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特許7459107樹脂組成物、成形品および樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形品および樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20240325BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K3/22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021533860
(86)(22)【出願日】2020-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2020023344
(87)【国際公開番号】W WO2021014818
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019135885
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】523168917
【氏名又は名称】グローバルポリアセタール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】岡元 章人
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-283451(JP,A)
【文献】特表2014-509342(JP,A)
【文献】特表2018-502082(JP,A)
【文献】特開2016-029123(JP,A)
【文献】特表2021-519381(JP,A)
【文献】特開2001-205565(JP,A)
【文献】特開平04-219140(JP,A)
【文献】特開2012-153749(JP,A)
【文献】特開2014-037467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08K 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂と酸化セリウムを含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物中のランタンの含有量が0質量ppm超40質量ppm以下であり、
前記酸化セリウム中のICP発光分析法で測定したランタンの含有量が0.02~0.4質量%であり、
前記酸化セリウムの含有量は、樹脂組成物中、0.01~5質量%である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物を、ASTM D638規格に基づく4号片1.5mm厚さの試験片に成形し、85℃で相対湿度85%の条件下に、1000時間置いた後の、ASTM D638に従った引張強さの保持率が55%以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、無機充填剤を25~60質量%含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物中の銅化合物の含有量が0.01質量%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された部材と、前記部材に接している熱可塑性樹脂部材を有する成形品。
【請求項8】
ポリアミド樹脂に、酸化セリウムを配合して、溶融混練することを含む樹脂組成物の製造方法であって、前記酸化セリウム中のICP発光分析法で測定したランタンの含有量が0.02~0.4質量%である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂組成物が、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物である、請求項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形品および樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂の用途の1つとして、高温高湿下で用いられる部品が知られている。高温高湿下で用いられる部品にポリアミド樹脂を用いる場合、熱酸化による損傷を抑制する必要がある。具体的には、高温高湿下に置いた後も、機械的強度の低下を抑制する必要がある。このような、機械的強度の耐熱老化性を向上させる手段として、例えば、特許文献1には、ポリアミド樹脂に、ヨウ化銅等の銅化合物を熱安定剤として配合することが記載されている。また、特許文献1には、「セリウム含有及び/又はランタン含有化合物及び特に好ましくはセリウムテトラヒドロキシド及び/又はランタントリヒドロキシドである前記無機ラジカル捕捉剤に加えて、一価又は二価の銅化合物が熱安定化のために含まれる。驚くべきことに、強い相乗効果が明らかにされ、これは、前記組み合わせが両方の金属の反応性を増加し、それにより熱安定剤としてのその活性を増加するという事実に起因すると推定される。」との記載もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2016-529364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、銅化合物は熱安定剤として用いることが知られている。しかしながら、ポリアミド樹脂に銅化合物を配合した場合、高温高湿下に置いた後の機械的強度の低下は抑制できるものの、色移りが生じてしまう場合があることが分かった。そこで、銅化合物を配合しなくても、色移りが抑制できるポリアミド樹脂組成物が求められる。
本発明は上記課題を解決することを目的とするものであって、高温高湿下に置いた後でも、機械的強度の低下を効果的に抑制でき、かつ、色移りを抑制できる樹脂組成物、前記樹脂組成物を用いた成形品および樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、下記手段<1>により、好ましくは<2>~<11>により、上記課題は解決された。
<1>ポリアミド樹脂と酸化セリウムを含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物中のランタンの含有量が0質量ppm超40質量ppm以下である、樹脂組成物。
<2>ICP発光分析法で測定したランタンの含有量が0質量%超1質量%以下である酸化セリウムを含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記酸化セリウムの含有量は、樹脂組成物中、0.01~5質量%である、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記樹脂組成物を、ASTM規格D638に基づく4号片1.5mm厚さの試験片に成形し、85℃で相対湿度85%の条件下に、1000時間置いた後の、ASTM D638に従った引張強さの保持率が55%以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>さらに、無機充填剤を25~60質量%含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記樹脂組成物中の銅化合物の含有量が0.01質量%以下である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<9><1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された部材と、前記部材に接している熱可塑性樹脂部材を有する成形品。
<10>ポリアミド樹脂に、酸化セリウムを配合して、溶融混練することを含む樹脂組成物の製造方法であって、前記酸化セリウム中のICP発光分析法で測定したランタンの含有量が0質量%超1質量%以下である、樹脂組成物の製造方法。
<11>前記樹脂組成物が、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物である、<10>に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、高温高湿下に置いた後でも、機械的強度の低下を効果的に抑制でき、かつ、色移りを抑制できる樹脂組成物、前記樹脂組成物を用いた成形品および樹脂組成物の製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
なお、本明細書において、ppmは、質量ppmを意味する。
【0008】
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と酸化セリウムを含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物中のランタンの含有量が0質量ppm超40質量ppm以下であることを特徴とする。このような構成とすることにより、高温高湿下に置いた後でも、機械的強度の低下を効果的に抑制でき、かつ、色移りを抑制できる樹脂組成物が得られる。
上述のとおり、酸化セリウム等のセリウム含有化合物は、銅化合物と併用すると熱安定剤として強い相乗効果を示すことが知られている。しかしながら、酸化セリウムを単独で使用した場合については、検討されていない。そして、本発明者が検討を行ったところ、樹脂組成物が所定量のランタンを含むことにより、酸化セリウムを単独で用いても、高温高湿下に置いた後の機械的強度の低下を効果的に抑制でき、かつ、色移りも抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
以下、本発明の詳細について説明する。
【0009】
<樹脂組成物中のランタンの含有量>
本発明の樹脂組成物は、ランタンの含有量が0質量ppm超40質量ppm以下である。このように、微量のランタンを含むことにより、高温高湿下に置いた後も、色移りを効果的に抑制することができる。また、40質量ppm以下とすることにより、高温高湿下に置いた後の引張強さを高く保持できる。
前記樹脂組成物中のランタンの含有量は、下限値が、0.01質量ppm以上であることが好ましく、0.05質量ppm以上であることがより好ましく、0.1質量ppm以上であることがさらに好ましく、0.5質量ppm以上であることが一層好ましく、0.8質量ppm以上であることがより一層好ましい。
また、前記樹脂組成物中のランタンの含有量は、上限値が、30質量ppm以下であることが好ましく、25質量ppm以下であることがさらに好ましく、20質量ppm以下であることが一層好ましく、15質量ppm以下であることがより一層好ましく、12質量ppm以下であることがさらに一層好ましい。
ランタンの含有量は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0010】
本発明の樹脂組成物では、通常は、ランタンは、酸化セリウムに含まれるランタンによって、配合される。
【0011】
<ポリアミド樹脂>
本発明で用いるポリアミド樹脂はその種類等は特に定めるものではなく、公知のポリアミド樹脂を用いることができ、脂肪族ポリアミド樹脂および半芳香族ポリアミド樹脂の少なくとも1種を含むことが好ましく、半芳香族ポリアミド樹脂の少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0012】
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6/66、ポリアミド610、ポリアミド612等が例示され、ポリアミド6、ポリアミド66およびポリアミド6/66からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリアミド66を含むことがより好ましい。
半芳香族ポリアミド樹脂は、全構成単位の30~70モル%(好ましくは40~60モル%)が芳香族を含むポリアミド樹脂をいい、好ましくは、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が芳香族を含有するジアミンに由来するポリアミド樹脂である。
【0013】
半芳香族ポリアミド樹脂の具体例としては、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミド6I)、ポリアミド66/6T、ポリアミド9T、ポリアミド9MT、ポリアミド6I/6T、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂が例示され、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂がより好ましい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂とは、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂である。
【0014】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂において、ジアミン由来の構成単位は、その70モル%以上がキシリレンジアミンに由来するが、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、99モル%以上であることが一層好ましい。
【0015】
キシリレンジアミンは、30~100モル%のメタキシリレンジアミンと、70~0モル%のパラキシリレンジアミン(ただし、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が100モル%を超えることはない)を含むことが好ましく、50~100モル%のメタキシリレンジアミンと、50~0モル%のパラキシリレンジアミンを含むことがより好ましく、60~100モル%のメタキシリレンジアミンと、40~0モル%のパラキシリレンジアミンを含むことがさらに好ましく、60~90モル%のメタキシリレンジアミンと、40~10モル%のパラキシリレンジアミンを含むことが一層好ましい。また、キシリレンジアミンにおいて、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が95モル%以上を占めることが好ましく、99モル%以上を占めることがさらに好ましく、100モル%であることが一層好ましい。
【0016】
キシリレンジアミン以外のジアミン成分としては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0017】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂において、ジカルボン酸由来の構成単位は、その70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するが、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、99モル%以上であることが一層好ましい。
【0018】
炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸成分としては、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,12-ドデカン二酸が例示され、アジピン酸およびセバシン酸から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0019】
また、上記ジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0020】
本発明の樹脂組成物におけるポリアミド樹脂の含有量は、樹脂組成物が無機充填剤を含まない場合、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましい。本発明の樹脂組成物が無機充填剤を含む場合、ポリアミド樹脂と無機充填剤の合計含有量が樹脂組成物の80質量%以上を占めることが好ましく、85質量%以上を占めることがより好ましく、90質量%以上を占めることがより好ましく、95質量%以上を占めることがさらに好ましい。
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0021】
<酸化セリウム>
本発明の樹脂組成物は、酸化セリウムを含む。酸化セリウムを含むことにより、高温湿熱下に置いた後も、他部材(特に、他の熱可塑性樹脂部材)への色移りを効果的に抑制できる。さらに、酸化セリウムはモース硬度が比較的低めであるため、ガラス繊維等の無機充填剤にダメージを与えにくくすることができる。
本発明における酸化セリウムは、純度が90質量%以上の酸化セリウムをいう。すなわち、酸化セリウムには、不純物が含まれていてもよい。本発明の酸化セリウムは、ICP発光分析法で測定したランタンの含有量が0質量%超1質量%以下の酸化セリウムであることが好ましく、ICP発光分析法で測定したランタンの含有量が0.01~0.7質量%の酸化セリウムであることがより好ましく、ICP発光分析法で測定したランタンの含有量が0.02~0.4質量%の酸化セリウムであることがさらに好ましく、ICP発光分析法で測定したランタンの含有量0.05~0.2質量%の酸化セリウムであることが一層好ましい。
このように、ランタンを微量な割合で含む酸化セリウムを用いることにより、樹脂組成物に容易に所望量のランタンを配合することができる。
【0022】
本発明における酸化セリウムは、セリウムの含有量が、73質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、77質量%以上であることがさらに好ましい。また、前記酸化セリウムの含有量の上限は、85質量%以下であることが好ましく、83質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明で用いる酸化セリウムのメジアン径(レーザー回折散乱法による粒度)は、3μm以下であることが好ましい。下限は、例えば、0.1μm以上である。
上記メジアン径の酸化セリウムを用いることにより、よりガラス繊維等の無機充填剤へのダメージを与えにくくでき、より機械的強度に優れた樹脂組成物が得られる。
【0024】
本発明の樹脂組成物における酸化セリウムの含有量は、樹脂組成物中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。また、上限値としては、5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがさらに好ましく、3質量%以下であることが一層好ましく、2質量%以下であることがより一層好ましい。
【0025】
<銅化合物>
本発明の樹脂組成物は、銅化合物を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
銅化合物の例には、ハロゲン化銅が例示される。
本発明の樹脂組成物の一実施形態として、樹脂組成物中の銅化合物の含有量が0.01質量%以下である樹脂組成物が挙げられる。本実施形態において、前記銅化合物の含有量は、0.001質量%以下であることがより好ましく、検出限界以下であることがさらに好ましい。樹脂組成物中の銅化合物の含有量は、蛍光X線分析で検出するものとする。
【0026】
<無機充填剤>
本発明の樹脂組成物は、無機充填剤を含んでいてもよい。無機充填剤を含むことにより、高い機械的強度を達成できる。尚、本実施形態における無機充填剤には後述する酸化セリウム、核剤に相当するものは含まないものとする。
無機充填剤は、ガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維等の繊維状の無機充填剤を用いることができる。また、炭酸カルシウム、酸化チタン、長石系鉱物、クレー、ガラスビーズ等の粒状または無定形の充填剤;ガラスフレーク、グラファイト等の鱗片状の充填剤を用いることもできる。中でも、機械的強度、剛性および耐熱性の点から、繊維状の充填剤、特にはガラス繊維を用いるのが好ましい。
ガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス、Sガラス、Dガラス、Mガラス、Rガラスなどのガラス組成からなり、特に、Eガラス(無アルカリガラス)がポリアミド樹脂に悪影響を及ぼさないので好ましい。
ガラス繊維とは、長さ方向に直角に切断した断面形状が真円状、多角形状で繊維状外観を呈するものをいう。
【0027】
本発明の樹脂組成物に用いるガラス繊維は、単繊維または単繊維を複数本撚り合わせたものであってもよい。
ガラス繊維の形態は、単繊維や複数本撚り合わせたものを連続的に巻き取った「ガラスロービング」、長さ1~10mmに切りそろえた「チョップドストランド」、長さ10~500μmに粉砕した「ミルドファイバー」などのいずれであってもよい。かかるガラス繊維としては、旭ファイバーグラス社より、「グラスロンチョップドストランド」や「グラスロンミルドファイバー」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。ガラス繊維は、形態が異なるものを併用することもできる。
【0028】
また、本発明ではガラス繊維として、異形断面形状を有するものも好ましい。この異形断面形状とは、繊維の長さ方向に直角な断面の長径をD2、短径をD1とするときの長径/短径比(D2/D1)で示される扁平率が、例えば、1.5~10であり、中でも2.5~10、更には2.5~8、特に2.5~5であることが好ましい。かかる扁平ガラスについては、特開2011-195820号公報の段落番号0065~0072の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0029】
本発明の樹脂組成物における無機充填剤の配合量は、ポリアミド樹脂組成物の25質量%以上であることが好ましく、28質量%以上であることがより好ましい。上限値については、特に定めるものでは無いが、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下であってもよい。本発明の樹脂組成物は、無機充填剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となる。
【0030】
<核剤>
本発明の樹脂組成物は、結晶化速度を調整するために、核剤を含んでいてもよい。核剤の種類は、特に、限定されるものではないが、タルク、窒化ホウ素、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、炭酸水素カリウム(KHCO)、硫酸バリウム、窒化珪素、チタン酸カリウムおよび二硫化モリブデンが好ましく、タルクおよび窒化ホウ素がより好ましく、タルクがさらに好ましい。
本発明の樹脂組成物が核剤を含む場合、その含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.01~10質量部であることが好ましく、0.1~8質量部がより好ましく、0.1~6質量部がさらに好ましい。
本発明の樹脂組成物は、核剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0031】
<離型剤>
本発明の樹脂組成物は、離型剤を含んでいてもよい。
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、脂肪族カルボン酸アミド、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
離型剤の詳細は、特開2017-115093号公報の段落0034~0039の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0032】
本発明の樹脂組成物が離型剤を含む場合、その含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.05~1質量部であることが好ましく、0.1~0.8質量部がより好ましく、0.2~0.6質量部がさらに好ましい。
本発明の樹脂組成物は、離型剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0033】
<他の成分>
本発明の樹脂組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような添加剤としては、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。これらの成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明の樹脂組成物は、各成分の合計が100質量%となるように、ポリアミド樹脂と酸化セリウムと、必要に応じて配合される他の成分の含有量が調整される。
【0034】
<樹脂組成物の物性>
本発明においては、本発明の樹脂組成物を、ASTM D638規格に基づく4号片1.5mm厚さの試験片に成形し、85℃で相対湿度85%の条件下に、1000時間置いた後の、ASTM D638規格に従った引張強さの保持率が55%以上であることが好ましく、57%以上であることがより好ましく、58%以上であることがさらに好ましい。上限は100%が理想であるが、80%以下、さらには、70%以下が実際的である。
【0035】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、上述した必須成分および必要に応じ上述した任意の成分を含有させてなる。そしてその製造方法は任意であり、従来公知の任意の、樹脂組成物の製造方法を使用し、これらの原料を混合・混練すればよい。
【0036】
混練機は、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機等が例示される。混合・混練の各種条件や装置についても、特に制限はなく、従来公知の任意の条件から適宜選択して決定すればよい。混練はポリアミド樹脂が溶融する温度以上で行うことが好ましい。
具体的な製造方法としては、ポリアミド樹脂に、酸化セリウムを配合して、溶融混練することを含む樹脂組成物の製造方法であって、前記酸化セリウム中のICP発光分析法で測定したランタンの含有量が0質量%超1質量%以下である樹脂組成物の製造方法が例示される。
【0037】
<成形品>
本発明の成形品は、本発明の樹脂組成物から形成される。
また、本発明の樹脂組成物をペレタイズして得られたペレットは、各種の成形法で成形して成形品とされる。また、ペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂組成物を直接、成形して成形品にすることもできる。
成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状、キャップ状のもの等が挙げられる。本発明の成形品は、完成品であってもよいし、部品や部材であってもよい。
【0038】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
【0039】
特に、本発明の成形品は、耐湿熱性を有することから、高温高湿下で用いられる用途に好ましく用いられる。さらに、本発明の樹脂組成物は、他の樹脂部材への色移りを効果的に抑制できることから、本発明の樹脂組成物から形成された部材と、前記部材に接している熱可塑性樹脂部材を有する成形品に好ましく用いられる。ここでの「接している」とは、部材同士の少なくとも一部が接していることをいい、1cm以上の面積で接していることが好ましい。接している面積の上限は特に定めるものではないが、通常、部材の表面積の50%以下である。
また、本発明の樹脂組成物に光透過性色素を配合することにより、レーザー溶着用の光を透過する側の樹脂組成物(光透過性樹脂組成物)として用いることができる。一方、本発明の樹脂組成物に光吸収性色素を配合することにより、レーザー溶着用の光を吸収する側の樹脂組成物(光吸収性樹脂組成物)として用いることもできる。さらに、前記光透過性樹脂組成物と光吸収性樹脂組成物を用いて、レーザー溶着した成形品とすることもできる。レーザー溶着の詳細は、国際公開第2017/110372号の記載、特に、段落0031および段落0043~0048の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0040】
本発明の成形品は、種々の用途、例えば、各種保存容器、電気・電子機器部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両機構部品などに適用できる。特に、食品用容器、薬品用容器、油脂製品容器、車両用中空部品(各種タンク、インテークマニホールド部品、カメラ筐体など)、車両用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、ブレーカー部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。
【実施例
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0042】
[原料]
MP10:下記合成例に従って合成した。
MP6:下記合成例に従って合成した。
PA66:ポリアミド66、ソルベイ社製、STAVAMID26AE1K
【0043】
<MP10の合成例(M/P比=7:3)>
セバシン酸を窒素雰囲気下の反応缶内で加熱溶解した後、内容物を撹拌しながら、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンのモル比が7:3の混合ジアミン(三菱ガス化学社製)を、加圧(0.35MPa)下でジアミンとセバシン酸とのモル比が約1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を235℃まで上昇させた。滴下終了後、60分間反応継続し、分子量1,000以下の成分量を調整した。反応終了後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化し、ポリアミド樹脂(MP10、M/P=7:3)を得た。
【0044】
<MP6の合成例(M/P比=7:3)>
アジピン酸を窒素雰囲気下の反応缶内で加熱溶解した後、内容物を撹拌しながら、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンのモル比が7:3の混合ジアミン(三菱ガス化学社製)を、加圧(0.35MPa)下でジアミンとアジピン酸(ローディア社製)とのモル比が約1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を270℃まで上昇させた。滴下終了後、0.06MPaまで減圧し10分間反応を続け分子量1,000以下の成分量を調整した。その後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化し、ポリアミド樹脂(MP6、M/P=7:3)を得た。
【0045】
ガラス繊維:日本電気硝子社製、T-756H、ウレタン系集束剤、Eガラス
タルク:林化成社製、ミクロンホワイト♯5000S
離型剤:共栄社化学社製、ライトアマイドWH255
CuI:ヨウ化第一銅、日本化学産業社製
酸化セリウム1:純度90質量%以上の酸化セリウム、トライバッハ・インダストリ・ジャパン社製、Cerium Oxide Hydrate 90、セリウム含有量72.1質量%、ランタン含有量4.4質量%、メジアン径(レーザー回折散乱法による粒度)2μm以下
酸化セリウム2:純度90質量%以上の酸化セリウム、トライバッハ・インダストリ・ジャパン社製、Cerium Hydrate 90、セリウム含有量78.5質量%、ランタン含有量0.1質量%、メジアン径(レーザー回折散乱法による粒度)3μm以下
【0046】
<酸化セリウム中のランタンおよびセリウム含有量分析>
試料を大気中、120℃で2時間加熱乾燥した。試料100mgを精秤し、過塩素酸、過酸化水素水および水を加え、加温分解後、水を加え一定容とした。この溶液を希釈し、ICP発光分析法(ICP-AES)で、Ceは酸濃度マッチング検量線法、Laは標準添加検量線法を用いて定量した。
【0047】
参考例1、実施例1~6、比較例1~4
後述する下記表1または表2に示す各成分であって、ガラス繊維以外の成分を表1または表2に示す割合(単位は、質量部である)をそれぞれ秤量し、ドライブレンドした後、二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SS)のスクリュー根元から2軸スクリュー式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-W-1-MP)を用いて投入した。また、ガラス繊維については振動式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-V-1B-MP)を用いて押出機のサイドから上述の二軸押出機に投入し、樹脂成分等と溶融混練し、ペレット(樹脂組成物)を得た。
上記で得られたペレットを、120℃で4時間乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業社製、SE-50D)を用いて、ASTM D638規格に基づく4号片(1.5mm厚)を作製した。
【0048】
<高温高湿下に置いた後の引張強さの保持率>
実施例1で得られたASTM D638規格に基づく4号片を、85℃で相対湿度85%の条件下に1000時間静置した。静置前後のASTM D638規格に基づく4号片について、ASTM D638に従って引張強さを測定した。以下の式により、保持率を測定した。
引張強さの保持率(%)=[静置後の引張強さ/静置前の引張強さ]×100
参考例1、実施例2~6および比較例1~4で得られたASTM規格D638に基づく4号片についても、同様に行った。
【0049】
<高温高湿下に置いた後の色移り試験>
実施例1で得られたASTM D638規格に基づく4号片と、参考例1で得られたASTM D638規格に基づく4号片を重ね、ダブルクリップ(中)で長手方向の両端を固定し、85℃で相対湿度85%の条件下に1000時間静置した。静置後、実施例1で得られたASTM D638規格に基づく4号片について、目視で確認し、色移りの有無を確認した。
実施例2~6および比較例1~4で得られたASTM D638規格に基づく4号片についても、同様に行った。
A:色移りは認められなかった。
B:色移りが認められた。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
上記において、樹脂組成物中のランタン量は、酸化セリウム由来のランタン量から算出した。他の成分のランタン量は、検出限界以下であった。
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、高温高湿下に置いた後の引張強さの保持率が高く、かつ、色移りも認められなかった(実施例1~6)。
これに対し、樹脂組成物中のランタンの含有量が樹脂組成物中、40質量ppmを超える場合(比較例1、2)、高温高湿下に置いた後、引張強さが顕著に低下してしまった。
また、安定剤として、銅化合物を用いた場合(比較例3、4)、高温高湿下に置いた後、色移りが起きてしまった。