(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/00 20160101AFI20240325BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240325BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20240325BHJP
【FI】
A23L29/00
A23L33/105
A23L2/52
(21)【出願番号】P 2020559271
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2019048404
(87)【国際公開番号】W WO2020122100
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2018232453
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】池田 正幸
(72)【発明者】
【氏名】岩本 洋
(72)【発明者】
【氏名】篠田 一三
(72)【発明者】
【氏名】武田 安弘
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-038396(JP,A)
【文献】特開2017-002009(JP,A)
【文献】特開2016-169219(JP,A)
【文献】特開2015-174842(JP,A)
【文献】特開2015-036369(JP,A)
【文献】特表2008-513349(JP,A)
【文献】特表2008-500322(JP,A)
【文献】特開2006-320308(JP,A)
【文献】特開2001-299273(JP,A)
【文献】特開2001-238640(JP,A)
【文献】特開2008-118869(JP,A)
【文献】国際公開第2012/074088(WO,A1)
【文献】特開2008-212100(JP,A)
【文献】特開昭63-214144(JP,A)
【文献】特開2019-167336(JP,A)
【文献】特開2015-221761(JP,A)
【文献】LI, Y. et al.,Nanoemulsion-based delivery systems for poorly water-soluble bioactive compounds: Influence of formulation parameters on polymethoxyflavone crystallization,Food Hydrocolloids,2012年,vol.27, no.2,p.517-528
【文献】DAN, Q. et al.,Characteristic of interaction mechanism between β-lactoglobulin and nobiletin: A multi-spectroscopic, thermodynamics methods and docking study,Food Res. Int.,2019年01月06日,Vol.120,p.255-263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中に
ノビレチン又はタンゲレチンであるポリメトキシフラボノイド及び
ラクトフェリンを存在させて、ポリメトキシフラボノイドの溶解性を向上させる方法。
【請求項2】
前記ポリメトキシフラボノイドが、柑橘類エキ
スによって前記水性媒体に加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ラクトフェリンを有効成分として含む、
ノビレチン又はタンゲレチンであるポリメトキシフラボノイドの溶解性向上用組成物。
【請求項4】
前記ポリメトキシフラボノイドが、柑橘
類に由来するものである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
細胞膜に接触する水性媒体中にポリメトキシフラボノイド及び乳蛋白質を存在させて、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性を向上させる方法。
【請求項6】
前記乳蛋白質が、ラクトフェリンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリメトキシフラボノイドが、ノビレチン又はタンゲレチンである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
乳蛋白質を有効成分として含む、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性向上用組成物。
【請求項9】
前記乳蛋白質が、ラクトフェリンである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記ポリメトキシフラボノイドが、ノビレチン又はタンゲレチンである、請求項8又は9に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上方法に関し、特には乳蛋白質を用いたポリメトキシフラボノイドの溶解性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメトキシフラボノイドは、生体に対する種々の作用を有することが示されている。これら作用に着目し、例えば、飲食品にポリメトキシフラボノイドが添加される。しかしながら、ポリメトキシフラボノイドは難溶性であるため、飲食品として利用することが困難である場合がある。
【0003】
これまでに、ポリメトキシフラボノイドの溶解性を向上させるための手法がいくつか提案されている。特許文献1には、ノビレチンまたはノビレチン含有物を、水とサイクロデキストリンの存在下で有機溶媒を用いることなく包接化処理することを特徴とする可溶化ノビレチン組成物の製造方法が記載されている。当該製造方法に関して、特許文献1には、有機溶媒を含有しない水溶液中において、サイクロデキストリンとノビレチンの包接体を形成させることにより、その包接体が水への溶解性に優れ、ノビレチンに固有の苦味も低減できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の製造方法において、ノビレチンの包接化処理が行われる。当該包接化処理の一例として、シクロデキストリン水溶液にノビレチンを添加し、そして、5℃において48時間で攪拌することが記載されている。しかしながら、当該撹拌は長時間に及ぶものであり、より簡便な方法があれば、ポリメトキシフラボノイドの利用価値をさらに高めることができる。
【0006】
本技術は、ポリメトキシフラボノイドの溶解性を向上させるための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、乳蛋白質がポリメトキシフラボノイドの溶解性を向上させることを見出した。
【0008】
すなわち、本技術は以下を提供する。
[1]水性媒体中にポリメトキシフラボノイド及び乳蛋白質を存在させて、ポリメトキシフラボノイドの溶解性を向上させる方法。
[2]前記乳蛋白質が、ラクトフェリン、カゼイン、及びαラクトアルブミンから選択される1つ以上の蛋白質である、[1]に記載の方法。
[3]前記ポリメトキシフラボノイドが、ノビレチン又はタンゲレチンである、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記ポリメトキシフラボノイドが、柑橘類エキス、黒ウコンエキス、ヨモギエキス、又はクミスクチンエキスによって前記水性媒体に加えられる、[1]~[3]のいずれか一つに記載の方法。
【0009】
また、本技術は以下も提供する。
[5]乳蛋白質を有効成分として含む、ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上用組成物。
[6]前記乳蛋白質が、ラクトフェリン、カゼイン、及びαラクトアルブミンから選択される1つ以上の蛋白質である、[5]に記載の組成物。
[7]前記ポリメトキシフラボノイドが、ノビレチン又はタンゲレチンである、[5]又は[6]に記載の組成物。
[8]前記ポリメトキシフラボノイドが、柑橘類、黒ウコン、ヨモギ、又はクミスクチンに由来するものである、[5]~[7]のいずれか一つに記載の組成物。
【0010】
また、本技術は以下も提供する。
[9]ポリメトキシフラボノイド又はポリメトキシフラボノイドを含有する柑橘類エキス、黒ウコンエキス、ヨモギエキス、若しくはクミスクチンエキスと乳蛋白質とを含む水溶液。
[10]前記水溶液が、飲食品添加用材料又は飲食品である、[9]に記載の水溶液。
【0011】
また、本技術は以下も提供する。
[11]ポリメトキシフラボノイド又はポリメトキシフラボノイドを含有する柑橘類エキス、黒ウコンエキス、ヨモギエキス、若しくはクミスクチンエキスと乳蛋白質とを含む、ポリメトキシフラボノイド含有水溶液調製用組成物。
【0012】
また、本技術は以下も提供する。
[12]細胞膜に接触する水性媒体中にポリメトキシフラボノイド及び乳蛋白質を存在させて、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性を向上させる方法。
【0013】
また、本技術は以下も提供する。
[13]乳蛋白質を有効成分として含む、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性向上用組成物。
【発明の効果】
【0014】
本技術により、ポリメトキシフラボノイドの溶解性を向上させることができる。また、本技術により、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性も向上させることができる。
なお、本技術の効果は、ここに記載された効果に限定されず、本明細書内に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】乳蛋白質によるノビレチンの溶解性向上作用の評価結果を示す図である。
【
図2】乳蛋白質によるノビレチンの溶解性向上作用の評価結果を示す図である。
【
図3】ラクトフェリンによるノビレチン凝集阻止作用の評価結果を示す図である。
【
図4】乳蛋白質によるポリメトキシフラボノイド凝集阻止作用の評価結果を示す図である。
【
図5】ラクトフェリンによるノビレチンのCaco-2細胞膜透過性向上作用の評価結果を示す図である。
【
図6】乳蛋白質によるノビレチンのCaco-2細胞膜透過性向上作用の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本技術の好ましい実施形態について説明する。ただし、本技術は以下の好ましい実施形態に限定されず、本技術の範囲内で自由に変更することができる。
【0017】
1.ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上方法
本技術に従う方法は、水性媒体中にポリメトキシフラボノイド及び乳蛋白質を存在させる工程を含む。水性媒体中に乳蛋白質を存在させることによって、ポリメトキシフラボノイドの水性媒体への溶解性を向上させることができる。以下で、当該方法の詳細を説明する。
【0018】
(1)ポリメトキシフラボノイド
本技術において用いられるポリメトキシフラボノイドは、例えばポリメトキシフラボンであり、好ましくは4~7のメトキシ基を有するフラボンあってよい。本技術において用いられるポリメトキシフラボンは、好ましくは以下の式により表される化合物である。
【0019】
【0020】
上記式において、Rは水素原子又はメトキシ基を表し、R1は水素原子、メトキシ基、又は水酸基を表し、R2は水素原子又はメトキシ基を表し、且つ、R3はメチル基又は水素原子を表す。R、R1、R2、及びR3は、互いに独立に選択されてよい。
【0021】
好ましくは、本技術において用いられるポリメトキシフラボンは、以下の化合物から選ばれる1つ又は複数の組み合わせであってよい。以下の化合物は、乳蛋白質(特にはラクトフェリン、カゼイン、又はαラクトアルブミン)によって、溶解性が向上されやすい。
ノビレチン(Nobiletin、メトキシ基6個、上記式においてR=R1=OMe、R2=H、R3=CH3)、
タンゲレチン(Tangeretin、メトキシ基5個、上記式においてR=OMe、R1=R2=H、R3=CH3)、
シネンセチン(Sinensetin、メトキシ基5個、上記式においてR=H、R1=OMe、R2=H、R3=CH3)、
ヘプタメトキシフラボン(Heptamethoxyflavone、メトキシ基7個、上記式においてR=R1=R2=OMe、R3=CH3)、
カスチシン(Casticin、メトキシ基4個、上記式においてR=H、R1=OH、R2=OMe、R3=H)、及び
アルテメチン(Artemetin、メトキシ基5個、上記式においてR=H、R1=OMe、R2=OMe、R3=H)
【0022】
より好ましくは、本技術において用いられるポリメトキシフラボノイドは、ノビレチン若しくはタンゲレチン又はこれらの組み合わせである。乳蛋白質(特にはラクトフェリン、カゼイン、又はαラクトアルブミン)による溶解性向上作用は、ノビレチン及びタンゲレチンに対して特に顕著に表れる。
【0023】
本技術において用いられるポリメトキシフラボノイドは、例えば柑橘類、黒ウコン(黒ショウガとも呼ばれる)、ヨモギ、又はクミスクチンに由来するものであってよい。本技術の方法において、前記ポリメトキシフラボノイドは、例えば柑橘類エキス、黒ウコンエキス、ヨモギエキス、又はクミスクチンエキスによって前記水性媒体に加えられてよい。これらのエキスを用いることによって、効率的にポリメトキシフラボノイドを水性媒体に添加することができる。また、これらのエキスは、特にはノビレチン及びタンゲレチンを効率的に水性媒体に加えるために適している。これらのエキスとして、市販入手可能なエキスが用いられてよい。
【0024】
これらのエキスの抽出方法として、例えば含水エタノールによる抽出を挙げることができるが、これに限定されない。当該抽出方法として、例えば熱水抽出及び超臨界二酸化炭素抽出法を挙げることができる。
【0025】
本技術において用いられるポリメトキシフラボノイドは、好ましくは柑橘類に由来するものであり、より好ましくは柑橘類の果皮(例えばフラベド及び/又はアルベド)に由来するものである。ポリメトキシフラボノイドは、特に果皮に多く含まれる。
柑橘類として、好ましくは田中による分類手法(Tanaka, T. 1969. Bull. Univ. Osaka Pref. Ser. B, 21:139-145)におけるミカン区(Acrumen)の植物が好ましい。当該ミカン区は、さらに真正ミカン亜区(Euacrumen)及びコミカン亜区(Microacrumen)に分けることができる。
真正ミカン亜区に属する植物として、例えばキング(Citrus nobilis又はCitrus nobilis var Knep、クネンボを含む)、ウンシュウミカン(Citrus unshiu)、及びヤツシロミカン(Citrus yatsushiro、ヤツシロともいう)を挙げることができる。
コミカン亜区に属する植物として、ケラジ(Citrus keraji、カブチともいう)、オートー(Citrus oto)、マンダリン(Citrus reticulata、ポンカンともいう)、ダンシータンゼリン(Citrus tangerina)、クレメンタイン(Citrus clementina)、ジミカン(Citrus succosa)、シカイカン(Citrus suhuiensis)、タチバナ(Citrus tachibana)、コベニミカン(Citrus erythrosa)、キシュウ(Citrus kinokuni)、スンキー(Citrus sunki)、シークワーシャー(Citrus depressa)、及びコウジ(Citrus leiocarpa)を挙げることができる。
【0026】
本技術において、ポリメトキシフラボノイド、特にはポリメトキシフラボンの含有量の高さの観点から、前記柑橘類として、ミカン区に属する植物が用いられることが好ましく、コミカン亜区に属する植物がより好ましい。コミカン亜区に属する植物として、例えばシークワーシャーが用いられてよい。本技術において、例えばシークワーシャーエキス、特にはシークワーシャー果皮由来エキスが、ポリメトキシフラボノイド(特にはノビレチン及び/又はタンゲレチン)を水性媒体に加えるために用いられうる。
【0027】
本技術の方法において、水性媒体中のポリメトキシフラボノイド量(特には上記式に包含される化合物の合計量)は、水性媒体の量に対して好ましくは10mg/mL以下、より好ましくは5mg/mL以下、さらにより好ましくは3mg/mL以下、特に好ましくは1mg/mL以下であってよい。これにより、ポリメトキシフラボノイドが凝集又は析出することを防ぐことができる。
水性媒体中のポリメトキシフラボノイド量(特には上記式に包含される化合物の合計量)は0mg/mL超であればよく、例えば0.0001mg/mL以上、好ましくは0.001mg/mL以上、より好ましくは0.01mg/mL以上、さらにより好ましくは0.1mg/mL以上であってよい。これにより、ポリメトキシフラボノイドによる生体への効果がより発揮されやすくなる。
水性媒体中のポリメトキシフラボノイド量の数値範囲は、上記上限値のいずれか一つと上記下限値のいずれか一つとの組合せにより規定されてよく、例えば0mg/mL超~10mg/mL、0.0001mg/mL~5mg/mL、0.001mg/mL~3mg/mL、又は、0.01mg/mL~1mg/mL以下であってよい。
【0028】
本技術の方法において用いられるポリメトキシフラボノイドがノビレチン若しくはタンゲレチン又はこれらの組み合わせである場合において、ノビレチン及びタンゲレチンは、水性媒体の量に対して、合計で好ましくは10mg/mL以下、より好ましくは5mg/mL以下、さらにより好ましくは3mg/mL以下、特に好ましくは2mg/mL以下の量で水性媒体中に存在させられる。これにより、ノビレチン及び/又はタンゲレチンが凝集又は析出することをより効果的に防ぐことができる。
水性媒体中のノビレチン及びタンゲレチンの合計量は0mg/mL超であればよく、例えば0.0001mg/mL以上、好ましくは0.001mg/mL以上、より好ましくは0.01mg/mL以上、さらにより好ましくは0.1mg/mL以上であってよい。これにより、ノビレチン及びタンゲレチンによる生体への効果がより発揮されやすくなる。
水性媒体中のノビレチン及びタンゲレチンの合計量の数値範囲は、上記上限値のいずれか一つと上記下限値のいずれか一つとの組合せにより規定されてよく、例えば0mg/mL超~10mg/mL、0.0001mg/mL~5mg/mL、0.001mg/mL~3mg/mL、又は、0.01mg/mL~2mg/mLであってよい。
【0029】
(2)乳蛋白質
本技術において用いられる乳蛋白質は、哺乳動物の乳由来のものであってよい。含有量及び入手容易性の観点から、本技術において用いられる乳蛋白質は、例えばウシ又はヒトの乳に由来するものであってよく、特にはウシ乳に由来するものであってよい。乳は、初乳、移行乳、常乳、及び末期乳のいずれでもよい。本技術において、市販入手可能な乳蛋白質が用いられてもよい。乳蛋白質を水性媒体中に存在させることで、ポリメトキシフラボノイドの当該水性媒体への溶解性を向上させることができる。
【0030】
本技術において用いられる乳蛋白質は、乳蛋白質の加熱物であってもよい。当該加熱物を得る為の加熱処理は、例えば滅菌又は殺菌のための加熱処理であってよい。滅菌処理として、例えば121℃で10分間の加熱処理を挙げることができる。当該加熱処理は、例えば50℃~150℃、好ましくは70℃~130℃で行われてよい。加熱処理が行われる時間は、加熱処理における温度に応じて当業者により適宜変更されてよい。当該時間は、例えば15秒間~20分間、好ましくは3分間~15分間でありうる。このような加熱処理に付されたとしても、乳蛋白質、特にはラクトフェリン及びカゼインナトリウムはポリメトキシフラボノイドの溶解性向上作用を発揮することができる。
前記加熱処理は、乳蛋白質及びポリメトキシフラボノイドの両方が水性媒体中に存在する状態で行われてもよい。ポリメトキシフラボノイド単独で水性媒体中に存在する状態で加熱処理を行うとポリメトキシフラボノイドの沈殿物が生じやすいが、上記の両方が水性媒体中に存在する状態で加熱処理を行うことで、当該沈殿物が生じることを防ぐことができる。
【0031】
本技術において用いられる乳蛋白質として、ラクトフェリン、カゼイン、及びαラクトアルブミンを挙げることができる。前記乳蛋白質として、これらのうちの1つ又は2つ以上の組み合わせが用いられてよい。これらの物質によって、ポリメトキシフラボノイドの溶解性が特に向上される。
【0032】
ラクトフェリンは、例えば乳、涙、唾液、及び血液などの体液中に存在する鉄結合性の糖蛋白質である。ラクトフェリンは、哺乳動物の乳、例えばヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、水牛、ラクダ、ヤク、ウマ、ロバ、ラマ、ウシ又はヒトなどの乳に含まれる。
【0033】
本技術において用いられるラクトフェリンは、市販品であってよく、又は、哺乳動物の乳を処理して得られる脱脂乳又はホエーから常法(例えば、イオンクロマトグラフィー等)によって分離されたラクトフェリンであってもよい。本技術において用いられるラクトフェリンは、非グリコシル化又はグリコシル化されたものでもよい。
【0034】
カゼインは、リン蛋白質の一種であり、乳中の主要蛋白質である。本技術において、カゼインとして市販品が使用されてよく、又は、乳から分離及び/又は精製して得られたカゼインが用いられてもよい。後者に関して、より具体的には、牛乳、脱脂乳、全粉乳、全脂粉乳、又は脱脂粉乳から常法により分離及び/又は精製したウシ由来のカゼインを挙げることができる。カゼインは、例えばα-カゼイン、β-カゼイン、又はγ-カゼインのいずれかであってよく、又は、これらのうちの2以上の組み合わせであってもよい。
【0035】
本技術において、カゼインは、酸カゼイン及びカゼイン塩を包含する。酸カゼインとして、例えば乳酸カゼイン、硫酸カゼイン、及び塩酸カゼインを挙げることができる。カゼイン塩として、例えばカゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインカルシウム、及びカゼインマグネシウムを挙げることができる。本技術において、これらの2種以上の組み合わせが用いられてもよい。
【0036】
本技術において用いられるカゼインは、好ましくはカゼイン塩であり、より好ましくはカゼインナトリウムである。カゼイン塩、特にはカゼインナトリウムによって、ポリメトキシフラボノイドの溶解性が特に向上する。
【0037】
α-ラクトアルブミンは、比較的安定な小蛋白質であり、哺乳動物の乳中にみられる。本技術において用いられるα-ラクトアルブミンは、市販品であってよく、又は、哺乳動物の乳を処理して得られるホエーから常法によって分離されたα-ラクトアルブミンであってもよい。例えば、α-ラクトアルブミンは、常法(例えば、祐川金次郎著、「最新改稿乳業技術便覧」、酪農技術普及協会、第120~122ページ、1975年)の硫酸アンモニウム沈殿法、塩化鉄法(Journal of Food Science、第50巻、第1531~1536ページ、1985年]、限外濾過法(特開平5-268879号公報)、又はイオン交換法(特開平6-62756号公報)により製造することができる。
【0038】
本技術において用いられる乳蛋白質は、特に好ましくはラクトフェリンである。ラクトフェリンは、カゼイン及びαラクトアルブミンよりも、ポリメトキシフラボノイド(特にはノビレチン又はタンゲレチン)の溶解性向上効果をより強力に発揮することができる。
また、ラクトフェリンは、ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上効果だけでなく、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性向上効果も発揮することができる。そのため、ラクトフェリンによって、ポリメトキシフラボノイドの生体における利用効率を高めることもできる。
【0039】
本技術において、水性媒体中の乳蛋白質量は、水性媒体の量に対して好ましくは50mg/mL以下、より好ましくは30mg/mL以下、さらにより好ましくは10mg/mL以下、特に好ましくは5mg/mL以下であってよい。これにより、乳蛋白質が凝集又は析出することを防ぐことができる。
水性媒体中の乳蛋白質量は0mg/mL超であればよく、例えば0.001mg/mL以上、好ましくは0.01mg/mL以上、より好ましくは0.1mg/mL以上、さらにより好ましくは1mg/mL以上であってよい。これにより、ポリメトキシフラボノイドの溶解性を高めることができる。
水性媒体中の乳蛋白質量の数値範囲は、上記上限値のいずれか一つと上記下限値のいずれか一つとの組合せにより規定されてよく、例えば0mg/mL超~50mg/mL、0.001mg/mL~30mg/mL、0.01mg/mL~10mg/mL、又は0.1mg/mL~5mg/mLであってよい。
【0040】
本技術において用いられる乳蛋白質がラクトフェリン、カゼイン、若しくはα-ラクトアルブミン又はこれらのうちの2種若しくは3種の組み合わせである場合において、ラクトフェリン、カゼイン、及びα-ラクトアルブミンは、水性媒体の量に対して、合計で好ましくは50mg/mL以下、より好ましくは30mg/mL以下、さらにより好ましくは10mg/mL以下、特に好ましくは5mg/mL以下の量で水性媒体中に存在させられる。これにより、これらの乳蛋白質が凝集又は析出することを防ぐことができる。
水性媒体中のラクトフェリン、カゼイン、及びα-ラクトアルブミンの合計量は0mg/mL超であればよく、例えば0.001mg/mL以上、好ましくは0.01mg/mL以上、より好ましくは0.1mg/mL以上、さらにより好ましくは1mg/mL以上であってよい。これにより、ポリメトキシフラボノイドの溶解量、特にはノビレチン及び/又はタンゲレチンの溶解量を高めることができる。
水性媒体中のラクトフェリン、カゼイン、及びα-ラクトアルブミンの合計量の数値範囲は、上記上限値のいずれか一つと上記下限値のいずれか一つとの組合せにより規定されてよく、例えば0mg/mL超~50mg/mL、0.001mg/mL~30mg/mL、0.01mg/mL~10mg/mL、0.1mg/mL~5mg/mLであってよい。
【0041】
(3)水性媒体
本技術において用いられる水性媒体は、乳蛋白質を溶解させることができるものから選択されてよい。すなわち、本技術において、好ましくは乳蛋白質を溶解可能な水性媒体が用いられる。当該水性媒体は、例えば水又は水溶液であってよい。水溶液に含まれる成分として、例えば糖、アルコール、フレーバー及び着色料を挙げることができる。
【0042】
当該水性媒体は、乳蛋白質が溶解可能であるように、その組成及び/又は物性が調整されてよい。乳蛋白質が水性媒体中に溶解された状態で存在することが、ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上に寄与する。すなわち、本技術において、好ましくは、前記乳蛋白質は前記水性媒体中に溶解した状態で存在している。
【0043】
例えば、前記乳蛋白質としてラクトフェリンが用いられる場合、当該水性媒体のpHは、好ましくは3~8、より好ましくは5~7であってよい。また、前記乳蛋白質としてラクトフェリンが用いられる場合、当該水性媒体の塩濃度は、好ましくは20mM~1mM、より好ましくは5mM~1mMであってよい。水性媒体をこのように調整することによって、ラクトフェリンの析出を防ぐことができる。
【0044】
例えば、前記乳蛋白質としてカゼインが用いられる場合、当該水性媒体のpHは、好ましくは5~8、より好ましくは6~7であってよい。また、前記乳蛋白質としてカゼインが用いられる場合、当該水性媒体の塩濃度は、好ましくは50mM~3mM、より好ましくは10mM~3mMであってよい。水性媒体をこのように調整することによってカゼインの析出を防ぐことができる。
【0045】
例えば、前記乳蛋白質としてα-ラクトアルブミンが用いられる場合、当該水性媒体のpHは、好ましくは5~8、より好ましくは6~7であってよい。また、前記乳蛋白質としてα-ラクトアルブミンが用いられる場合、当該水性媒体の塩濃度は、好ましくは30mM~1mM、より好ましくは5mM~1mMであってよい。水性媒体をこのように調整することによってα-ラクトアルブミンの析出を防ぐことができる。
【0046】
(4)溶解性
本技術において、ポリメトキシフラボノイドの溶解性を判定するために、ポリメトキシフラボノイドの水性媒体への溶解量が測定されてよい。当該溶解量が増加していることによって、ポリメトキシフラボノイドの溶解性が向上していると判定されてよい。
【0047】
前記溶解量は、例えば水性媒体中のポリメトキシフラボノイドに起因するHPLCシグナル強度を測定することによって決定されてよい。当該測定は、以下の実施例において説明した方法により行われてよい。以下の実施例ではノビレチン又はタンゲレチンの溶解量を、これらの標準品を用いてHPLCにより測定している。他のポリメトキシフラボノイドについても同様に、その標準品を用いることで、HPLCにより溶解量を決定することができる。
【0048】
(5)本技術の方法において行われる工程
本技術の方法において、水性媒体中にポリメトキシフラボノイド及び乳蛋白質が存在させられる。ポリメトキシフラボノイド及び乳蛋白質のうち、ポリメトキシフラボノイドが先に水性媒体へ添加され、次に乳蛋白質が添加されてよく、又は、乳蛋白質が先に水性媒体へ添加され、次にポリメトキシフラボノイドが添加されてもよい。代替的には、ポリメトキシフラボノイド及び乳蛋白質が同時に水性媒体に添加されてもよい。
【0049】
本技術の方法において、乳蛋白質は、固形(例えば粉末)の状態で水性媒体に添加されてよく、又は、乳蛋白質が溶解されている水溶液又は乳蛋白質が分散された水分散液の状態で水性媒体に添加されてもよい。
特に好ましくは、本技術の方法において、乳蛋白質は、溶解した状態で水性媒体中に存在させられる。乳蛋白質が水性媒体中に溶解した状態で存在することが、ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上に貢献する。例えば、本技術の方法において、乳蛋白質の水溶液及びポリメトキシフラボノイドが水に懸濁された懸濁液が用意され、次に、当該水溶液及び当該懸濁液が混合されることによって、水性媒体中にポリメトキシフラボノイド及び乳蛋白質が存在させられる。
【0050】
本技術の好ましい実施態様に従い、水性媒体中にポリメトキシフラボノイド及び乳蛋白質を存在させた後に、ポリメトキシフラボノイド及び乳蛋白質を含む水性媒体を撹拌又は振とうする撹拌又は振とう工程が行われうる。当該工程により、ポリメトキシフラボノイドの水性媒体への溶解量を高めることができる。当該撹拌又は振とうは、例えば水性媒体が透明になるまで又は目視により固形物が確認できなくなるまで継続されてよい。当該撹拌又は振とうは、例えば20℃~50℃で30分間~150分間、好ましくは30℃~45℃で40分間~120分間行われてよい。これにより、ポリメトキシフラボノイドを水性媒体に溶解させることができる。
【0051】
本技術の方法において、水性媒体中にポリメトキシフラボノイド及び乳蛋白質を溶解させて得られた溶液が、加熱処理に付されてもよい。当該加熱処理によって、当該溶液を殺菌することができる。本技術の方法において、ポリメトキシフラボノイドの溶解性が向上されているので、当該溶液が加熱処理後に常温に戻ったときにポリメトキシフラボノイドの凝集及び/又は析出を抑制することができる。当該加熱処理は、例えば50℃~150℃、好ましくは70℃~130℃で行われてよい。加熱処理が行われる時間は、加熱処理における温度に応じて当業者により適宜変更されてよい。当該時間は、例えば15秒間~20分間、好ましくは3分間~15分間でありうる。
【0052】
本技術の方法において、乳蛋白質は、好ましくは水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの質量の0.1倍以上の質量で当該水性媒体中に存在させられてよく、より好ましくは0.3倍以上の質量で当該水性媒体中に存在させられてよい。特に好ましくは、水性媒体中の乳蛋白質の質量は、当該水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの質量以上である。例えば、水性媒体中の乳蛋白質の質量は、当該水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの質量の1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、又は2.5倍以上の質量である。これにより、乳蛋白質による溶解性向上作用がより効果的に発揮される。
また、本技術の方法において、乳蛋白質は、好ましくは水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの質量の100倍以下、より好ましくは50倍以下、さらにより好ましくは30倍以下の質量で、水性媒体中に存在させられる。これにより、過剰量の乳蛋白質が水性媒体中に存在することに伴う乳蛋白質の析出を防ぐことができ、効率的にポリメトキシフラボノイドの溶解性を向上させることができる。
水性媒体中の乳蛋白質の質量とポリメトキシフラボノイドの質量との比率の数値範囲は、上記上限値のいずれか一つと上記下限値のいずれか一つとの組合せにより規定されてよい。水性媒体中の乳蛋白質の質量は、水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの質量の、例えば0.1倍~100倍、0.3倍~50倍、又は1.1倍~30倍であってよい。
以上で述べた乳蛋白質とポリメトキシフラボノイドとの比率は、乳蛋白質がラクトフェリン、カゼイン、及びα-ラクトアルブミンのうちの1つ又は2つ以上の組み合わせである場合、及び、乳蛋白質がラクトフェリンである場合についても当てはまる。また、以上で述べた乳蛋白質とポリメトキシフラボノイドの比率は、ポリメトキシフラボノイドがノビレチン及び/又はタンゲレチンである場合についても当てはまる。
例えば、以上で述べた乳蛋白質とポリメトキシフラボノイドとの比率は、乳蛋白質がラクトフェリンであり且つポリメトキシフラボノイドがノビレチンである場合にも当てはまる。例えば、水性媒体中のラクトフェリンの質量が、当該水性媒体中のノビレチンの質量の0.1倍以上若しくは0.3倍以上であってよく、当該水性媒体中のノビレチンの質量以上であってよく、又は、当該水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの質量の1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、若しくは2.5倍以上の質量であってよい。
【0053】
(6)本技術に従う方法の適用例
本技術に従う方法は、ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上が求められる種々の局面において使用されてよい。例えば、ポリメトキシフラボノイド含有水溶液の製造において、特にはノビレチン及び/又はタンゲレチン含有水溶液の製造において、本技術に従う方法が使用されてよい。当該水溶液は、例えば飲食品添加用材料又は飲食品である。すなわち、ポリメトキシフラボノイドを含有する飲食品添加用材料又は飲食品の製造において、特にはノビレチン及び/又はタンゲレチンを含有する飲食品添加用材料又は飲食品の製造において、本技術に従う方法が使用されてよい。このように、本技術は、本技術に従う溶解性向上方法を行うことを含む、ポリメトキシフラボノイド含有水溶液の製造方法も提供する。
【0054】
本技術に従う方法によって、ポリメトキシフラボノイドを水性媒体に溶解させることが可能となる。そのため、本技術に従う方法は、例えばポリメトキシフラボノイドが溶解された透明な水溶液、又は、固形のポリメトキシフラボノイドを含まず且つポリメトキシフラボノイドが溶解された水溶液を製造するために使用されてよい。すなわち、本技術は、本技術に従う溶解性向上方法を行うことを含む、前記水溶液のいずれかの製造方法も提供する。
【0055】
2.ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上用組成物
本技術は、乳蛋白質を有効成分として含む、ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上用組成物も提供する。当該組成物に含まれる乳蛋白質は、ポリメトキシフラボノイドの溶解性を向上させるために適している。そのため、当該組成物によって、ポリメトキシフラボノイドの溶解性が向上される。また、当該組成物を用いることで、例えば後述する本技術の水溶液を容易に調製することができる。
【0056】
前記ポリメトキシフラボノイド及び前記乳蛋白質は、上記「1.ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上方法」において説明したとおりであり、その説明が前記組成物についても当てはまる。当該溶解性及びその向上についても、上記「1.ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上方法」において説明したとおりであり、その説明が前記組成物についても当てはまる。
また、前記組成物は、水性媒体に添加されるものである。当該水性媒体に添加された場合に、当該水性媒体へのポリメトキシフラボノイドの溶解性が向上される。当該水性媒体についても、上記「1.ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上方法」において行った説明があてはまる。
【0057】
前記組成物は、ポリメトキシフラボノイドが溶解されるべき水性媒体中に、当該組成物に含まれる乳蛋白質を当該ポリメトキシフラボノイドの質量の例えば0.1倍以上の質量で存在させるように用いられてよく、好ましくは0.3倍以上の質量で存在させるように用いられてよい。特に好ましくは、前記組成物は、ポリメトキシフラボノイドが溶解されるべき水性媒体中に、当該組成物に含まれる乳蛋白質量がポリメトキシフラボノイドの質量以上となるように用いられてよく、例えば、前記水性媒体中の乳蛋白質量がポリメトキシフラボノイドの質量の1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、又は2.5倍以上となるように、前記組成物は用いられてよい。これにより、乳蛋白質による溶解性向上作用がより効果的に発揮される。
また、本技術の方法において、前記組成物は、好ましくはポリメトキシフラボノイドが溶解される水性媒体中に、当該組成物に含まれる乳蛋白質が当該ポリメトキシフラボノイドの質量の100倍以下、より好ましくは50倍以下、さらにより好ましくは30倍以下の質量で存在するように用いられてよい。これにより、過剰量の乳蛋白質が水性媒体中に存在することに伴う乳蛋白質の析出を防ぐことができ、効率的にポリメトキシフラボノイドの溶解性を向上させることができる。
水性媒体中の乳蛋白質の質量とポリメトキシフラボノイドの質量との比率の数値範囲は、上記上限値のいずれか一つと上記下限値のいずれか一つとの組合せにより規定されてよい。水性媒体中の乳蛋白質の質量は、水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの質量の、例えば0.1倍~100倍、0.3倍~50倍、又は1.1倍~30倍であってよい。
以上で述べた乳蛋白質とポリメトキシフラボノイドとの比率は、乳蛋白質がラクトフェリン、カゼイン、及びα-ラクトアルブミンのうちの1つ又は2つ以上の組み合わせである場合、及び、乳蛋白質がラクトフェリンである場合についても当てはまる。また、以上で述べた乳蛋白質とポリメトキシフラボノイドの比率は、ポリメトキシフラボノイドがノビレチン及び/又はタンゲレチンである場合についても当てはまる。
例えば、以上で述べた乳蛋白質とポリメトキシフラボノイドとの比率は、乳蛋白質がラクトフェリンであり且つポリメトキシフラボノイドがノビレチンである場合にも当てはまる。例えば、水性媒体中のラクトフェリンの質量が、当該水性媒体中のノビレチンの質量の0.1倍以上若しくは0.3倍以上であってよく、当該水性媒体中のノビレチンの質量以上であってよく、又は、当該水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの質量の1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、若しくは2.5倍以上の質量であってよい。
【0058】
前記組成物は、例えばポリメトキシフラボノイドが溶解された水溶液を製造する為に用いられてよく、特にはポリメトキシフラボノイドが溶解された透明な水溶液又はポリメトキシフラボノイドの固形物を含まず且つポリメトキシフラボノイドが溶解された水溶液を製造する為に用いられてよい。前記組成物の有する溶解性向上作用によって、これらの溶液を調製することが可能となる。これらの水溶液の製造における前記組成物の使用方法は、上記「1.ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上方法」において説明したとおりであってよい。
【0059】
前記組成物は、乳蛋白質を、当該組成物の質量に対して例えば50質量%以上の割合で含み、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらにより好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上の割合で含むものであってよい。
本技術の一つの実施態様に従い、前記組成物は、ラクトフェリン、カゼイン、及びαラクトアルブミンのうちの1つ又は2つ以上の組み合わせを、当該組成物の質量に対して例えば50質量%以上の割合で含み、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらにより好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上の割合で含むものであってよい。特に好ましい実施態様において、前記組成物は、ラクトフェリンを、当該組成物の質量に対して例えば50質量%以上の割合で含み、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらにより好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上の割合で含むものであってよい。
【0060】
前記組成物は、乳蛋白質に加えてポリメトキシフラボノイドを含んでもよい。この場合、当該乳蛋白質の含有質量は、好ましくは当該ポリメトキシフラボノイドの含有質量の0.1倍以上であってよく、好ましくは0.3倍以上であってよい。当該乳蛋白質の含有質量は、当該ポリメトキシフラボノイドの含有質量以上であり、例えばポリメトキシフラボノイドの含有質量の1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、又は2.5倍以上であってよい。また、当該乳蛋白質の含有質量は、好ましくはポリメトキシフラボノイドの含有質量の100倍以下、より好ましくは50倍以下、さらにより好ましくは30倍以下の含有質量であってよい。当該組成物を水性媒体に添加することで、乳蛋白質によるポリメトキシフラボノイド溶解性向上効果により、後述する水溶液を容易に調製することができる。
乳蛋白質の含有質量とポリメトキシフラボノイドの含有質量との比率は、上記上限値のいずれか一つと上記下限値のいずれか一つとの組合せにより規定されてよい。乳蛋白質の含有質量は、ポリメトキシフラボノイドの含有質量の、例えば0.1倍~100倍、0.3倍~50倍、又は1.1倍~30倍であってよい。
【0061】
3.水溶液
本技術に従う水溶液は、ポリメトキシフラボノイド又はポリメトキシフラボノイドを含有する柑橘類エキス、黒ウコンエキス、ヨモギエキス、若しくはクミスクチンエキスと乳蛋白質とを水性媒体中に含む。当該水溶液は、ポリメトキシフラボノイド、特にはノビレチン及び/又はタンゲレチンを、溶解した状態で含みうる。
前記水溶液に含まれるポリメトキシフラボノイド及びこれらエキス並びに乳蛋白質、並びに、前記水溶液の母体となる水性媒体は、上記「1.ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上方法」において説明したとおりであり、その説明が前記水溶液についても当てはまる。本技術に従う水溶液において、当該水溶液に含まれているポリメトキシフラボノイドの溶解性が向上されている。例えば、本技術に従う水溶液は、透明な水溶液であってよく、又は、ポリメトキシフラボノイドの固形物を含まない水溶液であってもよい。このような水溶液は、例えば飲食品の材料として有用である。
【0062】
本技術に従う水溶液は、例えばポリメトキシフラボノイドの生体(特にはヒト)への有用性を生体にもたらすために用いられるものであってよい。当該生体への有用性として、例えば、抗炎症作用、腫瘍の浸潤、拡散、又は転移を防ぐ作用、皮膚炎抑制作用、肝炎抑制作用、軟骨分解抑制作用、筋萎縮抑制作用及びニューロンの長期増強促進作用を挙げることができる。すなわち、本技術に従う水溶液は、これらの作用のいずれか1つ又は2つ以上を生体(特にはヒト)に対して与えるために用いられる水溶液であってよい。例えば、本技術に従う水溶液は、抗炎症用、抗腫瘍用、皮膚炎抑制用、肝炎抑制用、軟骨分解抑制用、又はニューロンの長期増強促進用の水溶液であってよい。
本技術に従う水溶液は、ラクトフェリンを含むので、ラクトフェリンの生体(特にはヒト)への有用性を生体にもたらすために用いられるものであってもよい。ラクトフェリンの生体への有用性として、ヒト又は非ヒト動物の腸内にビフィズス菌等の有用細菌の定着を促進する作用、ビフィズス菌増殖因子としての作用、サイトメガロウイルス又はヒト免疫不全ウイルスに対する抗ウイルス作用免疫賦活作用、細胞増殖作用、抗腫瘍作用、抗リュウマチ作用、薬剤に起因する慢性肝障害に対する肝機能改善作用、抗ストレス作用、鎮痛作用、糖尿病患者などにおける血糖値を調節する作用、及び抗菌作用及びカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害活性を挙げることができる。すなわち、本技術に従う水溶液は、これらの作用のいずれか1つ又は2つ以上を生体(特にはヒト)に対して与えるために用いられる水溶液であってよい。例えば、本技術に従う水溶液は、抗菌用又はCOMT阻害用の水溶液であってよい。
COMTは、種々の臓器において発現されており、肝臓及び腎臓では高い活性を有する。COMTは、腸、特には腸粘膜においても発現される。神経伝達物質の代謝におけるCOMTの生理学的役割は、薬学分野において注目されている。
本技術の水溶液は、ポリメトキシフラボノイドの生体への上記有用性及びラクトフェリンの生体への上記有用性の両方を生体にもたらすために用いられるものであってもよい。
【0063】
本技術の水溶液は、例えば飲食品添加用材料又は飲食品であってよい。本技術の水溶液は、例えば飲料(特には透明飲料)の母体、飲料(特には透明飲料)にポリメトキシフラボノイドを添加するための添加剤、又は飲料(特には透明飲料)自体であってよい。
【0064】
本技術の水溶液中のポリメトキシフラボノイド量(特には上記式に包含される化合物の合計量)は、水性媒体の量に対して好ましくは10mg/mL以下、より好ましくは5mg/mL以下、さらにより好ましくは3mg/mL以下、特に好ましくは1mg/mL以下であってよい。これにより、ポリメトキシフラボノイドが凝集又は析出することを防ぐことができる。
本技術の水溶液中のポリメトキシフラボノイド量(特には上記式に包含される化合物の合計量)は0mg/mL超であればよく、例えば0.0001mg/mL以上、好ましくは0.001mg/mL以上、より好ましくは0.01mg/mL以上、さらにより好ましくは0.1mg/mL以上であってよい。これにより、ポリメトキシフラボノイドによる生体への効果がより発揮されやすくなる。
水溶液中のポリメトキシフラボノイド量の数値範囲は、上記上限値のいずれか一つと上記下限値のいずれか一つとの組合せにより規定されてよく、例えば0mg/mL超~10mg/mL、0.0001mg/mL~5mg/mL、0.001mg/mL~3mg/mL、又は0.01mg/mL~1mg/mLであってよい。
【0065】
本技術の水溶液中のポリメトキシフラボノイドがノビレチン若しくはタンゲレチン又はこれらの組み合わせである場合において、当該水溶液中のノビレチン及びタンゲレチンの量は、水性媒体の量に対して、合計で好ましくは10mg/mL以下、より好ましくは5mg/mL以下、さらにより好ましくは3mg/mL以下、特に好ましくは2mg/mL以下の量であってよい。これにより、ノビレチン及び/又はタンゲレチンが凝集又は析出することをより効果的に防ぐことができる。
水性媒体中のノビレチン及びタンゲレチンの合計量は0mg/mL超であればよく、例えば0.0001mg/mL以上、好ましくは0.001mg/mL以上、より好ましくは0.01mg/mL以上、さらにより好ましくは0.1mg/mL以上であってよい。これにより、ノビレチン及びタンゲレチンによる生体への効果がより発揮されやすくなる。
水性媒体中のノビレチン及びタンゲレチンの合計量の数値範囲は、上記上限値のいずれか一つと上記下限値のいずれか一つとの組合せにより規定されてよく、例えば0mg/mL超~10mg/mL、0.0001mg/mL~5mg/mL、0.001mg/mL~3mg/mL、又は0.01mg/mL~2mg/mLであってよい。
【0066】
本技術の水溶液中の乳蛋白質量は、水性媒体の量に対して好ましくは50mg/mL以下、より好ましくは30mg/mL以下、さらにより好ましくは10mg/mL以下、特に好ましくは5mg/mL以下であってよい。これにより、乳蛋白質体が凝集又は析出することを防ぐことができる。
水性媒体中の乳蛋白質量は0mg/mL超であればよく、例えば0.001mg/mL以上、好ましくは0.01mg/mL以上、より好ましくは0.1mg/mL以上、さらにより好ましくは1mg/mL以上であってよい。これにより、ポリメトキシフラボノイドの溶解性を高めることができる。
本技術の水溶液中の乳蛋白質量の数値範囲は、上記上限値のいずれか一つと上記下限値のいずれか一つとの組合せにより規定されてよく、例えば0mg/mL超~50mg/mL、0.001mg/mL~30mg/mL、0.01mg/mL~10mg/mL、又は0.1mg/mL~5mg/mLであってよい。
【0067】
本技術の水溶液に含まれる乳蛋白質がラクトフェリン、カゼイン、若しくはα-ラクトアルブミン又はこれらのうちの2種若しくは3種の組み合わせである場合において、ラクトフェリン、カゼイン、及びα-ラクトアルブミンの量は、水性媒体の量に対して、合計で好ましくは50mg/mL以下、より好ましくは30mg/mL以下、さらにより好ましくは10mg/mL以下、特に好ましくは5mg/mL以下の量である。これにより、これらの乳蛋白質が凝集又は析出することを防ぐことができる。
水性媒体中のラクトフェリン、カゼイン、及びα-ラクトアルブミンの合計量は0mg/mL超であればよく、例えば0.001mg/mL以上、好ましくは0.01mg/mL以上、より好ましくは0.1mg/mL以上、さらにより好ましくは1mg/mL以上であってよい。これにより、ポリメトキシフラボノイドの溶解量、特にはノビレチン及び/又はタンゲレチンの溶解量を高めることができる。
本技術の水溶液に含まれるラクトフェリン、カゼイン、及びα-ラクトアルブミンの合計量の数値範囲は、上記上限値のいずれか一つと上記下限値のいずれか一つとの組合せにより規定されてよく、例えば0mg/mL超~50mg/mL、0.001mg/mL~30mg/mL、0.01mg/mL~10mg/mL、又は0.1mg/mL~5mg/mLであってよい。
【0068】
本技術の水溶液中の乳蛋白質含有量は、好ましくは水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの含有質量の0.1倍以上であってよく、より好ましくは0.3倍以上の質量であってよい。特に好ましくは、当該水性媒体中の乳蛋白質の含有質量は、当該水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの含有質量以上である。例えば、当該水性媒体中の乳蛋白質の含有質量は、当該水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの含有質量の1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、又は2.5倍以上の含有質量である。これにより、乳蛋白質による溶解性向上作用がより効果的に発揮される。
また、本技術の水溶液中の乳蛋白質含有量は、好ましくは水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの含有質量の100倍以下、より好ましくは50倍以下、さらにより好ましくは30倍以下の含有質量であってよい。これにより、過剰量の乳蛋白質が水性媒体中に存在することに伴う乳蛋白質の析出を防ぐことができ、効率的にポリメトキシフラボノイドの溶解性を向上させることができる。
本技術の水溶液中の乳蛋白質含有質量とポリメトキシフラボノイドの含有質量との比率の数値範囲は、上記上限値のいずれか一つと上記下限値のいずれか一つとの組合せにより規定されてよい。乳蛋白質含有質量は、ポリメトキシフラボノイドの含有質量の、例えば0.1倍~100倍、0.3倍~50倍、又は1.1倍~30倍であってよい。
以上で述べた乳蛋白質とポリメトキシフラボノイドとの比率は、乳蛋白質がラクトフェリン、カゼイン、及びα-ラクトアルブミンのうちの1つ又は2つ以上の組み合わせである場合、及び、乳蛋白質がラクトフェリンである場合についても当てはまる。また、以上で述べた乳蛋白質とポリメトキシフラボノイドの比率は、ポリメトキシフラボノイドがノビレチン及び/又はタンゲレチンである場合についても当てはまる。
例えば、以上で述べた乳蛋白質とポリメトキシフラボノイドとの比率は、乳蛋白質がラクトフェリンであり且つポリメトキシフラボノイドがノビレチンである場合にも当てはまる。例えば、水性媒体中のラクトフェリンの質量が、当該水性媒体中のノビレチンの質量の0.1倍以上若しくは0.3倍以上であってよく、当該水性媒体中のノビレチンの質量以上であってよく、又は、当該水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの質量の1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、若しくは2.5倍以上の質量であってよい。
【0069】
4.ポリメトキシフラボノイド含有水溶液調製用組成物
本技術に従うポリメトキシフラボノイド含有水溶液調製用組成物は、ポリメトキシフラボノイド又はポリメトキシフラボノイドを含有する柑橘類エキス、黒ウコンエキス、ヨモギエキス、若しくはクミスクチンエキスと乳蛋白質とを含む。当該組成物によって、ポリメトキシフラボノイドが溶解された水溶液を容易に製造することができる。当該水溶液は、「3.水溶液」で述べた水溶液あってよい。
前記組成物に含まれるポリメトキシフラボノイド及びこれらエキス並びに乳蛋白質は、上記「1.ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上方法」において説明したとおりであり、その説明が前記組成物についても当てはまる。
【0070】
前記組成物中の乳蛋白質含有量は、好ましくは前記組成物中のポリメトキシフラボノイドの含有質量の0.1倍以上であってよく、より好ましくは0.3倍以上の質量であってよい。特に好ましくは、前記組成物中の乳蛋白質の含有質量は、前記組成物中のポリメトキシフラボノイドの含有質量以上である。例えば、前記組成物中の乳蛋白質の含有質量は、前記組成物中のポリメトキシフラボノイドの含有質量の1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、又は2.5倍以上の含有質量である。これにより、当該組成物を水性媒体に添加した場合に、乳蛋白質による溶解性向上作用がより効果的に発揮される。
また、前記組成物中の乳蛋白質含有量は、好ましくは前記組成物中のポリメトキシフラボノイドの含有質量の100倍以下、より好ましくは50倍以下、さらにより好ましくは30倍以下の含有質量であってよい。これにより、当該組成物を水性媒体に添加した場合に、過剰量の乳蛋白質が水性媒体中に存在することに伴う乳蛋白質の析出を防ぐことができ、効率的にポリメトキシフラボノイドの溶解性を向上させることができる。
前記組成物中の乳蛋白質の含有質量とポリメトキシフラボノイドの含有質量との比率の数値範囲は、上記上限値のいずれか一つと上記下限値のいずれか一つとの組合せにより規定されてよい。乳蛋白質の含有質量は、ポリメトキシフラボノイドの含有質量の、例えば0.1倍~100倍、0.3倍~50倍、又は1.1倍~30倍であってよい。
以上で述べた乳蛋白質とポリメトキシフラボノイドとの比率は、乳蛋白質がラクトフェリン、カゼイン、及びα-ラクトアルブミンのうちの1つ又は2つ以上の組み合わせである場合、及び、乳蛋白質がラクトフェリンである場合についても当てはまる。また、以上で述べた乳蛋白質とポリメトキシフラボノイドの比率は、ポリメトキシフラボノイドがノビレチン及び/又はタンゲレチンである場合についても当てはまる。
例えば、以上で述べた乳蛋白質とポリメトキシフラボノイドとの比率は、乳蛋白質がラクトフェリンであり且つポリメトキシフラボノイドがノビレチンである場合にも当てはまる。例えば、水性媒体中のラクトフェリンの質量が、当該水性媒体中のノビレチンの質量の0.1倍以上若しくは0.3倍以上であってよく、当該水性媒体中のノビレチンの質量以上であってよく、又は、当該水性媒体中のポリメトキシフラボノイドの質量の1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、若しくは2.5倍以上の質量であってよい。
【0071】
5.ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性を向上させる方法
本技術は、細胞膜に接触する水性媒体中にポリメトキシフラボノイド及び乳蛋白質を存在させて、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性を向上させる方法も提供する。当該方法によって、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性が向上するので、ポリメトキシフラボノイドがより生体に利用されやすくなる。当該細胞膜透過性の向上は、乳蛋白質によりポリメトキシフラボノイドの溶解性が向上されることによってもたらされると考えられる。
【0072】
本技術において、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性を判定するために、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過量が測定されてよい。当該透過量が増加していることによって、ポリメトキシフラボノイドの溶解性が向上していると判定されてよい。当該透過量は、以下の実施例において述べた方法により測定されてよい。
【0073】
本技術において、細胞膜は、例えばヒトの消化管を構成する細胞の細胞膜であってよい。当該消化管は、例えば口腔、咽頭、食道、胃、小腸、及び大腸のうちのいずれかであってよい。当該消化管を構成する細胞は、特には消化管の内腔表面を形成する細胞であってよく、例えば上皮系細胞である。
【0074】
前記ポリメトキシフラボノイド、前記乳蛋白質、及び前記水性媒体は、上記「1.ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上方法」において説明したとおりであり、その説明が前記方法についても当てはまる。
また、前記方法において行われる具体的な工程についても、上記1.の「(5)本技術の方法において行われる工程」において説明したとおりであり、その説明が当てはまる。当該具体的な工程によってポリメトキシフラボノイドの溶解性が向上されることで、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性が向上される。
前記乳蛋白質は、好ましくはラクトフェリンである。前記ポリメトキシフラボノイドは、好ましくはノビレチン及び/又はタンゲレチンである。ラクトフェリンは、ノビレチン及び/又はタンゲレチンの細胞膜透過性を向上されるために特に適している。
【0075】
本技術に従う方法は、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性向上が求められる種々の局面において使用されてよい。例えば、ポリメトキシフラボノイド含有水溶液の製造において、特にはノビレチン及び/又はタンゲレチン含有水溶液の製造において、本技術に従う方法が使用されてよい。当該水溶液は、例えば飲食品添加用材料又は飲食品である。すなわち、ポリメトキシフラボノイドを含有する飲食品添加用材料又は飲食品の製造において、特にはノビレチン及び/又はタンゲレチンを含有する飲食品添加用材料又は飲食品の製造において、本技術に従う方法が使用されてよい。このように、本技術は、本技術に従う細胞膜透過性向上方法を行うことを含む、ポリメトキシフラボノイド含有水溶液の製造方法も提供する。当該水溶液は、好ましくは透明な水溶液であってよく、又は、固形のポリメトキシフラボノイドを含まない水溶液であってよい。
【0076】
6.ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性向上用組成物
本技術は、乳蛋白質を有効成分として含む、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性向上用組成物も提供する。当該組成物に含まれる乳蛋白質は、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性を向上させるために適している。そのため、当該組成物によって、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性が向上されて、より多くのポリメトキシフラボノイドが生体に利用可能となる。
【0077】
前記ポリメトキシフラボノイド及び前記乳蛋白質は、上記「1.ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上方法」において説明したとおりであり、その説明が前記組成物についても当てはまる。
また、前記組成物は、水性媒体に添加されるものである。当該水性媒体に添加された場合に、ポリメトキシフラボノイドの、当該水性媒体が接触する細胞膜への透過性が向上される。当該水性媒体についても、上記「1.ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上方法」において行った説明があてはまる。
また、前記組成物の具体的な組成は、上記「2.ポリメトキシフラボノイドの溶解性向上用組成物」において説明した当該溶解性向上用組成物の組成と同じであってよく、当該説明が本組成物の組成についても当てはまる。当該組成によってポリメトキシフラボノイドの溶解性が向上されることで、ポリメトキシフラボノイドの細胞膜透過性が向上される。
【0078】
以下で実施例を参照して本技術をより詳しく説明するが、本技術はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0079】
[試験例1]乳蛋白質によるノビレチンの溶解性向上作用
ノビレチン(東京化成工業社製)を脱イオン水に懸濁させて、ノビレチン濃度が5mg/mLである懸濁液を作製した。この懸濁液100μLを、ラクトフェリン(以下「LF」ともいう、森永乳業社製)を脱イオン水に溶解させた溶液(LF濃度:3.1mg/mL)400μLに加えて、ノビレチン及びLFを含有する溶液500μLを得た。すなわち、当該溶液中のLF含有量は2.5mg/mLであり、且つ、ノビレチン含有量は1mg/mLであった。
【0080】
LFに代えてαラクトアルブミン(以下「αLA」ともいう、シグマアルドリッチ社製)又はカゼインナトリウム(以下「カゼインNa」ともいう、和光純薬社製)を用いたこと以外は同じ手順で、ノビレチン及びαLAを含有する溶液500μL及びノビレチン及びカゼインNaを含有する溶液500μLをそれぞれ得た。
また、前記懸濁液100μLにいずれの乳蛋白質も含まない脱イオン水400μLを加えて、ノビレチンのみを含有する液500μLも得た。
【0081】
これら4つの試料を37℃恒温器の中で90分間振とうさせた。その後、これら4つの試料は17800×gで10分間遠心分離された。遠心分離後、各試料の上澄み200μLを50μLのアセトニトリルに加え4℃で保存した。沈殿物を除く残りの溶液は、フィルター(メルクミリポア社製、Millex-LH、0.45mμm)で濾過され、各試料の濾液を4℃で保存した。
【0082】
各試料の前記上澄み中のノビレチン濃度及び前記濾液中のノビレチン濃度をHPLCにより測定した。当該測定は以下のとおりに行われた。すなわち、前記上澄み及び前記濾液をそれぞれ、50%アセトニトリル(V/V)及び0.1%酢酸(V/V)を含む水溶液で20倍に希釈し、希釈液のうち10μLをHPLCによる分析に使用した。分析カラムとしてCapcell PakC18 UG120 S5 4.5mmX150mm(OSAKA SODA社製)を使用し、流速0.2mL及びカラム温度40℃で、50%(V/V)アセトニトリル及び0.1%(V/V)酢酸を含む水溶液を通液し分離した。分析機器として、ウォーターズ社製のe2695システム及びPhotodiode Array検出器2998を使用した。ノビレチンのピークは334nmにあり、当該ピークのシグナル面積から前記上澄み及び前記濾液のそれぞれに含まれるノビレチン量を見積もった。当該見積もりのために、ノビレチン濃度が4mg/mLであるエタノール溶液を標準品として用いた。
【0083】
以下の表1及び
図1に、HPLCのシグナル面積及び当該シグナル面積に基づき見積もられたノビレチン濃度を示す。
【0084】
【0085】
表1及び
図1に示されるとおり、乳蛋白質(LF、αLA、又はカゼインNa)を含む試料から得られた上澄み及び濾液のいずれもが、乳蛋白質を含まない試料から得られた上澄み及び濾液よりも高いノビレチン濃度を有した。そのため、水性媒体が乳蛋白質を含むことによって当該水性媒体へのノビレチンの溶解量を向上させることができることが分かる。
【0086】
また、LFを含む試料から得られた上澄み及び濾液のいずれもが、αLA又はカゼインNaを含む試料から得られた上澄み及び濾液よりも高いノビレチン濃度を有した。そのため、LFによるノビレチンの水性媒体への溶解量向上作用は、αLA又はカゼインNaによる当該作用よりも高く、特に優れていることが分かる。
【0087】
[試験例2]乳蛋白質によるノビレチンの溶解性向上作用
ノビレチン(東京化成工業社製)を脱イオン水に懸濁させて、ノビレチン濃度が10mg/mLである懸濁液を作製した。この懸濁液25μLを、ラクトフェリン(森永乳業社製)を脱イオン水に溶解させた溶液(LF濃度:1.05mg/mL)475μLに加えて、ノビレチン及びLFを含有する溶液500μLを得た。すなわち、当該溶液中のLF含有量は1mg/mLであり、且つ、ノビレチン含有量は0.5mg/mLであった。
【0088】
LFに代えてラクトフェリン加熱物、カゼインナトリウム、カゼインナトリウム加熱物、又はγシクロデキストリン(塩水港精糖社製)を用いたこと以外は同じ手順で、ノビレチン及びラクトフェリン加熱物、カゼインナトリウム、カゼインナトリウム加熱物、又はγシクロデキストリンを含有する溶液500μLをそれぞれ得た。
前記ラクトフェリン加熱物及び前記カゼインナトリウム加熱物は、LF又はカゼインNaの濃度が10mg/mLになるように脱イオン水に溶解し、その溶液をオートクレーブ(トミー精工社製BS-245)を使用して121℃10分間熱処理し、そして室温に戻すことで調製された。
また、前記懸濁液25μLにいずれの乳蛋白質も含まない脱イオン水475μLを加えて、ノビレチンのみを含有する液500μLも得た。
【0089】
これら6つの試料を37℃恒温器の中で120分間振とうさせ、そして、4℃で18時間保存した。その後、これら6つの試料は17800×gで10分間遠心分離された。遠心分離後、各試料の上澄み10μLを190 μLの50%アセトニトリル(V/V)および0.1%酢酸(V/V)を含む水溶液に加え20倍希釈液を作製した。当該希釈液のうち10μLを用いて、HPLCによりノビレチン濃度を測定した。当該測定は、試験例1に記載されたものと同じ方法により行われた。
【0090】
以下の表2及び
図2に、HPLCのシグナル面積及び当該シグナル面積に基づき見積もられたノビレチン濃度を示す。
【0091】
【0092】
表2及び
図2に示されるとおり、乳蛋白質(LF、LF加熱物、カゼインNa、又はカゼインNa加熱物)を含む試料から得られた上澄みのいずれもが、乳蛋白質を含まない試料から得られた上澄みよりも高いノビレチン濃度を有した。そのため、水性媒体が乳蛋白質を含むことによって当該水性媒体へのノビレチンの溶解量を向上させることができることが分かる。
【0093】
表2及び
図2に示される結果より、乳蛋白質の加熱物であっても、水性媒体へのノビレチンの溶解量を向上させることができることが分かる。
また、表2及び
図2に示される結果より、LFはLF加熱物よりも、ノビレチンの水性媒体への溶解量向上作用に優れていることが分かる。LF及びLF加熱物は、γシクロデキストリンよりもノビレチンの水性媒体への溶解量向上作用に優れていることも分かる。
また、表2及び
図2に示される結果より、カゼインNa加熱物は、カゼインNaよりもノビレチンの水性媒体への溶解量向上作用に優れていることも分かる。
【0094】
[試験例3]ラクトフェリンによるノビレチン凝集阻止作用
ノビレチン(東京化成工業社製)を脱イオン水に懸濁させて、ノビレチン濃度が5mg/mL懸濁液を作製した。この懸濁液5μLを、ラクトフェリン(森永乳業社製)を脱イオン水に溶解させた溶液(LF濃度:2.07mg/mL若しくは0.207 mg/mL)145μL又は脱イオン水145μLに加え、150μLの懸濁液を得た。すなわち、合計で3つの試料が得られた。試料中のノビレチン濃度は0.17mg/mLであった。
【0095】
これら3つの試料に対し、沸騰水中で5分間インキュベートすることにより、熱処理を行った。当該熱処理後、各試料を2つに分け、一方は室温で30分放置し、他方は室温で18時間放置した。当該放置後に、17800×gで10分間遠心分離を行なった。当該遠心分離により得られた上澄み10μLを、190μLの50%アセトニトリル(V/V)および0.1%酢酸(V/V)を含む水溶液に加えて、20倍希釈液を作製した。当該希釈液のうち10μLを用いて、HPLCによりノビレチン濃度を測定した。当該測定は、試験例1に記載されたものと同じ方法により行われた。
【0096】
以下表3及び
図3に、HPLCのシグナル面積及び当該シグナル面積に基づき見積もられた上澄み中のノビレチンの濃度(単位:μg/mL)を示す。なお、表3及び
図3中の「NOB」はノビレチンを意味する。
【0097】
【0098】
表3及び
図3に示されるとおり、LFを含まない場合において、0.5時間放置後では上澄み中のノビレチン濃度は高かった。これは、ノビレチンは加熱すると単分子になり水への溶解量が多くなるためと考えられる。また、LFを含まない場合において、18時間放置後では、0.5時間放置後と比較して、上澄み中のノビレチン濃度が大幅に低下した。これは、常温での放置時間が経過するにつれてノビレチンの過飽和状態が形成されてノビレチンが凝集したため又はノビレチン結晶が生成されたためと考えられる。
【0099】
一方で、表3及び
図3に示されるとおり、LFを含む場合に関して0.5時間後及び18時間後のノビレチン濃度を比較すると、LFを含まない場合よりもノビレチン濃度の低下の程度が少ない。そのため、LFによって、ノビレチンの凝集又は結晶析出が抑制されたことが分かる。
【0100】
[試験例4]乳蛋白質によるポリメトキシフラボノイド凝集阻止作用
ノビレチン又はタンゲレチン(いずれも東京化成工業社製)を脱イオン水に懸濁させて、これら化合物の濃度が10mg/mLである懸濁液を作製した。この懸濁液50μLを、ラクトフェリン(森永乳業社製)、カゼインナトリウム(和光純薬製)、又はγシクロデキストリンを脱イオン水に溶解させた溶液(いずれも7.14mg/mL、2.14 mg/mL、0.71 mg/mL、若しくは0.29 mg/mL)700μL又は脱イオン水700μLに加えて、750μLの懸濁液を得た。すなわち、LF、カゼインNa、又はγシクロデキストリンの当該溶液中の濃度は、6.7mg/mL、2mg/mL、0.67mg/mL、0.27mg/mL、又は0mg/mLであった。また、当該溶液中のノビレチン又はタンゲレチンの濃度は、0.67mg/mLであった。
【0101】
これらの試料に対し、121℃10分間オートクレーブで熱処理を行った。当該熱処理と、これらの試料を室温で2時間放置した。
ノビレチンを含む試料については、当該放置後に、結晶の析出を促すための核として、0.5mg/mLのノビレチン懸濁液を2μL添加及び撹拌し、その後1時間放置した。タンゲレチンを含む試料については、この操作は行われなった。
その後、これらの試料に対し、17800×gで10分間遠心分離を行なった。当該遠心分離後の上澄み10μLを、190μLの50%アセトニトリル(V/V)および0.1%酢酸(V/V)を含む水溶液に加えて、20倍希釈液を作製した。当該希釈液のうち10μLを用いて、HPLCによりノビレチン濃度及びタンゲレチン濃度を測定した。当該測定は、試験例1に記載されたものと同じ方法により行われた。
【0102】
以下の表4及び
図4に、HPLCのシグナル面積及び当該シグナル面積に基づき見積もられたノビレチン濃度及びタンゲレチン濃度を示す。
【0103】
【0104】
表4及び
図4に示されるとおり、乳蛋白質(LF又はカゼインNa)を含む試料から得られた上澄みのいずれもが、シクロデキストリンを含む試料から得られたものよりも高いノビレチン濃度又はタンゲレチン濃度を有した。そのため、乳蛋白質は、シクロデキストリンよりも優れたポリメトキシフラボノイド溶解性向上作用及びポリメトキシフラボノイド凝集抑制作用を有することが分かる。
【0105】
[試験例5]ラクトフェリンによるノビレチンのCaco-2細胞膜透過性向上作用
ヒト大腸がん由来上皮細胞であるCaco-2細胞から形成された細胞膜を用いて、ラクトフェリンによるノビレチンの当該細胞膜透過性向上作用を評価した。当該Caco-2細胞はDSファーマバイオケミカル社より購入した。当該細胞膜透過性を評価するための試験は、コラーゲンタイプIインサート24ウェルプレート(コーニング社製)を用いて実施された。当該細胞膜は、当該細胞を2X105個/上部チャンバーとなるように上部チャンバーに捲き、10%牛血清及び10mMグルタミン(シグマアルドリッチ社製)を添加したDMEM培地(シグマアルドリッチ社製)で21日間培養することにより形成された。
【0106】
当該インサートの上部チャンバーに添加される試料は以下の通りに調製した。すなわち、HBSS溶液(シグマアルドリッチ社製)に1/100容量の1M MES(シグマアルドリッチ社製)を添加し、この溶液1mLに対して、100mg/mLのラクトフェリンを、1/40容量(V/V)となるように添加した。また、ラクトフェリンを添加しない試料も用意した。また、エタノールに溶解させた10mMノビレチンを1/200容量でそれぞれ添加した。この溶液1mLを37℃で90分加温後、培養液を除いた上部チャンバーに300μL加えた。下部ウェルの溶液として、HBSSに1/100容量の1M HEPESを添加し、且つ、4%(W/V)となるようにウシ血清アルブミン(シグマアルドリッチ社製)を添加した溶液800μLを使用した。上部及び下部に溶液を添加後37℃で1時間恒温振とう機で振とうを行った。当該振とう後、下部溶液10μLを使用して、試験例1と同様に、下部溶液中のノビレチン量を測定した。
【0107】
以下の表5及び
図5に、HPLCのシグナル面積に基づき見積もられたノビレチン濃度を示す。
【0108】
【0109】
表5及び
図5に示されるとおり、上部溶液がラクトフェリンを含む場合は、ラクトフェリンを含まない場合よりも、下部溶液中のノビレチン濃度が高かった。そのため、ラクトフェリンによって、ノビレチンの細胞膜透過性が向上されたことが分かる。従って、ラクトフェリンによって、ノビレチンの生体内における利用可能性を高めることができると考えられる。
【0110】
[試験例6]乳蛋白質によるノビレチンのCaco-2細胞膜透過性向上作用
インサート内に加えられる溶液を変更して、上記試験例5と同様の方法でCaco-2細胞膜透過性を評価した。当該評価は以下の通りに行われた。
インサート内に加えられる溶液は次のように調製した。HBSS溶液(シグマアルドリッチ社製)に1/100容量の1M MES(シグマアルドリッチ社製)を添加し、この溶液1mLに対して、ノビレチンを含む溶液を加えた。ノビレチンを含む溶液の調製は、次のように実施した。最終濃度6.7mg/mLの濃度でラクトフェリン又はカゼインナトリウムを溶解させた溶液に最終濃度0.67mg/mLとなるようにノビレチンを添加し、750μLの溶液を得た。コントロールとして、乳蛋白質無添加の溶液も調製した。続いて、これら溶液に対して121℃で10分間オートクレーブを行った。オートクレーブ後、これら溶液を室温で2時間放置し、その後、ノビレチン結晶の析出を促進させるための核として、0.5mg/mLのノビレチン懸濁液を2μL添加し撹拌後1時間放置した。その後、17800×gで、10分間遠心分離を行なった。当該遠心分離後に、上澄みをノビレチン含有溶液として、上記Caco-2細胞膜透過性評価において用いた。当該ノビレチン含有溶液27μLが、インサートに添加する溶液1mLに添加された。この溶液1mLを37℃で90分加温後、培養液を除いた上部チャンバーに300μL加え上記Caco-2細胞膜透過性評価を実施した。
【0111】
以下の表6及び
図6に、当該評価により得られたHPLCのシグナル面積に基づき見積もられたノビレチン濃度を示す。
【0112】
【0113】
表6及び
図6に示されるとおり、上部溶液が乳蛋白質(ラクトフェリン又はカゼインNa)を含む場合は、乳蛋白質を含まない場合よりも、下部溶液中のノビレチン濃度が高かった。そのため、乳蛋白質によって、ノビレチンの細胞膜透過性が向上されたことが分かる。従って、乳蛋白質によって、ノビレチンの生体内における利用可能性を高めることができると考えられる。
【0114】
また、上部溶液がラクトフェリンを含む場合は、上部溶液がカゼインNaを含まない場合よりも、下部溶液中のノビレチン濃度が高かった。そのため、ラクトフェリンは、ノビレチンの細胞膜透過性の向上作用に特に優れていることが分かる。従って、ラクトフェリンによって、ノビレチンの生体内における利用可能性を特に高めることができると考えられる。
【0115】
[実施例1]
ビレチン(アークレイ株式会社、ポリメトキシフラボノイド含有量10質量%以上)及びラクトフェリン(森永乳業株式会社製、純度96%以上)をそれぞれ3mg/mL、5mg/mLとなるように脱イオン水に溶解し、10Lの溶液を得た。得られた混合液をレトルトパックに分注した。その後、混合液入りレトルトパックをレトルト滅菌器により120℃7分間滅菌を行って、可溶性ポリメトキシフラボノイドの多い溶液を得た。
【0116】
[実施例2]
ビレチン(アークレイ株式会社、メトキシフラボノイド含有10%以上)およびラクトフェリン(森永乳業株式会社製、純度96%以上)をそれぞれ0.15mg/mL、0.5mg/mLとなるように脱イオン水に溶解し、得られた水溶液をプレート式殺菌機(森永エンジニアリング社製)を用いて131℃で30秒間加熱保持する条件で滅菌した。冷却後無菌化で容器に充填することで沈殿物の少ない可溶性ポリメトキシフラボノイドの多い溶液を得た。
【0117】
[実施例3]
シークヮーサー溶液(アクアメディカル研究所製)500mLにエタノールを添加し、50%(V/V)濃度とし、室温で1時間撹拌した。その後、ろ紙による吸引濾過を行い沈殿物を除いた。得られた溶液は、減圧濃縮により約30mLまで濃縮した。この溶液に2Lの脱イオン水を添加し懸濁させた。さらに10mg/mLのラクトフェリン(森永乳業社製、純度96%以上)水溶液200mLを添加し、混合後得られた溶液をレトルトパックに分注した。その後、レトルトパックをレトルト滅菌器により120℃7分間滅菌を行って、可溶化されたポリメトキシフラボノイドの多い溶液を得た。
【0118】
[実施例4]
黒ショウガ粉末(黒ウコンジャパン社製)60gを2Lの脱イオン水に懸濁させ室温で1時間撹拌した。静置させ不溶物を沈殿させた。沈殿物を取らないように溶液を吸引除去し、再度脱イオン水を2L加え同じ操作を行った。得られた沈殿物に対して20%エタノール溶液2Lを添加し室温にて1時間撹拌した後、静置し、溶液を吸引除去することで沈殿物を得た。さらに、50%エタノール2Lを得られた沈殿物に加え、室温にて1時間撹拌し、ろ紙による吸引濾過を行うことでポリメトキシフラボノイドを含む溶液を得た。この溶液を減圧濃縮させることで約100mLの溶液を得た。この溶液に脱イオン水5Lを添加し、撹拌後、得られた溶液を室温で静置させた。この溶液の沈殿が入らないように、この溶液の白濁液を別容器に移した。ここに最終濃度1mg/mLとなるように100mg/mLのラクトフェリン(森永乳業社製、純度96%以上)水溶液を添加し撹拌した。撹拌混合後得られた混合液をレトルトパックに分注した。その後、混合液入りレトルトパックをレトルト滅菌器により120℃7分間滅菌を行って、可溶性ポリメトキシフラボノイドの多い溶液を得た。