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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20240325BHJP
   B05D 1/06 20060101ALI20240325BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20240325BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20240325BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
B05D1/36 A
B05D1/06 Z
B05D1/36 B
B05D3/10 P
B05D3/00 D
B05D7/24 301A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021210924
(22)【出願日】2021-12-24
(65)【公開番号】P2023095185
(43)【公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-06-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 雅彦
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-274800(JP,A)
【文献】特開平09-241891(JP,A)
【文献】特開2002-066441(JP,A)
【文献】特開2006-231322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に対して、硬化温度が140℃以上160℃以下である電着塗料および硬化温度が140℃以上150℃以下である粉体塗料を用いた塗装を施す塗装方法であって、
前記基材に対して前記電着塗料を付着させる第一塗装工程と、
前記電着塗料が付着した前記基材を、25℃以上30℃以下で加熱して、JIS K5600-5-4:1999に基づいて測定される引っかき硬度が3B以上B以下である仮塗膜を形成する乾燥工程と、
前記基材上の前記仮塗膜に対して前記粉体塗料を付着させる第二塗装工程と、
前記第二塗装工程において前記粉体塗料を付着させた前記基材を、表面到達温度が170℃以上180℃以下になる温度で加熱して塗膜を形成する成膜工程と、を含み、
前記成膜工程において、前記仮塗膜と前記粉体塗料との境界部分に混層が形成される塗装方法。
【請求項2】
前記基材が、二面角が120°以下である箇所を有する請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】
前記仮塗膜の含水率が2%以下である請求項1または2に記載の塗装方法。
【請求項4】
前記粉体塗料の、レーザー式回折の方法により特定される平均粒子径が、10μm以上50μm以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の塗装方法。
【請求項5】
前記成膜工程における加熱条件を、前記基材を前記粉体塗料の硬化温度まで平均5℃/分以上15℃/分以下の温度勾配で温度上昇させる条件にする請求項1~4のいずれか一項に記載の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業機械、工作機械、自動車などの機体を塗装する方法として、電着塗装が汎用されている。電着塗装によれば、機体などの被塗装物の表面に、均一かつ瑕疵のない塗装を施しやすく、防錆性に優れた塗装を実現できる。
【0003】
電着塗装では、被塗装物に塗装された電着塗料を、当該電着塗料に含まれる硬化剤の分解温度より高い温度に加熱することによって、三次元架橋反応を進行させて成膜させる。そのため、一般的な電着塗装では、被塗装物をおよそ160℃以上の高温で加熱する必要があり、二酸化炭素排出量を低減する観点で改善の余地があった。
【0004】
この課題に鑑み、特開2021-138842号公報(特許文献1)では、二種類の異なるエマルションを混合して構成されるカチオン電着塗料組成物が開示されている。特許文献1の技術によれば、高温焼き付け乾燥を行うことなく、三次元架橋反応を生じさせて塗膜を得ることができる。また、国際公開第2020/166657号(特許文献2)では、10~120℃で乾燥および架橋工程を行うカチオン電着塗料の塗装方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-138842号公報
【文献】国際公開第2020/166657号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のように架橋反応自体を従来の電着塗装方法から変更することや、特許文献2のように従来に比べて低い温度で架橋反応を行うことは、実績が少なく、特に防錆性の信頼度が劣る場合があった。
【0007】
そこで、従来使用されている電着塗料を使用しながら、二酸化炭素排出量を低減しうる塗装方法の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る塗装方法は、基材に対して、硬化温度が140℃以上160℃以下である電着塗料および硬化温度が140℃以上150℃以下である粉体塗料を用いた塗装を施す塗装方法であって、前記基材に対して前記電着塗料を付着させる第一塗装工程と、前記電着塗料が付着した前記基材を、25℃以上30℃以下で加熱して、JIS K5600-5-4:1999に基づいて測定される引っかき硬度が3B以上B以下である仮塗膜を形成する乾燥工程と、前記基材上の前記仮塗膜に対して前記粉体塗料を付着させる第二塗装工程と、前記第二塗装工程において前記粉体塗料を付着させた前記基材を、表面到達温度が170℃以上180℃以下になる温度で加熱して塗膜を形成する成膜工程と、を含み、前記成膜工程において、前記仮塗膜と前記粉体塗料との境界部分に混層が形成されることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、電着塗料の硬化と粉体塗料の成膜とを一度の成膜工程で行うため、
電着塗料を硬化させうるほどの高温を要する工程を一回に留めることができる。そのため、塗装方法全体としての消費エネルギー量を低減できる。また、上記の構成には、従来使用されている電着塗料を使用できる。
【0010】
また、上記の構成では、電着塗料に由来する層と粉体塗料に由来する層との混層が形成されやすい。混層の粘度は一般的に粉体塗料の粘度に比べて高いため、基材のエッジ部などの塗膜が薄くなりやすい箇所においても塗料が流失しにくく、これによって十分な膜厚を確保しやすい。
【0011】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0012】
本発明に係る塗装方法は、一態様として、前記基材が、二面角が120°以下である箇所を有することが好ましい。
【0013】
面角が120°以下である箇所は塗膜の膜厚が薄くなりやすいが、この構成によれば、必要な膜厚を確保しやすい
【0014】
本発明に係る塗装方法は、一態様として、前記仮塗膜の含水率が2%以下であることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、混層がより形成されやすいため、エッジカバー性に一層優れる。
【0016】
本発明に係る塗装方法は、一態様として、前記粉体塗料の、レーザー式回折の方法により特定される平均粒子径が、10μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、混層がより形成されやすいため、エッジカバー性に一層優れる。
【0018】
本発明に係る塗装方法は、一態様として、前記成膜工程における加熱条件を、前記基材を前記硬化温度まで平均5℃/分以上15℃/分以下の温度勾配で温度上昇させる条件にすることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、混層がより形成されやすいため、エッジカバー性に一層優れる。
【0020】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係る塗装方法の手順を示す模式図である。
図2】実施形態に係る塗装方法の手順を示す模式図である。
図3】実施形態に係る塗装方法の手順を示す模式図である。
図4】実施形態に係る塗装方法の手順を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る塗装方法の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る塗装方法を、直角のコーナー部分Cを有する基材Bを塗装する方法に適用した例について説明する。
【0023】
〔塗装方法の構成〕
本実施形態に係る塗装方法は、温度特定工程、第一塗装工程、乾燥工程、第二塗装工程、および成膜工程を、この順で含み、基材Bに対して電着塗料1および粉体塗料2を用いた塗装を施す塗装方法である(図1図4)。上記の工程を経て、基材Bの上に、電着塗料1に由来する第一層41と、粉体塗料2に由来する第二層42と、を含む塗膜4が形成される。本実施形態において塗装対象とする基材Bは、直角のコーナー部分Cを形成する二つの面B1、B2を有する。すなわち、基材Bには、二つの面B1、B2の二面角が90°(120°以下の例である。)の箇所が存在する。基材Bは、農業機械、工作機械、自動車などの外装部品の一部分でありうるが、基材Bの用途によって本実施形態に係る塗装方法の適用が制限されるわけではない。なお説明のため、図1図4では電着塗料1、粉体塗料2、仮塗膜3、および塗膜4の厚さを強調して描写しているが、実際には、塗膜4の厚さは基材Bの厚さに比して相当に薄い。
【0024】
本実施形態に係る塗装方法に使用される電着塗料1としては、公知の電着塗料を使用できる。したがって、電着塗料1は、典型的にはベース樹脂および硬化剤が水中に分散した態様であり、さらに必要に応じて顔料、有機溶剤、硬化触媒、界面活性剤などを含みうる。ベース樹脂は特に限定されないが、たとえばエポキシ樹脂やこのエポキシ樹脂を主体として種々の変性を行った変性エポキシ樹脂など、またはこれらの組合せでありうる。硬化剤も特に限定されないが、たとえばアミン錯体やブロック・イソシアネート系硬化剤などでありうる。
【0025】
本実施形態に係る塗装方法に使用される粉体塗料2としては、公知の粉体塗料を使用できる。したがって、粉体塗料2は、典型的にはバインダー樹脂および顔料を含み、さらに必要に応じて当分野において通常使用される添加剤(密着付与剤、はじき防止剤、ワックスなど)を含みうる。粉体塗料2におけるバインダー樹脂は、いずれも当分野において通常使用されるバインダー樹脂であってよく、たとえば、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、繊維素誘導体樹脂、フッ素樹脂など、またはこれらの組合せでありうる。
【0026】
温度特定工程は、使用する電着塗料1および粉体塗料2の硬化温度を特定する工程である。温度特定工程を実施する方法は特に限定されず、簡便には、使用する電着塗料1および粉体塗料2の取扱説明書等に記載されている硬化温度を参照してもよいし、本実施形態に係る塗装方法を実施する作業員等の経験に基づいて硬化温度を決定してもよい。また、当分野において公知の方法に従って、電着塗料1および粉体塗料2の硬化温度を実験的に特定してもよい。なお、電着塗料1の硬化温度は、たとえば140℃以上170℃以下の領域にある。また、粉体塗料2の硬化温度は、たとえば160℃以上200℃以下の領域にある。
【0027】
第一塗装工程は、基材Bに対して、電着塗料1を付着させる工程である(図1)。第一塗装工程の具体的な実施方法としては、公知の電着塗装方法を使用でき、たとえば、隔膜を有する電着塗料槽やUF(ウルトラフィルター)膜を有する電着塗装システムなどの方法を使用できる。
【0028】
乾燥工程は、第一塗装工程において電着塗料1が付着した基材Bを、温度特定工程において特定した電着塗料1の硬化温度より低い温度で加熱して、仮塗膜3を形成する工程である(図2)。たとえば、電着塗料1の硬化温度が上記に例示した140℃以上170℃以下の領域にあるとき、乾燥工程における加熱温度は、20℃以上100℃以下の領域にありうる。乾燥工程は、たとえば、所定の設定温度に温調された加熱炉に、第一塗装工程後の基材Bを投入する方法によって実施されうる。ここで、設定温度は、炉内の基材Bの温度が電着塗料1の硬化温度より低い温度に維持されるように、加熱炉の条件(出力や寸法など)および基材Bの条件(寸法や材質など)を考慮して選択される。
【0029】
乾燥工程では、電着塗料1が加熱されることによって電着塗料1に含まれる水分がある程度除去されて、基材Bの表面に膜状の構造物が形成されるが、加熱温度が硬化温度より低いため、完全な造膜には至らない。このように、膜状ではあるが完全な造膜には至っていない構造物を、本願の特許請求の範囲、明細書、および要約書において、仮塗膜(仮塗膜3)と称している。
【0030】
第二塗装工程は、基材B上の仮塗膜3に対して粉体塗料2を付着させる工程である(図3)。第二塗装工程の具体的な実施方法としては、公知の粉体塗装方法を使用でき、たとえば静電粉体塗装法(吹き付け塗装)や流動浸漬塗装法(浸漬塗装)などの方法を使用できる。
【0031】
成膜工程は、第二塗装工程において粉体塗料2を付着させた基材を、温度特定工程において特定した粉体塗料2の硬化温度より高い温度で加熱して、塗膜4を形成する工程である(図4)。たとえば、粉体塗料2の硬化温度が上記に例示した160℃以上200℃以下の領域にあるとき、成膜工程における加熱温度は、160℃以上200℃以下の領域にありうる。成膜工程は、たとえば、所定の設定温度に温調された加熱炉に、第二塗装工程後の基材Bを投入する方法によって実施されうる。ここで、設定温度は、炉内の基材Bの温度が粉体塗料2の硬化温度より高い温度に維持されるように、加熱炉の条件(出力や寸法など)および基材Bの条件(寸法や材質など)を考慮して選択される。
【0032】
成膜工程に供される基材B(図3)は、仮塗膜3の上に粉体塗料2が付着したものである。この状態の基材Bを粉体塗料2の硬化温度より高い温度で加熱すると、仮塗膜3における電着塗料の架橋反応(第一層41の形成)と、粉体塗料2の成膜(第二層42の形成)とが同時に進行する。このとき、仮塗膜3に含まれる水分が蒸発するが、粉体塗料2が成膜していない状態であるので、粉体塗料2の粒子の間隙を通じて当該水分が系外に離脱できる。したがって、仮塗膜3から離脱した水分による粉体塗料2の成膜の阻害(たとえば、気泡による外観不良を生じる。)が生じにくい。
【0033】
また、仮塗膜3の架橋反応と粉体塗料2の成膜とが同時に進行するので、仮塗膜3と粉体塗料2との境界部分において二種類の塗料が互いに混ざり合い、混層43が形成される(図4)。
【0034】
〔塗装方法の条件〕
本実施形態に係る塗装方法の各工程は上記の通りであるが、以下では、本実施形態に係る塗装方法を実施する際の条件についてさらに説明する。なお、以下に挙げる条件は、いずれも必須の条件ではない。
【0035】
乾燥工程において形成される仮塗膜3の、JIS K5600-5-4:1999に基づいて測定される引っかき硬度が、5B以上F以下であることが好ましい。仮塗膜3の硬度がF以下であると、混層形成の観点で好ましい。また、仮塗膜3の硬度が5B以上であると、成膜工程において粉体塗料2と混ざりやすく、混層43を形成しやすい。仮塗膜3の硬度は、4B以上であることがより好ましく、3B以上であることがさらに好ましい。また、仮塗膜3の硬度は、B以下であることがより好ましく、2B以下であることがさらに好ましい。
【0036】
なお、仮塗膜3の硬度を5B以上F以下とすることは、たとえば、所望の硬度が得られるように、電着塗料1の組成を適宜調整することによって実現されうる。
【0037】
乾燥工程において形成される仮塗膜3の含水率が2%以下であることが好ましい。仮塗膜3の含水率が2%以下であると、仮塗膜3の硬度が好適な水準になりやすいので、成膜工程において粉体塗料2と混ざりやすく、混層43を形成しやすい。また、成膜工程において仮塗膜3の水分が離脱しやすい点でも有利であり、塗膜4の外観が損なわれにくい。なお、仮塗膜3の含水率は、電着塗料1を付着させる前の基材Bの重量W1と、乾燥工程後の基材B(仮塗膜3が付着している。)の重量W2と、乾燥工程後の基材Bを105℃で180分以上加熱した後の重量W3と、に基づいて、式(1)によって特定される。
(含水率)=((W2-W3)/(W2-W1))×100
【0038】
なお、仮塗膜3の含水率を2%以下とすることは、たとえば、電着塗料1の固形分濃度を考慮して乾燥工程の継続時間を適切に設定することによって実現されうる。
【0039】
成膜工程における加熱条件を、基材Bを硬化温度まで平均5℃/分以上15℃/分以下の温度勾配で温度上昇させる条件にすることが好ましい。温度勾配が平均5℃/分以上であると、成膜工程に要する時間を比較的短くできるため好ましい。また、温度勾配が平均15℃/分以下であると、成膜工程における仮塗膜3の水分の離脱が、第二層42が完成する前に完了しやすいので、塗膜4の外観を損ないにくい。このような、好ましい温度勾配は、たとえば、成膜工程において最終的な加熱温度(粉体塗料2の硬化温度より高い温度)まで昇温する過程に単数または複数の中間的な温度を設定し、段階的に昇温するようにして実現されうる。また、設定温度に到達するまでの温度勾配を設定可能な加熱炉を用いて、好適な温度勾配を直接指定する方法によっても、実現可能である。
【0040】
電着塗料1および粉体塗料2における顔料(電着塗料1においては顔料が含まれる場合)は、いずれも当分野において通常使用される顔料であってよく、たとえば、一般的な有機顔料または無機顔料であってもよいし、光輝性を持つアルミニウム顔料やパール顔料など特徴的な外観を付与しうるものであってもよい。各塗料において使用される顔料の種類は、一種類であっても複数種類であってもよい。
【0041】
電着塗料1と粉体塗料2とは、同じまたは近い色を呈することが好ましい。これは、二つの塗料の色味を近づけておくことによって、それぞれの塗料に由来する塗膜(第一層41および第二層42)の膜厚のバランスが変わっても、外観にその違いが表れにくくなるためである。これによって、塗装された製品の外観の再現性が高くなり、工業製品としての生産が容易になりうる。電着塗料1と粉体塗料2とが、同じまたは近い色を呈するようにすることは、たとえば、電着塗料1および粉体塗料2が同一の顔料を含むことによって実現されうる。
【0042】
粉体塗料2の、レーザー式回折により特定される平均粒子径が、10μm以上50μm以下であることが好ましい。粉体塗料2の平均粒子径が10μm以上であると、成膜工程において仮塗膜3の水分が系外に離脱する経路が確保されやすい。また、粉体塗料2の平均粒子径が50μm以下であると、塗膜4が平滑になりやすい。粉体塗料2の平均粒子径は、20μm以上であることがより好ましい。また、粉体塗料2の平均粒子径は、40μm以下であることがより好ましい。
【0043】
粉体塗料2は、回転式粘度計を用いて室温から所定の温度で測定される粘度が、10-1Pa・s以上10Pa・s以下であることが好ましい。粉体塗料2の粘度が上記の範囲にあることによって、形成される塗膜が平滑になりやすく、製品の外観が良好になりやすい。ここで、粉体塗料2の粘度を測定する際の所定の温度とは、成膜工程において粉体塗料2が到達する温度であり、たとえば成膜工程を実際に実施して測定される塗膜4の表面温度でありうる。なお、実用される塗膜4の厚さに鑑みると、塗膜4の表面温度を粉体塗料2の温度と同一視しうる。
【0044】
粉体塗料2の粘度の測定に用いる回転式粘度計としては、アントンパール社製MCRシリーズが例示される。また、当該測定の測定条件は、一例として、使用するプレートの形状がパラレルプレートであり、プレートの間隔が1mmであり、測定モードが振動測定であり、振動周波数が1Hzである。
【0045】
本実施形態では、製品の外観を良好にするべく比較的粘度が低い粉体塗料2を外層側に使用する一方で、ピンホールなどの塗膜不良を防ぐべく瑕疵のない塗膜を形成しやすい電着塗装による下塗りを施している。また、二種類の塗料が混合される混層43の粘度が、少なくとも粉体塗料2より高くなるので、混層43が比較的流動しにくく、これによってもピンホールなどが抑制される。特に、通常はコーナー部分Cにおいて塗膜が薄くなりやすいが、本実施形態では比較的流動しにくい混層43を積極的に形成することによって、コーナー部分Cであっても一定以上の膜厚を確保できるようにしてある。
【0046】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る塗装方法のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0047】
上記の実施形態では、直角のコーナー部分Cを形成する二つの面B1、B2を有する基材Bを塗装する構成を例として説明した。しかし、本発明に係る塗装方法において塗装対象とする基材は、電着塗料および粉体塗料を用いた塗装に適した基材である限りにおいて、材質および形状について特に限定されない。なお、基材が電着塗料および粉体塗料を用いた塗装に適しているか否かは、従来の電着塗装および粉体塗装の適否と同様の基準で判断しうる。ただし、上記の実施形態のコーナー部分Cのように二面角が120°以下である箇所が存在する基材は、当該箇所において膜厚が薄くなりやすいところ、本発明に係る塗装方法を適用することで当該箇所においても必要な膜厚を確保しやすくなるため、本発明に係る塗装方法を適用する利益が特に大きいといえる。
【0048】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例
【0049】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0050】
〔試験条件〕
市販されている厚さ3.2mmのSPCC(冷間圧延鋼板)をレーザーカットなどによって切断し、切断面(エッジ部)を90°に加工した試験板を得た。当該試験板に対して、上記の実施形態に従う手順で塗装を施した。塗装後の試験板を切断し、エッジ部の断面を顕微鏡で観察して、塗膜の状態を観察した。
【0051】
〔結果〕
実施例1~5および参考例について、使用した塗料の条件、乾燥工程および成膜工程の実施条件、乾燥工程後に形成された仮塗膜についての測定結果、および成膜工程後の塗膜における混層の厚さ、を表1に示す。実施例1~5および参考例のいずれにおいても、混層が形成していることを確認できた。
【0052】
表1:実施例および参考例
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、たとえば農業機械、工作機械、自動車などの外装塗装に利用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 :電着塗料
2 :粉体塗料
3 :仮塗膜
4 :塗膜
41 :第一層
42 :第二層
43 :混層
B :基材
B1 :面
B2 :面
C :コーナー部分
図1
図2
図3
図4