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特許7458799発光用材料及びその製造方法、並びに透明樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】発光用材料及びその製造方法、並びに透明樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/02 20060101AFI20240325BHJP
   C01F 7/028 20220101ALI20240325BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240325BHJP
   C01F 7/025 20220101ALI20240325BHJP
【FI】
C09K11/02 Z
C01F7/028
C09K11/06 660
C09K11/06
C01F7/025
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020012039
(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2021116214
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-11-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永野 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】楊原 武
(72)【発明者】
【氏名】桂山 はるか
(72)【発明者】
【氏名】堀 健太
(72)【発明者】
【氏名】安部 賛
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/168197(WO,A1)
【文献】特開2000-256251(JP,A)
【文献】特開2010-202706(JP,A)
【文献】特表2012-532211(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235580(WO,A1)
【文献】特開2021-103212(JP,A)
【文献】特開2019-131758(JP,A)
【文献】特開2017-215568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00- 11/89
C01F 1/00- 17/00
C04B 41/00- 41/72
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C09C 1/00- 3/12
C09D 1/00-201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部に連通する表面を基準とする比表面積直径が0.1nm以上80nm以下、表面の組成と内部の組成とが異なる無機物からなる一次粒子から構成され、
脱水縮合により粒子間が結合・融着した凝集体である粒子材料と、
前記一次粒子の一部を置換するか、及び/又は、前記粒子材料の表面を被覆する発光物質と、
を有し、
前記発光物質は、
無機発光物質、希土類金属錯体、有機発光物質やそれらの混合物、複合物であり、且つ
粒径が0.1nm~80nmの大きさの粒子状であるか、又は、厚みが20nm以下の膜状であり、
前記 前記一次粒子は、
前記内部がベーマイト、前記表面がシリカから構成されるか、又は、前記内部がγアルミナ、前記表面がシリカから構成され
発光用材料。
【請求項2】
前記発光物質と前記無機物との間は、共有結合又はイオン結合により結合しているか、前記発光物質が高分子化されているか、及び、前記発光物質が高分子材料中に分散されているかのうちの何れかである請求項1に記載の発光用材料。
【請求項3】
前記発光物質は、有機希土類錯体である請求項1又は2に記載の発光用材料。
【請求項4】
前記一次粒子の表面を被覆する有機物からなる被覆層を有し、
前記被覆層は、前記一次粒子の表面に対して、共有結合するか又は分子間力結合するかにより結合している請求項1~3のうちの何れか1項に記載の発光用材料。
【請求項5】
前記有機物は、シラン化合物の縮合物である請求項4に記載の発光用材料。
【請求項6】
前記凝集体の体積平均粒径は0.1μm以上500μm以下である請求項1~5のうちの何れか1項に記載の発光用材料。
【請求項7】
X線回折での2θが、
45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅が0.5°以上であるか、
37°~39°と71°~73°とにそれぞれ存在するピークの半値幅が2.5°以下であるか、又は、
45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅が2.5°以下である、
請求項1~のうちの何れか1項に記載の発光用材料。
【請求項8】
前記凝集体は、原子番号38以上の元素の酸化物からなる第2粒子を含む請求項1~のうちの何れか1項に記載の発光用材料。
【請求項9】
請求項4、又は、請求項4を直接若しくは間接的に引用する請求項5~8のうちの何れか1項に記載の発光用材料を製造する製造方法であって、
前記内部の組成をもつコア粒子を液体分散媒中に分散させて分散液とする分散工程と、
前記分散液に前記表面の組成の前駆体を溶解させた後、前記前駆体から前記表面の組成に変換して前記コア粒子を被覆して被覆粒子とする被覆工程と、
前記被覆粒子を加熱して脱水縮合することで粒子間を結合・融着して凝集体とする凝集工程と、
を有する発光用材料の製造方法。
【請求項10】
前記被覆工程後にシラン化合物を前記被覆粒子の表面に接触させて改質する改質工程を有する請求項に記載の発光用材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1~のうちの何れか1項に記載の発光用材料と、
前記発光用材料を分散する透明樹脂材料と、
を有する透明樹脂組成物。
【請求項12】
光透過率(400nm/2mm)が80%以上である請求項11に記載の透明樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光用材料及びその製造方法、並びに透明樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から透明材料に対して、特定波長の光線を照射したときに蛍光などを発生するようにすることが行われている。そのために透明材料に対して蛍光物質や燐光物質などの発光物質を含有させることが行われている。特に透明樹脂材料中に発光物質を含有させた透明樹脂組成物が汎用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/073329号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発光物質を含有する透明樹脂材料は、照明や画像表示装置などの発光素子に用いられる。近年、発光素子は微細化が進行しており、ミクロレベルでの発光強度の均一化が求められている。
ここで、透明で、蛍光体が含まれている樹脂組成物としては蛍光染料を溶解させたものや蛍光顔料を分散させたものが一般的である。しかしながら、蛍光染料では、耐熱性や耐久性が低いことや、樹脂によっては溶解性が悪いといった課題があり、蛍光顔料では、透明樹脂材料中へのナノメートルオーダーからサブマイクロメートルオーダーでの分散性が充分で無い場合が多かった。
耐熱性や耐久性があって分散性に優れた透明材料としては、ガラス粉末及び無機ナノ蛍光体粒子を含有する混合物を、金型を用いて加熱プレスすることにより焼結することを特徴とする波長変換部材の製造方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、この方法では透明樹脂材料に適用することができず応用対象が限られている。
【0005】
本発明は実情に鑑み完成したものであり、透明樹脂材料中に分散させた場合に均一な光学的特性を実現することができる発光用材料及びその製造方法、並びにその発光用材料を用いた透明樹脂組成物を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討の結果、粒径が一定範囲である一次粒子の凝集体とし、その凝集体に発光物質を含有させることで発光物質の凝集などを抑制して透明樹脂材料などに均一に分散させることに成功した。凝集体から形成される発光用材料は、光学的特性は一次粒子が小さいために良好であり、機械的特性は凝集体の粒径が大きいために良好にできた。更に、その凝集体中に発光物質を均一に分散させておいたり凝集体の表面を発光物質で被覆することにより透明樹脂材料中に発光物質を単独で分散する場合に生じうる発光物質の凝集を抑制することができた。
【0007】
上記課題を解決する本発明の発光用材料は、外部に連通する表面を基準とする比表面積直径が0.1nm以上80nm以下、表面の組成と内部の組成とが異なる無機物からなる一次粒子から構成され、脱水縮合により粒子間が結合・融着した凝集体である粒子材料と、前記一次粒子の一部を置換するか、及び/又は、前記粒子材料の表面を被覆する発光物質とを有する。
【0008】
そして、上記課題を解決する発光用材料の製造方法は、上述の発光用材料を製造する製造方法であって、
前記内部の組成をもつコア粒子を液体分散媒中に分散させて分散液とする分散工程と、
前記分散液に前記表面の組成の前駆体を溶解させた後、前記前駆体から前記表面の組成に変換して前記コア粒子を被覆して被覆粒子とする被覆工程と、
前記被覆粒子を加熱して脱水縮合することで粒子間を結合・融着して凝集体とする凝集工程と、
を有する。
【0009】
また、上述の課題を解決する透明樹脂組成物は、上述の発光用材料と、
前記発光用材料を分散する透明樹脂材料と、
を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の発光用材料は、透明樹脂材料中に均一に分散させることが容易である。更に本発明の発光用材料は、無機物からなる一次粒子から構成される凝集体であるため透明樹脂材料中に分散させることで、得られる透明樹脂組成物の機械的特性及び熱的特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例における各試料のXRDスペクトルである。
図2】比較例における各試料のXRDスペクトルである。
図3】実施例における各試料のXRDスペクトルである。
図4】比較例における各試料のXRDスペクトルである。
図5】実施例及び比較例における各試料のXRDスペクトルを解析した結果である。
図6】実施例1-0及び比較例1-0における各試料のTG-DTA測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態の発光用材料及びその製造方法について以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。本実施形態の発光用材料は、透明樹脂材料中に分散させて得られる透明樹脂組成物について高い光学的特性を示すことができる材料であり、また付随的な効果として光学的特性の他にも従来にない特性をもつことができる粒子材料である。例えば、透明樹脂組成物などのように他の材料中に本実施形態の粒子材料を分散させたときに得られる特性としては、高い透明性、低い熱膨張係数(CTE)、高いガスバリア性、高い弾性率、高い表面硬度、高い圧縮強度、高いアンチブロッキング性が挙げられる。これらの性能は、含有する粒子材料により実現される。
【0013】
(発光用材料)
本実施形態の発光用材料は、無機物からなる一次粒子から構成される粒子材料と、発光物質とを有する。
【0014】
・粒子材料
粒子材料は、一次粒子が脱水縮合により結合・融着して凝集した凝集体である。なお、一次粒子の内の一部が発光物質にて置換されることがあるが、発光物質による置換については発光物質についての説明にて詳細に説明を行うため本欄での説明は省略する。凝集体の粒径は特に限定しない。一次粒子の間が結合・融着されていることから一次粒子間が強固に結合され、粒子材料の機械的強度が向上できる。粒径が大きいほど強度を向上することができるため、透明樹脂材料中に混合できる限度で粒径を大きくすることが好ましい。例えば薄膜などのように物理的に粒子材料が侵入できない可能性があるような形態に適用する場合には、適用する部分の形態に物理的に侵入できるように、粒子材料の適正な粒度分布が決定される。
【0015】
粒子材料の体積平均粒径の好ましい下限値としては、0.1μm、0.5μm、1.0μmなどが例示できる。体積平均粒径の好ましい上限値としては、500μm、100μm、10μm、5μmなどが例示できる。更に、大きな粒径と小さな粒径とのように複数の粒径にピークをもつようにすることができる。
【0016】
そして、本実施形態の粒子材料は、外気に連通する表面を基準とする比表面積直径が0.1nm以上80nm以下である。比表面積直径は、比表面積(単位質量あたりの表面積)と粒子材料を構成する材料の比重とから算出される値であり、一次粒子の凝集体として構成される2次粒子では、2次粒子を構成する一次粒子の粒径に近い値が算出される。
【0017】
本実施形態の粒子材料比表面積直径は、下限値としては0.5nm、1nm、5nm、10nmを採用することができ、上限値としては30nm、50nm、70nmを採用することができる。
【0018】
凝集体を構成する一次粒子(以下、適宜「構成一次粒子」と称する)は、無機物であることの他は特に限定しない。例えば、アルミナ(γアルミナなど)、ベーマイト、シリカなどが採用できるし、これらの無機物からなる粒子を組み合わせることもできる。組み合わせる場合には1つの構成一次粒子内で組み合わせても良いし、別の組成からなる構成一次粒子を組み合わせても良い。
【0019】
また、本実施形態の粒子材料は、表面の組成と内部の組成とが異なる無機物から構成することもできる。表面の組成と内部の組成とを異なるものにすることにより、構成一次粒子内において内部を構成する材料が外部に影響を及ぼし難くなる。また、外部からの影響が内部に及び難くなる。そして表面の組成と内部の組成とが相互作用を起こすことで予期できない効果を発揮できることがある。予期できない効果としては、内部の組成としてγアルミナを採用したときに表面を別の材料(例えばシリカ)にすることによりγアルミナの結晶の相転移の態様に影響を与えることが例示できる。γアルミナは、加熱により相転移することが知られているが、表面を別の材料にて構成した構成一次粒子中に存在するγアルミナは、γアルミナ単独では相転移が生じる温度にまで加熱しても相転移しないことを確認している。従って、脱水縮合による凝集体の製造を900℃以上(好ましくは950℃以上、1000℃以上)で行うことができる。
【0020】
また、内部の組成としてベーマイトを採用し、表面としてシリカを採用すると、加熱によるベーマイトからアルミナ(特にγアルミナ)への転移が抑制できる。従って、脱水縮合による凝集体の製造を250℃超で行うことができる。
【0021】
更に、その他の組成(例えば全体が単一の組成からなるもの)をもつ構成一次粒子を含有することも可能である。構成一次粒子として含有することが可能な粒子としては、後述する発光物質、原子番号38以上の元素の酸化物からなる第2粒子が例示できる。具体的に含有することが好ましい酸化物に含まれる原子番号が38以上の元素としては、ジルコニウムが挙げられる。構成一次粒子の粒子形状としては特に限定しない。
【0022】
構成一次粒子の表面の組成、内部の組成のそれぞれについてどのような組成の無機物を採用するかは任意である。ここで、表面の組成としてはシリカを選択することが好ましい。シリカは表面に対して種々の表面処理を行うことが容易であり、物理的安定性、化学的安定性共に高いほか、合成が容易であるからである。光学的な特性向上の観点からは非晶質シリカを採用することが好ましい。
【0023】
表面と内部との比率については特に限定しない。表面については内部を概ね隙間無く被覆することが好ましい。
【0024】
粒子材料は、表面に有機物からなる被覆層をもつことができる。被覆層は構成一次粒子の表面を被覆する層である。更に、後述する発光物質を含有した上で発光物質を被覆するように被覆層を設けても良い。
【0025】
被覆層の厚みは特に限定しないが粒子材料の表面を概ね隙間無く被覆することが好ましい。被覆層を有する場合には、凝集した構成一次粒子の間に介在させることもできるほか、構成一次粒子が凝集した状態でその表面を被覆して構成一次粒子同士が直接凝集した状態になった上で被覆されていることもできる。被覆層は構成一次粒子の表面に対して共有結合されているか分子間力結合などにより物理的に結合されているかの何れかが望ましい。被覆層を構成する有機物としては、シラン化合物の縮合物であることが好ましい。シラン化合物としてはSiORを2つ以上もつ化合物とすると縮合物からなる被覆層が形成できる。シラン化合物の縮合物を製造する方法としては、前述のシラン化合物を構成一次粒子(凝集体を形成する前後を問わない)の表面に接触させた状態で縮合させることにより行うことができる。構成一次粒子は、無機材料から構成され、その表面にはOH基を有することが通常である。そのため前述のシラン化合物は、構成一次粒子の表面に存在するOH基と反応して共有結合を形成することができる。
【0026】
また、粒子材料は、表面又は内部の組成としてAlを採用する場合に、X線回折での2θが45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅が0.5°以上であることが好ましい。2θが45°~49°の範囲にあるピーク(第1ピーク)は、γアルミナであり、2θが64°~67°の範囲にあるピーク(第2ピーク)は、γアルミナである。この範囲に存在するピークの半値幅が0.5°以上になるとαアルミナが生成していないため好ましい。
【0027】
更に、粒子材料は、表面又は内部の組成としてベーマイトを採用する場合に、X線回折での2θが37°~39°と71°~73°とにそれぞれ存在するピークの半値幅が2.5°以下であるか、及び/又は、45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅が2.5°以下であることが好ましい。2θがこれらの範囲にあるピークは、ベーマイトであり、この範囲に存在するピークの半値幅が2.5°以下になるとベーマイトが残存しているため好ましい。
【0028】
・発光物質
発光物質は、外部からのエネルギー(光線など)を加えることにより発光する物質であり、いわゆる蛍光性、燐光性などの性質をもつ物質であれば採用可能である。発光物質は、上述の粒子材料を構成する構成一次粒子の一部を置換して凝集体の一部になっていたり、粒子材料の表面に付着させたりできる。表面に付着させる場合には、膜状(前述の被覆層)にすることができる。被覆層に含有させる場合には、被覆層を高分子材料から構成することができる。高分子材料は、有機、無機、及びそれらの複合物の何れであっても良い。
【0029】
発光物質は、粒径が0.1nm~80nmの大きさの粒子状としたり、厚みが20nm以下の膜状としたりできる。特に粒径の下限値としては、0.5nm、1nm、5nm、10nmを採用することができ、上限値としては30nm、50nm、70nmを採用することができる。粒径の制御方法については特に限定しないが、粉砕により制御したり、合成時の条件を変更することにより制御できる。
【0030】
膜状にしたときの厚みの上限値としては15nm、10nm、8nm、5nmなどを採用することができる。膜状にする場合には、発光物質に重合可能な構造、官能基を導入して高分子化したり、発光物質を他の物質中に分散させた状態にしたりして成膜することもできる。例えば、他の物質としての高分子材料中に分散させて成膜することもできる。高分子材料としては、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリエステル、エポキシ樹脂、尿素樹脂などでの有機高分子材料、複数のSiOHをもつシラン化合物由来の無機高分子材料などが例示できる。これらの高分子材料中に発光物質を溶解ないしは分散させて成膜することができる。詳しくは後述する製造方法にて説明する。
発光物質の種類は特に限定しない。無機発光物質、希土類金属錯体、有機発光物質やそれらの混合物、複合物などである。
【0031】
[無機発光物質]
無機発光物質としては特に限定しないが、例えば、Y22S:ユウロピウム(Eu),Mg,Ti, Tb(テルビウム)、Er3+イオンを含有した酸化フッ化物系結晶化ガラス、酸化ストロンチウムと酸化アルミニウムからなる化合物に希土類元素のEuとジスプロシウム(Dy)を添加したSrAl2O4:Eu,Dyや、Sr4Al1425:Eu,Dyや、CaAl24:Eu,Dyや、ZnS:Cu等を挙げることができる。
【0032】
[希土類金属錯体]
希土類金属錯体を構成する金属としては、発光効率の観点から、Euおよびサマリウムの少なくとも一方であることが好ましく、Euであることがより好ましい。また、Si-Al-O-N を主な構成元素とする蛍光体(いわゆるサイアロン蛍光体)を採用することができる。
【0033】
また前記希土類金属錯体を構成する配位子としては、希土類金属に配位可能であれば特に制限はなく、用いる金属に応じて適宜選択することができる。中でも発光効率の観点から、有機配位子であることが好ましく、ユウロピウムおよびサマリウムの少なくとも1方と錯体を形成可能な有機配位子であることが好ましい。
【0034】
本発明では、配位子を限定するものではないが、中性配位子である含窒素有機化合物、含窒素芳香族複素環式化合物、およびホスフィンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を含有していることが好ましい。
【0035】
また希土類錯体のアニオン性配位子として、一般式:R1COCHR2COR3(式中、R1はアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基またはそれらの置換体を、R2は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基またはアリール基を、R3はアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基またはそれらの置換体をそれぞれ示す)で表わされるβ-ジケトン類又はカルボン酸類を含有してもよい。
【0036】
[有機発光物質]
有機発光物質としては、例えば、シアニン、メロシアニン等のシアニン系色素、ピリジ
ン系色素、ピラニン、ペリレン、ローダミン系色素、ウンベリフェロン、スチルベン、ジアミノスチルベンジスルホン酸、ビス(トリアジニルアミド)スチルベンジスルホン酸、ビススチリルビフェニル誘導体、クマリン誘導体、ピラゾリン誘導体等、臭化エチジウム、ナイルブルー、ルシフェリン、ルマジンタンパク質、フルオレセイン、サイバーグリーンなどが挙げられる。
【0037】
これらの発光物質は市販品が存在するものがある。TINOPAL OB:2,5-チオフェンジイルビス(5-tert-ブチル-1,3-ベンゾキサゾール)、BASF社製、吸収極大波長375nm、発光極大波長438nm、PBD:2-(4-ビフェニル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、和光純薬工業(株)社製、吸収極大波長272nm、発光極大波長364nm、CBP:4,4’-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル、東京化成工業(株)社製、吸収極大波長302nm、発光極大波長369nm、NPB:N,N'-ジ(1-ナフチル)-N,N'-ジフェニルベンジジン、(株)同仁化学研究所社製、吸収極大波長339nm、発光極大波長450nmKAYALIGHT B:7-ジエチルアミノ-4-メチルクマリン、日本化薬(株)社製、吸収極大波長364nm、発光極大波長416nm、Lumogen F Violet570、BASF社製、吸収極大波長378nm、発光極大波長413nm、同Yellow083、吸収極大波長476nm、発光極大波長490nm、同Orange240、吸収極大波長524nm、発光極大波長539nm、同Red300、吸収極大波長578nm、発光極大波長613nm等が挙げられ、その他塩基性染料Rhodamine B、田岡化学工業(株)製、Sumiplast Yellow FL7G、住化ファインケム(株)製、MACROLEX Fluorescent Red G、Bayer社製、同Yellow10GN等を挙げることができる。
【0038】
さらに、有機発光物質としては、ベンゾオキサゾール系、スチルベンゼン系、ベンズイミダゾール系、ナフタルイミド系、ローダミン系、クマリン系、オキサジン系、チオフェン系、スチレンビフェニル系、ピラゾロン系などの蛍光増白剤を用いることが好ましい。特に、熱安定性の点から分子量300~1000の、ベンゾオキサゾール系化合物及びクマリン系化合物から選ばれる、白色系の蛍光増白剤が好ましい。また、例えば、ジスチリルビフェニル系青色蛍光発光材、アリールエチニルベンゼン系青色蛍光発光材、キンキピリジン系蛍光発光材、セキシフェニル系青色蛍光発光材、ジメシチルボリルアントラセン系蛍光発光材、キナクリドン系蛍光発光材などから選ばれる白色有機発光体や青色有機発光体も蛍光増白作用を示す化合物として使用できる。
【0039】
蛍光増白剤としてのベンゾオキサゾール系化合物の具体例としては、4-(ベンゾオキサゾール-2-イル)-4’-(5-メチルベンゾオキサゾール-2-イル)スチルベン、4,4’-ビス(ベンゾオキサゾール-2-イル)スチルベン、2,5-チオフェンジイル(5-tert-ブチル-1,3-ベンゾオキサゾール)、4,4’-ビス(ベンゾオキサゾール-2-イル)フラン等が挙げられる。これらの中では、2,5-チオフェンジイルビス(5-tert-ブチル-1,3-ベンゾキサゾール)、あるいは4,4’-ビス(ベンゾオキサゾール-2-イル)スチルベン等のスチルベンベンゾオキサゾール系化合物が好ましい。
【0040】
クマリン系化合物の具体例としては、3-フェニル-7-アミノクマリン、3-フェニル-7-(イミノ-1’,3’,5’-トリアジン-2’-ジエチルアミノ-4’-クロロ)-クマリン、3-フェニル-7-(イミノ-1’,3’,5’-トリアジン-2’-ジエチルアミノ-4’-メトキシ)-クマリン、3-フェニル-7-ナフトトリアゾールクマリン、4-メチル-7-ヒドロキシクマリン等が挙げられる。これらの中では、3-フェニル-7-ナフトトリアゾールクマリン等のフェニルアリルトリアゾリルクマ
リン系化合物が好ましい。
【0041】
また、複数の蛍光物質を組み合わせたり、蛍光物質と共に燐光・蓄光物質を用いたりしてもよい。例えば、第1種の蛍光物質に波長変換機能を担わせて、第2種の蛍光物質に与える励起光を得るようにしてもよい。
【0042】
(発光用材料の製造方法)
本実施形態の発光用材料の製造方法は、上述の本実施形態の発光用材料のうち、構成一次粒子としてコアシェル構造をもつものを好適に製造することができる方法である。コアシェル構造を有する発光用材料以外については、構成一次粒子に対して以下に記載の凝集工程を適用することにより発光用材料を製造することができる。
発光用材料の製造方法は、分散工程と被覆工程と必要に応じて選択できるその他の工程とを有する。その他の工程としては、凝集工程、改質工程、粒度分布調整工程などが挙げられる。
【0043】
分散工程は、内部の組成をもつ粒子(コア粒子)を液体分散媒中に分散させて分散液とする工程である。コア粒子は、常法により得ることができる。例えば、内部の組成の前駆体となる化合物を反応させて製造できる。例えば内部の組成としてベーマイトを採用する場合には、粉砕などにより適正な粒径とした水酸化アルミニウムを前駆体として採用し、水熱処理することでベーマイトからなるコア粒子を得ることができる。また、適正な粒径とした酸化アルミニウムを前駆体として採用し、酸やアルカリ水溶液中で加熱することでコア粒子を得ることができる。ここで得られたコア粒子に発光物質からなる粒子を加えることもできる。
【0044】
被覆工程は、得られた分散液に対して、反応により表面の組成になる化合物である前駆体を添加し表面の組成を生成することによってコア粒子の表面を表面の組成にて被覆・形成した被覆粒子とする工程である。内部の組成と表面の組成との比率は、添加する前駆体の量により制御できる。前駆体としては、どのような化合物を採用しても良い。表面の組成としてシリカを採用する場合は、前駆体としてテトラエトキシシランを採用することができる。テトラエトキシシランは、水の存在下で容易にシリカを生成する。例えば、テトラエトキシシランを酸性若しくは塩基性の雰囲気下で加水分解するいわゆるゾルゲル法が採用できる。この工程時に発光物質を加えることにより発光物質により被覆することができる。
【0045】
凝集工程は、被覆工程の後に行う工程であり、被覆工程にて得られた被覆粒子を加熱して凝集させる工程である。得られた凝集体は、必要な粒度分布になるように粉砕操作や分級操作を行うことができる。凝集工程における加熱温度は被覆粒子間において脱水縮合が生じる温度である。例えば250℃超の温度、450℃以上、500℃以上が例示できる。この温度範囲にて加熱することで得られた粒子材料の強度が向上できる。
【0046】
改質工程は、被覆工程後に行う工程であり、被覆工程により得られた被覆粒子に対してシラン化合物を表面に接触させて改質する工程である。凝集工程と組み合わせる場合には、前後いずれでも行うことができる。改質工程時に発光物質を加えることにより発光物質を表面に導入可能になる。また、改質工程において高分子化合物の前駆体を発光物質と共に導入した後に重合反応を進行させることで表面に発光物質を導入することができる。
【0047】
(透明樹脂組成物)
本実施形態の透明樹脂組成物は、上述した発光用材料と、その発光用材料を分散する透明樹脂材料とを有する。本実施形態の透明樹脂組成物は、光透過率が80%以上であり、特に85%以上、90%以上にすることが好ましい。光透過率は、厚み2mmの試験試料を用いて波長400nmの光線を用いて測定を行う。発光用材料と透明樹脂材料との混合比は、上述の光透過率が達成できる範囲内で決定し、発光用材料の割合を多くすることが機械的特性向上の観点からは好ましい。
【0048】
採用できる発光用材料は上述した通りであるため更なる説明は省略する。透明樹脂材料は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの通常の樹脂材料が選択できる。例えば、エポキシ樹脂,ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレンが挙げられる。
【0049】
透明樹脂材料中に発光用材料を分散させる方法としては特に限定しない。例えば、透明樹脂材料として熱可塑性樹脂を採用する場合には加熱溶融した透明樹脂材料と発光用材料とを混合して混練したり、透明樹脂材料の前駆体(透明樹脂前駆体材料:モノマーなど)と発光用材料とを混合した後に重合反応を行ったりすることで透明樹脂組成物を得ることができる。透明樹脂材料が熱硬化性樹脂である場合には、透明樹脂材料の前駆体(モノマー、プレポリマーなど)と発光用材料とを混合した後に硬化させることができる。
【0050】
なお、透明樹脂前駆体材料として光重合性の材料を採用することで光重合性の透明樹脂組成物が提供できる。光重合性の透明樹脂組成物は、型内に封入後、光線を照射することにより成形体を製造するために用いたり、いわゆる光造形型の3Dプリンタの造形用の光硬化性樹脂材料として用いることができる。重合後の樹脂組成物について、高い透明性、低い熱膨張係数(CTE)、高い弾性率が期待できる。
【実施例
【0051】
本発明の発光用材料及びその製造方法並びに透明樹脂組成物について実施例に基づき以下詳細に説明を行う。
【0052】
(試験1:表面の組成としてシリカ、内部の組成としてベーマイトを採用した一次粒子からなる凝集体である粒子材料の製造)
川研ファインケミカル株式会社製のアルミゾル10A(Alを10質量%含有:短径×長径は10nm×50nm:コア粒子に相当)100質量部にイソプロパノール(IPA)40質量部を加えて、テトラエトキシシラン(TEOS:表面の組成であるシリカの前駆体)10質量部を添加した。この混合比を採用することで最終的に得られる粒子材料中のベーマイトとシリカとの質量比は理論上78:22である。
【0053】
室温で24時間反応したのちアンモニア水で中和して構成一次粒子からなるゲル状の沈殿物を得た。沈殿物を純水で洗浄し、160℃、2時間乾燥し、ジェットミルで平均粒子径を2μm以下に粉砕して実施例1-0の粒子材料を得た。
【0054】
実施例1-0の粒子材料を650℃2時間熱処理して実施例1-1の粒子材料を得た。850℃、2時間熱処理して実施例1-2の粒子材料を得た。
【0055】
実施例1-1の粒子材料を1100℃、2時間熱処理して実施例1-3の粒子材料を得た。実施例1-1の粒子材料を1200℃、2時間熱処理して実施例1-4の粒子材料を得た。更に実施例1-0の粒子材料を、250℃(実施例1-5)、400℃(実施例1-6)、450℃(実施例1-7)で2時間熱処理して各実施例の粒子材料を得た。実施例1-0~実施例1-7の粒子材料の体積平均粒径、比表面積、屈折率を表1に示す。体積平均粒径はレーザー回折式粒度測定装置を用いて行った。比表面積は、窒素を用いたBET法にて測定した。粒子の屈折率は以下の方法で定義した。屈折率が既知の2種類の溶媒で配合比の異なる混合溶媒を複数水準用意し,これに粒子を分散させた際,透過率80%以上(589nm/10mm)かつ最も混合液が透明である点の混合液の屈折率が粒子の屈折率とした。また混合液の透過率が80%に満たない場合は光学的に非完全不透明と定義した。実施例1-0~1-4のそれぞれのXRDスペクトルは図1に、実施例1-5~1-7のそれぞれのXRDスペクトルは図3にまとめた。それぞれのXRDの測定結果から算出した各実施例における2θが45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅(FWHM)を表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1より明らかなように、実施例1-0の粒子材料は、ベーマイトの屈折率である1.65とシリカの屈折率である1.45~1.47と両者の混合比(78:22)とから算出される値(約1.60)と近い値を示している。そして実施例1-1~1-4の粒子材料は、高温での加熱によりベーマイトがγアルミナに転移された結果、屈折率が高くなり1.61~1.63になった。
【0059】
また、XRDの測定結果から2θが45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅はそれぞれ0.7°以上で有り、αアルミナに由来する結晶の生成は認められなかった。通常、ベーマイトは、1200℃程度で加熱するとαアルミナになるが、表面をシリカで覆うことでαアルミナ化が抑制できることがわかった。
【0060】
また、それぞれの実施例における比表面積直径は、650℃までの加熱では340m/g弱程度と変わりなく、それより高い温度(例えば850℃以上)では加熱の温度が高くなるにつれて大きくなり、構成一次粒子同士の焼結が進んでいることが認められ、粒子材料の強度が高くなっていることが推測できる。
【0061】
ベーマイトは高温にて加熱することでγアルミナに転移するため、この生成・消失を検討することで、ベーマイトからγアルミナへの転移が表面に存在するシリカによりどのように影響を受けるかを検討した。
【0062】
具体的には、図3及び4の結果から、ベーマイトの消失及びγアルミナの生成を解析し、加熱温度の変化と表面のシリカの有無の影響を検討した。各ピークについて2θが38°、50°、64°、72°近傍のピークがベーマイト由来のピークであり、45°、67°近傍のピークがγアルミナ由来のピークである。上述のベーマイト由来の各ピークが全て存在し、その半値幅(FWHM)が全て狭い(例えば2.5°以下、好ましくは0.5°以下)である場合にベーマイトが主成分であると判断した。また、上述のγアルミナ由来の各ピークが全て存在し、その半値幅が全て0.5°以上(好ましくは3.0°以上)である場合にγアルミナが相当量生成したと判断した。解析結果を図5に示す。
【0063】
今回の各試料は最初はベーマイトのみから構成されγアルミナは殆ど含有していないため、γアルミナ由来のピークが上述した基準で観測された場合にベーマイトからγアルミナへの転移が進行していることが分かる。更に、これらの試料について屈折率を測定し図5に合わせて示す。
【0064】
図5より明らかなように、250℃で加熱した比較例1-5ではγアルミナ由来のピークは小さくベーマイトが主成分であったが、400℃で加熱した比較例1-6、450℃で加熱した比較例1-7と加熱温度を高くするにつれてγアルミナに転移されていることが分かったγアルミナに転移していることで屈折率も大きくなった。
【0065】
それに対して表面をシリカで形成した実施例1-5~1-7は、250℃(実施例1-5)、400℃(実施例1-6)、450℃(実施形態1-7)で加熱してもいずれもベーマイトが主成分でγアルミナの生成は殆ど認められなかった。屈折率も大きな変動を示さなかった。このように高温で加熱できることベーマイトのままで粒子材料間を強固に結合させることができた。
【0066】
参考までに実施例1-0及び比較例1-0についてTG-DTA測定を行った結果を図6に示す。実施例1-0の試料は、460℃近傍にて吸熱ピークが認められ、この温度付近でベーマイトがγアルミナに転移していることが分かった。それに対して比較例1-0の試料は、420℃近傍にて吸熱ピークが認められ、この温度は表面をシリカにて形成している実施例1-0における吸熱ピークを示す温度よりも40℃低いものであった。
【0067】
(試験2:有機物から成る被覆層の形成:その1)
実施例1-2の粒子材料(160℃で乾燥後850℃で焼結)を表3に示した配合量でミキサーに入れたのち、表3に示す有機物配合量(シラン化合物の量)に相当するシラン化合物溶液を撹拌しながら投入して表面処理を行った。シラン化合物溶液は、シラン化合物としてのビニルトリメトキシシラン(信越化学製KBM-1003)、IPA、水の等量混合液とした。
【0068】
その後室温で1日放置して熟成させた後160℃2時間加熱し液成分を揮発させ実施例2-1~2-3の複合凝集体を得た。この表面処理により粒子材料の表面に有機物からなる被覆層が形成された。
【0069】
【表3】
【0070】
表3より明らかなように、シラン化合物の処理量を多くすることで被覆層を厚くすることが可能になり、被覆層を厚くするにつれて屈折率が小さくなることが分かった。
【0071】
(試験3:有機物から成る被覆層の形成:その2)
実施例1-0の粒子材料(160℃で乾燥のみ)を表4に示した配合量でミキサーに入れたのち、表4に示す有機物配合量(シラン化合物の量)に相当するシラン化合物溶液を撹拌しながら投入して表面処理を行った。シラン化合物溶液は、シラン化合物としてのビニルトリメトキシシラン(信越化学製KBM-1003)、IPA、水の等量混合液とした。
【0072】
その後室温で1日放置して熟成させた後160℃2時間加熱し液成分を揮発させ実施例3-1~3-3の複合凝集体を得た。この表面処理により粒子材料の表面に有機物からなる被覆層が形成された。
【0073】
【表4】
【0074】
表4より明らかなように、シラン化合物の添加量を増やして有機物からなる被覆層を厚くすることにより屈折率を小さくすることが可能になった。
【0075】
(試験4:有機物から成る被覆層の形成:その3)
TEOSの添加量を表5に記載の量に変更した以外は、上述した実施例1-2と同様の方法にて実施例4-1、4-2、及び4-3の粒子材料を製造した。
【0076】
【表5】
【0077】
測定された屈折率の値は、TEOSの添加量を増加させることで屈折率を制御できることが分かった。
【0078】
更に、実施例1-2、4-1、4-2、及び4-3の各粒子材料100質量部に対してメチルトリメトキシシラン(KBM-13、信越化学工業製)50質量部を反応させたものをそれぞれ実施例4-4、4-5、4-6、及び4-7の粒子材料として屈折率を測定した(表6)。
【0079】
【表6】
【0080】
表6より明らかなように、KBM-13により表面処理を行うことで屈折率を制御することが可能であることが分かった。KBM-13の処理により元の粒子材料の屈折率よりも小さくすることができた。
【0081】
(試験5:表面にシリカの層を形成しない場合)
TEOSを添加しないこと以外は、試験1の実施例1-0~1-7と同様の方法で粒子材料を製造し、それぞれ比較例1-0~1-7の粒子材料とした。比較例の粒子材料は、全体がベーマイトまたはベーマイトが加熱により変化したγアルミナから形成されている。
【0082】
比較例の粒子材料について比表面積、屈折率、XRDの結果を表7に示す。比較例1-0、1-1、1-3、1-4については測定したXRDスペクトルを図2に示し、比較例1-5~1-7については測定したXRDスペクトルを図4に示す。
【0083】
【表7】
【0084】
表7より明らかなように、表面にシリカの層を有しないことで加熱により一次粒子同士の融着が進んで比表面積が小さくなっており、一次粒子の肥大化が認められた。そのため粒子の肥大化により光線の透過性に影響が生じることが分かった。また、1200℃で加熱した比較例1-4ではXRDによる測定したスペクトルにおける2θが45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅はそれぞれ0.2°となりγアルミナがα化していることが分かった。その結果、比表面積も小さくなって粒子の肥大化が認められた。このことからベーマイトの表面にシリカからなる層を形成することにより加熱によるαアルミナ化を抑制できることが分かった。
【0085】
(試験6)
実施例4-1の粒子材料を製造する際にTEOSと共にコロイダルシリカを表8に示す量だけ添加して実施例5-1~5-4を製造した。比較例5-1として、実施例4-1の粒子材料を製造する際にTEOSを除き、コロイダルシリカを表8に示す量だけ添加して製造した。
【0086】
【表8】
【0087】
表より明らかなように、TEOSを加えることによりコロイダルシリカを添加しても透明性を保ったまま(屈折率の測定が可能)であった。比較例5-1では外部と連通しない細孔が生じたために屈折率の測定ができなかったものと推測される。
【0088】
(試験7:発光用材料の製造:試験例6の粒子材料への発光物質の導入)
(熱で導入した例)
発光物質としての有機希土類錯体ルミシスE320(赤色:セントラルテクノ製)を多官能アクリルモノマーA-DPH(新中村化学製)及び硬化剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をメチルエチルケトン中にそれぞれ、2.1質量%、214質量%、1.1質量%の濃度で溶解した。
この溶液を上述の実施例5-3(屈折率1.52)の粒子材料に質量比で1:1となるように混合し、80℃、13時間加熱して粒子材料の表面に発光物質を含むアクリル薄膜を形成した発光用材料が得られた。有機希土類錯体ルミシスE320は、A-DPHに対して1質量%、AIBNはA-DPHに対して0.5質量%になるように添加した。A-DPHの量は、粒子材料の表面に被膜を形成したときに3nm程度の厚さになるように計算した量とした。MEKの量は、A-DPHと合わせて粒子材料の吸油量となるようにした。つまり、MEKとA-DPHを合わせた量が、粒子材料を構成する粒子の間隙を充填できる必要十分な量になるようにMEKの量を調節した。
この発光用材料は粉末状であった。この粉末をイソプロピルアルコール(IPA)で洗浄し、洗浄に用いたIPAが発光しなくなるまで繰り返した。IPAが除去されるまで60℃で乾燥して本実施例の発光用材料とした(実施例7-1)。本実施例の発光用材料について、365nmのUVを照射したところ、この粉末は均一に強く赤色発光した。
【0089】
(光で導入した例)
発光物質としての有機希土類錯体ルミシスE320(赤色:セントラルテクノ製)、後述のメタクリルモノマーA及び光重合開始剤としてIrgacure651(BASF製)をメチルエチルケトン中にそれぞれ、2.1質量%、214質量%、2.1質量%の濃度で溶解して溶液化した。
メタクリルモノマーAは硬化後の屈折率が1.52となるように配合しており、具体的にはトリエチレングリコールジメタクリレート(3G 新中村化学)とエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(BPE-200 新中村化学)を69:31で配合したものである。
この溶液と上述の実施例5-3の粒子材料とを質量比で1:1となるように混合し、MEKが除去されるまで60℃で乾燥した。なお、この比率も形成される被膜の厚みが3nm程度になるように算出したものである。
その後、365nmのLED-UVランプを照射して重合させることで粒子材料の表面に発光物質を含むアクリル薄膜を形成した。この発光用材料は粉末状であった。この粉末をイソプロピルアルコール(IPA)で洗浄し、洗浄に用いたIPAが発光しなくなるまで繰り返した。IPAが除去されるまで60℃で乾燥して本実施例の発光用材料とした(実施例7-2)。本実施例の発光用材料について、365nmのUVを照射したところ、この粉末は均一に強く赤色発光した。
【0090】
(エポキシ樹脂で導入した例)
発光物質としての有機希土類錯体ルミシスE320(赤色:セントラルテクノ製)、脂環式エポキシ セロキサイド2021P(ダイセル製)、及び硬化剤として酸無水物を当量比で配合、硬化促進剤(4級ホスホニウム塩)をセロキサイドに対して1質量%添加し、これをメチルエチルケトンに214質量%の濃度で溶解した。
この溶液を上述の実施例5-3の粒子材料に質量比で1:1となるように混合し、120℃1時間、150℃2時間加熱して粒子材料の表面に発光物質を含むエポキシ薄膜を形成した。なお、この比率も形成される被膜の厚みが3nm程度になるように算出したものである。その後、この発光用材料は粉末状であった。この粉末をイソプロピルアルコール(IPA)で洗浄し、洗浄に用いたIPAが発光しなくなるまで繰り返した。IPAが除去されるまで60℃で乾燥して本実施例の発光用材料とした(実施例7-3)。本実施例の発光用材料について、365nmのUVを照射したところ、この粉末は均一に強く赤色発光した。
【0091】
(プラズマ照射で導入した例)
MEKに有機希土類錯体ルミシスE320(赤色:セントラルテクノ製)を2.1質量%の濃度で溶解した。この溶液を上述の実施例5-3の粒子材料に質量比で1:1となるように混合し、MEKが除去されるまで60℃で乾燥した。その後、プラズマ照射して粒子表面に発光物質を結合させた。なお、プラズマ照射によりラジカルによる架橋が進行して粒子材料の表面に発光物質が結合している。
【0092】
(透明樹脂組成物の作製)
実施例7-1~7-3の発光用材料(屈折率1.52)を、メタクリルモノマーA(屈折率1.52)に30質量%で配合し、光重合開始剤としてIrgacure651(BASF製)を加えて混合、PETフィルム上に塗布して365nmのUVを照射しアクリルの硬化フィルムを得た。このフィルムは硬化後も赤色に強く発光した。
比較のため、上記と同濃度になるように発光物質をメタクリルモノマーに配合した以外は同様の組成でフィルムを得た。このフィルムも赤色に強く発光したが、ルミシスのメタクリルモノマーへの溶解性が悪く、発光にはムラがあった。
【0093】
(その他:前述の本実施形態の発光用材料及び透明樹脂組成物の応用)
以下に本実施形態の発光用材料及び透明樹脂組成物についての応用例を記載する。なお、以下の記載において透明樹脂組成物における透明樹脂材料を限定するような記載は、好ましい樹脂を例示するためのものであり、その樹脂材料だけが利用できるとの限定を行う意図で記載されたものでは無い。
【0094】
・透明樹脂組成物における透明樹脂材料をエポキシ樹脂又はシリコーン樹脂とすることで、オプトデバイス封止用透明樹脂組成物に好適に採用することができる。オプトデバイスとしては、LED、光センサ、導光路などが挙げられる。高い透明性、低いCTE、高いガスバリア性、高い弾性率などが期待できる。
【0095】
・透明樹脂組成物における透明樹脂材料をアクリル樹脂とすることで、歯科材料用樹脂組成物に好適に採用することができる。歯科材料用組成物は、人工歯、補綴物などの歯科修復材料に応用できる。高い透明性、低い熱膨張係数(CTE)、高い弾性率、高い表面硬度、高い圧縮強度などが期待できる。
【0096】
・透明樹脂組成物における透明樹脂材料をポリイミド、ポリエステル、又はエポキシ樹脂とすることで、透明フィルムに好適に採用することができる。高い透明性、高いガスバリア性、高い表面硬度、高いアンチブロッキング性などが期待できる。透明フィルムはディスプレイなどの電子機器(例えばディスプレィ用樹脂ガラスや、ディスプレィ基板用フィルム)や、意匠性向上のためのラッピング用途などに応用できる。
【0097】
・発光用材料を意匠層に含有させることで、インサートモールド用又はインモールド用などの加飾フィルムに好適に応用可能である。意匠層には本実施形態の発光用材料の他にも顔料や染料などを含有させることができる。高い透明性、高いガスバリア性、高い表面硬度などが期待できる。意匠層を形成するために本実施形態の発光用材料を何らかの分散媒(例えば上述するような透明樹脂材料)中に分散させる。更に顔料、染料、金属粒子、金属箔を含有させて発色させても良い。加飾フィルムは熱転写により対象物に一体化するものが例示できる。
【0098】
・発光用材料を油性ビヒクル中に含有させることで、油性透明塗料組成物に好適に応用することができる。高い透明性、低いCTE、高い表面硬度などが期待できる。
【0099】
・透明樹脂組成物を光学レンズに採用することで、高い透明性、低いCTE、高い表面硬度などが期待できる。
【0100】
・本実施形態の透明樹脂組成物からなる光学接着剤組成物が提供できる。含有する透明樹脂材料として重合前の前駆体を混合し、必要なときに熱や光によって硬化できるようにしたり、適正な溶媒にて本実施形態の透明樹脂組成物を溶解しその溶媒を蒸散させることで硬化できるようにしたりできる。高い透明性と低いCTEが実現できる。光学接着剤組成物は、光学部品の接着に好適に利用できる。光学ディスプレイなどにも適用できる。
【0101】
・本実施形態の透明樹脂組成物からなる樹脂ガラス成形体が提供できる。高い透明性と低いCTE、高い弾性率、高い表面硬度などが実現できる。
【0102】
・本実施形態の透明樹脂組成物からなる移動通信端末筐体が提供できる。この筐体はミリ波透過性をもつ。含有する発光用材料の一次粒子の粒径が小さいため、ミリ波に対しても吸収が小さくできる。移動体通信端末としては、携帯情報機器などを採用することにより高速通信が実現できる。また、移動体通信端末としては、自動車などの移動体のミリ波レーダーも採用できる。高い透明性、表面硬度などが実現できる。
【0103】
・本実施形態の透明樹脂組成物を成形した成形体について、本実施形態の発光用材料が表面に向かうにつれて含有量が多くなるような傾斜構造を有するようにすることで、高い透明性、低いCTE、高い表面硬度などが期待できる。傾斜構造を実現する方法としては特に限定しないが、発光用材料の含有量が異なる材料により成形体を作成(インモールド成形などを利用して成形体の部位毎に発光用材料の含有量を異なるものにする)する方法が例示できる。樹脂組成物には熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の何れも採用できる。成形体としては特に限定されず、上述したような用途に用いることができる。発光用材料を表面に多く含むようにすることで表面の性質を発光用材料により向上することができる。表面に発光用材料が集まっているためにガスバリア性や表面硬度の向上が特に期待できる。
【0104】
・本実施形態の透明樹脂組成物を成形した成形体の表面には発光用材料が含まれる凹凸構造を形成することができる。この凹凸構造は、型などによって成形体を成形する場合にはその型内の表面に形成した凹凸構造を転写したり、表面に発光用材料を析出させることで凹凸構造を形成したりできる。凹凸構造中には粒子構造が含まれる。高い透明性、低いCTE、高いガスバリア性、高い表面硬度、高いアンチブロッキング性などが期待できる。樹脂組成物には熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の何れも採用できる。成形体としては特に限定されず上述したような用途に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6