(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】高濃縮アルファ-1プロテイナーゼインヒビターを含む組成物及びそれを得るための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/55 20060101AFI20240325BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240325BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240325BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240325BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240325BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20240325BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
A61K38/55
A61P43/00
A61K9/08
A61K47/26
A61K47/18
A61K9/51
A61K47/30
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019131112
(22)【出願日】2019-07-16
【審査請求日】2022-06-22
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515116009
【氏名又は名称】グリフォルス・ワールドワイド・オペレーションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GRIFOLS WORLDWIDE OPERATIONS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Grange Castle Business Park,Grange Castle,Clondalkin,Dublin 22,IRELAND
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・リベオアー
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・ミラー
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・クロス
(72)【発明者】
【氏名】エリック・アルガイヤー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ピー・ジマーマン
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン・ウィー
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・セントピーター
(72)【発明者】
【氏名】ケリー・グランシー
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-221835(JP,A)
【文献】特表2007-511539(JP,A)
【文献】特表2004-519447(JP,A)
【文献】特開2009-167190(JP,A)
【文献】特開2010-174036(JP,A)
【文献】特表2007-534633(JP,A)
【文献】Journal of Membrane Science,2011年,Vol.384,pp.82-88
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性溶液中にアルファ1-プロテイナーゼインヒビター(A1PI)を含み、前記A1PIの濃度が100mg/ml以上であ
り、SPTFFで濃縮することにより得ることができる組成物であって、
組成物が、更に1以上の非電荷賦形剤を含み、
バッファーを含まず、前記1以上の非電荷賦形剤が、
ソルビトール、セリン、トレハロース、アラニン、及びマンニトール、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択され、220から410mOsm/kg・H
2Oの間の浸透圧を得る濃度である、組成物。
【請求項2】
前記A1PIの濃度が150mg/ml以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記A1PIの濃度が200mg/ml以上である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記1以上の非電荷賦形剤が、約300mOsm/kg・H
2Oの浸透圧を得る濃度である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記1以上の非電荷賦形剤が、ソルビトール、トレハロース、アラニン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項
1に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の組成物、及び薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物。
【請求項7】
静脈投与、皮下投与、噴霧投与、又は皮内投与のために処方化された、請求項
6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
皮下投与のために処方化された、請求項
7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
ナノ粒子中にカプセル化された、請求項
6から
8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
徐放性ポリマーを含む、請求項
6から
9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
SPTFFによりA1PIの初期溶液を濃縮することにより、A1PIの溶液を調製する工程を含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載の組成物を調製するための方法。
【請求項12】
前記SPTFF工程が注射用水(WFI)に対して行われる、請求項1
1に記載の組成物を調製するための方法。
【請求項13】
SPTFF工程の後に、A1PIの溶液が、ソルビトール、セリン、トレハロース、アラニ
ン及びマンニトール、並びにそれらの組み合わせからなるリストから選択される、1以上の非電荷賦形剤と処方化される、請求項1
1又は1
2に記載の組成物を調製するための方法。
【請求項14】
SPTFF工程の後に、A1PIの溶液が、ソルビトール、トレハロース、アラニン、又はそれらの組み合わせと処方化される、請求項1
3に記載の組成物を調製するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医薬製品の分野に関する。本明細書内の特定の実施態様は、多くの治療症状に使用され得る、高濃縮アルファ-1プロテイナーゼインヒビター(A1PI)を含む組成物、及びその組成物を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルファ-1-プロテイナーゼインヒビター(A1PI)は、アルファ-1-アンチトリプシン(AAT)又はα1-アンチトリプシンとしても知られ、様々な細胞のプロテアーゼに作用するプロテイナーゼインヒビターである。A1PIは、好中球エラスターゼ作用の阻害、及び他の機構を通じて、組織の恒常性において、主要な役割を果たす。
【0003】
A1PIの先天性の欠乏は、好中球エラスターゼの活性、及び続くエラスチン(組織(特に肺)に弾性を与える必須タンパク質)の分解を制御できない。エラスチンの欠如は、肺気腫及び肝硬変などの呼吸器の合併症をもたらし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第 6,462,180号
【文献】米国特許第 9,616,126号
【文献】米国特許出願公開第2011/0237781号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Payneら“Second Virial Coefficient Determination of a Therapeutic Peptide by Self-Interaction Chromatography” Biopolymers (Peptide Science), Vol. 84, 527-533 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
AAT欠乏を治療するための、A1PIの長期静脈(IV)投与は、手間がかかり、(患者の家、又はクリニック、病院などで投与される)専門的な援助を必要とし、直後の過敏性反応を引き起こし得る。前記問題を解決するため、新しい濃縮方法、及び新しい処方が、本発明者によって開発され、新しい製品は、高濃縮A1PIを含む。明細書で詳細に記載された、濃縮処方は、より広い範囲の非経口の投与を可能にし、投与としては、静脈内投与、皮下投与、噴霧投与、及び皮内投与を含んでもよい。この製品は、投与をより容易にして、医療専門職の援助なしで、家で患者によって投与するという長期にわたる満たされないニーズを満たすことができ、それ故、治療コストを減少させ、長期治療に適切である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、100mg/mlより高い濃度で、A1PIを得るどんな先行技術の方法も知らない。従来のフラットカセットのタンジェンシャルフローろ過(TFF)を使用する、A1PIの濃度増大の試みは、バッファーの塩の少量使用でさえ、許容できない高濃度の凝集の生成をもたらす。本発明者は、従来の限外ろ過/ダイアフィルトレーション(diafiltration)(UFDF)工程と同じ膜タイプ及び分子量カットオフ(MWCO)を使用するが、流速を減少させて、より高い膜間圧力差(TMP)、及び流路長さを増大させるため、大きな膜面積で操作する、改変したタンジェンシャルフロー限外ろ過法の使用が、すべての工程の塩を取り除くために水で透析された後で、シングルパス・タンジェンシャルフローろ過(SPTFF)において、少なくとも10%(質量/体積、100mg/ml)にA1PIを濃縮できたことを、驚くことに発見した。本発明者は、注射用水(WFI)に対して、SPTFFの更なる工程を用い、少なくとも100mg/mlのA1PIの濃縮を得ることが可能であり、前記溶液は、続いて、非電荷の賦形剤と処方して等圧の条件を達成され得ることを、驚くことに発見した。これにより、非電荷の賦形剤と濃縮A1PIの処方が、電荷賦形剤を用いた従来の不十分な安定性能を解消しつつ、浸透圧を調製することが可能になる。
【0008】
本開示の実施態様は、水性溶液中にアルファ-1プロテイナーゼインヒビター(A1PI)を含み、A1PIの濃度は100mg/ml以上であり、好ましくは150mg/ml以上であり、より好ましくは200mg/ml以上である、組成物を提供する。
【0009】
いくつかの好ましい実施態様において、A1PIを含む組成物は、更に、1以上の非電荷賦形剤を含む。用語「非電荷賦形剤」は、1以上の正味荷電が、前記賦形剤で中性に近いpHで存在しないことを意味する。
【0010】
いくつかの好ましい実施態様において、1以上の非電荷賦形剤は、等張性を達成するために必要な濃度であり、すなわち、220から410mOsm/kg・H2Oの間、好ましくは約300mOsm/kg・H2Oである。
【0011】
いくつかの好ましい実施態様において、1以上の非電荷賦形剤は、ソルビトール、セリン、トレハロース、アラニン、スクロース、及びマンニトール並びにそれらの組み合わせを含む、アミノ酸、糖、及びポリオールからなるリストから選択される。より好ましくは、1以上の非電荷賦形剤は、アラニン、ソルビトール、又はトレハロース、及びそれらの組み合わせである。
【0012】
いくつかの好ましい実施態様において、前記非電荷賦形剤は、組成物中に、許容可能な浸透圧を達成する、約120mMの濃度である。
【0013】
いくつかの実施態様において、医薬組成物は、それを必要とする患者に投与され得る。
【0014】
本開示の別の実施態様は、上記の組成物及び薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。
【0015】
いくつかの実施態様において、医薬組成物は、静脈投与、皮下投与、噴霧投与、又は皮内投与、好ましくは皮下投与のために処方化される。
【0016】
いくつかの実施態様において、医薬組成物はナノ粒子中にカプセル化され、又は徐放性ポリマーを含む。
【0017】
本開示の別の態様は、SPTFFにより、A1PIの初期溶液を濃縮することによって、A1PI溶液の調製を含む、上記の組成物を調製するための方法を提供する。
【0018】
いくつかの実施態様において、SPTFFによるA1PI溶液の調製のための方法は、A1PIの最終濃度が、少なくとも100mg/ml、好ましくは少なくとも150mg/ml、より好ましくは少なくとも200mg/mlである。
【0019】
いくつかの実施態様において、SPTFFによるA1PI溶液の調製のための方法は、注射用水(WFI)に対して実行される。
【0020】
いくつかの実施態様において、A1PIの濃縮溶液を調製するための方法は、SPTFF工程の後に、ソルビトール、セリン、トレハロース、アラニン、スクロース、及びマンニトール、並びにそれらの組み合わせからなるリストから選択される、1以上の非電荷賦形剤との処方化を含む。より好ましくは、1以上の非電荷賦形剤は、アラニン、ソルビトール又はトレハロース及びそれらの組み合わせである。
【0021】
pHは、バッファーを使用しないが、処方賦形剤の添加による調整を介して、中性近く(約6.6から7.4)に制御され、貯蔵の間安定なままである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】SPTFF工程及び処方を先行技術方法に加えた方法の実施態様を示す。
【
図2】自己相互作用クロマトグラフィー(SIC)実験による賦形剤型に対するB
22を示す。
【
図3】40℃でのA1PIの20%処方の、日数に対する凝集割合を示す。
【
図4】バイアル中に5℃で貯蔵されたA1PIの液体処方において、サイズ排徐高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)により測定された凝集割合を示す。
【
図5】0.12MでA1PIの様々な処方のpHに対するゼータ電位を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
現在、ヒトのタンパク質の先天性の欠乏(アルファ-1アンチトリプシン欠乏、AATD)を治療するためのA1PI溶液が、市販されている(Prolastin-C, Grifols; Glassia, Shire; Zemaira, CSL; Aralast, Baxter)。これらすべての製品が共通で有する一つの制約が、それらが、A1PIを比較的低い濃度(約20から50mg/ml)で含むことである。この理由から、治療としての投与のそれらの唯一の適切な方法は、毎週の静脈注射であった。
【0024】
AATDを治療する、A1PIの長く続く静脈投与は、手間がかかり、専門的な援助を必要とし、直後の過敏性反応を引き起こし得る。それ故、投与をより容易にして、医療専門職の援助なしで、家で患者によって投与するという長期にわたる満たされないニーズがあり、このことにより、治療コストが、相当減少し、投与が、長く続く治療に適するようになる。広い範囲の非経口の投与方法を可能にするため、製品中のA1PIの濃度が増大されるべきである。しかしながら、現存する処方を用いて、A1PI精製の現在の方法に基づいて、安定して濃縮液体A1PIを生産することは不可能である。
【0025】
驚いたことに、発明者は、精製の終了時に追加のSPTFF工程を含むことが、少なくとも100mg/ml、好ましくは少なくとも150mg/ml、及び最も好ましくは200mg/mlでの高濃縮A1PIの生産を可能にすることを発見した。本方法の工程の新規な点は、バッファー及び塩なしで、WFIの存在下で行われ、その後に、ソルビトール、セリン、トレハロース、アラニン、スクロース、及びマンニトール、並びにそれらの組み合わせ、より好ましくはアラニン、ソルビトール、又はトレハロース、及びそれらの組み合わせからなるリストから選択される、1以上の非電荷賦形剤の添加により処方されることである。重要なことには、結果として得られる組成物は、ヒトの投与に適している、というのも、それらは、規制当局によって必要とされる浸透圧、安定性、及び粘度の値に従うためである。
【0026】
A1PIの組成物
いくつかの実施態様において、本開示はA1PIを含む組成物を提供する。いくつかの実施態様において、組成物は水性溶液中にA1PIを含む。いくつかの実施態様において、組成物中のA1PIの濃度は、少なくとも100mg/mlである。いくつかの実施態様において、組成物中のA1PIの濃度は、150mg/mlである。いくつかの実施態様において、組成物中のA1PIの濃度は、200mg/ml以上である。いくつかの実施態様において、組成物中のA1PIの濃度は、約100、140、180、220、260、300、340、380、420、460、若しくは500mg/ml、又は上記任意の二つの値で規定される範囲の間である。
【0027】
A1PIの医薬組成物
いくつかの実施態様において、医薬組成物が提供される。いくつかの実施態様において、医薬組成物は、A1PI溶液を含む。いくつかの実施態様において、溶液中のA1PIの濃度は、少なくとも100mg/mlである。
【0028】
いくつかの実施態様において、溶液中のA1PIの濃度は約100mg/mlから約500mg/mlである。いくつかの実施態様において、溶液中のA1PI濃度は、約100、150、200、300、400若しくは500mg/ml、又は上記任意の二つの値で規定される範囲の間である。
【0029】
いくつかの実施態様において、溶液の浸透圧は、約220mOsm/kgから約410mOsm/kgである。いくつかの実施態様において、溶液の浸透圧は約220、240、270、300、360、390、若しくは410mOsm/kg、又は上記任意の二つの値で規定される範囲の間である。
【0030】
いくつかの好ましい実施態様において、医薬組成物は、ソルビトール、セリン、トレハロース、アラニン、スクロース、及びマンニトール、並びにそれらの組み合わせ、より好ましくは、アラニン、ソルビトール又はトレハロース及びそれらの組み合わせを含む、アミノ酸、糖、及びポリオールからなる群から選択される、1以上の非電荷賦形剤を更に含む。
【0031】
pHは、バッファーを使用しないが、処方賦形剤の添加による調製を介して、中性近く(約6.6から7.4)に制御され、貯蔵の間安定なままである。
【0032】
いくつかの好ましい実施態様において、医薬組成物は、約120mMの最終濃度で、1以上の非電荷賦形剤を含み、適用可能な浸透圧を達成する。
【0033】
本明細書内で提供される医薬組成物の1以上の実施態様は、それを必要とする患者に投与され得る。いくつかの実施態様において、医薬組成物は、静脈内に、皮内に、皮下に、筋肉内に、経口で、又はそれらの組み合わせで投与される。
【0034】
いくつかの実施態様において、他の制限しない投与経路、例えば、非経口の、関節内、気管支内、腹腔内、関節内、軟骨内、腔内、繊毛内、小脳内、脳室内、結腸内、子宮頚部内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜内、前立腺内、肺内、直腸内、腎臓内、網膜内、脊髄内、滑膜内、胸腔内、子宮内、膀胱内、病巣内、急速投与の、膣、直腸、頬側、舌下、鼻腔内、又は経皮が考えられる。
【0035】
いくつかの実施態様において、本明細書内で提供される医薬組成物は、活性成分、非活性成分、賦形剤、及び/又は薬学的に許容可能な担体を含む。多種類の薬学的に許容可能な担体が、利用可能であり、当技術分野でよく知られる。医薬組成物の処方は、特定の投与される組成物、並びに、組成物の投与に使用される、特定の方法及び/又は経路により、一部分において決定される。
【0036】
医薬組成物は、水性及び非水性の等浸透圧の殺菌した注射溶液を含み、それは、組成物を、意図する受容者の血液と等浸透圧にする、抗酸化剤、バッファー、静菌剤、及び溶質を含み、並びに、懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、及び防腐剤を含み得る、水性、及び非水性の殺菌した懸濁液を含み得る。
【0037】
いくつかの実施態様において、本明細書内で提供される医薬組成物の1以上の実施態様は、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患などの1以上の呼吸器の合併症の治療に使用される。いくつかの実施態様において、本明細書内で提供される医薬組成物の1以上の実施態様は、肝硬変などの肝臓の合併症の治療に使用される。いくつかの実施態様において、本明細書内で提供される医薬組成物の1以上の実施態様は、A1PI欠乏に関する又はA1PI増大により恩恵を受ける疾患若しくは状態の治療に使用される。
【0038】
濃縮A1PI溶液の調製方法
いくつかの実施態様において、A1PI溶液の調製方法が提供される。いくつかの実施態様において、本方法は、従来のフラットカセットタンジェンシャルフロー限外ろ過による、水中又は非電荷賦形剤を伴ったA1PI溶液の濃縮を含む。いくつかの実施態様において、濃縮溶液中のA1PIの最終濃度は100mg/mlにもなる。
【0039】
いくつかの実施態様において、本方法は、SPIFFにより水中又は非電荷賦形剤を伴ったA1PI溶液の濃縮を含み、濃縮溶液中のA1PIの最終濃度は、約150mg/mlから約500mg/mlである。いくつかの実施態様において、濃縮溶液中のA1PIの最終濃度は、約150、180、200、220、260、300、340、380、420、460若しくは500mg/ml、又は上記任意の二つの値で規定される範囲の間である。
【0040】
いくつかの好ましい実施態様において、WFI中のA1PI溶液はSPTFFにより得られる。
【0041】
いくつかの実施態様において、A1PIの濃縮溶液の調製方法は、SPTFF工程の後に、ソルビトール、セリン、トレハロース、アラニン、スクロース、及びマンニトール、及びそれらの組み合わせ、より好ましくは、アラニン、ソルビトール、又はトレハロース及びそれらの組み合わせを含む、アミノ酸、糖、並びにポリオールからなる群から選択される1以上の非電荷賦形剤との処方を含む。
【0042】
pHは、バッファーを使用しないが、処方賦形剤の添加による調製を介して、中性近く(約6.6から7.4)に制御され、貯蔵の間安定なままである。
【0043】
いくつかの好ましい実施態様において、組成物中の非電荷賦形剤の濃度は約0.12M、又は等張性に浸透圧を調製するのに十分な濃度である。
【0044】
追加の実施態様
それ故、いくつかの実施態様において、投与の代替方法が、そのような濃縮A1PI処方に用いられる。例えば、皮内投薬のための、徐放性ポリマーを伴った、ナノカプセル化(すなわち、ナノ粒子へのカプセル化)である。ナノカプセル化のためのそのような徐放性ポリマーは、当業者によく知られる。例えば、University of Queenslandのespace libraryでDOI 10.14264/uql.2015.605として利用可能な、University of QueenslandのAustralian Institute for Bioengineering and NanotechnologyのTran Thi Dat Nguyen (2015) “Synthesis of timed-release polymer nanoparticles,”においては、PNIPAM及びPDMAEAのコポリマーなどの、ランダム熱応答性コポリマーから自己組織化するナノ粒子の使用が開示されている。この文献の完全な開示を参照により本願明細書に援用する。高濃縮A1PIの安全な投薬を達成するための他の方法も、適用可能である。
【実施例】
【0045】
比較例1-先行技術による高濃縮A1PI方法のフロー
Alpha-1 MP(米国特許第 6,462,180号)、Liquid Alpha(米国特許第 9,616,126号)、及びAlpha-1 HC(米国特許出願公開第2011/0237781号)方法は、濃縮するための典型的な循環(TFF)UF工程の後に、バッファー塩を取り除くための水でのダイアフィルトレーション(DF)工程を用い、A1PIを50mg/mlまで濃縮させ、50mg/mlのタンパク質への最終処方及び調整のためのバルクを調製する。処方は、pHを維持するための20mMのリン酸ナトリウムバッファー、及び220-410mOsm/kgの等張性条件に、浸透圧を調整するための塩(Alpha-1 MP及びAlpha-1 HC;それぞれ100mM又は150mMのNaCl)、又はアミノ酸(Liquid Alpha;200から300mMのアラニン)からなる。同じく、他のA1PI処方を同様に調製する。(表1)
【0046】
【0047】
上述の様に、本発明の方法は、上記の方法に二つの追加工程を組み込む:
図1に示すような、SPTFF濃縮及び処方。
【0048】
実施例2-本発明の方法で得られた非電荷賦形剤A1PI溶液中の凝集の指標としてのB
22値の評価
本発明の方法は、WFIでのSPTFF濃縮、及び非電荷賦形剤との処方を含む。0.12Mの濃度、pH7.0での幾つかの非電荷賦形剤、及び低いpH又は塩が多い対照処方を、20%A1PI溶液の作成に使用し、Toyopearl AF-formyl-650M(Tosoh Biosciences)樹脂にA1PIを結合させることによって生産した自己相互クロマトグラフィー(SIC)カラムに適用し、保持時間を記録した。タンパク質の保持時間を、タンパク質-タンパク質間の相互作用の尺度となる浸透圧第二ビリアル係数(B
22)に変換した。
図2は、賦形剤の種類に対するB
22のプロットを表す。B
22値が高いほど、タンパク質-タンパク質間の反発力が大きくなる(凝集を最小限にするのに好ましい)(Payneら“Second Virial Coefficient Determination of a Therapeutic Peptide by Self-Interaction Chromatography” Biopolymers (Peptide Science), Vol. 84, 527-533 (2006))。最も低いB
22値を、低いpHのネガティブ対照(0.12MKCl、pH6.0)及び対照処方(20mMリン酸ナトリウム、75mMNaCl、pH7.0)で予想通り観察し、A1PIに最も好ましくない(最も高いタンパク質-タンパク質間相互作用)と知られていた状態であった。ソルビトール、セリン、トレハロース、アラニン及びマンニトールはすべて、より高いB
22値を示し、より大きなタンパク質反発力を示唆し、マンニトールが最も高いB
22値を有する。WFI溶液は、pH7.0で内因性の電荷反発に依存し、中間のB
22値を有した。非電荷の賦形剤は0.12M及びpH7.0であった。
【0049】
実施例3-非電荷賦形剤中のA1PIの凝集の評価
40℃での20%のA1PI処方の熱動力学試験は、SE-HPLCにより経時的に加速凝集を測定した。pH7.0での様々な0.12Mの賦形剤処方(マンニトール、アラニン、セリン、ソルビトール及びトレハロース)の20%のA1PI溶液を、対照処方(16mMリン酸ナトリウム、60mMNaCl、pH7.0)と共に、40℃で7日間インキュベートし、SE-HPLCにより分析した(
図3)。これらのデータは三つのカテゴリーに分類され、予想通り、対照処方は最も高い凝集速度を有し、一方、マンニトール、アラニン、セリン及びソルビトールは、中間の凝集速度を有し、トレハロースは他より顕著に低い凝集速度を有した。結論として、結果は、非電荷賦形剤の存在下では、対照と比較して、凝集がより起こりにくかったことを示す。
【0050】
実施例4-非電荷賦形剤の存在下でのA1PIの安定性の評価
一方、電荷及び非電荷賦形剤の存在下での様々なA1PIの濃度で、凝集を、SE-HPLCにより経時的に測定した。
図4のA1PI溶液は、5℃で貯蔵したバイアル中の凝集割合を示す。浸透圧を制御するために塩を含む約50mg/mlのA1PI(ひし型)及び約200mg/mlのA1PI(丸)、並びに0.12Mのトレハロースのみで処方された約200mg/mlのA1PI(三角)は、異なる凝集速度を示す。Bauer(US 7,879,800)が表12で示したことと同様に、20mMのリン酸ナトリウム、75mMの塩化ナトリウム中に、pH7.0で処方された20%のA1PIが、5%での同様の賦形剤中のA1PIと比較して、極めて高い凝集速度を有する。しかしながら、pH7.0で120mMのトレハロースのみで処方された20%のA1PIは、同一の貯蔵条件において、より少ない凝集量を示した。
【0051】
実施例5-皮内(SC)投与、又は静脈内(IV)投与による70kg/100kgの患者に対する、A1PIの毎日又は毎週の投薬
皮内投薬は体積を制約され、一か所の注射に約25mLにしばしば制限されることがわかる。それ故、より高濃度のA1PIが、所定の量の投薬を達成するのに必要とされる。1.2吸収係数(EP 2,214,699 B1)を伴い、平均の患者に対して、2か所に15%のA1PI、又は一か所に20%のA1PIの毎週の投薬で、60mg/kgの現在の投薬が達成され得る。(表2)
【0052】
【0053】
実施例6-SPTFFによる高濃縮A1PI
多くの治療症状に使用される高濃縮A1PIを含む組成物を達成する方法は、SPTFFの適用を含む。SPTFF工程は、WFI中のダイアフィルトレーション工程に続く(
図1)。SPTFFは、低いポンプ速度でUF膜アセンブリを一度通過させるのみで、従来のTFF(100mg/ml超)で達成されるより、WFI中で、高濃度にA1PIを濃縮することができ、TFFの継続したポンプ循環に関連した熱及び圧力への暴露を減少させることができる。高い膜間圧力差で、減少させた流速を組み合わせた、増大したフロー経路の長さによって、WFIの単独の存在下で、SPTFFにより高いA1PIの濃度を達成する(>25%(質量/体積))ことを可能にする。最後に、A1PI溶液の濃度を、pH7.0に調整した濃縮賦形剤溶液で、狙いの濃度(少なくとも10%(質量/体積))に正確に希釈し、アミノ酸、糖、又はポリオール(それぞれアラニン、トレハロース及びソルビトールにより表3に表される)のいずれかで浸透圧調整を果たす。本方法は、高濃縮のA1PIを達成することを可能にし、一方で液体薬製品の安定な処方が、バッファー、塩、又は界面活性剤を使用せずに、結果として得られる。
【0054】
【0055】
実施例7-ゼータ電位により測定されるpH範囲
0.12Mの賦形剤濃度でのA1PI溶液のゼータ電位測定を、Zetasizerを用いて、様々なpHで評価した。ゼータ電位の振幅が高いほど(≧40mV、又は≦-40mV)、コロイドがより良い安定性を表すのは、十分に帯電した分子は、静電気的に反発する傾向があり、溶液中で凝集物を形成しにくいためである。すべての試験されたA1PI処方(
図5)は、40mV未満の測定されたZP値に基づき、6.6から7.4のpHの範囲内でコロイドの安定性を示した。それぞれの処方において、pHが、A1PIの等電点に達するため(4.0から5.0の間)、ゼータ電位は0への傾向を示した。
【0056】
定義
本明細書内に使用されたように、セクションの表題は、構成する目的のみで、どのような方法でも記載された主題を限定するように解釈されない。限定しないが、特許、特許出願、文献、書籍、論文、及びインターネットウェブページを含む、本出願に引用されるすべての文書、及び同様の資料は、任意の目的でそれらの全体から、明確に援用される。援用される用語の定義が、本教示で提供される定義と異なるように見える場合、本教示で提供される定義が制御する。わずか及びごくわずかな逸脱が本明細書内の教示の範囲内にあるように、本教示で議論される、温度、濃度、時間などの前に、言外の「約」があることを理解されるだろう。
【0057】
本出願において、特に具体的に言及しない限り、単数の使用は、複数を含む。また、「含む」の使用は、限定する意図はない。
【0058】
本明細書及び特許請求の範囲内で使用され際に、内容が明らかに特に指示しない限り、単数形「a」」、「an」及び「the」は複数の参照を含む。
【0059】
本明細書内で使用される際に、「約」は、参照する量、濃度、値、数、頻度、割合、寸法、サイズ、総量、重さ又は長さに対して20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1%変化する量、濃度、値、数、頻度、割合、寸法、サイズ、総量、重さ又は長さを意味する。
【0060】
本開示は、特定の実施態様及び実施例の状況下にあるが、当業者は、本開示が、他に代わりの実施態様並びに/又は実施態様の使用、及び明らかな変更、及びそれらに同等のものに、具体的に開示された実施態様を超えて広げることを理解するだろう。加えて、実施態様のいくつかの変化は、詳細に示され及び開示される一方、本開示の範囲内での他の変更は、本開示に基づいて、当業者に容易に明らかになるだろう。
【0061】
実施態様の特定の特性及び態様の、様々な組み合わせ、又は副組み合わせは本開示の範囲内で作られ、及び収まったままであってもよいことも理解される。開示の様々な方式または実施態様を形成することを目的として、開示された実施態様の、様々な特性及び態様は、お互い組み合わされ、又は置き換えられることが理解されるべきである。それ故、本明細書内の開示の範囲は、上記開示された特定の実施態様に限定されないと意図される。
【0062】
しかしながら、本詳細な開示は、開示の好ましい実施態様を示唆しながら、実例のみを目的に与えられることは理解されるであろう。なぜならば、本開示の主旨、及び範囲内での様々な変化並びに変更が当業者には明らかであるためである。
【0063】
本明細書内で示される記載内に使用される専門用語は、任意の限定又は制限方法に解釈される意図はない。むしろ、専門用語は、システム、方法及び関連する成分の実施態様の詳細な開示と併せて利用されるのみである。更に、実施態様は、いくつかの新しい特性を含んでもよく、これら特性は何れも、望ましい特性を単独で担うものでなく、又は本明細書内で開示される実施態様を実行するのに本質的であるとは考えられないものである。