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特許7459045標的物質の検出方法、標的物質の検出のための試薬、及び標的物質の検出のための試薬キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】標的物質の検出方法、標的物質の検出のための試薬、及び標的物質の検出のための試薬キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240325BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20240325BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
G01N33/53 V
G01N33/531 B
G01N33/543 501J
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021502397
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008328
(87)【国際公開番号】W WO2020175672
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2019035529
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴野 親是
(72)【発明者】
【氏名】京藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】石本 規
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/129384(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/194350(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に固定化されたウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA)と、WFAと結合する糖鎖を含む標的物質とを、炭素数1から7のアルコール(但し、チオグリセロールを除く)の存在下で混合することにより、前記担体上にWFAと標的物質とを含む複合体を形成する工程、及び
前記複合体を検出することにより、標的物質を検出する工程
を含む、標的物質の検出方法。
【請求項2】
前記形成工程において、前記WFAと、前記標的物質と、前記標的物質に結合し且つ標識物質を有する検出物質とが前記アルコールの存在下で混合され、前記WFAと前記標的物質と前記検出物質とを含む複合体が形成され、
前記検出工程において、前記複合体が前記複合体の標識物質に基づいて検出される、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記アルコールの炭素数が2から7である、請求項1又は2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、グリセロール、ペンタノール、ヘプタノール、ジグリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、及びこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1のアルコールである、請求項1から3のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項5】
前記形成工程において、2から20w/w%の濃度のアルコールの存在下で前記複合体が形成される、請求項1から4に記載の検出方法。
【請求項6】
標的物質が、糖タンパク質である、請求項1から5に記載の検出方法。
【請求項7】
標的物質が、Mac-2-binding protein(M2BP)、Mucin 1, cell surface associated (MUC1)、α1酸性糖タンパク質(AGP)、神経細胞接着分子L1(L1CAM)、またはKL-6抗原である、請求項6に記載の検出方法。
【請求項8】
前記検出物質が、前記標的物質に特異的に結合する抗体である、請求項1から7のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項9】
前記標識物質が、ハプテン、酵素および蛍光物質からなる群より選択される少なくとも1である、請求項1から8のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項10】
前記担体が粒子である、請求項1から9のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項11】
前記検出工程において、標的物質が定量される、請求項1から10のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項12】
担体に固定化されたウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA)と、WFAと結合する糖鎖を含む標的物質とを、炭素数が1から7のアルコール(但し、チオール基を含むアルコールを除く)の存在下で混合することにより、前記担体上にWFAと標的物質とを含む複合体を形成する工程、及び
前記複合体を検出することにより、標的物質を検出する工程
を含む、標的物質の検出方法。
【請求項13】
標的物質を検出するための試薬であって、
炭素数が1から7のアルコール(但し、チオグリセロールを除く)を含み、
前記標的物質が、ウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA)と結合する糖鎖を含む、
前記試薬。
【請求項14】
標的物質を検出するための試薬であって、
炭素数が1から7のアルコール(但し、チオール基を含むアルコールを除く)を含み、
前記標的物質が、ウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA)と結合する糖鎖を含む、
前記試薬。
【請求項15】
標的物質を検出するための試薬キットであって、前記試薬キットは、
標的物質の検出物質;
ウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA);及び
炭素数が1から7のアルコール(但し、チオグリセロールを除く);
を含み、
ここで、前記標的物質が、WFAと結合する糖鎖を含む
前記試薬キット。
【請求項16】
標的物質を検出するための試薬キットであって、前記試薬キットは、
標的物質の検出物質;
ウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA);及び
炭素数が1から7のアルコール(但し、チオール基を含むアルコールを除く);
を含み、
ここで、前記標的物質が、WFAと結合する糖鎖を含む
前記試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的物質の検出方法、標的物質の検出のための試薬、及び標的物質の検出のための試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、標識化レクチンを用いて検体中の検出対象物質としての糖タンパク質を定量するためのサンドイッチ型アッセイであって、簡便な処理を導入することにより、夾雑物に由来する影響を抑制したサンドイッチ型アッセイ法が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2017/0122940号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、チオグリセロール等の還元剤を用いて、標識化レクチンの非特異結合を抑制する方法が記載されている。しかし、発明者らは、後述する実施例に示すように特許文献1に記載の方法では、検出精度の向上が十分ではないことを見出した。
【0005】
本発明は、ウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチンを用いた標的物質の検出精度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある実施形態は、担体に固定化されたウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA)と、WFAと結合する糖鎖を含む標的物質とを、炭素原子、水素原子、及び酸素原子のみからなる炭素数が1から7のアルコールの存在下で混合することにより、前記担体上にWFAと標的物質とを含む複合体を形成する工程及び前記複合体を検出することにより標的物質を検出する工程、を含む、標的物質の検出方法に関する。
【0007】
本発明のある実施形態は、担体に固定化されたウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA)と、WFAと結合する糖鎖を含む標的物質とを、炭素数が1から7のアルコール(但し、チオグリセロールを除く)の存在下で混合することにより、前記担体上にWFAと標的物質とを含む複合体を形成する工程、及び前記複合体を検出することにより標的物質を検出する工程、を含む、標的物質の検出方法に関する。
【0008】
本発明のある実施形態は、担体に固定化されたウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA)と、WFAと結合する糖鎖を含む標的物質とを、炭素数が1から7のアルコール(但し、チオール基を含むアルコールを除く)の存在下で混合することにより、前記担体上にWFAと標的物質とを含む複合体を形成する工程、及び前記複合体を検出することにより標的物質を検出する工程、を含む、標的物質の検出方法に関する。
【0009】
本発明のある実施形態は、炭素原子、水素原子、及び酸素原子のみからなる炭素数が1から7のアルコールを含む、標的物質を検出するための試薬に関する。ここで、前記標的物質は、ウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA)と結合する糖鎖を含む。
【0010】
本発明のある実施形態は、炭素数が1から7のアルコール(但し、チオグリセロールを除く)を含む標的物質を検出するための試薬に関する。ここで、前記標的物質は、ウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA)と結合する糖鎖を含む。
【0011】
本発明のある実施形態は、炭素数が1から7のアルコール(但し、チオール基を含むアルコールを除く)を含む、標的物質を検出するための試薬に関する。前記標的物質は、ウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA)と結合する糖鎖を含む。
【0012】
本発明のある実施形態は、標的物質の検出物質;ウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA);及び炭素原子、水素原子、及び酸素原子のみからなる炭素数が1から7のアルコールを含む、標的物質を検出するための試薬キットに関する。ここで、前記標的物質は、WFAと結合する糖鎖を含む。
【0013】
本発明のある実施形態は、標的物質の検出物質;ウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA);及び炭素数が1から7のアルコール(但し、チオグリセロールを除く)を含む、標的物質を検出するための試薬キットに関する。ここで、前記標的物質は、WFAと結合する糖鎖を含む。
【0014】
本発明のある実施形態は、標的物質の検出物質;ウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA);及び炭素数が1から7のアルコール(但し、チオグリセロールを除く)を含む、標的物質を検出するための試薬キットに関する。ここで、前記標的物質は、WFAと結合する糖鎖を含む。
【0015】
炭素原子、水素原子、及び酸素原子のみからなる、炭素数が1から7のアルコール、チオグリセロールを除く炭素数が1から7のアルコール、又はチオール基を含むアルコールを除く炭素数が1から7のアルコールの存在下で、WFAと標的物質とを混合することにより、標的物質の検出精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
標的物質の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(A)は、試薬を含む容器の外観例を示す図である。(B)は試薬キットの概略を示す図である。
図2】検出系にグリセロールを添加した場合の希釈直線性を示す。
図3】検出系にアルコール以外の物質を添加した場合の希釈直線性を示す。
図4】検出系に様々な炭素数を有するアルコールを添加した場合の希釈直線性を示す。
図5】グリセロールを添加した場合のWFA-M2BP検出系の検体の希釈直線性を示す。
図6】グリセロールを添加した場合のWFA-MUC1検出系の希釈直線性を示す。
図7】グリセロールを添加した場合のLTL-haptoglobin検出系の希釈直線性を示す。
図8】検出系にグリセロール化合物を添加した場合の希釈直線性を示す。
図9】検出系に様々な濃度のグリセロールを添加した場合の希釈直線性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.検出方法
本明細書に開示される検出方法の実施形態の一例を示す。本開示のある実施形態は、レクチンと、前記レクチンと結合する糖鎖を含む標的物質とを、アルコールの存在下で混合することにより、前記担体上にWFAと標的物質とを含む複合体を形成する工程(形成工程)、及び前記複合体を検出することにより、標的物質を検出する工程(検出工程)を含む、標的物質の検出方法に関する。好ましくは、前記検出は定量でありうる。
【0019】
標的物質は、検出の対象となる物質である。好ましくは糖タンパク質であり、より好ましくはウィステリア・フロリブンダ(Wisteria floribunda)のレクチン(WFA)と結合する糖鎖を有する。標的物質として、好ましくはMac-2-binding protein(M2BP)、Mucin 1、cell surface associated(MUC1)、α1酸性糖タンパク質(AGP)、神経細胞接着分子L1(L1CAM)、KL-6抗原等を挙げることができる。
【0020】
標的物質は、生体から採取された試料に含まれる物質であることが好ましい。試料は、尿、血液を用いることができる。血液は、末梢血であってもよく、該末梢血から調製した血漿又は血清であってもよい。これらの中でも血漿又は血清が好ましい。本実施形態では、必要に応じて、試料を適切な水性媒体で希釈してもよい。そのような水性媒体は、標的物質の検出を妨げないかぎり特に限定されず、例えば、水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液は特に限定されず、中性付近のpH(例えば6以上8以下のpH)の緩衝液を用いることができる。例えば、HEPES、MES、Tris、PIPESなどのグッド緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。
【0021】
レクチンは、好ましくはWFAを挙げることができる。WFAとして、例えば、天然に存在するWFAまたはリコンビナントWFAを挙げることができる。天然に存在するWFAは、4つのサブユニットから構成される4量体タンパク質である。WFAは、フジ(Wisteria floribunda)の種子に含まれるレクチンとして知られている。この4量体のWFAからは、還元剤などを用いた所定の処理によって、単量体又は2量体のWFAを得ることができる。本明細書では、特に断りのないかぎり、「WFA」との表記は、単量体のWFA及び多量体のWFAの両方を意図する。また、本明細書において、所定の数のサブユニットから構成されるWFAを表す場合は、例えば「単量体WFA」、「2量体WFA」、「4量体WFA」のように、サブユニットの数を明示して表記する。
【0022】
本実施形態では、WFAは、4量体WFAであってもよく、単量体WFA又は2量体WFAであってもよい。それらの中でも、反応性の高さから、2量体WFAが好ましい。
【0023】
アルコールとして、例えば、炭素数が1から7、好ましくは炭素数が2から7のアルコールを挙げることができる。アルコールの炭素数の下限値は、1、2又は3から選択することができる。一実施形態では、炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなるアルコールが用いられる。好ましくは、前記炭素数が1から7のアルコールにはチオグリセロールは含まない。より好ましくは、前記炭素数が1から7のアルコールにはチオール基を含むアルコールは含まない。ここで、「炭素数が1から7のアルコールにはチオグリセロールは含まない」とは、後述する検出系、試薬、及び試薬キットにおいて、少なくともチオグリセロール以外の炭素数が1から7のアルコールを含んでいればよいことを意味し、チオグリセロールを添加する検出系、試薬、及び試薬キットを完全に排除するものではない。「炭素数が1から7のアルコールにはチオール基を含むアルコールは含まない」との表現についても、後述する検出系、試薬、及び試薬キットにおいて、少なくともチオール基を含むアルコール以外の炭素数が1から7のアルコールを含んでいればよいことを意味し、チオール基を含むアルコールを添加する検出系、試薬、及び試薬キットを完全に排除するものではない。すなわち、標的物質の検出を妨げない程度にチオグリセロールを含んでいてもよい。
【0024】
アルコールは、一価であっても多価であってもよい。価数は、水酸基の数を意図する。多価アルコールとして、例えば二価、三価、四価のアルコールを挙げることができる。
【0025】
アルコールに含まれる炭素鎖は、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、好ましくは直鎖である。
【0026】
アルコールは、一種のみを用いてもよいし、複数種類を用いてもよい。
【0027】
アルコールとして、好ましくはメタノール、エタノール、グリセロール、ペンタノール、ヘプタノール、ジグリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、及びこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一種のアルコールを挙げることができる。グリセロール、ジグリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、及びこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一種のアルコールがより好ましく、グリセロールが最も好ましい。
【0028】
WFAと、標的物質との複合体の形成は、例えば標的物質を含む試料(または試料を水性媒体で希釈した希釈液等)と、WFAとを混合し、必要に応じて一定時間インキュベーションすることにより達成される。この場合、WFAは、担体に固定化されていることが好ましい。
【0029】
WFAの担体への固定の態様は、特に限定されない。例えば、WFAと担体とを直接結合させてもよく、あるいはWFAと担体との間を別の物質を介して間接的に結合させてもよい。直接の結合としては、例えば、物理的吸着などが挙げられる。間接的な結合としては、例えば、ビオチンと、アビジン又はストレプトアビジン(以下、「アビジン類」ともいう)との組み合わせを介した結合が挙げられる。この場合、WFAをあらかじめビオチンで修飾し、担体にアビジン類をあらかじめ結合させておくことにより、ビオチンとアビジン類との結合を介して、WFAと担体とを間接的に結合させることができる。
【0030】
担体の素材は特に限定されず、例えば、有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。担体の形状は特に限定されず、例えば、粒子、膜、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。それらの中でも粒子が好ましく、磁性粒子が特に好ましい。磁性粒子を用いることで、WFAと標的物質の反応性を向上することができる。
【0031】
磁性粒子に固定させるWFAは、2量体WFAが好ましい。2量体WFAは、例えば、スルフヒドリル試薬や還元剤を用いて、4量体WFAのサブユニットを解離させて得ることができる。また、架橋剤と4量体WFAとを接触させることによっても、4量体WFAを2量体化させることができる。そのような架橋剤としては、4量体WFA中のアミノ基と架橋を形成する架橋剤が好ましい。例えば、アミノ基に対する反応基を有する架橋剤として、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル基、イソチオシアノ基、クロロスルホン基、クロロカルボニル基、オキシエチレン基、炭素数1から4のクロロアルキル基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基を有する架橋剤が挙げられる。そのような架橋剤を用いれば、4量体WFAを効率よく2量体化させることができる。
【0032】
4量体WFAと架橋剤とを混合する際のモル比(WFA/架橋剤)は、好ましくは1/10以下、より好ましくは1/20以下である。一方、モル比(WFA/架橋剤)の下限は、架橋剤の使用量及び生成する2量体WFAの収率とのバランスを考慮して、1/100以上とすることができる。
【0033】
ビオチンとアビジン類との結合を介してWFAを磁性粒子に固定させる場合は、ビオチン化2量体WFAを用いてもよい。ビオチン化2量体WFAは、例えば、ビオチンを含む架橋剤を用いて4量体WFAを2量体化することにより得ることができる。ビオチンを含む架橋剤は、例えば、ビオチンと、架橋剤の上記反応基とをスペーサーを介して結合させることにより得られる。そのようなスペーサーは、特に限定されないが、例えば、アミノヘキサノイル基(アミノカプロイル基)を有する化合物などが挙げられる。
【0034】
標的物質とWFAの複合体の形成時に、前記アルコールが2から20w/w%、好ましくは4から10w/w%含まれることが好ましい。本開示において単位「w/w%」は、重量/重量換算の百分率を意図する(以下、同じ)。
【0035】
アルコール存在下で、標的物質とWFAの複合体を形成させる場合、アルコールを含む試薬と、担体に固定化されたWFAを含む試薬とを個別の試薬として試料(またはその希釈液)と混合してもよく、アルコールと担体に固定化されたWFAの混合液を試料と混合してもよい。試薬と試料(またはその希釈液)を混合する順序は特に限定されず、これらを実質的に同時に混合してもよいし、逐次混合してもよい。アルコールを含む試薬の例としては、シスメックス株式会社製HISCL(商標) R1試薬にアルコールを添加した試薬を挙げることができる。この場合、担体に固定化されたWFAを含む試薬として、例えば、シスメックス株式会社製HISCL(商標) M2BPGi(商標) R2試薬を挙げることができる。
【0036】
複合体の検出は、例えばWFAと標的物質との複合体にさらに検出物質を含ませ、検出物質からのシグナルを検出することにより可能となる。WFAと標的物質と検出物質との複合体は、WFAと標的物質との複合体と、検出物質とを混合して必要に応じて一定時間反応させることにより形成することができる。また、WFAと標的物質との複合体を形成する際に検出物質を共存させることにより、WFAと標的物質と検出物質との複合体を形成してもよい。
【0037】
検出物質は、標的物質と特異的に結合する物質であって、標識物質を含む物質であるかぎり制限されない。標的物質が糖タンパク質である場合、標的物質と特異的に結合する物質は、標的物質のタンパク質部分に結合することが好ましい。標的物質と特異的に結合する物質として、例えば抗体を挙げることができる。モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及びそれらの断片(例えば、Fab、F(ab’)2など)のいずれであってもよい。また、市販の抗体を用いてもよい。
【0038】
検出物質に用いられる標識物質は、免疫学的測定において当業界で通常用いられる物質を用いることができる。例えば、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよいし、他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質であってもよい。シグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば、酵素が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(商標)などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。それらの中でも、標識物質として、酵素が好ましく、アルカリホスファターゼが特に好ましい。標識物質としてジニトロフェニル(DNP)基やビオチンなどのハプテンを用いることもできる。ハプテンに結合し且つシグナル発生物質や酵素などを有する物質を検出物質に結合することにより、複合体からのシグナルを取得することができる。
【0039】
標識物質は、当該技術において公知の標識方法により、標的物質と特異的に結合する物質に結合させることができる。また、市販のラベリングキットなどを用いて標識してもよい。
【0040】
本実施形態では、複合体は、複合体に含まれる検出物質の標識物質に基づいて検出される。具体的には、複合体に含まれる検出物質の標識物質により生じるシグナルを検出することにより、試料に含まれる標識物質の量又は濃度を反映する測定値を取得できる。ここで、「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、及び、シグナルの強度を半定量的に検出することを含む。半定量的な検出とは、シグナルの強度を、「シグナル発生せず」、「弱」、「中」、「強」などのように段階的に示すことをいう。本実施形態では、シグナルの強度を定量的又は半定量的に検出することが好ましい。
【0041】
シグナルを検出する方法自体は、当該技術分野において公知である。本実施形態では、上記の標識物質に由来するシグナルの種類に応じた測定方法を適宜選択すればよい。例えば、標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を反応させることによって発生する光、色などのシグナルを、分光光度計などの公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。
【0042】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質として、CDP-Star(商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2’-(5’-クロロ)トリクシロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(商標)(3-(4-メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2-(5’-クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。
【0043】
標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。また、標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0044】
検出物質を含む試薬の例として、例えば標的物質がM2BPである場合には、シスメックス株式会社製HISCL(商標) M2BPGi(商標) R3試薬を挙げることができる。また、他の標的物質を検出する場合には、HISCL(商標) M2BPGi(商標) R3試薬に含まれる抗M2BP抗体を標的物質と特異的に結合する物質に合わせて変更することができる。
【0045】
本実施形態において、標識物質が酵素である場合には、基質を標識物質と接触させる工程及びシグナルを検出する工程を「検出工程」と呼ぶ。また標識物質が蛍光物質又は放射性同位元素である場合には、シグナルを検出する工程を「検出工程」と呼ぶ。
【0046】
本実施形態においては、上記複合体の形成と検出工程との間に、複合体を形成していない未反応の遊離成分を除去するBound/Free(B/F)分離を行ってもよい。未反応の遊離成分とは、複合体を構成しない成分をいう。例えば、未反応の試料成分、WFA、検出物質等を挙げることができる。B/F分離の手段は特に限定されないが、担体が粒子であれば、遠心分離により、複合体を捕捉した担体だけを回収することによりB/F分離ができる。担体がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することによりB/F分離ができる。また、担体が磁性粒子の場合は、磁石で磁性粒子を磁気的に拘束した状態でノズルによって未反応の遊離成分を含む液を吸引除去することによりB/F分離ができ、自動化の観点で好ましい。未反応の遊離成分を除去した後、複合体を捕捉した担体をPBSなどの適切な水性媒体で洗浄してもよい。
【0047】
シグナルの検出結果は、標的物質の測定値として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量的に検出する場合は、シグナル強度の測定値自体又は該測定値から算出される値を、標的物質の測定値として用いることができる。シグナル強度の測定値から算出される値としては、例えば、該測定値から陰性対照試料の測定値を差し引いた値、該測定値を陽性対照試料の測定値で除した値、及びそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0048】
ここで、標的物質の検出は、シスメックス株式会社製の全自動免疫測定装置HISCL(商標)シリーズを使用して行ってもよい。
【0049】
2.試薬及び試薬キット
(1)試薬
本開示のある実施形態は、標的物質の検出に使用する試薬に関する。好ましくは、本実施形態は、上記1で述べた方法の一部の工程で使用される炭素数1から7のアルコールを含む試薬を含む。図1(A)に試薬の容器51の外観を示す。
【0050】
試薬は、炭素数1から7のアルコールを3から30w/w%、好ましくは4から15w/w%で含むことが好ましい。また試薬51は、例えば水性溶媒を含むことが好ましい。水性溶媒は、上記1で述べた検出を妨げないかぎり特に限定されず、例えば、水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液は、中性付近のpH(例えば6以上8以下のpH)で緩衝作用を有するかぎり、特に限定されない。緩衝液として、例えば、HEPES、MES、Tris、PIPESなどのグッド緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。好ましくはHEPESである。このような緩衝液として、例えば、シスメックス株式会社製HISCL(商標) R1試薬を挙げることができる。
【0051】
また、炭素数1から7のアルコールを含む試薬は、上記1で述べた担体に固定化されたWFAを含んでいてもよい。この場合にも、試薬は、例えば水性溶媒を含むことが好ましい。水性溶媒は、上記1で述べた検出を妨げないかぎり特に限定されず、例えば、水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液は、中性付近のpH(例えば6以上8以下のpH)で緩衝作用を有するかぎり、特に限定されない。緩衝液として、例えば、HEPES、MES、Tris、PIPESなどのグッド緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。好ましくはHEPESである。このような緩衝液として、例えば、シスメックス株式会社製HISCL(商標) M2BPGi(商標) R2試薬を挙げることができる。
【0052】
さらに、試薬は、上記1で述べた検出物質を含んでいてもよい。
【0053】
試薬は、β-メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤;及びアジ化ナトリウム、ウシ血清アルブミン等の安定化剤から選択される少なくとも一種の添加剤を含んでいてもよい。試薬は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マンガン等の金属塩(好ましくは塩化物)を含んでいてもよい。
【0054】
(2)試薬キット
本開示のある実施形態は、標的物質の検出に使用する試薬キットに関する。試薬キットは、少なくとも炭素数1から7のアルコールと、WFAと、検出物質とを含む。図1(B)に試薬キットの概要の例を示す。図1(B)に示す、試薬キット50は、外装箱55と、上記2.(1)で述べた炭素数1から7のアルコールを含む試薬を格納した第1の容器51のと、上記1で述べた担体に固定化されたWFAを含む試薬を格納した第2の容器52と、上記1で述べた標的物質に結合可能な検出物質を含む試薬を格納した第3の容器53と、試薬キットの添付文書54とを含む。添付文書54には、試薬キットの取り扱い方法、保管条件、使用期限などを記載しておくことができる。
【0055】
炭素数が1から7のアルコールが、第2の容器52に含まれる担体に固定化されたWFAを含む試薬に含まれる場合には、第1の容器51には、上記2.(1)で述べた水性溶媒と、必要に応じて添加物及び金属塩からなる群より選択される少なくとも一種とを含む試薬が含まれる。
【0056】
炭素数が1から7のアルコールが、第1の容器51に含まれる試薬に含まれる場合には、第2の容器52に含まれる担体に固定化されたWFAは、乾燥形態であってもよい。また、試薬キットに含まれるWFAは、流通時には担体に固定化されていない場合には、使用する前にWFAを担体に固定化するための試薬とWFAと担体が各々個別に梱包されていてもよい。
【0057】
第3の容器53に含まれる試薬の例として、例えば標的物質がM2BPである場合には、シスメックス株式会社製HISCL(商標) M2BPGi(商標) R3試薬を挙げることができる。また、他の標的物質を検出する場合には、HISCL(商標) M2BPGi(商標) R3試薬に含まれる抗M2BP抗体を標的物質と特異的に結合する物質に合わせて変更することができる。
【0058】
さらに、試薬キットには、試料を希釈するための希釈液を含む容器(例えば、シスメックス株式会社製HISCL(商標) R4試薬)、基質試薬(例えば、シスメックス株式会社製HISCL(商標)用 R5試薬)を含む容器、洗浄用の水性媒体を含む容器などを外装箱55に同梱してもよい。
なお、上記1で記述の用語の説明は、本項に援用する。
【実施例
【0059】
1.試薬・検体・測定
(1-1) 試料希釈用緩衝液(第1試薬)
シスメックス株式会社製のHISCL(商標) M2BPGi R1試薬を用いた。
【0060】
(1-2) WFAレクチンを固定した磁性粒子(第2試薬)
標的物質として、M2BP及びMUC1を使用する系にはシスメックス株式会社製のHISCL(商標) M2BPGi R2試薬を用いた。
【0061】
(1-2’) LTLレクチンを固定した磁性粒子(第2試薬)
(1-2’-1) LTLレクチンのビオチン化
LTL〔VECTOR Laboratories(ベクター・ラボラトリーズ)社製、商品名:Lotus tetragonolobus Lectin〕を当該LTLの濃度が2.5 mg/mLとなるように20 mMリン酸緩衝液(pH 7.5)に添加し、LTL含有溶液を得た。
【0062】
得られたLTL含有溶液に、ビオチンを含む架橋剤である5-(N-スクシンイミジルオキシカルボニル)ペンチルD-ビオチンアミド〔(株)同仁化学研究所製、商品名:Biotin-AC5-Osu〕をLTL/架橋剤(モル比)が1/100となるように添加した。得られた溶液を25℃で90分間インキュベーションすることにより、前記LTLと前記ビオチンを含む架橋剤とを反応させ、反応産物を得た。
【0063】
(1-2’-2)ビオチン化LTLの精製
(1-2’-1)で得られた反応産物を、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の条件で精製し、精製ビオチン化LTLを得た。
・溶出溶媒:リン酸緩衝液(pH6.5)
・分離カラム:ゲル濾過カラム
【0064】
(1-2’-3) ストレプトアビジン結合粒子含有液の調製
ストレプトアビジン(STA)が磁性粒子(平均粒子径2μm)の表面に固定化された複合体(磁性粒子1gあたりのストレプトアビジンの量:2.9~3.5mg;以下、「STA結合磁性粒子」ともいう)を0.01M HEPES緩衝液(pH7.5)で3回洗浄した。洗浄後のSTA結合磁性粒子をSTA濃度が18~22μg/mL(STA結合磁性粒子の濃度が0.48~0.52 mg/mL)となるように0.01M HEPES緩衝液(pH7.5)に添加し、STA結合粒子含有液を得た。
【0065】
(1-2’-4)LTL固定化担体の調製
ビオチン化LTLを当該ビオチン化LTLの濃度が20 μg/mLとなるように得られたSTA結合粒子含有液に添加し、STA結合磁性粒子のストレプトアビジンとビオチンLTLのビオチンとを結合させた。得られた産物を0.1M MES緩衝液(pH6.5)で3回洗浄し、LTL固定化担体を得た。得られたLTL固定化担体をMES緩衝液に懸濁し、LTL固定化担体含有液を得た。
【0066】
(1-3) 標識M2BP抗体を含む溶液(第3試薬)
標的物質として、M2BPを使用する系にはシスメックス株式会社製のHISCL(商標) M2BPGi(商標) R3試薬を用いた。
【0067】
(1-3’) 標識MUC1抗体を含む溶液(第3試薬)
MUC1抗体としてMY.1E12(Journal of Immunological Methods Volume 270, Issue 2, 15 December 2002, Pages 199-209)を使用した。MUC1抗体をリン酸緩衝液に溶解し、得られた溶液のEDTA濃度を1 mMに調整した。抗体溶液に2-メルカプトエチルアミン塩酸塩溶液を適量添加し、37℃で所定時間反応させた。その後、PD-10カラム(GEヘルスケアジャパン)を用いて抗体溶液を脱塩し、所定濃度に調整した。
【0068】
ALP標識剤としてのマレイミド架橋剤をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、マレイミド架橋剤溶液を調製した。ALP溶液に、上記のマレイミド架橋剤溶液を適量添加し、37℃で所定時間置き、マレイミド基を導入した。その後、PD-10カラム(GEヘルスケアジャパン)を用いて溶液を脱塩し、所定濃度に調整した。
【0069】
上記の抗体溶液と、上記のALP溶液とを所定割合で混合し、冷蔵庫に入れ、カップリング反応をさせた。その後、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩溶液を添加し、反応を停止した。ALP抗体溶液をゲル濾過し、所望の画分を回収した。
【0070】
得られた所望の画分はBSAを含む緩衝液で所定の濃度に溶解し、標識MUC1抗体の第3試薬として用いた。
【0071】
(1-3’’) 標識haptoglobin抗体を含む溶液(第3試薬)
標識haptoglobin抗体をABCAM社(メーカーカタログ番号:AB13429)から入手し、1-3’と同様の方法で標識化して、標識haptoglobin抗体の第3試薬として使用した。
【0072】
(1-4) 測定用緩衝液(第4試薬)
シスメックス株式会社製のHISCL(商標) R4試薬を用いた。
【0073】
(1-5) 基質(第5試薬)
アルカリホスファターゼの化学発光基質としてCDP-Star(商標)(アプライドバイオシステムズ社)を用いたHISCL(商標) R5試薬(シスメックス株式会社製)を、第5試薬として使用した。
【0074】
(1-6) 検体
測定検体としてヒト血清の原液と、前記ヒト血清をHISCL(商標)検体希釈液を用いて2倍、4倍、8倍に希釈した希釈血清を用いた。
【0075】
2.実施例1
グリセロールの添加が希釈直線性に及ぼす影響を検討した。
上記の第1から第5試薬を用いて全自動免疫測定装置HISCL(商標)5000(シスメックス株式会社製)によりM2BPを測定した。測定する際に、HISCL(商標) M2BPGi(商標)のR1試薬に、グリセロールを15 w/w%となるように添加した。R1試薬100μlとR2試薬30μlと測定検体10μlとを混合し、装置の設定にしたがってインキュベーションした後にB/F分離を行い、R3試薬を添加して測定値(発光強度)を取得した。
【0076】
測定結果に基づいて、希釈倍数から得られる理論上の回帰直線と、実測結果との相関係数(R2値)を求めた。
【0077】
図2に示すように、Reference(無添加)に比べ、グリセロールを添加した検出系は、良好なR2値を示し、検体希釈直線性の明らかな向上を示した。
【0078】
3.実施例2
グリセロール及び他の物質の添加が希釈直線性に及ぼす影響を検討した。HISCL(商標) M2BPGi(商標)のR1試薬に、tween80、NaCl、ウシ血清アルブミン(BSA)又はグリセロールを15 w/w%となるように添加し、実施例1と同様にM2BP測定の希釈直線性を検討した。図3に示すように、Reference(無添加)に比べ、グリセロールのみが、他の物質を添加した場合と比較して、良好なR2値を示し検体希釈直線性の明らかな向上を示した。
【0079】
4.実施例3
次に、炭素数の異なるメタノール(C1)、エタノール(C2)、グリセロール(C3)、ペンタノール(C5)、ヘプタノール(C7)、オクタノール(C8)をHISCL(商標) M2BPGi(商標)のR1試薬に15 w/w%となるように添加し、M2BP測定の検体希釈直線性への影響を確認した。測定は、実施例1と同様に行った。図4に示すように、炭素数が1から7、特に炭素数が2から7のアルコールにおいて、検体希釈直線性の向上が示された。一方で炭素数が8のオクタノールを添加しても検体希釈直線性の向上は認められなかった。
【0080】
5.実施例4
レクチン及び標的物質を変えて検体の希釈直線性を確認した。レクチンとしてWFA又はLotus tetragonolobus Lectin(LTL)を使用した。標的物質として、M2BP、MUC1又はhaptoglobinを使用した。LTLを用いる系では、第2試薬として(1-2’)で述べた LTLレクチンを固定した磁性粒子を使用した。MUC1を測定する場合には、第3試薬として(1-3’)で述べた標識MUC1抗体を含む溶液を使用した。haptoglobinを測定する場合には第3試薬として(1-3’’)で述べた標識haptoglobin抗体を使用した。全ての検出系で第1試薬としてHISCL(商標) M2BPGi(商標)のR1試薬を用い、第1試薬にグリセロールを実施例1と同様に添加した。測定は、実施例1と同様に行った。
【0081】
その結果を図5から図7に示す。レクチンとしてWFAを使用した検出系(図5及び図6)は、標的物質(M2BP及びMUC1)に関わらず、グリセロール添加により検体希釈直線性の向上を示した。一方、レクチンとしてLTLを使用したhaptoglobinの検出系(図7)は、グリセロールの添加により、検体希釈直線性が低下した。
【0082】
したがって、アルコールの添加は、標的物質は選ばないものの、WFAを用いた検出系に有用であることが示された。
【0083】
6.実施例5
他のアルコールの効果を確認するため、グリセロールの他、ジグリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、PEG6000を添加し、標的物質をM2BPとして検体希釈直線性を検討した。さらに、特許文献1で標識化レクチンの非特異結合を抑制する処理に使用されている還元剤(チオグリセロール)を添加し、グリセロールとの性能比較を行った。各添加剤は第1試薬に添加し、測定は、実施例1と同様に行った。図8に示すように、ジグリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールでも、検体希釈直線性が向上した。一方で、高分子グリセロール類であるPEG6000を添加した場合、逆に検体希釈直線性は著しく低下した。また、チオグリセロールを添加した場合にも、検体希釈直線性の著しい性能低下が生じた。
【0084】
以上の結果から、炭素数3から6のアルコールとして他のグリセロール化合物を添加しても、検体希釈直線性の向上が認められることが明らかとなった。
【0085】
7.実施例6
次にR1試薬に添加するグリセロール濃度を0 w/w%、5.0 w/w%、12.5 w/w%、15.0 w/w%、20.0 w/w%と変化させて、標的物質をM2BPとしたときの検体希釈直線性を検討した。各添加剤は第1試薬に添加し、測定は、実施例1と同様に行った。図9に示すように、5.0 w/w%、12.5 w/w%、15.0 w/w%、20.0 w/w%のいずれの濃度でも検体希釈直線性が向上した。
【0086】
以上の結果から、WFAを使用する検出系への炭素数1から7のアルコールの添加は、検体の希釈直線性を向上させることが確認された。また、検体の希釈直線性を向上していることから検査精度の向上も期待できると考えられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9