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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】改変T細胞、その調製方法および使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240325BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240325BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240325BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240325BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240325BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240325BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240325BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240325BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240325BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N15/09 110
C12N15/113 140Z
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
C12N15/13
C12N15/12
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021538886
(86)(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 CN2019106109
(87)【国際公開番号】W WO2020057486
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】201811080440.7
(32)【優先日】2018-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520176566
【氏名又は名称】中国科学院動物研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF ZOOLOGY,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】No.5, 1 Beichen West Road, Chaoyang District, Beijing 100101, China
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】王 皓毅
(72)【発明者】
【氏名】張 興穎
(72)【発明者】
【氏名】程 晨
(72)【発明者】
【氏名】唐 娜
(72)【発明者】
【氏名】李 娜
【審査官】牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0020922(US,A1)
【文献】特表2016-540511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00- 5/28
C12N 15/00- 15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変T細胞を調製するためのインビトロの方法であって、T細胞における少なくとも1種の抑制タンパク質の発現を低減または消失させる工程を含み、抑制タンパク質が、TGFβ受容体であり、かつ前記方法が、T細胞におけるPD1の発現を低減または消失させる工程をさらに含む、インビトロの方法。
【請求項2】
抑制タンパク質がTGFBRIIである、請求項1に記載のインビトロの方法。
【請求項3】
前記T細胞が、外来性のT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を含むT細胞である、請求項1または2に記載のインビトロの方法。
【請求項4】
前記低減または消失が、アンチセンスRNA、アンタゴミル、siRNA、shRNA、メガヌクレアーゼ、Znフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ、またはCRISPRシステムによって達成される、請求項1~3のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項5】
前記CRISPRシステムが、CRISPR/Cas9システムである、請求項4に記載のインビトロの方法。
【請求項6】
前記CRISPR/Cas9システムが、配列番号28~31からなる群から選択される細胞内のヌクレオチド配列の1つまたは複数を標的とする、請求項5に記載のインビトロの方法。
【請求項7】
TCRまたはCARが、腫瘍関連抗原に対する抗原結合ドメインを含む、請求項3~6のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項8】
腫瘍関連抗原が、CD16、CD64、CD78、CD96、CLL1、CD116、CD117、CD71、CD45、CD71、CD123、CD138、ErbB2(HER2/neu)、癌胎児抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、EGFR変異体III(EGFRvIII)、CD19、CD20、CD30、CD40、ジシアリルガングリオシドGD2、管上皮ムチン、gp36、TAG-72、グリコスフィンゴリピド、神経膠腫関連抗原、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、α-胎児グロブリン(AFP)、レクチン応答性AFP、チログロブリン、RAGE-1、MN-CA IX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、M-CSF、プロスターゼ、前立腺特異抗原(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGA-1a、p53、プロステイン、PSMA、生存およびテロメラーゼ、前立腺がん腫瘍抗原-1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インシュリン成長因子(IGF1)-I、IGF-II、IGFI受容体、メソテリン、腫瘍特異性ペプチドエピトープを提示する主要組織適合複合体(MHC)分子、5T4、ROR1、Nkp30、NKG2D、腫瘍間質抗原、フィブロネクチン・エクストラドメインA(EDA)およびエクストラドメインB(EDB)、テネイシン-C A1ドメイン(TnC A1)、線維芽細胞関連タンパク質(fap)、CD3、CD4、CD8、CD24、CD25、CD33、CD34、CD133、CD138、Foxp3、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、GM-CSF、サイトカイン受容体、内皮因子、BCMA(CD269、TNFRSF17)、TNFRSF17(UNIPROT Q02223)、SLAMF7(UNIPROT Q9NQ25)、GPRC5D(UNIPROT Q9NZD1)、FKBP11(UNIPROT Q9NYL4)、KAMP3、ITGA8(UNIPROT P53708)、ならびにFCRL5(UNIPROT Q68SN8)からなる群から選択される、請求項7に記載のインビトロの方法。
【請求項9】
抗原結合性ドメインが、モノクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、シングルドメイン抗体、抗体単鎖可変領域、およびこれらの抗原結合性断片から選択される、請求項7または8に記載のインビトロの方法。
【請求項10】
CARが、メソテリン、CD8ヒンジ領域、CD28膜貫通ドメイン、CD28共刺激ドメイン、およびCD3ζシグナル伝達ドメインに対するscFvを含む、請求項3~9のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項11】
CARが、配列番号27に記載のアミノ酸配列を含む、請求項10に記載のインビトロの方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のインビトロの方法によって調製される改変T細胞。
【請求項13】
がんの処置のための医薬の製造における、請求項12に記載の改変T細胞の使用。
【請求項14】
がんを処置するための医薬組成物であって、請求項12に記載の改変T細胞と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項15】
がんが、肺がん、卵巣がん、結腸がん、直腸がん、黒色腫、腎がん、膀胱がん、乳がん、肝がん、リンパ腫、血液系腫瘍、頭頸部がん、グリア系腫瘍、胃がん、上咽頭がん、喉頭がん、子宮頸がん、子宮体部腫瘍、および骨肉腫からなる群から選択される、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
がんが、骨がん、膵がん、皮膚がん、前立腺がん、皮膚または眼内悪性黒色腫、子宮がん、肛門がん、精巣がん、卵管がん、子宮体がん、腟がん、腟がん、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、慢性または急性白血病(急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、および慢性リンパ性白血病を含む)、小児固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱がん、腎または尿管がん、腎盂がん、中枢神経系(CNS)腫瘍、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊椎腫瘍、脳幹部神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、表皮癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、およびアスベスト誘発性がんを含めた環境誘発性がん、ならびにこれらのがんの組合せからなる群から選択される、請求項13に記載の使用。
【請求項17】
がんが、肺がん、卵巣がん、結腸がん、直腸がん、黒色腫、腎がん、膀胱がん、乳がん、肝がん、リンパ腫、血液系腫瘍、頭頸部がん、グリア系腫瘍、胃がん、上咽頭がん、喉頭がん、子宮頸がん、子宮体部腫瘍、および骨肉腫からなる群から選択される、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項18】
がんが、骨がん、膵がん、皮膚がん、前立腺がん、皮膚または眼内悪性黒色腫、子宮がん、肛門がん、精巣がん、卵管がん、子宮体がん、腟がん、腟がん、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、慢性または急性白血病(急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、および慢性リンパ性白血病を含む)、小児固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱がん、腎または尿管がん、腎盂がん、中枢神経系(CNS)腫瘍、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊椎腫瘍、脳幹部神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、表皮癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、およびアスベスト誘発性がんを含めた環境誘発性がん、ならびにこれらのがんの組合せからなる群から選択される、請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子編集および腫瘍免疫療法の分野に関する。特に、本発明は、遺伝子編集によってCAR-T細胞などの改変T細胞を調製するための方法ならびに該方法によって調製される改変T細胞およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞は、抗腫瘍免疫で重要な役割を果たしている。しかし、腫瘍を有する患者では、局所特異的な細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の含量が非常に低い。インビトロ(in vitro)でCTLを取得し、増殖させることは難しく、CTLの親和性が低いため、腫瘍の臨床処置へのその適用が制限されている。
【0003】
T細胞の養子移入は、近年高い注目をあびている特異的かつ低毒性の抗腫瘍方法である。例えば、T細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)によるT細胞の遺伝的改変は、腫瘍特異的T細胞を生み出すのに最も一般的に用いられている方法である。
【0004】
TCR遺伝子導入技術は、担体としてレトロウイルスまたはレンチウイルスを用い、当初のT細胞を抗原特異的TCRで改変するための遺伝子操作技術を使用して、腫瘍応答性のT細胞由来のTCRアルファ鎖およびベータ鎖をクローニングし、それによって、T細胞が腫瘍細胞を特異的に特定および殺滅できるようにし、腫瘍に対するT細胞の親和性を増大させるものである。TCR遺伝子導入技術は、患者由来の自家T細胞を改変するのに用いられる。インビトロでの増殖の後、特異的かつ効率的な認識能を有する多数のT細胞が得られ、インビボ(in vivo)で抗腫瘍作用を発揮させるため、養子注入により患者に戻される。
【0005】
CARは、細胞外ドメイン、ヒンジ、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインからなり、細胞外ドメインは、典型的には、単鎖可変断片(scFv)に由来し、細胞内ドメインは、1個または複数の共刺激ドメインまたはシグナリングドメインを有する(KakarlaおよびGottschalk、2014)。CAR-T細胞療法は、CD19陽性悪性血液腫瘍の処置における初期の臨床研究では成功していた(Davialaら、2014;Leeら、2015;Maudeら、2014)が、固形腫瘍の不均一性が大きく、腫瘍微小環境が複雑であり、CAR-T細胞の浸入が難しいため、CAR-T細胞で固形腫瘍抗原を標的にすることに対する臨床応答は限定的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、腫瘍、特に固形腫瘍を抑制または殺滅するのに有効なT細胞を取得する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様において、本発明は、改変T細胞を調製するための方法であって、T細胞における少なくとも1種の抑制タンパク質の発現を低減または消失させる工程を含み、抑制タンパク質がT細胞表面抑制受容体および/またはT細胞疲弊関連タンパク質であり、例えば、抑制タンパク質が、TGFβ受容体(TGFBRIIなど)、TIGIT、BTLA、2B4、CD160、CD200R、A2aR、IL10RA、ADRB2、BATF、GATA3、IRF4、RARA、LAYN、MYO7A、PHLDA1、RGS1、RGS2、SHP1、DGKa、Fas、FasL、またはこれらの任意の組合せから選択される方法を提供する。
【0008】
一部の実施形態では、前記T細胞が、外来性のT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を含むT細胞である。
【0009】
一部の実施形態では、前記低減または消失が、アンチセンスRNA、アンタゴミル、siRNA、shRNA、メガヌクレアーゼ、Znフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ、またはCRISPRシステムによって達成される。
【0010】
一部の実施形態では、前記CRISPRシステムが、CRISPR/Cas9システムである。
【0011】
一部の実施形態では、前記CRISPR/Cas9システムが、配列番号1~21および28~31からなる群から選択される細胞内のヌクレオチド配列の1つまたは複数を標的とする。
【0012】
一部の実施形態では、TCRまたはCARが、腫瘍関連抗原に対する抗原結合ドメインを含む。
【0013】
一部の実施形態では、腫瘍関連抗原が、CD16、CD64、CD78、CD96、CLL1、CD116、CD117、CD71、CD45、CD71、CD123、CD138、ErbB2(HER2/neu)、癌胎児抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、EGFR変異体III(EGFRvIII)、CD19、CD20、CD30、CD40、ジシアリルガングリオシドGD2、管上皮ムチン、gp36、TAG-72、グリコスフィンゴリピド、神経膠腫関連抗原、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、α-胎児グロブリン(AFP)、レクチン応答性AFP、チログロブリン、RAGE-1、MN-CA IX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、M-CSF、プロスターゼ、前立腺特異性抗原(prostatase specific antigen)(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGA-1a、p53、プロステイン(Prostein)、PSMA、生存およびテロメラーゼ(survival and telomerase)、前立腺がん腫瘍抗原-1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インシュリン成長因子(IGF1)-I、IGF-II、IGFI受容体、メソテリン、腫瘍特異性ペプチドエピトープを提示する主要組織適合複合体(MHC)分子、5T4、ROR1、Nkp30、NKG2D、腫瘍間質抗原、フィブロネクチンエクストラドメインA(EDA)およびエクストラドメインB(EDB)、テネイシン-C A1ドメイン(TnC A1)、線維芽細胞関連タンパク質(fap)、CD3、CD4、CD8、CD24、CD25、CD33、CD34、CD133、CD138、Foxp3、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、GM-CSF、サイトカイン受容体、内皮因子、BCMA(CD269、TNFRSF17)、TNFRSF17(UNIPROT Q02223)、SLAMF7(UNIPROT Q9NQ25)、GPRC5D(UNIPROT Q9NZD1)、FKBP11(UNIPROT Q9NYL4)、KAMP3、ITGA8(UNIPROT P53708)、ならびにFCRL5(UNIPROT Q68SN8)からなる群から選択される。
【0014】
一部の実施形態では、抗原結合性ドメインが、モノクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、シングルドメイン抗体、抗体単鎖可変領域、およびこれらの抗原結合性断片から選択される。
【0015】
一部の実施形態では、CARが、メソテリン、CD8ヒンジ領域、CD28膜貫通ドメイン、CD28共刺激ドメイン、およびCD3ζシグナル伝達ドメインに対するscFvを含む。
【0016】
一部の実施形態では、CARが、配列番号27に記載のアミノ酸配列を含む。
【0017】
別の態様では、本発明は、本発明の方法によって調製される改変T細胞を提供する。
【0018】
別の態様では、本発明は、T細胞の少なくとも1種の抑制タンパク質の発現が、改変されていないT細胞と比較して低減または消失しており、抑制タンパク質がT細胞表面抑制受容体および/またはT細胞疲弊関連タンパク質であり、例えば、抑制タンパク質が、TGFβ受容体(TGFBRIIなど)、TIGIT、BTLA、2B4、CD160、CD200R、A2aR、IL10RA、ADRB2、BATF、GATA3、IRF4、RARA、LAYN、MYO7A、PHLDA1、RGS1、RGS2、SHP1、DGKa、Fas、FasL、またはこれらの任意の組合せから選択される、改変T細胞を提供する。
【0019】
一部の実施形態では、前記T細胞が、外来性のT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を含むT細胞である。
【0020】
一部の実施形態では、TCRまたはCARが、腫瘍関連抗原に対する抗原結合ドメインを含む。
【0021】
一部の実施形態では、腫瘍関連抗原が、CD16、CD64、CD78、CD96、CLL1、CD116、CD117、CD71、CD45、CD71、CD123、CD138、ErbB2(HER2/neu)、癌胎児抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、EGFR変異体III(EGFRvIII)、CD19、CD20、CD30、CD40、ジシアリルガングリオシドGD2、管上皮ムチン、gp36、TAG-72、グリコスフィンゴリピド、神経膠腫関連抗原、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、α-胎児グロブリン(AFP)、レクチン応答性AFP、チログロブリン、RAGE-1、MN-CA IX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、M-CSF、プロスターゼ、前立腺特異性抗原(prostatase specific antigen)(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGA-1a、p53、プロステイン(Prostein)、PSMA、生存およびテロメラーゼ(survival and telomerase)、前立腺がん腫瘍抗原-1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インシュリン成長因子(IGF1)-I、IGF-II、IGFI受容体、メソテリン、腫瘍特異性ペプチドエピトープを提示する主要組織適合複合体(MHC)分子、5T4、ROR1、Nkp30、NKG2D、腫瘍間質抗原、フィブロネクチン・エクストラドメインA(EDA)およびエクストラドメインB(EDB)、テネイシン-C A1ドメイン(TnC A1)、線維芽細胞関連タンパク質(fap)、CD3、CD4、CD8、CD24、CD25、CD33、CD34、CD133、CD138、Foxp3、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、GM-CSF、サイトカイン受容体、内皮因子、BCMA(CD269、TNFRSF17)、TNFRSF17(UNIPROT Q02223)、SLAMF7(UNIPROT Q9NQ25)、GPRC5D(UNIPROT Q9NZD1)、FKBP11(UNIPROT Q9NYL4)、KAMP3、ITGA8(UNIPROT P53708)、ならびにFCRL5(UNIPROT Q68SN8)からなる群から選択される。
【0022】
一部の実施形態では、抗原結合性ドメインが、モノクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、シングルドメイン抗体、抗体単鎖可変領域、およびこれらの抗原結合性断片から選択される。
【0023】
一部の実施形態では、CARが、メソテリン、CD8ヒンジ領域、CD28膜貫通ドメイン、CD28共刺激ドメイン、およびCD3ζシグナル伝達ドメインに対するscFvを含む。
【0024】
一部の実施形態では、CARが、配列番号27に記載のアミノ酸配列を含む。
【0025】
別の態様では、本発明は、がんの処置のための医薬の製造における、本発明の改変T細胞の使用を提供する。
【0026】
別の態様では、本発明は、がんを処置するための医薬組成物であって、本発明の改変T細胞と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0027】
本発明の様々な態様の実施形態において、がんは、肺がん、卵巣がん、結腸がん、直腸がん、黒色腫、腎がん、膀胱がん、乳がん、肝がん、リンパ腫、血液系腫瘍、頭頸部がん、グリア系腫瘍、胃がん、上咽頭がん、喉頭がん、子宮頸がん、子宮体部腫瘍、および骨肉腫からなる群から選択される。本発明の方法または医薬組成物で処置できる他のがんの例には、骨がん、膵がん、皮膚がん、前立腺がん、皮膚または眼内悪性黒色腫、子宮がん、肛門がん、精巣がん、卵管がん、子宮体がん、腟がん、腟がん、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、慢性または急性白血病(急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、および慢性リンパ性白血病を含む)、小児固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱がん、腎または尿管がん、腎盂腎がん、中枢神経系(CNS)腫瘍、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊椎腫瘍、脳幹部神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、表皮癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、およびアスベスト誘発性がんを含めた環境誘発性がん、ならびにこれらのがんの組合せが含まれる。好ましくは、がんは固形腫瘍がんである。一部の実施形態では、がんは、肺扁平上皮癌などの肺がんである。一部の特定の実施形態では、がんは、卵巣がんである。一部の特定の実施形態では、がんは、結腸がんである。
【0028】
別の態様では、本発明は、改変T細胞を調製するための、本発明の方法で使用されるキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、様々なCAR構造を示す。
図2図2は、様々なCAR構造を有するCAR-T細胞の効果を示す。
図3図3は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、TIGIT遺伝子ノックアウトを有するP4 CAR-T細胞による、標的細胞CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciの特異的溶解を示す。
図4図4は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、TIGITノックアウトP4 CAR-T細胞が標的細胞HCT116-luciおよびOVCAR3-luciに及ぼす効果を示す。
図5図5は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、BTLA遺伝子ノックアウトを有するP4 CAR-T細胞による、標的細胞CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciの特異的溶解を示す。
図6図6は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、BTLAがノックアウトされたP4 CAR-T細胞が標的細胞HCT116-luciおよびOVCAR3-luciに及ぼす効果を示す。
図7図7は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、CD160遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による、標的細胞CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciの特異的溶解を示す。
図8図8は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、CD160がノックアウトされたP4 CAR-T細胞が標的細胞HCT116-luciおよびOVCAR3-luciに及ぼす効果を示す。
図9図9は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、2B4遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による、標的細胞CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciの特異的溶解を示す。
図10図10は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、2B4遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞が標的細胞HCT116-luciおよびOVCAR3-luciに及ぼす効果を示す。
図11図11は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、CD200RがノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciの特異的溶解を示す。
図12図12は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、CD200RがノックアウトされたP4 CAR-T細胞が標的細胞HCT116-luciおよびOVCAR3-luciに及ぼす効果を示す。
図13図13は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、BATF遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による、標的細胞CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciの特異的溶解を示す。
図14図14は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、BATF遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞が標的細胞HCT116-luciおよびOVCAR3-luciに及ぼす効果を示す。
図15図15は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、GATA3遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による、標的細胞CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciの特異的溶解を示す。
図16図16は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、GATA3がノックアウトされたP4 CAR-T細胞が、標的細胞HCT116-luciおよびOVCAR3-luciに及ぼす効果を示す。
図17図17は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、RARA遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciの特異的溶解を示す。
図18図18は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、A2aRがノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciの特異的溶解を示す。
図19図19は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、A2aRがノックアウトされたP4 CAR-T細胞が標的細胞HCT116-luciおよびOVCAR3-luciに及ぼす効果を示す。
図20図20は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、IL10RaがノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciの特異的溶解を示す。
図21図21は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、ADRB2がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciの特異的溶解を示す。
図22図22は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、DNMT3A遺伝子ノックアウトを有するP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciの特異的溶解を示す。
図23図23は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、LAYN遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による、標的細胞CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciの特異的溶解を示す。
図24図24は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、LAYN遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞が標的細胞HCT116-luciおよびOVCAR3-luciに及ぼす効果を示す。
図25図25は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、PHLDA1遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciの特異的溶解を示す。
図26図26は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、RGS1遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciの特異的溶解を示す。
図27図27は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、RGS2遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciの特異的溶解を示す。
図28図28は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、MYO7A遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciの特異的溶解を示す。
図29図29は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、FasがノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciの特異的溶解を示す。
図30図30は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、FasLがノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciの特異的溶解を示す。
図31図31は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、SHP1遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciの特異的溶解を示す。
図32図32は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、DGKA遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciの特異的溶解を示す。
図33図33は、TGFβ1が、P4-CAR-T細胞の機能に負の影響を及ぼすことを示す。A:5ng/mlのTGFβ1が培養培地に添加されているまたは添加されていない、P4-CAR-T細胞のCRL5826腫瘍細胞特異的溶解能力。B~C:CRL5826細胞と共に24時間インキュベーションした後に5ng/mlのTGFβ1が培養培地に添加された場合または添加されていない場合における、P4-CAR-T細胞によって放出されたIL-2(B)およびIFN-γ(C)の濃度。T:T細胞;P4:P4-CAR-T細胞;CRL:CRL5826。
図34図34は、P4-CAR-T細胞が機能的なTregに変わるのを、TGFβ1が誘導することができることを示す。A:OVCAR3腫瘍細胞と共に3日間インキュベートした後、5ng/mlのTGFβ1を培養培地に添加するまたは添加しない、P4-CAR-T細胞上でのFOXP3の発現。B:P4-CAR-T細胞の増殖を抑制するTGFβ1の能力。5ng/mlのTGFβ1を培地に添加してまたは添加せずに、P4-CAR-T細胞をOVCAR3腫瘍細胞と共に3日間培養した。増殖抑制アッセイの前に、GFP陽性のP4-CAR-T細胞をFACSでソーティングした。C:5ng/mlのTGFβ1を培養培地に添加するかまたは添加せずに、OVCAR3腫瘍細胞と共に3日間培養したP4-CAR-T細胞の細胞溶解能力。細胞溶解能力の決定の前に、GFP陽性のP4-CAR-T細胞をFACSによってソーティングした。
図35図35は、抗原によって誘導される増殖能力およびP4-CAR-T細胞の細胞状態にTGFβ1が影響を及ぼすことを示す。A:5ng/mlのTGFβ1が培養培地に添加された場合または添加されていない場合において、腫瘍細胞は、P4-CAR-T細胞の増殖を誘導した。B:培地に5ng/mlのTGFβ1を添加した、または添加しなかった後における、CRL5826とのインキュベーションの4日後のP4-CAR-T細胞の典型的な画像。P4:P4-CAR-T細胞。
図36図36は、TGFBR II sgRNA選択を示す。A:エレクトロポレーションでsgRNA-1/4/5/8を導入したHepG2におけるTGFBR IIノックアウト(KO)の効率を、フローサイトメトリー(FCM)およびTIDEで検出した。B:条件を最適化させた後、エレクトロポレーションでsgRNA-8を導入したHepG2におけるTGFBR IIのKO効率を、FCMおよびTIDEで試験した。
図37図37は、TGFBR IIまたはFOXP3をノックアウトすると、P4-CAR-T細胞の効果が改善されることを示す。A:P4-CAR-T細胞およびTGTBR II/FOXP3 KO P4-CAR-T細胞の腫瘍細胞特異的溶解能力;0、2.5、5または10ng/mlのTGFβ1を培養培地に添加した。エフェクター:標的比(E:T)は、0.25:1である。B~C:腫瘍細胞との培養24時間後における、5ng/mlのTGFβ1を培地に添加したまたは添加していない、P4-CAR-T細胞およびTGTBR II/FOXP3 KO P4-CAR-T細胞によって放出されたIL-2(B)およびIFN-γ(C)の濃度。
図38図38は、TGFBR IIまたはFOXP3をノックアウトすると、P4-CAR-T細胞の効果が改善されることを示す。A:培養培地に5ng/mlのTGFβ1を添加して、または添加しないで、腫瘍細胞と3日間インキュベートした後における、P4-CAR-T細胞およびTGTBR II/FOXP3 KO P4-CAR-T細胞におけるFOXP3の発現。B:5ng/mlのTGFβ1を培養培地に添加して、または添加しないで、CRL5826腫瘍細胞と共に3日間培養したP4-CAR-T細胞およびTGTBR II/FOXP3 KO P4-CAR-T細胞の細胞溶解性能力。細胞溶解アッセイの前に、GFP陽性のP4-CAR-T細胞およびTGTBR II/FOXP3 KO P4-CAR-T細胞をFACSによってソーティングした。
図39図39は、TGFBR IIノックアウトが、TGFβ1の存在下で、抗原によって誘導された増殖能力およびP4-CAR-T細胞の細胞状態を有意に改善したことを示す。A:5ng/mlのTGFβ1が培養培地に添加された場合または添加されていない場合における、腫瘍細胞によって誘導されたP4-CAR-T細胞およびTGTBR II/FOXP3 KO P4-CAR-T細胞の増殖。B:5ng/mlのTGFβ1を含むまたは含まない培養培地で腫瘍細胞と4日間インキュベートした後における、P4-CAR-T細胞およびTGTBR II/FOXP3 KO P4-CAR-T細胞の典型的な画像。FKO:FOXP3ノックアウト;TKO:TGFBR IIノックアウト。
図40図40は、遺伝子を編集されたP4 CAR-T細胞の成長曲線、GFP陽性細胞の比率、およびT細胞サブポピュレーションの分析を示す。A:インビトロ培養後におけるP4 CAR-T細胞およびTGFBR II KO/FOXP3 KO P4 CAR-T細胞の成長曲線。B:インビトロ培養後におけるP4 CAR-T細胞およびTGFBR II KO/FOXP3 KO CAR-T細胞中のGFP陽性細胞の割合。C:エレクトロポレーションの6日後および15日後におけるCD4+およびCD8+ CAR-T細胞ならびにTGFBRII KO/FOXP3 KO CAR-T細胞中のT細胞サブセットの分析。P4:P4-CAR-T細胞;FKO:FOXP3ノックアウト;TKO:TGFBR IIノックアウト。
図41図41は、TGBR IIまたはFOXP3ノックアウトがCD4+ CAR-T細胞の効果を改善することを示す。A:0、1.25、5、および10ng/mlのTGFβ1を培養培地に添加した場合のCD4+ CAR-T細胞の腫瘍細胞特異的溶解能力。エフェクター:標的比(E:T)は1:1である。B:培地に5ng/mlのTGFβ1を含む場合または含まない場合における、CD4+ CAR-T細胞およびTGFBR II/FOXP3 KO CD4+ CAR-T細胞の腫瘍細胞特異的溶解能力。エフェクター:標的比(E:T)は、1:1である。C~F:5ng/mlのTGFβ1を含むまたは含まない培地で腫瘍細胞と3日間インキュベーションした後における、CD4+ CAR-T細胞およびTGFBR II/FOXP3 KO CD4+ CAR-T細胞におけるFOXP3(C)、IL-2(D)、IFN-γ(E)、およびGZMB(F)の相対mRNA発現レベル。mRNA抽出前にGFP陽性のCAR-T細胞をFACSによってソーティングした。ctrl:対照;FKO:FOXP3 KO;TKO:TGFBR II KO;CRL:CRL5826;w/o:無添加。
図42図42は、TGBR IIまたはFOXP3ノックアウトが、CD4+ CAR-T細胞の効果を改善することを示す。A:5ng/mlのTGFβ1を添加したまたは添加していない培地で腫瘍細胞と48時間インキュベーションした後における、CD4+ CAR-T細胞およびTGTBR II/FOXP3 KO CD4+ CAR-T細胞によって放出されたIL-2(左)およびIFN-γ(右)の濃度。B:培地に5ng/mlのTGFβ1を含む場合または含まない場合における、腫瘍細胞によって誘導されたCD4+ CAR-T細胞およびTGTBR II/FOXP3 KO CD4+ CAR-T細胞の増殖。C:5ng/mlのTGFβ1を含むまたは含まない培地での腫瘍細胞とのインキュベーション8日目における、CD4+ CAR-T細胞およびTGTBR II/FOXP3 KO CD4+ CAR-T細胞の特異的溶解能力。ctrl:対照;FKO:FOXP3 KO;TKO:TGFBR II KO;CRL:CRL5826。
図43図43は、TGBR IIまたはFOXP3ノックアウトがCD8+ CAR-T細胞の効果を改善することを示す。A:0、1.25、5、および10ng/mlのTGFβ1を培養培地に添加した場合における、CD8+ CAR-T細胞の腫瘍細胞特異的溶解能力。エフェクター:標的比(E:T)は1:1である。B:培地に5ng/mlのTGFβ1を含む場合または含まない場合における、CD8+ CAR-T細胞およびTGFBR II/FOXP3 KO CD8+ CAR-T細胞の腫瘍細胞特異的溶解能力。エフェクター:標的比(E:T)は1:1である。C~F:5ng/mlのTGFβ1を含むまたは含まない培地で腫瘍細胞と3日間インキュベーションした後における、CD8+ CAR-T細胞およびTGFBR II/FOXP3 KO CD8+ CAR-T細胞におけるIL-2(C)、IFN-γ(D)、GZMB(E)、およびGZMB(F)の相対mRNA発現レベル。mRNA抽出の前に、GFP陽性のCAR-T細胞をFACSによってソーティングした。ctrl:対照;FKO:FOXP3 KO;TKO:TGFBR II KO;CRL:CRL5826;w/o:無添加。
図44図44は、TGBR IIまたはFOXP3ノックアウトがCD8+ CAR-T細胞の効果を改善することを示す。A:5ng/mlのTGFβ1ありまたはなしで腫瘍細胞と48時間インキュベーションした後における、CD8+ CAR-T細胞およびTGTBR II/FOXP3 KO CD8+ CAR-T細胞によって放出されたIL-2(左)およびIFN-γ(右)の濃度。B:培地に5ng/mlのTGFβ1を含む場合または含まない場合における、腫瘍細胞によって誘導されたCD8+ CAR-T細胞およびTGTBR II/FOXP3 KO CD8+ CAR-T細胞の増殖。C:5ng/mlのTGFβ1を含むまたは含まない培地での腫瘍細胞とのインキュベーション8日目における、CD8+ CAR-T細胞およびTGTBR II/FOXP3 KO CD8+ CAR-T細胞の特異的溶解能力。ctrl:対照;FKO:FOXP3 KO;TKO:TGFBR II KO;CRL:CRL5826。
図45図45は、様々なエフェクター:標的比および処置時間における、IRF4遺伝子がノックアウトされたP4 CAR-T細胞による標的細胞CRL5826-luciの特異的溶解を示す。
図46図46は、M28zにおけるPD1 mRNAの発現が、TGFβ1の添加の後に有意に増大したことを示す。
図47図47は、TGFβ1は、PD1を上方制御することによってCAR-T細胞枯渇を加速するが、TGFβおよびPD1シグナリングの両方を遮断することで、抑制的なTMEに対するCAR-Tの抵抗をさらに改善することができることを示す。
図48図48は、TGFBR II/PD1二重編集CAR-T細胞が、PDL1過剰発現を有するCDXモデルに対する改善された腫瘍排除効果を有することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
I.定義
本発明において、本明細書で使用される科学用語および技術用語は、他に明記しない限り、当業者によって通常に理解される意味を有する。また、本明細書で使用されるタンパク質および核酸化学、分子生物学、細胞および組織培養、微生物学、免疫学に関連する用語および検査法は、当該分野で広く使用されている用語および慣例ステップのものである。例えば、本発明で使用される標準的な組換えDNAおよび分子クローン技術は、当業者によく知られており、以下の文書:Sambrook, J., Fritsch, E.F. and Maniatis, T., Molecular Cloning: A Laboratory Manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press: Cold Spring Harbor, 1989(以下、「Sambrook」と称する)により完全に記載されている。一方、本発明のよりよい理解のために、関連用語の定義および説明を以下に示す。
【0031】
本明細書で使用する場合、「ゲノム」は、核に存在する染色体DNAだけでなく、細胞の細胞内構成要素(例えば、ミトコンドリア、色素体)に存在するオルガネラDNAも包含する。
【0032】
配列に関する「外因性」は、異なる種に由来する配列を意味するか、同じ種に由来する場合、意図的なヒト介入によって組成および/または位置がその天然形態から有意に変化している配列を指す。
【0033】
「ポリヌクレオチド」、「核酸配列」、「ヌクレオチド配列」、または「核酸断片」は、互換的に使用され、合成、非天然、または改変ヌクレオチド塩基を含有していてもよい一本鎖または二本鎖のRNAポリマーまたはDNAポリマーである。ヌクレオチドは、それらの一文字名によって以下の通りに表される。「A」は、アデノシンまたはデオキシアデノシン(それぞれRNAまたはDNAに対応する)であり、「C」は、シチジンまたはデオキシシチジンを意味し、「G」は、グアノシンまたはデオキシグアノシンを意味し、「U」は、ウリジンを表し、「T」は、デオキシチミジンを意味し、「R」は、プリン(AまたはG)を意味し、「Y」は、ピリミジン(CまたはT)を意味し、「K」は、GまたはTを意味し、「H」は、AまたはCまたはTを意味し、「I」はイノシンを意味し、「N」は任意のヌクレオチドを意味する。
【0034】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すのに、本発明で互換的に使用される。これらの用語は、天然存在のアミノ酸ポリマーと同様に、1個または複数アミノ酸残基が、対応する天然存在のアミノ酸の人工の化学的類似体であるアミノ酸ポリマーにも適用される。用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、「アミノ酸配列」、および「タンパク質」は、修飾された形態も含むことができ、修飾された形態には、グリコシル化、脂質ライゲーション、硫酸化、グルタミン酸残基のγカルボキシル化、およびADPリボシル化が含まれるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明で使用される場合、「発現コンストラクト」は、生物における目的のヌクレオチド配列の発現に適した組換えベクターなどのベクターを指す。「発現」は、機能的な産物の生成を指す。例えば、ヌクレオチド配列の発現は、ヌクレオチド配列の転写(例えば、mRNAまたは機能的RNAを生成する転写)および/またはRNAから前駆体または成熟タンパク質への翻訳を指すことができる。
【0036】
本発明の「発現コンストラクト」は、直鎖核酸断片でも、環状プラスミドでも、ウイルスベクターでも、または、一部の実施形態では、翻訳が可能なRNA(例えばmRNA)でもよい。
【0037】
本発明の「発現コンストラクト」は、様々な起源に由来する調節配列および目的のヌクレオチド配列、または同じ供給源に由来するが、自然界で通常に存在するものと異なるように配置された調節配列および目的のヌクレオチド配列を含むことができる。
【0038】
「調節配列」および「調節エレメント」は、上流(5’非コード配列)に位置するヌクレオチド配列、コード配列の中または下流(3’非コード配列)を指すのに互換的に使用され、関連するコード配列の転写、RNAプロセシング、または安定性もしくは翻訳に影響を及ぼす。
【0039】
調節配列は、プロモーター、翻訳リーダー、イントロン、およびポリアデニル化認識配列を含むことができるが、これに限定されない。
【0040】
「プロモーター」は、別の核酸断片の転写を制御することができる核酸断片を指す。本発明の一部の実施形態では、プロモーターは、それがその細胞に由来するか否かに関係なく、細胞で遺伝子の転写を制御することができるプロモーターである。
【0041】
本明細書で使用する場合、「作動可能に連結する」という用語は、調節エレメント(例えば、限定されるものではないが、プロモーター配列、転写終結配列など)を核酸配列(例えば、コード配列またはオープンリーディングフレーム)に、ヌクレオチド配列の転写が転写調節エレメントによって制御および調節されるように連結することを指す。核酸分子に調節エレメント領域を作動可能に連結するための技術は、当技術分野で知られている。
【0042】
ゲノム編集としても知られている「遺伝子編集」は、生物のゲノムでDNAを挿入するか、欠失するか、または置き換えるのに工学的に操作されたヌクレアーゼ(engineered nuclease)または「分子はさみ」を用いる。遺伝子編集は、ゲノム中の所望の位置に、部位特異的な二本鎖切断(DSB)をもたらし、次いで、DSBを修復する過程で、所望のDNA挿入、欠失、または置換を導入する。典型的には、メガヌクレアーゼ、Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびCRISPRシステムが遺伝子編集に使用される。
【0043】
「メガヌクレアーゼ」は、通常は任意の所与のゲノムあたり1つしかない大きな認識部位(12~40bpの二本鎖DNA配列)を有するデオキシリボヌクレアーゼ酵素の1クラスである。例えば、メガヌクレアーゼI-SceIによって同定される18bp配列は、ヒトゲノムより20倍より大きいゲノムで平均1回の頻度で、時おり、存在する。
【0044】
「Znフィンガーヌクレアーゼ」は、ZnフィンガーDNA結合ドメインをDNA切断ドメインに融合させることによって調製される人工の制限酵素である。ZFNが1つのZnフィンガーDNA結合ドメインは、典型的には、個々のZnフィンガーの3~6回の反復を含有し、そのそれぞれが、例えば3bpの配列を同定することができる。
【0045】
「転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ」は、特定のDNA配列を切断するように工学的に操作することができる制限酵素であって、典型的には、転写活性化因子様エフェクター(TALE)のDNA結合ドメインをDNA切断ドメインに融合させることによって調製される制限酵素である。TALEは、ほとんどいかなるものであっても所望のDNA配列に結合するように工学的に操作することができる。
【0046】
「クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)」は、短い反復を含有する原核生物DNAセグメントである。CRISPRシステムは、例えばプラスミドおよびファージ中に存在するものなどの外来の遺伝エレメントに対する抵抗性を与える原核生物免疫システムであり、この抵抗性が獲得免疫をもたらす。このシステムでは、Casタンパク質または類似のタンパク質が、RNAの誘導の下、外来の核酸を切断する。
【0047】
本明細書で使用する場合、用語「CRISPRヌクレアーゼ」は、一般に天然存在のCRISPRシステムに存在するヌクレアーゼ、およびそれらの改変型、変異型(ニッカーゼ突然変異体を含む)、または触媒活性断片を指す。CRISPRヌクレアーゼは、crRNAおよび適宜tracrRNAなどのガイドRNAまたはsgRNAのような人工のgRNAと相互作用することによって、標的核酸を同定および/または切断することができる。この用語は、細胞内での遺伝子編集を可能にするCRISPRシステムに基づくいかなるヌクレアーゼも包含する。
【0048】
「Cas9ヌクレアーゼ」および「Cas9」は、本明細書で互換的に使用され、Cas9タンパク質またはその断片(例えば、Cas9の活性DNA切断ドメインおよび/またはCas9のgRNA結合ドメインを含むタンパク質)を含むRNA依存性ヌクレアーゼを指す。Cas9は、ガイドRNAの誘導に従ってDNA標的配列を標的にし、切断して、DNA二本鎖切断(DSB)を形成するCRISPR/Cas(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピートおよびそれらの関連システム)ゲノム編集システムの構成要素である。
【0049】
「ガイドRNA」および「gRNA」は、本明細書で互換的に使用され、一般に、部分的に相補して複合体を形成するcrRNAおよびtracrRNA分子からなり、crRNAは、標的配列とハイブリッド形成するのに十分に標的配列と相補的である配列を含み、標的配列に特異的に結合するようにCRISPR複合体(Cas9+crRNA+tracrRNA)を方向付ける。しかし、crRNAおよびtracrRNAの特徴を同時に含有するシングルガイドRNA(sgRNA)を設計することが、当技術分野で知られている。
【0050】
T細胞抗原受容体としても知られている「T細胞受容体(TCR)」は、T細胞が抗原ペプチド-MHC分子を特異的に同定し、それに結合するのに使用する分子構造を指し、通常は、CD3分子との複合体形態でT細胞表面にある。ほとんどのT細胞のTCRは、アルファ鎖およびベータペプチド鎖からなり、少数のT細胞のTCRは、ガンマ鎖とデルタペプチド鎖からなる。
【0051】
人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体、またはキメラ免疫受容体としても知られている「キメラ抗原受容体(CAR)」は、免疫エフェクター細胞に特定の特性を与えることができる人工的に設計された受容体である。一般に、この技術は、腫瘍面抗原を特異的に認識する能力をT細胞に与えるのに使用される。このようにして、腫瘍を標的にする多数の細胞を生成することができる。
【0052】
本明細書で使用する場合、「対象」は、本発明の方法または医薬組成物によって処置することができる疾患(例えば、がん)を有するかまたは罹患しやすい生物を指す。非限定的な例には、ヒト、ウシ、ラット、マウス、イヌ、サル、ヤギ、ヒツジ、ウシ、シカ、および他の非哺乳動物が含まれる。好ましい実施形態では、対象がヒトである。
【0053】
II.改変T細胞を調製する方法
第1の態様では、本発明は、改変T細胞を調製するための方法であって、T細胞における少なくとも1種の抑制タンパク質の発現を低減(ノックダウン)または消失(ノックアウト)させるステップを含む方法を提供する。
【0054】
本明細書で使用する場合、T細胞の「抑制タンパク質」は、T細胞活性の抑制に関係するタンパク質を指す。一部の実施形態では、抑制タンパク質は、T細胞表面抑制受容体またはT細胞疲弊関連タンパク質から選択される。
【0055】
一部の実施形態では、T細胞表面抑制受容体が、腫瘍細胞または周囲の間質細胞の表面に発現されるリガンドを認識するT細胞表面受容体であってもよい。そのような受容体の例には、TIGIT、BTLA、2B4、CD160、CD200R、RARA、またはこれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
一部の他の実施形態では、T細胞表面抑制受容体が、腫瘍微小環境中に存在する、アデノシンおよびエピネフリンなどの分泌物またはIL-10およびTGFβなどのサイトカインを認識する受容体でもよい。そのような分泌物またはサイトカインは、T細胞の腫瘍殺滅効果に影響を及ぼす可能性がある。そのような受容体の例には、A2aR、IL10RA、ADRB2、TGFBRII、またはこれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
本発明者らは、驚くべきことに、TGFβシグナリング経路を抑制することによって、CAR-T細胞などの治療用のT細胞の腫瘍殺滅能力を強化できることを見出した。そのため、一部の好ましい実施形態では、T細胞表面抑制受容体がTGFβ受容体である。一部の好ましい実施形態では、T細胞表面抑制受容体が、TGFBRIIなど、抑制的なサイトカインTGFβ1を認識するT細胞受容体である。加えて、本発明は、T細胞のFOXP3など、TGFβシグナリング経路に関係するタンパク質の発現の低減(ノックダウン)または消失(ノックアウト)も包含する。本発明の一部の実施形態では、T細胞におけるTGFβ受容体(TGFBRIIなど)および/またはFOXP3の発現を低減(ノックダウン)または消失(ノックアウト)させる。
【0058】
一部の実施形態では、T細胞疲弊関連タンパク質が、T細胞疲弊に関係する転写因子、例えば、疲弊したT細胞中でその発現が有意に上方制御されている転写因子である。そのような転写因子の例には、BATF、GATA3、IRF4、またはこれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
疲弊したT細胞のエピジェネティクスは、疲弊していないT細胞のものとは有意に異なることが報告された。したがって、一部の実施形態では、T細胞疲弊関連タンパク質は、エピジェネティック関連タンパク質(例えばメチル基転移酵素)である。一部の実施形態では、メチル基転移酵素がDNMT3Aである。
【0060】
近年になって現れた単細胞配列決定技術によって、疲弊したT細胞で高度に発現されるタンパク質の新しいクラスが得られたが、それらがT細胞機能にどのような影響を与えているかはまだ不明である。疲弊したT細胞で高度に発現されるそのようなタンパク質も、本発明の範囲に含まれる。例えば、一部の実施形態では、T細胞疲弊関連タンパク質がLAYN、MYO7A、PHLDA1、RGS1、RGS2、またはこれらの組合せから選択される。
【0061】
一部の実施形態では、T細胞疲弊関連タンパク質は、T細胞アポトーシスに関係するタンパク質など、T細胞疲弊の内因性メカニズムに関係するタンパク質である。T細胞疲弊の内因性メカニズムに関係するそのようなタンパク質の例は、SHP1、DGKa、Fas、FasL、またはこれらの組合せを含むが、これに限定されるものではない。
【0062】
一部の実施形態では、本発明の方法は、T細胞の上記抑制タンパク質のうちの少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、または5種以上の発現を低減または消失させることを含み、抑制タンパク質が、例えば、TGFβ受容体(TGFBRIIなど)、TIGIT、BTLA、2B4、CD160、CD200R、A2aR、IL10RA、ADRB2、BATF、GATA3、IRF4、RARA、LAYN、MYO7A、PHLDA1、RGS1、RGS2、SHP1、DGKa、Fas、およびFasLから選択される。
【0063】
一部の実施形態では、本発明の方法は、T細胞におけるPD1発現を低減または消失させることをさらに含む。一部の実施形態では、本発明の方法は、T細胞におけるTGFβ受容体(TGFBRIIなど)およびPD1の発現を低減または消失させることを含む。
【0064】
本発明のT細胞は、抗原特異的なT細胞を増殖させることによって、または遺伝子操作を介したT細胞のリダイレクションによって生成される養子免疫治療用のT細胞であってもよい。T細胞は、対象から単離される初代T細胞であってもよい。一部の実施形態では、T細胞が外因性のT細胞受容体(TCR)を含むT細胞である。一部の他の実施形態では、T細胞がキメラ抗原受容体(CAR)を含むT細胞である。一部の実施形態では、T細胞がCD4 T細胞である。一部の実施形態では、T細胞がCD8 T細胞である。
【0065】
一部の実施形態では、上記方法が、対象から単離される改変されていないT細胞を用意する工程と、改変されていないT細胞にTCRまたはCARを導入する工程とをさらに含む。一部の実施形態では、改変されていないT細胞にTCRまたはCARを導入する工程が、T細胞における抑制タンパク質の発現を低減または消失させる工程の前もしくは後またはそれと同時に行われる。
【0066】
一部の実施形態では、TCRまたはCARが、細胞外抗原結合ドメインなどの腫瘍関連抗原に対する抗原結合ドメインを含む。
【0067】
腫瘍関連抗原には、CD16、CD64、CD78、CD96、CLL1、CD116、CD117、CD71、CD45、CD71、CD123、CD138、ErbB2(HER2/neu)、癌胎児抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、EGFR変異体III(EGFRvIII)、CD19、CD20、CD30、CD40、ジシアリルガングリオシドGD2、管上皮ムチン、gp36、TAG-72、グリコスフィンゴリピド、神経膠腫関連抗原、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、α-胎児グロブリン(AFP)、レクチン応答性AFP、チログロブリン、RAGE-1、MN-CA IX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、M-CSF、プロスターゼ、前立腺特異性抗原(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGA-1a、p53、プロステイン、PSMA、生存およびテロメラーゼ、前立腺がん腫瘍抗原-1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インシュリン成長因子(IGF1)-I、IGF-II、IGFI受容体、メソテリン、腫瘍特異性ペプチドエピトープを提示する主要組織適合複合体(MHC)分子、5T4、ROR1、Nkp30、NKG2D、腫瘍間質抗原、フィブロネクチンエクストラドメインA(EDA)およびエクストラドメインB(EDB)、テネイシン-C A1ドメイン(TnC A1)、線維芽細胞関連タンパク質(fap)、CD3、CD4、CD8、CD24、CD25、CD33、CD34、CD133、CD138、Foxp3、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、GM-CSF、サイトカイン受容体、内皮因子、BCMA(CD269、TNFRSF17)、TNFRSF17(UNIPROT Q02223)、SLAMF7(UNIPROT Q9NQ25)、GPRC5D(UNIPROT Q9NZD1)、FKBP11(UNIPROT Q9NYL4)、KAMP3、ITGA8(UNIPROT P53708)、ならびにFCRL5(UNIPROT Q68SN8)が含まれるが、これらに限られていない。好ましい実施形態では、抗原がメソテリンである。
【0068】
本発明によると、抗原結合性ドメインが、例えば、モノクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、シングルドメイン抗体、抗体単鎖可変領域、およびこれらの抗原結合性断片であってもよい。
【0069】
好ましい実施形態では、抗原結合ドメインがメソテリンに対するモノクローナル抗体である。好ましい実施形態では、抗原結合ドメインがメソテリンに対するscFvである。好ましい実施形態では、抗原結合ドメインが、メソテリンに対するscFv P4、例えば、配列番号22に記載のアミノ酸配列を有するscFvである。
【0070】
一部の実施形態では、CARが、CD8膜貫通ドメインまたはCD28膜貫通ドメイン、好ましくは、CD28膜貫通ドメイン、例えば、配列番号23に記載のアミノ酸配列を有するCD28膜貫通構造などの膜貫通ドメインを含む。
【0071】
一部の実施形態では、CARが、細胞外抗原結合ドメインと膜貫通ドメインの間にヒンジ領域をさらに含み、例えば、ヒンジ領域が、配列番号24に記載のアミノ酸配列を有するCD8ヒンジ領域など、CD8ヒンジ領域である。
【0072】
一部の実施形態では、CARが、T細胞活性化に使用することができるシグナル伝達ドメイン、例えば、TCRζ、FcRγ、FcRβ、FcRε、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD5、CD22、CD79a、CD79b、およびCD66dからなる群から選択されるシグナル伝達ドメインを含む。一部の好ましい実施形態では、CARが、配列番号25に記載のアミノ酸配列を有するCD3ζシグナル伝達ドメインなど、CD3ζシグナル伝達ドメインを含む。
【0073】
一部の実施形態では、CARが、CD3、CD27、CD28、CD83、CD86、CD127、4-1BB、および4-1BBLからなる群から選択される1個または複数の共刺激ドメインをさらに含む。一部の実施形態では、CARが、CD28共刺激ドメイン、例えば、配列番号26に記載のアミノ酸配列を有するCD28共刺激ドメインを含む。
【0074】
一部の実施形態では、CARが、GFPタンパク質など、CAR発現を表示またはトラッキングするためのリポーター分子をさらに含んでもよい。
【0075】
本発明の一部の好ましい実施形態では、CARが、メソテリンに対するscFv P4、CD8ヒンジ領域、CD28膜貫通ドメイン、CD28共刺激ドメイン、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、GFPタンパク質を含んでもよい。本発明の一部の好ましい実施形態では、CARが、配列番号27に記載のアミノ酸配列を含む。
【0076】
細胞でタンパク質発現を低減または消失させるためのいくつかの方法が当技術分野で知られている。一部の実施形態では、T細胞における抑制タンパク質の発現が、アンチセンスRNA、アンタゴミル、siRNA、shRNAによって低減または消失している。他の実施形態では、T細胞の抑制タンパク質の発現が、遺伝子編集の方法によって、例えばメガヌクレアーゼ、Znフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ、またはCRISPRシステムによって低減または消失している。本発明の方法の好ましい実施形態では、T細胞で抑制タンパク質の発現を低減または消失させるのにCRISPRシステムが使用される。
【0077】
一部の実施形態では、CRISPRシステムで使用されるヌクレアーゼ(CRISPRヌクレアーゼ)を、例えば、Cas3、Cas8a、Cas5、Cas8b、Cas8c、Cas10d、Cse1、Cse2、Csy1、Csy2、Csy3、GSU0054、Cas10、Csm2、Cmr5.、Cas10、Csx11、Csx10、Csf1、Cas9、Csn2、Cas4、Cpf1、C2c1、C2c3もしくはC2c2タンパク質、またはこれらのヌクレアーゼの機能的な変異体からなる群から選択することができる。
【0078】
一部の実施形態では、CRISPRシステムが、CRISPR/Cas9システムである。一部の実施形態では、CRISPRシステム、例えばCRISPR/Cas9システムが、配列番号1~21および28~31からなる群から選択される細胞内のヌクレオチド配列の1つまたは複数を標的とする。
【0079】
一部の実施形態では、CRISPRシステムをインビトロでアセンブルし、T細胞内に導入する。一部の実施形態では、CRIPSRシステムのすべてのエレメントをコードする発現コンストラクトでT細胞を形質転換する。一部の実施形態では、CRIPSRシステムのエレメントの一部をコードする発現コンストラクトおよび転写または翻訳される他のエレメントをT細胞内に導入する。
【0080】
本発明は、以下のi)~v)のうち少なくとも1つを含む、改変T細胞を調製するためのCRISPR遺伝子編集システムも提供する。
i)CRISPRヌクレアーゼ、および少なくとも1種のガイドRNA;
ii)CRISPRヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む発現コンストラクト、および少なくとも1種のガイドRNA;
iii)CRISPRヌクレアーゼ、および少なくとも1種のガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現コンストラクト;
iv)CRISPRヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む発現コンストラクト、および少なくとも1種のガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現コンストラクト;
v)CRISPRヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列および少なくとも1種のガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現コンストラクト。
上記において、少なくとも1種のガイドRNAは、T細胞で抑制タンパク質をコードしている遺伝子を標的にし、前記抑制タンパク質は、TGFβ受容体(TGFBRIIなど)、TIGIT、BTLA、2B4、CD160、CD200R、A2aR、IL10RA、ADRB2、BATF、GATA3、IRF4、RARA、LAYN、MYO7A、PHLDA1、RGS1、RGS2、SHP1、DGKa、Fas、FasL、またはこれらの組合せなど、T細胞表面抑制受容体またはT細胞疲弊関連タンパク質から選択される。一部の実施形態では、少なくとも1種のガイドRNAが、T細胞でPD1をコードする遺伝子を標的にするガイドRNAをさらに含む。一部の実施形態では、少なくとも1種のガイドRNAが、T細胞でTGFβ受容体(TGFBRIIなど)をコードする遺伝子およびPD1をコードする遺伝子を標的にするガイドRNAを含む。
【0081】
一部の特定の実施形態では、少なくとも1種のガイドRNAが、配列番号1~21および28~31から選択される1つまたは複数のヌクレオチド配列をT細胞で標的にする。
【0082】
一部の実施形態では、CRISPRヌクレアーゼを、例えば、Cas3、Cas8a、Cas5、Cas8b、Cas8c、Cas10d、Cse1、Cse2、Csy1、Csy2、Csy3、GSU0054、Cas10、Csm2、Cmr5、Cas10、Csx11、Csx10、Csf1、Cas9、Csn2、Cas4、Cpf1、C2c1、C2c3、もしくはC2c2タンパク質またはこれらのヌクレアーゼの機能的な変異体からなる群から選択することができる。一部の実施形態では、CRISPRヌクレアーゼがCas9ヌクレアーゼまたはその機能的な変異体である。
【0083】
本発明の方法の一部の実施形態では、T細胞への本発明のCRISPR遺伝子編集システムの導入が含まれる。一部の実施形態では、本発明のCRISPR遺伝子編集システムは、T細胞に導入した後、標的タンパク質の発現の低減または消失(ノックダウンまたはノックアウト)をもたらす。
【0084】
本発明のCRISPRシステムは、リン酸カルシウムトランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、ウイルス感染(例えばバキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、および他のウイルス)など、当技術分野で知られている方法によって、T細胞に形質転換することができる。
【0085】
本発明の改変T細胞を遺伝的改変の前または後に活性化し、増殖させてもよい。T細胞は、インビトロで増殖させても、インビボ増殖させてもよい。一般に、本発明のT細胞は、例えば、T細胞表面のCD3 TCR複合体および共刺激分子を刺激する薬剤と接触させて、T細胞活性化シグナルを生じさせることによって、増殖させることができる。T細胞活性化シグナルを生じさせるのに、例えば、カルシウムイオノフォアA23187、ホルボール 12-ミリスタート 13-アセタート(PMA)などの化学物質またはフィトヘムアグルチニン(PHA)などの有糸分裂レクチンを使用することができる。一部の実施形態では、インビトロで、例えば、抗CD3抗体もしくはその抗原結合性断片、または表面に固定された抗CD2抗体を接触させることによって、またはカルシウムイオノフォア担体と共に、プロテインキナーゼC活性化剤(例えば、moss阻害剤)を接触させることによって、T細胞集団を活性化することができる。例えば、T細胞増殖を刺激するのに適した条件で、T細胞集団が抗CD3抗体および抗CD28抗体と接触していてもよい。T細胞培養に適した条件には、増殖および生存能に必要な因子を含有してもよい適した培養培地(最小必須培地もしくはRPMI Media 1640、またはX-vivo 5(Lonza))が含まれ、必要な因子には、血清(ウシ胎仔血清またはヒト血清など)、インターロイキン-2(IL-2)、インシュリン、IFN-γ、IL-4、IL-7、GM-CSF、IL-10、IL-2、IL-15、TGFβ、およびTNF、または当業者に知られている細胞成長用の添加物が含まれる。細胞増殖のための他の添加物には、界面活性剤、ヒト血漿タンパク質粉末、ならびにN-アセチルシステインおよび2-メルカプト酢酸などの還元剤が含まれるが、これらに限定されない。培養培地には、無血清の、またはT細胞の成長および増殖に十分な、適した量の血清(または血漿)もしくは特定のセットのホルモンで補足された、RPMI 1640、A1M-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo 1、およびX-Vivo 20、オプティマイザー、アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、およびビタミン、および/または特定の量のサイトカインを含めることができる。標的細胞は、適切な温度(例えば、37℃)および環境(例えば、空気+5%CO)など、成長を支えるのに必要な条件で維持することができる。
【0086】
III.改変T細胞
別の態様では、本発明は、改変T細胞であって、改変T細胞の抑制タンパク質の発現が、改変されていないT細胞と比較して低減または消失している、改変T細胞を提供する。一部の実施形態では、改変T細胞が、本発明の方法によって調製される。
【0087】
一部の実施形態では、抑制タンパク質がT細胞表面抑制受容体またはT細胞疲弊関連タンパク質から選択される。
【0088】
一部の実施形態では、T細胞表面抑制受容体が、腫瘍細胞または周囲の間質細胞の表面に発現されるリガンドを認識するT細胞表面受容体であってもよい。そのような受容体の例には、TIGIT、BTLA、2B4、CD160、CD200R、RARA、またはこれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0089】
一部の他の実施形態では、T細胞表面抑制受容体が、腫瘍微小環境中に存在する、アデノシンおよびエピネフリンなどの分泌物またはIL-10およびTGFβなどのサイトカインを認識する受容体でもよい。そのような分泌物またはサイトカインは、T細胞の腫瘍殺滅効果に影響を及ぼす可能性がある。そのような受容体の例には、A2aR、IL10RA、ADRB2、TGFBRII、またはこれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0090】
本発明者らは、驚くべきことに、TGFβシグナリング経路を抑制することによって、CAR-T細胞などの治療用のT細胞の腫瘍殺滅能力を強化できることを見出した。したがって、一部の好ましい実施形態では、T細胞表面抑制受容体がTGFβ受容体である。一部の好ましい実施形態では、T細胞表面抑制受容体が、TGFBRIIなど、抑制的なサイトカインTGFβ1を認識するT細胞受容体である。加えて、本発明は、T細胞のFOXP3など、TGFβシグナリング経路に関係するタンパク質の発現の低減(ノックダウン)または消失(ノックアウト)も包含する。本発明の一部の実施形態では、T細胞におけるTGFβ受容体(TGFBRIIなど)および/またはFOXP3の発現を低減(ノックダウン)または消失(ノックアウト)させる。
【0091】
一部の実施形態では、T細胞疲弊関連タンパク質が、T細胞疲弊に関係する転写因子、例えば、疲弊したT細胞中でその発現が有意に上方制御されている転写因子である。そのような転写因子の例には、BATF、GATA3、IRF4、またはこれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
疲弊したT細胞のエピジェネティクスは、疲弊していないT細胞のものとは有意に異なることが報告された。したがって、一部の実施形態では、T細胞疲弊関連タンパク質がエピジェネティック関連タンパク質(例えばメチル基転移酵素)である。一部の実施形態では、メチル基転移酵素がDNMT3Aである。
【0093】
近年になって現れた単細胞配列決定技術によって、疲弊したT細胞で高度に発現されるタンパク質の新しいクラスが得られたが、それらがT細胞機能にどのような影響を与えているかはまだ不明である。疲弊したT細胞で高度に発現されるそのようなタンパク質も、本発明の範囲に含まれる。例えば、一部の実施形態では、T細胞疲弊関連タンパク質が、LAYN、MYO7A、PHLDA1、RGS1、RGS2、またはこれらの組合せから選択される。
【0094】
一部の実施形態では、T細胞疲弊関連タンパク質が、T細胞アポトーシスに関係するタンパク質など、T細胞疲弊の内因性メカニズムに関係するタンパク質である。T細胞疲弊の内因性メカニズムに関係するそのようなタンパク質の例には、SHP1、DGKa、Fas、FasL、またはこれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0095】
一部の実施形態では、改変されていないT細胞と比較して、本発明の改変T細胞の少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、または5種以上の上記の抑制タンパク質の発現が低減または消失しており、抑制タンパク質が、例えば、TGFβ受容体(TGFBRIIなど)、TIGIT、BTLA、2B4、CD160、CD200R、A2aR、IL10RA、ADRB2、BATF、GATA3、IRF4、RARA、LAYN、MYO7A、PHLDA1、RGS1、RGS2、SHP1、DGKa、Fas、およびFasLから選択される。一部のさらなる実施形態では、改変されていないT細胞と比較して、本発明の改変T細胞のPD1の発現が低減または消失している。一部のさらなる実施形態では、改変されていないT細胞と比較して、本発明の改変T細胞のTGFβ受容体(TGFBRIIなど)の発現が低減または消失している。
【0096】
一部の実施形態では、例えば、本発明の遺伝子編集システムを導入することによって、抑制タンパク質をコードする遺伝子がT細胞でノックアウトされる。
【0097】
本発明によると、改変T細胞は、免疫抑制、抗腫瘍活性、特に固形腫瘍細胞を抑制または殺滅する活性などが軽減されているため、改変されていないT細胞に相当する増殖能力および類似の免疫学的特性を有し、その生物活性が強化されている。
【0098】
一部の実施形態では、T細胞が外因性のT細胞受容体(TCR)を含むT細胞である。一部の他の実施形態では、T細胞がキメラ抗原受容体(CAR)を含むT細胞である。一部の好ましい実施形態では、T細胞がCAR-T細胞である。
【0099】
一部の実施形態では、TCRまたはCARが、細胞外抗原結合ドメインなどの腫瘍関連抗原に対する抗原結合ドメインを含む。
【0100】
腫瘍関連抗原には、CD16、CD64、CD78、CD96、CLL1、CD116、CD117、CD71、CD45、CD71、CD123、CD138、ErbB2(HER2/neu)、癌胎児抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、EGFR変異体III(EGFRvIII)、CD19、CD20、CD30、CD40、ジシアリルガングリオシドGD2、管上皮ムチン、gp36、TAG-72、グリコスフィンゴリピド、神経膠腫関連抗原、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、α-胎児グロブリン(AFP)、レクチン応答性AFP、チログロブリン、RAGE-1、MN-CA IX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、M-CSF、プロスターゼ、前立腺アーゼ特異性抗原(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGA-1a、p53、プロステイン、PSMA、生存およびテロメラーゼ、前立腺ガン腫瘍抗原-1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インシュリン成長因子(IGF1)-I、IGF-II、IGFI受容体、メソテリン、腫瘍特異性ペプチドエピトープを提示する主要組織適合複合体(MHC)分子、5T4、ROR1、Nkp30、NKG2D、腫瘍間質抗原、フィブロネクチンエクストラドメインA(EDA)およびエクストラドメインB(EDB)、テネイシン-C A1ドメイン(TnC A1)、線維芽細胞関連タンパク質(fap)、CD3、CD4、CD8、CD24、CD25、CD33、CD34、CD133、CD138、Foxp3、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、GM-CSF、サイトカイン受容体、内皮因子、BCMA(CD269、TNFRSF17)、TNFRSF17(UNIPROT Q02223)、SLAMF7(UNIPROT Q9NQ25)、GPRC5D(UNIPROT Q9NZD1)、FKBP11(UNIPROT Q9NYL4)、KAMP3、ITGA8(UNIPROT P53708)、ならびにFCRL5(UNIPROT Q68SN8)が含まれるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、抗原がメソテリンである。
【0101】
本発明によると、抗原結合性ドメインが、例えば、モノクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、シングルドメイン抗体、抗体単鎖可変領域、およびこれらの抗原結合性断片であってもよい。
【0102】
好ましい実施形態では、抗原結合ドメインがメソテリンに対するモノクローナル抗体である。好ましい実施形態では、抗原結合ドメインがメソテリンに対するscFvである。好ましい実施形態では、抗原結合ドメインが、メソテリンに対するscFv P4、例えば、配列番号22に記載のアミノ酸配列を有するscFvである。
【0103】
一部の実施形態では、CARが、CD8膜貫通ドメインまたはCD28膜貫通ドメイン、好ましくは、CD28膜貫通ドメイン、例えば、配列番号23に記載のアミノ酸配列を有するCD28膜貫通構造などの膜貫通ドメインを含む。
【0104】
一部の実施形態では、CARが、細胞外抗原結合ドメインと膜貫通ドメインの間にヒンジ領域をさらに含み、例えば、ヒンジ領域が、配列番号24に記載のアミノ酸配列を有するCD8ヒンジ領域など、CD8ヒンジ領域である。
【0105】
一部の実施形態では、CARが、T細胞活性化に使用することができるシグナル伝達ドメイン、例えば、TCRζ、FcRγ、FcRβ、FcRε、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD5、CD22、CD79a、CD79b、およびCD66dからなる群から選択されるシグナル伝達ドメインを含む。一部の好ましい実施形態では、CARが、配列番号25に記載のアミノ酸配列を有するCD3ζシグナル伝達ドメインなど、CD3ζシグナル伝達ドメインを含む。
【0106】
一部の実施形態では、CARが、CD3、CD27、CD28、CD83、CD86、CD127、4-1BB、および4-1BBLからなる群から選択される1個または複数の共刺激ドメインをさらに含む。一部の実施形態では、CARが、CD28共刺激ドメイン、例えば、配列番号26に記載のアミノ酸配列を有するCD28共刺激ドメインを含む。
【0107】
一部の実施形態では、CARが、GFPタンパク質など、CAR発現を表示またはトラッキングするためのリポーター分子をさらに含んでもよい。
【0108】
本発明の一部の好ましい実施形態では、CARが、メソテリンに対するscFv P4、CD8ヒンジ領域、CD28膜貫通ドメイン、CD28共刺激ドメイン、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、GFPタンパク質を含んでもよい。本発明の一部の好ましい実施形態では、CARが、配列番号27に記載のアミノ酸配列を含む。
【0109】
本発明の特定の実施形態では、改変T細胞が、配列番号27で示されるアミノ酸配列のCARを含むCAR-T細胞であり、TGFβ受容体(TGFBRIIなど)、TIGIT、BTLA、2B4、CD160、CD200R、A2aR、IL10RA、ADRB2、BATF、GATA3、IRF4、RARA、LAYN、MYO7A、PHLDA1、RGS1、RGS2、SHP1から選択される少なくとも1種の抑制タンパク質または抑制タンパク質の組合せの発現が低減または消失している。DGKa、Fas、FasL、またはこれらの任意の組合せが低減または消失している。
【0110】
本発明の細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、腹水、胸水、脾臓組織、および腫瘍を含めた多くの非限定的な供給源から、様々な非限定的な方法によって得ることができる。一部の実施形態では、細胞が、健康なドナーまたはがんと診断された患者に由来するものでもよい。一部の実施形態では、細胞が、様々な表現型特徴を示す細胞の混合集団の一部でもよい。一部の実施形態では、T細胞がCD4+ T細胞である。一部の実施形態では、T細胞がCD8+ T細胞である。
【0111】
本発明の様々な態様の一部の実施形態では、T細胞が、対象の自家組織の細胞に由来する。本明細書で使用する場合、「自家組織」は、対象を処置するのに使用される細胞、細胞系、または細胞集団が対象自体に由来することを指す。一部の実施形態では、T細胞が、対象のヒト白血球抗原(HLA)と適合するドナーからのものなど、同種異系細胞に由来する。ドナーからの細胞を非アロ反応性細胞に変え、必要に応じて細胞を増殖させて、1または複数の患者に投与することができる細胞を生じさせるのに、標準的なスキームを使用することができる。
【0112】
本発明のCAR T細胞またはTCR T細胞は、当技術分野で知られている様々な手段で調製することができる。例えば、CAR-T細胞またはTCR-T細胞は、CARまたはTCRコード配列を含む発現コンストラクトでT細胞に形質導入することによって得ることができる。当業者であれば、ウイルスベクターなど、タンパク質発現に適した発現コンストラクトを容易に構築することができる。
【0113】
IV.医薬組成物および適用
別の態様では、本発明は、がんを処置するための医薬組成物であって、本発明の改変T細胞と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。さらに、本発明は、がんの処置のための医薬の製造における、本発明の改変T細胞の使用も提供する。
【0114】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される担体」は、生理的に適合性であるすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌性剤、等張剤、および吸収遅延剤などが含まれる。好ましくは、担体は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、非経口投与、脊髄投与、表皮投与(例えば、注射または輸液による)に適したものである。
【0115】
本発明は、別の態様では、がんを処置するための方法であって、治療有効量の本発明の改変T細胞または本発明の医薬組成物を、必要のある対象に投与することを含む方法も提供する。
【0116】
一部の実施形態では、上記方法は、対象に放射線療法および/または化学療法および/または追加の腫瘍標的薬(例えば、他の抗原を標的にするモノクローナル抗体または小分子化合物)を投与することをさらに含む。
【0117】
本明細書で使用する場合、「治療有効量」または「治療有効用量」または「有効量」は、少なくとも対象に投与した後で治療効果を生むのに十分である、物質、化合物、材料、または細胞の量を指す。したがって、それは、疾患または状態の症状を予防、治癒、寛解、抑止、または部分的に抑止するのに必要な量である。
【0118】
例えば、本発明の細胞または医薬組成物の「有効量」は、好ましくは、疾患の症状の重症度の低減、疾患の無症状期の頻度および期間の増大、または疾患によって引き起こされる損傷もしくは障害の予防をもたらす。例えば、腫瘍の処置に関する場合、本発明の細胞または医薬組成物の「有効量」は、好ましくは、処置を受けていない対象と比較して、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、腫瘍細胞成長または腫瘍成長を抑制する。腫瘍成長を抑制する能力は、ヒト腫瘍に対する治療効果を予測するのに使用できる動物モデルシステムで評価することができる。代わりに、それは、腫瘍細胞成長を抑制する能力を調べることによって評価することもでき、腫瘍細胞成長を抑制する能力は、当業者によく知られているアッセイでインビトロ測定することができる。
【0119】
本発明の医薬組成物中の細胞の実際の投薬レベルは、特定の患者、組成物、および投与方法について、患者への毒性なしで、所望の治療応答を実現するのに有効な細胞の量を得るように変えることができる。選択される投薬レベルは、使用される本発明の特定の組成物の活性、投与経路、投与時間、使用される特定の化合物の排出速度、処置の期間、使用される特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物、および/または物質、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、健康状態、および病歴、ならびに医術においてよく知られている同様の因子を含めた、様々な薬物動態学的因子に依存することになる。
【0120】
驚くべきことに、本発明の改変T細胞は、対照T細胞(細胞内で抑制タンパク質の発現が低減または消失していない)よりも低用量で、より優れた治療効果を実現できる。これは、高用量投与と関連する副作用を低減しながら、調製の時間および費用を低減するのに特に有利である。
【0121】
例えば、本発明の改変T細胞は、細胞内で抑制タンパク質の発現が低減または消失していない対照T細胞の約2分の1、約3分の1、約4分の1、約5分の1、約6分の1、約7分の1、約8分の1、約9分の1、約10分の1、約15分の1、約20分の1、約30分の1、約40分の1、約50分の1、約100分の1、約150分の1、および約200分の1以下の用量で投与される。
【0122】
本発明の細胞または医薬組成物によって処置することができるがんの非限定的な例には、肺がん、卵巣がん、結腸がん、直腸がん、黒色腫、腎がん、膀胱がん、乳がん、肝がん、リンパ腫、血液系腫瘍、頭頸部がん、グリア系腫瘍、胃がん、上咽頭がん、喉頭がん、子宮頸がん、子宮体部腫瘍、および骨肉腫が含まれる。本発明の方法または医薬組成物で処置できる他のがんの例には、骨がん、膵がん、皮膚がん、前立腺がん、皮膚または眼内悪性黒色腫、子宮がん、肛門がん、精巣がん、卵管がん、子宮体がん、腟がん、腟がん、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、慢性または急性白血病(急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、および慢性リンパ性白血病を含む)、小児固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱がん、腎または尿管がん、腎盂がん、中枢神経系(CNS)腫瘍、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊椎腫瘍、脳幹部神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、表皮癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、およびアスベスト誘発性がんを含めた環境誘発性がん、ならびにこれらのがんの組合せが含まれる。好ましくは、がんが固形腫瘍がんである。一部の実施形態では、がんが、肺扁平上皮癌などの肺がんである。一部の特定の実施形態では、がんが卵巣がんである。一部の特定の実施形態では、がんが結腸がんである。
【0123】
V.キット
本発明は、本明細書に記載の改変T細胞を調製するためのCRISPR遺伝子編集システムと、遺伝子編集システムを細胞に導入するのに適した試薬とを含む、本発明の改変T細胞を調製する方法で使用するためのキットも提供する。
【0124】
一部の実施形態では、キットがCas9タンパク質などのCRISPRヌクレアーゼを含む。一部の実施形態では、キットが、1種または複数のsgRNAを含み、例えば、sgRNAが、配列番号1~21および28~31中の任意の1つまたは複数の標的配列を標的にする。一部の他の実施形態では、キットが、sgRNAのインビトロ転写のための試薬を含有する。
【0125】
キットは、T細胞を検出する、T細胞を単離する、T細胞を活性化する、および/またはT細胞を増殖させるための試薬をさらに含んでもよい。キットは、CARまたはTCRをT細胞に導入するための試薬、CARまたはTCRを発現している細胞を検出および/または単離するための試薬をさらに含んでもよい。キットは、本発明の方法を実行するための指示も含有してもよい。
【実施例
【0126】
本明細書に記載の例を参照することによって、本発明のさらなる理解を得ることができる。ただし、それらは、本発明の範囲の限定を意図するものではない。本発明の精神を逸脱せずに、本発明に様々な改変および変更を加えることができ、かかる改変および変更も本発明の範囲に含まれることは明らかである。
【0127】
材料と方法
1.sgRNAのインビトロ転写
まず、バイオテクノロジー会社によって、T7プロモーターおよび20bpの標的配列(sgRNA)を含有するフォワードプライマーが合成された。次いで、pX330プラスミド(Addgeneプラスミド#4223)をPCRテンプレートとして用いて、T7-sgRNA PCR産物をインビトロで増幅させ、PCR精製キットを用いてPCR産物を精製した。次いで、精製されたT7-sgRNA PCR産物をテンプレートとして用い、MEGAshortscript T7キット(Thermo Fisher Scientific)を用いてsgRNAをインビトロで転写し、MEGAclearカラム(Thermo Fisher Scientific)でsgRNAを回収し、sgRNAをRNaseフリーの脱イオン水に溶解させ、別々に凍結させるか、以降の使用のために貯蔵した。
【0128】
【表1】


【0129】
2.Cas9タンパク質とsgRNAの複合体
まず、適量の対応sgRNAをRNaseフリーのEPチューブに添加し、次いで、Cas9タンパク質をゆっくり添加し、穏やかに混合し、室温で15分間インキュベートして、以降の使用のためのRNPを形成させた。
【0130】
3.エレクトロポレーション形質転換
1)P3 Primary Cell 4D-Nucleofector X Kitを用いた。
2)1.5ml/ウェルの完全培地を12ウェルプレートに添加し、37℃で30分間超予熱した。同時に、15mlの遠心分離機チューブ内の培地を予熱した。50mlのPBSを予熱した。
3)対応sgRNAをRNaseフリーのEPチューブに添加し、次いで、対応量のCas9タンパク質をゆっくり添加し、穏やかに混合し、室温で20分間インキュベートして、RNP複合体を形成させた。
4)電気回転バッファー(electrorotation buffer)の調製:100ul系中に、82μl Nuclepfector溶液+18μlサプリメント。
5)sgRNAとcas9タンパク質のインキュベーション中に、エレクトロポレーションに必要とされる細胞を同時調製した。
6)3日間活性化させたT細胞を収集し、計数し、必要量の細胞(3e6細胞/試料)を取り出した。
7)溶液を、室温で5分間、200gで遠心処理した。
8)上清を除去し、予熱したPBSで細胞を1回洗浄し、次いで、室温で5分間、200gで遠心処理した。
9)上清を除去し、残留液を、さらに、できるだけ多く取り除いた。
10)細胞を予め調製したエレクトロポレーションバッファーで再懸濁し、穏やかに混合した。
11)200μl/試料(二連のウェルを含む)を再懸濁細胞から取り出し、インキュベートされたRNPの中に入れ、穏やかに混合し、次いで、100μl/試料の混合物をエレクトロポレーションキュベットに添加した。
12)エレクトロポレーション用のプログラムは、刺激されたT細胞(EO-115)である。
13)エレクトロポレーションの後、500μlの予熱された培地をキュベットに迅速に添加し、ピペットで穏やかに混合し、細胞懸濁液を予熱された12ウェルプレート内にピペットで移し、インキュベーターに入れ、5%CO2、37℃でインキュベートした。
14)エレクトロポレーションの6時間後に、半分の培地を新たにし、震とうさせないように慎重に細胞をインキュベーターから取り出し、ウェル壁に沿って1ml/ウェルの培地をピペットから慎重に出し、次いで、1mlの予熱されたT細胞培養培地を各ウェルに添加した。
15)その後、細胞成長の状態に応じて、時間通りに継代接種を行い、細胞密度を1e6細胞/mlに維持した。
【0131】
4.CD3+細胞の単離とCAR-T細胞の調製
末梢血または臍帯血をリンパ球セパレーター(Histopaque-1077)で単核細胞(PBMC)にソーティングした後、次いで、EasySeqヒトT細胞濃縮キットを用いて、PBMCをCD3+細胞から分離した。CD3+細胞を得た後、CAR-T細胞を得るために、CARレンチウイルス感染を行った。
【0132】
その後、上述のように、各RNPを、エレクトロポレーションでCAR-T細胞に導入し、標的遺伝子をノックアウトし、遺伝子編集されたCAR-T細胞を得た。
【0133】
5.腫瘍細胞系
腫瘍細胞CRL5826(NCI-H226ヒト肺扁平上皮細胞系)、OVCAR3(ヒト卵巣がん細胞)、およびHCT116(ヒト結腸がん細胞)は、ATCCから購入した。これらはすべて、メソテリンという抗原を発現する。ルシフェラーゼを発現するように、細胞系をウイルスに感染させて、ルシフェラーゼを安定して発現する細胞系(CRL5826-luci、OVCAR3-luci、HCT116-luci)を得た。これに基づいて、PDL1を発現するウイルスをトランスフェクションし、PDL1の発現が高い細胞系(CRL5826-PDL1-luci)を得た。
【0134】
6.CAR-T細胞のインビトロ殺滅
腫瘍細胞を、10/100ulの密度で、96ウェルマイクロアッセイプレート(greiner bio-one)に入れた。CAR-T細胞を正確に計数し、エフェクター細胞:標的細胞の様々な比率に応じて希釈し、対応するウェルに100ulを添加した。対照群用に、100ulの培養培地を添加した。指定された時点に、10ulのSteady-Glo(登録商標)Luciferase Assay System=をすべてのウェルに添加し、5分後にマイクロプレートリーダーで読みとった。読取り値を得た後に、次のように殺滅の百分率を計算した。殺滅(%)=100-(実験群の読取り値/対照群の読取り値)×100。
【実施例1】
【0135】
様々なCAR構造を有するCAR-T細胞の効果
図1に構造を示し、図中、P4が抗メソテリンscFvである、4タイプのCAR(P4-z、P4-BBz、P4-28z、およびP4-28BBz)を設計し、CAR-T細胞を調製した。
【0136】
1:1のエフェクター細胞:標的細胞比で、得られたCAR-T細胞とH226細胞を20時間共培養し、IFN-γおよびIL-2の放出を測定した。
【0137】
2:1のエフェクター細胞:標的細胞比で、得られたCAR-T細胞を、ルシフェラーゼを発現するH226細胞(H226-luci)と3日間共培養し、残存腫瘍細胞のルシフェラーゼ活性を測定することによって、標的細胞溶解百分率を計算した。
【0138】
図2に示すように、P4-z、P4-BBz、およびP4-28BBzと比較して、P4-28zは、高放出のIFN-γおよびIL-2(図2A)および高い特異的細胞溶解(図2B、*はP<0.05を意味し、****はP<0.0001を意味する)を示した。
【0139】
P4-CAR-T細胞と呼ばれる、P4-28zを含有するCAR-T細胞を、以下の実験すべてで用いた。
【実施例2】
【0140】
CAR-T細胞で抑制受容体を編集することが腫瘍殺滅に及ぼす効果
この例では、CAR-T細胞における抑制受容体TIGIT、BTLA、CD160、2B4、およびCD200Rを、遺伝子編集を介してノックアウトし、それらが腫瘍殺滅に及ぼす効果を研究した。
【0141】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、TIGITノックアウト群は、CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciに対して、対照CAR-T細胞のものより低くない殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞より強い殺滅を示した。(図3
【0142】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、TIGITノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、OVCAR3-luciおよびHCT116-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞より強い殺滅を示した。(図4
【0143】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、BTLAノックアウト群は、CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciに対して、対照CAR-T細胞のものより低くない殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞より強い殺滅を示した。(図5
【0144】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、BTLAノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、OVCAR3-luciおよびHCT116-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞より強い殺滅を示した。(図6)。
【0145】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、CD160ノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞より強い殺滅を示した。(図7)。
【0146】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、CD160ノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、OVCAR3-luciおよびHCT116-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞より強い殺滅を示した。(図8
【0147】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、2B4ノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞のものより低くない殺滅を示した。(図9
【0148】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、2B4ノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、OVCAR3-luciおよびHCT116-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞より強い殺滅を示した。(図10
【0149】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、CD200Rノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞より強い殺滅を示した。(図11
【0150】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、CD200Rノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、OVCAR3-luciおよびHCT116-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞より強い殺滅を示した。(図12
【実施例3】
【0151】
CAR-T細胞でT細胞疲弊関連転写因子を編集することが腫瘍殺滅に及ぼす効果
この例では、CAR-T細胞におけるT細胞疲弊関連転写因子BATF、GATA3、IRF4、およびRARAを、遺伝子編集を介してノックアウトし、それらが腫瘍殺滅に及ぼす効果を研究した。
【0152】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、BATFノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞より有意に強い殺滅を示した。(図13
【0153】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、BATFノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、OVCAR3-luciおよびHCT116-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞より有意に強い殺滅を示した。(図14
【0154】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、GATA3ノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞のものより低くない殺滅を示した。(図15)。
【0155】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、GATA3ノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、OVCAR3-luciおよびHCT116-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞のものより低くない殺滅を示した。(図16
【0156】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、RARAノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciに対する殺滅効果を示した。0.2:1では、4日目および7日目におけるノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞のものより低くない、70%超に達した。0.1:1まで低減されたエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるRARAノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞より強かった。(図17
【0157】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、IRF4ノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciに対する殺滅効果を示した。0.2:1では、4日目および7日目におけるノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞より強かった。0.1:1まで低減されたエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるIRF4ノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞より強かった。(図45
【実施例4】
【0158】
CAR-T細胞で腫瘍微小環境関連受容体を編集することが腫瘍殺滅に及ぼす効果
この例では、CAR-T細胞における腫瘍微小環境関連受容体A2aR、IL10RA、およびADRB2を、遺伝子編集を介してノックアウトし、それらが腫瘍殺滅に及ぼす効果を研究した。
【0159】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、A2aRノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞のものより有意に強い殺滅を示した。(図18
【0160】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、A2aRノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、OVCAR3-luciおよびHCT116-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞のものより強い殺滅を示した。(図19
【0161】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、IL10RAノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciに対する殺滅効果を示した。0.2:1という、より低いエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞のものより低くない、70%超に達した。0.1:1まで低減されたエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるIL10RAノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞より強かった。(図20
【0162】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、ADRB2ノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciに対する殺滅効果を示した。0.2:1という、より低いエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞のものより低くない、70%超に達した。0.1:1まで低減されたエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるADRB2ノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞より強かった。(図21
【実施例5】
【0163】
CAR-T細胞でT細胞疲弊関連のエピジェネティック遺伝子を編集することが腫瘍殺滅に及ぼす効果
この例では、CAR-T細胞における、メチル基転移酵素DNMT3AなどのT細胞疲弊関連のエピジェネティック遺伝子を、遺伝子編集を介してノックアウトし、それらが腫瘍殺滅に及ぼす効果を研究した。
【0164】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、DNMT3Aノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciに対する殺滅効果を示した。0.2:1という、より低いエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞のものより低くない、70%超に達した。0.1:1まで低減されたエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるDNMT3Aノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞より強かった。(図22
【実施例6】
【0165】
CAR-T細胞における疲弊したT細胞で過剰発現される遺伝子を編集することが腫瘍殺滅に及ぼす効果
この例では、CAR-T細胞における疲弊したT細胞で高度に発現される未知の機能を有するいくつかの遺伝子を、遺伝子編集を介してノックアウトし、それらが腫瘍殺滅に及ぼす効果を研究した。これらの遺伝子には、LAYN、MYO7A、PHLDA1、RGS1、RGS2が含まれる。
【0166】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、LAYNノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciおよびCRL5826-PDL1-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞のものより低くない殺滅を示した。(図23
【0167】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、LAYNノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、OVCAR3-luciおよびHCT116-luciに対する殺滅効果を示した。長期および低エフェクター:標的比の殺滅については、それは、対照CAR-T細胞のものより強い殺滅を示した。(図24)。
【0168】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、PHLDA1ノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciに対する殺滅効果を示した。0.2:1という、より低いエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞のものより低くない、70%超に達した。0.1:1まで低減されたエフェクター:標的比では、4日目および7日目、特に7日目におけるPHLDA1ノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞より強かった。(図25
【0169】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、RGS1ノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciに対する殺滅効果を示した。0.2:1という、より低いエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞のものより低くない、70%超に達した。0.1:1まで低減されたエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるRGS1ノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞より強かった。(図26
【0170】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、RGS2ノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciに対する殺滅効果を示した。0.2:1という、より低いエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞のものより低くない、70%超に達した。0.1:1まで低減されたエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるRGS2ノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞より強かった。(図27
【0171】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、MYO7Aノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciに対する殺滅効果を示した。0.2:1という、より低いエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞のものより低くない、70%超に達した。0.1:1まで低減されたエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるMYO7Aノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞より強かった。(図28
【実施例7】
【0172】
CAR-T細胞におけるT細胞疲弊の内因性メカニズムに関係する遺伝子を編集することが腫瘍殺滅に及ぼす効果
この例では、CAR-T細胞における、SHP1、DGKa、Fas、およびFasLなどのT細胞疲弊の内因性メカニズムに関係する遺伝子を、遺伝子編集を介してノックアウトし、それらが腫瘍殺滅に及ぼす効果を研究した。
【0173】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、Fasノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciに対する殺滅効果を示した。0.2:1という、より低いエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞のものより低くない、70%超に達した。0.1:1まで低減されたエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるFasノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞より強かった。(図29
【0174】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、FasLノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciに対する殺滅効果を示した。0.2:1という、より低いエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞のものより低くない、70%超に達した。0.1:1まで低減されたエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるFasLノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞より強かった。(図30
【0175】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、SHP1ノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciに対する殺滅効果を示した。0.2:1という、より低いエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞のものより低くない、70%超に達した。0.1:1まで低減されたエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるSHP1ノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞よりはるかに強かった。(図31
【0176】
高エフェクター:標的比(1:1)および短期(24h、48h)では、DGKaノックアウト群は、対照CAR-T細胞のものより低くない、CRL5826-luciに対する殺滅効果を示した。0.2:1という、より低いエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞のものより低くない、70%超に達した。0.1:1まで低減されたエフェクター:標的比では、4日目および7日目におけるDGKaノックアウト群の殺滅が、対照CAR-T細胞より強かった。(図32
【実施例8】
【0177】
TGFβシグナリング経路の抑制による、固形腫瘍の治療におけるCAR-T細胞の効果の改善
1.TGFβ1は、P4-CAR-T細胞の効果を負に調節し、P4-CAR-T細胞を誘導して、機能的な調節性T細胞(Treg)に変えることができる。
TGFβ1がCAR-T細胞の殺滅効果に影響を及ぼすかどうか確かめるために、本発明者らは、5ng/mlのTGFβ1を添加したまたは添加しない培養系で、メソテリンを標的とするP4-CAR-T細胞をCRL5826中皮腫細胞と1:1の比率でインキュベートした。結果は、24時間の共インキュベーションの後、TGFβ1群におけるP4-CAR-T細胞の標的指向殺滅能力が、非添加群のものより有意に低かったことを示した(図33A)。TGFβ1群におけるP4-CAR-T細胞の殺滅能力が低減している理由を、最初に探索する目的で、培養培地中のIL-2およびIFN-γの放出を検出した。P4-CAR-T細胞をCRL5826と共にインキュベートしたときに、大量のIL-2およびIFN-γが産出されたことが見出された。しかし、TGFβ1が添加されたときには、IL-2およびIFN-γの放出が約50%低減した(図33 BおよびC)。
【0178】
TCR活性化の条件下およびTGFβ1の存在下で、T細胞を誘導性Tregに変えることができることが報告された。本発明者らは、メソテリンを強く発現するP4-CAR-TおよびOVCAR-3細胞の共インキュベーション系に5ng/mlのTGFβ1を添加して、Tregの産生を誘導できるかどうか観察した。合計3日間のインキュベーションの後、P4-CAR-T細胞を選別し、P4-CAR-T細胞におけるFOXP3の発現レベルがTGFβ1群で有意に増大したことが見出された(図34A)。これらのP4-CAR-T細胞を、バイオレット標識されたCD4+ CD25レスポンダー細胞と2:1および1:1の比率でインキュベートし、TGFβ1群に添加されたP4-CAR-T細胞が、レスポンダー細胞の増殖を有意に抑制できたことが見出された(図34B)。この実験は、TGFβ1の存在下で、CAR-T細胞を、増殖を抑制する能力を有する機能的なTregに変えることができることを示す。これらのP4-CAR-T細胞をOVCAR-3と再びインキュベートし、TGFβ1群におけるP4-CAR-T細胞の殺滅能力が、非TGFβ1群のものより有意に低かったことが見出された(図34C)。
【0179】
加えて、抗原によって誘導されるP4-CAR-T細胞増殖に及ぼすTGFβ1の影響を観察した。IL-2を含まないP4-CAR-T細胞培養系において、CRL5826腫瘍細胞を2日毎に添加して、TGFβ1の添加有りまたは無しで、P4-CAR-T細胞の増殖を誘導する。CRL5826は、P4-CAR-T細胞の有意な増殖を誘導できるが、TGFβ1群において、P4-CAR-T細胞は、基本的に増殖しなかったことをみることができる(図35A)。同時に、TGFβ1群では、P4-CAR-T細胞の状態も、TGFβ1群のものより有意に悪かったことが観察された(図35B)。
2.TGFBR IIまたはFOXP3のノックアウトは、P4-CAR-T細胞の影響を改善することができる。
【0180】
上記のように、TGFβ1は、実際、P4-CAR-T細胞の影響を負に調節できることが観察された。この実験では、P4-CAR-T細胞上のTGFβ1結合受容体またはTregによって産生される重要な転写因子であるFOXP3をノックアウトした。TGFβ1存在におけるP4-CAR-T細胞の効果に対する影響を研究した。本発明者らは、CRISPR/Cas9技術を用いて、P4-CAR-T細胞のTGFBR IIまたはFOXP3をノックアウトした。
【0181】
図36に示すように、TGFBR IIの4つの異なる標的配列:sgRNA-1(標的配列:TGCTGGCGATACGCGTCCAC、配列番号28)、sgRNA-4(標的配列:CCATGGGTCGGGGGCTGCTC、配列番号29)、SgRNA-5(標的配列:CGAGCAGCGGGGTCTGCCAT、配列番号30)、sgRNA-8(標的配列:CCTGAGCAGCCCCCGACCCA、配列番号31)に対するsgRNAを試験した。これらの4つのsgRNAは、すべて、TGFBR IIノックアウトを達成することができる(図36A)。それらのうち、sgRNA-8が最高効率を有する。最適化の後、ノックアウト効率は、80%超に達することができる。同様に、FOXP3をノックアウトした。
【0182】
TGFBR IIをノックアウトした後では、たとえ10ng/mlのTGFβ1を添加しても、P4-CAR-T細胞の殺滅効果は、いかなる形の影響も受けず、さらに、FOXP3ノックアウトは、CAR-T細胞の殺滅効果を部分的に改善することもできたことが見出された(図37A)。また、TGFBR IIノックアウトは、TGFβ1の存在下で、P4-CAR-T細胞からのIL-2およびIFN-γの放出を有意に増大することができることが見出された。しかし、FOXP3のノックアウトは、P4-CAR-T細胞からのIL-2およびIFN-γの放出を増大させなかった(図37BおよびC)。加えて、TGFBR IIまたはFOXP3のノックアウトは、P4-CAR-T細胞における、TGFβ1添加によるTCR活性化およびFOXP3発現を有意に低減することができ(図38A)、腫瘍細胞に対するP4-CAR-T細胞の殺滅能力を有意に改善できることが見出された(図38B)。加えて、TGFBR IIノックアウトは、TGFβ1の存在下で抗原によって誘導されるP4-CAR-T細胞の増殖および生存を有意に改善することができる。しかし、FOXP3ノックアウトは、TGFβ1の存在下で抗原によって誘導される、P4-CAR-T細胞の増殖および生存を有意に改善しなかった(図39AおよびB)。TGFBR IIまたはFOXP3のノックアウトは、P4-CAR-T細胞の増殖能、CARの発現、およびT細胞サブセットの分布に影響を及ぼさなかったことは言及に値する(図40)。
【0183】
3.TGBR IIまたはFOXP3のノックアウトは、CD4+ CAR-T細胞の効果を改善することができる
この実験は、P4-CAR-T細胞におけるCD4およびCD8サブグループにTGFβ1が及ぼす効果を調査した。CD4+ CAR-T細胞とCRL5826の共インキュベーション系で、様々な濃度のTGFβ1を添加した。5または10ng/mlのTGFβ1が添加したとき、P4-CAR-T細胞の標的指向殺滅能力を有意に抑制できたことが見出された(図41A)が、TGFBR IIまたはFOXP3のノックアウトは、CD4+ CAR-T細胞の殺滅能力を有意に改善することができた(図41B)。また、TGFβ1は、CD4+ CAR-T細胞で、FOXP3の上方制御ならびにIL-2およびIFN-γの下方制御など、多くの遺伝子の発現を転写レベルで調節できることが見出された。TGBR IIをノックアウトした後、FOXP3が低減され、IL-2およびIFN-γが上方制御された(図41C~E)。しかし、GZMBの発現は、TGFβ1によって有意に影響を受けなかった(図41F)。IL-2およびIFN-γの発現における類似の変化が、タンパク質レベルでも観察された(図42A)。加えて、TGFβ1は、抗原によって誘導されるCD4+ CAR-T細胞の増殖能を有意に抑制できることも観察された。TGFBR IIノックアウトは、この現象を有意に改善することができるが、FOXP3ノックアウトの効果は明らかでない(図42B)。また、複数ラウンドの抗原刺激の後にTGBR IIまたはFOXP3がノックアウトされたCD4+ CAR-T細胞の殺滅能力は、編集されていないCD4+ CAR-T細胞のものより有意によかった(図42C)。
【0184】
4.TGBR IIまたはFOXP3のノックアウトは、CD8+ CAR-T細胞の効果を改善することができる
CD8+ CAR-T細胞とCRL5826の共インキュベーション系で、様々な濃度のTGFβ1を添加した。添加される濃度が増大するにつれて、CD8+ CAR-T細胞の腫瘍殺滅能力の抑制が、より明らかになる(図43A)が、TGFBR IIまたはFOXP3ノックアウトは、CD8+ CAR-T細胞の殺滅能力を有意に改善できることが見出された(図43B)。また、TGFβ1は、CD8+ CAR-T細胞で、IL-2、IFN-γ、GZMA、およびGZMBの下方制御など、多くの遺伝子の発現を転写レベルで調節できることが見出された。TGBR IIをノックアウトした後、これらの遺伝子の発現を上方制御することができる(図43C~F)。本発明者らは、タンパク質レベルでも、IFN-γ発現の類似の変化を観察した(図44A)。しかし、TGBR IIがノックアウトされているCD8+ CAR-T細胞における明らかなIL-2発現を除いて、他のすべての群は、明らかな発現を示さなかった(図44A)。加えて、TGFβ1は、抗原によって誘導されるCD8+ CAR-T細胞の増殖能を有意に抑制できることも観察された。TGFBR IIノックアウトは、この現象を有意に改善することができるが、FOXP3ノックアウトの効果は明らかでない(図44B)。また、複数ラウンドの抗原刺激の後にTGBR IIまたはFOXP3がノックアウトされたCD8+ CAR-T細胞の殺滅能力は、編集されていないCD8+ CAR-T細胞のものより有意によかった(図44C)。しかし、CD8+ CAR-T細胞の抗原刺激性増殖能および複数ラウンドの殺滅能力が、CD4+ CAR-T細胞のものより有意に弱いことは言及に値する。
【実施例9】
【0185】
TGFBR II/PD1二重編集CAR-T細胞は、固形腫瘍に対する改善された治療効果を有する
9.1 TGFβ1は、PD1を上方制御することによってCAR-T細胞消耗を加速する
T細胞シグナリングの連続的活性化によって消耗がもたらされる。消耗したT細胞は、増殖能力およびエフェクター機能が低減しており、免疫チェックポイント遺伝子(例えばPD1)の過剰発現を有する。TGFβ1添加の後、M28zにおけるPD1 mRNAの発現が有意に増大したことが観察され(図46)、複数ラウンドの抗原刺激アッセイを用いて、TGFβ1がCAR-T細胞消耗を加速するかどうかさらに調査した。TGFβ1は、複数回の腫瘍細胞攻撃の後、CAR-T細胞の増殖に有意に影響を及ぼしたことが見出された。4回目のチャレンジでは、TGFβ1の存在下で、ほとんどすべてのCAR-T細胞が死滅したが、対照細胞は良好に生存した。TGFBR IIのノックアウトは、CAR-T細胞をTGFβ1効果に対して非応答性にし、対照群のものに類似した生存をもたらした(図47Aおよび47B)。TGFβ1の存在下では、2回のチャレンジの後、CAR-T細胞の腫瘍溶解活性がゼロまで低減したが、M28z-TKO(TGFBR II KO)細胞は、活性のままだった(図47C)。したがって、3ラウンドの腫瘍チャレンジの後、TGFβ1の添加は、CAR-T細胞におけるPD-1の発現を有意に増大させ、TGFBR IIのノックアウトは、この効果を低減した。一方、TIM3、LAG3、およびCTLA4の発現では、TGFβ1に対する反応が、より弱く、これは、PD1が、TGFβ1駆動のCAR-T消耗によって誘導される主な標的であることをさらに示している(図47D)。M28z-TKOに、有意な数のPD1発現細胞がまだあることは留意するに値する。これは、それらがTGFβ1シグナリングに応答しないが、TME(腫瘍微小環境)内で、対応するリガンドによって抑制される傾向があることを示している。
【0186】
PD1の上方制御がどのようにTGFβの抑制効果に寄与するのかを評価する目的で、PD1 KO(M28z-PKO)およびPD1/TGFBR II二重KO(M28z-DKO)CAR-T細胞を作製し、PDL1も過剰発現させて、より大きな阻害効果TMEをモデル化した。TGFβ1によって誘導されたM28zにおけるPD1の上方制御と比較して、M28z-PKOおよび-DKO細胞におけるPD1の発現は、基底レベルまで低減した。これは、この遺伝子編集が有効であることを示している。複数回の腫瘍チャレンジにおいて、PD1をノックアウトすることによって、CAR-T増殖が改善したが、これは依然として、TKOおよびDKOよりは悪かった(図47F)。TGFβ1およびPDL1の過剰発現存在下では、M28zの腫瘍溶解能力が、第2ラウンドで低減し、第3ラウンドでは、完全に失われた。第3ラウンドでは、M28z-PKOは、90%超の腫瘍溶解を達成することができ、第4ラウンドでは、その有効性を失った。一方、M28z-TKOは、第4ラウンドにおいて、腫瘍溶解能力の約60%を維持することができた(図47G)。これらのデータは、すべて、PD1の上方制御がTGFβの負の調節に部分的に寄与することを示している。他方、一部のTKO細胞は、依然としてPD1を発現し、それゆえ、PDL1によって抑制されるので、TGFβシグナリングは、PD1発現の理由の一部でしかない。DKO CAR-T細胞が、最高のパフォーマンスを有し、第4ラウンドで腫瘍の約90%を消失させる(図47G)。これは、TGFβおよびPD1シグナリングの両方を遮断することで、抑制的なTMEに対するCAR-Tの抵抗をさらに改善することができることを示している。
【0187】
9.2 TGFBR II/PD1二重編集CAR-T細胞は、PDL1過剰発現を有するCDXモデルに対する改善された腫瘍排除効果を有する
TGFβ1およびPDL1の二重免疫抑制に対するCAR-T細胞へのTGFBR IIおよびPD1の二重KOの相乗効果をインビトロで確認した後、CRL5826-PDL1 CDXモデルにおけるM28z-DKOのインビボ腫瘍排除における利点をさらに論じた(図48Aおよび48B)。PBS群における急速な増大およびM28z群における遅い増大と比較して、腫瘍体積は、基底レベルに制御され、M28z-TKO群では、腫瘍の20%が除去された。しかし、実験の終わりには、M28z-PKO群および-DKO群の腫瘍の80%が、それぞれ完全に消失した(図48C)。腫瘍サイズおよび腫瘍重量でも同じ傾向が検出された(図48Dおよび48E)。GvHD症状を有するマウスが観察されず、すべてのマウスが良好な体重を維持したことは留意するに値する(図48F)。末梢血分析は、hCD3陽性およびGFP陽性の細胞の割合が低く、それらが、M28z群と比較して、編集CAR-T細胞処置群では増大したが、有意には増大しなかったことを示した(図48G)。
【0188】
腫瘍負荷がM28z-DKOの排除利点を示すのに十分でないという可能性を考慮して、M28z-PKOおよび-DKO群で、腫瘍除去されたマウスに同じCDXを対側に再接種した。対照群における急速な成長と比較して、M28z-PKOと-DKO群では、再接種の28日後に腫瘍が再び根絶された(図48I、左パネル)。同時に、いずれのマウスもGvHD症状を発症せず、良好な体重を維持し(図48I、右パネル)、hCD3陽性およびGFP陽性の細胞の比率は、わずか約2%であった(図48J)。しかし、M28z-PKO群では、対側の再接種腫瘍の消失の後、根絶の10週間後に、原発腫瘍の50%が再発した(図48H)。これらのデータは、M28z-DKOが、インビボで長期にわたる腫瘍排除能力を有するという長所があることを示しており、これは、インビトロでより良好な抗消耗能力をそれが有することと一貫している。
【0189】
実験結果は、本発明の1つまたは複数の抑制タンパク質がノックアウトされているCAR-T細胞が、高エフェクター:標的比の非ノックアウトCAR-T細胞に匹敵する効果を有することを示している。予想外に、低エフェクター:標的比およびより長期の作用の下では、本発明のノックアウトCAR-T細胞は、非ノックアウトCAR-T細胞より優れている。これは、費用の低減、調製時間の短縮、および高用量投与によって引き起こされる副作用の軽減に特に有益である。
図1
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