(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】下地処理剤、及び金属材料
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20240325BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240325BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240325BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240325BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240325BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20240325BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240325BHJP
【FI】
C23C26/00 A
B32B15/08 N
B32B27/30 A
C09D5/00 D
C09D5/02
C09D133/00
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2022034255
(22)【出願日】2022-03-07
【審査請求日】2023-07-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】和田 優子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔大
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 朗
(72)【発明者】
【氏名】大洞 綾子
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-212511(JP,A)
【文献】特開2002-265821(JP,A)
【文献】国際公開第2022/054667(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00-30/00
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ジルコニウム化合物、及び水溶性チタニウム化合物のうち少なくとも何れかである水溶性金属化合物と、水溶性又は水分散性アクリル樹脂と、を含有する下地処理剤であって、
前記水溶性金属化合物の濃度は、金属原子換算で500~200,000質量ppmであり、
前記水溶性又は水分散性アクリル樹脂は、数平均分子量が70,000~500,000であり、固形分酸価が150~740mgKOH/gであり、固形分水酸基価が40~350mgKOH/gであり、ガラス転移温度が63~100℃であり、
前記水溶性又は水分散性アクリル樹脂の濃度は、固形分換算で500~200,000質量ppmであり、
前記水溶性金属化合物の金属原子換算の濃度と、前記水溶性又は水分散性アクリル樹脂の濃度との比は3/97~91/9であり、
ラミネート金属材の製造に用いられる、下地処理剤。
【請求項2】
前記下地処理剤をアルミニウム基材上に塗布し乾燥させた、皮膜重量50~100mg/m
2である乾燥皮膜は、表面自由エネルギーが52~74mJ/m
2である
請求項1に記載の下地処理剤。
【請求項3】
前記水溶性又は水分散性アクリル樹脂は、モノマー(A)の共重合体であり、
前記モノマー(A)は、グリシジル基、アミド基、シラノール基、リン酸基、ニトリル基又はイミド基を有するモノマーを1種またはそれ以上含む、
請求項1または2に記載の下地処理剤。
【請求項4】
前記水溶性又は水分散性アクリル樹脂が有する、グリシジル基、アミド基、シラノール基、リン酸基、ニトリル基及びイミド基からなる群から選択される1またはそれ以上の官能基の当量の総和(i)と、前記水溶性又は水分散性アクリル樹脂が有する水酸基の当量(ii)との当量比(i)/(ii)は、0.03~0.20の範囲内である、
請求項3記載の下地処理剤。
【請求項5】
少なくとも何れかの一面
に、請求項1~4いずれかに記載の下地処理剤
により形成された皮膜を有する、金属材料。
【請求項6】
前記皮膜は、前記何れかの一面当たりの乾燥後皮膜質量で、前記水溶性金属化合物を金属原子換算で0.8~3200mg/m
2、前記水溶性又は水分散性アクリル樹脂を固形分換算で1.0~4000mg/m
2含有する
、請求項5に記載の金属材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地処理剤、及び金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料を保護し、意匠を施すために、金属材料の表面に、ラミネート加工を施す技術が知られている。ラミネート加工において金属材料の表面に接着されるラミネートフィルムは、加工性、耐食性、及び内容物のバリア性等に優れる。また、塗料と異なり製造過程で揮発性有機化合物を発生しないことから、環境面においても優れており、食品缶、コンデンサーケース、電池部材等における表面保護材として広く用いられている。
【0003】
ラミネート加工を適用する際には、美観や耐食性維持の観点から、ラミネートフィルムと金属材料との密着性を向上させることが重要である。このため、金属材料の下地処理層として、オキサゾリン基を含有する樹脂とアクリル樹脂を用いて、金属材料とラミネートフィルムとの密着性を向上させる技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術は、下地処理層が、オキサゾリン基とカルボキシル基とが反応することで形成されるアミドエステル部位を有していることで、密着性を向上させるものであるが、好ましい密着性を得る観点で未だ改善の余地があった。また、オキサゾリン基を含有する樹脂を用いることが条件であることから、製造コストの点でも改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、金属材料にラミネートフィルムに対する好ましい密着性、耐酸性、耐アルカリ性、そして皮膜の耐水性を付与できる下地処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
水溶性ジルコニウム化合物、及び水溶性チタニウム化合物のうち少なくとも何れかである水溶性金属化合物と、水溶性又は水分散性アクリル樹脂と、を含有する下地処理剤であって、
上記水溶性金属化合物の濃度は、金属原子換算で500~200,000質量ppmであり、
上記水溶性又は水分散性アクリル樹脂は、数平均分子量が70,000~500,000であり、固形分酸価が150~740mgKOH/gであり、固形分水酸基価が40~350mgKOH/gであり、ガラス転移温度が63~100℃であり、
上記水溶性又は水分散性アクリル樹脂の濃度は、固形分換算で500~200,000質量ppmであり、
上記水溶性金属化合物の金属原子換算の濃度と、上記水溶性又は水分散性アクリル樹脂の濃度との比は3/97~91/9であり、
ラミネート金属材の製造に用いられる、下地処理剤。
[2]
上記下地処理剤をアルミニウム基材上に塗布し乾燥させた、皮膜重量50~100mg/m2である乾燥皮膜は、表面自由エネルギーが52~74mJ/m2である
[1]の下地処理剤。
[3]
上記水溶性又は水分散性アクリル樹脂は、モノマー(A)の共重合体であり、
前記モノマー(A)は、グリシジル基、アミド基、シラノール基、リン酸基、ニトリル基又はイミド基を有するモノマーを1種またはそれ以上含む、
[1]または[2]の下地処理剤。
[4]
上記水溶性又は水分散性アクリル樹脂が有する、グリシジル基、アミド基、シラノール基、リン酸基、ニトリル基及びイミド基からなる群から選択される1またはそれ以上の官能基の当量の総和(i)と、上記水溶性又は水分散性アクリル樹脂が有する水酸基の当量(ii)との当量比(i)/(ii)は、0.03~0.20の範囲内である、
[3]の下地処理剤。
[5]
少なくとも何れかの一面が[1]~[4]いずれかの下地処理剤で処理されてなる、金属材料。
[6]
上記何れかの一面当たりの乾燥後皮膜質量で、上記水溶性金属化合物を金属原子換算で0.8~3200mg/m2、上記水溶性又は水分散性アクリル樹脂を固形分換算で1.0~4000mg/m2含有する皮膜が形成されてなる、[5]の金属材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属材料にラミネートフィルムに対する好ましい密着性、耐酸性、耐アルカリ性、そして皮膜の耐水性を付与できる下地処理剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態の記載に限定されない。
【0010】
<下地処理剤>
本実施形態に係る下地処理剤は、金属材料の表面上に、ラミネートフィルムとの密着性を向上させる皮膜を形成する。上記皮膜及びラミネートフィルムによりラミネート加工がされた金属材料(以下、「ラミネート金属材」と記載する場合がある)は、特に制限されないが、食品缶のボディーもしくは蓋材、飲料缶のボディーもしくは蓋材、熱交換器、電池用外装材、電池セパレーター、コンデンサーケース、車両のボディー、エンジン部品もしくはシャーシ部品、航空機のボディー、主翼、フレーム、燃料タンク、エンジンタービン、エンジンファンもしくは部品、鉄道車両の車体、台車もしくは部品、船、ロケット部材、自転車部品、自動販売機、エレベーターのかご側板、調速機もしくは巻上機、エスカレーターのステップもしくはインテリアパネル、工作機械、射出成型機、産業用ロボットの構造部材もしくは駆動部材、半導体製造装置、ディスプレイ、潜水艦、信号、自動織機、トンネル掘削機、パイプライン、道路標識、発電機、ごみ焼却炉、排ガス処理装置、モーター、トランス、電子回路、電球、光電子増倍管、ゴルフクラブ、アンテナ、ボルト、ナット、ねじ等の種々の用途に用いることができる。本実施形態に係る下地処理剤は、上記以外に、湿熱環境下における金属材料とラミネートフィルムとの密着性が要求される用途である、例えばアルミパウチ等の食品用軟包装材、または表面保護材としても使用できる。
【0011】
本実施形態に係る下地処理剤は、水溶性金属化合物、及び、水溶性又は水分散性アクリル樹脂を含有する。
【0012】
(水溶性金属化合物)
水溶性金属化合物は、水溶性ジルコニウム化合物、及び水溶性チタニウム化合物のうち少なくとも何れかである。水溶性金属化合物は、下地処理剤に含有されることで、金属材料の表面にジルコニウム化合物、及びチタニウム化合物のうち少なくとも何れかを含む皮膜を形成する。水溶性ジルコニウム化合物としては、特に限定されないが、フッ化ジルコン水素酸(H2ZrF6)、六フッ化ジルコニウム酸アンモニウム((NH4)2ZrF6)、炭酸ジルコニウムアンモニウム((NH4)2ZrO(CO3)2)、テトラアルキルアンモニウム変性ジルコニウム、ジルコニウムモノアセチルアセテート、ジルコニウムテトラアセチルアセテート等が挙げられる。また、水溶性チタン化合物としては、特に限定されないが、チタンフッ化アンモニウム塩、又はアルコキシチタン、チタンラクテートアンモニウム塩等が挙げられる。上記以外に、本明細書において、水溶性ジルコニウム化合物、及び水溶性チタニウム化合物には、ジルコニウム化合物又はチタニウム化合物の水分散体も含まれる。ジルコニウム化合物又はチタニウム化合物の水分散体としては、例えば、ジルコニウム化合物としてのジルコニア(ZrO2)やチタニウム化合物としてのチタニア(TiO2)を分散質とし、水を分散媒とするジルコニアゾル、チタニアゾル等が挙げられる。上記の水溶性金属化合物は、1種又は2種以上を併用して用いることができる。即ち、水溶性金属化合物の一実施形態として、水溶性ジルコニウム化合物及び水溶性チタニウム化合物を併用して用いることができる。上記水溶性金属化合物は、水溶性ジルコニウム化合物であるのがより好ましい。
【0013】
水溶性金属化合物は、下地処理剤中の濃度が金属原子換算で500~200,000質量ppmである。上記濃度が500ppm未満であると、ラミネート金属材の密着性や耐食性が低下する。上記濃度が200,000ppmを超えると、密着性が低下すると共に、下地処理剤のコストが上昇する。上記の観点から、水溶性金属化合物の濃度は金属原子換算で500~60,000質量ppmであることが好ましく、1,000~60,000質量ppmであることがより好ましい。
【0014】
(水溶性又は水分散性アクリル樹脂)
水溶性又は水分散性アクリル樹脂は、モノマー(A)の共重合体であり、モノマー(A)は、例えば、ラジカル重合性モノマー等の重合性モノマーである。水溶性又は水分散性アクリル樹脂は、モノマー(A)を原料成分とする、重合反応を利用した公知の方法により得ることができる。ラジカル重合性モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコール、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとε-カプロラクトンとの付加物等の水酸基含有ラジカル重合性モノマー、および、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレンメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アクリル酸二量体、アクリル酸のε-カプロラクトン付加物等の(メタ)アクリル酸及びその誘導体、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和二塩基酸及びそのハーフエステル、ハーフアミド、ハーフチオエステル等のカルボキシル基を有するラジカル重合性モノマー、等が挙げられる。本明細書において「(メタ)アクリル」の記載は、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0015】
上記以外に、水溶性又は水分散性アクリル樹脂を得る際に用いることができるモノマー(A)としては、例えば、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルケトン、t-ブチルスチレン、パラクロロスチレン、ビニルナフタレン等の重合性芳香族化合物、エチレン、プロピレン等のα-オレフィン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、ブタジエン、イソプレン等のジエン等を用いることができる。
【0016】
水溶性又は水分散性アクリル樹脂を得る際に用いられるモノマー(A)は、必要に応じて、グリシジル基、アミド基(アミド基の具体例としては、-CONR-(Rは、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基であり、上記アルキル基は、直鎖であってもよいし分岐鎖であってもよい)が挙げられる。)、シラノール基、リン酸基、ニトリル基又はイミド基を有するモノマーを含んでもよい。上記官能基を有するモノマーは、例えばアクリル樹脂の改質剤として用いることができ、これにより、下地処理剤により形成される皮膜と金属材料との密着性を向上させることができる利点がある。上記モノマー(A)に含まれうる、グリシジル基、アミド基、シラノール基、リン酸基、ニトリル基又はイミド基を有するモノマーは、1種であってもよく、2種またはそれ以上の組み合わせであってもよい。必要に応じて含まれる上記モノマー(A)は、好ましくは、グリシジル基、アミド基及びニトリル基のうち、少なくとも何れかを含有するモノマーを含んでもよい。
【0017】
上記アクリル樹脂の調製において、グリシジル基、アミド基、シラノール基、リン酸基、ニトリル基またはイミド基からなる群から選択される官能基を有するモノマーが含まれる場合は、調製で得られたアクリル樹脂が有する、グリシジル基、アミド基、シラノール基、リン酸基、ニトリル基及びイミド基からなる群から選択される1またはそれ以上の官能基の当量の総和(i)と、前記水溶性又は水分散性アクリル樹脂が有する水酸基の当量(ii)との当量比(i)/(ii)が、0.03~0.20の範囲内であるのが好ましく、0.04~0.15の範囲内であるのがより好ましい。上記当量比(i)/(ii)が上記範囲内であることによって、密着性および下地処理剤の性状のバランスを良好に維持することができるなどの利点がある。
【0018】
上記改質剤として用いることができるモノマーの具体例としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N-モノブチル(メタ)アクリルアミド、N-モノオクチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド等のアミド基含有モノマー;アシッドホスホオキシエチルメタクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート等のリン酸基含有モノマー;ビニルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシラノール基含有モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリロニトリルのメチル基が炭素数2~16のアルキル基に置換されたモノマー等のニトリル基含有モノマー;アミドイミド等のイミド基含有モノマー;などを用いることができる。
【0019】
上記アクリル樹脂の調製に用いられるモノマー(A)は、上述のモノマーを少なくとも2種以上含む。
【0020】
上記アクリル樹脂の調製に用いられる重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス-2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン塩酸塩、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム等が挙げられる。
【0021】
上記アクリル樹脂を得るための重合方法は、特に制限されず、溶液ラジカル重合法、乳化重合法、懸濁重合法等、公知の方法により合成することができる。例えば、重合温度60~160℃で2~10時間かけて、公知のラジカル重合開始剤と上記モノマーとの混合溶液とを、適当な溶媒中に滴下しながら撹拌することで、上記アクリル樹脂を得ることができる。上記アクリル樹脂の調製において、必要に応じて、重合後に中和を行ってもよい。
【0022】
上記アクリル樹脂の分子量は、数平均分子量が70,000~500,000である。数平均分子量が70,000未満である場合には、良好な皮膜耐水性が得られないおそれがある。数平均分子量が500,000を超える場合には、得られる下地処理剤の粘度が上昇し、塗装作業性や貯蔵安定性が悪化するおそれがある。上記の観点から、上記アクリル樹脂の数平均分子量は70,000~200,000であることが好ましく、80,000~200,000であるのがより好ましい。上記数平均分子量は、ポリエチレンオキサイドを標準とするGPC法により決定される。
【0023】
上記アクリル樹脂の固形分水酸基価は、40~350mgKOH/gである。固形分水酸基価が40mgKOH/g未満であると、ラミネート金属材の密着性や耐食性が低下する。固形分水酸基価が350mgKOH/gを超えると、得られるアクリル樹脂の貯蔵安定性が低下する。上記固形分水酸基価は、50~250mgKOH/gの範囲内であるのが好ましく、55~210mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましく、60~150mgKOH/gの範囲内であるのが特に好ましい。
【0024】
本明細書及び特許請求の範囲における上記アクリル樹脂の「固形分水酸基価」とは、上記アクリル樹脂の重合に用いた各モノマーの仕込み比に基づいて、上記アクリル樹脂の固形分1gに含まれる遊離の水酸基量を求め、これをアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウム量(単位:mg)を計算により算出した、固形分水酸基価の理論値を意味する。上記アクリル樹脂の固形分水酸基価は、重合に用いる各モノマーの比率を調整することで、上記数値範囲内に調整される。
【0025】
上記アクリル樹脂の固形分酸価は、150~740mgKOH/gである。固形分酸価が150mgKOH/g未満であると、水溶性が低下して、皮膜外観の低下を招くほか、ラミネート金属材の密着性も低下する。固形分酸価が740mgKOH/gを超えると、上述の必要な水酸基価が得られない。上記固形分酸価は、200~700mgKOH/gの範囲内であるのが好ましく、400~680mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましい。
【0026】
本明細書及び特許請求の範囲における上記アクリル樹脂の「固形分酸価」とは、上記アクリル樹脂の重合に用いた各モノマーの仕込み比に基づいて、上記アクリル樹脂の固形分1gに含まれる酸基を中和するのに要する水酸化カリウム量(単位:mg)を計算により算出した、固形分酸価の理論値を意味する。上記アクリル樹脂の固形分酸価は、重合に用いる各モノマーの比率を調整することで、上記数値範囲内に調整される。
【0027】
上記アクリル樹脂のガラス転移温度は、63~100℃の範囲内である。ガラス転移温度が63℃未満であると、ラミネート金属材を加熱処理した後の密着性が劣ることとなるおそれがある。一方でガラス転移温度が100℃を超えると、アクリル樹脂の製造安定性が劣ることとなるおそれがあり、また、下地処理剤により形成される皮膜の加工安定性が劣ることとなるおそれがある。上記ガラス転移温度は65~95℃の範囲内であるのが好ましく、70~90℃の範囲内であるのがさらに好ましい。
【0028】
本明細書及び特許請求の範囲における上記アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、アクリル樹脂を構成する各モノマーの質量分率を、各モノマーから誘導される単独重合体(ホモポリマー)のTg(K:ケルビン)値で割ることによって得られるそれぞれの商の合計の逆数として計算することができる。
より詳細には、本開示において、上記ガラス転移温度(Tg)は、Foxの式(T.G.Fox;Bull.Am.Phys.Soc.,1(3),123(1956))によって算出することができる。
例えば、樹脂が、複数のモノマーの重合体である場合、下記一般式:
1/Tg=wa/Tga+wb/Tgb+・・・+wn/Tgn
で表されるTgを樹脂のTgとする。
ここで、
Tga:モノマーAのホモポリマーのガラス転移温度(K)、wa:モノマーAの質量分率、
Tgb:モノマーBのホモポリマーのガラス転移温度(K)、wb:モノマーBの質量分率、
Tgn:モノマーNのホモポリマーのガラス転移温度(K)、wn:モノマーNの質量分率、
wa+wb+・・・+wn=1、
を意味する。
上記アクリル樹脂のガラス転移温度は、重合に用いる各モノマーの種類および比率を調整することで、上記数値範囲内に調整される。
【0029】
上記アクリル樹脂は、下地処理剤中の濃度が固形分換算で500~200,000質量ppmである。500質量ppm未満であると、ラミネート金属材の密着性や耐食性が低下し、また、耐酸性、耐アルカリ性が劣ることとなるおそれがある。200,000質量ppmを超える場合には、得られる下地処理剤の粘度が上昇し、取り扱いが困難となる。また、配合量の増加に見合った性能向上が得られず、コストが上昇する。アクリル樹脂の下地処理剤中の濃度の下限値は1000質量ppm、1400質量ppm、または1500質量ppmであってよい。上記濃度の上限値は、100,000質量ppm、80,000質量ppm、または70,000質量ppmであってよい。
【0030】
上記水溶性金属化合物の金属原子換算の質量濃度と、上記アクリル樹脂の固形分換算の質量濃度との比は、水溶性金属化合物濃度/アクリル樹脂濃度で3/97~91/9である。上記濃度比において91/9よりも上記水溶性金属化合物の割合が上昇すると、下地処理剤により形成される皮膜のアルミ素材等の金属材料、及びラミネートフィルムとの密着性が低下する。上記濃度比において3/97よりも上記水溶性金属化合物の割合が低下すると、アルミ素材等の金属材料との密着性が低下する。上記比は、10/90~85/15であるのが好ましく、15/85~80/20であるのがより好ましい。
【0031】
(その他の成分)
本実施形態に係る下地処理剤は、上記水溶性金属化合物及びアクリル樹脂以外に、必要に応じて、その他の樹脂を含有していてもよい。例えば、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を含有していてもよい。これらの樹脂は、1種又は2種以上を併用して用いることができる。本実施形態に係る下地処理剤は、樹脂固形分の総量に対して、上記アクリル樹脂は70~100質量%であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態に係る下地処理剤は、架橋剤を含有していなくてもよい。本実施形態に係る下地処理剤は、架橋剤を含有していなくても、好ましいラミネート金属材の密着性や耐食性が得られる。しかし、本実施形態に係る下地処理剤は、架橋剤を含有していてもよい。架橋剤としては、特に限定されないが、水溶性メラミン樹脂、水溶性フェノール樹脂等の水分散性熱硬化型架橋剤が挙げられる。
【0033】
上記以外に、本実施形態に係る下地処理剤は、必要に応じて公知の安定剤、酸化防止剤、表面調整剤、消泡剤、抗菌剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0034】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
【0035】
表面調整剤としては、例えば、ノニオン性又はカチオン性の界面活性剤、ポリアセチレングリコールのポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイドの付加物、アセチレングリコール化合物等が挙げられる。
【0036】
消泡剤としては、例えば、鉱油系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、シリコーン系消泡剤等が挙げられる。
【0037】
抗菌剤としては、例えば、ジンクピリチオン、2-(4-チアゾリル)-ベンズイミダゾール、1,2-ベンズイソチアゾリン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、N-(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N-ジメチル-N‘-フェニル-N’-(フルオロジクロロメチルチオ)-スルファミド、2-ベンズイミダゾールカルバミン酸メチル、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジサルファイド、N-(トリクロロメチルチオ)-4-シクロヘキサン-1,2-ジカルボキシイミド、メタホウ酸バリウム、イソチオシアン酸アリル;ポリオキシアルキレントリアルキルアンモニウム、有機シリコーン第4級アンモニウム塩、ヘキサメチレンビググアニド塩酸塩等の第4級アンモニウム塩;トリ-n-ブチルテトラデシルホスホニウムクロリド等の第4級ホスホニウム塩;ポリフェノール系抗菌剤、フェニルアミド系抗菌剤、ビクアニド系抗菌剤等が挙げられる。
【0038】
<下地処理剤の製造方法>
本実施形態に係る下地処理剤の製造方法としては、特に限定されず、上記水溶性金属化合物、水溶性又は水分散性アクリル樹脂、及び必要に応じてその他の成分を溶媒としての水に混合し撹拌する等の公知の方法により製造することができる。
【0039】
例えば水溶性金属化合物が炭酸ジルコニウムアンモニウムなどの塩基性金属化合物である場合は、下地処理剤のpHを7~10に調整するのが、下地処理剤の安定性などの点からより好ましい。本態様の下地処理剤において、水溶性金属化合物として塩基性金属化合物を用いることによって、金属架橋により樹脂間の結合をより強固にすることができるなどの利点があり、より好ましい。
【0040】
本実施形態に係る下地処理剤は、上記水溶性金属化合物及び、水溶性又は水分散性アクリル樹脂の水溶液又は水分散液として調製される。これにより、下地処理剤に有機溶剤を含有させる必要が無く、環境面や作業性の点においても優れている。
【0041】
<ラミネート金属材>
本実施形態に係る下地処理剤は、金属材料の少なくとも何れかの一面上に皮膜を形成し、ラミネートフィルムを接着させることで製造されるラミネート金属材の製造に用いられる。上記ラミネート金属材の製造方法としては特に限定されない。例えば、薄板材等の金属材料に脱脂処理を施し、必要に応じて水洗、酸洗、表面調整等を行った後、本実施形態に係る下地処理剤を塗布し、加熱乾燥させて金属材料の表面に皮膜を形成し、更に熱可塑性樹脂等からなるラミネートフィルムを接着させる方法が挙げられる。
【0042】
本実施形態に係る下地処理剤の被処理物である金属材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金、鉄、鉄合金、銅、銅合金、SUS等が挙げられる。中でも、加工性及び密着性の観点から、金属材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金、が好ましく用いられる。例えば、飲料・食品缶ボディー用としてアルミニウム合金3004材、3104材、アルミニウム合金3005材等、飲料・食品缶蓋材としてアルミニウム合金5052材、アルミニウム合金5182材等、乾電池容器としてアルミニウム合金1050材、アルミニウム合金1100材、1200材、電池包材用のアルミニウム合金として8079材、電極材として8021材等が好ましく用いられる。アルミニウム合金としては、Al-Cu系合金、Al-Mn系合金、Al-Si系合金、Al-Mg系合金、Al-Mg-Si系合金、Al-Zn-Mg系合金、アルミダイカスト(ADC材)を用いてもよい。上記以外に、金属材料としての銅合金としては、例えば、黄銅等が用いられ、SUSとしては、例えば、SUS304、SUS301等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、SUS410等のマルテンサイト系ステンレス鋼等が挙げられる。ニッケル合金としては、例えば、Ni-P合金等が挙げられる。上記以外に、金属材料として、Niめっき鋼板、Znめっき鋼板、Zn-Niめっき鋼板等のメッキを施した金属材料を用いてもよい。上記の例としては、例えば、SPCC、SPCD、SPCE等を母材鋼板としたNiめっき鋼板、Znめっき鋼板、Zn-Niめっき鋼板等が挙げられる。
【0043】
金属の形状としては、特に限定されないが、例えば、箔状又は板状等が挙げられる。箔状又は板状の形状を有する金属を表面処理する場合は、片方の面だけを本実施形態に係る下地処理剤で表面処理してもよいし、両方の面を下地処理剤で表面処理してもよい。また、両方の面を処理する場合は、単一の下地処理剤で両面を表面処理してもよいし、片面ごとにそれぞれ別の組成の下地処理剤で表面処理してもよい。
【0044】
上記脱脂処理としては特に限定されず、例えば、アルカリ脱脂洗浄等の公知の方法を用いることができる。上記脱脂処理は、通常、スプレー法で行われる。上記脱脂処理を行った後は、基材表面に残存する脱脂剤を除去するために、水洗処理を行った後、ロールによる水切り、エアーブロー、熱空気乾燥等の方法によって、基材表面の水分を除去する。
【0045】
上記金属材料の少なくとも何れかの一面上に形成される皮膜は、一面当たりの乾燥後皮膜質量で、上記水溶性金属化合物を金属原子換算で0.8~3200mg/m2含有することが好ましい。上記水溶性金属化合物の一面当たりの乾燥後皮膜質量が金属原子換算で0.8mg/m2以上であることによって、皮膜とラミネートフィルムとの十分な密着性を良好に確保することができる利点がある。また、上記乾燥後皮膜質量が金属原子換算で3200mg/m2以下であることによって、皮膜と被処理物である金属材料との十分な密着性を良好に確保することができる利点がある。同様に、一面当たりの乾燥後皮膜質量で、上記水溶性又は水分散性アクリル樹脂を固形分換算で1.0~4000mg/m2含有することが好ましい。上記水溶性又は水分散性アクリル樹脂の一面当たりの乾燥後皮膜質量が固形分換算で1.0mg/m2以上であることによって、皮膜とラミネートフィルムとの十分な密着性を良好に確保することができる利点がある。また、上記アクリル樹脂の一面当たりの乾燥後皮膜質量が固形分換算で4000mg/m2以下であることによって、皮膜と被処理物である金属材料との十分な密着性を良好に確保することができる利点がある。上記皮膜は、金属材料の何れかの一面上に形成されていればよく、例えば薄板材の両面に上記皮膜が形成されていてもよい。
【0046】
本実施態様において、上記下地処理剤をアルミニウム基材上に塗布し乾燥させた、皮膜重量50~100mg/m2である乾燥皮膜の表面自由エネルギーは、52~74mJ/m2の範囲内であるのが好ましい。上記乾燥皮膜の表面自由エネルギーが上記範囲内であることによって、上記下地処理剤により形成される皮膜の耐水性などを、より良好な範囲に設計することができるという利点がある。上記表面自由エネルギーは52~68mJ/m2の範囲内であるのがより好ましい。
【0047】
本明細書において、乾燥皮膜の表面自由エネルギーは、物質の表面自由エネルギーを算出するOwens-Wendtの理論式に従い測定することができる。詳しくは、表面自由エネルギー値が既知である液体(水、ヨウ化メチレン)を用いて、試料物質の接触角を測定し、D. K. Owens and R. C. Wendt, J. Appl. Polym. Sci., 13, 1741(1969)の理論式を用いることによって、試料物質の表面自由エネルギーを算出することができる。
例えば、ガラス試験片の被覆層表面にそれぞれ純水、ジヨードメタンを2μl滴下し、接触角計により接触角(θ)を測定し、以下のOwensの式により表面自由エネルギー値γsを計算により求めることができる。
1+cosθ=2[(γsdγld)1/2/γl+(γspγlp)1/2/γl]
式中、γsは固体の表面自由エネルギー、γlは液体の表面自由エネルギーを示し、添字dは分散力成分を、添字pは極性力成分を示す。
【0048】
本実施形態に係る下地処理剤の塗布方法としては、形成される皮膜の各成分の重量が上記範囲となるように行えばよく、特に限定されない。例えば、ロールコーター塗装、グラビアコーター塗装、リバースコーター塗装、スロットダイコーター塗装、リップコーター塗装、ナイフコーター塗装、ブレードコーター塗装、チャンバードクターコーター塗装、エアナイフコーター塗装、カーテンコート塗装、スピンコート塗装、刷毛塗り塗装、ローラー塗装、バーコーター塗装、ディップ塗装、アプリケーター塗装、スプレー塗装、流し塗り塗装等及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0049】
本実施形態に係る下地処理剤の加熱乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、オーブン乾燥、熱空気の強制的循環による方法、IHヒーター等を用いた電磁誘導加熱炉により乾燥させる方法等が挙げられる。加熱乾燥の条件は、例えば、40~160℃で2~60秒間とすることができる。乾燥方法で設定する風量や風速等は任意に設定できる。
【0050】
上記下地処理剤により表面に皮膜が形成された金属材料に対してラミネートフィルムを接着させる方法としては特に限定されず、ドライラミネート法、ヒートラミネート法、押出ラミネート法等、公知の方法を用いることができる。上記ラミネートフィルムとしては、特に限定されず、公知のラミネートフィルムを用いることができる。上記ラミネートフィルムとしては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリエチレンイソフタレート樹脂、共重合ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ナイロン樹脂、フェノール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリメタキシリレンアジバミド等および、これらの樹脂を含む2種以上の樹脂を混合した樹脂等が挙げられる。これらの材料からなるラミネートフィルムは、1軸もしくは2軸延伸されたものであってもよい。
【0051】
本実施形態に係るラミネート金属材は、下地処理剤により形成される皮膜及び、ラミネートフィルム以外の層を有していてもよい。例えば、下地処理剤により形成される皮膜とラミネートフィルムとの間に配置される接着層を有していてもよい。上記接着層としては、特に限定されず、1液系の接着剤により形成されてもよいし、2液系の接着剤により形成されてもよい。上記接着層の形成に使用できる接着剤の樹脂成分としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、アミノ系樹脂、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、シリコーン系樹脂、フッ化エチレンプロピレン共重合体等が挙げられる。これらの樹脂成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上の樹脂成分の組み合わせとしては、例えば、ポリウレタン系樹脂と変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂と酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂と金属変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂とポリエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂と酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂と金属変性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0052】
接着層の形成方法は特に限定されないが、例えば、押出成形法、ディスパージョン法等が挙げられる。
【0053】
本実施形態に係る下地処理剤は、上記水溶性金属化合物、及びアクリル樹脂を特定量含有するので、塗装作業性や安定性に優れるとともに、得られるラミネート金属材は充分な密着性を有する。アクリル樹脂とジルコニウム化合物とを単に含む下地処理剤は耐食性を有するが、本実施形態に係る下地処理剤は、ラミネートフィルムとの密着性が向上するとともに耐食性も得られる利点を有する。従って、本実施形態に係る下地処理剤は、高度な加工後の密着性及び耐食性を求められるラミネート金属材の製造に特に好ましく用いられる。
【0054】
本実施形態に係る下地処理剤はまた、上記構成を有することによって、良好な耐水性、耐酸性、耐アルカリ性を有するラミネート金属材を製造することができる利点がある。さらに、本実施形態に係る下地処理剤は、処理剤製造時における分散性が良好であり、製造安定性に優れるという利点もある。
【実施例】
【0055】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を更に詳細に説明する。本発明の内容は以下の実施例の記載に限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0056】
(アクリル樹脂の合成例1)
イオン交換水を95.13質量部、加熱・撹拌装置付きコルベンに仕込み、撹拌及び窒素還流しながら、80℃に加熱した。次いで、加熱、撹拌、及び窒素還流を行いながら、表1に示すモノマー種の混合モノマー液、重合開始剤としてのACVA(4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸))、及び25%アンモニア水溶液の混合液を、滴下漏斗を用いてそれぞれ3時間かけて滴下した。滴下終了後、加熱、撹拌、及び窒素還流を2時間継続した。その後、加熱及び窒素還流を停止して溶液を撹拌しながら30℃まで冷却し、25%アンモニア水でpH9に中和し、200メッシュでろ過を行い、無色透明の水溶性アクリル樹脂を得た。アクリル樹脂は、表1に示す通り、固形分酸価603mgKOH/g、固形分水酸基価84mgKOH/g、ガラス転移温度94℃であった。また、数平均分子量をGPC法で測定したところ100,000であった。
なお、表1中、単位が記載されていない数値の単位は質量部である。また、上記中和に用いた25%アンモニア水の使用量は、表1中のアンモニア水の量には含まれておらず、中和剤として別途用いた量である。
【0057】
(アクリル樹脂の合成例2~20)
原料の配合量を表1に示すものとしたこと以外は、合成例1と同様にして、合成例2~20のアクリル樹脂を得た。数平均分子量、固形分酸価、固形分水酸基価、ガラス転移温度をそれぞれ表1に示した。
【0058】
なお、表1に記載した各種略称は下記の通りである。
APS:重合開始剤、過硫酸アンモニウム
【0059】
【0060】
(下地処理剤の調製)
(実施例1)
イオン交換水を加熱・撹拌装置付きコルベンに仕込み、常温にて撹拌しながら、合成例1で得たアクリル樹脂水溶液を固形分換算で7,500質量ppmとなるように徐々に添加し、撹拌しながら、水溶性ジルコニウム化合物(炭酸ジルコニウムアンモニウム、第一希元素化学工業社製、商品名、ジルコゾールAC-7、Zr原子換算で13%含有)をジルコニウム金属原子換算で2,500質量ppmとなるように徐々に添加し、20分間撹拌を継続して、実施例1の下地処理剤を調製した。
【0061】
(実施例2~29、比較例1~11)
アクリル樹脂及び水溶性金属化合物の種類及び濃度を表2に示すものとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~29、比較例1~11の下地処理剤を調製した。
実施例15、16及び比較例3においては架橋剤としてメラミン樹脂(日本サイテック社製「サイメル370N」(不揮発分80%))、又はフェノール樹脂(アイカ工業社製「ショーノールBRL-204」(不揮発分70%))を表2に示す量で用いた。実施例17はその他の樹脂としてポリエステル樹脂(東洋紡社製「バイロナールMD1245」(500質量ppm))を用いた。
実施例26においては、水溶性ジルコニウム化合物としてテトラアルキルアンモニウム変性ジルコニウム(マツモトファインケミカル社製、「オルガノチックス ZC700」(不揮発成分20%)を用いた。実施例27、実施例28はそれぞれジルコンフッ化アンモニウム、チタントリエタノールアミネートを用いた。実施例29は水溶性金属化合物として、炭酸ジルコニウムアンモニウム(Zr換算で2250質量ppm)とチタントリエタノールアミネート(Ti換算で250質量ppm)とを併用した。比較例1においては、ポリアクリル酸として東亜合成社製「ジュリマーAC-10L」を用いた。
【0062】
【0063】
[下地処理剤の乾燥皮膜の表面自由エネルギーの測定]
実施例および比較例で得られた下地処理剤を用いて乾燥皮膜を形成し、表面自由エネルギーを測定した。アルミニウム合金3004板材(Al)を、日本ペイント・サーフケミカルズ社製「サーフクリーナー330」の2%希釈液を用いて脱脂し(65℃×3秒間処理)、得られたアルミニウム材に、得られた下地処理剤を、それぞれ、バーコーターにて塗布し、熱風式オーブンで素材温度100℃以上にて乾燥させ、皮膜重量70mg/m2である乾燥皮膜が形成された金属材料を得た。
【0064】
自動接触角計(協和界面科学社製、PD-Xタイプ)を用いて、得られた乾燥皮膜とDIW(イオン交換水)との間の接触角、及び乾燥皮膜とヨウ化メチレンとの間の接触角を、20℃以上23℃以下、液滴滴下30秒後の条件で測定した。乾燥皮膜の表面自由エネルギーを、得られた測定値から上述の式に基づき算出した。アルミニウム材上の乾燥皮膜の表面自由エネルギーの値を下記表3に示す。
【0065】
《下地処理剤の塗装》
金属材料としてのアルミニウム合金3004板材(Al)を、日本ペイント・サーフケミカルズ社製「サーフクリーナー330」の2%希釈液を用いて脱脂し(65℃×3秒間処理)、得られたアルミニウム材に、上記実施例及び比較例の下地処理剤を、バーコーターにて塗布し、熱風式オーブンで素材温度100℃以上にて乾燥させ、下地処理剤により表面に皮膜が形成された金属材料を得た。乾燥後の皮膜重量(mg/m2)として、アクリル樹脂の固形分重量及び、水溶性金属化合物中の金属原子換算の重量を、それぞれ表3に示した。また金属材料として、実施例11では銅(古河電気工業(株)製 NC-WS)、実施例12ではSUS(SUS304)、実施例13ではSPCCを母材鋼板としたNiめっき鋼板、実施例14ではアルミダイカスト(ADC-12)をそれぞれ用いた。
【0066】
【0067】
《ラミネート金属材の製造》
上記実施例及び比較例に係る下地処理剤を塗装し、表面に皮膜が形成された金属材料に対し、下記ラミネート金属材作製方法により、ラミネート金属材の作製を行った。
接着剤としてポリエステル系の2液型接着剤を使用し、乾燥時に3g/m2となるよう、金属材料の表面に形成された皮膜上に塗装を行った。次に100℃、0.2MPaで上記塗装表面にPPフィルムを圧着し、その後40℃で4日間保管し、ラミネート金属材を得た。
【0068】
[初期密着性試験]
上記手順で製造した実施例及び比較例に係るラミネート金属材を150mm×15mmのサイズに切断した。「テンシロン引張り試験機」(LST-200N-S ミネルバ製)を用いて、この試験片のフィルム面を引き剥がす際にかかる剥離強度(N/15mm幅)を測定した。測定結果を初期密着性として、以下の評価基準にて評価を行い、評価4以上を合格とした。結果を表4に示す。
(評価基準)
5:8.0N/15mm幅以上
4:6.0N/15mm幅以上、8.0N/15mm幅未満
3:4.0N/15mm幅以上、6.0N/15mm幅未満
2:2.0N/15mm幅以上、4.0N/15mm幅未満
1:2.0N/15mm幅未満
【0069】
[レトルト処理後密着性試験]
上記圧着した金属板を150mm×15mmに切り出した試験片をオートクレーブに入れ、125℃の加圧蒸気中で45分間加熱処理した(レトルト処理)。レトルト処理を行った試験片を、「テンシロン引張り試験機」(LST-200N-S ミネルバ製)を用いて、フィルム面を引き剥がす際に係る剥離強度(N/15mm幅)を測定した。測定結果をレトルト処理後密着性として、初期密着性と同様の評価基準にて評価を行い、評価4以上を合格とした。結果を表4に示す。
【0070】
[耐水性試験]
上記《下地処理剤の塗装》で調製した試験板を、水道水流水(流水量:15kg/時)中に24時間浸漬した。その後、試験板を引き上げて、乾燥させた後の皮膜残存率を目視で評価した。評価基準は、以下に示したとおりである。評価結果を表4に示す。
(評価基準)
〇:皮膜残存率が80%以上
△:皮膜残存率が50%以上、85%未満
×:皮膜残存率が50%未満
【0071】
[耐酸性試験]
上記《ラミネート金属材の製造》の手順に従い製造したラミネート金属材を150mm×15mmのサイズに切断した。得られた試験片を、酢酸水溶液(pH2)中に、23℃で7日間浸漬した。
浸漬から取り出した試験片を水洗し乾燥した後、「テンシロン引張り試験機」(LST-200N-S ミネルバ製)を用いて、この試験片のフィルム面を引き剥がす際にかかる剥離強度(N/15mm幅)を測定した。測定結果を、以下の評価基準にて評価を行った。結果を表4に示す。
(評価基準)
〇:6.0N/15mm幅以上
△:3.0N/15mm幅以上、6.0N/15mm幅未満
×:3.0N/15mm幅未満
【0072】
[耐アルカリ性試験]
上記《ラミネート金属材の製造》の手順に従い製造したラミネート金属材を150mm×15mmのサイズに切断した。得られた試験片を、2%水酸化ナトリウム水溶液中に、40℃で7日間浸漬した。
浸漬から取り出した試験片を水洗し乾燥した後、「テンシロン引張り試験機」(LST-200N-S ミネルバ製)を用いて、この試験片のフィルム面を引き剥がす際にかかる剥離強度(N/15mm幅)を測定した。測定結果を、以下の評価基準にて評価を行った。結果を表4に示す。
(評価基準)
〇:6.0N/15mm幅以上
△:3.0N/15mm幅以上、6.0N/15mm幅未満
×:3.0N/15mm幅未満
【0073】
なお、上記評価試験におけるラミネート金属材の製造においては、接着剤を用いてラミネート金属材を製造しているが、上記下地処理剤を金属材料の表面に塗装し形成された皮膜上にPETフィルムを180℃、0.2MPaで圧着することによっても、ラミネート金属材を良好に製造することができた。また、上記下地処理剤を金属材料の表面に塗装し形成された皮膜上にポリエステル系接着剤を塗布し、PEフィルムを、100℃、0.2MPaで圧着し、40℃で4日間保管することによっても、ラミネート金属材を良好に製造することができた。
【0074】
【0075】
上記結果から、各実施例に係るラミネート金属材は、比較例に係るラミネート金属材と比較して、好ましい密着性が得られる結果が確認された。実施例はさらに、耐水性試験結果、耐酸性試験、耐アルカリ性試験結果も良好であった。
比較例1は、ポリアクリル酸を用いており、樹脂の酸価および水酸基価が本件発明の範囲外である例である。この例は、レトルト処理後密着性が劣ることが確認された。
比較例2、3、7は、アクリル樹脂の数平均分子量が本件発明の範囲外である例である。これらの例では、レトルト処理後密着性などが劣ることが確認された。
比較例4は、下地処理剤のアクリル樹脂が含まれない例である。この例では、初期密着性、レトルト処理後密着性、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性のいずれもが劣ることが確認された。
比較例5は、アクリル樹脂の含有量が本件発明の範囲外である例である。この例では、初期密着性、レトルト処理後密着性、耐酸性、耐アルカリ性が劣ることが確認された。
比較例6は、金属化合物を含まない例である。この例では、レトルト処理後密着性、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性が劣ることが確認された。
比較例8、9は、アクリル樹脂の酸価および/または水酸価値が本件発明の範囲外である例である。これらの例では、それぞれ、レトルト処理後密着性が劣ることが確認された。
比較例10は、アクリル樹脂の数平均分子量が本件発明の範囲外であり、かつ、ガラス転移温度が本件発明の範囲外である例である。この例は、耐水性が劣ることが確認された。
比較例11は、アクリル樹脂のガラス転移温度が本件発明の範囲外である例である。この例は、耐酸性、耐アルカリ性などが劣ることが確認された。