(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】経路計画装置、移動体、経路計画方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 3/00 20060101AFI20240325BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
G08G3/00 A
G01C21/34
(21)【出願番号】P 2021020693
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】菊池 惟子
(72)【発明者】
【氏名】安達 丈泰
【審査官】▲高▼木 真顕
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-172150(JP,A)
【文献】特開2007-245935(JP,A)
【文献】国際公開第2011/055512(WO,A1)
【文献】特表2005-504274(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111580548(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
G01C 21/00 - 21/36
G09B 29/00 - 29/10
B63B 1/00 - 85/00
B63C 1/00 - 15/00
B63G 1/00 - 13/02
B63H 1/00 - 25/52
B63J 1/00 - 99/00
B64B 1/00 - 1/70
B64C 1/00 - 99/00
B64D 1/00 - 47/08
B64F 1/00 - 5/60
B64G 1/00 - 99/00
B64U 10/00 - 80/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中又は水上を移動する移動体が航行する可能性がある全領域を含む航行予定領域内の各位置から目的地までの前記移動体の移動経路を示す予想経路を前記位置別に算出し、各々の前記予想経路を移動したときのコストを示す予想コストを前記予想経路における潮流の予測値に基づいて算出する予想経路算出部と、
前記移動体が、所定の航行位置から、前記航行位置を中心とする局所領域の周縁部まで移動するときの経路を示す局所経路を複数算出し、各々の前記局所経路を移動したときのコストを示す局所コストを前記局所経路における潮流の推定値に基づいて算出する局所経路算出部と、
前記局所コストと、前記局所コストに対応する前記局所経路の終端に最も近い前記位置から前記目的地までの前記予想経路に対応する前記予想コストと、の合計が最小となる前記局所経路を選択する経路選択部と、
を備える経路計画装置。
【請求項2】
前記予想経路算出部は、前記目的地から前記移動体の初期位置に向かって移動コストが最小となる経路の探索を行うことによって、前記位置別の前記予想経路を算出する、
請求項1に記載の経路計画装置。
【請求項3】
前記局所経路算出部は、前記航行位置を始点として放射状にランダムに経路を探索することによって、複数の前記局所経路を作成する、
請求項1または請求項2に記載の経路計画装置。
【請求項4】
前記航行予定領域に含まれる複数の位置と前記位置における潮流情報を含む潮流マップ情報を取得する潮流マップ取得部と、
前記潮流マップ情報に基づいて、前記位置とその位置における潮流情報の関係を示す関数を作成し、前記関数に基づいて前記航行予定領域内の任意の位置における潮流を予測する潮流予測部と、
をさらに備え、
前記予想経路算出部は、前記関数に基づいて算出された前記予想経路における潮流の予測値に基づいて、前記予想コストを算出する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の経路計画装置。
【請求項5】
前記移動体の航行中に計測された潮流の計測値に基づいて、前記関数を更新する局所潮流算出部、
をさらに備え、
前記局所経路算出部は、更新された前記関数に基づいて算出された前記局所経路における潮流の推定値に基づいて、前記局所コストを算出する、
請求項4に記載の経路計画装置。
【請求項6】
前記局所経路算出部は、前記移動体が、前記経路選択部が選択した前記局所経路の終端から所定の範囲内に至ると、前記終端を中心とする新たな前記局所領域について、前記局所経路と前記局所コストを複数算出し、
前記経路選択部は、新たな前記局所領域について、前記局所コストと前記予想コストとの合計が最小となる前記局所経路を選択する、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の経路計画装置。
【請求項7】
予想経路算出部は、前記航行予定領域をグリッド状に分割してできたセルの各々について前記予想経路と前記予想コストを算出する、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の経路計画装置。
【請求項8】
前記予想経路算出部は、前記移動体の航行前に前記予想経路と前記予想コストを算出し、
前記局所経路算出部は、前記移動体の航行中に前記局所経路と前記局所コストを算出する、
請求項1から請求項7の何れか1項に記載の経路計画装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れか1項に記載の経路計画装置、
を備える移動体。
【請求項10】
水中又は水上を移動する移動体が航行する可能性がある全領域を含む航行予定領域内の各位置から目的地までの前記移動体の移動経路を示す予想経路を前記位置別に算出し、各々の前記予想経路を移動したときのコストを示す予想コストを前記予想経路における潮流の予測値に基づいて算出するステップと、
前記移動体が、所定の航行位置から、前記航行位置を中心とする局所領域の周縁部まで移動するときの経路を示す局所経路を複数算出し、各々の前記局所経路を移動したときのコストを示す局所コストを前記局所経路における潮流の推定値に基づいて算出するステップと、
前記局所コストと、前記局所コストに対応する前記局所経路の終端に最も近い前記位置から前記目的地までの前記予想経路に対応する前記予想コストと、の合計が最小となる前記局所経路を選択するステップと、
を有する経路計画方法。
【請求項11】
コンピュータに、
水中又は水上を移動する移動体が航行する可能性がある全領域を含む航行予定領域内の各位置から目的地までの前記移動体の移動経路を示す予想経路を前記位置別に算出し、各々の前記予想経路を移動したときのコストを示す予想コストを前記予想経路における潮流の予測値に基づいて算出するステップと、
前記移動体が、所定の航行位置から、前記航行位置を中心とする局所領域の周縁部まで移動するときの経路を示す局所経路を複数算出し、各々の前記局所経路を移動したときのコストを示す局所コストを前記局所経路における潮流の推定値に基づいて算出するステップと、
前記局所コストと、前記局所コストに対応する前記局所経路の終端に最も近い前記位置から前記目的地までの前記予想経路に対応する前記予想コストと、の合計が最小となる前記局所経路を選択するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、経路計画装置、移動体、経路計画方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
気象庁から入手できる潮流情報は、データの密度が粗く、予測値のため実際の潮流とは異なる場合が多い。従って、潮流予測値のみを用いて事前に設計した海上船舶や水中航走体の最適な経路(例えば、消費エネルギーを最小にする経路)は、実際の潮流環境下においては最適な経路とはならない可能性がある。特許文献1には、航行中の海上船舶が、海気象データを取得し、目的地までの最適な経路を探索する装置について開示されている。特許文献1の技術によれば、航行中に最新の海気象データを取得して、最適な経路を再探索することができる。同様にして、最新の潮流予測値が取得できる場合には、地上局で新しい潮流予測値を用いて最適経路を再計画し、再計画した経路を指令値として、海上船舶や水中航走体へ与えるといった技術が提供されているが、このような技術は、地上局との通信が遮断されると使用することができない。
【0003】
非特許文献1、2には、逐次ガウス過程回帰が開示されている。逐次ガウス過程回帰によれば、ガウス過程回帰で学習したハイパーパラメータを変更せずに、新たな学習データを用いて、ガウス過程回帰で得られた関数を更新し、関数の精度を向上することができる。逐次ガウス過程回帰は、ガウス過程回帰に比べ、計算時間や計算負荷を必要とせずに実行できる手法として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】山北昌毅、大山博之、「システム/制御/情報」第62巻、第10号、2018年、p.405-410
【文献】M. F. Huber: Recursive Guassian process: On-line regression and learning; Pattern Recognition Letters, Vol. 45, p. 85-91 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実際の潮流が予測値と異なる場合であっても、実際の潮流に応じた最適な経路を計画できる方法が求められている。
【0007】
本開示は、上記課題を解決することができる経路計画装置、移動体、経路計画方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
また、本開示の一態様によれば、経路計画装置は、水中又は水上を移動する移動体が航行する可能性がある全領域を含む航行予定領域内の各位置から目的地までの前記移動体の移動経路を示す予想経路を前記位置別に算出し、各々の前記予想経路を移動したときのコストを示す予想コストを前記予想経路における潮流の予測値に基づいて算出する予想経路算出部と、前記移動体が、所定の航行位置から、前記航行位置を中心とする局所領域の周縁部まで移動するときの経路を示す局所経路を複数算出し、各々の前記局所経路を移動したときのコストを示す局所コストを前記局所経路における潮流の推定値に基づいて算出する局所経路算出部と、前記局所コストと、前記局所コストに対応する前記局所経路の終端に最も近い前記位置から前記目的地までの前記予想経路に対応する前記予想コストと、の合計が最小となる前記局所経路を選択する経路選択部と、を備える。
【0009】
また、本開示の一態様によれば、移動体は、上記の経路計画装置を備える。
【0010】
また、本開示の一態様によれば、経路計画方法は、水中又は水上を移動する移動体が航行する可能性がある全領域を含む航行予定領域内の各位置から目的地までの前記移動体の移動経路を示す予想経路を前記位置別に算出し、各々の前記予想経路を移動したときのコストを示す予想コストを前記予想経路における潮流の予測値に基づいて算出するステップと、前記移動体が、所定の航行位置から、前記航行位置を中心とする局所領域の周縁部まで移動するときの経路を示す局所経路を複数算出し、各々の前記局所経路を移動したときのコストを示す局所コストを前記局所経路における潮流の推定値に基づいて算出するステップと、前記局所コストと、前記局所コストに対応する前記局所経路の終端に最も近い前記位置から前記目的地までの前記予想経路に対応する前記予想コストと、の合計が最小となる前記局所経路を選択するステップと、を有する。
【0011】
また、本開示の一態様によれば、プログラムは、コンピュータに、水中又は水上を移動する移動体が航行する可能性がある全領域を含む航行予定領域内の各位置から目的地までの前記移動体の移動経路を示す予想経路を前記位置別に算出し、各々の前記予想経路を移動したときのコストを示す予想コストを前記予想経路における潮流の予測値に基づいて算出するステップと、前記移動体が、所定の航行位置から、前記航行位置を中心とする局所領域の周縁部まで移動するときの経路を示す局所経路を複数算出し、各々の前記局所経路を移動したときのコストを示す局所コストを前記局所経路における潮流の推定値に基づいて算出するステップと、前記局所コストと、前記局所コストに対応する前記局所経路の終端に最も近い前記位置から前記目的地までの前記予想経路に対応する前記予想コストと、の合計が最小となる前記局所経路を選択するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0012】
上述の経路計画装置、移動体、経路計画方法及びプログラムによれば、実際の潮流に応じた最適な(コストが小さい)経路を計画することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る水中航走体の制御装置の一例を示す図である。
【
図2】実施形態に係る潮流マップの更新方法を説明する図である。
【
図3】実施形態に係る潮流マップ更新の効果を説明する図である。
【
図4】実施形態に係る経路計画方法を説明する第1の図である。
【
図5】実施形態に係る経路計画方法を説明する第2の図である。
【
図6】実施形態に係る経路計画方法の効果を説明する第1の図である。
【
図7】実施形態に係る経路計画方法の効果を説明する第2の図である。
【
図8】実施形態に係る経路計画処理のアルゴリズムを示す図である。
【
図9】実施形態に係る経路計画処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】実施形態に係る制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態>
以下、本開示の経路計画方法について、
図1~
図10を参照して説明する。
(構成)
図1は、実施形態に係る水中航走体の制御装置の一例を示す図である。
水中航走体1は、UUV(Unmanned Underwater Vehicle)とも呼ばれ、無人で自律的に水中を航走することができる。水中航走体1は、推進力を与えるプロペラや、DVL(Doppler Velocity Log)又はADCP(Acoustic Doppler Current Profiler)などの対地速度および対水速度を計測するセンサ、ジャイロセンサ等を備えている。制御装置10は、水中航走体1に搭載され、水中航走体1の動作を制御する。制御装置10は、潮流マップ取得部101と、センサ情報取得部102と、自己位置推定部103と、潮流計測部104と、潮流予測部105と、局所潮流推定部106と、予想経路算出部107と、局所経路算出部108と、経路選択部109と、記憶部110と、制御部111とを備える。
【0015】
潮流マップ取得部101は、水中航走体1が航行する可能性がある全ての領域を含む航行予定領域における潮流の速度や方向を示す潮流マップ情報を取得する。海中の水平方向の平面をXY平面とすると、航行予定領域とは、例えば、XY平面における1辺が80km程度の正方形が占める範囲である。航行予定領域には、水中航走体1の初期位置と目的地が含まれる。また、例えば、潮流マップ情報には、ある期間における、航行予定領域内の複数の位置(Xi、Yi)でのX軸方向の潮流速度の予測値と、Y軸方向の潮流速度の予測値とを組みとする情報が含まれている。潮流マップ情報は、例えば、気象庁のWeb(World Wide Web)サイトから取得することができる。潮流マップ取得部101は、水中航走体1が航行を行う期間の潮流マップ情報を取得する。なお、航行予定領域の範囲は80km四方に限定されない。また、航行予定領域の形状は正方形でなくてもよい。
【0016】
センサ情報取得部102は、DVL等によって計測された水中航走体1の対地速度および対水速度を取得する。
自己位置推定部103は、DVLやジャイロセンサの計測値を用いて慣性航法などの公知の方法により、水中航走体1が存在する位置を推定する。
【0017】
潮流計測部104は、DVL等が計測した水中航走体1の対地速度および対水速度を用いて実際の潮流を計測する。具体的には、潮流計測部104は、水中航走体1の対地速度から対水速度を減算して、海流の地面に対する速度、即ち潮流の速度を算出する。潮流計測部104は、時々刻々とセンサ情報取得部102が取得する対地速度および対水速度を用いて例えば潮流のX軸方向とY軸方向の速度を算出し、算出した潮流情報(潮流のベクトル)を、自己位置推定部103が推定した対地速度および対水速度が得られたときの水中航走体1の位置情報と対応付けて記憶部110に記録する。
【0018】
潮流予測部105は、潮流マップ取得部101が取得した潮流マップ情報に基づいて、例えば、ガウス過程回帰により、航行予定領域内の任意の位置とその位置での潮流情報との関係を学習した流速関数F1を算出する。ここで、
図2を参照する。
図2の左
図201に、潮流マップ情報を示す。潮流予測部105は、潮流マップ情報に含まれる各位置の潮流予測値(X軸方向とY軸方向の速度予測値)を学習して、流速関数F1を算出する。中
図202に流速関数F1の模式図を示す。流速関数F1に航行予定領域内の任意の位置のX、Y座標情報を入力すると、流速関数F1は、その位置での潮流のベクトル、例えば、X軸方向の潮流の速度と、Y軸方向の潮流の速度を出力する。潮流マップ情報に含まれる潮流情報は、間隔が粗い為、水中航走体1の経路上の潮流情報を得ることができない場合があるが、流速関数F1によれば、任意の位置(例えば
図202の星印で示す位置P1)での潮流情報を得ることができる。この性質を利用して、潮流予測部105は、流速関数1Fに基づいて、水中航走体1が航行する予定の経路(予想経路と称する。)上の各位置での潮流情報を算出する。予想経路上の潮流情報は、水中航走体1が予想経路を航行するために必要となるコスト(消費エネルギー)の計算に用いられる。潮流マップ取得部101が取得した潮流マップ情報は予測値であるため実際の潮流と異なる可能性がある。流速関数F1は、潮流マップ情報を学習データとして作成されているので、流速関数F1が出力する潮流情報も予測値と同様の精度である。
【0019】
局所潮流推定部106は、水中航走体1を含む局所領域内の任意の位置での潮流情報を推定する。局所領域とは、例えば、水中XY平面における水中航走体1を中心とする1辺が20km程度の正方形が占める範囲である。局所潮流推定部106は、潮流計測部104が計測した実際の潮流情報に基づいて潮流の予測値を補正する。具体的には、局所潮流推定部106は、記憶部110に記録された位置情報と潮流情報の組み合わせを学習データとして、潮流マップ情報に含まれる学習データに加える。局所潮流推定部106は、潮流の計測値が加えられた学習データを用いて、例えば、非特許文献1、2に記載された逐次ガウス過程回帰により、局所領域内の任意の位置とその位置での潮流情報との関係を再学習して、流速関数F1を更新する。更新後の流速関数を流速関数F2とよぶ。ここで再び
図2を参照する。
図2の右
図203に流速関数F2の模式図を示す。流速関数F2に航行予定領域内の任意の位置のX、Y座標情報を入力すると、流速関数F2は、その位置での潮流情報を出力する。例えば、位置P1での潮流情報が、右
図203では、更新前の中
図202とは異なる値となっている。右
図203の点P1が示す潮流情報の推定値が精度の高い補正後の潮流情報である。
図3に、水中航走体1の周辺20km四方(局所領域)の潮流マップを更新したときの真の潮流との誤差を示す。
図3のグラフの縦軸は真の潮流との誤差平均値を示し、横軸は水中航走体の航行距離を示す。グラフL1は、流速関数F2による潮流情報の推定値を示し、グラフL2は、流速関数F1による潮流情報の予測値である。図示するようにグラフL2が示す予測値の誤差平均値が0.3kt以上の範囲で大きく変動するのに対し、グラフL1が示す推定値の誤差は安定して0.2kt以下となっている。この例の場合、流速関数F2による潮流情報の推定精度は85%以上であることが確認されている。このように、流速関数F2によって、事前の潮流予報値(グラフL2)と真の潮流が大きく異なる場合でも、真の潮流に近い値を推定することができる。
【0020】
逐次ガウス過程回帰では、流速関数F1を算出する際に設定したハイパーパラメータの値は変更せず、新たな学習データを加えて流速関数F1を更新し、高精度な流速関数F2を算出する。ガウス過程回帰によるハイパーパラメータの計算には膨大な計算コスト(計算負荷、計算時間)が必要とされるが、逐次ガウス過程回帰による関数の更新に要する計算コストは比較的少なく済み、実際の航行中の限られた時間内に実行することができる。また、計算の範囲を航路予定範囲の全域ではなく、局所領域に限定することで計算コストを抑えることができる。また、流速関数F2は、潮流情報の予測値に加え、潮流情報の計測値に基づいて構築される為、関数F1と比較して高精度に潮流のX軸方向とY軸方向の速度を推定する。流速関数F2が出力する潮流情報の推定値は、水中航走体1が局所領域を移動するときの消費エネルギーの計算に用いられる。
【0021】
予想経路算出部107は、水中航走体1の予想経路と、予想経路を移動した場合のコスト(予想コストと称する。)を算出する。後述するように、本実施形態では、実際の潮流に合わせてコストが最小となる経路を選択しながら目的地まで水中航走体1を移動させる。従って、水中航走体1の移動中に予定した経路が変更になる可能性がある。そのような場合に備えて、予想経路算出部107は、航行予定領域内の各位置から目的地までの最適な経路を予め計算しておく。最適な経路とは、予想コストを最小にする経路のことである。実際には、航行予定領域内の全域に亘って複数の代表点を設定し、それぞれの代表点から目的地までの最適な経路を算出する。具体的には、目的地を始点として、目的地から水中航走体1の初期位置に向かってダイクストラ(Dijkstra)法による経路探索を行う。ダイクストラ法は、最短経路を求める場合に使用されるアルゴリズムとして知られている。本実施形態では、ダイクストラ法によって、エネルギーコスト(消費エネルギー)が最小となる経路を探索する。ここで
図4を参照する。
図4の領域400は、航行予定領域である。予想経路算出部107は、航行予定領域400をグリッド状に分割し、水中航走体1の目的地から水中航走体1の初期位置までの移動コスト(消費エネルギー)が最小となる経路をダイクストラ法によって探索する。ダイクストラ法によれば、この探索過程で、目的地から各セル(例えば、各セルの中央が代表点である。)への移動コストが最小となる最適な経路が自動的に算出される。ただし実際に算出すべきコストは、各セルから目的地への移動コストであるため、コストの算出に使用する対地速度ベクトルは、ダイクストラ法による探索の方向と逆のベクトルとする。算出した各セルから目的地への移動コストが最小となる最適な経路のそれぞれが、各セルから目的地までの予想経路である。例えば、航行予定領域400の左上端のセルを(A,1)、右下端のセルを(F,6)のようにして表すとすると、予想経路算出部107は、初期位置を含むセルである(B、5)の中央から目的地を含むセルである(F,1)の中央へ至る予想経路を探索する。
図4に算出された予想経路の一部を示す。例えば、R(B、3)は、(B、3)から目的地までの予想経路であり、R(C、4)は、(C、4)から目的地までの予想経路である。他のR(D、4)、R(B、5)、R(A、6)についても同様である。なお、消費エネルギーは、水中航走体1が備えるプロペラの回転数と正の相関関係があり、プロペラの回転数は、対水速度の2乗に比例する。予想経路算出部107は、セル間を移動するときの水中航走体1の対地速度を一定と仮定して、この対地速度から移動中の各位置における流速関数F1に基づく潮流情報の予測値を減じて対水速度を算出する。例えば、(E,1)から目的地(F、1)への移動コストは、(E、1)~(F,1)間の平均的な対水速度の2乗に比例するとして算出してもよい。また、例えば、初期位置(B,5)から目的地(F、1)へ移動する予想経路を探索する場合、目的地(F、1)へ最も少ない消費エネルギーで移動できるセル(例えば、(E,1))を選択し、次に(E,1)を経由した場合、最小の消費エネルギーで移動できる次のセルを選択し・・・といった探索を繰り返し、(B、5)から目的地(F、1)までの予想経路R(B、5)を決定する(ダイクストラ法)。
【0022】
局所経路算出部108は、水中航走体1の局所経路と、局所経路を移動した場合の移動コスト(局所コストと称する。)を算出する。局所経路算出部108は、局所領域の周縁部(局所領域の境界)の全点を暫定的な目的地(局所目的地と称する。)として、所定の航行位置から局所目的地までの経路(局所経路と称する)を複数作成し、それぞれの局所経路について、その局所経路を移動したときの消費エネルギー(局所コストと称する)を算出する。水中航走体1の周辺領域の流速関数F2に基づく高精度な潮流マップは連続値であることから、例えば、局所経路の算出にはサンプルベース手法として知られるRRT*(Rapidly-Exploring Random Trees *)を用いる。ここで
図5を参照する。
図5の領域500は、局所領域を示している。局所領域500の周縁部全体が局所目的地である。局所経路算出部108は、水中航走体1の航行位置(例えば、(C,5)の中央)から開始して、局所領域の周縁部に向かって、漸次的に点をプロットし、その点を結ぶ線を経路とすることで、経路をランダムに延伸させていく。予め与えられた海底の地形マップなどに基づいて障害物などを回避した経路を生成してもよい。予想経路の場合とは異なり、局所経路の作成にあたっては移動コストが最小となるように経路を延伸する必要はない。周縁部に到着すると局所経路の1回の探索が終了する。局所経路算出部108は、局所経路の算出を複数回実行する。局所経路算出部108は、RRTを用いて、所定位置(この例の場合は(C,5)の中央)を始点として全方位へ放射状に局所経路を作成する。全方位へ放射状に局所経路を作成するのは、あらゆる潮流の流れ方向に対応するためである。
図5のPR1~PR8は、複数回のRRT*の実行により算出された局所経路の一例である。局所経路算出部108は、局所経路PR1~PR8のそれぞれについて局所コストを算出する。例えば、局所経路算出部108は、水中航走体1の対地速度を一定と仮定して、この対地速度から流速関数F2に基づく潮流を減じて対水速度を算出し、水中航走体1が局所経路を移動する際の局所コストを算出する。
【0023】
経路選択部109は、水中航走体1の航行位置から目標地点までの移動経路を決定する。この移動経路は、局所経路と予想経路と合計することによって得られる。具体的には、経路選択部109は、水中航走体1の局所領域周縁部に到達した全ての局所経路に対して、対応する局所コストと、その局所経路の終点が位置するセルについて事前に算出しておいた予想コストと合算することで目的地までのエネルギーコストを求め、最も低コストな経路を選択する。ここで、再び
図5を参照する。
図5の例の場合、経路選択部109は、PR3の局所コストとR(C,4)の予想コストを合計し、PR4の局所コストとR(C,4)の予想コストを合計し、PR5とR(B,5)の予想コストを合計する。同様に、経路選択部109は、PR1の局所コストと図示しないR(B,5)の予想コストを合計し、PR2の局所コストと図示しないR(B,4)の予想コストを合計する。PR6~8についても同様である。そして、経路選択部109は、合計して得られる8つのコストの中から値が最も小さいものを選択する。例えば、PR4の局所コストとR(D,4)の予想コストを合計値が最も値が小さかったとすると、経路選択部109は、PR4+R(D,4)を移動経路として決定する。
【0024】
記憶部110は、様々な情報を記憶する。例えば、記憶部110は、潮流マップ情報、潮流計測部104が計測した潮流の計測値、予想経路及び予想コスト、局所経路および局所コスト、経路選択部109によって選択された移動経路等の情報を記憶する。
【0025】
制御部111は、本実施形態による経路計画処理を制御する。例えば、制御部111は、水中航走体1が、経路選択部109によって決定された移動経路を構成する局所経路に沿って移動し、局所領域の外部へ出る前に次の局所領域についての局所経路を決定するよう局所潮流推定部106と、局所経路算出部108と、経路選択部109を制御する。例えば、
図5の例では、水中航走体1は、局所経路PR4に沿って移動するが、PR4の終端に到着する前に、制御部111は、局所経路算出部108にPR4の終端を中心とする新たな局所領域501を設定し、局所領域501について、複数の局所経路を算出するよう指示する。局所潮流推定部106は、この指示に基づいて、局所領域501を設定し、局所領域501の潮流を高精度に推定できるように、流速関数F1を更新する。局所経路算出部108は、局所領域501について、複数の局所経路と局所コストを算出する。経路選択部109は、局所領域501において算出された複数の局所経路と、各セルについて予め算出された予想経路とに基づいて、局所コストと予想コストの合計が最小となる移動経路を決定する。これにより、局所領域501について、最適な局所経路が選択される。制御部111は、水中航走体1が目的地(F,1)へ到着するまでこのような制御を繰り返し実行する。また、制御部111は、水中航走体1が備えるプロペラ等の動作を制御し、経路選択部109が選択する局所経路に沿って、水中航走体1を航行させる。
【0026】
図6、
図7は、それぞれ、実施形態に係る経路計画方法の効果を説明する第1の図、第2の図である。
図6の移動経路601は、本実施形態の経路計画処理により作成された水中航走体1の移動経路である。移動経路602は、真の潮流情報が事前に分かっていると仮定した場合に算出することができる水中航走体1の最適な移動経路である。移動経路603は、潮流マップ情報(予測値)に基づいて算出された水中航走体1の最適な移動経路である。図示するように本実施形態に係る移動経路601は、途中までは事前の潮流情報の予測値に基づく移動経路603と同様の経路に沿って移動しているが、途中で紙面の右方向へ大きく迂回して目的地へ移動する経路に変更されている。これは、右方向に強い潮の流れがあり、この潮の流れに流されながら進むことで消費エネルギーを節約することができる為である。上述のように、局所経路算出部108は、全方位に向けて放射状に局所経路を算出する。従って、実際の潮の流れがどのような方向であっても、その流れに沿った局所経路を選択できる余地がある。
図6の例の場合、一見、目的地604から逸れるが、実際の潮の流れに応じた紙面右方向へ伸びる局所経路が選択され、これによって、次に説明するように低コストな航行が実現されている。
【0027】
図7に移動経路601~603に沿って航行した場合の水中航走体1の消費エネルギーを示す。
図7のグラフの縦軸は消費エネルギー、横軸は航行距離を示す。グラフ701は、移動経路601に沿って移動した場合の航行距離と消費エネルギーを示している。グラフ702は、移動経路602に沿って移動した場合の航行距離と消費エネルギーを示し、グラフ703は、移動経路603に沿って移動した場合の航行距離と消費エネルギーを示している。図示するように、本実施形態によって作成した移動経路601に沿って移動した場合の消費エネルギーは、事前に真の潮流情報が分かっている場合に計画された移動経路602に沿って移動する場合に比べれば消費エネルギーは大きくなるが、潮流情報の予測値に基づいて計画された移動経路603に沿って移動する場合よりも消費エネルギーを削減することができている。
【0028】
図8は、実施形態に係る経路計画処理のアルゴリズムを示す図である。
これまで説明したように、本実施形態の経路計画処理は、(a)潮流予測部105が、航行予定領域の潮流マップを作成(流速関数F1の算出)し、潮流情報を予測する処理と、(b)予想経路算出部107が、広域の潮流予測値に基づいて航行予定領域の各位置から目的地までの予想経路と予想コストを算出する処理と、(c)局所潮流推定部106が、局所領域の潮流情報を潮流の計測値に基づいて更新(流速関数F2の算出)し、局所領域の潮流情報を推定する処理と、(d)局所経路算出部108が、局所経路と局所コストを算出する処理と、(e)経路選択部109が、予想コストと局所コストの合計が最小となる移動経路を選択する処理と、によって構成される。
図8に示すようにこれらの処理は、事前に実施しておくオフライン処理と、航行中に実行するオンライン処理に分類できる。(a)~(b)はオフライン処理であり、(c)~(e)はオンライン処理である。
【0029】
このような構成とすることで、計算コストの高いガウス過程回帰などの処理を航行前に済ませておき、航行中には、限定的な領域について逐次ガウス過程回帰を実行し、流速関数を更新することで、計算コストを抑制しつつ、潮流情報の推定精度を確保することができる。また、移動経路の決定については、航行中には局所経路と局所コストを限定的な領域について算出すればよく、オンラインで算出した局所コストを事前にオフラインで算出しておいた予想コストと加算し、移動コストが最小のものを選択すればよいので、計算コストを抑制することができる。
【0030】
なお、
図1では、制御装置10が、潮流予測部105と、予想経路算出部107を備える構成を例示したが、潮流予測部105と予想経路算出部107に相当する機能を、地上局のサーバ等に実装し、上記の(a)~(b)のオフライン処理は、このサーバにて実行してもよい。このようなシステム構成とする場合、サーバで算出された流速関数F1やハイパーパラメータ、航行予定領域の各位置(代表点)についての予想経路および予想コストの情報を、航行前に制御装置10の記憶部110に記憶させることで、本実施形態の経路計画処理を実現することができる。
【0031】
(動作)
次に経路計画処理の流れについて説明する。
図9は、実施形態に係る経路計画処理の一例を示すフローチャートである。
(1)オフライン処理
まず、潮流マップ取得部101が、航行予定領域の潮流マップ情報を取得(ステップS1)し、潮流マップ情報を記憶部110に記録する。
次に潮流予測部105が、流速関数F1を作成する(ステップS2)。潮流予測部105が、潮流マップ情報を用いてガウス過程回帰により航行予定領域を対象とする流速関数F1を作成する。その際、潮流予測部105はカーネル関数のハイパーパラメータを最適化し、最適化したハイパーパラメータの情報を記憶部110に記録する。また、潮流予測部105は、流速関数F1に基づいて、航行予定領域内の各位置での潮流情報の予測値を算出する。例えば、潮流予測部105は、航行予定領域をグリッド状に区切ってセルの単位で潮流情報の予測値を算出する(潮流マップ作成)。このグリッドの粒度は、次に説明する予想経路、予想コストに係るグリッド(
図5、
図6)よりも細かいものであってもよい。
【0032】
次に予想経路算出部107が、予想経路、予想コストを算出する(ステップS3)。例えば、予想経路算出部107は、航行予定領域をグリッド状に区切って、水中航走体1の目的地から初期位置に向かってダイクストラ法による移動コストが最小となる経路の探索を行う(
図5)。例えば、予想経路算出部107は、潮流マップ情報の解像度と同サイズのグリッドに分割し、目的地から初期位置に向かって経路を探索する。このとき、セル間を移動する水中航走体1の速度ベクトルを逆向きにして計算することで、1回の計算で自動的に全てのセルについての予想コストを算出することができる。予想コストは、例えば、セル間の移動コストを、水中航走体1のセル間を移動する際の対水速度の2乗に比例する値として算出する関数によって求める。各セルの予想コストを算出することにより、航行予定領域内の全位置から目的地に到達するために必要な最小エネルギーコスト(予想コスト)をあらかじめ算出することができる。予想経路算出部107は、セルごとの予想経路と予想コストを記憶部110に記録する。大域的な経路計画を1回解くだけで全セルについての予想コストを算出できるため、計算コストを削減することができる。
【0033】
(2)オンライン処理
次に水中航走体1が航行を開始する(ステップS4)。航行を開始すると、最初は、制御部111が、初期位置のセルについて算出された予想経路に沿って、水中航走体1を移動させる。センサ情報取得部102は、DVLによって計測された対水速度と対地速度を所定の時間間隔で取得する。潮流計測部104は、対水速度と対地速度の差を計算してX軸方向とY軸方向の潮流を計測する(ステップS5)。潮流計測部104は、計測した潮流を自己位置推定部103が推定した水中航走体1の航行位置と対応付けて記憶部110に記録する。潮流計測部104は、潮流の計測および記録を、水中航走体1の航行中、継続して行う。潮流をN回計測すると、局所潮流推定部106は、局所領域を設定して、流速関数F1を更新する(ステップS6)。具体的には、局所潮流推定部106は、オンラインで局所領域における潮流情報を高精度に推定し、局所領域における潮流マップを更新するために、最適化されたハイパーパラメータと、例えば過去100回分の潮流の計測値と、水中航走体1を中心とする80kmの範囲における潮流予測値と、を用いて、水中航走体1を中心とする周囲20km四方(局所領域)を更新対象として、逐次ガウス過程回帰により流速関数F1を更新する(更新後の関数は流速関数F2)。また、局所潮流推定部106は、流速関数F2に基づいて、局所領域内の各位置での潮流情報の推定値を算出する(潮流マップの更新)。例えば、局所潮流推定部106は、セルの単位で潮流の推定値を算出する。これにより、潮流マップを実際の環境に応じてリアルタイムに補正を加えることで、潮流予報マップをより実際の環境に一致したものに更新できる。また、今後水中航走体1が航行していく先の領域の潮流予報マップを高精度なものに更新することができる。更新した潮流マップは航行していく先の未知の潮流を推定しているため、経路計画等のエネルギーコストの算出に利用することができる。
【0034】
次に局所経路算出部108は、複数の局所航路を算出する(ステップS7)。局所経路算出部108は、流速関数F1が更新されるたびに、局所領域の周縁部全点を目的地として複数の局所経路を生成し、各経路を移動するのに必要なエネルギーコスト(局所コスト)を算出する。
【0035】
次に経路選択部109が、局所コストと予測コストの合計を算出する(ステップS8)。経路選択部109は、全ての局所経路コストと、その経路の終端位置から目的地までの予想コストの合計を計算する。次に経路選択部109は、コストの合計が最小となる移動経路を選択する(ステップS9)。経路選択部109は、合計が最小となる移動経路に含まれる局所経路を水中航走体1周辺の局所領域における最適な経路として選定する。予想コストは潮流予報値を用いているため、実環境のエネルギーコストとは異なる可能性があるが、航行予定領域全体に対して算出される。一方で、局所コストは潮流計測値に基づいて推定された正確な潮流マップを用いているため、精度が良好であるが、局所領域の範囲しか算出しない。両方のコストの和を評価することで、2つのコストの情報を補完し合い、目的地へ至るまでの最適な(低コストな)移動経路を求めることができる。
【0036】
次に制御部111が、流速関数F1を更新するかどうかを判定する(ステップS10)。例えば、制御部111は、自己位置推定部103が推定した水中航走体1の航行位置と、経路選択部109によって選択された現在航行中の局所経路の終端との位置を比較して、両者の距離が所定の範囲内であれば(つまり、水中航走体1が先に設定した局所領域を出る少し手前で)、流速関数F1を更新すると判定し、そうでなければ、流速関数F1を更新しないと判定する。流速関数F1を更新しないと判定した場合(ステップS10;No)、制御部111は、水中航走体1が局所経路に沿って進むよう、水中航走体1の姿勢制御や推進制御を行う(ステップS11)。
【0037】
流速関数F1を更新すると判定した場合(ステップS10;Yes)、ステップS5以降の処理が再び実行される。つまり、潮流計測部104が潮流を計測し(ステップS5)、局所潮流推定部106が、例えば、現在の局所経路の終端を中心とする20km四方を、新たな局所領域として設定する。そして、局所潮流推定部106は、新たに設定した局所領域を更新対象として、最新の潮流計測値N回分を用いて、逐次ガウス過程回帰により、流速関数F1を更新する(ステップS6)。次に局所経路算出部108が、複数の局所航路を算出(ステップS7)し、経路選択部109が、局所コストと予測コストの合計を算出(ステップS8)して、そのコストの合計が最小となる移動経路を選択する(ステップS9)。このようにして、新たな局所領域における局所経路が決定されると、制御部111が、新たに選択された局所経路に基づいて水中航走体1を運転する。制御装置10は、水中航走体1が目的地へ到着するまで、ステップS5~S11の処理を繰り返し実行する。この結果、水中航走体1は、逐次的に設定される局所経路に基づいて目的地まで移動する。
【0038】
以上説明したように、本実施形態によれば、水中航走体1が、実際の潮流計測値に基づいて更新される局所領域の潮流マップを用いて、自律的に移動経路を再計画し、実際の潮流が予報値と異なった場合でもエネルギーコストが小さい経路に沿って航行することができる。これにより、省エネルギー化を実現することができ、予想以上の過大なエネルギー消費やエネルギー不足により目的地に到達できないといった事態を防ぐことができる。水中航走体1周辺の局所領域と、航行予定領域全体の大域的な領域に分け、随時潮流情報が更新される局所領域に対してのみ局所コストを算出することで、オンラインでの計算負荷を抑制することができる。また、局所領域の潮流マップの更新についても、計算負荷の少ない逐次ガウス過程回帰によって、流速関数F1を更新することで、オンラインでの計算負荷を抑制することができる。これらにより、計算能力に制限のある水中航走体1に搭載されたコンピュータを用いて、遅延なく水中航走体1の移動経路の再計画および移動制御を行うことができる。
【0039】
上記の実施形態では、水中航走体1の航行を例として説明を行ったが、本実施形態の経路計画方法は、海上を航行する海上船舶の制御に適用することができる。また、オフライン処理で算出した流速関数F1、予想経路、予想コストと、航行中に計測した潮流計測値とに基づいて、水中航走体1の経路を計画することができるので、外部との通信を行わずに自律的な航行が求められる水中航走体1や海上船舶の制御に適用することができる。また、上記の実施形態では、コストとして消費エネルギーを最小化する経路を計画することとしたが、消費エネルギーに代えて、移動に要する時間を最小化する経路を計画するように構成してもよい。あるいは、消費エネルギーと時間の合計を最小化する経路を計画するように構成してもよい。
【0040】
図10は、実施形態に係る制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の制御装置10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0041】
なお、制御装置10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。また、制御装置10の機能は、複数のコンピュータ900に実装されていてもよい。例えば、オフライン処理に関する機能部(潮流マップ取得部101、潮流予測部105、予想経路算出部107)は、地上のコンピュータ900に実装してもよい。
【0042】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0043】
<付記>
各実施形態に記載の経路計画装置、移動体、経路計画方法及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0044】
(1)第1の態様に係る経路計画装置は、水中又は水上を移動する移動体(水中航走体1、海上船舶)が航行する可能性がある全領域を含む航行予定領域内の各位置(例えば、代表点)から目的地までの前記移動体の移動経路を示す予想経路(
図4のR(B、3)など)を前記位置別に算出し、各々の前記予想経路を移動したときのコストを示す予想コストを前記予想経路における潮流の予測値(潮流情報の予測値)に基づいて算出する予想経路算出部と、前記移動体が、所定の航行位置(最初は必要なだけの潮流計測値を計測した後、航行中は最新の局所経路の終端)から、前記航行位置を中心とする局所領域の周縁部まで移動するときの経路を示す局所経路(
図5のPR1~8)を複数算出し、各々の前記局所経路を移動したときのコストを示す局所コストを前記局所経路における潮流の推定値(潮流情報の推定値)に基づいて算出する局所経路算出部と、前記局所コストと、前記局所コストに対応する前記局所経路の終端に最も近い前記位置から前記目的地までの前記予想経路に対応する前記予想コストと、の合計が最小となる前記局所経路を選択する経路選択部と、を備える。
実際の潮流を考慮して推定した潮流の推定値に基づいて算出した局所的な経路と潮流予測値に基づいて算出した大域的な経路とを組み合わせた移動経路の候補を複数作成し、その中から移動コストが最も小さい移動経路を選択することで、実際の潮流に応じた最適な(コストが小さい)経路を計画することができる。
【0045】
(2)第2の態様に係る経路計画装置は、(1)の経路計画装置であって、前記予想経路算出部は、前記目的地から前記移動体の初期位置に向かって移動コストが最小となる経路の探索を行うことによって、前記位置別の前記予想経路を算出する。
例えば、ダイクストラ法を用いることにより、1回の探索で、全ての位置についての予想経路を算出することができる。本来ダイクストラ法は初期位置から目的地に向かって探索していくアルゴリズムである。すべてのセルから目的地までの予想コストおよび最適経路を求めるために、各セルから目的地に向かってダイクストラ法を解くと、セルの数だけ経路探索を繰り返し行う必要があり、計算コストが増加し、処理が煩雑になる。そこで、第2の態様では、目的地から初期位置の方向にダイクストラ法を解くことで、1回の探索で全てのセルに対して、そのセルから目的地への移動コストを算出する。但し、目的地から初期位置へ向けて探索すると、目的地から各セルへの移動コストが算出されてしまうので、探索は目的地から初期位置に向かって実行するが、移動コストについては、移動方向が各セルから目的地となるように、探索によるセル間の移動の速度ベクトルを逆向きにして移動コストを計算する。(移動の方向を、目的地から各セルへの探索方向と同様の方向にすると、移動コストの算出に必要な対水速度が変わってしまい、正確な消費エネルギーを算出できなくなる。例えば、潮流に乗っている場合と逆らっている場合の消費エネルギーは異なるが、移動方向を探索方向のままとしてしまうと、セルから目的地へ向かう場合には潮流に乗っているにもかかわらず、潮流に逆らうとして計算してしまうため、消費エネルギーを最小化する経路が算出できなくなる可能性がある。)
【0046】
(3)第3の態様に係る経路計画装置は、(1)~(2)の経路計画装置であって、前記局所経路算出部は、前記航行位置を始点として放射状にランダムに経路を探索することによって、複数の前記局所経路を作成する。
放射状に局所経路を作成することにより、実際の潮流の方向が如何なるものであってもコストを低減できるような局所経路を選択することができる。
【0047】
(4)第4の態様に係る経路計画装置は、(1)~(3)の経路計画装置であって、前記航行予定領域に含まれる複数の位置と前記位置における潮流の方向と速度を含む潮流マップ情報を取得する潮流マップ取得部と、前記潮流マップ情報に基づいて、前記位置とその位置における潮流の関係を示す関数を作成し、前記関数に基づいて前記航行予定領域内の任意の位置における潮流を予測する潮流予測部と、をさらに備え、前記予想経路算出部は、前記関数に基づいて算出された前記予想経路における潮流の予測値に基づいて、前記予想コストを算出する。
潮流マップ情報に基づいて関数を作成することにより、任意の位置における潮流の方向、速度を予測することができる。これにより、予想経路の移動に要する予想コストを算出することができる。
【0048】
(5)第5の態様に係る経路計画装置は、(4)の経路計画装置であって、前記移動体の航行中に計測された潮流の計測値に基づいて、前記関数を更新する局所潮流算出部、をさらに備え、前記局所経路算出部は、更新された前記関数に基づいて算出された前記局所経路における潮流の推定値に基づいて、前記局所コストを算出する。
潮流の計測値を用いて、潮流を推定する関数を更新することで、潮流の推定精度を向上することができる。これにより、局所経路の移動に要する局所コストを精度よく算出することができる。
【0049】
(6)第6の態様に係る経路計画装置は、(1)~(5)の経路計画装置であって、前記局所経路算出部は、前記移動体が、前記経路選択部が選択した前記局所経路の終端から所定の範囲内に至ると、前記終端を中心とする新たな前記局所領域について、前記局所経路と前記局所コストを複数算出し、前記経路選択部は、新たな前記局所領域について、前記局所コストと前記予想コストとの合計が最小となる前記局所経路を選択する。
移動体の移動に伴って、逐次、局所経路を計算することで、実際の潮流に応じたコストを最小とする経路を計画することができる。
【0050】
(7)第7の態様に係る経路計画装置は、(1)~(6)の経路計画装置であって、予想経路算出部は、前記航行予定領域をグリッド状に分割してできたセルの各々について前記予想経路と前記予想コストを算出する。
グリッドの粒度を調節することにより、移動経路の精度や計算コストを調整することができる。
【0051】
(8)第8の態様に係る経路計画装置は、(1)~(7)の経路計画装置であって、前記予想経路算出部は、前記移動体の航行前に前記予想経路と前記予想コストを算出し、前記局所経路算出部は、前記移動体の航行中に前記局所経路と前記局所コストを算出する。
これにより、消費エネルギーを抑えた局所的なルートをオンラインで再設計することができる。また、経路計画装置の計算負荷を低減することができる。
【0052】
(9)第9の態様に係る移動体は、(1)~(8)の何れかの経路計画装置を備える。
これにより、移動体は、航行中に実際の潮流に応じて最適な経路を計画することができる。
【0053】
(10)第10の態様に係る経路計画方法は、水中又は水上を移動する移動体が航行する可能性がある全領域を含む航行予定領域内の各位置から目的地までの前記移動体の移動経路を示す予想経路を前記位置別に算出し、各々の前記予想経路を移動したときのコストを示す予想コストを前記予想経路における潮流の予測値に基づいて算出するステップと、前記移動体が、所定の航行位置から、前記航行位置を中心とする局所領域の周縁部まで移動するときの経路を示す局所経路を複数算出し、各々の前記局所経路を移動したときのコストを示す局所コストを前記局所経路における潮流の推定値に基づいて算出するステップと、前記局所コストと、前記局所コストに対応する前記局所経路の終端に最も近い前記位置から前記目的地までの前記予想経路に対応する前記予想コストと、の合計が最小となる前記局所経路を選択するステップと、を有する。
【0054】
(11)第11の態様に係るプログラムは、コンピュータに、水中又は水上を移動する移動体が航行する可能性がある全領域を含む航行予定領域内の各位置から目的地までの前記移動体の移動経路を示す予想経路を前記位置別に算出し、各々の前記予想経路を移動したときのコストを示す予想コストを前記予想経路における潮流の予測値に基づいて算出するステップと、前記移動体が、所定の航行位置から、前記航行位置を中心とする局所領域の周縁部まで移動するときの経路を示す局所経路を複数算出し、各々の前記局所経路を移動したときのコストを示す局所コストを前記局所経路における潮流の推定値に基づいて算出するステップと、前記局所コストと、前記局所コストに対応する前記局所経路の終端に最も近い前記位置から前記目的地までの前記予想経路に対応する前記予想コストと、の合計が最小となる前記局所経路を選択するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0055】
1・・・水中航走体
10・・・制御装置
101・・・潮流マップ取得部
102・・・センサ情報取得部
103・・・自己位置推定部
104・・・潮流計測部
105・・・潮流予測部
106・・・局所潮流推定部
107・・・予想経路算出部
108・・・局所経路算出部
109・・・経路選択部
110・・・記憶部
111・・・制御部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース