(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】電子写真用ベルト及び電子写真画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/16 20060101AFI20240325BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
G03G15/16
G03G15/00 552
(21)【出願番号】P 2020107714
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019123618
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】小島 弘臣
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-230456(JP,A)
【文献】特開2014-132329(JP,A)
【文献】特開2017-111436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル樹脂と、
アニオンとしてスルホンイミド構造を有するイオン導電剤と、
1分子内に少なくとも2個のアミド基を有するアミド化合物と、
を含む熱溶融混練物を含む熱可塑性樹脂組成物を含む第1の層を有する電子写真用ベルトであって、
該アミド化合物は、分子量が1000以下である、ことを特徴とする電子写真用ベルト。
【請求項2】
前記イオン導電剤が、下記構造式(1)で示される構造を有するアニオンを含むイオン液体である請求項1に記載の電子写真用ベルト。
【化1】
(構造式(1)中、mおよびnは、各々独立して、1以上4以下の整数を表す。)
【請求項3】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリアルキレンテレフタレート、及びポリアルキレンナフタレートから選ばれる少なくとも1種を含む請求項1または2に記載の電子写真用ベルト。
【請求項4】
前記ポリアルキレンテレフタレートが、ポリエチレンテレフタレートである請求項3に記載の電子写真用ベルト。
【請求項5】
前記ポリアルキレンナフタレートが、ポリエチレンナフタレートである請求項3に記載の電子写真用ベルト。
【請求項6】
前記アミド化合物が、脂肪酸ビスアミドおよび芳香族ビスアミドから選ばれる少なくとも1種である請求項1~5のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項7】
前記脂肪酸ビスアミドが、エチレンビス脂肪酸アミドである請求項6に記載の電子写真用ベルト。
【請求項8】
前記アミド化合物の融点が70℃以上、200℃未満である請求項1~7のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項9】
前記イオン導電剤のアニオンの対となるカチオンが、アンモニウム系イオン、イミダゾリウム系イオン、ピリジニウム系イオン、ピペリジニウム系イオン、ピロリジニウム系イオン及びホスホニウム系イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオンである請求項1~8のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項10】
前記イオン導電剤の量が、熱可塑性樹脂組成物の総量に対して、0.5質量%以上、15質量%以下である請求項1~9のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項11】
前記アミド化合物の量が、前記イオン導電剤量に対して0.5質量%以上、50.0質量%以下である請求項1~10のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリエーテルエステルアミドを含む請求項1~11のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項13】
前記アミド化合物の量が、前記イオン導電剤および前記ポリエーテルエステルアミドの総量に対して、0.3質量%以上、15質量%以下である請求項12に記載の電子写真用ベルト。
【請求項14】
活性エネルギー線硬化性樹脂を含む組成物の硬化物を含む第2の層を更に有する請求項1~13のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項15】
前記電子写真用ベルトがエンドレスベルト形状を有する請求項1~14のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項16】
前記電子写真用ベルトがエンドレスベルト形状を有し、前記第1の層の外周面を被覆する第2の層を更に有し、該第2の層が、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む組成物の硬化物を含む請求項1~13のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の電子写真用ベルトを中間転写ベルトとして具備する電子写真画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真用ベルト、及び電子写真用ベルトを具備した電子写真画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高導電性かつ長期の使用によっても電気抵抗の変動が小さい導電性ベルトが提案されている。この導電性ベルトは、ポリエステル等の熱可塑性樹脂中に、フッ素化スルホンイミド構造またはヘキサフルオロホスファートをアニオンとして有するイオン液体を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によると、上記特許文献1に係る電子写真用ベルトは、電子写真画像形成装置内での繰り返し使用に伴って、当該電子写真用ベルトのトナー像担持面に部分的な剥離が生じる場合があった。そして、トナー像担持面に、このような剥離が生じた電子写真用ベルトを引き続いて電子写真画像の形成に供したところ、当該剥離部分に対応した位置に斑点状の白抜けが形成された電子写真画像が形成されることがあった。これは、電子写真用ベルトのトナー像担持面の剥離が生じた部分と剥離が生じていない部分とでトナーの付着力が異なるためであると考えられる。
【0005】
本開示の一態様は、長期の繰り返し使用によっても表面の剥離が生じにくい電子写真用ベルトの提供に向けたものである。また本開示の他の態様は、高品位な電子写真画像を安定して形成できる電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、熱可塑性ポリエステル樹脂と、アニオンとしてスルホンイミド構造を有するイオン導電剤と、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物と、を含む熱溶融混練物を含む熱可塑性樹脂組成物を含む第1の層を有し、該アミド化合物は、分子量が1000以下である、電子写真用ベルトが提供される。
【0007】
また、本開示の別の態様によれば、上記の電子写真用ベルトを中間転写ベルトとして具備している電子写真画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、長期の繰り返し使用によっても表面の剥離が生じにくい電子写真用ベルトを得ることができる。また、本開示の他の態様によれば、高品位な電子写真画像を安定して形成できる電子写真画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】電子写真プロセスを利用したフルカラー電子写真画像形成装置の一例を示す断面概略図である。
【
図2】実施例で使用した射出成形装置の概略断面図である。
【
図3】実施例で使用した1次ブロー成形装置の概略断面図である。
【
図4】実施例で使用した2次ブロー成形装置の概略断面図である。
【
図5】本開示に係る電子写真用ベルトの構成例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一態様に係る電子写真用ベルトは、熱可塑性ポリエステル樹脂と、アニオンとしてスルホンイミド構造を有するイオン導電剤と、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物と、の熱溶融混練物を含む熱可塑性樹脂組成物を含む第1の層を具備する。
【0011】
本発明者らは、日本特許公開2015-230456号公報に係る電子写真用ベルトのトナー像担持面(以降、「外表面」ともいう)に不規則な剥離が生じる理由を以下のように考えている。
すなわち、例えば熱可塑性樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂とイオン導電剤とは完全には相溶せず、微視的には、ポリエステル樹脂を含有する相(以降、「PE相」ともいう)とイオン導電剤を含有する相(以降、「IA相」ともいう)とが混在している。そのため、電子写真用ベルトの外表面がクリーニングブレードや紙等によって繰り返し摩擦されたときに、PE相とIA相との界面が剥離するためであると考えている。
【0012】
上記の考察を踏まえてさらなる検討を重ねた結果、例えば、単層構造の電子写真用ベルトの場合であれば、その外表面を構成する第1の層中に、熱可塑性ポリエステル樹脂と、アニオンとしてスルホンイミド構造を有するイオン導電剤と、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物と、の熱溶融混練物を含有させることで、電子写真用ベルトの外表面における剥離の発生を抑制し得ることを見出した。
また、基層である第1の層と、該基層上に設けられたトナー像担持面を構成する第2の層である表面層とを有する積層構造を有する電子写真用ベルトの場合であれば、第1の層中に熱可塑性ポリエステル樹脂と、アニオンとしてスルホンイミド構造を有するイオン導電剤と、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有し、かつ、分子量が1000以下であるアミド化合物と、を含む熱溶融混練物を含む熱可塑性樹脂組成物を含有させることで、第2の層が第1の層と共に部分的に剥離することが抑制でき、その結果として、電子写真用ベルトの外表面の剥離を抑制し得ることを見出した。
【0013】
上記第1の層を有する電子写真用ベルトが、繰り返しの使用によっても、その外表面に剥離の発生を防止できる理由は以下のように考えられる。すなわち、当該化合物の少なくとも一つのアミド基が、ポリエステル樹脂のエステル結合に水素結合などの相互作用により結合し、他の少なくとも一つのアミド基が、イオン導電剤のスルホンイミド基に水素結合やスルホンアミド化などの相互作用により結合する。その結果、PE相とIA相との界面における親和性が向上し、PE相とIA相との界面剥離が抑制される。
【0014】
また、熱可塑性樹脂組成物が、該熱溶融混練物に加えて、ポリエーテルエステルアミド(PEEA)をさらに含有していても、上記と同様なメカニズムで表面剥離を抑制することができることを確認した。PEEAは、分子内にエステル結合及びアミド基を含み、高分子イオン導電剤として機能する。
【0015】
<熱可塑性樹脂組成物>
熱可塑性樹脂組成物は、少なくとも熱可塑性ポリエステル樹脂と、アニオンとしてスルホンイミド構造を有するイオン導電剤と、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物と、を熱溶融混練して得ることができる。これらの成分とともに、PEEAを熱溶融混練してもよい。
【0016】
なお、熱溶融混練とは、熱可塑性樹脂組成物に含有させる樹脂を加熱して溶融状態で混練することを意味する。熱溶融混練に際して、熱可塑性樹脂組成物に含有させる樹脂のうち、最も高い融点を有する樹脂が良好に混練されるように、当該最も高い融点以上の温度で混練することができる。混練方法に特に制限はなく、一軸押出機、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、プラストグラフ、ニーダーなどを用いることができる。
【0017】
<熱可塑性ポリエステル樹脂>
熱可塑性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオールとの重縮合、オキシカルボン酸もしくはラクトンの重縮合、または、これらの成分を複数用いた重縮合などにより得ることができる。さらなる多官能性モノマーを併用してもよい。熱可塑性ポリエステル樹脂は、1種のエステル結合を含むホモポリエステルであっても、複数のエステル結合を含むコポリエステル(共重合体)であってもよい。
【0018】
熱可塑性ポリエステル樹脂としては、高い結晶性を有し、優れた耐熱性を示すポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンナフタレートからなる群より選択される少なくとも一種が好適な例として挙げることができる。また、ポリアルキレンテレフタレートとポリアルキレンイソフタレートとの共重合体を好適に用いることができる。
このときの共重合体の形態としては、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。
ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレートおよびポリアルキレンイソフタレートにおけるアルキレンの炭素数は、高い結晶性、耐熱性の観点から2以上16以下が好ましい。より具体的には、熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリエチレンテレフタレートとポリエチレンイソフタレートとの共重合体が好ましい。
【0019】
熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は、好ましくは1.4dl/g以下、より好ましくは0.3dl/g以上1.2dl/g以下である。固有粘度が1.4dl/g以下の熱可塑性ポリエステル樹脂は熱溶融混練時の流動性に優れる。固有粘度が0.3dl/g以上であることは、電子写真用ベルトの強度や耐久性をより容易に向上させ得る。
なお、熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は、熱可塑性ポリエステル樹脂の希釈溶媒としてo-クロロフェノールを用いて、熱可塑性ポリエステル樹脂のo-クロロフェノール溶液の濃度を0.5質量%、温度を25℃にして測定した値である。
【0020】
また、熱可塑性樹脂組成物における熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の全質量に対して好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量を熱可塑性樹脂組成物の全質量に対して50質量%以上とすることにより、当該熱可塑性樹脂組成物の機械的な強度を高めることが容易である。
【0021】
<スルホンイミド構造を有するイオン導電剤>
アニオンとしてスルホンイミド構造を有するイオン導電剤として、下記構造式(1)で示されるアニオンを有するイオン液体を用いることができる。イオン液体とは、イオンのみからなる液体であって、幅広い温度範囲で液体として存在する塩であり、特に、かかる塩を構成するイオン種に比較的大きな有機イオンを用いることにより、100℃以下の融点を有する塩を指す。
【0022】
【0023】
構造式(1)中、mおよびnは、各々独立して、1以上4以下の整数を表す。
【0024】
構造式(1)を満たすアニオンの具体例としては、例えばビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドイオン、ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドイオン、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドイオン、トリフルオロメタンスルホニルパーフルオロプロパンスルホニルイミドイオン、トリフルオロメタンスルホニルパーフルオロブタンスルホニルイミドイオン等が挙げられる。
【0025】
上記構造式(1)で表されるアニオンと対をなすカチオンとしては、特に制限はないが、アンモニウム系イオン、イミダゾリウム系イオン、ピリジニウム系イオン、ピペリジニウム系イオン、ピロリジニウム系イオン、ホスホニウム系イオンが挙げられる。これらの中でも、コスト等の観点から、アンモニウム系イオン、特には第4級アンモニウム系イオン、およびイミダゾリウム系イオンが好ましい。
【0026】
上記アンモニウム系イオンの具体例としては、例えばN,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウムイオン(TMPA)、N,N,N-トリブチル-N-メチルアンモニウムイオン、N,N,N-トリオクチル-N-メチルアンモニウムイオン、N-ブチル-N,N,N-トリメチルアンモニウムイオン、N-(tert-ブチル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムイオン、N-フェニル-N,N,N-トリメチルアンモニウムイオン、N-(2,4,6-トリメチルフェニル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムイオン、等が挙げられる。
【0027】
上記イミダゾリウム系イオンの具体例としては、例えば1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムイオン、1-(tert-ブチル)-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-フェニル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-(2,4,6-トリメチルフェニル)-3-メチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0028】
上記ピリジニウム系イオンの具体例としては、例えば1-エチルピリジニウムイオン、1-ブチルピリジニウムイオン、1-ヘキシルピリジニウムイオン、1-(tert-ブチル)ピリジニウムイオン、1-フェニルピリジニウムイオン、1-(2,4,6-トリメチルフェニル)ピリジニウムイオン等が挙げられる。
【0029】
上記ピペリジニウム系イオンの具体例としては、例えばN-メチル-N-エチルピペリジニウムイオン、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムイオン、N-(tert-ブチル)-N-メチルピペリジニウムイオン、N-フェニル-N-メチルピペリジニウムイオン、N-(2,4,6-トリメチルフェニル)-N-メチルピペリジニウムイオン等が挙げられる。
【0030】
上記ピロリジニウム系イオンの具体例としては、例えばN-メチル-N-プロピルピロリジニウムイオン、N-メチル-N-ブチルピロリジニウムイオン、N-(tert-ブチル)-N-メチルピロリジニウムイオン、N-フェニル-N-メチルピロリジニウムイオン、N-(2,4,6-トリメチルフェニル)-N-メチルピロリジニウムイオン等が挙げられる。
【0031】
上記ホスホニウム系イオンの具体例としては、例えばトリメチルプロピルホスホニウムイオン、トリブチルメチルホスホニウムイオン、トリエチルペンチルホスホニウムイオン、(tert-ブチル)-トリメチルホスホニウムイオン、フェニル-トリメチルホスホニウムイオン、(2,4,6-トリメチルフェニル)-トリメチルホスホニウムイオン等が挙げられる。
【0032】
上記アニオンおよびカチオンは、それぞれ1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。イオン導電剤は、これらの1種類以上のアニオンおよびカチオンを組み合わせて構成することができる。
【0033】
第1の層中のイオン導電剤の量は、電子写真用ベルトの電気抵抗の観点から、熱可塑性樹脂組成物の総量に対して、0.5質量%以上とすることが好ましい。また、15質量%より多くても、電気抵抗をより低下させることが難しいため、また成形性の観点から、当該イオン導電剤の含有量は15質量%以下とすることが好ましい。
【0034】
<1分子内に少なくとも2個のアミド基を有するアミド化合物>
1分子内に少なくとも2個のアミド基を有するアミド化合物(以降、単に「アミド化合物」ともいう)は、分子量が1000以下である。該アミド化合物の分子量は、特には、200以上、800以下であることが好ましい。
該アミド化合物の分子量が上記の範囲内にあることで、第1の層中における該ポリエステル樹脂及び該イオン導電剤の各々と相互作用し、PE相とIA相との界面の親和性向上に奏功するものと考えられる。
該アミド化合物は、熱溶融混練の加熱温度で溶融する化合物が好ましい。
その融点は好ましくは70℃以上、200℃未満であり、更に好ましくは100℃以上、170℃未満である。融点が上記の範囲内にあると熱溶融混練時に熱可塑性樹脂組成物中での分散性や分配性に優れ、熱可塑性ポリエステル樹脂とイオン導電剤の分子間に容易に配置され、また熱劣化による分解も起こりにくい、そのため、電子写真用ベルトの外表面の剥離の抑制効果をより一層高めることができる。
【0035】
該アミド化合物としては、脂肪酸ビスアミドが好ましい。脂肪酸ビスアミドは、分子内に脂肪酸基(好ましくは長鎖脂肪酸基)とアミド基を含み、熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性に優れ、熱及び化学的に比較的安定である。熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性、ならびに熱及び化学的な安定性の観点から、当該長鎖脂肪酸基の炭素数範囲は7~23が好ましい。少なくとも2個のアミド基を有する化合物として、芳香族ビスアミドを用いてもよい。芳香族ビスアミドとは、分子内に脂肪酸基とアミド基を含み、アミド基間が芳香族炭化水素で結合しているものである。
【0036】
脂肪酸ビスアミドとしては、例えば、エチレンビス脂肪酸アミド等のアルキレン脂肪酸ビスアミド類を用いることができる。その具体例として、メチレンビスステアリン酸アミド(Tm(融点):142℃)、エチレンビスカプリン酸アミド(Tm:161℃)、エチレンビスラウリン酸アミド(Tm:157℃)、エチレンビスステアリン酸アミド(Tm:145℃)、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド(Tm:145℃)、エチレンビスベヘン酸アミド(Tm:142℃)、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド(Tm:140℃)、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド(Tm:142℃)、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド(Tm:135℃)、N,N'-ジステアリルアジピン酸アミド(Tm:141℃)、N,N'-ジステアリルセバシン酸アミド(Tm:136℃)、エチレンビスオレイン酸アミド(Tm:115℃)、エチレンビスエルカ酸アミド(Tm:120℃)、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド(Tm:110℃)、N,N'-ジオレイルアジピン酸アミド(Tm:118℃)、N,N'-ジオレイルセバシン酸アミド(Tm:113℃)が挙げられる。
【0037】
該アミド化合物の含有量は、スルホンイミド構造を有する前記イオン導電剤の量に対して、好ましくは0.5質量%以上、50.0質量%以下である。より好ましくは0.8質量%以上、30.0質量%以下である。
【0038】
当該含有量が0.5質量%以上であると、熱可塑性ポリエステル樹脂およびイオン導電剤と相互作用を及ぼすアミド基の数が多く、剥離強度向上の観点から好ましい。また、50.0質量%以下であると、熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度の低下を抑制し、電子写真用ベルトの強度低下を抑制することが容易である。また、イオン導電剤の移動度の低下を抑制し、電子写真用ベルトの高抵抗化を抑制することが容易である。
【0039】
<ポリエーテルエステルアミド(PEEA)>
PEEAとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミドブロック単位と、ポリエーテルエステル単位とからなる共重合体を主たる成分とする化合物を挙げることができる。例えば、ラクタム(例えばカプロラクタム、ラウリルラクタム)またはアミノカルボン酸の塩と、ポリエチレングリコールと、ジカルボン酸とから誘導される共重合体などが挙げられる。前記ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン2酸、ドデカン2酸等が挙げられる。PEEAは溶融重合などの公知の重合方法で製造することができる。勿論、PEEAはこれらに限定されるものではない。また、PEEAは2種類以上のブレンドまたはアロイであってもよい。
本開示に係る、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有するアミド化合物とは、分子量1000以下の低分子化合物である。一方、PEEAは分子量がそれよりも大きな高分子化合物であり、本開示に係る、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有するアミド化合物には該当しない。
【0040】
上記PEEAが含有された熱可塑性樹脂組成物の場合、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物の含有量は、スルホンイミド構造を有する前記イオン導電剤量およびPEEAの総量に対して、0.3質量%以上、15.0質量%以下が好ましい。さらに好ましくは、0.6質量%以上、12.0質量%以下である。当該含有量が0.3質量%以上であると、熱可塑性ポリエステル樹脂、イオン導電剤およびPEEAと相互作用を及ぼすアミド基の数が多く、剥離強度向上の観点から好ましい。また、15.0質量%以下であると、熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度の低下を抑制し、電子写真用ベルトの強度低下を抑制することが容易である。また、イオン導電剤の移動度の低下を抑制し、電子写真用ベルトの高抵抗化を抑制することが容易である。
【0041】
<添加剤>
前記熱可塑性樹脂組成物には、本開示の効果を損なわない範囲でその他の成分を添加してもよい。その他の成分の例としては、導電性高分子化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、有機顔料、無機顔料、pH調整剤、架橋剤、相溶化剤、離型剤、架橋剤、カップリング剤、滑剤、絶縁性フィラー、導電性フィラーなどが含まれる。これらの添加剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組合せて用いてもよい。添加剤の使用量は適宜設定することができ、特に限定されない。
【0042】
<電子写真用ベルト>
図5(a)に本開示の一態様に係る、エンドレスベルト形状を有する電子写真用ベルト500の斜視図を示す。そしてその層構成の例としては、
図5(a)のA-A’線の断面が、
図5(b-1)に示すように、前記熱可塑性樹脂組成物を含む第1の層501のみの単層構造である場合が挙げられる。この場合、第1の層の外表面500-1が電子写真用ベルトのトナー担持面となる。
また、他の例としては、
図5(b-2)に示すように、第1の層501と、第1の層の外周面を被覆する第2の層502、及び第1の層の内周面を被覆する第3の層503の少なくとも一方とを有する積層構造を有するものが挙げられる。第2の層502が設けられている場合は、第2の層502の外表面500-1が電子写真用ベルトのトナー担持面となる。
第2の層の例としては、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物を含む、耐摩耗性に優れる層が挙げられる。このような第2の層は、例えば、第1の層の外周面上に、光硬化性の樹脂の如き活性エネルギー線硬化性樹脂を含む組成物を塗布し、硬化させることによって設けることができる。
第3の層の例としては、例えば、第1の層を補強するための樹脂層や、電子写真用ベルトの内周面を導電化するための導電層が挙げられる。
【0043】
エンドレスベルト形状を有する第1の層は、例えば、以下の方法によって作製することができる。
i)熱可塑性ポリエステル樹脂、アニオンとしてスルホンイミド構造を有するイオン導電剤および1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物の混合物を、円筒形状に溶融押し出しする方法
ii)前記熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形、ストレッチブロー成形、またはインフレーション成形の如き成形方法を用いてエンドレスベルト形状に成形する方法。
【0044】
中でも、上記i)の方法としては、例えば、押し出したチューブの内径を高精度で制御可能な下方押出方式の内部冷却マンドレル方式、およびバキュームサイジング方式などが挙げられる。
【0045】
上記ii)の内のストレッチブロー成形による電子写真用ベルトの製造方法は、以下の工程を含む。すなわち、前記熱可塑性樹脂組成物のプリフォームを成形する工程。前記プリフォームを加熱する工程。加熱後の前記プリフォームをエンドレスベルト成形用の金型に装着し、その後、該金型内に気体を流入し延伸ブロー成形を行う工程。その延伸ブロー成形により得られる延伸成形物を切断してエンドレス形状のベルトを得る工程。
【0046】
第1の層の厚みは、40μm以上、500μm以下が好ましく、特には、50μm以上、100μm以下が好ましい。
熱可塑性樹脂組成物層は、電子写真用ベルトの表面を構成する層であってよい。また電子写真用ベルトの表面の外観改良やトナー等の離型性向上のために、熱可塑性樹脂組成物層の表面に処理剤を塗布してもよく、または、研磨処理等の表面処理を施してもよい。また、熱可塑性樹脂組成物層の表面にスパッタなどによって最外層を設けてもよい。
【0047】
電子写真用ベルトの用途は、特に制限されるものではないが、例えば、トナー像を一時的に転写保持する中間転写ベルト、転写材としての記録材を搬送する搬送転写ベルトなどに好適に用いられる。特に中間転写ベルトとして好適に使用することができる。また、電子写真用ベルトを中間転写ベルトとして用いる場合には、電子写真用ベルトの表面固有抵抗率が1×103Ω/□以上、1×1012Ω/□以下であることが好ましい。表面固有抵抗率が1×103Ω/□以上であれば、抵抗が低くなることを防ぎ、転写電界を容易に得ることができ、画像の抜けやガサツキが生じることを効果的に防止することができる。表面固有抵抗率が1×1012Ω/□以下であれば、転写電圧が高くなることをより有効に抑制することができ、電源の大型化やコストの増大を効果的に抑えることができる。
【0048】
<電子写真画像形成装置>
以下に、本開示の一態様に係る電子写真用ベルトを中間転写ベルトとして用いた電子写真画像形成装置の例について説明する。この電子写真画像形成装置は、
図1に示したように、複数色の電子写真ステーションを中間転写ベルトの回転方向に並べて配置した、所謂タンデム型の構成を有する。なお、以下の説明では、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色に関する構成の符号に、それぞれ、Y、M、C、kの添え字を付しているが、同様の構成については添え字を省略する場合もある。
【0049】
図1において、感光ドラム(感光体、像担持体)1Y、1M、1C、1kの周囲には、帯電装置2Y、2M、2C、2k、露光装置3Y、3M、3C、3k現像装置4Y、4M、4C、4k、中間転写ベルト(中間転写体)6が配置されている。感光ドラム1は、矢印Fの方向に所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動される。帯電装置2は、感光ドラム1の周面を所定の極性、電位に帯電する(1次帯電)。露光装置3としてのレーザビームスキャナーは、不図示のイメージスキャナー、コンピュータ等の外部機器から入力される画像情報に対応してオン/オフ変調したレーザ光を出力して、感光ドラム1上の帯電処理面を走査露光する。この走査露光により感光ドラム1面上に目的の画像情報に応じた静電潜像が形成される。
【0050】
現像装置4Y、4M、4C、4kは、それぞれイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(k)の各色成分のトナーを内包している。そして、画像情報に基づいて使用する現像装置4を選択し感光ドラム1面上に現像剤(トナー)が現像され、静電潜像がトナー像として可視化される。本実施形態では、このように静電潜像の露光部にトナーを付着させて現像する反転現像方式が用いられる。また、このような帯電装置、露光装置、現像装置により電子写真画像形成手段を構成している。
【0051】
また、エンドレスベルト形状を有する中間転写ベルト6は、感光ドラム1の表面に当接されるよう配設され、複数の張架ローラ20、21、22に張架されている。そして、矢印Gの方向へ回動するようになっている。本実施形態では、張架ローラ20は中間転写ベルト6の張力を一定に制御するようにしたテンションローラ、張架ローラ22は中間転写ベルト6の駆動ローラ、張架ローラ21は2次転写用の対向ローラである。また、中間転写ベルト6を挟んで感光ドラム1と対向する1次転写位置には、それぞれ、1次転写ローラ5Y、5M、5C、5kが配置されている。
【0052】
感光ドラム1にそれぞれ形成された各色未定着トナー像は、1次転写ローラ5に定電圧源または定電流源によりトナーの帯電極性と逆極性の1次転写バイアスを印加することにより、中間転写ベルト6上に順次静電的に1次転写される。そして、中間転写ベルト6上に4色の未定着トナー像が重ね合わされたフルカラー画像を得る。中間転写ベルト6は、このように感光ドラム1から転写されたトナー像を担持しつつ回転する。1次転写後の感光ドラム1の1回転毎に感光ドラム1表面は、クリーニング装置11で転写残トナーがクリーニングされ、繰り返し作像工程に入る。
【0053】
また、記録材7の搬送経路に面した中間転写ベルト6の2次転写位置には、中間転写ベルト6のトナー像担持面側に2次転写ローラ(転写部)9を圧接配置している。また、2次転写位置の中間転写ベルト6の裏面側には、2次転写ローラ9の対向電極をなし、バイアスが印加される対向ローラ21が配設されている。中間転写ベルト6上のトナー像を記録材7に転写する際、対向ローラ21にはトナーと同極性のバイアスが転写バイアス印加手段28により印加され、例えば-1000~-3000Vが印加されて-10~-50μAの電流が流れる。このときの転写電圧は転写電圧検知手段29により検知される。更に、2次転写位置の下流側には、2次転写後の中間転写ベルト6上に残留したトナーを除去するクリーニング装置(ベルトクリーナ)12が設けられている。
【0054】
記録材7は搬送ガイド8を通過して矢印Hの方向に搬送され、2次転写位置に導入される。2次転写位置に導入された記録材7は、2次転写位置で挾持搬送され、その時に、2次転写ローラ9の対向ローラ21に2次転写バイアス印加手段28から所定の値に制御された定電圧バイアス(転写バイアス)が印加される。対向ローラ21にトナーと同極性の転写バイアスを印加することで転写部位において中間転写ベルト6上に重ね合わされた4色のフルカラー画像(トナー像)を記録材7へ一括転写し、記録材上にフルカラーの未定着トナー像を形成する。トナー画像の転写を受けた記録材7は不図示の定着器へ導入され加熱定着される。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例および比較例を示し、本開示を具体的に説明するが、本開示は、実施例に具現化された構成のみに限定されるものではない。
実施例および比較例に係る電子写真用ベルトの製造に用いる材料(熱可塑性ポリエステル樹脂、イオン導電剤、アミド化合物、ポリエーテルエステルアミド)として下記表1~表4に記載の材料を用意した。なお、表3に示すアミド化合物1~5は、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物に該当する。一方、アミド化合物6はこの化合物に該当しない。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
(特性値の測定法、評価法)
以下に実施例および比較例に係る電子写真用ベルトの評価方法(1)~(4)について説明する。また、以下の評価において画像形成に供した記録材としては、温度23℃、相対湿度45%の環境に1日放置した、Ra(算術平均粗さ)が4μm、Rzjis(十点平均粗さ)が15μmであるA4サイズの紙を用いた。
【0061】
(1)表面固有抵抗値
電子写真用ベルトの表面固有抵抗率の測定は、JIS-K6911に準拠する方法で測定した。測定装置としては、高抵抗計(商品名:ハイレスタUP MCP-HT450型;三菱化学アナリテック社製)の主電極の内径が50mm、ガード・リング電極の内径が53.2mm、外径が57.2mmのプローブ(商品名:UR-100;三菱化学アナリテック社製)を用いた。
【0062】
作製した電子写真用ベルトを、温度23℃、相対湿度50%に制御された環境試験室内に12時間放置した。その後、温度23℃、相対湿度50%環境下にて、測定する電子写真用ベルトに電圧250Vを10秒間印加し、この電子写真用ベルトの周方向の4箇所の表面固有抵抗率を測定した。得られた表面固有抵抗率の平均値(ρs)の10を底とした対数をlogρsとし、電気抵抗の指標とした。表7の「表面固有抵抗値」の欄に示した値は、このlogρsの値である。
【0063】
(2)初期の表面剥離数
付着性試験機(商品名:マルチクロスカッター295;エリクセン社製))を使用し、作製した電子写真用ベルト表面の10mm×10mmの正方形領域に、縦方向及び横方向に各々1mm幅で深さが約10μmの切り込みを入れた。次いで、切り込みを入れた上記正方形領域に、ポリエステル製の粘着テープ(商品名:No.31B。日東電工社製)を指で強く圧着して貼り付け、約1分間放置した。粘着テープの長さは130mm、幅は22mmであった。
【0064】
その後、軽荷重タイプ粘着・被膜剥離解析装置(商品名:VPA-3。協和界面科学社製)に、粘着テープの端を45°の角度に保って固定し、粘着テープを150mm/秒の速度で引き剥がした。そして、上記正方形の領域内の100個の正方形の切り込みのうち、粘着テープに付着した正方形の切り込みの数を計測した。
【0065】
(3)耐久試験後の表面剥離数
作製した電子写真用ベルトをフルカラー電子写真画像形成装置(商品名:LBP-5200、キヤノン社製)のドラムカートリッジに中間転写ベルトとして装着した。この電子写真画像形成装置を用いて、20000枚の記録材にシアントナーおよびマゼンタトナーを重ね合わせて紫のベタ画像を出力した。その後、電子写真画像形成装置から電子写真用ベルトを取り出し、表面にエアーを吹き付けてトナーを除去した後、上記(2)と同じ試験を行った。
【0066】
(4)耐久試験後の白抜け画像数
上述の「(3)耐久試験後の表面剥離数」の試験で画像出力した20000枚目の記録材に形成された画像について、目視で白抜け画像数を計測した。
【0067】
[実施例1~15]
表5に記載の配合にて材料を事前にプリブレンドした後、二軸押出し機(商品名:TEX44α、日本製鋼所社製)を用いて、熱溶融混練してペレット状の熱可塑性樹脂組成物を調製した。熱溶融混練温度は270℃以上、300℃以下の範囲内となるように調整し、熱溶融混練時間はおよそ3分とした。
【0068】
得られたペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、温度140℃で6時間乾燥させた。次いで、
図2に示した構成を有する射出成形装置(商品名:SE180D、住友重機械工業社製)のホッパー48に、乾燥させたペレット状の熱可塑性樹脂組成物を投入した。
【0069】
そして、シリンダ設定温度を290℃にし、スクリュー42および42A内で溶融させ、ノズル41Aを通して、金型(不図示)内に射出成形してプリフォーム104(
図3参照)を作成した。このときの射出成形金型温度は30℃とした。
【0070】
次に、
図3に示す1次ブロー成形装置の、温度500℃の加熱装置107内にプリフォーム104を入れて軟化させ、プリフォーム104を500℃で加熱した。そして、金型温度を室温に保ったブロー金型108内で延伸棒109とエアーの力(ブローエアー注入部分110)でプリフォーム温度160℃、エアー圧力0.3MPa、延伸棒速度1000mm/sでブロー成形してブローボトル112を得た。
【0071】
次いで、
図4に示した2次ブロー成形装置の、電鋳で作製されたニッケル製円筒金型201の中に、得られたブローボトル205をセットし、外型203を装着した。エアー圧力0.1MPaをブローボトル205内に印加し、外部にエアーが漏出しないよう調整することでブローボトル205を金型内面に転写させ、ニッケル製円筒金型201を回転させながら加熱ヒータ202にて190℃で合計60秒間均一に加熱した。
【0072】
その後、このニッケル製円筒金型にエアーを吹き当てて常温まで冷却し、ブローボトル内に印加された圧力を解除し、アニールにより寸法が改善されたブローボトルを得た。このブローボトルの両端をカットし、第1の層のみからなる単層構造の電子写真用ベルトを得た。得られた電子写真用ベルトの厚みは70μmであった。これらの電子写真用ベルトについて上記(1)~(4)の評価を行った結果を表5-1~5-2に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
[実施例16~20]
以下のようにして第1の層と、該第1の層の外周面を第2の層で被覆した積層構造を有する電子写真用ベルトを作製した。
すなわち、まず、表6に記載の配合としたこと以外は、実施例1と同様にして第1の層のみからなる電子写真用ベルトを作製した。次いで、該電子写真用ベルトの外周面上に、活性エネルギー線硬化性樹脂であるアクリル樹脂の硬化物を含む表面層を以下のようにして設けた。
【0076】
下記の材料を混合した。
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(商品名:ライトアクリレートDPE-6A、共栄社化学社製)100質量部。
・カーボンブラック(ケッチェンブラック)(商品名:MHIブラック#273、御国色素社製)15質量部。
・光重合開始剤(商品名:イルガキュア(登録商標)184、BASFジャパン社製)5質量部。
【0077】
そして、この混合物を、樹脂固形分濃度が6質量%になるようにメチルエチルケトンで希釈し、スターラーで撹拌して、表面層形成用の塗料を得た。この塗料を、上記で作製した電子写真用ベルトの外周面にスプレー法で塗布し、塗膜を形成した。塗膜を、温度60℃で1分間乾燥させて溶媒を除去した後、該塗膜に、紫外線照射装置(商品名:UE06/81-3、アイグラフィックス社製)を使用して、積算光量が1000mJ/cm2になるまで紫外線を照射し紫外線を照射して硬化させた。こうして、第1の層の外周面が、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物を含む第2の層で被覆された、積層構造を有する電子写真用ベルトを得た。第2の層の厚みは、2μmであった。得られた電子写真用ベルトについて、上記(1)~(4)の評価を行った結果を表6に示す。
【0078】
【0079】
表5-1、表5-2および表6に示した通り、実施例1~20ではいずれも、電子写真用ベルトの表面剥離性評価において、軽微な表面剥離しか認められず、耐久試験後にベタ画像を出力した画像品質も全て非常に良好であった。
【0080】
[比較例1~11]
材料種および配合量を下記表7に記載した通りとしたこと以外、実施例1と同様にして電子写真用ベルトを作製した。これらの評価結果を表7に示す。
【0081】
【0082】
比較例1、4においては、第1の層には、いかなるアミド化合物も含まれていなかった。
その他の比較例2~3、5~10においては、第1の層には、アミド基が1個のステアリン酸モノアミドが含まれていた。
さらに、比較例11においては、第1の層には、アミド基を2個以上有するものの分子量が1000よりもはるかに大きいナイロンが含まれている。
いずれの比較例においても、初期および耐久試験後の表面剥離性評価において、多くの表面剥離が確認され、ベタ画像を20000枚出力後の画像評価の結果、白抜け画像が多く見られた。
この結果より、熱可塑性ポリエステル樹脂と、アニオンとしてスルホンイミド構造を有するイオン導電剤とを含む第1の層において、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有し、かつ、分子量が1000以下のアミド化合物を含むことが、電子写真用ベルトの外表面の剥離の抑制に必須であることが理解できる。
【符号の説明】
【0083】
6 中間転写ベルト
9 2次転写ローラ