IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アムコア・フレキシブルズ・クロイツリンゲン・アーゲーの特許一覧

特許7459070環状オレフィンのシール層を有する多層フィルム
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】環状オレフィンのシール層を有する多層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20240325BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
B65D65/40 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021515273
(86)(22)【出願日】2019-02-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 EP2019053973
(87)【国際公開番号】W WO2019223910
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】18173727.1
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520460845
【氏名又は名称】アムコア・フレキシブルズ・クロイツリンゲン・アーゲー
【氏名又は名称原語表記】AMCOR FLEXIBLES KREUZLINGEN AG
【住所又は居所原語表記】Finkernstrasse 34,8280 Kreuzlingen,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】インゲボルグ・フェルロット
(72)【発明者】
【氏名】トニー・マルフェ
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0051020(US,A1)
【文献】特開2005-254508(JP,A)
【文献】国際公開第2004/080370(WO,A1)
【文献】特開2012-236382(JP,A)
【文献】特開2014-195609(JP,A)
【文献】特開2007-151844(JP,A)
【文献】本間精一,プラスチックの引張特性の見方、考え方,技術レポート,本間技術士事務所,2017年09月25日,p.1-6,https://plastics-japan.com/archives/3021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートシール性の多層包装用フィルムであって、
- ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル及びポリエステル-グリコールコポリマーから成る群から選択される少なくとも1枚のポリマー層を含む支持層と、
- ポリマーブレンドを含む剥離性シール層であって、前記ポリマーブレンドが:
- 少なくとも120℃のガラス転移温度を特徴とする1種又は複数の第一非晶性環状オレフィンポリマーを40~85重量%;
- 120℃未満のガラス転移温度を特徴とする1種又は複数の第二非晶性環状オレフィンポリマーを10~55重量%;及び
- 少なくとも1種の重合モノビニルアレーン及び少なくとも1種の重合非環式オレフィンを含む少なくとも1種のエラストマー性コポリマー0.5~15重量%であって、そのモノビニルアレーン含有量が最大50重量%まであり、20~90に含まれるASTM D2240に従ったShoreA硬度(30秒)を特徴とするエラストマー性コポリマー;
を含む剥離性シール層と、
を含み、
前記ガラス転移温度が、10℃/分の加熱勾配でASTM D3418に従って示差走査熱量測定により測定されるヒートシール性の多層包装用フィルム。
【請求項2】
前記第一非晶性環状オレフィンポリマー及び前記第二非晶性環状オレフィンポリマーが水素化されることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール性多層包装用フィルム。
【請求項3】
前記エラストマー性コポリマーが、スチレン-イソブチレン-スチレンコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマー、スチレン-プロピレン-スチレンコポリマー、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンコポリマー、スチレン-イソプレンコポリマー、スチレン-イソプレン-スチレンコポリマー、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-ブチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー及びスチレン-ブタジエン-スチレンコポリマーから成る群から選択される請求項1又は2に記載のヒートシール性多層包装用フィルム。
【請求項4】
前記エラストマー性コポリマーが、水素化されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のヒートシール性多層包装用フィルム。
【請求項5】
前記剥離性シール層の厚さが、3~100μmの範囲であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のヒートシール性多層包装用フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のヒートシール性多層包装用フィルムと、多層又は単層基材とを含む包装体であって、前記基材が、少なくとも1枚の環状オレフィンポリマー層を含み、前記ポリマー層が、前記基材にヒートシールした前記ヒートシール性多層包装用フィルムの前記剥離性シール層と接する包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィンポリマーを含むシール層を有する多層フィルムに関する。前記多層フィルムは、機械物性、剥離力及び化学的不活性をバランスよく兼ね備えている。本発明は、前記フィルムを含む包装体にも関する。
【背景技術】
【0002】
高分子フィルムは、食品、医薬製品及び保存用消費財の包装をはじめとする、幅広く様々な包装用途に使用されている。それらの用途に応じて、耐薬品性、耐熱性、耐湿性、弾性係数、破断点伸び、破断点引張強度、剥離性及び光学的性質などに関する特性の典型的な組み合わせが、必要となる。
【0003】
特に医薬製品の包装用途においては、内容物の組成が、相当期間にわたって実質的に変化しないことが非常に重要である。
【0004】
組成の変化に関与する原因の一つは、包装用フィルムによって材料が想定外に吸収又は吸着されることである。
【0005】
環状ポリオレフィンで構成される包装材料を使用することにより、このような組成変化を抑えることを実現できる。
【0006】
環状オレフィンポリマーは、米国特許第4,948,856号明細書、米国特許第5,331,057号明細書及び米国特許第5,468,819号明細書をはじめとする多くの特許に、一般的な方法で記載されている。
【0007】
不運にも、環状ポリオレフィンは、固くて脆く、そしてさらにヒートシール性という点で劣る。したがって、環状ポリオレフィンポリマーは、実際の包装が、従来のフィルム厚の環状ポリオレフィンフィルムで処理するのは困難であるので、高浪費のリスク増加を伴う点で、問題となることが多い。
【0008】
環状オレフィンポリマーフィルムに特有の欠点を回避する様々な手法は、多くの特許及び特許出願の主題である。
【0009】
一般的に、これらの手法は、環状オレフィンポリマーをエラストマー性コポリマーなどの衝撃強度改質(コ)ポリマーとブレンドすることに焦点を合わせている。
【0010】
米国特許第5,468,803号明細書は、トルエンでのゲル浸透クロマトグラフィー分析により求めた10,000~200,000の数平均分子量を有する熱可塑性ノルボルネンポリマーを含む透明な熱可塑性ノルボルネンポリマー組成物を開示し、前記ノルボルネンポリマーは、ノルボルネンポリマー中にミクロドメインとして分散された高分子エラストマーの形態で、0.01~10重量%の配合原料を含有する。
【0011】
米国特許出願第2004/0236024号明細書は、寸法安定性、改善された耐衝撃性及び優れた光学的性質の有利なバランスを呈する、環状オレフィン系ポリマー組成物であって、少なくとも1つの環状部分及び少なくとも1つの非環式部分を含む少なくとも1種の環式オレフィン系ポリマーと、少なくとも1つの芳香族ビニル部分及び少なくとも1つの飽和アルケン部分を含む少なくとも1種の非ハロゲン化エラストマー性コポリマーとを含み、前記エラストマー性コポリマーが、14~39重量パーセントの芳香族ビニル含有量を有する環状オレフィン系ポリマー組成物を開示する。
【0012】
米国特許第6,090,888号明細書は、(i)それぞれ1:1のモル比のノルボルネンと非環式オレフィンのコポリマー及び(ii)最大50重量パーセントまでのスチレン含有量を有する有効量のスチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー改質剤から本質的になる組成物ブレンドを開示する。
【0013】
米国特許出願第2011/0256373号明細書は、30℃~200℃の範囲のガラス転移温度を呈する、非晶性環状オレフィンポリマー組成物60重量部~94.5重量部と、熱可塑性エラストマー30~5重量部と、(c)30℃未満のガラス転移温度、125℃未満の結晶融解温度及び40重量%以下の結晶化度を有する、ノルボルネン及びエチレンの部分的に結晶性の環状オレフィンエラストマー10重量部~0.5重量部とを溶融ブレンドして調製される溶融ブレンド樹脂組成物を開示する。
【0014】
米国特許出願第2012/0071605号明細書は、(a)60℃を超えるガラス転移温度(Tg)を有し、40J/g以下の融解熱(ΔHf)を有する30重量%超の環状オレフィンポリマー;(b)0℃未満のガラス転移温度を有する、1~50重量%の非環式オレフィンポリマー改質剤(c)3~3000cStの100℃での動粘度、120以上の粘度指数、0℃以下の流動点及び200℃以上の引火点を有する、0.1~50重量%の非官能化可塑剤を含むブレンドを含むポリマー組成物を開示する。
【0015】
米国特許出願第2015/0259485号明細書は、n1の屈折率及び170℃以上のガラス転移点を有する環状オレフィン樹脂と、n2の屈折率を有する少なくとも1種のスチレン系エラストマーとを含む環状オレフィン樹脂フィルムであって、Δn=|n2-n1|が、0.012以下であり、少なくとも1種のスチレン系エラストマーが、270℃、2.16kgの荷重下で、環状オレフィン樹脂のメルトインデックスよりも小さいメルトインデックスを有する環状オレフィン樹脂フィルムを開示する。耐熱性の透明フィルムは、2種以上のスチレンエラストマーを含有してもよく、環状オレフィン樹脂は、ノルボルネンとエチレンのコポリマーであってよい。
【0016】
フィルムの剛性及び不撓性により、高浪費のリスク増加を伴う環状オレフィンポリマー層を含む多層フィルムの処理中に取り扱いの悪さなどの問題が生じる。
【0017】
不運にも、環状オレフィンポリマーと衝撃強度変性ポリマーのブレンドは、一般的に、環状オレフィンポリマー含有の層にヒートシールする場合に、化学的不活性が低く且つ非常に高い剥離強度を特徴とする層をもたらす結果となる。さらには、これらのブレンドは、剥離の際に、環状オレフィンポリマー含有層の制御できない破断が起因して、密封領域にあらゆる種類の視覚の混乱を伴い、滑らかな開口を得ることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、従来技術の環状オレフィンポリマーシール層の欠点を示さない環状オレフィンポリマー系のシール層を含む多層フィルムを提供することを目的とする。
【0019】
本発明の別の目的は、低下した弾性率及び破断点引張強度を特徴とする環状オレフィンポリマー系のシール層を提供して、薄い厚さのシール層を含む多層フィルムの問題が起こらない製品を可能にすることであり、前記環状オレフィンポリマー系のシール層は、多層フィルムの剥離力を制御して開時に剥離領域を滑らかにし、前記シール層は、満足できる化学的不活性をさらに特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、
- 支持層と、
- ポリマーブレンドを含む剥離性シール層であって、前記ポリマーブレンドが:
- 少なくとも120℃、好ましくは少なくとも130℃のガラス転移温度を特徴とする1種又は複数の第一非晶性環状オレフィンポリマーを40~85重量%、好ましくは45~80重量%;
- 120℃未満、好ましくは110℃未満のガラス転移温度を特徴とする1種又は複数の第二非晶性環状オレフィンポリマーを10~55重量%、好ましくは15~50重量%;及び
- 少なくとも1種の重合モノビニルアレーン及び少なくとも1種の重合非環式オレフィンを含む少なくとも1種のエラストマー性コポリマーであって、そのモノビニルアレーン含有量が最大50重量%までであり、ASTM D2240に従った、20~90となるShoreA硬度(30秒)を特徴とするエラストマー性コポリマーを0.5~15重量%、好ましくは0.5~10重量%、
を含む剥離性シール層と、
を含むヒートシール性の多層包装用フィルムであって、
ガラス転移温度が、10℃/分の加熱勾配でASTM D3418に従って示差走査熱量測定により測定される多層包装用フィルムを開示する。
【0021】
本発明の好ましい実施形態は、以下の1つ又は複数の特徴を開示する:
- 剥離性シール層の第一非晶性環状オレフィンポリマーは、EN ISO527に従った30%以下、好ましくは20%以下の破断点伸びを特徴とする;
- 剥離性シール層の第二非晶性環状オレフィンポリマーは、EN ISO527に従った30%超、好ましくは40%超の破断点伸びを特徴とする;
- 環状オレフィンポリマーは、水素化されている;
- エラストマー性コポリマーは、スチレン-イソブチレン-スチレンコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマー、スチレン-プロピレン-スチレンコポリマー、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンコポリマー、スチレン-イソプレンコポリマー、スチレン-イソプレン-スチレンコポリマー、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-ブチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー及びスチレン-ブタジエン-スチレンコポリマーからなる群から選択される;
- エラストマー性コポリマーは、水素化されている;
- 支持層は、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル-グリコールコポリマー及びエチレン酢酸ビニルから成る群から選択される少なくとも1枚のポリマー層を含む;
- シール層の厚さは、3~100μm、好ましくは5~80μm、より好ましくは7~50μm、最も好ましくは10~30μmとなる;
- シール層は、ASTM D882に従った、65N/mm2以下、好ましくは60N/mm2以下、より好ましくは55N/mm2以下の破断応力を特徴とする;
- シール層は、ASTM D882に従った、2100N/mm2以下、好ましくは2000N/mm2以下の弾性率を特徴とする。
【0022】
本発明は、ヒートシール性の多層包装用フィルムと多層又は単層基材とを含む包装体であって、その基材が、少なくとも1枚の環状オレフィンポリマー層を含み、ポリマー層が、基材にヒートシールしたヒートシール性多層フィルムの剥離性シール層と接している包装体をさらに開示する。
【0023】
本発明の包装体の好ましい実施形態は、1つ又は複数の以下の特徴を開示する:
- ASTM F88に従って測定した剥離強度は、1.0~15.0N/15mm、好ましくは2.0~10.0N/15mmとなる。
- 包装体は、115℃で30分以上、又は121℃で15分以上、又は130℃で10分以上、減菌可能である。
【0024】
本発明は:
- 単層又は多層基材をヒートシール性多層フィルムのヒートシール層と接触させるステップと、
- 200~250℃、好ましくは210~240℃となる温度で、0.2~3秒、好ましくは0.5~2秒となる滞留時間、及び100~500kPa、好ましくは150~250kPaとなる圧力を用いてシールして、ヒートシール包装体を冷却するステップと
を備えるヒートシール包装体を製造する方法をさらに開示する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明によると、ヒートシール性多層フィルムであって、支持層と、第一環状オレフィンポリマー、第二環状オレフィンポリマー及び少なくとも1種のエラストマー性コポリマーを含むポリマーブレンドの剥離性シール層とを含み、前記エラストマー性コポリマーが、少なくとも1種の重合モノビニルアレーン及び少なくとも1種の重合非環式オレフィンを含み、前記剥離性シール層が、多層フィルムの剥離力を制御でき、開時に剥離領域をなめらかにでき、前記剥離性シール層が、満足のいく化学的不活性及び物質に対する耐透過性をさらに特徴とするヒートシール性多層フィルムが提供される。
【0026】
本発明の剥離性シール層は、
- 少なくとも120℃のガラス転移温度及び30%以下の破断点伸びを特徴とする1種又は複数の第一非晶性環状オレフィンポリマーを40~85重量%、好ましくは45~80重量%;
- 120℃未満のガラス転移温度及び30%超の破断点伸びを特徴とする1種又は複数の非晶性環状オレフィンポリマーを10~55重量%、好ましくは15~50重量%;並びに
- 少なくとも1種の重合モノビニルアレーン及び少なくとも1種の重合非環式オレフィンを含む少なくとも1種のエラストマー性コポリマーであって、モノビニルアレーンの含有量が、最大50重量%までであり、ASTM D2240に従った20~90となるShoreA硬度(30秒)を特徴とする少なくとも1種のエラストマー性コポリマーを0.5~15重量%
含むポリマーブレンドを含み、
そのガラス転移温度は、10℃/分の加熱勾配でASTM D3418に従って示差走査熱量測定により測定され、破断点伸びが、EN ISO527に従って引張試験により求められる。
【0027】
本発明の剥離性シール層のポリマーブレンドに使用するのに好適な環状オレフィンポリマーとしては、当技術分野で知られている任意の環状オレフィンモノマーのホモポリマー又はコポリマーが挙げられる。
【0028】
環状オレフィンモノマーは、一般的には、一価又は多価不飽和の多環系、例えば、シクロアルケン、ビシクロアルケン、トリシクロアルケン、テトラシクロアルケン、ペンタシクロアルケン及びヘキサシクロアルケンであり、それらは一置換でも多置換でもよい。
【0029】
好適な環状オレフィンモノマーの非制限の例としては、ビシクロ[2,2,1]ヘプタ-2-エン、5-メチルビシクロ[2,2,1]ヘプタ-2-エン、10-メチルトリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]-4-ヘプタ-デセン及びトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-3,8-ジエンが挙げられる。
【0030】
環状オレフィンポリマーは、1種又は複数の環状オレフィンモノマーの開環メタセシス重合により生成される。
【0031】
本発明の剥離性シール層のポリマーブレンドに使用される環状オレフィンポリマーは、ビシクロ[2,2,1]ヘプタ-2-エン、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン及びトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-3,8-ジエンの水素化ホモポリマー又はコポリマーを含むのが好ましい。
【0032】
環状オレフィンポリマーは、水素化されるのが好ましい。環状ポリオレフィンの分子鎖に残る不飽和結合が、水素化により飽和される場合、水素化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、そして特に好ましくは99%以上である。
【0033】
環状オレフィンポリマーは、溶媒としてトルエンを用い、ポリスチレンに対してゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した、10,000~200,000、好ましくは20,000~100,000、より好ましくは25,000~50,000g/モルとなる数平均分子量を特徴とするのが好ましい。
【0034】
本発明の剥離性シール層のポリマーブレンドに用いるビニル芳香族エラストマー性コポリマーは、芳香族部分が、スチレンのポリマー、α-メチルスチレン、(o-、m-、p-)メチルスチレン又は1,3-ジメチルスチレン、そして好ましくはスチレンのポリマーであり、及びエラストマー性部分が、ブタジエン及び/又はイソプレンの不飽和ポリマー、又はそれらの水素化物、或いはエチレン/ブチレン又はエチレン/プロピレンの飽和オレフィンポリマーである、ブロックポリマーであるのが好ましい。
【0035】
ビニル芳香族エラストマーは、溶媒としてトルエンを用い、ポリスチレンに対してゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した、20,000~500,000、好ましくは30,000~450,000、より好ましくは50,000~400,000g/モルとなる重量平均分子量を特徴とするのが好ましい。
【0036】
ビニル芳香族エラストマーは、水素化されるのが好ましい。ビニル芳香族エラストマーの分子鎖に残る不飽和結合が、水素化により飽和される場合、水素化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、そして特に好ましくは99%以上である。
【0037】
ビニル芳香族エラストマーは、スチレン-イソブチレン-スチレンコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマー、スチレン-プロピレン-スチレンコポリマー、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンコポリマー、水素化スチレン-イソプレンコポリマー、水素化スチレン-イソプレン-スチレンコポリマー、水素化スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、水素化スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、水素化スチレン-ブチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー及び水素化スチレン-ブタジエン-スチレンコポリマーから成る群から選択されるのが好ましい。
【0038】
ビニル芳香族エラストマーは、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマー(SEBS)又はスチレン-エチレン-プロピレン-スチレンコポリマー(SEPS)であるのがより好ましい。
【0039】
ビニル芳香族エラストマーは、最大50重量%までのビニル芳香族含有量、及び20~90、好ましくは30~80となるASTM D2240に従ったShoreA硬度(30秒)を特徴とする。
【0040】
発明者らは、環状オレフィンポリマーとビニル芳香族ポリマーの特定の組み合わせにより、2100N/mm2以下、好ましくは2000N/mm2以下のASTM D882に従った弾性係数、及び65N/mm2以下、好ましくは60N/mm2以下、より好ましくは55N/mm2以下のASTM D882に従った破断応力を特徴とするポリマーブレンドの実現が可能になることを判明している。
【0041】
発明者らは、驚くべきことに、本発明の均質なポリマーブレンドの弾性率と破断応力の両方が、シール層を構成する、第一環状オレフィンポリマー、及び第二環状オレフィンポリマーとビニル芳香族エラストマーとのブレンドのそれぞれの値の寄与率に基づく理論値よりも低いことを判明している、つまり、本発明のシール層と同じ重量分率を掛けた、100%第一環状オレフィンポリマー層の弾性率又は破断応力と、本発明のシール層と同じ重量分率の第二オレフィンポリマーとビニル芳香族エラストマーの重量分率を掛けた、本発明のシール層と同じ比率の第二環状オレフィンポリマーとビニル芳香族ポリマーとの均質ブレンドからなる層の弾性率又は破断応力との合計から算出される理論的弾性率又は破断応力よりも低いことを判明しており、その重量分率は、重量パーセントを100で割った値に等しい。
【0042】
剥離性シール層の厚さは、一般的に3~100μm、好ましくは5~80μm、より好ましくは7~50μm、最も好ましくは10~30μmとなる。
【0043】
本発明のヒートシール性多層フィルムは、支持層を含み、前記支持層は、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリエステル-グリコールコポリマー及びエチレン酢酸ビニルから成る群から選択される少なくとも1枚のポリマー層を含むのが好ましい。
【0044】
支持層は、AlOX又はSiOX-被覆ポリマーフィルムのようなセラミック被覆フィルム、又はアルミ箔のような金属箔を1つ又は複数さらに含んでもよい。
【0045】
本発明による多層フィルムは、公知の方法により製造できる。しかしながら、一般的には、ポリマーの溶融物と最終フィルムの様々な層に必要な添加剤とを共押出して、その後冷却して、ポリマーをフィルムの形態に固体化させることにより、本発明による多層フィルムを製造するのが好ましい。
【0046】
本発明によるフィルムはまた、ヒートシール層を好適な支持層上に共押出被覆することにより製造できる。
【0047】
本発明の多層包装用フィルムの支持層は、通常ポリエチレンテレフタレート層などのポリエステル層を含み、厚さは、5~60μm、好ましくは10~40μmとなり、アルミ箔の厚さは、20~70μm、好ましくは30~60μmとなり、剥離性シール層の厚さは、10~30μm、最も好ましくは15~25μmとなる。
【0048】
本発明のヒートシール性多層フィルムは、前記多層フィルムを基材にヒートシールして剥離性ヒートシール包装体を製造するのに使用され、その基材は、環状オレフィンポリマー基材であり、又はヒートシールする際に剥離性シール層を接触させるための環状オレフィンポリマー層を含む。
【0049】
本発明のヒートシール性多層フィルムは、200~250℃、好ましくは210~240℃となる温度で、0.2~3秒、好ましくは0.5~2秒となる滞留時間、及び100~500kPa、好ましくは150~250kPaとなる圧力を用いて、前記多層フィルムを基材にヒートシールすることにより、剥離性ヒートシール包装体の製造に使用できる。
【0050】
多層フィルムと環状オレフィン含有の基材とから製造される剥離性包装体は、ASTM F88に従って測定した1.0~15.0N/15mm、好ましくは2.0~10.0N/15mmとなる、多層フィルムと基材の分離に対する、剥離強度を示す。剥離強度は、300mm/分の開離速度を用いて、剥離角180°でInstron引張試験機を用いて測定される。
【0051】
発明者らは、驚くべきことに、本発明の包装体の剥離強度が、第一環状オレフィンポリマーのシール層、及び第二環状オレフィンポリマーとビニル芳香族エラストマーとのブレンドからなるシール層であって、その割合が本発明のシール層と同じであるそれぞれのシール層の剥離強度値の寄与率から算出した理論上の剥離強度値よりも低いことを判明している;つまり、本発明のシール層と同じ重量分率を掛けた、100%第一環状オレフィンポリマーのシール層の剥離強度と、本発明のシール層と同じ重量分率の第二オレフィンポリマーとビニル芳香族エラストマーとの重量分率を掛けた、本発明のシール層と同じ比率の第二環状オレフィンポリマーとビニル芳香族ポリマーの均質ブレンドからなるシール層の剥離強度との合計から算出した理論的剥離強度よりも低いことを判明しており、その重量分率は、重量パーセントを100で割った値に等しい。
【0052】
第一環状オレフィンポリマー、第二オレフィンポリマー及びビニル芳香族エラストマーをブレンドすることにより、機械物性(弾性率及び破断点引張強度)、及び包装体を開口する力に対して反共同効果(anti-synergistic effect)がもたらされて、双方の現象が、フィルム厚100μm未満、好ましくは60μm未満、より好ましくは40μm未満の、薄い環状オレフィンポリマー系ヒートシール層の作製を可能し、それにより、ウェブ破断を起こすことなくブロー押出及びキャスト押出ラインで容易に処理でき、同時に剥離力が制御されて、その結果、繊維引裂けも繊維状の異物(angel hairs)も生じることないクリーンな剥離をもたらし、剥離痕が滑らかで、あらゆる種類の視覚の混乱を受けないことを示唆する。
【0053】
基材の環状オレフィンポリマー表面に本発明の多層フィルムをヒートシールして加工処理した包装体は、包装体で包まれた物質を環状オレフィンポリマーマトリックス中に透過させないことが立証されている、つまり、この包装体は、包装材料の内容物が環状オレフィンポリマーと直接接触すると推定する、スカルピング特性がないことが立証されている。
【0054】
物質とは、本発明においては、風味及び香気のある物質、並びに医薬剤又はそれらの一部を意味する。
【0055】
本発明による包装体は、115℃で30分以上殺菌可能であるのが好ましい。別の好ましい実施形態においては、本発明による包装体は、121℃で15分以上殺菌可能である。
【実施例
【0056】
以下の例示的な実施例は、本発明を例示するにすぎず、本発明の範囲を限定することも或いは定義することも目的としない。
【0057】
136℃のガラス転移温度及び16%の破断点伸びを特徴とする第一環状オレフィンポリマーZeonor(登録商標)1430Rと、102℃のガラス転移温度及び90%の破断点伸びを特徴とする第二環状オレフィンポリマーZeonor(登録商標)1020Rと、20重量%のスチレン含有量及び52のShoreA硬度(30秒)を特徴とするビニル芳香族エラストマーKraton(登録商標)G1643Mとを表1に示す重量パーセントで含むポリマーブレンドから剥離性層を調製した。
【0058】
TA Instruments社製のQ200DSCを用いて、ASTM D3418に従って、ガラス転移温度を求めた。1回目の実験において50℃/分の速度で、サンプルを220℃まで加熱し、その後、冷却ステップで、10℃/分で-20℃まで冷却した。第二加熱サイクル中に10℃/分の速度でガラス転移温度を測定した。
【0059】
Chloerenコンバインシステム及び2台の45mmと1台の60mmのEgan-Davis標準押出機を備える3層600mm幅のキャストライン上で、30μmのフィルムを製造した。押出の前に、全てのポリマーを予備乾燥して、空気及び酸素を除去し、フィルムの変色、フィルムにおける炭化物の生成及びフィルム中の空孔を回避した。さらに、N2を押出機のホッパー及び押出供給部に添加した。
【0060】
ASTM D882に従って、高純度なフィルムで弾性率及び破断応力を測定し、表1に示す。試験用のフィルムの寸法は、長さ125mm及び幅15mmであった。クランプの引き速度は、25mm/分であった。250Nのロードセルを適用した。
【0061】
シールする前に、剥離性層をOPET12μm/アルミ箔50μmラミネートに接着剤を介して貼合わせ、多層フィルムを形成した。多層フィルムを多層フィルムにシールした;400N/20cm2圧を用いてKoppシーラーで1秒間、及び1つの加熱したシールバーで、互いの剥離性層を合わせて、それぞれ220℃と230℃の温度で、シーリングを実施した。300mm/分の引張試験機の引き速度で、フィルムを縦方向にシールして、横方向に開口した。15mmのサンプル幅をつけた。ASTM F88に従った剥離強度値を表1に示す。
【0062】
剥離態様を視覚的に評価し、(+)は、剥離表面全体にわたって観察される繊維引裂け及び繊維状の異物(angel hairs)を表す;(++)は、一部の剥離表面に観察される僅かな繊維状の異物を表す;及び(+++)は、完全に無傷の剥離表面を表す。
【0063】
押出したフィルムのサンプルを切断し、10×10cmの寸法を有するパウチ内にシールした。密接シールする前に、22.5cm2のNicoretteTMパッチ25mgをパウチの内側に入れる。パウチをオーブン中に60℃で24時間保管する。パウチを開口した後、パッチと直接接触する22.5cm2フィルムに吸収されたニコチンを4mlのエタノール/ヘキサン(50/50)溶液を含有する管中に入れる。溶液を超音波浴中で30分間撹拌する。炎イオン化検出器(FID)と一体となったGCにより、ニコチン含有量を定量する。FIDは、水素/空気炎を使用し、その中をサンプルが通過する。炎において、ニコチンはさらに酸化されて帯電粒子となる。イオンは回収され、ニコチンの濃度に比例した電気信号を生み出す。
【0064】
シール層に貫入したニコチンのμgにおける量を表1に示す。比較として、同一条件下、同じ寸法の方向づけられたポリプロピレンフィルムのニコチン量は、562μg/22.5cm2に等しい。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1及び5は、比較例である。実施例1のみが、第一高分子環状オレフィンを有し、剥離により繊維状の異物をもたらす。実施例5のみが、第二環状オレフィンポリマー及びエラストマーを使用し、通常の殺菌温度よりも低いガラス転移温度をもたらし、さらに、非常に高い剥離強度値(非常に高い開口力)をもたらす。
【0067】
キー(Key)
1.実施例
2.第一環状オレフィンポリマー(Zeonor(登録商標)1430R)の重量パーセント
3.第二環状オレフィンポリマー(Zeonor(登録商標)1020R)の重量パーセント
4.ビニル芳香族エラストマー(Kraton(登録商標)G1643M)の重量パーセント
5.ASTM D882に従った弾性係数(N/mm2
6.ASTM D882に従った破断応力(N/mm2
7.ASTM F88に従った、220℃のシール温度、N/15mmでの剥離強度
8.ASTM F88に従った、230℃のシール温度、N/15mmでの剥離強度
9.剥離領域の視覚評価
10.ヒートシール層のニコチン吸収量(μg/22.5cm2