(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】複合めっき材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 15/02 20060101AFI20240325BHJP
C25D 3/64 20060101ALI20240325BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20240325BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20240325BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20240325BHJP
C25D 3/46 20060101ALN20240325BHJP
【FI】
C25D15/02 F
C25D3/64
C25D5/10
C25D7/00 H
H01R13/03 D
C25D3/46
(21)【出願番号】P 2020013117
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】冨谷 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 有紀也
(72)【発明者】
【氏名】土井 龍大
(72)【発明者】
【氏名】小谷 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】成枝 宏人
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-074499(JP,A)
【文献】特開2008-127641(JP,A)
【文献】特開2006-190648(JP,A)
【文献】特開平09-007445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/10
C25D 15/02
C25D 3/64
H01R 13/03
C25D 3/46
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜が基材上に形成された複合めっき材において、
複合めっき皮膜の炭素の含有量が0.2~10.0質量%であり、
複合めっき皮膜表面の銀粒子状構造のうち短径に対する長径の比が2以上である銀粒子状構造の個数の割合が30%以上である、複合めっき材。
【請求項2】
前記複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合が5~85面積%である、請求項1に記載の複合めっき材。
【請求項3】
前記複合めっき皮膜の厚さが0.5~25μmである、請求項1または2に記載の複合めっき材。
【請求項4】
前記基材は銅または銅合金である、請求項1~3のいずれかに記載の複合めっき材。
【請求項5】
前記基材と前記複合めっき皮膜との間に下地めっき層が形成されている、請求項1~4のいずれかに記載の複合めっき材。
【請求項6】
前記下地めっき層がニッケルめっき層、銅めっき層から選ばれる少なくともひとつからなる、請求項5に記載の複合めっき材。
【請求項7】
前記銀粒子状構造は電着組織である、請求項1~6のいずれかに記載の複合めっき材。
【請求項8】
炭素粒子と鉄を含有する非シアン系の銀めっき液を用いて電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜を基材上に形成する複合めっき材の製造方法であって、複合めっき皮膜の炭素の含有量を0.2~10.0質量%とし、複合めっき皮膜表面の銀粒子状構造のうち短径に対する長径の比が2以上である銀粒子状構造の個数の割合を30%以上と
し、
前記銀めっき液中の鉄の濃度が5質量ppm以上であり、
前記電気めっきの電流密度を8A/dm
2
以下とする、複合めっき材の製造方法。
【請求項9】
前記銀めっき液はスルホン酸系銀めっき液である、請求項8に記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項10】
前記炭素粒子が、酸化処理を行った炭素粒子である、請求項8
または9に記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項11】
前記基材上に下地めっき層を形成した後、前記複合めっき皮膜を形成する、請求項8~
10のいずれかに記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項12】
前記下地めっき層がニッケルめっき層、銅めっき層から選ばれる少なくともひとつからなる、請求項
11に記載の複合めっき材の製造方法。
【請求項13】
請求項1~7のいずれかに記載の複合めっき材を材料として用いた、接点部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合めっき材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などに用いられるスイッチやコネクタ、端子などの摺動接点部品などの材料として、摺動過程における加熱による銅や銅合金などの導体素材の酸化を防止するために、導体素材に銀めっきを形成した銀めっき材が使用されている。
【0003】
しかし、銀めっきは、軟質で摩耗しやすく、一般的に摩擦係数が高いため、摺動により摩耗して素材(基材)が露出しやすいという問題がある。この問題を解消するため、銀の合金めっき皮膜や黒鉛粒子を銀マトリックス中に分散させた銀の複合めっき皮膜を電気めっきで導体素材上に形成して、耐摩耗性を向上させる方法が提案されている。
【0004】
特許文献1の[0034]には、酸化処理を行った炭素粒子80g/Lを120g/Lのシアン化銀カリウムと100g/Lのシアン化カリウムとからなるシアン銀めっき液中に添加して分散および懸濁させた後、銀マトリックス配向調整剤としてセレノシアン酸カリウム(KSeCN)を添加することにより、銀と炭素粒子の複合めっき液を作製することが記載されている。
【0005】
そして、これらの複合めっき液を使用して、それぞれ液温25℃、電流密度1A/dm2で電気めっきを行い、素材としての厚さ0.3mmの銅板上に膜厚5μmの銀と炭素粒子の複合めっき皮膜が形成された複合めっき材を作製することが記載されている。
【0006】
また、めっき膜の密着性を向上させるために、複合めっき皮膜を形成する前に3g/Lのシアン銀カリウムと100g/Lのシアン化カリウムとからなる組成のAgストライクめっき浴中において、液温25℃、電流密度3A/dm2でAgストライクめっきを行うことが記載されている。
【0007】
特許文献2の[0011]には、銀、シアン化カリウム、水酸化カリウム、グラファイト粉、めっき液へのグラファイト粉末の分散助剤をめっき液中に含有させ、銀板をアノードとし、浴温度を20℃とし、電流密度を1A/dm2とし、撹拌し、めっきを形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-74499号公報
【文献】特開平9-7445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者の調べにより、特許文献1および2に記載の手法で得られるめっき材を用いてスイッチやコネクタ、端子などの接点部品をプレス加工などにより成形する際に、曲げ加工性に関して改善の余地があることが判明した。
【0010】
また、特許文献1および2に記載の手法はシアン浴を使用しており、めっき浴の廃水処理の際にシアン無害化のための費用が嵩む。
【0011】
本発明の課題は、優れた耐摩耗性および優れた曲げ加工性を備える複合めっき材を提供することにある。
本発明の課題は、非シアン浴を使用しつつ優れた耐摩耗性および優れた曲げ加工性を備える複合めっき材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、
銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜が基材上に形成された複合めっき材において、
複合めっき皮膜の炭素の含有量が0.2~10.0質量%であり、
複合めっき皮膜表面の銀粒子状構造のうち短径に対する長径の比が2以上である銀粒子状構造の個数の割合が30%以上である、複合めっき材である。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
前記複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合が5~85面積%である。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の態様であって、
前記複合めっき皮膜の厚さが0.5~25μmである。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記基材は銅または銅合金である。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記基材と前記複合めっき皮膜との間に下地めっき層が形成されている。
【0017】
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載の態様であって、
前記下地めっき層がニッケルめっき層、銅めっき層から選ばれる少なくともひとつからなる。
【0018】
本発明の第7の態様は、第1~第6のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記銀粒子状構造は電着組織である。
【0019】
本発明の第8の態様は、
炭素粒子と鉄を含有する非シアン系の銀めっき液を用いて電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜を基材上に形成する複合めっき材の製造方法であって、複合めっき皮膜の炭素の含有量を0.2~10.0質量%とし、複合めっき皮膜表面の銀粒子状構造のうち短径に対する長径の比が2以上である銀粒子状構造の個数の割合を30%以上とする、複合めっき材の製造方法である。
【0020】
本発明の第9の態様は、第8の態様に記載の態様であって、
前記銀めっき液はスルホン酸系銀めっき液である。
【0021】
本発明の第10の態様は、第8または第9の態様に記載の態様であって、
前記銀めっき液中の鉄の濃度が5質量ppm以上である。
【0022】
本発明の第11の態様は、第8~第10のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記電気めっきの電流密度を8A/dm2以下とする。
【0023】
本発明の第12の態様は、第8~第11のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記炭素粒子が、酸化処理を行った炭素粒子である。
【0024】
本発明の第13の態様は、第8~第12のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記基材上に下地めっき層を形成した後、前記複合めっき皮膜を形成する。
【0025】
本発明の第14の態様は、第13の態様に記載の態様であって、
前記下地めっき層がニッケルめっき層、銅めっき層から選ばれる少なくともひとつからなる。
【0026】
本発明の第15の態様は、第1~7のいずれかの態様に記載の複合めっき材を材料として用いた、接点部品である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、優れた耐摩耗性および優れた曲げ加工性を備える複合めっき材を提供できる。本発明によれば、非シアン浴を使用しつつ優れた耐摩耗性および優れた曲げ加工性を備える複合めっき材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1(a)は、実施例1の複合めっき皮膜の表面のBSE像(1000倍)を示す写真であり、
図1(b)は、実施例1の複合めっき皮膜の表面のBSE像(5000倍)を示す写真である。
【
図2】
図2(a)は、実施例2の複合めっき皮膜の表面のBSE像(1000倍)を示す写真であり、
図2(b)は、実施例2の複合めっき皮膜の表面のBSE像(5000倍)を示す写真である。
【
図3】
図3(a)は、実施例3の複合めっき皮膜の表面のBSE像(1000倍)を示す写真であり、
図3(b)は、実施例3の複合めっき皮膜の表面のBSE像(5000倍)を示す写真である。
【
図4】
図4(a)は、実施例4の複合めっき皮膜の表面のBSE像(1000倍)を示す写真であり、
図4(b)は、実施例4の複合めっき皮膜の表面のBSE像(5000倍)を示す写真である。
【
図5】
図5(a)は、実施例5の複合めっき皮膜の表面のBSE像(1000倍)を示す写真であり、
図5(b)は、実施例5の複合めっき皮膜の表面のBSE像(5000倍)を示す写真である。
【
図6】
図6(a)は、実施例6の複合めっき皮膜の表面のBSE像(1000倍)を示す写真であり、
図6(b)は、実施例6の複合めっき皮膜の表面のBSE像(5000倍)を示す写真である。
【
図7】
図7(a)は、比較例2の複合めっき皮膜の表面のBSE像(1000倍)を示す写真であり、
図7(b)は、比較例2の複合めっき皮膜の表面のBSE像(5000倍)を示す写真である。
【
図8】
図8は、実施例2の複合めっき皮膜の断面のBSE像(10000倍)を示す写真である。
【
図9】
図9は、比較例2の複合めっき皮膜の断面のBSE像(10000倍)を示す写真である。
【
図10】
図10は、曲げ加工性試験後の実施例5の複合めっき皮膜の表面のW字の真ん中の山折り部分を含むレーザー顕微鏡像(100倍)を示す写真である。
【
図11】
図11は、曲げ加工性試験後の比較例3の複合めっき皮膜の表面のW字の真ん中の山折り部分を含むレーザー顕微鏡像(100倍)を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本実施形態について説明する。本明細書における「~」は所定の数値以上かつ所定の数値以下を指す。
【0030】
(複合めっき皮膜)
本発明の実施形態に係る複合めっき材は、銀(Ag)層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜が基材上に形成された複合めっき材において、複合めっき皮膜の炭素の含有量が0.2~10.0質量%であり、複合めっき皮膜表面の銀(Ag)粒子状構造のうち短径に対する長径の比が2以上である銀(Ag)粒子状構造の個数の割合が30%以上であることを特徴とする。
本発明において「銀粒子状構造」とは、複合めっき皮膜の表面をBSE像(反射電子像)で観察したときに銀の粒子が表面に付着しているように見える構造をいう。表面に付着しているように見える銀の粒子それぞれの長径と短径のことを、「銀粒子状構造」の長径と短径と称する。
【0031】
この構成により、本発明の複合めっき材は優れた耐摩耗性および優れた曲げ加工性を有する。
【0032】
本発明の複合めっき皮膜中の炭素の含有量(質量%)は、以下の手法により求めた。まず、複合めっき材(基材を含む)から切り出した試料を銀(Ag)および炭素(C)の分析用にそれぞれ用意し、一方の試料を溶解して試料中のAg含有量(X質量%)を誘導結合プラズマ発光分光分析法にて求めるとともに、他方の試料中のC含有量(Y質量%)を微量炭素・硫黄分析装置を用いて赤外線吸収法によって求め、複合めっき皮膜中のC含有量をY/(X+Y)として算出する。
【0033】
複合めっき材における複合めっき皮膜中の炭素の含有量は0.2~10.0質量%(下限は好適には0.3質量%、更に好適には0.4質量%。上限は好適には5.0質量%、更に好適には3.0質量%)とする。これにより、複合めっき材の耐摩耗性が向上し、低い摩擦係数を示すと考えられる。
【0034】
また、本発明の複合めっき材の複合めっき皮膜の表面の銀粒子状構造の短径に対する長径の比が2以上である銀(Ag)粒子状構造の個数の割合の求め方について説明する。
まず、電子顕微鏡を用い複合めっき皮膜表面の5000倍のBSE像(反射電子像)で観察される全ての銀粒子状構造について、長径(銀粒子状構造の輪郭に外接する長方形の面積が最小となる長方形の長辺の長さ)と、短径(その長方形の短辺の長さ)を測定し、短径に対する長径の比(長径/短径(アスペクト比))を算出する。
【0035】
その際、前記BSE像の画像(写真)の端部において粒径(長径および短径)を確認できない銀粒子状構造は含めない。また、Ag粒子状構造ではないもの(例えば実施例1に係る
図1(b)中の(灰色~黒色の粗大な粒子として観察される)炭素粒子)は含めない。
【0036】
アスペクト比が2以上である銀粒子状構造の個数を、銀粒子状構造の総数で除して個数の割合を算出し、銀粒子状構造の短径に対する長径の比(アスペクト比)が2以上である銀粒子状構造の個数の割合を求めた。
【0037】
本発明の複合めっき材は、前記のアスペクト比が2以上である銀粒子状構造の個数の割合が30%以上であり、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。上限は特に規定しないが90%以下あるいは80%以下としてもよい。
【0038】
このようなアスペクト比が大きい銀粒子状構造を多く有することにより、複合めっき材の曲げ加工性が向上すると推測される。
【0039】
前記複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合(面積率)が5~85面積%(より好適には7~80面積%、更に好適には10~75面積%)であることが好ましい。
【0040】
前記複合めっき皮膜の厚さは0.5~25μmであるのが好ましい。この範囲であると、耐摩耗性を十分確保でき、且つ生産効率も良好である。これより薄いと耐摩耗性が低下する恐れがあり、また厚いと銀めっきのコストが高くなる。複合めっきの厚さは1~22μmであることがより好ましい。
【0041】
前記基材には限定は無いが銅または銅合金であってもよい。
また、前記基材と前記複合めっき皮膜との間に下地めっき層が形成されていてもよい。 前記下地めっき層を形成する場合は、ニッケルめっき層、銅めっき層から選ばれる少なくともひとつからなることが好ましい。
【0042】
また、前記銀粒子状構造は電着組織であることが好ましい。
【0043】
本発明の実施形態に係る複合めっき皮膜の表面を観察すると、Ag粒子状構造は板状(或いは針状)の形を呈していることが認められる。このような板状で且つアスペクト比が大きい銀粒子状構造を多く有することにより、複合めっき材の曲げ加工性が向上していると推測される。
【0044】
複合めっき皮膜中におけるAgの含有量には限定は無いが、(炭素を除く残部はほぼAgからなり)例えば90質量%以上とする。
【0045】
(複合めっき材の製造方法)
本発明の複合めっき材の製造方法の実施の形態としては、炭素粒子と鉄を含有する非シアン系の銀めっき液を用いて電気めっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜を基材上に形成する複合めっき材の製造方法であって、複合めっき皮膜の炭素の含有量を0.2~10.0質量%とし、複合めっき皮膜表面の銀粒子状構造のうち短径に対する長径の比が2以上である銀粒子状構造の個数の割合を30%以上とすることを特徴とする。
【0046】
本発明では非シアン系の銀めっき液(浴)を使用する。本明細書における「シアン」とは、シアン化物イオンを有する物質の総称である。つまり、本明細書における「非シアン浴」とは、シアンを含有しないまたは含有するとしても銀めっき液全体の1mg/L以下の状態のものをいう。
【0047】
非シアン系の銀めっき液には限定は無いが、例えばスルホン酸系銀めっき液を使用してもよい。スルホン酸系銀めっき液は、Agイオン源としてのスルホン酸銀と、錯化材としてのスルホン酸を含み、光沢剤などの添加剤を含んでもよい。この銀めっき液中のAg濃度は、5~150g/Lであるのが好ましく、10~120g/Lであるのが更に好ましく、20~100g/Lであるのが最も好ましい。このスルホン酸系銀めっき液に含まれるスルホン酸銀として、メタンスルホン酸銀、アルカノールスルホン酸銀、フェノールスルホン酸銀などを使用することができる。スルホン酸系銀めっき液以外には、塩化銀-ヨウ化カリウム浴、塩化銀-チオ硫酸ナトリウム浴などが挙げられる。
【0048】
本実施形態における銀めっき液にはFe(鉄)が含有される。
【0049】
Feの態様には限定は無く、イオン(2価鉄、3価鉄)であってもよい。銀めっき液中のFe濃度(質量ppm=mg/L。以降、単にppm。)は、銀めっき液中のFeイオンの総量の濃度を指す。また、Feを銀めっき液に含有させるタイミングにも限定は無く、炭素粒子の添加前、添加中、添加後であってもよい。
【0050】
銀めっき液中のFeの濃度は5ppm以上であるのが好ましく、10ppm以上であるのがより好ましく、20ppm以上であるのが更に好ましい。Feを銀めっき液中に含有させることにより、銀粒子状構造のアスペクト比を大きくすることができ、その個数の割合も十分とすることができると考えられる。上限については、適切に複合めっき皮膜を作製できれば限定は無いが、例えば10000ppm(すなわち1質量%)以下が挙げられる。
【0051】
Agめっき液中のFeの濃度を規定することで、複合めっき皮膜表面の銀粒子状構造のうち短径に対する長径の比が2以上である銀粒子状構造の個数の割合を30%以上(好ましくは35%以上、更に好ましくは40%以上)とすることができる。
【0052】
本実施形態における銀めっき液中にはFeとともに炭素粒子を含有する。銀めっき液中の炭素粒子の含有量は10~200g/Lであるのが好ましく、20~100g/Lとするのが更に好ましい。10g/L以上とすると、複合めっき皮膜中への炭素の含有量を適度に保て、200g/Lを超える量を添加しても、複合めっき皮膜中の炭素の含有量を多くすることはできない。
【0053】
基材上に複合めっき皮膜を形成する際の電気めっきの液温は、好ましくは10~60℃、更に好ましくは15~55℃である。
【0054】
複合銀めっき皮膜の炭素の含有量を0.2~10.0質量%(下限は好適には0.3質量%、更に好適には0.4質量%。上限は好適には5.0質量%、4.0質量%、更に好適には3.0質量%)となる条件で銀めっき材を形成する。
【0055】
また、複合銀めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合(面積率を)5~85%(好適には7%以上80%以下、更に好適には10%以上75%以下)となる条件で銀めっき材を形成するのが好ましい。
【0056】
電気めっきの際の電流密度は、好ましくは8A/dm2以下であり、より好ましくは7A/dm2、さらに好ましくは0.5~7A/dm2である。この規定により、炭素粒子が複合めっき皮膜に巻き込まれやすくなると考えられる。
【0057】
炭素粒子の添加前に、炭素粒子の酸化処理(有機物除去)を行うのが好ましい。
【0058】
このように酸化処理した後の炭素粒子を銀めっき液に含有させる(添加する)ことにより、分散剤などの添加物を使用することなく銀めっき中に炭素粒子を良好に分散させた銀めっき液が得られる。この銀めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、銀めっき皮膜中に炭素粒子を含有する複合めっき皮膜が基材上に形成される。
【0059】
また、前記基材上に下地めっき皮膜を形成した後、前記複合めっき皮膜を形成してもよい。この下地めっき皮膜としては限定は無いが、例えばNiめっき皮膜、Cuめっき皮膜から選ばれる少なくともひとつからなる下地めっき皮膜を施しても構わない。下地のNiめっき皮膜、Cuめっき皮膜は積層して複数の層としてもよい。Niめっき皮膜、Cuめっき皮膜を形成する具体的な手法としては公知の手法を採用しても構わない。
【0060】
後掲の実施例の項目が示すように、本実施形態の場合、特許文献1の[0022]に記載の銀マトリックス配向調整剤を添加せずとも(すなわち複合めっき皮膜中にセレンを実質的に存在させずとも(Se≦10ppm))、耐摩耗性に関して良好な試験結果が得られることも、本発明の技術的特徴の一つである。銀マトリックス配向調整剤の添加の有無は、銀めっき液の種類に応じて決定すればよい。
【0061】
以上の作業により、非シアン浴を使用しつつ優れた耐摩耗性および優れた曲げ加工性を備える複合めっき皮膜すなわち複合めっき材が製造可能となる。
【0062】
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0063】
例えば、後掲の各実施例のように、基材と複合めっき皮膜の密着性を向上させるために、該複合めっき皮膜を形成する前に、基材に対してAgストライクめっきを施してもよい。なお、このAgストライクめっきは、特許文献1の[0034]や特開2007-16250号公報の[0024]に記載されたAgストライクめっきに係る手法を採用しても構わない。なお、Agストライクめっきと区別するために、本実施形態で述べた複合めっき皮膜のことを「本めっき皮膜(層)」とも言う。
【0064】
また、前記複合めっき材を材料として用いて、スイッチやコネクタ、端子等の接点部品とすると、耐摩耗性および曲げ加工性に優れたものを得ることができる。
【実施例】
【0065】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載のない内容は、本実施形態で述べた内容と同様とする。
【0066】
[実施例1]
炭素粒子として長径5μmの鱗片状黒鉛粒子(日本黒鉛工業株式会社製の天然黒鉛J-CPB)80gを1.4Lの純水中に添加し、この混合溶液を撹拌しながら50℃に昇温させた。この混合溶液に対し、水酸化カリウム2.6gを含む水溶液25mLを添加し、5分間撹拌した。次に、この混合溶液に対し、酸化剤として27gの過硫酸カリウムを含む水溶液0.6Lを徐々に滴下した後、2時間撹拌して酸化処理を行い、その後、ろ紙によりろ別を行ない、水洗を行った。上記の酸化処理により、炭素粒子に付着していた炭化水素などの疎水性物質を除去した炭素粒子を準備した。
【0067】
また、基材としての厚さ0.2mmの銅合金板(1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み残部がCuである銅合金の板材)(DOWAメタルテック株式会社製のNB109 EH)を用意し、大和化成株式会社製ダインシルバーGPE-STからなる非シアン系Agめっき浴(スルホン酸浴)中に前記基材を浸漬し、基材をカソードとし、(チタンのメッシュ素材を白金めっきした)チタン白金メッシュ電極板をアノードとして、液温25℃、電流密度5A/dm2、めっき時間30秒間として電気めっき(Agストライクめっき)を行った。
【0068】
次に、上記の酸化処理を行った炭素粒子を、大和化成株式会社製ダインシルバーGPE-PLからなる非シアン浴中に添加して分散および懸濁させ、更に酸化鉄(Fe2O3)を0.04g/Lを添加し、Feと炭素粒子を含有した銀めっき液を作製した。この非シアン浴はスルホン酸系銀めっき液(スルホン酸浴)であり、Agはスルホン酸銀として含有され、錯化剤としてスルホン酸が含有される。なお、銀めっき液中のFeの濃度は27ppmであり、Ag濃度は30g/Lであり、炭素粒子濃度(炭素粒子含有量)は80g/Lである。
【0069】
Agストライクめっきが形成された基材をカソードとし、Ag電極板をアノードとして、上記銀めっき液中に浸漬して、液温25℃、撹拌速度400rpm、電流密度3A/dm2、めっき時間100秒で電気めっき(本めっき)を行い、上記基材上にAgストライクめっき層を介して厚さ2μmの銀層中に炭素粒子を含有する複合材からなる複合めっき皮膜が基材上に形成された複合めっき材を作製した。なお、前記銀めっき液は容量1L、直径110mmのビーカーに1L建浴し、撹拌には、アズワン製のマグネチックスターラーREXIM RS-1DN(十字撹拌子 幅38.1mm 高さ15.8mm)を用いた。
【0070】
「複合めっき皮膜の厚さ」は、蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製 FT9450)を用い、サンプルの中央部分の直径1.0mmの範囲を測定して得た。
【0071】
「複合めっき皮膜表面の銀粒子状構造のうち短径に対する長径の比が2以上である銀粒子状構造の個数の割合(%)」は、まず、卓上顕微鏡TM4000 Plus(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用い、複合銀めっき皮膜の表面を加速電圧15kVで5000倍に拡大して観察して得たBSE像(反射電子像の写真)上の全てのAg粒子状構造について、写真上で観察される長径(銀粒子状構造の輪郭に外接する長方形の面積が最小となる長方形の長辺の長さ)と、短径(その長方形の短辺の長さ)を測定し、短径に対する長径の比(長径/短径(アスペクト比))を算出した。その際、前記BSE像の画像(写真)の端部において粒径を確認できない銀粒子状構造は含めず、また、Ag粒子状構造ではないもの(炭素粒子等)、炭素粒子で一部が隠れて粒径が確認できないAg粒子状構造は含めない。このようにして測定、算出した結果より、アスペクト比が2以上である銀粒子状構造の個数を、銀粒子状構造の総数で除して個数の割合を算出し、銀粒子状構造の短径に対する長径の比(アスペクト比)が2以上である銀粒子状構造の個数の割合を求めた。
【0072】
「複合めっき皮膜中の炭素の含有量(質量%)」は、以下の手法により求めた。
まず、複合めっき材(基材を含む)から切り出した試料を銀(Ag)および炭素(C)の分析用にそれぞれ用意し、一方の試料を溶解して試料中のAgの含有量(X質量%)をICP-OES(株式会社日立ハイテクサイエンス製SPS 5100)(プラズマ分光分析法)にて求め、他方の試料中のCの含有量(Y質量%)を微量炭素・硫黄分析装置(株式会社堀場製作所製EMIA-810W)(赤外線吸収法)で求めた。
そして、複合めっき皮膜中の炭素の含有量を、Y/(X+Y)として算出した。
【0073】
銀めっき液中の「Fe濃度(ppm)」は、上記ICP-OES(日立ハイテクサイエンス製SPS 5100)(プラズマ分光分析法)にて求めた。
銀めっき液中の「Ag濃度(g/L)」は、Ag滴定法(フォルハルト法)にて求めた。その際、硫化ナトリウム、濃硝酸、鉄ミョウバン指示薬、チオシアン酸アンモニウムを使用した。
【0074】
「複合めっき皮膜の表面の炭素粒子が占める割合(面積率)」は、複合めっき皮膜の表面を観察することにより得た。具体的には、先に挙げた卓上顕微鏡TM4000 Plus(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)加速電圧5kVで1000倍に拡大した反射電子組成(BSE)像をGIMP 2.10.10(画像解析ソフト)にて2値化し、炭素が占める面積率を算出した。更に具体的には、全ピクセルのうち最も高い輝度を255、最も低い輝度を0としたとき、輝度が127以下のピクセルが黒、輝度が127を超えるピクセルが白になるように階調を二値化し、銀の部分(白い部分)と炭素粒子の部分(黒い部分)に分離して、画像全体のピクセル数Xに対する炭素粒子の部分のピクセル数Yの比Y/Xを、表面の炭素粒子が占める割合(面積率(%))として算出した。
【0075】
「耐摩耗性」は、山崎精機研究所製の摺動試験機(CRS-G2050-DWA)により測定した。
【0076】
実施例1に係る平板状の複合めっき材(評価サンプル)に対して摺動させるインデントとしては、上記銅合金板を内径1.0mmにてプレス加工(いわゆるインデント加工)した後、10質量%のシアン化銀ナトリウムと30質量%のシアン化ナトリウムと50mL/LのニッシンブライトN(光沢剤、6質量%の三酸化二アンチモンを含む)(日進化成株式会社製)を含むAg-Sb合金めっき液(シアン浴)を使用し、2質量%のSbを含有し、ビッカース硬さ(HV)が180、厚さ20μmのAgSbめっき層を形成したものを凸形状の圧子として使用した。このインデントを上記摺動試験機にかけ、実施例1に係る複合めっき材に対し、往復3000回(または素地が露出するまでの間)、接触荷重2N、摺動速度3mm/s、摺動距離10mmにて、摺動を続行した。
【0077】
「平均摩擦係数」は1回の往復摺動中の往路の摺動距離の半分まで移動したときの水平方向にかかる力(F)を測定し、μ(摩擦係数)=F/N(Nは垂直抗力で2N)より摩擦係数を算出し、この往復摺動を3000回(または素地露出まで)行って、各回の摩擦係数を算出し、平均した値を平均摩擦係数とした。平均摩擦係数が0.8以下であれば良好とした。より好ましくは0.6以下である。
【0078】
「平均接触抵抗(接触信頼性)」は往復摺動中の往路の摺動距離の半分まで移動したときに測定した抵抗値をその摺動回数の測定値とし、前記往復摺動を3000回(または素地露出まで)行ったときの接触抵抗の平均を平均接触抵抗とした。接触抵抗が3mΩ以下であれば、接触信頼性が良好であるとみなす。より好ましくは1.2mΩ以下である。
【0079】
「曲げ加工性」は、JIS H 3130に準拠して調べた。具体的には、複合めっき材がWの形になるように折り曲げた。荷重は15kNとし、負荷時間は5秒とし、折り曲げの際の横幅(W字の奥行方向の幅)は10mmとした。W字の真ん中の山折り部が含まれるように、曲げ肌表面を、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK-X100 倍率100倍)にて確認した。山折り部におけるシワ幅が30μm以下であれば、曲げ加工性が良好であるとみなす。
【0080】
以上の各種内容をまとめたのが以下の各表である。
表1は、各実施例および各比較例における複合めっき材の製造条件を示した表である。
表2は、各実施例および各比較例における複合めっき材の厚さや組成等を示した表である。
表3は、各実施例および各比較例における複合めっき材の特性を示した表である。
【表1】
【表2】
【表3】
【0081】
[実施例2]
Agめっき液中のAg濃度を20g/Lとし、本めっきの時間を250秒とした以外は、実施例1と同様の方法で複合めっき材を作製し、厚さが5μmの複合めっき皮膜が基材に形成された複合めっき材を得た。
製造条件および評価結果などは表1~3に記載のとおりである(以降の例においても同様)。
【0082】
[実施例3]
Agめっき液中のAg濃度を50g/L、電流密度を7A/dm2、本めっきの時間を220秒とした以外は、実施例1と同様の方法で複合めっき材を作製し、厚さが10μmの複合めっき皮膜が基材に形成された複合めっき材を得た。
【0083】
[実施例4]
Agストライクめっきを形成する前に、Niからなる下地めっき皮膜(層)を形成した。具体的には、Ni濃度78g/L、ホウ酸濃度40g/Lのスルファミン酸Niめっき浴中において、液温55℃、電流密度6A/dm2、めっき時間43秒として、Ni下地めっきを行い、銅基材上に厚さ0.5μmのNi下地めっき皮膜(層)を形成した。次いでAgストライクめっきをNi下地めっき層上に実施例1と同様の方法で形成した。その後、本めっきの電流密度を5A/dm2、めっき時間を450秒とした以外は、実施例1と同様の方法で複合めっき材を作製し、厚さが15μmの複合めっき皮膜がNi下地めっ層を介して基材上に形成された複合めっき材を得た。
【0084】
[実施例5]
Agめっき液中に0.06g/Lの酸化鉄(Fe2O3)を添加してFeの濃度を40ppmとし、本めっきのめっき時間を1000秒とした以外は、実施例1と同様の方法で複合めっき材を作製し、厚さが20μmの複合めっき皮膜が基材上に形成された複合めっき材を得た。
【0085】
[実施例6]
Agめっき液中に0.03g/Lの酸化鉄(Fe2O3)を添加してFeの濃度を20ppmとし、炭素粒子濃度を30g/L、本めっきの電流密度を2A/dm2、めっき時間を350秒とした以外は、実施例1と同様の方法で複合めっき材を作製し、厚さが5μmの複合めっき皮膜が基材上に形成された複合めっき材を得た。
【0086】
[比較例1]
Agめっき液中に0.006g/Lの酸化鉄(Fe2O3)を添加してFeの濃度を4ppmとし、Ag濃度を15g/Lとした以外は、実施例1と同様の方法で複合めっき材を作製し、厚さが2μmの複合めっき皮膜が基材上に形成された複合めっき材を得た。
【0087】
[比較例2]
Agめっき液中に0.03g/Lの酸化鉄(Fe2O3)を添加してFeの濃度を20ppmとし、本めっきの電流密度を9A/dm2、めっき時間を85秒とした以外は、実施例1と同様の方法で複合めっき材を作製し、厚さが5μmの複合めっき皮膜が基材上に形成された複合めっき材を得た。
【0088】
[比較例3]
Agめっき液中に0.006g/Lの酸化鉄(Fe2O3)を添加してFeの濃度を4ppmとし、Agめっきの時間を1000秒とした以外は、実施例1と同様の方法で複合めっき材を作製し、厚さが20μmの複合めっき皮膜が基材上に形成された複合めっき材を得た。
【0089】
[比較例4]
比較例4ではめっき浴を(従来と同様の)シアン浴とした。具体的な内容は以下の通りである。
比較例4においては、3g/Lのシアン化銀カリウムと、100g/Lのシアン化カリウムとからなるAgストライク用シアンめっき液を使用し、電流密度は5A/dm2、めっき時間は30秒でAgストライクめっきを行った。
その後、150g/Lのシアン化銀カリウムと、90g/Lのシアン化カリウムと、3.6mg/L(ppm)のセレノシアン酸カリウムとからなるシアン系の銀めっき液を作製し、この銀めっき液中に実施例1に記載の酸化処理済み炭素粒子を添加し、さらに酸化鉄(Fe2O3)を0.045g/L添加した。銀めっき液中のFeの濃度は30ppmであり、Ag濃度は80g/Lであり、炭素粒子濃度(炭素粒子含有量)は80g/Lである。 このシアン銀めっき液を使用し、本めっきを行った。本めっきにおいては、電流密度は3A/dm2、めっき時間を250秒とした。上記の内容以外は、実施例1と同様の方法で複合めっき材を作製し、厚さが5μmの複合めっき皮膜が基材上に形成された複合めっき材を得た。
【0090】
[検討]
図1(a)は、実施例1の複合めっき皮膜の表面のBSE像(1000倍)を示す写真であり、
図1(b)は、実施例1の複合めっき皮膜の表面のBSE像(5000倍)を示す写真である。
図2~6は、同様に、実施例2~6の複合めっき皮膜の表面のBSE像を示す写真である。
図7は、同様に、比較例2の複合めっき皮膜の表面のBSE像を示す写真である。
図8は、実施例2の複合めっき皮膜の断面のBSE像(10000倍)を示す写真である。
図9は、比較例2の複合めっき皮膜の断面のBSE像(10000倍)を示す写真である。
図10は、曲げ加工性試験後の実施例5の複合めっき皮膜の表面のW字の真ん中の山折り部分を含むレーザー顕微鏡像(100倍)を示す写真である。
図11は、曲げ加工性試験後の比較例3の複合めっき皮膜の表面のW字の真ん中の山折り部分を含むレーザー顕微鏡像(100倍)を示す写真である。
【0091】
図1~6が示すように、各実施例では複合めっき皮膜においてAgの電着組織として板状(或いは針状)のAg粒子状構造が観察され、また、表3に示すように複合めっき皮膜表面の銀粒子状構造のうち短径に対する長径の比(アスペクト比)が2以上である銀粒子状構造の個数の割合が30%以上であった。
【0092】
その一方、比較例の複合めっき皮膜では、
図7(比較例2)や表3に示すように前記アスペクト比が2以上である銀粒子状構造の個数の割合が30%未満であった。
【0093】
表3が示すように、各実施例では全ての試験項目において良好な結果を示した。各実施例によれば、優れた曲げ加工性を備える複合めっき皮膜および複合めっき材が得られた。それと同時に、優れた耐摩耗性および低い摩擦係数を有し、接触信頼性にも優れていた。
【0094】
その一方、比較例2~4では、曲げ加工性において良好ではなかった。
【0095】
曲げ加工性については、
図10(実施例5)と
図11(比較例3)を比較すると、実施例5の方がシワの幅が明らかに小さいことがわかる。
【0096】
なお、比較例1では、曲げ加工性こそ比較的良好であったものの耐摩耗性、摩擦係数という点で難があった。
これに対し複合めっき皮膜の厚さが同じ2μmである(膜厚が比較的薄い)実施例1は、高い耐摩耗性を有し、且つ曲げ加工性にも優れている。これは複合めっき皮膜表面の銀粒子状構造のうち短径に対する長径の比(アスペクト比)が2以上である銀粒子状構造の個数の割合が30%以上である組織を有することにより、このような特性の両立が実現されると推測される。