(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】積層造形プロセスにおける製造及び粉末の劣化の予測方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/73 20210101AFI20240325BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240325BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240325BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20240325BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20240325BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240325BHJP
B22F 10/34 20210101ALI20240325BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240325BHJP
B22F 10/80 20210101ALI20240325BHJP
【FI】
B22F10/73
B33Y10/00
B33Y50/02
B29C64/393
B29C64/153
B33Y80/00
B22F10/34
B22F10/28
B22F10/80
(21)【出願番号】P 2020545896
(86)(22)【出願日】2018-11-23
(86)【国際出願番号】 GB2018053386
(87)【国際公開番号】W WO2019102203
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-11-12
(32)【優先日】2017-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2018-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517102994
【氏名又は名称】エルピーダブリュ テクノロジー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LPW TECHNOLOGY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110004059
【氏名又は名称】弁理士法人西浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】フェラー,ベン
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-161031(JP,A)
【文献】国際公開第2017/060600(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0054205(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02875933(EP,A1)
【文献】ARDILA L C; ET AL,EFFECT OF IN718 RECYCLED POWDER REUSE ON PROPERTIES OF PARTS MANUFACTURED BY MEANS OF SELECTIVE LASER MELTING,PHYSICS PROCEDIA,NL,ELSEVIER,2014年09月09日,VOL:56,PAGE(S):99 - 107,http://dx.doi.org/10.1016/j.phpro.2014.08.152
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形機に、容器が構造及び未融解粉末を含むように、粉末床内の粉末を融解することによって前記容器および前記構造を造形させ、前記造形のプロセスによって生じた前記粉末の劣化の程度を判定するために、前記容器内の前記未融解粉末を分析するステップを含む製造方法。
【請求項2】
前記容器は、カプセルである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記容器は、基部から上昇するにつれて互いに分岐し、続いて上部に向かって互いに近づく1以上の側壁を含む請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記容器は、2つの対向する円錐またはピラミッドの形態を有する請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
力を受けた際に前記容器が優先的に壊れる脆弱ラインが前記容器内に形成され、前記脆弱ラインは、壁厚が減少した領域を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記容器の対向する端部のそれぞれに部分が設けられ、前記部分は、スパナ、スクリュードライバ、キーまたはレンチと接続するように形作られている請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
複数の容器が単一の造形中に全て製造され、前記複数の容器が複数のタイプの容器を含み、各タイプの容器は前記容器の内部に異なるタイプの構造を含む請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
各容器の1以上のパラメータが実質的に同じである請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記構造が占める各容器の内部容積の割合は、実質的に同じである請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
各容器の前記内部容積は、実質的に同じである請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記容器内の前記構造は、複数の薄い部分及び複数の厚い部分を含んでおり、
前記複数の薄い部分は前記積層造形機のビーム幅の10倍より小さく、前記複数の厚い部分は前記積層造形機のビーム幅の10倍より大きい請求項7乃至10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記複数の薄い部分は、前記ビーム幅の最大8倍であり、前記複数の厚い部分は、前記ビーム幅の少なくとも12倍である請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
それぞれ異なるタイプの容器内の前記構造は、実質的に垂直な複数の壁、実質的に垂直な複数のロッド及び格子構造、を含むか、またはそれらからなる請求項11または12に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法に従って、実行時に前記積層造形機に1つまたは複数の容器を造形させる積層造形機のための一連の命令。
【請求項15】
他の造形のプロセスでの粉末の劣化を予測するために前記劣化の程度を使用するステップを含む請求項1乃至13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
各容器からの未融解粉末を個別に分析して、前記造形のプロセスによって生じた前記劣化の程度を判定し、少なくともいくつかの前記容器からの前記粉末の劣化の程度を使用して、粉末の劣化を予測する請求項7に直接的または間接的に従属する請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
未融解粉末は、そのバルク酸素含有量を測定することによって分析され、前記造形のプロセスによって生じた未融解粉末の前記劣化の程度を判定する請求項15または16に記載の製造方法。
【請求項18】
1以上の容器からの未融解粉末の分析を使用して、複数の構造的特徴を含む、または複数の構造的特徴からなる構造の造形によって生じる劣化率に関する情報を得て、複数の構造的特徴の造形に関連する劣化率を導き出す請求項15または16に記載の製造方法。
【請求項19】
前記容器または各容器が閉じられており、前記製造方法は、前記容器または各容器を壊して開いて未融解粉末を除去するステップを含む、請求項15乃至
18のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記積層造形機から前記カプセルを除去するステップを含む請求項2に直接または間接的に従属する請求項15乃至
19のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形プロセスを用いて容器を造形する製造方法に関する。容器は、積層造形(AM)プロセスでの粉末の劣化を予測するために使用できる。本発明はまた、積層造形プロセスにおける粉末劣化を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既知のAMプロセスでは、AM機は、金属または合金などの粉末材料から物品を製造する。AM機は、造形プラットフォーム上に粉末の層を堆積させ、その後、粉末は、典型的にはレーザーまたは電子ビームを用いて、選択的に融解またはそうでなければ固化されて、1つまたは複数の物品を形成する。このプロセスは繰り返され、その結果、物品は層ごとに形成される。
【0003】
造形が完了すると、未融解の粉末は他の造形で再利用してもよい。
【0004】
造形作業中、未融解の粉末は劣化する。金属粉末は、例えば、徐々に酸化する可能性があり、これにより、その特性、したがって粉末から製造された物品の特性が変化する。粉末が酸化する傾向は、典型的には、温度とともに増加し、温度に曝されると、他の粉末特性にも影響がある。その結果、未融解の粉末は、造形中の物品または加熱ゾーンに近いほど、劣化する可能性が高くなる。
【0005】
また、粉末が融解すると、そのプロセスによって、加熱された粉末の顆粒が粉末床(powder bed)から製造した物品の周囲に飛散し、物品周囲の未融解のバルク粉末の品質が劣化する可能性がある。
【0006】
物品の適切な造形品質を確保するために、粉末がある程度劣化した場合は、通常は粉末のリサイクルを停止する。これは、バルク酸素含有量測定を行って粉末の酸化の程度を判定するなど、粉末を分析することによって、または粉末のバッチがリサイクルされる回数を単に制限することによって、決定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態の目的は、造形作業によって粉末がどのように劣化するかを予測することである。これにより、粉末の最適な使用が可能になり、粉末の劣化を最小限に抑えるように造形作業を設計することもできる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、AM機に、容器が構造及び未融解粉末を含むように、粉末を融解することによって容器および構造を造形させるステップを含む製造方法を提供する。
【0009】
構造と未融解粉末を含む容器を造形すると、未融解粉末を後に分析して、構造の造形による影響を判定できる。未融解粉末が構造を直接取り囲んでいることを考慮すると、AM機内の未融解粉末全体の中で、粉末は構造を造形することによって最も影響を受ける部分である。構造は、構造的特徴の特定のクラスなど、対象となる特定の特徴を含むように設計することができる。
【0010】
各容器は、任意の適切な形態を有することができ、例えば、構造を取り囲むAM機の造形プラットフォーム上に構築された側壁によって形成されてもよい。したがって、構造は造形プラットフォーム上で造形することもできる。側壁は、実質的に円形または任意の他の適切な閉じた形状であってもよい。側壁は、実質的に垂直であっても、分岐または収束していてもよい。容器は、上部が開いていてもよい。この場合、分析のために容器から取り出された未融解粉末は、容器の周囲にある、および/または他の容器に含まれている未融解粉末と混ざらないように取り除く必要がある。
【0011】
あるいは、容器は閉じられてもよく、カプセルを形成してもよい。この場合、方法は未融解粉末を取り出すために、1つの容器または各容器を壊して開くことを含んでもよい。このステップは、容器を造形プラットフォームから取り外した後に行われ(容器を開かずに達成できる)、取り扱いと容器に含まれる未融解粉末の汚染の回避とを簡単にする。1つの容器または各容器は、1つまたは複数の側壁を備えることができ、それらは、基部から上昇するにつれて、互いに分岐し、続いて上部に向かって互いに近づく、2つの対向する円錐またはピラミッドの形態を有することができる。
【0012】
力を受けた際に容器が優先的に壊れる脆弱ラインが容器内に形成されてもよい。脆弱ラインは、壁厚が減少した領域を含んでもよい。
【0013】
1つの容器または各容器は、ツールまたは装置によって受け入られる、若しくはツールまたは装置に接続されるように形作られた部分を含み、それにより、造形プレートからの容器の取り外しを容易にする、および/またはカプセルに包まれた粉末を放出するために容器を開きやすくしてもよい。それぞれの部分は、容器の対向する端部のそれぞれに設けられてもよい。部分/または各部分は、スパナ、スクリュードライバ、キーまたはレンチと接続するように形作られていてもよい。
【0014】
AM機は、複数の容器が単一の造形中に造形され、複数の容器が1以上のタイプの容器を含み、各タイプの容器は異なるタイプの構造を含むようにしてもよい。次に、各容器からの未融解粉末を個別に分析して、造形プロセスによって生じる劣化の程度を判定してもよい。これにより、異なるタイプの構造を造形する際の粉末への影響を測定することができる。次に、少なくともいくつかの容器からの粉末の劣化の程度を使用して、粉末の劣化を予測してもよい。
【0015】
各容器の1以上のパラメータが実質的に同じでもよい。構造が占める各容器の内部容積の割合は、実質的に同じであってもよい。各タイプの容器の内部容積は、実質的に同じであってもよい。これは、各容器内の溶解比(melt ratio)が同じになってもよいことを意味し、異なる容器間の未融解粉末の有効な比較を容易にする。
【0016】
各容器の構造は、1のクラスの構造的特徴によって占められていてもよい。異なるタイプの容器の1以上の他のパラメータは、実質的に同じであってもよい。これらの特徴はどちらも、各容器間で粉末の劣化の測定に影響を及ぼしている、対象となる特定のクラスの構造的特徴の変化であることを確認するのに役立つ。
【0017】
各容器は、異なる量のクラスの構造的特徴を有する構造を含むことができ、これは同じクラスの構造的特徴であってもよい。これは、各容器からの未融解粉末を比較することにより、粉末劣化に対する特定のクラスの構造的特徴の量の影響を判定することを可能にする。
【0018】
各容器内の構造は、異なるクラスの構造的特徴によって占められていてもよい。異なる複数のタイプの容器内のそれぞれの構造は、存在する任意の他の構造的特徴の1つ以上の他のクラスの実質的に同じ非支配的な量を含んでいてもよい。理想的には、異なる複数の容器の特定のグループ間で変化するのは、対象となる特定のクラスの構造的特徴の量のみである。
【0019】
そのような複数の容器の複数の異なるグループを造形してもよく、各グループは、異なるクラスの構造的特徴の量を変化させることの影響の測定を可能にする。
【0020】
1つ実施形態では、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の異なる複数のタイプの容器内の複数の構造は、それぞれ、異なるクラスの構造的特徴によって占められている。そして、同じクラスの構造的特徴によって占められる複数の構造を持つ少なくとも2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の容器が存在してもよい。。
【0021】
異なる複数のタイプの容器内に含まれる複数の構造は、それぞれ以下のクラスの構造的特徴、すなわち、複数の薄い部分(section)、複数の厚い部分及び複数の下向きの表面によって占められている。
【0022】
複数の薄い部分は複数の薄い壁の構造であってもよい。
【0023】
複数の薄い部分と複数の厚い部分を有する特徴は、実質的に垂直な複数のサイドを有してもよい。
【0024】
複数の薄い部分はAM機のビーム幅の約10倍より小さく、複数の厚い部分はAM機のビーム幅の約10倍より大きくてもよい。例えば、AM機のビーム幅は70μmで、複数の薄い部分と複数の厚い部分の境界が700μmになっていてもよい。複数の薄い部分は、ビーム幅の最大8倍であり、複数の厚い部分は、ビーム幅の少なくとも12倍であってもよい。
【0025】
それぞれ異なるタイプの容器内の構造は、実質的に垂直な複数の壁、実質的に垂直な複数のロッド及び格子構造、を含むか、またはそれらからなっていてもよい。
【0026】
本発明はまた、上述の任意の特徴を伴うかまたは伴わずに、AM機に本発明の第1の態様による1つまたは複数の容器を造形させる一連の命令を提供してもよい。
【0027】
本発明はまた、上述の任意の特徴を伴うかまたは伴わずに、第1の態様による特徴のいずれかを有する1つまたは複数の容器をAM機に造形させるステップを含む、AMプロセスにおける粉末劣化を予測する方法を提供する。
【0028】
この方法は、未融解粉末を容器または各容器から取り出すことを含んでいてもよい。
【0029】
未融解粉末は、そのバルク酸素含有量を測定することによって分析され、造形のプロセスによって生じた未融解粉末の劣化の程度を判定することができる。
【0030】
造形プロセスによって生じる粉末の劣化の程度を使用して、複数のクラスの構造的特徴を含む、または複数のクラスの構造的特徴からなる構造の造形によって生じる劣化率に関する情報を得て、1以上のクラスの構造的特徴の造形に関連する劣化率を導き出してもよい。
【0031】
この方法はさらに、造形されるべき物品に含まれる、劣化率が得られた複数のクラスの構造的特徴の量(または相対量)を判定することにより、他の造形プロセスで造形されるべき物品を特徴付け、且つ物品を造形することによって生じるであろう粉末の劣化の程度を予測するために、これらの量に劣化率を適用する。
【0032】
造形されるべき2以上の異なる物品は、複数の異なる物品の造形により生じる相対的な粉末の劣化を予測するように特徴付けられてもよい。
【0033】
物品を異なる配向で造形することにより生じるであろう粉末劣化を予測するために、同じ物品が2以上の異なる造形配向で特徴付けられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図2】
図1のAM機の造形プラットフォームの平面図であり、AM機によって形成された配列したカプセルを示している。
【
図3】
図2の造形プラットフォームの側面図である。
【
図6】
図4のカプセルの斜視図であり、カプセル内部の粉末を取り除くことができるように、カプセルの一端が取り除かれている。
【
図9】
図4のカプセルと外観は同じであるが内部構造が異なる、異なるタイプのカプセルの
図7に対応する断面図である。
【
図11】
図4のカプセルと外観は同じであるが内部構造が異なる、さらに異なるタイプのカプセルの
図7に対応する断面図である。
【
図13】劣化率に対する構造的特徴のタイプを図示したチャートである。
【
図14】AM機で造形する第1の物品を示している。
【
図15】AM機で造形する第2の物品を示している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明をより明確に理解できるようにするために、添付の図面を参照して、1以上の実施形態を例としてのみ説明する。
【0036】
図面を参照すると、通常、従来のAM機1は、AM機の表面4の窪みに配置された可動支持体3上に配置された造形プラットフォーム2を備える。粉末分配ヘッドおよび/またはワイパーブレード5は、移動して粉末の層(通常は金属粉末)を造形プラットフォーム2上に堆積させて粉末床(powder bed)14を形成するように配置される。レーザー6は、ビーム7が造形プラットフォーム上に堆積された粉末の表面を横切って走査するように配置され、堆積された層の粉末を選択的に融解して造形物を形成する。融解ステップに続いて、可動支持体がわずかに窪みの中に下げられ、粉末の新しい層が堆積され、選択的に融解するというプロセスが繰り返される。層ごとに造形されている物品を造形するために、完了するまでプロセスが繰り返される。完了すると、完成した物品が造形プラットフォーム2とAM機1から取り除かれ、未融解の粉末は別の造形プロセスで再利用される。
【0037】
特定の粉末がどのように劣化するか、および特定の造形作業が作業で使用される粉末の劣化をどのように引き起こすかを予測できるようにするために、AM機は、造形プラットフォーム2を横切って配置された異なる複数タイプの複数のカプセル8の形の複数の容器の配列を造形する。
【0038】
各カプセルは、おおよそ2つの対向する中空の円錐(またはフラストレイテッドコーン[frustrated cone])の形状で、2つの円錐は基部で互いに接続されている。2つの円錐は、囲まれた空間を画定するカプセルの複数の壁9を形成している。カプセルが自己支持型(self-supporting)であることは、AM機内での造形に便利な構造である。カプセル内に構造が形成され、これがカプセルのタイプを決定する。構造によって占有されていないカプセル内の空間には、造形プロセス中に置かれた未融解粉末が含まれ、カプセルに封入される。
【0039】
カプセルの各端部には、略円筒形のヘッド10が形成されている。複数のヘッド10の1つに隣接して、壁9を薄くすることによって脆弱ライン(line of weakness)11がカプセルの側壁の周りに完全に形成され、カプセルの開放を容易にしている。使用中、カプセルの残りの部分が、例えばカプセルの反対側の端を別のツールを使用して固定されている間、または単にカプセル8が造形プラットフォーム2上に形成されていることにより、ツールは、脆弱ライン11に隣接するヘッド10にトルクを加えるために使用される。このトルクにより、カプセルは脆弱ライン11に沿って優先的に壊れる。
【0040】
同様に、ツールを使用して、造形プラットフォームに隣接するヘッド10にトルクを加えて、カプセルを造形プラットフォームから切り離す。これを容易にするために、造形プラットフォームに接続する場所のヘッドの直径を減少させてもよい。
【0041】
一方または両方のヘッドは、トルクまたは他の力をヘッドに加えるためのツールの使用を容易にする特徴を備えて形成することができる。例えば、スパナがヘッドと係合することを可能にするために、ヘッドは六角形の断面を有してもよく、または適切な2以上の対向する平らな側面を有していてもよい。
【0042】
各タイプのカプセルの内部構造は、造形されるべき物品の一部を形成する可能性がある1以上のクラスの構造的特徴を備え、好ましくはそれによって占有される。特に、1つのタイプのカプセルの内部構造は、他のタイプのカプセルのいずれよりも多くの量の1以上のクラスの構造的特徴を含み得る。
【0043】
図7および8を参照すると、第1のタイプのカプセルは、カプセルの中程でカプセルを形成する下部円錐の内面から垂直または実質的に垂直に延びる複数のまっすぐで平行な等間隔の複数の内壁12を含んでいる。これら複数の内壁は、およそ円錐の基部の平面で終端する。垂直または実質的に垂直とは、カプセルがAM機の中で造形されるときと同じこの方向で、複数の内壁が形成されることを理解されたい。図示の例では、それぞれ厚さが約500μmの壁が18個ある。これらの壁は実質的に同じ平面で終端するので、これらの壁の高さは異なる。カプセルの壁9の円錐形状により、各内壁12は二等辺三角形の形状を有する。最も高い三角形の壁の高さは、その厚さの約40倍である。最も短い三角形の壁の高さは、その厚さの約3倍である。その結果、複数の内壁の表面エリアの大部分は垂直面で構成されている。
【0044】
複数の内壁12は、典型的には約70μmであるレーザービーム7の幅の10倍未満の厚さを有する。このように、複数の内壁は薄い断面を持つ構造として分類される。
【0045】
複数のカプセル8の配列は、
図7および8に示されるものと同じサイズであるが、異なる数の薄い複数の内壁を有する類似の内部構造を有する複数のカプセルを含んでいる。したがって、内部構造が無視される場合、各カプセルは実質的に同じ体積を持つが、体積中に封入された異なる量の薄壁構造と体積内の異なる溶解比の粉末を持つ。つまり、カプセルの体積に対する薄壁構造の比率は、カプセルのタイプによって異なる。
【0046】
ここで
図9と10を参照すると、第2のタイプのカプセルは複数のロッド13を含み、これらのロッド13のほとんどが実質的に円形の断面を持ち、実質的に直線で、カプセルの中程でカプセルを形成する下部円錐の内面から垂直または実質的に垂直に延びている。その結果、複数のロッドは、およそコーンの基部の平面で終端する。垂直または実質的に垂直とは、カプセルがAM機の中で造形されたのと同じこの方向で、複数のロッドが形成されることを理解されたい。複数のロッドは、規則的な長方形の配列に並べられ、実質的に直線で平行に離間した列に並べられ、各列において、複数のロッドは、複数の列が互いに離間しているのと同じ距離だけ均等に互いに離間している。図示の例では、複数のロッドの直径は約3.0mmである。したがって、複数のロッド13の直径は、レーザービーム幅の10倍よりもかなり大きい。したがって、複数のロッドは断面が厚い構造として分類される。
【0047】
複数カプセル8の配列は、
図9と
図10に示したものと同じサイズの複数のカプセルで構成されるが、カプセル間で複数のロッドの直径がかわるように、異なる直径の異なる数のロッドを持つ類似の内部構造を備える複数のカプセルを含んでいる。複数のロッドの体積とカプセルの残りの内部体積の比率は実質的に同じであり、つまり、その体積内の粉末の溶解比は同じである。
【0048】
ここで
図11および12を参照すると、第3のタイプのカプセルは、カプセルを実質的に満たす格子構造14を含む。格子構造は組み合わされた複数のストリップ材料(interlaced strips of material)で構成されている。複数のストリップの厚さは、それらの幅より大幅に小さく、上述した第1のタイプのカプセルの複数の内壁12の厚さと同程度か、またはそれ未満である。下部の円錐の内面から垂直方向に延びている格子の部分はないか、または実質的にない。その結果、格子には複数の下向きの面が存在する。
【0049】
複数のカプセル8の配列は、
図11および12に示されているものと同じサイズの複数のカプセルで構成されるが、カプセル間では異なる格子構造を備えており、例えば、わずかに厚い複数のストリップまたはより薄い複数のストリップを有するものや、下向きの面の領域が異なるものがある。しかしながら、カプセルの内部体積に対する格子構造の体積の比率は実質的に同じである。すなわち、その体積内の粉末の溶解比は同じである。
【0050】
複数のカプセル8の配列は、図示された3つのタイプのカプセルのそれぞれのほぼ同数の3つの異体(variants)をそれぞれ含む。つまり、異なる数の複数の薄い垂直壁を有する少なくとも3つのカプセル、異なる厚さの異なる数の複数の垂直ロッドを備えた少なくとも3つのカプセル、および下向きの面の領域が異なるがほぼ同じ体積の格子を持つ少なくとも3つのカプセルが含まれる。複数のカプセルは、それぞれの異なるタイプのカプセルの各異体が配列全体にほぼ均一に分布するように配置される。
【0051】
カプセルが造形されたら、ヘッド10を取り外して(任意で)、カプセルを造形プレートから取り外して開く。各カプセルに含まれる未融解の粉末を出して分析し、未融解の粉末を未使用の粉末と比較して劣化の程度を判定する。金属粉末の場合、粉末の酸化の程度を判定するためにそのバルク酸素含有量を測定するなど、粉末の劣化量を分析するための任意の適切な技術を使用することができる。各カプセルに含まれる未融解粉末は個別に分析することができ、および/または同一のカプセルのそれぞれに含まれる未融解粉末を互いに組み合わせて単一のサンプルとして分析することができる。各カプセルに含まれる粉末を個別に分析する場合、造形プレート上のカプセルの位置を記録する。
【0052】
したがって、粉末の分析は、各タイプのカプセル内に形成された異なるタイプの構造の構築の結果として、粉末のタイプおよび/または劣化の程度を明らかにする。特に、同じタイプの構造を備えたカプセルの複数の異なる異体から取り出された粉末の劣化の量を比較することにより、劣化について複数の異体間で変化する1つまたは複数のパラメータの影響を推測することが可能である。例えば、
図9と
図10に示されているカプセルのタイプの複数の異体間で変化するパラメータは、壁厚構造(thick wall structure)の量である。したがって、このタイプのカプセルの複数の異体に封入された粉末の劣化のレベルの違いは、粉末の劣化率に対する厚肉構造の量の影響を示している。同様に、
図11と12に示されているカプセルのタイプの複数の異体間の粉末劣化の違いは、下向きの表面が劣化に及ぼす影響を反映している。
図7および8に示すタイプのカプセルでは、複数の異体間で薄肉構造(thin section structure)の量と溶解比の変化の両方が発生するため、薄肉構造の量の変化の影響をより正確に判定するために、溶解比の変化に補正を適用してもよい。これにより、複数のカプセルに含まれる3つのクラスの構造に起因する相対的な劣化率の分析が可能になる。
【0053】
図13は、構造のタイプに対する劣化率のプロット例を示しています。プロットは、エラーバー(error bar)として平均からの標準偏差を使用して、各タイプの関連するすべてのカプセルから判定された平均劣化率を示している。
【0054】
情報の信頼性を高めるために、同じバージンバッチ(virgin batch)の粉末からの粉末を使用して1つ以上のさらなるカプセルのセットを構築し、異なる造形作業で構築された同じタイプのすべてのカプセルの結果を使用して粉末の劣化の平均値を計算することができる。
【0055】
任意により、内部に構造を持たない1つ以上の追加のカプセルを他のカプセルと同時に構築し、それらのカプセルに封入された粉末も分析する。これにより、構造を含む複数のカプセル内の粉末の劣化を比較できるいくつかの制御データが効果的に提供される。
【0056】
同じタイプの異なるカプセルからの粉末の劣化を比較することによる粉末の分析は、造形プラットフォーム上の位置が粉末の劣化に影響する程度も明らかにする。
【0057】
得られた情報は、所定の物品を造形するために使用されたときに粉末がどのように劣化するかを予測するために使用することができる。
【0058】
これは、粉末劣化データを取得するために造形された複数のカプセルの複数のタイプに含まれるものに対応する複数のクラスの複数の構造的特徴の量または相対的な量によって特徴を判定するために造形される物品を分析することによって達成される。次に、各構造的特徴が粉末の劣化を生じさせる程度について得られた情報を使用して、物品を造形するときに未融解粉末の予想される全体の劣化を示す全体値を計算することができる。
【0059】
これは、問題になっている物品を造形するときに、粉末の使用可能な寿命を推定できるので有用である。また、これは物品が含む複数の構造的特徴の複数のクラスに影響を与えるため、物品のデザインや物品が造形される向きを最適化するのにも有用である。なぜならば物品の造形配向を参照して複数の構造的特徴の複数のクラスが判定されるためである。
【0060】
例えば、AM機を使用して、未使用粉末(virgin powder)を使用して造形プレート全体に均等に分散された27個のカプセルの配列を構築した。配列には、上記の3つのタイプの3つの異体のそれぞれの3つのカプセルが含まれている。第1のタイプは、他のタイプのいずれよりも大きい量の複数の薄い部分(thin sections)を有する構造を含む。第2のタイプは、他のタイプのいずれよりも大きい量の複数の厚い部分(thick sections)を有する構造を含む。第3のタイプは、他のタイプのいずれよりも大きい量の下向きの複数の表面を有する構造を含む。いずれの場合も、主要な構造的特徴タイプの量は、カプセルの各タイプの各異体間で異なる。
【0061】
各カプセルは、開かれ、カプセルに含まれる未融解の粉末が出されて分析され、そのバルク酸素含有量が判定された。各タイプのカプセルの各異体に含まれる未融解粉末のバルク酸素含有量の平均値が計算された。次に、これらの値を未使用粉末の測定されたバルク酸素含有量を標準化し、各タイプのカプセルに含まれる各構造の造形によって生じた相対的な劣化度を反映する相対的な粉末劣化要素を判定した。次に、各タイプのカプセルの各異体の結果の相違が計算され、各カプセルで支配的な異なるクラスの構造的特徴を造形することによって生じる粉末の相対的劣化率を推測するために使用された。
【0062】
データの例を
図13に示す。
図13は、構造タイプの相対的劣化率を次のように示している。
【0063】
【表1】
次に、このデータを使用して、物品を造形するときに未融解粉末に生じる粉末劣化の程度を推定した。物品の構造は、提案された造形配向で分析され、劣化率が得られた構造的特徴のクラスの相対的比率に従って構造が特徴付けられた。構造の各クラスの比率の値が判定され、カプセル内の未融解粉末の分析によって判定されたそれぞれの粉末劣化要素が乗算され、組み合わされて、物品の造形時に未融解粉末の生じうる劣化を反映する全体的な値が生成された。この値は、物品及び/又は異なる物品の異なる造形配向について計算された同様の値と比較し、未融解粉末の劣化を減らすために造形を最適化したり、及び/又は特定の造形作業において、粉末を再利用する程度を決定したりするために使用できる。
【0064】
物品15の例を
図14に示す。この物品の構造は、対象となるクラスの構造的特徴を反映する表面積の比率を調べることによって分析される。この場合、表面積の40%が下向きになる。下向きの表面は、向きの角度に関係なく、支持されていない下向きの表面として分類される。その表面の30%は、10のビーム幅よりも厚い部分に延びている。表面の残りの30%は垂直壁である(得られた劣化率、または適用可能な劣化率ではない)。
【0065】
したがって、以下のように構造的特徴の各クラスの比率に劣化率を適用することにより、物品の一般的な粉末摩耗率(powder wear rate)を演算することができる。
40% × 3 = 1.2
30% × 2 = 0.6
合計= 1.8
別の例の物品16を
図15に示します。これは、
図14と同じ溶解比だが、形状が異なる。この場合、表面積の25%が複数の薄い壁に広がり、残りは複数の垂直の壁である。したがって、この物品の一般的な粉末摩耗率は次のように演算される。
25% × 1 = 0.25
合計= 0.25
したがって、2番目の物品を造形すると、最初の物品を造形するよりも粉末の劣化が大幅に少ない結果が期待でき、最初の物品よりも2番目の物品を造形するときに、より多くの回数、粉末をリサイクルできる。
【0066】
当然のことながら、上述以外の他のクラスの構造的特徴を分析するために、異なるタイプのカプセルを構築することができる。
【0067】
上記の実施形態は、例としてのみ説明されている。添付の特許請求の範囲で定義される本発明の範囲から逸脱することなく、多くの変形が可能である。