(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 13/52 20060101AFI20240325BHJP
F16B 39/34 20060101ALN20240325BHJP
【FI】
F16D13/52 A
F16B39/34
(21)【出願番号】P 2019218993
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】北澤 秀訓
(72)【発明者】
【氏名】間野 修
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158018(JP,A)
【文献】実開昭63-092807(JP,U)
【文献】特開2007-285422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/52
F16D 43/21
F16B 39/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1カム面、及び軸方向に延びる第1嵌合孔、を有する第1回転体と、
前記第1カム面を周方向に押圧するように構成される第2カム面を有し、前記第1回転体に対して軸方向に移動可能且つ相対回転可能に配置される第2回転体と、
前記第1嵌合孔と対向し軸方向に延びる第2嵌合孔を有し、前記第1回転体に固定される第3回転体と、
前記第1回転体と前記第3回転体とを連結する少なくとも一つのボルトと、
前記第1嵌合孔及び前記第2嵌合孔に嵌合
し、金属製である少なくとも一つの滑り防止部材と、
前記第1カム面及び前記第2カム面によって構成され、前記第1回転体と前記第2回転体との間に相対回転が生じたときに前記第2回転体を軸方向に移動させるように構成されたカム機構と、
を備える、クラッチ装置。
【請求項2】
前記滑り防止部材は、円筒状であり、
前記ボルトは、前記滑り防止部材内を延びる、
請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記少なくとも一つのボルトは、前記周方向に間隔をあけて配置される複数のボルトを含み、
前記複数のボルトのうち一部のボルトは、前記滑り防止部材内を延びる、
請求項2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
前記滑り防止部材の数は、前記ボルトの数よりも少ない、
請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項5】
前記第1回転体は、サポートプレートであり、
前記第2回転体は、プレッシャプレートであり、
前記第3回転体は、クラッチセンタである、
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動二輪車及びバギーなどのモータサイクルには、エンジンからの動力をトランスミッションに伝達又は遮断するためにクラッチ装置が用いられている。このクラッチ装置は、クラッチセンタと、それらの間で動力の伝達、遮断を行うためのクラッチ部と、クラッチ部を押圧するためのプレッシャプレートと、を有している。また、クラッチセンタは、ボルトによってサポートプレートと連結されている。
【0003】
プレッシャプレートとサポートプレートとの相対回転によって、クラッチ部に対する押圧力を増加又は減少させるためのカム機構が設けられたクラッチ装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、クラッチ装置がカム機構を有する場合、上記ボルトが緩むことがある。
【0006】
本発明の課題は、部材間を締結するボルトの緩みを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一側面に係るクラッチ装置は、第1回転体と、第2回転体と、第3回転体と、少なくとも一つのボルトと、少なくとも一つの滑り防止部材と、カム機構と、を備える。第1回転体は、第1カム面、及び軸方向に延びる第1嵌合孔、を有する。第2回転体は、第2カム面を有する。第2カム面は、第1カム面を周方向に押圧するように構成される。第2回転体は、第1回転体に対して軸方向に移動可能且つ相対回転可能に配置される。第3回転体は、第1回転体に固定される。第3回転体は、第2篏合孔を有する。第2篏合孔は、第1嵌合孔と対向し軸方向に延びる。ボルトは、第1回転体と第3回転体とを連結する。滑り防止部材は、第1嵌合孔及び第2嵌合孔に嵌合する。カム機構は、第1カム面及び第2カム面によって構成され、第1回転体と第2回転体との間に相対回転が生じたときに第2回転体を軸方向に移動させるように構成される。
【0008】
(1)の装置では、第1嵌合孔及び第2嵌合孔に嵌合する滑り防止部材が配置されている。そのため、部材間の締結面で伝達できるトルクを低下させることなく、部材間のボルトの緩みを抑制することができる。
【0009】
(2)好ましくは、滑り防止部材は、円筒状であり、上記ボルトは、滑り防止部材内を延びる。
【0010】
この場合、サポートプレートとクラッチセンタとの締結面の滑りを、より安定して抑制することができる。
【0011】
(3)好ましくは、少なくとも一つのボルトは、周方向に間隔をあけて配置される複数のボルトを含み、上記複数のボルトのうち一部のボルトは、滑り防止部材内を延びる。
【0012】
この場合、すべてのボルトが滑り防止部材内を延びるわけではないので、サポートプレートとクラッチセンタとの組付け性が良くなる。
【0013】
(4)好ましくは、滑り防止部材の数は、ボルトの数よりも少ない。
【0014】
この場合、サポートプレートとクラッチセンタとの組付け性が良くなる。
【0015】
(5)好ましくは、第1回転体は、サポートプレートであり、第2回転体は、プレッシャプレートであり、第3回転体は、クラッチセンタである。
【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明では、部材間のボルトの緩みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態によるクラッチ装置の断面図。
【
図3】プレッシャプレートを軸方向の第1側から視た外観斜視図。
【
図4】プレッシャプレートを軸方向の第2側から視た外観斜視図。
【
図8】他の実施形態によるプッシュタイプのクラッチ装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[全体構成]
図1に、本発明の一実施形態によるクラッチ装置としてのモータサイクル用クラッチ装置100を示している。
図1はクラッチ装置100の断面図である。
図1の断面図において、O-O線が回転軸線である。なお、以下の説明において、「軸方向」とは回転軸Oが延びる方向を示し、
図1に示すように、
図1の右側を「軸方向の第1側」、逆を「軸方向の第2側」とする。また、「径方向」とは、回転軸Oを中心とした円の半径方向を意味し、「周方向」とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味する。
【0019】
クラッチ装置100は、エンジンからの動力をトランスミッションに伝達したり、その伝達を遮断したりするように構成されている。このクラッチ装置100は、サポートプレート10(第1回転体の一例)と、プレッシャプレート20(第2回転体の一例)と、クラッチセンタ30(第3回転体の一例)と、複数のボルト40と、複数の滑り防止部材50と、カム機構60と、を備える。
【0020】
[サポートプレート10]
図1及び
図2に示すように、サポートプレート10は、円板状の部材である。サポートプレート10は、プレッシャプレート20よりも、軸方向の第1側に配置されている。サポートプレート10は、中央部に孔10aを有している。また、サポートプレート10は、複数の第1突起部15と、複数の支持用凹部16と、を有する。なお、本実施形態では、サポートプレート10は、3つの第1突起部15と、3つの支持用凹部16と、を有する。
【0021】
複数の第1突起部15は、周方向に間隔をあけて配置されている。好ましくは、複数の第1突起部15は、周方向に等間隔で配置されている。第1突起部15は、軸方向の第2側に突出している。第1突起部15は、第1カム用突起18と、第1固定用突起19と、を有している。第1カム用突起18と第1固定用突起19とは、周方向に配列されている。第1カム用突起18と第1固定用突起19とは、一つの部材として形成されている。
【0022】
第1カム用突起18は、第1カム面60aを有している。
【0023】
第1固定用突起19の高さは、第1カム用突起18の高さより高い。すなわち、第1固定用突起19の先端面19a(軸方向の第2側の端面)は、第1カム用突起18の先端面18aよりも、軸方向の第2側に位置している。なお、第1固定用突起19の高さとは、軸方向における第1固定用突起19の長さである。
【0024】
また、第1固定用突起19の中心部には、軸方向に延びる第1嵌合孔19dが形成されている。第1嵌合孔19dは、サポートプレート10の内壁面とボルト40との隙間である。第1固定用突起19の中心部において、第1嵌合孔19dのさらに第1側には、軸方向に延びる貫通孔(図示せず)が延びる。
【0025】
第1固定用突起19の外側部には、第1固定用突起19の先端面19aよりもさらに軸方向の第2側に突出する位置決め部19cが形成されている。
【0026】
支持用凹部16は、サポートプレート10の軸方向の第2側の側面に、所定の深さで形成されている。この支持用凹部16には、図示しないスプリングシートが配置されている。
【0027】
[プレッシャプレート20]
図3はプレッシャプレート20をサポートプレート10側から視た図、
図4はプレッシャプレート20をサポートプレート10とは逆側から視た図である。
図1、
図3及び
図4に示すように、プレッシャプレート20は、円板状の部材である。プレッシャプレート20は、軸方向において、サポートプレート10の第2側に配置されている。
【0028】
プレッシャプレート20は、サポートプレート10及びクラッチセンタ30に対して軸方向に移動可能である。プレッシャプレート20は、中央部に形成されたボス部25と、筒状部21と、押圧部22と、を有している。
【0029】
ボス部25は、軸方向の第1側に突出するように延びている。ボス部25は、サポートプレート10の孔10aを貫通する。ボス部25の中央には、貫通孔20aが形成されている。この貫通孔20aに、図示しないレリーズ部材が挿入される。
【0030】
筒状部21は、径方向において、ボス部25の外側に形成される。筒状部21は、軸方向の第2側に突出している。
【0031】
筒状部21は、円筒状の本体211と、複数の第1歯212と、を有している。第1歯212は、本体211の外周面に形成されている。複数の第1歯212は、本体211の外周面において、軸方向の第1側の端部に設けられている。複数の第1歯212の軸方向長さは、本体211の軸方向長さよりも短い。
【0032】
筒状部21は、中央部に形成された概略円形の孔21bと、複数のカム用孔21cと、複数の有底孔21dと、を有している。なお、本実施形態では、筒状部21は、3つのカム用孔21cと、3つの有底孔21dと、を有している。
【0033】
プレッシャプレート20は、カム機構60用の第2カム面60bと、スリッパカム機構61用のPPs・カム面61bとを有している。第2カム面60b及びPPs・カム面61bは、カム用孔21cを画定する内壁面によって構成されている。第2カム面60bと、PPs・カム面61bとは、周方向において対向している。第2カム面60bは、軸方向の第1側を向く。PPs・カム面61bは、軸方向の第2側を向く。
【0034】
有底孔21dは、軸方向の第1側の面から所定の深さで形成されている。
図1に示すように、この有底孔21dに、コイルスプリング80が配置されている。コイルスプリング80は、サポートプレート10の支持用凹部16に配置されたスプリングシートに当接している。コイルスプリング80は、有底孔21dの底面とサポートプレート10の支持用凹部16との間に配置される。コイルスプリング80は、プレッシャプレート20を軸方向の第2側に付勢している。
【0035】
押圧部22は、環状に形成され、プレッシャプレート20の外側部に形成されている。押圧部22は、軸方向の第2側を向く摩擦面を有している。また、押圧部22は、軸方向において、クラッチセンタ30の受圧部38と間隔をあけて配置されている。この押圧部22と受圧部38との間に、クラッチ部70が配置されている。すなわち、軸方向の第2側から第1側に向かって、受圧部38、クラッチ部70、押圧部22の順に並んでいる。
【0036】
[クラッチセンタ30]
図1に示すように、クラッチセンタ30は、軸方向において、プレッシャプレート20の第2側に配置されている。クラッチセンタ30は略円板状である。クラッチセンタ30は、中央部に形成されたボス部39と、円板部36と、筒状部37と、受圧部38と、を有している。
【0037】
ボス部39は軸方向に延びている。ボス部39の中央部には軸方向に延びるスプライン孔(図示省略)が形成されている。このスプライン孔には、トランスミッションの入力軸(図示省略)が係合する。なお、クラッチセンタ30は、軸方向において移動しない。
【0038】
円板部36は、径方向において、ボス部39から外側に延びている。
図1及び
図5に示すように、円板部36には、複数の第2突起部35が形成されている。なお、本実施形態では、円板部36は、3つの第2突起部35を有する。複数の第2突起部35は、円板部36の径方向の中間部に、周方向に間隔をあけて配置されている。第2突起部35は、軸方向の第1側に突出している。また、複数の第2突起部35は、筒状部37の内周面37aから離れて配置されている。第2突起部35の外周面と、筒状部37の内周面37aと、の間には隙間が確保されている。
【0039】
筒状部37は、径方向視で、プレッシャプレート20の筒状部21と重なるように配置されている。また、筒状部37と、第2突起部35と、の間の隙間に、プレッシャプレート20の筒状部21が挿入されるように配置される。
【0040】
図5に示すように、第2突起部35は、第2カム用突起31と、第2固定用突起32と、を有している。第2カム用突起31と第2固定用突起32とは、周方向に配列されている。第2カム用突起31と第2固定用突起32とは、一つの部材として形成されている。
【0041】
第2カム用突起31は、CC・カム面61aを有している。
【0042】
第2固定用突起32の高さは、第2カム用突起31の高さより高い。すなわち、第2固定用突起32の先端面32a(軸方向の第1側の端面)は、第2カム用突起31の先端面31aよりも、軸方向の第1側に位置している。また、第2固定用突起32の高さは、筒状部37の高さより低い。なお、第2固定用突起32の高さは、軸方向において、第2固定用突起32の長さである。
【0043】
第2固定用突起32の外周面は、サポートプレート10の位置決め部19cの内周側の面に沿った形状であり、両者は当接している。この両者の当接によって、サポートプレート10はクラッチセンタ30に対して径方向に位置決めされている。
【0044】
また、第2固定用突起32の中心部には、軸方向に延びる第2嵌合孔32dが形成されている。第2嵌合孔32dは、クラッチセンタ30の内壁面とボルト40との隙間である。第2固定用突起32の中心部において、第2嵌合孔32dのさらに第2側には、軸方向に延びるねじ孔(図示せず)が延びる。
【0045】
筒状部37は、円板部36の外側部から軸方向の第1側に延びて形成されている。筒状部37は、円筒状の本体371と、本体371の外周面に形成された係合用の複数の第2歯372と、を有している。
【0046】
受圧部38は、筒状部37の外側部からさらに外周側に延びて形成されている。受圧部38は、環状であり、軸方向の第1側に摩擦面を有している。この受圧部38は、クラッチ部70と対向している。
【0047】
[ボルト40]
図1に示すように、ボルト40は、サポートプレート10とクラッチセンタ30とを連結する。詳細には、サポートプレート10とクラッチセンタ30とを連結するために、まず、サポートプレート10の第1固定用突起19の先端面19aと、クラッチセンタ30の第2固定用突起32の先端面32aとを当接させる。当接させた後、サポートプレート10の第1固定用突起19の貫通孔を、ボルト40が貫通する。ボルト40はさらに、クラッチセンタ30の第2固定用突起32のねじ孔に螺合する。これにより、サポートプレート10にクラッチセンタ30が固定される。
【0048】
[滑り防止部材50]
図1及び
図6に示すとおり、滑り防止部材50は、第1嵌合孔19d及び第2嵌合孔32dに嵌合する。つまり、滑り防止部材50は、ボルト40とサポートプレート10の内壁面との隙間、及び、ボルト40とクラッチセンタ30の内壁面との隙間に存在する。
【0049】
滑り防止部材50の形状は特に限定されない。滑り防止部材50の形状は例えば、円筒状である。
【0050】
滑り防止部材50内を、複数のボルト40が延びる。滑り防止部材50の数は、ボルト40の数よりも少ない。本実施形態では、滑り防止部材50の数は2つであり、ボルト40の数は3つである。
【0051】
滑り防止部材50のサイズは、第1嵌合孔19d及び第2嵌合孔32dを篏合できる限り、特に限定されない。
【0052】
滑り防止部材50の素材は特に限定されないが、たとえば金属である。
【0053】
[カム機構60及びスリッパカム機構61]
図6に示すように、カム機構60は、サポートプレート10とプレッシャプレート20との軸方向間に配置されている。カム機構60は、プレッシャプレート20及びクラッチセンタ30に駆動力が作用したときに(正側のトルクが作用したときに)、クラッチ部70の結合力を増加させるための機構である。また、スリッパカム機構61は、プレッシャプレート20とクラッチセンタ30の軸方向間に配置されている。スリッパカム機構61は、クラッチセンタ30及びプレッシャプレート20に逆駆動力が作用したときに(負側のトルクが作用したときに)、クラッチ部70の結合力を低減させるための機構である。
【0054】
<カム機構60>
カム機構60は、アシストカム機構である。カム機構60は、第1カム面60a及び第2カム面60bによって構成される。カム機構60は、サポートプレート10とプレッシャプレート20との間に相対回転が生じたときにプレッシャプレート20を軸方向に移動させるように構成される。
【0055】
カム機構60は、
図2及び
図3で示すように、サポートプレート10に設けられた複数(ここでは3個)の第1カム面60aと、プレッシャプレート20に設けられた複数(ここでは3個)の第2カム面60bと、を有する。
【0056】
第1カム面60aはサポートプレート10の第1カム用突起18に形成されている。第1突起部15はプレッシャプレート20のカム用孔21cに挿入されている。そして、第1突起部15の周方向の一方の端面に第1カム面60aが形成されている。
【0057】
第2カム面60bは、カム用孔21cを画定する内壁面によって構成されている。第1カム面60aは周方向を向くとともに、軸方向の第2側を向くように傾斜している。第2カム面60bは、周方向を向くとともに、軸方向の第1側を向くように傾斜している。そして、この第2カム面60bに、第1カム面60aが当接可能である。
【0058】
<スリッパカム機構61>
スリッパカム機構61は、
図4及び
図5で示すように、複数(ここでは3個)のクラッチセンタ30に設けられたCC・カム面61aと、複数(ここでは3個)のプレッシャプレート20に設けられたPPs・カム面61bと、を有する。
【0059】
CC・カム面61aはクラッチセンタ30の第2カム用突起31に形成されている。第2突起部35はプレッシャプレート20のカム用孔21cに挿入されている。そして、第2突起部35の周方向の一方の端面にCC・カム面61aが形成されている。
【0060】
PPs・カム面61bは、カム用孔21cを画定する内壁面によって構成されている。ただし、第2カム面60bとPPs・カム面61bとは軸方向にずれて形成されている。PPs・カム面61bは、周方向に対して、CC・カム面61aと同じ方向に同じ角度で傾斜している。そして、このPPs・カム面61bに、CC・カム面61aが当接可能である。
【0061】
[動作]
クラッチ装置100においてレリーズ操作がなされていない状態では、サポートプレート10とプレッシャプレート20とは、コイルスプリング80によって互いに離れる方向に付勢されている。サポートプレート10は、クラッチセンタ30に固定されて軸方向に移動しないため、プレッシャプレート20が軸方向の第2側に移動する。この結果、クラッチ部70がクラッチオン状態となる。
【0062】
このような状態では、エンジンからのトルクが、クラッチ部70を介してクラッチセンタ30及びプレッシャプレート20に伝達される。
【0063】
次にカム機構60及びスリッパカム機構61の動作について詳細に説明する。
【0064】
クラッチセンタ30及びプレッシャプレート20に駆動力が作用しているとき、すなわち正側のトルクが作用しているときには、入力されたトルクは、クラッチ部70を介してクラッチセンタ30とプレッシャプレート20に出力される。プレッシャプレート20に入力されたトルクは、カム機構60を介してサポートプレート10に出力される。サポートプレート10に入力されたトルクは、各固定用突起19、32を介してクラッチセンタ30に出力される。このようにしてプレッシャプレート20からサポートプレート10にトルクが伝達されると同時に、カム機構60が作動する。
【0065】
具体的には、駆動力が作用しているときには、サポートプレート10に対してプレッシャプレート20が
図6の+R方向に相対回転する。すると、第1カム面60aに対して第2カム面60bが押圧される。ここで、クラッチセンタ30は軸方向に移動しないために、サポートプレート10も移動せず、第1カム面60aに沿って第2カム面60bが移動する結果、プレッシャプレート20は軸方向の第2側に移動する。すなわち、プレッシャプレート20の押圧部22は、クラッチセンタ30の受圧部38に向かって移動する。この結果、押圧部22と受圧部38とによってクラッチ部70が強固に挟持されることになり、クラッチの結合力が増加する。
【0066】
以上のようなカム機構60の作動時には、クラッチセンタ30及びサポートプレート10と、プレッシャプレート20と、は所定角度相対回転する。この時、トルクがプレッシャプレート20に入力されると、トルクは、サポートプレート10の第1カム面60aを通じて、出力側であるクラッチセンタ30へ伝達される。
【0067】
ここで、ボルト40の緩みは、次の理由により発生すると考えられる。トルクの伝達により、サポートプレート10とクラッチセンタ30との締結面に滑りが発生する。詳細には、上記ボルト40とサポートプレート10の貫通孔の内壁面との間には、組付け性の観点からわずかな隙間が存在する。そのため、トルクがプレッシャプレート20に入力されると、カム機構60を通じて伝達されるトルクによりサポートプレート10が押され、サポートプレート10が上記隙間の分だけ滑る。この滑りにより、ボルト40の座面が動き、ボルト40の軸力が低下する。ボルト40の軸力が低下すると、上記締結面がさらに滑る。その結果、ボルト40が緩む。
【0068】
本実施形態の装置では、第1嵌合孔19d及び第2嵌合孔32dに嵌合する滑り防止部材50が配置されている。そのため、プレッシャプレート20に入力されたトルクが、カム機構60を通じてクラッチセンタ30へ伝達されても、サポートプレート10とクラッチセンタ30との締結面の滑りを、滑り防止部材50により抑制することができる。これにより、ボルト40の座面の動きを抑制し、ボルト40の軸力の低下を抑制することができる。その結果、部材間の締結面に入力されるトルクを低下させることなく、部材間のボルト40の緩みを抑制することができる。
【0069】
本実施形態の装置では、滑り防止部材50の数は、ボルト40の数よりも少ないため、サポートプレート10とクラッチセンタ30との組付け性が良くなる。滑り防止部材50の数が多いほど、ボルト40の緩みを低減できる。しかしながら、滑り防止部材50の数が多いほど、高度な位置精度が要求される。詳細には、複数のボルト40のすべてが滑り防止部材50内を延びるように組付ける場合、すべての滑り防止部材50の孔の位置とすべてのボルト40の位置とを合わせるのが困難になる。さらには、滑り防止部材50自体も位置がずれることがあるため、この点からも組付け性が低下する(高度な位置精度が要求される)。以上のとおり、複数のボルト40のうち一部のボルト40だけが滑り防止部材50内を延びるように組付ければ、組付け性が良くなる。
【0070】
また、アクセルを緩めた場合はクラッチセンタ30を介して逆駆動力が作用し、この場合はスリッパカム機構61が作動する。すなわち、トランスミッション側からのトルクによって、クラッチセンタ30がプレッシャプレート20に対して
図6の+R方向に相対回転する。逆に言えば、プレッシャプレート20がクラッチセンタ30に対して
図6の-R方向に回転する。この相対回転によって、CC・カム面61aとPPs・カム面61bとが互いに押圧される。クラッチセンタ30は軸方向に移動しないために、この押圧により、CC・カム面61aに沿ってPPs・カム面61bが移動し、プレッシャプレート20は軸方向の第1側に移動する。この結果、押圧部22が受圧部38から離れる方向に移動することになり、クラッチの結合力が低減する。
【0071】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0072】
変形例1
上記実施形態では、滑り防止部材50は、円筒状であったが、特にこれに限定されない。例えば、
図7に示すように、滑り防止部材50は、略角柱状であり、角柱のひとつの面がボルト40の表面に沿うような形状であってもよい。この場合、滑り防止部材50は、ボルト40一つに対して、ボルト40の周囲に、一つ以上配置される。滑り防止部材50のサイズは、第1嵌合孔19d及び第2嵌合孔32dを篏合できる限り、特に限定されない。
【0073】
変形例2
滑り防止部材50は、略板状であってもよい。この場合、軸方向において、滑り防止部材50が延びる面がボルト40の表面に当接する。
【0074】
変形例3
上記実施形態では、ボルト40の座面は、サポートプレート10側に配置されているが、特にこれに限定されない。例えば、ボルト40の座面は、クラッチセンタ30側に配置されていてもよい。この場合、ボルト40は、サポートプレート10に螺合する。この場合、スリッパカム機構61の作動時に、ボルト40が緩むのを抑制することができる。
【0075】
変形例4
上記実施形態では、第1回転体の一例としてサポートプレート10を、第2回転体の一例としてプレッシャプレート20を、第3回転体の一例としてクラッチセンタ30を例にとって説明した。すなわち、前記実施形態では、プレッシャプレート20を軸方向の第1側に移動させ、クラッチ部70をオフする、いわゆるプルタイプのクラッチ装置100に本発明を適用したが、いわゆるプッシュタイプのクラッチ装置にも本発明を同様に適用することができる。
【0076】
【0077】
プッシュタイプのクラッチ装置110は、リフタプレート116(第1回転体の一例)と、クラッチセンタ113(第2回転体の一例)と、プレッシャプレート114(第3回転体の一例)と、を備える。
【0078】
具体的には、プッシュタイプのクラッチ装置110では、軸方向の第1側から第2側に向けて、プレッシャプレート114、クラッチセンタ113、及びリフタプレート116が配置されている。プレッシャプレート114とリフタプレート116とは、クラッチセンタ113に形成された開口113aを通して、ボルト163により互いに固定されている。そして、クラッチセンタ113とリフタプレート116との間に、コイルスプリング119が配置されている。また、プレッシャプレート114の押圧部142と、クラッチセンタ113の受圧部128と、の間に、クラッチ部115が配置されている。これらの各部材は、プルタイプのクラッチ装置100と同様に、クラッチハウジング112の内部に収容されている。
【0079】
クラッチセンタ113は軸方向に移動しないので、コイルスプリング119によってリフタプレート116が軸方向の第1側に付勢されている。すなわち、リフタプレート116に固定されたプレッシャプレート114が軸方向の第1側に付勢され、プレッシャプレート114がクラッチセンタ113に対して押圧されて、クラッチ部115がオン状態になっている。
【0080】
そして、リフタプレート116及びプレッシャプレート114を、コイルスプリング119の付勢力に抗して軸方向の第2側に移動させることによって、クラッチ部115がオフされる。
【0081】
変形例5
プレッシャプレート20及びクラッチセンタ30の構成は前記実施形態に限定されない。例えば、前記実施形態では、クラッチセンタ30の円板部36、筒状部37、及び受圧部38を一体成形で形成したが、それぞれ別の部材で形成してもよい。また、プレッシャプレート20についても同様であり、ボス部25、筒状部21、及び押圧部22を、それぞれ別の部材で形成してもよい。
【符号の説明】
【0082】
10 サポートプレート(第1回転体)
20、114 プレッシャプレート(第2回転体)
30、113 クラッチセンタ(第3回転体)
40 ボルト
50 滑り防止部材
60、117 カム機構
60a 第1カム面
60b 第2カム面
70、115 クラッチ部
100、110 クラッチ装置