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特許7458976機械的に耐久性のある超疎水性ナノ構造コーティングのためのソフトプラズマ重合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】機械的に耐久性のある超疎水性ナノ構造コーティングのためのソフトプラズマ重合方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/10 20060101AFI20240325BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240325BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20240325BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240325BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240325BHJP
   B32B 27/08 20060101ALI20240325BHJP
   B05D 5/08 20060101ALI20240325BHJP
   C23C 14/12 20060101ALI20240325BHJP
   C23C 16/503 20060101ALI20240325BHJP
   C08F 220/24 20060101ALI20240325BHJP
   C08F 2/52 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
C23C14/10
B05D7/24 302P
B05D7/24 302Y
B05D3/04 C
B05D7/24 302L
B32B27/00 101
B32B27/30 D
B32B27/08
B05D5/08 Z
C23C14/12
C23C16/503
C08F220/24
C08F2/52
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020531817
(86)(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2018072762
(87)【国際公開番号】W WO2019038378
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】17187416.7
(32)【優先日】2017-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520061701
【氏名又は名称】モレキュラー・プラズマ・グループ・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】MOLECULAR PLASMA GROUP SA
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エベルジェ,レジス
(72)【発明者】
【氏名】シェルジェンス,ギル
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-523142(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103468835(CN,A)
【文献】特許第5397794(JP,B1)
【文献】特開2017-110287(JP,A)
【文献】特開2009-111403(JP,A)
【文献】特表2015-537110(JP,A)
【文献】国際公開第2015/169864(WO,A1)
【文献】特開2013-154482(JP,A)
【文献】特開平07-171408(JP,A)
【文献】特表2017-526518(JP,A)
【文献】特表2008-519411(JP,A)
【文献】特開2014-173150(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031423(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/083674(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/10
B05D 7/24
B05D 3/04
B32B 27/00
B32B 27/30
B32B 27/08
B05D 5/08
C23C 14/12
C23C 16/503
C08F 220/24
C08F 2/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(ただし、粉体を除く。)上に超疎水性コーティングを堆積させる方法であって、
フルオロ-アクリレートモノマー、フルオロ-アルキルアクリレートモノマー、フルオロ-メタクリレートモノマー、フルオロ-アルキルメタクリレートモノマー、フルオロ-シランモノマー、またはそれらの組合せもしくは誘導体を含む第1の前駆体を用意して前記第1の前駆体を霧化もしくは噴霧化された液体形態または蒸気化形態でプラズマガスに導入する工程と、
シクロシロキサンを含む第2の前駆体を用意して前記第2の前駆体を霧化もしくは噴霧化された液体形態または蒸気化形態で前記プラズマガスに導入する工程と、
前記第1および第2の前駆体を含む前記プラズマガスを処理領域に導入することにより前記第1および第2の前駆体を前記処理領域に同時注入する工程と、
前記処理領域において大気圧プラズマ放電を作り出して、前記基材上に前記同時注入された第1および第2の前駆体から誘導される超疎水性コーティングを堆積させる工程であり、前記プラズマ放電が、少なくとも0.05W.cm-2および最大で100W.cm-2の電力密度を含む、工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記第2の前駆体が、式[-(R)SiO-](式中、RおよびRはそれぞれ、互いに独立して、1から30個の炭素原子のアルキル基、6から60個の炭素原子のアリール基、または約1から約30個の炭素原子の置換アルキル基もしくは置換アリール基であり、zは3から10の整数である)で表されるシクロポリ二置換シロキサンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材が、シート、例えば、箔、プレート、フィルム、織布材料または不織布材料である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記超疎水性コーティングが、少なくとも150°の水接触角を備える、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記プラズマ放電が、交流電圧が前記処理領域にわたって印加される誘電体バリア放電であり、好ましくは、前記交流電圧が少なくとも1kVおよび最大で20kVの振幅ならびに少なくとも500Hzおよび最大100kHzの周波数を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記プラズマガスが、ヘリウム、アルゴン、窒素ガス、空気、酸素、アンモニア、メタン、アセチレン、二酸化炭素、水素ガス、またはそれらの混合物を含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の前駆体は第1のエアロゾル発生器によってエアロゾルの形態にされ、前記第2の前駆体は第2のエアロゾル発生器によってエアロゾルの形態にされて、前記第1および前記第2の前駆体が、エアロゾルの形態で前記プラズマガスに導入される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1および第2の前駆体がそれぞれ、少なくとも0.1標準リットル毎分および最大で5標準リットル毎分の速度で霧化される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記プラズマガスが、少なくとも1標準リットル毎分および最大で100標準リットル毎分のガス流量を含む、請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の前駆体が、フルオロ-アルキルアクリレートモノマー、好ましくは、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルアクリレートモノマーを含む、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の前駆体が、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサンモノマーを含む、請求項2、および任意選択で、請求項3から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1および第2の前駆体を、前記第1および第2の前駆体それぞれに関して本質的に一定の流量で、前記処理領域に同時注入して、本質的に均一なコーティングを得る工程を含む、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記第1および第2の前駆体を、前記第2の前駆体の流量を徐々に低下させかつ前記第1の前駆体の流量を徐々に増加させて、前記処理領域に同時注入して、組成勾配を含むコーティングを得る工程を含む、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
基材(ただし、粉体を除く。)上に堆積させられる超疎水性基材コーティングであって、
第1の前駆体と第2の前駆体との共重合により形成される、交互のマルチスタックナノ構造を含み、前記第1の前駆体が、フルオロ-アクリレートモノマー、フルオロ-アルキルアクリレートモノマー、フルオロ-メタクリレートモノマー、フルオロ-アルキルメタクリレートモノマー、フルオロ-シランモノマー、またはそれらの組合せもしくは誘導体を含み、前記第2の前駆体がシクロシロキサンを含む、超疎水性基材コーティング。
【請求項15】
前記基材コーティングの前記交互のマルチスタックナノ構造が、本質的にランダムに配向し、本質的に均質に分散している、請求項14に記載の超疎水性基材コーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超疎水性コーティングを堆積させるための大気圧または減圧プラズマ重合方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
高撥水性を備える表面は、超疎水性と呼ばれる。一部の生物種、例えば、蚊の目、アメンボ、ハスの葉などは、超疎水性特性を備える表面を有する。
【0003】
Kumarら、Plasma Processes and Polymers 7巻、926~938頁(2010)では、低圧誘導励起高周波プラズマにおける、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルアクリレート(PFDA)のプラズマ加速化学蒸着による低表面エネルギーコーティングの調製が開示されている。Guptaら、Langmuir 22巻(24号)、10047~10052頁(2006)では、開始剤を利用した(initiated)化学蒸着による低表面エネルギーのポリ-PFDAコーティングの調製が開示されている。Anthonyら、Chemistry of Materials 21巻、4401~4403頁(2009)では、1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルアクリレートを使用するコロナ放電による低表面エネルギーコーティングの調製が開示されている。残念なことに、これらのコーティングの水接触角はかなり低く、すなわち、およそ120°である。これらの堆積方法による粗度が低いことで、この低い水接触角が起こされると想定される。
【0004】
WO2013/113875では、基材上に超両親媒性コーティングを製造するであって、誘電バリア放電を使用して、大気圧下で処理空間にプラズマを発生させること;およびフルオロ-アクリレートモノマー、フルオロ-アルキルアクリレートモノマー、フルオロ-メタクリレートモノマー、フルオロ-アルキルメタクリレートモノマー、フルオロ-シランモノマーまたはそれらの組合せからなる群から選択されるコーティング形成材料を前記プラズマに導入することを含む、方法が開示されている。
【0005】
米国特許出願公開第2004/0022945号では、大気圧プラズマ放電を使用して基材上にコーティングを形成する方法が開示されている。この方法は、霧化された液体および/または固体コーティング形成材料を大気圧プラズマ放電および/またはそれから生じるイオン化ガス流に導入すること、ならびに基材を霧化されたコーティング形成材料に曝露することを含む。この文献にはまた、ポリマー形成材料を重合させる方法、および、基材上にコーティングを形成するための装置が記載されている。
【0006】
米国特許出願公開第2007/0202270号では、無機-有機ハイブリッドポリマー材料で基材をコーティングするための方法および装置が開示されている。この方法では、誘電体バリア放電技術に従ってプラズマを発生させ、維持する。この方法は、2つの電極間の空間に試料を導入する工程と、電極間にプラズマ放電を発生させる工程と、ハイブリッド有機/無機架橋プレポリマーを含有するエアロゾルをプラズマ放電に混和する工程とを含む。
【0007】
米国特許出願公開第2009/0065485号では、表面をプラズマ処理する方法であって、注入口から出口にプロセスガスが流れる注入口および出口を有する誘電体ハウジング内で非平衡状態大気圧プラズマを発生させる、方法が開示されている。
【0008】
米国特許出願公開第2014/0042130号では、注入口および出口を有する誘電体ハウジング内に配置された少なくとも1つの電極に無線周波数高電圧を印加しながら、通常はヘリウムを含むプロセスガスを注入口から電極を通過して出口に流すこと、これによって、非平衡大気圧プラズマを発生させることを含む、基材をプラズマ処理する方法が開示されている。霧化されたまたはガス状の表面処理剤が非平衡大気圧プラズマに組み込まれる。表面がプラズマと接触し、かつプラズマの出口に対して移動するように、基材をプラズマの出口に隣接して配置する。
【0009】
WO2016/198857A1では、モノマー化合物および架橋試薬を含むプラズマに基材を曝露することによって得ることができる、基材用保護架橋ポリマーコーティングが教示されている。この文献では、一例において、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチルアクリレートモノマー化合物および、他の例の中でも特に、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン(DVTMDS)を含むリストからの架橋試薬から得られるコーティングが開示されている。
【0010】
WO2003/086030A1では、粉末基材上にコーティングを形成する方法が教示されている。この文献では、シロキサン有機コポリマーを、有機モノマーとケイ素含有モノマーとの混合物を使用して、粉末基材表面上に形成し得ることが、開示されている。この文献では、他の例の中でも特に、フルオロアルキル(メタ)アクリレートを含む有機コーティング形成材料の第1のリストが開示されている。この文献では、シラン類(例えば、シラン、アルキルシラン、アルキルハロシラン、アルコキシシラン)、ならびに有機官能性の直鎖状および環状シロキサン(例えば、Si-H含有、ハロ官能性、およびハロアルキル官能性の直鎖状および環状シロキサン、例えば、テトラメチルシクロテトラシロキサンおよびトリ(ノノフルオロブチル)トリメチルシクロトリシロキサン)を含む直鎖状シロキサン(例えば、ポリジメチルシロキサン)および環状シロキサン(例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン)を含む、ケイ素含有材料の第2のリストがさらに開示されている。この文献では、一例において、テトラメチルシクロテトラシロキサンから得られた籾殻灰上へのコーティングが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上に提示のコーティングの水接触角は、通常かなり低い。コーティングの疎水性に加えて、耐久性および機械的耐性も重要であり、特に、コーティングの研磨拘束(abrasive constraint)に対する高耐性と高弾性との組合せが重要である。上記の文献では、特定のコーティング組成物または単一のプロセスでこれらの特性のすべてを達成する手段は開示されていない。
【0012】
当技術分野では、改善された超疎水性コーティングおよびその堆積方法の必要性が依然としてある。
【0013】
本発明は、上述の問題の少なくとも一部を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の概要
第1の態様では、本発明は、請求項1に記載の、基材上にコーティングを堆積させる方法を提供する。
【0015】
第2の態様では、本発明は、請求項14に記載の、基材コーティングを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、機械的に耐久性のある超疎水性コーティングを提供するので有益である。コーティングは、高硬度の領域と軟質の格子のセクションとを結合している、ナノオーダーのドメインを備える。ナノオーダーのドメインは均質に分散し、ランダムに配向している。コーティングは、研磨拘束に対する高耐性ならびに高弾性を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の好ましい実施形態による第1および第2の前駆体のソフトプラズマ重合のための誘電体バリア放電システムの略図を示す図である。
図2】第1および第2の前駆体が処理領域に交互に注入される方法によって形成された、先行技術によるコーティングの略図を示す図である。
図3】高硬度の領域と軟質の格子のセクションとを結合している、ナノオーダーのドメインを備える、本発明によるコーティングの略図を示す図である。
図4】1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルアクリレート(PFDA)モノマーの略図を示す図である。
図5】2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン(V4D4)モノマーの略図を示す図である。
図6】初期のV4D4プラズマポリマーで実行したMALDI質量スペクトルを示す図である。
図7】初期のPFDAプラズマポリマーで実行したMALDI質量スペクトルを示す図である。
図8】交互層(図2を参照)および本発明によるコーティング(図3を参照)を含む多層構造体のMALDI質量スペクトルの比較を示す図である。
図9】本発明によるコーティングの弾性率の変化をモノマー含有量の関数として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、基材上にコーティングを堆積させる方法およびその結果得られる基材コーティングに関する。本発明は、上の相応するセクションにまとめられている。以下、本発明について詳細に記載し、好ましい実施形態について説明し、本発明について実施例により例示する。
【0019】
別段の定義がないない限り、技術用語および科学用語を含む本発明の開示に使用されるすべての用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解される意味を有する。さらなる指針により、本発明の教示をよりよく理解するために用語の定義が包含されている。
【0020】
本明細書で使用される以下の用語は、以下の意味を有する:
本明細書で使用する場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、別途文脈により明確に指示されない限り、単数および複数の両方の指示対象を指す。例として、「(1つの)区画」とは1つまたは2つ以上の区画を指す。
【0021】
本明細書においてパラメータ、量、期間等の計測可能な値への言及に使用される「約」とは、規定値のおよび規定値より+/-20%以下、好ましくは+/-10%以下、より好ましくは、+/-5%以下、さらに好ましくは、+/-1%以下、さらにより好ましくは、+/-0.1%以下の変動を包含することを意味し、このような変動であれば開示される本発明で実行するのに適切である。しかし、修飾語句「約」が言及する値そのものも具体的に開示されていることを理解されたい。
【0022】
本明細書で使用される「含む(Comprise)」、「含む(comprising)」および「含む(comprises)」および「構成される(comprised of)」は、「含む(include)」、「含む(including)」、「含む(includes)」または「含有する(contain)」、「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、後続のもの、例えば成分の存在を明示する包括的またはオープンエンドな用語であり、当技術分野において公知であるまたは本明細書に開示されている、さらなる記述されていない成分、特徴、要素、部材、工程の存在を排除または除外するものではない。
【0023】
端点による数値範囲の記述は、その範囲内に含まれるすべての数値および小数部分、ならびに記述された端点を含む。
【0024】
ここでおよび本明細書全体において、「重量%」、「重量パーセント」、「%wt」または「wt%」という表現は、特段の定義がない限り、配合物の総重量に対して、それぞれの成分の相対的な重量を指す。
【0025】
本明細書で使用される「標準リットル毎分(standard liter per minute)」(slm)という用語は、温度および絶対圧力の標準状態に補正されたガスの体積流量の単位である。これらの標準状態は、基準点として摂氏0度および1barを含む。
【0026】
第1の態様では、本発明は、基材上にコーティングを堆積させる方法に関する。フルオロ-アクリレートモノマー、フルオロ-アルキルアクリレートモノマー、フルオロ-メタクリレートモノマー、フルオロ-アルキルメタクリレートモノマー、フルオロ-シランモノマー、またはそれらの組合せもしくは誘導体を含む第1の前駆体を用意する。直鎖状シロキサン、シランモノマー、シクロシロキサン、シクロシランモノマー、またはそれらの組合せもしくは誘導体を含む第2の前駆体を用意する。この方法は、前記第1および第2の前駆体を処理領域に同時注入する工程と、前記処理領域で大気圧または減圧プラズマ放電を作り出して、前記基材上に前記同時注入された第1および前記第2の前駆体から誘導されたコーティングを堆積させる工程とを含む。基材は、処理領域においてそこに少なくとも部分的に挿入されている。
【0027】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様により得られた基材コーティングに関する。基材コーティングは、交互のマルチスタックナノ構造を含む。基材コーティングは、前記第1の前駆体および前記第2の前駆体の共重合により形成される。好ましくは、前記基材コーティングの前記交互のマルチスタックナノ構造は、本質的にランダムに配向し、本質的に分散の点で均質である。
【0028】
本発明は、機械的に耐久性のある超疎水性コーティングを提供するので有益である。コーティングは、高硬度の領域と軟質の格子のセクションとを結合している、ナノオーダーのドメインを備える。ナノオーダーのドメインは均質に分散し、ランダムに配向しているのが好ましい。これにより、研磨拘束に対する高耐性および高弾性を備えるコーティングがもたらされる。さらに、これは単一の堆積プロセスによって達成される。
【0029】
コーティングは、大気圧または減圧放電、好ましくは大気圧放電を使用して、第1および第2の前駆体を共重合することにより、基材の表面のすべてまたは一部に製造される。プラズマは、連続的に発生させても、またはプラズマが発生する期間とプラズマが発生しない期間とを含む1または複数のサイクルを含むパルスモードで発生させてもよい。基材は処理領域に入れられ、その後またはその間に前記コーティングが基材表面に堆積される。
【0030】
図1に、好ましい実施形態において、本発明の第1の態様による方法で使用可能な誘電体バリア放電(DBD)システムの略図を示す。この実施形態では、前記プラズマ放電は、交流電圧が処理領域にわたって印加される誘電体バリア放電である。このシステムは、第1のセットの電極(9)および第2のセットの電極(10)を備える。電極の各セットは、少なくとも1つの電極、例えば1つ、2つ、3つ、4つ、またはそれ超の電極を含む。2セットの電極は、少なくとも1つの絶縁誘電体バリア(12)によって隔てられている。好ましくは、誘電体バリアが上部セットの電極(9)に本質的に隣接して配置されている。任意選択で、下部セットの電極(10)に本質的に隣接して誘電体バリアを配置することができる。それにより、2セットの電極は、処理領域(8)または処理ギャップを画定し、その中に処理のために基材を用意することができる。換言すれば、2セットの電極が処理領域の向かい合った側に配置されている。処理領域(8)に挿入された基材はまた、基材材料がそうすることが可能であるなら、誘電バリアを提供する場合もある。好ましくは、処理領域の高さ、すなわち電極によって画定されるギャップは、少なくとも約0.1mmおよび最大で約10mm、例えば、約0.1mm、約0.125mm、約0.16mm、約0.2mm、約0.25、約0.315mm、約0.4mm、約0.5mm、約0.63mm、約0.795mm、約1mm、約1.26mm、約1.58mm、約2mm、約2.5mm、約3.16mm、約3.98mm、約5mm、約6.31mm、約7.94mm、約10mm、またはその間の任意の値である。より好ましくは、処理領域は、少なくとも約0.2mmおよび最大で約5mmのギャップ、さらにより好ましくは少なくとも約1mmおよび最大で約4mmのギャップ、例えば約2mmのギャップを備える。誘電体バリア(12)材料は、好ましくは、ガラス、石英、セラミック、またはポリマーを含む。好ましくは、誘電バリア(12)材料は、誘電損失が低くかつ絶対破壊強さが高い。好ましくは、電極材料はアルミニウムを含む。
【0031】
図1では、システムが、断面図で概略的に表されており、平面-平面構成または平行平板構成にある2セットの電極(9、10)を有する。しかし、様々なリアクター構成が可能である。電極の一方または両方は、例えば、2セットの電極が同軸構成にあるように円筒形であってもよく、ワイヤプレーン構成を有してもよく、またはポイントプレーン構成であってもよい。
【0032】
図1のシステムは、2セットの電極(9、10)にわたって高電圧交流(AC電圧;交流電圧)を供給するための電源(11)をさらに備える。したがって、システムは、処理領域にわたって交流電圧を供給するように構成されている。下部セットの電極(10)は接地されていることが好ましく、AC電圧を供給する電源(11)は上部セットの電極(9)に接続されていることが好ましい。2セットの電極にわたる電力密度、すなわちプラズマ放電の電力密度は、好ましくは少なくとも0.05W.cm-2である。2セットの電極にわたる電力密度、すなわちプラズマ放電の電力密度は、好ましくは最大で100W.cm-2、より好ましくは最大で50W.cm-2、さらにより好ましくは最大で20W.cm-2、なおさらにより好ましくは最大で10W.cm-2、最も好ましくは最大で5W.cm-2である。好ましくは、前記交流電圧は、最大で50kVの振幅、より好ましくは、少なくとも1kVおよび最大で20kVの振幅、例えば、約1kV、約1.26kV、約1.58kV、約2kV、約2.5kV、約3.16kV、約3.98kV、約5kV、約6.31kV、約7.94kV、約10kV、約12.6kV、約15.8kV、約20kV、またはその間の任意の値の振幅を含む。好ましくは、前記交流電圧は、少なくとも500Hzおよび最大で100kHzの周波数、例えば、約500Hz、約631Hz、約794Hz、約1kHz、約1.26kHz、約1.58kHz、約2kHz、約2.5kHz、約3.16kHz、約3.98kHz、約5kHz、約6.31kHz、約7.94kHz、約10kHz、約12.6kHz、約15.8kHz、約20kHz、約25kHz、約31.6kHz、約39.8kHz、約50kHz、約63.1kHz、約79.4kHz、約100kHz、またはその間の任意の値の周波数を含む。より好ましくは、前記交流電圧は、少なくとも500Hzおよび最大で4.5kHzの周波数、さらにより好ましくは少なくとも750Hzおよび最大で3kHzの周波数、さらにより好ましくは少なくとも1kHzおよび最大で2.25kHzの周波数、例えば、約1kHz、約1.25kHz、約1.5kHz、約1.75kHz、約2kHz、または約2.25kHzの周波数を含む。最も好ましくは、前記交流電圧は約1.5kHzの周波数を含む。これらの数値仕様は、いわゆるソフトプラズマ条件またはいわゆるソフトプラズマ重合レジームである、すなわち、重合部位が選択的に活性化されるという制御された重合を可能とし、一方、第1および第2の前駆体モノマーの他の化学機能を維持する、プラズマプロセス条件である。
【0033】
好ましい実施形態では、誘電体バリア放電で発生するプラズマは、低温プラズマ、すなわち、プラズマ温度または隣接する表面温度が100℃未満であるとされる。好ましくは、放電は室温で実行される。
【0034】
図1に示す誘電体バリアシステムでは、プラズマガスを処理領域(8)の注入口から挿入(1)することができる。前記第1の前駆体(2)および前記第2の前駆体(5)は、プラズマガスに、好ましくはモノマー形態で、好ましくはプラズマガスが処理領域(8)に入る前に、導入することができる。システムは、プラズマガスを処理領域(8)に輸送する手段(図示せず)をそこに備えることができる。
【0035】
第1および第2の前駆体(2、5)はそれぞれ、霧化もしくは噴霧化された液体形態または蒸気化形態のいずれかでプラズマガスに導入することができる。プラズマガスに導入する前に、第1および/または第2の前駆体が室温で液体または気体形態でない場合、プラズマガスに導入する前にこれを液体または気体に変換する必要がある。第1および第2の前駆体はそれぞれ、プラズマガスに連続的にまたは不連続的に導入してもよい。好ましい実施形態では、第1および第2の前駆体(2、5)は、エアロゾル(4、7)の形態でプラズマガスに導入される。好ましくは、システムは、前記第1および前記第2の前駆体(2、5)のそれぞれのためのエアロゾル発生器(3、6)をそれに備える。
【0036】
好ましい実施形態では、第1および第2の前駆体は、前記第1および前記第2の前駆体それぞれに関して本質的に一定の流量で、前記処理領域に同時注入される。これにより、本質的に均一なコーティングがもたらされる。好ましくは、第1の前駆体および第2の前駆体はそれぞれ、少なくとも0.1標準リットル毎分(slm)および最大で約5slmの速度で、例えば、約0.1slm、約0.125slm、約0.16slm、約0.2slm、約0.25slm、約0.315slm、約0.4slm、約0.5slm、約0.63slm、約0.795slm、約1slm、約1.26slm、約1.58slm、約2slm、約2.5slm、約3.16slm、約3.98slm、約5slm、またはその間の任意の値の速度で霧化される。より好ましくは、第1の前駆体および第2の前駆体はそれぞれ、少なくとも0.2slmおよび最大で2slmの速度で霧化される。
【0037】
代替の好ましい実施形態では、第1および第2の前駆体は、第2の前駆体の流量を徐々に低下させかつ第1の前駆体の流量を徐々に増加させて、前記処理領域に同時注入される。これにより、組成勾配を含むコーティングがもたらされる。前記第2の前駆体の前記流量は、好ましくは第1の最大流量から本質的にゼロまたは無視できる流量まで、ある時間帯中に直線的に減少させることができる。前記第1の前駆体の前記流量は、好ましくは本質的にゼロまたは無視できる流量から第2の最大流量まで、前記時間帯中に直線的に増加させることができる。
【0038】
あるいは、前記減少および増加は、段階的なプロファイルに従って実行することができ、段階的なプロファイルは以下を含む:
- 第2の前駆体のみが注入される第1の時間帯;
- 第1の前駆体の流量が増加し、任意選択で第2の前駆体の流量が減少する、第2の時間帯;
- 第1および第2の前駆体それぞれに関して流量が非ゼロであり、本質的に一定である、第3の時間帯;
- 第2の前駆体の流量が減少し、任意選択で第1の前駆体の流量がさらに増加する第4の時間帯;ならびに
- 第1の前駆体のみが注入される第5の時間帯。
【0039】
前記第1、第3、および第5の時間帯はそれぞれ、前記段階的なプロファイルから省いてもよい。段階的なプロファイルに関するこれら変形はすべて、以下を含む超疎水性コーティングをもたらす:
- 内側コーティング表面上にもっぱらまたは主に第2の前駆体を含む第1のポリマー層;
- 露出した外側コーティング表面上に、もっぱらまたは主に第1前駆体を含む第2のポリマー層;および
- 第1のポリマー層と第2のポリマー層の間のコポリマー領域。
【0040】
好ましい実施形態では、前記プラズマガスは、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、窒素ガス(N)、空気、酸素(O)、アンモニア(NH)、メタン(CH)、アセチレン(C)、二酸化炭素(CO)、水素ガス(H)、またはそれらの混合物を含む。より好ましくは、前記プラズマガスはヘリウム(He)またはアルゴン(Ar)を含む。好ましい実施形態では、前記プラズマガスは、少なくとも1slmおよび最大で100slmのガス流量、例えば、約1slm、約1.26slm、約1.58slm、約2slm、約2.5slm、約3.16slm、約3.98slm、約5slm、約6.3slm、約7.95slm、約10slm、約12.6slm、約15.8slm、約20slm、約25slm、約31.6slm、約39.8slm、約50slm、約63slm、約79.5slm、約100slm、またはその間の任意の値のガス流量を含む。より好ましくは、前記プラズマガスは、少なくとも5slmおよび最大で50slmのガス流量、例えば、約20slmのガス流量を含む。プラズマガスの流量が高いと、大気に由来する不純物を、減らすこと、または本質的に無視できるレベルに維持することが可能となるので、有利である。好ましい実施形態では、処理空間におけるプラズマガスの滞留時間は、平均で少なくとも0.01秒および最大で10秒である。好ましい実施形態では、コーティングは、少なくとも10nm/分および最大で500nm/分の堆積速度、例えば、約10nm/分、約12.6nm/分、約15.8nm/分、約20nm/分、約25nm/分、約31.6nm/分、約39.8nm/分、約50nm/分、約63nm/分、約79.5nm/分、約100nm/分、約126nm/分、約158nm/分、約200nm/分、約250nm/分、約316nm/分、約398nm/分、約500nm/分、またはその間の任意の値の堆積速度で基材表面に堆積される。より好ましい実施形態では、コーティングは、少なくとも20nm/分および最大で250nm/分の堆積速度で、さらにより好ましくは少なくとも50nm/分および最大で160の堆積速度で、例えば、約50nm/分、約60nm/分、約70nm/分、約80nm/分、約90nm/分、約100nm/分、約110nm/分、約120nm/分、約130nm/分、約140nm/分、約150nm/分、約160nm/分、またはその間の任意の値の堆積速度で、基材表面に堆積される。
【0041】
第1の前駆体は、以下の重合性モノマーのうちの少なくとも1つまたはそれらの誘導体を含む:フルオロ-アクリレートモノマー、フルオロ-アルキルアクリレートモノマー、フルオロ-メタクリレートモノマー、フルオロ-アルキルメタクリレートモノマー、およびフルオロ-シランモノマー。したがって、第1の前駆体は、これらの重合性モノマーのうちの1つもしくはそれらの誘導体を含むことができる;またはこれらの重合性モノマーのうちの複数もしくはそれらの誘導体を含むことができる。
【0042】
好ましい実施形態では、前記第1の前駆体は、以下の式:CFR-(CF-(CR-Xを有する1つまたは複数のモノマーを含む。RおよびRはそれぞれ、互いに独立して、水素、フッ素、フルオロ-アルキル(C~C)、またはCFである。好ましくは、nは少なくとも3および最大で30である。RおよびRは、互いに独立して、かつRおよびRとは独立して、水素、アルキル(C~C)、またはヒドロキシルである。好ましくは、mは1、2、または3である。Xは0-CO-CR=CHR(式中、RおよびRは、互いに独立して、かつR、R、R、およびRとは独立して、水素またはメチル基である)であってもよい。あるいは、XはY-Si-(R(式中、Yは酸素であるか、または存在せず、Rは、R、R、R、およびRとは独立して、アルコキシ基である)であってもよい。
【0043】
より好ましい実施形態では、第1の前駆体は、以下の重合性モノマーからの1つまたは複数のモノマーを含む:1H,1H-ペルフルオロヘキシルアクリレート;1H,1H,5H-オクタフルオロペンチルアクリレート;1H,1H-ペルフルオロヘプチルアクリレート;1H,1H,7H-ペルフルオロヘプチルアクリレート;1H,1H-ペルフルオロオクチルアクリレート;1H,1H-ペルフルオロデシルアクリレート;1H,1H-ペルフルオロドデシルアクリレート;1H,1H,11H-ペルフルオロウンデシルアクリレート;1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシルアクリレート;1H,1H,2H、2H-ペルフルオロ-7-メチルオクチルアクリレート;1H,1H,2H、2H-ペルフルオロオクチルアクリレート;2-(ペルフルオロ-7-メチルオクチル)エチルアクリレート;1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルアクリレート;エイコサフルオロ-11-(トリフルオロメチル)ドデシルアクリレート;1H,1H,2H,2H-ペルフルオロドデシルアクリレート;3-(ペルフルオロ-3-メチルブチル)-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート;3-(ペルフルオロ-5-メチルヘキシル)-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート;1H,1H-ペルフルオロヘキシルメタクリレート;1H,1H,5H-オクタフルオロペンチルメタクリレート;1H,1H-ペルフルオロヘプチルメタクリレート;1H,1H,7H-ペルフルオロヘプチルメタクリレート;1H,1H-ペルフルオロデシルメタクリレート;1H,1H-ペルフルオロドデシルメタクリレート;1H,1H,11H-ペルフルオロウンデシルメタクリレート;1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシルメタクリレート;1H,1H,2H,2H-ペルフルオロ-7-メチルオクチルメタクリレート;1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチルメタクリレート;2-(ペルフルオロ-7-メチルオクチル)エチルメタクリレート;1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルメタクリレート;エイコサフルオロ-11-(トリフルオロメチル)ドデシルメタクリレート;1H,1H,2H,2H-ペルフルオロドデシルメタクリレート;ジ-イソプロピル1(1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシル)シラン;1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチルトリエトキシシラン;トリクロロ(1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチル)シラン;1H,1H,2H,2H-ペルフルオロ-オクチルトリメトキシシラン;3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン;(ペルフルオロアルキル)エチル-トリエトキシシラン;ノナフルオロヘキシル-トリエトキシシラン;およびビス(トリフルオロプロピル)テトラメチルジシロキサン。
【0044】
特に好ましい実施形態では、第1の前駆体はフルオロ-アルキルアクリレートモノマーを含む。最も好ましい実施形態では、第1の前駆体は、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルアクリレート(PFDA)モノマーを含む、図4を参照されたい。
【0045】
第2の前駆体は、以下のもののうちの少なくとも1つまたはそれらの誘導体を含む:直鎖状シロキサン、シランモノマー、シクロシロキサン、およびシクロシランモノマー。したがって、第2の前駆体は、これらの物質のうちの1つもしくはそれらの誘導体を含むことができる;またはこれらの物質のうちの複数もしくはそれらの誘導体を含むことができる。
【0046】
一実施形態では、第2の前駆体は、式R-Si(X)nY3~nで表される物質を含むことができる。RおよびXはそれぞれ、互いに独立して、アルキル基、アリール基、置換アルキル基、置換アリール基、炭素-炭素二重結合を含有する有機基、炭素-炭素三重結合を含有する有機基、またはエポキシ基である。Yは水素、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルコキシ基、またはアリル基である。nは0、1、2、または3に等しい整数である。RおよびXの例の非限定的なリストには、約1から約30個の炭素原子を含有するアルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ドデシル、シクロヘキシル等;約1から約30個の炭素原子を含有するハロゲン置換アルキル基、例えば、クロロメチレン、トリフルオロプロピル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル等が含まれる。Rは、約6から約60個の炭素原子を含有するアリール基、例えば、フェニル、アルキルフェニル、ビフェニル、ベンジル、フェニルエチル等;約6から約60個の炭素原子を含有するハロゲン置換アリール基、例えば、クロロフェニル、フルオロフェニル、ペルフルオロフェニル等;約6から約60個の炭素原子を含有するヒドロキシル置換アリール基、例えば、フェノール、ナフトール、クレゾール、ビナフタール等;約7から約60個の炭素原子のアルキル置換アリール基、例えばメチル、エチル、またはプロピルの各置換アリール基等;シアナイド(cynide)置換アリール基およびアミノ置換アリール基などの窒素原子を含有するアリール基、ならびに窒素原子を含有する5または6員の芳香族基;約1から約30個の炭素原子の炭素-炭素二重結合を含有する有機基、例えば、γ-アクリルオキシプロピル基、γ-メタクリルオキシプロピル基、およびビニル基等;約1から約30個の炭素原子の炭素-炭素三重結合を含有する有機基、例えば、アセチレニル等;エポキシ基を含有する有機基、例えば、γ-グリシドキシプロピル基およびβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基等、を含み得る。Yの例の非限定的なリストには、水素、塩素、臭素、フッ素などのハロゲン原子;ヒドロキシル基;メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ等のアルコキシ基;およびアリル基が含まれる。
【0047】
一実施形態では、第2の前駆体は、式[-(R)SiO-]で表される環状シロキサン、より具体的にはシクロポリ二置換シロキサンを含み得る。ここで、RおよびRはそれぞれ、互いに独立して、約1から約30個の炭素原子のアルキル基、約6から約60個の炭素原子のアリール基、または約1から約30個の炭素原子の置換アルキル基もしくは置換アリール基である。ここで、zは約3から約10の整数を表す。
【0048】
好ましい実施形態では、第2の前駆体は、以下のモノマーからの1つまたは複数のモノマーを含む:1,3-ジエテニル-1,1,3,3-テトラメチル-ジシロキサン;1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリビニルシクロトリシロキサン;2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラフェニルシクロテトラシロキサン;2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン;2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリフェニルシクロトリシロキサン;3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート;3-グリシドキシプロピルトリメトキシ-シラン;ベンジルトリメトキシシラン;ブロモフェニルシラン;ブロモフェニルトリメトキシシラン;シアノフェニルシラン;シアノフェニルトリメトキシシラン;シクロヘキシルメチルジメトキシシラン;デカメチルシクロペンタシロキサン;デカフェニルシクロペンタシロキサン;ジメチルジメトキシシラン;ジメチル-メチルハイドロジェンシロキサン;ジメチル-メチルビニルシロキサン;ジメチル-シロキサン;ジフェニルジメトキシシラン;ジフェニルジシラノール;ドデカメチルシクロヘキサシロキサン;ドデカフェニルシクロヘキサシロキサン;エチルトリメトキシシラン;フルオロフェニルシラン;フルオロフェニルトリメトキシシラン;ヘキサメチルシクロトリシロキサン;ヘキサフェニルシクロトリシロキサン;メチルトリエトキシシラン;メチルトリメトキシシラン;オクタメチルシクロテトラシロキサン;オクタフェニルシクロテトラシロキサン;オクチルトリメチルオキシシラン;フェニルエチルトリメトキシシラン;フェニルトリメトキシシラン;プロピルトリメトキシシラン;p-トリルトリメトキシシラン;トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルチルメトキシシラン;トリフルオロプロピルトリメトキシシラン;およびビニルトリメトキシシラン。
【0049】
特に好ましい実施形態では、第2の前駆体はシクロシロキサンを含む。適切な環状シロキサンの例の非限定的なリストには、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラフェニルシクロテトラシロキサン;2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン;2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリフェニルシクロトリシロキサン;2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリビニルシクロトリシロキサン;デカメチルシクロペンタシロキサン;デカフェニルシクロペンタシロキサン;ドデカメチルシクロヘキサシロキサン;ドデカフェニルシクロヘキサシロキサン;ヘキサメチルシクロトリシロキサン;ヘキサフェニルシクロトリシロキサン;オクタメチルシクロテトラシロキサン;およびオクタフェニルシクロテトラシロキサンが含まれる。最も好ましい実施形態では、第2の前駆体は、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン(V4D4)を含む、図5を参照されたい。
【0050】
一実施形態では、本発明の第1の態様による方法は動的条件で実行され、この場合、基材の表面の少なくとも一部が、1回目に第1および第2の前駆体を含むプラズマに曝露され、そして基材の処理された部分が、処理領域内で少なくとも2回目に、好ましくは多数回、第1および第2の前駆体を含むプラズマに曝露される。動的堆積条件は、より良好なコーティングの微細構造およびトポグラフィ、すなわちより均質な、したがってより良好な超疎水性特性を提供するという利点を含む。
【0051】
さらに、本発明による方法は、ワンステッププロセスであるという利点を提示する。硬化ステップ、またはさらなる硬化ステップは実行しなくてよい。粗度および/または表面の化学組成を制御するために、さらなる処理または後処理は必要ない。
【0052】
加えて、この方法には、広範囲の基材上で使用できるという利点がある。好ましくは、基材はシートである。コーティング可能な基材は、表面が平坦でも表面が湾曲していてもよい。基材は、様々な形態および形状を有し得る。コーティングされる基材は、箔、プレート、フィルム、織布材料、不織布材料等とすることができる。コーティングされる基材は、プラスチック、シリコン、ガラス、金属、セラミック等を含むことができる。
【0053】
好ましくは、超疎水性コーティングは、水に対して少なくとも150°の接触角を有する。
【0054】
本発明の第2の態様による基材コーティングは、撥水面、好ましくはマイクロ流体力学における、流体運動制御面、防氷面、付着防止面、防曇面、または自浄性面として使用することができる。
【0055】
本発明の基材コーティングは驚くべき形態を提示する。それは、高硬度の領域と軟質の格子のセクションとを結合している、ナノオーダーのドメインを備える。ナノオーダーのドメインは均質に分散し、ランダムに配向している。これにより、研磨拘束に対する高耐性および高弾性を備える超疎水性コーティングがもたらされる。
【0056】
本発明について、本発明をさらに例示する以下の非限定的な実施例によってさらに説明するが、これらは本発明の範囲を限定することを意図するものでもなく、また限定すると解釈されるべきものでもない。
【0057】
実施例
実施例1:連続的注入対同時注入
本発明の第1の態様による方法では、第1および第2の前駆体が処理領域に同時注入される。したがって、プラズマ処理中に、第1および第2の前駆体モノマーの共重合が起こる。さらに、高硬度の領域を軟質の格子の領域に結合している、ナノサイズのドメインが形成される。図3に概略的に示すように、ナノサイズのドメインは本質的に均質に分散し、ランダムに配向している。基材(20)上に、本発明の第1の態様による方法によりコーティング(24)が堆積され、この場合、ナノサイズのドメインが存在し、このドメインでは、ハードナノドメイン(22)がソフトナノドメイン(23)に結合しており、その結果、コーティングが、第1に超疎水性となり、第2に研磨拘束に対して高度に耐性となり、第3に高弾性となる。
【0058】
これは、第1および第2の前駆体の処理領域での交互連続注入と対比すべきものであり、図2を参照されたいが、この注入では、基材面の上面に交互に連続する層(22、23)を含む基材(20)のコーティング(21)がもたらされ、それによって、層(22、23)は、処理された基材表面に本質的に直交してスタックされている。
【0059】
実施例2:PFDA前駆体およびV4D4前駆体を含むコーティング
この例では、第1の前駆体は1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルアクリレート(PFDA;図4)モノマーを含み、第2の前駆体は2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン(V4D4;図5)モノマーを含む。誘電体バリア放電(DBD)システム(図1)が使用されており、これは約2mmのギャップを備える。DBDは、誘電体バリア材料で分離された接地された底部アルミニウム電極と2つの高電圧アルミニウム電極との間で発生させた。プラズマ放電は、約1.5kHzの周波数を含む正弦波電圧を発生するAC電源によって発生させた。放電は電力密度が約0.0625W/cmであった。プラズマ重合の場合、PFDAとV4D4の両方の霧化をTSI3076デバイスで実行して、0.1から5slmの範囲の前駆体流量を得た。HeまたはArを含み、約20slmの流量を含むプラズマガス中に、前駆体を入れた。約100nm/分の堆積速度を得た。前駆体エアロゾルを含有するガス混合物を、処理領域のソフトプラズマに直接注入した。プラズマ放電による堆積は、大気圧および室温で実行した。処理は動的モードで実行した。同時注入された両方のモノマーのキャリブレーションは、コーティング材料で実行した質量分析を使用することによって得た。
【0060】
図6に、初期のV4D4プラズマポリマーで実行したMALDI質量スペクトルを示す。図7に、初期のPFDAプラズマポリマーで実行したMALDI質量スペクトルを示す。図8に、交互層(図2図8の上半分参照)および本発明によるコーティング(図3図8の下半分参照)を含む多層構造体のMALDI質量スペクトルの比較を示す。軽微な強度変化にもかかわらず、多層構造体について得られたすべてのピークが、本発明によるコーティングについても観察することができる。いずれの場合も、共重合が発生している。本発明によるコーティングでは、共重合により、ランダムに配向したナノドメインがもたらされている。
【0061】
水接触角は、導入したモノマーの混合物およびプラズマ条件を調節することで調整できる。水接触角の測定を行い、150°から170°までの接触角が得られた。
【0062】
本発明によるコーティングの機械的特性は、導入されたモノマーの混合物を調節することにより調整することができる。図9に、V4D4含有量の増加に応じた弾性率の上昇を示す。得られた弾性率は、他の点では同様の特性を備えた、先行技術による多層コーティングの場合よりも有意に大きい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9