の縁部)に掛かり、接触点を失う位相角φ2
Aとなり、一方、トラック溝7Bの接触点軌跡CLoの終端(入口チャンファ20の縁部)に掛かり、接触点を失う位相角φ2
Bとなる。したがって、位相角φ2
Aとφ2
Bに差が生じることになる。
【0071】
ボール4がトラック溝7に戻り、接触状態を開始する位相角φ1は、上記の理由と同様であるので展開図は省略するが、
図8に示すように、ボール4の表面位置4aoが、トラック溝7Aの接触点軌跡CLoの終端(入口チャンファ20の縁部)に戻り、接触状態を開始する位相角φ1
A(
図8参照)となり、一方、トラック溝7Bの接触点軌跡CLoの終端(入口チャンファ20の縁部)に戻り、接触状態を開始する位相角φ1
B(
図8参照)となる。この結果、最大作動角を取って反時計方向に回転させた場合、
図8に示すように、ボール4が、トラック溝7Aと接触点を失う範囲M
Aは、トラック溝7Bと接触点を失う範囲M
Bより小さくなる。逆に、時計方向に回転させた場合には、上記とは逆になり、ボール4が、トラック溝7Aと接触点を失う範囲M
Aは、トラック溝7Bと接触点を失う範囲M
Bより大きくなる。
【0072】
本実施形態の固定式等速自在継手1は、前述したように、最大作動角を取った時、外側継手部材2のトラック溝7の開口側に向かって移動する位相角φ0付近のボール4が、外側継手部材2のトラック溝7の開口側の端部(入口チャンファ20)から外れてトラック溝7と接触点を失い、内側継手部材3のトラック溝9の奥側の端部からボール4が外れてトラック溝9との接触点を失う状態となる。しかし、位相角φ0付近に対して直径方向に対向する位相角(φ=180°)に位置するボール4は、
図6(a)に示すように、外側継手部材2のトラック溝7の奥側で接触点を有すると共に、内側継手部材3のトラック溝9の開口側で接触点を有する設定となっている。これにより、負荷を受けるボール4の個数が増加すると共に、内部力のバランスが向上し、強度、耐久性を維持することができる。
【0073】
本実施形態の固定式等速自在継手の特徴的な構成(1)の要約として、交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手をベースにして、最大作動角を取ったときにボールが接触点を失う作動形態としたので、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7との接触点を失う高作動角でも、従来の軸方向トラックオフセット式に比べてボール4の作用による保持器5のモーメントと力が釣り合う方向に働くため、保持器5は二等分平面から大きくずれることがなく、等速性および伝達効率の低下や内部力の変化を最小限にとどめることができる。
【0074】
また、ボールがトラック溝と接触状態となる小さな角度の常用角や中角度から高角度の領域まで、トルクが負荷されると、基本的に隣り合うトラック溝で互いに逆方向にボールが保持器を押す力が発生する構造のため、ボールの作用による保持器のモーメントと力が釣り合う。中角度から高角度の領域では、各ボールと外側継手部材のトラック溝および内側継手部材のトラック溝との接触力に強弱が発生するが、従来の軸方向トラックオフセット式に比べ、ボールの作用による保持器のモーメントと力が釣り合うため、保持器は二等分平面の近傍に安定し、良好な等速性および伝達効率が得られる。
【0075】
次に、本実施形態の固定式等速自在継手の特徴的な構成(2)、すなわち、大きな作動角を取ったときに、内側継手部材3のトラック溝9とボール4とが接触点を失う作動角θ2を、外側継手部材2のトラック溝7とボール4とが接触点を失う作動角θ1より大きく設定したことについて、
図10~
図15を参照して説明する。
【0076】
図10(a)は、
図1(a)、
図1(b)の固定式等速自在継手が大きな作動角を取ったときに、外側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う状態を示す縦断面図で、
図10(b)は、
図10(a)の右側面図である。
図11は
図10(b)の外側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う状態を示す外側継手部材の内周面の展開図である。
図12は、
図10(a)のF部を拡大した縦断面図である。
【0077】
まず、外側継手部材2のトラック溝7とボール4とが接触点を失う作動角θ1について説明する。
図10(a)、
図10(b)に示すように、本実施形態の固定式等速自在継手1の作動角を大きく取ると、ボール4は、外側継手部材2のトラック溝7の開口側に移動し、トラック溝7の入口チャンファ20の縁部に掛かり、外側継手部材2のトラック溝7とボール4とが接触点を失う。この接触点を失う作動角が、外側継手部材2のトラック溝7とボール4とが接触点を失う作動角θ1である。
【0078】
作動角θ1の時の外側継手部材2のトラック溝7とボール4の位置関係の詳細を
図11、
図12を参照して説明する。
図10(b)に示す中間シャフト14に矢印の方向(反時計方向)に回転させると、
図11に示すように、ボール4とトラック溝7A、7Bとの負荷域は図面上側の接触点軌跡CLoとなる。
図11は、トラック溝7Aに位置するボール4の内、外側継手部材2の開口側に向かって最も軸方向に移動したボール4の中心Obが位相角φ0に位置する状態を示している。この状態で、
図11、
図12に示すように、トラック溝7Aに位置するボール4の表面位置4aoは、接触点軌跡CLoの開口側の終端、すなわち、入口チャンファ20の縁部に掛かって、トラック溝7Aと接触点を失う作動角θ1
Aとなる。図示は省略するが、トラック溝7Bの場合も同様で、トラック溝7Bに位置するボール4の内、外側継手部材2の開口側に向かって最も軸方向に移動したボール4の中心Obが位相角φ0に位置する状態で、トラック溝7Bに位置するボール4の表面位置4aoが、接触点軌跡CLoの開口側の終端、すなわち、入口チャンファ20の縁部に掛かって、トラック溝7Bと接触点を失う作動角θ1
Bとなる。
【0079】
外側継手部材2のトラック溝7とボール4とが接触点を失う作動角θ1に関して、ボール4の中心Obが位相角φ0に位置する時に、ボール4が外側継手部材2の開口側に向かって最も軸方向に移動するので、作動角θ1は、ボール4の中心Obが位相角φ0に位置する時に接触点を失う作動角と定義する。そして、作動角θ1A、θ1Bを総称して作動角θ1とする。本明細書および特許請求の範囲において「外側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う作動角(θ1)」は、上記の意味で用いる。
【0080】
図11に示すように、トラック溝7Aに位置するボール4がトラック溝7Aと接触点を失う作動角θ1
Aの時には、位相角φ0から離れた位相角に位置するトラック溝7Bとボール4とは接触点C1において接触状態にあり、荷重を負担する。
【0081】
また、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7Aと接触点を失った時点では、
図12に示すように、ボール4の表面位置4aiは、内側継手部材3のトラック溝9Aの接触点軌跡CLiの軸方向範囲内に位置し、トラック溝9Aとボール4は接触点C3において接触状態にある。したがって、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7Aと接触点を失う時点と、同様の位置関係にあるボール4が外側継手部材2のトラック溝7に戻る際に内側継手部材3のトラック溝9で荷重を受けることができる。
【0082】
ボール4が外側継手部材2のトラック溝7と接触点を失う作動角θ1は、最大作動角時の位相角φ1A、φ1B、φ2A、φ2Bおよび範囲MA、MBについて前述した内容と同様に、トラック溝7Aと傾斜方向が反対のトラック溝7Bでは、接触点軌跡CLoの長さが異なることに起因して、作動角θ1A、θ1Bは若干異なる。具体的には、反時計方向に回転させた場合はθ1A>θ1Bとなり、時計方向に回転させた場合はθ1A<θ1Bとなる。ただし、いずれの回転方向においても、θ1Aとθ1Bとの差は0.5°程度である。本明細書および特許請求の範囲における「外側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う作動角(θ1)」は、上記の意味も含むものである。
【0083】
次に、内側継手部材のトラック溝とボールとが接触点を失う作動角θ2について
図13~
図15を参照して説明する。
図13(a)は、
図1(a)、
図1(b)の固定式等速自在継手が大きな作動角を取ったときに、内側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う状態を示す縦断面図で、
図13(b)は、
図13(a)の右側面図である。
図14は、
図13(a)、
図13(b)の作動角を取ったときの外側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとの位置関係を示す外側継手部材の内周面の展開図で、
図15は、
図13(a)のH部を拡大した縦断面図である。
【0084】
外側継手部材2のトラック溝7とボール4とが接触点を失う作動角θ1を超えて、さらに作動角を大きく取ると、13(a)、
図13(b)に示すように、ボール4は、内側継手部材3のトラック溝9のさらに奥側に移動する。内側継手部材3の接触点軌跡CLiは、奥側の端部3aで終わっており、接触点軌跡CLiの終端にボール4の表面位置4aiが掛った時に、内側継手部材3のトラック溝9とボール4とが接触点を失う。この接触点を失う作動角が、内側継手部材3のトラック溝9とボール4とが接触点を失う作動角θ2である。
【0085】
作動角θ2の時の内側継手部材3のトラック溝9とボール4の位置関係の詳細を
図15に基づいて説明する。
図13(b)に示す中間シャフト14に矢印の方向(反時計方向)に回転させると、ボール4とトラック溝7A、7Bとの負荷域は、
図14に示す図面上側の接触点軌跡CLiとなる。
図15は、外側継手部材2のトラック溝7Aと接触点を失ったボール4が、接触点軌跡CLiの終端にボール4の表面位置4aiが掛かり、内側継手部材3のトラック溝9Aとボール4とが接触点を失い、この時のボール4の中心Obは、位相角φ0に位置する状態を示している。この状態の作動角が、内側継手部材3のトラック溝9Aとボール4が接触点を失う作動角θ2
Aとなる。
【0086】
図示は省略するが、トラック溝9Bの場合も同様で、外側継手部材2のトラック溝7Bと接触点を失ったボール4が、接触点軌跡CLiの終端にボール4の表面位置4aiが掛かり、内側継手部材3のトラック溝9Bとボール4とが接触点を失い、この時のボール4の中心Obは、位相角φ0に位置する状態となる。この状態の作動角が、内側継手部材3のトラック溝9Bとボール4が接触点を失う作動角θ2Bとなる。内側継手部材3のトラック溝9とボール4が接触点を失う作動角θ2についても、ボール4の中心Obが位相角φ0に位置する時に接触点を失う作動角と定義する。そして、作動角θ2A、θ2Bを総称して作動角θ2とし、本明細書および特許請求の範囲において「内側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う作動角(θ2)」は、上記の意味で用いる。
【0087】
前述した外側継手部材のトラック溝とボールとが接触点を失う作動角θ1A、θ1Bと同様に、内側継手部材3のトラック溝9とボール4が接触点を失う作動角θ2A、θ2Bも、トラック溝9Aと傾斜方向が反対のトラック溝9Bでは、接触点軌跡CLiの長さが異なることに起因して、作動角θ2A、θ2Bは若干異なる。具体的には、反時計方向に回転させた場合はθ2A>θ2Bとなり、時計方向に回転させた場合はθ2A<θ2Bとなる。ただし、いずれの回転方向においても、θ2Aとθ2Bとの差は0.5°程度である。本明細書および特許請求の範囲における「内側継手部材のトラック溝とトルク伝達ボールとが接触点を失う作動角(θ2)」は、上記の意味も含むものである。
【0088】
本実施形態の固定式等速自在継手1では、内側継手部材3のトラック溝9とトルク伝達ボール4とが接触点を失う作動角θ2は、外側継手部材2のトラック溝7とトルク伝達ボール4とが接触点を失う作動角θ1より大きく設定されている。これにより、外側継手部材2のトラック溝7から外れて接触点を失ったボール4が、再び、トラック溝7に戻り、接触状態を開始する時に、保持器5のポケット5a内に保持されたボール4が、内側継手部材3のトラック溝9に案内されるので、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7にスムーズに戻ることができる。すなわち、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7に戻る際に内側継手部材3のトラック溝9でボール4の荷重を受けることができるので、内部力を増大させることがなく、外側継手部材2の開口側の端部の損傷を抑制でき、強度、耐久性を向上させることができる。
【0089】
内側継手部材3のトラック溝9とトルク伝達ボール4とが接触点を失う作動角θ2と、外側継手部材2のトラック溝7とトルク伝達ボール4とが接触点を失う作動角θ1との差は、最小値を3°とし、最大値をボール4が保持器の外径側に対して接触点を確保できる角度とする。最小値を3度未満とすると、ボール4と内側継手部材3のトラック溝9との接触楕円がトラック溝9の奥側の端部3a(
図12参照)に乗り上げる恐れがある。一方、最大値をボール4が保持器5の外径側に対して接触点を確保できる角度を超える角度とすると、ボール4が保持器5のポケット5aに保持されず、異音の発生が危惧される。
【0090】
以上説明した本実施形態の特徴的な構成(2)の要約として、外側継手部材2のトラック溝7から外れて接触点を失ったボール4が、外側継手部材2のトラック溝7に戻る際にボール4を内側継手部材3のトラック溝9で荷重を受けることができるので、内部力を増大させることがなく、外側継手部材2の開口側の端部の損傷を抑制でき、強度、耐久性を向上させることができ、内部力を増大させることがなく、外側継手部材2の開口側の端部の損傷を抑制でき、強度、耐久性を向上させることができる。
【0091】
以上に説明したように、本実施形態の固定式等速自在継手1は、交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手において、最大作動角を取ったときにボールが接触点を失う作動形態としたので、ボール4が外側継手部材2のトラック溝7との接触点を失う高作動角でも、ボール4の作用による保持器5のモーメントと力が釣り合う方向に働くため、保持器5は二等分平面から大きくずれることがなく、等速性および伝達効率の低下や内部力の変化を最小限にとどめることができるという交差トラック溝タイプの固定式等速自在継手がベースに有する有利な特徴的な構成(1)に、特徴的な構成(2)が相俟って、等速性および伝達効率や内部力の変化、強度、耐久性を飛躍的に向上する固定式等速自在継手を実現することができる。
【0092】
以上の実施形態では、外側継手部材2、内側継手部材3の周方向に傾斜したトラック溝7、9が、継手中心Oを曲率中心とする円弧状の軌道中心線Xa、Yaを有する第1のトラック溝部7a、9aと、直線状の軌道中心線Xb、Ybを有する第2のトラック溝部7b、9bとから構成された固定式等速自在継手1を例示したが、これに限られず、外側継手部材2、内側継手部材3の周方向に傾斜したトラック溝7、9の軸方向全域が、継手中心Oを曲率中心とする円弧状の軌道中心線X、Yで形成された固定式等速自在継手することもできる。
【0093】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0094】
1 固定式等速自在継手
2 外側継手部材
3 内側継手部材
3a 端部
4 トルク伝達ボール
5 保持器
5a ポケット
6 球状内周面
7 トラック溝
7a 第1のトラック溝部
7b 第2のトラック溝部
8 球状外周面
9 トラック溝
9a 第1のトラック溝部
9b 第2のトラック溝部
12 球状外周面
13 球状内周面
20 入口チャンファ
CLo 接触点軌跡
CLi 接触点軌跡
M 平面
N 継手の軸線
O 継手中心
Ob ボールの中心
P 平面
Q 平面
W 間隔
X 軌道中心線
Xa 軌道中心線
Xb 軌道中心線
Y 軌道中心線
Ya 軌道中心線
Yb 軌道中心線
θmax 最大作動角
θ1 接触点を失う作動角
θ2 接触点を失う作動角
φ0 位相角
φ1 位相角
φ2 位相角