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特許7458992非水電解質二次電池用カルボキシメチルセルロース又はその塩
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  • 特許-非水電解質二次電池用カルボキシメチルセルロース又はその塩 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用カルボキシメチルセルロース又はその塩
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240325BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240325BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240325BHJP
   C08L 1/26 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
C08L1/26
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020561388
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2019049044
(87)【国際公開番号】W WO2020129862
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018237295
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪後 貴之
(72)【発明者】
【氏名】井上 一彦
(72)【発明者】
【氏名】小松 瑛
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/062250(WO,A1)
【文献】特開2016-058283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/13
H01M 4/139
C08L 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池の電極用結合剤として使用されるカルボキシメチルセルロース又はその塩であって、
該カルボキシメチルセルロース又はその塩のカルボキシメチル置換度が0.5~1.5、
熱重量示差熱分析装置により測定される熱分解開始点における熱重量減少率Wと熱分解終了点における熱重量減少率Wとの差(W-W)である熱変化率Tが、45%以下であ且つ
酸型カルボキシ基量が0.1mmol/g以上1.150mmol/g未満である、カルボキシメチルセルロース又はその塩。
【請求項2】
固形分1%(w/v)の水分散体とした際の粘度(30rpm、25℃)が、100~20000mPa・sの範囲にある、請求項1に記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩。
【請求項3】
熱分解開始点における熱重量減少率Wが7%以上である、請求項1又は2に記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩を含む、非水電解質二次電池用電極組成物。
【請求項5】
ケイ素系活物質の含有量が10質量%以上である、請求項4に記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の非水電解質二次電池用電極組成物を含む、非水電解質二次電池用電極。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の非水電解質二次電池用電極組成物を含む、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用カルボキシメチルセルロース又はその塩、それを含有する非水電解質二次電池用電極組成物、非水電解質二次電池用電極、及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、携帯電話、携帯型音楽プレーヤー、ノート型パーソナルコンピューター等の携帯型電気機器の小型機器の他、電気自転車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の大型機器にも展開されている。このため、非水電解質二次電池には、高容量化、大電流での充放電特性といった性能が求められている。
【0003】
近年は電池のエネルギー密度をさらに向上させるため、正極活物質としてLiCoOやLiMnに替わって、LiNiCoAl1-a-bやLiNiCoMn1-a-bなどのNiを含有したリチウム金属酸化物の実用化が進められている。
【0004】
また、これら機器は、様々な環境で使用できることが前提となっており、高温環境下での貯蔵性能、サイクル性能、高出力の長期信頼性などの観点から、正極、負極の構成材料には、化学的、電気化学的な安定性、強度、耐腐食性の優れた材料が求められる。一方、非水電解質として安全性能向上の観点から、不揮発性、不燃性電解液の開発が進められている。しかしながら、不燃性電解液は、一般に、出力特性、低温性能、長寿命性能の低下を伴うことから、いまだ実用化されていない。
【0005】
そのため、水系電池と比較して非水電解質二次電池は、発煙、発火、破裂等の危険性が高いことが知られているが、優れた電池特性を有するものである。従って、非水電解質二次電池での耐久性や安全性の向上が要望されている。
【0006】
そのような状況の中、特許文献1には、特殊なチタン系酸化物を負極に用いることで、高容量で耐久性に優れた非水電解質二次電池を提供できることが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、特殊な処理を施したセパレーターを用いることで、耐久性の向上を行えることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-101628号公報
【文献】特開2017-68900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の非水電解質二次電池では、負極材料に特定のチタン系化合物を配合することが必須である。そのため、さらなる高容量化・出力向上を検討するときに、材料選定の自由度が低く、また正極に対しては応用が難しいという課題がある。
【0010】
また、特許文献2では、セパレーターに着目した開発を行っているが、電極組成物としてはさらなる改良の余地がある。
【0011】
そこで本発明は、充放電を繰り返しても容量低下が少なく、且つ耐久性に優れた非水電解質二次電池用のカルボキシメチルセルロース又はその塩、それを含有する非水電解質二次電池用電極組成物、非水電解質二次電池用電極、及び非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を進め、以下の〔1〕~〔7〕により課題を解決できることを見出した。
〔1〕非水電解質二次電池の電極用結合剤として使用されるカルボキシメチルセルロース又はその塩であって、該カルボキシメチルセルロース又はその塩のカルボキシメチル置換度が0.5~1.5、且つ熱重量示差熱分析装置により測定される熱分解開始点における熱重量減少率Wと熱分解終了点における熱重量減少率Wとの差(W-W)である熱変化率Tが、45%以下であるカルボキシメチルセルロース又はその塩。
〔2〕固形分1%(w/v)の水分散体とした際の粘度(30rpm、25℃)が、100~20000mPa・sの範囲にある、上記〔1〕に記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩。
〔3〕熱分解開始点における熱重量減少率Wが7%以上である、上記〔1〕又は〔2〕に記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩。
〔4〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩を含む、非水電解質二次電池用電極組成物。
〔5〕ケイ素系活物質の含有量が10質量%以上である、上記〔4〕に記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
〔6〕上記〔4〕又は〔5〕に記載の非水電解質二次電池用電極組成物を含む、非水電解質二次電池用電極。
〔7〕上記〔4〕又は〔5〕に記載の非水電解質二次電池用電極組成物を含む、非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、充放電を繰り返しても容量低下が少なく、且つ耐久性に優れた非水電解質二次電池用のカルボキシメチルセルロース又はその塩、それを含有する非水電解質二次電池用電極組成物、非水電解質二次電池用電極、及び非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、温度と熱重量測定(Tg)との関係性を現わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[カルボキシメチルセルロース]
本発明において、カルボキシメチルセルロース又はその塩は、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を持つ。カルボキシメチルセルロースは、塩の形態であってもよい。カルボキシメチルセルロースの塩としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩などの金属塩を挙げ得る。
【0016】
本発明においてセルロースとは、D-グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」とも言う。)がβ-1,4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に、起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。
【0017】
天然セルロースとしては、晒パルプ又は未晒パルプ(晒木材パルプ又は未晒木材パルプ);リンター、精製リンター;酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒パルプ又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹が挙げられる。また、晒パルプ又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合わせた方法でもよい。製造方法により分類される晒パルプ又は未晒パルプとしては、例えば、メカニカルパルプ、ケミカルパルプ、砕木パルプ、亜硫酸パルプ、クラフトパルプが挙げられる。さらに、製紙用パルプの他に溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとは、化学的に精製されたパルプであり、主として薬品に溶解して使用され、人造繊維、セロハンなどの主原料となる。
【0018】
再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。
【0019】
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
【0020】
本発明のカルボキシメチルセルロース又はその塩は、その無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が、0.5以上であることが重要であり、0.6以上が好ましい。カルボキシメチル置換度が0.5未満であると、水への溶解が十分でなくなるおそれがある。
【0021】
本明細書中、無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味する。また、カルボキシメチル置換度(エーテル化度ともいう)とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基(-OH)のうちカルボキシメチルエーテル基(-OCHCOOH)に置換されているものの割合を示す。なお、カルボキシメチル置換度はDSと略すことがある。
【0022】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度の上限は、1.5以下であり、1.1以下が好ましい。
【0023】
なお、当該カルボキシメチル置換度は、試料中のカルボキシメチルセルロースを中和するのに必要な水酸化ナトリウム等の塩基の量を測定して確認することができる。この場合、カルボキシメチルエーテル基が塩の形態であるカルボキシメチルセルロースの塩の場合には、測定前に予めカルボキシメチルエーテル基の塩を酸型としたカルボキシメチルセルロースに変換しておく。測定の際には、塩基、酸を用いた逆滴定、フェノールフタレイン等の指示薬を適宜組み合わせることができる。
【0024】
本発明のカルボキシメチルセルロース又はその塩は、熱分解開始点における熱重量減少率Wと、熱分解終了点における熱重量減少率Wとの差(W-W)である熱変化率Tが、45%以下であることが重要である。熱変化率Tが45%以下である場合、高温耐久性が要求される非水電解質二次電池の電極用結合剤として好適である。一方、熱変化率Tが45%超である場合、非水電解質二次電池の電極に用いた場合、乾燥時に結合剤としての性能が低下してしまう恐れがあり適さない。
【0025】
なお、本発明に関わる熱分解開始点における熱重量減少率Wとは、熱分析装置 TG/DTA22(セイコーインスツル社製)を用い、窒素雰囲気下(100ml/min)測定温度30~500℃、昇温速度10℃/minの条件にて測定した、熱分解開始点(A)での熱重量変化率をいう。
【0026】
また、本発明に関わる熱分解終了点における熱重量減少率Wとは、熱分析装置 TG/DTA22(セイコーインスツル社製)を用い、窒素雰囲気下(100ml/min)測定温度30~500℃、昇温速度10℃/minの条件にて測定した、熱分解終了点(B)での熱重量変化率をいう。
【0027】
熱重量減少率Wは、7%以上が好ましく、8%以上がより好ましい。熱重量減少率Wが7%以上であることで、凝集物が少なく、即ち均一に分散されていると推測されるため、非水電解質二次電池に適する。
【0028】
本発明のカルボキシメチルセルロース又はその塩において、25℃、30rpmでの条件でB型粘度計で測定された1質量%水溶液の粘度は、100~20,000mPa・sが好ましく、1,500~15,000mPa・sがより好ましく、1,700~10,000mPa・sがさらに好ましく、2,000~10,000mPa・sがさらにより好ましい。粘度が上記範囲にあることで、沈降しにくく、塗工性も良好な電極スラリーを作製することができるため、非水電解質二次電池に適する。
【0029】
本発明において、カルボキシメチルセルロース又はその塩の製法は、所定のパラメータを満たす限り、特に限定されず、公知のカルボキシメチルセルロース又はその塩の製法を適用することができる。即ち、原料であるセルロースをマーセル化剤(アルカリ)で処理してマーセル化セルロース(アルカリセルロース)を調製した後に、エーテル化剤を添加してエーテル化反応させることで、本発明のカルボキシメチルセルロース又はその塩を製造することができる。
【0030】
原料のセルロースとしては、上述のセルロースであれば特に制限なく用いることができるが、セルロース純度が高いものが好ましく、溶解パルプ、リンターを用いることがより好ましい。これらを用いることにより、純度の高いカルボキシメチルセルロース又はその塩を得ることができる。
【0031】
マーセル化剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属塩等を使用することができる。エーテル化剤としては、モノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ソーダ等を使用することができる。
【0032】
水溶性の一般的なカルボキシメチルセルロースの製法の場合のマーセル化剤とエーテル化剤のモル比は、エーテル化剤としてモノクロロ酢酸を使用する場合、2.00~2.45が一般的に採用される。その理由は、2.00未満であると、エーテル化反応が不十分に行われない可能性があるため、未反応のモノクロロ酢酸が残って無駄が生じる可能性があること、及び2.45超であると、過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸による副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成するおそれがあるため、不経済となる可能性があることにある。
【0033】
本発明において、カルボキシメチルセルロース又はその塩は、市販を、所定のパラメータを充足するように処理してから用いてもよい。市販品としては、例えば、日本製紙製の商品名「サンローズ」(カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩)が挙げられる。
【0034】
[粉砕処理]
本発明において、カルボキシメチルセルロース又はその塩は、上述したような所定のパラメータを充足するカルボキシメチルセルロース又はその塩をそのまま用いてもよいが、所定のパラメータを充足する限り、さらに粉砕処理が施されたもの(粉砕処理物)であってもよい。粉砕処理は、通常は機械を用いて行われる機械的粉砕処理である。カルボキシメチルセルロース又はその塩の粉砕処理の方法としては、粉体の状態で処理する乾式粉砕法、液体に分散、あるいは溶解させた状態で処理する湿式粉砕法が例示される。本発明においてはこれらのいずれを選択してもよい。
【0035】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液を調製すると、カルボキシメチルセルロース又はその塩に由来するゲル粒子が未溶解物として、水溶液中に残存する。カルボキシメチルセルロース又はその塩を機械的に乾式或いは湿式粉砕処理することで、カルボキシメチルセルロース又はその塩の機械的な粉砕処理物の水溶液においては、上記のゲル粒子が微細化される。その結果、カルボキシメチルセルロース又はその塩の機械的な粉砕処理物の水溶液を用いて電極を形成すると、電極の表面に発生するスジ状の欠陥(ストリーク)や剥がれ、ピンホール等の原因となる粗大な未溶解物を抑制することができると考えられる。
【0036】
機械的な粉砕処理のために使用可能な粉砕装置としては、以下の様な乾式粉砕機及び湿式粉砕機が挙げられる。
【0037】
乾式粉砕機は、カッティング式ミル、衝撃式ミル、気流式ミル、媒体ミルが例示される。これらは単独或いは併用して、さらには同機種で数段処理することができるが、気流式ミルが好ましい。
【0038】
カッティング式ミルとしては、メッシュミル(ホーライ製)、アトムズ(山本百馬製作所製)、ナイフミル(パルマン社製)、グラニュレータ(ヘルボルト製)、ロータリーカッターミル(奈良機械製作所製)が例示される。
【0039】
衝撃式ミルとしては、パルペライザ(ホソカワミクロン製)、ファインイパクトミル(ホソカワミクロン製)、スーパーミクロンミル(ホソカワミクロン製)、サンプルミル(セイシン製)、バンタムミル(セイシン製)、アトマイザー(セイシン製)、トルネードミル(日機装製)、ターボミル(ターボ工業製)、ベベルインパクター(相川鉄工製)が例示される。
【0040】
気流式ミルとしては、CGS型ジェットミル(三井鉱山製)、ジェットミル(三庄インダストリー製)、エバラジェットマイクロナイザ(荏原製作所製)、セレンミラー(増幸産業製)、超音速ジェットミル(日本ニューマチック工業製)が例示される。
【0041】
媒体ミルとしては、振動ボールミルが例示される。
【0042】
湿式粉砕機としては、マスコロイダー(増幸産業製)、高圧ホモジナイザー(三丸機械工業製)、媒体ミルが例示される。媒体ミルとしては、ビーズミル(アイメックス製)を例示できる。
【0043】
[カルボキシメチルセルロースの粒径]
本発明において、カルボキシメチルセルロース又はその塩の粒径は、小さい方が好ましい。すなわち、メタノールを分散剤としてレーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計100%粒子径の値(本明細書においては、以降「最大粒子径」ということがある)は、50μm未満が好ましく、49μm未満がより好ましい。カルボキシメチルセルロース又はその塩の最大粒子径が50μm以上であると、カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液中の未溶解物が増加する傾向がある。
【0044】
また、本発明においてカルボキシメチルセルロース又はその塩は、造粒処理が施されていてもよい。これにより、取り扱いが容易となる。造粒処理を施すことにより、カルボキシメチルセルロース又はその塩の最大粒子径は50μm以上となることがあるが、造粒処理前のカルボキシメチルセルロース又はその塩の最大粒子径は50μm未満が好ましい。
【0045】
なお、最大粒子径の下限は特には限定されない。小さければ小さいほど好ましく、0を超えていればよい。
【0046】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の、メタノールを分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計50%粒子径(以下、平均粒子径という。)は、通常は30μm以下であり、20μm以下が好ましく、18μm以下がより好ましい。また、平均粒子径の下限は特に限定されないが、通常は5μm以上であり、10μm以上が好ましく、12μm以上がより好ましい。
【0047】
本発明においては、カルボキシメチルセルロース又はその塩を粒子径の大きさ(好ましくは最大粒子径の大きさ)に基づき分級し得る。分級とは、分級の対象である粒子を、ある粒子径の大きさ以上のものと、それ以下のものとを篩い分けする処理を意味する。
【0048】
分級は、最大粒子径が50μm未満であるか、50μm以上であるかを基準として行うことが好ましい。これにより、最大粒子径が50μm未満のカルボキシメチルセルロース又はその塩を選択的に収集することができる。
【0049】
カルボキシメチルセルロース又はその塩として、カルボキシメチルセルロース又はその塩の粉砕処理物を用いる場合、上記の分級の時期は特に限定されず、粉砕処理の途中に設けてもよいし、粉砕処理の終了後に設けてもよい。
【0050】
分級の方法は、公知の方法、例えば、乾式分級機、湿式分級機を用いる方法を用いればよい。乾式分級機としては、サイクロン式分級機、DSセパレーター、ターボクラシフィア、ミクロセパレータ、エアーセパレータ等が挙げられる。一方、湿式分級機としては、液体サイクロン方式の分級機、遠心沈降機、ハイドロッシレーター等が挙げられる。このうち乾式分級機が好ましく、サイクロン式分級機がより好ましい。
【0051】
[非水電解質二次電池]
本発明において、カルボキシメチルセルロース又はその塩は、非水電解質二次電池の電極用結合剤として好ましい性質を持つ。通常は、カルボキシメチルセルロース又はその塩を含む水溶液が、非水電解質二次電池の電極用結合剤として用いられる。
【0052】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液における、カルボキシメチルセルロース又はその塩の濃度は、通常は0.1~10質量%であり、0.2~4質量%が好ましく、0.5~2質量%がより好ましい。
【0053】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液の製造条件は特に制限はない。例えば、カルボキシメチルセルロース又はその塩を、水(例えば、蒸留水、精製水、水道水)に添加し、必要に応じて撹拌などを行い溶解して調製する。
【0054】
本発明において、カルボキシメチルセルロース又はその塩は、電極用結合剤として、電極の活物質と共に電極組成物を構成し得る。すなわち、本発明の非水電解質二次電池用電極組成物の一実施形態は、カルボキシメチルセルロース又はその塩と、電極活物質と、を含む。電極組成物の性状は特に限定されず、スラリー状、ペースト状のいずれであってもよい。
【0055】
本発明において、電極組成物中のカルボキシメチルセルロース又はその塩の含有量は、電極組成物の全体に対して、好ましくは0.1~4.0質量%である。
【0056】
電極組成物には、該組成物により形成される電極が負極及び正極のいずれかに応じて様々な成分が含まれ得る。
【0057】
負極用の電極組成物の場合には、通常、負極活物質が含まれる。負極活物質としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、アセチレンブラック、コ-クス、炭素繊維のような黒鉛質材料;リチウムと合金を形成することが可能な元素、すなわち、Al、Si、Sn、Ag、Bi、Mg、Zn、In、Ge、Pb、Ti等の元素;前記リチウムと合金を形成することが可能な元素を含む化合物;前記リチウムと合金を形成することが可能な元素及びその元素を含む化合物と、炭素及び/又は黒鉛質材料との複合化物;リチウムを含む窒化物が使用できる。このうち黒鉛質材料及びケイ素活物質(Si)が好ましく、黒鉛及びケイ素系活物質との混合組成物がより好ましい。
【0058】
正極用の電極組成物の場合には、通常、正極活物質が含まれる。正極活物質としては、LiMe(Meは、Ni、Co、Mnの少なくとも1種を含む遷移金属を意味する。x、yは任意の数を意味する。)系の正極活物質が好ましい。LiMe系の正極活物質は、特に限定されるものではないが、LiMn系、LiCoO系、LiNiO系の正極活物質が好ましい。LiMn系、LiCoO系、LiNiO系の正極活物質としては、例えば、LiMnO、LiMn、LiCoO、LiNiO、を主骨格として、各種金属元素が置換した化合物が例示される。LiMn系、LiCoO系、LiNiO系の正極活物質は、電子とリチウムイオンの拡散性能に優れるなど正極活物質としての性能に優れているため、高い充放電効率と良好なサイクル特性とを有するリチウムイオン二次電池が得られる。このうちLiCoO系の正極活物質が好ましく、LiCoOがより好ましい。一方、材料コストの低さからは、LiMn系の正極活物質を用いることが好ましい。
【0059】
電極組成物中の電極活物質の含有量は、通常は90~99質量%、好ましくは91~99質量%、より好ましくは92~99質量%である。但し、電極活物質として、ケイ素系活物質を用いる場合、ケイ素系活物質の含有量は、電極活物質の総量に対して、10質量%以上が好ましい。
【0060】
また電極活物質としてケイ素系活物質含有する場合、本願発明のカルボキシメチルセルロース又はその塩は、カルボキシメチルセルロース塩を主要な形態として取ることが好ましい。
そのようなカルボキシメチルセルロース塩の形態とは、酸型カルボキシ基量であらわすことができる。本発明のカルボキシメチルセルロース又はその塩は、酸型カルボキシ基量が1.150mmol/g未満が好ましく、1.140mmol/g以下がより好ましく、1.135mmol/g以下がさらに好ましい。
下限としては特に制限はないが、0.1mmol/g以上が好ましく、0.2mmol/g以上がより好ましく、0.5mmol/g以上がさらに好ましい。
【0061】
本発明のカルボキシルメチルセルロース又はその塩の酸型カルボキシ基量が、上記好ましい範囲にあることにより、電極組成物中でカルボキシメチルセルロース又はその塩は、アニオン化しやすくなる。そのため、電極組成物中では、荷電反発により活物質の分散性が向上する。
特に比重の異なる負極活物質の混合組成物(例えば、黒鉛及びケイ素系活物質)において、良好な分散性を発揮し、集電体に塗布した際にも欠点のない良好な電極層を形成しやすくなる。
【0062】
ここで、カルボキシメチルセルロース又はその塩の酸型カルボキシ基量は、カルボキシメチルセルロース又はその塩x(g)を水溶液として、水溶液の電気伝導度を測定しつつ、所定濃度y(N)の水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸、すなわち酸型カルボキシ基の中和段階において消費された水酸化ナトリウム水溶液量a(mL)から、式(A)を用いて算出し得る。
酸型カルボキシ基量[mmol/g]=a[mL]×y[N]/カルボキシメチルセルロース又はその塩の質量x[g]・・・(A)
【0063】
具体的には、カルボキシメチルセルロース又はその塩の酸型カルボキシ基量は、下記の方法で測定し得る。
カルボキシメチルセルロース又はその塩0.1gにイオン交換水100mLを加えて水溶液とし、これに0.5mL/minの速度で濃度0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、電気伝導度を測定しつつ滴下する。そして、水酸化ナトリウム水溶液の添加量に対して電気伝導度をプロットして滴定曲線を作成する。
次いで、滴定曲線において、電気伝導度の変化が緩やかな範囲の点から最小二乗法により第1漸近線を作成し、電気伝導度の変化が急である範囲の点から最小二乗法により第2漸近線を作成する。その後、第1漸近線及び第2漸近線の交点における水酸化ナトリウム水溶液の添加量を、酸型カルボキシ基の中和段階において消費された水酸化ナトリウム水溶液量a(mL)とする。滴定に用いたカルボキシメチルセルロース又はその塩の質量(g)と、水酸化ナトリウムの濃度(N)と、水酸化ナトリウム水溶液量a(mL)とから、式(A)より酸型カルボキシ基量を算出する。
【0064】
電気伝導度としては、電気伝導度計から得られる数値をそのまま用いてもよいが、電気伝導度計から得られる数値に下記式(B)から算出される係数を乗じて補正された電気伝導度を得て、この補正された電気伝導度を用いて第1漸近線及び第2漸近線を得てもよい。
(係数)=(V0(mL)+v(mL))/V0(mL)・・・(B)
上式において、V0は、水酸化ナトリウム水溶液を添加する前のカルボキシメチルセルロール又はその塩の水溶液量を表し、vは、各電気伝導度の値での水酸化ナトリウム水溶液の添加量を表す。
【0065】
正極用の電極組成物の場合には、電極組成物は導電材を有することが好ましい。電極組成物が導電材を有することで、製造される正極の特性が向上する。また、導電材は、正極の電気伝導性を確保し得る。導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛等の炭素物質の1種又は2種以上を混合したものが挙げられる。このうち、カーボンブラック、アセチレンブラックが好ましい。
【0066】
また、電極組成物には、カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液以外の結合剤が含まれ得る。
負極用の電極組成物の場合の結合剤としては、合成ゴム系結合剤が例示される。合成ゴム系結合剤としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム、メチルメタクリレートブタジエンゴム、クロロプレンゴム、カルボキシ変性スチレンブタジエンゴム及びこれら合成ゴムのラテックスよりなる群から選択された1種以上が使用できる。このうち、スチレンブタジエンゴム(SBR)が好ましい。
また、正極用の電極組成物の場合の結合剤としては、前記負極用の結合剤として挙げた合成ゴム系結合剤のほか、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が例示され、このうち、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
【0067】
電極組成物中の結合剤の含有量は、通常は1~10質量%、好ましくは1~6質量%、より好ましくは1~2質量%である。
【0068】
電極組成物の製造条件は特に限定はない。例えば、カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液に、電極組成物を構成する他の成分を添加し、必要に応じて撹拌しながら混合する。
【0069】
電極組成物の性状も特に限定されない。例えば、液状、ペースト状、スラリー状が挙げられ、いずれであってもよい。
【0070】
電極組成物は、非水電解質二次電池のための電極の製造に用いられる。非水電解質二次電池用の電極の製造は、前記電極組成物を集電基材(集電体)上に積層する方法によればよい。積層の方法としては、例えば、ブレード塗工、バー塗工、ダイ塗工が挙げられ、ブレード塗工が好ましい。例えば、ブレード塗工の場合には、ドクターブレード等の塗工装置を用いて電極組成物を集電基材上にキャスティングする方法が例示される。また、積層の方法は、上記具体例に限定されず、バックアップロールに巻回して走行する集電基材上に、スロットノズルを有するエクストルージョン型注液器より前記電極組成物を吐出させ塗布する方法も例示される。ブレード塗工においては、キャスティング後さらに必要に応じて加熱(温度は、例えば80~120℃、加熱時間は、例えば4~12時間)などによる乾燥、ロールプレスなどによる加圧を行い得る。
【0071】
集電基材としては、構成された電池において致命的な化学変化を起こさない電気伝導体であれば何れも使用可能である。
【0072】
負極用の集電基材としては、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、炭素、銅や前記ステンレス鋼の表面にカ-ボン、ニッケル、チタン又は銀を付着処理させたもの等が利用できる。これらのうち、銅又は銅合金が好ましいが、銅がより好ましい。
【0073】
正極用の集電基材の材料としては、例えば、アルミニウム、ステンレス等の金属が例示され、アルミニウムが好ましい。集電基材の形状としては、網、パンチドメタル、フォームメタル、板状に加工された箔等を用いることができ、板状に加工された箔が好ましい。
【0074】
電極組成物により形成された非水電解質二次電池用電極の形状は特に限定されないが、通常はシート状である。シート状の極板の場合の厚さ(集電基材部分を除く、電極組成物から形成される合剤層の厚さ)は、組成物の組成や製造条件などにもよるので規定することは困難であるが、通常は30~150μmである。
【0075】
前記組成物により形成される電極は、非水電解質二次電池の電極として用いられる。すなわち本発明は、前記組成物により形成される電極を備える、非水電解質二次電池をも提供する。非水電解質二次電池は、正電極及び負電極が交互に、セパレータを介して積層され、多数回巻回された構造を取りうる。前記セパレータは通常、非水電解質で含浸される。この負電極及び/又は正電極として、前記した電極組成物により形成された負電極及び/又は正電極が用いられうる。かかる非水電解質二次電池は、溶解性に優れるカルボキシメチルセルロース又はその塩が用いられ、フィルターによる濾過などの工程を省略できるので生産性に優れると共に、初期不可逆容量が顕著に改善され、高い電池特性を発揮しうるものである。
【実施例
【0076】
以下、本発明の実施の形態を実施例により説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、実施例中、特に断りがない限り、「部」とは、質量部を意味する。
【0077】
本明細書において、各指標の測定は以下の方法による。
【0078】
<熱重量減少率>
カルボキシメチルセルロース又はその塩を、熱分析装置 TG/DTA22(セイコーインスツル社製)を用い、窒素雰囲気下(100ml/min)測定温度30~500℃、昇温速度10℃/minの条件にて測定した。分解開始点(A)での熱重量変化率をWとし、分解終了点(B)での熱重量変化率をWとした。
【0079】
<粘度>
カルボキシメチルセルロース又はその塩を、1000ml容ガラスビーカーに測りとり、蒸留水900mlに分散し、固形分1%(w/v)となるように水分散体を調製した。水分散体を、25℃で撹拌機を用いて600rpmで3時間撹拌した。その後、JIS-Z-8803の方法に準じて、B型粘度計(東機産業社製)を用いて、No.1ローター/回転数30rpmで3分後の粘度を測定した。
【0080】
<最大粒子径、平均粒子径及び粒度分布の測定>
カルボキシメチルセルロースの最大粒子径、及び平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布計(マイクロトラック Model-9220-SPA、日機装製)により行った。ここで、最大粒子径とは、体積類型100%粒子径の値とし、平均粒子径とは、体積累計50%粒子径の値とした。測定に当たっては、試料をメタノールに分散した後、超音波処理を少なくとも1分以上行ったものについて測定を行った。
【0081】
[製造例1]
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、イソプロピルアルコール(IPA)550部と、水酸化ナトリウム40部を水80部に溶解した水酸化ナトリウム水溶液とを加え、リンターパルプを100℃、60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合してマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつモノクロロ酢酸50部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応を行った。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、平均粒子径15μm、最大粒子径45μm、カルボキシメチル置換度0.65、酸型カルボキシ基量1.125mmol/gのカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC1)を得た。
【0082】
得られたカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を水に分散し、1%(w/v)水分散体(CMC1の水分散体)とした。これについて、上述の方法で粘度を測定したところ、4700mPa・sであった。
【0083】
[製造例2]
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、イソプロピルアルコール(IPA)650部と、水酸化ナトリウム60部を水100部に溶解した水酸化ナトリウム水溶液とを加え、リンターパルプを100℃、60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合してマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつモノクロロ酢酸70部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応を行った。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、平均粒子径13μm、最大粒子径42μm、カルボキシメチル置換度0.90、酸型カルボキシ基量1.130mmol/gのカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC2)を得た。
【0084】
得られたカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を水に分散し、1%(w/v)水分散体(CMC2の水分散体)とした。これについて、上述の方法で粘度を測定したところ、1890mPa・sであった。
【0085】
[製造例3]
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、イソプロピルアルコール(IPA)600部と、水酸化ナトリウム55部を水100部に溶解した水酸化ナトリウム水溶液とを加え、リンターパルプを100℃、60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合してマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつモノクロロ酢酸65部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応を行った。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、平均粒子径16μm、最大粒子径47μm、カルボキシメチル置換度0.85、酸型カルボキシ基量1.119mmol/gのカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC3)を得た。
【0086】
得られたカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を水に分散し、1%(w/v)水分散体(CMC3の水分散体)とした。これについて、上述の方法で粘度を測定したところ、4600mPa・sであった。
【0087】
[製造例4]
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、イソプロピルアルコール(IPA)600部と、水酸化ナトリウム38部を水80部に溶解した水酸化ナトリウム水溶液とを加え、リンターパルプを100℃、60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合してマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつモノクロロ酢酸46部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応を行った。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、平均粒子径17μm、最大粒子径49μm、カルボキシメチル置換度0.70、酸型カルボキシ基量1.135mmol/gのカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC4)を得た。
【0088】
得られたカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を水に分散し、1%(w/v)水分散体(CMC4の水分散体)とした。これについて、上述の方法で粘度を測定したところ、7900mPa・sであった。
【0089】
[製造例5]
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、イソプロピルアルコール(IPA)450部と、水酸化ナトリウム15部を水80部に溶解した水酸化ナトリウム水溶液とを加え、リンターパルプを100℃、60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合してマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつモノクロロ酢酸20部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応を行った。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、平均粒子径21μm、最大粒子径105μm、カルボキシメチル置換度0.30、酸型カルボキシ基量1.131mmol/gのカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC5)を得た。
【0090】
得られたカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を水に分散し、1%(w/v)水分散体(CMC5の水分散体)とした。これについて、上述の方法で粘度を測定したところ、150mPa・sであった。
【0091】
[実施例1]
<負極板の作製>
黒鉛粉末(日立化成社製)、アセチレンブラック(Strem Chemicals社製)、カルボキシメチルセルロース(CMC1)、及びスチレンブタジエンゴム(SBR、JSR社製、品番S2910(E)-12-Na)を、固形分重量比率が97:0.5:1.0:1.5になるように混合した後、スラリー濃度が45.6質量%になるように水を添加し、マゼルスター(倉敷紡績社製、KK-250S)を用いてよく攪拌してスラリーを調製した。このスラリーをアプリケーターで縦320mm×横170mm×厚さ17μmの銅箔(古河電気工業社製、NC-WS)に塗工して、30分風乾した後、乾燥機にて60℃で30分間乾燥した。更に小型卓上ロールプレス(テスター産業社製、SA-602)を用いて、荷重5kN、ロール周速50m/min、25℃の条件でプレスし、目付き量62.9g/m、放電実効容量330mAh/gの負極板1を得た。
【0092】
<コイン型非水電解質二次電池の作製>
得られた負極板1と、LiCoO正極板(宝泉社製、目付量110.2g/m、放電実効容量145mAh/g)を直径16mmの円形になるように打ち抜き、打ち抜いた負極板と正極板を120℃で12時間真空乾燥を行った。
【0093】
同様に直径17mmの円形となるようにセパレータ(CS Tech社製、厚み20μmのポリプロピレンセパレータ)を打ち抜き、60℃で12時間真空乾燥を行った。
【0094】
直径20.0mmのステンレス製円形皿型容器に負極板1を置き、次いで、セパレータ、正極板、スペーサー(直径15.5mm、厚さ1mm)、ステンレス製のワッシャー(宝泉社製)をこの順で積層した。その後、円形皿型容器に電解液(1mol/lのLiPF、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの体積比1:1)を300μl添加した。これにポリプロピレン製のパッキンを介してステンレス製のキャップを被せ、コイン電池用かしめ機(宝泉社製)で密封し、コイン型の非水電解質二次電池1を得た。
【0095】
[実施例2]
黒鉛粉末の代わりに黒鉛粉末とシリカ粉末(Si)が9:1の重量比で混合された混合粉末を使用した以外は、実施例1と同様にし、目付き量49.6g/m、放電実効容量417mAh/gの負極板2を得た。負極板2を使って実施例1と同様の方法でコイン型非水電解質二次電池2を作製した。
【0096】
[実施例3]
CMC1の代わりにCMC2を用いた以外は、実施例2と同様に負極板3及びコイン型非水電解質二次電池3を作製した。
【0097】
[実施例4]
CMC1の代わりにCMC3を用いた以外は、実施例2と同様に負極板4及びコイン型非水電解質二次電池4を作製した。
【0098】
[実施例5]
CMC1の代わりにCMC4を用いた以外は、実施例2と同様に負極板5及びコイン型非水電解質二次電池5を作製した。
【0099】
[比較例1]
CMC1の代わりにCMC5を用いた以外は、実施例2と同様に負極板6及びコイン型非水電解質二次電池6を作製した。
【0100】
実施例1~5及び比較例1で用いたCMCの種類、DS、熱分解開始点(A)での熱重量変化率をW、熱分解終了点(B)での熱重量変化率をW、熱変化率T、粘度、及びSi含有量の詳細を下記表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
実施例1~5及び比較例1で製造した非水電解質二次電池について、下記の評価試験を行い評価した。評価結果を表2に記す。
【0103】
<評価方法>
[インピーダンス]
実施例及び比較例で得られたコイン型非水電解質二次電池を株式会社ナガノのBTS2004を用いて、CC-CV充電、CC電流0.2C、CV電圧4.2V、終止電流0.02Cの条件で充電した。次いで定電流0.2C、終止電圧3.0Vの条件で放電を行った。
【0104】
その後、Bio-Logic社のVSP電気化学測定システムを用い、25℃の恒温槽にてOCV(開回路電圧)を0Vとして、振幅10mVを重畳させた交流電圧を1MHzから0.1Hzまで印可し、応答電流から初期充放電後のインピーダンス(Ω)を求めた。次いでCC-CV方式で、CC電流1.0C、CV電圧4.2V、終止電流0.1Cの条件で充電を行った後に、同様にして1C充電後のインピーダンス(Ω)を求めた。
更に終止電圧を3.0Vとして定電流1.0Cの条件で放電した後に、同様にして1C放電後のインピーダンス(Ω)を求めた。
なお、1Cは1時間で充電が終わる設定を意味する。
【0105】
得られたインピーダンスから、下記の基準で評価を行った。
A:インピーダンス(Ω)が5未満
B:インピーダンス(Ω)が5以上10未満
C:インピーダンス(Ω)が10以上20未満
D:インピーダンス(Ω)が20以上
【0106】
なお、インピーダンス(内部抵抗)は、リチウムイオン二次電池では、充放電反応におけるリチウムイオンの移動反応過程に影響する数値であり、インピーダンスが低いほど、電池性能は良好とする。
【0107】
[放電容量(充放電レート試験)]
充放電レート試験は株式会社ナガノのBTS2004を用い、25℃の恒温槽にて、インピーダンス試験後のコイン型非水電解質二次電池を用いて、充電処理⇒放電処理の順で行う充放電を1サイクルとして、52サイクルを実施した。
なお、充電処理の条件としては、すべてのサイクルで、定電流定電圧(CC-CV)方式(CC電流0.2C、CV電圧4.2V、終止電流0.02C)とした。
放電処理の条件としては、終止電圧を3.0Vに設定した。最初の1サイクルは、放電処理の定電流を0.2Cで行い、放電後に1サイクル後の放電容量(mAh/g)を計測した。
その後の52サイクル目までは、下記の通り放電処理の定電流を設定し、各サイクルの放電後に放電容量(mAh/g)の計測を行った。
【0108】
(各サイクルにおける放電処理の定電流)
2~10サイクル :放電処理の定電流0.2C
11~20サイクル:放電処理の定電流1C
21サイクル :放電処理の定電流0.2C
22~31サイクル:放電処理の定電流2C
32サイクル :放電処理の定電流0.2C
33~42サイクル:放電処理の定電流3C
43~52サイクル:放電処理の定電流0.2C
【0109】
[容量維持率]
容量維持率は、前述される各サイクル試験での放電容量(mAh/g)から、「容量維持率=Aサイクル後の放電容量(mAh/g)/Bサイクル後の放電容量(mAh/g)×100」の式より算出し、下記の基準で評価を行った。
(但し、1C容量維持率ではA=11/B=20とし、2C容量維持率ではA=22/B=31とし、3C容量維持率ではA=33/B=42とし、充放電レート試験前後の容量維持率ではA=52/B=1とする)
A:容量維持率が90%以上
B:容量維持率が90%未満80%以上
C:容量維持率が80%未満70%以上
D:容量維持率が70%未満
【0110】
【表2】
図1