(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】飲料注出装置
(51)【国際特許分類】
B67D 1/12 20060101AFI20240325BHJP
【FI】
B67D1/12
(21)【出願番号】P 2020140885
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【氏名又は名称】太田 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】中谷 正樹
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 貴史
(72)【発明者】
【氏名】万木 彬生
(72)【発明者】
【氏名】山口 陽平
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-359313(JP,A)
【文献】特開昭50-044088(JP,A)
【文献】特開2018-111512(JP,A)
【文献】特開2019-189250(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0248149(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B67D 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料が充填された容器から当該飲料を注出するための飲料注出装置であって、
前記容器から前記飲料を注出する飲料注出部と、
前記飲料の流路となる中空筒状の飲料流路部と
を備え、
前記飲料流路部は、前記容器の口部に取り付けられる第1開口端と、前記飲料の注出口となる第2開口端とを有し、
前記飲料注出部は、前記飲料流路部を押し潰しながら前記飲料流路部の前記第1開口端側に位置する第1部から前記第2開口端側に位置する第2部まで移動可能な押圧部を有し、
前記飲料流路部の流路断面積C(mm
2)と前記飲料注出部により前記容器から前記飲料を注出する注出速度V(mL/min)とは下記式(1)で示される関係を有することを特徴とする飲料注出装置。
37000<C×V<155000 ・・・(1)
【請求項2】
前記飲料流路部の内径は、前記第1開口端から前記第2開口端まで同一径であることを特徴とする請求項1に記載の飲料注出装置。
【請求項3】
前記飲料流路部は、前記第1開口端から前記第2開口端まで繋ぎ目のない管状部材により構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の飲料注出装置。
【請求項4】
前記飲料流路部の内径は、8mm以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の飲料注出装置。
【請求項5】
前記飲料流路部のうちの前記第2開口端から前記第1開口端に向かう方向の所定の長さの部分が、
鉛直面に対して20°以上の角度で傾斜していることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の飲料注出装置。
【請求項6】
少なくとも前記容器を収納可能な容器収納部をさらに備え、
前記容器収納部は、前記容器の軸線が水平面と実質的に平行になるように前記容器を収納することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の飲料注出装置。
【請求項7】
前記第1開口端は、取付治具により前記容器の口部を密封するようにして前記口部に取り付けられることを特徴とする請求項1~6に記載の飲料注出装置。
【請求項8】
前記容器がプラスチック容器であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の飲料注出装置。
【請求項9】
前記飲料が、穀類分解物含有発泡性飲料であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の飲料注出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料注出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大型の容器に充填された飲料をグラスやジョッキ等に注出するために、飲料注出装置が用いられている。飲料注出装置において、飲料注出時に泡立ちや飲料の飛び跳ね等の不快な状況が生じるのを避けるために、一定の穏やかな注出が求められる。飲料を注出する際に、泡もめと呼ばれる過剰な泡立ちが生じると、気抜けや吹きこぼれなどの品質上の問題を生じる。特に、炭酸飲料を注出する際に泡もめが生じると、気抜けや吹きこぼれなどが顕著に生じてしまう。野菜飲料(例えば、トマトジュース、にんじんジュース等)や果実飲料(例えば、リンゴジュース、オレンジジュース、果汁入り飲料等)等の栄養成分を多く含む飲料の注出時に泡もめが生じた場合も同様に、吹きこぼれなどが顕著に生じてしまう。また、飲料を注出する際に飲料が飛び跳ねてしまうと、外観や衛生上の問題を生じる。さらに、一つの飲料注出装置を用いて複数種類の飲料を注出する場合や、上記栄養成分を多く含む飲料を注出する場合、注出流路内における微生物の汚染やフレーバーの混入等がないように容易に洗浄できるとともに、高い衛生性を確保できる飲料注出装置が求められている。
【0003】
飲料注出装置の具体的な例としては、ビールや発泡酒、ノンアルコールビール等の穀類分解物含有発泡性飲料を注出するためにビールサーバーやビールディスペンサー等と称される飲料注出装置が知られ、業務用及び家庭用として広く用いられている。これは、飲料注出装置からジョッキやグラス等に注出された穀類分解物含有発泡性飲料の上部にきめ細やかで滑らかな泡を形成することが、当該穀類分解物含有発泡性飲料の旨味を引き立たせる上で重要となるためである。飲料注出装置を用いてジョッキやグラス等に注出することによって形成されたきめ細やかで滑らかな泡が穀類分解物含有発泡性飲料の蓋となることで、穀類分解物含有発泡性飲料から炭酸ガスや香りが抜けてしまうのを抑制することができる。このように、飲料注出装置から注出される穀類分解物含有発泡性飲料の上部にきめ細やかで滑らかな泡を形成することは、穀類分解物含有発泡性飲料の旨味、コク、香味等を引き立たせる上で不可欠である。
【0004】
従来、飲料注出装置の注出方式として、重力を利用して注出する方式以外では、炭酸ガス等の気体を用いて容器内を加圧する方式(特許文献1参照)や、手動ポンプやピストンポンプを用いる方式(特許文献2,3参照)等が知られている。その他、飲料注出に使用可能なポンプとして、例えば、回転翼によるベーン式ポンプ等も挙げられる。また、穀類分解物含有発泡性飲料用の飲料注出装置においては、穀類分解物含有発泡性飲料を注出する際にきめ細やかで滑らかな理想的な泡を形成させることを目的として、泡付け機構が設けられることがある。従来の泡付け機構としては、飲料注出装置に備えられるオリフィスまたはダイヤフラム(特許文献4参照)や飲料の流路に設けられる撹拌羽(特許文献5参照)、注出バルブの流路を流れる飲料に超音波を印加する超音波振動子(特許文献6参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-079992号公報
【文献】特許第6660463号公報
【文献】特開平04-006081号公報
【文献】特許第6656001号
【文献】特開2019-218065号公報
【文献】特開2018-058632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、飲料注出装置における穀類分解物含有発泡性飲料の容器として、PET(ポリエチレンテレフタレート)容器等のプラスチック容器を使用する事例が増加している。プラスチック容器が、軽量であり、ワンウエイ使用できる等、高い利便性、経済性、環境調和性等を有することに由来している。このようなプラスチック容器を使用する飲料注出装置は、当該プラスチック容器の口部に取付可能な取付治具等を備え、当該注出器具等をプラスチック容器の口部に取り付けることで、当該プラスチック容器に充填された穀類分解物含有発泡性飲料が注出可能となる。このような飲料注出装置としては、熟練していない操作者でも容易に操作でき、泡もめせずに穏やかな注出が可能であるとともに、高い衛生性を確保できるものであることが望ましい。
【0007】
飲料注出装置において、重力を利用する方式では、飲料の注出に伴って水頭圧が低下することで、注出速度が低下してしまうという問題がある。また、気体を用いて容器内を加圧する方式(特許文献1参照)では、一般にガスボンベやガスカートリッジを用いるため、操作に一定の煩雑さ及び危険性を伴うという問題がある。また、気体を用いて容器内を加圧する方式としてエアポンプを使用した場合、当該エアポンプにより取り込んだ外気によって、内容液が酸化劣化したり、微生物に汚染されたりするおそれがある。手動ポンプやピストンポンプを用いる方式(特許文献2,3参照)では、注出操作が煩雑となったり、熟練していない操作者にとっては、特に炭酸飲料の場合、泡もめせずに、穏やかに注出することが困難であったりするという問題がある。さらに、ベーン式ポンプやピストンポンプを用いる方式では、上述した手動ポンプについて述べた問題に加えて、飲料の送液経路の洗浄が困難であるため、家庭や店舗等における衛生管理が煩雑であるという問題もある。
【0008】
本発明は、泡もめを起こさずに穏やかな注出が可能であるとともに高い衛生性を確保できる飲料注出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、発明者らが鋭意検討したところ、簡易な構造を有するチューブポンプ(ローラーポンプともいう)を用いた飲料注出技術を確立することで、泡もめを起こすことなく穏やかな注出が可能であるとともに高い衛生性を確保できる飲料注出装置を見出した。
【0010】
本発明は、飲料が充填された容器から当該飲料を注出するための飲料注出装置であって、前記容器から前記飲料を注出する飲料注出部と、前記飲料の流路となる中空筒状の飲料流路部とを備え、前記飲料流路部は、前記容器の口部に取り付けられる第1開口端と、前記飲料の注出口となる第2開口端とを有し、前記飲料注出部は、前記飲料流路部を押し潰しながら前記飲料流路部の前記第1開口端側に位置する第1部から前記第2開口端側に位置する第2部まで移動可能な押圧部を有し、前記飲料流路部の流路断面積C(mm2)と前記飲料注出部により前記容器から前記飲料を注出する注出速度V(mL/min)とは下記式(1)で示される関係を有することを特徴とする飲料注出装置を提供する。
37000<C×V<155000 ・・・(1)
【0011】
前記飲料流路部の内径は、前記第1開口端から前記第2開口端まで同一径であってもよく、前記飲料流路部の第1開口端から前記第2開口端までは、繋ぎ目のない管状部材により構成されていてもよく、前記飲料流路部の内径は、8mm以上であってもよく、前記飲料流路部のうちの前記第2開口端から前記第1開口端に向かう方向の所定の長さの部分が、鉛直面に対して20°以上の角度で傾斜していてもよい。
【0012】
少なくとも前記容器を収納可能な容器収納部をさらに備え、前記容器収納部は、前記容器の軸線が水平面と実質的に平行になるように前記容器を収納していてもよく、前記第1開口端は、取付治具により前記容器の口部を密封するようにして前記口部に取り付けられてもよく、前記容器がプラスチック容器であってもよく、前記飲料が、穀類分解物含有発泡性飲料であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、泡もめを起こさずに穏やかな注出が可能であるとともに高い衛生性を確保できる飲料注出装置を提供することができる。特に、穀類分解物含有発泡性飲料の場合、泡もめを起こさずに穏やかな注出が可能であるため、泡付け機構を有していなくとも、きめ細やかな泡を作り出すことが可能な飲料注出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る飲料注出装置の概略構成を示す部分透視図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の一実施形態における飲料注出部の一例の構成を概略的に示す模式図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の一実施形態における飲料注出部の要部の構成を概略的に示す部分拡大図である。
【
図3】
図3は、飲料流路部の内径断面積C(mm
2)と注出速度V(mL/min)との積及び泡比率の相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る飲料注出装置の概略構成を示す部分透視図であり、
図2Aは、本実施形態に係る飲料注出部の一例の構成を概略的に示す模式図であり、
図2Bは、本発明の一実施形態における飲料注出部の要部の構成を概略的に示す部分拡大図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係る飲料注出装置1は、飲料が充填された容器10から当該飲料を注出するために用いられるものであって、筐体5と、筐体5の内部に設けられている飲料注出部2、飲料流路部3、容器収納部4及び電源(図示省略)と、筐体5に設けられている液受け部6、電源スイッチ(図示省略)及び注出スイッチ(図示省略)とを備える。飲料注出部2は、容器10から飲料を注出する機能を果たすものであり、飲料流路部3は、飲料の流路としての機能を果たすものである。電源は、飲料注出部2を動作させるための電流を飲料注出部2に供給するためのものであって、例えば、電池等であればよい。本実施形態に係る飲料注出装置1においては、容器収納部4に容器10を収納し、ジョッキやグラス等を傾けた状態(45°程度に傾けた状態)で飲料流路部3の第2開口端32下にセットして注出スイッチを押下することで、容器10内の飲料が飲料流路部3を介してジョッキやグラス等に注出される。
【0017】
容器10の内容物としての飲料は、特に限定されるものではないが、例えば、清涼飲料(例えば、天然水、ナチュラルウォーター、ナチュラルミネラルウォーター、ミネラルウォーター、ニアウォーター、スポーツドリンク、サイダー、コーラ、ジンジャーエール等)、茶飲料(例えば、緑茶、紅茶、ウーロン茶、ブレンド茶等)、醸造酒(例えば、ビールや発泡酒等の穀類分解物含有発泡性飲料、日本酒、ワインやシードル等の果実酒、梅酒等のリキュール等)、蒸留酒(例えば、ウイスキー、焼酎、ブランデー、チューハイ、ハイボール等)、野菜飲料(例えば、トマトジュース、にんじんジュース、トマトミックスジュース、にんじんミックスジュース等)、果実飲料(例えば、リンゴジュース、オレンジジュース、果汁入り飲料等)、果実・野菜ミックスジュース、コーヒー飲料、穀物乳(例えば、豆乳、ライスミルク、ココナッツミルク、アーモンドミルク)、酢飲料(例えば、果実酢飲料等)、乳酸菌飲料、及びノンアルコールビールテイスト飲料等が挙げられる。本実施形態における穀類分解物含有発泡性飲料としては、穀類の分解物を含む発泡性の飲料であれば特に限定されるものではないが、好ましくは、麦芽、大麦の分解物を含む飲料である。また、本実施形態における穀類とは、穀物であれば特に限定されるものではなく、例えば、大麦、小麦、トウモロコシ、大豆等が挙げられるが、好ましくは大麦が挙げられる。穀類の分解物の具体的な態様としては、麦芽、大麦、小麦、トウモロコシ、大豆、エンドウ豆の分解物であり、例えば、大豆タンパク、大豆ペプチド、コーンタンパク、エンドウ豆タンパク分解物等が挙げられる。
【0018】
本実施形態における穀類分解物含有発泡性飲料としては、好ましくは麦芽分解物含有発泡性飲料であり、より好ましくはビール系飲料である。ビール系飲料とは、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを有する飲料を意味し、例えば、ビール、発泡酒、リキュール等の発酵麦芽飲料や、その他の醸造酒、若しくはノンアルコール麦芽飲料(非アルコール麦芽飲料)等の非発酵麦芽飲料が挙げられる。また、ビール系飲料としては、麦芽飲料のみならず、麦や麦芽を使用しない非麦飲料であってもよい。非麦飲料としては、トウモロコシ、大豆、エンドウ豆等を用いた、ビール風の発泡性アルコール含有飲料やノンアルコール飲料等が挙げられる。なお、本実施形態においては、穀類分解物含有発泡性飲料として、ビールを例に挙げて説明する。
【0019】
飲料が充填される容器10としては、アルミニウム等の金属材料により構成される金属容器、ガラス材料により構成されるガラス容器、樹脂材料により構成されるプラスチック容器、またはこれらの材料が複合して構成される容器等が使用可能であるが、柔軟性及び剛直性を有し、容器10内を負圧にすることで容器10を潰しながら容易に注出可能なプラスチック容器が好適である。容器10としてのプラスチック容器を構成する樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンフラノエート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリレート樹脂等が挙げられ、これらの樹脂材料のうちの少なくとも1種が用いられ得る。容器10の容量は例えば100~30000mLである。
【0020】
飲料流路部3は、中空筒状(チューブ状)であり、容器10の口部に取り付けられる第1開口端31と、飲料の注出口となる第2開口端32とを有する。第1開口端31は、シール部品(図示省略)を備えた取付治具33を介して容器10の口部に取り付けられる。第2開口端32は筐体5から露出し、その下方には液受け部6が位置している。
【0021】
飲料流路部3は、例えば、第1開口端31から第2開口端32まで同一内径であること、及び/又は、繋ぎ目のないチューブ(管状部材)により構成されていることが好ましい。飲料流路部3の途中に衛生性の高い継手等を設けることもできるが、飲料流路部3の途中に著しく内径が変化する部分や液だまり部等があった場合、飲料流路部3を流れるビールがその部分で攪拌されてしまい、泡もめを生じ、円滑な注出が阻害されるおそれがあるため、可能な限り同一内径の経路で送液することが望ましい。そうすることで、容器10から飲料注出装置1を介してジョッキやグラス等にビールを注ぐ際に、泡もめが生じるのを抑制することができる。なお、衛生性の高い継手とは、継手に接続されるチューブ(管状部材)との間の内径の変化が最小限となるようなもの、好適には当該チューブ(管状部材)と同一内径のものであればよく、継手の内径が、継手に接続されるチューブ(管状部材)の内径の±10%程度の範囲内であれば、継手を介して複数のチューブ(管状部材)が接続された飲料流路部3の内径が同一であるとみなすことができる。このように、継手を介して複数のチューブ(管状部材)が接続された飲料流路部3の内径が同一であるとみなすことができる場合、当該継手は衛生性の高いものであるということができる。
【0022】
また、飲料流路部3がチューブ(管状部材)により構成されていることで、洗浄の際に飲料流路部3に水等の洗浄液を通過させることで、容易に洗浄でき、高い衛生状態を確保することができる。
【0023】
取付治具33の態様としては特に限定されるものではないが、例えば、容器10の口部に取付可能なキャップ状で、その天面に飲料流路部3の第1開口端31を取付可能又は挿通可能な孔が形成されているものであってもよい。この場合において、飲料流路部3を取付治具33から取り外して、あるいは取付冶具33に洗浄用の部材を接続して、飲料流路部3内を水等の洗浄液を通過させることにより容易に洗浄でき、高い衛生状態を確保することができる。また、容器10の口部に取付可能な取付治具33と飲料流路部3とが一体となっているものであってもよい。この場合において、容器10の口部から取付治具33を外し、第1開口端31から飲料流路部3に向かって水等の洗浄液を通過させることで、容易に洗浄でき、高い衛生状態を確保することができる。
【0024】
飲料流路部3の内径φは、8mm以上であることが好ましい。後述するように、本実施形態においては、飲料注出部2の押圧部21(
図2A参照)が飲料流路部3を押し潰しながら移動することで、容器10内のビールが飲料流路部3を介して注出される。このとき、飲料流路部3の内径が8mm以上であると、飲料注出部2の押圧部21により飲料流路部3が押し潰される潰し量D(
図2B参照)を相対的に大きくすることができるため、泡もめを起こすことなく、穏やかな注出をすることが可能になる。
【0025】
飲料流路部3のうちの第2開口端32の近傍であって、当該第2開口端32から第1開口端31に向かう方向の所定の長さの注出口部分3Aが、鉛直面に対して20°以上の傾斜角度θ1で傾斜していてもよい。容器10の内容物であるビールは、相対的に小さい表面張力(40mN/m程度)を有する。後述するように、飲料流路部3は、例えば、シリコーンゴム、塩化ビニル等の各種ゴム材料や樹脂材料により構成され得る。このような材料により構成される飲料流路部3において、注出口部分3Aの鉛直面に対する傾斜角度θ1が20°未満であると、注出終了後、注出口部分3Aにビールが留まることができず、第2開口端32から漏出してしまう。特に、本実施形態に係る飲料注出装置1により冷えたビールを注出するためには、飲料注出装置1を冷蔵庫内に設置して使用するのが好適である。この場合、注出終了後、注出口部分3Aに残留するビールが第2開口端32から漏出してしまうと、冷蔵庫内の汚染を生じさせてしまうことになる。本実施形態において、注出口部分3Aが鉛直面に対して20°以上の傾斜角度θ1で傾斜していることで、注出終了後に注出口部分3Aにビールが残留することなく排出され得る。これにより、第2開口端32からビールが漏出するのを抑制することができる。なお、注出口部分3Aの長さは、第2開口端32から第1開口端31に向かって10~40mm程度の長さの範囲であればよい。
【0026】
図2Aに示すように、飲料注出部2は、回転駆動軸22に軸支される回転支持体23と、回転支持体23の両端部のそれぞれに回転可能に設けられている押圧部21と、それらを内包するハウジング24とを有する。飲料注出部2は、いわゆるチューブポンプ(ローラーポンプ)と称されるものであればよい。ハウジング24内における2つの押圧部21により押し潰される位置に、飲料流路部3の一部が設けられている。押圧部21は、回転駆動軸22を軸として回転支持体23が回転すると、飲料注出部3の第1開口端31側に位置する第1部31Aから第2開口端32に位置する第2部32Aに至るまで飲料流路部3を押し潰しながら移動する。押圧部21が飲料流路部3を押し潰しながら第1部31Aから第2部32Aまで移動することで負圧が発生し、容器10からビールを吸引注出することができる。飲料注出部3を押圧部21で押し潰す際の潰し量D(
図2B参照)としては、接続部33の肉厚Tの5~25%程度であればよい。潰し量Dが肉厚Tの5%未満であると、容器10からビールを吸引注出することが困難となり、潰し量Dが肉厚Tの25%を超えると長期間の使用により飲料流路部3が劣化したり、過剰な回転抵抗が生じたりして、注出速度が低下してしまうおそれがある。また、潰し量Dが肉厚Tの14~15%程度であると、チューブポンプの回転数を低下させることなく確実に飲料流路部3内の飲料を第2開口端32に向けて送出することができ、注出速度が最大となることが確認された。なお、本実施形態においては、2個の押圧部21を有している態様を例示したが、この態様に限定されるものではない。例えば、飲料注出部2は、1個以上の押圧部21を有していればよい。
【0027】
本実施形態における飲料流路部3は、飲料の流路となるように中空筒状(チューブ状)であり、押圧部21により押し潰すことができる程度に可撓性を有して、いればよく、特に限定されるものではないが、例えば軟質チューブ等により構成されていてもよい。また、本実施形態における飲料流路部3の構成部材としては、耐久性や衛生性の観点から、例えば、シリコーンゴム、塩化ビニル、各種ゴム材料及びポリマー材料等が好ましい。
【0028】
本実施形態に係る飲料注出装置1においては、飲料流路部3の流路断面積C(mm2)と、飲料注出部2により容器10から飲料を注出する注出速度V(mL/min)とは、下記式(1)で示される関係を有し、好ましくは、下記式(2)で示される関係を有し、特に好ましくは、下記式(3)で示される関係を有する。飲料流路部3の流路断面積C(mm2)と注出速度V(mL/min)とが下記式(1)で示される関係を有することで、泡もめを起こさず、穏やかな注出ができ、きめ細やかで滑らかな泡持ちのよい泡を形成することが可能になる。また、下記式(2)及び式(3)で示される関係を有することで、泡もめを起こさず、穏やかな注出ができ、理想的な泡比率できめ細やかで滑らかな泡持ちのよい泡を形成することが可能になる。なお、理想的な泡比率とは、グラスやジョッキ等の鉛直方向におけるビールと泡との高さの比率を意味し、当該泡比率が8:2~6:4程度であれば理想的な泡比率であるということができる。飲料流路部3の流路断面積C(mm2)と注出速度V(mL/min)との積が下記式(1)で示される下限値以下の値であると、ビールを注出した際に、生成する泡が減少し、気抜けが生じてしまうおそれがある。また、下記式(1)で示される上限値以上の値であると、グラスやジョッキ等にビールを注出する際に、気抜けや泡もめ、吹きこぼれが生じてしまうおそれがある。なお、チューブポンプ(ローラーポンプ)を用いてビールを注出し、理想的な泡を形成するために必要なパラーメータ(変数)は、流路断面積C(mm2)及びチューブポンプの回転数の2つであると考えられる。ただし、チューブポンプの回転数は、チューブ(飲料流路部3)の状態(チューブの硬度、チューブ外壁の表面状態による押圧部21の摩擦抵抗など)やモーターのギヤ仕様等により変動を起こすことが考えられる。そのため、ポンプの回転数の代替値としての注出速度V(mL/min)を用いて、下記式(1)で示される関係により、泡もめを起こさず、穏やかな注出ができ、きめ細やか、かつ滑らかな泡持ちのよい泡を形成することが可能になることが見出された。
37000<C×V<155000 …(1)
37000<C×V<115000 …(2)
60000<C×V<115000 …(3)
【0029】
本実施形態に係る飲料注出装置1において、容器収納部4は、容器10の軸線10Aが水平面と実質的に平行となるようにして容器10を収納可能に構成される。容器10の軸線10Aが水平面と実質的に平行とは、容器10の軸線10Aと水平面とにより形成される角度θ2が20°以下となるように交差することを許容する趣旨である。好ましくは、容器収納部4は、容器10の口部を下方に、容器10の底部を上方に位置させるように、容器10の軸線10Aが水平面に対して10~15°程度で傾斜するようにして容器10を収納可能に構成される。本実施形態に係る飲料注出装置1においては、このような姿勢で容器10が容器収納部4に収納されるが、容器10の口部に取り付けられる取付治具33がシール部材を備えていることで、容器10の口部と取付治具33との間から容器10内のビールが漏出するのを防止することができ、筐体5内部が汚染されるのを抑制することができる。
【0030】
上述した構成を有する飲料注出装置1において、ビールを充填した容器10の口部に飲料流路部3の第1開口端31を取り付け、当該容器10を容器収納部4に収納する。その状態で電源スイッチをONにし、注出スイッチを押下すると、モータ(図示省略)の駆動によって回転支持体23が回転し、2つの押圧部21が第1部分31Aから第2部分32Aまで飲料流路部3を押し潰しながら移動する。これにより、容器10内のビールが飲料流路部3を介して第2開口端32から注出される。本実施形態においては、飲料流路部3の流路断面積C(mm2)と、飲料注出部2により容器10から飲料を注出する注出速度V(mL/min)とが上記式(1)で示される関係を有することで、泡付け機構を有していなくとも、グラスやジョッキ等に注出されるビールの上部にきめ細やか、かつ滑らかな泡を形成することができる。また、飲料流路部3の第2開口端32の下方にグラス等を傾けた状態(例えば45°程度に傾けた状態)でセットし、グラス等の高さの7割程度にビールを注いだ後、グラス等を立てることで、グラス等に注がれるビールによりグラス等内のビールに乱流を生じさせ、グラス等内のビール上に泡が形成される。さらに、飲料流路部3の流路断面積C(mm2)と、飲料注出部2により容器10から飲料を注出する注出速度V(mL/min)とが上記式(2)及び上記式(3)で示される関係を有することで、泡もめを起こさず、穏やかな注出が可能となるため、理想的な泡比率できめ細やか、かつ滑らかな泡を形成することができ、泡持ちを良好にすることができる。
【0031】
本実施形態に係る飲料注出装置1においては、ビールの注出を停止した後であっても容器10内の負圧の状態が維持されることで、飲料流路部3内にビールが残留し得るが、注出口部分3Aが鉛直面に対して20°以上の傾斜角度θ1で傾斜しているため、注出口部分3A内のビールが排出され、注出終了後に第2開口端32からビールが漏出するのを抑制することができる。また、本実施形態において、容器10内のビールが飲料流路部3の内側にのみ接するため、飲料流路部3や飲料注出部2の分解洗浄等を必要とせず、飲料流路部3内のみを洗浄すればよく、飲料注出装置1の衛生管理を容易に行うことができる。
【0032】
さらに、本実施形態においては、飲料流路部3の内径φを相対的に大きくすると、飲料の注出速度V(mL/min)が相対的に遅くなる。飲料の注出速度Vが相対的に遅くなるということは、飲料注出部2の回転支持体23の回転数(回転速度)を相対的に低減可能であるということに繋がる。飲料流路部3が押圧部21によって押し潰されながら相対的に高速度で回転すると、飲料流路部3を構成するチューブが劣化しやすくなるが、回転支持体23の回転数(回転速度)を相対的に低減可能であることで、飲料流路部3を構成するチューブの劣化を抑制することができる。
【0033】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0034】
上記実施形態において、一の容器10を収納可能な容器収納部4と、一の飲料注出部2と、一の飲料流路部3とを備える飲料注出装置1を例に挙げて説明したが、このような態様に限定されるものではない。例えば、飲料注出装置1は、一の容器10を収納可能な容器収納部4と、複数の飲料注出部2と、複数に分岐している飲料流路部3とを備えていてもよいし、複数の容器10を収納可能な容器収納部4と、一または複数の飲料注出部2と、複数に分岐している飲料流路部3とを備えていてもよい。飲料流路部3が複数に分岐している場合、上述した流路断面積C(mm2)と注出速度V(mL/min)との関係は、分岐している流路ごとに計算し、それらの総和として求めればよい。
【実施例】
【0035】
以下、試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、下記の試験例等に何ら限定されるものではない。なお、下記試験例に供される各試料(試料1~12)の飲料注出装置1において、注出速度が最大となるように、飲料流路部3の潰し量D(mm)をチューブ肉厚Tの15%程度に設定した。また、各試料(試料1~12)において、プラスチック容器10に充填されているビールとしては、市販のビールを冷蔵庫で4℃に冷却して使用した。
【0036】
〔試料1〕
図1に示す構成を有する飲料注出装置1を準備した。飲料注出装置1において、飲料流路部3の内径を8mmとし、注出速度Vを740mL/minとした。
【0037】
〔試料2〕
注出速度Vを1200mL/minとした以外は試料1と同様の構成を有する飲料注出装置1を準備した。
【0038】
〔試料3〕
注出速度Vを1640mL/minとした以外は試料1と同様の構成を有する飲料注出装置1を準備した。
【0039】
〔試料4〕
飲料流路部3の内径を10mmとし、注出速度Vを920mL/minとした以外は試料1と同様の構成を有する飲料注出装置1を準備した。
【0040】
〔試料5〕
注出速度Vを1460mL/minとした以外は試料4と同様の構成を有する飲料注出装置1を準備した。
【0041】
〔試料6〕
注出速度Vを1980mL/minとした以外は試料4と同様の構成を有する飲料注出装置1を準備した。
【0042】
〔試料7〕
飲料流路部3の内径を6mmとし、注出速度Vを130mL/minとした以外は試料1と同様の構成を有する飲料注出装置1を準備した。
【0043】
〔試料8〕
注出速度Vを384mL/minとした以外は試料7と同様の構成を有する飲料注出装置1を準備した。
【0044】
〔試料9〕
注出速度Vを640mL/minとした以外は試料7と同様の構成を有する飲料注出装置1を準備した。
【0045】
〔試料10〕
注出速度Vを940mL/minとした以外は試料7と同様の構成を有する飲料注出装置1を準備した。
【0046】
〔試料11〕
注出速度Vを270mL/minとした以外は試料1と同様の構成を有する飲料注出装置1を準備した。
【0047】
〔試料12〕
注出速度Vを350mL/minとした以外は試料4と同様の構成を有する飲料注出装置1を準備した。
【0048】
[試験例1]泡比率評価試験
試料1~12の飲料注出装置1の容器収納部4に、2Lのビールを充填したプラスチック容器10を収納し、プラスチック容器10の口部に飲料流路部3の第1開口端31を取り付け、プラスチック容器10内のビールをグラス角度45°で注出し、泡比率を目視観察により以下の基準で評価した。結果を表1に示す。評価結果に基づく、飲料流路部3の流路断面積C(mm
2)と注出速度V(mL/min)との積及び泡比率の相関関係を
図3に示す。
<評価基準>
〇:泡の比率が25~35%未満
△:泡の比率が15~25%、若しくは35~40%
×:泡の比率が15%未満、若しくは40%以上
【0049】
[試験例2]泡大きさ評価試験
試料1~12の飲料注出装置1の容器収納部4に、2Lのビールを充填したプラスチック容器10を収納し、プラスチック容器10の口部に飲料流路部3の第1開口端31を取り付け、プラスチック容器10内のビールをグラス角度45°で注出し、30秒静置した後の生成した泡の大きさを目視観察により以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
<評価基準>
○:最大の泡の大きさが1mm未満
△:最大の泡の大きさが1mm以上2mm未満
×:最大の泡の大きさが2mm以上
【0050】
[試験例3]泡持ち評価試験
試験例2と同様にしてビールをグラスに注出し、泡持ちを目視観察により以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
<評価基準>
〇:泡の高さが1cm減るまでの時間が40秒以上
△:泡の高さが1cm減るまでの時間が31秒以上40秒未満
×:泡の高さが1cm減るまでの時間が30秒以下
【0051】
【0052】
表1に示すように、飲料注出装置1における飲料流路部3の流路断面積C(mm2)と注出速度(mL/min)との積(C×V)が37000より大きく、160000未満であることで、泡の大きさ及び泡持ちの評価が高い(評価:△又は〇)ことが確認された(試料1~6)。一方、流路断面積C(mm2)と注出速度(mL/min)との積(C×V)が37000以下である場合、泡の大きさ及び泡持ちの評価が低い(評価:×)であることが確認された(試料7~12)。
【0053】
また、飲料注出装置1における飲料流路部3の流路断面積C(mm2)と注出速度(mL/min)との積(C×V)が37000より大きく、155000未満であることで、泡比率の評価が高い(評価:△又は〇)ことが確認された(試料1~5)。一方、飲料流路部3の流路断面積C(mm2)と注出速度(mL/min)との積(C×V)が37000以下である場合や155000以上である場合、泡比率の評価が低い(評価:×)ことが確認された。
【0054】
なお、試料6の飲料注出装置1においては、泡大きさ及び泡持ちの評価は高評価であるものの、泡比率の評価が低評価であった。これは、グラスにビールを注出する際に飲料流路部3で泡もめが起こっているものと推察される。また、試料6~12の飲料注出装置1においては、ビール以外の炭酸飲料を注出する際にも同様に泡もめが起こると予想される。
【0055】
上記の結果から、飲料注出装置1における飲料流路部3の流路断面積C(mm
2)と注出速度(mL/min)とが下記式(1)に示す関係を有する、すなわち、
図3に示す斜線部分の範囲であれば、泡もめを起こさない穏やかな注出が可能となるので、きめ細やかな理想的な泡を形成することが可能であると推察される。また、下記式(2)及び式(3)に示す関係を有することで、理想的な泡比率で、きめ細やか、かつ滑らかな泡を形成することが可能であると推察される。なお、ビール以外の炭酸飲料においても同様に、下記式(1)に示す関係を有すれば、泡もめを起こさず、穏やかな注出が可能であるものと推察される。
37000<C×V<155000 ・・・(1)
37000<C×V<115000 ・・・(2)
60000<C×V<115000 ・・・(3)
【0056】
上記試験例1においては、グラス角度を45°としてビールを注出した場合の泡比率を評価しているが、グラス側の注出条件(例えば、グラスの角度や高さ位置等)を変更することによって泡比率を変動させ得るものと予想される。そのため、試料6の飲料注出装置1においても、グラス側の注出条件を調整することで、理想的な泡比率でビールの注出が可能であると予想される。試料7~12の飲料注出装置1においても同様に、グラス側の条件を調整することで、理想的な泡比率でビールの注出が可能であると予想されるが、泡の大きさ及び泡持ちに関しては、低評価であると予想される。
【符号の説明】
【0057】
1…飲料注出装置
2…飲料注出部
21…押圧部
3…飲料流路部
31…第1開口端
32…第2開口端
10…容器