(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】融解液及びその調製方法並びに応用
(51)【国際特許分類】
A01N 1/02 20060101AFI20240325BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
A01N1/02
C09K3/00 102
(21)【出願番号】P 2021560654
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 CN2020077475
(87)【国際公開番号】W WO2020207153
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】201910282421.0
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910282415.5
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521445281
【氏名又は名称】北京大学第三医院(北京大学第三臨床医学院)
(73)【特許権者】
【識別番号】506281853
【氏名又は名称】中国科学院化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】喬杰
(72)【発明者】
【氏名】厳杰
(72)【発明者】
【氏名】閻麗盈
(72)【発明者】
【氏名】李蓉
(72)【発明者】
【氏名】王健君
(72)【発明者】
【氏名】金晟琳
(72)【発明者】
【氏名】呂健勇
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-213692(JP,A)
【文献】国際公開第2010/046949(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108464300(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108244102(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
C09K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融解液100 mL当たりに、バイオニック氷制御材料0.1-50g、水溶性糖類0-1.0mol L
-1、残量の緩衝液を含有し、
前記バイオニック氷制御材料は、シンジオタクティシティが15%-65%であり、分子量が10kDa-500kDaであ
り、加水分解度が80%-99%であるアタクチックポリビニルアルコール(PVA)であるか、または、前記バイオニック氷制御材料は、前記アタクチックポリビニルアルコール(PVA)と、アミノ酸、ポリペプチドおよび/またはポリアミノ酸と、の組み合わせであり、
前記アミノ酸は、アルギニン、トレオニン、プロリン、リシン、ヒスチジン、グルタミン、アスパラギン酸およびグリシンのうちの1つ又は2つ以上の組み合せから選ばれ、
前記ポリアミノ酸は、リシン、アルギニン、プロリン、トレオニン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびグリシンのうちの少なくとも1つから選ばれるホモポリマーであり、
前記ポリペプチドは、L-Thr-L-Arg、L-Thr-L-Pro、L-Arg-L-Thr、L-Pro-L-Thr、L-Thr-L-Arg-L-Thr、L-Thr-L-Pro-L-Thr、L-Ala-L-Ala-L-Thr、またはL-Thr-L-Cys-L-Thrのうちの1つ又は2つ以上であることを特徴とする、融解液。
【請求項2】
前記PVAのシンジオタクティシティは45%-65%であるか、または、
前記PVAの加水分解度は
82-87%であることを特徴とする、請求項1に記載の融解液。
【請求項3】
前記PVAの加水分解度は87%-89%であることを特徴とする、請求項2に記載の融解液。
【請求項4】
前記PVAの加水分解度は89%-99%であることを特徴とする、請求項2に記載の融解液。
【請求項5】
前記PVAの加水分解度は98%-99%であることを特徴とする、請求項2に記載の融解液。
【請求項6】
前記バイオニック氷制御材料の含有量は、1.0-30gである、ことを特徴とする、請求項1~
5の何れか1項に記載の融解液。
【請求項7】
前記バイオニック氷制御材料は、PVA1.0-6.0gを含む、ことを特徴とする、請求項1~
5の何れか1項に記載の融解液。
【請求項8】
前記バイオニック氷制御材料は、アミノ酸1.0-30gを含む、ことを特徴とする、請求項1~
5の何れか1項に記載の融解液。
【請求項9】
前記アミノ酸は、アルギニンとトレオニンを組み合わせてなされる、ことを特徴とする、請求項
8に記載の融解液。
【請求項10】
前記バイオニック氷制御材料は、ポリアミノ酸0.1-9.0gを含む、ことを特徴とする、請求項1~
5の何れか1項に記載の融解液。
【請求項11】
前記バイオニック氷制御材料は、ポリペプチド1.0-50gを含む、ことを特徴とする、請求項1~
5の何れか1項に記載の融解液。
【請求項12】
前記バイオニック氷制御材料は、前記PVAと上記アミノ酸、前記ポリペプチド、及び/又は前記ポリアミノ酸と、の組み合せである、ことを特徴とする、請求項1~
5の何れか1項に記載の融解液。
【請求項13】
融解液100 mL当たりに、前記水溶性糖類の含有量は0.1-1.0mol L
-1であることを特徴とする、請求項1~
12の何れか1項に記載の融解液。
【請求項14】
前記水溶性糖類は、非還元二糖類、水溶性多糖類および配糖体のうちの少なくとも1つであってもよい、ことを特徴とする、請求項1~
12の何れか1項に記載の融解液。
【請求項15】
前記水溶性糖類は、スクロース、トレハロース、水溶性セルロースおよびフィコールから選ばれる、ことを特徴とする、請求項
14に記載の融解液。
【請求項16】
前記水溶性セルロースは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである、ことを特徴とする、請求項
15に記載の融解液。
【請求項17】
前記緩衝液は、DPBS、hepes-buffered HTF緩衝液およびその他の細胞緩衝液のうちの少なくとも1つから選ばれてもよいことを特徴とする、請求項1~
12の何れか1項に記載の融解液。
【請求項18】
融解液I、融解液II、融解液IIIと融解液IVを含み、前記融解液I-IVは、請求項1~
17の何れか1項に記載の融解液の組成を有することを特徴とする、融解試薬。
【請求項19】
前記融解液IIには、水溶性糖類の濃度が融解液Iの50%-100%で、前記融解液IIIには、水溶性糖類の濃度が融解液IIの50%-100%で、前記融解液IVには、水溶性糖類の濃度が0であることを特徴とする、請求項
18に記載の融解試薬。
【請求項20】
前記融解液I-IVにおいて、バイオニック氷制御材料の濃度が同じであるか、又は異なっている、ことを特徴とする、請求項
18に記載の融解試薬。
【請求項21】
前記融解液IIには、バイオニック氷制御材料の濃度が融解液Iの50%-100%で、前記融解液IIIには、バイオニック氷制御材料の濃度が融解液IIの50%-100%で、前記融解液IVには、バイオニック氷制御材料の濃度が0であることを特徴とする、請求項
20に記載の融解試薬。
【請求項22】
前記融解液I-IVは、PVA1.0-6.0gを含有することを特徴とする、請求項
18に記載の融解試薬。
【請求項23】
前記融解液I-IVにおいて、PVAの濃度が同じであることを特徴とする、請求項
18に記載の融解試薬。
【請求項24】
前記融解試薬において、前記融解液Iは、100 mL当たりに、アミノ酸およびポリペプチドのうちの少なくとも1つ1.0-50 g、PVA1.0-5.0 g、水溶性糖類1.0 mol L
-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIは、100mL当たりに、アミノ酸又はポリペプチドのうちの少なくとも1つ1.0-25g、PVA 1.0-5.0g、水溶性糖類0.5mol L
-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIIは、100 mL当たりに、アミノ酸又はポリペプチドのうちの少なくとも1つ1.0-12.5g、PVA1.0-5.0g、水溶性糖類0.25mol L
-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IVは、100 mL当たりに、アミノ酸又はポリペプチドのうちの少なくとも1つ0-6.25g、PVA1.0-5.0g、残量の緩衝液を含有することを特徴とする、請求項
18~
23の何れか1項に記載の融解試薬。
【請求項25】
前記融解液Iは、100 mL当たりに、PVA1.0-5.0g、水溶性糖類1.0 mol L
-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIは、100 mL当たりに、PVA1.0-5.0g、水溶性糖類0.5 mol L
-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIIは、100 mL当たりに、PVA1.0-5.0 g、水溶性糖類0.25mol L
-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IVは、100 mL当たりに、PVA1.0-5.0 g、残量の緩衝液を含有することを特徴とする、請求項
18~
23の何れか1項に記載の融解試薬。
【請求項26】
前記融解液Iは、100mL当たりに、ポリアミノ酸0.1-9.0 g、PVA1.0-5.0 g、水溶性糖類1.0mol L
-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIは、100mL当たりに、ポリアミノ酸0.1-4.5g、PVA1.0-5.0g、水溶性糖類0.5mol L
-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIIは、100mL当たりに、ポリアミノ酸0.1-2.3g、PVA1.0-5.0 g、水溶性糖類0.25mol L
-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IVは、100mL当たりに、ポリアミノ酸0-1.2g、PVA1.0-5.0 g、残量の緩衝液を含有することを特徴とする、請求項
18~
23の何れか1項に記載の融解試薬。
【請求項27】
凍結保存された細胞又は組織を請求項
18~
26のいずれか1項に記載の37℃の融解液Iに入れて3-5分間回復させ、次に常温で順に請求項
18~
26のいずれか1項に記載の融解液II、融解液III、融解液IVにそれぞれ3-5分間入れるステップを含む、凍結保存された細胞又は組織の融解方法。
【請求項28】
凍結保存された卵母細胞と胚、卵巣組織又は卵巣器官である組織又は器官の回復と融解における、請求項1~
17のいずれか1項に記載の融解液又は請求項
18~
26のいずれか1項に記載の融解試薬の応用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、2019年4月9日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が2019102824210で、発明名称が「凍結保存用融解液及び融解方法」である、及び特許出願番号が2019102824155で、発明名称が「凍結保存された卵母細胞又は胚の融解における融解液の応用」である先行出願の優先権を主張する。当該2件の先行出願は、その全体が引用により本願に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は医用生体材料の技術分野に属し、具体的に、凍結保存用融解液及び融解方法に関する。
【0003】
背景技術
凍結保存とはバイオ材料を超低温状態下で保存することにより、細胞の新陳代謝及び分裂速度を低下させるか又は停止させ、一旦正常な生理的温度に回復すると成長し続けられることである。この技術は登場して以来、自然科学分野に不可欠な研究方法の一つとなり、既に広く採用されている。近年、生活ストレスの増加に伴い、ヒトの生殖能力は年々低下する傾向を呈し、生殖能力の保存はますます人々に重視され、ヒト生殖細胞(精子、卵母細胞)、生殖腺組織などの凍結保存は生殖能力を保存する重要な手段となっている。また、世界の人口高齢化が激しくなるにつれて、寄付された再生医学及び臓器移植に用いることができるヒト由来細胞、組織又は器官の凍結保存に対する需要も急速に増加する。従って、どのように貴重な細胞、組織及び器官資源を効率的に凍結保存して使用に備えるかは早急に解決すべき科学技術的問題となる。
【0004】
現在最も使用されている凍結保存方法は、凍結である。融解過程中において、氷晶、低温ショック、固溶効果、破裂損傷、再結晶、浸透圧ショックなどの凍結融解損傷が生じないように気を付ける必要があり、胚、卵母細胞の回復生存率の向上への配慮に基づき、一般的な凍結融解手段は、急速復温という方法を利用し、浸透圧の高い胞胚又は卵母細胞を、特定の濃度勾配の凍結保護剤を含む培養液に入れることにより、細胞内外の浸透圧差を次第に低減し、細胞体積の変化速度を低下させ、融解過程中になされた細胞又は胚の損傷を回避することである。現在、臨床で広く使用されている融解試薬はほとんど、スクロース、血清と緩衝液を主成分とする。しかし、上記融解液は復温過程中に氷晶の成長を効果的に制御することができず、細胞を損害することになる。そのほか、現在の融解液は、使用成分が不明で、変質しやすい血清を含むため、保存期間が短く、寄生性の生物汚染物質が持ち込まれるといった問題が存在している。
【0005】
発明の概要
従来技術の上記欠陥を改善するために、本発明は、凍結保存用融解液及び融解方法を提供する。
【0006】
本発明は、下記の技術案により実現される。
【0007】
100 mL当たりに親氷基(ice‐philic group)と親水基を有するバイオニック氷制御材料0.1-50 g、水溶性糖類0-1.0 mol L-1、残量の緩衝液を含有する融解液である。
【0008】
本発明によれば、前記親水基は、水分子と非共有結合作用を形成可能な官能基であり、例えば、水と水素結合、ファンデルワールス作用、静電作用、疎水作用又はπ-π作用を形成することができ、例示的に、前記親水基は、ヒドロキシ基(-OH)、アミノ基(-NH2)、カルボン酸基(-COOH)、アミド基(-CONH2)のうちの少なくとも1つから選ばれ、又は、例えば、プロリン(L-Pro)、アルギニン(L-Arg)、リシン(L-Lys)、ヒスチジン(L-His)、グリシン(L-Gly)、グルコノラクトン(GDL)、糖類などの化合物分子又はその分子断片から選ばれてもよい。
【0009】
本発明によれば、前記親氷基は、氷と非共有結合作用を形成可能な官能基であり、例えば、氷と水素結合、ファンデルワールス作用、静電作用、疎水作用又はπ-π作用を形成することができ、例示的に、前記親氷基は、ヒドロキシ基(-OH)、アミノ基(-NH2)、フェニル基(-C6H5)、ピロリジニル基(-C4H8N)から選ばれ、又は、例えば、グルタミン(L-Gln)、トレオニン(L-Thr)、アスパラギン酸(L-Asn)、ベンゼン環(-C6H6)、ピロリジン(-C4H9N)などの化合物分子又はその分子断片から選ばれてもよい。
本発明によれば、前記バイオニック氷制御材料は、ポリビニルアルコール(PVA)、アミノ酸、ポリペプチド、ポリアミノ酸のうちの少なくとも1つ又は2つ以上の組み合せから選ばれる。
【0010】
本発明によれば、前記アミノ酸は、アルギニン、トレオニン、プロリン、リシン、ヒスチジン、グルタミン、アスパラギン酸、グリシンなどのうちの1つ又は2つ以上の組み合せから選ばれてもよく、前記ポリアミノ酸は、リシン、アルギニン、プロリン、トレオニン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシンなどのうちの少なくとも1つから選ばれてもよいホモポリマー(重合度≧2、好ましい重合度は2~40で、例えば、重合度は6、8、15、20などである)である。
【0011】
例示的に、前記ポリペプチドは、上記アミノ酸のうちの2つ以上から構成されるポリペプチドであり、又は、アミノ酸と糖類(例えば、グルコラクトン)が反応して生成された糖ペプチド誘導体であり、例えば、前記ポリペプチドは、2-8個の異なるアミノ酸から構成されるポリペプチドで、さらに例えば、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドなどである。本発明の実施形態において、前記ポリペプチドは、L-Thr-L-Arg(TR)、L-Thr-L-Pro(TP)、L-Arg-L-Thr(RT)、L-Pro-L-Thr(PT)、L-Thr-L-Arg-L-Thr(TRT)、L-Thr-L-Pro-L-Thr(TPT)、L-Ala-L-Ala-L-Thr(AAT)、L-Thr-L-Cys-L-Thr(TCT)のうちの1つ又は2つ以上である。
【0012】
本発明によれば、前記バイオニック氷制御材料の含有量は、1.0-50 g、2.0-20 g、5.0-10 gであり、一実施形態において、前記バイオニック氷制御材料の含有量は、3.0 g、4.0 g、5.0 g、10 g、25 g、30 gである。
【0013】
本発明の一実施形態として、前記バイオニック氷制御材料は、PVA 1.0-6.0 gを含む。
本発明の一実施形態として、前記バイオニック氷制御材料は、アミノ酸1.0-30 gを含む。例示的に、前記アミノ酸は、アルギニンとトレオニンとを組み合せてなされ、例えば、アルギニン1.0-20 g、1.0-10 g、1.0-5 gを含有し、トレオニン1.0-10 g、1.0-5.0 g、1.0-2.5 gを含有する。
【0014】
本発明の一実施形態として、前記バイオニック氷制御材料は、ポリアミノ酸0.1-9.0 g、例えば、1-5.0 gを含む。例示的に、前記ポリアミノ酸は、ポリ-L-プロリン及び/又はポリ-L-アルギニンである。
【0015】
本発明の一実施形態として、前記バイオニック氷制御材料は、ポリペプチド1.0-50 g、例えば、1.0-25 g、1.0-13 g、1.0-10 g、1.0-5.0 gを含む。
【0016】
本発明の一実施形態として、前記バイオニック氷制御材料は、PVAと上記アミノ酸、ポリペプチド、及び/又はポリアミノ酸の組み合せである。
【0017】
本発明によれば、融解液100 mL当たりに前記水溶性糖類の含有量は、0.1-1.0 mol L-1で、例えば、0.1-0.8 mol L-1、0.2-0.6 mol L-1であり、例えば、0.25mol L-1、0.5 mol L-1、1.0 mol L-1である。
【0018】
融解液I、融解液II、融解液IIIと融解液IVを含み、前記融解液I-IVが上述したような融解液の組成を有する融解試薬である。
【0019】
本発明の融解試薬によれば、前記融解液I-IVにおいて、バイオニック氷制御材料の濃度勾配は特に限定されないが、各融解液においてバイオニック氷制御材料の濃度は、同じでも、異なってもよく、一つの例示的な形態として、前記融解液I-IVにおいて、バイオニック氷制御材料の濃度は異なっており、例えば、前記融解液IIには、バイオニック氷制御材料の含有量が融解液Iの50%-100%であり、前記融解液IIIには、バイオニック氷制御材料の含有量が融解液IIの50%-100%である。
【0020】
本発明の融解試薬によれば、前記融解液I-IVにおいて、PVA 1.0-6.0 gを含有し、好ましくは、前記融解液I-IVにおいて、PVA濃度が同じである。
【0021】
本発明の融解試薬によれば、前記融解液IIには、水溶性糖類の濃度が融解液Iの50%-100%であり、前記融解液IIIには、水溶性糖類の濃度が融解液IIの50%-100%であり、前記融解液IVには、糖類の濃度が0である。
【0022】
本発明の融解試薬の一実施形態として、前記融解液Iは、100 mL当たりに、アミノ酸1.0-50 g、PVA 1.0-5.0 g、水溶性糖類1.0 mol L-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIは、100 mL当たりに、アミノ酸1.0-25 g、PVA 1.0-5.0 g、水溶性糖類0.5 mol L-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIIは、100 mL当たりに、アミノ酸1.0-12.5 g、PVA 1.0-5.0 g、水溶性糖類0.25 mol L-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IVは、100 mL当たりに、アミノ酸0-6.25 g、PVA 1.0-5.0 g、残量の緩衝液を含有する。
【0023】
本発明の融解試薬の一実施形態として、前記融解液Iは、100 mL当たりに、PVA 1.0-5.0 g、水溶性糖類1.0 mol L-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIは、100 mL当たりに、PVA 1.0-5.0 g、水溶性糖類0.5 mol L-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIIは、100 mL当たりに、PVA 1.0-5.0 g、水溶性糖類0.25 mol L-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IVは、100 mL当たりに、PVA 1.0-5.0 g、残量の緩衝液を含有する。
【0024】
本発明の融解試薬の一実施形態として、前記融解液Iは、100 mL当たりに、ポリアミノ酸0.1-9.0 g、PVA 1.0-5.0 g、水溶性糖類1.0 mol L-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIは、100 mL当たりに、ポリアミノ酸0.1-4.5 g、PVA 1.0-5.0 g、水溶性糖類0.5 mol L-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIIは、100 mL当たりに、ポリアミノ酸0.1-2.3 g、PVA 1.0-5.0 g、水溶性糖類0.25 mol L-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IVは、100 mL当たりに、ポリアミノ酸0-1.2 g、PVA 1.0-5.0 g、残量の緩衝液を含有する。
【0025】
本発明の融解試薬の一実施形態として、前記融解液Iは、100 mL当たりに、ポリペプチド1.0-50 g、PVA 1.0-5.0 g、水溶性糖類1.0 mol L-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIは、100 mL当たりに、ポリペプチド1.0-25 g、PVA 1.0-5.0 g、水溶性糖類0.5 mol L-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IIIは、100 mL当たりに、ポリペプチド1.0-12.5 g、PVA 1.0-5.0 g、水溶性糖類0.25 mol L-1、残量の緩衝液を含有し、
前記融解液IVは、100 mL当たりに、ポリペプチド0-6.25 g、PVA 1.0-5.0 g、残量の緩衝液を含有する。
【0026】
本発明によれば、前記水溶性糖類は、非還元二糖類、水溶性多糖類、配糖体のうちの少なくとも1つであってもよく、例えば、スクロース、トレハロースから選ばれ、スクロースが好ましい。前記水溶性糖類は細胞膜を保護し細胞沈降を回避する役割を果たすことができる。
【0027】
本発明によれば、前記緩衝液は、DPBS又はhepes-buffered HTF緩衝液又はその他の細胞培養緩衝液のうちの少なくとも1つから選ばれてもよい。
【0028】
本発明によれば、前記PVAは、アイソタクチックPVA、シンジオタクチックPVAとアタクチックPVAの1つ又は2つ以上の組み合せから選ばれ、例えば、前記PVAのシンジオタクティシティは15%-65%であり、具体的には、例えば、40%-60%、53%-55%である。好ましくはアタクチックPVAであり、例えば前記PVAのシンジオタクティシティが45%-65%のPVAである。
【0029】
本発明によれば、前記PVAは分子量が10-500 kDa又はより高い分子量のPVAから選択することができ、例えば分子量が10-30 kDa、30-50 kDa、80-90 kDa、200-500 kDaである。
本発明によれば、前記PVAは加水分解度が80%より大きいPVAから選択することができ、例えば加水分解度が80%-99%、82-87%、87%-89%、89%-99%、98%-99%である。
本発明の融解液は、当該分野の既知の方法により調製することができ、例えば、
バイオニック氷制御材料を一部の緩衝液に溶解し、pHを調整し、水溶性糖類を一部の緩衝液に溶解し、室温まで冷却した後、2つの溶液を混合する。
【0030】
下記のステップを含む凍結保存された細胞又は組織又は器官の融解方法である。
【0031】
凍結された細胞又は組織又は器官を37℃の前記融解液Iに入れて3-5分間回復させ、そして常温で順に前記融解液II、融解液III、融解液IVにそれぞれ3-5分間入れる。
【0032】
上記融解液と融解試薬は、凍結保存された卵母細胞と胚、組織又は器官の回復と融解に用いることができる。例えば、前記組織又は器官は、卵巣組織又は卵巣器官である。
【0033】
さらに、本発明は、上記融解液と融解試薬の応用を提供し、具体的には、凍結保存された卵母細胞と胚、組織又器官の回復と融解における応用であり、例えば、前記組織又は器官は、卵巣組織又は卵巣器官である。
【0034】
有益な効果
本発明は、親氷と親水特性を有するバイオニック氷制御材料により調製される融解液及融解試薬であり、氷晶の成長を効果的に制御し、回復過程中における温度の変化による細胞又は組織への損害を著しく改善することができると共に、生体適合性が良く、動物の血清を含まず、毒性が小さく、従来の血清を含む融解液と比べて、保存期間が短く、寄生性の生物汚染物質が持ち込まれるといったリスクが低減され、細胞又は組織の遺伝安定性の維持により有利である。また、本発明は成分がシンプルで、コストが低く、応用への見通しが良い。
【0035】
図面の簡単な説明
〔
図1〕新鮮で凍結されていない卵巣器官の切片染色画像である。
〔
図2〕卵巣器官を実施例1の融解液で融解した後の切片染色画像である。
〔
図3〕新鮮で凍結されていない卵巣組織の切片染色画像である。
〔
図4〕卵巣組織を実施例1の融解液で融解した後の切片染色画像である。
【0036】
発明を実施するための形態
以下に具体的な実施例を参照しながら本発明の調製方法をさらに詳細に説明する。理解すべきことは、以下の実施例は本発明を例示的に説明して解釈するものに過ぎず、本発明の請求範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本発明の上記内容に基づいて実現された技術はいずれも本発明の請求を目的とする範囲内に含まれる。
【0037】
下記実施例に使用される実験方法は特別な説明がなければ、いずれも従来の方法である。下記実施例に使用される試薬、材料などは、特別な説明がなければ、いずれも商業的に入手することができる。
【0038】
本発明の実施例において用いられるPVAは、シンジオタクティシティが50%-55%で、分子量が13-23 kDaで、加水分解度が98%である。
【0039】
本発明の実施例において、凍結保存液に用いられるポリ-L-プロリンは、重合度が15で、分子量が1475である。融解液におけるポリ-L-プロリンは、重合度が8、分子量が795である。
【0040】
本発明の実施例において、下記の凍結平衡液と凍結保存液を使用する。
【0041】
凍結保存液A:総体積100 mLであり、PVA 2.0 gを80℃の水浴において加熱して磁気攪拌してDPBS 30 mLに溶解し、pHを7.0に調整して、溶液1とし、スクロース(凍結保存液におけるスクロースの最終濃度が0.5 mol L-1である)17 g(0.05 mol)をDPBS 25 mLに超音波で溶解し、スクロースが全て溶解された後、エチレングリコール10 mLを加えて、溶液2とし、溶液1及び溶液2が室温まで戻してから、2つの溶液を均一に混ぜ、pH値を調整してDPBSで総体積が100 mLになるまで定容して残量を補足し、使用に備える。
【0042】
凍結平衡液a:総体積100 mLであり、PVA 2.0 gを80℃の水浴において加熱して磁気攪拌してDPBS 50 mLに溶解し、PVAが全て溶解された後、pHを7.0に調整し、エチレングリコール7.5 mLを加え、均一に混ぜ、pH値を調整してDPBSで総体積が100 mLになるまで定容して残量を補足し、使用に備える。
【0043】
凍結保存液B:総体積100 mLであり、PVA 2.0 gを80℃の水浴において加熱して磁気攪拌してDPBS 25 mLに溶解し、pHを7.0に調整し、溶液1とし、ポリ-L-プロリン1.5 gを別のDPBS 20 mLに超音波で溶解し、pHを7.0に調節して、溶液2とし、スクロース(凍結保存液におけるスクロースの最終濃度が0.5 mol L-1である)17 g(0.05 mol)をDPBS 25 mLに超音波で溶解し、スクロースが全て溶解された後、順にエチレングリコール10 mLを加えて、溶液3とし、溶液1、溶液2及び溶液3が室温まで戻してから、3つの溶液を均一に混ぜ、pH値を調整してDPBSで総体積が100 mLになるまで定容して残量を補足し、使用に備える。
【0044】
凍結平衡液b:凍結平衡液aの組成と同様で、総体積100 mLであり、PVA 2.0 gを80℃の水浴において加熱して磁気攪拌してDPBS 40 mLに溶解し、PVAが全て溶解された後、pHを7.0に調整し、エチレングリコール7.5 mLを加え、均一に混ぜ、pH値を調整してDPBSで総体積が100 mLになるまで定容して残量を補足し、使用に備える。
【0045】
凍結保存液C:1 mL当たりにエチレングリコール10%(v/v)、ウシ胎児血清20%(v/v)、スクロース0.5 Mを含有し、残量はDPBSである。
【0046】
凍結平衡液c:1 mL当たりにエチレングリコール7.5%(v/v)、ウシ胎児血清20%(v/v)を含有し、残量はDPBSである。
【0047】
実施例1
融解液I 100 mL当たりに下記の成分を含む
【0048】
【0049】
融解液II 100 mL当たりに下記の成分を含む
【0050】
【0051】
融解液III 100 mL当たりに下記の成分を含む
【0052】
【0053】
融解液IV 100 mL当たりに下記の成分を含む
【0054】
【0055】
実施例2
融解液I 100 mL当たりに下記の成分を含む
【0056】
【0057】
融解液II 100 mL当たりに下記の成分を含む
【0058】
【0059】
融解液III 100 mL当たりに下記の成分を含む
【0060】
【0061】
融解液IV 100 mL当たりに下記の成分を含む
【0062】
【0063】
比較例1:
融解液I:スクロース1.0 mol L-1、血清20%を含有し、残量はDPBSであり、
融解液II:スクロース0.5 mol L-1、血清20%を含有し、残量はDPBSであり、
融解液III:スクロース0.25 mol L-1、血清20%を含有し、残量はDPBSであり、
融解液IV:スクロース0 mol L-1、血清20%を含有し、残量はDPBSである。
【0064】
適用例1 凍結卵母細胞の融解
本発明に用いられる卵母細胞の凍結保存方法は、具体的に、まず、卵母細胞を凍結平衡液に入れて5分間平衡を行い、そして上記凍結保存液に入れて45秒間平衡を行い、凍結保存液において平衡を行った卵母細胞を凍結キャリアレバーに置いてから、急速に液体窒素(-196℃)に投入し、凍結キャリアレバーを閉鎖した後、引き続き保存する。
【0065】
上記実施例1、2における配合と比較例1で調製された融解用試薬によりマウスの卵母細胞を融解し、卵母細胞の融解方法は、具体的に、液体窒素から卵母細胞を急速に取り出して37℃の融解液Iに3~5分間入れた後、常温で順に融解液II、融解液III、融解液IVにそれぞれ3分間入れてから、卵母細胞を培地に入れて、37℃、5%の二酸化炭素インキュベータに置いて2時間培養し、卵母細胞の生存率を観察する(表1)。
【0066】
適用例2 凍結胚の融解
本発明に用いられる胚の凍結保存方法は、具体的に、まず、胚を凍結平衡液に入れて8分間平衡を行い、そして上記配合で調製された凍結保存液に50秒間入れて、凍結保存液において平衡を行った胚を凍結キャリアレバーに置いてから、急速に液体窒素(-196℃)に投入し、凍結キャリアレバーを閉鎖した後、引き続き保存する。
【0067】
上記実施例1、2における配合と比較例1で調製された融解用試薬を用いてマウスの胚を融解し、胚の融解方法は、具体的に、液体窒素から胚を急速に取り出して37℃の融解液Iに3~5分間入れた後、常温で順に融解液II、融解液III、融解液IVにそれぞれ3分間入れてから、胚を培地に入れて、37℃、5%の二酸化炭素インキュベータに置いて2時間培養し、胚の生存率を観察する(表2)。
【0068】
本発明の実施例において、生存率は3-12回繰り返した実験の生存率の平均値である。
【0069】
【0070】
【0071】
表1及び表2のデータから分かるように、本発明の融解試薬による融解後の卵母細胞の生存率は何れも94%以上になり、98.6%にも達することができ、融解後の胚の生存率は97%以上に達し、比較例1(市販の融解液)の融解後の胚の生存率よりもはるかに高く、この融解試薬が一般的なガラス化融解液による卵母細胞と胚の融解の有効性よりも優れていることを示している。また、本発明の融解試薬は、血清を加えず、寄生性の生物汚染物質などのリスクが低減され、細胞又は組織の遺伝安定性の維持により有利である。
【0072】
適用例3 完全な卵巣器官又は卵巣組織切片の凍結後の融解
上記凍結平衡液aと凍結保存液Aの組み合せを用いて、ぞれぞれ、3日齢のマウスの卵巣器官と性成熟したマウスの卵巣組織切片を凍結保存し、次に上記実施例1の融解液を用いて融解する。凍結と融解過程は下記の通りである。まず、完全な卵巣器官又は卵巣組織切片を平衡液に置いて室温で25分間平衡し、そして調製された凍結保存液に15分間置き、その後完全な卵巣器官又は卵巣組織切片を凍結キャリアレバーに置き、液体窒素に入れて保存する。融解後、完全な卵巣器官又は卵巣組織切片を培養液(10%のFBS+a-MEM)に入れてから37℃、5%のCO2インキュベータに入れて2時間回復培養する後、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンで包埋し、HE染色を行って形態を観察する。
【0073】
その結果は
図1-4に示す通りであり、その中で、
図1は、新鮮で凍結されていない卵巣器官の切片染色画像であり、
図2は、卵巣器官を実施例1の融解液で融解した後の切片染色画像であり、
図3は、新鮮で凍結されていない卵巣組織の切片染色画像であり、
図4は、卵巣組織を実施例1の融解液で融解した後の切片染色画像である。実施例1の融解液により融解された後、卵巣器官又は卵巣組織は、卵胞構造が相対的に完全で、間葉構造が相対的に完全で、細胞質が均質で、淡染が相対的に多く、細胞核が収縮し、濃染が相対的に少ないこと;血管管壁構造が完全で、血管内腔の崩壊は少なく、内皮細胞質が均質で、淡染が相対的に多く、細胞核が収縮し、濃染が相対的に少なく、良好な回復効果をもたらしたことが分かる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明した。ただし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の精神及び原則内で、行われたいかなる修正、同等置換、改善などは、いずれも本発明の請求範囲内に含まれるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1】新鮮で凍結されていない卵巣器官の切片染色画像である。
【
図2】卵巣器官を実施例1の融解液で融解した後の切片染色画像である。
【
図3】新鮮で凍結されていない卵巣組織の切片染色画像である。
【
図4】卵巣組織を実施例1の融解液で融解した後の切片染色画像である。