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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】吸気同期式の流体投与装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 15/00 20060101AFI20240325BHJP
【FI】
A61M15/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021530832
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 FR2019052837
(87)【国際公開番号】W WO2020109737
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】1872152
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502343252
【氏名又は名称】アプター フランス エスアーエス
【氏名又は名称原語表記】APTAR FRANCE SAS
【住所又は居所原語表記】Lieu-dit Le Prieure,27110 Le Neubourg,France
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ダヴィッド
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5060643(US,A)
【文献】特表2016-534829(JP,A)
【文献】特開2018-94375(JP,A)
【文献】国際公開第2009/029029(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気同期式の流体投与装置であって、
マウスピース(400)を有する本体(10)と、
流体を収容する1以上の流体リザーバー(100)と、
作動のたびに1回分の流体を投与する投与手段(200)と、
前記投与手段(200)に対する阻止手段(500;600)と、
吸気に起因して変形を行う空気室(60)であって、当該空気室(60)が吸気に起因して変形を行う際に、前記投与手段(200)が作動するように、前記阻止手段(500;600)と協働する空気室(60)を有する吸気制御トリガーシステムと、
前記吸気制御トリガーシステムの保護部材(1)と、を備え、
前記阻止手段(500;600)は、前記空気室(60)の外に配置され、
前記保護部材(1)は、前記マウスピース(400)と前記空気室(60)との間であり、前記マウスピース(400)に近い側の端部に設けられた前記空気室(60)の開口を覆うように配設され、
前記保護部材(1)は、空気を通過させる一方、水、埃および異物は通過させない多孔質材料からなる
ことを特徴とする吸気同期式の流体投与装置。
【請求項2】
前記保護部材が開放気孔焼結材料からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の吸気同期式の流体投与装置。
【請求項3】
前記開放気孔焼結材料は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PE)またはその混合物などのポリオレフィン型の材料と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)型の材料との少なくとも一方からなる
ことを特徴とする請求項2に記載の吸気同期式の流体投与装置。
【請求項4】
前記保護部材(1)が抗菌処理されている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の吸気同期式の流体投与装置。
【請求項5】
前記流体リザーバー(100)は、
流体とプロペラントガスとを収容し、
前記本体(10)に対して軸方向にスライドするように搭載され、
前記投与手段(200)は、弁部材(210)を有する計量弁(200)であって、流体を分注して投与するために前記流体リザーバー(100)に組み付けられている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の吸気同期式の流体投与装置。
【請求項6】
前記阻止手段(500)は、前記計量弁(200)を作動させることができない阻止位置と、前記計量弁(200)を作動させることができる作動位置と、の間で移動および変形の少なくとも一方を行う阻止部材(500)と、
前記阻止部材(500)をその阻止位置にロックするロック位置と、前記阻止部材(500)をロックしない解除位置と、の間で移動および変形の少なくとも一方を行うトリガー部材(600)と、を有し、
前記空気室(60)は、前記トリガー部材(600)と協働することによって、当該空気室(60)が変形を行う際に、当該トリガー部材(600)をその解除位置へ移動および変形の少なくとも一方を行って、当該阻止部材(500)をその阻止位置から作動位置へ向かって移動および変形の少なくとも一方を行わせる
ことを特徴とする請求項5に記載の吸気同期式の流体投与装置。
【請求項7】
本体(10)内で待機位置と第1の位置との間で軸方向に移動、特にスライドするアクチュエーター部材(800)と、
前記アクチュエーター部材(800)がその第1の位置へ向かって移動するように、前記流体リザーバー(100)に固定された部材(900;950)と当該流体リザーバー(100)との一方と、前記アクチュエーター部材(800)との間に配設されたバネ部材(850)と、を備え、
前記バネ部材(850)は圧縮されると、前記流体リザーバー(100)に軸方向の力(F)を伝達する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の吸気同期式の流体投与装置。
【請求項8】
前記本体(10)内で待機位置と作動位置との間で揺動および並進の少なくとも一方を行う側方作動型プッシャー(20)を備え、
前記側方作動型プッシャー(20)はその作動位置へ向かって揺動および並進の少なくとも一方を行って、前記アクチュエーター部材(800)をその第1の位置に向かって軸方向に移動させる
ことを特徴とする請求項7に記載の吸気同期式の流体投与装置。
【請求項9】
前記空気室(60)は、変形可能な膜体を有し、
当該膜体は、前記トリガー部材(600)に固定され、吸気中に変形する
ことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の吸気同期式の流体投与装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気同期式の流体投与装置に関し、特に、吸気に同期するエアゾールタイプの流体投与装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気同期式の流体投与装置(BAI: Breath Actuated Inhaler)は、最新技術ではよく知られている。この種の装置の主な利点は、患者の吸気と同期して薬剤を投与することによって、薬剤の気道への適切な投与が保証されることにある。
【0003】
このため、エアロゾルデバイス、すなわち、プロペラントガスによって流体が投与されるデバイスの分野、ならびにユーザーが吸気することによって流体が投与されるドライパウダー投与装置の分野において、多数の種類の吸気同期式デバイスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2017/178764号
【文献】国際公開2016/030521号
【文献】国際公開0224265号
【文献】米国特許第2018228989号明細書
【文献】国際公開9209323号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの装置には、例えば細菌や微生物などによってBAIシステムが汚染されるリスクがある。
【0006】
1つの解決策は、使用のたびにBAIシステムを洗浄することであるが、この解決策には適していない装置が多く、装置内の滞留水も汚染源になり得る。
【0007】
本発明は、上記の欠点を有さない吸気同期式の流体投与装置を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、吸気のたびに効果的な作動を保証することによって操作の信頼性を改善する吸気同期式の流体投与装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、作動のたびに投与される流体の汚染、例えば細菌や微生物のリスクを最小限にする吸気同期式の流投与装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、使用のたびに洗浄できる吸気同期式の流体投与装置を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、製造および組み立てに簡便かつ安価である吸気同期式の流体投与装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本開示の一形態に係る吸気同期式の流体投与装置は、マウスピース(400)を有する本体(10)と、流体を収容する1以上の流体リザーバー(100)と、作動のたびに1回分の流体を投与する投与手段(200)と、前記投与手段(200)に対する阻止手段(500;600)と、吸気に起因して変形および移動の少なくとも一方を行う吸気応答部材(60)であって、当該吸気応答部材(60)が吸気に起因して変形および移動の少なくとも一方を行う際に、前記投与手段(200)が作動するように、前記阻止手段(500;600)と協働する吸気応答部材(60)を有する吸気制御トリガーシステムと、前記吸気制御トリガーシステムの保護部材(1)と、を備え、前記保護部材(1)は、マウスピース(400)と吸気応答部材(60)との間に配設され、前記保護部材(1)は、空気を通過させる一方、水、埃および異物は通過させない多孔質材料からなることを特徴とする。
【0013】
この場合において、前記保護部材は開放気孔焼結材料からなっていてもよい。
【0014】
また、前記開放気孔焼結材料は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PE)またはその混合物などのポリオレフィン型の材料と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)型の材料との少なくとも一方からなっていてもよい。
【0015】
また、前記保護部材(1)が抗菌処理されているのが望ましい。
【0016】
また、前記流体リザーバー(100)は、流体とプロペラントガスとを収容し、前記本体(10)に対して軸方向にスライドするように搭載され、前記投与手段(200)は、弁部材(210)を有する計量弁(200)であって、流体を分注して投与するために前記流体リザーバー(100)に組み付けられていてもよい。
【0017】
この場合において、前記阻止手段(500)は、前記計量弁(200)を作動させることができない阻止位置と、前記計量弁(200)を作動させることができる作動位置と、の間で移動および変形の少なくとも一方を行う阻止部材(500)と、前記阻止部材(500)をその阻止位置にロックするロック位置と、前記阻止部材(500)をロックしない解除位置と、の間で移動および変形の少なくとも一方を行うトリガー部材(600)と、を有し、前記吸気応答部材(60)は、前記トリガー部材(600)と協働することによって、当該吸気応答部材(60)が変形および移動の少なくとも一方を行う際に、当該トリガー部材(600)をその解除位置へ移動および変形の少なくとも一方を行って、当該阻止部材(500)をその阻止位置から作動位置へ向かって移動および変形の少なくとも一方を行わせるのが望ましい。
【0018】
また、本体(10)内で待機位置と第1の位置との間で軸方向に移動、特にスライドするアクチュエーター部材(800)と、前記アクチュエーター部材(800)がその第1の位置へ向かって移動するように、前記流体リザーバー(100)に固定された部材(900;950)と当該流体リザーバー(100)との一方と、前記アクチュエーター部材(800)との間に配設されたバネ部材(850)と、を備え、前記バネ部材(850)は圧縮されると、前記流体リザーバー(100)に軸方向の力(F)を伝達してもよい。
【0019】
この場合において、前記本体(10)内で待機位置と作動位置との間で揺動および並進の少なくとも一方を行う側方作動型プッシャー(20)を備え、前記側方作動型プッシャー(20)はその作動位置へ向かって揺動および並進の少なくとも一方を行って、前記アクチュエーター部材(800)をその第1の位置に向かって軸方向に移動させるのが好適である。
【0020】
また、前記吸気応答部材(60)は、変形可能な空気室をなす変形可能な膜体を有し、当該膜体は、前記トリガー部材(600)に固定され、吸気中に変形してもよい。
【発明の効果】
【0021】
このようにすれば、空気を通過させる一方、水、埃および異物は通過させない多孔質材料からなる保護部材をマウスピースと吸気応答部材との間に配設するので、装置内が細菌や微生物などによって汚染されるのを防止することができ、装置内の滞留水を抑制することができる。
【0022】
これらの特徴および利点は、非限定的な例によって与えられ、以下の詳細な記述からより明確に現れ、以下の図を参照すること。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の有利な一実施形態に係る流体投与装置の待機位置を示す概略断面図である。
図2】本実施の形態に係る流体投与装置の要部を示す分解概略斜視図である。
図3】本実施の形態に係る流体投与装置の一部を切り欠いて要部を示した概略斜視図である。
図4】本実施の形態に係る流体投与装置を示す模式図である。
図5】本開示の別の実施の形態に係る流体投与装置を示す模式図である。
図6】本開示の更に別の実施の形態に係る流体投与装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書において、「上」および「下」という用語は、図1に示したように直立状態の流体投与装置における上下方向を指す。「軸」および「放射状」という用語は、特に指定しない限り、図1に示した弁の垂直中心軸Aに関するものである。また、「近位」および「遠位」という用語は、マウスピースに対する遠近を相対的に表している。
【0025】
図は、本発明の有利な実施の形態を示すが、以下に記載される構成部分の1つ以上を、類似しているかまたは同一の機能を提供しながら、何らかの別の方法で作ってもよいことは言うまでもない。
【0026】
図1~3の実施の形態のみを示し、詳細を以下に記載するが、本発明はこの特定の実施の形態に限定されるものではなく、プロペラントガスの有無にかかわらず、任意の種類の投与装置、および任意の種類のBAIシステムに対して本発明を適用することができる。
【0027】
公知技術と同様に、吸気同期式の流体投与装置は、マウスピース400、流体を含む少なくとも1つの流体リザーバー100を備えた本体10、および作動するたびに所定の用量の流体を投与する投与手段200を備えている。この装置は、阻止手段500、600および吸気制御トリガーシステムを備える。阻止手段500、600は投与手段200を阻止するためのものである。吸気制御トリガーシステムは、吸気応答部材60を備える。吸気応答部材60は、吸気によって変形したり、移動したりする。吸気応答部材60は、吸気によって変形したり、移動したりする際に、遮断手段と協働して、投与手段200を作動させる。
【0028】
本発明において、吸気制御トリガーシステムは、保護部材1を備えている。保護部材1は、マウスピース400と吸気応答部材60との間に配置されている。保護部材1は、多孔質材料からなり、空気を通過させる一方、水、ほこり及び異物の通過を遮断する。
【0029】
保護部材1は、開放気孔焼結材料で作られた膜体であるのが望ましい。開放気孔焼結材料を用いれば、吸気の流れをできるだけ妨げないようにすることができる。このため、吸気に対する抵抗が増大するのを抑制しながら、水の通過を阻止する。
【0030】
保護部材1の材料は、ポリエチレン(PE: Poly Ethylene)、ポリプロピレン(PP: Poly Propylene)またはその混合物などのポリオレフィン型の材料、および/またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE: Poly Tetra Fluoro Ethylene)型の材料を含んでもよい。これらの材料は、疎水性を有し、吸湿性が極めて低い。このため、流体が停滞し難いので、細菌や微生物の発生を抑えることができる。
【0031】
保護部材1には、Dupont de Nemours社のPorexR、またはTyvekRを用いてもよい。より一般的には、非織高密度ポリエチレン(HDPE: High Density Poly Ethylene)繊維から製造される材料であってもよい。この種の材料は、所望の保護を提供することによって、流量を制御しながら空気を通過させることができる。その他の材料としては、多孔度を調整したポリマーからなるマイクロパーフォートフィルターを形成するSabeu Trak-echtR、またはMilliporeR、APシリーズ、ホウケイ酸塩ベースのフィルターおよびアクリルバインダーがある。
【0032】
保護部材1は、抗細菌処理するのが望ましい。
【0033】
図4~6は、本発明が適用され得る様々な装置を非常に模式的な方法で示す。図4は、図1図3を参照して後述される本装置を示しており、呼気FAと流体FPとの両方が流通するの流路上に多孔質の保護部材1が配設されている。
【0034】
図5は、呼気FAは流通するが、流体FPは流通しない流路上に多孔質の保護部材1を配設した本装置を示している。
【0035】
最後に、図6は、ドライパウダー吸入器タイプの本装置を例示しており、呼気FAは流通すが流体FPは流通しない流路上に多孔質の保護部材1が配設されている。
【0036】
いずれにおいても、多孔質の保護部材1は、吸気応答部材60を保護する。この保護によって、多孔質の保護部材1の背後に配置された全ての要素を清潔に保つことができる。特に、細菌および/または微生物の増殖を防止して、清浄化することができる。
【0037】
有利な実施の形態は、以下において、図1~3を参照し、より詳細に記載する。
【0038】
本実施の形態において、本装置は、マウスピース400を備えた本体10を含む。
【0039】
本体10は、一体形成してもよいし、複数の部品を組み立てて作成してもよい。本実施の形態では、本体10は中央部10´、下部10´´及び上部10´´´の3つの部分からなる。これらをまとめた本体に対して、下記では、符号10を割り当てる。
【0040】
マウスピース400は、本装置の使用時にユーザーが吸気する投与用の開口部になっている。マウスピース400は、本体10と一体形成される。図示した実施の形態では、本体下部10´´にマウスピース400が形成されている。着脱可能な保護キャップ(図示省略)がマウスピース400に装着される。保護キャップは、特に、本装置の保管時に装着され、使用時にユーザーによって取り外される。
【0041】
本体10は流体リザーバー100を収容する。流体リザーバー100は、投与すべき流体と、ヒドロフルオロアルカン(HFA: Hydro Fluoro Alkane)等のプロペラントガスとを収容する。流体リザーバー100には、計量弁200が搭載されており、計量弁200は、流体を分注して投与するために用いられる。計量弁200は、弁本体と、弁部材210とを備える。弁部材210は、作動時に、弁本体に対して、言い換えると流体リザーバー100に対して軸方向に移動することができる。計量弁200としては、任意の適切なタイプの計量弁を用いることができる。計量弁200は、固定部材を用いて、流体リザーバー100に固定される。固定部材としては、クリンプ付きキャップを用いるのが好ましく、クリンプ付きキャップと流体リザーバー100との間にネックガスケットを介在させればなお好適である。
【0042】
作動時においては、弁部材210は本体10に対して静止する一方、流体リザーバー100は待機位置である遠位と、作動位置である近位との間を本体10に対して軸方向に移動するのが好ましい。
【0043】
計量弁200の弁部材210の吐出口は流路を経由してマウスピース400に連通している。ユーザーは投与されるべき流体を、マウスピース400を経由して吸入する。公知の方法で、弁部材210は、少なくとも部分的に弁ウェル700に受け容れられる。
【0044】
本装置はリング900を備えている。リング900は固定部材の周りに固定するのが望ましく、例えば、スナップインタブを用いてスナップ留めしてもよい。フープ950はリング900の周りに嵌装され、スナップインタブをスナップ留め位置に保持する。
【0045】
アクチュエーター部材800は流体リザーバー100の周囲に組み付けるのが望ましい。アクチュエーター部材800は、本体10内における流体リザーバー100の周囲に配設される。このため、アクチュエーター部材800の下部と流体リザーバー100との間にバネ850か、またはリング900またはフープ950のような、流体リザーバー100に固定される部材が用いられる。アクチュエーター部材800は軸方向に移動することができる。アクチュエーター部材800は、特に、待機位置と第1の位置との間で流体リザーバー100に対して軸方向に摺動することができる。このため、ユーザーは、アクチュエーター部材800を押圧することによって、計量弁200を作動させることができる。本実施の形態においては、これによって、アクチュエーター部材800を第1の位置へ移動させて、バネ850を圧縮すると、軸方向の力Fが流体リザーバー100に、特にフープ950に伝達する。作動毎に伝達される軸方向の力Fは実質的に同じである。ユーザーがアクチュエーター部材800を押圧し続けると、バネ850が圧縮されて、流体リザーバー100をその作動位置に向けて軸方向に付勢する。
【0046】
側方作動型プッシャー20は、本体10上で回転と並進との少なくとも一方の動作をするように取り付けられているのが望ましい。プッシャー20は、特に図1に示す待機位置から作動位置へ移動する際に、アクチュエーター部材800を軸方向に移動させて、バネ850を圧縮する。
【0047】
プッシャー20は回転と並進との両方の動作ができるのが望ましい。これによって、ユーザーに必要とされる力を低減するとともに、本装置を小型化することができる。ユーザーに必要とされる力を低減することによって、仮にユーザーが流体リザーバー100の下部を軸方向に押圧するようにしたときにユーザーに必要とされる力よりも小さい力で計量弁200を作動させることができるようになる。特に、本実施の形態においては、計量弁200を軸方向に作動させるのに要する力は(バネ850の硬さにもよるが)一般的に40Nから45Nまでの範囲内である一方、側方作動型プッシャー20を作動させるのに要する力は概ね15Nである。本実施の形態によれば、ユーザーに必要とされる力が3分の1まで低減される。この比率は、様々な部品の形状に作用することによって、更に拡大することができる。
【0048】
ユーザーがプッシャー20を押圧し続けている間、バネ850は圧縮され、流体リザーバー100をその作動位置に向けて軸方向に付勢する。
【0049】
作動を終えるたびに、ユーザーがプッシャー20への押圧を緩めると、当然そうなる訳だが、プッシャー20はバネ850の作用により自動的にその待機位置に向かって復帰する。計量弁200が作動した後に、当該計量弁200が作動位置に留まり、その結果、弁室に空気が充填されて、次回の投与が不完全になったり、弁漏れが発生したりするリスクを回避することができる。これは、現在市場に出回っている既存のデバイスが直面する問題の一つである。
【0050】
本装置は阻止部材500を備えている。阻止部材500は阻止位置と作動位置との間で移動可能および/または変形可能である。阻止部材500が阻止位置にある場合には計量弁200が作動できなくなり、阻止部材500が作動位置にある場合には計量弁200は作動することができる。待機位置においては、阻止部材500は阻止位置にあり、ユーザーがマウスピース400を通して吸気すると、阻止部材500は作動位置へ向かって移動および/または変形する。言い換えると、ユーザーが吸気しない限り、計量弁200を作動させることはできず、ユーザーが吸気したときのみ、流体リザーバー100が本体10内を軸方向に移動することによって、計量弁200が作動できるようになる。
【0051】
以下に詳述するように、阻止部材500は、その阻止位置において、流体リザーバー100が本体10内で軸方向に移動するのを阻止する。吸気中、阻止部材500は、移動および/または変形して、流体リザーバー100が本体10内で軸方向に移動するのを阻止しなくなる。このため、吸気後、流体リザーバー100が軸方向に移動すると、計量弁200が作動し、吸気に同期して、1回分の流体が投与される。
【0052】
このように、ユーザーが吸気しなければ、ユーザーが吸気しない間に、偶発的にあるいは不完全に本装置が作動して1回分の流体が失われるおそれはない。したがって、ユーザーが吸気すると同時にプッシャー20を作動させなければ、計量弁200が作動して、1回分の流体が吐出されることはない。これに代えて、次のようにしてもよい。すなわち、ユーザーに直接、流体リザーバーの底を軸方向へ押圧させてもよい。また、ユーザー操作を経ることなく、流体リザーバーを軸方向に押圧する自動作動システムを使用してもよい。この装置は、ユーザーの吸気によって制御されるトリガーシステムを含む。このトリガーシステムは、ユーザーがマウスピース400経由で吸気すると、阻止部材500をその阻止位置からその作動位置へ向かって移動および/または変形させる。
【0053】
トリガーシステムは吸気応答部材60を備えている。吸気応答部材60は吸気の効果によって変形および/または移動することができる。吸気応答部材60は、変形および/または移動することによって、阻止部材600をその阻止位置から作動位置へ向かって移動および/または変形させるにように、構成されている。
【0054】
本発明によれば、吸気応答部材60はマウスピース400が接続される側に、多孔質の保護部材1と共に設けられており、膜体状になっているのが望ましい。
【0055】
以下に詳述するように、吸気応答部材60は変形可能な空気室60、例えば、ベローズや変形可能なパウチの形態であってもよい。
【0056】
吸気制御トリガーシステムは、ユーザーの吸気流の中に配設されるのではなく、特定のチャンバー、特に空気室60によって形成される。この吸気制御トリガーシステムは、吸引流の中で移動したり変形するシャッターを用いて動作するシステムであって、起動後に、ユーザーがシャッターの両側から吸気するシステムとは異なる。この実施の形態においては、システムは負圧下で動作し、ユーザーは変形前の空気室60内からごく少量の空気を吸う。本発明に係るシステムは、したがって、はるかに安定しており、また効果的である。
【0057】
阻止部材500は、本体の軸Bを中心として、阻止位置と作動位置との間を揺動可能に取着されているの望ましい。本実施の形態においては、軸Bは本体10の底面に設けられた突起によって形作られ、阻止部材500は当該突起と相補的な外形を備えることによって、この突起上で揺動することができるようにしてもよい。また、他の実施の形態をとってもよい。
【0058】
阻止部材500は少なくとも1つ、好ましくは2つの阻止伸長部501を有しており、各阻止伸長部501は、阻止位置においては、流体リザーバー100に固定されているリング900の各軸方向突起と協働する。
【0059】
阻止部材500が、特に軸Bを中心として揺動することによって、作動位置に向かって移動すると、各阻止伸長部501がそれぞれリング900の軸方向突起から離れて移動する。特に、阻止部材500は、各阻止伸長部501に隣り合うようにして、軸方向凹部502を有している。軸方向凹部502においては、リング900の各軸方向突起が軸方向にスライドすることができる。これによって、流体リザーバー100が本体10内で軸方向にスライドすることができるようになるので、計量弁200が作動して、1回分の流体が投与される。
【0060】
阻止部材500は、トリガー部材600によって阻止位置に保持される。トリガー部材600は本体10の軸を中心として、ロック位置と解除位置との間で揺動するように搭載されている。トリガー部材600は、ロック位置においては阻止部材500をその阻止位置にロックし、解除位置においては阻止部材500をもはやロックしない。
【0061】
阻止部材500の揺動軸と、トリガー部材600の揺動軸とは並行であるのが望ましい。
【0062】
このように、本発明の阻止システムは2つのステップを有している。第1のステップは、阻止部材500とトリガー部材600とのラッチによって形成され、第2のステップは、阻止部材500と流体リザーバー100とのリング900を経由した阻止によって形成される。
【0063】
この阻止システムによれば、吸気によって発生する小さな力を用いて、大きな力(一般的に40Nから45N)を解除することができる。阻止部材500は、好ましくはユーザーがプッシャー20を経由して、アクチュエーター部材800を押圧することによって、力F(例えば、45N)が加わると、流体リザーバー100の並進移動を停止させる。阻止部材500は、トリガー部材600と協働し、トリガー部材600によって阻止されたり、解除されたりする。トリガー部材600の動作は吸気によって制御される。阻止システムの形状により、通常100倍程度の非常に高い増幅(ロック力/ロック解除力)が可能になる。
【0064】
吸気によって発生するロック解除力は、好ましくはトリガー部材600の揺動軸から離れた位置630で、変形可能な膜体60によってトリガー部材600に作用する。
【0065】
このロック力システムによれば、トリガー部材600を揺動させるのに要する力は非常に小さく、変形可能な膜体60が吸気によって発生する減圧をロック解除力に変換することによって生成することができる
図1に示す実施の形態において、吸気応答部材60は変形可能な空気室の形態になっている。好ましくは、空気室は変形可能な膜体からなり、第1に本体下部10´に接続されており、第2にトリガー部材600に接続されている。好ましくは、吸気応答部材60はベローズの形態になっており、実質的に気密なチェンバーになっている。他の形態も可能であり、特に、単なるパウチやダイヤフラムであってもよい。突起を用いて、吸気応答部材60を吐出口またはトリガー部材600の端部630に固定してもよい。
【0066】
吸気中、吸気応答部材60は吸気によって生じた負圧の効果により変形および/または収縮して、トリガー部材600をそのロック位置から解除位置へ向かって移動させる。これによって、阻止部材500とトリガー部材600との間のラッチを解除することができる。したがって、阻止部材500をその阻止位置から作動位置へ移動させることができる。
【0067】
したがって、吸気の瞬間にだけ計量弁200が作動するので、吸気と同時に投与口から1回分の流体が吐出される。
【0068】
本装置は、阻止位置と非阻止位置との間で移動および/または変形することができる阻止部材980を備えているのが望ましい。この阻止位置では、阻止部材980がトリガー部材600と協働して、トリガー部材600がその解除位置から移動するの防止する。側方作動型プッシャー20は、当該側方作動型プッシャー20が作動位置へ向かって移動する際に、阻止部材980と協働する突起を有しているのが望ましい。この突起は阻止部材980をその非阻止位置に向かって移動および/または変形させる。
【0069】
したがって、ユーザーが流体リザーバー100を軸方向に押圧することなく吸気しても、トリガー部材600が揺動することができないので、ラッチは解除されない。空気室60は実質的に気密であるため、ユーザーはマウスピース400から正しく吸気することができないと直ちに理解する。これによって、吸気する前にまずプッシャー20を作動させる必要があることをユーザーに思い出させることができる。ユーザーがプッシャー20を押圧すると、阻止部材980がその非阻止位置へ移動する。したがって、吸気によってトリガー部材600が揺動すると、本装置が作動するのは上述の通りである。
【0070】
阻止部材980はねじりバネのような弾性部材(図示せず)を有するのが望ましい。弾性部材を用いれば、弾性復元力によって阻止部材980をその阻止位置に向かって付勢することができるので、ユーザーがプッシャー20への押圧を解除したときに、阻止部材980を自動的にその阻止位置へ復帰させることができる。また、これに併せて、適当な可撓性ブレード等により、トリガー部材600をそのロック位置へ復帰させれば好適である。
【0071】
ユーザーが本装置を使用するときは、マウスピース400を口に咥えて、手でプッシャー20を軸方向に押圧する。流体リザーバー100は、阻止部材500の阻止伸長部501がリング900n突起を軸方向に阻止することによって、本体10内を軸方向に摺動しないように阻止される。同時に、阻止部材980が移動すると、トリガー部材600の阻止が解除される。
【0072】
ユーザーがマウスピース400から吸気すると、吸気応答部材60が変形するので、変形可能な膜体60に固定されているトリガー部材600が揺動する。トリガー部材600が揺動すると、トリガー部材600と阻止部材500とのラッチが解除される。流体リザーバー100が軸方向の力Fを伝達すると、阻止部材500が揺動し、その投与位置に向かって本体10内を軸方向にスライドするので、計量弁200が作動する。
【0073】
吸気が終わって、ユーザーが流体リザーバー100の底を押圧するのを止めると、特にプッシャー20を押圧するのを止めると、計量弁200のバネが復元することによって、流体リザーバー100が本体10内をその待機位置に向かって軸方向に上昇すると同時に、計量弁200の弁部材210がその待機位置に戻り、弁室に次の投与分の流体が充填される。トリガー部材600は、特に膜体60および/または阻止部材980の可撓性ブレードの弾性によって、その初期位置に復帰する。阻止部材500は、阻止部材980の再充填伸長部を介して、その阻止位置へ戻る。
【0074】
このようにして、本装置が再び使用できるようになる。
【0075】
本装置は電子式の投与カウンターを備えていてもよく、投与カウンターは本体又はプッシャーに組み込みのが望ましい。また、投与カウンターは流体リザーバーの動作を検出してもよい。これに代えて、例えば、弁ウェルのように、投与すべき流体量を検出する膜センサーのようなセンサーに投与カウンターを接続してもよい。また、投与カウンターは他の方法で作動してもよい。例えば、計量弁本体に対する計量弁の弁部材の動作を検出することによって、投与カウンターを作動させてもよい。
【0076】
本発明は、特に、下記のタイプの製剤や、これらの製剤の任意の組み合わせを用いて、喘息発作や慢性閉塞性肺疾患(COPD: Chronic Obstructive Pulmonary Disease)を治療する際に適用することができる:サルブタモール(salbutamol)、アクリジニウム(aclidinium)、ホルモテロール(formoterol)、チオトロピウム(tiotropium)、ブデソニド(budesonide)、フルチカゾン(fluticasone)、インダカテロール(indacaterol)、グリコピロニウム(glycopyrronium)、サルメテロール(salmeterol)、臭化ウメクリジニウム(umeclidinium bromide)、ビランテロール(vilanterol)、オロダテロール(olodaterol)、およびストリベルディ(striverdi)。
【0077】
本発明は、上記の実施の形態ならびに変形に限定されないのは言うまでもなく、これらを当業者が任意に改変することによっても、関連するクレームによって規定されるように、本発明の範疇を超えることなく、適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本開示に係る吸気同期式の流体投与装置は、吸気に同期するエアゾールタイプの流体投与装置として有用である。
【符号の説明】
【0079】
1………保護部材
20……プッシャー
60……吸気応答部材
100…流体リザーバー
200…計量弁(投与手段)
210…弁部材
400…マウスピース
500…阻止部材(阻止手段を構成する)
600…トリガー部材(阻止手段を構成する)
800…アクチュエーター部材
850…バネ
900…リング
950…フープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6