(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】ハイブリッド駆動装置用のトランスミッション装置
(51)【国際特許分類】
F16H 3/72 20060101AFI20240325BHJP
F16H 3/62 20060101ALI20240325BHJP
F16H 3/48 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
F16H3/72 A
F16H3/62 A
F16H3/48
(21)【出願番号】P 2021526375
(86)(22)【出願日】2018-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2018085052
(87)【国際公開番号】W WO2020119928
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ハウプト
(72)【発明者】
【氏名】ディアク ギュート
(72)【発明者】
【氏名】マクシミリアン ヴェアクハウゼン
(72)【発明者】
【氏名】テオドア ガースマン
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-078673(JP,A)
【文献】特開2016-150680(JP,A)
【文献】米国特許第05673776(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/72
F16H 3/62
F16H 3/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と電気機械とを備えたハイブリッド駆動装置用のトランスミッション装置であって、
前記内燃機関から導入された回転運動を伝達するための第1のトランスミッションユニット(3)、
前記電気機械から導入された回転運動を伝達するための第2のトランスミッションユニット(4)、
前記第1のトランスミッションユニット(3)に駆動結合された第1の入力部材(6)と、前記第2のトランスミッションユニット(4)に駆動結合された第2の入力部材(7)と、
1つの出力部材(8)とを備えていて、
前記第1の入力部材(6)と前記第2の入力部材(7)と前記出力部材(8)とは互いに回転可能であり、前記第1の入力部材(6)と前記第2の入力部材(7)と前記出力部材(8)との回転運動が、互いに重畳可能であるとともに互いに調整される重畳伝動装置(5)、
前記重畳伝動装置(5)の前記出力部材(8)に駆動結合されたディファレンシャルケース(60)と、第1の駆動軸を駆動する第1のディファレンシャル出力部材(62)と、第2の駆動軸を駆動する第2のディファレンシャル出力部材(63)とを備えたディファレンシャル伝動装置ユニット(9)
を含む、トランスミッション装置において、
制御可能なロック装置(70)が設けられており、該ロック装置(70)は選択的に、前記第1または第2のトランスミッションユニット(3,4)から前記重畳伝動装置(5)に導入された回転運動が、その時々の他方のトランスミッションユニット(3,4)に伝達され得るように前記重畳伝動装置(5)の前記出力部材(8)を
定置の構成部材(21)に対して相対回動不能にロックするか、または前記重畳伝動装置(5)の前記出力部材(8)を
前記定置の構成部材(21)から解放するように形成されていることを特徴とする、トランスミッション装置。
【請求項2】
前記ロック装置(70)は、前記ディファレンシャルケース(60)と、定置の構成部材(21)との間に配置されたクラッチ(71)を有しており、前記ディファレンシャルケース(60)は、前記クラッチ(71)の接続位置では前記定置の構成部材(21)に相対回動不能に結合されており、前記クラッチ(71)の切断位置では前記定置の構成部材(21)から切り離されており、
前記クラッチ(71)は、形状接続クラッチとして形成されており、該形状接続クラッチは、前記ディファレンシャルケース(60)に相対回動不能に結合された第1のクラッチ部材(73)と、前記定置の構成部材(21)に相対回動不能にかつ軸方向に可動に結合された第2のクラッチ部材(74)とを有している、請求項1記載のトランスミッション装置。
【請求項3】
前記クラッチ(71)は、電気液圧式の作動装置(72)により作動可能であり、該電気液圧式の作動装置(72)は、可動のピストン(76)を有しており、該ピストン(76)は、液圧が印加されると前記クラッチ(71)を接続位置に押圧するようになっている、請求項2記載のトランスミッション装置。
【請求項4】
前記重畳伝動装置(5)の前記出力部材(8)は、前記ディファレンシャルケース(60)に固く結合されている、請求項1から3までのいずれか1項記載のトランスミッション装置。
【請求項5】
前記重畳伝動装置(5)の前記入力部材(6,7)のうちの一方と、前記出力部材(8)との間には、制御可能なクラッチユニット(56)が設けられており、
前記クラッチユニット(56)は、形状接続クラッチ(57)を含み、該形状接続クラッチ(57)は、前記重畳伝動装置(5)の前記第1の入力部材(6)に相対回動不能に結合された第1のクラッチ部材(35)と、前記重畳伝動装置(5)の前記出力部材(8)に相対回動不能に結合された第2のクラッチ部材(36)とを備えている、請求項1から4までのいずれか1項記載のトランスミッション装置。
【請求項6】
前記クラッチユニット(56)の作動用に、電気液圧式の作動装置(58)が設けられている、請求項5記載のトランスミッション装置。
【請求項7】
前記第1のトランスミッションユニット(3)は、多段トランスミッションとして形成されており、該多段トランスミッションは、第1のサンギヤ(15)と、第1のリングギヤ(16)と、少なくとも1つの第1のピニオンギヤ(17)と、第1の遊星キャリア(18)とを備えた遊星歯車伝動装置(12)を有している、請求項1から6までのいずれか1項記載のトランスミッション装置。
【請求項8】
前記第1のトランスミッションユニット(3)は、2速トランスミッションとして形成されており、前記遊星キャリア(18)は、前記重畳伝動装置(5)に駆動結合されており、前記リングギヤ(16)と前記サンギヤ(15)との間には、制御可能なクラッチユニット(13)が設けられており、前記制御可能なクラッチユニット(13)には、摩擦クラッチ(22)およびフリーホイールクラッチ(24)が含まれる、請求項7記載のトランスミッション装置。
【請求項9】
前記第1のトランスミッションユニット(3)には、第1のサンギヤ(15)、該第1のサンギヤ(15)に噛み合う第1のピニオンギヤ(17)、第2のサンギヤ(15’)、該第2のサンギヤ(15’)に噛み合う第2のピニオンギヤ(17’)、前記第1および第2のピニオンギヤ(17,17’)を支持する遊星キャリア(18)、ならびに前記第2のピニオンギヤ(17’)と歯列係合するリングギヤ(16)を備えたダブル遊星歯車伝動装置(12)を有する4速トランスミッションが含まれ、
前記ダブル遊星歯車伝動装置(12)の各前記部材(15,15’,16,17,17’,18)のうちの2つの間に第1の制御可能なクラッチユニット(64)が設けられており、前記ダブル遊星歯車伝動装置(12)の各前記部材(15,15’,16,17,17’,18)のうちの1つと、定置の構成部材(21)との間に第2の制御可能なクラッチユニット(65)が設けられている、請求項7記載のトランスミッション装置。
【請求項10】
前記重畳伝動装置(5)の前記第1の入力部材(6)は、前記ディファレンシャルケース(60)に回転可能に支承されており、リングギヤ(51)を有しており
前記重畳伝動装置(5)の前記第2の入力部材(7)は、前記第2のトランスミッションユニット(4)の中空軸(45)に相対回動不能に結合されており、サンギヤ(50)を有しており、
前記第2のトランスミッションユニット(4)は、平歯車伝動装置
または牽引手段伝動装置を有している、請求項1から9までのいずれか1項記載のトランスミッション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電気機械とを備えた自動車のためのハイブリッド駆動装置用のトランスミッション装置に関する。
【0002】
国際公開第2016120066号から、ハイブリッド車の動力伝達系統のための調整可能なトランスミッションを制御する方法が公知である。このハイブリッド動力伝達系統には、内燃機関と、電気機械と、遊星歯車伝動装置を備えた変速装置とが含まれる。遊星歯車伝動装置にはサンギヤとリングギヤとが含まれており、サンギヤとリングギヤとはそれぞれ、制御可能なクラッチを介して内燃機関のエンジンシャフトに結合可能である。第1の遊星歯車伝動装置の遊星キャリアは、平行な軸線上に配置された第2の遊星歯車伝動装置のリングギヤに駆動結合されている。第2の遊星歯車伝動装置には、第2のサンギヤと、第2のピニオンギヤと、第2の遊星キャリアとが含まれており、第2の遊星キャリアは、車軸のディファレンシャル伝動装置に駆動結合されている。電気機械は、第2のサンギヤに駆動結合されている。第2のサンギヤと第2のリングギヤとを互いにロック可能なクラッチが設けられており、これにより、車軸を選択的に、電気機械のみによりまたは内燃機関と共に駆動することができるようになっている。
【0003】
国際公開第2018014983号から公知の、内燃機関と電気機械とを備えたハイブリッド車用のトランスミッション装置では、トランスミッション装置を介して、内燃機関の第1の駆動トルクと、電気機械の第2の駆動トルクとを、ハイブリッド車の少なくとも1つの駆動軸に伝達可能である。トランスミッション装置は、第1のサンギヤと、第1のリングギヤと、第1の遊星キャリアと、第1のピニオンギヤとを備えた第1の遊星歯車伝動装置を有している。第1のリングギヤは内燃機関に駆動結合されており、第1のサンギヤは電気機械に駆動結合されており、第1の遊星キャリアは、出力経路内に後置された第2の遊星歯車伝動装置の第2の遊星キャリアに駆動結合されている。第2の遊星歯車伝動装置は、第2の遊星キャリアに配置されたピニオンギヤに噛み合う2つのサンギヤを有しており、2つのサンギヤのうち一方のサンギヤは、クラッチを介して定置の構成部材に支持され得、他方のサンギヤは、後置されたディファレンシャル伝動装置に駆動結合されている。
【0004】
国際公開第2017207061号から公知の、自動車用の駆動装置は、内燃機関と、多段トランスミッションユニットと、電気機械と、シフト装置を備えた遊星歯車伝動装置ユニットと、ディファレンシャル伝動装置ユニットとを有している。遊星歯車伝動装置ユニットには、電気機械により回転駆動可能な遊星キャリアと、遊星キャリアと共に回る複数のピニオンギヤと、ピニオンギヤに駆動結合された2つのサンギヤとが含まれる。2つのサンギヤのうち一方は、後置されたディファレンシャル伝動装置ユニットに駆動結合されている。他方のサンギヤは、シフト装置を介して複数のシフト状態に移行可能であり、この場合、このサンギヤは、第1のシフト位置では定置の構成部材に回転方向において支持されており、第2のシフト位置ではディファレンシャル伝動装置ユニットに駆動結合されており、第3のシフト位置では自由に回転可能である。
【0005】
国際公開第2012007031号から公知の、自動車用の電気駆動装置には、電動モータと、トランスミッションユニットとが含まれる。トランスミッションユニットは、互いに同軸に配置された遊星歯車伝動装置と、ディファレンシャル伝動装置とを有している。3つのシフト位置、つまり2つの異なるシフト段と1つのアイドリング位置とに移行可能なクラッチが設けられている。
【0006】
内燃機関と電気機械とは、異なる回転数領域および異なる有効範囲を有している。この場合、各駆動装置は、異なる走行条件-例えば車両最高速度に達するまでに各車輪において粘着状態が異なる場合の車輪スリップ状況-において、適切な運転モードを提供することができなければならない。それぞれ異なる特性に基づき、駆動軸を共に駆動する内燃機関と電気機械とを有するハイブリッド車の場合には、各駆動装置が全ての走行状態に対して効率的な運転モードを可能にするわけではない、という問題が生じる。
【0007】
したがって本発明の課題は、自動車を可能な限り効率的に運転するための複数の運転モードを可能にする、内燃機関と電気機械とを備えたハイブリッド駆動装置用のトランスミッション装置を提案することにある。
【0008】
この課題を解決するために提案する、内燃機関と電気機械とを備えたハイブリッド駆動装置用のトランスミッション装置は、内燃機関用の第1のトランスミッションユニット、電気機械用の第2のトランスミッションユニット、第1のトランスミッションユニットに駆動結合された第1の入力部材と、第2のトランスミッションユニットに駆動結合された第2の入力部材と、出力部材とを備え、第1の入力部材と第2の入力部材と出力部材とは互いに調整作用を有しているオーバーライド伝動装置、オーバーライド伝動装置の出力部材に駆動結合されたディファレンシャルケースと、第1の駆動軸を駆動する第1のディファレンシャル出力部材と、第2の駆動軸を駆動する第2のディファレンシャル出力部材とを備えたディファレンシャル伝動装置ユニット、および制御可能なロック装置を含み、ロック装置は選択的に、第1または第2のトランスミッションユニットからオーバーライド伝動装置に導入された回転運動が、その時々の他方のトランスミッションユニットに伝達され得るようにディファレンシャルケースをロックするか、またはディファレンシャルケースを解放するように形成されている。
【0009】
トランスミッション装置の1つの利点は、このトランスミッション装置は、自動車の可能な限り効率的な運転のために複数の運転モードを可能にする、という点にある。特に、必要に応じてディファレンシャルケースをロックすることにより、内燃機関と電気機械との間に直接的な駆動結合を生ぜしめることができる。このことは有利には、内燃機関が電気機械を駆動することができる、ということを可能にするため、電気機械は-特にバッテリーが空の場合には-発電機運転において機械エネルギを電気エネルギに変換し、バッテリーを再充電することができる。逆の運転モードは、内燃機関を駆動するために、電気機械がスタータとして運転され得る、ということを可能にする。この機能を可能にするためには、ディファレンシャルケースが必要に応じてロック装置により相対回動不能に保持される。このようにして、オーバーライド伝動装置の自由度が固定される、すなわち、オーバーライド伝動装置に内燃機関から第1のトランスミッションを介してもしくは電気機械から第2のトランスミッションを介してオーバーライド伝動装置に導入されたトルクが、相対回動不能に保持されたディファレンシャルケースに支持されて、その時々の他方の機械に伝達される。別の利点は、ロック状態では、ディファレンシャルケースに駆動結合された全ての部材が回転方向において支持されている、すなわち相対回動不能に保持されている、という点にある。この場合、ロック装置は接続状態においてパーキングロックとしても働く。
【0010】
トランスミッション装置の個々の部材は、トルクを伝達するために、それぞれ別の部材に駆動結合されている。この場合、回転駆動可能または駆動結合されているという表現にはそれぞれ、出力経路内で駆動部材と、駆動部材により回転駆動される部材との間にはさらに、1つまたは複数の別の部材が中間接続され得るという可能性が一緒に含まれているということにする。例えば、第1のトランスミッションユニットの入力部材とオーバーライド伝動装置との間にはさらに、トルク伝達を最適に生ぜしめるまたは中断することができる、1つまたは複数のクラッチが中間接続されていてよい。
【0011】
ロック装置は、好適にはディファレンシャルケースを選択的にロックするかまたは解放することができるように形成もしくは配置されている。このことには、ディファレンシャルケースに駆動結合された構成部材、特にオーバーライド伝動装置の出力部材も、ロック装置により選択的にロックされ得るかまたは解放され得る可能性も含まれる。相対回動不能の支持は、定置の構成部材、例えばトランスミッションケーシングまたはトランスミッションケーシングに結合された部材に対して行われてよい。解放状態では、ディファレンシャルケースは切り離されており、ディファレンシャルケースに導入された回転運動が、両方の出力軸に伝達されるようになっている。
【0012】
1つの好適な構成では、ロック装置は形状接続クラッチを有しており、この場合、オーバーライド伝動装置の出力部材は、形状接続クラッチの第1のクラッチ位置では相対回動不能に保持されており、第2のクラッチ位置では自由に回転可能である。形状接続クラッチは、定置の構成部材、例えばトランスミッションケーシングのケーシング部分に相対回動不能にかつ軸方向に可動に結合された第1のクラッチ部材と、相対回動不能にディファレンシャルケースに結合された第2のクラッチ部材とを有していてよい。
【0013】
形状接続クラッチを作動させるためには、特に電気液圧式の作動装置が設けられている。この場合、作動装置は、簡単に構成された丈夫なオン・オフ作動手段として形成されていてよい。作動装置は、液圧により可動のピストンを有していてよく、ピストンは、第1のクラッチ部材に結合されており、装置作動時に第1のクラッチ部材を接続方向に押圧する。形状接続クラッチを再び切断するためもしくはピストンを引っ込めるためには、第1のクラッチ部材を第2のクラッチ部材から離れる方向に押圧するように組み込まれた戻しばねが設けられていてよい。ただし、電気機械的または電磁的な装置等の別の作動装置も使用可能である、ということは自明である。
【0014】
1つの可能な構成では、オーバーライド伝動装置の出力部材は、ディファレンシャルケースに固く結合されていてよく、特にディファレンシャルケースと一体に形成されていてよい。ただし、オーバーライド伝動装置の出力部材とディファレンシャルケースとは、別個の部材として製造され、後から互いに結合されてもよい。
【0015】
1つの別の構成では、制御可能なクラッチユニットが、オーバーライド伝動装置の入力部材のうちの一方、すなわち第1または第2の入力部材と、出力部材との間に設けられていてよい。入力部材の一方を出力部材に結合することにより、オーバーライド伝動装置の回転自由度は制限される、すなわち、相対的な回転運動は制動されるもしくは行われなくなる。相対回動不能に結合された状態では、入力部材と出力部材とは互いにロックされており、共通の回転軸線を中心として共に回転する。好適には、クラッチユニットには、オーバーライド伝動装置の入力部材に相対回動不能に結合されたクラッチ入力部材と、出力部材に相対回動不能に結合されたクラッチ出力部材とを備えた形状接続クラッチが含まれる。両クラッチ部材は直接に、または結合部材を介して間接的に、互いに係合状態にまたは互いに係合外にもたらされてよい。
【0016】
クラッチユニットはさらに、特に電気液圧式の作動装置を有しており、この場合は電気機械的または電磁的な装置も使用可能である。1つの構造的に簡単な構成では、作動装置はオン・オフ作動手段として形成されていてよい。作動装置は、液圧により可動のピストンを有していてよく、ピストンは、軸方向に可動のクラッチ部材に結合されており、作動時にこのクラッチ部材を接続方向に押圧する。クラッチを再び切断するためもしくはピストンを引っ込めるためには、戻しばねが設けられていてよい。
【0017】
1つの好適な実施形態では、第1のトランスミッションユニットは、多段トランスミッションとして形成されている。多段トランスミッションは、内燃機関から導入された回転運動を、可能な異なる減速比でもってオーバーライド伝動装置に伝達するように形成されている。例えば、多段トランスミッションは1.8~3.0の変速比を有していてよい。多段トランスミッションは特に、第1のサンギヤと、第1のリングギヤと、少なくとも1つの第1のピニオンギヤと、第1の遊星キャリアとを備えた遊星歯車伝動装置を有していてよい。この場合、サンギヤは、内燃機関の駆動部材に駆動結合され得る一方で、遊星キャリアは、オーバーライド伝動装置に駆動結合され得る。遊星歯車伝動装置とオーバーライド伝動装置との間には、平歯車伝動装置が中間接続されていてよい。
【0018】
第1の可能性において、第1のトランスミッションユニットは、2速トランスミッションとして形成されていてよく、この場合、制御可能なクラッチユニットがリングギヤとサンギヤとの間に配置されており、これにより、第1の変速比または第2の変速比でもって変速を選択的に実現することができるようになっている。制御可能なクラッチユニットには、摩擦クラッチとフリーホイールクラッチとが含まれていてよい。遊星歯車伝動装置のリングギヤは、定置のケーシングに回転可能に支承されていてよく、この場合、フリーホイールクラッチは、リングギヤからケーシングへのトルク伝達を選択的に可能にするかまたは切り離すために設けられている。摩擦クラッチは特に、リングギヤとサンギヤとの間でトルクを伝達するために設けられている。摩擦クラッチを作動させるためには、液圧を相応に調整することにより、伝達可能なトルクを切断位置と接続位置との間で連続的に伝達可能に形成された、電気液圧式の作動ユニットが設けられていてよい。
【0019】
第1の変速段は、摩擦クラッチが切断されている間にフリーホイールクラッチが、リングギヤをケーシングに相対回動不能に結合し、これによりサンギヤがリングギヤに対して回転可能になることにより、実現されている。これにより、サンギヤの回転運動は、サンギヤの周りを回るピニオンギヤを介して遊星キャリアに伝達される。この場合、遊星歯車伝動装置は、回転運動を高速から低速に変速する減速歯車伝動装置として作用する。
【0020】
第2の変速段用に、フリーホイールクラッチは、リングギヤをケーシングから切り離し、これによりリングギヤは回転可能になる。この状態で、トルクは摩擦クラッチを介してサンギヤからリングギヤに伝達され得る。摩擦クラッチが完全に接続された状態では、サンギヤとリングギヤとが共に回転するため、遊星歯車伝動装置はロックされた状態になる。よって、リングギヤもしくはサンギヤの回転運動は、サンギヤの周りを回ることができないピニオンギヤを介して遊星キャリアに伝達される。つまり、サンギヤ、リングギヤおよび遊星キャリアの回転数は同じである。
【0021】
第2の可能性では、第1のトランスミッションユニットは、特にラビニョー型の遊星歯車セットを含んでいてよい4速トランスミッションとして形成されていてよい。ラビニョー型の遊星歯車セットは、第1のサンギヤ、第1のサンギヤに噛み合う第1のピニオンギヤ、第2のサンギヤ、第2のサンギヤに噛み合う第2のピニオンギヤ、第1および第2のピニオンギヤを支持する遊星キャリア、ならびに第2のピニオンギヤと歯列係合するリングギヤを備えたダブル遊星歯車伝動装置である。ラビニョー型の遊星歯車セットの特定の部材の駆動もしくは固定結合もしくはピニオンギヤセット全体のロックにより、様々な変速段が達成される。このためには特に、2つ以上の制御可能なクラッチユニットが設けられていてよい。第1の制御可能なクラッチユニットは、例えば遊星キャリアと、2つのサンギヤのうちの一方との間に設けられていてよく、これにより、前記各部材間のトルク伝達を選択的に可能にするかまたは切り離すことができる。第2の制御可能なクラッチユニットは、例えば他方のサンギヤと定置の構成部材との間に設けられていてよく、これにより、第2のサンギヤと定置の構成部材との間のトルク伝達を選択的に可能にするかまたは切り離すことができ、その結果、第2のサンギヤは自由に回転可能になる。さらにクラッチユニットは、2速トランスミッションに関連して上述したように、フリーホイールクラッチと摩擦クラッチとを備えて、例えば機能的に、第1のトランスミッション駆動部と遊星キャリアとの間に設けられていてよい。ダブル遊星歯車伝動装置の出力は、例えばオーバーライド伝動装置の第1の入力部材に駆動結合されたリングギヤを介して行われてよい。
【0022】
1つの可能な実施形態では、オーバーライド伝動装置の入力部材は、ディファレンシャルケースに回転可能に支承されていてよい。オーバーライド伝動装置は、リングギヤ、サンギヤ、ピニオンギヤおよび遊星キャリアの各部材を備えた遊星歯車伝動装置として形成されていてよい。この場合、第1の入力部材は、例えばリングギヤであってよく、第2の入力部材は、例えば遊星歯車伝動装置のサンギヤであってよく、この場合は逆の対応関係も可能である。オーバーライド伝動装置の第2の入力部材は、1つの実施形態では第2のトランスミッションユニットの中空軸に相対回動不能に結合されていてよく、この場合、中空軸は、ディファレンシャルケースに対して同軸に配置されていてよい。このようにして、ディファレンシャル伝動装置の出力軸が、第2のトランスミッションユニットの中空軸を通って延びることができるようになっている。
【0023】
第2のトランスミッションユニットは、例えば平歯車伝動装置または牽引手段伝動装置として形成されていてよい、もしくは平歯車伝動装置または牽引手段伝動装置を有していてよい。
【0024】
前記課題はさらに、内燃機関と、電気機械と、前記各実施形態のうちの少なくとも1つに基づき形成されたトランスミッション装置とを備えた駆動装置により解決される。トランスミッション装置の第1の駆動部は、内燃機関のエンジンシャフトに結合されている。トランスミッション装置の第2の駆動部は、電気機械のモータ軸に結合されている。電気機械および/または内燃機関の制御は、電子制御ユニット(ECU)が組み込まれた、パルス制御インバータ等のパワーエレクトロニクスにより行われてよい。電気機械への電力供給のために、電気機械はバッテリーに接続され得る。電気機械は、駆動装置のケーシング部分に結合されたステータと、モータ軸に結合されたロータとを有していてよい。
【0025】
電気機械はエネルギを変換し、モータまたは発電機として働くことができる。モータ運転では、電気機械は電気エネルギを機械エネルギに変換し、これにより、自動車の駆動軸が駆動され得る。このことは、内燃機関と共にオーバーライド(重畳)形式で、または単独駆動として行われてよい。発電機運転では、電気機械は機械エネルギを電気エネルギに変換し、次いで電気エネルギをバッテリーに蓄えることができる。機械エネルギは、例えばオーバーライド伝動装置の出力部材が相対回動不能に保持されると内燃機関から導入され得るか、または車軸を制動するために車軸から導入され得、この場合、オーバーライド伝動装置の出力部材もしくはディファレンシャルケースはこのために自由に回転可能でなければならない。自動車の制動エネルギの回収は、回生とも呼ばれる。
【0026】
以下に、好適な実施例を図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】自動車のハイブリッド駆動装置用のトランスミッション装置を、2速トランスミッションを備えた第1の実施形態で示す縦断面図である。
【
図2】自動車のハイブリッド駆動装置用のトランスミッション装置を、4速トランスミッションを備えた第2の実施形態で示す縦断面図である。
【
図3】自動車のハイブリッド駆動装置用のトランスミッション装置を、4速トランスミッションを備えた別の実施形態で示す縦断面図である。
【0028】
図1には、車軸を駆動するための内燃機関と電気機械とを有するハイブリッド車用のトランスミッション装置2が示されている。トランスミッション装置2は、内燃機関からの第1の駆動トルクおよび/または電気機械からの第2の駆動トルクを車両の駆動軸に伝達するように構成されている。このためにトランスミッション装置2は、内燃機関に対応して配置された第1のトランスミッションユニット3、電気機械に対応して配置された第2のトランスミッションユニット4、および第1のトランスミッションユニット3に結合された第1の入力部材6と、第2のトランスミッションユニット4に結合された第2の入力部材7と、出力経路内に後置されたディファレンシャル伝動装置9に結合された出力部材8とを備えたオーバーライド伝動装置5を有している。本実施形態では、第1のトランスミッションユニット3の第1の駆動部10は第1の回転軸線A1上に配置されており、第2のトランスミッションユニット4の第2の駆動部11は第2の回転軸線A2上に配置されており、オーバーライド伝動装置5は第3の回転軸線A3上に配置されている。回転軸線A1,A2,A3は互いに平行に延在しており、この場合は別の構成もしくは配置も可能である。
【0029】
本実施形態では、内燃機関から第1の駆動部10を介して導入された回転運動を、異なる減速比でもってオーバーライド伝動装置5に伝達するために、第1のトランスミッションユニット3は2速トランスミッションとして構成されている。本実施形態では、トランスミッションユニット3には、クラッチユニット13を備えた遊星歯車伝動装置12ならびに出力経路内で遊星歯車伝動装置12とオーバーライド伝動装置5との間に配置された平歯車伝動装置14が含まれる。遊星歯車伝動装置12は、第1の回転軸線A1上にサンギヤ15、サンギヤ15に対して同軸に配置されたリングギヤ16、サンギヤとリングギヤとに係合する複数のピニオンギヤ17、ならびに遊星キャリア18を有しており、遊星キャリア18にはピニオンギヤが回転可能に支承されている。サンギヤ15は、駆動部10に結合されておりひいては内燃機関からの回転運動を伝達するための入力手段として働く。遊星キャリア18は、平歯車伝動装置14の第1の平歯車19と相対回動不能に結合されている。第1の平歯車19は、第2の平歯車20と噛み合っており、第2の平歯車20もやはり、オーバーライド伝動装置5の第1の入力部材6に係合している。つまり遊星歯車伝動装置12と平歯車伝動装置14とは、第1の回転運動をオーバーライド伝動装置5に導入する第1の出力経路を形成している。この場合、平歯車伝動装置14は、第1の回転軸線A1と第3の回転軸線A3との間の軸間隔を架橋している。
【0030】
制御可能なクラッチユニット13は、機能的に、リングギヤ16と駆動部10もしくは駆動部10に結合されたサンギヤ15との間に配置されており、これにより、第1の変速比または第2の変速比を選択的に用いて変速を実現することができるようになっている。本発明では、制御可能なクラッチユニット13には、作動ユニット23を介して作動可能な摩擦クラッチ22と、フリーホイールクラッチ24とが含まれている。リングギヤ16は、軸受手段25,25’を介して、ケーシング21内で回転軸線A1を中心として回転可能に支承されている。フリーホイールクラッチ24は、リングギヤ16を選択的に、ケーシング21に相対回動不能に結合するか、またはケーシング21から解離するように構成されている。
【0031】
摩擦クラッチ22は、第1の駆動部10もしくはサンギヤ15に相対回動不能に結合された第1のクラッチ部材26と、リングギヤ16に相対回動不能に結合された第2のクラッチ部材27との間でトルクを伝達するために設けられている。このために摩擦クラッチ22は、作動ユニット23により軸方向に押圧可能なディスクパック28を有している。ディスクパック28には、第1のクラッチ部材26と相対回動不能にかつ軸方向に可動に結合された第1のディスクおよび第2のクラッチ部材27と相対回動不能にかつ軸方向に可動に結合された第2のディスクとが含まれ、第1のディスクと第2のディスクとは、特に軸方向において交互に配置されている。ディスクパック28は押圧プレート29により押圧可能であり、押圧プレート29は作動装置23により押圧可能である。
【0032】
摩擦クラッチ22用の作動装置23は、本発明では電気液圧式の作動装置として形成されている。このために作動装置はピストン30を有しており、ピストン30は、ケーシング部分32内のシリンダ室31内に収容されており、液圧の印加により可動である。ピストン30は、スラスト軸受34を介して押圧プレート29に作用し、押圧プレート29はディスクパック28を押圧する。ピストン30に液圧が印加されると、摩擦クラッチ22は接続方向に動作させられる。このときに伝達可能な結合トルクは、必要に応じて液圧を相応に制御することにより、完全に接続されたクラッチ位置と、完全に切断されたクラッチ位置との間で可変に調節され得る。このようにして、第1のトランスミッションユニット3もしくはトランスミッション装置2に対する荷重の切替えが可能になる。摩擦クラッチ22を再度切断するためには戻しばねが設けられていてよく、戻しばねは、ピストン30を再び引っ込み位置に押圧し、これによりディスクパック28が再び持ち上げられる。作動装置23は、電動モータおよび/または内燃機関の制御にも使用可能な電子制御ユニット(ECU)を介して制御される。電子制御ユニット用の別の入力値として、電動モータおよび/または内燃機関および/または車輪の回転数が検出され、電子制御ユニットに伝送され得る。
【0033】
第1のトランスミッションユニット3の第1の変速段は、摩擦クラッチ22が切断されている間にフリーホイールクラッチ24が、リングギヤ16をケーシング21に相対回動不能に結合することにより、実現されている。これにより、サンギヤ15はリングギヤ16に対して回転可能になっており、この場合、サンギヤ15の回転運動は、サンギヤ15を中心として回る複数のピニオンギヤ17を介して遊星キャリア18に伝達される。この場合、遊星歯車伝動装置12は、回転運動を、高速から第1の変速比でもって低速に変速する減速歯車伝動装置として作用する。
【0034】
第2の変速段用に、フリーホイールクラッチ24は第2のクラッチ部材27もしくは第2のクラッチ部材27に結合されたリングギヤ16をケーシング21から切り離し、これによりリングギヤ16は自由に回転可能になる。この状態で、トルクは駆動部10から摩擦クラッチ22を介してリングギヤ16に伝達され得る。摩擦クラッチ22が完全に接続された状態では、サンギヤ15とリングギヤ16とが共に回転するため、遊星歯車伝動装置12はロックされている。よって、リングギヤ16もしくはサンギヤ15の回転運動は、サンギヤを中心として回ることができないピニオンギヤ17を介して遊星キャリア18に伝達される。つまり、サンギヤ15、リングギヤ16および遊星キャリア18の回転数は同じであるため、遊星歯車伝動装置の第2の変速比は1である。
【0035】
第2のトランスミッションユニット4は、本実施形態では、電気機械から第2の駆動部11に導入された回転運動を高速から低速に変速する平歯車伝動装置として形成されている。平歯車伝動装置は、第1の駆動ギヤ40と、中間軸41に相対回動不能に結合された中間ギヤ42とを備えた第1の変速段を有しており、第1の駆動ギヤ40と中間ギヤ42とは互いに歯列係合している。第1の駆動ギヤ40と第1の中間ギヤ42とは、第1の変速比を有する第1のギヤセットを形成している。第2の変速段には、中間軸41に結合された第2の中間ギヤ43と、第2の中間ギヤ43と噛み合う第2の駆動ギヤ44とが含まれており、第2の駆動ギヤ44は、中空軸45に固く結合されており、特に中空軸45と一体に形成されている。第2の中間ギヤ43と第2の駆動ギヤ44とは、第2の変速比を有する第2のギヤセットを形成している。
【0036】
第2の駆動部11、中間軸41および中空軸45は、対応する軸受手段46,46’;47,47’,48,48’を介してケーシング21内で互いに平行な回転軸線A2,A5,A3上で回転可能に支承されており、この場合は別の配置も考えられる。中空軸45は、オーバーライド伝動装置5の出力部材8もしくは出力部材8に結合されたディファレンシャルケースに対して同軸に配置されており、そのディファレンシャル側の端部に、オーバーライド伝動装置5の第2の入力部材を支持している。
【0037】
オーバーライド伝動装置5は、本発明では遊星歯車伝動装置として構成されており、遊星歯車伝動装置は、サンギヤ50、サンギヤ50に対して同軸に配置されたリングギヤ51、サンギヤ50とリングギヤ51とに係合する複数のピニオンギヤ52、ならびに遊星キャリア53を有しており、遊星キャリア53にはピニオンギヤ52が回転可能に支承されている。リングギヤ51は、特にねじ手段54を介して第1の入力部材6と固く結合されており、軸受55,55’を介して遊星キャリア53に、回転軸線A3を中心として回転可能に支承されている。サンギヤ50は、オーバーライド伝動装置5の第2の入力部材7を形成している。遊星キャリア53は、オーバーライド伝動装置5の出力部材8を形成しており、出力部材8は、ディファレンシャル伝動装置9のディファレンシャルケースに固く結合されており、特にディファレンシャルケースと一体に形成されている。
【0038】
遊星キャリア53とディファレンシャルケース60とを含むキャリア部材は、サンギヤ50を軸方向において覆っておりかつサンギヤの側方に隣接し、軸受49を介してケーシング21内で回転軸線A3を中心として回転可能に支承されている、ピニオンギヤ側部分33を有している。軸方向において反対の側に、キャリア部材は、別の軸受49’を介してケーシング21内で回転軸線A3を中心として回転可能に支承されたスリーブ状部分59を有している。ピニオンギヤ側部分33は、スリーブ状部分59よりも大きな直径を有しており、これに相応してピニオン側の軸受49も、スリーブ側の軸受49’より大きくなっている。第2の入力部材7は、本発明では限定しないが、オフセットされて形成されている、すなわち、入力部材7の、中空軸45との結合部は、軸方向において歯列部分50に対してずらされている。このようにして、ディファレンシャル伝動装置9とオーバーライド伝動装置5とから成るユニットの、特にコンパクトな構成形式が生じる。
【0039】
ディファレンシャル伝送装置9は、オーバーライド伝動装置5からディファレンシャルケース60に導入された駆動トルクを、自動車の左右のハーフシャフトに均等に伝達するために設けられている。ディファレンシャル伝動装置9には、ディファレンシャルケース60と共に回転軸線A3を中心として回転する複数のディファレンシャルギヤ61、ならびにディファレンシャルギヤ61と歯列係合しておりかつ出力部材62,63として働く2つのハーフシャフトギヤが含まれる。ハーフシャフトギヤは、トルク伝達用の各ハーフシャフト(図示せず)に結合され得、この場合、出力部材63に結合されるべきハーフシャフトは、中空軸45を通って延びている。
【0040】
本発明では、ディファレンシャルケース60もしくはオーバーライド伝動装置5の、ディファレンシャルケース60に結合された出力部材8を選択的にロックまたは解放するために、ロック装置70が設けられている。ロック装置70には、形状接続クラッチ71と作動ユニット72とが含まれる。形状接続クラッチ71は、ディファレンシャルケース60に固く結合された第1のクラッチ部材73と、ケーシングに相対回動不能にかつ軸方向に可動に結合された第2のクラッチ部材74とを有している。
【0041】
作動ユニット72は、本発明では電気液圧式の作動ユニットとして形成されておりかつシリンダ室75内に収容されたピストン76を有しており、ピストン76は、液圧の印加により軸方向に可動である。ピストン76は、第2のクラッチ部材74に作用結合されており、これにより、液圧が印加されると第2のクラッチ部材74を接続方向に押圧することができる。形状接続クラッチ71を再び切断するためもしくはピストン76を引っ込めるためには、ケーシングに支持されており、第2のクラッチ部材74を第1のクラッチ部材73から離れる方向に押圧する戻しばね77が設けられている。
【0042】
ロック装置70により、駆動装置2の拡張運転モードが可能である。形状接続クラッチ71の切断位置では、内燃機関および/または電気機械からオーバーライド伝動装置に導入された回転運動は、ディファレンシャル伝動装置9を介してハーフシャフトに伝達される。形状接続クラッチ71の接続位置では、ディファレンシャルケース60もしくはオーバーライド伝動装置の出力部材8は相対回動不能に位置固定されるため、内燃機関と電気機械との間に直接的な駆動結合が形成される。このようにして、内燃機関が電気機械を駆動すること、または反対に電気機械が内燃機関を駆動することができるようになっている。形状接続クラッチ71の接続状態では、ロック装置はさらに、パーキングロックとして働くことができる。
【0043】
オーバーライド伝動装置5は、別のクラッチ機能をも含んでいる。このためには、第1の入力部材6と出力部材8との間に制御可能なクラッチユニット56が設けられている。第1の入力部材6を出力部材8に結合することにより、オーバーライド伝動装置5の回転自由度は制限される、すなわち、相対的な回転運動は行われなくなる。クラッチ56の接続状態では、オーバーライド伝動装置の各部6,7,8は互いにロックされており、共通の回転軸線A3を中心として共に回転する。クラッチユニット56には、形状接続クラッチ57と、電気液圧式の作動装置58とが含まれる。形状接続クラッチ57は、オーバーライド伝動装置5の第1の入力部材6に相対回動不能にかつ軸方向に可動に結合されたクラッチ入力部材35と、出力部材8もしくはディファレンシャルケース60に相対回動不能に結合された、特にディファレンシャルケース60と一体に形成されたクラッチ出力部材36とを有している。クラッチ入力部材35は、クラッチ出力部材36の対向する係合部分に結合されるために設けられた環状の係合部分、ならびに入力部材6の壁を貫通して案内されておりかつ作動装置58により押圧可能な、全周にわたり配分された複数の作動部分37を有している。
【0044】
作動装置58も、やはり電気液圧式の作動装置として形成されておりかつシリンダ室内に収容されたピストン38を有しており、ピストン38は、液圧の印加により軸方向に可動である。相対回動不能に配置されたピストンと、回転可能なクラッチ入力部材との間には、軸受39が設けられている。ピストン38に液圧が印加されることにより、形状接続クラッチ57が接続方向に押圧される。形状接続クラッチ57を再び切断するためもしくはピストンを引っ込めるためには、第1の入力部材6に支持されておりかつクラッチ入力部材35をクラッチ出力部材36から離れる方向に押圧する戻しばね33が設けられている。
【0045】
形状接続クラッチ57の切断位置では、オーバーライド伝動装置の各部材は互いに自由に回転可能であるのに対し、形状接続クラッチの接続位置では、オーバーライド伝動装置の各部材は互いにロックされており、共に回転する。
【0046】
図2には、本発明によるトランスミッション装置2が別の実施形態で示されている。この実施形態は、構成および機能形式に関して概ね、
図1に示した実施形態に相応するため、共通点については前記説明を参照されたい。この場合、同一のもしくは互いに対応する細部には、
図1の参照符号と同じ参照符号が付されている。
【0047】
相違点は、本実施形態では第1のトランスミッションユニット3が4速トランスミッションとして形成されている、という点にある。このためにトランスミッションユニット3は、ラビニョー型の遊星歯車セット、すなわち、第1のサンギヤ15、第1のサンギヤ15に噛み合う第1のピニオンギヤ17、第2のサンギヤ15’、第2のサンギヤ15’に噛み合う第2のピニオンギヤ17’、第1および第2のピニオンギヤ17,17’を支持する遊星キャリア18、ならびに第2のピニオンギヤ17’と歯列係合するリングギヤ16を備えたダブル遊星歯車伝動装置12を有している。
【0048】
ラビニョー型の遊星歯車セットの特定の部材15,18,15’の駆動もしくは固定結合もしくはピニオンギヤセット17,17’全体のロックにより、様々な変速段が達成される。このためには複数の制御可能なクラッチユニット13,64,65が設けられている。構成および機能形式に関して、
図1に示したものと同様に構成された第1の制御可能なクラッチユニット13は、機能的に、遊星キャリア18と第1の駆動部10との間に配置されている。別の制御可能なクラッチユニット64は、機能的に、第1の駆動部10と第1のサンギヤ15との間に設けられており、これにより、前記各部材間のトルク伝達を選択的に可能にするかまたは切り離すことができる。この第2のクラッチユニット64には特に、形状接続クラッチ66と、この形状接続クラッチを作動させる電気液圧式の作動ユニット67とが含まれる。別の制御可能なクラッチユニット65は、機能的に、第2のサンギヤ15’とケーシング21との間に設けられており、これにより、第2のサンギヤ15’とケーシング21との間のトルク伝達を選択的に可能にするかまたは切り離すことができる。この別のクラッチユニット65には特に、形状接続クラッチ68と、この形状接続クラッチ68を作動させる電気液圧式の作動ユニット69とが含まれる。クラッチ68の切断状態において、第2のサンギヤ15’は自由に回転することができる。クラッチ68の接続状態では、第2のサンギヤ15’は相対回動不能に保持されるため、第2のサンギヤ15’に導入されたトルクが支持されることになる。出力は、例えばリングギヤ16もしくはリングギヤ16に結合された、駆動ギヤを備えた中空軸を介して行われてよく、駆動ギヤは、中間ギヤ20を介して回転運動を、オーバーライド伝動装置5の第1の入力部材6に伝達する。その他のコンポーネントの構成および機能形式は、
図1に示した構成と同様であり、この点において反復を避けるために、
図1の説明を参照されたい。
【0049】
図3には、本発明によるトランスミッション装置2が1つの変化実施形態で示されている。この実施形態は、構成および機能形式に関して概ね、
図2に示した実施形態に相応するため、共通点については前記説明を参照されたい。この場合、同一のもしくは互いに対応する細部には、
図2もしくは
図1の符号と同じ符号が付されている。
【0050】
唯一の相違点は、
図2に示した実施形態において牽引手段駆動装置を含む、第2のトランスミッションユニット4の構成にある。電気機械により駆動可能な、駆動ピニオン40を備えた駆動部11ならびに駆動ピニオン40に噛み合う、中間軸41の中間ギヤ42が設けられている。牽引手段駆動装置には、中間軸41と相対回動不能に結合された駆動ギヤ43と、中空軸45に固く結合された出力ギヤ44と、トルクを駆動ギヤ43から出力ギヤ44に伝達するエンドレス牽引手段46とが含まれる。出力ギヤ44は、駆動ギヤ43よりも大幅に大きな直径を有しており、これによりこの場合も、低速への変速が行われる、ということが認められる。牽引手段駆動装置は牽引手段46として、例えばベルトまたはチェーンを有していてよい。
【0051】
別の変化態様も考えられるということは自明である。例えば
図1に示した2速トランスミッションによる実施形態は、
図3に示したものと同様に牽引手段駆動装置を備えて形成されてもよい。
【0052】
説明した、内燃機関と電気機械とを備えたハイブリッド駆動装置用のトランスミッション装置2は、有利には特に、連続可変トランスミッション(Continuously Variable Transmission, CVT)、2つの駆動装置、すなわち内燃機関と電気機械とを用いた並列駆動装置、リバース駆動装置、内燃機関の引きずり始動(Schleppstart)、荷重無しの切替え、車両停止時の内燃機関によるバッテリー充電の可能性の技術的な特性ならびに車両停止時の電気機械による内燃機関の始動機能を提供する。これにより全体として、このトランスミッション装置は多数の運転モードと同時に、簡単かつコンパクトな構成を統合している。
【符号の説明】
【0053】
2 トランスミッション装置
3 第1のトランスミッションユニット
4 第2のトランスミッションユニット
5 オーバーライド伝動装置
6 第1の入力部材
7 第2の入力部材
8 出力部材
9 ディファレンシャル伝動装置
10 第1の駆動部
11 第2の駆動部
12 遊星歯車伝動装置
13 クラッチユニット
14 平歯車伝動装置
15 サンギヤ
16 リングギヤ
17 ピニオンギヤ
18 遊星キャリア
19 第1の平歯車
20 第2の平歯車
21 ケーシング
22 摩擦クラッチ
23 作動ユニット
24 フリーホイールクラッチ
25 軸受手段
26 第1のクラッチ部材
27 第2のクラッチ部材
28 ディスクパック
29 押圧プレート
30 ピストン
31 シリンダ室
32 ケーシング部分
33 部分
34 スラスト軸受
35 クラッチ入力部材
36 クラッチ出力部材
37 作動部分
38 ピストン
39 軸受
40 第1の駆動ギヤ
41 中間軸
42 第1の中間ギヤ
43 第2の中間ギヤ
44 第2の駆動ギヤ
45 中空軸
46,46’ 軸受
47,47’ 軸受
48,48’ 軸受
49,49’ 軸受
50 サンギヤ
51 リングギヤ
52 ピニオンギヤ
53 遊星キャリア
54 ねじ手段
55,55’ 軸受
56 クラッチユニット
57 形状接続クラッチ
58 作動装置
59 部分
60 ディファレンシャルケース
61 ディファレンシャルギヤ
62 第1の出力部材
63 第2の出力部材
64 第2のクラッチユニット
65 第3のクラッチユニット
66 形状接続クラッチ
67 作動装置
68 形状接続クラッチ
69 作動装置
70 ロック装置
71 形状接続クラッチ
72 作動ユニット
73 第1のクラッチ部材
74 第2のクラッチ部材
75 シリンダ室
76 ピストン
77 戻しばね
A1~A5 回転軸線