(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】導電性部材、プロセスカートリッジ、および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/02 20060101AFI20240325BHJP
G03G 15/16 20060101ALI20240325BHJP
G03G 21/18 20060101ALI20240325BHJP
G03G 21/16 20060101ALI20240325BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20240325BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20240325BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
G03G15/02
G03G15/16
G03G21/18 114
G03G21/16 161
G03G21/16 180
F16C13/00 A
H01B1/00 F
H01B1/24 B
(21)【出願番号】P 2020039857
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2019191571
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】菊池 裕一
(72)【発明者】
【氏名】西岡 悟
(72)【発明者】
【氏名】山内 一浩
(72)【発明者】
【氏名】倉地 雅大
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 健二
(72)【発明者】
【氏名】古川 匠
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-166210(JP,A)
【文献】特開2012-163954(JP,A)
【文献】特開2002-003651(JP,A)
【文献】特開2017-072833(JP,A)
【文献】特開2004-151695(JP,A)
【文献】特開2006-207807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/02
G03G 15/16
G03G 21/18
G03G 21/16
F16C 13/00
H01B 1/00
H01B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の外表面を有する支持体と、
前記支持体の外表面上に設けられた導電層
と、
を有する電子写真用の導電性部材であって、
前記導電層
が、
第一のゴムの架橋物を含むマトリックスと、
前記マトリックス中に分散された複数個のドメインと
、
を有し、
前記ドメイン
が、第二のゴムの架橋物および電子導電剤を含み、
前記ドメインの少なくとも一部
が、
前記導電性部材の外表面に露出し、
前記導電性部材の外表面に凸部を生じさせており、
前記導電性部材の外表面
が、
前記マトリックスと、
前記導電性部材の外表面に露出している
前記ドメインと
、
で構成され、
前記導電性部材の外表面に直接白金電極を設け、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、
前記支持体の外表面と
前記白金電極との間に振幅が1Vの交流電圧を、周波数1.0×10
-2Hz~1.0×10
7Hzの間で変化させながら印加することによってインピーダンスを測定し、周波数を横軸、インピーダンスを縦軸に両対数プロットしたときの、周波数1.0×10
5Hz~1.0×10
6Hzにおける傾きが、-0.8以
上-0.3以下であり、かつ、周波数が1.0×10
-2Hz~1.0×10
1Hzにおけるインピーダンスが、1.0×10
3~1.0×10
7Ωである、
ことを特徴とすることを特徴とする導電性部材。
【請求項2】
前記導電層が、前記支持体の前記外表面上に直接設けられている
、請求項1に記載の導電性部材。
【請求項3】
前記導電性部材が、前記導電層
と前記支持体の前記外表面との間
の、導電性の樹脂層をさらに有し、
前記樹脂層の外表面に直接白金電極を設け、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、
前記支持体の前記外表面と
前記白金電極との間に振幅が1Vの交流電圧を、周波数1.0×10
-2Hz~1.0×10
7Hzの間で変化させながら印加することによってインピーダンスを測定したときの、周波数が1.0×10
-2Hz~1.0×10
1Hzにおけるインピーダンスが、1.0×10
-5~1.0×10
2Ωである
、
請求項1に記載の導電性部材。
【請求項4】
前記マトリックスの体積抵抗率が
、1.0×10
12Ω・cmより大きく1.0×10
17Ω・cm以下である
、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項5】
隣接する前記ドメインの壁面間距離の算術平均値Dmが
、0.2μm以
上2.0μm以下である
、請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項6】
前記凸部の高さが
、50nm以
上200nm以下である
、請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項7】
前記導電性部材の外表面に露出し、
前記導電性部材の外表面に凸部を生じさせているドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dmsが、2.0μm以下である
、請求項1~6のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項8】
前記支持体が
、円柱状の支持体であり、
前記導電性部材が、前記円柱状の支持体の外周面に前記導電層を有する、
請求項1~7のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項9】
前記導電層の前記円柱状の支持体の長手方向の長さをL
とし、
前記導電層の厚さをTとしたとき、
前記導電層の長手方向の中央、及び
前記導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所における、
前記導電層の厚さ方向の断面の各々について、
前記導電層の外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所に15μm四方の観察領域を置いたときに、全9個の
前記観察領域の各々で観察されるドメインのうちの80個数%以上が、下記要件(1)及び要件(2)を満たす
、請求項
8に記載の電子写真用の導電性部材:
(1)ドメインの断面積に対する
前記ドメインが含む電子導電剤の断面積の割合が、20%以上であること;
(2)ドメインの周囲長をA
とし、
前記ドメインの包絡周囲長をBとしたとき、A/Bが、1.00以
上1.10以下であること。
【請求項10】
前記電子導電剤が
、導電性カーボンブラックである
、請求項1~9のいずれか1項に記載の導電性部材。
【請求項11】
前記導電性カーボンブラックのDBP吸収量
が、40cm
3/100g以上170cm
3/100g以下である
、請求項
10に記載の導電性部材。
【請求項12】
前記ドメインの円相当径の算術平均値をD
とし、
前記Dの分布の標準偏差をσdとしたときに、
前記ドメインの円相当径の変動係数σd/Dが
、0以上0.4以下である
、請求項1~11のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項13】
前記ドメインの壁面間距離の算術平均値をDm
とし、
前記Dmの分布の標準偏差をσmとしたときに、
前記ドメイン
の壁面間距離の変動係数σm/Dmが
、0以上0.4以下である
、請求項1~12のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項14】
前記導電層の厚み方向の断面に現れる
前記ドメインの各々の断面積に対する
前記ドメインの各々が含む
前記電子導電剤からなる部分の断面積の割合の平均値をμrとし、
前記割合の標準偏差をσrとしたとき、
前記電子導電剤からなる部分の断面積の割合の変動係数σr/μrが、0以
上0.4以下である
、請求項1~13のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項15】
前記導電性部材が、帯電部材である
、請求項1~14のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項16】
前記導電性部材が、転写部材である
、請求項1~14のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項17】
電子写真画像形成装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジであって、請求項1~15のいずれか1項に記載の導電性部材を具備する
、ことを特徴とする電子写真用のプロセスカートリッジ。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の導電性部材を具備する
、ことを特徴とする電子写真画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真画像形成装置における帯電部材、現像部材または転写部材として用い得る電子写真用導電性部材、プロセスカートリッジ、および電子写真画像形成装置に向けたものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置には、帯電部材、転写部材、現像部材の如き導電性部材が使用されている。導電性部材としては、導電性の支持体と、支持体上に設けられた導電層を有する構成の導電性部材が知られている。導電性部材は、導電性の支持体から導電性部材表面まで電荷を輸送し、当接物体に対して、放電、あるいは摩擦帯電によって電荷を与える役割を担う。
帯電部材は、電子写真感光体との間に放電を発生させ、電子写真感光体表面を帯電させる部材である。現像部材は、その表面に被覆された現像剤の電荷を摩擦帯電によって制御し、均一な帯電量分布を与え、次いで、印加された電界にしたがって、現像剤を電子写真感光体の表面に均一に転写する部材である。また、転写部材は、電子写真感光体から、印刷媒体、あるいは中間転写体に現像剤を転写させると同時に、放電を発生させて転写後の現像剤を安定化させる部材である。
これらの導電性部材は、それぞれ電子写真感光体や、中間転写体、印刷媒体などの当接物体に対して、均一な帯電を達成する必要がある。
特許文献1には、体積抵抗率1×1012Ω・cm以下の原料ゴムAを主体とするイオン導電性ゴム材料からなるポリマー連続相と、原料ゴムBに導電粒子を配合して導電化した電子導電性ゴム材料からなるポリマー粒子相とを含んでなるマトリックス・ドメイン構造のゴム組成物、及び該ゴム組成物から形成された弾性体層を有する帯電部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一態様は、高速の電子写真画像形成プロセスに適用した場合にも、安定して被帯電体を安定して帯電させ得る帯電部材、現像部材または転写部材に用い得る導電性部材の提供に向けたものである。
また、本開示の他の態様は、高品位な電子写真画像の形成に資するプロセスカートリッジの提供に向けたものである。さらに本開示の他の態様は、高品位な電子写真画像を形成することのできる電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、導電性の外表面を有する支持体と、
前記支持体の外表面上に設けられた導電層と、
を有する電子写真用の導電性部材であって、
前記導電層が、
第一のゴムの架橋物を含むマトリックスと、
前記マトリックス中に分散された複数個のドメインと、
を有し、
前記ドメインが、第二のゴムの架橋物および電子導電剤を含み、
前記ドメインの少なくとも一部が、前記導電性部材の外表面に露出し、前記導電性部材の外表面に凸部を生じさせており、
前記導電性部材の外表面が、
前記マトリックスと、
前記導電性部材の外表面に露出している前記ドメインと、
で構成され、
前記導電性部材の外表面に直接白金電極を設け、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、前記支持体の外表面と前記白金電極との間に振幅が1Vの交流電圧を、周波数1.0×10-2Hz~1.0×107Hzの間で変化させながら印加することによってインピーダンスを測定し、周波数を横軸、インピーダンスを縦軸に両対数プロットしたときの、周波数1.0×105Hz~1.0×106Hzにおける傾きが、-0.8以上-0.3以下であり、かつ、周波数が1.0×10-2Hz~1.0×101Hzにおけるインピーダンスが、1.0×103~1.0×107Ωである、
ことを特徴とする導電性部材が提供される。
本開示の他の態様によれば、電子写真画像形成装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジであって、上記の導電性部材を具備する、電子写真用のプロセスカートリッジが提供される。本開示の更に他の態様によれば、上記の導電性部材を具備する、電子写真画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、高速の電子写真画像形成プロセスに適用した場合にも、安定して被帯電体を安定して帯電させ得る帯電部材、現像部材または転写部材に用い得る導電性部材を得ることができる。本開示の他の態様によれば、高品位な電子写真画像の形成に資するプロセスカートリッジを得ることができる。さらに本開示の他の態様によれば、高品位な電子写真画像を形成することのできる電子写真画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】インピーダンス特性のグラフの説明図である。
【
図5】感光ドラムと帯電部材の当接部近傍の概念図である。
【
図6】帯電ローラの長手方向に対して垂直な断面図である。
【
図7】(a)導電層の厚み方向の概略断面図である。(b)
図7(a)における導電層の外表面近傍の拡大図である。
【
図12】帯電ローラに測定電極を形成した状態の概要図である。
【
図15】ゴースト画像評価用の画像の概要図である。
【
図16】実施例17において得られた両対数プロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に係る帯電部材は、被帯電体に対する均一帯電性に優れていることを確認した。しかしながら、近年の画像形成プロセスの高速化には、未だ改善の余地があるとの認識を得た。具体的には、特許文献1に係る帯電部材を、高速の電子写真画像形成プロセスに供したところ、帯電工程に至るまでに被帯電体の表面に形成された微小な電位ムラを十分に均すことができない場合があった。そして当該電位ムラに起因する、本来形成されてはいけない像が、本来の画像に重畳して現れている電子写真画像(以降、「ゴースト画像」ともいう)が形成される場合があった。
【0009】
本発明者らは、特許文献1に係る帯電部材がゴースト画像を生じさせる理由を以下のように推測している。
ゴースト画像が発生する現象を
図1で説明する。(1a)において、11が帯電部材、12が感光ドラム、13が帯電プロセス前の表面電位測定部、14が帯電プロセス後の表面電位測定部を示す。通常、転写プロセスを経た感光ドラム表面電位は、(1b)に図示したように、その表面電位はムラを有する。したがって、表面電位のムラが帯電プロセスに突入し、この表面電位ムラに従った、(1c)に示すような帯電電位ムラが形成され、ゴースト画像が発生する。ここで、帯電部材が、表面電位ムラを均すことができるような十分な電荷付与能を有していれば、ゴースト画像は発生しない。
しかしながら、特許文献1に係る帯電部材は、電子写真画像形成プロセスの高速化に伴う被帯電体に対する放電間隔の短縮化に十分には対応できていないと考えられる。そのメカニズムを次のように考察している。
通常、帯電部材と感光ドラムの当接部近傍における微小空隙において、電界の強さと、微小空隙の距離の関係が、パッシェンの法則を満たす領域において放電が発生する。感光ドラムが回転しながら、放電を発生させる電子写真プロセスにおいては、帯電部材表面の一点を経時で追跡した際に、放電の開始地点から終了地点までに、放電が持続して発生するのではなく、複数回の放電が繰り返し発生することが分かっている。
本発明者らは、高速プロセスにおいて、特許文献1に係る帯電部材の放電状態を、オシロスコープで詳細に測定、解析した。特許文献1に係る帯電部材では、帯電プロセス部において、高周波数の放電が起こりにくいタイミング、すなわち、放電の抜けが生じている現象が得られた。放電の抜けが生じることにより、放電量の総量が低下し、表面電位のムラを相殺できなくなる結果だと推測している。
図2に放電の抜けが発生している状態のイメージ図を示す。(2a)は放電の抜けがなく、放電の総量が充足されている状態、(2b)が放電の抜けが生じて放電の総量が不足している状態である。
放電の抜けが発生する理由として、まず、帯電部材の表面において、放電が生じて電荷が消費された後、次の放電のための電荷の供給が追随できないことが理由であると推測している。
従って、帯電部材の表面においては、放電が生じて電荷が消費された後の、次の電荷の供給を迅速に行うために、放電の周波数を向上させて放電の抜けを抑制すればよい。
ここで、帯電部材の内部における電荷の充電のサイクルを迅速にするのみでは十分ではないと本発明者らは考えている。すなわち、帯電部材の表面において、放電による電荷の消費と、電荷の供給のサイクルを迅速にすることで、放電の抜けは抑制し得る。しかし、当該サイクルに要する時間が短くなった分だけ、このサイクルに寄与できる電荷の量が減少した場合、単発の放電量が減少し、放電の総量としては、表面電位ムラを均すレベルには達しない。従って、放電の抜けを抑制する、すなわち放電の周波数を向上させるだけでなく、同時に、単発の放電の発生量を向上させることが必要であると考えた。
さらに、上記の放電現象だけでなく、帯電部材と感光ドラムとの当接部においても、感光ドラムの表面電位ムラを均す作用の付与によって、ゴースト画像をより抑制できることを見出した。
【0010】
そこで、本発明者らは、十分な電荷を短時間で蓄積でき、且つ、当該電荷を速やかに放出し、さらに感光ドラムとの当接部においても、表面電位ムラを均し得る導電性部材を得るべく検討を重ねた。その結果、以下の構成の導電性部材は、上記の要求に良く応え得ることを見出した。
導電性部材は、導電性の外表面を有する支持体と、該支持体の外表面上に設けられた導電層を有する。該導電層は、第一のゴム架橋物を含むマトリックスと、該マトリックス中に分散された複数個のドメインとを有し、該ドメインは、第二のゴム架橋物および電子導電剤を含む。
該導電性部材の外表面に直接白金電極を設け、温度23℃湿度50%RHの環境下で、該支持体の外表面と該電極膜との間に振幅が1Vの交流電圧を、周波数1.0×10
-2Hz~1.0×10
7Hzの間で変化させながら印加する。そのことによってインピーダンスを測定し、周波数を横軸、インピーダンスを縦軸に両対数プロットしたときに以下の第一の要件及び第二の両方の要件を満たし、さらに、ドメインマトリックス構造特有の表面形状の特徴として、第三の表面形状の要件を満たす。
<第一の要件>
周波数1.0×10
5Hz~1.0×10
6Hzにおける傾きが、-0.8以上、-0.3以下である。
<第二の要件>
周波数が1.0×10
-2Hz~1.0×10
1Hzにおけるインピーダンスが、1.0×10
3~1.0×10
7Ωである。
<第三の要件>
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、該導電性部材の外表面に凸部を生じさせており、
該導電性部材の外表面は、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成されている。
すなわち、本態様に係る導電性部材によれば、表面電位ムラを均すための前露光装置を使用せずとも、
図1の(1d)に示すような均一な帯電電位のプロファイルを形成可能になる。
【0011】
以下、本態様に係る導電性部材について、帯電部材としての態様を例に説明する。なお、本態様に係る導電性部材は、帯電部材としての用途に限定されるものでなく、例えば、現像部材、転写部材にも適用し得る。
本態様に係る導電性部材は、導電性の外表面を有する支持体、及び、該支持体の外表面上に設けられた導電層を有する。該導電層は、導電性を有する。ここで、導電性とは体積抵抗率が1.0×108Ω・cm未満であると定義する。そして、該導電層は、第一のゴム架橋物を含むマトリックスと、該マトリックス中に分散された複数個のドメインとを有し、該ドメインは、第二のゴム架橋物および電子導電剤を含む。また、該導電性部材は、上記の<第一の要件><第二の要件><第三の要件>を満たす。
【0012】
<第一の要件>
第一の要件は、高周波数側で導電性部材内での電荷の停滞が発生し難いことを規定している。
従来の導電性部材のインピーダンスを測定すると、高周波数側で、必ず傾きが-1となる。ここで、傾きとは、
図3に示すように、導電性部材のインピーダンス特性を周波数に対して両対数プロットした際の、横軸に対する傾きのことである。
導電性部材の等価回路は、電気抵抗Rと静電容量Cの並列回路で表され、インピーダンスの絶対値|Z|は下記式(1)で表現できる。このとき、式(1)内のfは周波数を示す。
【0013】
【0014】
高周波数側で、インピーダンスの傾き-1の直線になるのは、高周波の電圧に対して電荷の動きが追随できず、停滞するため、電気抵抗値Rが大きく増大した、いわば絶縁の静電容量を計測している状態であると推測できる。電荷が停滞した状態は、式(1)でRを無限大に近似した状態であると、推定することができる。このとき、式(1)の分母の要素(R-2+(2πf)2C2)において、R-2が(2πf)2C2に対して非常に小さい値をとる近似が可能になる。したがって、式(1)はR-2を除去した式(2)のような近似を施した式変形が可能となる。最後に、式(2)に対して両辺対数をとる式変形を行うと、式(3)となり、logfの傾きが-1になる。
【0015】
【0016】
上記式(1)~(3)の意味を、
図4を用いて説明する。
図4において、縦軸は、インピーダンスの絶対値の対数(log|Z|)、横軸は、測定振動電圧の周波数の対数(logf)を示す。
図4に、式(1)で表現されるインピーダンスの挙動を示す。まず、上記で説明してきたように、式(1)を満たすインピーダンスは、周波数が大きくなると、ある周波数でその絶対値が低下してくる。そして低下する挙動は、
図4のような両対数プロットにおいては、式(3)で示したように、傾きが帯電部材の電気抵抗値や静電容量などに依存せずに、-1の傾きの直線となる。
絶縁性の樹脂層のインピーダンス特性を測定すると、傾きが-1の直線となることから、導電性部材の導電層インピーダンス測定において、傾きが-1になる状態は、高周波数側で電荷の動きが停滞している特性が現れていると推測される。高周波数側での電荷の動きが停滞すると、放電のための電荷の供給が放電の周波数に追随できなくなる。その結果、放電のできないタイミングが生じ、放電の抜けが生じていると推測される。
一方、本開示に係る導電性部材において、導電層のインピーダンスの傾きが、1.0×10
5Hz~1.0×10
6Hzの高周波数領域において、-0.8以上、-0.3以下であるため、高周波数側で電荷の供給が停滞し難い。その結果、インピーダンスが一定値をとる低周波数域から高周波数域までの周波数の放電、特に電荷の動きが停滞しやすい高周波数側の放電に対して、電荷の供給を可能にする。電荷の供給が広い周波数領域において潤沢に実現できるために、放電の抜けを抑制し、放電の総量を向上させることができる。当該高周波数領域の範囲は、導電性部材から発生する放電の周波数のうちで、最も周波数が大きい領域の放電であるため、放電の抜けが発生しやすい領域であると考えられる。このような周波数領域において傾きが-1よりも大きい上記の範囲の値を示すことで、当該周波数領域より低い高周波数領域においても-1よりも大きい傾きを得て、放電抜けの発生を抑制し、放電の総量を向上させることができる。
【0017】
帯電部材としての電子写真用の帯電ローラと感光ドラムを組合せた場合を用いて、具体的に放電の周波数を予測すると、次のような範囲となると発明者らは考えている。
感光ドラムの外表面に対向して設けられ、感光ドラムと同期して回転移動する帯電ローラの表面の移動方向における放電領域を0.5mm~1mmに設定する。電子写真装置のプロセススピードが最大で100~500mm/secとすると、感光ドラムの表面が放電領域を通過する時間は、10-3sec~10-2secである。また、放電を詳細に観察すると、単発の放電による放電領域の長さは0.01mm~0.1mmであるため、感光ドラムの表面の同一点が放電領域を通過する間に、少なくとも5~100回の放電が発生していることが推測される。従って、帯電ローラが発生させる放電の周波数は、数Hz~1.0×106Hzの範囲であることが推測される。より高速プロセスになるにしたがって、放電の周波数をより高くして放電の回数を増大させる必要があるため、上記範囲の中でも特に、1.0×105Hz~1.0×106Hzの如き高周波数領域における放電および導電機構の制御が重要である。
以上のように、放電の回数を増大させるためには、高周波数領域におけるインピーダンスの傾きを-1から逸脱させることが有効である。これにより、放電とその次の放電のための電荷の供給を迅速に行う特性を良く達成させ得る。インピーダンスの傾きが-1から逸脱することは、導電性部材内の電荷の供給が停滞していないことを意味するため、かかる帯電部材は、放電の抜けを抑制する方向の特性を得られる。
【0018】
<第二の要件>
第二の要件にかかる低周波数側のインピーダンスは、電荷の停滞が発生し難いという特性を表しているものである。
これは、低周波数側のインピーダンスの傾きが-1ではない領域であることからもわかる。そして、前記式(1)において、周波数fをゼロに近似すると、電気抵抗値Rに近似できることから、電気抵抗値Rは、電荷が単一方向に移動する際の能力を表すことが分かる。
従って、低周波数の電圧を印加しながらの測定では、電圧の振動に電荷の動きが追随できた状態での電荷の移動量を模擬していると想定できる。
低周波数における電荷の移動量は、帯電部材から測定電極との間での電荷の移動しやすさの指標であり、更に、帯電部材の表面から感光ドラムに対して、放電によって電荷を移動させられる電荷量の指標とすることができる。
また、第一の要件及び第二の要件にかかるインピーダンスの測定に用いられる交流電圧は振幅が1Vである。この測定用の振動電圧は、実際に電子写真方式の画像形成装置の中で帯電部材に印加される電圧が数100V~数1000Vであるのに対し大幅に低い。従って、第一要件及び第二要件にかかるインピーダンスの測定によって、帯電部材の表面からの放電の出やすさをより高次元で評価できると考えている。
また、第二の要件を満たすことで、放電の出やすさを適切な範囲に制御可能である。インピーダンスが1.0×10
3Ωより低くなると、一つの放電の量が大きくなりすぎて、次の放電のための電荷の供給が追随できなくなり、放電の抜けが発生する方向に働き、ゴースト画像を抑制することが難しくなる。一方で、インピーダンスが1.0×10
7Ωを超えると、放電の出やすさが低下し、表面電位ムラを埋めるまでの放電量に達しない。
なお、
図4で説明したように帯電部材では、低周波数の領域において、インピーダンスの絶対値は一定値をとる。そして、1.0×10
-2Hz~1.0×10
1Hzにおけるインピーダンスは、例えば1Hzの周波数におけるインピーダンスの値で代用することができる。
第一の要件と第二の要件とを両立する導電性部材は、低周波数側から高周波数側までの周波数域において放電量を感光ドラムの表面電位のムラを消して、ゴースト画像を抑制するレベルの放電を達成可能となる。第一の要件を満たすことで、高周波数側での放電の抜けを抑制することができる。また、第二の要件を満たすことで、放電性がより一層向上し、ゴースト画像の発生を効果的に抑制することができる。
【0019】
<インピーダンスの測定方法>
インピーダンスは以下の方法によって測定できる。
インピーダンスの測定に際し、導電性部材と測定電極との間の接触抵抗の影響を排除する必要がある。そのために、低抵抗な薄膜形態の白金を導電性部材の表面に堆積させ、当該薄膜を電極として使用する。そして、一方で導電性の支持体を接地電極として2端子でインピーダンスを測定する。
当該電極の形成方法としては、金属蒸着、スパッタリング、金属ペーストの塗布、金属テープを貼付するなどの電極の形成方法を挙げることができる。これらの中でも、導電性部材との接触抵抗の低減という観点で、白金の薄膜を蒸着によって白金電極として形成する方法が好ましい。
導電性部材の表面に白金電極を形成する場合、その簡便さおよび薄膜の均一性を考慮すると、真空蒸着装置に対して導電性部材を把持できる機構を付与する。そして、断面が円柱状の導電性部材に対しては、さらに回転機構を付与した、真空蒸着装置を使用することが好ましい。断面が円形状などの曲面で構成される、例えば円柱状の導電性部材に対しては、上記の測定電極としての白金電極と、インピーダンスの測定装置との接続が困難になるため、次のような方法を用いることが好ましい。
具体的には、導電性部材の長手方向に、10mm~20mm程度の幅の白金電極を形成したのち、金属シートを隙間なく巻き付け、当該金属シートと、測定装置から出ている測定電極と接続して測定すればよい。これにより、導電性部材の導電層からの電気信号を好適に測定装置に取得でき、インピーダンス測定を実施することができる。金属シートとしては、インピーダンスを測定するに際して、測定装置の接続ケーブルの金属部と同等の電気抵抗値である金属シートであればよく、例えば、アルミホイルや金属テープ等を用いることができる。
インピーダンスの測定装置は、インピーダンスアナライザ、ネットワークアナライザ、スペクトルアナライザ等、1.0×107Hzまでの周波数領域におけるインピーダンスを測定できる装置であればよい。これらの中でも導電性部材の電気抵抗域から、インピーダンスアナライザによって測定することが好ましい。
インピーダンスの測定条件に関して述べる。インピーダンス測定装置を使用し、1.0×10-2Hz~1.0×107Hzの周波数領域におけるインピーダンスを測定する。測定は、温度23℃湿度50%RHの環境下で行う。測定ばらつきを低減するために、周波数1桁あたり5点以上の測定点を設けることが好ましい。また、交流電圧の振幅は1Vである。
測定電圧に関しては、電子写真装置内の導電性部材に印加される分担電圧を考慮して直流電圧を印加しながら測定してもよい。具体的には、10V以下の直流電圧を振動電圧と重畳印加しながらの測定によって電荷の輸送と蓄積の特性を定量化するために好適である。
次に、インピーダンスの傾きの算出方法について述べる。
上記の条件で測定した測定結果に対し、市販の表計算ソフトを使用して、インピーダンスの絶対値を、測定周波数に対して両対数グラフでプロットする。この両対数プロットで得られたグラフの、1.0×105~1.0×106Hzの周波数領域におけるインピーダンスの絶対値の傾きを、1.0×105~1.0×106Hzの周波数領域の測定点を利用して求めればよい。具体的には、当該周波数範囲のグラフのプロットに対し、一次関数の近似直線を最小二乗法で算出し、その傾きを算出すればよい。
次いで、当該両対数グラフ内の1.0×10-2~1.0×101Hzの周波数領域での測定点の算術平均値を算出し、得られた値を低周波数側のインピーンダンスとすればよい。
円柱状の帯電部材におけるインピーダンスの傾きの測定では、軸方向としての長手方向を5等分した際のそれぞれの領域内の任意の場所で測定を5か所行い、5か所の傾きの測定値の算術平均を算出すればよい。
【0020】
<第三の要件>
上記第一の要件及び第二の要件に係るインピーダンスの規定を満たす導電層を備えた導電性部材によれば、放電の抜けを低減することができる。しかしながら、より高速な電子写真プロセスにおいて、高品位な電子写真画像を得るためには、感光ドラムの表面電位ムラのより一層の低減が必要であると考えられる。
そこで、第三の要件にかかる帯電部材の外表面に露出したドメイン由来の凸部によって、感光ドラムとの当接部において、感光ドラムに対して電荷を注入させることを考えた。ここで、注入帯電とは、当接部において、感光ドラム表面に接する導電性部材の外表面の中の導電部から、感光ドラム表面に対して、電位差に従って電荷を注入することで帯電させるものである。
図5に、感光ドラム51と導電性支持体55及び導電層56を有する帯電部材52との当接部53近傍の概念図を示す。
図5に示すように、放電54は、当接部53に対して、プロセス上流側で電位差が印加される微小空隙で生じる。そして、帯電部材52からの放電によっては、未だ均しきれない感光ドラムの表面電位のムラに対して、当該凸部からの注入帯電によって、残存する表面電位のムラをさらに均すことが可能となる。
感光ドラム表面における表面電位のムラに対して、帯電部材の表面電位は負の値で一定のため、感光ドラムの表面電位のムラの中の負の方向に小さい箇所のほうが、表面電位が大きい箇所よりも、当接部における電位差が大きく、注入帯電量が大きい。
つまり、当接部における注入帯電は、表面電位のムラを均す効果がある。
本態様に係る導電性部材は、第一要件および第二要件のインピーダンスの規定によって、導電層内で潤沢な電荷を蓄積し、かつ高効率に輸送できる、マトリックス-ドメイン構造であるため、放電の抜けの抑制だけでなく、注入帯電の効率も高いと推測される。さらに、当該導電部を凸形状にして、導電部のみで感光ドラムに接する構成であることで、注入帯電の効率をさらに向上させる構成である。またさらには、接触する導電部は、電荷輸送効率の高い低抵抗な電子導電剤を多量に含む構成も注入帯電に有利と推測できる。
【0021】
当該導電部の凸部の高さは、具体的には50nm以上200nm以下であることが好ましい。50nm以上の高さにすることで、導電性の凸部のみで感光ドラムとの接触が実現できる。一方で、放電領域において凸部由来の放電のムラが形成されるため、凸部の高さは200nm以下であることが好ましい。
上記のように、第一要件および第二要件による放電の抜けの抑制に加え、導電性の凸部による高効率の注入帯電が可能な本開示に係る構成によって高速プロセスにおけるゴースト画像を抑制することが可能となると推測している。
【0022】
<導電性部材>
本態様に係る導電性部材について、ローラ形状を有する導電性部材(以降、導電性ローラ)を例に、
図6を参照して説明する。
図6は、導電性ローラの軸方向である長手方向に対して垂直な断面図である。導電性ローラ61は、円柱状の導電性の支持体62、支持体62の外周、すなわち外表面に形成された導電層63を有している。
<導電性の支持体>
導電性の支持体を構成する材料としては、電子写真用の導電性部材の分野で公知なものや、かかる導電性部材として利用できる材料から適宜選択して用いることができる。一例として、アルミニウム、ステンレス、導電性を有する合成樹脂、鉄、銅合金などの金属または合金が挙げられる。更に、これらに対して、酸化処理やクロム、ニッケルなどで鍍金処理を施しても良い。鍍金の種類としては電気鍍金、無電解鍍金のいずれも使用することができる。寸法安定性の観点から無電解鍍金が好ましい。ここで使用される無電解鍍金の種類としては、ニッケル鍍金、銅鍍金、金鍍金、その他各種合金鍍金を挙げることができる。鍍金厚さは、0.05μm以上が好ましく、作業効率と防錆能力のバランスを考慮すると、鍍金厚さは0.1~30μmであることが好ましい。支持体の円柱状の形状は、中実の円柱状でも、中空の円柱状(円筒状)でもよい。この支持体の外径は、φ3mm~φ10mmの範囲が好ましい。
支持体と導電層の間に、中抵抗層、あるいは絶縁層が存在すると、放電による電荷の消費後の電荷の供給を迅速にできなくなる。よって、導電層は、支持体に直接設けるか、あるいは、プライマーのごとき、薄膜、かつ、導電性の樹脂層からなる中間層のみを介して支持体の外周に導電層を設けることが好ましい。
プライマーとしては、導電層形成用のゴム材料及び支持体の材質等に応じて公知のものを選択して用いることができる。プライマーの材料としては、例えば熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、フェノール系樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂の如き材料を用い得る。
樹脂層及び支持体のインピーダンスは、周波数が1.0×10
-2Hz~1.0×10
1Hzにおいて、1.0×10
-5~1.0×10
2Ωの範囲であることが好ましい。低周波数におけるインピーダンスが上記範囲の支持体及び樹脂層であれば、導電層に対し、十分な電荷の供給を実施でき、導電層に含まれるマトリックスドメイン構造の、第一の要件と第二の要件による放電の抜けを抑制する機能が阻害されないため好ましい。
樹脂層のインピーダンスは、最外表面に存在する導電層を剥離して行うこと以外は、上記のインピーダンスの傾きの測定と同様の方法によって測定することができる。また、支持体のインピーダンスは、樹脂層または導電層を被覆する前の状態で、あるいは、帯電ローラ形成後は、導電層、あるいは樹脂層と導電層からなる被覆層を剥離した状態で、上記のインピーダンスの測定と同様の方法により測定することができる。
【0023】
<導電層>
前記<第一の要件><第二の要件><第三の要件>を満たす導電性部材としては、例えば、導電層が、以下の構成(i)~構成(iv)を満たす導電性部材が好ましい。
構成(i)該マトリックスの体積抵抗率が、1.0×10
12Ω・cmより大きく1.0×10
17Ω・cm以下であること。
構成(ii)該ドメインの体積抵抗率が、1.0×10
1Ω・cm以上、1.0×10
4Ω・cm以下であること。
構成(iii)隣接するドメイン間の距離が、0.2μm以上、2.0μm以下の範囲内であること。
構成(iv)該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、該導電性部材の外表面に凸部を生じさせており、
該導電性部材の外表面は、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインの表面とで構成されている(構成(iv))こと。
以下、上記(i)~(iv)の要素について説明する。
図7(a)に、導電性ローラの長手方向に対して垂直な方向の導電層の部分断面図を示す。導電層7は、マトリックス7aとドメイン7bとを有するマトリックス-ドメイン構造を有する。そして、ドメイン7bは、電子導電剤としての導電性粒子7cを含む。また、
図7(b)は、導電層の導電層の導電性支持体の側とは反対側の表面(以降、「導電層の外表面」ともいう)近傍の拡大図である。
電子導電剤を含むドメインがマトリックス中に分散されている導電層を具備する導電性部材に導電性支持体と被帯電体との間にバイアスを印加する。すると、導電層内において、電荷は以下のようにして導電層の導電性支持体に面する側とは反対側の面、すなわち、導電性部材の外表面側に移動すると考えられる。その結果、電荷は、ドメイン中のマトリックスとの界面近傍に蓄積される。そして、その電荷は、導電性支持体側に位置するドメインから、導電性支持体の側とは反対側に位置するドメインに順次受け渡されていき、導電層の導電性支持体の側とは反対側の表面(以降、「導電層の外表面」ともいう)に到達する。このとき、1回の帯電工程で全てのドメインの電荷が導電層の外表面側に移動すると、次の帯電工程に向けて、導電層中に電荷を蓄積するために時間を要することとなる。すなわち、高速の電子写真画像形成プロセスに対応することが困難となる。従って、バイアスが印加されてもドメイン間の電荷の授受が同時的に生じないようにすることが好ましい。また、電荷の動きが制約される高周波数領域においても、1回の放電で十分な量の電荷を放電させるためには、ドメインに十分な量の電荷を蓄積させることが有効となる。
また、
図7(b)に示すように、該ドメイン7bの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、該導電性部材の外表面に凸部7b-01を生じている。かかる凸部は、感光ドラムとの当接部を構成することとなる。その結果、ドメイン内の潤沢な電荷が、当該当接部において効率的に電子写真感光体に注入される。
以上述べたように、バイアス印加時のドメイン間での同時的な電荷の授受の発生を抑制し、かつ、ドメイン内に十分な電荷を蓄積させるために、上記構成(i)~(iv)を満たすことが好ましい。
【0024】
<構成(i)>
・マトリックスの体積抵抗率;
マトリックスの体積抵抗率を、1.0×1012Ω・cmより大きく1.0×1017Ω・cm以下とすることで、電荷が、ドメインを迂回してマトリックス内を移動することを抑制できる。また、ドメインに蓄積された電荷が、マトリックスに漏洩することによって、あたかも導電層内を連通する導電経路が形成されているかの如き状態となることを防止できる。
前記<第一の要件>に関し、高周波数のバイアス印加下でも導電層中を、ドメインを介して電荷を移動させる必要がある。そのためには、電荷が十分に蓄積された導電性の領域(ドメイン)が、電気的に絶縁性の領域(マトリックス)で分断されている構成が有効であると本発明者らは考えている。そして、マトリックスの体積抵抗率を上記したような高抵抗領域の範囲とすることで、各ドメインとの界面において十分な電荷を留めることができ、また、ドメインからの電荷漏洩を抑制できる。
また、前記<第二の要件>を満たす導電層とするためには、電荷の移動経路を、ドメインを介在した経路に限定することが効果的であることを見出した。ドメインからのマトリックスへの電荷の漏洩を抑制し、電荷の輸送経路を複数のドメインを介した経路に限定することにより、ドメインに存在する電荷の密度を向上させることができるため、各ドメインにおける電荷の充填量をより増大させることができる。これにより、放電の起点である導電相としてのドメインの表面において、放電に関与できる電荷の総数を向上させることができ、結果、帯電部材の表面からの放電の出やすさを向上させることができると考えられる。
また、導電層の外表面から発生する放電は、上記のように、導電相としてのドメインから電界によって電荷を引き出す。それと同時に、空気が電界によって電離して発生するプラスイオンが、マイナスの電荷が存在する導電層の表面に衝突して、導電層の表面から電荷を放出するγ効果も含む。帯電部材の表面にある導電相としてのドメインには、上記で説明したように、高密度で電荷を存在させることができる。したがって、プラスイオンが電界によって導電層の表面に衝突した際の、放電電荷の発生効率も向上でき、従来の帯電部材と比較して、より多くの放電電荷を発生しやすい状態にできていると推測している。
【0025】
・マトリックスの体積抵抗率の測定方法;
マトリックスの体積抵抗率は、例えば、導電層から、マトリクスドメイン構造が含まれている所定の厚さ(例えば、1μm)の薄片を切り出し、当該薄片中のマトリクスに走査型プローブ顕微鏡(SPM)や原子間力顕微鏡(AFM)の微小探針を接触させることによって計測することができる。
弾性層からの薄片の切り出しは、例えば、
図9(a)に示したように、導電性部材の長手方向をX軸、導電層の厚み方向をZ軸、周方向をY軸とした場合において、薄片が、XZ平面と平行な断面92aの少なくとも一部を含むように切り出す。または、
図9(b)に示すように、薄片が、導電性部材の軸方向に対して垂直なYZ平面(例えば、93a、93b、93c)の少なくとも一部を含むように切り出す。例えば、鋭利なカミソリや、ミクロトーム、収束イオンビーム法(FIB)などが挙げられる。
体積抵抗率の測定は、導電層から切り出した薄片の片面を接地する。次いで、当該薄片の接地面とは反対側の面のマトリクスの部分に走査型プローブ顕微鏡(SPM)や原子間力顕微鏡(AFM)の微小の微小探針を接触させ、50VのDC電圧を5秒間印加し、接地電流値を5秒間測定した値から算術平均値を算出し、その算出した値で印加電圧を除することで電気抵抗値を算出する。最後に薄片の膜厚を用いて、抵抗値を体積抵抗率に変換する。このとき、SPMやAFMは、抵抗値と同時に当該薄片の膜厚も計測できる。
円柱状の帯電部材におけるマトリックスの体積抵抗率の値は、例えば、導電層を周方向に4分割、長手方向に5分割した領域のそれぞれから各1つずつ薄片サンプルを切り出し、上記の測定値を得た後に、合計20サンプルの体積抵抗率の算術平均値を算出することによって求める。
【0026】
<構成(ii)>
・ドメインの体積抵抗率;
ドメインの体積抵抗率は1.0×101Ωcm以上1.0×104Ωcm以下にすることが好ましい。ドメインの体積抵抗率をより低い状態にすることで、マトリックスで目的としない電荷の移動を抑制しつつ、電荷の輸送経路を、より効果的に複数のドメインを介する経路に限定することができる。
更に、ドメインの体積抵抗率は、1.0×102Ωcm以下であることがより好ましい。ドメインの体積抵抗率を当該範囲まで下げることで、ドメイン内で移動する電荷の量を飛躍的に向上できる。そのため、周波数が1.0×10-2Hz~1.0×101Hzにおける導電層のインピーダンスを、1.0×105Ω以下の更に低い範囲に制御でき、更に効果的に電荷の輸送経路をドメイン経由に限定することができる。
ドメインの体積抵抗率は、ドメインのゴム成分に対し、電子導電剤を使用することによって、その導電性を所定の値にすることで調整する。
ドメイン用のゴム材料としては、マトリックス用としてのゴム成分を含むゴム組成物を用いることができる。該ゴム組成物は、マトリックス-ドメイン構造を形成するために、マトリックスを形成するゴム材料との溶解度パラメータ(SP値)の差を以下の範囲とすることが好ましい。すなわち、SP値の差を、0.4(J/cm3)0.5以上、5.0(J/cm3)0.5以下、特には、0.4(J/cm3)0.5以上2.2(J/cm3)0.5以下にすることがより好ましい。
ドメインの体積抵抗率は、電子導電剤の種類、およびその添加量を適宜選択することによって調整することができる。ドメインの体積抵抗率を1.0×101Ωcm以上1.0×104Ωcm以下に制御するために使用する電子導電剤としては、分散する量によって高抵抗から低抵抗まで体積抵抗率を大きく変化させることができる電子導電剤が好ましい。
ドメインに配合される電子導電剤については、カーボンブラック、グラファイト等の炭素材料;酸化チタン、酸化錫等の導電性酸化物;Cu、Ag等の金属;導電性酸化物または金属が表面に被覆され導電化された粒子等が例として挙げられる。
また、必要に応じて、これらの電子導電剤の2種類以上を適宜量配合して使用しても良い。
以上の様な電子導電剤のうち、ゴムとの親和性が大きく、電子導電剤間の距離の制御が容易な、導電性のカーボンブラックを使用することが好ましい。ドメインに配合されるカーボンブラックの種類については、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ガスファーネスブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。
中でも、高い導電性をドメインに付与し得る、DBP吸収量が40cm3/100g以上170cm3/100g以下である導電性カーボンブラックを好適に用いることができる。
【0027】
導電性のカーボンブラック等の電子導電剤は、ドメインに含まれるゴム成分の100質量部に対して、20質量部以上150質量部以下でドメインに配合されることが好ましい。特に好ましい配合割合は、50質量部以上100質量部以下である。これらの割合での電子導電剤の配合は、一般的な電子写真用の導電性部材と比較して、電子導電剤が多量に配合されていることが好ましい。これにより、ドメインの体積抵抗率を1.0×101Ωcm以上1.0×104Ω・cm以下の範囲に容易に制御することができる。また、必要に応じて、ゴムの配合剤として一般に用いられている添加剤を本開示に係る効果を阻害しない範囲でドメイン用のゴム組成物に添加してもよい。
そのような添加剤としては、例えば、充填剤、加工助剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、老化防止剤、架橋促進助剤、架橋遅延剤、軟化剤、分散剤、着色剤等が挙げられる。
【0028】
・ドメインの体積抵抗率の測定方法;
ドメインの体積抵抗率の測定は、前記<マトリックスの体積抵抗率の測定方法>に対して、測定箇所をドメインに相当する場所に変更し、電流値の測定の際の印加電圧を1Vに変更した以外は同様の方法で実施すればよい。
ここで、ドメインの体積抵抗率は、均一であることが好ましい。ドメインの体積抵抗率の均一性を向上させるためには、各ドメイン内の電子導電剤の量を均一化することが好ましい。これにより、導電性部材の外表面からの、被帯電体への放電をより安定化させることができる。
具体的には、導電層の厚み方向の断面に現れるドメインの各々の断面積に対して、ドメインの各々が含む電子導電剤からなる部分の割合を例えば以下の範囲にすることが好ましい。すなわち導電性粒子の断面積の合計の、ドメインの断面積に対する割合の標準偏差をσr、平均値をμrとしたとき、変動係数σr/μrが、0以上、0.4以下であることが好ましい。
σr/μrが、0以上、0.4以下であるために、各ドメイン中に含まれる導電剤の数または量のばらつきを低減する方法を用いることができる。かかる指標に基づくドメインの体積抵抗率の均一性が付与されることで、導電層内の電界集中を抑制でき、局所的に電界が印加されるマトリックスの存在を低減できる。これにより、マトリックスでの導電を極力低減することができる。
より好ましいσr/μrは、0以上0.25以下であり、導電層内の電界集中を更に効果的に抑制することができ、1.0×10-2Hz~1.0×101Hzにおけるインピーダンスを1.0×105Ω以下に更に低減することが可能となる。
ドメインの体積抵抗率の均一性を向上させるためには、後述するドメイン形成用ゴム組成物(CMB)の調製工程において、第二のゴム架橋物に対するカーボンブラック等の電子導電剤の配合量を多くすることが好ましい。
【0029】
・ドメインの体積抵抗率の均一性の指標の測定方法;
ドメインの体積抵抗率の均一性は、ドメイン内の電子導電剤の量によって支配されるため、ドメイン内の電子導電剤の量のばらつきを測定することで、評価することができる。
まず、前述のマトリックスの体積抵抗率の測定における方法と同様の方法で切片を作製する。次いで、凍結割断法、クロスポリッシャー法、収束イオンビーム法(FIB)等の手段で破断面を形成する。破断面の平滑性と、観察のための前処理を考慮すると、FIB法が好ましい。また、マトリックス-ドメイン構造の観察を好適に実施するために、染色処理、蒸着処理など、導電相としてのドメインと絶縁相としてのマトリックスとのコントラストが好適に得られる前処理を施してもよい。
破断面の形成、前処理を行った切片を、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察して、マトリックス-ドメイン構造の存在を確認する。これらの中でも、ドメインの面積の定量化の正確性から、SEMで1000倍~100000倍で観察を行うことが好ましい。具体的な手順は後述する。
【0030】
<構成(iii)>
・隣接するドメイン間の距離の算術平均値Dm(以降、「ドメイン間距離」ともいう)
ドメイン間距離の算術平均値Dmは、0.2μm以上、2.0μm以下であることが好ましい。
構成(i)に係る体積抵抗率を有するマトリックス中に、構成(ii)に係る体積抵抗率のドメインが分散されている導電層が、前記<第二の要件>を満たすようにするために、Dmを2.0μm以下、特には、1.0μm以下とすることが好ましい。
一方、ドメイン同士を絶縁領域であるマトリックスで確実に分断することで、十分な電荷をドメインに蓄積させるためには、Dmを、0.2μm以上、特には、0.3μm以上とすることが好ましい。
・ドメイン間距離の測定方法;
ドメイン間距離の測定方法は、次のように実施すればよい。
まず、前述のマトリックスの体積抵抗率の測定における方法と同様の方法で切片を作製する。また、マトリックス-ドメイン構造の観察を好適に実施するために、染色処理、蒸着処理など、導電相と絶縁相とのコントラストが好適に得られる前処理を施してもよい。
破断面の形成、白金蒸着を行った切片を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察して、マトリック-スドメイン構造の存在を確認する。これらの中でも、ドメインの面積の定量化の正確性から、SEMで、1000倍~100000倍で観察を行うことが好ましい。具体的な手順は後述する。
【0031】
・ドメイン間距離Dmの均一性;
上記構成(iii)に関して、ドメイン間距離の分布は均一であることが、より好ましい。ドメイン間の距離の分布が均一であることで、導電層内で局所的にドメイン間距離が長い箇所が一部できることで、電荷の供給が周囲比べて滞る箇所が生じた場合などに、放電の出やすさが抑制される現象を低減できる。
電荷が輸送される断面、すなわち、
図9(b)に示されるような導電層の厚さ方向の断面において、導電層の外表面から支持体方向への深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所における、50μm四方の観察領域を取得する。その際に、当該観察領域内のドメイン間距離の平均値Dmおよびドメイン間距離のばらつきσmを用いて変動係数σm/Dmが0以上0.4以下であることが好ましく、0.10以上0.30以下であることがより好ましい。
・ドメイン間距離の均一性の測定方法;
ドメイン間距離の均一性の測定は、ドメイン間距離の測定と同様に、破断面の直接観察で得られる画像を定量化することによって行うことができる。具体的な手順は後述する。
【0032】
本態様に係る導電性部材は、例えば、下記工程(i)~(iv)を含む方法を経て形成することができる。
工程(i):カーボンブラックおよび第二のゴムを含む、ドメイン形成用ゴム組成物(以降、「CMB」とも称する)を調製する工程;
工程(ii):第一のゴムを含むマトリックス形成用ゴム組成物(以降、「MRC」とも称する)を調製する工程;
工程(iii):CMBとMRCとを混練して、マトリックス-ドメイン構造を有するゴム組成物を調製する工程。
工程(iv):工程(iii)で調製したゴム組成物の層を、導電性支持体上に直接または他の層を介して形成し、該ゴム組成物の層を硬化(架橋)させて、本態様に係る導電層を形成する工程。
そして、構成(i)~構成(iii)は、例えば、上記各工程に用いる材料の選択、製造条件の調整により制御することができる。以下説明する。
まず、構成(i)に関して、マトリックスの体積抵抗率は、MRCの組成によって定まる。
MRCに用いる第一のゴムとしては、導電性の低い、天然ゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、ポリノルボルネンゴムの如きゴムの少なくとも1種を用い得る。また、MRCには、マトリックスの体積抵抗率を上記範囲内にすることができることを前提として、必要に応じて、充填剤、加工助剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、架橋促進助剤、架橋遅延剤、老化防止剤、軟化剤、分散剤、着色剤を添加してもよい。一方、MRCには、マトリックスの体積抵抗率を上記範囲内とするために、カーボンブラックの如き電子導電剤は含有させないことが好ましい。
また、構成(ii)は、CMB中の電子導電剤の量によって調整し得る。例えば、電子導電剤として、DBP吸収量が、40cm3/100g以上、170cm3/100g以下である導電性カーボンブラックを用いる場合を例に挙げる。すなわち、CMBの全質量を基準として、40質量%以上、200質量%以下の導電性カーボンブラックを含むようにCMBを調製することで構成(ii)を達成し得る。
【0033】
さらに、構成(iii)に関しては、下記(a)~(d)の4つを制御することが有効である。
(a)CMB、及びMRCの各々の界面張力σの差;
(b)CMBの粘度(ηd)、及びMRCの粘度(ηm)の比(ηm/ηd);
(c)工程(iii)における、CMBとMRCとの混練時のせん断速度(γ)、及びせん断時のエネルギー量(EDK)。
(d)工程(iii)における、CMBのMRCに対する体積分率。
【0034】
(a)CMBとMRCとの界面張力差
一般的に二種の非相溶のゴムを混合した場合、相分離する。これは、異種高分子間の相互作用よりも、同一高分子間の相互作用が強いため、同一高分子同士で凝集し、自由エネルギーを低下させ安定化しようとするためである。相分離構造の界面は異種高分子と接触するため、同一分子同士の相互作用で安定化されている内部より、自由エネルギーが高くなる。その結果、界面の自由エネルギーを低減させるために、異種高分子と接触する面積を小さくしようとする界面張力が発生する。この界面張力が小さい場合、エントロピーを増大させるために異種高分子でもより均一に混合しようとする方向に向かう。均一に混合した状態とは溶解であり、溶解度の目安となるSP値(溶解度パラメータ)と界面張力は相関する傾向にある。
つまり、CMBとMRCとの界面張力差は、各々が含むゴムのSP値差と相関すると考えられる。MRC中の第1のゴムと、CMB中の第2のゴムとしては、溶解度パラメータの絶対値の差が、以下の範囲のゴム原料が好ましい。すなわち、SP値の絶対値の差が0.4(J/cm3)0.5以上、5.0(J/cm3)0.5以下、特には、0.4(J/cm3)0.5以上2.2(J/cm3)0.5以下となるようなゴムを選択することが好ましい。この範囲であれば安定した相分離構造を形成でき、また、CMBのドメイン径Dを小さくすることができる。ここで、CMBに用い得る第二のゴムの具体例としては、以下のとおりであり、これらの少なくとも1種を用いることができる。
天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM、EPDM)、クルルプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム(U)。
導電層の厚みは、目的とする導電性部材の機能及び効果が得られるものであれば特に限定されない。導電層の厚みは、1.0mm以上4.5mm以下とすることが好ましい。
ドメインとマトリックスとの質量比率(ドメイン:マトリックス)は、好ましくは5:95~40:60であり、より好ましくは10:90~30:70であり、さらに好ましくは13:87~25:75である。
【0035】
<SP値の測定方法>
SP値は、SP値が既知の材料を用いて、検量線を作成することで、精度良く算出することが可能である。この既知のSP値は、材料メーカーのカタログ値を用いることもできる。例えば、NBR及びSBRは、分子量に依存せず、アクリロニトリルおよびスチレンの含有比率でSP値がほぼ決定される。マトリックスおよびドメインを構成するゴムを、熱分解ガスクロマトグラフィー(Py-GC)及び固体NMR等の分析手法を用いて、アクリロニトリルまたはスチレンの含有比率を解析する。そのことで、SP値が既知の材料から得た検量線から、SP値を算出することができる。また、イソプレンゴムは、1,2-ポリイソプレン、1,3-ポリイソプレン、3,4-ポリイソプレン、およびcis-1,4-ポリイソプレン、trans-1,4-ポリイソプレンなどの、異性体構造でSP値が決定される。従って、SBRおよびNBRと同様にPy-GC及び固体NMR等で異性体含有比率を解析し、SP値が既知の材料から、SP値を算出することができる。SP値が既知の材料のSP値は、Hansen球法で求めたものである。
(b)CMBとMRCとの粘度比
CMBとMRCとの粘度比(ηd/ηm)は、1に近い程、ドメインの最大フェレ径を小さくできる。具体的には、粘度比は1.0以上2.0以下であることが好ましい。CMBとMRCの粘度比は、CMB及びMRCに使用する原料ゴムのムーニー粘度の選択や、充填剤の種類や量の配合によって調整が可能である。また、相分離構造の形成を妨げない程度に、パラフィンオイルなどの可塑剤を添加することでも可能である。また混練時の温度を調整することで、粘度比の調整を行うことができる。なおCMBとMRCの粘度は、JIS K6300-1:2013に基づきムーニー粘度ML(1+4)を混練時のゴム温度で測定することで得られる。
(c)MRCとCMBとの混練時のせん断速度、及びせん断時のエネルギー量
MRCとCMBとの混練時のせん断速度は速いほど、また、せん断時のエネルギー量は大きいほど、ドメイン間距離Dm及び後述するDmsを小さくすることができる。
せん断速度は、混練機のブレードやスクリュウといった撹拌部材の内径を大きくし、撹拌部材の端面から混練機内壁までの間隙を小さくすることや、回転数を大きくすることで上げることができる。またせん断時のエネルギーを上げるには、撹拌部材の回転数を上げることや、CMB中の第一のゴムとMRC中の第二のゴムの粘度を上げることで達成できる。
【0036】
(d)MRCに対するCMBの体積分率
MRCに対するCMBの体積分率は、マトリックス形成用ゴム混合物に対するドメイン形成用ゴム混合物の衝突合体確率と相関する。具体的には、マトリックス形成用ゴム混合物に対するドメイン形成用ゴム混合物の体積分率を低減させると、ドメイン形成用ゴム混合物とマトリックス形成用ゴム混合物の衝突合体確率が低下する。つまり必要な導電性を得られる範囲において、マトリックス中におけるドメインの体積分率を減らすことでドメイン間距離Dm及び後述するDmsを小さくできる。
そして、CMBのMRCに対する体積分率(すなわち、ドメインのマトリクスに対する体積分率)は、15%以上40%以下とすることが好ましい。
また、導電性部材における、導電層の長手方向の長さをLとし、導電層の厚さをTとしたとき、導電層の長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所における、
図9(b)に示されるような導電層の厚さ方向の断面を取得する。導電層の厚さ方向の断面の各々について、以下を満たすことが好ましい。
該各々の断面において、弾性層の外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所に15μm四方の観察領域を置く。そのときに、全9個の該観察領域の各々で観察されるドメインのうちの80個数%以上が、下記構成(v)および構成(vi)を満たすことが好ましい。
構成(v)
ドメインの断面積のうち該ドメインに含まれる電子導電剤の断面積の割合μrが、20%以上であること。
構成(vi)
ドメインの周囲長をA、該ドメインの包絡周囲長をBとしたとき、A/Bが、1.00以上、1.10以下であること。
上記構成(v)及び構成(vi)は、ドメインの形状に係る規定ということができる。「ドメインの形状」とは、導電層の厚さ方向の断面に現れたドメインの断面形状として定義される。
ドメインの形状は、その周面に凹凸がない形状、すなわち球体に近い形状であることが好ましい。形状に関する凹凸構造の数を低減することによって、ドメイン間の電界の不均一性を低減でき、つまり、電界集中が生じる箇所を少なくして、マトリックスで必要以上の電荷輸送が起きる現象を低減できる。
【0037】
本発明者らは、1個のドメインに含まれる電子導電剤(導電性粒子)の量が、当該ドメインの外形形状に影響を与えているとの知見を得た。
すなわち、1個のドメインの導電性粒子の充填量が増えるにつれて、該ドメインの外形形状がより球体に近くなるとの知見を得た。球体に近いドメインの数が多いほど、ドメイン間での電子の授受の集中点を少なくすることができる。
そして、本発明者らの検討によれば、その理由は明らかでないが、1つのドメインの断面の面積を基準として、当該断面において観察される導電性粒子の断面積の総和の割合が20%以上であるドメインは、より、球体に近い形状を取り得る。その結果、ドメイン間での電子の授受の集中を有意に緩和し得る外形形状を取り得るため好ましい。具体的には、ドメインの断面積に対する該ドメインが含む該導電性粒子の断面積の割合が、20%以上であることが好ましい。より好ましくは、25%以上30%以下である。
ドメインの周面の凹凸がない形状に関しては、下記式(5)を満たすことが好ましいことを本発明者らは見出した。
1.00≦A/B≦1.10 (5)
(A:ドメインの周囲長、B:ドメインの包絡周囲長)
式(5)は、ドメインの周囲長Aと、ドメインの包絡周囲長Bとの比を示している。ここで、包絡周囲長とは、
図8に示されるように、観察領域で観察されるドメイン81の凸部を結んだときの周囲長である。
ドメインの周囲長と、ドメインの包絡周囲長との比は1が最小値であり、1である状態は、ドメインが真円又は楕円等の断面形状に凹部がない形状であることを示す。これらの比が1.1以下であると、ドメインに大きな凸凹形状が存在しないことを示し、電界の異方性が発現しにくい。
【0038】
<ドメインの形状に関する各パラメータの測定方法>
導電性部材(導電性ローラ)の導電層から、ミクロトーム(商品名:Leica EMFCS、ライカマイクロシステムズ社製)を用いて、切削温度-100℃にて、1μmの厚みの超薄切片を切り出す。ただし、下記のように、導電性部材の長手方向に対して垂直な断面によって、切片を作製し、当該切片の破断面におけるドメインの形状を評価する必要がある。この理由を下記に述べる。
図9では、導電性部材91を、3軸、具体的にはX、Y、Z軸の3次元としてその形状を示した図を示す。
図9においてX軸は導電性部材の長手方向(軸方向)と平行な方向、Y軸、Z軸は導電性部材の軸方向と垂直な方向を示す。
図9(a)は、導電性部材に対して、XZ平面92と平行な断面92aで切片を切り出すイメージ図を示す。XZ平面は導電性部材の軸を中心として、360°回転することができる。導電性部材が感光体ドラムに対して当接されて回転し、感光ドラムとの隙間を通過する際に放電することを考慮すると、当該XZ平面92と平行な断面92aは、あるタイミングに同時に放電が起きる面を示していることになる。一定量の断面92aに相当する面が通過することによって、感光ドラムの表面電位が形成される。
したがって、導電性部材内の電界集中と相関する、ドメインの形状の評価のためには、断面92aのようなある一瞬において同時に放電が発生する断面の解析では十分ではない。一定量の断面92aを含むドメイン形状の評価ができる導電性部材の軸方向と垂直なYZ平面93と平行な断面での評価が必要である。
この評価に、該導電層の長手方向の長さをLとしたとき、導電層の長手方向の中央での断面93bと、及び該導電層の両端から中央に向かってL/4の2か所の断面(93a及び93c)の計3か所を選択する。
また、当該断面93a~93cの観察位置に関しては、以下の測定を行う。すなわち、導電層の厚さをTとしたとき、各切片のそれぞれ外表面から深さ0.1T以上0.9T以下までの厚み領域の任意の3か所で15μm四方の観察領域を置く。そのときの、合計9か所の観察領域で測定を行えばよい。
得られた切片に対し、白金を蒸着させ蒸着切片を得る。次いで当該蒸着切片の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて1000倍又は5000倍で撮影し、観察画像を得る。
次に、当該解析画像内のドメインの形状を定量化するために、画像処理ソフトImageProPlus(製品名、Media Cybernetics社製)を使用して、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得る。次いで、破断面内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理し、2値化画像を得る。
【0039】
<<ドメイン内の導電性粒子の断面積割合μrの測定方法>>
ドメイン内の電子導電剤の断面積割合の測定は、上記5000倍で撮影した観察画像の2値化画像を定量化することによって行なうことができる。
画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus;Media Cybernetics社製)によって、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得る。当該観察画像に対して、カーボンブラックの粒子を区別できるように2値化を実施し、2値化画像を得る。得られた画像に対しカウント機能を使用することによって、当該解析画像内のドメインの断面積S及び当該ドメイン内に含まれる電子導電剤としてのカーボンブラック粒子の断面積の合計Scを算出する。
そして、ドメイン内の電子導電材の断面積割合として、上記9か所におけるSc/Sの算術平均値μrを算出する。
電子導電剤の断面積割合μrは、ドメインの体積抵抗率の均一性に影響する。断面積割合μrの測定と合わせて、ドメインの体積抵抗率の均一性は以下のように測定できる。
上記測定方法により、ドメインの体積抵抗率の均一性の指標として、μr及びμrの標準偏差σrから、σr/μrを算出する。
【0040】
<<ドメインの周囲長A、包絡周囲長Bの測定方法>>
画像処理ソフトのカウント機能によって、上記1000倍で撮影した観察画像の2値化画像内に存在するドメイン群に対して下記の項目を算出する。
・周囲長A(μm)
・包絡周囲長B(μm)
これらの値を以下の式(5)に代入し、9か所の評価画像の算術平均値を採用する。
1.00≦A/B≦1.10 (5)
(A:ドメインの周囲長、B:ドメインの包絡周囲長)
【0041】
<<ドメインの形状指数の測定方法>>
ドメインの形状指数は、μr(面積%)が20%以上であり、かつ、ドメインの周囲長比A/Bが上記式(5)を満たすドメイン群の、ドメイン総数に対する個数パーセントを算出すればよい。該ドメインの形状指数が、80個数%以上100個数%以下であることが好ましい。
上記2値化画像に対して、画像処理ソフトImageProPlus(Media Cybernetics社製)のカウント機能を用いて、ドメイン群の2値化画像内の個数を算出し、さらに、μr≧20及び上記式(5)を満たすドメインの個数パーセントを求めればよい。
構成(v)で規定したように、ドメイン中に導電性粒子を高密度に充填することで、ドメインの外形形状を球体に近づけることができると共に、構成(vi)に規定したように凹凸が小さいものとすることができる。
構成(v)で規定したような、電子導電剤が高密度に充填されたドメインを得るために、電子導電剤は、DBP吸収量が40cm3/100g以上170cm3/100g以下であるカーボンブラックを有することが好ましい。
DBP吸収量(cm3/100g)とは、100gのカーボンブラックが吸着し得るジブチルフタレート(DBP)の体積であり、日本工業規格(JIS) K 6217-4:2017(ゴム用カーボンブラック-基本特性-第4部:オイル吸収量の求め方(圧縮試料を含む))に従って測定される。
一般に、カーボンブラックは、平均粒径10nm以上50nm以下の一次粒子がアグリゲートした房状の高次構造を有している。この房状の高次構造はストラクチャーと呼ばれ、その程度はDBP吸収量(cm3/100g)で定量化される。
DBP吸収量が上記範囲内にある導電性カーボンブラックは、ストラクチャー構造が未発達のため、カーボンブラックの凝集が少なく、ゴムへの分散性が良好である。そのため、ドメイン中への充填量を多くでき、その結果として、外形形状が、より球体に近いドメインを得られやすい。
また、DBP吸収量が、上記した範囲内にある導電性カーボンブラックは、凝集体を形成し難いため、要件(vi)に係るドメインを形成しやすくなる。
【0042】
<構成(iv)>
本開示に係る導電性部材の外表面は、<第三の要件>の項で説明したように、注入帯電を高効率に達成させるために、導電部であるドメインの少なくとも一部が凸部として該導電性部材の外表面に露出している。
当該凸部は本開示のマトリックス-ドメイン構造由来の導電機構で得られる、導電応答性の高い構成であり、カーボンブラックのような電子導電剤を多く含有した構成である。さらに、当該凸部のみで感光ドラムで接触する構成を達成することができる。
これにより、本開示に係る導電性部材は、外表面に存在するドメイン由来の凸部から、高効率な注入帯電を発現できるため、表面電位ムラを感光ドラムの当接部においても均すことができる。
該ドメインに由来する凸部の高さは、具体的には50nm以上200nm以下であることが好ましい。50nm以上の高さにすることで、該ドメイン由来の凸部での感光ドラムとの接触が実現できる。より好ましくは、150nm以上である。一方で、放電領域において凸部由来の放電のムラが形成されるため、凸部の高さは200nm以下であることが好ましい。
【0043】
さらに、導電性部材の外表面に凸部を生じさせているドメインに関し、隣接するドメイン間における凸部同士の距離の算術平均値Dms(算術平均壁面間距離)が2.0μm以下、特に0.2μm以上、2.0μm以下で存在していることが好ましい。凸部同士の距離が上記の範囲であれば、感光ドラム表面に対して注入できるポイントが多くできる。このため、ドメイン由来の凸部による注入帯電性を向上させることができる。
【0044】
<ドメイン由来の凸部の形成方法>
ドメイン由来の凸部は、導電性部材の表面を研削することによって形成することができる。また、マトリックス-ドメイン構造を有する導電層であるからこそ、砥石による研削工程によってドメイン由来の凸部を好適に形成することができると発明者らは考えている。ドメイン由来の凸部は、プランジ方式研磨機で、研磨砥石によって研削する方法によって形成することが好ましい。
砥石研磨によってドメイン由来の凸部が形成できる推測メカニズムを示す。まず、マトリクス中に分散しているドメインはカーボンブラック等の電子導電剤が充填されており、電子導電剤が充填されていないマトリックスよりも補強性が高くなっている。すなわち、同じ砥石による研削加工を行った場合、ドメインは補強性が高いために、マトリックスよりも研削されにくく、凸部が形成されやすい。この補強性の違いが生む研削性の違いを利用して、ドメイン由来の凸部を形成することができる。特に、本実施形態に係る導電性部材は、ドメインに多くのカーボンブラックを充填した構成であるため、当該凸部を好適に形成することが可能である。
【0045】
ここで、研磨に用いられるプランジ方式研磨機用の研磨砥石について説明する。研磨砥石は、研磨効率や導電層の構成材料の種類に応じて、適宜、表面の粗さを選択することができる。この砥石表面の粗さは、砥粒の種類、粒度、結合度、結合剤、組織(砥粒率)などによって調節することができる。
なお、上記「砥粒の粒度」とは砥粒の大きさを示し、例えば、#80と表記する。この場合の数字は、砥粒を選別するメッシュの1インチ(25.4mm)あたり幾つの目があるかを意味しており、数字が大きくなるほど砥粒が細かいことを示す。上記「砥粒の結合度」とは硬さを示し、アルファベットAからZで表す。この結合度はAに近いほど軟らかく、Zに近いほど硬いことを表す。砥粒中に結合剤を多量に含むほど、結合度の硬い砥石となる。上記「砥粒の組織(砥粒率)」とは、砥石の全容積中に占める砥粒の容積比を表し、この組織の大小により組織の粗密を表す。組織を示す数字が大きいほど、粗であること示す。この組織の数字が大きく、大きな空孔を有する砥石を多孔性砥石と呼び、目詰まり、砥石焼けを防ぐ等の利点を有する。
一般的に、この研磨砥石は、原料(砥材、結合剤、気孔剤、等)を混合し、プレス成形、乾燥、焼成、仕上げにより製造することができる。砥粒としては、緑色炭化ケイ素質(GC)、黒色炭化ケイ素質(C)、白色アルミナ質(WA)、かっ色アルミナ質(A)、ジルコニアアルミナ質(Z)などを使用することができる。これらの材料は単体で、又は複数種を混合して用いることができる。また、上記結合剤としては、ビトリファイド(V)、レジノイド(B)、レジノイド補強(BF)、ゴム(R)、シリケート(S)、マグネシア(Mg)、シェラック(E)などを用途に応じて適宜、使用することができる。
【0046】
ここで、研磨砥石の長手方向の外径形状としては、導電性ローラをクラウン形状に研磨できるように、端部から中央部に向けて徐々に外径が小さくなる逆クラウン形状とすることが好ましい。研磨砥石の外径形状は、長手方向に対して円弧曲線又は2次以上の高次曲線の形状となることが好ましい。
また、これ以外にも、研磨砥石の外径形状は4次曲線やサイン関数等、様々な数式で表される形状となっていても良い。研磨砥石の外形形状は外径の変化が滑らかに変化するものが好ましいが、円弧曲線等を直線による多角形状に近似した形状としてもよい。この研磨砥石の軸方向に相当する方向の幅は、導電性ローラの軸方向の幅と同等か、それ以上であることが好ましい。
上記にあげた要因を考慮して砥石を適宜選択し、ドメインとマトリックスの研削性の違いを助長する条件によって研削工程を実施することによって、ドメイン由来の凸部を形成することができる。
具体的には、磨きを抑えた条件、切れ味が悪い砥粒を用いた条件が好ましい。例えば、粗削りをした後の精密磨き工程の時間を短くした、処理済の砥石を用いて研磨するなどの手段をとることによって、ドメイン由来の凸部を好適に形成するこができる。前記処理済みの砥石としては、例えば、ゴム部材で処理した砥石、具体的には、砥粒を配合したゴム部材でドレッシングした砥石の表面を磨くことによって砥粒を摩滅させるなどの処理を行った砥石が挙げられる。
【0047】
<ドメイン由来の凸部の確認方法>
導電層から表面を含む薄片を取り出し、微小探針によってドメイン由来の凸部の確認及び凸部の高さの計測を実施できる。
薄片を作製する手段としては、例えば、鋭利なカミソリや、ミクロトーム、FIBなどが挙げられる。これらの中でも非常に平滑な断面を形成できるFIBが好ましい。導電層からの切り出し位置は、導電層の長手方向の長さをLとして、長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所である。
また、マトリックス-ドメイン構造のより正確な観察を実施するために、染色処理、蒸着処理など、導電相としてのドメインと絶縁相としてのマトリックスとのコントラストが好適に得られる前処理を観察用の薄片に施してもよい。
次いで、導電性部材からサンプリングした薄片に対し、SPMで表面プロファイル及び電気抵抗プロファイルを測定する。これにより、凸部がドメイン由来の凸部であることを確認できる。同時に、形状プロファイルから、凸部の高さを定量化して評価することが可能である。例えばSPM(MFP-3D-Originオックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製)などの装置を用いることができる。
当該装置によって、導電性部材の表面を計測することで、電気抵抗値のプロファイル及び形状プロファイルを計測する。
次いで、上記の計測で得られた表面形状のプロファイルにおける凸部が、電気抵抗値のプロファイル中で周囲よりも導電性が高いドメイン由来であることを確認し、さらに、当該プロファイルから凸部の高さを、算出する。
算出方法は、ドメイン由来の形状のプロファイルの算術平均値と、隣接するマトリックスの形状プロファイルの算術平均値との差分を取ることにより、求める。
上記3か所から切り出した切片のそれぞれにおいて、ランダムに選択した20個の凸部を測定した、合計60個の値の算術平均値を算出すればよい。
【0048】
<ドメイン由来の凸部の壁面間距離Dmsの測定方法>
ドメイン由来の凸部の壁面間距離Dmsの測定方法は、次のように実施すればよい。
導電層の長手方向の長さをL、導電層の厚さをTとしたとき、導電層の長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所から、カミソリを用いて帯電部材の外表面が含まれるようにサンプルを切り出す。サンプルのサイズは、帯電部材の周方向、及び長手方向に各々2mm、厚みは、導電層の厚さTとした。得られた3つのサンプルの各々について、帯電部材の外表面に該当する面の任意の3ヶ所に50μm四方の解析領域を置き、当該3つの解析領域を、走査型電子顕微鏡(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて倍率5000倍で撮影する。得られた合計9枚の撮影画像の各々を、画像処理ソフト(商品名:LUZEX;ニレコ社製)を使用して2値化する。
2値化の手順は以下のように行う。撮影画像に対し、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得る。そして、撮影画像内のドメインが黒くなるように、2値化し、撮影画像の2値化画像を得る。次いで、9枚の2値化画像の各々について、ドメインの壁面間距離を算出し、さらにそれらの算術平均値を算出する。この値をDmsとする。なお、壁面間距離とは、最も近接しているドメイン同士の壁面間の距離であり、上記画像処理ソフトにおいて、測定パラメータを隣接壁面間距離と設定することで求めることができる。
【0049】
<ドメイン径D>
ドメインの円相当径(以降、単に「ドメイン径D」ともいう)Dの算術平均値は、0.1μm以上、5.0μm以下とすることが好ましい。
ドメイン径Dの平均値を、0.10μm以上とすることで、導電層において、電荷の移動する経路をより効果的に限定することができる。より好ましくは0.15μm以上であり、さらに好ましくは0.20μm以上である。
また、ドメイン径Dの平均値を5.0μm以下にすることで、ドメインの全体積に対する表面積の割合、すなわち、比表面積を指数関数的に大きくすることができ、ドメインからの電荷の放出効率を飛躍的に向上させ得る。ドメイン径Dの平均値は、上記の理由から、2.0μm以下、更には、1.0μm以下とすることが好ましい。
なお、ドメイン間での電界集中のより一層の軽減を図る上では、ドメインの外形形状をより球体に近づけることが好ましい。そのためには、ドメイン径を、前記した範囲内でより小さくすることが好ましい。その方法としては、例えば、工程(iii)において、MRCとCMBとを混練して、MRCとCMBとを相分離させる。その後、MRCによるマトリックス中にCMBによるドメインを形成させたゴム組成物を調製する工程において、CMBによるドメイン径を小さくするように制御する方法が挙げられる。ドメイン径を小さくすることでドメインの比表面積が増大し、マトリックスとの界面が増加するため、ドメインの界面には張力を小さくしようとする張力が作用する。その結果、ドメインは、その外形形状が、より球体に近づく。
ここで、非相溶のポリマー2種を溶融混練させたときに形成されるマトリックス-ドメイン構造におけるドメイン径(最大フェレ径D)を決定する要素に関して、以下の式が知られている。
【0050】
・Taylorの式
D=[C・σ/ηm・γ]・f(ηm/ηd) (6)
・Wuの経験式
γ・D・ηm/σ=4(ηd/ηm)0.84・ηd/ηm>1 (7)
γ・D・ηm/σ=4(ηd/ηm)-0.84・ηd/ηm<1 (8)
【0051】
【0052】
式(6)~(9)において、Dは、CMBのドメインの最大フェレ径、Cは、定数、σは、界面張力、ηmは、マトリックスの粘度、ηdは、ドメインの粘度、γは、せん断速度、ηは、混合系の粘度、Pは、衝突合体確率、φは、ドメイン相体積、EDKは、ドメイン相切断エネルギーを表す。
前記構成(iii)に関連して、ドメイン間距離の均一化を図るためには、前記式(6)~(9)に従って、ドメインサイズを小さくすることが有効である。さらに、マトリックス-ドメイン構造が混練工程において、ドメインの原料ゴムが分裂し、徐々にその粒系が小さくなっていく過程において、混練工程をどこで止めたかによっても支配される。したがって、そのドメイン間距離の均一性は、混練過程における混練時間およびその混練の強度の指数となる混練回転数によって制御可能であり、混練時間が長いほど、混練回転数が大きいほどドメイン間距離の均一性を向上させることができる。
【0053】
・ドメインサイズの均一性;
ドメインサイズは均一であるほど、つまり、粒度分布が狭い方が好ましい。導電層内の電荷が通るドメインのサイズの分布を均一とすることで、マトリックス-ドメイン構造内での電荷の集中を抑制し、導電性部材の全面にわたって放電の出やすさを効果的に増大することができる。
電荷が輸送される断面、すなわち、
図6に示されるような導電層の厚さ方向の断面において、導電層の外表面から支持体方向への深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所における、50μm四方の観察領域を取得する。その際に、ドメインサイズの標準偏差σdおよびドメインサイズの平均値Dの比σd/D(変動係数σd/Dが0以上0.4以下であることが好ましく、0.10以上0.30以下であることがより好ましい。
ドメイン径の均一性を向上させるためには、前述のドメイン間距離の均一性を向上させる手法と等しく、式(6)~(9)に従い、ドメイン径を小さくすればドメイン径の均一性も向上する。さらにMRCとCMBとを混錬する工程において、ドメインの原料ゴムが分裂し、徐々にその粒径が小さくなっていく過程において、混錬工程をどこで止めたかによってもドメイン径の均一性は変化する。したがって、そのドメインサイズの均一性は、混練過程における混練時間およびその混練の強度の指数となる混練回転数によって制御可能であり、混練時間が長いほど、混練回転数が大きいほどドメインサイズの均一性を向上させることができる。
・ドメインサイズの均一性の測定方法;
ドメイン径の均一性の測定は、先に説明したドメイン間距離の均一性の測定と同様の方法で得られる、破断面の直接観察で得られる画像を定量化することによって行うことができる。具体的な手段は後述する。
【0054】
<マトリックス-ドメイン構造の確認方法>
導電層中のマトリックス-ドメイン構造の存在は、導電層から薄片を作製して、薄片に形成した破断面の詳細観察により確認することができる。具体的な手順は後述する。
【0055】
<プロセスカートリッジ>
図10は本開示に係る導電性部材を帯電ローラとして具備している電子写真用のプロセスカートリッジの概略断面図である。このプロセスカートリッジは、現像装置と帯電装置とを一体化し、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されたものである。現像装置は、少なくとも現像ローラ103とトナー容器106とを一体化したものであり、必要に応じてトナー供給ローラ104、トナー109、現像ブレード108、攪拌羽1010を備えていても良い。帯電装置は、感光ドラム101、クリーニングブレード105、および帯電ローラ102を少なくとも一体化したものであり、廃トナー容器107を備えていても良い。帯電ローラ102、現像ローラ103、トナー供給ローラ104、および現像ブレード108は、それぞれ電圧が印加されるようになっている。
【0056】
<電子写真装置>
図11は、本開示に係る導電性部材を帯電ローラとして用いた電子写真装置の概略構成図である。この電子写真装置は、四つの前記プロセスカートリッジが着脱可能に装着されたカラー電子写真装置である。各プロセスカートリッジには、ブラック、マゼンダ、イエロー、シアンの各色のトナーが使用されている。感光ドラム111は矢印方向に回転し、帯電バイアス電源から電圧が印加された帯電ローラ112によって一様に帯電され、露光光1111により、その表面に静電潜像が形成される。
一方、トナー容器116に収納されているトナー119は、攪拌羽1110によりトナー供給ローラ114へと供給され、現像ローラ113上に搬送される。そして現像ローラ113と接触配置されている現像ブレード118により、現像ローラ113の表面上にトナー119が均一にコーティングされると共に、摩擦帯電によりトナー119へと電荷が与えられる。上記静電潜像は、感光ドラム111に対して接触配置される現像ローラ113によって搬送されるトナー119が付与されて現像され、トナー像として可視化される。
可視化された感光ドラム上のトナー像は、一次転写バイアス電源により電圧が印加された一次転写ローラ1112によって、テンションローラ1113と中間転写ベルト駆動ローラ1114に支持、駆動される中間転写ベルト1115に転写される。各色のトナー像が順次重畳されて、中間転写ベルト上にカラー像が形成される。
転写材1119は、給紙ローラにより装置内に給紙され、中間転写ベルト1115と二次転写ローラ1116の間に搬送される。二次転写ローラ1116は、二次転写バイアス電源から電圧が印加され、中間転写ベルト1115上のカラー像を、転写材1119に転写する。カラー像が転写された転写材1119は、定着器1118により定着処理され、装置外に廃紙されプリント動作が終了する。
一方、転写されずに感光ドラム上に残存したトナーは、クリーニングブレード115により掻き取られて廃トナー収容容器117に収納され、クリーニングされた感光ドラム111は、上述の工程を繰り返し行う。また転写されずに一次転写ベルト上に残存したトナーもクリーニング装置1117により掻き取られる。
【実施例】
【0057】
<実施例1>
(1.導電層形成用未加硫ゴム組成物)
[1-1.ドメイン形成用未加硫ゴム組成物(CMB)の調製]
表1に示す配合量の各材料を6リットル加圧ニーダー(製品名:TD6-15MDX、トーシン社製)を用いて混合しドメイン形成用未加硫ゴム組成物を得た。混合条件は、充填率70vol%、ブレード回転数30rpm、20分間とした。
【0058】
【0059】
[1-2.マトリックス形成用未加硫ゴム組成物(MRC)の調製]
表2に示す配合量の各材料を6リットル加圧ニーダー(製品名:TD6-15MDX、トーシン社製)を用いて混合しマトリックス形成用未加硫ゴム組成物を得た。混合条件は、充填率70vol%、ブレード回転数30rpm、16分間とした。
【0060】
【0061】
[1-3.未加硫ゴム組成物の調製]
上記で得たCMB及びMRCを表3に示す配合量で、6リットル加圧ニーダー(製品名:TD6-15MDX、トーシン社製)を用いて混合して未加硫ゴム組成物を得た。混合機は、た。混合条件は、充填率70vol%、ブレード回転数30rpm、16分間とした。
【0062】
【0063】
[1-4.導電層形成用未加硫ゴム組成物の調製]
表4に示す配合量の各材料をロール径12インチのオープンロールを用いて混合し導電層形成用の未加硫ゴム組成物を調製した。混合機は、混合条件は、前ロール回転数10rpm、後ロール回転数8rpmで、ロール間隙2mmとして合計20回左右の切り返しを行った後、ロール間隙を0.5mmとして10回薄通しを行った。
【0064】
【0065】
(2.導電性部材の作製)
[2-1.導電性の外表面を有する支持体の用意]
導電性の外表面を有する支持体として、快削鋼(SUS304)の表面に無電解ニッケルメッキ処理を施した全長252mm、外径6mmの丸棒を用意した。
[2-2.導電層の成形]
導電性の基体の供給機構、及び未加硫ゴムローラの排出機構を有するクロスヘッド押出機の先端に、内径10.0mmのダイスを取付け、押出機とクロスヘッドの温度を80℃に、導電性の支持体の搬送速度を60mm/secに調整した。この条件で、押出機より上記で得た導電層形成用未加硫ゴム組成物を供給して、クロスヘッド内にて導電性の支持体の外周部を該導電層形成用未加硫ゴム組成物で被覆し、未加硫ゴムローラを得た。
次に、160℃の熱風加硫炉中に前記未加硫ゴムローラを投入し、60分間加熱することで該導電層形成用未加硫ゴム組成物を加硫し、導電性の支持体の外周部に導電層が形成されたゴムローラを得た。その後、導電層の両端部を各10mm切除して、導電層部の長手方向の長さを232mmとした。
【0066】
[2-3.導電層の研磨]
次に、上記で得られたゴムローラの導電層の表面を回転砥石を用いて、以下の研磨条件1にて研磨することにより、導電層のドメイン由来の凸部を生成させた。研磨条件1は以下のとおりである。
(研磨条件1)
砥石として、直径305mm、長さ235mmの円筒形状の砥石(テイケン社製)を用意した。砥粒の種類、粒度、結合度、結合剤、及び、組織(砥粒率)砥粒の材質は、以下の通りである。
・砥粒材質:GC(緑色炭化ケイ素質)、(JIS R6111-2002)
・砥粒の粒度:#80(平均粒径177μm JIS B4130)
・砥粒の結合度:HH (JIS R6210)
・結合剤:V4PO(ビトリファイド)
・砥粒の組織(砥粒率):23 (砥粒の含有率16% JIS R6242)
上記砥石を用いて、以下の研磨条件及び研磨方式にて導電層の表面を研磨した。
研磨条件は、砥石の回転数を2100rpm、導電性部材の回転数を250rpmとし、粗削り工程として導電性部材への砥石の侵入スピード20mm/秒で導電性部材の外周面に接触してから0.24mm侵入させる。
精密磨き工程として侵入スピードを1.0mm/秒に変更し、0.01mm侵入させた後、砥石を導電性部材から離して研磨を完了する。
研磨方式としては、砥石と導電性部材の回転方向を同一方向とするアッパーカット方式を採用する。
以上より、中央部から両端部側へ各90mmの位置における各直径が8.44mm、中央部直径が8.5mmのクラウン形状である導電性ローラとしての導電性部材A1を得た。
【0067】
(3.特性評価)
[3-1]マトリックス-ドメイン構造の確認
導電層におけるマトリックス-ドメイン構造の形成の有無について以下の方法により確認を行った。
カミソリを用いて導電性部材の導電層の長手方向と垂直な断面が観察できるように切片を切り出した。次いで、白金蒸着を行い、走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて1,000倍で撮影し、断面画像を得た。
導電層からの切片において観察されたマトリックス-ドメイン構造は、断面画像内において、
図7(a)に示すように、複数のドメインがマトリックス中に分散されて、ドメイン同士が接続せずに独立した状態で存在する形態を示していた。その一方で、マトリックスは画像内で連通している状態であった。
さらに、得られた撮影画像を定量化するために、SEMでの観察により得られた破断面画像に対し、画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus、Media Cybernetics社製)を使用して、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得た。次いで、破断面内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理した後、画像の輝度分布に対して大津の判別分析法のアルゴリズムに基づいて、2値化の閾値を設定し、2値化画像を得る。当該2値化画像に対してカウント機能によって、50μm四方の領域内に存在し、かつ、2値化画像の枠線に接点を持たないドメインの総数に対して、上記のように、ドメイン同士が接続せずに孤立しているドメインの個数パーセントKを算出する。
具体的には、画像処理ソフトのカウント機能において、当該2値化画像の4方向の端部の枠線に接点を有するドメインがカウントされないよう設定する。
導電性部材A1(長手方向の長さ:232mm)の導電層を長手方向に均等に5等分し、周方向に均等に4等分する。得られた領域のそれぞれから任意に1点ずつ、合計20点から当該切片を作製して上記測定を行う。その際の算術平均値K(個数%)が80を超える場合に、マトリックスドメイン構造について「有」、算術平均値K(個数%)が80を下回る場合に「無」と評価し、表6-1及び表6-2に「マトリックス・ドメイン構造の有無」の結果として示した。
【0068】
[3-2]1.0×10
5Hz~1.0×10
6Hzにおける傾き、および1×10
-2Hz~1×10
1Hzにおけるインピーダンスの測定
導電性部材における、1.0×10
5~1.0×10
6Hzにおけるインピーダンスの傾きと、1.0×10
-2Hz~1.0×10
1Hzにおけるインピ-ダンスを評価するために、下記の測定を行った。
まず、前処理として、導電性部材A1に対し、回転しながら真空白金蒸着をすることよって、測定電極を形成した。この時、マスキングテープを使用して、長手方向の幅1.5cmの帯状で、周方向に均一な電極を形成した。当該電極を形成することによって、導電性部材の表面粗さによって、測定電極と導電性部材の接触抵抗の影響を極力排除することができる。次に、当該電極に、アルミシートが白金蒸着膜に接触するように、導電性部材側の測定電極を形成した。
図12に導電性部材に測定電極を形成した状態の概要図を示す。
図12の中で、121が導電性の支持体、122がマトリックス-ドメイン構造を有する導電層、123が白金蒸着層、124がアルミシートである。
図13に導電性部材に測定電極を形成した状態の断面図を示す。131が導電性の支持体、132がマトリックス-ドメイン構造を有する導電層、133が白金蒸着層、134がアルミシートである。
図13のように、導電性の支持体と、測定電極によってマトリックス-ドメイン構造を有する導電層を挟む状態にすることが重要である。
そして、当該アルミシートを、インピーダンス測定装置(商品名:ソーラトロン1260、およびソーラトロン1296 ソーラトロン社製)側の測定電極に接続した。
図14に、本測定系の概要図を示す。導電性の支持体と、アルミシートを測定のための2つの電極にすることで、インピーダンス測定を行った。
インピーダンスの測定に際し、導電性部材A1を温度23℃、湿度50%RH環境に48時間放置し、導電性部材内A1の水分量を飽和させた。
インピーダンスの測定は、温度23℃、湿度50%RH環境において、振幅が1Vppの交流電圧、周波数1.0×10
-2Hz~1.0×10
7Hzで測定(周波数が1桁変化する際に、5点ずつ測定)し、インピーダンスの絶対値を得た。次いで、測定結果を市販の表計算ソフトを用いて、当該インピーダンスの絶対値と、周波数を両対数プロットした。両対数プロットにより得られたグラフから、(a)1.0×10
5Hz~1.0×10
6Hzにおける傾き、および(b)1.0×10
-2Hz~1.0×10
1Hzにおけるインピーダンスの絶対値のそれぞれの算術平均値を算出した。
測定位置に関して、導電性部材A1(長手方向の長さ:232mm)の導電層を長手方向に5個の領域に5等分し、それぞれの領域内から任意に1点ずつ、合計5点に測定電極を形成し、上記測定及び算術平均値の算出を行った。評価結果を、導電層の「(a)傾き」及び「(b)インピーダンス」の結果として表6-1及び表6-2に示す。
【0069】
[3-3]導電性の支持体に対する、1.0×10-2Hz~1.0×101Hzにおけるインピーダンスの測定
1.0×10-2Hz~1.0×101Hzにおけるインピーダンスの測定を、導電性部材A1の導電層を剥離しした状態の導電性の支持体に対して、[3-3]と同様の方法で行った。評価結果を、導電性支持体の「インピーダンス」として表6-1及び表6-2に示す。
【0070】
[3-4]マトリックスの体積抵抗率R1の測定
導電層に含まれるマトリックスの体積抵抗率の評価のために、下記の測定を行った。なお、走査型プローブ顕微鏡(SPM)(商品名:Q-Scope250、QuesantInstrument Corporation社製)はコンタクトモードで操作した。
まず、導電性部材A1の導電層から、ミクロトーム(商品名:Leica EM FCS、ライカマイクロシステムズ社製)を用いて、切削温度-100℃にて、1μmの厚みの超薄切片として切り出した。長薄切片の切り出しに際しては、放電のために電荷が輸送される方向を踏まえ、導電性部材の長手方向と垂直な断面の方向とした。
次に、温度23℃、湿度50%RH環境において、当該超薄切片を金属プレート上に設置した。次に金属プレートに直接接触している箇所の中を選び、マトリックスに該当する箇所をSPMのカンチレバーを接触させ、5秒間、カンチレバーに50Vの電圧を印加し、電流値を測定し、5秒間の算術平均値を算出した。
当該SPMで当該測定切片の表面形状を観察して、得られる高さプロファイルから測定箇所の厚さを算出した。さらに、表面形状観察結果から、カンチレバーの接触部の凹部面積を算出した。当該厚さと当該凹部面積とから体積抵抗率を算出し、マトリックスの体積抵抗率とした。
導電性部材A1(長手方向の長さ:232mm)の導電層を長手方向に5等分し、周方向に4等分し、それぞれの領域内から任意に1点ずつ、合計20点から当該切片を作製して上記測定を行った。その平均値を、マトリックスの体積抵抗率R1とした。評価結果をマトリックスの「体積抵抗率」として表6-1及び表6-2に示す。
【0071】
[3-5]ドメインの体積抵抗率R2の測定
導電層に含まれるドメインの体積抵抗率を評価するために、上記マトリックスの体積抵抗率の測定において、超薄切片のドメインに該当する箇所で測定を実施し、測定の電圧を1Vにする以外は、同様の方法で、ドメインの体積抵抗率R2の測定を実施した。評価結果を、ドメインの「体積抵抗率」として表6-1及び表6-2に示す。
【0072】
[3-6]マトリックスの体積抵抗率R1とドメインの体積抵抗率R2の比
上記マトリックスの体積抵抗率R1と、ドメインの体積抵抗率R2の比(R1/R2)の常用対数を算出し、マトリックスとドメインの体積抵抗率の比を算出した。
評価結果を、「マトリックスドメイン抵抗比 log(R1/R2)」として表6-1及び表6-2に示す。
【0073】
[3-7]ドメインの体積抵抗率の均一性の指標の評価
ドメインの体積抵抗率の均一性は、ドメイン内の導電性のカーボンブラックの充填量の均一性に相関するため、各ドメイン内のカーボンブラックの量のばらつきの定量化を実施した。
導電層に含まれるドメインの形状を以下の走査型電子顕微鏡(SEM)で得られる観察画像を、画像処理で定量化する方法により評価した。
上記マトリックスの体積抵抗率の測定と同様の方法で、1mmの厚みを有する薄片を切り出した。この時、薄片は導電性の支持体の軸と垂直な面と、その面に平行な断面の破断面を取得した。導電層からの切り出し位置は、導電層の長手方向の長さをLとして、長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所とした。当該切片に対し、白金を蒸着させ蒸着切片を得た。次いで当該蒸着切片の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて1,000倍で撮影し、観察画像を得た。
次いで、導電層の厚さをTとしたとき、上記の3つの測定位置から得られた3つの切片のそれぞれの、導電層外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所、合計9か所における15μm四方の領域を抽出した。
次に、得られた撮影画像を定量化するために、SEMでの観察により得られた破断面画像に対し、画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus、Media Cybernetics社製)を使用して、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得た。次いで、破断面内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理し、2値化画像を得た。次いで、当該2値化画像に対してカウント機能によって、15μm四方の領域内に存在するドメインに対して、該ドメインの断面積のSおよび、該ドメイン内の電子導電剤としてのカーボンブラック粒子の断面積の総和Scを算出した。そして、解析画像内に存在するドメイン群に対し、これらの比Sc/Sの算術平均値μrおよび標準偏差σrから、ドメインの体積抵抗率の均一性の指標であるσr/μrを算出した。
Sc/Sの算術平均値μr及び標準偏差σrの算出は、上記合計9か所に対して、各1つずつ薄片サンプルを切り出して上記の測定を行い、合計9点の測定値から求めた。評価結果を「ドメイン体積抵抗率均一性」として表6-1及び表6-2に示す。
【0074】
[3-8]ドメインの形状の評価
ドメインの形状の評価は、[3-7]ドメインの体積抵抗率の均一性の指標の評価と同様にして得られる2値化画像を計測して得られるSc/Sの算術平均値μrと、下記の手法によって得られるドメインの「周囲長比 A/B」によって評価した。
ドメインの「周囲長比 A/B」は、[3-7]ドメインの体積抵抗率の均一性の指標の評価と同様にして2値化画像を得る。得られた2値化画像に対して、画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus、Media Cybernetics社製)を使用して、カウント機能によって、15μm四方の領域内に存在するドメインに対して下記の項目を算出した。
・周囲長A(μm)
・包絡周囲長B(μm)
さらに、これらの値を以下の及び式(5)に代入し、式(4)及び式(5)の条件を満たすドメインの個数の割合を、ドメインの「形状指数」として、各評価画像内におけるドメイン群の総数に対して個数%として算出した。さらに、9か所の評価画像の平均値を算出してドメインの形状の指数とした。結果を表6-1及び表6-2に示す。表6-1及び表6-2において、式(5)に代入して得られた値を「Sc/Sの算術平均値μr」「周囲長比 A/B」として示した。
20≦μr 式(4)
(μr:Sc/Sの算術平均値)
1.00≦A/B≦1.10 式(5)
(A:ドメインの周囲長、B:ドメインの包絡周囲長)
【0075】
[3-9]ドメイン径Dの測定
本開示に係るドメイン径Dの測定は、上記[3-8]ドメインの形状の測定で得られる、ドメインの面積Sから、円相当径を算出した。具体的には、ドメインの面積Sを用いて、D=(4S/π)0.5を計算した。
なお、ドメインサイズの測定では、導電性部材の導電層を周方向に4分割、長手方向に5分割した。それらの領域のそれぞれの任意の箇所において、上記ドメインの形状の測定方法と同様にして、各1つずつ薄片サンプルを切り出して測定を行い、さらに、9か所の評価画像の平均値を算出してドメイン径Dとした。結果を「ドメイン径D」として表6-1及び表6-2に示す。
[3-10]ドメインの粒度分布の測定
ドメインサイズの均一性を評価するための、ドメインの粒度分布の測定は、ドメインの距離のばらつきを算出することによって測定した。具体的には、[3-9]ドメインサイズの測定において得られる、ドメインサイズの分布に対して、ドメインサイズの平均値Dと標準偏差σdから粒度分布の指標であるσd/Dを計算した。さらに、9か所の評価画像の平均値を算出して、評価結果をドメインの「粒度分布σd/D」として表6-1及び表6-2に示す。
【0076】
[3-11]ドメイン間距離Dmの測定
ドメイン間距離Dmの測定は、[3-9]ドメインサイズの測定で得られる画像を観察して得られる観察画像を、画像処理することにより得た。
具体的には、上記ドメインのサイズの測定法に対して、画像処理ソフト(商品名:LUZEX、ニレコ社製)を使用して、ドメインの壁面間距離の分布から算術平均値を算出した。さらに、9か所の評価画像の平均値を算出して、ドメイン間距離Dmとした。評価結果をマトリックスの「壁面間距離Dm」として表6-1及び表6-2に示す。
【0077】
[3-12]ドメイン間距離の均一性の指標の測定
ドメイン間距離の均一性の評価は、[3-11]ドメイン間距離の測定で得られるドメイン間距離の分布に対して、平均値Dmと標準偏差σmを算出し、σm/Dmを算出した。さらに、9か所の評価画像の平均値を算出してドメイン間距離の均一性の指標とした。評価結果をマトリックスの「壁面間距離均一性 σm/Dm」として表6-1及び表6-2に示す。
【0078】
[3-13]導電性部材の外表面において観察される、凸部を生じさせているドメインの壁面間距離の測定、及びそれらの算術平均値Dmsの算出
導電層の長手方向の長さをL、導電層の厚さをTとしたとき、導電層の長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所から、カミソリを用いて導電性部材の外表面が含まれるようにサンプルを切り出した。サンプルのサイズは、導電性部材の周方向、及び長手方向に各々2mm、厚みは、導電層の厚さTとした。得られた3つのサンプルの各々について、導電性部材の外表面に該当する面の任意の3ヶ所に50μm四方の解析領域を置いた。
当該3つの解析領域を、走査型電子顕微鏡(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて倍率5000倍で撮影した。得られた合計9枚の撮影画像の各々を、画像処理ソフト(商品名:LUZEX;ニレコ社製)を使用して2値化する。2値化の手順は以下のように行う。撮影画像に対し、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得る。そして、撮影画像内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理し、2値化し、撮影画像の2値化画像を得る。次いで、9枚の2値化画像の各々について、ドメインの壁面間距離を算出し、それらの算術平均値を算出した。さらに、それらの算術平均値を算出した。この値を、凸部を生じさせているドメインの壁面間距離の算出平均値Dmsとした。評価結果を表6-1及び表6-2に示す。
【0079】
[3-14]ドメインの体積分率の測定
ドメインの体積分率はFIB-SEMを用いた3次元での導電層の計測により算出した。
具体的には、FIB-SEM(エフイー・アイ社製)を使用して(詳細上述)、収束イオンビームによる断面だしとSEM観察を繰り返し、スライス画像群を取得した。
その後得られた画像を、3D可視化・解析ソフトウェア (商品名:Avizo、エフ・イー・アイ社製)を利用して、マトリックスドメイン構造を3次元構築した。次に、当該解析ソフトウェアによって2値化によってマトリックスドメイン構造を区別した。
さらに、体積分率を定量化するために、当該3次元像内の任意の、一辺が10μmの立方体形状1個のサンプル中に含まれるドメインの体積を算出し、一辺が10μmの立方体の体積(1000μm^3)に対する割合をドメインの「体積分率」として算出した。
上記ドメインの体積分率の測定は、導電性部材を周方向に4分割、長手方向に5分割した領域のそれぞれの任意の箇所において、各1つずつ薄片サンプルを切り出して上記の測定を行い、合計20点の測定値の算術平均から算出した。評価結果を「ドメイン体積分率」として表6-1及び表6-2に示す。
【0080】
[3-15]ドメイン由来の凸部の計測
[3-13]導電性部材の外表面において、凸部を生じさせている隣接するドメイン間における凸部同士の壁面間距離Dmsの測定と同様にして測定切片を得た。導電層からの切り出し位置は、導電層の長手方向の長さをLとして、長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所とする。
上記のようにして得た導電性部材表面を含む切片に対して、SPM(MFP-3D-Originオックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製)を用いて、下記条件で導電性部材の表面を計測した。当該計測により、電気抵抗値のプロファイル及び形状プロファイルを計測した。
・測定モード:AM-FMモード
・探針: OMCL-AC160TS(商品名;オリンパス社製)
・共振周波数:251.825~261.08kHz
・バネ定数:23.59~25.18N/m
・スキャン速度:0.8~1.5Hz
・スキャンサイズ:10μm、5μm、3μm
・Target Amplitude:3V及び4V
・Set Point:すべて2V
次いで、上記の計測で得られた表面形状のプロファイルにおける凸部が、電気抵抗値のプロファイル中で周囲よりも導電性が高いドメイン由来であることを確認する。さらに、当該プロファイルから凸形状の高さを、算出する。
算出方法は、ドメイン由来の形状のプロファイルの算術平均値と、隣接するマトリックスの形状プロファイルの算術平均値との差分を取ることにより、求める。なお当該算術平均値は、上記3か所から切り出した切片のそれぞれにおいて、ランダムに選択した20個の凸部を測定した値から算出する。さらに、合計60個の凸部の高さの算術平均値を算出した。評価結果を「凸部の高さ」として表6-1及び表6-2に示す。
【0081】
(4.画像評価)
[4-1]帯電能力の評価
導電性部材A1の放電の抜けを抑制する機能の確認のため、以下の評価を実施した。
まず、電子写真装置として、電子写真方式のレーザープリンタ(商品名:LaserJET Enterprise M553dn、HP社製)を用意した。次に、導電性部材A1、電子写真装置、プロセスカートリッジを、測定環境にならす目的で、23℃50%RHの環境に48時間放置した。
なお、高速プロセスにおける評価とするために、当該レーザープリンタを、単位時間当たりの出力枚数が、オリジナルの出力枚数よりも多い、A4サイズの用紙で、75枚/分となるように改造した。その際、記録メディアの出力スピードは370mm/秒、画像解像度は1,200dpiとした。さらに、当該レーザープリンタ内の前露光装置を撤去した。
更に、プロセスカートリッジを改造して、表面電位プローブ(本体:Model347トレック社製 プローブ:Model3800S-2)を、帯電プロセス後のドラム表面電位を測定できるように設置した。
上記環境下に放置した導電性部材A1をプロセスカートリッジの帯電ローラとしてセットし、レーザープリンタに組み込んだ。
上記と同様の環境下で、外部電源(Trek615 トレックジャパン社製)によって、導電性部材A1に電圧を-1000V印加してべた白画像およびべた黒画像を出力した際の感光ドラムの表面電位を測定した。そして、べた黒画像を出力した際と、べた白画像を出力した際の帯電プロセス後の感光ドラムの表面電位の差を、導電性部材A1の帯電能として算出した。評価結果を「白黒電位差」として表6-1及び表6-2に示す。
【0082】
[4-2]ゴースト画像評価
導電性部材A1の高速プロセスにおける、帯電前の感光ドラムの表面電位のムラに対して、均一な放電を形成できる効果を以下の方法により確認した。
評価画像の形成には、上記の「帯電能力の評価」において用いたレーザープリンタを使用した。なお、上記の「帯電能力の評価」と同様に、導電性部材A1、レーザープリンタ、プロセスカートリッジを、測定環境にならす目的で、23℃50%RHの環境に48時間放置し、同じ環境下で評価画像の形成を行った。
評価画像は、画像上部に「E」文字、画像中央部から下部はハーフトーン画像を有するものとした。
具体的には、画像の上端10cmは、サイズが4ポイントのアルファベットの「E」の文字が、A4サイズの紙の面積に対し被覆率が4%となるように印字されるような画像とした。これにより、転写プロセス後、すなわち帯電プロセス前の感光ドラムの表面電位が、最初の「E」の文字に相当する表面電位に沿ったムラを、感光ドラム1周程度の領域で、形成できる。
図15に当該評価画像の説明図を示した。
さらに、10cmより下部は、ハーフトーン(感光ドラムの回転方向と垂直方向に幅1ドット、間隔2ドットの横線を描く画像)画像を出力した。このハーフトーン画像上に、感光ドラム1周前の「E」の文字が現れるか次第で、本開示に係る導電性部材の機能性を判断することができる。判断基準は下記であり、結果を表6-1及び表6-2に示す。
【0083】
[ハーフトーン画像上の「E」文字の評価]
ランクA:顕微鏡で観察してもハーフトーン画像上に「E」の文字に由来する画像ムラが全く見えない。
ランクB:目視ではハーフトーン画像上の一部に「E」のに由来する画像むらはないが、顕微鏡で観察すると、「E」の文字に由来する画像ムラが観察される。
ランクC:目視でハーフトーン画像上の一部に「E」の文字の画像が見られる。
ランクD:目視でハーフトーン画像上の全面に「E」の文字の画像が見られる。もしくは他の画像弊害によって評価が不可能である。
【0084】
<実施例2~実施例31>
原料ゴム、電子導電剤、加硫剤、加硫促進剤、研磨条件に関して表5A-1~表5A-4に示す材料、及び条件を用いる以外は、実施例1と同様にして導電性部材A2~A31を製造した。
なお、表5A-1~表5A-4中に示した材料の詳細については、ゴム材料は表5B-1、電子導電剤は5B-2、加硫剤および加硫促進剤は5B-3に示す。
また研磨条件については、研磨条件1は実施例1にて記載したとおりであり、研磨条件2及び3は以下に示すとおりである。
(研磨条件2)
精密磨き工程における侵入スピードを0.5mm/秒とした以外は、研磨条件1と同じである。
(研磨条件3)
精密磨き工程における侵入スピードを0.2mm/秒とした以外は、研磨条件1と同じである。得られた結果を表6-1及び表6-2に示す。
【0085】
また、実施例29においては、炭素繊維強化ポリエーテルエーテルケトン(商品名:rPEEK CF30 帝人株式会社製)を用いて、実施例1における支持体と同じ形状を成型可能な、丸棒用の型で、金型温度380℃で成型した。得られた導電性樹脂からなる丸棒(全長252mm、外径6mm)を支持体として用いた。
実施例30では、実施例29と同様にして導電性樹脂からなる丸棒を成型した。その丸棒の外周面の長手方向の両端部11mmずつを除く中央部を含む230mmの範囲に、全周にわたって、以下の接着剤をロールコータにより塗布した。
・接着剤
接着剤(商品名:メタロックN-33 東洋化学研究所社製)、をメチルイソブチルケトンで25質量%に希釈した。
接着剤を塗布後、180℃30分加熱して接着剤を焼き付けた。実施例30では、こうして得られたプライマー層付き丸棒を支持体として用いた。
実施例31では、フェノール樹脂(商品名: PR-50716 住友ベークライト社製)35質量部、ヘキサメチレンテトラミン(商品名:ウロトロピン 住友精化社製)5質量部を90℃の加熱ロールにより3分間溶融混練した後取り出し、粉砕し、顆粒状に粉砕した。得られた成形材料を、金型温度 175℃を使用して射出成型して丸棒を成型した。得られた絶縁性の樹脂からなる丸棒の外表面の全面に白金蒸着を施して支持体として用いた。
実施例2~31で得られた各帯電部材に対して、実施例1と同様の項目について測定及び評価を行った。
【0086】
【表5】
DBPは、DBP吸収量を表し、単位は(cm
3/100g)である。
表中のムーニー粘度に関し、原料ゴムの値は各社のカタログ値であり、未加硫ドメインゴム組成物の値は、JIS K6300-1:2013に基づくムーニー粘度ML(1+4)であり、未加硫ドメインゴム組成物を構成する材料すべてを混練している時のゴム温度で測定されたものである。SP値の単位は、(J/cm
3)
0.5である。表5A-3も同様である。
【0087】
【表6】
DBPは、DBP吸収量を表し、単位は(cm
3/100g)である。
表中のムーニー粘度に関し、原料ゴムの値は各社のカタログ値であり、未加硫マトリックスゴム組成物の値は、JIS K6300-1:2013に基づくムーニー粘度ML(1+4)であり、未加硫マトリックスゴム組成物を構成する材料すべてを混練している時のゴム温度で測定されたものである。SP値の単位は、(J/cm
3)
0.5である。表5A-4も同様である。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
<実施例32>
導電性の支持体の直径を、5mmに変更し、導電性部材の研磨後の外径を10.0mmとした以外は、実施例1と同様にして、導電性部材B1を製造した。
導電性部材B1を、転写部材として下記の評価を実施した。
電子写真装置として、電子写真方式のレーザープリンタ(商品名:Laserjet M608dn、HP社製)を用意した。
まず、導電性部材B1とレーザープリンタを測定環境にならす目的で、23℃50%の環境に48時間放置した。
次に、そして、転写部材として、導電性部材B1をレーザープリンタに組み込んだ。
高速プロセスにおける評価とするために、当該レーザープリンタを、単位時間当たりの出力枚数が、オリジナルの出力枚数よりも多い、A4サイズの用紙で、75枚/分となるように改造した。その際、記録メディアの出力スピードは370mm/秒、画像解像度は1,200dpiとした。また、23℃、相対湿度50%の環境に48時間放置した。
上記電子写真装置において、記録メディアであるA4サイズの用紙の現像剤が転写される面とは反対の裏面の表面電位を測定できる改造を施した。表面電位計および表面電位測定用プローブは、帯電ローラの実施例で使用したものと同様のものを使用した。
現像剤がある箇所と現像剤がないA4サイズの用紙の現像剤が転写される面とは反対の裏面の表面電位の差を評価した結果、5Vであった。
【0096】
(比較例)
<比較例1>
表8-1及び表8-2に示した材料及び条件を用いる以外は実施例1と同様にして快削鋼の表面に無電解ニッケルメッキ処理を施した全長252mm、外径6mmの丸棒に、押出、研磨を経て導電性樹脂層を形成するための導電性基層C1-Aを製造した。次いで、以下の方法に従って、さらに導電性基層C1―A上に導電性樹脂層を設け、導電性部材C1を製造し、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表9に示す。
まず、カプロラクトン変性アクリルポリオール溶液に溶媒としてメチルイソブチルケトンを加え、固形分が10質量%となるように調整した。このアクリルポリオール溶液1000質量部(固形分100質量部)に対して、下記の表7に示す材料を用いて混合溶液を調製した。このとき、ブロックHDIとブロックIPDIとの混合物は、官能基モル比「NCO/OH=1.0」であった。
【0097】
【0098】
次いで、450mLのガラス瓶に上記混合溶液210gと、メディアとして平均粒径0.8mmのガラスビーズ200gとを混合し、ペイントシェーカー分散機を用いて24時間前分散を行い、導電性樹脂層形成用の塗料を得た。
前記導電性基層C1―Aを、その長手方向を鉛直方向にして、前記導電性樹脂層形成用の塗料中に浸漬してディッピング法で塗工した。ディッピング塗布の浸漬時間は9秒間、引き上げ速度は、初期速度が20mm/sec、最終速度が2mm/sec、その間は時間に対して直線的に速度を変化させた。得られた塗工物を常温で30分間風乾し、次いで90℃に設定した熱風循環乾燥機中において1時間乾燥し、更に160℃に設定した熱風循環乾燥機中において1時間乾燥して導電性部材C1を得た。評価結果を表9に示す。
本比較例においては、導電層は、イオン導電の弾性層の外周面上に、電子導電の導電性樹脂層を設けた2層構造の弾性層のみの構成であり、導電性部材として単一の導電パスを持つ構成となっている。したがって、高周波数領域においてインピーダンスの傾きが-1になり、ゴースト画像はランクDとなった。
【0099】
<比較例2>
表8-1及び表8-2に示した材料及び条件を用いる以外は実施例1と同様に導電性部材C2を製造し、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表9に示す。
本比較例においては、導電層が、電子導電の弾性層のみの構成のため、導電性部材として単一の導電パスを持つ構成となっている。したがって、高周波数領域においてインピーダンスの傾きが-1になり、ゴースト画像はランクDとなった。
【0100】
<比較例3>
表8-1及び表8-2に示した材料及び条件を用いる以外は実施例1と同様に導電性部材C3を製造し、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表9に示す。
本比較例においては、ドメインとマトリックスを有するが、マトリックスがイオン導電の基層のために、結局、導電性部材として単一の導電パスを持つ構成となっている。したがって、高周波数領域においてインピーダンスの傾きが-1になり、ゴースト画像はランクDとなった。
【0101】
<比較例4>
表8-1及び表8-2に示した材料及び条件を用いる以外は実施例1と同様に導電性部材C4を製造し、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表9に示す。
本比較例においては、マトリックスの体積抵抗率が低く、導電性部材として単一の導電パスを持つ構成となっている。したがって、高周波数領域においてインピーダンスの傾きが-1になり、ゴースト画像はランクDとなった。
【0102】
<比較例5>
表8-1及び表8-2に示した材料及び条件を用いる以外は実施例1と同様に導電性部材C5を製造し、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表9に示す。
本比較例においては、マトリック-スドメイン構造ではあるが、マトリックスの体積抵抗率が低く、電荷の移動がドメインに限定できず、マトリックスに漏洩している状態となり、放電の出やすさが低減している。したがって、低周波数領域におけるインピーダンスが増大し、ゴースト画像はランクDとなった。
【0103】
<比較例6>
表8-1及び表8-2に示した材料及び条件を用いる以外は実施例1と同様に導電性部材C6を製造し、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表9に示す。
本比較例においては、マトリックス-ドメイン構造ではあるが、ドメインの体積抵抗率が高く、マトリックスの抵抗が低い、導電性部材として単一の連通した導電パスを持つ構成となっている。したがって、高周波数領域においてインピーダンスの傾きが-1になり、ゴースト画像はランクDとなった。
【0104】
<比較例7>
表8-1及び表8-2に示した材料及び条件を用いる以外は実施例1と同様に導電性部材C7を製造し、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表9に示す。
本比較例においては、マトリック-スドメイン構造ではなく、導電相と絶縁相が共連続構造である。すなわち、導電性部材として単一の導電パスを持つ構成となっている。したがって、高周波数領域においてインピーダンスの傾きが-1になり、ゴースト画像はランクDとなった。
【0105】
<比較例8>
[1-1.未加硫ゴム組成物の調製]
表8-3に示す配合量の各材料を実施例1の[1-1.ドメイン形成用未加硫ゴム組成物の調製]と同様にして未加硫ゴム組成物を調製した。
【0106】
【0107】
[1-2.ドメイン形成用未加硫ゴム組成物の調製]
表8-4に示す配合量の各材料を、実施例1の[1-4.導電層形成用ゴム組成物の調製]と同様の条件で混練し、ドメイン形成用未加硫ゴム組成物を調整した。
【0108】
【0109】
[1-3.ドメイン形成用加硫ゴム粒子の調製]
得られたドメイン形成用未加硫ゴム組成物を厚み2mmの金型に入れ、熱プレスにて、圧力10MPa、温度160℃で30分間加硫した。型からゴムシートを取り出し室温まで冷却し、厚さ2mmのドメイン成形用ゴム組成物の加硫ゴムシートを得た。
得られたドメイン成形用ゴム組成物の加硫ゴムシートを液体窒素中に48時間浸漬し、完全に凍結させた後に、ハンマーで砕き粗粉を形成した。その後、衝突式超音速ジェット粉砕機(商品名:CPY+USF-TYPE、日本ニューマチック工業株式会社製)を用いて、凍結粉砕および分級処理を同時に行い、ドメイン形成用加硫ゴム粒子を得た。
【0110】
[1-4.マトリックス形成用未加硫ゴム組成物の調製]
表8-5に示す配合量の各材料を実施例1の[1-2.マトリックス形成用未加硫ゴム組成物(MRC)の調製]と同様にしてマトリックス形成用未加硫ゴム組成物を調製した。
【0111】
【0112】
[1-5.未加硫ゴム組成物の調製]
表8-6に示す配合量の各材料を実施例1の[1-3.未加硫ゴム組成物の調製]
と同様にして未加硫ゴム組成物を調製した。
【0113】
【0114】
[1-6.導電層形成用ゴム組成物の調製]
表8-7に示す配合量の各材料を実施例1の[1-4.導電層形成用ゴム組成物の調製]と同様にして導電層形成用ゴム組成物を調製した。
【0115】
【0116】
上記の導電層形成用ゴム組成物の原料を用いた以外は、実施例1と同様にして導電性部材C8を製造し、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表9に示す。
本比較例においては、凍結粉砕によって形成した、サイズが大きく、異方性のある導電ゴム粒子を分散しているために、導電部材内での導電パスが不均一に形成されるため、ドメインの厚みが大きい状態と同義になる。その結果、インピーダンスの高周波数における傾きが-1になり、ゴースト画像はランクDとなった。
<比較例9>
[未加硫ヒドリンゴム組成物の調製]
表8-8に示す配合量の各材料を実施例1の[1-1.ドメイン形成用未加硫ゴム組成物の調製]と同様の条件で混練して未加硫ヒドリンゴム組成物を調製した。
【0117】
【0118】
そして、表8-9に示す配合量の各材料を、実施例1の導電層成形用ゴム組成物の調製と同様の条件で混練し、導電層形成用ヒドリンゴム組成物を調製した。
【0119】
【0120】
次に、実施例1で調製した導電層形成用未加硫ゴム組成物及び軸芯体を用意した。
上記で調製した導電層形成用ヒドリンゴム組成物の層、及び導電層形成用未加硫ゴム組成物の層を、導電性の軸芯体の周囲に形成するために、
図17に示すような二層押出装置を用いて、二層押出を行った。
図17は、二層押出工程の模式図である。押出機172は、2層クロスヘッド173を備える。2層クロスヘッド173により、2種類の未加硫ゴムを用いて、第1の導電層の上に第2導電層を積層させた導電性部材176を作製することができる。2層クロスヘッド173には、矢印方向に回転している芯金送りローラ174によって送られた導電性の軸芯体171を後ろから挿入する。導電性の軸芯体171と同時に円筒状の2種類の未加硫ゴム層を一体的に押出すことにより周囲を2種類の未加硫ゴム層で被覆された未加硫ゴムローラ175が得られる。
本比較例においては、
2層クロスヘッドを用いた押出し成形は、温度を100度、押出後の押出物の外径が10.0mmになるよう調整した。次に導電性の軸芯体を、導電層形成用ヒドリンゴム組成物及び導電層形成用未加硫ゴム組成物と共に押し出すことで、芯金の周囲に、導電層形成用ヒドリンゴム組成物の層、及び導電層形成用未加硫ゴム組成物の層がこの順に積層された未加硫ゴムローラを得た。
その後、得られた未加硫ゴムローラを温度160℃の熱風加硫炉中に投入し、1時間加熱して、導電層形成用ヒドリンゴム組成物の層、及び導電層形成用未加硫ゴム組成物の層を硬化させ、軸芯体の導電性表面上に、硬化したヒドリンゴムを含む層(第1の導電層)と、マトリックスドメイン構造を有する層(第2の導電層)とがこの順に形成されてなる積層導電層が形成されたゴムローラを得た。
その後、該導電層の両端部を各10mm切除して、導電層の長手方向の長さを232mmとした。
最後に、導電層の外表面を回転砥石で研磨し、中央部から両端部側へ各90mmの位置における各直径が8.4mm、中央部直径が8.5mmのクラウン形状である導電性ローラC9を得た。
導電性ローラC9を、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表9に示す。導電性ローラC9は、中抵抗のイオン導電性の第1の導電層上に、マトリックス-ドメイン構造を有する第2の導電層を有する。したがって、高周波数領域においては、インピーダンスの傾きが第1の導電層の特性に支配され、インピーダンスの高周波数における傾きが-1であり、ゴースト画像の評価ランクは、「ランクD」であった。なお、表9中、本比較例に係る導電性基体のインピーダンスの値(2.50E+06)は、温度23℃、相対湿度50%の環境下、第1の導電層の軸芯体に面する側とは反対側の表面上に直接設けた白金電極と、軸芯体の導電性の外表面との間に、振幅が1Vの交流電圧を、周波数1.0×10
-2Hz~1.0×10
7Hzの間で変化させながら印加することによってインピーダンスを測定したときの、周波数が1.0×10
-2Hz~1.0×10
1Hzにおけるインピーダンスの値である。
【0121】
【0122】
【0123】
【符号の説明】
【0124】
61 導電性部材の外表面
62 導電性支持体
63 導電層
7 導電層
7a マトリックス
7b ドメイン
7c 導電性粒子