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特許7458750画像処理装置、放射線撮影装置、画像処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】画像処理装置、放射線撮影装置、画像処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20240101AFI20240325BHJP
【FI】
A61B6/00 533
A61B6/00 550A
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019205686
(22)【出願日】2019-11-13
(65)【公開番号】P2021074461
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 剛司
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-171444(JP,A)
【文献】特開2015-181649(JP,A)
【文献】特開平10-118056(JP,A)
【文献】特表2018-511443(JP,A)
【文献】特開2018-23794(JP,A)
【文献】特開2011-245117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体に対する放射線の照射により得られた複数のエネルギーに対応した放射線画像から一つの物質からなる領域を特定する領域特定手段と、
前記領域における物質の厚さ又は密度に基づいて前記放射線画像の推定画素値を取得する画素値推定手段と、
前記放射線画像の画素値前記推定画素値の差分から前記放射線画像に含まれる散乱線を推定する散乱線推定手段と、
を備える画像処理装置。
【請求項2】
前記放射線画像から前記散乱線を低減した画像を生成する画像生成手段を更に備える請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記画像生成手段は、前記散乱線を用いて、前記放射線画像から前記散乱線を低減した、前記被写体を構成する複数の物質の密度を示す画像を生成する請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記領域特定手段は、単一の放射線照射により、重ねて配置された複数の放射線検出手段から出力された前記放射線画像に基づいて、前記領域を特定する請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記複数の放射線検出手段のうち、前記放射線を発生させる放射線管に対して近い位置に配置されている第一放射線検出手段は、前記複数のエネルギーのうち低エネルギーに対応した低エネルギー放射線画像を生成し、
前記放射線管に対して遠い位置に配置されている第二放射線検出手段は、前記低エネルギーに比べて高いエネルギーに対応した高エネルギー放射線画像を生成する請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記領域特定手段は、異なる管電圧による複数回の放射線照射により、一つの放射線検出手段から出力された前記放射線画像に基づいて、前記領域を特定する請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記領域特定手段は、2値化法、領域拡張法、エッジ検出、グラフカット又は、複数の放射線画像に対する機械学習による領域抽出方法のうち少なくともいずれか一つの領域抽出方法を用いて前記領域を特定する請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記複数のエネルギーに対応した放射線画像のうち、いずれか一つのエネルギーに対応した放射線画像と、当該一つのエネルギーに対応した前記物質の質量減弱係数とを用いて前記物質の厚さ又は密度を取得する取得手段を更に備える請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記散乱線推定手段は、前記領域における散乱線推定画素値の補間、曲面フィッティングによる内挿、インペインティング処理のうち、少なくともいずれか一つの処理により、前記被写体を構成する複数の物質が存在する領域の散乱線を推定する請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記複数のエネルギーに対応した放射線画像には、低エネルギー放射線画像と、当該低エネルギー放射線画像に比べて高い放射線エネルギーに基づいて生成された高エネルギー放射線画像とが含まれる請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記画素値推定手段は、前記低エネルギー放射線画像に基づいて取得した前記物質の厚さ又は密度を示す画像と、高エネルギーにおける前記物質の質量減弱係数とに基づいて、前記物質における高エネルギー放射線画像の推定画素値を取得し、
前記散乱線推定手段は、前記高エネルギー放射線画像の画素値前記高エネルギー放射線画像の推定画素値の差分に基づいて、前記物質における前記高エネルギー放射線画像の散乱線を取得する請求項10に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記画素値推定手段は、前記高エネルギー放射線画像に基づいて取得した前記物質の厚さ又は密度を示す画像と、低エネルギーにおける前記物質の質量減弱係数とに基づいて、前記物質における低エネルギー放射線画像の推定画素値を取得し、
前記散乱線推定手段は、前記低エネルギー放射線画像の画素値前記低エネルギー放射線画像の推定画素値の差分に基づいて、前記物質における低エネルギー放射線画像の散乱線を取得する請求項10に記載の画像処理装置。
【請求項13】
前記画素値推定手段は、前記低エネルギー放射画像から取得した前記物質の厚さまたは密度を示す画像と、高エネルギーにおける前記物質の質量減弱係数とを乗算して、前記物質における高エネルギー放射線画像の前記推定画素値を取得し、
前記散乱線推定手段は、前記高エネルギー放射線画像の画素値前記高エネルギー放射線画像の推定画素値の差分に基づいて、前記物質における前記高エネルギー放射線画像の散乱線を取得する請求項10に記載の画像処理装置。
【請求項14】
前記画素値推定手段は、前記高エネルギー放射線画像から取得した前記物質の厚さまたは密度を示す画像と、低エネルギーにおける前記物質の質量減弱係数とを乗算して、前記物質における低エネルギー放射線画像の前記推定画素値を取得し、
前記散乱線推定手段は、前記低エネルギー放射線画像の画素値前記低エネルギー放射線画像の推定画素値の差分に基づいて、前記物質における低エネルギー放射線画像の散乱線を取得する請求項10に記載の画像処理装置。
【請求項15】
前記画素値推定手段は、前記物質の厚さ又は密度と、前記物質の質量減弱係数とに基づいて前記放射線画像の推定画素値を取得する請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項16】
前記一つの物質からなる領域は前記被写体を構成する軟組織からなる領域であり、複数の物質が存在する領域は前記被写体を構成する骨が存在する領域である請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項17】
前記領域特定手段は、前記放射線画像と前記放射線画像に含まれる物質の質量減弱係数とを用いて、前記一つの物質を含む画像を取得し、前記取得した画像に対して閾値処理を行うことにより前記領域を特定する請求項1乃至請求項16のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項18】
重ねて配置された複数の放射線検出手段と、
前記放射線検出手段により検出された放射線画像を処理する、請求項1乃至請求項17のいずれか1項に記載の画像処理装置と、を備える放射線撮影装置。
【請求項19】
画像処理装置における画像処理方法であって、
領域特定手段が、被写体に対する放射線の照射により得られた複数のエネルギーに対応した放射線画像から一つの物質からなる領域を特定する工程と、
画素値推定手段が、前記領域における物質の厚さ又は密度から前記放射線画像の推定画素値を取得する工程と、
散乱線推定手段が、前記放射線画像の画素値前記推定画素値の差分から前記放射線画像に含まれる散乱線を推定する工程と、
を有する画像処理方法。
【請求項20】
コンピュータに、請求項19に記載の画像処理方法を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、放射線撮影装置、画像処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線による医療画像診断に用いる撮影装置として、平面検出器(Flat Panel Detector、以下「FPD」と略す)を用いた放射線撮像装置が普及している。FPDは、撮影画像をデジタル画像処理することができるため、様々なアプリケーションの開発が行われ実用化されている。
【0003】
特許文献1には、エネルギーサブトラクション法により画像を取得する方法として、積層したフロント検出器とリア検出器の間に、散乱線除去構造を設けることにより、散乱線が除去された放射線画像をリア検出器から取得する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許3476644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放射線画像に散乱線が含まれると、放射線画像のコントラストが低下し、診断能が低下する原因となり得る。また、エネルギーサブトラクションにおいては骨と軟組織などの物質分離能が低下し、目的とする物質を分離した画像を生成することが難しくなる場合が生じ得る。
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、リア検出器を高エネルギー用の検出器(FPD)と低エネルギーの検出器(FPD)の2層構造にする必要がある。このため、フロント検出器と合わせて少なくとも3層の検出器(FPD)が必要となり、FPDの配置構造が複雑化するとともに、画像処理が複雑化し、FPDのコスト及び重量の増加等の課題が生じ得る。
【0007】
上記の従来技術の課題に鑑みて、本発明は、より簡易な構造及び処理により、放射線画像に含まれる散乱線を、より高精度に推定することが可能な画像処理技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による画像処理装置は、被写体に対する放射線の照射により得られた複数のエネルギーに対応した放射線画像から一つの物質からなる領域を特定する領域特定手段と、
前記領域における物質の厚さ又は密度に基づいて前記放射線画像の推定画素値を取得する画素値推定手段と、
前記放射線画像の画素値前記推定画素値の差分から前記放射線画像に含まれる散乱線を推定する散乱線推定手段と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、放射線画像に含まれる散乱線を、より高精度に推定することが可能となる。これにより、エネルギーサブトラクションにおいて取得した画像における散乱線を推定し、推定した散乱線を低減することで、より高精度に分離された軟組織画像、骨画像を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態による放射線撮影システムの構成例を示す図。
図2】第1実施形態の画像処理部による処理を示すフローチャート。
図3】(a)は高エネルギー放射線画像を例示する図、(b)は低エネルギー放射線画像を例示する図、(c)は軟組織の物質分離画像を例示する図、(d)は骨の物質分離画像を例示する図。
図4】第1実施形態の撮影実験の結果を示す図。
図5】第2実施形態による放射線撮影システムの構成例を示す図。
図6】第2実施形態の画像処理部による処理を示すフローチャート。
図7】第2実施形態の撮影実験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態を例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定されるのであって、以下の個別の実施形態によって限定されるわけではない。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る放射線撮影システム100の構成例を示すブロック図である。放射線撮影システム100は、放射線発生装置104、放射線管101、FPD102(放射線検出器)、情報処理装置120を有する。情報処理装置120は、被写体を撮影した放射線画像に基づく情報を処理する。尚、放射線撮影システム100の構成を単に放射線撮影装置ともいう。
【0013】
放射線発生装置104は、不図示の曝射スイッチへのユーザ操作により放射線管101に高電圧パルスを与えて放射線を発生させる。なお、放射線という用語は、X線の他、例えば、α線、β線、γ線粒子線、宇宙線などを含み得る。第1実施形態において放射線の種類は特に限定はしないが、医療用の画像診断には主にX線が用いられる。放射線管101から発生した放射線は被写体103に照射され、放射線の一部が被写体103を透過してFPD102に到達する。
【0014】
FPD102は、放射線に応じた画像信号を生成するための画素アレイを備えた放射線検出部を有する。FPD102は、画像信号に基づく電荷の蓄積を行って放射線画像を取得し、情報処理装置120に転送する。FPD102は、放射線強度に応じた信号を生成するための画素アレイを備えた第一放射線検出部130と第二放射線検出部131を有する。第一放射線検出部130と第二放射線検出部131は、被写体103を透過した放射線を画像信号として検出する。
【0015】
第一放射線検出部130及び第二放射線検出部131には、入射光に応じた信号を出力する画素がアレイ状(二次元の領域)に配置されている。各画素の光電変換素子は蛍光体により可視光に変換された放射線を電気信号に変換し、画像信号として出力する。このように、第一放射線検出部130及び第二放射線検出部131は被写体103を透過した放射線を検出して、画像信号(放射線画像)を取得するように構成されている。複数の放射線検出部のうち、放射線を発生させる放射線管101に対して近い位置に配置されている第一放射線検出部130は、複数のエネルギーのうち低エネルギーに対応した低エネルギー放射線画像を生成する。また、放射線管101に対して遠い位置に配置されている第二放射線検出部131は、低エネルギーに比べて高いエネルギーに対応した高エネルギー放射線画像を生成する。
【0016】
FPD102の駆動部(不図示)は、制御部105からの指示に従って読み出した画像信号(放射線画像)を制御部105に出力する。領域特定部110は、単一の放射線照射により、重ねて配置された複数の放射線検出部(第一放射線検出部130及び第二放射線検出部131)から出力された放射線画像に基づいて、一つの物質からなる領域を特定する処理を行う。
【0017】
散乱線除去グリッド132は被写体103で発生した散乱線がFPD102に入射するのを抑制する。本実施形態では、被写体103と第一放射線検出部130との間に散乱線除去グリッド132を配置した例を説明しているが、この配置例に限られず、散乱線除去グリッド132は、第一放射線検出部130と第二放射線検出部131との間に配置しても良い。
【0018】
情報処理装置120は、被写体を撮影した放射線画像に基づく情報を処理する。情報処理装置120は、制御部105、モニタ106、操作部107、記憶部108、画像処理部109、表示制御部116を有する。
【0019】
制御部105は、不図示の1つまたは複数のプロセッサーを備え、記憶部108に記憶されているプログラムを実行することにより情報処理装置120の各種制御を実現する。記憶部108は、画像処理の結果や各種プログラムを記憶する。記憶部108は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等により構成される。記憶部108は制御部105から出力された画像や画像処理部109で画像処理された画像、画像処理部109における計算結果を記憶することが可能である。
【0020】
画像処理部109は、FPD102から取得した放射線画像を処理する。画像処理部109は、機能構成として、領域特定部110、物質密度計算部111、画素値推定部112、散乱線推定部113及び画像生成部114を有している。これらの機能構成は、制御部105のプロセッサーが所定のプログラムを実行することで実現されてもよいし、画像処理部109が備える一つ又は複数のプロセッサーが記憶部108から読み込んだプログラムを用いて実現されてもよい。制御部105、画像処理部109のプロセッサーは、例えば、CPU(central processing unit)で構成される。画像処理部109の各部の構成は、同様の機能を果たすのであれば、それらは集積回路などで構成してもよい。また、情報処理装置120の内部構成として、GPU(Graphics Processing Unit)等のグラフィック制御部、ネットワークカード等の通信部、キーボード、ディスプレイ又はタッチパネル等の入出力制御部等を含むように構成することが可能である。
【0021】
モニタ106(表示部)は、制御部105がFPD102から受信した放射線画像(デジタル画像)や画像処理部109で画像処理された画像を表示する。表示制御部116は、モニタ106(表示部)の表示を制御する。操作部107は、画像処理部109やFPD102に対する指示を入力することができ、不図示のユーザーインターフェイスを介してFPD102に対する指示の入力を受け付ける。
【0022】
以上の構成において、放射線発生装置104は、放射線管101に高電圧を印加し、被写体103に放射線を照射する。FPD102は、被写体103に対して放射線を照射することによって得られた、複数のエネルギーに対応した複数の放射線画像を取得する取得部として機能する。FPD102は、これらの放射線照射により、放射線のエネルギーが異なる2つの放射線画像を生成する。複数のエネルギーに対応した放射線画像には、低エネルギー放射線画像と、低エネルギー放射線画像に比べて高い放射線エネルギーに基づいて生成された高エネルギー放射線画像とが含まれる。
【0023】
本実施形態では、第一放射線検出部130は低エネルギー放射線画像Iを生成し、第二放射線検出部131は高エネルギー放射線画像Iを生成する。一般的に放射線管101が放射するX線は電子線の制動放射により発生するため幅広いエネルギー帯に広がるX線スペクトルを有する。
【0024】
したがって、第一放射線検出部130を放射線が透過することにより、X線スペクトルの低エネルギー成分が吸収されるため、ビームハードニングが生じ、第二放射線検出部131には相対的に高いエネルギーの放射線が入射する。
【0025】
領域特定部110は、被写体に対する放射線の照射により得られた複数のエネルギーに対応した放射線画像から一つの物質からなる領域を特定する。領域特定部110は、高エネルギー放射線画像I、低エネルギー放射線画像Iを用いて、1つの物質からなる部分を特定する。被写体103が人である場合、筋肉、脂肪及び臓器などから構成される軟組織と、骨との概ね2つの物質に分離することができる。骨の存在する部分には骨を被覆する軟組織が存在するが、骨が存在しない部分は軟組織から構成される。したがって、骨が存在しない領域を特定すれば軟組織の物質からなる領域を特定することができる。
【0026】
領域特定部110は領域抽出の方法として様々な方法を用いることが可能であり、例えば、2値化、領域拡張法、エッジ検出、グラフカットなどの領域抽出方法のうち少なくともいずれか一つの領域抽出方法を用いることができる。また、あらかじめ数多くの被写体103の放射線画像を教師データとした機械学習を行い、領域特定部110は、FPD102が取得した複数の放射線画像に対する機械学習による領域抽出方法を用いて、1つの物質からなる領域を特定することも可能である。本実施形態のように2つのエネルギーの放射線画像が得られる場合は、予め骨を分離した骨画像を作成すれば上記の一連の領域抽出方法を精度よく実行することができる。
【0027】
物質密度計算部111は、高エネルギー放射線画像I、低エネルギー放射線画像Iを用いて領域特定部110により特定された領域の軟組織の厚さ又は面密度を計算する。ここで厚さに体積密度を乗じたものが面密度であるため、実質上、厚さと面密度(以下、単に「密度」ともいう)は等価な意味をもつ。物質密度計算部111は、複数のエネルギーに対応した放射線画像のうち、いずれか一つのエネルギーに対応した放射線画像(低エネルギー放射線画像I、高エネルギー放射線画像I)と、一つのエネルギーに対応した物質(軟組織)の質量減弱係数(μLA、μHA)とを用いて物質(軟組織)の厚さ又は密度を算出する。物質密度計算部111による算出処理は、以下の[数2]、[数3]に基づくものである。
【0028】
画素値推定部112は、一つの物質からなる領域における物質(軟組織)の厚さ又は密度に基づいて放射線画像の推定画素値を取得する。画素値推定部112は物質密度計算部111で計算された物質(軟組織)の厚さ又は密度と、物質(軟組織)の質量減弱係数とに基づいて、高エネルギー放射線画像I、低エネルギー放射線画像Iの推定画素値を算出する。画素値推定部112による算出処理は、例えば、以下の[数4]、[数5]に基づくものである。
【0029】
散乱線推定部113は放射線画像の画素値と推定画素値との差分から放射線画像に含まれる散乱線を推定する。散乱線推定部113は、放射線画像の画素値(実測画素値)と、画素値推定部112で計算された高エネルギー放射線画像Iの推定画素値IHE、及び低エネルギー放射線画像Iの推定画素値ILEとの差分から散乱線を推定する。散乱線推定部113による推定処理は、例えば、以下の[数6]、[数7]に基づくものである。
【0030】
画像生成部114は放射線画像から散乱線を低減した画像(骨の密度を示す骨画像、軟組織の密度を示す軟組織画像)を生成する。画像生成部114による処理は、例えば、以下の[数8]~[数11]に基づくものである。
【0031】
次に、第1実施形態の画像処理部109における処理を、図2に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。制御部105は、FPD102で撮影された放射線画像を記憶部108に記憶するとともに、画像処理部109に放射線画像を転送する。
【0032】
以下のステップS201~S205において、画像処理部109は、図3(a)の高エネルギー放射線画像I図3(b)の低エネルギー放射線画像Iを用いて、散乱線を低減しつつ、図3(c)の軟組織の密度を示す軟組織画像、図3(d)の骨の密度を示す骨画像を生成する。
【0033】
ここで、図3(a)は高エネルギー放射線画像Iを例示する図であり、図3(b)は低エネルギー放射線画像Iを例示する図である。図3(b)の低エネルギー放射線画像Iの骨部(鎖骨303、脊椎骨304)は、図3(a)の高エネルギー放射線画像Iの骨部(鎖骨301、脊椎骨302)に比べて、コントラストが明確に表示されている。
【0034】
(領域特定部110の処理)
まず、ステップS201において、領域特定部110は、以下の[数1]により、高エネルギー放射線画像I、低エネルギー放射線画像Iを用いて図3(d)の骨画像dを計算する。
【0035】
【数1】
【0036】
ここで、骨画像dは骨密度を示し、単位はg/cmである。[数1]において、添え字のHとLはそれぞれ、高エネルギーと低エネルギーを示し、添え字のAとBはそれぞれ分離する物質(例えば、Aが軟組織とBが骨)を示す。なお、ここでは、分離する物質の例として、軟組織と骨を物質例として用いるが、特に限定するものでなく任意の物質を用いることができる。μHAは高エネルギーにおける軟組織の質量減弱係数であり、μHBは高エネルギーにおける骨の質量減弱係数である。また、μLAは低エネルギーにおける軟組織の質量減弱係数であり、μLBは低エネルギーにおける骨の質量減弱係数である。xは画像の横方向の画素位置を表し、yは縦方向の画素位置を表す。
【0037】
図3(d)の骨画像dは軟組織を有さないため、例えば、閾値処理を行うことで、図3(c)の軟組織画像のように骨が存在しない軟組織のみからなる領域を特定することができる。閾値処理は、例えば、公知技術である大津の2値化法を用いることができる。また、同様に公知技術である領域拡張法、エッジ検出、グラフカットを用いても軟組織のみからなる領域を特定することができる。さらに、多数の被写体を撮影した放射線画像が入手できる場合は機械学習によるセグメンテーションを用いて軟組織のみからなる領域を特定しても良い。
【0038】
本実施形態では領域抽出を容易にするため骨画像dを用いるが、公知技術を用いて高エネルギー放射線画像I、低エネルギー放射線画像Iから骨領域と軟組織のみからなる領域をそれぞれ特定しても良い。
【0039】
(物質密度計算部111の処理)
ステップS202において、物質密度計算部111は以下の[数2]により低エネルギー放射線画像Iを用いてステップS201で特定した軟組織のみからなる領域の軟組織画像dを計算する。
【0040】
【数2】
【0041】
ステップS201で特定した領域は軟組織からなる領域であることがわかっているため[数2]のような単純な計算が成立する。また、第一放射線検出部130は、図1に散乱線除去グリッド132に接しているため十分に散乱線が除去されていると考えられる。したがって、低エネルギー放射線画像Iは近似的に散乱線の影響が小さいと考えられる。散乱線除去グリッド132を構成する吸収部材(吸収箔)の間隔(D)に対する吸収部材(吸収箔)の高さ(h)の比(h/D)を格子比とすると、本実施形態では、散乱線除去グリッド132の格子比を10以上に設定ことが可能である。さらに、グリッドが格子状になるように形成されたクロスグリッドを使用することも可能である。クロスグリッドは縦横方向の散乱線を低減できるため、クロスグリッドを使用することにより等方的に散乱線を低減できるとともに散乱線低減能力を高くすることができる。
【0042】
なお、先に説明したように散乱線除去グリッド132を第一放射線検出部130と第二放射線検出部131の間に配置した場合、物質密度計算部111は以下の[数3]を用いて、軟組織画像dを計算することができる。
【0043】
【数3】
【0044】
(画素値推定部112の処理)
ステップS203において、画素値推定部112は以下の[数4]によって軟組織における高エネルギー放射線画像の推定画素値IHEを計算する。画素値推定部112は、低エネルギー放射線画像Iに基づいて算出した物質(軟組織)の密度を示す軟組織画像d([数2])と、高エネルギーにおける物質(軟組織)の質量減弱係数μHAとに基づいて、物質(軟組織)における高エネルギー放射線画像の推定画素値を算出する。
【0045】
【数4】
【0046】
ここでd(x、y)は、[数2]に基づいて、近似的に散乱線の影響が小さい低エネルギー放射線画像Iから計算されているため推定画素値IHE(x、y)も散乱線の影響が抑制された高エネルギー放射線画像と考えることができる。
【0047】
散乱線除去グリッド132を第一放射線検出部130と第二放射線検出部131の間に配置した場合、画素値推定部112は以下の[数5]によって低エネルギー放射線画像の推定画素値ILEを計算する。画素値推定部112は、高エネルギー放射線画像Iに基づいて算出した物質(軟組織)の密度を示す軟組織画像d([数3])と、低エネルギーにおける物質(軟組織)の質量減弱係数μLAとに基づいて、物質(軟組織)における低エネルギー放射線画像の推定画素値を算出する。
【0048】
【数5】
【0049】
(散乱線推定部113の処理)
ステップS204において、散乱線推定部113は以下の[数6]によって高エネルギー放射線画像の散乱線Sを計算する。散乱線推定部113は、高エネルギー放射線画像Iの実測画素値I(x、y)と高エネルギー放射線画像Iの推定画素値IHE(x、y)との差分に基づいて、物質(軟組織)における高エネルギー放射線画像の散乱線Sを算出する。
【0050】
【数6】
【0051】
また、散乱線除去グリッド132を第一放射線検出部130と第二放射線検出部131の間に配置した場合は以下の[数7]によって低エネルギー放射線画像の散乱線Sを計算する。すなわち、散乱線推定部113は、低エネルギー放射線画像ILの実測画素値IL(x、y)と低エネルギー放射線画像ILの推定画素値ILE(x、y)との差分に基づいて、軟組織における低エネルギー放射線画像の散乱線SLを算出する。ここで、画素値推定部112は、低エネルギー放射線画像ILの推定画素値ILE(x、y)を、[数4]と同様に低エネルギーにおける軟組織の質量減弱係数μLAとd(x、y)の積により算出することが可能である。
【0052】
【数7】
【0053】
ここで推定された、高エネルギー放射線画像の散乱線S(x、y)又は低エネルギー放射線画像の散乱線S(x、y)は、軟組織のみからなる領域に関する散乱線である。人体においては、頭部のように骨が支配的な部位以外では図3(d)の鎖骨303や脊椎骨304のように骨の面積は比較的小さい。従って、散乱線推定部113は、被写体を構成する複数の物質として骨が存在する領域の散乱線を、周りの物質(軟組織)のみからなる領域における散乱線推定画素値からの補間や曲面フィッティングによる内挿により推定することができる。また、散乱線推定部113は、インペインティング処理のような手法により、周りの物質(軟組織)のみからなる領域における散乱線推定画素値を拡散させることにより、被写体を構成する複数の物質(骨)が存在する領域の散乱線S´を推定することが可能である。ここで、一つの物質からなる領域は被写体を構成する軟組織からなる領域であり、複数の物質が存在する領域は被写体を構成する骨が存在する領域である。
【0054】
(画像生成部114の処理)
ステップS205では、画像生成部114は放射線画像から散乱線を低減した画像(骨画像、軟組織画像)を生成する。画像生成部114は、散乱線推定部113の処理(S204)により推定された散乱線を用いて、放射線画像から散乱線を低減した、物質(軟組織)の密度を示す画像(軟組織画像)及び被写体を構成する複数の物質(骨)の密度を示す画像(骨画像)を生成する。
【0055】
画像生成部114は、骨領域において推定した、高エネルギー放射線画像の散乱線S´ (x、y)又は低エネルギー放射線画像のS´ (x、y)を用いることで、散乱線が低減された骨の密度を示す骨画像dBE(x、y)を以下の[数8]または[数9]に基づいて算出することができる。ここで、[数8]は、高エネルギー放射線画像I(x、y)から高エネルギー放射線画像の散乱線S´ (x、y)が低減された骨の密度を示す骨画像dBE(x、y)である。また、[数9]は、低エネルギー放射線画像I(x、y)から低エネルギー放射線画像の散乱線S´ (x、y)が低減された骨の密度を示す骨画像dBE(x、y)である。
【0056】
【数8】
【0057】
【数9】
【0058】
また、画像生成部114は、[数6]、[数7]により算出された散乱線S(x、y)又はS(x、y)を用いることで、散乱線が低減された軟組織の密度を示す軟組織画像dAE(x、y)を以下の[数10]または[数11]に基づいて算出することができる。[数10]は、高エネルギー放射線画像I(x、y)から高エネルギー放射線画像の散乱線S(x、y)が低減された軟組織の密度を示す軟組織画像dAE(x、y)である。[数11]は、低エネルギー放射線画像I(x、y)から低エネルギー放射線画像の散乱線S(x、y)が低減された軟組織の密度を示す軟組織画像dAE(x、y)である。
【0059】
【数10】
【0060】
【数11】
【0061】
図4は第1実施形態の撮影実験の結果を示す図である。図4(a)は撮影実験で用いたファントムの構成を例示する図である。ファントムは、被写体103として人体における腰椎を模擬しおり、軟組織を模擬した領域401はポリウレタンで作成されており、腰椎を模擬した領域403にはハイドロキシアパタイトが埋め込まれている。
【0062】
撮影実験で用いた散乱線除去グリッド132は焦点距離110cm、格子密度52本/cm、格子比24:1のクロスグリッドである。図1に示したように第一放射線検出部130と被写体103との間に散乱線除去グリッド132を配置して撮影実験を行った。また、撮影条件は管電圧140kV、管電流25mA、パルス幅32msecである。撮影実験では、軟組織を模擬した領域401(ポリウレタン)の厚さを15cm、20cm、25cmと変更して、骨画像の体厚依存性を調べた。
【0063】
図4(b)は、[数1]を用いて計算した骨密度を示す骨画像d(x、y)において関心領域402の縦方向のプロファイルをプロットした図である。図4(b)において、実線は領域401(ポリウレタン)の厚さが15cmにおけるプロファイルを示し、太い破線は厚さが20cmにおけるプロファイルを示し、細い破線は厚さが25cmにおけるプロファイルを示している。骨密度のプロファイルは体厚15cm、20cm、25cmの場合において、ばらつきが生じており、骨密度の変動係数は6.3%となった。
【0064】
X線骨密度測定装置の承認基準(平成17年4月1日、薬食発第0401050号)において、体厚依存性の変動係数は2%以下になることが求められており、[数1]を用いて計算した骨密度の変動係数(図4(b))は、承認基準を満たしていない。
【0065】
図4(c)は、第1実施形態の[数9]を用いて計算した骨密度を示す骨画像dBE(x、y)において関心領域402の縦方向のプロファイルをプロットした図である。図4(c)において、実線は領域401(ポリウレタン)の厚さが15cmにおけるプロファイルを示し、太い破線は厚さが20cmにおけるプロファイルを示し、細い破線は厚さが25cmにおけるプロファイルを示している。骨密度のプロファイルは体厚15cm、20cm、25cmの場合において、図4(b)に比べて、ばらつきが抑制されており、骨密度の変動係数は1.1%となっている。これにより、第1実施形態の[数9]を用いて計算した骨密度の変動係数(図4(c))は、上記の承認基準を満たしていることがわかる。
【0066】
以上説明したように、第1実施形態によれば、エネルギーサブトラクションにおいて取得した画像における散乱線を推定し、推定した散乱線を低減することで、より高精度に分離された軟組織画像、骨画像を生成することができる。また、より高精度に骨密度を算出することができる。
【0067】
<第2実施形態>
第1実施形態では、FPD102が第一放射線検出部130と第二放射線検出部131を積層して構成される場合について説明した。第2実施形態では、図5に示すように、FPD502(放射線検出器)が一つの放射線検出部530により構成される場合について説明する。なお、FPD502を除いたその他の放射線撮影システム500の構成は第1実施形態で説明した放射線撮影システム100(図1)と同様である。以下の説明では、第1実施形態と同様の部分は説明を省略し、第2実施形態に特有な構成部分についてのみ説明を行う。
【0068】
第1実施形態ではビームハードニング効果を用いて、低エネルギー放射線画像Iを第一放射線検出部130で取得し、高エネルギー放射線画像Iを第二放射線検出部131で取得した。しかしながら、第2実施形態のようにFPD502が一つの放射線検出部530のみを備える場合でも、放射線管101の管電圧を変更して2回、放射線を照射することで、低エネルギー放射線画像I、高エネルギー放射線画像Iを取得することができる。ここで、領域特定部110は、異なる管電圧による複数回の放射線照射により、一つの放射線検出部530から出力された複数の放射線画像(低エネルギー放射線画像I、高エネルギー放射線画像I)に基づいて、一つの物質からなる領域を特定する処理を行う。
【0069】
この場合、管電圧は放射線管101の許容範囲内で変更することが可能である。一般的にエネルギーサブトラクションはエネルギー差が大きいほど、物質分離能力、分離画像のSNが高くなることが知られている。また、管電圧を下げた場合、被写体を通過してFPD502に到達する線量が低下する。従って、高低エネルギーの放射線のエネルギー差を広げ、個別に管電圧、管電流、パルス幅等の撮影条件を選択することが可能になる点で第2実施形態は第1実施形態に対して有利である。
【0070】
また、FPD502は一つの放射線検出部530のみで構成されるためコスト及び重量も抑制することができるという利点もある。一方で2回の撮影が必要になる点で、被写体の呼吸、拍動等による体動の影響が生じる可能性が生じ得る点で第1実施形態に対して相違する。
【0071】
次に、第2実施形態の画像処理部109における処理を、図6に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0072】
以下のステップS201~S605において、画像処理部109は、図3(a)の高エネルギー放射線画像I図3(b)の低エネルギー放射線画像Iを用いて、散乱線を低減しつつ、図3(c)の物質分離画像(軟組織画像)、図3(d)の物質分離画像(骨画像)を生成する。
【0073】
(領域特定部110の処理)
ステップS201において、領域特定部110は軟組織のみからなる領域を特定する(軟組織領域の特定)。ステップS201における軟組織領域の特定は第1実施形態で説明した領域特定部110の処理と同様である。
【0074】
(物質密度計算部111の処理)
ステップS602において、物質密度計算部111は以下の[数12]により、低エネルギー放射線画像ILを用いてステップS201で特定した軟組織のみからなる領域の軟組織画像dを計算する。
【0075】
【数12】
【0076】
この領域においては軟組織のみからなることがわかっているため[数12]のような単純な計算が成立する。また、第二実施形態における低エネルギー放射線画像Iは高エネルギー放射線画像Iに比較して、十分に低い管電圧で撮影される場合が多い。一般にエネルギーが低い放射線で生成された被写体による散乱線は大きな散乱角度を有しやすく、散乱線除去グリッド532による散乱線除去がより効果的に行われる。したがって、低エネルギー放射線画像Iは、高エネルギー放射線画像Iに対して十分に散乱線が除去されていると考えられ、近似的に散乱線の影響が小さいと考えられる。
【0077】
(画素値推定部112の処理)
ステップS603において、画素値推定部112は以下の[数13]によって軟組織における高エネルギー放射線画像の推定画素値IHEを計算する。
【0078】
【数13】
【0079】
ここでd(x,y)は近似的に散乱線の影響が小さい低エネルギー放射線画像Iから計算されているため推定画素値IHE(x,y)も散乱線の影響が抑制された高エネルギー放射線画像と考えることができる。
【0080】
(散乱線推定部113の処理)
ステップS604において、散乱線推定部113は以下の[数14]によって高エネルギー放射線画像の散乱線Sを計算する。散乱線推定部113は、高エネルギー放射線画像Iの実測画素値I(x、y)と高エネルギー放射線画像Iの推定画素値IHE(x、y)との差分に基づいて、軟組織における高エネルギー放射線画像の散乱線Sを算出する。
【0081】
【数14】
【0082】
ここで推定された、エネルギー放射線画像の散乱線S(x,y)は軟組織のみからなる領域に関する散乱線である。しかしながら、人体においては頭部のように骨が支配的な部位以外では図3(d)の鎖骨303や脊椎骨304のように骨の面積は比較的小さい。従って、周りの軟組織のみからなる部分から画素の補間や曲面フィッティングで内挿することによって、骨が存在する領域の散乱線を推定することは比較的容易である。また、公知技術のインペインティングのような手法により、骨の周囲の画素を拡散させて骨が存在する領域の散乱線を推定することが可能である。
【0083】
(画像生成部114の処理)
ステップ605では、画像生成部114は、骨領域において推定した、高エネルギー放射線画像の散乱線S´ (x,y)を用いることで、散乱線が低減された骨の密度を示す骨画像dBE(x、y)以下の[数15]に基づいて算出することができる。ここで、[数15]は、高エネルギー放射線画像I(x、y)から高エネルギー放射線画像の散乱線S´ (x,y)が低減された骨の密度を示す骨画像dBE(x、y)である。
【0084】
【数15】
【0085】
また、画像生成部114は、[数14]により算出された散乱線S(x,y)を用いることで、散乱線が低減された軟組織の密度を示す軟組織画像dAE(x、y)を以下の[数16]に基づいて算出することができる。[数16]は、高エネルギー放射線画像I(x、y)から高エネルギー放射線画像の散乱線S(x,y)が低減された軟組織の密度を示す軟組織画像dAE(x、y)である。
【0086】
【数16】
【0087】
図7は第2実施形態の撮影実験の結果を示す図である。撮影実験で用いたファントムの構成は図4(a)で説明したものと同様である。撮影実験で用いた散乱線除去グリッド532は焦点距離110cmの格子密度52本/cm、格子比24:1のクロスグリッドであり、図5に示したように放射線検出部530と被写体103との間に散乱線除去グリッド532を配置して撮影実験を行った。また、撮影条件は高エネルギー放射線画像Iにおいて管電圧140kV、管電流40mA、パルス幅32msecであり、低エネルギー放射線画像Iにおいて管電圧70kV、管電流320mA、パルス幅63msecである。
【0088】
本実施形態の撮影実験では放射線検出部530と被写体103間の距離(以下、センサ面距離)を10cm、12.5cm、15cmと変更して、骨密度を示す骨画像のセンサ面距離依存性を調べた。
【0089】
図7(a)は、[数1]を用いて計算した骨密度を示す骨画像d(x,y)において関心領域402の縦方向のプロファイルをプロットした図である。図7(a)において、実線はセンサ面距離が10cmにおけるプロファイルを示し、太い破線はセンサ面距離が12.5cmにおけるプロファイルを示し、細い破線はセンサ面距離が15cmにおけるプロファイルを示している。骨密度のプロファイルはセンサ面距離10cm、12.5cm、15cmの場合においてばらつきが生じており、骨密度の変動係数は2.1%となった。
【0090】
X線骨密度測定装置の承認基準(平成17年4月1日、薬食発第0401050号)においてはセンサ面距離依存性の変動係数が2%以下になることを求められており、[数1]を用いて計算した骨密度の変動係数(図7(a))は、承認基準を満たしていない。
【0091】
図7(b)は、第2実施形態の[数15]を用いて計算した骨密度を示す骨画像dBE(x,y)において関心領域402の縦方向のプロファイルをプロットした図である。図7(b)において、実線はセンサ面距離が10cmにおけるプロファイルを示し、太い破線はセンサ面距離が12.5cmにおけるプロファイルを示し、細い破線はセンサ面距離が15cmにおけるプロファイルを示している。骨密度のプロファイルはセンサ面距離10cm、12.5cm、15cmの場合において、図7(a)に比べて、ばらつきが抑制されており、骨密度の変動係数は1.2%となっている。これにより、第2実施形態の[数15]を用いて計算した骨密度の変動係数(図7(b))は、上記の承認基準を満たしていることがわかる。
【0092】
以上のように、第2実施形態によれば、エネルギーサブトラクションにおいて取得した画像における散乱線を推定し、推定した散乱線を低減することで、より高精度に分離された軟組織画像、骨画像を生成することができる。また、より高精度に骨密度を算出することができる。
【0093】
(その他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0094】
本発明は上記実施形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。
【符号の説明】
【0095】
100:放射線撮影システム、101:放射線管、102:FPD(放射線検出器)、104:放射線発生装置、105:制御部、106:モニタ(表示部)、107:操作部、108:記憶部、109:画像処理部、110:領域特定部、111:物質密度計算部、112:画素値推定部、113:散乱線推定部、114:画像生成部、120:情報処理装置、132:散乱線除去グリッド、502:FPD、532:散乱線除去グリッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7