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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】無線アンテナ、無線通信システム
(51)【国際特許分類】
   H01Q 13/24 20060101AFI20240325BHJP
   H04B 5/28 20240101ALI20240325BHJP
【FI】
H01Q13/24
H04B5/28
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020071507
(22)【出願日】2020-04-13
(65)【公開番号】P2021168456
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】392026693
【氏名又は名称】株式会社NTTドコモ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】福田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 浩司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恭宜
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-178402(JP,A)
【文献】特開平09-008745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/24
H04B 5/00- 5/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯または準ミリ波帯の信号を送受信可能な無線アンテナであって、
誘電体で形成されたケーブル状の導波路と、
前記導波路の一端に接続されており、前記導波路に電力を供給する給電装置と、
前記導波路で放射されなかった電力を測定する電力測定装置と
を含み、
前記導波路の誘電率は、前記導波路の周囲の誘電率よりも大きく、
前記給電装置は、前記電力測定装置の測定電力に応じて、前記導波路に供給する前記電力を増減させる
無線アンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載の無線アンテナにおいて、
前記導波路の一部は、電磁波が放射されるように湾曲された状態で保持されることによって、電磁波を放射する放射部として機能し、当該湾曲された状態が解消されることによって、当該湾曲された状態が解消された前記導波路の部位が、当該放射部としての機能を失うとともに導波路として機能する
ことを特徴とする無線アンテナ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の無線アンテナにおいて、
誘電体で形成された1個以上の塊体をさらに含み、
前記塊体の誘電率は、前記導波路の誘電率以上であり、
前記塊体は、前記導波路上に位置しており、
前記塊体は、前記導波路から取り外すことができる
ことを特徴とする無線アンテナ。
【請求項4】
無線アンテナと通信端末とを含む無線通信システムであって、
前記無線アンテナは、誘電体で形成されたケーブル状の導波路と、当該導波路の一端に接続されており当該導波路に電力を供給する給電装置と、当該導波路で放射されなかった電力を測定する電力測定装置とを含み、
前記導波路の誘電率は、前記導波路の周囲の誘電率よりも大きく、
前記給電装置は、前記電力測定装置の測定電力に応じて、前記導波路に供給する前記電力を増減させ、
前記通信端末は、前記通信端末のアンテナで、前記無線アンテナから放射された電磁波を受信し、
前記無線アンテナは、前記通信端末のアンテナからの電磁波を受信する
ことを特徴とする無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線アンテナとこの無線アンテナを用いた無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話など電磁波を用いた移動体無線通信サービスが広く普及している。このような無線通信サービスを利用して、動画配信などの高い通信速度と大きな通信容量を必要とするサービスがユーザに提供されている。このため、データトラフィック量の飛躍的な増加に対応するため無線通信サービスの高速化と大容量化が進められている。無線通信では、一般的に、使用する周波数帯域幅が広いほど通信速度が速くなり通信容量が大きくなる。したがって、無線通信サービスを提供する事業者は、周波数帯域幅ができるだけ広いチャネルを確保することを望んでいる。しかし、無線通信に用いられる周波数の使用には制限が設けられており、一般的に、移動通信で用いられている周波数帯付近では広帯域のチャネルの確保が困難である。
【0003】
そこで、広い帯域幅のチャネルを得るため、ミリ波(30GHz~300GHz)や準ミリ波(明確な定義はないがおよそ20GHz~30GHz)と呼ばれる高周波領域の移動体通信への適用が検討されている(非特許文献1参照)。
【0004】
このような高周波領域において簡易かつ低コストでサービスエリアを形成することのできる無線アンテナとして、誘電体導波路を用いる構成が知られている(特許文献1参照)。誘電体導波路は、例えば、誘電体導波路自体を曲げることによって、曲げた部位から電磁波を放射できるので、無線アンテナとして利用できる。このような無線アンテナによると、曲げ方に応じて放射量を自由に変更でき、さらに、曲げられた部位つまり放射部の数を自由に変更できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「ドコモ5Gホワイトペーパー 2020年以降の5G無線アクセスにおける要求条件と技術コンセプト」、株式会社NTTドコモ、2014年9月
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-178402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
誘電体導波路を用いる無線アンテナでは、放射量と放射部の数の一方または両方を自由に変更できるため、総放射電力は使用条件によって異なる。したがって、使用条件に拠らず各放射部から所望の電力の電磁波を放射するためには、使用条件に応じて誘電体導波路に供給される電力を制御する機構が必要となる。
【0008】
そこで、本発明は、誘電体導波路に供給する電力を制御することのできる無線アンテナ技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここで述べる技術事項は、特許請求の範囲に記載された発明を明示的にまたは黙示的に限定するためではなく、さらに、本発明によって利益を受ける者(例えば出願人と権利者である)以外の者によるそのような限定を容認する可能性の表明でもなく、単に、本発明の要点を容易に理解するために記載される。他の観点からの本発明の概要は、例えば、この特許出願の出願時の特許請求の範囲から理解できる。
本発明の無線アンテナによると、誘電体導波路で放射されなかった電力の測定結果が、誘電体導波路に電力を供給する給電装置にフィードバックされる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、誘電体導波路からの電力に応じて誘電体導波路に供給される電力が制御される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】無線通信システムと無線アンテナの第1実施形態。
図2】誘電体導波路からの電力の変化を説明する図。
図3】無線通信システムと無線アンテナの第2実施形態。
図4】誘電体導波路の第1例の断面図。
図5】誘電体導波路の第2例。
図6】誘電体導波路の第2例の断面図。(a)第1の構成例。(b)第2の構成例。(c)第3の構成例。(d)第4の構成例。(e)第5の構成例。(f)第6の構成例。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
図面を参照して本発明の第1実施形態を説明する。図1に示す第1実施形態の無線通信システム1は、第1実施形態の無線アンテナ100と、通信端末200を含む。無線アンテナ100は、誘電体で形成された細長いケーブル状の導波路110と、給電装置800と、電力測定装置900を含む。導波路110は、電磁波の放射と吸収の機能を持ち、電磁波の放射量と放射部110cの数の一方または両方を自由に変更できる。導波路110の詳細は後述する。なお、図1および後述する図3に示される導波路110は、後述する導波路の第1例である。導波路110の一端は、導波路110に電力を供給する給電装置800に接続されている。給電装置800によって、ミリ波(30GHz~300GHz)あるいは準ミリ波(明確な定義はないがおよそ20GHz~30GHz)の周波数を持つ信号が当該電力(以下、「送信電力」とも云う)で導波路110に供給される。この信号の種類に限定はなく、アナログ信号でも、デジタル信号でも、離散時間信号でも、連続時間信号でもよい。導波路110の他端は、導波路110からの信号の電力を測定する電力測定装置900に接続されている。
【0013】
送信電力をP[W]とし、導波路100上のN個の放射部110cのうちn番目の放射部110cから放射される電力をP[W]とするとき(ただし、Nは0以上の整数である)、電力測定装置900に届く電力の電力測定値P[W]は、式(1)で表される。簡単のため、式(1)では導波路110の損失を無視している。
【数1】
【0014】
電力測定装置900に届く電力は電力測定装置900の内部の終端器905によって熱に変換される。例えば、放射部110cが無い場合、つまりN=0の場合、P=Pであるので、送信電力Pの全てが電力測定装置900の終端器905によって熱に変換される。したがって、通信システム電力利用効率の観点から、電力測定装置900に届く電力は小さいことが望ましい。送信電力Pの熱への変換を最小化するため、電力測定値Pに関する閾値Pを設定する。電力測定値Pが閾値Pよりも大きい場合には、電力測定値Pが閾値Pと一致するまで送信電力Pを小さくし、電力測定値Pが閾値Pよりも小さい場合には、電力測定値Pが閾値Pと一致するまで送信電力Pを大きくする。ここで、一致とは、図2に示すように、例えば許容誤差範囲をΔpとした場合、P-Δp≦P≦P+Δpであることを意味する。
【0015】
例えば、電力測定装置900の測定部901が測定した電力測定値PについてP>Pが成立する状態において、電力測定装置900の送信部903は、電力測定値Pの値または電力測定値Pに関する情報を給電装置800に送信する。給電装置800の受信部801は、電力測定装置900からの電力測定値Pの値または電力測定値Pに関する情報を受信する。給電装置800の制御部803は、受信した電力測定値Pの値または電力測定値Pに関する情報に従って、送信電力Pの制御を行う。つまり、給電装置800の制御部803は、電力測定値PがP-Δp≦P≦P+Δpを満たすまで、送信電力Pを小さくする(図2参照)。閾値Pに関する情報および許容誤差範囲Δpに関する情報は、例えば、給電装置800の図示しないメモリに保存されている。
【0016】
次に、P-Δp≦P≦P+Δpの状態から放射部110cが追加された状態に変更されると、追加された放射部110cから電磁波が放射されるので、P<Pとなる(ただし、通常、放射部110cから放射される電磁波の電力PはP≫Δpを満たす)。この場合も、電力測定装置900の送信部903は、電力測定装置900の測定部901が測定した電力測定値Pの値または電力測定値Pに関する情報を給電装置800に送信する。給電装置800の受信部801は、電力測定装置900からの電力測定値Pの値または電力測定値Pに関する情報を受信する。給電装置800の制御部803は、受信した電力測定値Pの値または電力測定値Pに関する情報に従って、送信電力Pの制御を行う。つまり、給電装置800の制御部803は、電力測定値PがP-Δp≦P≦P+Δpを満たすまで、送信電力Pを大きくする(図2参照)。
【0017】
給電装置800の制御部803が実行する電力制御方法は、例えば、給電装置800に含まれる増幅器(図示せず)のバイアス電圧またはバイアス電流を制御する方法、または、増幅器の出力側に設けられた可変減衰器(図示せず)の減衰量を制御する方法であるが、電力制御方法はこれらに限定されるものではなく、公知の方法が採用されえる。
【0018】
上述のとおり、P-Δp≦P≦P+Δpを満たすように送信電力Pを制御することによって、放射部110cの数によらず、各放射部110cから放射部110cの特性(例えば、後述する曲げ角度、塊体の誘電率である)に応じた電力Pで電磁波を放射できる送信電力Pを導波路110に給電できる。
【0019】
給電装置800の制御部803による電力の増減は、一定間隔で変化する段階的増減でもよいし、無段階の連続的な増減でもよい。
【0020】
電力測定装置900の送信部901が送信する電力測定値を表す信号の形式は、導波路110で伝送できる形式であればよく、当該信号形式に特段の限定は無い。例えば、当該信号形式として、導波路110が伝送できる高周波数帯の信号が考えられる。この場合、この信号の周波数は、電波として放射することを目的に給電装置800から給電される信号の周波数と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0021】
または、電力測定装置900の送信部901は、P≦P-Δpの場合に第1のパルス信号を給電装置800に送信し、P+Δp≦Pの場合に第2のパルス信号を給電装置800に送信してもよい。この場合、給電装置800の制御部803は、受信部801が第1のパルス信号を受信している間、送信電力Pを増加させ、あるいは受信部801が第2のパルス信号を受信している間、送信電力Pを減少させ、受信部801がパルス信号を受信しなくなった時点で、送信電力Pを固定する制御を行うことができる。
【0022】
あるいは、例えばTDD(Time Division Duplex)通信方式の場合には、電力測定装置900の送信部901は、上り信号と下り信号がともに無い時間、例えばガードインターバルで電力測定値Pの値または電力測定値Pに関する情報の送信を行ってもよい。
【0023】
<第2実施形態>
図3に示す第2実施形態の無線通信システム2は、第2実施形態の無線アンテナ100aと、通信端末200を含む。無線アンテナ100aは、導波路110と、電力測定装置を内部に含む給電装置800aと、全反射終端器950を含む。導波路110の一端は、導波路110に電力を供給する給電装置800aに接続されている。導波路110の他端は、導波路110からの信号を全反射する全反射終端器950に接続されている。
【0024】
給電装置800aの測定部805(つまり、電力測定装置)は、全反射終端器950で反射した、導波路110からの信号の電力を測定する。給電装置800の制御部803は、測定部805によって得られた電力測定値Pに基づいて、導波路110に給電する電力を制御する。制御方法は第1実施形態における制御方法と同じである。なお、給電装置800の測定部805が測定する電力は、導波路110を一往復した信号の電力である、つまり、電力測定値Pdが式(2)で与えられることを考慮して、閾値Psが設定される。
【数2】
【0025】
<導波路の第1例>
導波路110の第1例は、例えば、上記特許文献1に開示される導波路である。導波路110は、例えば、導波路110の長手方向の任意の位置における当該長手方向に垂直な断面図である図4に示すように、導波路110の長手方向に延びる、誘電体で形成された芯部110aと、芯部110aの外周に誘電体で形成された被覆部110bとで構成されている。芯部110aの断面形状は円であり、被覆部110bの断面形状は肉厚一定の中空円である。芯部110aの直径と被覆部110bの内円の直径は等しい。このように、第1例の導波路110は、一様な構造、つまり、任意の位置での断面形状と大きさが一定であり、芯部110aと被覆部110bのそれぞれの材質が任意の位置で一定である構造を持っている。なお、図4では導波路110の断面形状は同心円状であるが、このような構造に限定されず、例えば、同心矩形状であってもよい。
【0026】
芯部110aの誘電率は、被覆部110bの誘電率よりも大きい。このため、導波路110の一端に入力された信号の電磁界は、放射部110cが存在しない場合、誘電率の大きい芯部110aに集中して、導波路110の他端に向かって低損失に伝搬する。
【0027】
導波路110の一部は、湾曲された状態で保持されることによって、電磁波(帯域としては電波である)を放射する放射部110cとして機能することができる。つまり、放射部110cが存在する場合(言い換えれば、導波路110の一部が放射部110cとして機能している場合)、導波路110に供給された信号は、この放射部110cで電磁波として放射される。なお、「放射」とは、放射部110cに到達した信号の電力のうち電磁波の放射によって失われる電力が、当該放射部110cが放射部として機能しない場合、つまり、導波路として機能する場合に実際には発生する伝送損失を超えることをいう。放射部110cで電磁波の放射によって失われる電力は、通常、放射部110cに到達した信号の電力の一部であり、放射部110cは導波路としての機能を喪失していないので、残余の電力を持った信号は放射部110cを通過する。放射部110cを通過した信号は、放射部110cとして機能しない部分、つまり、導波路として機能する部分の導波路110を伝搬し、隣の放射部110cに向かって、隣の放射部110cが無ければ導波路110の他端に向かって、低損失に伝搬する。放射部110cで放射された電磁波は、携帯電話などの通信端末200が持つ無線アンテナ(図示せず)によって受信される。
【0028】
放射部110cとして機能できる導波路110の部分は、導波路110において一箇所だけしか存在しなくてもよいし二箇所以上存在してもよい。さらには、放射部110cとして機能できる導波路110の部分は、導波路110の両端を除く導波路110の任意の部位であることが好ましい。導波路110は、単一の製品としての構成を持っていてもよいし、例えば同一の構造を持つ複数の導波路(以下、サブ導波路と呼称する)が一列に接続された構成を持っていてもよい。後者の場合、サブ導波路とサブ導波路との接続として、光ファイバーを参考に、融着による接続またはコネクタを用いる接続を採用できる。また、当該後者の場合、サブ導波路とサブ導波路との接続部位は、通常、放射部110cとして機能できる部位にならない。
【0029】
放射部110cで電磁波の放射によって失われる電力は、導波路110の径、芯部110aと被覆部110bのそれぞれの材質、湾曲の程度などに依存する。湾曲の程度を表す指標は、例えば、曲率、曲率半径、曲げ角度、曲率と曲げ角度との組み合わせ、曲率半径と曲げ角度との組み合わせ、である。例示した指標を用いる場合には、例えば、導波路110の長手方向に延びる芯部110aの中心線(つまり、導波路110の任意の断面での芯部110aの円の中心を結んだ線)を曲線と看做せばよい。
【0030】
上述のように導波路110の構造が一様である場合、放射部110cで電磁波の放射によって失われる電力は、主に、放射部110cの湾曲の程度に依存する。したがって、導波路110の一部を放射部110cとして機能させるためには、電磁波が放射されるように導波路110の一部を湾曲された状態で保持する必要がある。湾曲された状態での放射部110cの形状(平面図)に特に限定は無く、例えばU状、Ω状である。好ましくは、湾曲された状態は、放射部110cに進入する信号の進入方向と当該放射部110cを通過する信号の脱出方向とが90度以上異なる状態である。なお、「進入方向」は、放射部110cで電磁波の放射が始まる部位の直前の位置での信号の進行方向であり、「脱出方向」は、放射部110cで電磁波の放射が終わる部位の直前の位置での信号の進行方向である。このため、導波路110は、湾曲の程度に依るが、柔軟性、あるいは可撓性、あるいは弾性という性質を持つことが望ましく、この性質と上述の誘電率の特徴を満たし、さらに好ましくは低誘電損失も満たす材料が芯部110aと被覆部110bのそれぞれの誘電体として選定される。
【0031】
<導波路の第2例>
導波路110の第2例は、誘電体で形成された1個以上の塊体110dを含む構成を持つ。導波路110は、直線状に伸びていてもよいし、図5に示すように少し蛇行するように、換言すれば、導波路110の低損失伝搬に悪影響を及ぼさない程度の曲げを持つように伸びていてもよい。各塊体110dは、導波路110と同じ誘電体でもよいし、導波路110と異なる誘電体でもよい。各塊体110dは、導波路110上に位置する。このため、塊体110dは、導波路110から突起のように突出している。
【0032】
導波路110は、導波路110の長手方向の任意の位置(ただし、塊体110dが存在する部位を除く)における当該長手方向に垂直な断面図である図6(a)に示すように、形状と大きさが共に一定の断面を持つ。図示される例では、導波路110の断面形状は長方形である。したがって、導波路110は、導波路110の長手方向と直交する方向において互いに対向する二つの長辺側面111と、導波路110の長手方向と直交する方向において互いに対向する二つの短辺側面113を持つ。長辺側面111は、幅(つまり、導波路110の長手方向と直交する方向の長さ)が断面の長方形の長辺の長さに等しい側面であり、短辺側面111は、幅が断面の長方形の短辺の長さに等しい側面である。このように、導波路110は、塊体110dが存在する部位を除いて一様な構造、つまり、任意の位置(ただし、塊体110dが存在する部位を除く)での断面の形状と大きさが共に一定であり、材質が任意の位置(ただし、塊体110dが存在する部位を除く)で一定である構造を持っている。なお、図6(a)では、導波路110の断面形状は長方形であるが、このような構造に限定されず、例えば、正方形あるいは円であってもよい。
【0033】
導波路110の誘電率は、導波路110の周囲の誘電率よりも大きい。図6(a)に示す例では、導波路110の周囲は空気であり、空気の誘電率はおよそ1であるので、導波路110の誘電率は1よりも大きい。このため、導波路110の一端に入力された給電装置800からの信号の電磁界は、塊体110dが存在しない場合、誘電率の大きい導波路110に集中して、導波路110の他端に向かって低損失に伝わり、導波路110の他端に至る。
【0034】
各塊体110dの形状は、一切の限定が無く、例えば、多角柱、円柱、球あるいはそれらのうちのいずれかの一部分である。塊体110dの総数が2以上である場合、これら塊体110dの一部が共通して持つ形状が、これら塊体110dの他の一部あるいは全部が共通して持つ形状と同じでもよいし異なっていてもよい。あるいは、これら塊体110dのうちの互いに異なる任意の2個の塊体110dが、互いに異なる形状を持っていてもよい。さらに、塊体110dの数が2以上である場合、これら塊体110dの一部が共通して持つ大きさが、これら塊体110dの他の一部あるいは全部が共通して持つ大きさと同じでもよいし異なっていてもよい。あるいは、これら塊体110dのうちの互いに異なる任意の2個の塊体110dが、互いに異なる大きさを持っていてもよい。
【0035】
導波路110上での塊体110dの位置は、好ましくは、導波路110の両端を除く位置であり、さらに好ましくは、不整合が発生しにくく、且つ、伝搬モードの変換が発生しにくい位置である。塊体110dの総数が2以上である場合、これら塊体110dのうちの互いに異なる任意の2個の塊体110dの導波路110の一端からその長手方向に沿って計測した距離が互いに異なってもよいし、例えば、互いに異なる或る2個以上の塊体110dの導波路110の一端からその長手方向に沿って計測した距離が互いに等しくてもよい。後者の場合、これら2個以上の塊体110dは、導波路110の周上の異なる位置に位置する。さらに、この後者の場合、導波路110を伝わる電磁波の伝搬モードを考慮すると、好ましくは、2個の塊体110dが導波路110の周上の互いに180度離れた位置に位置する。導波路110の長手方向に垂直な断面図である図6(b)は、互いに対向する2個の長辺側面111のそれぞれに1個の三角柱体である塊体110dが存在しており、塊体110dの幅つまり三角柱体の高さが断面の長方形の長辺の長さと等しい例を示している。導波路110の長手方向に垂直な断面図である図6(c)は、導波路110の円周上の互いに180度離れた位置に2個の略球体状の塊体110dが存在する例を示している。塊体110dが三角柱体である場合の導波路110の長手方向に沿った断面図を図6(e)に示し、塊体110dが半円柱体である場合の導波路110の長手方向に沿った断面図を図6(f)に示す。
【0036】
各塊体110dは、導波路110と一体に形成された物でもよいし、導波路110と別に形成された物でもよい。後者の場合、各塊体110dは、導波路110に取り付けられるが、その後、導波路110から取り外せなくてもよいし、導波路110から取り外せてもよい。各塊体110dが導波路110から取り外せる場合であっても、ひとたび各塊体110dが導波路110に取り付けられたならば、各塊体110dが導波路110上で動かないことが望まれる。各塊体110dは導波路110に密着した状態にある。このため、塊体110dを導波路110に取り付ける場合、塊体110dは、塊体110dが取り付けられる導波路110の部位の局所的表面形状と同じ表面形状を持つ密着面を持ち、例えば、導波路110が細長い直方体であれば塊体110dの密着面は少なくとも1個の平面で構成され(図6(b)参照)、導波路110が細長い円柱であれば塊体110dの密着面は円柱面の一部である(図6(c)参照)。塊体110dを導波路110に密着させる際に接着材または粘着剤を用いる場合、接着材または粘着剤の誘電率は導波路110の誘電率と同じ程度か、または、塊体110dの誘電率と同じ程度であることが望ましい。
【0037】
図6(a)~(c)に示す例に限定されず、一つ以上の塊体110dを持つ導波路110の外周に、誘電体で形成された被覆部110bを配置してもよい(導波路110の長手方向に垂直な断面図である図6(d)参照)。被覆部110bは、導波路110および導波路110上の塊体110dに密着している。導波路110の誘電率は、被覆部110bの誘電率よりも大きい。このため、導波路110の一端に入力された給電装置800からの信号の電磁界は、塊体110dが存在しない場合、誘電率の大きい導波路110に集中して、導波路110の他端に向かって低損失に伝わり、導波路110の他端に至る。
【0038】
各塊体110dは、電磁波(帯域としては電波である)を放射する放射部として機能することができる。塊体110dにおいて電磁波の放射によって失われる電力は、主に、塊体110dの形状、大きさ、数およびその誘電率に依存する。より強い電力の電磁波を放射する観点から、例えば、塊体110dの誘電率は導波路110の誘電率と同じまたは大きいことが好ましい。さらに好ましくは、損失の観点から、使用する電磁波の周波数帯において誘電正接が小さい材料が導波路110と塊体110dのそれぞれの誘電体として選定される。一般に、誘電率が高くなると誘電正接が大きくなるので、放射量と損失量を考慮して、導波路110と塊体110dのそれぞれの誘電体が持つべき誘電率が決定される。このように、塊体110dが存在する場合、給電装置800からの信号は、この塊体110dで電磁波として放射される。なお、「放射」とは、塊体110dに到達した信号の電力のうち電磁波の放射によって失われる電力が、当該塊体110dが存在しない場合に実際には発生する伝送損失を超えることをいう。塊体110dで電磁波の放射によって失われる電力は、通常、塊体110dに到達した信号の電力の一部であり、残余の電力を持った信号は導波路110において塊体110dが位置する部位を通過する。塊体110dを通過した信号は、導波路110を伝わり、隣の塊体110dに向かって、隣の塊体110dが無ければ導波路110の他端に向かって、低損失に伝搬する。塊体110dで放射された電磁波は、携帯電話などの通信端末200が持つ無線アンテナ(図示せず)によって受信される。
【0039】
導波路110は、単一の製品としての構成を持っていてもよいし、例えば同一の構造を持つ複数の導波路(以下、サブ導波路と呼称する)が一列に接続された構成を持っていてもよい。後者の場合、サブ導波路とサブ導波路との接続として、光ファイバーを参考に、融着による接続またはコネクタを用いる接続を採用できる。
【0040】
実施形態の無線アンテナ100では、塊体110dの密着状態の保持が恒久的な方法でなされなければ、導波路110の一部を電磁波の放射部として機能させる塊体110dの密着状態はいつでも解消可能である。つまり、導波路110の一部を電磁波の放射部として機能させる必要のある期間では塊体110dの密着状態は保持され続けるが、当該必要が無くなった場合、放射部として機能する部位の塊体110dの密着状態が解消される。密着状態が解消された部位は、電磁波の放射部としての機能を失うとともに導波路として機能する。このため、サービスエリアの変更に応じて電磁波の放射部の位置、つまり塊体110dを導波路110に取り付ける位置を容易に変更することができる。
【0041】
各実施形態の無線アンテナ100は、送信アンテナとしてだけではなく、受信アンテナとしても使用できる。この場合、例えば、導波路110の一端には、給電装置800に替えて、受信機能を持つ給電装置つまり送受信装置が接続される。通信端末200から発せられた電磁波は放射部110cで吸収され、導波路110によって送受信装置に伝達される。
【0042】
導波路110の第2例においても、導波路110の第1例の如く曲げによって放射部を形成できる。
【0043】
<補遺>
明細書と特許請求の範囲では、「接続された」という用語とこのあらゆる語形変形は、2又はそれ以上の要素間の直接的又は間接的な接続を意味し、互いに「接続」された2つの要素の間に1つ以上の中間要素が存在することを含むことができる。
【0044】
明細書と特許請求の範囲では、用語「含む」とその語形変化は非排他的表現として使用されている。例えば、「XはAとBを含む」という文は、XがAとB以外の構成要素(例えばC≠A且つC≠BであるC)を含むことを否定しない。また、明細書と特許請求の範囲において或る文が用語「含む」またはその語形変化が否定辞と結合した語句を含む場合、当該文は用語「含む」またはその語形変化の目的語について言及するだけである。したがって、例えば「XはAとBを含まない」という文は、XがAとB以外の構成要素を含む可能性を認めている。さらに、明細書あるいは特許請求の範囲において使用されている用語「または」は排他的論理和ではないことが意図される。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更と変形が許される。選択され且つ説明された実施形態は、本発明の原理およびその実際的応用を解説するためのものである。本発明は様々な変更あるいは変形を伴って様々な実施形態として使用され、様々な変更あるいは変形は期待される用途に応じて決定される。そのような変更および変形のすべては、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲に含まれることが意図されており、公平、適法および公正に与えられる広さに従って解釈される場合、同じ保護が与えられることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6